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研究紀要第226号 G7-05 体験的な学習を充実させる 家庭科教材の開発と指導に関する研究 平 成 13 年 2 月 岡山県教育センター

体験的な学習を充実させる 家庭科教材の開発と指導に関する研究 · 時間軸を中心として示し,「高等学校普通教科家 庭」が重点を置いて指導すべき部分を明らかに

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Page 1: 体験的な学習を充実させる 家庭科教材の開発と指導に関する研究 · 時間軸を中心として示し,「高等学校普通教科家 庭」が重点を置いて指導すべき部分を明らかに

研 究 紀 要 第 2 2 6 号

G7-05

体 験 的 な 学 習 を 充 実 さ せ る家庭科教材の開発と指導に関する研究

平 成 13 年 2 月

岡山県教育センター

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ま え が き

岡山県教育センターでは,教育に関する専門的,技術的事項の調査研究,教育関係職員の研修,教

育相談,教育情報の収集・蓄積・発信等の諸事業を行っております。特に,調査研究におきましては,

国の教育改革の動向と本県の教育課題を踏まえ,幾つかの研究主題を設定し,共同研究・個人研究を

行い,その成果の提供と普及に努めております。

平成14年度から実施される完全学校週5日制に向けて,新学習指導要領もすでに告示され,新たな

教育の方向性が示されました。本年度から移行措置が実施され,各学校で新しい学校づくりの取り組

みが推進されています。新教育課程では,「ゆとり」の中で「特色ある教育」を展開し,児童生徒に

豊かな人間性や自ら学び自ら考える力などの「生きる力」を育成することが課題となっています。

高等学校学習指導要領普通教科「家庭」では,男女共同参画社会の推進,少子高齢化等に対応し,

人の一生と家族・福祉に関する内容を重視して,教科及び各科目の目標の改善が図られました。それ

に伴い,家族・家庭の学習において,男女が相互に協力して家庭を築くことの重要性を認識させるこ

と,子どもの育ちに関心を持ち,子どもを生み育てることの意義を理解させること,高齢者について

の理解にとどまらず,自立生活支援のための介護の基礎を学ばせることなどが重視され,内容の充実

が図られました。そして,これらの内容については,実践的・体験的な学習活動を通して指導するこ

とが示されています。人やものとかかわる直接体験の減少している現在の生徒が,人の一生や家族・

福祉に関する学習を自分のこととして実感できるようにするためには,実践的・体験的な学習活動を

中心とした学習の充実を図ることが,今後ますます必要になると考えられます。

これらのことを踏まえ,当教育センター家庭研究室では,高等学校普通教科「家庭」における子ど

もの発達と保育・福祉,高齢者の生活と福祉に関する体験的な学習の充実について研究を進めてまい

りました。ここでは,妊婦や高齢者の身体的な特徴を理解するための疑似体験教具を開発し,その製

作方法と指導事例を紹介しています。

御高覧の上,御意見,御批判をいただくとともに,学習指導要領の趣旨に沿う教科指導の実践のた

めの資料として御活用いただければ幸いです。

終わりになりましたが,この研究を進めるに当たり,御協力をいただきました協力委員の先生方並

びに関係各位に厚くお礼申し上げます。

平成13年2月

岡山県教育センター所長

國 貞 忠 克

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目 次

Ⅰ はじめに……………………………………………………………………………………………………1

Ⅱ 研究の目的…………………………………………………………………………………………………1

Ⅲ 研究の内容…………………………………………………………………………………………………1

1 高等学校普通教科「家庭」の指導……………………………………………………………………1

(1) 普通教科「家庭」の目標……………………………………………………………………………1

(2) 普通教科「家庭」の内容のとらえ方………………………………………………………………2

(3) 実践的・体験的な学習の一層の重視………………………………………………………………3

2 疑似体験教具の開発……………………………………………………………………………………3

(1) 疑似体験教具開発の視点……………………………………………………………………………3

(2) 妊婦疑似体験教具の開発……………………………………………………………………………4

(3) 高齢者疑似体験教具の開発…………………………………………………………………………4

3 授業実践…………………………………………………………………………………………………4

(1) 妊婦疑似体験教具の活用……………………………………………………………………………5

(2) 高齢者疑似体験教具の活用…………………………………………………………………………9

Ⅳ おわりに……………………………………………………………………………………………………12

資料1-1 妊婦疑似体験教具の製作………………………………………………………………………13

資料1-2 妊婦疑似体験教具の装着………………………………………………………………………19

資料2-1 高齢者疑似体験教具(関節用-耐久型)の製作……………………………………………21

資料2-2 高齢者疑似体験教具(関節用-ずれ防止型)の製作………………………………………24

資料2-3 高齢者疑似体験教具(足首用おもり-筒型)の製作………………………………………26

資料2-4 高齢者疑似体験教具(足首用おもり-ポケット型)の製作………………………………27

資料2-5 高齢者疑似体験教具(白内障疑似体験眼鏡)の製作………………………………………29

資料2-6 高齢者疑似体験教具の装着……………………………………………………………………30

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研究の概要

高等学校普通教科「家庭」では「人の一生を生涯発達の視点でとらえる」と示されていることを踏まえ,

小・中・高等学校の内容を時間軸から整理した結果,高等学校では「生まれ育つ」と「老いる」に重点を置

くべきであることが明らかになった。そして,生まれ育つことや老いることを実感しながら理解できる学習

を目指して,妊婦及び高齢者の疑似体験教具を開発し,製作方法とそれを活用した授業実践例を紹介した。

家庭科,教材教具開発,体験学習,妊婦,高齢者キーワード

Ⅰ はじめに

急速な少子高齢化の進展や男女共同参画社会の実

現に向けて家庭の在り方についての教育の必要性が

議論されている。家庭の機能や家族の人間関係,子

どもを生み育てることの意義などについて社会的関

心が高まっており,それらに対応する教育として小

・中・高等学校の家庭科に期待がかけられている。

これまでの中学校技術・家庭科の保育領域の指導

においては,中学校の指導内容を超えて高等学校の

。 ,指導内容に踏み込んでいるものも見られた これは

中・高等学校における内容の関連が十分理解されて

いなかったためと考えられる。新学習指導要領では

内容の縮減とともに授業時数も大幅に削減されるこ

とから,これまで以上に各学校段階で何をどこまで

指導するか教師が明確につかみ,指導計画を充実す

る必要がある。そこで,家庭科の指導内容を衣・食

・住・保育などの知識や技術の習得に重点を置いた

とらえ方だけではなく,人の一生という視点からも

とらえることにより,中・高等学校の指導内容の関

連を明らかにしたいと考えた。

また,家庭科では,家庭生活の充実と向上を図る

能力と実践的な態度を育てることを目標とすること

から,実験・実習や日常的な実践活動など生徒が自

らの体験を通して具体的に学ぶことを従前から重視

してきている。新学習指導要領では,小・中・高等

学校のいずれにおいても,学習方法として実践的・

