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解剖生理学 要点整理ノート 1 解剖生理学 要点整理ノート 目次 1細胞の構造と機能 2 2組織の構造と機能 12 3消化器系の構造と機能 20 4循環器系の構造と機能 35 5呼吸器系の構造と機能 49 6泌尿器系の構造と機能 58 7水・電解質と酸塩基平衡の調節 63 8血液の成分と機能 67 9神経系の構造と機能 73 10感覚器の構造と機能 84 11内分泌系の構造と機能 92 12骨の構造と機能 102 13筋肉の構造と機能 108 14免疫系の構造と機能 110 15生殖系の構造と機能 115 16皮膚の構造と体温調節 123 17エネルギー代謝 127 18老化のメカニズム 132

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解剖生理学 要点整理ノート

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解剖生理学 要点整理ノート

目次

1. 細胞の構造と機能 2

2. 組織の構造と機能 12

3. 消化器系の構造と機能 20

4. 循環器系の構造と機能 35

5. 呼吸器系の構造と機能 49

6. 泌尿器系の構造と機能 58

7. 水・電解質と酸塩基平衡の調節 63

8. 血液の成分と機能 67

9. 神経系の構造と機能 73

10. 感覚器の構造と機能 84

11. 内分泌系の構造と機能 92

12. 骨の構造と機能 102

13. 筋肉の構造と機能 108

14. 免疫系の構造と機能 110

15. 生殖系の構造と機能 115

16. 皮膚の構造と体温調節 123

17. エネルギー代謝 127

18. 老化のメカニズム 132

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解剖生理学 要点整理ノート

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1.細胞の構造と機能

1.人体の階層構造

個体 ・器官系が集まって作られる一つの生命の全体である。

器官系

・機能的に関係がある器官(臓器)が集まって作られるシステムである。

・消化器系:食物から栄養素を体内に取り込む。

・呼吸器系:酸素を取り込み、二酸化炭素を排泄する。

・循環器系:体内の物質を移動させる。

・泌尿器系:老廃物を排泄する。

・神経系・内分泌系・免疫系:体内の機能を調節し、恒常性を維持する。

・筋骨格系:体型の維持と運動をつかさどる。

・生殖系:子孫を残す。

器官(臓器) ・ある機能を担うために組織が集まって作られる構造物である。

組織 ・細胞と細胞間物質が一定の秩序をもって作られている構造である。

細胞 ・細胞膜で包まれた生命の最小単位である。

細胞小器官 ・細胞内である機能を担う構造物である。

分子 ・細胞と細胞間物質を構成する原子からなる化合物である。

原子 ・物質を構成する最小単位(元素 element)である。

2.人体の化学組成

・もっとも多い構成元素は、酸素(O)である。(酸素 O>炭素 C>水素 H>窒素 N・・・)

・もっとも多い構成成分は、水(H2O)である。

水分は、体重の約 60%を占める。

水分は、筋肉組織で多く、脂肪組織で少ない。

女性は体脂肪率が高いので、男性に比べて水分の割合が少ない。

水分の割合は、加齢とともに減少する。

・もっとも多い固形成分は、脂質である。(脂質>たんぱく質>糖質)

・もっとも多い無機質は、カルシウム(Ca)である。

Ca の 99%は、骨に存在する。

・細胞内液には、カリウムイオン(K+)が多く存在する。

・細胞外液には、ナトリウムイオン(Na+)が多く存在する。

・体液のたんぱく質濃度は、細胞内液>血漿>間質液である。

3.エネルギー変換と ATP(adenosine triphosphate)産生

・植物は、光合成により光エネルギーを化学エネルギーに変換してエネルギーを蓄積する。

(光エネルギー)

CO2 + H2O → C6H12O6(化学エネルギー)

・生命が利用する化学エネルギーは、炭素を還元(たくさんの電子をもっている状態)することによっ

て植物に蓄積される。

・動物は、植物に含まれる炭素を酸化(電子が少ない状態)することによりエネルギーを取り出す。

C6H12O6 → CO2 + H2O + ATP

・ATPは、体内のさまざまな活動のエネルギー源として利用される「エネルギーの通貨」である。

・体内に取り込まれたエネルギーは、最終的には運動エネルギーや熱エネルギーなどに変換されて、体

外に放出される。(エネルギー保存の法則)

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解剖生理学 要点整理ノート

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4.細胞

・ヒトは、約 37兆個の細胞からできている多細胞生物である。

・細胞の大きさは、一般に 10~30μmである。(1μmは、1㎜の 1,000 分の 1)

赤血球は 8μm、成熟卵は 200μmである。

・細胞は、脂質二重層からなる細胞膜で包まれている。

・細胞の内部には、細胞質、細胞小器官、細胞骨格、核がある。

5.細胞小器官

(1)小胞体

・小胞体は、脂質二重層で包まれた袋状の構造物である。

・小胞体には、リボソームが付着した粗面小胞体と、リボソームがない滑面小胞体がある。

・粗面小胞体では、分泌たんぱく質や膜たんぱく質を合成が行われる。

・滑面小胞体では、解毒や脂質の合成が行われる。

(2)リボソーム

・リボソームは、リボソーム RNA(rRNA, ribosomal ribonucleic acid)とたんぱく質で構成される。

・rRNA は、ペプチド合成の酵素(リボザイム ribozyme)として働く。

・リボソームは、メッセンジャーRNA(mRNA, messenger RNA)の情報をもとに、たんぱく質を合成する。

(3)ゴルジ装置(Golgi apparatus)

・ゴルジ装置は、扁平な小胞が積み重なった構造物である。

・ゴルジ装置は、粗面小胞体で合成されたたんぱく質を、集積、加工、濃縮する。

・ゴルジ装置は、膜たんぱく質、分泌顆粒、リソソームなどを生成する。

(4)中心小体

・中心体は、細胞分裂をするとき細胞の両極に移動し、紡錘糸の合成中心になる。

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解剖生理学 要点整理ノート

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(5)ミトコンドリア

・ミトコンドリアは、内膜と外膜の二重の膜で包まれている。

・内膜には、クリステと呼ばれる多数の「ひだ」がある。

・マトリックスと内膜には、クエン酸回路と電子伝達系の酵素がある。

・ミトコンドリアは、酸化的リン酸化により、ATPを生成する。

・炭素から放出された電子は、電子伝達系によって運ばれ、最終的に酸素を還元して水を生成する。

・この過程で放出されてエネルギーにより、ミトコンドリア内膜の内外に H+の濃度勾配ができる。

・ATP合成酵素は、内膜の内外の H+濃度勾配を利用して ATPを合成する。

・ATP 合成反応は、炭素が酸化されて二酸化炭素ができるときに放出されるエネルギーを利用して

ADP にリン酸を付加して ATP を作るので、酸化的リン酸化という。

・マトリックスで作られた ATPは、細胞質の ADPと交換してミトコンドリアの外に出る。

・ミトコンドリアには、固有の環状 DNAが存在し、自己複製する。

・ミトコンドリア DNA には、電子伝達系のたんぱく質、tRNA、rRNAなど遺伝子が存在する。

・ミトコンドリアたんぱく質の遺伝子の大部分は、核の DNAにコードされている。

・ミトコンドリア DNA は、すべて母親(卵子)に由来する。

(6)リソソーム

・リソソームは、細胞内に取り込んだ異物や細胞内の不要な物質を分解する。

・リソソームの内部には、40種類以上の加水分解酵素があり、核酸、糖質、たんぱく質、脂質を加水分

解する。

(7)ペルオキシソーム

・ペルオキシソームは、過酸化水素(H2O2)を産生する酵素と分解する酵素(カタラーゼ)を含んでい

る。

・過酸化水素は、白血球の殺菌作用に利用される。

(8)分泌顆粒

・分泌顆粒は、ホルモンや消化酵素などを含む顆粒(小胞)である。

・細胞が刺激されると分泌顆粒は細胞膜と融合し、内容物を細胞外へ放出する。

(9)主な代謝が起こる場所

細胞質 解糖、糖新生、ペントースリン酸回路、グリコーゲンの合成と分解、脂肪酸の合

成、プロテアソームによるたんぱく質の分解

ミトコンドリア 脂肪酸のβ酸化、クエン酸回路、電子伝達系

滑面小胞体 トリグリセリド、リン脂質、コレステロール、ステロイドホルモンなどの脂質合

粗面小胞体 たんぱく質合成

リボソーム たんぱく質合成

リソソーム たんぱく質、多糖類、脂質、核酸など高分子の加水分解、オートファジー

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解剖生理学 要点整理ノート

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(10)オートファジー

・細胞内の異常なたんぱく質や過剰に合成されたたんぱく質を分解する。

・リソソームで起こる。

・飢餓は、オートファジーを誘導する。

・生成したアミノ酸は、他のたんぱく質合成またはエネルギー源として利用する。

(11)プロテアソーム

・細胞内の不要なたんぱく質や異常なたんぱく質にユビキチンが結合することをユビキチン化という。

・ユビキチンは、76 個のアミノ酸からなるたんぱく質である。

・ユビキチン化の過程で ATPが消費される。

・プロテアソームは、ユビキチン化されたたんぱく質を円筒の中に取り込む。

・プロテアソームは、たくさんのサブユニットからなる巨大な円筒状のたんぱく質である。

・プロテアソームの内部には、ATP 依存性プロテアーゼ(エネルギーを消費して、たんぱく質のペプチ

ド結合を加水分解する酵素)を含んでいる。

(12)開口吸収(エンドサイトーシス)と開口分泌(エクソサイトーシス)

・開口吸収により、液や小さな物質で取り込むことを、飲作用という。

・開口吸収により、大きな粒子を取り込むことを、食作用という。

・開口分泌は、ホルモンや消化酵素を細胞外へ分泌する。

(13)細胞骨格

・細胞骨格は、たんぱく質からなる細胞内の線維状物質である。

・細胞骨格には、中間フィラメント、微小管、アクチンフィラメントがある。

・細胞骨格は、細胞の形態の維持、運動に関与する。

6.核酸とたんぱく質の合成

(1)核

・核は、二重の脂質二重層からなる核膜で包まれている。

・核膜には、多数の核膜孔があり、細胞質と核内で物質交換が行われている。

・核小体では、リボソーム RNA(rRNA)が合成される。

(2)核酸

・核酸は、ヌクレオシドは、塩基と糖が結合したものである。

・糖は、DNAではデオキシリボース、RNA ではリボースである。

・ヌクレオチドは、ヌクレオシドにリン酸が結合したものである。

・DNAの塩基は、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)である。

・RNAの塩基は、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、ウラシル(U)である。

・A と T、Gと Cが相補的な対を作る。

・DNA(デオキシリボ核酸)は、ヌクレオチドが鎖状につながり、2本のヌクレオチド鎖がらせん構造を

作ったものである。

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解剖生理学 要点整理ノート

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・ヌクレオソームは、ヒストン(塩基性たんぱく質)に DNAが巻きついたものである。

・クロマチン(染色質)は、ヌクレオソームが折りたたまれたものである。

・クロモソーム(染色体)は、クロマチンが高度に折りたたまれて凝縮したものである。

・クロモソームは、細胞が分裂するときに出現する。

・ヒトのクロモソームは、22対(44 本)の常染色体と 1対(2本)の性染色体(X、Y)からなる。

(3)遺伝子の発現とたんぱく質合成

1)遺伝子

・DNAの全塩基配列を、ゲノムという。

・ヒトゲノムは、約 30億塩基対からなる。

・ヒトゲノム計画により、ヒトの遺伝子は約 20,000個(全ゲノムの約 2%)であることがわかった。

2)転写

・転写とは、DNA上の塩基配列の情報を、RNA上の塩基配列の情報に写し取ることである。

・DNA上の遺伝子(塩基配列)を鋳型にして、RNAが合成される。

DNA 上の Aには U、Gには C、Cには G、Tには Aが対を形成して転写が行われる。

遺伝子上流には、転写を調節する部位(プロモーター領域)がある。

転写は、RNA ポリメラーゼがプロモーター領域に結合して始まる。

・転写された RNAは、スプライシングによりイントロンが除かれ、エクソンからなるメッセンジャーRNA

(mRNA)が生成する。

・合成された mRNAは、核膜孔を通って細胞質に存在するリボソームに移動する。

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解剖生理学 要点整理ノート

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3)翻訳

・翻訳とは、RNA上の塩基配列の情報を、アミノ酸配列の情報に書き換えることである。

・DNA 上の 3 つの塩基配列(トリプレット)が 1 種類のアミノ酸に対応しており、DNA から転写された

mRNA上のトリプレットをコドンという。

・mRNA のコドンに相補的なトランスファーRNA(tRNA)上のトリプレットをアンチコドンという。

・リボソームでは、mRNA の塩基配列に従い tRNA の作用でアミノ酸をペプチド結合で鎖状に連結してた

んぱく質を合成する。

・全 RNAに占める割合は、rRNA が約 80%、tRNAが約 15%、mRNA が約 5%である。

4)DNA の複製

・DNAは、半保存的に複製される。

・2 本鎖の DNAが複製されるときは、二重らせんがほどけて 1本鎖 DNAになる。

・それぞれの DNAの塩基配列を鋳型にして、相補的な DNA鎖が新たに作られる。

・1 つの複製開始点により二重らせんがほどける複製単位をレプリコンという。

・DNAを合成する酵素を、DNAポリメラーゼという。

・複製開始点には、プライマー(短い RNA鎖)が合成される。

・DNAポリメラーゼは、プライマーの 3′末端に続いて 5′→3′の方向へリーディング鎖を合成する。

・複製起点から逆方向へは、複数の短いラギング鎖(岡崎フラグメント)を合成することによって進む。

・DNAリガーゼは、DNAの断片をつないで連続した鎖にする。

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解剖生理学 要点整理ノート

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(5)細胞周期

間期

①DNA合成準備期(G1期、Gは gap間隙の意)

②DNAを複製する時期(S期、Sは synthesis合成の意)

③分裂準備期(G2期)

分裂期

(M期、Mは mitosis有糸分裂の意)

④前期 核消失、染色体出現

⑤中期 染色体が赤道面に並ぶ

⑥後期 染色体が両極に移動

⑦終期 核出現、細胞分裂

7.細胞膜

(1)細胞膜の構造

・細胞膜の基本構造は、リン脂質の親水性の部分を外側に、疎水性の部分を内側にした脂質二重層であ

る。

・細胞膜には、コレステロール、たんぱく質、糖鎖などが含まれている。(流動モザイクモデル)

・リン脂質を構成する脂肪酸が不飽和脂肪酸であると、細胞膜の流動性が増加する。

(2)細胞膜の機能

・選択的透過性(半透膜):細胞膜内外で濃度差を生成

・膜たんぱく質の主な機能

酵素 ・消化酵素、アンギオテンシン変換酵素など

受容体 ・ホルモン、神経伝達物質に対する受容体

輸送体 ・イオンチャネル、Na-Kポンプ、糖輸送担体など

抗原 ・細胞膜に存在する糖鎖は、脂質やたんぱく質と結合して存在し、血液型の抗原など

として機能する。

(3)細胞膜を介した物質移動

受動輸送

単純拡散 ・濃度勾配に従って、細胞膜を直接通過すること

・酸素、二酸化炭素、水など

促進拡散

・細胞膜を直接通過できない物質が、膜たんぱく質(輸送体)を介して、

濃度勾配に従って通過すること

・イオンチャンネル、グルコース・トランスポーター、Na依存性グルコ

ース・トランスポーターなど

能動輸送 ・ATPを消費して、濃度勾配に逆らって細胞膜を通過すること

・Na-Kポンプ(Na+-K+-ATPase)など

8.膜電位

静止電位

・細胞膜に存在する Na-Kポンプにより、Na+は細胞外へ、K+は細胞内へ移動する。

・静止状態の細胞膜では、Na+を通過させる電位依存性 Na チャネルは閉じているが、

K+を通過させる Kチャネルは開いている。

・細胞内の K+は、濃度勾配に従って細胞外へ移動する。

・その結果、細胞内の陽イオンが減少し、細胞膜の内外で電位差が生じる。(分極)

・細胞外の K+は、電位勾配に従って細胞内へ移動する。

・濃度勾配による移動と電位勾配による移動がつりあって、見かけ上 K+の移動がない

ようにみえるときの電位差を静止電位という。

・静止電位は、-60~-90mV である。

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解剖生理学 要点整理ノート

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活動電位

・神経細胞の細胞膜にあるアセチルコリン受容体は、Na チャネルでもある。(チャネ

ル型受容体)

・アセチルコリンが受容体に結合すると、Na チャネルが開いて細胞外の Na+が濃度勾

配および電位勾配にしたがって急速に細胞内へ流入する。

・その結果、細胞内外の電位差は減少(脱分極)する。

・電位依存性 Na チャンネルは、細胞内外の電位差が減少すると開く。

・脱分極がきっかけとなって、周囲の電位依存性 Na チャネルが開いて、大量の Na+が

流入して細胞内外の電位差が一過性に逆転することを活動電位という。

・その後 Naチャンネルは閉じて、Na-Kポンプの作用で再び静止電位に戻る。(再分極)

・アセチルコリン以外にも、さまざまな神経伝達物質が神経細胞を刺激して活動電位

を起こすことができる。

・Na+流入をひき起こす刺激の強さを閾値といい、刺激が閾値以下では活動電位は発生

せず、閾値を超えると活動電位が発生する。(全か無かの法則)

・活動電位が発生している経過中は、刺激を与えても反応しない。(不応期)

人体の構成 ( )人体でもっとも多い構成元素は、炭素である。 ( )人体でもっとも多い構成成分(分子)は、水(H2O)である。 ( )人体でもっとも多い無機質は、鉄(Fe)である。 ( )細胞外液でもっとも多い電解質は、カリウムイオン(K+)である。 ( )細胞内液でもっとも多い電解質は、カルシウムイオン(Ca2+)である。 ( )細胞内のたんぱく質濃度は、血漿中のたんぱく質濃度より低い。 ( )脂肪組織は、筋肉組織より水分を多く含む。

× ○ × × × ×

酸素 Ca Na+

K+

高い

細胞 ( )粗面小胞体では、脂質が合成される。 ( )滑面小胞体では、分泌たんぱく質や膜たんぱく質が合成される。 ( )リボソームは、DNA とたんぱく質で構成される。 ( )リボソームでは、mRNA が合成される。 ( )ゴルジ装置では、異物の加水分解が行われる。

× × × × ×

たんぱく質 脂質 RNA ペプチド

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解剖生理学 要点整理ノート

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( )ゴルジ装置の表面には、多数のリボソームが付着している。 ( )ゴルジ装置は、粗面小胞体で合成されたタンパク質を集積・加工・濃縮

する。 ( )ミトコンドリアには、固有の DNA が存在する。 ( )ミトコンドリアの DNA は、環状である。 ( )ミトコンドリア外膜には、電子伝達系の酵素が存在する。 ( )ミトコンドリアには、異物を分解する加水分解酵素が含まれている。 ( )中心体では、過酸化水素を産生する。 ( )中心体は、細胞質の異物を分解処理する。 ( )リソソームには、リボソームが付着している。 ( )リソソームでは、ATP が合成される。 ( )ペルオキシソームは、紡錘糸の合成中心になる ( )ペルオキシソームには、固有の環状 DNA が存在する。 ( )細胞骨格は、細胞の運動には関与しない。 ( )細胞骨格は、細胞の形態の維持に関与する。 ( )ペプチドホルモンは、開口吸収(エンドサイトーシス)によって分泌さ

れる。 ( )解糖は、細胞質で起こる。 ( )クエン酸回路は、細胞質にある。 ( )脂肪酸は、滑面小胞体で合成される。 ( )ステロイドホルモンは、ミトコンドリアで合成される。 ( )オートファジーは、リソソームで起こる。 ( )プロテアソームは、脂質を分解する。

× ○ ○ ○ × × × × × × × × × ○ × ○ × × × ○ ×

内膜 開口吸収(エク

ソサイトーシ

ス)

ミトコンド

リア 細胞質 滑面小胞体 たんぱく質

核と遺伝子 ( )核膜には、核膜孔がある。 ( )核小体では、メッセンジャーRNA(mRNA)が合成される。 ( )アデニンと相補的な塩基は、グアニンである。 ( )DNA では、アデニン(A)とグアニン(G)、チミン(T)とシトシン

(C)がそれぞれ相補的な対を形成する。 ( )転写直後の mRNA は、イントロンを含んでいる。 ( )成熟した mRNA は、エクソンを含む ( )mRNA を鋳型にしてペプチド鎖を合成することを、転写という。 ( )翻訳を行う酵素は、DNA ポリメラーゼである。 ( )転写を行う酵素は、RNA ポリメラーゼである。 ( )DNA を鋳型にして mRNA を合成することを、翻訳という。 ( )ヒトの染色体は、22 対(44 本)である。 ( )男性の性染色体は、XX である。

○ × × × ○ ○ × × ○ × × ×

rRNA A-T、G-C 翻訳 リボソーム 転写 23 対 46 本 XY

細胞膜 ( )細胞膜は、脂質三重層でできている。 ( )細胞膜には、たんぱく質は含まれていない。 ( )細胞膜には、ホルモンに対する受容体がある。 ( )グルコースは、グルコーストランスポーターを介して、細胞膜を通過す

る。 ( )細胞膜には、二酸化炭素の輸送体がある。 ( )ナトリウムイオン(Na+)は、細胞膜を自由に通過する。 ( )静止電位では、細胞内外の K+の濃度勾配と電気的勾配が釣り合ってい

× × ○ ○ × × ○

脂質二重層 イオンチャ

ネル

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解剖生理学 要点整理ノート

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る。 ( )静止状態では、Na+濃度は、細胞外より細胞内の方が高い。 ( )活動電位が発生すると、細胞外に対して細胞内の電位は負になる。 ( )活動電位は、K+が細胞内に流れ込むことによって生じる。

× × ×

外>内 正 Na+

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解剖生理学 要点整理ノート

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2.組織の構造と機能

1.組織の構成と種類

・組織とは、特定の構造・機能をもった細胞同士が集まって、一定の構造・機能を有する有機体を構成

したものである。

・組織は、細胞と細胞外基質によって構成されている。

・組織は、上皮組織、支持組織、筋組織、神経組織の 4種類に分類される。

・細胞と細胞外基質の量的比率は、組織の種類によって大きく異なる。

・器官(臓器)は、4種類の組織が集まって形成される。

2.上皮組織

(1)上皮組織の構成要素

・上皮組織は、体表面、管腔(腸、気管、尿管など)の内面、体腔(胸腔、腹腔など)の表面を覆う組

織である。

・上皮組織と結合組織が接する面には、Ⅳ型コラーゲンやラミニンでできた基底膜が存在する。

・基底膜には、上皮組織を結合組織につなぎとめるだけでなく、バリア、フィルター、上皮組織再生の

足場などの機能がある。

・上皮細胞には、極性がある。

体表面や体腔に面する方を自由面、その反対側の基底膜に接する面を基底面という。

・上皮組織は、上皮細胞が石垣のように密着して形成されるので、細胞間基質は、きわめて少ない。

タイト結合 ・自由面近くで細胞を密着させ、物質が細胞間隙を通り抜けるのを防ぐ。

接着結合 ・細胞同士をつなぎとめるための補強装置。細胞全周を帯状に取り巻いている。

接着斑 ・細胞同士をつなぎとめるための補強装置。円盤状の構造をしている。

ギャップ結合 ・細胞間のイオンの交換が行われ、細胞間の情報伝達に使われる。

(2)上皮組織の形態による分類

単層扁平上皮

・単層扁平上皮は、扁平な細胞が一層に並んだものである。

・代表例:胸腔、腹腔、心膜腔など体腔の上皮(中皮という)、血管の内腔の

上皮(血管内皮という)、肺胞上皮など

重層扁平上皮

・重層扁平上皮は、扁平な細胞が多層に積み重なったものである。

・代表例:皮膚の上皮、口腔内・食道の上皮、尿道の出口付近、膣上皮、角膜

上皮など

・皮膚の上皮表層には、ケラチンを多量に含む角質層(細胞の死骸の層、角化)

がある。

・食道の上皮は、角化しない。

単層立方上皮 ・単層立方上皮は、立方体の細胞が一層に並んだものである。

・代表例:甲状腺の濾胞上皮、腎臓の尿細管など

単層円柱上皮

・単層円柱上皮は、円柱状の丈の高い細胞が一層に並んだものである。

・代表例:胃、腸の粘膜上皮、子宮や卵管の上皮など

・小腸、大腸の円柱上皮では、表面積を大きくするため、微絨毛がある。

「絨」:ネル、ラシャ、ビロードなど細かい毛が密集した織物のこと

・線毛を持つ上皮細胞(子宮や卵管の上皮)を、円柱線毛上皮という。

多列上皮

・多列上皮は、単層の上皮組織である。

丈の高い細胞と低い細胞があり、低いものは表面に達しないために多層の

上皮組織に見える。

・代表例:鼻腔・気管の上皮、精管の上皮など

線毛を持つものを、多列線毛上皮という。

・線毛の運動により、異物を排泄する。

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解剖生理学 要点整理ノート

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移行上皮

・移行上皮は、細胞の変形により十数層の厚い層から 2~3 層の薄い層に移行

するものである。

・移行上皮は、すべての細胞が基底膜に足をつけていることから、多列上皮の

一種である。

・代表例:腎盂、尿管、膀胱、尿道の一部など

(3)上皮組織の機能による分類

被蓋上皮 ・被蓋上皮は、皮膚、粘膜など、臓器の表面を覆い、保護するものである。

腺上皮

・腺上皮は、上皮組織が結合組織の中に落ち込んで、分泌物を分泌するように分化

したものである。

・外分泌腺は、分泌物(汗、消化酵素など)を導管を介して体外に分泌する。

・肝臓と膵臓は、小腸の上皮組織が落ち込んでできた巨大な外分泌腺である。

・内分泌腺は、分泌物(ホルモン)を血液中に分泌する。

・ランゲルハンス島は、小腸の上皮組織が落ち込んで導管を失った内分泌腺であ

る。

吸収上皮 ・吸収上皮は、消化管の上皮など、吸収機能を有する被蓋上皮である。

感覚上皮 ・感覚上皮は、味を感じる味細胞や音や体に位置を感じる内耳の線毛上皮細胞な

ど、外界の情報を知覚するように上皮細胞が分化したものである。

呼吸上皮 ・呼吸上皮は、肺胞の上皮で酸素と二酸化炭素のガス交換を行う上皮である。

3.支持組織

(1)結合組織

・結合組織は、器官や各組織の間にあって支持、結合、すき間の充填、分画などの役目を果たしている。

・結合組織は、細胞成分に比べて、細胞外基質の割合が多い。

・細胞外基質は、間質ともいう。

・間質を満たす水分を、間質液または組織液という。

1)細胞成分

線維芽細胞 ・コラーゲン線維など、細胞外基質の線維成分を分泌する。

脂肪細胞 ・中性脂肪(トリグリセリド)を蓄える。

マクロファージ ・細菌や異物を貪食して消化する。

リンパ球 ・免疫反応に関与する。

肥満細胞 ・ヒスタミン、プロスタグランジンなど化学伝達物質を多く含む大型の細胞

で、アレルギー反応に関与する。

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解剖生理学 要点整理ノート

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2)細胞外基質(間質)

・細胞外基質は、線維成分とその間を埋める基質からなる。

・線維成分には、コラーゲン線維(膠原線維)、弾性線維、細網線維などがある。

・コラーゲンは、グリシン、プロリン、ヒドロキシプロリンを主成分とする 3 本のペプチド鎖がらせん

状構造をなしているものである。

・ビタミン Cは、プロリンからヒドロキシプロリンを生成する酵素活性に必要である。

ビタミン Cが不足すると、結合組織の生成が障害され壊血病になる。

Ⅰ型コラーゲン ・もっとも多い。結合組織、骨組織、歯の象牙質に多く存在する。

Ⅱ型コラーゲン ・軟骨組織に多く存在する。

Ⅲ型コラーゲン ・胎児の血管や皮膚、細網線維に多く存在する。

Ⅳ型コラーゲン ・基底膜の主成分である。

・弾性繊維は、エラスチンを含み、伸び縮みする。

・基質には、たんぱく質、多糖類、塩類、間質液(組織液ともいう)などが含まれている。

3)結合組織の種類

線維性結合組織

・強靭結合組織ともいう。

・コラーゲン線維が多い。

・腱、真皮、髄膜など

疎性結合組織 ・細胞と線維が少なく、基質が多い。

・皮下組織、粘膜下組織など

弾性組織 ・弾性線維が多い。

・大動脈壁など

細網組織 ・細網細胞とそれが分泌する細網線維(細かなコラーゲン線維)からなる。

・リンパ組織、骨髄、脾臓など

脂肪組織

・脂肪細胞が大部分を占める。

・間質は、細網線維からなる。

・エネルギーの貯蔵作用、体温を保つ断熱作用、内臓を衝撃から保護するクッ

ションの作用などの役割を果たす。

(2)軟骨組織

1)細胞成分

・軟骨組織の細胞成分は、軟骨細胞である。

2)細胞外基質

・軟骨組織の細胞外基質は、軟骨基質と線維成分で構成される。

・軟骨基質は、ゴムに似たゲル状のプロテオグリカンである。

プロテオグリカンとは、芯になるペプチド鎖にムコ多糖類(ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸な

