13
分離工学演習8「固液分離」 1 分離工学演習8「固液分離装置の設計(続)」 1.ケーク濾過機 濾過は、濾布、金網、膜、粒子充填層などの濾材を用いてスラリー(懸濁液)を湿潤固体と液体に分 離する機械的分離操作である。スラリーの固体濃度が 1 vol%以上の場合、濾材面上にケーク(濾滓、ろ さい)と呼ばれる湿潤固体層が形成され、ケーク自体が濾材の役割を果たす。このような濾過をケーク 濾過といい、固体または液体、あるいはその両方の回収が目的となる。スラリーの固体濃度が 0.1 vol% 以下の希薄条件となる場合、固体粒子が濾材の内部で捕捉され、ケークはほとんど形成されない。この ような濾過を濾材濾過または内部濾過といい、清澄液の回収が目的となる。ケーク濾過機は、(ア)重力 濾過機、(イ)加圧濾過機、(ウ)真空濾過機の3つに分類され、薬品、染料、水処理、製紙、食品等、 幅広い分野で用いられている。ただし、重力濾過機は、工業的にあまり用いられていない。フィルター プレス(圧濾機)は、代表的な回分式加圧濾過機である。濾板と濾枠の間に濾布を挟んで交互に並べ、 締め付ける。濾板と濾枠に囲まれて形成される空間(濾室)内に原液のスラリーを圧入し、濾過する。 濾室内がケークで充満したら、ケークを洗浄後、締め付けを緩めてケークを排出する。回転円筒型真空 濾過機は、代表的な連続式真空濾過機である。ドラムと呼ばれる円筒を横倒して一部を原液槽に浸し、 ドラムを 0.33 rpm 程度で緩やかに回転させる。ドラム表面に張られた濾布を介して連続的に濾過が行 われ、続いてケークの洗浄、脱水、排出が1回転する内に順次行われる。ドラムの周囲は、仕切り板に よって、複数の小さな濾室に分割されている。中央の自動切替弁によって、濾過、洗浄、脱水の各区間 に連結する濾室は真空状態となり、ケーク排出の区間に連結する濾室は加圧状態となる。ケークの排出 機構については、複数の型式がある。スクレーパー(かき取り機)によって濾布上のケークをはぎ取る スクレーパー式が一般的であり、この型式の円筒濾過機は、オリバーフィルタと呼ばれている。