体験的な学習を中心とすることが示されている。こ

のことを踏まえ,高等学校において,乳幼児や高齢

者の生活と福祉などについて指導する際に,生徒が

実感しながら理解できる学習を目指したいと考え,

疑似体験教具の開発とそれを活用した効果的な指導

の在り方を探ることとした。

Ⅱ 研究の目的

本研究の目的は,次の3点である。

, ,○ 小学校家庭科 中学校技術・家庭科家庭分野

高等学校普通教科「家庭」の内容のとらえ方を

時間軸を中心として示し 高等学校普通教科 家, 「

庭」が重点を置いて指導すべき部分を明らかに

する。

○ 妊婦及び高齢者の身体的特徴の理解を図る疑

似体験教具を開発し,各学校の授業に生かせる

よう製作方法を示す。

○ 開発した疑似体験教具を活用した効果的な指

導の在り方を探る。

Ⅲ 研究の内容

1 高等学校普通教科「家庭」の指導

(1) 普通教科「家庭」の目標

新学習指導要領では,すべての生徒に履修させ

る普通教育としての家庭科と職業に関する専門教

育としての家庭科のそれぞれの性格と目標を明確

にするために,従前,普通教育と専門教育とが一

つの目標として示されていた扱いを改め,目標を

独立して示すこととなった。

今回の改訂においては 「生きる力」の育成を,

はじめ,男女共同参画社会の推進や少子高齢化等

への適切な対応が重視されており,男女が協力し

て家庭や地域の生活を創造する能力と実践的な態

度を育てること,人の一生とのかかわりの中で家

族や生活の営みを総合的にとらえ,家庭生活を主

体的に営む能力と態度を育てることなどを目指し

て,普通教育としての家庭科の目標が次のとおり

示された。

人間の健全な発達と生活の営みを総合的にと

らえ,家族・家庭の意義,家族・家庭と社会と

のかかわりについて理解させるとともに,生活

に必要な知識と技術を習得させ,男女が協力し

て家庭や地域の生活を創造する能力と実践的な

態度を育てる。

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普通教育としての家庭科では,人々が互いにか

かわり合いながら共に生きる社会の一員としての

自覚の下で,男女が協力して家庭生活を築いてい

く意識と責任を持たせ,生活に必要な知識と技術

を身に付けて,家庭や地域の生活を創造する能力

と実践的な態度を育てることを目指しているので1)ある。

(2) 普通教科「家庭」の内容のとらえ方

高等学校学習指導要領解説家庭編では,普通教

科「家庭」のいずれの科目についても 「人の一,

生を時間軸でとらえるとともに,生活の営みに必

要な金銭,生活時間,人間関係などの生活資源や

衣食住,保育などの生活活動にかかわる事柄を,

人の一生とのかかわりの中で空間軸としてとらえ

ることにより,家庭科の学習を生徒自身の問題と2 )してとらえさせることとしている 」とある。。

① 時間軸とは

ここでは人の一生を受精から死亡までととらえ

る。時間軸とは,その一生の過程を自分自身が当

事者として生きることである。その過程では,育

てられたり支えられたりする受け身的な生き方を

する時期と,自立した生活者として生き,親や家

族として,あるいは社会の一員として,人を育て

たり支えたりする積極的な生き方をする時期があ

る。

② 空間軸とは

空間軸とは,生活の営みのことである。生活の

営みには無限の広がりがあるが,家庭科の学習対

象となる生活の営みとは,人とかかわり,金銭や

時間を消費しながら,着ること,食べること,住

まうこと,生み育てること,介護することなどで

ある。

③ 各学校段階における学習を時間軸からとらえる

各学校段階において時間軸のどの部分に重点を

置いて学ぶのか,時間軸の方向に学ぶのかそれと

も逆方向に学ぶのかを示したのが図1である。

ア 小学校では

小学校学習指導要領解説家庭編には「自分は家

族を構成する一員であることを実感する 「自。」

分の身の回りのことを自分の仕事としてすること

は家族への協力になり,家族の生活を支える仕事

になることに気付くようにする 」とある。小学。

生としての自分という今現在を学ばせることで,

家族の一員としての自分の存在を認識させ,家族

図1 時間軸における各学校段階の重点部分

から支えられるだけでなく,自分も家族の生活を

支えることができるという自己有用感を持たせよ3 )うとするものである。

イ 中学校では

中学校学習指導要領解説技術・家庭編には「自

分の成長を振り返ることによって,中学生期にあ

る自分と家族や家庭生活とのかかわりについて考

えさせ,自分の成長や生活は,家族やそれにかか

わる人々に支えられてきたことに気付くようにす

る 」とある。中学生としての今現在を学ぶとと。

もに,現在の自分を起点として幼児期までの自分

をさかのぼって振り返らせることで,人が人とし

て育つためにはその過程における人とのかかわり

がいかに重要であるか気付かせ,子どもが育つ環

境としての家庭や家族の重要性を理解させようと4)するものである。

ウ 高等学校では

高等学校学習指導要領解説家庭編普通教科「家

庭」には「人の一生を生涯発達の視点でとらえ,

家族や家庭生活,乳幼児や高齢者の生活と福祉な

どについて総合的に理解させる 」とある。普通。

教科「家庭」では,人の一生の始まりから終わり

までを学ぶ。高校生としての現在の自分を起点と

して,青年期の課題である自立や男女の平等と相

互の協力などを考えさせる。そして自分が創る家つく

族という視点から,胎児期,乳幼児期の発達や生

活に関する学習を通して親や家族としての在り方

及び社会の果たす役割の重要性について考えさせ

る。また,老年期については,加齢に伴う心身の

変化と特徴を理解し,老いることを発達の一つの

老年期

壮年期

青年高校 高校生の自分期

中学 中学生の自分

6年 小学生の自分児5年童期

幼児期

乳児期胎児期

小学校の学習 中学校の学習 高等学校の学習

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過程として肯定的にとらえ,高齢者の自立した生

活を支えるために家族や地域及び社会の果たす役

割の重要性について考えさせる。

要約すると,普通教科「家庭」では,人がどの

ように生まれ育ち,家庭や社会の中で生き,次世

, ,代を育て 老いを受け止めながら生きていくかを

生徒が自分のこととしてとらえることができるよ

うにして,男女が協力して家族の一員としての役

割を果たし家庭を築くことの重要性を認識させよ

うとするものである。そして,高等学校では小・

中学校との内容の関連から,一生という時間軸の

中の「生まれ育つ」と「老いる」に関する部分に5)重点を置いて指導することが示されている。

④ 空間軸と時間軸を絡ませながら学ばせる

生活は,人,もの,金銭,時間,空間,情報,

個人,家族,社会,環境等の様々なものが相互に

。 ,関係することによって成り立っている そのため

これらのことに関連した知識や技術を断片的に習

得しただけでは,社会の変化に対応して家庭生活

を健全に営むことはできない。人は各ライフステ

ージの課題を達成しながら生涯にわたって発達す

るという考えに立ち,人の一生という時間軸と生

活の営みである空間軸を絡ませながら総合的に学

ばせることによって,普通教科「家庭」のねらい

が達成されるのである。

(3) 実践的・体験的な学習の一層の重視

高等学校家庭科では,自己及び家族の健全な発

達と生活の営みに必要な知識や技術を,小学校家

庭科,中学校技術・家庭科の上に積み重ねて習得

させ,生活をよりよくするために主体的に実践で

きる能力と態度を育成することを目指している。

つまり,家庭科の特質は,理解させるだけでなく

実践できるようにすることである。そこで,学習

方法は,実験・実習や日常的な実践活動など,生

徒が自らの体験を通して具体的に学ぶことを重視6)しているのである。

実践的・体験的な学習とは,実践や体験が困難

な学習内容であっても,調査や観察,疑似体験を

取り入れるなど幅の広い学習のことである。具体

, , ,的な例としては 調査・研究 実物の観察・見学

製作・実験・実習,疑似体験,就業体験,触れ合

いや交流活動など様々なものが挙げられる。