ど)が多数結合したゼリー状の物質である。

・線維成分には、コラーゲン線維(Ⅱ型コラーゲンを多く含む)と弾性線維がある。

3)軟骨組織の種類

硝子軟骨

・プロテオグリカンを多く含む。

・関節軟骨や気管軟骨などを作る。

・硝子軟骨には原則として血管はないが、肋軟骨など大きなものでは血管が侵入

することがある。

弾性軟骨 ・弾性線維を多く含む。

・耳介軟骨や鼻軟骨、喉頭蓋軟骨などを作る。

線維軟骨 ・コラーゲン線維を多く含む。

・椎間円板や恥骨結合などを作る。

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解剖生理学 要点整理ノート

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(3)骨組織

1)細胞成分

・骨組織の細胞成分は、骨芽細胞、骨細胞、破骨細胞である。

2)細胞外基質

・骨組織の細胞外基質は、コラーゲン線維とその間を満たす基質で構成される。

・基質の主成分は、リン酸 Caである。

・リン酸 Caは、ヒドロキシアパタイト Ca10(PO4)6(OH)2として沈着する。

・Caは、体内でもっとも多い無機質で、体重の 2%を占める。

・体内の Caの 99%は、骨に存在する。

3)骨単位((ハバース系)

・骨単位は、血管が通るハバース管と、その周囲に同心円状に配列する骨層板(ハバース層板)で構

成される。

・ハバース管を持たない骨層板を介在層板という。

・ハバース管と垂直方向に走行し、骨層板に包まれていない管をフォルクマン管という。

4.筋組織

(1)骨格筋組織

・骨格筋組織は、筋束とそれに付随する結合組織(筋膜)、血管、神経からなる。

・筋束は、筋線維が束になったものである。

・筋線維は、直径 20~100m、長さ数 cm の巨大な骨格筋細胞であり、多数の核を持つ。

・筋線維の細胞膜は、筋鞘と呼ばれる。

・筋線維は、直線状で、舌筋など一部を除いて枝分かれすることはない。

・筋線維内には、数百から数千の筋原線維の束がある。

・筋原線維は、ミオシンフィラメントとアクチンフィラメントが束になってできている。

ミオシンフィラメントは、ミオシンが重合してできる。

アクチンフィラメントは、アクチンが重合してできる。

・筋原線維の収縮単位を、筋節という。

アクチンフィラメントより、ミオシンフィラメントの方が太い。

ミオシンフィラメントの間にアクチンフィラメントが滑り込むことにより筋肉は収縮する。

・筋線維の横紋は、筋節が規則正しく並んで作られる。

骨格筋組織の筋線維は、横紋筋である。

・電子顕微鏡像

Z帯 ・アクチンフィラメントが付着している。Z帯と Z帯の間を筋節という。

I帯 ・A 帯の両側の明るい部分で、アクチンフィラメントのみ存在する

A帯

・ミオシンフィラメントが存在する部位に相当する。

・アクチンフィラメントがミオシンフィラメントの間に滑り込んでいる部分は暗くなり横

紋を形成する。

H帯 ・A 帯の中央部で周囲に比べ明るい部分で、ミオシンフィラメントのみ存在する。

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解剖生理学 要点整理ノート

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・骨格筋組織は、意思により収縮させることができる随意筋である。

・骨格筋組織には、運動神経と知覚神経が分布している。

(2)心筋組織

・心筋組織は、心筋細胞が介在板を介して網状につながっている。

・心筋細胞の中央には、核が 1~2個ある。

・心筋細胞は、横紋筋である。

・心筋細胞は、ギャップ結合でつながっており、1 個のへ心筋細胞が興奮すると、次々に周りの心筋細

胞も興奮する。

・心筋は、意思の制御を受けない不随意筋である。

・自律神経が分布している。

(3)平滑筋組織

・平滑筋組織は、平滑筋細胞で構成されている。

・平滑筋細胞は、核を 1つ持つ、細長い紡錘状の細胞である。

・長軸方向に筋原線維(アクチンフィラメントとミオシンフィラメント)が配列しているが、規則性に

乏しく横紋構造は見られない。

・横紋筋に比べて、収縮は緩やかである。

・平滑筋細胞は、ギャップ結合でつながっており、1 個のへ平滑筋細胞が興奮すると、次々に周りの平

滑筋細胞も興奮する。

・平滑筋は、意思の制御を受けない不随意筋であり、自律神経が分布している。

・平滑筋組織は、消化管、気管、血管、尿管など、主に内臓の筋肉組織を構成している。

(4)括約筋

・括約筋は、虹彩や管腔臓器の特定の場所で、輪状に配列している。

・管腔臓器では、括約筋の収縮と弛緩により、物質の通過をコントロールする。

・括約筋の多くは、平滑筋(瞳孔括約筋、下部食道括約筋、幽門括約筋、オッディの括約筋、内肛門括

約筋、内尿道括約筋など)である。

・横紋筋からなる括約筋は、外肛門括約筋、外尿道括約筋、上部食道括約筋の 3つである。

・食道の上部約 1/4 は、すべて横紋筋であるが、下部に行くに従い横紋筋が減少して平滑筋優位になり、

食道の下部約 1/4ではすべて平滑筋である。

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5.神経組織

(1)ニューロンの構成

・神経組織を構成する機能単位を、ニューロンという。

・ニューロンは、神経細胞体と突起からなる。

単極ニューロン ・突起が 1本のニューロン

双極ニューロン ・突起が 2本のニューロン

偽単極ニューロン ・2 本の突起が起始部で合わさった 1 本の突起が 2 つの分岐したように見え

るニューロン(実態は双極ニューロン)

多極ニューロン ・突起が 3本以上のニューロン

・突起には、樹状突起、軸索がある。

樹状突起 ・他のニューロンからの興奮を受け取り、細胞体へ興奮を伝導する。

・複数の突起が、木の枝のように枝分かれした形状をしている。

軸索

・細胞体から軸索の末端(神経終末)へ興奮を伝導する。

・原則として、1つのニューロンから出る軸索は 1本である。

ただし、双極ニューロンと偽単極ニューロンの樹状突起が枝分かれする前の1本

の長い部分を軸索(末梢から細胞体へ興奮を伝導する)と呼ぶことがある。

・一般に、軸索は末端で枝分かれして、複数のニューロンや臓器に分布している。

(2)軸索の構造

・軸索は、神経鞘(シュワン鞘)に包まれている。

・軸索には、髄鞘(ミエリン鞘)を有する有髄神経線維と、有さない無髄神経線維がある。

有髄神経線維 運動神経、知覚神経、自律神経の節前線維など

無髄神経線維 知覚神経のうち痛覚線維、自律神経の節後線維など

・中枢神経の髄鞘は、稀突起グリア細胞が軸索に巻きついて作られる。

・末梢神経の髄鞘は、シュワン細胞の細胞膜が軸索に巻きついて作られる。

・髄鞘が途切れたところを、ランヴィエ絞輪という。

(3)シナプスの構造

・軸索の末端(神経終末)は、他の神経細胞や筋細胞とシナプスによりつながっている。

・軸索の末端の細胞膜(シナプス前膜)と他の神経細胞や筋細胞の細胞膜(シナプス後膜)の間は、シ

ナプス間隙がある。

・シナプス間隙では、神経伝達物質により刺激が伝達される。

・1 本の軸索は、枝分かれして、複数のシナプスを形成する。

6.グリア細胞

・グリア細胞は、神経細胞を保護・支持する細胞である。

・近年、神経活動そのものにも影響することが知られている。

星状グリア細胞 ・ニューロンと血管の間に存在し、ニューロンに栄養を渡すことにより、血

液脳関門を形成する。

稀突起グリア細胞 ・中枢神経の軸索の髄鞘を形成する。

小グリア細胞 ・老廃物や損傷を受けた神経細胞を除去する。

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解剖生理学 要点整理ノート

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7.上皮性の膜と体腔

(1)上皮性の膜

・上皮性の膜には、粘膜と漿膜がある。

粘膜

・粘膜上皮、粘膜固有層、粘膜筋板、粘膜下層からなる。

・粘膜は、消化管、鼻腔、尿管、膀胱などの内面を覆う。

・粘膜の表面は、粘り気のある粘液で覆われている。

漿膜

・漿膜上皮(単層扁平上皮)とその下の薄い結合組織からなる。

・漿膜は、心臓、肺、胃、腸、肝臓など内臓の臓器の表面や、体壁(胸壁や腹壁)の内面

を覆う。

・漿膜の表面は、さらさらした漿液で覆われている。

*漿:米を煮た汁のこと。医学用語では、さらさらした液体(漿液)を表す。

(2)体腔

・体腔は、漿膜で囲まれた閉じた空間である。

・臓器の表面を被う漿膜を臓側葉(臓側漿膜)という。

・体壁の内面を被う漿膜を壁側葉(壁側漿膜)という。

・臓側漿膜と壁側漿膜は連続した膜であり、体腔を形成する。

心膜腔:臓側心膜、壁側心膜

胸腔:臓側胸膜、壁側胸膜

腹腔:臓側腹膜、壁側腹膜

・体腔の内部には、潤滑油として少量の漿液が存在している。

組織 ( )上皮組織では、細胞間基質が多い。 ( )上皮組織と結合組織の間には、基底膜が存在する。 ( )基底膜は、細胞膜でできている。 ( )重層扁平上皮には、血管が侵入している。 ( )血管内腔の上皮は、円柱上皮である。 ( )口腔の粘膜上皮は、単層扁平上皮である。 ( )食道の粘膜上皮は、重層扁平上皮である。 ( )食道の上皮は、移行上皮である。 ( )小腸の粘膜上皮は、円柱上皮である。 ( )小腸の上皮には、線毛がある。 ( )甲状腺の濾胞上皮は、多列上皮である。 ( )腎臓の尿細管上皮は、移行上皮である。 ( )卵管の上皮には、線毛が存在する。 ( )胸腔を構成する上皮は、粘膜である。 ( )外分泌腺は、ホルモンを分泌する。 ( )肥満細胞には、中性脂肪が蓄えられている。 ( )コラーゲン線維の合成には、ビタミン C が必要である。 ( )硝子軟骨の基質は、コラーゲン線維にリン酸カルシウムが沈着してでき

る。 ( )骨基質の主成分は、炭酸カルシウムである。 ( )骨単位は、フォルクマン管とその周囲に同心円状に配列する骨層板から

構成される。 ( )骨格筋細胞は、単核の細胞である。 ( )骨格筋細胞内には、筋線維の束がある。 ( )骨格筋組織には、知覚神経は分布していない。

× ○ × × × ○ ○ × ○ × × × ○ × × × ○ × × × × × ×

少ない コラーゲン 単層扁平上皮

微絨毛 立方上皮 立方上皮 漿膜 化学伝達物質

プロテオグ

リカン リン酸カル

シウム ハバース管 多核 筋原線維

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解剖生理学 要点整理ノート

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( )心筋細胞には、核が 1~2 個ある。 ( )心筋組織には、自律神経が分布している。 ( )心筋細胞には、運動神経が分布している。 ( )心筋細胞は、ギャップ結合でつながっている。 ( )平滑筋細胞は、ギャップ結合でつながっている。 ( )平滑筋では、横紋構造がみられる。 ( )外尿道括約筋は、平滑筋である。 ( )外肛門括約筋は、平滑筋である。

○ ○ × ○ ○ × × ×

横紋筋 横紋筋

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解剖生理学 要点整理ノート

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3.消化器系の構造と機能

1.口腔

(1)舌

・舌の粘膜上皮は、重層扁平上皮である。

・舌表面には、舌乳頭(糸状乳頭、茸状乳頭、葉状乳頭、有郭乳頭)がある。

・味蕾は、茸状乳頭の上面、葉状乳頭および有郭乳頭の側面の、上皮組織内に存在している。

・糸状乳頭の表面は、角化しており、味蕾はない。

・舌の筋肉は、横紋筋(骨格筋)である。

・舌の横紋筋線維は、縦横に交差して走行している。

(2)歯

・永久歯は、32本(切歯 2×4、犬歯 1×4、小臼歯 2×4、大臼歯 3×4)ある。

・乳歯は、大臼歯を除く 20本である。

・歯根は、切歯・犬歯では 1本であるが、小臼歯では 1~2本、大臼歯では 2~3本にわかれている。

・歯の上部の表面は、エナメル質でおおわれている。

・歯根は、セメント質でおおわれている。

・エナメル質とセメント質の内部には、象牙質がある。

・エナメル質・セメント質・象牙質に沈着する無機質の主成分は、リン酸 Caである。

・象牙質の内部には、歯髄があり、歯根部から血管と神経が侵入している。

・セメント質と歯槽骨の間には、歯根膜(結合組織)がある。

(3)唾液腺

・3 つの大唾液腺は、耳下腺、舌下腺、顎下腺である。

・耳下腺の導管は、口腔前庭(上顎第 2大臼歯に向かい合う部位)に開口する。

・顎下腺の導管は、舌下小丘に開口する。

・舌下腺の導管は複数あり、最前の 1本は顎下腺管と合流して舌下小丘に開口し、その他は舌下ひ

だに開口している。

・小唾液腺は、口腔粘膜に散在している。

・唾液腺は、唾液を分泌する。

・唾液の成分

α‐アミラーゼ(プチアリン) ・多糖類のα−1,4結合を加水分解する。

粘液 ・ムチンと呼ばれる粘性の糖たんぱく質

リゾチーム ・細菌の細胞壁の糖鎖を切断する酵素

免疫グロブリン ・IgA

・副交感神経は、アミラーゼとムチンを含む薄い唾液を大量に分泌させる。

顔面神経→舌下腺と顎下腺、舌咽神経→耳下腺

・交感神経も、唾液分泌を刺激するが、血管収縮作用により血流が減少するので水分の少ない濃い唾液

が分泌される。

2.咽頭

・咽頭は、鼻腔、口腔、喉頭、食道の間をつなぐ部分で、食物と空気の通路になっている。

・鼻腔と咽頭の境界は、後鼻孔である。

・口腔と咽頭の境界は、口峡である。

・口峡には、扁桃がある。

扁桃とは、皮下に多数のリンパ小節を有するリンパ組織である。

口峡には、口蓋扁桃、咽頭扁桃、舌扁桃が、輪状に並んでいることから、ワルダイエル輪という。

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3.嚥下

第 1期(先行期)

(随意運動)

・食物を口に入れる前の時期である。

・視覚・触覚・嗅覚により食物を認知し、食べるものの選択、量の決定をす

る。

第 2期(準備期)

(随意運動)

・捕食と咀嚼を行う時期である。

・捕食には、口唇による取り込みと前歯による裁断が重要である。

・咀嚼(臼歯の運動)により食物と唾液を混和する。

・咀嚼筋群には、咬筋、側頭筋、内側翼突筋、外側翼突筋がある。

第 3期(口腔期)

(随意運動)

・飲み込みやすい食塊を形成し、咽頭へ送るまでの時期をいう。

・口腔の前方から舌を口蓋に押し付けながら食塊を後方に送る。

第 4期(咽頭期)

(不随意運動)

・嚥下反射により、咽頭の食塊を食道入口に送り込む時期である。

・嚥下反射は、食塊が咽頭粘膜を刺激することによって起こる。

・嚥下反射では、軟口蓋の上昇による鼻腔との連絡遮断、喉頭筋群の収縮に

よる声門の閉鎖、呼吸の一時停止、輪状咽頭筋の弛緩による食道入口の拡

大などが起こる。

・輪状咽頭筋は、上部食道括約筋として働いている。

・嚥下反射に関わる筋肉は、すべて横紋筋である。

・嚥下中枢は、延髄にある。

第 5期(食道期)

(不随意運動)

・食道に侵入した食塊を胃に移送する時期である。

・食道壁の蠕動運動によって、食物の移送が促進される。

4.食道

・食道は、咽頭につ続き胃につながる約 25㎝の消化管である。

・食道は、粘膜・筋層・外膜の 3層構造である。

粘膜 ・粘膜上皮は、重層扁平上皮であるが、角化しない。

筋層

・上部約 1/4は、すべて横紋筋であるが、下部に行くに従い横紋筋が減少して平滑筋優位

になり、食道の下部約 1/4ではすべて平滑筋である。

・下端には下部食道括約筋があり、胃の噴門からの逆流を防いでいる。

外膜 ・結合組織でできており、漿膜はない。

・食道には、3か所の生理的狭窄部位(食道入口部、気管分岐部、食道裂孔部)がある。

5.胃

(1)構造

・胃の入口を噴門といい、出口を幽門という。

・胃の上縁を小弯、下縁を大弯といい、小弯の最も深く弯入したところを角切痕という。

・噴門の高さを越えて上方に膨隆する部分を胃底、角切痕から幽門までを幽門部、胃底と幽門部の間を

胃体という。

・胃壁は、粘膜・筋層・漿膜の三層構造である。

・粘膜は、粘膜上皮(単層円柱上皮)、粘膜固有層、粘膜筋板、粘膜下組織に分けられる。

・体部では胃小窩という多数の窪みが存在し、胃腺を形成している。

・胃腺は、胃液を分泌する。

主細胞 ・ペプシノーゲンと胃リパーゼを分泌する。

壁細胞 ・胃酸と内因子を分泌する。

副細胞 ・粘液を分泌する。

・幽門部には、幽門腺(粘液とペプシノーゲンを分泌)が存在する。

・筋層は、斜走筋(内側)・輪走筋(中間)・縦走筋(外側)の三層からなる。

・幽門部では斜層を失って輪走筋と縦走筋の二層となる。

・幽門では、内輪層が著しく発達して幽門括約筋を形成する。

・漿膜は、胃の表面を覆う臓側腹膜で構成されている。

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解剖生理学 要点整理ノート

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(2)胃液

胃酸

・酸性(pH 1.0~2.5)による殺菌作用

・たんぱく質分解作用

・ペプシノーゲンをペプシン(活性型)に変換する。

・Fe、Caをイオン化により溶解して、十二指腸での吸収を促進する。

ペプシノーゲン

・胃酸によりペプシン(活性型)となり、たんぱく質のペプチド結合を加水

分解する。

・ペプシンの酵素活性の至適 pHは、1.6~3.2である。

粘液

・ムチン(粘性の糖タンパク)を含む。

・胃粘膜上皮細胞から分泌される重炭酸イオンとともにゲル状構造を形成

し、胃粘膜を胃酸とペプシンによる自己消化から保護する。

重炭酸イオン

・胃粘膜上皮細胞から分泌される。

・ムチンとともに、胃粘膜上皮を保護する粘液バリアを形成する。

・胃酸を中和する。(H++HCO3-→H2CO3)

内因子

・キャッスル内因子ともいう。

・壁細胞より分泌される糖たんぱく質である。

・ビタミン B12と結合して、ビタミン B12の吸収(回腸)を促進する。

その他 ・胃リパーゼ(膵リパーゼに比べて量的に少なく、生理的意義は乏しい)

・Na+、K+、Mg2+などの電解質

(3)胃液分泌の調節

頭相

・思考、視覚、嗅覚、味覚などの刺激が、迷走神経(副交感神経)を介して、壁細胞を刺

激することにより、胃酸分泌を促進する。

・副交感神経の神経伝達物質は、アセチルコリンである。

・アセチルコリンは、壁細胞のムスカリン受容体に結合して胃酸分泌を促進する。

・迷走神経は、G細胞にも作用してガストリンの分泌を促進する。

胃相

・食物による胃の拡張が、迷走神経の活動を刺激する。

・食物に含まれるたんぱく質(特に肉汁)が、ガストリンの分泌を促進する。

・幽門部の粘膜上皮に、ガストリンを分泌する G細胞がある。

・ガストリンは、壁細胞を直接刺激して胃液分泌を促進する。

・ガストリンは、ECL 細胞を刺激して、ヒスタミンを分泌させる。

・ヒスタミンは、壁細胞を刺激して胃液分泌を促進する。

腸相

・十二指腸に進入した胃酸は、S細胞を刺激して、セクレチンの分泌を促進する。

・セクレチンは、G細胞と壁細胞に作用して胃酸分泌を抑制する。

・その他、十二指腸から分泌されるコレシストキニン(cholecystkinin, CCK)や胃酸分

泌抑制ペプチド(gastric inhibitory polupeptide, GIP)も胃酸分泌を抑制する。

・セクレチン、CCK、GIPを総称して、エンテロガストロンという。

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解剖生理学 要点整理ノート

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6.小腸と大腸

(1)構成

・小腸は、十二指腸、空腸(前 2/5)、回腸(後ろ 3/5)からなる。

・小腸の長さは、6~7mである。

・大腸は、盲腸、結腸(上行・横行・下行・S状)・直腸からなる。

・大腸の長さは、約 1.5mである。

(2)腸管壁の 3層構造(粘膜、筋層、漿膜(一部外膜))

1)粘膜の構造

・小腸粘膜には、輪状ヒダがある。と

・小腸粘膜には、管腔内に突出した絨毛がある。

輪状ヒダと絨毛が発達している部分では、表面積が大きくなっている。

絨毛は、十二指腸と空腸上部で発達している。

・粘膜は、粘膜上皮、粘膜固有層、粘膜筋板、粘膜下組織からなる。

・粘膜上皮は、単層円柱上皮である。

・粘膜上皮の管腔面には、微絨毛からなる刷子縁が存在する。

・粘膜上皮が、粘膜内に落ち込んだ部分を、腸陰窩という。

・腸陰窩は、腸腺(リーベルキューン腺)を形成する。

・腸腺から分泌される腸液には、粘液と電解質溶液が含まれるが、消化酵素はない。

・陰窩の中央部には、粘膜上皮の幹細胞が存在し、細胞分裂により増殖している。

・増殖した細胞は絨毛の先端まで移動し、脱落する。

・粘膜上皮の寿命は、約 6日である。

・陰窩の底部には、パネート細胞がある。

・パネート細胞は、抗菌作用のあるたんぱく質(リゾチームやデフェンシン)を分泌する。

・十二指腸の陰窩には、粘膜下組織の十二指腸腺(ブルンネル腺)につながっているものある。

・十二指腸腺は、粘液を分泌する。

・腸管壁の粘膜には、リンパ小節が集まったパイエル板がある。

・大腸粘膜には、半月ヒダがあるが、絨毛はない。

2)筋層

・筋層には、内輪走筋と外縦走筋の二層がある。

・筋層を構成する筋肉は、平滑筋である。

・結腸ヒモは、大腸の縦走する平滑筋が集合したものである。

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解剖生理学 要点整理ノート

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3)漿膜(腹膜)と外膜

・筋層の外側は、漿膜で包まれている。

・漿膜は、腸間膜に続き、後腹壁に吊り下げられている。

・空腸、回腸、横行結腸、S状結腸は、全体が漿膜で包まれている。

・十二指腸、上行結腸、下行結腸、直腸は、前面が漿膜で包まれ、後面は後腹壁の結合組織に移行する。

・漿膜がなく、結合組織で包まれている部分を外膜という。

・腸間膜には、腸に分布する血管と神経線維が通っている。

・腸間膜には、脂肪組織があり、腸間膜に蓄積する脂肪を内臓脂肪という。

・消化管を包む漿膜を腹膜(臓側腹膜)という。

・臓側腹膜は、壁側腹膜とつながり腹腔を形成する。

・腹腔内には、少量の漿液(潤滑油として働く)が存在する。

(3)主な栄養素の消化と吸収

・糖質、脂質、アミノ酸、電解質、ビタミン、水など大部分の栄養素は小腸上部(空腸)で吸収される。

・ビタミン B12は、内因子と結合した形で、回腸で吸収される。

・大腸では、残りの水と電解質が吸収される。

・微絨毛には、二糖類とペプチドを分解する酵素が存在する。(膜消化)

・微絨毛には、単糖類やアミノ酸を細胞内にとり込む輸送担体が存在する。

・グルコースは、Na と共輸送される輸送担体(SGLT1, sodium-dependent glucose transporter)によ

り、速やかに細胞内に吸収される。

・ショ糖(グルコース+フルクトース)の膜消化により生成するフルクトースは、濃度勾配にしたがっ

た促進輸送(GLUT5, glucose transporter 5)であり、グルコースの吸収より緩やかである。

(4)腸管運動の調節

・腸管運動には、振り子運動、分節運動、蠕動運動がある。

自律神経 副交感神経 ・腸管運動を促進する。

交感神経 ・腸管運動を抑制する。

腸管神経叢 アウエルバッハ神経叢 ・筋層に存在し、主に腸管運動を調節する。

マイスネル神経叢 ・粘膜下に存在し、主に腸液の分泌を調節する。

(5)腸内細菌叢

・腸内には、大腸菌、ビフィズス菌など 100~1,000種類、100兆個、1~1.5kgの細菌が存在する。

・食物繊維、難消化性オリゴ糖、糖アルコール、レシスタント・スターチなどは、大腸の腸内細菌によ

って発酵を受け、短鎖脂肪酸、炭酸ガス、水素ガス、メタンガスなどを生成する。

・短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸など)は、体内に吸収され、エネルギー源として利用される。

・発酵・吸収により利用されるエネルギー量は、約 2㎉/ℊである。

・腸内細菌は、ビタミン Kを産生する。

・近年、腸内細菌叢の変化が、肥満、メタボリックシンドローム、動脈硬化症など生活習慣病と関連す

る可能性があることが指摘されている。

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解剖生理学 要点整理ノート

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*腸内細菌叢が宿主に与える影響(仮説であり、健康食品等の効果を証明するものではない)

・外来微生物の増殖を抑制し、腸内環境を維持する。

・宿主が消化できないものを消化し、宿主が利用できるようにする。

・宿主が吸収するエネルギー量を調節する。

・宿主に必要なビタミン(K、B2、B6、ビオチン、ナイアシン、葉酸など)を供給する。

・ビリルビン、胆汁酸を代謝する。

・菌体成分が免疫細胞に結合して、免疫系を活性化する。

・神経伝達物質の産生や短鎖脂肪酸による神経系に刺激により、神経系を活性化する。

・インスリン分泌や食欲に関係するホルモンの分泌を促進し、内分泌系を活性化する。

(6)排便反射

・排便反射の中枢は、仙髄に存在する。

・通常、排便反射は、大脳皮質からの神経線維により抑制されている。

・排便反射

・直腸に便が蓄積→直腸壁伸展→便意

→骨盤神経(副交感神経)→直腸の収縮+内肛門括約筋(平滑筋)の弛緩

→陰部神経(運動神経)→外肛門括約筋(骨格筋)の弛緩

→排便

7.膵臓

(1)構造

・膵臓は、胃の後ろにあって後腹壁に密着している。

・膵臓の前面は腹膜におおわれているが、後面は結合組織に移行する。

・膵臓は、横に細長い実質臓器で、右側の十二指腸に接する部分を膵頭、それに続く中央部を膵体、左

端部を膵尾と呼ぶ。

・膵臓は、十二指腸の粘膜上皮が陥入してできた巨大な分泌腺(外分泌腺と内分泌腺)である。

・膵臓の導管は、主膵管と副膵管の 2本がある。

・主膵管は、総胆管と合流して大十二指腸乳頭(ファーター乳頭)に開く。

・副膵管は、おもに膵頭の膵液を集め、総胆管の開口部よりやや上方(小十二指腸乳頭)に開く。

・膵液は、1日に約 1,500 ㎖分泌される。

・副交感神経による刺激は、膵外分泌腺の分泌を促進する。

(2)外分泌腺

腺房細胞

・消化酵素を分泌する。

・主な消化酵素:トリプシン→たんぱく質を分解

キモトリプシン→たんぱく質を分解

エラスターゼ→たんぱく質(弾性繊維)を分解

カルボキシペプチダーゼ→たんぱく質を分解

αアミラーゼ→多糖類を分解

リパーゼ→中性脂肪を分解

・たんぱく質分解酵素は、活性を持たないプロ酵素として分泌される。

・プロ酵素は、エンテロキナーゼによって活性化される。

・エンテロキナーゼは、小腸上皮細胞で合成され、微絨毛の表面に存在する

・コレシストキニン(CCK, cholecystokinin)は、消化酵素の分泌を促進する。

・腺房細胞内で合成されたプロ酵素は、チモーゲン顆粒として濃縮、貯蔵され、

CCKの刺激により腺房内に分泌される。

・CCKは、食物中の脂肪酸やアミノ酸が十二指腸に入ると、十二指腸上皮細胞

(I細胞(M細胞ともいう))から分泌される。

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解剖生理学 要点整理ノート

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腺房中心細胞

介在部導管細胞

・水と重炭酸イオンを分泌し、十二指腸に入ってきた胃液(酸性)を中和す

る。

・セクレチンは、水と重炭酸イオンの分泌を促進する。

・セクレチンは、胃酸が十二指腸に入ると分泌される。

(3)内分泌腺(ランゲルハンス島)

