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自由人権協会70周年プレシンポジウム 監視の“今”を考える 第1部 13:30~15:00 スノーデン氏ライブインタビュー 第2部 15:30~17:00 信教の自由・プライバシーと監視社会 テロ対策を改めて考える 日 時 2016 年 6 月 4 日土曜日 13:00 開場 場 所 東京大学情報学環・福武ホール 福武ラーニングシアター 主 催 ムスリムとの共生を考えるシンポジウム実行委員会 共 催 社団法人自由人権協会

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自由人権協会70周年プレシンポジウム

監視の“今”を考える

第1部 13:30~15:00

スノーデン氏ライブインタビュー

第2部 15:30~17:00

信教の自由・プライバシーと監視社会

テロ対策を改めて考える

日 時 2016年 6月 4日土曜日 13:00開場

場 所 東京大学情報学環・福武ホール 福武ラーニングシアター

主 催 ムスリムとの共生を考えるシンポジウム実行委員会

共 催 社団法人自由人権協会

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目次

シンポジウムの趣旨 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

パネリストのプロフィール ・・・・・・・・・・・・・ 2

ムスリム違法捜査事件 ・・・・・・・・・・・・・・・ 4

ハッサン事件とラザ事件 ・・・・・・・・・・・・・・ 6

参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8

参考資料 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9

1 流出資料(マスキングあり)

2 一審判決の要旨

3 控訴審判決の要旨

4 井桁大介「テロとアメリカ』最前線(世界 883号 207頁)

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シンポジウムの趣旨

テロに関するニュースを見聞きしない日はありません。中東やアフリカだけでなく、ベ

ルギーやフランスでも、凄惨なテロによって、多くの犠牲者が出ています。日本でも、い

つテロが起きてもおかしくない状況です。テロは憎むべきものであり、テロを防止する対

策も必要です。しかし、行き過ぎたテロ対策は、時に市民の自由を制約します。テロ対策

の名の下に、特に9.11以降、ムスリムに対する視線は厳しさを増し、世界各地で強引

な捜査手法や行き過ぎた監視が問題となっています。

2010年10月、警視庁の内部資料がインターネット上に流出し、警察が日本に住む

ムスリムを監視していることが明らかになりました。モスクを監視し、ムスリムの個人情

報を集めてデータベース化していたのです。私たちムスリム違法捜査弁護団は、国(警察

庁)と東京都(警視庁)を相手に訴訟を提起し、ムスリムを監視することが憲法に違反す

ると主張しました。しかし、日本の裁判所は、ムスリムを監視することもテロ対策のため

に必要だと判断しました。

このような監視プログラムは日本特有のものではありません。2011年10月、AP

通信の調査報道によって、ニューヨーク市警がムスリムを監視していることが明らかにな

りました。アメリカ自由人権協会が中心となって、ニューヨーク市警を相手に訴訟が提起

されました。2016年1月、ニューヨーク市警によるムスリム監視に一定の歯止めをか

ける、画期的な和解が成立しました。

テロ対策の最先端であるアメリカで、ムスリム監視が止められたのはなぜでしょうか。

2013年5月に起きたスノーデン・リークがきっかけです。9.11のショックで、二

度とテロを起こさないことが至上命題となり、議会は政府に対して広範囲にわたる監視の

権限を与えました。政府は、テロに関係あるかどうかを問わず、全ての情報通信を秘密裏

に監視し、情報を収集していました。市民や議会は政府の暴走に驚き、どのような情報が

収集されているか全くわからない、しかも、自分たちが政府の収集した情報にアクセスし

ようと思ってもアクセスできないという状況を危険だと思いました。政府による監視自体

をコントロールすべきという問題意識を持ちました。テロ対策としての監視とプライバシ

ーとのバランスを巡る、充実した議論が続いています。2015年には政府の監視権限に

一定の歯止めをかける法律が成立しました。

日本でも同じような議論ができるのではないか、そのような問題意識をもって、私たち

はこのシンポジウムを開催することにしました。政府が市民を監視し、情報を収集するこ

とも、ある程度は必要なことでしょう。しかし、政府の行動を議会や市民がコントロール

することもまた、行き過ぎた監視により生じ得る自由の制約にストップをかけるために必

要なことなのです。そうしないと、日本に住むムスリムに対する監視が、いつ自分たちに

向けられるか分からないのです。

このシンポジウムをきっかけとして、政府による監視とその限界について、幅広い議論

が巻き起こることを期待しています。

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パネリストのプロフィール(第1部)

エドワード・スノーデン Edward Snowden

CIA、NSA 及び DIA の元情報局員。10 年近くにわたり

テクノロジーとサイバーセキュリティの専門家として

職務に従事。2013 年、NSAがテロと無関係な数十億の

個人情報を収集していたことを暴露。アメリカ政府が

監視政策を修正する大きな転換点となった。その献身

的な活動に対し、各賞を受賞。2013 年には Foreign

Policy誌の Top Global Thinkersの 1人に選ばれた。

現在は最新のテクノロジーの利用と発展を通じた人権

擁護活動に従事。2014年から「報道の自由基金」理事。

金昌浩 Changho Kim

弁護士(日本及びニューヨーク州)。ムスリム違法捜査

弁護団団員。東京大学、シカゴ大学卒業。日本弁護士

連合会国際人権問題委員会幹事。認定 NPO 法人ヒュー

マンライツ・ナウ運営委員。

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パネリストのプロフィール(第2部)