人やものとかかわる直接体験が減少している現

, ,状から 生徒が実感を持って知識や技術を獲得し

それを生活に生かす能力の育成を図るためには,

実践的・体験的な学習を一層充実させ魅力ある授

業を展開することが重要である。

2 疑似体験教具の開発

(1) 疑似体験教具開発の視点

子育てや高齢者の生活と福祉などに関する社会

的な問題を生徒自身にかかわりの深いものとして

とらえさせるために,次のような視点から妊婦や

高齢者の疑似体験教具の開発を行った。

① 生徒自身の問題としてとらえさせる

生徒の意識としては,これまでの生活設計や家

庭経営,保育に関する学習については 「いずれ,

は役に立つものだけれど,今は必要感は少ない。

必要になったときに学べばよい 」というものも。

見られた。しかし,家庭科の学習は将来の家庭人

を育てるためだけのものではなく,家庭生活の形

成者として,また,自立した生活者として生活を

よりよくしようと主体的にかかわる実践的な態度

の育成を目指している。そのため,生徒自身が現

在の生活に関心を持ち,自分以外の立場からも生

活を見詰められるようにすることが大切である。

これまでは,子育てや高齢者の生活と福祉など

に関する学習については,直接交流などが困難な

場合にはビデオ教材などが活用され,成果を上げ

た事例も見られる。しかし,ビデオ教材では自分

とは異なる身体的な特徴を実感を伴って理解する

ことはできにくい。そこで,生徒が自分や家族の

こととしてとらえられるよう,妊婦や高齢者の疑

似体験を授業に取り入れることとした。

子育てや高齢者の生活と福祉などに関する学習

の一環として,妊婦や高齢者に関する学習に疑似

体験を取り入れて体感的に学ぶことは,単に身体

的な特徴の理解が深まるだけでなく,妊婦や高齢

者の立場から生活を見詰めて社会の抱えている問

題にも気付き,高校生としての自分に何ができる

かを考え実践する態度の育成につながると考え

。 , ,る また 男女共に妊婦の疑似体験をすることは

男女の相互理解と尊重によるパートナーシップを

育てる点からも意義があると考える。

② 一般的な心身の変化と特徴を扱う

必要以上に嫌悪感や不安感を抱かないようにす

るために,視野狭窄などのように病変による特異さく

なものは取り上げず,妊娠の経過や加齢に伴う一

般的な心身の変化と特徴が体験できるように配慮

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する。

③ 授業での使いやすさ

授業で活用する場合は,限られた時間内にすべ

ての生徒が様々な学習の場で体験できることを目

標にすることから,次の点に配慮する。

ア 着脱が容易である

限られた授業時間を有効に使うために,着脱が

数分以内でできるように,教具のデザインを単純

なものにしたり留め具を工夫したりする。

イ 生徒の体格の差に対応できる

男子も妊婦の疑似体験ができるようにするとと

もに,できるだけ生徒の体格の差に対応できるよ

うに,教具を体に巻き付ける部分が伸縮できるよ

うにする。

ウ 簡単に持ち運びができる

妊婦や高齢者の疑似体験は,他の指導内容と併

せて実習や見学,講義など様々な形で学習を展開

することが可能である。そのため,特別教室や普

通教室,屋外,校外などに,容易に持ち運びがで

きるように,教具とその中に詰めるおもりとを分

離したデザインにする。

④ 製作と保管のしやすさ

指導形態にもよるが,40人学級で疑似体験を取

, ,り入れた授業を想定した場合 妊婦用は8~10体

高齢者用は10~20体程度の数が必要と考えられ

る。そのため,材料は安価で入手しやすく,耐久

性のあることなどを重視するとともに,デザイン

は短時間で製作できるようにできるだけ直線的で

単純な形とする。また,保管や移動のしやすさを

考慮し,教具本体とおもりなどの部分とは分離さ

せ,本体の収納に場所を多く必要としないように

配慮する。装着時の安全性や価格などの面から,

本体に詰めるおもりは,手芸用ペレットビーズや

砂,小さい砂利などを小分けにして使用するのが

望ましいと考える。

(2) 妊婦疑似体験教具の開発

高等学校家庭科の授業で行う妊婦疑似体験は,

妊娠後期の身体の変化を疑似体験することによ

り,胎児が育つ環境としての母体の変化に着目さ

せたり,自分もかつて母親の胎内ではぐくまれた

ことに気付かせたりするものである。それととも

に,生活動作を実際に行うことで,妊婦のパート

ナーや家族,職場の同僚として,日常の生活を安

全に送るためにどのような配慮が必要かを具体的

に考えさせ,身の回りの社会の問題点に関心を持

たせるものである。

開発した教具は,妊娠後期の身体の変化を疑似

体験できるものである。生徒の体格の差に対応す

るためには,実態に応じて2種類のサイズを用意

することが望ましいと考える。

教具の製作手順や装着の仕方を資料1に示す。

(3) 高齢者疑似体験教具の開発

21世紀半ばには,国民の3人に1人が65歳以上

という「超高齢社会」が到来し,しかも75歳以上

の後期高齢者の割合の増加が予測される。このこ

とから,高齢者疑似体験教具を授業で活用するこ

とは,すべての生徒に加齢に伴う一般的な心身の

変化と特徴を自分のこととして理解させることに

つながると考える。また,高齢者が人間らしく尊

厳を保ち,残存機能を生かして自立した生活がで

きるように支えるには,高校生としての自分に何

ができるかを具体的に考え,実践する態度の育成

につながると考える。

開発した教具は次の3点である。

○ 関節用教具

ひざやひじの関節に付けることで関節の曲が

りにくさを体験できる。

耐久性を重視したものと装着時のずれを防ぐ

ことを重視したものとがある。

○ 平衡感覚を狂わせるための足首用のおもり

片方の足首に装着することで容易に平衡の取

りにくさを体験できる。

製作のしやすさを重視した筒型のものと,装

着時のおもりの散乱を防ぐことを重視したもの

とがある。

○ 白内障疑似体験眼鏡

眼鏡を掛けるように付けることで白内障のよ

うに物がかすんで見えることを体験できる。

顔面に付けるため,フィルター部分以外は簡

単に交換できるようにしている。

これらの教具の製作手順や装着の仕方を,資料

2に示す。

3 授業実践

新学習指導要領の指導内容も視野に入れて,実

践校の年間指導計画に開発した教具を活用する体

験的な学習を位置付け,効果的な授業の在り方を

探った。

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(1) 妊婦疑似体験教具の活用

胎児が育つ環境としての母体の変化と妊婦の心

の変化の特徴を理解するとともに,妊婦のパート

ナーや家族などの立場から,日常の生活を安全に

送るためにどのような配慮が必要かを考え,実践

しようとする態度の育成を目指して,開発した妊

婦疑似体験教具を活用した体験的な学習を実施し

た。

① 計画

指導科目 生活一般

実施時期 平成12年9月~10月

対象生徒 第2学年 185人 ( )は女子の内数

農業経済科 33(12) 園芸科学科 40(22)

畜産科学科 39(19) 農業土木科 35(0)

生物工学科 38(15)

単元名 生命の継承と性

単元指導計画(全6時間)

青年期の性……………………… 0.5時間

ライフスタイルと結婚………… 0.5時間

家族と家庭生活……………………1時間

妊娠と家族計画……………………1時間

胎児の成長と母体の変化…………2時間

(本時の妊婦疑似体験を1時間含む )。

出産と産後の健康管理……………1時間

② 授業展開

実践校では,2年次の2単位の授業を分割履修

としている。衣生活と住生活に1単位,家族と家

庭生活と保育に1単位を配当し,いずれの授業も

年間を通して実施している。この実態に基づき,

3種類の指導計画での実践を試みた。

表1 妊婦疑似体験用ワークシート

( )年( )組( )番 氏名( )妊婦の疑似体験をしてみよう妊娠後期の心や身体の変化を理解しよう! 今,自分に何ができるか考えよう!妊婦のパートナーや家族,職場の同僚などの立場から協力できることを考えよう!