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分離工学演習8「固液分離」

1

分離工学演習8「固液分離装置の設計(続)」

1.ケーク濾過機

濾過は、濾布、金網、膜、粒子充填層などの濾材を用いてスラリー(懸濁液)を湿潤固体と液体に分

離する機械的分離操作である。スラリーの固体濃度が 1 vol%以上の場合、濾材面上にケーク(濾滓、ろ

さい)と呼ばれる湿潤固体層が形成され、ケーク自体が濾材の役割を果たす。このような濾過をケーク

濾過といい、固体または液体、あるいはその両方の回収が目的となる。スラリーの固体濃度が 0.1 vol%

以下の希薄条件となる場合、固体粒子が濾材の内部で捕捉され、ケークはほとんど形成されない。この

ような濾過を濾材濾過または内部濾過といい、清澄液の回収が目的となる。ケーク濾過機は、(ア)重力

濾過機、(イ)加圧濾過機、(ウ)真空濾過機の3つに分類され、薬品、染料、水処理、製紙、食品等、

幅広い分野で用いられている。ただし、重力濾過機は、工業的にあまり用いられていない。フィルター

プレス(圧濾機)は、代表的な回分式加圧濾過機である。濾板と濾枠の間に濾布を挟んで交互に並べ、

締め付ける。濾板と濾枠に囲まれて形成される空間(濾室)内に原液のスラリーを圧入し、濾過する。

濾室内がケークで充満したら、ケークを洗浄後、締め付けを緩めてケークを排出する。回転円筒型真空

濾過機は、代表的な連続式真空濾過機である。ドラムと呼ばれる円筒を横倒して一部を原液槽に浸し、

ドラムを 0.3~3 rpm 程度で緩やかに回転させる。ドラム表面に張られた濾布を介して連続的に濾過が行

われ、続いてケークの洗浄、脱水、排出が1回転する内に順次行われる。ドラムの周囲は、仕切り板に

よって、複数の小さな濾室に分割されている。中央の自動切替弁によって、濾過、洗浄、脱水の各区間

に連結する濾室は真空状態となり、ケーク排出の区間に連結する濾室は加圧状態となる。ケークの排出

機構については、複数の型式がある。スクレーパー(かき取り機)によって濾布上のケークをはぎ取る

スクレーパー式が一般的であり、この型式の円筒濾過機は、オリバーフィルタと呼ばれている。

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分離工学演習8「固液分離」

2

図1 フィルタープレス(写真提供 株式会社 石垣)

図2 オリバーフィルタ(写真提供 株式会社 石垣)

2.定圧濾過速度(ケーク濾過)

濾過速度 u [m/s]は、濾過圧力 p [Pa]に比例し、ケーク抵抗 Rc [1/m]と濾材抵抗 Rm [1/m]の和、ならびに

濾液の粘度 μ [Pa・s]に反比例することから、次式で表される。

c m

1 d Δd ( )V pu

A R R …(2.1)

ただし、A は濾過面積[m2]、V は濾液量[m3]、θは濾過時間[s]。

ケーク抵抗 Rc [1/m]は、ケークの堆積量の増大に伴い次第に増加することから、湿潤ケークに含まれる固

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分離工学演習8「固液分離」

3

体質量 Wc [kg]に比例し、濾過面積 A [m2]に反比例する。

cc

WRA

…(2.2)

ただし、αは平均濾過比抵抗[m/kg]。

濾材を平均濾過比抵抗 α [m/kg]と等しい抵抗をもつ仮想的なケークに置き換えると、濾材抵抗 Rm [1/m]

は、仮想ケークに含まれる固体質量 Wm [kg]に比例し、濾過面積 A [m2]に反比例する。

mm

WRA

…(2.3)

式(2.2)と式(2.3)を式(2.1)に代入すると、次式を得る。

c m

1 d Δd ( )V A pu

A W W …(2.4)

湿潤ケーク中の固体質量 Wc [kg]は、濾過の進行に伴い変化することから、測定が困難である。そこで、

Wc [kg]を、測定可能な濾液量 V [m3]で表すことを考える。原料スラリーが湿潤ケークと濾液に分離され

ることを踏まえた上で、濾過前後の物質収支式は、次式で表される。

c cW s mW V …(2.5)

ただし、s はスラリー中の固体質量分率(スラリー濃度)[kg-solid/kg-slurry]、m はケーク湿乾質量比[kg-wet

cake/kg-dry cake](乾燥ケーク質量に対する湿潤ケーク質量の比)、ρは濾液密度[kg/m3]。

式(2.5)において、左辺はスラリー質量、右辺第一項は湿潤ケーク質量、第二項は濾液質量を表す。

式(2.5)の Wcについて整理すると、次式を得る。

c 1sVWms

…(2.6)

上式において、希薄スラリーの場合、近似式 1-ms≒1 が成り立つ。

濾過後の湿潤ケークは、乾燥ケークとケーク内の粒子間隙に含まれる液体(間隙水)の混合物であるこ

とから、湿潤ケークの質量は、次式で表される。

c s(1 )AL AL AL …(2.7)

ただし、L はケーク厚み[m]、εは空隙率[-]、ρcは湿潤ケーク密度[kg/m3]、ρs は固体密度[kg/m3]。

式(2.6)と式(2.7)の右辺第一項は同義であることから、両者を等置すると、ケーク厚み L [m]を得る。

s (1 )(1 )

s VLms A

…(2.8)