ベン・ワイズナー Ben Wizner

弁護士。アメリカ自由人権協会(ACLU)スピーチ・テクノロジー

プロジェクト理事。スノーデン氏の法律アドバイザーも務める。

ニューヨーク大学卒業、ハーバード大学ロースクール修了。

マリコ・ヒロセ Mariko Hiorose

弁護士。アメリカ自由人権協会ニューヨーク支部(NYCLU)シニア

スタッフ。画期的な和解が示された Raza 事件のムスリム側代理

人を務める。スタンフォード大学卒業、イエール大学ロースクー

ル修了。

宮下紘 Hiroshi Miyashita

憲法学者。中央大学総合政策学部准教授。内閣府個人情報保護推

進室、ハーバード大学客員研究員、ブリュッセル自由大学客員研

究員などを経て現職。著書に、『個人情報保護の施策』(朝陽会、

2010年)『プライバシー権の復権-自由と尊厳の衝突』(中央大学

出版会、2015年)。一橋大学大学院法学研究科博士課程修了、法

学博士。

青木理 Osamu Aoki

ジャーナリスト、ノンフィクション作家。共同通信社会部、外信

部記者等を経てフリーに。テレビ・ラジオのコメンテーターも多

数務める。著書に、「日本の公安警察」(講談社、2000年)「国策

捜査」(角川書店、2013年)「青木理の抵抗の視線」(トランスビ

ュー、2014年)。

井桁大介 Daisuke Igeta

弁護士。ムスリム違法捜査弁護団。早稲田大学卒業、早稲田大学

ロースクール修了。

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日本:ムスリム違法捜査事件

1 事件の概要

2010年10月、警察が収集・作成していた捜査資料がインターネット上に流出し

ました。この流出資料から、警察がモスクの出入りを監視し、個人を尾行するなどしてム

スリムの行動を監視し、ムスリムに関するあらゆる情報を収集し、日本に住むムスリム

の個人情報をデータベース化していることが明らかになりました。

2011年5月、ムスリムとその家族たち合計17名が原告となり、国(警察庁)及び

東京都(警視庁)を相手に訴訟を提起し、情報流出の違法だけでなく、情報収集の違法を

主張して、損害賠償を求めました。

2 第一審

原告は、情報収集の違法として、3つの主張を展開しました。1つ目は、モスクを監視

することは、ムスリムの信教の自由を侵害するという憲法20条違反の主張です。2つ

目は、ムスリムであるという点だけに着目して個人情報を収集することは、信仰を理由

とする差別であるという憲法14条違反の主張です。3つ目は、ムスリムの個人情報を

収集・データベース化することは、センシティブ情報の収集であり、プライバシーを侵害

するという憲法13条違反の主張です。

2014年1月、第一審裁判所(東京地方裁判所)は、情報流出の違法と過失を認め

て、情報を流出させた東京都(警視庁)に対して原告全員に合計1億円以上の損害賠償を

命じました。しかし、情報収集については、モスクの監視やムスリム全ての個人情報の収

集はテロ対策のために必要である、モスクの監視によってムスリムが被る不利益は嫌悪

感にとどまる、差別的メッセージが明らかになったのは情報流出が生じた結果に過ぎな

い等の理由で適法とし、憲法違反の主張をいずれも排斥しました。原告全員が判決を不

服として控訴しました。

3 控訴審と上告審

第一審での主張に加えて、2つの主張が追加されました。1つ目は、情報通信技術の発

展で情報のデータベース化が容易になり、警察による個人情報の収集の局面のみならず、

保管・利用の局面において憲法上の問題として検討する必要があるという主張です。2

つ目は、国連の2つの委員会(自由権規約委員会・人種差別撤廃委員会)による勧告に基

づいたもので、もはやムスリムを狙い撃ちにした監視が許されないことがグローバルス

タンダードであるという主張です。

2015年4月、控訴審裁判所(東京高等裁判所)は、第一審判決をほぼ踏襲し、情報

収集の違法を認めませんでした。原告全員が判決を不服として上告しましたが、最高裁

判所第三小法廷は2016年5月31日付で原告全員の上告を棄却し、ムスリムを監視

することがテロ対策のために必要であるという判断が確定しました。

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日本:ムスリム違法捜査事件

4 判決の問題点

特に問題なのは以下の3点です。

1つ目は、テロ対策のためにムスリム全ての個人情報の収集が必要であると安易に認

めた点です。一定の属性に着目して網羅的に行われるテロ捜査は「テロリスト・プロファ

イリング」と呼ばれ、テロ捜査として効果がなく、しかも差別禁止原則に違反すること

は、2007年に国連人権理事会で採択された「テロ対策における人権と基本的自由の

促進及び保護に関する特別報告者報告書」でも明らかになっています。加えて、2014

年にも国連の2つの委員会が相次いで警告を発しています。日本の裁判所と警察実務だ

けが、グローバルスタンダードから取り残されていると言わざるを得ません。

2つ目は、モスクを監視されたり、個人情報を収集されたりすることでムスリムが被

る不利益を、嫌悪感と評価した点です。信仰は、個人の内面的な人格と結びつく、最もセ

ンシティブな情報の一つですので、このような情報を収集し、データベース化すること

による不利益を嫌悪感と評価するのは、およそ信仰の自由やプライバシーに対する理解

の欠如を示しています。

3つ目は、警察が収集した情報は開示されることが予定されておらず、情報流出によ

って初めて情報収集の存在が明らかになったとして、モスクを監視したり、ムスリムの

個人情報を収集したりすること自体は差別的なメッセージを発していないとした点です。

モスクの前に警察官が立っていれば、誰もがそのことに気づき、警察がムスリムを監視

しているというメッセージを受け取るはずであり、裁判所の想像力の欠如は明らかです。

なお、一審判決は判例時報2215号30頁以下、判例タイムズ1420号268頁

以下に掲載されています。また、ムスリム違法捜査弁護団は以下のウェブサイトで情報

を発信しています。

http://k-bengodan.jugem.jp/

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アメリカ:ハッサン事件とラザ事件

1 事件の概要

2011年10月、AP通信の調査報道によって、2002年以降、ニューヨーク市警

がニュージャージー州とニューヨーク州に住む全てのムスリムとムスリムコミュニティ

を対象に、包括的かつ無差別な監視プログラムを実施していることが明らかになりまし

た。警察がスパイを雇いモスク内の会話を報告させる、潜入捜査員が大学やカフェでム

スリムの個人情報やコミュニティとの結びつきを記録するなど、ムスリムと少しでも関

係があればあらゆる情報を収集する捜査態様が浮き彫りになりました。

この報道を受け、両州に住むムスリム個人やムスリム団体は市などを相手取り訴訟を

提起しました。原告の代表者の名前を冠して、ニュージャージー州の事件はハッサン事

件、ニューヨーク州の事件はラザ事件とそれぞれ呼ばれています。

2 ハッサン事件

ハッサン事件は、2012年10月にニュージャージー地区連邦地方裁判所に提訴さ

れました。11名のムスリム個人、モスク運営団体、ムスリム関連会社、大学のムスリム

学生団体などが原告となって、ニューヨーク市警のムスリム監視プログラムは、テロと

の関係性が一切なくとも宗教のみに着目してムスリムとムスリムコミュニティを監視す

るものであり、信教の自由と平等保護を定めた憲法に違反すると主張して、監視プログ

ラムの差止め、プログラムにより収集した個人情報の廃棄及び損害賠償を求めました。

2015年10月、アメリカ連邦控訴審第3巡回区は原告らの訴えを却下していた一

審判決を覆し、さらなる審理を尽くさせるため原審に差し戻しました。この判決は、信仰

に依拠してムスリムを監視する捜査活動に警鐘を鳴らすもので、今後のテロ対策の捜査

実務に大きな影響を及ぼすとされています。重要なのは以下の3点です。

1つ目は、警察の内部で差別的な捜査がなされていれば、それだけで対象者に現実の

被害が生じていると評価した点です。差別的捜査により実害がもたらされたことを立証

するのは一般的に困難なので、この判断は訴訟実務において非常に大きな意義を有しま

す。警察が特定の宗教を別異に取り扱っている事実を立証するだけで、実害の有無に関

わらずその正当性を争う道が開かれることになったのです。

2つ目は、捜査の「動機」は違憲の判断の要件ではない、捜査が「意図的」に特定の宗

教を区別して取り扱っていれば違憲の疑いが生じるとした点です。警察の捜査の動機は

治安の維持や犯罪捜査であることが多く、差別的な動機で捜査することは極めてまれで

あり、例えそうだとしても監視されている側が動機を立証することは不可能に近いので

すが、この判断で差別的な動機でなくとも正当性を争いうることが明示されたのです。

3つ目は、政府に対して、すべてのムスリムを監視するプログラムがテロの予防に役

立つとするそのロジックの過程とそれぞれのロジックを裏づける証拠を具体的に示すこ

とを求めた点です。信仰する宗教のみに依拠する監視プログラムを実施するには、この

ような高いハードルをクリアしなければならないことを明確にしました。

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アメリカ:ハッサン事件とラザ事件

3 ラザ事件

ラザ事件は、2013年6月にニューヨーク東地区連邦地方裁判所に提訴されました。

原告は4名のムスリム個人、モスク運営団体及びムスリム関連団体、被告はニューヨー

ク市や市長らです。基礎となる事実関係や法的主張はハッサン事件とほぼ同じです。

2016年1月、関係当事者間で合意が成立し、その和解内容が公表されました。重要

なのは以下の3点です。

1つ目は、ニューヨーク市警が、宗教を実質的あるいは動機的な要素とした捜査を違

憲であると認め、今後一切実施しないことを表明した点です。ムスリムであることのみ

に着目して捜査対象とすることが禁止されるのはもちろんのこと、ムスリムであること

を一要素とする捜査活動(例えば、20代で男性のムスリムを捜査対象とすること)も禁

止されました。

2つ目は、ムスリムに対する包括的監視の理論的支柱となったレポート『西洋におけ

る過激化:ホームグローンテロリストの脅威』を撤回した点です。このレポートは、全て

のムスリムが理論的にはテロリストになる可能性があると決め付けたもので、FBIや

ニューヨーク市警は、このレポートを理論的支柱としてすべてのムスリム及びムスリム

コミュニティの監視を正当化していました。このレポート以外に、すべてのムスリムを

監視することを正当化する理論的根拠は報告されておらず、FBIを初めとする他地域

の警察実務に与える影響は少なくないとされています。

3つ目は、ニューヨーク市警内部に市警のテロ対策活動が人権を侵害していないかを

監督する独立の委員会を設置し、その委員会の会議に独立の民間の法律家が「市民代表

法律家」として参加することが明記された点です。民族や宗教のみに着目した人権侵害

的な捜査の再発防止のために、警察が自らを監督する新たな委員会を設置したという点

で画期的です。

なお、以下のウェブサイトで全ての訴訟資料にアクセスすることができ、和解条項に

関するQ&Aや担当弁護士の解説記事も掲載されています。

https://www.aclu.org/cases/raza-v-city-new-yorklegal-challenge-nypd-muslim-

surveillance-program

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参考文献

1 ムスリム違法捜査事件について

⑴ 青木理・梓澤和幸・河﨑健一郎編著『国家と情報 警視庁公安部「イスラム捜査」

流出資料を読む』(現代書館、2011年)

⑵ 井桁大介「認められなかった『違法捜査』-公安『テロ情報』流出事件を問い直

す」世界 854号(2014年)29頁

⑶ 河﨑健一郎「公安捜査資料のネット流出事件は私たちに何を教えるか」αシノドス

vol.146+147(2014年)

※http://bylines.news.yahoo.co.jp/kawasakikenichiro/20140530-00035836/

に要約転載

⑷ 酒田芳人「『国際テロの危険』の名の下に、ムスリムのあらゆる情報を集めること

は許されるか?」JCLU News Letter 390号(2014年)8頁

⑸ 福田健治「モスク監視を全面的に擁護したムスリム違法捜査国賠訴訟一審判決」法

と民主主義 487号(2014年)47頁

⑹ 木村草太「法律家に必要なこと―イスラム教徒情報収集事件を素材に」月刊司法書

士 507号(2014年)4頁

⑺ 小島慎司・平成 26年度重要判例解説(有斐閣、2015年)

⑻ 渡辺康行「『ムスリム捜査事件』の憲法学的考察」松井茂記ほか編著『自由の法理

坂本昌成先生古希記念論文集』(成文堂、2015年)937頁

⑼ 中林暁生・判例セレクト 2015[Ⅰ](有斐閣、2016年)

2 ハッサン事件とラザ事件について

⑽ 井桁大介「『テロとアメリカ』最前線 ムスリム監視プログラムに対するアメリカ

の司法判断」世界 883号(2016年)207頁

3 関連するものとして

⑾ 松本裕之「ムスリムの過激化対策を考える」警察学論集 65巻 7号(2012年)94

⑿ 山本龍彦「警察による情報保管・データベース化の『法律』的統制について」大沢

秀介ほか編著『社会の安全と法』263頁(立花書房、2013年)

⒀ 山本龍彦「アメリカにおけるテロ対策とプライバシー」都市問題 104巻 7号

(2013年)24頁

⒁ デイヴィッド・ライアン『監視社会』(青土社、2002年)

⒂ デイヴィッド・ライアン『スノーデン・ショック-民主主義にひそむ監視の脅威』

(岩波書店、2016年)

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1-

13

ペカ

゙サス

ステーション

プラ

ザ2

09,2

10,2

11

○入

会金

役員

30万

円、

一般

1万

円○

月会

費役

員1万

5千

円、

一般

千円

アフ

ルル

・バ

イト

セン

ター

(宗派

シー

ア派

)○

1998年

12月

5日

設立

○東

京都

杉並

区下

高井

戸5

-9

-2

7○

日本

人の

イス

ラム

教入

信証

明、

婚姻

証明

書の

発行

、離

婚問

題等

の相

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も応

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いる

在日

イン

ドネ

シア

ムス

リム

協会

KELU

ARG

AM

ASYARAKAT

ISLAM

IND

ON

ESIA

(KM

II)

○平

成00年

0月

開設

○東

京都

目黒

区目

黒4

-6

-6

イン

ドネ

シア

共和

国学

校内

○在

日インド

ネシア留

学生

協会

は下

部組

織日

本ム

スリ

ム協

会○

19

52

年に

設立

宗教

法人

登録

~1

96

8年

6月

1日

○東

京都

渋谷

区代

々木

2丁

目26番

5号

バロ

ール

代々

木1

00

4○

会員

数約

200名

○組

織内

に日

本ム

スリム

協会

青年

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60

名)が

あり

、活

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活動

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【KELAB

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J)】略

称~

日本

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6-

24

-3

マレ

ーシ

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チューデン

トハウス

内○

役員

数16名

、動

員力

約30名

在日

パキ

スタ

ン協

会○

1977年

3月

19日

設立

○東

京都

品川

区西

五反

田5

-2

6-1

2○

動員

力約

2,0

00名

○全

国に

20支

全日

本パ

キス

タン

協会

○平

成12年

12月

12日

開設

○東

京都

大田

区蒲

田5

-2

1-

13

ペカ

゙サス

ステーション

プラ

ザ2

09,2

10,2

11

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約2,0

00名

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国に

16支

イス

ラム

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ダ100

58

58%

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571.4

%

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ジェ

リア

31

57

183.9

%ア

ルバ

ニア

74

57.1

%

カメ

ルー

ン61

55

90.2

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44

100%

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ア50

53

106%

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33.3

%

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タン

44

53

120.5

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3300%

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32

48

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ソマ

リア

11

100%

マリ

41

46

112.2

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ジェ

ール

21

50%

スー

ダン

27

45

166.7

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11

100%

レバ

ノン

51

40

78.4

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00

-

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29

414.3

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10

28

280%

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10

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ール

18

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155.6

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ール

32

25

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計14,2

54

12,8

48

90.1

%

留学

施設

数留

学生

数把

握数

把握

大学

117

1,2

66

397

31%

専門

・日

本語

学校

156

511

400

78%

国際

交流

会館

・寮

42

259

243

94%

留学

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援団

体6

370

310

84%

合計

321

2,4

06

1350

56%

ハラ

ール

フー

ド国

籍別

ハラ

ール

フー

ドハ

ラー

ルレ

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合計

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グラ

デシ

ュ14

64

78

パキ

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52

56

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19

20

その

他3

18

21

イン

ド3

44

47

ネパ

ール

323

26

日本

152

53

その

他5

23

28

34

295

329

対象

国人

非対

象国

合計

店舗

数七

品目

取扱

店舗

薬局

6619

2236

ホーム

センター

135

108

園芸

店672

343

農協

93

66

塗料

店249

96

サーフショッ

プ

100

69

その

他1797

215

合計

9665

3133

化学

経営

者国

籍別

店舗

パキ

スタ

ン151

バン

グラ

デシ

ュ32

イラ

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その

他16

合計

214

中古

経営

者国

籍別

会社

パキ

スタ

ン60

イラ

ン51

バン

グラ

デシ

ュ26

トル

コ10

その

他15

合計

162

貿易

会社

849

724

420

304

125

ホテ

外国

人の

宿泊

利用

なし

対象

宿泊

施設

総数

外国

人の

宿泊

利用

あり

対象

国人

の利

用あ

非対

象国

人の

利用

のみ

内訳

11

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12

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【注】これは判決ではありません。 平成26年1月15日午後3時 判決言渡 615号法廷 平成23年(ワ)第15750号等 公安テロ情報流出被害国家賠償請求事件 口頭弁論終結日 平成25年9月11日 裁判長裁判官 始関正光,裁判官 進藤壮一郎,裁判官 宮﨑文康 原告 原告1ほか16名, 被告 国, 東京都

本判決の要旨 第1 主文 1 被告東京都は,原告ら(原告4を除く。)に対し,それぞれ550万円及

びこれに対する平成23年7月26日から支払済みまで年5分の割合による金

員を支払え。 2 被告東京都は,原告4に対し, 220万円及びこれに対する平成23年

7月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告らの被告東京都に対するその余の請求及び被告国に対する請求をい