役割を決めておこう! 感じたことをどんどん記入しよう! ふざけない! 無理をしない!

体 験 の 内 容 感 想

普通に歩く

小走りをする

いすに座る

階段を上り下りする

床のごみを拾う

床にぞうきんがけをする

高いところに手を伸ばす

荷物を提げる

マットの上に寝る

日常生活で妊婦はどんなことに不都合を感じるだろうか?(具体的に)

ま身体の変化やそれに伴う生活の不都合から,妊婦はどんな心理状態になりやすいだろうか?

め 疑似体験を終えて,どんな協力ができるか考えてみよう。

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保育の授業と被服実習とを連携させて,授業の

効率化と日常的な動きの中での体験を目指すもの

として,次のA及びBの指導計画で実施した。

A:一人1時間ずつ輪番に教具を装着して被服実

。 ,習を行う 被服実習は毎週1時間ずつのため

全員が体験を終えるには4週間かかる。

B:1時間の時間内に,3~4人が順に教具を装

着して被服実習を行う。体験のために特別の

時間を設定しなくてよいが,生徒一人の体験

時間は少ない。

日常の生活動作を確認しながら落ち着いて体験

, 。させることを重視して Cの指導計画で実施した

C:保育の1時間の授業内に,表1の妊婦疑似体

験用ワークシートの項目に沿って3~4人が

体験し,まとめまで行う。

Aを農業土木科,Bを生物工学科のクラスで実

施し,他のクラスはCを実施した。写真1は,A

及びBの指導計画による被服実習の様子である。

③ 体験後の生徒の感想や気付き

, ,A Bの指導計画で実施したクラスについては

生徒の意識の変化をとらえるために体験の前後に

イメージマップを記入させた。

Cの指導計画で実施したクラスの生徒が記入し

た感想や気付きの主なものを次に示す。

普通に歩く

・前に重心が寄り,とても歩きづらく,足下が

見えにくい。

・いつもより歩くのがしんどいと感じた。

・何か思うように歩けない。少しだけなら歩け

るけれど,ずっと毎日歩くことを考えたらと

ても疲れると思った。

・予想していたよりは普通に歩けたが,おなか

が出ているため,普段は見える足下が見えな

かった。

小走りをする

・重くて走る気にもならなかった。走ると,お

なかがつっかえて大変だった。

・走っているとおなかが重くてすごく疲れた。

・走ると妙に体が上下に動いた。

・速くも走れないが,ちょっと走ると勢いがつ

いてしまい,止まるときには前のめりになっ

て危なかった。

写真1 教具を装着した状態で被服実習をする生徒

(写真2)いすに座る

・思うように座れない。

・足の付け根に腹が乗っかるので,のけぞった

ようになる。

・おなかが出ている

ので机につかえて

しまって座りにく

かった。

・どっこいしょっと

いう感じ。

・普通に座るだけな

のに,ちゃんと座

れるか不安になり,

つい,いすの縁を

持った。 写真2 いすに座る

階段を上り下りする

・足がおなかにつかえて,思うように上がらな

い。

・上がるときは,がにまたになってしまう。

・下りるときは,足下が見えなくて怖い。

・一歩一歩が出しにくい。

・手すりをつかまないと上り下りが難しい。

床のごみを拾う

・足を伸ばした状態では,苦しかった。

・しゃがむことも難しい。

・拾うときに,おなかを守りながら拾おうとし

たらとてもやりにくかった。

・すごく苦しかった。

・うまくできなくて,腰が痛くなった。

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(写真3)床にぞうきんがけをする

・動物のように四つん這いにならないとできなば

かった。

・これが一番つらかった。

・体が重く,腰が痛くてできなくなった。

・苦しくて妊婦のすることではないと思った。

写真3 床にぞうきんがけをする

(写真4)高いところに手を伸ばす

・自分が思っているよりも

体が伸びないし,脇腹も

引きつったような感じが

した。

・手が伸ばしにくかったの

で,ジャンプしようとし

たが,それもできなかっ

た。

・あまり高くないところだ

ったら,比較的楽に取れ

た。

・いくらか手を伸ばせたけ

れど,普段のように高い

ところには届かなかった 写真4 手を伸ばす。

(写真5)荷物を提げる

・体が重いので,重いもの

は持ちづらい。

・荷物がおなかにつかえる

ので腕が伸びた状態にな

り,痛くなった。

・買い物かごも持ちにくい

ので,絶対大変だと思っ

た。

・前かがみになり,足をし

っかり開いてないと不安

荷物を提げる定でよろけそうだった。 写真5

(写真6)マットの上に寝る

・やっと楽になったと思ったが,起き上がるの

が大変だった。

・普通に寝るようにはいかない。一つ一つゆっ

くりやっていかないと,横になれない。

・寝返りも打ちにくかった。

写真6 マットの上に寝る

日常生活ではどんな不都合を感じるか

・歩いたり,座ったりするだけでも大変だと感

じた。

・床に落ちたものを拾うとか,いつもは気にし

ていないことでもやりにくくなる。

・買い物や掃除も一人では時間が掛かり,とて

も疲れる。

・今までやっていたことが,同じようにはでき

にくくなる。

・日常のすべての行動に,少しずつ違いが出て

くるので,何をするにも大変になる。

どんな心理状態になりやすいか

・したいことができにくくなるので,イライラ

してしまいそうだ。

・身体の変化によって,だんだんできることに

制限が出てくるから,ストレスもだんだん膨

らみそうだ。

・きっと,だるさや疲れがたまりやすくて,不

安定な心理状態になる。

・自分が妊娠してみないと分からないが,イラ

イラがつのって,混乱したりパニックになる

かもしれない。

・憂うつになって,何かをする気力がなくなる

かもしれない。

・ストレスもたまるかもしれないが,赤ちゃん

が成長していることに喜びも感じていると思