A細胞

(α細胞)

・グルカゴンを分泌する。

・グルカゴンは、血糖値が低下すると分泌され、血糖値を上昇させる。

B細胞

(β細胞)

・インスリンを分泌する。

・インスリンは、血糖値が上昇すると分泌され、血糖値を低下させる。

D細胞

(δ細胞)

・ソマトスタチンを分泌する。

・ソマトスタチンは、インスリン、グルカゴン、ガストリンの分泌を抑制する。

・ソマトスタチンは、胆嚢を弛緩させる。

F細胞

(PP細胞)

・膵ポリペプチドを分泌する。

・作用は不明

8.三大栄養素の消化と吸収のまとめ

(1)糖質 ・唾液アミラーゼは、でんぷんを多糖類の断片に分解(グリコシド結合を加水分解)する。

・膵アミラーゼは、多糖類の断片をより小さな断片(マルトース、マルトトリオース)に分解する。

・小腸粘膜上皮細胞上での二糖類の分解

マルターゼ

マルトース(麦芽糖) → グルコース(ブドウ糖) + グルコース(ブドウ糖)

スクラーゼ

スクロース(ショ糖) → グルコース(ブドウ糖) + フルクトース(果糖)

ラクターゼ

ラクトース(乳糖) → グルコース(ブドウ糖) + ガラクトース

・糖質は、単糖類まで分解されて、それぞれ固有のトランスポーターにより小腸粘膜上皮細胞内に吸収

される。

・SGLT1 は、グルコースとガラクトースを吸収する。

・GLUT5 は、グルコースとフルクトースを吸収する。

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解剖生理学 要点整理ノート

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(2)たんぱく質

・胃酸とペプシンは、たんぱく質をペプチド断片に分解(ペプチド結合の加水分解)する。

・膵液に含まれる不活性なたんぱく質分解酵素(トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、カルボ

キシペプチダーゼなど)は、小腸粘膜上皮細胞上に存在するエンテロキナーゼにより活性化する。

・膵液に含まれるたんぱく質分解酵素は、ペプチド断片をより小さな断片(トリペプチド、ジペプチド)

に分解する。(管内消化)

・小腸粘膜上皮細胞上のアミノペプチダーゼやジペプチダーゼは、トリペプチド、ジペプチドをアミノ

酸に分解する。(膜消化)

・トリペプチド、ジペプチド、アミノ酸は、それぞれ固有のトランスポーターにより小腸粘膜上皮細胞

内に吸収される。

・小腸粘膜上皮細胞内のペプチダーゼは、吸収したトリペプチドとジペプチドをアミノ酸に分解する。

(3)脂質

・胆汁に含まれる胆汁酸は、脂質を乳化(ミセル化)することにより、膵リパーゼによる消化を促進す

る。

・胆汁には、リパーゼは含まれていない。

・膵リパーゼは、トリグリセリド(中性脂肪)を、2つの脂肪酸と 1つのモノグリセリドに分解する。

・脂肪酸とモノグリセリドは、拡散または固有のトランスポーターにより小腸粘膜上皮細胞内に吸収さ

れる。

・小腸粘膜上皮細胞内に取り込まれた脂肪酸とモノグリセリドは、トリグリセリドに再合成される。

・再合成されたトリグリセリドは、集合してカイロミクロンとなり、リンパ管を経て、循環血液中に入

る。

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解剖生理学 要点整理ノート

28

(4)消化酵素

αアミラーゼ

・唾液腺と膵臓の腺房細胞から分泌される。

・でんぷんを分解して、マルトース、マルトトリオース、α-限界デキストリン

を生成する。

α-限界デキストリン:でんぷんを、αアミラーゼで分解した残りの多糖類

αアミラーゼ:多糖類のα−1,4結合を加水分解する酵素

・食物繊維はβ−1,4 結合なので、αアミラーゼで加水分解されない。

マルターゼ ・小腸粘膜上皮細胞上に存在する。

・マルトース(麦芽糖)を分解して、グルコース(ブドウ糖)を生成する。

スクラーゼ

・小腸粘膜上皮細胞上に存在する。

・スクロース(ショ糖)を分解して、グルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果

糖)を生成する。

ラクターゼ

・小腸粘膜上皮細胞上に存在する。

・ラクトース(乳糖)を分解して、グルコース(ブドウ糖)とガラクトースを生

成する。

ペプシン ・胃腺の主細胞から分泌される。

・たんぱく質を分解して、ペプチドを生成する。

トリプシン、

キモトリプシ

ン、エラスタ

ーゼ、カルボ

キシペプチダ

ーゼ

・膵臓の腺房細胞から分泌される。

・たんぱく質を分解して、ポリペプチド、トリペプチド、ジペプチドを生成する。

アミノペプチ

ダーゼ、ジペ

プチダーゼ

・小腸粘膜上皮細胞上に存在する。

・アミノペプチダーゼは、ジペプチドを分解して、アミノ酸を生成する。

リパーゼ

・膵臓の腺房細胞から分泌される。

・トリグリセリド(中性脂肪)を分解して、2 つの脂肪酸と 1 つのモノグリセリ

ドを生成する。

・モノグリセリドを脂肪酸とグリセロールに分解する作用は弱いので、トリグリ

セリドの分解産物のほとんどは、脂肪酸とモノグリセリドである。

(5)消化管ホルモン

ガストリン

・食物、特に肉汁の刺激により、胃の前庭部にある G細胞から分泌される。

・迷走神経(副交感神経)は、G 細胞に働いてガストリンの分泌を促進する。

・ガストリンは、胃の壁細胞に働いて胃酸の分泌を促進する。

セクレチン

・胃酸の刺激により、十二指腸にある S細胞から分泌される。

・セクレチンは、膵臓の外分泌腺(腺房中心細胞、介在部導管細胞)に働いて

重炭酸イオンの分泌を促進することにより胃酸を中和する。

・セクレチンは、胃の壁細胞に働いて、胃酸分泌を抑制する。

コレシストキニン

(CCK)

・食物、特に脂肪の刺激により、十二指腸の I細胞(M細胞ともいう)から分

泌される。

・CCKは、膵臓の外分泌腺(腺房細胞)に働いて消化酵素の分泌を促進する。

・CCKは、胆嚢に働いて胆嚢の収縮を起こし、胆汁を十二指腸に分泌させる。

・CCKは、胃に働いて胃酸分泌を抑制する。

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解剖生理学 要点整理ノート

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ソマトスタチン

・視床下部、膵ランゲルハンス島、消化管などからソマトスタチンが分泌され

る。

・ソマトスタチンは、インスリン、グルカゴン、ガストリン、セクレチンなど

他の消化管ホルモンの分泌を抑制する。

・ソマトスタチンは、小腸に働いて食物の消化吸収を抑制する。

・ソマトスタチンは、胆嚢に働いて弛緩させる。

インクレチン

・インクレチンは、グルコースによるインスリン分泌を増強する消化管ホル

モンの総称である。

・インクレチンには、GLP-1(glucagon-like peptide-1)と GIP(glucose-

dependent insulinotropic polypeptide)がある。

・食物が十二指腸に入ってくることが刺激となって、十二指腸からインクレ

チンが分泌される。

・インクレチンは、ランゲルハンス島に働いて、グルコース刺激によるインス

リン分泌を促進する。

グレリン

・グレリンは、胃から分泌されるペプチドホルモンであり、絶食により分泌が

増加する。

・グレリンは、下垂体に働いて成長ホルモン(GH)の分泌を促進する。

・グレリンは、視床下部に働いて食欲を増進させる。

9.肝臓

(1)構造

・肝臓は、横隔膜の直下にあって、腹腔の右上部を占める。

・肝臓の左葉は、右葉より小さい。

・出入りする脈管

肝門 固有肝動脈(腹腔動脈の枝)、門脈、胆管 肝臓の後面 肝静脈(下大静脈に流入)

・肝臓には、心拍出量の約 25%(1分間に 1,500㎖)が流入する。

・門脈は、小腸で吸収した栄養に富む静脈血で、肝臓に流入する血液の 70~80%を占める。

・固有肝動脈は、酸素に富む動脈血で、肝臓に流入する血液の 20~30%を占める。

・肝臓は、胆汁を十二指腸に分泌する。

・肝臓は、消化管の上皮が陥入してできた巨大な消化腺に由来する。

(2)小葉構造

・肝細胞は、中心静脈から放射状に走る洞様毛細血管(類洞)にそって一列に並び、小葉を構成する。

・肝細胞と洞様毛細血管の内皮細胞の間を、ディッセ腔という。

・洞様毛細血管には、クッパー細胞が存在し、食細胞により異物を処理している。

・ディッセ腔には、伊東細胞が存在し、ビタミン Aを貯蔵している。

・小葉の周辺には、少量の結合組織からなるグリソン鞘が存在する。

・肝動脈と門脈は、グリソン鞘に沿って肝臓内に進入する。

・門脈と動脈は、合流して洞様毛細血管に流れ込み、中心静脈を経て肝静脈に出る。

・肝細胞索の隣りあった肝細胞の間につくられる細胞間胆細管は、合流して小葉間胆管に流れ込み、さ

らに左右の肝管、総肝管となって肝臓外へ出る。

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解剖生理学 要点整理ノート

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(3)肝細胞の機能(体内の化学工場)

1)代謝機能

糖代謝 ・グリコーゲンの合成と分解

・糖新生により血糖値を維持(脳へのグルコース供給)

たんぱく質

代謝

・血清たんぱく質の合成(アルブミン、凝固因子、トランスフェリン、レチノール結

合たんぱく質など)

・アミノ酸代謝:食物由来の芳香族アミノ酸(チロシン、フェニルアラニン、トリプ

トファンなど)の大部分は肝臓に取り込まれて代謝される。一方、分岐鎖アミノ酸

(ロイシン、イソロイシン、バリン、など)の大部分は筋肉に取り込まれて代謝さ

れる。

脂質代謝

・中性脂肪、コレステロール、リン脂質を合成し、リポたんぱく質(VLDL、LDL、HDL)

として血液中に放出する。

VLDL(very low density lipoprotein):中性脂肪を肝臓から全身に運ぶ。

LDL(low density lipoprotein):コレステロールを肝臓から全身に運ぶ。

HDL(high density lipoprotein):余分なコレステロール全身から肝臓に運ぶ。

体内の余分なコレステロールは、胆汁酸として胆汁中に排泄する。

・ホルモン代謝:エストロゲン、バソプレシンなどを不活性化

2)解毒・排泄機能

解毒

・体内に侵入または生成された有害物質は、シトクロム P450 による水酸化、グルク

ロン酸、グリシン、タウリンによる抱合などの反応などにより無毒化、可溶化さ

れ,尿中あるいは胆汁中に排泄される。

尿素

サイクル

・たんぱく質が分解されるときに生成される有害なアンモニアを無害な尿素に変換

して尿中に排泄する。

3)胆汁の産生

胆汁酸

・胆汁酸は、コレステロールから生成され、脂肪をミセル化して消化吸収を助ける。

・胆汁酸の 90~95%が回腸で再吸収され、門脈を通って肝細胞に取り込まれ再び胆汁

中に排泄される。(胆汁酸の腸肝循環)

・一次胆汁酸(コール酸、ケノデオキシコール酸)は、肝細胞内で生成する。

・二次胆汁酸(デオキシコール酸、リトコール酸)は、腸内の嫌気性細菌により生成

する。

胆汁色素

(ビリル

ビン)

・老化した赤血球は、脾臓でとり込まれて分解される。

・ヘム由来の非抱合型ビリルビン(不溶性)は、肝臓に運ばれる。

・肝臓に取り込まれた非抱合型ビリルビンは、グルクロン酸との抱合反応により抱合

型ビリルビン(可溶性)となり胆汁中に排泄される。

・腸管内のビリルビンは、腸内細菌によりウロビリノーゲン(無色)になる。

・ウロビリノーゲンの大部分は、腸内細菌により還元されてステルコビリン(黄褐色)

となり、糞便中に排泄される。

・ウロビリノーゲンの一部は、再吸収されて肝臓に取り込まれ、再びビリルビンとな

って胆汁中に排泄される。(胆汁色素の腸肝循環)

・再吸収されたウロビリノーゲンの一部は、ウロビリン(腎臓でウロビリノーゲンが

酸化されて産生される)となって尿中に排泄される。

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解剖生理学 要点整理ノート

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レシチン ・胆汁酸とともにミセルを形成し、コレステロールを溶存させる。

その他

・コレステロール、Caなどを含む。

・胆汁に含まれる脂質のうち 50%が胆汁酸、44%がレシチン(リン脂質)、4%がコレ

ステロール、2%が胆汁色素である。

・胆汁には、消化酵素は含まれていない。

4)貯蔵機能

・ビタミン A、D、K、B6、B12、葉酸の貯蔵。(肝疾患でしばしば欠乏する)

・鉄の貯蔵

・グリコーゲンの貯蔵

・血液の貯蔵

10.胆嚢

・肝門から出た総肝管は、胆嚢から出る胆嚢管と合流して総胆管となり、主膵管と合流して十二指腸の

ファーター乳頭に開口する。

・ファーター乳頭開口部には、オッディ括約筋がある。

・胆嚢は、肝臓から分泌された胆汁を一時的に蓄え、5~50倍に濃縮する。

・空腹時には、オッディ括約筋が収縮しているので十二指腸乳頭は閉鎖している。

・食物を摂取すると、迷走神経(副交感神経)の活動が高まり、オッディ括約筋が弛緩するので、十二

指腸乳頭が開く。

・迷走神経の緊張は、胆嚢を収縮させて、胆汁を十二指腸へ押し出す。

・食物(特に脂質)が十二指腸に達すると、十二指腸上皮からコレシストキニン(CCK)が分泌される。

・CCKは、胆嚢を収縮させて、胆汁を十二指腸へ押し出す。

・ソマトスタチンは、胆嚢を弛緩させて、胆汁を胆嚢内に停滞させる。

口腔 ( )茸状乳頭には、味蕾はない。 ( )歯の表面は、象牙質で覆われている。 ( )歯の象牙質に沈着する無機質の主成分は、クエン酸カルシウムである。 ( )唾液には、リゾチームが含まれている。 ( )副交感神経は、唾液の分泌を抑制する。 ( )咽頭は、食物は通るが、空気は通らない。

× × × ○ × ×

糸状乳頭 エナメル質 リン酸 Ca 促進

嚥下 ( )第 1 期(先行期)では、捕食が行われる。 ( )第 2 期(準備期)では、食物の認知が行われる。 ( )第 3 期(口腔期)では、咀嚼が行われる。 ( )第 4 期(咽頭期)では、嚥下反射が起こる。 ( )第 5 期(食道期)では、食塊形成が行われる。 ( )嚥下の咽頭期は、随意運動である。

× × × ○ × ×

食物の認知 咀嚼 食塊形成 不随意運動

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解剖生理学 要点整理ノート

32

食道 ( )食道の上皮は、角化する。 ( )上部食道括約筋は、平滑筋である。 ( )下部食道括約筋は、横紋筋である。 ( )食道の周囲は、漿膜で包まれている。 ( )食道は、蠕動運動を行う。

× × × × ○

角化しない 横紋筋 平滑筋 外膜

胃の構造と機能 ( )食道から胃への入口を、噴門という。 ( )胃から十二指腸への出口を、胃底という。 ( )噴門の高さを越えて上方に膨隆する部分を幽門部という。 ( )胃の周囲は、漿膜で包まれている。 ( )胃の粘膜上皮は、移行上皮である。 ( )胃腺の主細胞は、胃酸(塩酸)を分泌する。 ( )胃腺の副細胞は、ガストリンを分泌する。 ( )胃腺の壁細胞は、ペプシノーゲンを分泌する。 ( )内因子は、壁細胞から分泌される。 ( )内因子は、ビタミン B6の吸収を促進する。 ( )交感神経は、胃液の分泌を促進する。 ( )ガストリンは、胃液の分泌を促進する。 ( )ヒスタミンは、胃液の分泌を促進する。 ( )セクレチンは、胃液の分泌を促進する。 ( )コレシストキニン(CCK)は、胃液の分泌を胃液の分泌を促進する。

○ × × ○ × × × × ○ × × ○ ○ × ×

幽門 胃底 円柱上皮 ペプシノーゲ

ン 粘液 胃酸 B12 抑制 抑制 抑制

小腸 ( )小腸は、空腸、回腸、盲腸で構成されている。 ( )十二指腸に続いて、回腸がある。 ( )絨毛は、空腸より回腸で発達している。 ( )小腸の粘膜上皮には、線毛がある。 ( )小腸の粘膜上皮には、微絨毛がある。 ( )腸腺(リーベルキューン腺)の分泌物には、消化酵素が含まれている。 ( )粘膜上皮の寿命は、約 6 日である。 ( )小腸には、半月ヒダがある。 ( )小腸の筋層は、外輪走筋と内縦走筋の 2 層で構成されている。 ( )副交感神経は、小腸の運動を抑制する。 ( )マイスナー神経叢は、筋層に存在する。 ( )マイスナー神経叢は、主に腸液の分泌を調節する。 ( )アウエルバッハ神経叢は、粘膜下組織に存在する。 ( )アウエルバッハ神経叢は、主に腸管の運動を調節する。 ( )小腸の粘膜上皮には、二糖類を加水分解する酵素が存在する。 ( )小腸の粘膜上皮には、ジペプチドを加水分解する酵素が存在する。

× × × × ○ × ○ × × × × ○ × ○ ○ ○

空腸 輪状ヒダ 内輪-外縦 促進 粘膜下組織 筋層

大腸 ( )大腸は、小腸より長い。 ( )大腸では、絨毛が発達している。 ( )結腸ヒモは、大腸を縦走する平滑筋が集合したものである。 ( )大腸の筋層は、縦走筋、輪走筋、斜走筋の三層構造である。 ( )S 状結腸は、上行結腸とつながっている。 ( )腸内細菌は、食物繊維を分解できない。 ( )腸内細菌は、ビタミン K を産生する。 ( )排便反射は、交感神経の緊張によって起こる。 ( )内肛門括約筋は、横紋筋である。

× × ○ × × × ○ × ×

内輪-外縦 できる 副交感神経 平滑筋

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解剖生理学 要点整理ノート

33

( )外肛門括約筋は、平滑筋である。 ( )外肛門括約筋は、副交感神経により収縮する。

× ×

横紋筋 運動神経

膵臓 ( )膵臓は、腹腔内にある。 ( )主膵管と総胆管は、合流して十二指腸に開口する。 ( )副膵管は、十二指腸のファーター乳頭に開く。 ( )副膵管は、空腸に開口している。 ( )副交感神経は、膵液の分泌を抑制する。 ( )膵液は、1 日に約 10ℓ分泌される。 ( )腺房細胞は、重炭酸イオンを分泌する。 ( )腺房細胞は、コレシストキニン(CCK)を分泌する。 ( )腺房中心細胞は、消化酵素を分泌する。 ( )ペプシンは、膵臓の腺房中心細胞から分泌される。 ( )エンテロキナーゼは、腺房細胞から分泌される。 ( )コレシストキニン(CCK)は、膵臓からの消化酵素の分泌を促進する。 ( )胃酸は、セクレチンの分泌を促進する。 ( )セクレチンは、消化酵素の分泌を抑制する。 ( )セクレチンは、膵臓からの水と重炭酸イオンの分泌を促進する。

× ○ × × × × × × × × × ○ ○ × ○

後腹壁 小十二指腸乳

促進 1.5ℓ/日 消化酵素 重炭酸イオン

小腸上皮

ランゲルハンス島 ( )A 細胞は、インスリンを分泌する。 ( )B 細胞は、グルカゴンを分泌する。 ( )D 細胞は、ソマトスタチンを分泌する。 ( )インスリンは、血糖値を上昇させる。 ( )グルカゴンは、血糖値を低下させる。

× × ○ × ×

B(β)細胞 A(α)細胞

消化酵素 ( )胆汁には、脂肪を分解するリパーゼが含まれている ( )アミラーゼは、コレステロールを分解する。 ( )スクラーゼは、乳糖をグルコースとガラクトースに分解する。 ( )マルターゼは、ショ糖をフルクトースとグルコースに分解する。 ( )ラクターゼは、マルトースを 2 分子のグルコースを分解する。 ( )トリプシンは、たんぱく質を分解する。 ( )ペプシンは、でんぷんを分解する。 ( )リパーゼは、トリグリセリドを分解する。

× × × × × ○ × ○

多糖類 ラクターゼ スクラーゼ マルターゼ たんぱく質

消化管ホルモン ( )ガストリンは、膵液の分泌を促進する。 ( )コレシストキニン(CCK)は、重炭酸イオンの分泌を促進する。 ( )セクレチンは、胃液の分泌を促進する。 ( )ソマトスタチンは、ガストリンの分泌を促進する。 ( )インクレチンは、インスリンの分泌を促進する。

× × × × ○

胃液 消化酵素 重炭酸イオン

抑制

肝臓に関する記述である。正しいのはどれか。 ( )肝臓は、右上腹部にあって、横隔膜と接している。 ( )門脈には、動脈血が流れている。 ( )肝臓には、心拍出量の約 50%が流入する。 ( )肝臓の左葉は、右葉より大きい。 ( )固有肝動脈は、肝門部から肝臓内に入る。 ( )肝静脈は、肝門部から出る。 ( )門脈の血液は、肝小葉の中心静脈から小葉内に流入する。 ( )肝臓に流入する血液の約 70~80%は、動脈血である。 ( )グリソン鞘には、結合組織は存在しない。

○ × × × ○ × × × ×

静脈血 約 25% 右葉>左葉 周辺部 静脈血 存在する

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解剖生理学 要点整理ノート

34

( )肝小葉の洞様毛細血管では、中心静脈から周辺部に向かって血液が流れ

る。 ( )ディッセ腔には、伊東細胞が存在する。 ( )クッパー細胞は、ビタミン A を貯蔵している。 ( )胆管は、門脈に合流する。 ( )肝臓は、糖新生を行うことができない。 ( )分岐鎖アミノ酸は、主に肝臓で代謝される。 ( )肝臓は、リン脂質を合成することができない ( )エストロゲンは、肝臓で不活性化される。 ( )シトクロム P450 は、クエン酸回路の酵素である。 ( )肝臓は、尿素をアンモニアに変換する。

× ○ × × × × × ○ × ×

逆 伊東細胞 しない できる 芳香族 AA できる 解毒酵素 逆

胆嚢と胆汁 ( )胆汁酸は、コレステロールから合成される。 ( )胆汁酸は、ビリルビンの代謝産物である。 ( )ウロビリノーゲンは、コレステロールから生成される。 ( )十二指腸に分泌された胆汁酸の大部分は、大腸で吸収される。 ( )小腸内に分泌された胆汁酸の約 90%は、糞便中に排泄される。 ( )胆汁中のコレステロールは、胆汁酸とリン脂質によって溶存している。 ( )コレステロールは、胆汁中の脂質の約 50%を占めている。 ( )胆嚢は、肝臓から分泌された胆汁を希釈する。 ( )胆汁酸は、たんぱく質の消化吸収を促進する。 ( )CCK(コレシストキニン)は、胆嚢を弛緩させる。 ( )ソマトスタチンは、胆嚢を収縮させる。 ( )オッディ括約筋は、空腹時に収縮している。 ( )オッディ括約筋は、食物を口にすると収縮する。

○ × × × × ○ × × × × × ○ ×

ビリルビン 回腸 吸収 4% 濃縮 脂質 収縮 弛緩 弛緩

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解剖生理学 要点整理ノート

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4.循環器系の構造と機能

1.循環器系の構成

・循環器系は、心臓、動脈、毛細血管、静脈、リンパ管で構成される。

・心臓から出る血管を、動脈という。

・心臓に戻る血管を、静脈という。

・動脈と静脈の間にあり、周辺組織と物資交換を行う血管を毛細血管という。

・毛細血管と毛細血管の間をつなぐ静脈を、門脈という。

・リンパ管は、間質液を集めて、静脈に戻す。

・体循環(大循環)は、全身に血液を送る。

・肺循環(小循環)は、肺に血液を送る。

・動脈血は、酸素を多量に結合した血液(鮮紅色)である。

・静脈血は、酸素を失った血液(暗紫色)である。

2.心臓

(1)心尖拍動

・心尖は、第 5肋間左乳頭線のやや内側に位置する。

・胸壁から、心臓の拍動を触れることができる。

(2)心臓の構造

・心臓には、右心房、右心室、左心房、左心室の 4つの部屋がある。

・心臓の内部は、中隔(心房中隔と心室中隔)によって左右の腔に分けられる。

・さらに、左右の腔は、房室弁により心房と心室に分けられる。

・左心房と左心室の間の房室弁を僧帽弁といい、2枚の小弁からできている。

・右心房と右心室の間の房室弁を三尖弁といい、3枚の小弁からできている。

・僧帽弁、三尖弁ともに腱索により心室内腔に突出する乳頭筋につなぎとめられている。

・心臓の中隔は、発生 27~37日(約 1か月)の間にできる。

・心房中隔は、胎生期には卵円孔で通じているが出生後は閉じる。

・右心房には、上大静脈、下大静脈、冠状静脈洞が入る。

・左心房には、左右の肺静脈が入る。

・右心室からは、肺動脈が出る。

・左心室からは、上行大動脈が出る。

・上行大動脈および肺動脈への出口には、3枚の半月弁からなる大動脈弁および肺動脈弁が存在する。

(2)心臓壁の三層構造

心内膜 ・心内膜は、単層扁平上皮(内皮細胞)と結合組織からできている。

心筋層 ・心筋層を構成する筋線維は、横紋筋であり、不随意筋である。

心膜

臓側板 心外膜 ・単層扁平上皮と結合組織から

なる漿膜で、心筋層を覆う。

壁側板

漿膜性心膜 ・単層扁平上皮と結合組織から

できている漿膜である。

線維性心膜 ・強靭な結合組織の膜で、漿膜性

心膜の外側にある。

心膜腔 ・心外膜と漿膜性心膜で囲まれた袋状の空間である。内部に少量の心

膜液があり、潤滑油の役割を果たしている。

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解剖生理学 要点整理ノート

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(4)冠血管系

1)血管

・心臓に酸素や栄養素を送る血管を、冠動脈(冠状動脈)という。

・冠状動脈は、大動脈弁のすぐ上部、上行大動脈の基部から、左右 1本ずつ分岐する。

・右冠動脈は、主に右心室と心室中隔の後ろ 1/3に分布する。

・左冠動脈は、主に左心室と心室中隔の前 2/3に分布する。(前室間枝と回旋枝)

・心臓からの静脈は、冠静脈洞(冠状静脈洞)を経て、直接右心房に注ぐ。

2)冠循環の調節

・心臓の収縮期には、収縮する心筋によって冠動脈が圧迫されるために、血流が停止する。

・心臓の拡張期には、冠動脈が拡張し、血流が増加する。

・運動などのために心拍出量が数倍に増加するときは、冠状動脈は拡張して血流が数倍に増加する。

・心筋の活動亢進は、酸素分圧の低下、NO産生、プロスタグランジン I2(PGI2)、アデノシン(ATP・AMP

の分解産物)の増加をもたらし、これらが冠動脈平滑筋を拡張させて冠血流を増加させる。

・血圧が変動しても、冠状動脈の血流は比較的一定に保たれる。

・拡張期血圧が低下すると、冠血流は減少する。

(5)心筋細胞の活動電位と収縮の特徴

・すべての心筋線維は、介在版とギャップ結合により機能的に結合しており、1 か所に生じた興奮は直

ちにほかの筋線維に伝わり、全体の心筋線維が収縮する。(全か無かの法則)

・心筋細胞の活動電位は、Na+の急速な流入による早い脱分極に続いて、Ca2+の緩やかな流入によるプラ

トー相が存在した後に、K+流出による緩やかな再分極が起こる。

第0相:Na+の流入による脱分極

第 1相:活動電位の発生

第 2 相(プラトー相):Ca2+の持続的流入

による脱分極の持

第 3相:K+の流出による再分極

第 4相:静止電位への復帰

・心筋細胞の収縮の特徴

・1 回の収縮時間が長い。

・不応期が長い。

・連続した刺激による強縮を起こしにくい。

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解剖生理学 要点整理ノート

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(6)特殊心筋による刺激伝導系

・特殊心筋は、自発的に興奮を発生させて、その興奮を心臓全体に伝達する。

・筋原線維が少なく、横紋構造が不明瞭である。

・固有心筋と異なり、ほとんど収縮することはない。

・洞房結節(SA node: sinoatrial node、洞結節、キース・ブラック結節)は、心臓内で最も早いリズ

ムをもっていることから、心拍動のペースメーカーとなっている。

・右心房と上大静脈が接するところに存在する。

・洞房結節では、約 60/分のリズムで自発的活動電位が生じる。

・洞房結節の興奮は、左右の心房を収縮させると同時に、結節間路を介して房室結節に伝達される。

・房室結節(AV node:atroventricular node、田原結節)は、心房中隔に存在して洞房結節からの興奮

をヒス束に伝達する。

・房室結節からの興奮は、ヒス束を通って心室に伝えられる。

・ヒス束は、左右の脚に分かれ、さらに細かく枝分かれした網状のプルキンエ線維から固有心筋に伝達

され、心室筋が収縮する。

・洞房結節が心拍動の頻度を調節していることを洞調律という。

(7)洞房結節のリズムと自律神経

・交感神経

・洞房結節、房室結節、脚、プルキンエ線維、心筋に分布している。

・前電位の勾配を急峻にすることにより、心拍数を増加させる。

・刺激伝導速度を速くし、心筋の収縮力を強くする。

・副交感神経(迷走神経)