ケーク湿乾質量比 m [kg-wet cake/kg-dry cake]は、湿潤ケーク質量と乾燥ケーク質量の比をとることで、粒

子特性を含む次式で表される。

s

s s

(1 )1

(1 ) (1 )AL ALm

AL …(2.9)

式(2.7)と式(2.9)を用いて εを消去すると、次式を得る。

c s

1 1m m …(2.10)

上式は、湿潤ケーク体積が乾燥ケーク体積と間隙水体積の和で表されることを表している。ただし、各

項は、単位乾燥ケーク質量当たりの量で与えられている。

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分離工学演習8「固液分離」

4

仮想ケーク中の固体質量 Wm [kg]は、式(2.6)と同様の式で得られる。

mm 1

sVWms

…(2.11)

ただし、Vmは仮想的な濾液量[m3]。

式(2.6)と上式を式(2.4)に代入して整理すると、Ruth の濾過速度式を得る。

m

1 d Δ (1 )d ( )V A p msu

A s V V …(2.12)

非圧縮性ケークの定圧濾過( p 一定)において、平均濾過比抵抗 α [m/kg]とケーク湿乾質量比 m [kg-wet

cake/kg-dry cake]を一定と仮定して上式を境界条件(θ=0 のとき V=0、θ=θのとき V=V)の下で積分すると、

Ruth の定圧濾過式(Ruth の濾過方程式)を得る。

m1 2V V

V K K …(2.13) あるいは 2

m2V VV K …(2.14)

22 Δ (1 )A p msKs

…(2.15)

ただし、K は Ruth の定圧濾過係数[m6/s]。

式(2.13)または式(2.14)より、濾過時間 θ [s]が導かれる。

2

m2V VVK

…(2.16) あるいは 2

m2

2V VVkA

2Δ (1 )p msks

…(2.17)

ただし、k は Ruth の定圧濾過係数[m2/s]。

仮想的な濾液量 Vm [m3]を得るのに要する仮想的な濾過時間 θm [s]を用いて式(2.14)を書き直すと、Ruth の

定圧濾過式(Ruth の濾過方程式)は、次式で表される。

2m m( ) ( )V V K 2

m mV K …(2.18)

あるいは

2m

m( )VV kA A

2 2m mV kA …(2.19)

式(2.15)を用いて式(2.12)を書き直すと、Ruth の定圧濾過速度式を得る。

m

dd 2( )V K

V V …(2.20)

定圧濾過試験データを式(2.13)または式(2.20)を逆数で表した式(dθ/dV)に当てはめることで、濾過係数 K

[m6/s]および仮想濾液量 Vm [m3]を得る(Ruth plot)。さらに、これらを式(2.15)に代入すると、平均濾過比

抵抗 α [m/kg]が求められる。

3.回分定圧濾過機(フィルタープレス)の設計

原料スラリーの処理量 Vsl [m3-slurry]は、スラリーの質量 Wsl [kg-slurry]および密度 ρsl [kg-slurry/m3-slurry]

の比で表される。

slsl

sl

WV …(3.1)

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分離工学演習8「固液分離」

5

V [m3]x1030.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0

/V [s

/m3 ]x

10-3

5

10

15

20

25

30

35

図3 Ruth plot の例

上式において、スラリーの処理質量 Wslは、次式で表される。

csl

WWs

…(3.2)

ただし、s はスラリー濃度 [kg-solid/kg-slurry]、Wc は湿潤ケーク中の固体質量[kg-solid]。

湿潤ケーク中の固体質量 Wc は、次式で与えられる。

c c s(1 )W V …(3.3)

ただし、Vcは湿潤ケークの体積[m3-wet cake]、εは空隙率[-]、ρs は固体密度(粒子密度)[kg/m3]。

ケークが濾室内を満たすまでスラリーを濾過するときのケーク体積 Vc は、濾枠の全体積に等しいことか

ら、次式で表される。

c f f f f 2V A L N A A   …(3.4)