う。

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どんな協力ができるか

・パートナーとしては,自分が家事などをいろ

いろやってあげるとよいと思う。

・男だからということで仕事だけするのではな

く,体の負担にならないように,普段の生活

の中でサポートしていきたい。

・職場でも,できるだけ助けてあげられるとい

いなと思う。

・周囲の人が,声を掛けたり,少し気を付けて

あげるだけでも助けになると思う。

・小さなことでも何かしてあげようと考えるこ

とが協力につながり,妊婦さんも喜ぶと思う

し,私たちも心が温かくなる。

④ 考察

指導計画Aについては,一人の生徒が1時間装

着して被服実習をするため,日常的な家事労働を

しながら妊婦の疑似体験をする時間としては十分

であった。しかし,体験授業の実施期間が約1か

月にわたるため,保育の授業でまとめをする時期

の設定が難しくなった。また,装着時間が長いこ

とから恥ずかしい気持ちやうれしい気持ちが重な

って被服実習に集中できにくい生徒もおり,被服

実習と妊婦疑似体験とを同時にすることで授業の

効率化をねらったが,結果的には被服実習の進行

を妨げてしまった。

指導計画Bでは,教具を各班の作業台に事前に

準備しておき,授業開始と同時に本時の流れを説

明し,教具の装着方法を一度示範してから被服実

習に入った。1時間の授業で班員3~4人全員が

体験できるか不安もあったが,装着も班内でよく

協力し合い,全体的に被服実習もおろそかにする

ことはなかった。一人当たりの体験時間は10分程

度と短かったが,ある程度のスピードによる日常

的な家事労働をしながら妊婦の疑似体験をしたこ

とは,日常の生活における具体的な協力について

考えさせたり,授業の効率化を図る点からも有効

であったと言える。

図2は,指導計画A,Bで実施したクラスの生

徒が書いたイメージマップの例である。いずれも

体験後には妊婦に対するいたわりの表現が見られ

ることから,体験を通して母体の変化を理解し,

生活を安全に送るための配慮を考えるというねら

いは達成されていると言える。

図2 生徒が記入したイメージマップ

指導計画Cでは,一人の体験時間は指導計画Bと

ほぼ同じであるが,自分の考えをまとめたり班で話

し合ったりする時間も確保できた。また,教師も落

ち着いて生徒を観察したり,助言を与えたりするこ

とができた。体験する日常の生活動作をワークシー

トに示したことで,生徒は興味・関心を持って意欲

。 , ,的に取り組めた 感想にも見られるように 生徒は

一つずつ動作をしながら母体の特徴を実感するとと

もに,その身体的な変化が心にどんな変化をもたら

すかを感じ取った。さらに,妊婦のパートナーや家

族,職場の同僚,高校生である今の自分など様々な

立場から,どんな協力ができるかを真剣に考えてい

る姿も多く見られた。

おなかが大きい→大変そう指導計画Bにおける↑女子生徒bの記述スカートをはいている↑

妊婦

( )体験前

底の低いくつ → 大きなおなか↑ ↓ ↓

スカート 大変 保守↑ ↓ ↓女性 協力 母性↑ ↓ ↓

支え やさしい不安 ← 喜び ← ↓妊婦

助言↓母親↓家族↓

( )自信 体験後

こけない指導計画Aにおける↑男子生徒aの記述底の平らなくつ↑

女の人 ← → おなかが大きい妊婦

( )体験前

不自由↑

動きにくい → 大変 →疲れる大事にしたい ↑

↑ おなかが大きい理解する ↑

↑大変 ← 女の人 ← → 子どもがほしい妊婦↓協力 ↓↓ 暑い

( )楽しみ 体験後

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(2) 高齢者疑似体験教具の活用

加齢に伴う高齢者の心身の変化と特徴の理解を

促すとともに,高齢者の自立生活を支えるために

高校生としての自分に何ができるかを考え実践し

ようとする態度の育成を目指して,開発した高齢

者疑似体験教具等を活用した学習を実施した。

① 計画

指導科目 家庭一般

実施時期 平成12年5月~6月

対象生徒 第2学年 68人(すべて男子)

セラミック科 17人

化学工学科 16人

電子機械科 35人

単元名 高齢社会と福祉

単元指導計画(全10時間)

高齢社会の現状………………………2時間

高齢者の生活…………………………4時間

( 。)本時の高齢者の疑似体験2時間を含む

高齢者や障害のある人々とともに…4時間

表2 高齢者疑似体験用ワークシート

( ) ( ) ( ) ( )高齢者の疑似体験をしてみよう 年 組 番 氏名

高齢者の心や身体の変化を理解しよう! 今,自分に何ができるか考えよう!高齢者や障害のある人が安全に快適に生活できるために必要なことを考えよう!

二人一組でしよう! 感じたことをどんどん記入しよう! ふざけない! 無理をしない!

自分が体験したときの感想 体験している友人を観察したときの感想体 験 の 内 容

(感じたこと,分かったこと等) (近くにいる者として感じたこと)【目】白内障体験眼鏡を付ける

①周りを見る ①②時計を見る ②③新聞や時刻表を読む ③

【手】手袋を2枚重ねて付ける①指を動かす ①②はしで豆をつまむ ②③財布からお札や硬貨を出して, ③必要なだけ数える

④机の上の硬貨を指でつまむ ④⑤お湯に手を付ける(片手は素手) ⑤

【腕】ひじに教具を付ける①ひじを曲げる ①②風呂で体を洗う動きをする ②③髪の毛を洗う動きをする ③

【足】ひざと足首に教具を付ける①まっすぐ歩く ①②いすに座る,立ち上がる ②③階段を上り下りする ③④手をつないで,上り下りする ④

【二つ以上組み合わせて】① ①② ②日常生活で高齢者はどんなことに不自由を感じるだろうか?(具体的に)

ま身体機能の変化やそれに伴う不自由さから,どんな心理状態になりやすいだろうか?

と高齢者や障害のある人が安全に快適に生活するためには,どんな工夫があればよいだろうか?