ずれも棄却する。 4 訴訟費用の負担(略) 5 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。

第2 事案の要旨 本件は,イスラム教徒である原告らが,警視庁,警察庁及び国家公安委員会が,

①モスクの監視など,原告らの信教の自由等の憲法上の人権を侵害し,また,い

わゆる行政機関個人情報保護法や東京都個人情報保護条例に違反する態様で個

人情報を収集・保管・利用したこと,②その後,情報管理上の注意義務違反等に

よりインターネット上に個人情報を流出させた(本件流出事件)上,適切な損害

拡大防止措置を執らなかったことが,それぞれ国家賠償法上違法であると主張

し,警視庁の責任主体である被告東京都並びに警察庁及び国家公安委員会の責

任主体である被告国に対して,国家賠償法1条1項等に基づき,それぞれ110

0万円の損害賠償及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成23年7月2

6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め

る事案である。 本件の争点は,警視庁及び警察庁による個人情報の収集・保管・利用について

の国家賠償法上の違法性の有無(争点1),本件流出事件についての国家賠償法

上の違法性の有無(争点2),原告らの損害(争点3),国家賠償法6条の有効性

及び原告らの国籍国における相互保証の有無(争点4)である。

13

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第3 当裁判所の判断の要旨 1 争点1について ⑴ 本件において流出したデータ(本件データ)は,警察が作成したもので,

警視庁公安部外事第三課が保有していたものであると認められる。 本件データには原告らの個人情報が含まれており,原告らには,本件データ中

の履歴書様書面等において,所属するモスクの名称が記載されている者,「容疑」

欄に,特定のイスラム教徒との交友関係等について記載されている者が多数存

在する。中には,宗教的儀式又は教育活動への参加の有無・程度について記載さ

れている者も存在する。 ほとんどの原告らについては,捜査員が直接に把握活動をすることによって,

モスクへの出入状況や宗教的儀式又は教育活動への参加の有無についての情報

が収集され(本件モスク把握活動),また,その余の情報は,法務省入国管理局

等の関係機関等から提供を受け, 又は原告らに対して接触や捜索等を行う過程

で収集されたものであると認められる。 ⑵ 国家によって信教の自由が侵害されたといい得るためには,国家による

信教を理由とする法的又は事実上の不利益な取扱い又は強制・禁止・制限といっ

た強制の要素が存在することが必要であると解されるところ,本件の情報収集

活動は,それ自体が原告らに対して信教を理由とする不利益な取扱いを強いた

り,宗教的に何らかの強制・禁止・制限を加えたりするものではない。 日本国内において国際テロが発生する危険が十分に存在するという状況, ひ

とたび国際テロが発生した場合の被害の重大さ,その秘匿性に伴う早期発見ひ

いては発生防止の困難さに照らせば,本件モスク把握活動を含む本件の情報収

集活動によってモスクに通う者の実態を把握することは,警察法2条1項によ

り犯罪の予防をはじめとする公共の安全と秩序の維持を責務とされている警察

にとって,国際テロの発生を未然に防止するために必要な活動であるというべ

きである。また,本件の情報収集活動が,主としてイスラム教徒を対象とし,収

集情報の中にモスクの出入状況という宗教的側面にわたる事柄が含まれている

ことは,イスラム教における信仰内容それ自体の当否を問題視していることに

由来するものではなく,イスラム教徒のうちのごく一部に存在するイスラム過

激派によって国際テロが行われてきたことや,宗教施設においてイスラム過激

派による勧誘等が行われたことがあったことといった歴史的事実に着眼して,

イスラム過激派による国際テロを事前に察知してこれを未然に防ぐことにより,

一般市民に被害が発生することを防止するという目的によるものであり,イス

ラム教徒の精神的・宗教的側面に容かいする意図によるものではないと認めら

れる。他方, 本件モスク把握活動は,捜査員が自らモスクへ赴いて,原告らのモ

スクへの出入状況という外部から容易に認識することができる外形的行為を記

14

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録したにとどまり,当該記録に当たり,強制にわたるような行為がされていない。 これらを総合すると,本件の情報収集活動は,国際テロの防止のために必要や

むを得ない措置であり,憲法20条やこれを受けた宗教法人法84条に違反す

るものではない。 ⑶ 警察は,実態把握の対象とするか否かを,少なくとも第一次的にはイスラ

ム教徒であるか否かという点に着目して決していると認められ,この点で信教

に着目した取扱いの区別をしていたこと自体は否めないが,情報収集活動の目

的,その必要性,これによる原告らの信教の自由に対する影響に照らすと,信教

に着目した取扱いの区別という憲法14条1項後段の列挙事由にわたる区別で

あることや,精神的自由の一つである信教の自由の重要性を考慮しても,その取

扱いの区別は,合理的な根拠を有するものであり,同条1項に違反するものでは

ない。 本件の情報収集活動自体は,国家が差別的メッセージを発するものというこ

とはできず,原告らの国家から差別的に取り扱われない権利ないし法的利益を

侵害したともいえない。 ⑷ 警察には, 国際テロ防止のための情報収集活動の一環として,モスクに出

入りする各人について,その信仰活動を含む様々な社会的活動の状況を広汎か

つ詳細に収集して分析することが求められ,他方で,本件モスク把握活動によっ

て把握される原告らの行動が,第三者に認識されることが全く予定されていな

いものというわけではないことなどに照らすと,本件の情報収集活動によって

収集された原告らの情報が社会生活の中で本人の承諾なくして開示されること

が通常予定されていないものであることを踏まえても, 本件の情報収集活動は

国際テロの防止の観点から必要やむを得ない活動であって, 憲法13条に違反

するものではない。 また,適法な活動により得られた情報を警察が保有して分析等に利用するこ

とができることは当然であるから,当該情報の保有が憲法13条に違反するこ

ともない。 ⑸ 本件データのうち原告らに関する部分の収集・保管・利用は,法律の留保

原則や,いわゆる行政機関個人情報保護法及び東京都個人情報保護条例に違反

するものでもない。 2 争点2について ⑴ 本件データは,警察職員(おそらくは警視庁職員)によって外部記録媒体

を用いて持ち出されたものと認められる。 ⑵ 警視総監としては,いったん情報が外部へ持ち出され,その情報が外部の

パソコンに接続されれば,ウイニー等を通じてインターネット上に流出し,不特

定多数の者に伝達し,それによって原告らに多大な被害を与えることおそれが

15

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あることが十分に予見可能であったから,その情報が絶対に漏えいすることの

ないよう,徹底した漏えい対策を行うべき情報管理上の注意義務を負っていた

にもかかわらず,外事第三課内におけるセキュリティ規程等を実際に遵守する

よう徹底する管理体制は不十分なものであったとみざるを得ず,このことが,外

部記録媒体を用いたデータの持出しにつながったと認められるから,警視総監

には,情報管理上の注意義務を怠った過失があって,国家賠償法上の違法性があ

り,被告東京都には,本件流出事件により原告らが被った損害を賠償する責任が

ある。 ⑶ 警察庁には監査責任者が置かれ,警察情報システムに係る監査を行うも

のとされているが,その監査権限には限りがあり,監査責任者が恒常的に監査を

怠っていたとか,監査によって不十分な点を発見したのにその指摘を怠ったと

いうような事情は認めることができないから,被告国には本件流出事件発生の

責任はない。 ⑷ 警視庁及び警察庁は,本件流出事件の発生後,原告らの個人情報を含め流

出したデータを全面的には削除することができなかったものの,尽くすべき義

務は尽くしたものと認められるから,被告らにはこの点についての責任はない。 3 争点3について 本件で流出した原告らの個人情報の種類・性質・内容,当該個人情報がインタ

ーネットを通じて広汎に伝播したことなどを鑑みると,原告らが受けたプライ

パシーの侵害及び名誉棄損の程度は甚大なものであったといわざるを得ず,告ら

の慰謝料額を各55万円(弁護士費用各50万円)と認める。ただし,原告4は,

本件データ中の書面においてテロリストであるような表記をされた原告3の妻

として,氏名,生年月日,住所のみが流出したにすぎないことから,慰謝料額を

200万円(弁護士費用20万円)と認める。 4 争点4について 外国人である原告らの国籍国(モロッコ,イラン,アルジエリア,チュニジア)

との聞には少なくとも本件事案に関する国家賠償法6条の相互保証があると認

められ,これらの外国人原告らも,被告東京都から損害賠償を受けることができ

る。 以上

16

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【注】これは判決ではありません。

平成27年4月14日午後2時 判決言渡 717号法廷

平成26年(ネ)第1619号公安テロ情報流出被害国家賠償請求控訴事件

口頭弁論終結日 平成27年1月29日

東京高等裁判所第24民事部

裁判長裁判官 高野伸,裁判官 瀬戸口壯夫,裁判官 田辺暁志

控訴人兼被控訴人 1審原告1ほか16名

被控訴人(1審被告)国,控訴人兼被控訴人(1審被告)東京都

判決の要旨

第 1 主文

1 1審原告ら及び1審被告東京都の各控訴を棄却する。

2 控訴費用は,1審原告らの各控訴に係るものは1審原告らの負担とし,1

審被告東京都の各控訴に係るものは1審被告東京都の負担とする。

第2 事案の概要

1 本件は,イスラム教徒である1審原告らが,警視庁,警察庁及び国家公安

委員会がモスクを監視するなどし,1審原告らの信教の自由等の憲法上の権利

を侵害し,市民的及び政治的権利に関する国際規約等に違反し,行政機関の保有

する個人情報の保護に関する法律(保護法)や東京都個人情報の保護に関する条

例(保護条例)に違反する態様で個人情報を収集,保管,利用し,その後,平成

22年10月28日頃,情報管理上の注意義務違反により個人情報をインター

ネット上に114点のデータ(本件データ)を流出させた(本件流出事件)上,

適切な損害拡大防止措置を執らなかったとして,国家賠償法1条1項に基づき,

警視庁に関しては1審被告東京都に対し,警察庁及び国家公安委員会に関して

は1審被告国に対し,連帯して,1審原告らが被った精神的損害等の損害金各2

266万円の一部である各1100万円及びこれに対する平成23年7月26

日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事実である。

2 原審(東京地方裁判所平成26年1月15日判決)は,1審原告らの各請

求について,1審被告東京都に対し,1審原告4以外の1審原告らに各550万

円及びこれに対する遅延損害金の支払並びに1審原告4に220万円及びこれ

に対する遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余の請求をいずれも棄

却した。この原判決に対し,1審原告ら及び1審被告東京都がそれぞれの敗訴部

分を不服として控訴した。

3 本判決は,1審原告ら及び1審被告東京都の各控訴を棄却し,原判決を維

持した。

17

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第3 裁判所の判断の要旨

*本判決は,基本的に1審判決を引用しており,以下は,引用部分を含めた判

決要旨である。アンダーラインは高裁判決で付加された部分の要旨である。

1 争点1(警視庁及び警察庁による個人情報の収集,保管,利用についての

国家賠償法上の違法性等)について

⑴ 憲法20条1項(信教の自由)違反の主張について

本件データの元となった各文書は,警視庁公安部外事第三課が保有していた

ものであり,本件データには「モスクへの出入状況」等の1審原告らの個人情報

が含まれている。

本件の情報収集活動は,それ自体が1審原告らに対して信教を理由とする不

利益な取扱いを強いたり,宗教的に何らかの強制,禁止,制限を加えたりするも

のではない。日本国内において国際テロが発生する危険が十分に存在するとい

う状況,ひとたび国際テロが発生した場合の被害の重大さ,その秘匿性に伴う早

期発見,発生防止の困難さに照らせば,本件モスク把握活動を含む本件の情報収

集活動によってモスクに通う者の実態を把握することは警察法2条1項により

犯罪の予防を始めとする公共の安全と秩序の維持を責務とされている警察にと

って,国際テロの発生を未然に防止するために必要な活動というべきである。ま

た,本件情報収集活動が,主としてイスラム教徒を対象とし,モスクの出入状況

という宗教的側面にわたる事柄を含むことは,信仰内容それ自体の当否を問題

視していることによるものではなく,イスラム教徒のうちのごくー部に存在す

るイスラム過激派によって国際テロが行われてきたことや宗教施設においてイ

スラム過激派による勧誘等が行われたことがあったという歴史的事実に着眼し

たもので,イスラム教徒の精神的・宗教的側面に容かいする意図によるものでは

ない。他方,本件モスク把握活動は,外部から容易に認識することができる外形

的行為を記録したにとどまり,強制にわたるような行為はない。これらを総合す

ると,本件情報収集活動によって1審原告らの一部の信仰活動に影響を及ぼし

たとしても,国際テロの防止のために必要やむを得ない措置であり,憲法20条,

宗教法人法84条に違反しない。

以上は,本件個人データ(本件データのうち,1審原告らの個人情報に関する

部分)を収集した当時の状況を踏まえてのものであり,本件情報収集活動が,実

際にテロ防止目的にどの程度有効であるかは,それを継続する限り検討されな

ければならず,同様な情報収集活動であれば,以後も常に許容されると解されて

はならない。

⑵ 憲法14条(法の下の平等)違反について

警察は,実態把握の対象とするか否かを,少なくとも第一次的にはイスラム教

徒であるか否かという点に着目して決しており,この点で信教に着目した取扱

18

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いの区別をしていたものである。しかし,これは国際テロを巡るこれまでの歴史