・洞房結節と房室結節に分布している。

・前電位の勾配を緩やかにし、さらに過分極にすることにより心拍数を減少させる。

3.心電図(electrocardiography)

(1)波形の意味

P波 ・心房の興奮を表す。

・洞結節に発した興奮は、右心房から左心房に伝達される。

PQ 間隔 ・洞房結節から発した興奮が、房室結節を経て心室筋に伝達されるまでの時間を表す。

・房室結節内の伝達時間が大部分を占める。

QRS 群

・心室筋の興奮が、心室全体に広がる時期を表す。

・興奮は、中隔→左右自由壁→左心室後基部の順で伝達される。

・心筋の興奮が伝達されることにより発生する心臓起電力の方向により、QRS波は上下に

大きくふれる。

ST 部分 ・心室興奮の極期に相当する。

・心臓全体が収縮しているために電位差が生じないので、波形は基線に戻る。

T波 ・心室筋の再分極を表す。

QT 感覚 ・心室興奮時間を表す。

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解剖生理学 要点整理ノート

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2)主な異常心電図

高カリウム血症 テント状 T波(T波の増高)

低カリウム血症 T波平低化、U波明瞭化

心室細動 P波、QRS波、T波がなく、不規則に基線のゆれ

心房細動 心房内の刺激伝導の異常。心房筋全体が不規則に収縮

基線の動揺(細動波)、RR間隔の不整

期外収縮 洞調律とは異なる波形の QRS波が単発または多発

房室ブロック

Ⅰ度:PQ間隔が延長

Ⅱ度(ウェンケバッハ型):PQ間隔が徐々に延長し、やがて QRS波が消失

Ⅱ度(モービッツ型):PQ間隔は一定だが、突然 QRS波が消失

Ⅲ度(完全房室ブロック):心房から心室への刺激伝導の遮断

P波とは無関係に QRS波が出現(P波の数>R波の数)

心筋虚血 狭心症:ST低下

心筋梗塞:初期は ST上昇、次第に T波逆転(冠性 T波)、異常 Q波

4.心臓周期(心周期)

(1)心拍出量

心拍数

・1分間に、心室が収縮する回数、心拍数という。

・大動脈で起こる拍動が、血管壁を伝わって末梢の動脈壁で触知されることを脈拍

という。

・正常では、脈拍数と心拍数は同じである。

1回心拍出量

・1回の拍動により左心室から拍出される血液量を、1回心拍出量(成人男子で約

70㎖)という。

・心拍数が増加すると、心室に十分な血液が充満する前に収縮が始まるので、1

回心拍出量は減少する。

毎分心拍出量

・毎分心拍出量=1回心拍出量×心拍数

・約 5ℓ/分(70㎖×70回/分=4900㎖/分)であり、1日では約 7,200ℓ(5ℓ×60

分×24 時間=7,200ℓ/日)の血液が拍出される。

心係数 ・心係数=毎分心拍出量÷体表面積(基準値:3.0±0.5ℓ/分/㎡)

(2)心臓周期(心周期)

房室弁 動脈弁

心房収縮期

・心房の収縮により房室弁が開いて血液が心房内から心室内へ

流入する時期

・心室の容積は増加し、心室内の圧も上昇する。

開 閉

等容性収縮

・心室の収縮により房室弁が閉鎖して動脈弁が開くまでの時期

・心室の容積は一定であるが、心室内の圧は上昇する。 閉 閉

駈出期

・動脈弁が開いて心室内の血液が大動脈に押し出される時期

・心室内の圧が動脈圧より高くなるので、動脈弁が開く。

・心室の容積は減少し、心室内の圧は低下する。

閉 開

等容性弛緩

・心筋の弛緩により動脈弁が閉鎖して房室弁が開くまでの間

・心室内の圧が動脈圧より低くなると動脈弁が閉じる。

・心室の容積は一定であるが、心室内の圧は低下する。

閉 閉

充満期

・房室弁が開いて心房から心室へ血液が流入する時期

・心室内の圧が心房内の圧より低くなると房室弁が開く。

・心室の容積は増加し、心室内の圧も上昇する。

開 閉

・等容性収縮期と駈出期を合わせて、収縮期という。

・等容性弛緩期、充満期、心房収縮期を合わせて、拡張期という。

・正常では、収縮期は拡張期より短い。

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解剖生理学 要点整理ノート

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(3)フランク・スターリングの心臓の法則

・心室の拡張が終わった時に、心室内に充満している血液の量を、前負荷という。

・血液を駆出する際の、動脈内の圧を、後負荷という。

・前負荷が大きくなると、心収縮力が増強して心拍出量が増加することを、フランク・スターリングの

心臓の法則という。

・静脈還流量と心拍出量を一致させるための自律的調節である。

(4)心音と心雑音

・心臓の聴診により聞かれる音を心音という。

・心室収縮期の始まりに生ずる心音を、Ⅰ音という。

・Ⅰ音は、房室弁の閉鎖、半月弁の開放、血液の急速な駆出により発生する。

・心室収縮期の終わりから拡張期の初めに生じる心音を、Ⅱ音という。

・Ⅱ音は、半月弁の閉鎖に伴う血流の変化によって発生する。

・心音以外の音を、心雑音という。

・心音の聴診部位

大動脈弁領域 ・第 2肋骨胸骨右縁、Ⅱ音が大きい。

肺動脈弁領域 ・第 2肋骨胸骨左縁、Ⅱ音が大きい。

エルブ領域 ・第 3肋骨胸骨左縁、大動脈弁閉鎖不全症、心室中隔欠損症の心雑音を聴取

三尖弁領域 ・第 4肋骨胸骨左縁、Ⅰ音が大きい。

僧帽弁領域 ・心尖部、Ⅰ音が大きい。

5.血管

(1)血管壁の構造

1)血管の三層構造

・内膜:血管内皮(単層扁平上皮)、基底膜、結合組織

・中膜:平滑筋層、弾性線維

・外膜:結合組織

・動脈では、中膜の筋層が厚い。

・静脈では、中膜の平滑筋層が薄く、逆流を防ぐ弁がある。

2)弾性動脈と筋性動脈

・弾性動脈は、弾性線維を豊富に含む太い動脈で、弾力がある。

・心臓の収縮期に押し出された血液を、一時的に蓄え、拡張期に末梢に流す。

・筋性動脈は、平滑筋が豊富な細い動脈(細動脈)で、弾性線維は乏しい。

・血流の抵抗(末梢血管抵抗)を調節することから、抵抗血管とも呼ばれる。

・抵抗血管は、臓器間の血流の分配の調節を行う。

・運動時には、骨格筋に多量の血液が流れ、食後は消化器系の内臓に多量の血液が流れる。

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解剖生理学 要点整理ノート

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3)毛細血管の構造

・毛細血管は、動脈と静脈をつなぐ。

・毛細血管は、1層の内皮細胞と基底膜からなり、中膜(平滑筋層)と外膜がない。

・血液と末梢組織との物質交換は、毛細血管においてのみ行われる。

・ところどころに周皮細胞と呼ばれる収縮性の細胞があって、毛細血管の血流を調節している。

(2)血管吻合

側副循環

・動脈同士または静脈同士の吻合のこと。

・1つの動脈が閉塞しても、血流を確保できる。

・骨格筋など、動きが多い臓器によく見られる。

終動脈

・動脈同士の吻合が少ない動脈のこと。

・1つの動脈が閉塞すると、その支配領域が血流不足になる。

・心臓、脳、肺、腎臓の血管によく見られる。

動静脈吻合 ・動脈と静脈が、毛細血管を経ることなくつながること

・皮膚や粘膜によく見られ、皮膚や粘膜表層の血流を調節する。

(3)血管の神経支配

・原則として、交感神経単独支配である。

・血管の収縮と拡張は、交感神経の活動の程度によって調節する。

・交感神経の活動増加は血管を収縮させ、活動低下は血管を拡張させる。

・例外として、陰茎、陰核の海綿体動脈には、交感神経(収縮)と副交感神経(拡張)が分布している。

6.体循環(大循環)と肺循環(小循環)

・体循環(大循環)は、血液を心臓から全身に送って、心臓に戻ってくる。

・肺循環(小循環)は、血液を心臓から肺に送って、心臓に戻ってくる。

・動脈血は、酸素を多量に結合した血液(鮮紅色)である。

・静脈血は、酸素を失った血液(暗紫色)である。

・一般に、動脈には動脈血が流れるが、例外として肺動脈と臍帯動脈には、静脈血が流れる。

・一般に、静脈には静脈血が流れるが、例外として肺静脈と臍帯静脈には、動脈血が流れる。

・肺動脈圧は、大動脈圧の 1/5である。

・肺動脈の血管壁の厚さは、大動脈より薄い。

・主な臓器の血流量

肝臓(25%)、腎臓(25%)、脳(15%)、皮膚(10%)、骨格筋(15%)、心筋(5%)、その他(5%)

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解剖生理学 要点整理ノート

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7.主な血管系

(1)主な動脈系

・大動脈には、上行大動脈、大動脈弓、胸大動脈、腹大動脈がある。

・上行大動脈からは、冠動脈(冠状動脈)(→心臓へ)が分岐する。

・大動脈弓からは、腕頭動脈、左総頚動脈、左鎖骨下動脈が分岐する。

・腕頭動脈からは右鎖骨下動脈(→上肢へ)と右総頚動脈が分岐する。(腕頭動脈は右側だけにある)

・左総頸動脈と右総頚動脈からは、それぞれ左右の内頚動脈(→脳へ)と外頚動脈(→顔面・頭部へ)

が分岐する。

・左右の鎖骨下動脈からはそれぞれ椎骨動脈が分岐し、一本に合流して脳底動脈(→脳へ)になる。

・内頚動脈と脳底動脈から分岐した動脈が互いに吻合して大動脈輪(ウィリス動脈輪)を形成する。

・胸部大動脈からは、気管支動脈(→肺へ)、肋間動脈(→胸壁へ)が分岐する。

・腹部大動脈からは、腹腔動脈(→胃、脾臓、肝臓へ)、上腸間膜動脈(→膵臓、小腸、右側の大腸)、

下腸間膜動脈(→左側の大腸、直腸)、腎動脈(→腎臓へ)、精巣動脈・卵巣動脈(→精巣・卵巣へ)

が分岐する。

・腹部大動脈は、左右の総腸骨動脈に別れ、大腿動脈(→下肢へ)となる

(2)主な静脈系

・頭頚部からの血液は、主に内頚静脈に集められる。

・上肢からの血液は、主に鎖骨下静脈に集められる。

・内頚静脈と鎖骨下静脈は、合流して腕頭静脈になる。

・左右の腕頭静脈は、合流して上大静脈となり、右心房にそそぐ。

・下肢の深部からの血液は、主に大腿静脈に集められる。

・大腿静脈に下肢の表層からの血液を集める大伏在静脈が合流して、外腸骨静脈になる。

・外腸骨静脈に骨盤腔からの血液を集める内腸骨静脈が合流して総腸骨静脈となる。

・左右の総腸骨静脈は合流して、下大静脈になる。

・下大静脈には、腹部で腎静脈と肝静脈が合流し、右心房にそそぐ。

・右精巣静脈は下大静脈に合流し、左精巣静脈は左腎静脈に合流する。

・門脈は、胃・小腸・大腸・脾臓・膵臓からの静脈血を集めて 1本の静脈になり、肝臓にそそぐ。

・肝臓に流入した門脈は枝分かれし、肝小葉の洞様毛細血管(類洞)に注ぐ。

・肝小葉から出る中心静脈は合流して肝静脈となって肝臓を出て、下大静脈に合流する。

・門脈は、①胃・食道の静脈、②直腸の静脈、③腹壁の静脈と吻合している。(側副路)

・奇静脈は、胸壁と腹壁の深層の血液を集める静脈で、脊柱の右側を上行して上大静脈に注ぐ。

・半奇静脈は、脊柱の左側を上行して、胸部で脊柱をまたぎ、奇静脈に合流する。(「奇」は、対になっ

ていないという意味。奇数の「奇」と同じ)

・下半身の静脈血を心臓まで汲み上げる仕組み

筋ポンプ ・下半身の骨格筋の収縮と弛緩により血液を汲み上げる。

呼吸ポンプ ・呼吸により、胸腔内の圧力を低くすることにより、下半身の血液を汲み上げる。

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解剖生理学 要点整理ノート

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(3)リンパ系

・毛細血管から組織に出た間質液(組織間液)の一部は、リンパ管に入る。

・リンパ液のたんぱく質濃度は、間質液と同じである。

・リンパ管には、逆流を防ぐ弁がある。

・リンパ管は、合流しながら途中でリンパ節を通過して、最終的には鎖骨下静脈と内頚静脈の合流部(静

脈角)に注ぐ。

・静脈角へは、右側では右リンパ本管が、左側では胸管が注ぐ。

・右上半身:右リンパ本管→右静脈角 ・両下肢・消化管:胸管→左静脈角

・消化管で吸収された脂質(キロミクロン)は、リンパ管を通って静脈に流入する。

(4)胎児の血液循環

・胎児と胎盤は、臍帯でつながっており、1本の臍静脈と 2本の臍動脈が通っている。

・胎児の血液(静脈血)は、臍動脈を通って胎盤に行き、絨毛で動脈血となって臍静脈を通って胎児に

もどる。

静脈血の流れ ・全身からの静脈血→臍動脈→胎盤

動脈血の流れ

・胎盤→臍静脈→静脈管(アランチウス管)→下大静脈→右心房→卵円孔→左心

房→左心室→上行大動脈→大動脈弓→全身

・右心房→右心室→肺動脈→動脈管(ボタロ管)→大動脈弓→全身

8.微小循環

・毛細血管と組織の間の水および溶質の移動を、微小循環という。

・微小循環の水の流れの方向は、毛細血管内から組織へ向かう毛細血管圧と、組織から毛細血管内へ向

かう膠質浸透圧の差によって決められる。

・膠質浸透圧とは、間質のタンパク質濃度より血漿タンパク質濃度が高いことによって形成される浸透

圧である。

・栄養状態が悪いために血漿タンパク質濃度が低下すると、膠質浸透圧が低下するので、間質から毛細

血管内への水の移動が減少し、浮腫が出現する。

・毛細血管から組織に出た間質液(組織間液)の一部は、リンパ管に入る。

・リンパ液のタンパク質濃度は、間質液と同じ。

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解剖生理学 要点整理ノート

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9.血圧

(1)血圧

・血圧とは、心臓から押し出された血液の流れによって生じる血管内の圧力が血管壁を垂直方向の押す

力である。

・心臓の収縮により血液が大動脈内に押し出されて大動脈内の圧力が最大になったときの血圧を、収縮

期血圧(最高血圧、最大血圧)という。

・次の収縮期がはじまる直前の、最も低下したときの血圧を拡張期血圧(最低血圧、最小血圧)という。

・拡張期血圧は、収縮期血圧の約 2/3 である。

・収縮期血圧と拡張期血圧の差を脈圧といい、収縮期血圧の約 1/3である。

・収取期血圧が 120mmHgの場合、拡張期血圧は 80mmHg、脈圧は 40mmHgである。

・動脈硬化症により大動脈の弾性が失われると、収縮期血圧・拡張期血圧ともに高くなるが、動脈硬化

症が高度になると拡張期血圧は逆に低下し、脈圧は大きくなる。

・血圧は、心拍出量と末梢血管抵抗の積によって決まる。

血圧=心拍出量×末梢血管抵抗

(2)血圧と血流

・血圧は心臓に近いほど高く、大動脈、動脈、毛細血管、静脈としだいに低くなり、大静脈ではほとん

ど 0 mmHgになる。

・血液は、圧力の差によって移動する。

・大動脈や太い動脈の壁は、弾性に富むために心臓の収縮期に送り出された血液は大動脈内に一時的に

蓄積され、拡張期に血管の弾性によりもとに戻るときに末梢に送り出される。(弾性血管)

・これにより、動脈での拍動的な血流が、毛細血管と静脈での連続的な流れになる。

・細動脈は平滑筋の層が厚く毛細血管に流入する血液を調節している。(抵抗血管)

(3)血圧の測定

・通常、血圧は座位または仰臥位で上腕動脈圧を測定する。

・測定部位が心臓の高さになるようにする。

・測定部位が心臓より高くする測定値は低くなり、低くすると高くなる。

・血圧は、動脈の外部から圧力を加えて血流を完全に途絶させた後、圧力を徐々に下げることにより測

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解剖生理学 要点整理ノート

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定する。

・血圧測定法には、触診法と聴診法がある。

触診法

・橈骨動脈の拍動が触れなくなったところから、さらに 20〜30mmHgほど加圧する。

・圧力を緩やかに下げていき(1秒間に2〜3mmHg)、再び橈骨動脈の拍動が触れるよ

うになった時の圧を収縮期血圧とする。

・触診法では、拡張期血圧の測定はできない。

聴診法

・コロトコフ音が聴こえなくなってから、さらに 20〜30mmHgほど加圧する。

・コロトコフ音とは、動脈が部分的に圧迫されている時に起きる血流の乱れによる振動

を聴診器で聞いた音である。

・圧力を緩やかに下げていき(1秒間に2〜3mmHg)、コロトコフ音が、聞こえ始める時

の血圧を収縮期血圧とする。

・さらに圧力を下げてコロトコフ音が、聞こえなくなる時の血圧を拡張期血圧とする。

・一般に、聴診法の方が触診法より約 10mmHg高く測定される。

・マンシェットの幅(JIS 規格)

・生後 3か月未満:3cm、3か月~3歳未満:5cm

・3~6才未満:7㎝、6~9歳未満:9cm、9歳~:12cm

・成人(上腕用):14cm、成人(下肢用):18cm

・マンシェットの幅が狭いと血圧は高値に出る傾向があり、逆に幅が広いと低値に出る傾向がある。

(4)血圧の調節

1)心臓血管中枢

・心臓血管中枢は、延髄に存在する。

・心臓血管中枢は、①心臓に分布する交感神経、②血管に分布する交感神経、③心臓に分布する副交感

神経(迷走神)の活動を統合する中枢である。

・①と②を合わせて、血管運動中枢(交感神経)という。

・③を、心臓抑制中枢(副交感神経)という。

・交感神経の末端から分泌されるノルアドレナリンは、アドレナリン受容体に結合して作用する。

・アドレナリン受容体のまとめ

循環器系

・α1受容体:骨格筋以外(内臓や皮膚など)の血管を収縮させ、血圧を上昇させる。

・β1受容体:心臓全体に分布し、心拍数を増加させ、心筋の収縮力を増強させ、興奮

伝導時間を短縮する。(その結果心拍出量が増加する)

・β2受容体:骨格筋の血管を拡張させる。

呼吸器系 ・β2受容体:気管支平滑筋を弛緩させ、気管支を拡張させる。

消化器系 ・α1受容体:消化管の平滑筋を弛緩させ、消化管の運動を抑制する。

消化管の括約筋を収縮させ、内容物の移動を抑制する。

エネルギー

代謝

・α1受容体:肝臓のグリコーゲン分解を促進し、血糖値を上昇させる。

・α2受容体:インスリン分泌を抑制し、血糖値を上昇させる。

・β2受容体:肝臓のグリコーゲン分解を促進し、血糖値を上昇させる。

骨格筋のグリコーゲン分解を促進して、筋肉収縮のエネルギーを供給

する。

・β3受容体:脂肪組織の中性脂肪分解を促進し、遊離脂肪酸を放出する。

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解剖生理学 要点整理ノート

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・副交感神経の末端から分泌されるアセチルコリンは、アセチルコリン受容体に結合して作用する。

・アセチルコリン受容体(洞結節と房室結節に分布)は、心拍数を減少させ、興奮伝導時間を延長する。

2)圧受容器

・圧受容器は、大動脈弓と頚動脈洞に存在する。

・圧受容器の求心線維は、大動脈弓では迷走神経、頚動脈洞では舌咽神経である。

降圧反射

・血圧が上昇すると、圧受容器を刺激する。

→圧受容器からの刺激は、心臓抑制中枢を興奮させる。

→心臓抑制中枢の興奮は、副交感神経を緊張させ、交感神経を抑制する。

→その結果、心拍出量が減少し、末梢血管抵抗が低下するので血圧が低下する。

昇圧反射

・血圧が低下すると、圧受容器への刺激が減少する。

→圧受容器からの刺激の減少は、心臓抑制中枢の興奮を減少させる。

→心臓抑制中枢の興奮の減少は、副交感神経を抑制し、交感神経を緊張させる。

→その結果、心拍出量が増加し、末梢血管抵抗が上昇するので血圧が上昇する。

3)液性因子

血管収縮物質

・副腎髄質:カテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリンなど)

・肝臓、脂肪細胞:アンギオテンシン

・血小板:トロンボキサン A2(TXA2, thromboxane A2)、セロトニン(止血を促進す

る)

・血管内皮細胞:エンドセリン

血管拡張物質

・血管内皮細胞:一酸化窒素(NO)、プロスタサイクリン(PGI2)

・肥満細胞(マスト細胞):ヒスタミン(アレルギーによる発赤、腫脹を促進する)

・右心房:心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)

・心室:脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)

4)レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系

①血圧が低下すると、腎臓の血流が減少する。

②腎臓の血流が減少すると、傍糸球体細胞(傍糸球体装置)からレニンが分泌される。

③レニンは、アンギオテンシノーゲンをアンギオテンシンⅠに変換する。

アンギオテンシノーゲンは 453個アミノ酸からなるたんぱく質で、主に肝臓で合成される。

レニンは、アンギオテンシノーゲンの N端を切り離して、10個のアミン酸からなるアンギオテンシ

ノーゲンⅠを生成する。アンギオテンシンⅠには生理活性はない。

④アンギオテンシン変換酵素(ACE, angiotensin converting enzyme)は、アンギオテンシンⅠをアン

ギオテンシンⅡに変換する。

アンギオテンシン変換酵素は、アンギオテンシンⅠの C 端の 2 つのアミノ酸を切り離して、8 個

のアミノ酸からなるアンギオテンシンⅡを生成する。

⑤アンギオテンシンⅡは、血管を収縮させて、血圧を上昇させる。

⑥アンギオテンシンⅡは、副腎皮質に働いて、アルドステロンを分泌させる。

⑦アルドステロンは、腎臓(集合管)に働いて、Naの再吸収を促進する。

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解剖生理学 要点整理ノート

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⑧Naの再吸収が促進すると、体液量が増加して、血圧が上昇する。

5)ナトリウム利尿ペプチド

心房性ナトリウム

利尿ペプチド

・ANP(atrial natriuretic peptide)

・右心房の壁から分泌されるホルモンである。

・右心房への静脈還流量が増加すると分泌が増加する。

・アルドステロンの作用に拮抗して、Naの尿中排泄を促進する。

→体内の Na量を減少するので、体液量が減少し、血圧が低下する。

脳性ナトリウム

利尿ペプチド

・BNP(brain natriuretic peptide)

・心室筋から分泌されるホルモンである。(脳で発見されたので「脳性」とい

われるが、ヒトの脳にはほとんどない)

・心室内への血液の流入量が増加すると分泌が増加する。

・アルドステロンの作用に拮抗して、Naの尿中排泄を促進する。

→体内の Na量を減少するので、体液量が減少し、血圧が低下する。

・心不全の診断(血中濃度が上昇)に利用される。

C型ナトリウム

利尿ペプチド

・CNP(C type natriuretic peptide)

・中枢神経、下垂体、血管内皮細胞から分泌されるホルモンである。

・生理作用は、不明である。

心臓の構造と機能 ( )左心房と左心室の間には、三尖弁がある。 ( )肺動脈と右心室の間には、僧帽弁がある。 ( )房室弁は、腱索により心室の乳頭筋につなぎとめられている。 ( )右心室から、上行大動脈が出ている。 ( )左心室からは、肺動脈が出る。 ( )肺動脈には動脈血が、肺静脈には静脈血が流れている。 ( )成人の心房中隔には、卵円孔がある。 ( )心臓壁の心筋層は、平滑筋でできている。 ( )冠状動脈は、胸大動脈から分岐している。 ( )冠状動脈には、心臓の拡張期に血液が流れる。

× × ○ × × × × × × ○

僧帽弁 半月弁 左心室 右心室 卵円窩 横紋筋 上行大動脈

心臓の刺激伝導系 ( )心筋の活動電位の第 2 相(プラトー相)は、Na+の持続的流入によって

起こる。 ( )刺激伝導系の線維は、自律神経線維でできている。 ( )刺激伝導系を構成する細胞は、特殊心筋細胞である。 ( )プルキンエ線維は、迷走神経の軸索である。 ( )洞房結節は、心房中隔にある。

× × ○ × ×

Ca2+ 特殊心筋 右心房

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解剖生理学 要点整理ノート

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( )房室結節の自発的活動電位の発生リズムは、心臓の中でもっとも速い。 ( )洞調律では、ヒス束が心拍動のペースメーカーとなる。 ( )心室筋がペースメーカーになったときは、心拍数は遅くなる。 ( )副交感神経(迷走神経)の緊張は、洞房結節の前電位を過分極させる。

× × ○ ○

洞房結節

心電図 ( )P 波は、心房筋の興奮を表す。 ( )Q 波は、心房筋の再分極を表す。 ( )R 波は、房室結節の興奮を表す。 ( )S 波は、洞房結節の興奮を表す。 ( )T 波は、心房筋の再分極を表す。

○ × × × ×

心室筋 心室筋 心室筋 心室筋

心臓周期 ( )心拍数が増加すると、1回心拍出量は増加する。 ( )心房収縮期には、動脈弁は閉じている。 ( )心房収縮期には、房室弁は閉じている。 ( )等容性収縮期には、動脈弁は閉じている。 ( )等容性収縮期には、房室弁は閉じている。 ( )駈出期には、動脈弁は開いている。 ( )駈出期には、房室弁は開いている。 ( )等容性弛緩期には、動脈弁は開いている。 ( )等容性弛緩期には、房室弁は開いている。 ( )充満期には、動脈弁は閉じている。 ( )充満期には、房室弁は開いている。 ( )静脈還流量が増加すると、心筋の収縮力は低下する。 ( )心臓の拡張期は、収縮期より短い。

× ○ × ○ ○ ○ × × × ○ ○ × ×

血管 ( )大動脈の中膜は、横紋筋でできている。 ( )抵抗血管には、平滑筋が豊富に含まれている。 ( )太い動脈には、弾性線維が豊富に存在している。 ( )動脈には、血液の逆流を防ぐための弁がある。 ( )冠状動脈では、側副循環が発達している。 ( )血管は、原則として交感神経の単独支配である。 ( )大動脈には、静脈血が流れている。 ( )上大静脈には、動脈血が流れている。 ( )肺動脈には、静脈血が流れている。 ( )肺静脈には、静脈血が流れている。 ( )門脈には、動脈血が流れている。

× ○ ○ × × ○ × × ○ × ×

平滑筋 終動脈 動脈血 静脈血 動脈血 静脈血

微小循環 ( )毛細血管の中膜は、平滑筋でできている。 ( )血液と間質液との物質交換は、静脈壁を通して行われる。 ( )血漿中の Na+濃度が上昇すると、膠質浸透圧が上昇する。 ( )血液の膠質浸透圧が上昇すると、間質から血管内への水の移動が増加す

る。 ( )血漿たんぱく質濃度が低下すると、間質液が減少する。 ( )静脈圧が上昇すると、間質液が減少する。 ( )リンパ管が閉塞すると、間質液が増加する。 ( )リンパ液には、血漿より高濃度のたんぱく質が含まれている。

× × × ○ × × ○ ×

毛細血管

血圧 ( )血圧は、末梢の細い動脈に行くほど高くなる。 ( )心拍出量が増加すると、血圧は低下する。

× ×

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解剖生理学 要点整理ノート

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( )末梢血管抵抗が上昇すると、血圧は低下する。 ( )一般に、拡張期血圧は、収縮期血圧の 1/2 である。 ( )血圧の測定では、触診法より、聴診法の方が高く測定される。 ( )心臓血管中枢は、脊髄に存在する。 ( )圧受容器が刺激されると、血圧が低下する。 ( )一酸化窒素(NO)の産生が増加すると、血圧は上昇する。 ( )アンギオテンシンⅡの産生が増加すると、血圧は低下する。 ( )アルドステロンの産生が増加すると、血圧は低下する。 ( )心房性ナトリウム利尿ペプチドは、血圧を上昇させる。 ( )アンギオテンシン変換酵素阻害薬を投与すると、血圧は低下する。