ただし、A は濾枠1枚あたりの濾過面積[m2]、Af は濾枠面積[m2]、Lf は濾枠厚み[m]、Nf は濾枠枚数[-]。

濾枠面積 Afが濾過面積 A の半分になる理由は、濾枠の両側に濾板があるためである(濾板の表面と裏面

の両方の面積を足し合わせたものが濾過面積となる)。

式(3.1)において、スラリーの密度 ρslは、次式で表される。

slsl

sl sl

s

(1 )W

W s W s …(3.5)

ただし、ρは濾液密度[kg/m3]。

濾過時間 θ [s]は、Ruth の定圧濾過式より次式で与えられる。 2

m2V VVK

22 Δ (1 )A p msK

s …(2.16)

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分離工学演習8「固液分離」

6

濾過速度式(2.1)において、濾材の抵抗係数 Rmを無視すると、Ruth の定圧濾過式は、次式のように書き

換えられる。

c

1 d ΔdV pu

A R …(3.6)

2V K 22 Δ (1 )A p msK

s …(3.7)

濾過操作以外の作業(濾枠の開閉、ケークの排出、濾布の洗浄)に要する時間を θd [s]とおくと、濾過操

作1回あたりの平均濾過速度 uav [m/s]は、次式で表される。

avd

V Au …(3.3)

式(3.7)を上式に代入して時間 θ を消去し、濾液量 V に関する微分の式を 0 とおいて極大値を求めると、

次式のようになる。

av2

d

d d 0d du V AV V V K

…(3.8)

2 2d dav

2 22d d

( ) ( )d d 0d d

V A V K V A V Ku V AV V V K V K

…(3.9)

2avd

d (1 ) ( ) 2 0du A V K V A V KV

…(3.10)

2 2avd

d 2 0du V K V KV

…(3.11)

2d V K …(3.12)

式(3.7)を用いると、次式が導かれる。

d …(3.13)

上式は、濾過時間 θが作業時間 θd に等しいとき、濾過速度 uavが最大値をとることを意味する。

4.連続定圧濾過機(オリバーフィルタ)の設計

円筒濾過面積 A [m2]のうち浸液率 F [-]の割合だけスラリーに浸かっているとき、実際の濾過面積は

AF [m2]に相当する。このとき、円筒ドラム1回転あたりの濾過時間 θは、Ruth の定圧濾過式(2.17)を用い

て次式で与えられる。

2

m2

2( )

V VVk AF

2Δ (1 )p msk

s …(4.1)

ただし、k は Ruth の定圧濾過係数[m2/s]。

仮想的な濾液量 Vmについて、式(2.3)と式(2.11)より仮想ケークに含まれる固体質量 Wmを消去し、式(4.1)

における定圧濾過係数 k の定義式を用いると、次式で表される。

mm

WRAF

…(2.3)’

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分離工学演習8「固液分離」

7

mm 1

sVWms

…(2.11)

m mm

(1 )2Δ

ms AFR AF kRVs p

…(4.2)

上式を式(4.1)に代入すると、濾過時間 θは、次式で表される。

2

m2

1 22Δ( )

AF kRV Vk AF pk AF

…(4.3)

2

m1ΔRV V

k AF p AF …(4.4)

円筒ドラムの回転数が N [s-1]のとき、濾過時間 θは F/N で表されることから、単位時間当たりに得られ

る濾液量(濾液流量)V [m3/s]は、次式で表される。

V VV

F N …(4.5)

上式を式(4.4)に代入して濾液量 V を消去すると、次式が導かれる。

2m1 ( ) ( )

ΔRV F N V F N

k AF p AF …(4.6)

m1ΔRV V

AN k AN p …(4.7)

m1( ) Δ

RF V F NV A kN A p

   …(4.8)

5.遠心沈降速度

①遠心効果 質量 m [kg]の粒子が半径 r [m]の円周上を角速度 ω [rad/s]で円運動するとき、粒子に作用す

る遠心力 F [N]は、次式で表される。

2F mr …(5.1) 角速度 ω [rad/s]は、遠心分離機の回転数 n [rpm](revolution per minute = [1/min])を用いて次式で表される。