的事実に着眼してのものであり,イスラム教徒の精神的・宗教的側面に容かいす

る意図によるものではなく,本件情報収集活動は国際テロ防止のために必要な

活動であり,他方,これによる原告らの信教の自由に対する影響は,警察官がモ

スク付近ないしその内部に立ち入ることに不快感,嫌悪感を抱くといった事実

上の影響が生じ得るにとどまることなどからすると,その取扱いの区別は,合理

的な根拠を有するものであり,憲法14条1項に違反しない。

1審原告らは,本件情報収集活動は,ムスリムがテロリストあるいはテロリス

トである可能性が高いという差別的メッセージを発するもので,ムスリムに対

する差別を助長すると主張するが,収集された情報が外部に開示されることを

予定されていないことは明らかであり,本件情報収集活動が国家による差別的

メッセージを発するものであるということはできない。

⑶ 憲法13条違反(信仰内容・信仰活動に関する情報を収集・管理されない

自由の侵害)について

本件情報収集活動によって収集された1審原告らの情報は,社会生活の中で

本人の承諾なくして開示されることが通常予定されていないものであるが,警

察には,国際テロ防止のための情報収集活動の一環として,モスクに出入りする

人について,その信仰活動を含む様々な社会的活動の状況を広汎かつ詳細に収

集して分析することが求められ,他方で,モスクへの出入状況や宗教的儀式,教

育活動への参加状況という外部から容易に認識することができる外形的行為は,

第三者に認識されることが全く予定されていないわけではない。本件情報収集

活動は国際テロの防止の観点から必要やむを得ない活動であるというべきであ

り,憲法13条に違反するということはできない。

⑷ 警視庁及び警察庁による個人情報の保有等が憲法13条に違反するか

情報通信技術の発展に伴い情報のデータベース化等が可能となり,捜査機関

による個人情報の収集の局面のみならず,保管,利用の局面において憲法上の問

題として検討する必要があるという見解は傾聴に値する。しかし,本件情報収集

活動は,もともと継続的に情報を収集し,それを分析,利用することを目的とす

るものであり,このような情報の継続的収集,保管,分析,利用を一体のものと

みて,それによる個人の私生活上の自由への影響を前提として前記のとおり憲

法適合性を判断したのであり,1審原告らの個人情報の保有等も憲法13条等

に違反しない。

また,1審原告らが指摘する最高裁平成20年3月6日第一小法廷判決(住基

ネットの事案)は,住民基本台帳法に定める制度の仕組み等に即して判示したも

ので,本件とは事案を異にする。

⑸ 当審における1審原告らの主張(国際人権規約違反)について

19

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市民的及び政治的権利に関する国際規約17条に定める個人の私生活上の自

由の保護並びに同規約2条及び26条に定める宗教による差別的取扱の禁止は,

その内容において憲法13条,14条1項において規定するところと異ならず,

本件情報収集プログラム及び本件情報収集活動は同規約17条並びに2条及び

26条に違反しない。

⑹ 本件個人データの収集・保管・利用は,法律の留保原則,保護法,保護条

例に違反しない。

2 争点2(国家賠償法上の違法性)について

⑴ 1審被告東京都について

本件データは,警察職員(おそらくは警視庁の職員)によって外部記録媒体を

用いて持ち出されたものと考えられる。

警視総監は,本件データが外部へ持ち出されれば,個人に多大な被害を与える

おそれがあることが十分に予見可能であったから,1審原告らの個人情報が漏

えいすることのないよう,徹底した漏えい対策を行うべき情報管理上の注意義

務を負っていたところ,外事第三課内における管理体制は不十分なものであっ

たとみざるを得ず,このことが,外部記録媒体を用いたデータの持出しにつなが

ったものであるから,警視総監には,情報管理上の注意義務を怠った過失があり,

1審被告東京都は国家賠償法による責任を負う。

⑵ 1審被告国について

警察庁の監査責任者には本件流出事件について義務違反は認められず,1審

被告国の責任を認めることはできない。

⑶ 本件流出事件発生後の1審被告らの不作為の違法性について

警視庁及び警察庁は,連携して,尽くすべき義務は尽くしたものとみるのが相

当であり,1審原告らのいう損害拡大防止義務を怠ったものということはでき

ない。

3 争点3(損害)について

本件流出事件が1審原告らに対して与えたプライバシーの侵害及び名誉棄損

の程度は甚大であり,1審被告東京都は,本件データが警視庁が保有していた情

報であることを認めていないなどの事情を考慮し,1審原告らについては一律

に,各500万円(1審原告4については,その精神的損害は他の1審原告らよ

りは少ないことから200万円)をもって相当と認め,その1割を弁捜士費用相

当の損害と認める。

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得意先

岩波書店

品名

 世 界 6 月 本 誌

42 印 原 稿 組 頁 責 了

207

ア メ リ カ の 差 別 の 歴 史 第 二 次 世 界 大 戦 と 日 系 人

  ア メ リ カ 合 衆 国 に は 消 し 去 る こ と の で

き な い 差 別 の 歴 史 が あ る 。 日 系 ア メ リ カ

人 の 強 制 収 容 も そ の 一 つ だ 。 第 二 次 大 戦

中 、 ア メ リ カ 政 府 は 西 海 岸 の 四 つ の 州 を

軍 事 エ リ ア と し て 設 定 し 、 エ リ ア 内 に 居

住 し て い た 全 て の 日 系 人 を 内 陸 の 強 制 キ

ャ ン プ へ 移 住 さ せ た 。 そ の 数 は 一 二 万 人

以 上 と 言 わ れ て い る( 1 )。

  ミ ノ ル ・ ヤ ス イ 氏 、 ゴ ー ド ン ・ ヒ ラ バ

ヤ シ 氏 、 そ し て フ レ ッ ド ・ コ レ マ ツ 氏 の

三 人 が 、 こ の 軍 事 政 策 に 背 い て 逮 捕 ・ 起

訴 さ れ た 。 彼 ら は 、 「 日 本 人 罪 」 と も 言

う べ き こ の 政 策 は 憲 法 の 禁 止 す る 差 別 に

他 な ら な い と し て 争 っ た が 、 ア メ リ カ 連

邦 最 高 裁 判 所 は 彼 ら の 主 張 を 退 け 、 各 人

に 有 罪 判 決 を 下 し た 。 司 法 が 差 別 に 加 担

し た 歴 史 で あ る 。

  戦 後 、 彼 ら 自 身 を は じ め と す る 多 く の

日 系 人 や そ の 支 援 者 た ち の 活 動 に よ り 、

三 人 の 名 誉 が 回 復 さ れ た 。 一 九 八 四 年 か

ら 一 九 八 七 年 に は 、Coram nobis と い う 再

審 手 続 に よ り 三 人 に 無 罪 判 決 が 下 さ れ た 。

一 九 八 八 年 に は 、 日 系 人 の 強 制 収 容 は 、

人 種 差 別 、 戦 争 パ ニ ッ ク 、 そ し て 誤 っ た

政 治 判 断 に 基 づ く も の で あ っ た と 認 め る

シ ビ ル ・ リ バ テ ィ 法( 2 )が 施 行 さ れ た 。 先 日

逝 去 し た ス カ リ ア 元 連 邦 最 高 裁 判 事 は あ

る イ ン タ ビ ュ ー で 、 「 コ レ マ ツ 事 件 の 多

数 意 見 は 判 断 を 誤 っ た 」 と 認 め た う え 、

「 コ レ マ ツ 事 件 に お け る ジ ャ ク ソ ン 判 事

の 反 対 意 見 は 、 過 去 の 最 高 裁 に お け る 最

も す ば ら し い 意 見 の 一 つ だ 」 と 賞 賛 し た( 3 )。

  現 代 で は コ レ マ ツ 事 件 で の 三 人 の 最 高

裁 判 事 の 反 対 意 見 こ そ 、 あ る べ き 司 法 の

正 義 で あ っ た と 評 価 さ れ て い る 。 彼 ら は 、

た と え 国 家 の 存 亡 を か け た 戦 時 中 で あ っ

て も 政 府 や 軍 の 言 い 分 を 鵜 呑 み に し て は

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な ら な い 、 日 系 人 が ス パ イ や 妨 害 工 作 を

す る 恐 れ が あ る と い う な ら ば 政 府 は そ の

具 体 的 な 証 拠 を 出 さ な け れ ば な ら な い が 、

政 府 の 証 拠 は 全 く 具 体 的 な も の で は な い 、

こ の 政 策 は 人 種 差 別 に 他 な ら な い 、 と 多

数 意 見 を 批 判 し た の で あ る( 4 )

テ ロ 対 策 の 名 の 下 で

  9 ・ 11 以 降 、 テ ロ の 脅 威 は し ば し ば 戦

争 に な ぞ ら え ら れ る 。 「 テ ロ と の 戦 争 」

と い う 言 葉 も 使 わ れ る 。 テ ロ の 予 防 や 摘

発 が 警 察 の 重 要 な 任 務 で あ る こ と に 疑 い

は な い 。 し か し 、 警 察 は テ ロ 対 策 名 目 で

あ れ ば 何 を し て も い い わ け で は な い 。 自

由 や 平 等 と い っ た 憲 法 で 定 め ら れ た 基 本

的 な 理 念 を 侵 す こ と は 許 さ れ な い 。 そ し

て 、 憲 法 の 理 念 に 基 づ き 、 警 察 や 軍 の 暴

走 に 歯 止 め を か け る の は 司 法 の 役 割 で あ

る 。 そ の 役 割 を 放 棄 す る と き 、 「 裁 判 所

は 市 民 の 裁 判 所 で は な く な り 、 政 治 の 道

具 に 成 り 下 が る 」 ( コ レ マ ツ 事 件 に お け る ジ

ャ ク ソ ン 判 事 の 反 対 意 見 ) 。

  日 本 の 裁 判 所 は 既 に こ の 役 割 を 放 棄 し

つ つ あ る 。 二 〇 一 〇 年 一 〇 月 に 生 じ た 、 い

わ ゆ る 公 安 情 報 流 出 事 件 に よ り 、 日 本 の

警 察 が ム ス リ ム で あ る こ と の み を 理 由 と

し て 日 本 に 住 む 全 て の ム ス リ ム を 監 視 し 、

詳 細 な 個 人 情 報 を 収 集 し 、 巨 大 な デ ー タ

ベ ー ス を 作 り 上 げ て い る こ と が 明 ら か に

な っ た 。 テ ロ 対 策 の 名 の 下 に 、 特 定 の 宗

教 を 信 仰 す る こ と の み を 監 視 の 理 由 と し

て い る の で あ る( 5 )。 個 人 情 報 流 出 の 被 害 を

受 け た ム ス リ ム や そ の 家 族 ら は 、 国 と 東

京 都 を 相 手 取 り 国 家 賠 償 訴 訟 を 提 起 し た 。

  筆 者 が 所 属 す る ム ス リ ム 違 法 捜 査 弁 護

団( 6 )は 、 原 告 ら の 代 理 人 と し て 、 ム ス リ ム

監 視 活 動 が 憲 法 一 三 条 ( プ ラ イ バ シ ー 権 ) 、

一 四 条 ( 差 別 の 禁 止 ) 、 二 〇 条 ( 信 教 の 自

由 ) な ど に 反 す る と 主 張 し た が 、 一 審

( 東 京 地 方 裁 判 所 ) ・ 控 訴 審 ( 東 京 高 等 裁 判 所 )