× × ○ × ○ × × × × ○

2/3 延髄 血管拡張

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解剖生理学 要点整理ノート

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5.呼吸器系の構造と機能

1.内呼吸と外呼吸

・肺で、外気から O2を取り入れ、CO2を排泄することを外呼吸という。

・体内の組織で、血液から O2を取り入れ、CO2を血液中に放出することを内呼吸という。

2.呼吸器系の構成

・呼吸器系は、鼻腔、咽頭、喉頭、気管、気管支、肺によって構成される。

・空気の通り道を、気道という。

・喉頭までを上気道、気管以下を下気道という。

3.呼吸器系の構造

(1)鼻腔

・鼻腔は、鼻中隔により左右に仕切られる。

・外界に通じる部分を外鼻孔、咽頭に続く部分を内鼻孔という。

・鼻腔の外壁には、上・中・下鼻甲介が突出しており、それぞれの下に上・中・下鼻道がつくられる。

・下鼻道には、鼻涙管が開いている。

・副鼻腔は、頭蓋骨の内部の空洞で、鼻腔とつながっている。

(2)咽頭

・耳管によって、咽頭と中耳はつながっている。

(3)喉頭

・喉頭は、甲状軟骨、輪状軟骨、喉頭蓋軟骨など多数の喉頭軟骨と喉頭筋で構成される。

・喉頭なかには、発声器である声帯(声帯ヒダ)がある。

(4)気管

・気管は、第 6頚椎の高さで喉頭に続いてはじまり、第 4~5胸椎の高さで左右の気管支に分かれる。

・気管の壁には、馬蹄形の気管軟骨(硝子軟骨)がある。後壁は軟骨を欠き、代わりに平滑筋束がある。

気管軟骨は、気管の内腔が閉鎖されるのを防ぐ。

平滑筋束の収縮は、気管の内腔を狭める。

・気管の後壁は、食道と接している。

・気管軟骨の間は輪状靭帯でつながっている。

・気管の粘膜上皮は、大多数を占める多列線毛上皮と、粘液を分泌する杯細胞からなる。

・気管の外膜は、結合組織からなる。

(5)気管支

・右気管支は、左気管支より太く、伸びる方向が垂直に近い。

・誤って飲み込んだ異物は、右気管支に入ることが多い。

・肺門から入った気管支は、分岐を繰り返しながら、葉気管支、区域気管支、終末細気管支、呼吸細気

管支、肺胞管を経て、肺胞となる。

・気管支にも軟骨は存在するが、肺内で分岐を繰り返すうちしだいに消失する。

・気管支の粘膜上皮は、大多数を占める多列線毛上皮と、粘液を分泌する杯細胞からなる。

・線毛の運動は、異物を気管の方向へ排出する。

・気管支軟骨(軟骨がないところでは、粘膜と外膜 2層構造になる)

・外膜は、結合組織からなる。

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解剖生理学 要点整理ノート

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(5)肺

・右肺は、上・中・下葉の 3葉に、左肺は上・下葉の 2葉に分かれ、右肺の方がやや大きい。

・肺の表面は、胸膜(漿膜)(臓側胸膜)で覆われている。

・胸壁の内面には壁側胸膜で覆われている。

・臓側胸膜と壁側胸膜で作られる閉じた空間を胸腔(胸膜腔)という。

・胸腔には、少量液体があり、潤滑油の役割を果たしている。

(6)肺胞

・肺胞は、0.2~0.5mmの袋状の構造をしており、内面は、扁平なⅠ型肺胞上皮細胞と丈の高いⅡ型肺胞

上皮細胞でおおわれている。

Ⅰ型肺胞上皮細胞

・扁平な細胞

・毛細血管内皮細胞と基底膜を介して接することによりガス交換を容易にし

ている。

Ⅱ型肺胞上皮細胞

・サーファクタントを分泌する。

・サーファクタントは、リン脂質とタンパク質からなる物質で、表面活性作

用を有する。

・表面活性作用により肺胞内の水分の表面張力を低下させ、肺胞が虚脱する

のを防いでいる。

・胎児の肺は、妊娠 26週までに構造が出来上がり、妊娠 34週には肺サーフ

ァクタント産生が十分量に達して機能的に成熟する。

・肺胞内には、塵埃細胞(肺胞マクロファージ)が存在し、肺胞内の異物を処理する。

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解剖生理学 要点整理ノート

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4.呼吸運動(respiratory movement)

(1)胸郭(thorax)

・胸椎、肋骨、胸骨で囲まれた籠状の骨格を胸郭という。(「郭」=壁で囲まれた空間のこと)

・肺は、自らふくらんだり縮んだりできないので、肺への空気の出し入れ(換気 ventilation)は、胸

郭の運動によって行われる。

(2)呼吸筋

・胸郭の運動は、外肋間筋(external intercostal)、内肋間筋(internal intercostal)と横隔膜

(diaphragm)の収縮と弛緩により行われる。

・換気に関与する筋肉は、随意筋である。

・外肋間筋と内肋間筋は、胸髄から出る運動ニューロン(肋間神経)の支配を受ける。

・横隔膜は、頚髄から出る運動ニューロン(横隔神経)の支配を受ける。

(3)換気

吸息

・外肋間筋が収縮すると、肋骨が引き上げられる。

・横隔膜が収縮すると、横隔膜と頂部が下降する。

→胸郭の拡大→胸腔内圧の低下(陰圧)→肺の拡大→肺胞内圧の低下(陰圧)→空気の取り

入れ

呼息

・外肋間筋が弛緩すると、重力により肋骨が下がる。

・内肋間筋が収縮すると、肋骨が引き下げられる。

・横隔膜が弛緩すると、横隔膜の頂部が上昇する。

・腹筋が収縮すると、腹腔内の圧力が上昇し、横隔膜を押し上げる。

→胸郭の縮小→胸腔内圧の上昇(陰圧)→肺の縮小→肺胞内圧の上昇(陽圧)→空気の排

・肺胞内圧は、呼吸により陰圧と陽圧を交互に繰り返すが、胸腔内圧は、常に陰圧である。

・無意識に呼吸を行うときは、吸息時のみ横隔膜と外肋間筋を使用し、呼息時は筋肉を使用しない。

・意識的に呼吸を行うときは、吸息時には横隔膜と外肋間筋を使用し、呼息時には内肋間筋や腹筋を使

って胸腔を狭める。

・主に横隔膜の働きで呼吸する場合を腹式呼吸、主に胸郭の筋肉の働きで呼吸する場合を胸式呼吸とい

い、両方同じくらい使うものを胸腹式呼吸という。

・安静時の呼吸では、横隔膜の収縮(腹式呼吸)が呼吸容積の変化の 80%を占めている。

・呼吸運動には、無意識下や睡眠中でも起こる不随意運動と、意識的に呼吸する随意運動がある。

・せき、くしゃみは、反射による不随意呼吸運動である。

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解剖生理学 要点整理ノート

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(5)呼吸気量

肺活量

・できるだけ深く吸息したあとで最大限に呼息したときに吐き出される空気量

男性 4000~4500 ㎖、女性 3000~4000 ㎖

・肺活量は、安静時の 1回換気量(0.5ℓ)に予備呼気量(1ℓ)と予備吸気量(2ℓ)を加

えたものと同じである。

残気量

・最大呼息時において気道に存在する空気の量(約 1ℓ)で、肺活量と残気量を合わせた

ものを全肺気量という。

・機能的残気量(2ℓ)とは、安静呼息時において気道内に存在する空気の量で、予備呼

気量と残気量を合わせたもの

毎分

換気量 ・1回換気量に呼吸数をかけて求める。

死腔

・ガス交換しない気道の部分を、死腔(150㎖)という。

・浅く早い呼吸に比べて深く遅い呼吸のほうが毎分換気量は多くなる。

1回換気量 呼吸数 毎分換気量

浅く速い呼吸 0.5ℓ 30回/分 (0.5-0.15)×30=10.5ℓ/分

深く遅い呼吸 1.0ℓ 15回/分 (1.0-0.15)×15=12.8ℓ/分

1秒量

1秒率

・努力肺活量は、最大吸気位から最大呼気位まで最大の速度で吐き出した時の空気の

量である。

・1秒量:努力肺活量を測定する時の最初の 1秒間に排泄する呼気の量

・1秒率:1秒量が、肺活量に占める割合

ゲンスラーの 1秒率:1秒量÷努力肺活量×100(%)

チフノーの 1秒率:1秒量÷肺活量×100(%)

・気管支の狭窄によりエア・トラッピングがある場合は、肺活量に比べて努力肺活量が

小さくなるので、ゲンスラーの 1秒率>チフノーの 1秒率となる。

5.ガス交換

・酸素(O2)と二酸化炭素(CO2)は、肺胞内と毛細血管内のそれぞれの分圧の差に従って、拡散により

交換される。

肺動脈(静脈血) 肺胞 肺静脈(動脈血) 外気

酸素分圧(PO2) 40mmHg 100mmHg 96mmHg 160mmHg

二酸化炭素分圧(PCO2) 46mmHg 40mmHg 40mmHg 0.3mmHg

・ガスの拡散能は、ガスの溶解度に比例する。

CO2の溶解度は、O2の 20倍なので、CO2の拡散能は、O2の 20倍である。

・CO2排泄量と O2消費量の比(CO2/O2)を、呼吸商(RQ, respiratory quotient)という。

・圧力の単位:100mmHgは、水銀柱の高さ 100mmのこと

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解剖生理学 要点整理ノート

53

・分圧:多成分から成る混合気体における、ある 1 つの成分が混合気体と同じ体積を単独で占めたとき

の圧力

・液体中の分圧:液体と気体が接触している状態で、液体から気体へ移動する分子の数と気体から液体

へ移動する分子の数が平衡状態に達している時の気体の分圧で表す。

・X が酸素であれば PO2(酸素分圧)、Xが二酸化炭素であれば PCO2(二酸化炭素分圧)

・100mmHg:圧力の単位、水銀柱の高さで 100mm のこと

6.酸素(O2)の運搬

(1)酸素の運搬方法

・血液中の O2のうち、物理的に溶解して運搬される量は 1%である。

・血液中の O2の 99%は、ヘモグロビンと結合して運ばれる。

・ヘモグロビン 1ℊは、1.39 ㎖の O2と結合できるので、100 ㎖(ヘモグロビン 15ℊ)の血液は 20.1

㎖の O2と結合することができる。

・ヘモグロビンに結合する O2の量(酸素飽和度)は、O2分圧が高いほど多い。

・同じ O2分圧ならば、ヘモグロビン濃度が高いほど、多くの O2を運ぶことができる。

・ヘモグロビンに含まれる鉄は、2価(Fe2+)である。

(2)酸素解離曲線

・酸素解離曲線は、S字型をしている。

・少しの酸素濃度の変化により、より大きな酸素結合能の変化を得ることができる。

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解剖生理学 要点整理ノート

54

・酸素飽和度を動脈血酸素分圧の関係(Torr=水銀柱㎜(mmHg))

SaO2(%) 75 85 90 93 95 98

PaO2(Torr) 40 50 60 70 80 100

基準値(SaO2≧95、PaO2≧80)、呼吸不全(SaO2<90、PaO2<60)

・CO2、pH、温度が酸素解離曲線に与える影響

肺胞

・肺胞の周辺では、CO2が肺胞気中に拡散するので CO2分圧は低下する。

・血液中の CO2濃度が低下するので、pHは上昇する。

・外気に触れることにより温度が低下する。

・CO2↓、pH↑、温度↓は、酸素解離曲線を左方移動させるので、酸素とヘモグロビンの親

和性が上昇する。→肺胞中の酸素を、ヘモグロビンに効率よく取り込むことができる。

組織

・組織では、代謝により CO2が産生されるので CO2分圧は上昇する。

・血液中の CO2濃度が上昇するので、pHは低下する。

・体内深部なので温度が上昇する。

・CO2↑、pH↓、温度↑は、酸素解離曲線を右方移動させるので、、酸素とヘモグロビンの親

和性が低下する。→ヘモグロビンから酸素を放出し、組織の細胞へ酸素を供給できるよ

うになる。

7.二酸化炭素(CO2)の運搬

・血液中の CO2のうち 5%は、物理的溶解により運搬される。

・血液中の CO2のうち 5%は、赤血球に入りヘモグロビンと結合(カルバミノヘモグロビン)して運搬さ

れる。

・血液中の CO2のうち 90%は、赤血球の炭酸脱水素酵素の働きで生成する重炭酸イオン(HCO3-)の形で

運搬される。CO2+H2O ⇔ H2CO3 ⇔H++HCO3-

・肺においては、ヘモグロビンは H+を放出して O2と結合するので、重炭酸イオンと H+から炭酸(H2CO3)

が生成され、さらに水(H2O)と二酸化炭素(CO2)に分解されることにより肺からの二酸化炭素の排泄

を促進する。

・組織においては、O2 を放出したヘモグロビンは H+と結合しやすくなるので、CO2 から重炭酸イオンの

生成を促進する。

・重炭酸イオンは、血液の pHを維持する炭酸‐重炭酸緩衝系として働く。

8.呼吸の調節

(1)呼吸中枢

・呼吸中枢は、延髄にある。

・呼吸中枢には、背側呼吸ニューロン群(DRG, dorsal respiratory group)と腹側呼吸ニューロン群

(VRG, ventral respiratory group)がある。

DRG は、主に吸息ニューロンからなり、横隔膜の収縮による吸息を起こす。

VRG は、吸息ニューロンと呼息ニューロンからなり、主に肋間筋の運動を支配する。

VRG には、自発的な呼吸リズムを発生させる部位がある。

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解剖生理学 要点整理ノート

55

・橋には、呼吸調節中枢がある。

・呼吸調節中枢は、延髄で作られる呼吸のリズムの長さと深さを調節している。

・随意的呼吸リズムの形成には、大脳皮質や視床下部からの影響を受ける。

(2)ヘーリング‐ブロイエル反射

・自発的な呼吸運動の律動性をつくり出す反射を、ヘーリング‐ブロイエル反射(肺迷走神経呼吸反射)

と呼ぶ。

・吸息中枢の興奮により外肋間筋・横隔膜が収縮して吸気を行うと、肺が拡張して気管支の末梢や肺胞

に存在する伸展受容器が刺激される。

・この刺激は、迷走神経を介して延髄の呼吸中枢に伝えられて吸息中枢を抑制し、吸息から呼息に切り

替える。

・呼息により肺が縮小すると伸展受容器からの刺激が減少し、吸息中枢が興奮して呼息から吸息に切り

替わる。

(3)化学受容器による調節

1)中枢化学受容器

・延髄には、水素イオン(H+)濃度を感受する受容器(中枢化学受容器)がある。

・動脈血の二酸化炭素分圧が上昇し、脳脊髄液の pH が低下すると中枢化学受容器が刺激され、呼吸を

促進する。

・頚動脈小体や大動脈小体より鋭敏な感受性をもつ。

2)末梢化学受容器

・頚動脈小体と大動脈小体には、酸素濃度と H+濃度を感受する受容器(末梢化学受容器)が存在する。

・主に、血液中の酸素分圧の低下を感受し、呼吸を促進する。

・頚動脈小体は、総頚動脈が内頚動脈と外頚動脈に分岐する部位にあって、舌咽神経の支配を受ける。

・大動脈小体は、大動脈弓の近傍にあって、迷走神経の支配を受ける。

9.呼吸の観察

・呼吸では、数の異常(頻呼吸、徐呼吸)、深さの異常(過呼吸、浅呼吸)、リズムの異常を観察する。

・成人の正常な呼吸回数は、14~20/minである。

・頻呼吸(24/min以上):発熱、貧血、興奮時など

・徐呼吸(12/min以下):代謝低下時、睡眠時など

・過呼吸(過剰な換気):神経症(過換気症候群)、運動後など

・浅呼吸(換気不足):呼吸筋麻痺、睡眠時など

・呼吸異常

起座呼吸 ・心不全

クスマウル呼吸 ・深く大きな呼吸で数は減少する。

・糖尿病性ケトアシドーシス、尿毒症など

チェーン・ストーク

ス呼吸

・呼吸数と深さが徐々に増加し、ある深さに達した後再び徐々に減弱して、

ついに無呼吸(10~20秒)となることを繰り返す。

・脳血管障害、脳腫瘍、睡眠薬、麻薬中毒など

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解剖生理学 要点整理ノート

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ビオー呼吸 ・深さの一定しない促進した呼吸と無呼吸とが不規則に交互に現れる。

・脳、髄膜の器質的疾患など

・せき、くしゃみは、反射による不随意運動である。

10.呼吸音の聴診

呼吸音 ・気道内の空気の流れにより発生する音で、呼気に比べて吸気の方がよく聞こえる。

副雑音

(健常者で

は聞くこと

ができない

音)

ラ音

断続性ラ音

・断続的な音の集合で、気道の閉塞部位が吸気により、急激に

解放されるときに発生する。

・細かな断続性ラ音「パリパリ」(捻髪音)は、間質性肺炎や

肺線維症などで、吸気の後半に聞かれる。

・粗い断続性ラ音「ブツブツ」(水泡音)は肺炎や気管支炎な

どで、吸気の初期に聞かれる。

連続性ラ音

・一定時間以上持続する管楽器の音のようなラ音で、気道の

狭窄部位を空気が通過するときに発生する。

・高調性連続性ラ音「ピー」(笛様音)は気管支喘息の発作時

で、呼気時に聞かれる。

・低調性連続ラ音「ギー」(いびき様音)は気管支喘息、慢性

閉塞性肺疾患(COPD)で聞かれる。

その他 胸膜摩擦音 ・「バリバリ」胸膜の炎症

・「ラ音」(日本語、ラッセル音の略)、râle(ラーレ、フランス語)、rasseln(ラッセル、ドイツ語)、

rhonchus(ロンクス、英語)

11.呼吸不全

・定義 PaO2:動脈血酸素分圧 60mmHg以下

・分類 PaCO2:Ⅰ型 45mmHg 以下、Ⅱ型 45mmHg以上

・Hugh-Jones(ヒュー・ジョーンズ)分類

Ⅰ度:同年齢・同体格の人と同様の労作が可能で、歩行、階段の昇降もできる。

Ⅱ度:同年齢・同体格の健常人と平地では同様に歩行できるが、坂、階段ではついて行けない。

Ⅲ度:平地でも健常人と一緒には歩けないが、自分のペースでなら平地なら 1.6km(1 マイル)以上

歩ける。

Ⅳ度:休まなければ平地でも 50m 以上は歩けない。

Ⅴ度:会話や衣服の着脱でも苦しく、そのため外出もできない。

呼吸器の構造 ( )鼻涙管は、咽頭に開口している。 ( )咽頭と中耳は、鼻涙管によってつながっている。 ( )声帯は、咽頭にある。 ( )気管軟骨は、リング状の形をしている。 ( )気管の粘膜上皮は、重層扁平上皮である。

× × × × ×

鼻腔 耳管 喉頭 馬蹄形 多列線毛上皮

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解剖生理学 要点整理ノート

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( )右肺は、上下 2 葉に分かれている。 ( )左肺は、上葉・中葉・下葉の 3 葉に分かれている。 ( )肺胞内には、塵埃細胞が存在する。 ( )肺胞の上皮には、サーファクタントを分泌する細胞がある。 ( )サーファクタントは、リン脂質とたんぱく質でできている。

× × ○ ○ ○

上中下 3 葉 上下 2 葉

呼吸運動 ( )肺胞の周囲に分布する平滑筋が収縮・弛緩を繰り返すことにより肺胞内

の空気を出し入れして呼吸を行う。 ( )思いきり息を吐き出した状態では、肺胞内に空気は残っていない。 ( )残気量とは、最大吸息時の肺内の空気の量である。 ( )鎖骨は、胸郭を構成する骨である。 ( )吸息時には、内肋間筋が収縮する。 ( )吸息時には、横隔膜が弛緩する。 ( )吸息時には、胸腔内圧が低下する。 ( )横隔膜は、平滑筋でできている。 ( )外肋間筋の収縮により、息を吐き出す。 ( )腹筋は、呼吸運動に関与しない。 ( )気道に狭窄があると、1 秒率が大きくなる。

× × × × × × ○ × × × ×

胸郭の運動 残気量(1ℓ)

呼息時 外肋間筋 収縮 骨格筋 内肋間筋 小さくなる

酸素の運搬 ( )肺胞でのガス交換を、内呼吸という。 ( )空気(外気)の酸素分圧と、肺胞内の酸素分圧は等しい。 ( )血液中の酸素の 90%は、物理的に溶解して運搬される。 ( )100 ㎖の血液は、約 60 ㎖の酸素と結合できる。 ( )血液の pH が上昇すると、ヘモグロビンは酸素と結合しやすくなる。 ( )血液の温度が上昇すると、ヘモグロビンは酸素と結合しやすくなる。 ( )血液の二酸化炭素分圧が上昇すると、ヘモグロビンは酸素と結合しやすくなる。

× × × × ○ × ×

外呼吸 外気>肺胞 1% 20.1 ㎖ 肺 組織 組織

二酸化炭素の運搬 ( )肺動脈の二酸化炭素分圧は、肺胞内の二酸化炭素分圧より低い。 ( )血液中の二酸化炭素の 50%は、ヘモグロビンと結合して運搬される。 ( )血液中の二酸化炭素の 15%は、物理的に溶解して運搬される。 ( )血液中の二酸化炭素の 5%は、重炭酸イオンとして運搬される。 ( )炭酸脱水素酵素は、赤血球内に存在する。 ( )血液中の二酸化炭素の 80%は、たんぱく質と結合して運搬される。 ( )重炭酸イオンは、血液の pH 調節に関与しない。

× × × × ○ × ×

5% 5% 90%

呼吸の調節 ( )呼吸中枢は、大脳皮質に存在する。 ( )呼吸調節中枢は、橋に存在する。 ( )肺の伸展受容器が刺激されると、呼息中枢が抑制される。 ( )血液の pH が低下すると、呼吸は抑制される。 ( )血液の酸素分圧が低下すると、呼吸は抑制される。 ( )延髄の中枢化学受容器は、酸素分圧の低下を感知する。 ( )大動脈小体は、酸素分圧の低下を感知する。 ( )頚動脈洞小体は、酸素分圧の低下を感知する。

× ○ × × × × ○ ○

延髄 吸息中枢 促進 促進 CO2分圧

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解剖生理学 要点整理ノート

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6.泌尿器系の構造と機能

1.腎臓の構造

(1)肉眼的構造

・腎臓は、腹腔後壁に存在する左右一対のソラマメ型の臓器である。

・右腎臓は、肝臓があるために左腎臓より低い位置にある。

・腎門から、腎動脈、腎静脈、尿管が出入りする。

・腎臓の実質は、皮質と髄質に区別される。

(2)ネフロン

1)ネフロン

・ネフロンは、腎臓の機能単位であり、腎小体とそれに続く尿細管で構成される。

・ネフロンは、一側の腎臓で約 100万個存在する。

・腎臓で生成された尿は、腎盂(腎盤)、尿管、膀胱、尿道を経て体外に排泄される。

2)腎小体(マルピギー小体ともいう)

・腎小体は、糸球体とそれを包むボウマン嚢で構成される。

・腎動脈は、腹大動脈から直接分岐して腎門から腎臓に入り、分枝を繰り返して輸入細動脈となる。

・輸入細動脈は、腎小体に入って毛細血管となり糸球体を構成した後、輸出細動脈となって腎小体を出

る。

・糸球体は、毛細血管を形成する内皮細胞と基底膜、およびその外側の足細胞(被蓋細胞)からなる。

・糸球体の基質の一部で細胞成分(メサンギウム細胞)がある部分をメサンギウムと呼ぶ。

・メサンギウム細胞には、貪食能や収縮能があるとされ、腎機能の調節に関与している。

・糸球体を出た輸出細動脈は、再び毛細血管となって皮質と髄質の尿細管のまわりに網状に分布した後

腎静脈となって腎門から腎臓を出て下大静脈に合流する。

3)尿細管

・1 つのボウマン嚢から 1本の尿細管が出る。

・尿細管は、近位尿細管、ヘンレ係蹄(ヘンレループ)、遠位尿細管からなる。

・複数の尿細管は、集合管へ合流し、腎杯に開口する。

4)傍糸球体装置

・ヘンレ係蹄上行脚の終端部は、尿細管が発した糸球体の輸入細動脈と輸出細動脈の間に密接して通り、

緻密斑(macula densa)を形成する。

・傍糸球体装置は、①緻密班、②緻密班に隣接する糸球体外メサンギウム細胞、③傍糸球体細胞(輸入

細動脈中膜(平滑筋層)にある顆粒細胞)、④輸出細動脈で構成され、糸球体濾過量を調節する。

・傍糸球体細胞は、レニンを分泌する。

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解剖生理学 要点整理ノート

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2.腎臓の機能

(1)尿の生成(老廃物の排泄)

1)糸球体の濾過機能

・糸球体の毛細血管圧を 50 ㎜ Hg、血漿の膠質浸透圧を 25㎜ Hg、ボウマン嚢内圧を 15㎜ Hgとすると、

有効濾過圧は 50-25-15=10㎜ Hgである。

・糸球体の毛細血管圧は、輸入細動脈と輸出細動脈の収縮により調節される。

・全身の血圧が 55㎜ Hg以下になると濾過が行われない。

→血圧が 55㎜ Hg以下になると、老廃物を排泄できないので尿毒症になる。

・血液が糸球体を通過するときに、基底膜を介して濾過された濾液はボウマン嚢に入り原尿となる。

2)限外濾過

・糸球体では水と小分子は基底膜を自由に通過することができるが、たんぱく質など大きな分子や血球

は通過することができない。

・β2ミクログロブリン(HLAクラスⅠの L鎖)(HLA, human leukocyte antigen)は、分子量が小さい

ので糸球体を自由に通過し、近位尿細管でほぼ 100%再吸収される。

→糸球体機能が障害されると、血中β2ミクログロブリン濃度が上昇する。

→尿細管機能が障害されると、β2ミクログロブリンの尿中排泄が増加する。

3)尿細管の再吸収と分泌

・糸球体で濾過された水と電解質の約 80%は、近位尿細管で再吸収される。

・残りの水と電解質の大部分は、ヘンレ係蹄、遠位尿細管、集合管で再吸収される。

・遠位尿細管、集合管での水と電解質の再吸収はホルモン(バソプレシン、アルドステロン、Na利尿ペ

プチド、パラソルモン)により調節される。

・グルコース、アミノ酸、ビタミンの大部分は、近位尿細管で再吸収される。

・尿糖排泄閾値は、血中グルコース濃度 180㎎/㎗である。

→血糖値が 180㎎/㎗以上になると、再吸収されなかったグルコースが尿中に排泄される。

・尿細管は、酸や老廃物を分泌して、尿中に排泄する。

→H+は、遠位尿細管と集合管から分泌される。

・水は、集合管でさらに再吸収されて尿は濃縮される。

・最終的には、糸球体で濾過された水と電解質の 99%が再吸収され、残りの 1%が尿として体外に排泄

される。

・PSP排泄試験

・PSP(phenolsulfonphthalein)は、近位尿細管から分泌される赤色色素である。

・PSP(6mg)を注射 15分、30分、60 分、120分後に尿を全量採取する。

・15分値は、腎血流量と近位尿細管の分泌機能を反映する。

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解剖生理学 要点整理ノート

60

4)対向流増幅系の形成と尿の濃縮

・対向流増幅系(ヘンレ係蹄の下行脚は水の透過性が高いが、Na の透過性は低く、上行脚は Na を能動

的に吸収すること)により、髄質に Naの浸透圧勾配が形成される。

①上行脚で Naが再吸収されると、間質の Na濃度が高くなり、浸透圧が高くなる。

②その浸透圧により下行脚から水が吸収されると、下行脚の管内の浸透圧は上昇する。

③下行脚の上部とその周辺の間質の浸透圧は、原尿が流入するので浸透圧はもとに戻るが、ヘンレ

係蹄の底部は、浸透圧が高い状態に維持される。

①~③が繰り返されてヘンレ係蹄に浸透圧の勾配が形成され、ヘンレ係蹄の底部の間質の浸透圧は

高く維持される。

・髄質に形成される浸透圧勾配により、集合管からの水の再吸収が促進され、尿が濃縮される。

・髄質の最深部の浸透圧は 1,200mOsm/㎏ H2Oに達するので、尿は最大 1,200mOsm/㎏ H2Oまで濃縮可能で

ある。(血漿浸透圧は、約 280mOsm/㎏ H2O)