2 [rad] 2

(1/ )[min] 60[s/ min] 60n

n …(5.2) (角速度)=(一周の角度)÷(一周に要する時間)

遠心効果 Z [-]は、遠心分離機の性能を示す目安であり、重力に対する遠心力の比で定義される。

2 2mr rZ

mg g …(5.3)

g は重力加速度[m/s2]。

式(5.2)を式(5.3)に代入すると、次式を得る。

2 2(2 /60)

900r n rnZ

g …(5.4) (一般に、Z=1000~50000)

②遠心力場における粒子の運動 回転軸中心より r [m]の位置で沈降している単一粒子に作用する遠心力

Fc [N]は、次式で表される。

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分離工学演習8「固液分離」

8

2c ( )F m m r …(5.5)

m′は粒子が排除する液体の質量[kg]。

いま、粒子を球形と仮定し、粒子径を Dp [m]、密度を ρp [kg/m3]とする。液体の密度を ρf [kg/m3]とおくと、

式(5.5)は、次式のように書き換えられる。

3p 2

c p f( )6D

F r …(5.6)

Stokes 域を仮定するとき、沈降粒子に作用する抵抗力 R [N]は、次の Stokes の抵抗則で与えられる。 p rel3R D u …(5.7)

μは液体の粘度[Pa・s]、urelは粒子と流体の相対速度[m/s]。

式(5.6)と(5.7)を等置すると、Stokes 域における遠心沈降速度(遠心力場での自由沈降時終末速度)ucS [m/s]

を得る。

2 2p p f

cS tS( )

18D r

u Zu (Stokes 域)…(5.8) ただし 2p p f

tS( )

18D g

u …(5.9)

utS は重力場における Stokes 域での自由沈降時終末速度[m/s]。

同様にして、Newton 域における遠心沈降速度(遠心力場での自由沈降時終末速度)ucN [m/s]を得る。

2p p f

cN tNf

3 ( )D ru Zu (Newton 域)…(5.10) ただし

p p ftN

f

3 ( )D gu …(5.11)

utN は重力場における Newton 域での自由沈降時終末速度[m/s]。

式(5.8)と(5.10)より、微粒子(Stokes 域)の場合は遠心効果 Z の 1 乗に、粗粒子(Newton 域)の場合は

0.5 乗にそれぞれ比例することから、粒径が小さいほど遠心効果が有効に働く。

式(5.8)と(5.10)は、懸濁粒子濃度が希薄の場合(自由沈降を仮定できる場合)に用いることができる。懸

濁粒子濃度が濃厚の場合、自由沈降時終末速度 ut [m/s]の代わりに、次式で定義される干渉沈降時終末速

度 ut′ [m/s]を用いる。

tt ( )

uuF

…(5.12)

0.55 ≤ ε ≤ 1 のとき 4.65( )F …(5.13)

0.3 ≤ ε ≤ 0.75 のとき 3( ) 6(1 )F …(5.14)

0.3 ≤ ε ≤ 0.7 のとき 1.82(1 ) 2( ) 0.75 10F …(5.15)

ただし s p

s

V VV

…(5.16)

F(ε) は空間率関数[-]、εは空隙率[-]、Vpは固体粒子の体積[m3]、Vs は懸濁液の体積[m3]。

③回転液体が器壁に与える圧力 回転軸の中心より r [m]の位置にお

いて、厚さ dr [m]、高さ dz [m]からなる環筒状液体が回転している。(1)

液体と容器は同一速度で回転し、両者の間には摩擦が無いこと、(2)