と も に 、 警 察 の 捜 査 活 動 は 合 憲 で あ る と

判 断 し た 。 平 穏 な ム ス リ ム と 過 激 派 の テ

ロ リ ス ト を 区 別 す る た め に は 、 モ ス ク の

内 部 に 立 ち 入 っ て で も 全 て の ム ス リ ム を

監 視 す る こ と が 必 要 だ と 断 言 し た の で あ

る 。 そ の よ う な 監 視 活 動 が 実 際 に テ ロ の

予 防 に 役 立 っ て い る こ と を 示 す 証 拠 は 、

政 府 か ら 一 つ も 提 出 さ れ な か っ た に も か

か わ ら ず( 7 )。 こ れ は 日 本 の 裁 判 所 特 有 の 現

象 な の だ ろ う か 。 コ レ マ ツ 事 件 の 反 省 の

記 憶 が 生 々 し く 残 る は ず の ア メ リ カ の 司

法 は ど う な の だ ろ う か 。

  本 稿 で は 、 ニ ュ ー ヨ ー ク 市 警 が テ ロ 対

策 の 名 の 下 に 実 施 し た ム ス リ ム 監 視 プ ロ

グ ラ ム を め ぐ る 二 つ の 司 法 判 断 を 紹 介 す

る 。 こ れ ら の 裁 判 で は 、 ア メ リ カ の 司 法

が コ レ マ ツ 事 件 の 教 訓 を 覚 え て い る か 、

試 さ れ る こ と と な っ た 。

ニ ュ ー ヨ ー ク 市 警 の ム ス リ ム 監 視 プ ロ グ ラ ム

  二 〇 一 一 年 八 月 、 A P 通 信 が 、 後 に ピ

ュ リ ツ ァ ー 賞 を 受 賞 す る こ と と な る 調 査

報 道 を 開 始 し た( 8 )。 二 〇 〇 二 年 以 降 、 ニ ュ

ー ヨ ー ク 市 警 が ニ ュ ー ジ ャ ー ジ ー 州 と ニ

ュ ー ヨ ー ク 州 に 住 む 全 て の ム ス リ ム と ム

ス リ ム コ ミ ュ ニ テ ィ を 対 象 に 、 包 括 的 か

つ 大 規 模 な 監 視 プ ロ グ ラ ム を 実 施 し て い

る こ と を 暴 く も の だ っ た 。

  監 視 プ ロ グ ラ ム は 入 念 に 作 ら れ て い た 。

警 察 は 「 モ ス ク ・ ク ロ ー ラ ー 」 と 呼 ば れ

る ス パ イ を 雇 い 、 モ ス ク の 中 で 交 わ さ れ

る 信 者 同 士 の 会 話 を 逐 一 警 察 に 報 告 さ せ

て い た 。 「 レ イ カ ー ズ 」 と 呼 ば れ る 潜 入

捜 査 員 は 、 大 学 や カ フ ェ に 私 服 で 潜 入 し 、

ム ス リ ム 一 人 ひ と り の 個 人 情 報 や コ ミ ュ

ニ テ ィ と の 結 び つ き を 克 明 に 記 録 し て い

た 。 「 デ モ グ ラ フ ィ ッ ク ・ ユ ニ ッ ト 」 と

名 づ け ら れ た チ ー ム は 、 両 州 の 地 図 上 に

ム ス リ ム と 関 連 の あ る カ フ ェ や レ ス ト ラ

ン を 関 係 す る 国 ご と に 色 分 け し て 印 を つ

け て い た 。 ム ス リ ム と 少 し で も 関 係 が あ

れ ば あ ら ゆ る 情 報 を 収 集 す る 、 偏 執 狂 的

な 捜 査 態 様 が 浮 き 彫 り に な っ た 。

  ニ ュ ー ヨ ー ク 市 警 の 捜 査 手 法 は 、 日 本

の 警 察 の 監 視 プ ロ グ ラ ム と 驚 く ほ ど よ く

似 て い る 。 日 本 の 警 察 も 、 東 京 の 主 要 な

モ ス ク に 潜 入 捜 査 員 を 派 遣 し た り 監 視 カ

メ ラ を 設 置 す る な ど し て い た( 9 )し 、 東 京 都

の 地 図 上 に モ ス ク や 関 連 施 設 の 位 置 を 落

と し 込 む な ど し て い た 。 流 出 資 料 の 中 に

は 日 本 語 で 作 成 さ れ た 資 料 を あ え て 英 訳

し た も の も 含 ま れ て い る こ と か ら 、 筆 者

は 、 日 本 の 警 察 が 、 少 な く と も 監 視 プ ロ

グ ラ ム に つ い て 、 場 合 に よ っ て は 収 集 し

た 情 報 そ の も の に つ い て 、 ニ ュ ー ヨ ー ク

市 警 と 情 報 共 有 な い し 意 見 交 換 を し て い

た と 考 え て い る)10(

  A P 通 信 の 報 道 を 受 け 、 両 州 に 住 む ム

ス リ ム や ム ス リ ム 団 体 は ニ ュ ー ヨ ー ク 市

な ど を 相 手 取 り 訴 訟 を 提 起 し た 。 原 告 代

表 者 の 名 前 を 冠 し て 、 ニ ュ ー ジ ャ ー ジ ー

州 の 事 件 は ハ ッ サ ン 事 件 、 ニ ュ ー ヨ ー ク

州 の 事 件 は ラ ザ 事 件 と そ れ ぞ れ 呼 ば れ る 。

ハ ッ サ ン 事 件

  ハ ッ サ ン 事 件 は 、 二 〇 一 二 年 一 〇 月 に

ニ ュ ー ジ ャ ー ジ ー 地 区 連 邦 地 方 裁 判 所 に

提 訴 さ れ た 民 事 裁 判 で あ る 。 原 告 は 、 一

一 名 の ム ス リ ム 個 人 の ほ か 、 モ ス ク 運 営

団 体 、 ム ス リ ム 関 連 会 社 、 大 学 の ム ス リ

ム 学 生 団 体 な ど で あ る 。 彼 ら は 、 ニ ュ ー

ヨ ー ク 市 警 の ム ス リ ム 監 視 プ ロ グ ラ ム は 、

テ ロ と の 関 係 性 が 一 切 な く と も 宗 教 の み

に 着 目 し て ム ス リ ム と ム ス リ ム コ ミ ュ ニ

テ ィ を 監 視 す る も の で あ り 、 信 教 の 自 由

と 平 等 保 護 を 定 め た 憲 法 に 違 反 す る と 主

張 し て 、 監 視 プ ロ グ ラ ム の 差 し 止 め 、 プ

ロ グ ラ ム に よ り 収 集 し た 個 人 情 報 の 廃 棄 、

お よ び 損 害 賠 償 を 求 め た)11(

  二 〇 一 五 年 一 〇 月 一 三 日 、 ア メ リ カ 連

邦 控 訴 審 第 三 巡 回 区 は 、 原 告 ら の 訴 え を

却 下 し て い た 一 審 判 決)12(

を 以 下 の 理 由 で 覆

し 、 さ ら な る 審 理 を 尽 く さ せ る た め 事 件

を 原 審 に 差 し 戻 し た 。 こ の 判 決 は 、 信 仰

に 依 拠 し て ム ス リ ム を 監 視 す る 捜 査 プ ロ

グ ラ ム に 警 鐘 を 鳴 ら す も の で あ り 、 今 後

の テ ロ 対 策 の 捜 査 実 務 に 大 き な 影 響 を 及

ぼ す と さ れ て い る 。 重 要 な 点 は 以 下 の 三

点 で あ る 。

  判 旨 1  差 別 は 劣 等 の 烙 印 を 押 す  差

別 は 目 に 見 え な い 。 目 に 見 え な い 以 上 、

監 視 プ ロ グ ラ ム が 警 察 の 内 部 に と ど ま る

限 り 実 害 は 生 じ な い ― そ う 述 べ て 訴 え

を 却 下 し た の が 一 審 で あ っ た 。

  こ れ に 対 し 控 訴 審 判 決 は 、 以 下 の よ う

に 、 差 別 的 に 取 り 扱 わ れ る こ と そ れ 自 体

が 損 害 で あ る と 強 調 し た 。

「 不 平 等 な 取 り 扱 い は 、 そ れ 自 体 『 劣

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等 の 烙 印 』 を 押 す こ と と な る 。 差 別 を