5)腎機能に関する数値の覚え方

・1 日の尿量は、約 1.5ℓ/日である。

・糸球体で濾過された水の 1%が尿として排泄されるので、糸球体濾過量は、150ℓ/日である。

・糸球体に入った血液の 10%が濾過されるので、腎血流は、1,500ℓ/日である。

(3)内分泌機能

レニン

・腎血流が減少すると輸入細動脈の中膜に存在する傍糸球体細胞(平滑筋

細胞由来の顆粒細胞)から分泌される。

・レニン・アンギテンシン・アルドステロン系を活性化する。

エリスロポイエチン ・骨髄に働いて、赤血球の産生を促進する。

ビタミン D活性化

・ビタミン D は、肝臓で 25 位の炭素が水酸化され 25-OH ビタミン D とな

り、続いて腎臓で 1位の炭素が水酸化され活性型の 1,25-OHビタミン D

となる。

・副甲状腺ホルモンは、腎臓でのビタミン D活性化を促進する。

・活性化ビタミン Dは、小腸からの Ca吸収を促進し、血中 Ca濃度を上昇

させる。

3.糸球体濾過値(GFR, glomerular filtration rate)の測定

・クリアランスとは、一定時間内に尿中へ排泄されたある物質(X)が血漿中にあったときには何㎖の血

漿に含まれていたかを示す値である。

・X は、糸球体で自由に濾過され、尿細管で再吸収も分泌もされない時、クリアランスは糸球体濾過値

(GFR)を表す。

・ある物質の尿中濃度を Ux(㎎/㎖)、血漿濃度を Px(㎎/㎖)とし、1分間尿量を V(㎖/分)とすると、

クリアランス(Cx)は Cx(㎖/分)=Ux×V÷Pxであらわされる。

尿中に排泄された Xの量(㎎/分)=尿中濃度 Ux(㎎/㎖)×尿量 V(㎖/分)

濾過された血漿の体積(㎖/分)=尿中に排泄された Xの量(㎎/分)÷血漿濃度を Px(㎎/㎖)

・クレアチニンは糸球体を自由に通過し、尿細管で少量の分泌・再吸収はあるものの、GFR とよく相関

することから、クレアチニンクリアランスは腎臓病患者の GFR の指標として必須の臨床試験である。

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解剖生理学 要点整理ノート

61

4.尿管

・尿管は、腎門を通って腎臓の外に出る。

・尿管は、平滑筋の筋層があり、腎盂から膀胱に向かって蠕動運動を行っている。

・腎盂、尿管、膀胱の上皮は、移行上皮である。

5.膀胱

・膀胱は、骨盤腔内で恥骨結合の後ろにある。

・膀胱壁は、粘膜、筋層、外膜(一部漿膜)の 3層からなる。

粘膜 ・粘膜上皮は、移行上皮である。

筋層 ・3層(内縦、中輪、外縦)の平滑筋からなる。

外膜 ・弾性線維を含む結合組織からなる。後上面のみ腹膜(漿膜)で覆われている。

・膀胱壁は、蓄尿・排尿を行うために伸展・収縮する。

・2 つの尿管の開口部と内尿道口で形成される三角形を膀胱三角という。

・膀胱三角部の粘膜は筋層と強く結合しているために、伸展・収縮しない。

・成人の膀胱の平均容量は、500㎖である。

・排尿反射の中枢は、仙髄に存在する。

蓄尿反射 ・膀胱内の尿量が少ない時は、下腹神経(交感神経)を介して、膀胱平滑筋を弛緩させ、

内尿道括約筋(平滑筋)を収縮させる。

排尿反射

・膀胱内の尿量が 300~500ml に達すると、膀胱内圧が急激に上昇し、強い尿意を起こ

す。

・排尿する意思があれば、排尿反射中枢の抑制を解除し、骨盤神経(副交感神経)を介

して、膀胱平滑筋を収縮させ、内尿道括約筋(平滑筋)を弛緩させる。

・同時に、陰部神経(運動神経)を介して外尿道括約筋(横紋筋)を弛緩させることに

より、膀胱内にたまった尿が体外に押し出す。

6.尿道

・男性の尿道は、15~20cmと長いが,女性では約 4cmと短い。

・尿道の粘膜上皮は、起始部では移行上皮,中間部では円柱上皮,出口近くでは重層扁平上皮である。

7.尿の成分

・1 日の正常な尿量は、約 1,500 ㎖である。

・尿浸透圧は、通常 500~800mOsm/kgH2Oであるが、最大 1,200mOsm/kgH2Oまで濃縮できる。

・1 日に排泄される溶質は約 600mOsmなので、すべて排泄するには約 500㎖の尿量が必要である。

・尿の pHは、通常 5~7(弱酸性)である。

肉など酸性食品を摂取すると酸性に傾き、野菜などアルカリ性食品を摂取するとアルカリに傾く。

・尿の主成分は、尿素、クレアチニン、尿酸、アンモニア、リン酸、電解質などであるが、微量のたん

ぱく質(1日 100 ㎎)とグルコース(1日 40~85㎎)も排泄される。

物質 濃度(mg/㎗)

尿 血清

ナトリウム 350 300

尿素 150 20

クレアチニン 75 1

グルコース 0 100

・尿の淡黄色は、ウロビリン(腎臓でウロビリノーゲンが酸化されて産生される)に由来する。

・尿には、揮発性の酸による特有の芳香臭がある。

・尿を長時間放置すると、細菌のウレアーゼにより尿素が分解されてアンモニアが生成するのでアンモ

ニア臭がするようになる。

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解剖生理学 要点整理ノート

62

・排尿の異常 乏尿 ・400㎖/日以下(20 ㎖/時以下)

無尿 ・100㎖/日以下

多尿 ・2,500 ㎖/日以上

尿閉 ・尿意があっても排尿できないことをいう。

・排尿反射の異常や尿道結石・膀胱結石による尿道の閉塞により起こる。

尿失禁 ・排尿を止められないことをいう。

・尿意がある場合と、ない場合がある。

腎臓の構造と機能 ( )右腎臓は、左腎臓より高い位置にある。 ( )腎小体は、腎臓の髄質にある。 ( )糸球体は、腎臓の髄質にある。 ( )腎小体は、糸球体と尿細管で構成される。 ( )1 つのボウマン嚢から、複数の尿細管が出る。 ( )ヘンレループは、近位尿細管と遠位尿細管の間にある。 ( )尿細管は、ヘンレループ→遠位尿細管→近位尿細管の順につながってい

る。 ( )アルブミンは、糸球体で濾過される。 ( )β2ミクログロブリンは、糸球体で濾過されない。 ( )ビタミン D を不活性化する。 ( )エリスロポイエチンを分泌する。 ( )糸球体で濾過されたクレアチニンの 50%は、尿細管で再吸収される。 ( )ボウマン嚢の内圧が上昇すると、糸球体濾過量が増加する。 ( )糸球体で濾過されたグルコースは、主に近位尿細管で再吸収される。 ( )糸球体で濾過された Na の約 90%は、尿中に排泄される。 ( )クレアチニンクリアランスは、腎臓の血流量をあらわす。

× × × × × ○ × × × × ○ × × ○ × ×

肝臓の影響 皮質 皮質 ボウマン嚢 1 本 されない される 活性化 されない 減少 0~20% GFR

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解剖生理学 要点整理ノート

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7.水・電解質と酸塩基平衡の調節

1.体内の水の分布

割合(%) 体重 50㎏の場合(ℓ)

体内の水分 60 30

細胞内液 40 20

細胞外液 20 10

間質液 15 7.5

血漿 5 2.5

2.水の出納

摂取水分量(㎖) 排泄水分量(㎖)

飲料水 1,200 尿 1,500

食物中の水 1,000 不感蒸散 900

代謝水 300 糞便 100

合計 2,500 合計 2,500

・不感蒸散(不感蒸泄ともいう):呼気中に含まれる水蒸気と皮膚からの蒸発によって失われる水

・成人(体重 50㎏の場合)、1日に体内の水の 8.3%(2.5ℓ÷30ℓ×100)が入れ替わる。

・小児の 1日の体重当たり水分必要量

新生児 60~150㎖/㎏/日

乳児 120~150㎖/㎏/日

幼児 80~100㎖/㎏/日

学童 60~80㎖/㎏/日

3.水・電解質の調節

(1)体内 Na量と体液量

・Na+は、細胞外液中の陽イオンの 90%を占めていて、細胞外液量と血漿浸透圧を決めるもっとも重要

な因子である。

・血漿浸透圧は、一定(約 280mOsm/㎏ H2O)に保たれている。

・体内の Na 量が増加すると、細胞外液量も増加し、体内の Na 量が減少すると細胞外液量も減少する。

(2)水と電解質の調節に関わる因子

飲水中枢

(視床下部)

・飲水行動を起こし、飲水量を増加させる。

・血液浸透圧が上昇により刺激される。

バソプレシン

(下垂体後葉)

・集合管での水の再吸収を促進する。

・血液浸透圧の上昇または体液量の低下により刺激される。

・浸透圧受容器は視床下部にある。

アルドステロン

(副腎皮質)

・集合管での Na 再吸収と K排泄を促進する。

・分泌は、レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系により調節される。

・Naの排泄量は、1~400mEq/日の範囲で調節可能である。

400mEqは食塩で約 23gに相当する。

Na利尿ペプチド

(心臓)

・アルドステロンの作用に拮抗して、集合管での Na再吸収・K排泄を抑制する。

・心房性 Na 利尿ペプチド(ANP, atrial natriuretic peptide)

心房壁から分泌される。

・脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP, brain natriuretic peptide)

心室筋から分泌される。(脳で発見されたので BNPという名前だが、ヒトで

は脳にほとんど存在しない)

パラソルモン

(副甲状腺) ・遠位尿細管での Caの再吸収と Pの排泄を促進する。

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解剖生理学 要点整理ノート

64

4.酸塩基平衡の調節

(1)酸と塩基

ブレンステッド・ローリーの定義 HA(酸)⇔H+ + A-(共役塩基)

解離常数 K=[H+]×[A-]/[HA]

ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式 [H+]=K×[HA]/[A-]

pH=-log[H+]=pK+log[A-]/[HA]

・pHは酸とその共役塩基の濃度の比によって決まる。

→酸が増加するか、その共役塩基が減少すると pHは低下する。

→酸が減少するか、その共役塩基が増加すると pHは上昇する。

→溶液に酸または塩基を加えたときは、[A-]≒[HA]のときが pHの変化がもっとも小さい。

→ある緩衝系の緩衝作用は pK 付近でもっとも強い。

(2)血液の緩衝系

炭酸-重炭酸緩衝系(H2CO3-HCO3-系) H2CO3 ⇔ H+ + HCO3- (pK 6.1)

リン酸緩衝系(H2PO4--HPO42-系) H2PO4- ⇔ H+ + HPO42- (pK 6.8)

タンパク質緩衝系 H-たんぱく質 ⇔ H+ + タンパク質-

・炭酸-重炭酸塩緩衝系の緩衝作用(pK 6.1)は、pH7.4 付近では弱いが、量的に多いために血液の緩

衝系ではもっとも重要である。

pH=6.1+log[HCO3-]/[H2CO3]

H2CO3濃度は CO2分圧によって決められ、主に呼吸によって調節される。

H2O + CO2 ⇔ H2CO3([H2CO3]=0.03×pCO2)

HCO3-濃度は主に腎臓での排泄・再吸収によって調節される。

(3)酸塩基平衡の障害

1)アシドーシス(asidosis)とアルカローシス(alkalosis)

・糖質、たんぱく質、脂質が体内で代謝されていく過程で、1 日に 15,000~20,000mEq の酸が産生され

る。

・このうち大部分は肺から CO2として排泄され、残りの 50~100mEqが腎臓から排泄される。

・体内の酸が増加するか、その共役塩基が減少して pHが低下することをアシドーシスという。

[HCO3-]/[H2CO3]が低下→pH は低下

・体内の酸が減少するか、その共役塩基が増加して pHが上昇することをアルカローシスという。

[HCO3-]/[H2CO3]が増加→pH は上昇

2)一次性変化と代償性変化のまとめ

一次性変化 pH 代償性変化

代謝性アシドーシス [HCO3-] ↓ ↓ pCO2 ↓

代謝性アルカローシス [HCO3-] ↑ ↑ pCO2 ↑

呼吸性アシドーシス pCO2 ↑ ↓ [HCO3-] ↑

呼吸性アルカローシス pCO2 ↓ ↑ [HCO3-] ↓

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解剖生理学 要点整理ノート

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・代謝性アシドーシス+呼吸性代償

・体内で酸の産生が増加すると、HCO3-が緩衝塩基として消費されて H2CO3 が生成されるので pH は

低下する。

・H2CO3濃度が増加すると CO2分圧が上昇する。

・pHの低下、CO2分圧の上昇は呼吸中枢を刺激し、大気中への CO2排泄が増加する。

・その結果、H2CO3濃度が低下するので pHはもとに戻る。

・代謝性アルカローシス+呼吸性代償

・血液中の HCO3-濃度が増加すると pH は上昇する。

・pHの上昇は呼吸を抑制するので CO2の排泄を抑制する。

・その結果、CO2分圧は上昇し、H2CO3濃度が上昇するので pHはもとに戻る。

・CO2分圧の上昇は呼吸を刺激するので代償は不完全であることが多い。

・呼吸性アシドーシス+腎性代償

・肺からの CO2排泄が障害されると、血液の CO2分圧が上昇して H2CO3濃度が増加するので pH は低

下する。

・pHが低下すると、腎臓では H+の排泄、HCO3-の再吸収が亢進するので pHはもとに戻る。

・呼吸性アルカローシス+腎性代償

・換気の亢進など肺からの CO2排泄が増加すると、血液の CO2分圧が低下して H2CO3濃度が低下する

ので pHは上昇する。

・pHが上昇すると、腎臓では H+の排泄、HCO3-の再吸収が抑制されるので pHはもとに戻る。

3)酸塩基障害の主な原因と病態

代謝性

アシドーシス

・HCO3-の体外への喪失増加:下痢(腸液は、弱アルカリ性)

・体内の酸の産生過剰:乳酸アシドーシス、糖尿病性ケトアシドーシス、尿毒症、

飢餓

・高 K血症:細胞外 K+の細胞内へ移行に伴って、H+が細胞外への移行

→細胞外はアシドーシス

・尿細管アシドーシス:1型:遠位尿細管の H+排泄が障害される。

2型:近位尿細管の HCO3-再吸収が障害される。

・酸の過剰投与

代謝性

アルカローシス

・H+の体外への喪失が増加:嘔吐による胃酸の喪失(体内での HCO3-産生増加)

・低 K血症:細胞内 K+の細胞外へ移行に伴って、H+が細胞内への移行

→細胞外はアルカローシス

・利尿薬:Na+の排泄増加、体液量減少により二次性高アルドステロン血症

→低 K血症→代謝性アルカローシス

・ミルク・アルカリ症候群:Ca過剰摂取→副甲状腺ホルモン分泌低下→HCO3-排

泄減少→アルカローシス

副甲状腺ホルモンは、尿細管での Ca 再吸収を促進し、リン酸と HCO3-の排

泄を促進する。

・HCO3-の過剰投与

呼吸性

アシドーシス

・呼吸中枢の抑制:薬物、睡眠時無呼吸症候群など

・呼吸筋の異常:重症筋無力症、脊髄障害など

・肺のガス交換の障害:慢性閉塞性肺疾患、重症の肺炎や喘息など

呼吸性

アルカローシス

・低酸素血症:肺疾患(肺炎、肺線維症など)、心不全などにより低酸素血症に

なると呼吸が促進され CO2分圧が低下する。(肺胞では、O2に比べて CO2は拡散

しやすい)

・過換気症候群(心理的過換気):CO2の過剰排泄

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解剖生理学 要点整理ノート

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ホルモンによる水・電解質の調節 ( )代謝水は、約 900 ㎖である。 ( )不感蒸散は、約 300 ㎖である。 ( )バソプレシンは、Na+の再吸収を促進する。 ( )アルドステロンは、Na+の再吸収を促進する。 ( )アルドステロンは、K+の再吸収を促進する。 ( )副甲状腺ホルモンは、Ca++の排泄を促進する。 ( )心房性 Na 利尿ペプチドは、集合管での Na の再吸収を促進する。 ( )血液浸透圧が上昇すると、バソプレシンの分泌が増加する。 ( )体液量が増加すると、アルドステロンの分泌が増加する。 ( )体液量が減少すると、心房性 Na 利尿ペプチド(ANP)の分泌が増加す

る。 ( )心房性 Na 利尿ペプチド(ANP)は、ナトリウムの排泄を促進する。 ( )脳性 Na 利尿ペプチド(BNP)は、心室筋から分泌される。 ( )脳性 Na 利尿ペプチド(BNP)は、体液量を増加させる。

× × × ○ × × × ○ × × ○ ○ ×

約 300 ㎖ 約 900 ㎖ 水 排泄 再吸収促進 抑制 減少 減少 減少

酸塩基平衡 ( )血液中の重炭酸イオン(HCO3-)濃度が低下(一次性変化)すると、

pH は上昇する。 ( )代謝性アシドーシスでは、重炭酸イオン(HCO3-)濃度が低下する。 ( )代謝性アシドーシスでは、呼吸は抑制される。 ( )代謝性アルカローシスでは、呼吸が促進する。 ( )呼吸性アシドーシスでは、血中二酸化炭素分圧が上昇する。 ( )呼吸性アルカローシスでは、腎臓での重炭酸イオン(HCO3-)の排泄

が抑制される。 ( )過換気症候群では、呼吸性アシドーシスになる。 ( )嘔吐が持続すると、代謝性アシドーシスになる。 ( )重症筋無力症では、代謝性アシドーシスになる。 ( )慢性閉塞性肺疾患(COPD)では、呼吸性アシドーシスになる。 ( )低カリウム血症では、代謝性アルカローシスになる。 ( )高カリウム血症では、代謝性アシドーシスになる。 ( )ミルク・アルカリ症候群では、重炭酸イオン(HCO3-)の排泄が抑制

される。

× ○ × × ○ × × × × ○ ○ ○ ○

低下 促進 抑制 促進

膀胱、尿に関する記述である。正しいのはどれか。 ( )蓄尿反射は、副交感神経の作用で起こる。 ( )排尿反射は、交感神経の作用で起こる。 ( )排尿反射の中枢は、仙髄にある。 ( )尿意があっても排尿できないことを尿失禁という。 ( )1 日の尿量は、正常では約 3ℓである。

× × ○ × ×

交感神経 副交感神経 尿閉 約 1,500 ㎖

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解剖生理学 要点整理ノート

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8.血液の成分と機能

1.血液の成分と機能

(1)細胞成分(血球成分)

・細胞成分には、赤血球、白血球、血小板はある。

(2)液体成分

血漿

・血液から血球成分(赤血球、白血球、血小板)を除いた液体成分

・91%が水である。たんぱく質、電解質、グルコース、アミノ酸、ビタミン、微量元素、

ホルモンなどが溶解している。

血清

・血液から血餅を除いた残りの液体成分

・血餅は、血液が凝固してできる。血餅には血球成分(赤血球、白血球、血小板)とフィ

ブリノーゲン(fibrinogen)など血液凝固因子が含まれている。

(3)造血

・造血(hematopoiesis)は、胎生期は骨髄、肝臓、脾臓で起こし、出生後は骨髄だけで起こる。

・すべての血球は、多能性造血幹細胞(pluripotent stem cell)から分化する。

・多能性造血幹細胞は、骨髄系幹細胞(myeloid stem cell)またはリンパ系幹細胞(lymphoid stem cell)

に分化し、さらに各血球系に対応する単能性幹細胞に分化する。

骨髄系幹細胞 → 赤芽球 → 赤血球

→ 巨核球 → 血小板

→ 骨髄芽球 → 好中球

→ 好酸球

→ 好塩基球

→ 単芽球 → 単球

リンパ性幹細胞 → Tリンパ芽球 → T細胞

→ Bリンパ芽球 → B細胞

(4)血液の機能

・物質の輸送(酸素、栄養素、老廃物など)

・異物の除去

・免疫

・血液の凝固

2.赤血球

(1)構造

・赤血球は、直径が約 8μmで中央がくぼんだ円盤状の細胞であり、核をもたない。

・赤血球系前駆細胞である赤芽球は、脱核(核を放出)して網状赤血球となり、さらにミトコンドリア、

リボゾームを放出して成熟赤血球となる。

・成熟赤血球では、新たなたんぱく質合成はない。

・赤血球は、変形性に富む。

・網状赤血球は、骨髄から放出されたばかりの若い赤血球である。

・赤血球の検査

赤血球数(RBC, red blood cell) ・成人男子で約 500万/mm3、女性で約 450万/mm3である。

ヘモグロビン(Hb, hemoglobin) ・成人男子で約 15g/dl,成人女子で約 14g/dlである。

ヘマトクリット(Ht, hematocrit) ・血液に占める赤血球の体積の割合。約 45%である。

・高齢者では、赤血球数とヘモグロビン値は減少する。

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解剖生理学 要点整理ノート

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(2)ヘモグロビンの構造

・ヘモグロビンは、ヘムとグロビンでできている。

・ヘムは、ポルフィリンと鉄でできている。

・ポルフィリンは、4つのピロールが環状構造になった化合物で、2価の鉄が 1つ結合している。

・グロビンはたんぱく質で、α鎖が 2つ、β鎖が 2つ合計 4つのポリペプチドでできている。

・1 つのグロビンは、1つのヘムと結合するので、1つのヘモグロビンには、4つのヘムが存在する。

・ヘム鉄には、1つの酸素が結合できるので、ヘモグロビンは、酸素結合部位を 4つもつ。

(3)赤血球の破壊とビリルビン代謝

・赤血球の寿命は、約 120日である。

・溶血と再利用

・赤血球が老化(酵素活性の低下、変形能の低下)すると、主に脾臓で、マクロファージに取り込

まれて破壊される。

・鉄は、トランスフェリンと結合して骨髄に運ばれて造血に再利用される。

・グロビンは、アミノ酸に分解されて、たんぱく質合成に再利用される。

・ビリルビン代謝

脾臓 ①ポルフィリンの開環

②間接(非抱合型)ビリルビン(水に不溶性)の生成

血液中 ③アルブミンに結合して肝臓へ運搬

肝臓 ④直接(抱合型)ビリルビン(グルクロン酸抱合、水に可溶性)の生成

⑤胆汁中に排泄

小腸

⑥腸内細菌によりウロビリノーゲンへ変換

⑦腸肝循環(回腸で再吸収されたウロビリノーゲンは、肝臓でビリルビンとなって胆汁中

に排泄される。

⑧再吸収されたウロビリノーゲンの一部は、ウロビリンとなって尿中に排泄される。

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解剖生理学 要点整理ノート

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(4)造血の栄養因子

1)鉄

・ヘモグロビン合成の材料である。

・非ヘム鉄(野菜など)は、胃酸によりイオン化され、Fe3+から Fe2+(可溶性)に還元される。

・Fe2+は、ビタミン C、糖質、アミノ酸と結合して可溶性維持しつつ十二指腸に運ばれて吸収される。

・遊離の鉄イオンは、pH7.0では不溶性となり吸収されない。

・ヘム鉄(肉など)は、そのままの形で吸収されるので、吸収率がよい。

・食事中の鉄(10~20mg/day)の、約 10%(1~2mg/day)が吸収される。

・ビタミン Cは、鉄の可溶化と Fe2+への還元を促進するので、鉄吸収を促進する。

・タンニン(緑茶、コーヒー)は、鉄と不溶性の塩を形成するので鉄吸収を阻害する。

・体内の鉄(3~5ℊ)の約 3ℊは Fe2+(ヘモグロビン鉄、組織鉄)として存在し、約 1~2ℊは Fe3+(貯蔵鉄、

血清鉄)として存在する。

・ヘモグロビン鉄(60~70%):赤血球、骨髄赤芽球

・貯蔵鉄(25~30%):肝、脾、骨髄のフェリチン、ヘモジデリン

・組織鉄(3~4%):筋肉内のミオグロビン鉄、皮膚、粘膜など

・血清鉄(0.1%):Fe3+がトランスフェリンと結合して存在

・体内の鉄のうち胆汁、糞便、汗、尿に約 0.5~1㎎/日、月経として 20~40㎎/月が失われる。

2)ビタミン B6

・ポルフィリン合成の律速酵素であるアミノレブリン酸合成酵素の補酵素である。

グリシン+スクシニル-CoA → 5-アミノレブリン酸

3)ビタミン B12、葉酸

・DNA合成とメチオニン合成に関与する。

・テトラヒドロ葉酸は、メチレンテトラヒドロ葉酸、ジヒドロ葉酸を経て、再びテトラヒドロ葉

酸に戻る。メチレンテトラヒドロ葉酸をジヒドロ葉酸に変換する酵素がチミジル酸合成酵素で

あるが、この時同時に UMP(ウリジル酸)を TMP(チミジル酸)へ変換する。

・これとは別に、メチレンテトラヒドロ葉酸は、メチルテトラヒドロ葉酸を経てテトラヒドロ葉

酸に戻る経路もある。メチルテトラヒドロ葉酸をテトラヒドロ葉酸に変換する酵素がメチオニ

ン合成酵素で、ビタミン B12を補酵素として、ホモシステインをメチオニンに変換する。

・ビタミン B12または葉酸が欠乏すると巨赤芽球性貧血が出現する。

・葉酸が欠乏するとテトラヒドロ葉酸が減少するで、結果として TMPの産生も減少する。TMPは、

DNA 合成の材料なので、DNA合成が遅れて、赤芽球の分裂も遅れる。一方、UMPを利用する RNA

合成は障害されないので、たんぱく質合成は継続する。その結果、骨髄中に巨赤芽球が出現す

る。

・ビタミン B12が欠乏するとメチルテトラヒドロ葉酸が蓄積する。これを葉酸トラップという。そ

の結果、テトラヒドロ葉酸が欠乏し、その影響で葉酸欠乏と同様の機序で DNA 合成が遅れ、巨

赤芽球が出現する。

・巨赤芽球は成熟することができずに崩壊するので貧血になる。これを無効造血という。ビタミ

ン B12欠乏による貧血を、悪性貧血という。

4)銅

・造血に関与し、銅不足で貧血になることがある。

(4)エリスロポイエチン

・エリスロポイエチンは、赤血球の産生を促進する。

・血液の酸素分圧低下が刺激となって、腎臓から分泌される。

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解剖生理学 要点整理ノート

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3.白血球

・白血球は、赤血球よりやや大きく(10~20μm)、核をもった細胞で、形や染色性により、顆粒球(好

中球、好酸球、好塩基球)、単球、リンパ球に分類される。

・成人の白血球数は 4,000~9,000/mm3 であり、好中球が約 54%、リンパ球が約 30%、単球が約 10%、

好酸球が約 5%、好塩基球が約 1%を占めている。

・白血球の機能は、免疫機能、老化細胞や奇形細胞の除去である。

好中球

・白血球の中でもっとも多く、化学走性と貪食作用(食作用)により病原細菌などの異

物をとり込んで消化・分解する。

・好中球は、分葉核好中球と桿状核好中球に分類される。

・核の左方移動:細菌感染で桿状核好中球の増加が起こる。

・膿は、病原細菌などの異物を処理して死滅した好中球の残がいである。

好酸球 ・好酸性顆粒には、寄生虫を障害する作用やアレルギーを抑制する作用がある。

・寄生虫感染やアレルギー疾患で増加する。

好塩基球

・顆粒中に、ヒスタミンなどの化学伝達物質を多量に含む。

・組織に出て肥満細胞となる。

・Ⅰ型アレルギー反応に関与する。

単球

・組織に出てマクロファージ(大食細胞)となる。

・貪食作用により、異物を処理する。

・抗原提示細胞として、免疫応答に関与する。

リンパ球 ・T細胞、B細胞、NK(natural killer)細胞などがあり、免疫応答に関与している。

4.血小板

・血小板は、直径約 3μmの最も小さな血球である。

・血小板は、骨髄の巨核球の細胞質がちぎれることにより産生される。

・血小板は、核を持たない。

・血小板の平均寿命は、約 4日である。

・成人の血小板数は、20~40万/mm3である。

5.血漿たんぱく質

(1)種類

・血漿たんぱく質は、アルブミンとグロブリン、フィブリノーゲンに大別される。

・アルブミンは、肝臓で合成されるたんぱく質で、血漿たんぱく質の 50~70%を占める。

・グロブリンは、100 種類以上のたんぱく質からなり、電気泳動法によりα1、α2、β、γの 4分画に分

けられる。

・γ分画には、免疫グロブリンを多く含む。

・免疫グロブリンは、免疫細胞で合成される。

・フィブリノーゲンは、肝臓で合成される血液凝固因子の 1つである。

・フィブリノーゲンから、血栓を形成するフィブリンが生成する。

フィブリン(fibrin)の語源は線維(fiber)なので、フィブリノーゲンは線維素ともいう。

(2)主な機能

膠質浸透圧 ・血漿タンパク質によって間質から血管内へ生じる浸透圧

・主にアルブミンが関与する。

物質の運搬 ・鉄、銅、ステロイドホルモン、甲状腺ホルモン、ビタミン A、ビリルビンなどは

それぞれ固有の輸送たんぱく質と結合して運搬される。

血液凝固 ・フィブリノーゲン、血液凝固因子

生体防御 ・抗体(免疫グロブリン)、補体

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解剖生理学 要点整理ノート

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(3)血液凝固

1)一次止血血栓(血小板血栓)