液体の重力を無視すること、を仮定するとき、液体に作用する力のつ

り合いは、次式で表される。

2 2 2f(2 d ) [ {( d ) }d ] {2 ( d )d }( d )r z p r r r z r r r z p p …(5.17)

r dr

空隙

液体

p p+dpdz

ω

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分離工学演習8「固液分離」

9

式(5.16)において、左辺第一項は液体内面の受ける圧力、第二項は液体の受ける遠心力、右辺は液体外面

の受ける圧力を表す。

式(5.16)を微小圧力 dp [Pa]について整理し、境界条件(p=p1 のとき r=r1(液体内面)、p=p2のとき r=r2(器

壁))の下で積分すると、回転液体が器壁に与える圧力 p [Pa]は次式のように導かれる。

2f(2 d ) (2 d d ) (2 d )( d )r z p r r z r r z p p …(5.18)

2 2

1 1

2fd d

p r

p rp r r …(5.19)

2

2 2f2 1 2 1Δ ( )

2p p p r r …(5.20) あるいは 2 2f

2 1 2 1Δ ( )2

p p p u u …(5.21)

ただし、式(5.21)の導出において、円運動する物体の周速 u=rωの関係式を用いた。

6.円筒型遠心沈降機(シャープレス遠心機)の設計

①分離限界粒子径 沈降領域の有効容積 V [m3]、長さ L [m]、遠心力のために生じる円筒中空部半径 r1 [m]、

内半径 r2 [m]の円筒型遠心沈降機を考える。固体粒子を含む懸濁液が沈降機底部より流量 Q [m3/s]で給液

され、固体粒子は速度 ur [m/s]で回転円筒内を軸方向に上昇するとともに、遠心力を受けて半径方向(器

壁方向)へ沈降する。固体粒子が液体から完全に分離されるには、粒子の沈降に要する時間 θS [s]が、回

転円筒内に滞留する時間(粒子が上昇しきるまでに要する時間)θL [s]と比較して短ければよいことから、

完全分離条件は次式で表される。

2 1S L

c c r

r r H L Vu u u Q

…(6.1) ただし 2 1H r r  …(6.2)

c

H Vu Q

…(6.3)

uc は遠心力場における自由沈降時終末速度[m/s]、H は沈降距離[m]。

式(5.8)または式(5.9)を用いて式(6.3)を給液量 Q [m3/s]について整理すると、次式が導かれる。

c t tV ZVQ u u u SH H

…(6.4) ただし ZVSH

…(6.5)

tQ u S …(6.6)

S は遠心沈降面積[m2]、ηは分離性能因子[-](η≤1)。

η=1 を仮定するとき、Stokes 域または Newton 域における自由沈降時終末速度 utを用いて式(6.6)を粒子径

Dp [m]について整理すると、分離限界粒子径 Dp,min [m]が導かれる。

p.minp f

18( )

QDgS

(Stokes 域)…(6.7) あるいは 2

fp,min 2

p f3( )QD

gS(Newton 域)…(6.8)

②給液量および遠心沈降面積 軸方向に z 軸、半径方向に r 軸をとると、それぞれの方向における粒子の

移動速度は、次式で表される。

2

tSdd

r rug

(Stokes 域)…(6.9) あるいは 2

tNdd

r rug

(Newton 域)…(6.10)

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分離工学演習8「固液分離」

10

2 22 1

dd ( )

z Qr r

…(6.11)

θは時間[s]。

Stokes 域の場合、式(6.9)と(6.11)を用いて時間 θを消去し、境界条件(r=r1

のとき z=0、r=r2 のとき z=L)の下で積分すると、給液量 Q [m3/s]は次式の

ように導かれる。

22 2

tS2 1( )dd

u rr rrz Q g

…(6.12)

2

1

2 2 22 1 tS

0

( )d dr L

r

r r ur zr Qg

…(6.13)