受 け な い 人 々 は こ の こ と を 極 め て 安 直

に 軽 視 し て き た 。 歴 史 か ら こ の 心 地 よ

く な い 教 訓 を 学 ぶ こ と が で き る 。 差 別

的 な 取 り 扱 い が も た ら す 現 実 的 で 確 認

可 能 な 被 害 か ら 目 を 背 け る こ と は 、 必

ず や 後 日 の 悔 恨 を 招 く 」

  差 別 的 な 捜 査 プ ロ グ ラ ム が 外 部 に 漏 れ

た 場 合 に は 、 ( 皮 肉 に も ) 実 害 の 立 証 は 容

易 で あ る 。 警 察 に 監 視 さ れ て い る こ と が

知 ら れ る と 、 取 引 を 打 ち 切 ら れ た り 、 賃 貸

借 契 約 を 断 ら れ る こ と が 多 い た め で あ る 。

他 方 プ ロ グ ラ ム が 外 部 に 漏 れ な い 場 合 に 、

差 別 的 捜 査 そ れ 自 体 か ら 実 害 が 生 じ た こ

と を 立 証 す る の は 一 般 的 に 困 難 で あ る 。

と り わ け 本 人 す ら そ の よ う な 捜 査 に 気 づ

い て い な い 場 合 に は 、 目 に 見 え る 実 害 は

生 じ て い な い と 誤 解 さ れ が ち で あ る 。

  だ か ら と い っ て 、 一 審 の よ う に 差 別 的

捜 査 そ れ だ け で は 実 害 と 評 価 し な い 判 決

は 、 警 察 に 対 し 「 ば れ な け れ ば 何 を し て も

い い 」 と の メ ッ セ ー ジ を 送 る こ と と な る 。

  本 判 決 は 、 こ の 点 に つ い て 、 差 別 を 受

け る こ と そ れ 自 体 が 実 害 な の だ と 判 断 し 、

警 察 の 差 別 的 捜 査 に 対 し 真 正 面 か ら 警 鐘

を 鳴 ら し た 。 こ の 判 断 に よ り 、 差 別 的 捜

査 の 被 害 者 は 、 警 察 が 特 定 の 宗 教 を 別 異

に 取 り 扱 っ て い る 事 実 を 立 証 す る だ け で 、

そ の 正 当 性 を 争 う 道 が 開 か れ る こ と に な

っ た の で あ る 。

  判 旨 2  捜 査 の 「 動 機 」 は 違 憲 の 判 断 の

要 件 で は な い  一 審 は 、 「 本 件 プ ロ グ ラ

ム の 目 的 は 単 に ム ス リ ム を 差 別 す る こ と

に あ る の で は な く 、 法 を 遵 守 す る 一 般 の

ム ス リ ム の 中 に 潜 む ム ス リ ム テ ロ リ ス ト

を 見 つ け る こ と に あ っ た 」 こ と を 合 憲 の

理 由 と し て い た)13(

。 動 機 が 差 別 的 で な け れ

ば 問 題 な い と し た の で あ る 。

  し か し 、 警 察 の 捜 査 の 動 機 は 、 ( 当 然 な

が ら ) 治 安 の 維 持 や 犯 罪 捜 査 で あ る こ と

が 多 く 、 差 別 的 な 動 機 で 捜 査 プ ロ グ ラ ム

を 策 定 す る こ と は ( あ る と し て も ) 極 め て ま

れ で あ る し 、 た と え そ う だ と し て も 監 視

さ れ て い る 側 が そ の 動 機 を 立 証 す る こ と

は 不 可 能 に 近 い 。 こ れ に 対 し 控 訴 審 判 決

は 、 「 『 意 図 (intent ) 』 と は あ る 人 の 行 動

が 『 意 図 的 』 か 『 偶 発 的 』 か を 分 け る も

の で あ り 、 一 方 『 動 機 (motivation ) 』 と は

『 あ る 人 の 行 動 が 意 図 的 で あ る と し て 、

な ぜ 彼 は そ れ を 行 っ た の か 』 を 問 う も の

で あ る 」 と し て 、 「 動 機 」 と 「 意 図 」 を

区 別 し た う え で 、 そ の 捜 査 が 「 意 図 的 」

に 特 定 の 宗 教 を 区 別 し て 取 り 扱 っ て さ え

い れ ば 違 憲 の 疑 い が 生 じ る と し た 。 こ れ

に よ り 、 動 機 が 差 別 的 な も の で な く と も

正 当 性 を 争 い う る と 明 示 し た の で あ る)14(

  判 旨 3  正 当 性 の 立 証 責 任 は 政 府 に  控

訴 審 判 決 は 、 政 府 に 対 し 、 全 て の ム ス リ

ム を 監 視 す る プ ロ グ ラ ム が テ ロ の 予 防 に

役 立 つ と す る そ の ロ ジ ッ ク の 過 程 と そ れ

ぞ れ の ロ ジ ッ ク を 裏 づ け る 証 拠 を 具 体 的

に 示 す こ と を 求 め た 。 「 風 が 吹 け ば 桶 屋 が

儲 か る 」 の こ と わ ざ に な ぞ ら え る な ら ば 、

ま ず 政 府 は 、 風 が 吹 く ↓ 視 力 を 失 う 人

が 増 え る ↓ 三 味 線 を 習 う 人 が 増 え る ↓

猫 が 減 る ↓ ね ず み が 増 え る ↓ 桶 が か じ

ら れ る ↓ 桶 屋 が 儲 か る と い う ロ ジ ッ ク

の 流 れ を 裁 判 所 に 提 示 し な け れ ば な ら な

い 。 そ し て 、 そ れ ぞ れ の 矢 印 に つ い て 、

例 え ば 、 「 こ れ く ら い の 強 さ の 風 が 吹 け

ば 視 力 を 失 う 人 が こ れ だ け 増 え る 」 と い

う 事 実 を 、 具 体 的 な デ ー タ に 即 し て 立 証

し な け れ ば な ら な い 。 全 て の 矢 印 ( ロ ジ

ッ ク の 過 程 ) で 同 様 の 立 証 に 成 功 し て 初 め

て 、 政 府 の 主 張 は 認 め ら れ る こ と と な る 。

  こ の ハ ー ド ル は 実 務 的 に か な り 高 い 。

政 府 に と っ て は 大 変 な 労 力 で あ る が 、 信

仰 す る 宗 教 の み に 基 づ く 監 視 プ ロ グ ラ ム

を 実 施 す る に は 、 こ れ だ け の ハ ー ド ル を

ク リ ア し な け れ ば な ら な い こ と を 明 確 に

し た の で あ る 。

  ハ ッ サ ン 判 決 の 重 み  ム ス リ ム コ ミ ュ

ニ テ ィ を 監 視 す れ ば テ ロ を 抑 止 で き る と

い う 考 え は 全 く 実 証 さ れ て い な い 。 例 え

ば 、 ニ ュ ー ヨ ー ク 大 学 付 設 の 研 究 機 関 で

あ る ブ レ ナ ン セ ン タ ー の 論 文)15(

は 、 「 入 手

可 能 な 研 究 か ら は 、 テ ロ リ ズ ム が ム ス リ

ム の 信 仰 に よ る も の で あ る と い う 見 解 や 、

イ ス ラ ム 教 ( イ ス ラ ム 教 の 中 で も 特 に 厳 格 又

は 保 守 的 と さ れ て い る 宗 派 で さ え ) を 信 仰 す

る こ と が 暴 力 化 へ の ス テ ッ プ で あ る と い

う 見 解 は 支 持 で き な い 。 む し ろ 、 示 唆 さ

れ る の は そ の 反 対 の 見 解 で あ る 。 す な わ

ち 、 強 い 宗 教 意 識 は 、 過 激 化 を 促 進 す る

の で は な く 、 イ ス ラ ム 教 の 名 に お い て 暴

力 化 に 反 対 す る と い う 考 え を 人 々 に 植 え

つ け る こ と が で き る 」 と 指 摘 し て い る 。

過 激 化 に 至 る 過 程 は 偶 発 的 な 要 素 を 多 く

含 む も の で あ り 、 特 定 の 宗 教 や イ デ オ ロ

ギ ー に よ っ て も た ら さ れ る も の で は な い 。

こ の こ と は 多 く の 研 究 に よ っ て 報 告 さ れ

て い る の で あ る 。

  テ ロ リ ス ト の 一 部 が 宗 教 や 思 想 を テ ロ

の 理 由 と し て い る こ と は 確 か で あ る 。 そ

の た め 、 つ い 人 は そ の 属 性 と テ ロ を 結 び

付 け て し ま う 。 そ し て そ の 属 性 を 恐 れ る

よ う に な り 、 迫 害 す る よ う に な っ て し ま

う 。 司 法 の 役 割 は 、 こ の よ う な 恐 れ を 法

律 と い う 理 性 で 抑 え 込 む こ と に あ る 。 ハ

ッ サ ン 判 決 は 、 恐 れ を 適 切 に 制 御 す る 三

つ の 要 件 を 定 立 し た も の と し て 高 く 評 価

さ れ て い る 。

ラ ザ 事 件

  ラ ザ 事 件 は 、 二 〇 一 三 年 六 月 一 八 日 に

ニ ュ ー ヨ ー ク 東 地 区 連 邦 地 方 裁 判 所 に 提

訴 さ れ た 民 事 訴 訟 で あ る 。 原 告 は ム ス リ

ム 個 人 、 モ ス ク 運 営 団 体 、 ム ス リ ム 関 連

団 体 で あ り 、 被 告 は ニ ュ ー ヨ ー ク 市 や ニ

ュ ー ヨ ー ク 市 長 ら で あ る 。 基 礎 と な る 事

実 関 係 や 法 的 主 張 は ハ ッ サ ン 事 件 と ほ ぼ

同 じ で あ)17)(16(

る 。

  二 〇 一 六 年 一 月 七 日 、 裁 判 所 は 、 関 係

当 事 者 が 同 意 し た 和 解 内 容 を 公 表 し た 。

重 要 な 点 は 以 下 の 三 点 で あ る 。

  和 解 内 容 1  宗 教 を 要 素 と す る 捜 査 の 禁 止

  第 一 に 、 捜 査 方 針 を 策 定 す る 際 に 、 宗

教 を 実 質 的 あ る い は 動 機 的 な 要 素 と し て

は な ら な い こ と が 確 認 さ れ た 。 今 回 の 監

視 プ ロ グ ラ ム の よ う に 、 ム ス リ ム で あ る

こ と の み を 理 由 と し て 監 視 対 象 と す る こ

と が 禁 止 さ れ る の は も ち ろ ん の こ と 、 ム

ス リ ム で あ る こ と を 一 要 素 と す る 捜 査 活

動 ( 例 え ば 、 具 体 的 な 理 由 な く 二 〇 代 で 男 性 の

ム ス リ ム を 捜 査 対 象 と す る こ と ) も 禁 止 さ れ

る こ と と な っ た 。

  ま た 、 監 視 的 な 捜 査 は 、 対 象 者 以 外 に

対 し て も 、 憲 法 上 の 権 利 ( 表 現 の 自 由 や 信

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教 の 自 由 な ど ) の 行 使 を 萎 縮 さ せ る と さ れ