・破綻した血管は収縮することにより、出血を最小限に抑える。

・血管の破綻した部位では、血小板が粘着・凝集して血小板血栓を形成する。

・凝集した血小板から ADPが放出され、血小板の凝集をさらに促進する。

・血小板血栓はすばやい止血に有効だが、もろくはがれやすい。

・耳朶や指先を傷つけ、血小板血栓により止血するまでの時間を出血時間(正常では 2~5分)という。

2)二次止血血栓(血液凝固)

・血液中には 14種類の凝固因子が存在する。

・凝固因子活性化の経路は、内因性経路と外因性経路がある。

・内因性経路:カリクレインと第Ⅻ因子が反応して活性化する。

・外因性経路:組織因子と第Ⅶ因子が反応して活性化する。

・いずれの経路も、最終的にトロンビン(第Ⅱ因子)の作用でフィブリノーゲンからフィブリン(第

Ⅰ因子)を生成する。

・フィブリンは、重合して網状のフィブリン網を形成する。

フィブリン網は、血小板と硬く結びつけて強固な血栓を形成する。

・採血した血液が凝固するまでの時間を凝固時間という。

・血液凝固検査

PT ・プロトロンビン時間(prothrombin time)

・主に、外因系(Ⅶ)と共通系(Ⅰ、Ⅱ、Ⅴ、Ⅹ)の異常を反映

APTT ・活性化部分トロンポプラスチン時間(activated partial thromboplastin time)

・主に、外因系(Ⅷ、Ⅸ、Ⅺ、Ⅻ)と共通系(Ⅰ、Ⅱ、Ⅴ、Ⅹ)の異常を反映

(4)血液凝固障害

・ビタミン K依存性凝固因子:Ⅱ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ

・ビタミン Kは、ビタミン K依存性カルボキシラーゼの補酵素として働く。

・ビタミン K依存性カルボキシラーゼは、たんぱく質のグルタミン酸残基に、カルボキシル基(COOH)

を付加して、γ‐カルボキシグルタミン酸残基に変換する酵素である。

・γ-カルボキシグルタミン酸残基に Caが結合することが、たんぱく質の機能発揮に必須である。

・ワルファリンは、ビタミン Kに拮抗して血液凝固を抑制するので、抗血栓薬として使用される。

・納豆などビタミン Kを多く含む食品の過剰摂取は、ワルファリンの作用を減弱させる。

・血友病

・血友病 A(古典的血友病)では第Ⅷ因子が欠損している。

・血友病 B(クリスマス病)では第Ⅸ因子が欠損している。

・第Ⅷ因子と第Ⅸ因子の遺伝子は、X染色体上にあるので伴性劣性遺伝する。

・血友病では、APTT が延長するが、PTは正常である。

・ビタミン K欠乏では、PTと APTTの両方が延長する。

・肝硬変症では、PT と APTTの両方が延長する。

(5)線維素溶解(線溶)

・血栓(フィブリンが重合してできたフィブリン網)を溶解することを線溶という。

・プラスミンは、フィブリンを溶解することにより血栓を溶解する。

・血管内で凝固したフィブリンには、血漿たんぱく質のプラスミノーゲンが結合する。

・プラスミノーゲンは、組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA, tissue-plasminogen activator)

によって活性化されて、プラスミンになる。

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解剖生理学 要点整理ノート

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6.血液型

(1)ABO式血液型

血液型 凝集原(赤血球) 凝集素(血清)

A型 A型抗原 抗 B抗体

B型 B型抗原 抗 A抗体

AB 型 A型抗原・B型抗原 なし

O型 H型抗原 抗 A抗体・抗 B抗体

(2)Rh 式血液型(Rh blood group)

・赤血球に D抗原を持つ人を Rh(+)、持たない人を Rh(-)という。

・東洋人の 99%は Rh(+)である。

・Rh(-)の人に Rh(+)の輸血をすると抗 D抗体が産生され、その後再び Rh(+)の輸血をすると溶

血が起こる。

・血液型不適合妊娠:Rh(-)の女性が、Rh(+)の胎児を妊娠すると、出産時に胎児の血液に接触する

ことにより、抗 D 抗体が産生される。2 度目の妊娠では、母親の抗 D 抗体が Rh(+)の胎児を攻撃す

る。

(3)主要組織適合抗原(major histocompatibility complex antigen、MHC抗原)

・HLA(human leukocyte antigen、ヒト白血球抗原):移植免疫に関わる。

血液の成分と機能 ( )血漿には、フィブリノーゲンは含まれていない。 ( )出生後、赤血球は脾臓でつくられる。 ( )網状赤血球は、老化した赤血球である。 ( )エリスロポイエチンは、骨髄から分泌される。 ( )ビタミン C は、食物中の鉄の吸収を抑制する。 ( )好中球は、食作用を有する。 ( )単球は、血管から組織へ出てマクロファージになる。 ( )血小板は、核を有する。 ( )ビタミン K が欠乏すると、血液が凝固しやすくなる。 ( )A 型の人の血清には、抗 A 抗体がある。

× × × × × ○ ○ × × ×

血清 骨髄 若い 腎臓 促進 抗 B 抗体

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解剖生理学 要点整理ノート

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9.神経系の構造と機能

1.ニューロン

(1)ニューロンの構成

・神経組織を構成する機能単位を、ニューロンという。

・ニューロンは、神経細胞体と突起からなる。

単極ニューロン ・突起が 1本のニューロン

双極ニューロン ・突起が 2本のニューロン

偽単極ニューロン ・2本の突起が起始部で合わさったニューロン

・実態は双極ニューロン

多極ニューロン ・突起が 3本以上のニューロン

・突起には、樹状突起、軸索がある。

樹状突起

・木の枝のように枝分かれした形状をしている。

・他のニューロンからの興奮を受け取り、神経細胞体へ興奮を伝導する。

・0本から数本のことがある。

軸索

・1つの神経細胞体から出る軸索は 1本であるが、末端で枝分かれする。

・神経細胞体から軸索の末端(神経終末)へ興奮を伝導する。

・双極ニューロンと偽単極ニューロンの樹状突起が枝分かれする前の1本の長い部分

を軸索(末梢から細胞体へ興奮を伝導する)と呼ぶことがある。

(2)軸索の構造

・軸索は、神経鞘(シュワン鞘)に包まれている。

・軸索には、髄鞘(ミエリン鞘)を有する有髄神経線維と、有さない無髄神経線維がある。

有髄神経線維 運動神経、知覚神経、自律神経の節前線維など

無髄神経線維 知覚神経のうち痛覚線維、自律神経の節後線維など

・中枢神経の髄鞘は、稀突起グリア細胞が軸索に巻きついて作られる。

・末梢神経の髄鞘は、シュワン細胞の細胞膜が軸索に巻きついて作られる。

・髄鞘が途切れたところを、ランヴィエ絞輪という。

(3)シナプスの構造

・軸索の末端(神経終末)は、他の神経細胞や筋細胞とシナプスによりつながっている。

・軸索の末端の細胞膜(シナプス前膜)と他の神経細胞や筋細胞の細胞膜(シナプス後膜)の間は、シ

ナプス間隙がある。

・シナプス間隙では、神経伝達物質により刺激が伝達される。

・1 本の軸索は、枝分かれして、複数のシナプスを形成する。

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解剖生理学 要点整理ノート

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2.グリア細胞

・グリア細胞は、神経細胞を保護・支持する細胞である。

近年、神経活動そのものにも影響することが知られている。

星状グリア細胞 ・神経細胞と血管の間に存在し、神経細胞に栄養を渡す。

・血液脳関門にもなっている。

稀突起グリア細胞 ・中枢神経のニューロンの軸索の髄鞘を形成する。

小グリア細胞 ・老廃物や損傷を受けた神経細胞を除去する。

3.軸索の興奮伝導

局所電流

・無髄神経線維の一部が興奮すると、周囲に局所電流が流れる。

・局所電流により、神経細胞膜の脱分極が起こる。

・脱分極により、電位依存性 Naチャネルが開き、Na+が流入し、活動電位が発生する。

跳躍伝導

・有髄神経では、髄鞘がある部分は脂質を多く含むので電気抵抗が高い。

・そのため、髄鞘がある部位では、局所電流は流れない。

・電流は、隣り合うランヴィエ絞輪の間で流れて、活動電位を発生させる。(跳躍伝導)

・興奮伝導の性質

両方向伝導 ・興奮は、興奮が発生した部位から軸索の長軸方向に沿って両方向に伝導する。

・生体内では、興奮を樹状突起で受け取り、軸索の末端に向けて一方向に伝導する。

絶縁伝導 ・興奮は、隣接した神経線維には伝導しない。

伝導速度 ・細い神経線維より、太い神経線維の方が速い。

・無髄神経より、有髄神経の方が速い。

4.シナプス伝達

(1)シナプス伝達

・軸索の末端には、神経伝達物質がシナプス小胞のなかに蓄えられている。

・軸索の末端に興奮が伝導されると、シナプス間隙に神経伝達物質が放出される。

・放出された神経伝達物質は、シナプス後膜の受容体に結合して興奮が伝達される。

・シナプス伝達は、一方向性の伝達である。

・軸索の伝導に比べて、シナプス伝達は遅い。(シナプス遅延)

(2)主な神経伝達物質(50種類以上の物質が知られている)

コリン類 アセチルコリン

アミン類 ドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナリン、セロトニン、ヒスタミン

興奮性アミノ酸 グルタミン酸、アスパラギン酸

抑制性アミノ酸 γ-アミノ酪酸(GABA)、グリシン

ポリペプチド類 エンドルフィン、脳腸ホルモン(ガストリン、セクレチンなど)

その他 ATP、UTP、アデノシンなど

5.ニューロンのネットワーク形成

(1)シナプス可塑性(変形しやすい性質)

・神経伝達物質には、シナプス後膜に活動電位を起こすもの(興奮性)、活動電位を起きにくくするもの

(抑制性)がある。

・興奮性のシナプスを反復刺激すると、興奮がシナプスを通りやすくなることをシナプス増強という。

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解剖生理学 要点整理ノート

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・シナプス増強が起こると、反復刺激がなくても、興奮がシナプスを通りやすい状態が長期間にわたっ

て維持される。(長期増強)

・抑制性のシナプスでは、反復刺激によって、興奮が通りにくくなり、反復刺激がなくても、興奮がシ

ナプスを通りにくい状態が長期間にわたって維持される。(長期抑圧)

・刺激の反復により、シナプスの伝達効率が変化することを、シナプス可塑性という。

・シナプス可塑性は、記憶や学習と関係している。

(2)ニューロンのネットワーク形成

・ニューロンの樹状突起には、軸索の末端とシナプスをつくる棘突起がある。

・1 つのニューロンは、多数の軸索とシナプスを形成している。

・樹状突起の多数のシナプスから入力される興奮は、神経細胞体で統合されて、1 つの信号として軸索

に送られる。

(3)条件反射

・パブロフの犬の実験 ①食物を見ると唾液が出るが、ベルを鳴らしても唾液はでない。

②食物を見ると同時に、ベルを鳴らす。

③ベルを鳴らすだけで、唾液が出る。

→ベルの音を認識する神経の軸索が、唾液を出す神経につながる。

6.脳

(1)脳の構成

・中枢神経は、脳と脊髄からなる。

・脳は、頭蓋骨により保護されている。

・脊髄は、脊柱(椎骨)により保護されている。

・脳は、延髄、橋、小脳、中脳、間脳、大脳半球からなる。

・脳幹は、延髄、橋、中脳からなる。(間脳を脳幹に含められることもある)

・灰白質は、神経細胞体が密集している部位である。

・白質は、神経線維(軸索)が束になって集まっている部位である。

(2)脳の機能の局在

延髄

・反射中枢:嚥下、咀嚼、唾液分泌、嘔吐、咳、くしゃみ、涙液分泌、眼瞼反射などの

中枢が存在する。

・呼吸中枢:吸息と呼息のリズムを作り出す中枢が存在する。

・心臓血管中枢:心拍数、心筋の収縮力、血管平滑筋の収縮を調節する中枢が存在する。

橋 ・呼吸調節中枢:延髄の呼吸中枢で作られる呼吸のリズムの長さと深さを調節する中枢

が存在する。

中脳 ・姿勢反射中枢:姿勢を保持するために、伸筋と屈筋の緊張を調節する中枢が存在する。

間脳

・間脳は、視床と視床下部からなる。

・すべての感覚神経は、視床で中継されて大脳皮質へ行く。

・視床下部は、延髄・橋・中脳に存在する自律性反射中枢の上位中枢である。

・視床下部には、体温調節中枢、満腹・摂食中枢、血液浸透圧調節中枢、飲水中枢、日

内リズムの中枢などがある。

・視床下部は、怒り・悲しみ・喜びなどの感情を表情に出す情動表出や性行動を調節す

る中枢が存在する。

・視床下部は、下垂体の機能の調節する上位中枢である。

小脳 ・橋と延髄の背側にあり、随意運動の協調や平衡・姿勢を調節する中枢が存在する。

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解剖生理学 要点整理ノート

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大脳皮質

・大脳皮質は、系統発生的・個体発生的に古い皮質(古皮質)と新しい皮質(新皮質)

に分けられる。

・新皮質は、大脳皮質の 90%を占めている。

・大脳には、多数の脳溝があり、溝と溝の間の高まりを脳回という。

・大脳皮質の各部位は、運動野、知覚野、連合野(2 種以上の感覚を統合して認知や判

断を行う)などそれぞれ異なった機能を受けもっている。(機能局在)

・中心前回:運動野、運動性言語中枢(ブローカ中枢)がある。

・中心後回:知覚野がある。味覚野は、島皮質(外側溝(シルビウス溝)の奥)にある。

・側頭葉:聴覚野がある。

・後頭葉:視覚野がある。

・前頭連合野:一連の意図的行動を起こすための意欲をひき出し、実行の手順・計画を

立てる。

・頭頂連合野:自己の空間的定位と周囲への注意を行っている。

・側頭連合野:視覚情報の統合をする部位、感覚性言語中枢(ウェルニッケ中枢)があ

る。

*言語野(ブローカ中枢・ウェルニッケ中枢)はふつう左側にあるが、左利

きの人では、右側あるいは両側にあることがある。

・大脳基底核:大脳半球の白質のなかにある核群(灰白質)で尾状核、被核、淡蒼球か

らなる。

尾状核と被核を合わせて線条体という。

大脳基底核は錐体外路に属し、互いに協同して不随意運動の調節を行う。

・内包:大脳基底核に囲まれた部位を内包という。

大脳皮質と脳幹・脊髄をつなぐ神経線維(運動性伝導路・知覚性伝導路)の通

り道になっている。

・辺縁系:帯状回、眼窩回の後部、海馬傍回、扁桃核などを総括した領域で、系統発生

的には古皮質に属する。

辺縁系は嗅覚など原始的な感覚、快・不快などの情動の中枢、食欲や性欲な

ど本能的欲望の中枢がある。

(3)錐体路と錐体外路

錐体路

・錐体路とは、運動野にある神経細胞から発した神経線維が白質内の内包を通って脳

幹から脊髄を下り、脊髄前角の前根細胞に終わる運動性伝導路である。

・大脳皮質と骨格筋の間には、ニューロンが 2つあるだけである。

・錐体路の神経線維は、延髄前面にある錐体で大部分が交差する。

・錐体路は、骨格筋の随意運動を支配する。

錐体外路

・錐体路以外の運動性伝導路を錐体外路という。

・錐体外路を構成するニューロンの多くは、大脳基底核で中継される。

・大脳皮質と骨格筋の間には、多くのニューロンが介在する。

・錐体外路は、骨格筋の不随意運動に関係し、身体の姿勢や平衡を維持している。

(4)脳の代謝

1)脳に栄養を送る血管

・内頚動脈は、前大脳動脈、中大脳動脈に分岐して前頭葉、頭頂葉、側頭葉に血液を送る。

・椎骨動脈は、合流して脳底動脈となり後大脳動脈に分岐して後頭葉に血液を送る。

・内頚動脈、前大脳動脈、後大脳動脈は互いに交通して大脳動脈輪(ウイリス動脈輪)を形成する。

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解剖生理学 要点整理ノート

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2)脳のエネルギー代謝の特徴

・脳では、全身の血流の約 18%が脳を循環し、全身のエネルギー消費の約 20%が消費される。

・1 日の消費エネルギーを 2,000 ㎉とすると、約 400㎉が脳で消費される。

・脳の重さは体重の 2%なので、単位組織当たりの代謝量は全身の平均の 10倍になる。

・脳では、好気的代謝が必須である。

・嫌気的代謝だけでは、神経活動に必要なエネルギーをつくれない。

→ 酸素の供給が途絶えると、数秒で意識がなくなる。

・脳の主要なエネルギー源は、グルコースであり、脂肪酸を利用できない。

・神経細胞がグルコースを取り込むのに、インスリンを必要としない。

・脳は、1日 400 ㎉を消費する。 → グルコースを 100ℊ消費する。

・1 日の摂取エネルギー2,000㎉のうち 60%を糖質で摂取すると、

摂取した糖質の量は、2,000×0.6÷4=300ℊ

摂取した糖質の 33%は、脳で消費される。100÷300=33%

・脂肪酸は、血液中ではアルブミンと結合して存在するので、脳血液関門を通過できない。

・脳のグリコーゲン貯蔵量は少なく、血液からのグルコースの供給がないと約 2分間で枯渇する。

・飢餓時には、1/3はグルコース、2/3はケトン体をエネルギー源として利用する。

7.髄膜の構造と脳脊髄液の流れ

1)髄膜の構造

・中枢神経組織の実質と、それを囲む頭蓋骨の間には、髄膜が存在する。

・髄膜は、頭蓋骨側から硬膜、クモ膜、軟膜の 3層で構成されている。

・クモ膜と軟膜の間にはクモ膜下腔あり、脳脊髄液で満たされている。

・脳脊髄液の大部分は、側脳室の脈絡叢で血液から作られる。

・脳脊髄液は、第 3脳室・第 4脳室を通ってクモ膜下腔へ出て、クモ膜顆粒を通って静脈洞に入る。

2)脳脊髄液

・すべての血液の成分が、脳脊髄液に含まれるわけではない。(血液-脳関門)

・脳と脊髄は、脈絡叢で作られる脳脊髄液の中に浮かんでいる。

・水、二酸化炭素、酸素は、血液脳関門を自由に通過する。

・たんぱく質とポリペプチドは、通過しない。

・グルコースは、糖輸送担体(GLUT1)によって通過する。

・脂質は、遊離型であれば通過するが、たんぱく質と結合したものは通過しない。

・その他、甲状腺ホルモン、コリン、核酸の前駆物質、アミノ酸は、特定の輸送担体を介して通過する。

8.脊髄と脊髄神経

(1)末梢神経系の構成

・脳と脊髄から出て全身に分布する神経系を、末梢神経系という。

・末梢神経系は、体性神経と自律神経に分けられる。

・体性神経は、運動神経と知覚神経に分けられる。

体性神経は、人体の動物性機能を担う。

・自律神経は、交感神経と副交感神経に分けられる。

自律神経は、呼吸、循環、消化、排泄、生殖などに関係した内臓、血管、腺などの意志とは無関係

に反応する器官の働き(植物性機能)を調節する。

・末梢神経は、興奮の伝導方向によって遠心性神経と求心性神経の 2つに区別される。

遠心性神経は、中枢神経の興奮を筋肉や腺に伝える。(運動神経、交感神経、副交感神経)

求心性神経は、末梢の感覚や情報を中枢神経に伝える。(知覚神経、自律神経の求心性線維)

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解剖生理学 要点整理ノート

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(2)脊髄の構造

・脊髄の横断面は、中央に H型の灰白質があり、その周囲を白質がとり囲んでいる。

・灰白質の前部を前角、後部を後角、前角と後角の中間部を側角という。

・後根には脊髄神経節があり、知覚神経の細胞体がある。

・知覚神経線維(知覚神経の軸索)は、後根から脊髄に入る。

・前角には、運動神経の細胞体があり、側角には、自律神経の細胞体がある。

・運動神経線維(運動神経の軸索)と自律神経線維(自律神経の軸索)は、前根から出る。

前根はもっぱら運動神経線維を通し、後根はもっぱら感覚神経線維を通すことを、ベル・マジャン

ディーの法則という。

(3)脊髄神経

・脊髄は、部位により頚髄、胸髄、腰髄、仙髄の 4部に分けられる。

・頚髄から頚神経が、胸髄から胸神経が、腰髄から腰神経が、仙髄から仙骨神経がでる。

・脊髄神経は、頚神経 8対,胸神経 12 対,腰神経 5対,仙骨神経 5対,尾骨神経 1対の合計 31対ある。

・第 1 頚神経(C1)は、後頭骨と第 1 頚椎の間から、第 8 頚神経(C8)は第 7 頚椎と第 1 胸椎の間から

でる。

・脊髄神経の番号(Th1~12、L1~5、S1~5、Co)は、すぐ上の椎骨の番号と一致する。

・脊髄の下端は、第 1腰椎の高さで終わっている。

それより下位の脊髄神経はクモ膜下腔のなかを馬尾となって下行する。

(3)脊髄反射

・反射とは、知覚刺激によって発生した求心性の興奮が、中枢神経を介して遠心性の興奮に変えられ、

筋肉や腺などの支配器官に効果を発揮する現象をいう。

・筋や腱には張力受容器である筋紡錘や腱器官があって、急激にひき伸ばされたときに求心性の興奮を

発生する。

・この興奮は、後根(知覚神経)を通って脊髄に入り、前根に存在する同じ筋肉の運動を支配する神経

細胞(運動神経)にシナプスを介して伝達され、その筋肉の収縮をひき起こす。(伸張反射)

・排便反射の中枢は、仙髄にある。

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解剖生理学 要点整理ノート

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9.脳神経

・脳から出る末梢神経を脳神経といい、全部で 12対ある。

Ⅰ 嗅神経:嗅覚

Ⅱ 視神経:視覚

Ⅲ 動眼神経:眼球運動、副交感神経(瞳孔の収縮)

Ⅳ 滑車神経:眼球運動

Ⅴ 三叉神経:顔面の皮膚、鼻腔、口腔の知覚と下顎(咀嚼筋)の運動

Ⅵ 外転神経:眼球運動

Ⅶ 顔面神経:顔面(表情筋)の運動、味覚、副交感神経(涙、唾液の分泌)

Ⅷ 内耳神経:聴覚、平衡覚

Ⅸ 舌咽神経:味覚、副交感神経(唾液の分泌)

Ⅹ 迷走神経:発声に関わる喉頭筋の運動、頚部・胸部・腹部の内臓に分布する副交感神経、内臓

求心性線維

Ⅺ 副神経:胸鎖乳突筋、僧帽筋の運動

Ⅻ 舌下神経:舌筋の運動

・三叉神経と顔面神経の機能のまとめ

知覚神経 運動神経

三叉神経(Ⅴ) 顔面・鼻腔・口腔内 咀嚼筋群

顔面神経(Ⅶ) 味覚 顔面(表情)筋

・咀嚼筋群には、咬筋、側頭筋、内側翼突筋、外側翼突筋がある。

・副交感神経を含む脳神経のまとめ

動眼神経(Ⅲ) 縮瞳

顔面神経(Ⅶ) 涙腺・唾液腺(舌下腺・顎下腺)の分泌を促進

舌咽神経(Ⅸ) 唾液腺(耳下腺)の分泌を促進

迷走神経(Ⅹ) 頚部・胸部・腹部の内臓に分布する副交感神経、内臓求心性線維

10.自律神経系

(1)交感神経の語源

・緊張すると心拍数が上がる。これは心の動きに体が共鳴した現象である。

・心と体の共鳴を支配する神経を英語で「sympathetic nerve」という。「sympathetic」は、「共感する、

共鳴する」という意味である。これを日本語に訳すと「交感神経」になる。「副交感神経」は英語で

「parasympathetic nerve」という。

・一般に活発な身体活動を行うときに働くのが交感神経で、食後に安静しているときに働くのが副交感

神経である。「para-」は、補足する、従属するという意味で、主にアクセルとして働く交感神経に対

して、ブレーキとして働く副交感神経と捉えることができる。

・多くの臓器は、交感神経と副交感神経の両方が分布し、拮抗支配が行われる。しかし、血管、肝臓、

副腎髄質、汗腺、立毛筋は、交感神経の単独支配である。

(2)自律神経の特徴

二重支配

・自律神経には、交感神経と副交感神経の 2種類があり、大部分の内臓臓器は両方

の神経が分布している。

・ただし、ほとんどの血管は、交感神経の単独支配である。

拮抗支配 ・通常、交感神経と副交感神経の作用は互いに拮抗的で、一方が内臓臓器の働きに

対して促進的に働くときは、他方は抑制的に働く。

緊張支配 ・両神経は、弱いながら興奮が伝達されていて、そのバランスにより内臓臓器の機

能を調節する。

節前神経

節後神経

・自律神経は、中枢神経を出て効果器官に至るまでに必ず一度だけニューロンを乗

り換える。この交替部位を神経節といい、その神経節より前を節前神経、後ろの

線維を節後神経という。

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解剖生理学 要点整理ノート

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内臓求心性

線維

・従来、自律神経はすべて遠心性線維で求心性線維はないと考えられていたが、現

在では内臓求心性線維が存在することが確かめられている。

・内臓求心性線維は、交感神経・副交感神経の線維と一緒に走行して、血管や胸腔・

腹腔の内臓に分布する。

・内臓求心性線維は、血圧の調節や飢餓、渇き、悪心、便意、尿意などの内臓感覚

に関わっている。

(3)交感神経系

・交感神経の節前神経は、胸髄と腰髄(第 1胸神経~第 3または第 4腰神経)の前根から出て、脊柱の

両側にある交感神経節に入る。

・交感神経節は、上下に数珠状に連なり交感神経幹をつくる。

・頭頚部の交感神経(眼、涙腺、唾液腺に分布)は、交感神経幹が上方に伸びた上頚神経節から分布す

る。

・多くの交感神経は、交感神経幹でニューロンを換えて節後神経となって各臓器に分布する。

・腹部内臓に分布する交感神経のなかには、腹腔神経節、上腸間膜神経節、下腸間膜神経節でニューロ

ンを換えるものもある。

(4)副交感神経系

・副交感神経の中枢は、脳幹と仙髄にある。

・副交感神経(節前神経)の多くは、支配器官の神経叢内で節後神経に換わる。

・脳幹から出る節前神経は、動眼神経、顔面神経、舌咽神経、迷走神経の 4つの脳神経とともに中枢神

経から出る。

・仙髄から出る節後神経は、骨盤内蔵神経として出る。

(5)自律神経の神経伝達物質

・交感神経の節前神経および副交感神経の節前・節後神経の神経伝達物質は、アセチルコリンである。

・交感神経節後神経の伝達物質は、ノルアドレナリンである。

・例外として汗腺に分布する交感神経節後線維の伝達物質は、アセチルコリンである。(コリン作動性交

感神経)

・内臓求心性線維の神経伝達物質は、同定されていない。

・アドレナリン受容体には、αアドレナリン受容体とβアドレナリン受容体がある。

循環器系

・α1受容体:骨格筋以外の血管を収縮させ、血圧を上昇させる。

・β1受容体:心筋の収縮力を増強させ、心拍数を増加させる。

・β2受容体:骨格筋の血管を拡張させる。

呼吸器系 ・β2受容体:気管支平滑筋を弛緩させ、気管支を拡張させる。

消化器系 ・α1受容体:消化管の平滑筋を弛緩させ、消化管の運動を抑制する。

消化管の括約筋を収縮させ、内容物の移動を抑制する。

エネルギー

代謝

・α1受容体:肝臓のグリコーゲン分解を促進し、血糖値を上昇させる。

・α2受容体:インスリン分泌を抑制し、血糖値を上昇させる。

・β2受容体:肝臓のグリコーゲン分解を促進し、血糖値を上昇させる。

骨格筋のグリコーゲン分解を促進して、筋肉収縮のエネルギーを

供給する。

・β3受容体:脂肪組織の中性脂肪分解を促進し、遊離脂肪酸を放出する。

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解剖生理学 要点整理ノート

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(6)自律神経の作用のまとめ

効果器官 交感神経 副交感神経

瞳孔 散大(瞳孔散大筋の収縮) 縮小(瞳孔括約筋の収縮)