め疑似体験を終えて,感じたこと,考えたこと,現在の自分にできること。

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② 授業展開

実践校では,通常は2年次の2単位の授業を分

割履修としている。高齢者疑似体験では,体の自

由をある程度制限するものが多いので,体験中の

事故防止に特に留意する必要がある。そのため,

ここでは,安全に配慮しながら生徒がじっくり体

験できるように授業時間を2時間連続とした。二

人一組となり,表2の高齢者疑似体験用ワークシ

ートの項目に沿って体験し,まとめまでを時間内

に行うこととした。

ここでは,開発した教具に加えて,高齢者は手

のひらが乾燥気味になることも体験できるよう

に,薄手のポリエチレン製手袋を2枚重ねて付け

させることにした。体験の内容に関する準備物と

配慮事項は次のとおりである。

ア 視力の衰えに関するもの

準備:白内障疑似体験眼鏡,新聞,時計,電車や

バスの時刻表

配慮:見えるか見えにくいかだけではなく,文字

の大きさや太さ,配色の違いなどによる見

えやすさについても考える。

イ 手指の感覚の鈍化に関するもの

準備:薄手のポリエチレン製手袋,はし,豆,札

と硬貨,40度前後の湯

配慮:2枚重ねて付けさせ,白内障疑似体験眼鏡

と併用して,はし使い,現金の支払い(写

真7)などをする。お湯に手を入れる場合

は,片手を素手にして同時に入れる。

写真7 白内障疑似体験眼鏡を付けてお金を数える

ウ 関節の曲がりにくさに関するもの

準備:関節用教具

配慮:教具を付ける位置に

注意する(写真8)。

日常の生活に近い動

きをするが,事故を

防ぐために決して無 写真8 教具の位

理をしない。 置に注意

エ 平衡の取りにくさに関するもの

準備:足首用教具,小袋に入れた砂などのおもり

配慮:おもりが散乱しないように教具の付け方に

注意する。

③ 体験後の生徒の感想や気付き

生徒が記入した感想や気付きの主なものを次に

示す。

白内障体験眼鏡を付ける

・物が白く濁って見えた。

・時計の文字や針が見えにくかった。

・スポーツ新聞の大きな字は読みやすかった。

・見出しの大きい字は読めたが,小さい字は読

む気になれなかった。

・細かい部分は全然見えなかった。

・はっきりした色使いの部分は見やすかった。

手袋を2枚重ねて付ける

・ただ動かすだけはできたが,つまむような動

きはとてもやりにくかった。

・指先が思うように動かず,時間が掛かった。

・お札を一枚ずつ数えるのが,すべって時間が

掛かった。

・素手と比べて,お湯がぬるく感じた。

・温度が伝わってくるのが遅いように思えた。

・熱いお湯だったら,反応が遅くてやけどする

かもしれないと思った。

ひじに教具を付ける

・思うように手が動かせないので,一人ではと

ても無理だと思った。

・頭の後ろや背中に手が回らなくて洗えない。

・少しのことはできるけど,とても大変だ。

・洗うというより,なでているといった感じに

しかできなかった。

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ひざと足首に教具を付ける

・まっすぐ歩けず,よたよたした。

・歩く速さもずいぶん遅くなった。

・いすから立つとき,机などのつかむ物がない

と立てなかった。

・座るときも何か支えがないと,座りにくい。

・一段ずつしか上がり下りできなかった。

・支えなしで階段を上下するのはとても怖くて

危険だった。

・手をつないで支えてもらうと安心したし,上

がり下りも楽だった。

・どれもいつもの何倍も時間がかかった。

日常生活でどんな不自由を感じるか

・お風呂で体を洗いにくい。

・トイレで用を足しにくい。

・座布団など(床面)に座りにくい,いすにも

座りにくい。

・階段の上がり下りが大変で,危険だ。

, 。・はしが使いにくく 一人で食べるのが難しい

・買い物をした時の支払いに時間がかかる。

・電車やバスの時刻表が小さくて見えにくい。

・字や時計が見えにくい。

・何か一つやろうとしても思うように動かなく

て情けなくなる。

・自分のしたいことがうまくできないので泣き

たくなる。

・普段,日常的にできていたことが,すべてで

きにくくなる。

・何をしても,いつもどこかに不自由さを感じ

た。

どんな心理状態になりやすいか

・イライラして何もする気にならなくなる。

・投げやりになる。

・家から出たくなくなる,閉じこもり,鬱。うつ

・自暴自棄になりやすい。

・不安感やストレスがたまる。

・動けないと思って何もしなくなり,やる気も

なくなるというように悪循環になる。

・失望,恐怖,心細さ,みじめ。

・体が動かないからボケーっとする。

・自信がなくなり不安になる。

安全に快適に生活するための工夫

・バリアフリーの推進(ハード面の充実 。)

・段差の解消,手すり等を付ける,新聞の字を

大きくする。

・高齢者や障害のある人たちのことをもっと考

えて,生活しやすい環境を整えた町づくりを

する。

・ホームヘルパーなどの介助者を増やす。

・残された機能を生かして自立した生活ができ

るような支援をする。

・みんなが高齢者や障害者のことをもっとよく

知り,助け合う(心のバリアフリー 。)

・家族以外の助けも必要。

体験をして感じたこと・思ったこと・自分に

できること

・ 見る」と「やる」とでは大違いだった。「

・体験をして多くのことに気付いた。

・高齢者になるといろいろな身体機能の変化が

あって,不自由になるんだなあと感じた。

・町でゆっくり歩いているお年寄りを見掛けて

も,単に筋力の衰えで遅いだけだと思ってい

たが,体験をしてみて,とても苦労が多いこ

とに気付いた。

・体が自由に動かなかったり,目が見えにくく

なったりするとかなり大変で,精神的にもか

なり影響を受けると思った。

・困っている人を助けることが大切。

・困っている人を見掛けたら是非声を掛けてあ

げたい,手を貸してあげたい,助けるのがぼ

くたちの役目。

④ 考察

授業を終えて,まず印象に残ったのは,通常の

授業ではノートを書くのは苦手な生徒たちが,一

つ体験するごとに自分が感じたことや友人の様子

を観察して記録するなど,この学習に意欲的に取

り組んでいたことである。

生徒の感想にも見られるように,教具を付けて

通常の生活動作を行う体験内容にしていたため,

現在の自分の状態と比較して,一つの機能が衰え

ることでいかに生活に支障を来すかを実感してい

たようである。そのため,高齢者の心理状態を推

測する記述では,意欲の喪失,不安,閉じこもり

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などに関するものをほとんどの生徒が挙げている

ことから,高齢者の心身の変化と特徴の理解を促

すというねらいは達成されたと言える。

また,新聞の活字を大きくしたり,町中の段差

を解消したりするなどの具体的な改善例を挙げて

いることや,多くの生徒が困っている高齢者を見

掛けたら何か手助けをしてあげたいと記している

ことなどは,疑似体験を取り入れた学習をするこ

とによって実感しながら高齢者への理解が深まっ

た結果として,生徒の中から出てきた声だと感じ

られた。

高齢社会と福祉という単元を通して,ビデオ教

材や話題になっている書籍を活用して体験的な授

業を行っている。その中でも 「見る」より「や,

る」ことに重点を置いた今回の学習は,生徒の心

を最も動かしたものと思う。

Ⅳ おわりに

男女共同参画社会の形成は,家族を構成する男女

が,相互の協力と社会の支援の下に子育てや介護な

ど家庭生活のすべてにわたってそれぞれの役割を果

たすことによって,実現に近付くことができるもの

である。普通教育としての家庭科は,その学習内容

から,生徒の意識や行動を変えていく上でますます

重要な役割を果たさねばならないものと考える。家

庭科が,人間にとって一番身近で基本的なことを学

ぶ教科であるからこそ,常に社会の変化を敏感に感

じ取り,学習をより実感できるものにして,よりよ

い生活を創造する力を生徒たちに育てていくことが

私たち家庭科教師の使命であると考える。

, ,本研究は 高等学校家庭科の改訂の趣旨を踏まえ

少子化への対応,高齢化への対応,生徒自身の主体

的な学習の推進,男女共同参画社会の推進などの視

点から,普通教科「家庭」の授業の充実を図るため

に,妊婦及び高齢者の疑似体験教具を開発し,製作

方法とそれを活用した効果的な授業実践例を紹介し

た。知識や技術を断片的に習得させるのではなく,

時間軸と空間軸を絡ませながら総合的に学ばせると

いう考えに基づいて,生徒の実態に応じた柔軟な指

導計画を立案し,ここで示した疑似体験教具を学校

の特色を生かす授業展開に活用していただければ幸

いである。

○参考文献

1) 文部省:高等学校学習指導要領解説家庭編,開隆堂出版, 19,2000p2) 前掲書1), 26 44 75,2000p p p3) 文部省:小学校学習指導要領解説家庭編,開隆堂出版, 22 24,1999pp -4) 文部省:中学校学習指導要領(平成10年12月)解説-技術・家庭編-,東京書籍, 6469,1999pp -5) 前掲書1), 27 78,2000p p

6) 前掲書1), 21 22,2000pp -

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資料1-1

妊婦疑似体験教具の製作

材 料90㎝幅帆布……………… 105㎝

10㎝幅ゴム……………… 160(190)㎝→→10㎝×2本,140㎝×1本 (15㎝×2本,160㎝×1本)

10㎝幅マジックテープ… 40(45)㎝1組→15㎝×1組,25㎝×1組 (20㎝×1組,25㎝×1組)

4㎝幅綾テープ………… 600㎝ →→→→290㎝×2本,10㎝×2本あや

不織布接着芯…………… 5㎝×30㎝→→2.5㎝×30㎝×2本しん

さなだひも……………… 180㎝ →→→→70㎝×2本,20㎝×2本,

注:( )の数字はLサイズ用40mmDかん……………… 2個

製 作1 帆布を裁つ。

90㎝幅×105㎝の帆布を図1のように台布,腹部ポケット布,胸部ポケット布に裁断する。

54

45

腹部ポケット布

105

60

16

60 台 布 部

40 ケ

90

図1 帆布の裁断図

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2 台布を作る。

(1) 60㎝角に切った台布に印を付け,図2のように四隅を切り取る。

(2) 切り取った部分から直径5㎝の力布を2枚取っておく(図2 。)

(3) 台布の周囲に縫い代を5㎝取り,中折り2㎝の三つ折りにして,押さえミシンを掛ける(図3 。)