2 2 2

2 1 tS

2

1

( )

ln

L r r uQ rgr

(Stokes 域) …(6.14) あるいは

2 2tS 2 1 2 1

tS lm m2

1

2 22ln

Lu r r r r LQ u r rrg gr

(Stokes 域) …(6.15)

rlmは対数平均[m]、rmは算術平均[m]。

式(6.15)を式(6.6)に代入すると、遠心沈降面積 S [m2]を得る。

2

lm m2 LS r r

g(Stokes 域) …(6.16) ただし η=1

Newton 域の場合、式(6.10)と(6.11)を用いて時間 θを消去し、境界条件(r=r1のとき z=0、r=r2 のとき z=L)

の下で積分すると、給液量 Q [m3/s]は次式のように導かれる。 2 2 2

2 1 tN( )dd

r r ur rz Q g

…(6.17)

2

1

1/22 2 1/2 02 1 tN

1 1d d( )

r L

rr r z

r r u Qg …(6.18)

2 2

2 1tN 1/2 1/2 1/2

2 1

( )2 ( )

L r rQ ug r r

(Newton 域) …(6.19) あるいは

1/2 1/21/22 1 2 1

tN tN m m1/2 1/224 ( )

2 22r r r rL LQ u u r r

g g(Newton 域) …(6.20)

式(6.20)を式(6.6)に代入すると、遠心沈降面積 S [m2]を得る。

1/2m m1/2

2 ( )LS r rg

(Newton 域) …(6.21) ただし η=1

参考文献

1)新潟大学工学部化学システム工学科編(山際和明著); 機械的分離工学, 4 章

2)吉田文武, 森 芳郎編; 詳論 化学工学Ⅰ「単位操作Ⅰ」, 朝倉書店(1962), 8 章

3)藤田重文, 東畑平一郎編; 化学工学Ⅱ(第 2 版)「機械的操作」, 東京化学同人(1972), 3.3 章

r1

r2

ω

L

Q

uc

uz 遠心沈降速度uc沈降距離(r2-r1)

z

r

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分離工学演習8「固液分離」

11

4)大山義年; 化学工学Ⅱ, 岩波書店(1963), 6.3 章

5)白戸紋平; 化学工学 機械的操作の基礎, 丸善(1980), 8.1 章

6)三輪茂雄; 粉体工学通論, 日刊工業新聞社(1981), 7.3.2 章

7)杉本泰治; 沪過 メカニズムと沪材・沪過助剤, 地人書館(1992), 3.4 章

8)入谷英司; 絵解き 濾過技術 基礎のきそ, 日刊工業新聞社(2011), 2 章

9)日本液体清澄化技術工業会編; ユーザーのための実用固液分離技術, 分離技術会(2010), 章

10)井出哲夫; 水処理工学(第 2 版), 技報堂出版(1990), 4 章

11)化学工学会編; 化学工学-解説と演習-(第 3 版), 槇書店(2006), 9.2 章

12)川瀬義矩; 環境問題を解く化学工学, 化学工業社(2001), 問題 3.9.4

13)化学装置研究会編; 化学装置・機器の基礎知識, オーム社(1991), pp.154-161

14)株式会社 石垣 カタログ(フィルタープレス ISD・ISF 型、オリバーフィルターIOF 型)

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分離工学演習8「固液分離」

12

設計問題1

炭酸カルシウムスラリーをフィルタープレスにより回分定圧濾過する。以下の設計条件でフィルタープ

レスの設計計算を行え。なお、事前に回分定圧濾過試験を行い、Ruth plot データを得ている。

濾過試験機の濾過圧力 0.276 MPa

濾過試験機の濾過面積 0.026 m2

フィルタープレスの濾過圧力 0.275 MPa

濾枠1枚あたりの濾過面積 0.87 m2

濾枠厚み 6 cm

濾枠枚数 20

スラリー濃度 7.23 wt%

ケークの単位体積当たり質量 1600 kg/m3

炭酸カルシウムの密度 2930 kg/m3

濾液の密度 998 kg/m3

濾液の粘度 0.001 Pa・s

V [m3]x1030.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0

/V [s

/m3 ]x

10-3

5

10

15

20

25

30

35

図1 Ruth plot (CaCO3 スラリー)