る 。 こ の 萎 縮 効 果 を 防 ぐ た め 、 今 後 は 捜

査 プ ロ グ ラ ム の 策 定 に 当 た り 、 直 接 の 捜

査 対 象 で は な い 人 々 に 与 え る 影 響 も 考 慮

し な け れ ば な ら な い と さ れ た 。

  和 解 内 容 2  ム ス リ ム に 対 す る 包 括 的 監

視 の 理 論 的 支 柱 と な っ た 論 文 の 撤 回  『 西

洋 に お け る 過 激 化 ― ホ ー ム グ ロ ー ン テ

ロ リ ス ト の 脅 威 』 と い う レ ポ ー ト が ニ ュ

ー ヨ ー ク 市 警 の ウ ェ ブ サ イ ト か ら 削 除 さ

れ る こ と と な っ た 。 こ の レ ポ ー ト は 、 ニ

ュ ー ヨ ー ク 市 警 に 所 属 す る 二 人 の ア ナ リ

ス ト が 二 〇 〇 七 年 に 発 表 し た も の で 、 平

穏 な ム ス リ ム が イ ス ラ ム 過 激 派 に な る ま

で に は 四 つ の 段 階 が あ り 、 様 々 な 出 来 事

を き っ か け に ベ ル ト コ ン ベ ア の よ う に 過

激 派 へ と 流 さ れ て い く と 結 論 付 け て い た

( 「 宗 教 ベ ル ト コ ン ベ ア 」 モ デ ル と 呼 ば れ る ) 。

ニ ュ ー ヨ ー ク 市 警 の み な ら ず F B I な ど

も 、 こ の レ ポ ー ト を 理 論 的 支 柱 と し て 、

全 て の ム ス リ ム が 理 論 的 に は テ ロ リ ス ト

に な る 可 能 性 が あ る と 決 め 付 け 、 ム ス リ

ム 及 び ム ス リ ム コ ミ ュ ニ テ ィ の 監 視 を 正

司 法 に そ の 歯 止 め と し て の 使 命 を 与 え た 。

ジ ャ ク ソ ン 裁 判 官 が コ レ マ ツ 事 件 で 述 べ

た よ う に 、 そ の 役 割 を 放 棄 す る な ら 司 法

は 行 政 機 関 の 道 具 に 成 り 下 が っ て し ま う

だ ろ う 。 裁 判 を 通 じ て 、 ニ ュ ー ヨ ー ク 市

が 自 ら の 行 き 過 ぎ を 認 め 、 再 発 防 止 に 必

要 な 改 革 を 進 め た 点 は 、 憲 法 が 予 定 す る

健 全 な ス キ ー ム が 正 常 に 機 能 し た も の と

し て 高 く 評 価 さ れ る べ き で あ る 。

お わ り に

  第 二 次 大 戦 中 に 日 系 人 が ス パ イ 活 動 に

手 を 染 め た 事 実 は 一 つ も 報 告 さ れ て い な

い)20(

。 ま た 、 ニ ュ ー ヨ ー ク 市 警 の ム ス リ ム

監 視 プ ロ グ ラ ム に よ り 予 防 ま た は 摘 発 さ

れ た テ ロ 活 動 も 一 つ も 報 告 さ れ て い な い 。

人 種 や 宗 教 に 着 目 し た 政 策 は 、 幻 想 の 危

険 に 駆 り 立 て ら れ た も の に 過 ぎ な い 。

  そ れ は 役 に 立 た な い ど こ ろ か 逆 効 果 と

な る こ と も あ る 。 実 際 、 全 て の ム ス リ ム

を 監 視 す る テ ロ 対 策 プ ロ グ ラ ム は 、 警 察

を 無 意 味 な 情 報 に 埋 も れ さ せ 、 機 能 不 全

に 陥 ら せ る と 指 摘 さ れ て い る)21(

。 ま た 、 ム

当 化 し て い た の で あ る)18(

  し か し 、 こ の レ ポ ー ト は 、 サ ン プ ル 数

も 少 な く 、 デ ー タ の 分 析 方 法 に も 問 題 が

多 い も の と し て 、 ム ス リ ム コ ミ ュ ニ テ ィ

や 研 究 者 な ど 幅 広 い 人 々 か ら 撤 回 を 求 め

ら れ て い た 。 先 ほ ど 紹 介 し た ブ レ ナ ン セ

ン タ ー の 論 文 も 、 こ の レ ポ ー ト は 根 拠 の

な い 憶 測 に 基 づ く も の で あ る と 批 判 し 、

ア メ リ カ 政 府 に 対 し 、 「 公 式 な 文 書 に よ

り 、 過 激 化 の 『 宗 教 ベ ル ト コ ン ベ ア 』 モ

デ ル は 、 政 府 と し て 承 認 も 黙 認 も す る こ

と は な い 、 と 明 確 に 宣 言 す る 」 こ と を 求

め て い た 。 し か し 、 ニ ュ ー ヨ ー ク 市 警 は

一 貫 し て そ の 内 容 を 擁 護 し 、 撤 回 を 拒 否

し 続 け て い た の で あ る 。

  こ れ ら の 経 緯 を 踏 ま え る と 、 ニ ュ ー ヨ

ー ク 市 が こ の レ ポ ー ト を 公 式 に 撤 回 す る

こ と に は 象 徴 的 な 意 味 が あ る 。 こ の レ ポ

ー ト 以 外 に ム ス リ ム の 包 括 的 な 監 視 を 正

当 化 す る 理 論 的 根 拠 は 報 告 さ れ て お ら ず 、

F B I を 始 め と す る 他 地 域 の 警 察 実 務 に

与 え る 影 響 は 少 な く な い と さ れ て い る 。

  和 解 内 容 3  民 間 の 弁 護 士 に よ る 監 視 シ

ス リ ム コ ミ ュ ニ テ ィ と の 信 頼 関 係 を 壊 し

て し ま い 、 よ り 幅 広 い テ ロ 対 策 の 計 画 を

台 無 し に し て い る と 批 判 さ れ て い る)22(

  今 年 に 入 っ て か ら も 毎 月 の よ う に テ ロ

の 悲 劇 が 報 じ ら れ た 。 そ の た び に ド ナ ル

ド ・ ト ラ ン プ 氏 の よ う な 強 硬 派 の 政 治 家

が ム ス リ ム を 監 視 す べ き だ と 声 高 に 主 張

す る と い う こ と が 繰 り 返 さ れ て い る 。

  テ ロ の 語 源 は 恐 怖 で あ る 。 テ ロ の 目 的

は 、 市 民 に 恐 怖 を 与 え 、 そ の 国 の 重 要 な

価 値 を 崩 壊 さ せ る こ と に あ る 。 テ ロ を 予

防 す る た め に 自 由 や 平 等 と い っ た 国 家 の

理 念 を 土 台 か ら 崩 す こ と は 、 ま さ に テ ロ

リ ス ト の 思 惑 通 り で あ る 。

  実 際 、 イ ス ラ ム 過 激 派 に よ る テ ロ 攻 撃

で パ ニ ッ ク に な り 、 ム ス リ ム 全 て を 監 視

し よ う と し た の は ニ ュ ー ヨ ー ク 市 警 だ け

で は な い 。 冒 頭 で 紹 介 し た よ う に 日 本 の

警 察 も 瓜 二 つ の 監 視 プ ロ グ ラ ム を 実 施 し

て い る し 、 イ ギ リ ス や ド イ ツ で も 類 似 の

捜 査 が 報 告 さ れ て い る 。

  他 方 、 テ ロ リ ス ト の 思 惑 を 跳 ね 除 け 、

国 家 の 理 念 を 取 り 戻 す 動 き も 活 発 だ 。 ド

ス テ ム の 導 入  ニ ュ ー ヨ ー ク 市 警 の 内 部

に 独 立 の 監 督 委 員 会)19(

が 設 置 さ れ る こ と と

な っ た 。 特 筆 す べ き は 「 市 民 代 表 法 律

家 」 の 導 入 で あ る 。 「 市 民 代 表 法 律 家 」

は 民 間 の 法 律 家 か ら 選 任 さ れ る 。 新 設 さ

れ る 委 員 会 の メ ン バ ー の 一 員 と し て 、 市

警 の テ ロ 対 策 活 動 が 事 前 に 策 定 さ れ る ガ

イ ド ラ イ ン に 違 反 し て い な い か を チ ェ ッ

ク す る 。 違 反 を 発 見 し た 場 合 に は 市 警 の

ト ッ プ に 報 告 し 、 そ の 違 反 が 構 造 的 ・ 組

織 的 な も の と 判 断 し た 場 合 に は 、 裁 判 所

の 特 任 裁 判 官 に 報 告 す る 義 務 を 負 う 。

  再 発 防 止 の た め 、 ニ ュ ー ヨ ー ク 市 警 が

自 ら を 監 督 す る 新 た な 組 織 を 設 置 し 、 か

つ 外 部 の 専 門 家 を 招 き 入 れ た と い う 点 で 、

未 来 志 向 の 画 期 的 な 和 解 内 容 で あ る 。

  ラ ザ 事 件 の 和 解 の ま と め  テ ロ の 予 防

策 に は 正 解 が な い 。 安 全 を 確 保 す る と い

う 重 要 な 目 的 の 実 現 を 目 指 す が ゆ え に 、

と き に 警 察 は 行 き 過 ぎ 、 社 会 の 差 別 を 助

長 し 、 あ る い は 市 民 の 自 由 を 侵 害 し て し

ま う 。 憲 法 は 、 こ の よ う な 事 態 を 国 家 運

営 の い わ ば 生 理 現 象 と し て 事 前 に 想 定 し 、

イ ツ で は 憲 法 裁 判 所 が 歯 止 め の 役 割 を 果

た し た)23(

。 イ ギ リ ス の バ ー ミ ン ガ ム で は 市

民 が こ れ ら の 監 視 プ ロ グ ラ ム を 中 止 に 追

い 込 ん だ 。 国 連 人 権 理 事 会 は 、 二 〇 〇 八

年 三 月 二 七 日 の 国 連 人 権 理 事 会 決 議 7 /

7 『 テ ロ 対 策 に お け る 人 権 及 び 基 本 的 自

由 の 保 障 』 第 七 項 に お い て 、 各 国 に 対 し 、

人 種 、 民 族 、 宗 教 な ど 、 国 際 法 に よ っ て

禁 止 さ れ た 差 別 に 基 づ く 固 定 観 念 に よ る

プ ロ フ ァ イ リ ン グ を 行 っ て は な ら な い こ

と を 求 め て い る)24(

。 本 稿 で 紹 介 し た 二 つ の

事 件 は こ の 系 譜 に 連 な る も の だ 。

  他 方 日 本 で は 、 東 京 地 裁 と 東 京 高 裁 に

よ り ム ス リ ム 監 視 プ ロ グ ラ ム が テ ロ 対 策

に 必 要 で あ る と 宣 言 さ れ て し ま っ た ( 現

在 最 高 裁 に 係 属 中 ) 。 憲 法 が 謳 う 国 家 の 理

念 は 損 な わ れ た ま ま だ 。

  ハ ッ サ ン 判 決 と ラ ザ 和 解 は 、 テ ロ と の

戦 い の 最 前 線 に あ る ア メ リ カ の 司 法 判 断

と し て 重 要 な 意 味 が あ る 。 宗 教 や 民 族 に

着 目 し た 監 視 捜 査 に 大 き な 歯 止 め を か け

る も の で あ り 、 と ど ま る と こ ろ を 知 ら な

い 偏 見 的 捜 査 に 対 す る 防 波 堤 と な る 。 そ

24

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214

世界

SE

KA

I2

01

6.6

215「テロとアメリカ」最前線

ヨ ー ク 市 警 に 対 し 表 現 活 動 に 対 す る 監 視 捜

査 な ど を 禁 止 し た ほ か 、 様 々 な 手 続 規 制 が

定 め ら れ た 。 A P 通 信 に よ る 報 道 を 受 け 、

当 時 の ハ ン チ ュ ー 事 件 の 原 告 ら が 、 ニ ュ ー

ヨ ー ク 市 警 の ム ス リ ム 監 視 プ ロ グ ラ ム は ハ

ン チ ュ ー ガ イ ド ラ イ ン に 違 反 す る と し て 、

ニ ュ ー ヨ ー ク 市 警 の 担 当 部 局 を 相 手 取 り 、

監 視 プ ロ グ ラ ム の 停 止 と 、 ハ ン チ ュ ー ガ イ

ド ラ イ ン の 改 訂 ( ニ ュ ー ヨ ー ク 市 警 内 部 に

監 督 機 関 を 新 設 す る こ と を 内 容 と す る も

の ) を 求 め る 裁 判 手 続 を 提 起 し た 。

( 18 ) 注 10 に お い て 紹 介 し た 松 本 氏 の 論 文 で も

代 表 的 な 「 最 新 の 研 究 事 例 」 と し て 紹 介 さ

れ て い る ( 前 掲 論 文 一 〇 二 頁 以 下 参 照 ) 。

( 19 ) 具 体 的 に は 、 注 17 で 紹 介 し た ハ ン チ ュ ー

ガ イ ド ラ イ ン が 改 訂 さ れ 、 ハ ン チ ュ ー 委 員

会 の 新 設 が 明 記 さ れ た 。

( 20 ) む し ろ 、 ア メ リ カ 政 府 は 日 系 人 に よ る ス

パ イ 活 動 や 妨 害 活 動 が 一 つ も 報 告 さ れ て お

ら ず 、 強 制 収 容 政 策 に 軍 事 的 必 要 性 が 無 い

こ と を 知 っ て い な が ら 、 裁 判 所 に は そ の 事

実 を 意 図 的 に 報 告 し な か っ た と さ れ て い る 。

そ れ を 裏 づ け る 資 料 の 存 在 が 明 ら か に な っ

た こ と が 、 三 人 に 再 審 無 罪 の 判 決 が 下 さ れ

た 一 つ の 大 き な 要 因 と さ れ て い る 。

( 21 ) 二 〇 〇 七 年 一 月 に 国 連 人 権 理 事 会 で 採 択

さ れ た 『 テ ロ 対 策 に お け る 人 権 及 び 基 本 的

自 由 の 促 進 及 び 保 護 に 関 す る 特 別 報 告 者 に

よ る 報 告 書 』 参 照 。

  「 ( 民 族 、 出 身 国 及 び 宗 教 に 基 づ く ) 過 度 に 広

汎 な テ ロ リ ス ト の プ ロ フ ィ ー ル は 、 警 察 機

構 に 多 大 な 負 荷 を 掛 け る 可 能 性 が あ る こ と

に 懸 念 を 有 す る 。 プ ロ フ ィ ー ル が 広 汎 に な

れ ば な る ほ ど 、 警 察 が 容 疑 の あ る 者 と し て

取 り 扱 う 者 の 人 数 は 多 く な る が 、 こ れ ら の

者 の ほ と ん ど が 何 ら の 危 険 を 有 し て い な い

こ と に な る 。 結 果 と し て 、 重 要 な 警 察 の リ

ソ ー ス が 、 他 の よ り 有 益 な 業 務 か ら 奪 わ れ

て し ま う こ と に な る … … ( 結 局 ) 民 族 、 出 身

国 又 は 宗 教 に 基 づ く プ ロ フ ァ イ リ ン グ は 、

適 切 で も 効 果 的 で も な い 一 方 、 具 体 的 な 結

果 を も た ら す こ と な く 、 何 千 人 も の 嫌 疑 の

な い 者 に 影 響 を 与 え る も の で あ っ て 、 テ ロ

対 策 と し て 相 当 性 を 欠 く 」 と さ れ て い る 。

( 22 ) 前 掲 ブ レ ナ ン セ ン タ ー 報 告 書 参 照 。 ム ス

リ ム コ ミ ュ ニ テ ィ と 良 好 な 関 係 を 構 築 す る

こ と は テ ロ 対 策 に と っ て 最 も 重 要 で あ る と

し ば し ば 指 摘 さ れ て い る 。 あ る 研 究 機 関 の

研 究 に よ れ ば 「 テ ロ リ ス ト が 所 属 し て い た

コ ミ ュ ニ テ ィ に よ る 報 告 に よ り 四 〇 % の テ

ロ 計 画 を 阻 止 す る こ と が で き た 」 と さ れ る 。

( 23 ) 二 〇 〇 六 年 四 月 四 日 付 ド イ ツ 連 邦 憲 法 裁

判 所 判 決 ( い わ ゆ る ラ ス タ ー 判 決 ) 。 な お 、

三 万 二 〇 〇 〇 人 が 詳 細 に 調 査 さ れ た が 、 一

つ の テ ロ 行 為 の 端 緒 の 発 見 に も 至 ら な か っ

た と さ れ て い る 。

( 24 ) 冒 頭 に 紹 介 し た ミ ノ ル ・ ヤ ス イ 氏 、 ゴ ー

ド ン ・ ヒ ラ バ ヤ シ 氏 、 そ し て フ レ ッ ド ・ コ レ

マ ツ 氏 を そ れ ぞ れ 父 に 持 つ 三 人 の 日 系 人 が 、

ハ ッ サ ン 事 件 を 審 理 し た 裁 判 所 に 対 し 、 ア ミ

カ ス ・ ブ リ ー フ と 呼 ば れ る 意 見 書 を 提 出 し て

い る 。 彼 ら は 、 裁 判 所 に 対 し 、 七 〇 年 前 と 同

じ 過 ち を 犯 す べ き で は な い と 訴 え て い た 。

http://ccrjustice.org/sites/default/files/assets/Hassan%20-%20Amicus%20Brief%20of%20Korematsu%20et%20al.pdf