60

15 30 15 5

21.5 21.5 25

出来上がり線

5 縫

19.5 い

代3

押さえミシン拡大図

中折り25 5

15 15

力布15 30 15

図2 台布と力布の裁断 図3 台布の周囲の始末

(4) 台布の表側に胸部と腹部のポケット付けの印を付ける(図4 。)

, ,(5) 腹部ポケットの両脇の印の上からルレットを掛け その印に沿って裏側に接着芯をアイロンではり付け

力布も仮止めしておく(図5 。)

12.5 12.5

2 2

16

5 5

5 10 10 5

10 10

(裏)

(表)

力布

接着芯

図4 胸部と腹部のポケット付けの印 図5 接着芯のはり付けと力布の仮止め

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3 腹部のポケットを作る。

(1) 腹部ポケット布の裏に,ひも通し,ダーツ,縫い代の印を付ける(図6 。)

(2) 両脇の縫い代をあらかじめ10㎝くらい縫っておき,ひも通しを中折り1㎝の三つ折りにして縫う。ダー

ツを縫い,縫い代は中心側に折ってアイロンで押さえる(図7 。)

(3) 飛び出しているダーツの先端部分を切り取る(図8 。)

(4) 周囲に縫い代を1㎝取り,裏側に折ってアイロンで押さえる(図9 。)

54

ひも通し 3.5

縫い代1

(裏) (裏)

45

20

16 中心側に折る

9

10

図6 腹部ポケット布の印 図7 ひも通しとダーツの縫い方

(表) (裏)

出ている部分を切り取る

図8 ダーツの先端部分を切り取る 図9 周囲の縫い代を裏側に折る

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4 胸部のポケットを作る。

(1) 胸部ポケット布の裏に,ポケット口,ダーツ,縫い代の印を付ける(図10 。)

(2) 腹部と同様に,ダーツを縫って中心側に折り先端部分を切り取り,周囲に縫い代を1㎝取り,裏側に折

ってアイロンで押さえる(図11 。)

(3) 表側の中心部に,タックの印を付ける(図12 。)

40耳

2

(裏) 1 16 (裏)

8

6 1

3

3.5

図10 胸部ポケット布の印 図11 周囲の縫い代を裏側に折る

3

(表)

2

4

図12 タックの印

5 胸部のポケットを付ける。

(1) ポケット布と台布の中心を合わせ,図13のようにポケット布の中央にタックを取りながら中心線の部分

を縫い付ける。

(2) 台布の印とポケットを合わせ,図14のようにステッチを2本掛ける。

(表)

(表)

図13 タックを取りながら中心を縫い付ける

2

3

図14 ステッチを掛ける

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6 腹部のポケットを付ける。

(1) ポケットの縫い止まりの部分の裏に力布があることを確認して,台布の印とポケットを合わせ,図15の

ようにステッチを2本掛ける。

, 。 ,(2) ポケットのひも通し口の脇の裏に力布があることを確認して 70㎝のさなだひもを縫い付ける さらに

台布の両脇にも20㎝のさなだひもを縫い付ける(図15 。)

図15 腹部ポケットとさなだひもの縫い付け

7 付属品を作る。

(1) Dかんに10㎝長の綾テープを通し仮止めする(図16 。)

(2) 290㎝ 長の綾テープを半分に折り,端から20㎝を図17のようにずらして重ね,周囲にステッチを掛けて

肩ひもを作る。

20

図16 Dかんと綾テープの仮止め

図17 肩ひも作り

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(3) 10㎝長のゴムに15㎝長のマジックテープを図18のように縫い付ける。

10 15 10 15

ゴム ゴム

2 マジックテープ凸面 2 マジックテープ凹面

図18 ゴムとマジックテープの縫い付け

8 付属品を本体に付ける。

(1) Dかんと肩ひもを図19のように

縫い付ける。

(2) マジックテープを縫い付けたゴ

ムを凸面と凹面の表裏に注意しな

がら図19のように縫い付ける。

凹面の裏

凸面の表

図19 付属品付け

9 補助ベルトを作る。

140㎝長のゴムを二つに折り,図20のように凸面と凹面の表裏に注意しながら両端に25㎝長のマジック

テープを縫い付ける。

凹面の裏 二つに折りにしたゴム 凸面の表

図20 二つに折りにしたゴムとマジックテープの縫い付け

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資料1-2

妊婦疑似体験教具の装着

1 装着する位置を決める。 2 肩ひもを結ぶ。 3 胴に巻き付ける。

教具の裾が太ももの付け根 肩ひもを後ろで交差してD 両脇のマジックテープを緩すそ

よりやや上になるように位置 かんを通し,教具が体にぴっ みのないように引っ張って胴

を決め,肩ひもを掛ける。 たり付くように,ひもを締め に巻き付け後ろで止める。

て結ぶ。

4 腹部におもりを入れる。 5 ポケット口を締める。 6 胸部に小袋に入れたおもりを入

れる。腹部のポケットに手芸用 ポケット口のひもを左右に

ペレットビーズや砂袋など 引いて絞り,それぞれ両脇の

のおもりを3㎏程度入れる。 ひもと結ぶ。

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7 補助ベルトの位置を決める。 8 補助ベルトを後ろで止める。

補助ベルトの中心を下腹部の中心に合わ 補助ベルトを引っ張り気味に締め,後ろ

せて当てる。 は腰の位置で止める。

9 補助ベルトを広げる。 10 装着完了。

下腹部の部分で2枚重なっている補助ベ

ルトの幅を広げる。

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資料2-1

高齢者疑似体験教具(関節用-耐久型)の製作

材 料ひざ関節用 帆布……………………………… 30㎝×70㎝×2枚

5㎝幅マジックテープ………… 22㎝×2組

直径0.5㎝竹製スティック …… 20㎝×7本

ひじ関節用 帆布……………………………… 20㎝×45㎝×2枚

2.5㎝幅マジックテープ ……… 23㎝×1組→13㎝×1組,10㎝×1組

直径0.5㎝竹製スティック …… 10㎝×5本

製 作1 型紙を作る。

4 18 13

2 2

6

2

4

24

4 27

4 2

ひざ用型紙4

2

3

3 16

3 10 9

1 14

2

2 1.5

23 19

3

3

ひじ用型紙1

3

3 8

図1 縫い代分1㎝を含むひざ用とひじ用の型紙

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以下,ひざ用,ひじ用の両方に共通の製作手順を示す。

2 帆布を裁つ。

(1) 帆布を半分に折って重ね,図2のように型紙を使って本体を切り取り,余り布で力布を2枚取る。

(2) 切り取った力布は,一枚ずつ周囲にロックミシンを掛けておく。

16(ひじ用12)

3 ここで力布を取る

図2 本体と力布の裁断

3 印を付ける。

(1) 本体の一枚だけに,スティックを差し込む部分(ひじ用は中心の5本分のみ)の印を布の表側に図3の

ように付ける。

(2) 力布の印は,本体二枚の表側に付ける。

2

開き止まり 開き止まり

ひざ用(表)

8(ひじ用6) 3

中心

図3 力布とスティック部分の印

4 力布を縫い付ける。

図4のように,本体二枚の表側に力布を縫い付ける。

(表)

図4 力布の縫い付け

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5 本体を縫い合わせる。

(1) 中表に合わせ,図5のように開き口を残して縫い代を1㎝取りながら周囲を縫い,縫い代に切り込みを

入れる。

開き口

(裏)

図5 中表に合わせて縫う

(2) 表に返して,図6のように開き口を残した周囲とスティックの部分にステッチを掛ける。

(表)