(1-1)空隙率 ε [-]を求めよ。

(1-2)ケーク湿乾質量比 m [kg-wet cake/kg-dry cake]を求めよ。

(1-3)Ruth plot の読みより定圧濾過係数 K [m6/s]を求めよ。

(1-4)Ruth plot の読みより仮想濾液量 Vm [m3]を求めよ。

(1-5)平均濾過比抵抗 α [m/kg]を求めよ。

(1-6)濾材抵抗 Rm [1/m]を求めよ。

濾液量V [L] 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 2.0 2.2 2.4 2.6

V [m3]×103 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 2.0 2.2 2.4 2.6濾過時間 θ [s] 1.8 4.2 7.5 11.2 15.4 20.5 26.7 33.4 41.0 48.8 57.7 67.2 77.3

θ/V [s/m3]×10-3 9.0 10.5 12.5 14.0 15.4 17.1 19.1 20.9 22.8 24.4 26.2 28.0 29.7

表 定圧濾過データ解析結果

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分離工学演習7「濾過装置」

13

(1-7)フィルタープレスのスラリー処理量 Vsl [m3]を求めよ。

(1-8)フィルタープレスの濾液量 V [m3]を求めよ。

(1-9)フィルタープレスの定圧濾過係数 K [m6/s]を求めよ。

(1-10)フィルタープレスの濾過時間 θ [min]を求めよ。

設計問題2

あるスラリーをオリバーフィルタにより連続定圧濾過する。以下の設計条件でオリバーフィルタの設計

計算を行え。なお、事前に回分定圧濾過試験を行い、濾過時間 5 分で濾液量 250 cm3、10 分で 400 cm3 の

データを得ている。

濾過試験機の濾過圧力 66.7 kPa

濾過試験機の濾過面積 0.008 m2

オリバーフィルタの濾過圧力 66.7 kPa

オリバーフィルタの回転速度 0.2 rpm

オリバーフィルタの濾液流量 2.0 m3/h

オリバーフィルタの浸液率 0.3

※rpm は、revolution per minute の略(1分間あたりの回転数)。単位は、[1/min]

(2-1)仮想濾液量 Vm [m3]を求めよ。

(2-2)定圧濾過係数 k [m2/s]を求めよ。

(2-3)回分定圧濾過試験における濾材抵抗 Rmを p/μ の関数式で表せ。

(2-4)オリバーフィルタの濾過面積 A [m2]を求めよ。

設計問題3

固体微粒子を含むスラリーをシャープレス遠心機により脱水する。以下の設計条件でシャープレス遠心

機の給液量 Q [m3/s]を求めよ。ただし、Stokes 域と自由沈降を仮定する。

液体密度 1000 kg/m3

液体粘度 0.001 Pa・s

粒子密度 2050 kg/m3

平均粒子径 5.5 μm

遠心機形状 r1=6 cm、r2=8 cm、L=70 cm

遠心機の回転数 10000 rpm

重力加速度 9.8 m/s2

答(1-1)0.454, (1-2)1.28, (1-3)1.15×10-7 m6/s, (1-4)4.02×10-4 m3, (1-5)4.08×1010 m/kg, (1-6)5.01×1010 m-1,

(1-7)11.0 m3, (1-8)10.5 m3, (1-9)5.13×10-2 m6/s, (1-10)35.8 min, (2-1)1.75×10-4 m3, (2-2)7.81×10-6 m2/s, (2-3)

Rm=5602( p/μ), (2-4)13.3 m2, (3-1)0.041 m3/s

●自分の力で解くこと。どうしても分からなければ、途中まででよい。

(真面目に解いていることが伝われば、極端に低い点数にはならない。)

●過去の解答やクラスメートが作成したレポートを書き写さないこと。

(採点する側の気持ちを考えること。ズルをするような自分に満足か?)

●書き写しが疑われる場合は、当人を呼び出して事情を聴取する。

(不正が明らかとなった場合は、当該レポートを受理しない。不合格。)