市 民 に 被 害 が 発 生 す る こ と を 防 止 す る と い

う 目 的 に よ る も の で あ り 、 イ ス ラ ム 教 徒 の

精 神 的 ・ 宗 救 的 側 面 に 容 か い す る 意 図 に よ

る も の で は な い 」 と し た 上 で 、 「 あ る 者 が 平

穏 な イ ス ラ ム 教 徒 で あ る か 、 あ る い は イ ス

ラ ム 過 激 派 に 属 す る テ ロ リ ス ト か を 見 極 め

る た め に は 、 そ の 者 の 宗 教 的 儀 式 へ の 参 加

の 有 無 、 教 育 活 動 へ の 参 加 の 有 無 、 そ の 者

が 宗 教 的 な コ ミ ュ ニ テ ィ の 中 で 、 い か な る

立 場 に あ る か と い っ た 外 形 的 側 面 か ら う か

が わ れ る 諸 般 の 事 情 か ら の 推 測 に よ ら ざ る

を 得 な い 」 と し て 監 視 を 正 当 化 し た 。

( 14 ) も ち ろ ん 動 機 が 差 別 的 で あ る 場 合 に は 違

憲 の 可 能 性 が 飛 躍 的 に 高 く な る と い う 点 で 、

動 機 の 有 無 を 問 う こ と に 意 味 は あ る 。 こ こ

で 重 要 な 点 は 、 動 機 が 要 件 で は な い こ と が

明 確 に さ れ た こ と で あ る 。

( 15 )Faiza Patel, Rethinking Radicalization,

  https://www.brennancenter.org/sites/default/files/legacy/RethinkingRadicalization.pdf

( 16 ) ラ ザ 事 件 に つ い て は 、 以 下 の サ イ ト で 全

て の 訴 訟 資 料 に ア ク セ ス す る こ と が で き る 。

ま た 、 ま た 和 解 条 項 に 関 す る Q & A や 担 当

弁 護 士 の 解 説 記 事 も 掲 載 さ れ て い る 。

  https://www.aclu.org/cases/raza-v-city-new-york-legal-challenge-nypd-muslim-surveillance-program

( 17 ) な お 、 関 連 事 件 と し て ハ ン チ ュ ー 対 ス ペ

シ ャ ル ・ サ ー ビ ス ズ ・ デ ィ ビ ジ ョ ン が あ る 。

一 九 七 一 年 、 ニ ュ ー ヨ ー ク 市 警 が 表 現 の 自

由 な ど を 侵 害 し て い た こ と を 理 由 と し て 、

ハ ン チ ュ ー 氏 ら を 原 告 と す る ク ラ ス ア ク シ

ョ ン 訴 訟 が 提 起 さ れ た ( ハ ン チ ュ ー 事 件 ) 。

一 九 八 五 年 、 こ の 訴 訟 の 和 解 内 容 と し て ハ

ン チ ュ ー ガ イ ド ラ イ ン が 策 定 さ れ 、 ニ ュ ー

の 判 断 は 、 国 ご と に 異 な る 司 法 制 度 や 警

察 組 織 と い っ た 形 式 に 左 右 さ れ る も の で

は な く 、 多 く の 国 が 理 念 と し て 掲 げ る 自

由 や 平 等 と い っ た 普 遍 的 な 価 値 に 根 ざ し

て い る 。

「 本 件 で 見 か け 上 起 き て い る こ と は 新

し い も の で は な い 。 我 々 は こ れ ま で も

同 じ よ う な 道 を 歩 ん で き た 。 赤 狩 り の

時 代 の ユ ダ ヤ 系 ア メ リ カ 人 、 公 民 権 運

動 の 時 代 の ア フ リ カ 系 ア メ リ カ 人 、 そ

し て 第 二 次 大 戦 の 時 代 の 日 系 ア メ リ カ

人)25(

た ち は 、 我 々 の 中 に 着 実 に 記 憶 さ れ

て い る 。 後 に な れ ば 明 ら か な 誤 り を 、

な ぜ 事 前 に 判 断 す る こ と が で き な い の

か 、 不 思 議 と い う ほ か な い 」 ( ハ ッ サ ン

事 件 ・ 判 決 文 )

  こ れ か ら も 国 の 治 安 を 守 る た め 、 警 察

は 様 々 な テ ロ 対 策 を 実 施 す る だ ろ う 。 も

し そ の プ ロ グ ラ ム が 宗 教 や 人 種 を 要 素 と

し て い る と き に は 、 是 非 こ の 二 つ の 事 件

を 思 い 出 し て ほ し い 。 き っ と 「 後 に な れ

ば 明 ら か な 誤 り 」 を 事 前 に 見 抜 く こ と が

で き る は ず だ 。

( 1 ) お よ そ 三 分 の 一 が 一 世 で 、 残 り が 二 世 だ

っ た 。 多 く は ア メ リ カ 市 民 で あ り 、 第 一 次

大 戦 の 退 役 軍 人 も 含 ま れ て い た 。 詳 細 は 、

National Japanese American Memorial Fundation

の ウ ェ ブ サ イ ト (http://www.njamf.com/ ) な

ど を 参 照 さ れ た い 。 な お 、 ワ シ ン ト ン の 連

邦 議 事 堂 ( キ ャ ピ ト ル ・ ヒ ル ) の 近 く に は 、

有 刺 鉄 線 に 縛 ら れ た 二 匹 の 鶴 の 像 を 数 十 本

の 桜 の 木 が 囲 む 荘 厳 な メ モ リ ア ル が あ る 。

( 2 ) 強 制 移 住 を 命 じ ら れ た 日 系 人 に 一 人 当 た

り 二 万 ド ル が 支 給 さ れ た 。

( 3 )http://blog.sfgate.com/politics/2015/10/30/scalias-favorite-opinion-you-might-be-surprised/

( 4 ) コ レ マ ツ 事 件 は ア メ リ カ の 最 重 要 判 例 の

一 つ で あ る 。 た と え ば USA Today 紙 は 歴 史 上

の 二 一 大 重 要 事 件 の 一 つ に 含 め て い る

(h t t p : / / w w w. u s a t o d a y. c o m / s t o r y / n e w s /politics/2015/06/26/supreme-court-cases-history/29185891/ ) 。

( 5 ) 詳 細 は 、 弁 護 団 の 河 﨑 健 一 郎 弁 護 士 に よ

る 『 公 安 捜 査 資 料 の ネ ッ ト 流 出 事 件 は 私 た ち

に 何 を 教 え る か 』 α シ ノ ド ス 二 〇 一 四 年 四 月

二 〇 日 掲 載 (http://bylines.news.yahoo.co.jp/kawasakikenichiro/20140530-00035836/ に 転 載 )

や 、 拙 稿 『 認 め ら れ な か っ た 違 法 捜 査 』 世 界

二 〇 一 四 年 三 月 号 を 参 照 さ れ た い 。

( 6 ) 二 〇 一 〇 年 一 〇 月 に 生 じ た い わ ゆ る 公 安

情 報 流 出 事 件 を 契 機 と し て 、 テ ロ と 関 係 が

あ る か の よ う な 捜 査 情 報 を 流 出 さ れ た 一 七

名 の ム ス リ ム ら が 、 国 と 東 京 都 を 被 告 と し

て 国 家 賠 償 訴 訟 を 提 起 し た 事 件 。

( 7 ) 詳 細 は 判 例 時 報 二 二 一 五 号 三 〇 頁 以 下 、

判 例 タ イ ム ズ 一 四 二 〇 号 二 六 八 頁 以 下 ( い

ず れ も 一 審 判 決 ) や 、 渡 辺 康 行 『 「 ム ス リ ム 捜

査 事 件 」 の 憲 法 学 的 考 察 』「 自 由 の 法 理 ( 阪 本

昌 成 先 生 古 稀 記 念 論 文 集 ) 九 三 七 頁 以 下 な ど

参 照 。 弁 護 団 ウ ェ ブ サ イ ト (http://k-bengodan.jugem.jp/ ) で も 適 宜 情 報 を 発 信 し て い る 。

( 8 )http://www.ap.org/Index/AP-In-The-News/NYPD

( 9 ) 流 出 資 料 の 詳 細 は 、 注 5 で 紹 介 し た 河 﨑

弁 護 士 の 論 考 を 参 照 さ れ た い 。

( 10 ) な お 、 警 察 庁 長 官 官 房 参 事 官 ( 当 時 ) の

松 本 裕 之 氏 は 、 二 〇 一 二 年 七 月 に 発 表 さ れ

た 「 ム ス リ ム の 過 激 化 対 策 を 考 え る 」 と い

う 論 文 の 中 で 、 多 く の 紙 幅 を 割 い て ニ ュ ー

ヨ ー ク 市 警 の 施 策 を 紹 介 し て い る 。 松 本 裕

之 「 ム ス リ ム の 過 激 化 対 策 を 考 え る 」 警 察

学 論 集 代 六 五 巻 七 号 九 四 頁 以 下 参 照 。

( 11 ) ハ ッ サ ン 事 件 に つ い て は 、 以 下 の サ イ ト で

全 て の 訴 訟 資 料 に ア ク セ ス す る こ と が で き

る 。http://ccrjustice.org/home/what-we-do/our-cases/hassan-v-city-new-york

( 12 ) 二 〇 一 四 年 二 月 二 〇 日 、 ニ ュ ー ジ ャ ー ジ

ー 地 区 連 邦 地 方 裁 判 所 の マ ル テ ィ ニ 裁 判 官

は 、 ス タ ン デ ィ ン グ と い う 訴 訟 法 上 の 要 件

を 欠 く と し て 、 プ ロ グ ラ ム が 違 憲 か ど う か

の 審 査 を せ ず 原 告 ら の 訴 え を 却 下 し た 。 い

わ ば 門 前 払 い で あ る 。

  http://ccrjustice.org/sites/default/files/assets/Hassan_40.OpinionGrantingDefsMTD.pdf

( 13 ) な お 、 こ の 判 断 は 東 京 地 方 裁 判 所 の 判 断

内 容 と 瓜 二 つ で あ る 。 東 京 地 裁 は 、 日 本 の

警 察 に よ る ム ス リ ム 監 視 活 動 に つ い て 、 「 イ

ス ラ ム 教 徒 の 信 仰 そ れ 自 体 の 当 否 を 問 題 視

し て い る こ と に 由 来 す る も の で は な く … …

イ ス ラ ム 過 激 派 に よ る 国 際 テ ロ を 事 前 に 察

知 し て こ れ を 未 然 に 防 ぐ こ と に よ り 、 一 般

25