図6 ステッチを掛ける

6 マジックテープを縫い付け,スティックを入れる。

図7のように凸面と凹面の付け位置に注意しながらマジックテープを縫い付け,最後にスティックを差

し込む。

(こちら側を太もも又は上腕に巻き付ける)

凹面 凸面

凹面 凸面

図7 マジックテープの縫い付け

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資料2-2

高齢者疑似体験教具(関節用-ずれ防止型)の製作

材 料ひざ関節用 帆布……………………………… 50㎝×25㎝

10㎝幅ゴム……………………… 12㎝×1枚

5㎝幅ゴム……………………… 7㎝×1枚

10㎝幅マジックテープ………… 15㎝×1組

5㎝幅マジックテープ………… 10㎝×1組

直径0.5㎝竹製スティック …… 20㎝×7本

ひじ関節用 帆布……………………………… 40㎝×20㎝

5㎝幅ゴム……………………… 7㎝×1枚

5㎝幅マジックテープ………… 10㎝×2組

直径0.5㎝竹製スティック …… 10㎝×5本

製 作

1 帆布を裁つ。

図1のように縫い代分1㎝を含めた本体1枚と力布を2枚取り,力布の周囲にロックミシンを掛けてお

く。

50

ひざ用

25

16 16

力布 力布 3

40

ひじ用

20

12 12

力布 力布 3

図1 本体と力布の裁断

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以下,ひざ用,ひじ用の両方に共通の製作手順を示す。

2 印を付ける。

図2のように,スティックを差し込む部分(ひじ用は中心の5本分のみ)と力布の印を布の表側に付け

る。

2 2 開き止まり

(表)

8 2

(ひじ用6)

開き止まり

図2 力布とスティック部分の印

3 力布を縫い付ける。

図3のように,開き口に端ミシンを掛け,本体の表側に力布を縫い付ける。

(表)

図3 力布の縫い付け

4 本体を縫い合わせる。

両脇の縫い代を1㎝折り,図4のように脇を開き止まりまでとスティック部分にステッチを掛ける。

(こちら側を太もも又は上腕に巻き付ける)

ゴム

図4 ステッチを掛ける

凸面裏 凹面表

5 ゴムとマジックテープを縫い

ひじ用はゴムなし付け,スティックを入れる。

図5のように凸面と凹面の表

裏に注意しながらゴムとマジッ ゴム

クテープを縫い付け,最後にス 凸面裏 凹面表

ティックを差し込む。 図5 ゴム,マジックテープの縫い付け

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資料2-3

高齢者疑似体験教具(足首用おもり-筒型)の製作

材 料帆布……………………………… 10㎝×90㎝×1枚

2.5㎝幅マジックテープ ……… 12㎝×1組

製 作1 帆布を裁断して印を付ける。

帆布を裁断して周囲にロックミシンを掛け,図1のように布の表側に印を付ける。

ポケット口側

3.7 (表)

2 4 19 2.5 6 10 42 2

15

46 44

図1 印付け

2 マジックテープを縫い付ける。

ポケット口を裏側に折ってステッチを掛け,図2のように表側にマジックテープの凸面を縫い付ける。

合い印 凸面表 (表) ポケット口

図2 マジックテープ凸面の縫い付け

3 底にまちを取り,両脇を縫う。

図3のように,ポケット口と合い印を合わせて中表に折り,さらに底の部分を2㎝折り上げてまちを取

り,両脇に縫いしろ1㎝を残して縫い表に返す。

た(表) (裏) 1 2

図3 底にまちを取り脇縫い

4 ふた側にマジックテープを縫い付ける。

図4のように,ふた側の布端の始末をし,マジックテープの凹面を縫い付ける。

凹面表

(表)

図4 マジックテープ凹面の縫い付け

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資料2-4

高齢者疑似体験教具(足首用おもり-ポケット型)の製作

材 料帆布…………………………… 15㎝×44㎝×1枚,12㎝×60㎝×1枚

5㎝幅ゴム…………………… 30㎝

5㎝幅マジックテープ……… 凸面10㎝,凹面20㎝

製 作1 帆布を裁断して印を付ける。

帆布を裁断して周囲にロックミシンを掛け,図1のように布の表側に印を付ける。

44

2

5 6 5

12 台布 15

2 (表) 2

1

601

5 10 ポケット布 5

11 (表) 12

2 2 2 2 2 タックの印

図1 印付け

2 布端の始末をする。

図2のように台布,ポケット布の縫い代を裏側に折り,ステッチを掛ける。

台布 ポケット布

(表) (表)

図2 布端の始末

3 台布にポケット布を縫い付ける。

台布の表にポケット布を重ね,ポケットの印を合わせ,図3のように縫い合わせる。

ポ ケ ッ ト 布

(表)

図3 台布とポケット布の縫い合わせ

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4 ポケットの底にタックを取る。

図4のように,ポケットの底にタックを取ってステッチを掛け,台布を折り上げて上からさらにステッ

チを掛ける。

図4 ポケット底のタックとステッチ掛け

5 両端の始末をする。

図5のように,一方は台布の2㎝の縫い代をポケット側に折ってステッチを掛け,もう一方は両角を5

㎝ずつ三角に折ってステッチを掛ける。

2

5

図5 両端の始末 5

6 マジックテープとゴムを縫い付ける。

ゴムの両側にマジックテープの凹面20㎝と凸面10㎝を表裏に注意しながら縫い付け,図6のように本体

に縫い付ける。

ゴム

凹面表 凸面裏

図6 ゴム,マジックテープの縫い付け

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資料2-5

高齢者疑似体験教具(白内障疑似体験眼鏡)の製作

材 料八つ切り画用紙………………1枚

10㎝長の輪ゴム………………2本

OHPフィルム(キャノン純正カラーBJ用OHPフィルムCF-102)………………1枚

製 作1 フレームを作る。

(1) 画用紙に図1の型を写し,太線部を切り取る。

(2) 破線部を山折りにし,AとA ,BとB’を合わせて接着し,穴に輪ゴムを通す。’

14.3 6 8 0.3

1.8 1

B’ A’

1.2 2

1.5

4 4

11.5 1 1 4 1 1.5

4 B 1.5 A

3.5 4.5

2

図1 フレームの製図

2 フィルターを作る。

OHPフィルムを7㎝×12㎝×6枚に切り,3~4枚重ねてテープで四隅を止めておく。

3 フレームにフィルターを付ける。

図2のようにテープでフレームにフィルターを付ける。

B’

図2 完成図

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資料2-6

高齢者疑似体験教具の装着

ひざ関節用の装着

1 教具の位置を決める。 2 太もも側から止める。

幅の広い方を太もも側にして, 太もも側をしっかり締めて止め ひざが教具の間から

ひざの裏側から教具を当てる。 てから,ふくらはぎ側を止める。 出るようにする。

ひじ関節用の装着

1 教具の位置を決める。 2 上腕側から止める。

幅の広い方を上腕側にして, 上腕側をしっかり締めて ひじが教具の間から

ひじの内側から教具を当てる。 止め,手首側を止める。 出るようにする。

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足首用おもり-筒型の装着

1 筒におもりを入れる。 2 足首に巻き付ける。

小袋に小石や手芸用ペレットビーズ 足首にぴったり巻き付け,マジック

など(重さや安全性に配慮する)を詰 テープを止める。

め,筒の中に入れる。

足首用おもり-ポケット型の装着

1 ポケットにおもりを入れる。 2 足首に巻き付ける。

小袋に手芸用ペレットビーズや小石 足首にぴったり巻き付け,ずれないように

など(重さや安全性に配慮する)を詰 ゴムを引っ張り気味に締めて止める。

め,ポケットに入れる。