涙腺 分泌抑制 分泌促進

唾液腺 分泌促進,濃く粘い 分泌促進,薄い大量

心臓 心拍数増加,拍出量増加 心拍数減少,拍出量減少

血管(皮膚・内臓) 収縮 -

血管(骨格筋) 拡張 -

血管(心臓) 拡張 -

気管支 拡張 収縮

胃 運動抑制,分泌減少 運動亢進,分泌増加

小腸・大腸 運動抑制 運動亢進

消化管の括約筋 収縮 弛緩

肝臓(血糖値) 上昇 -

膵臓 分泌減少 分泌増加

胆嚢 弛緩 収縮

副腎髄質 分泌亢進 -

膀胱 排尿抑制 排尿促進

子宮 収縮 弛緩

汗腺 分泌促進(コリン作動性) -

立毛筋 収縮 -

・身体に危機が迫っている状態(交感神経が緊張)でみられる変化 ・瞳孔:光の情報を多く集めるために、散大する。 ・涙腺:泣いている暇はないので、分泌を抑制する。 ・唾液腺:緊張すると口の中がカラカラになる。 ・心臓:筋肉に血液を送るために、心拍出量を増やす。 ・血管:筋肉と心臓に血液を送るために、骨格筋と心臓の血管は拡張し、皮膚・内臓の血管は収縮す

る。 ・気管支:酸素を多く取り入れるために、拡張する。 ・消化管:食物を消化している暇はないので、消化管の運動は抑制され、食物の移動を抑制するため

に括約筋は収縮する。 ・肝臓:エネルギーを供給するために、糖新生とグリコーゲン分解が亢進する。 ・膵臓:食物を消化している暇はないので、消化酵素の分泌は減少する。 ・胆嚢:食物を消化している暇はないので、弛緩する。 ・副腎髄質:交感神経由来の組織なので、当然アドレナリンの分泌は増加する。 ・膀胱:おしっこをしている暇もないので、排尿反射を抑制する。 ・子宮:お産を促進するために、収縮する。 ・汗腺:身体活動により上昇した体温を下げるために、分泌が増加する。アドレナリンは皮膚の毛細

血管を収縮させので、汗を作るための血流が低下する。そのため、汗腺を支配する交感神経は、血

管収縮作用のないアセチルコリンが神経伝達物質として働く。これをコリン作動性交感神経とい

う。 ・立毛筋:寒い時に「サブいぼ(鳥肌)」ができるのは、立毛筋が収縮するから。

・食後にリラックスしている状態(副交感神経が緊張)でみられる変化 ・瞳孔:光の情報を遮断し、刺激を抑制するために、縮瞳する。 ・涙腺:分泌を促進する。 ・唾液腺:食物を消化するため、分泌を促進する。 ・心臓:筋肉に多量の血液を送る必要がないので、心拍出量は減少する。 ・血管:一般に交感神経の単独支配なので、影響しない。例外として陰茎と陰核に分布し、血管は拡

張し、血流は増加する。

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解剖生理学 要点整理ノート

82

・気管支:酸素を多量に取り入れる必要がないので、収縮する。 ・消化管:食物の消化を促進するための、消化管の運動は促進し、食物の移動を促進するために括約

筋は弛緩する。 ・肝臓:交感神経の単独支配なので、影響しない。 ・膵臓:食物を消化するために、消化酵素の分泌は増加する。 ・胆嚢:脂質の消化を促進するために、収縮する。 ・副腎髄質:交感神経の単独支配なので、影響しない。 ・膀胱:ゆっくり排尿する余裕があるので、排尿反射を促進する。 ・子宮:お産を抑制するために、弛緩する。 ・汗腺:交感神経の単独支配なので、影響しない。 ・立毛筋:交感神経の単独支配なので、影響しない。

ニューロン ( )ニューロンは、樹状突起により刺激を送る。 ( )ニューロンは、刺激を軸索で受け取る。 ( )軸索は、枝分かれしない。 ( )無髄神経の軸索には、ランヴィエ絞輪がある。 ( )跳躍伝導は、無髄神経で起こる。 ( )跳躍伝導は、局所伝導より伝導速度が速い。 ( )末梢神経の髄鞘は、シュワン細胞が軸索に巻き付いてできる。 ( )運動神経の多くは、無髄神経である。 ( )自律神経の節前線維は、有髄神経である。 ( )興奮の伝導速度は、有髄神経線維より無髄神経線維の方が速い。 ( )細い神経線維は、太い神経線維より伝導速度が速い。

× × × × × ○ ○ × ○ × ×

軸索 樹状突起 する 有髄神経 有髄神経 有髄神経 遅い 遅い

シナプス ( )シナプス伝達は、両方向性である。 ( )1 本の軸索は、1 つのシナプスを形成する。 ( )シナプス伝達は、軸索の伝導速度より遅い。 ( )γ-アミノ酪酸(GABA)は、興奮性の神経伝達物質である。 ( )グルタミン酸は、抑制性の神経伝達物質である。 ( )すべて神経伝達物質は、ポリペプチドである。 ( )シナプス増強が起こると、興奮が通りにくくなる。

× × ○ × × × ×

一方向性 複数 抑制性 興奮性

グリア細胞 ( )グリア細胞は、ニューロンからの刺激を受け取る。 ( )星状グリア細胞は、損傷を受けた神経細胞を除去する。 ( )稀突起グリア細胞は、損傷を受けた神経細胞を除去する。 ( )稀突起グリア細胞は、血液脳関門になっている。 ( )小グリア細胞は、血液-脳関門の役割を果たしている。 ( )中枢神経の髄鞘は、軸索に稀突起グリア細胞が巻きついてつくられる。

× × × × × ○

小グリア 星状グリア

中枢神経 ( )脳幹は、脊髄と延髄からなる。 ( )中枢神経の白質には、神経細胞体が集まっている。 ( )内包には、ニューロンの神経細胞体が集まっている。 ( )延髄には、心臓血管中枢がある。 ( )橋には、姿勢反射中枢がある。 ( )視床下部には、情動表出を調節する中枢がある。 ( )視床下部には、くしゃみの反射中枢がある。 ( )視床下部には、呼吸調節中枢がある。

× × × ○ × ○ × ×

延髄、橋、

中脳 灰白質 軸索 中脳 延髄 橋

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解剖生理学 要点整理ノート

83

( )中脳には、満腹・摂食中枢がある。 ( )小脳には、性行動を調節する中枢がある。 ( )中心前回には、感覚性言語中枢(ウェルニッケ中枢)がある。 ( )辺縁系には、運動性言語中枢(ブローカ中枢)がある。 ( )ブローカ中枢が障害されると、発語はできるが、言葉を理解できなくな

る。 ( )前頭葉には、聴覚野がある。 ( )前頭葉には、知覚野がある。 ( )錐体路は、不随意運動に関係している。 ( )脳では、全身のエネルギー消費の約 5%が消費される。 ( )脳では、解糖系だけでエネルギーを産生する。 ( )脳のエネルギー源として、主に脂肪酸を利用する。 ( )脳は、ケトン体をエネルギー源として利用できる。 ( )脳脊髄液は、クモ膜顆粒でつくられる。 ( )クモ膜下腔は、血液で満たされている。

× × × × × × × × × × × ○ × ×

視床下部 視床下部 側頭葉 中心前回 側頭葉 中心後回 随意運動 約 18% 脈絡膜 脳脊髄液

末梢神経 ( )末梢神経は、運動神経と自律神経の 2 種類に分類される。 ( )体性神経には、運動神経と自律神経がある。 ( )自律神経には、交感神経と知覚神経がある。 ( )求心性神経は、興奮を心臓に伝える。 ( )運動神経は、求心性神経である。 ( )知覚神経は、求心性神経である。 ( )副交感神経は、遠心性神経である。 ( )運動神経は、脊髄の後根から出る。 ( )知覚神経は、脊髄の前根から出る。 ( )頚神経は、全部で 7 対ある。 ( )脊髄の後角には、知覚神経の細胞体がある。 ( )脳神経は、31 対ある。 ( )顔面神経は、咀嚼筋の運動を支配する。 ( )顔面神経は、交感神経線維を含んでいる。 ( )滑車神経は、眼球の運動を支配する。 ( )三叉神経は、顔面の表情筋の運動を支配する。 ( )迷走神経は、副交感神経線維を含んでいる。 ( )迷走神経は、交感神経を含んでいる。 ( )舌下神経は、味覚を脳に伝える。 ( )交感神経は、涙の分泌を促進する。 ( )交感神経は、胃液の分泌を抑制する。 ( )交感神経は、気管支を収縮させる。 ( )副交感神経は、胆嚢を弛緩させる。 ( )副交感神経は、小腸と大腸の運動を抑制する。

× × × × × ○ ○ × × × × × × × ○ × ○ × × × ○ × × ×

体性と自律 運動と知覚 交感と副交感

前根 後根 8 対 脊髄神経節 12 対 三叉神経 副交感神経 顔面神経 副交感神経 顔面と舌咽 抑制 拡張 収縮 促進

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解剖生理学 要点整理ノート

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10.感覚器の構造と機能

1.視覚器

(1)構成

・視覚器は、眼球と眼球付属器(眼瞼、結膜、涙器、眼筋)で構成される。

(2)眼球の構造

1)眼球線維膜(外膜)

・眼球壁の最外層は、固い結合組織(強膜)からなる。

・強膜は、眼球の前方では透明な角膜となる。

・角膜には知覚神経の終末が分布し、角膜反射(角膜に異物が触れると眼を閉じる)を起こす。

2)眼球血管膜(ブドウ膜)

・眼球壁の中層は、血管に富むブドウ膜からなる。

・ブドウ膜のうち、強膜の内面をおおう部分を脈絡膜とう。

・脈絡膜は、眼球の前方では、毛様体と虹彩に移行する。

・瞳孔は、虹彩で囲まれた部位で、光が眼球内へ入る通り道である。

・虹彩には、瞳孔括約筋と瞳孔散大筋が存在して、瞳孔の大きさを変えることにより眼球内に入る光量

を調節する。

瞳孔括約筋は、輪状に走行しているので、収縮すると、瞳孔は縮小する。(縮瞳)

瞳孔散大筋は、放射状に走行しているので、収縮すると、瞳孔は拡大(散大)する。(散瞳)

3)眼球内膜(網膜)

・眼球壁の最内層は、色素上皮と網膜からなる。

色素上皮は、脈絡膜に接する単層立方上皮である。

網膜は、光刺激の受容する視細胞と興奮を伝達する神経細胞からなる。

・視細胞には、杆体と錐体の 2種類がある。

杆体は、網膜の周辺部に多くある。

杆体は、暗所での弱い光を感じるが、視力は弱く、色を感じない。

錐体は、網膜の中心部に多く、特に黄斑部(中心窩)では錐体だけが存在する。

錐体は、明るい場所でよく働き、視力が良く、色を感じる。

・杆体と錐体で受容された光刺激は、双極細胞を経て、神経節細胞に伝達される。

・神経節細胞の軸索は集まって、視神経乳頭(視神経円板)から眼球外に出て視神経となる。

・視神経乳頭には、視細胞がないので盲点となる。

4)水晶体と硝子体

・眼球内には、水晶体と呼ばれる凸レンズ様の透明体がある。

・水晶体は、水晶体上皮とそれが細長くなって核を失った水晶体線維で構成されている。

・水晶体は、毛様体小帯(チン小帯)によって、毛様体に固定されている。

・毛様体筋は、輪状に走行しているので、収縮すると毛様体小帯が緩み、弛緩すると毛様体小帯を引っ

張る。

毛様体筋が収縮すると、水晶体は球形に近づく。(屈折率が増加する)→近くを見る。

毛様体筋が弛緩すると、水晶体は細長い楕円になる。(屈折率が低下する)→遠くを見る。

・角膜、虹彩、水晶体は、毛様体上皮で産生される眼房水により栄養される。

・水晶体の後ろの広い空間は、硝子体と呼ばれる寒天状の透明体で満たされている。

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解剖生理学 要点整理ノート

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5)眼球付属器

眼瞼 ・眼球の前には、眼瞼があり、眼球を保護している。

・眼瞼には、睫毛がある

結膜

・眼球の外界に露出している面(角膜の部分を除く)は、眼球結膜で覆われている。

・眼瞼の、眼球に接する面は、眼瞼結膜で覆われている。

・結膜は、重層立方上皮である。

涙腺

・涙腺は、上眼瞼の外側にあって涙を分泌する。

・涙は、眼球前面を潤したのち、眼瞼の内側に存在する涙点から鼻涙管を通って下鼻腔へ

排出される。

眼筋

・上直筋、下直筋、上斜筋、下斜筋はそれぞれ上方回転、下方回転、内側直筋と外側直筋

はそれぞれ内方回転、外方回転を行う。

・外側直筋は外転神経、上斜筋は滑車神経、その他の眼筋は動眼神経の支配を受けてい

る。

(3)光刺激の受容と伝導

1)光刺激の受容

・光刺激は、視細胞に存在する視物質が受容する。

・杆体の視物質は、ロドプシン(視紅)である。

ロドプシンは、レチナール(ビタミン Aのアルデヒド)とたんぱく質のオプシンが結合したもので

ある。

ロドプシンが光を吸収すると、トランスデューシン(Gたんぱく質)を活性化する。

活性化したトランスデューシンは、cGMA ホスホジエステラーゼを活性化し、cGMP を減少させる。

cGMP の減少により、cGMP依存性 Na+チャネルが閉じて、視細胞の過分極が起こる。(過分極性の応

答)

視細胞の過分極により、視細胞からのグルタミン酸(神経伝達物質)放出が減少する。

グルタミン酸は、双極細胞に対する抑制性の神経伝達物質である。

グルタミン酸放出の減少による双極細胞の興奮は、神経節細胞に伝えられる。

・暗順応とは、暗所ではロドプシンの再生・貯蔵が起こり、暗いところでも見えるようになることをい

う。

・夜盲症とは、ビタミン A の欠乏によりロドプシンの合成が不足し、暗所での視力が低下することをい

う。

・錐体には、青・緑・赤の光を受容する 3種類の視物質があり、すべての色はこの 3色の組み合わせで

知覚される。

2)視覚伝導路

・左右の視神経は、視神経交叉、視索を経て外側膝状体に至りシナプスをつくる。

・外側膝状体ニューロンからの線維は、視放線となって後頭葉にある視覚野(一次視覚野)に至る。

・一次視覚野に入った情報は、さらに二次視覚野、三次視覚野、四次視覚野、五次視覚野と転送され、

色、形、動きなど複雑な処理を受けて、画像として認知されるようになる。

・半盲

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解剖生理学 要点整理ノート

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(4)遠視・近視・乱視・老視

・近視:毛様体筋が弛緩し、水晶体を調節しない状態で、遠方の物体の像が網膜の手前に結像される。

・遠視:毛様体筋が弛緩し、水晶体を調節しない状態で、遠方の物体の像が網膜の後ろに結像される。

・乱視:毛様体筋が弛緩し、水晶体を調節しない状態で、どこにも結像されない。

・老視:近くを見るときに、毛様体筋を収縮させても、水晶体の弾力性が乏しいために、十分に屈折率

を上げることができない。

2.味覚器

(1)構造

・味覚を受容する味覚受容器は、味蕾である。

・味蕾は、舌表面の茸状乳頭、葉状乳頭、有郭乳頭に分布している。(糸状乳頭には味蕾は存在しない)

・味蕾は、口蓋や咽頭の粘膜にも分布している。

・味蕾は、味細胞(感覚細胞)、支持細胞、基底細胞の 3種類の細胞から構成される。

・味細胞の基底部は、味覚を伝達する知覚神経とシナプスを形成している。

・味細胞の寿命は、約 10日で、基底細胞からつくられる新しい味細胞に置き換わる。

・味蕾の数は、全体で約 5,000個あり、20歳で最高に達し、それ以後徐々に減少する。

(2)味覚の受容

・味覚は、水溶性の化学物質によって起こる化学覚である。

・酸味、塩味、甘味、苦味を 4つの基本味という。

・4 つの基本味に、グルタミン酸やイノシン酸によるうま味を加えたものを 5つの基本味という。

・すべての味覚は、5つの基本味の組み合わせによって生じる。

・味細胞の先端の味毛には受容体があり、唾液や水に溶けた物質が受容体に結合することにより味細胞

に興奮が発生する。

・塩味と酸味は、イオンチャネル型受容体、甘味、苦味、旨味は、G たんぱく共役型受容体により受容

される。

・1つの味細胞は、1種類以上の基本味を感受するが、通常は特定の基本味に対して、他の基本味より強

く応答する。(詳細なメカニズムは不明)

・辛味は、舌・口腔のバニロイド受容体(カプサイシン受容体)で感じる痛覚である。

(3)味覚伝導路

・味細胞からの求心性の興奮は、舌の後ろ 1/3では舌咽神経が、前 2/3では顔面神経が、舌以外の口蓋

や咽頭では迷走神経が伝導する。

・顔面神経の枝である鼓索神経は、三叉神経に合流した後、味神経となって舌の前 2/3に分布する。

・これらの求心性線維は、延髄でニューロンを換えて視床に至り、視床で第 3次ニューロンに乗り換え

て大脳皮質味覚野(島皮質)に終わる。

3.嗅覚器

(1)構造

・鼻腔の嗅上皮には、嗅細胞、支持細胞、基底細胞の 3種類がある。

・嗅細胞は、嗅覚受容細胞である。

・嗅細胞は、神経細胞であって、粘膜面の嗅毛でにおい刺激を受容する。

・嗅覚は,におい物質が嗅細胞の受容体に結合することによって起こる。

・嗅細胞の寿命は、4~8週間である.

(2)嗅覚伝導路

・嗅細胞から中枢側に伸びる軸索が束になったものが嗅神経(第 1 次ニューロン)であり、嗅球で第 2

次ニューロンとシナプスを形成する。

・第 2次ニューロンは嗅索となって脳内に入り、嗅覚野(眼窩前頭皮質、扁桃体など)に刺激を伝導す

る。

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解剖生理学 要点整理ノート

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4.聴覚器

(1)構造

・聴覚器は、外耳、中耳、内耳からなる。

・外耳は、耳介と外耳道からなり、奥は鼓膜で閉鎖されている。

・中耳の主要部である鼓室は、耳管により咽頭と通じている。

・中耳と内耳は、前庭窓と蝸牛窓でつながっている。

・鼓膜の振動は、ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨の 3つの耳小骨を介して前庭窓に伝えられる。

・蝸牛窓は、第 2鼓膜によってふさがれている。

・内耳は、前庭、骨半規管、蝸牛からなる骨迷路と、そのなかにある膜性の膜迷路からなる。

・膜迷路は、卵形嚢、球形嚢、膜半規管、蝸牛管からなる閉鎖した管系である。

・蝸牛の内腔は、上方の前庭階と下方の鼓室階に分けられ、蝸牛孔により交通している。

・前庭階と鼓室階は、外リンパで満たされている。

・蝸牛管は、蝸牛の中にあって前庭階と鼓室階の間にある細い管である。

・鼓室階壁には、音の受容器であるラセン器(コルチ器)が存在する。

・蝸牛管内部は、内リンパで満たされている。

(2)音刺激の受容

・空気の振動が外耳を経て鼓膜を振動させ、その振動が耳小骨により内耳に伝えられることを空気伝導

という。

・音叉などの音源を直接頭蓋骨に接触させることにより、骨の振動を介して内耳に伝えられることを骨

伝導という。

・アブミ骨の振動は、前庭窓から前庭階→蝸牛孔→鼓室階→蝸牛窓と伝えられ、この振動にともなって

蝸牛管のラセン器が上下に振動する。

・ラセン器には有毛細胞があり、その上部には蓋膜が接している。

・有毛細胞の毛が、ラセン器の振動によりたわむことによって有毛細胞に興奮が発生する。

・有毛細胞には、蝸牛神経が接しており、有毛細胞の興奮は蝸牛神経に伝えられる。

・ヒトの可聴範囲は,20~20,000Hzである。

(3)聴覚伝導路

・蝸牛神経の細胞体は、蝸牛のなかの蝸牛神経節にある。

・蝸牛神経の軸索は、内耳神経となって脳幹(橋と延髄の境界部)にある同側の蝸牛神経核に終わる。

・その後、交差して、視床に達し、聴放線となって側頭葉の聴覚野に終わる。

・外耳または中耳の障害による難聴、を伝音性難聴という。

・内耳の障害、聴覚伝導路の障害などによる難聴を、感音性難聴という。

5.平衡感覚器

(1)構造

・身体の運動や身体各部の相対的位置に関する感覚を平衡感覚という。

・平衡感覚には、視覚器、筋・腱・関節などの深部感覚、皮膚感覚なども関与するが、最も重要な感覚

受容器は内耳の前庭器官である。

・前庭器官は、球形嚢・卵形嚢・半規管からなる膜迷路で構成される。

・膜迷路のなかは内リンパで満たされ、骨迷路と膜迷路の間は外リンパで満たされている。

(2)球形嚢・卵形嚢

・球形嚢と卵形嚢の内壁の一部は、肥厚して平衡斑を形成している。

・平衡斑には、感覚上皮である有毛細胞が存在し、平衡砂膜(耳石膜)というゼラチン質の膜がかぶさ

っている。

平衡砂膜の中には、平衡砂(耳石)の粒子が多数含まれている。

耳石の主成分は、炭酸 Caとリン酸 Caである。

・平衡斑は、頭の位置と直進運動の加速度を感知する。

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解剖生理学 要点整理ノート

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・頭が傾いたり、直進運動をしたりすると平衡砂が移動して有毛細胞に興奮を発生させる。

・運動の速度が一定になると、平衡砂の圧力は一定になり興奮は発生しなくなる。

(3)半規管

・半規管は、回転運動を感知する。

・半規管は、前半規管、外半規管、後半規管の 3つからなり、互いに直交する平面内にある。

・各半規管には、膨大部がある。

・膨大部の内面は、隆起していて膨大部稜と呼ばれ、感覚上皮である有毛細胞が存在する。

・有毛細胞の毛は、ゼラチン質の膨大部頂(クプラ)に包まれている。

・各半規管は、卵形嚢につながっている。

・頭が回転すると、内リンパの慣性により回転方向と逆方向に流れてクプラが曲げられ、有毛細胞に

興奮が発生する。

6.皮膚感覚受容器

(1)構造

・皮膚内に点在する皮膚感覚受容器には、様々な形、構造を持ったものがある。

・自由神経終末

・神経末端が膨大したもの(ルフィニ小体、メルケル触覚板)

・被覆性神経終末を持つもの(パチニ小体,マイスネル小体)

・知覚線維が毛嚢周囲に終わるもの(毛包受容器)

・触-圧覚の受容器はパチニ小体、マイスネル小体、メルケル触覚板、ルフィニ小体、毛包受容器など

がかかわる。

・温覚・痛覚にかかわる受容器は自由神経終末である。

(2)痛覚の種類

表在痛

・表在痛には持続の短い鋭い痛み(速い痛み)と持続の長い鈍い痛み(遅い痛み)があ

る。

・速い痛みは Aδ線維(有髄神経線維)によって、遅い痛みは C線維(無髄神経線維)

によって伝導される。

・かゆみは、痛覚の受容器が長時間、弱く刺激されることにより生じると考えられてい

る。

・ある種のかゆみは、ヒスタミンが自由神経終末を刺激して生じる。

・かゆみは、C線維によって伝導される。

深部痛

・筋、腱、関節、骨膜などに生じる鈍くうずくような痛みで、痛みの局在は不明瞭であ

る。

・頭痛も深部痛の 1種である。

内臓痛

・壁側の胸膜や腹膜は機械的刺激に敏感であるが、胃や腸など管腔臓器は機械的刺激に

対して通常は痛みを起こさない。

・平滑筋の強い収縮により痛みを生じることを内臓痛という。

・内臓痛は、迷走神経と一緒に内臓の平滑筋に分布する内臓求心性線維(自律神経)に

よって伝導される。

関連痛

・内臓や深部組織に痛みがあるとき、その隣接部や離れた場所の皮膚が知覚過敏になり

痛みを感じることをという。

・内臓求心性線維が刺激されると、脊髄の同じ部位から入る皮膚の知覚神経の感覚刺激

を通りやすくすることが原因である。

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解剖生理学 要点整理ノート

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7.深部感覚(固有感覚)

・深部感覚とは、姿勢や運動によって深部受容器が刺激されて起こる感覚で、固有感覚ともいう。

・深部受容器には、筋紡錘、腱紡錘、ゴルジの腱器官、関節受容器などがある。

8.内臓感覚

・飢餓、渇き、悪心、尿意、便意などに関連した感覚を、内臓感覚という。

・内臓感覚は、内臓求心性線維(自律神経)によって伝達される。

9.感覚伝導路

外側脊髄視床路

温痛覚

一次ニューロン:感覚神経終末→後根→後角

二次ニューロン:後角→交叉→側索を上行→視床

三次ニューロン:視床→中心後回(感覚野)

前脊髄視床路

粗大な触覚

一次ニューロン:感覚神経終末→後根→後角

二次ニューロン:後角→交叉→前索を上行→視床

三次ニューロン:視床→中心後回(感覚野)

後索-内側毛帯路

(後索路)

識別性触覚(触れている部位や、物体の性状がわかるような精密な触覚)

(意識できる)深部感覚

一次ニューロン:感覚神経終末→後根→後索を上行→延髄後索核

二次ニューロン:延髄後索核→交叉→内側毛様体を上行→視床

三次ニューロン:視床→中心後回(感覚野)

脊髄小脳路

意識できない深部感覚(筋紡錘や腱紡錘から伝わる筋の長さや緊張度合い)

下半身:一次ニューロン:感覚神経終末→後根→後角(胸髄核)

二次ニューロン:後角(胸髄核)→同側の側索を上行→小脳

上半身:一次ニューロン:感覚神経終末→後根→同側の後索を上行→延髄(副

楔状束核)

二次ニューロン:延髄(副楔状束核)→小脳

視覚器 ( )眼球の外界に露出している面は、眼瞼結膜で覆われている。 ( )結膜は、単層円柱上皮である。 ( )涙腺の導管は、涙点に開口する。 ( )鼻涙管は、咽頭に開口している。 ( )眼球の強膜は、重層扁平上皮でできている。 ( )角膜には、知覚神経が分布している。 ( )角膜には、運動神経が分布している。 ( )光刺激を受容する視細胞は、脈絡膜(ぶどう膜)にある。 ( )毛様体には、横紋筋が存在する。 ( )虹彩には、毛様体筋がある。 ( )瞳孔括約筋が収縮すると、瞳孔が収縮する。 ( )瞳孔散大筋が収縮すると、散瞳が起こる。 ( )光刺激は、網膜の色素上皮で受容する。 ( )杆体は、色を感じる。 ( )錐体は、網膜の周辺部に多く存在する。 ( )錐体は、黄斑部(中心窩)に多く存在する。 ( )視力がもっともいい部位は、視神経乳頭(視神経円板)である。 ( )黄斑部は、盲点となる。 ( )硝子体は、ガラスでできている。

× × × × × ○ × × × × ○ ○ × × × ○ × × ×

眼球結膜 重層立方上皮

鼻腔 結合組織 網膜 平滑筋 視細胞 明暗 黄斑部 黄斑部 視神経乳頭

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解剖生理学 要点整理ノート

90

( )水晶体には、血管が存在する。 ( )水晶体には、細胞は存在しない。 ( )毛様体が収縮すると、水晶体の屈折率が低下する。 ( )近くを見るときは、毛様体筋が弛緩する。 ( )遠くを見るときは、水晶体は細長い楕円になる。 ( )近視では、遠方の物体の像が、網膜の後ろに結像する。 ( )杆体の視物質は、ロドプシンである。 ( )暗所では、ロドプシンの産生が減少する。 ( )ロドプシンには、ビタミン A が含まれている。 ( )夜盲症は、ビタミン D の欠乏により起こる。 ( )視放線は、側頭葉の視覚野に分布する。

× × × × ○ × ○ × ○ × ×

上昇する 収縮 前 増加 ビタミン A 後頭葉

味覚器 ( )茸状乳頭には、味蕾はない。 ( )葉状乳頭には、味蕾はない。 ( )有郭乳頭には、味蕾は存在しない。 ( )味細胞は、再生しない。 ( )甘味は、舌尖で感じるが、舌根では感じない。 ( )舌の後ろ 3 分の 1 の味覚は、舌咽神経により伝導される。 ( )舌の前 3 分の 2 の味覚は、顔面神経によって脳に伝導される。 ( )辛味は、4 つの基本味の一つである。

× × × × × ○ ○ ×

嗅覚器 ( )嗅球は、嗅覚受容器である。 ( )嗅細胞は、鼻腔の粘膜上皮が分化してできる。 ( )嗅細胞から中枢側へ伸びる軸索が束になって嗅神経(第Ⅰ脳神経)にな

る。 ( )嗅細胞は、再生しない。 ( )嗅覚野は、頭頂葉にある。

× × ○ × ×

辺縁系

聴覚器 ( )ツチ骨は、鼓膜に付着している。 ( )鼓膜の振動は、ツチ骨、アブミ骨、キヌタ骨の順に内耳へ伝達される。 ( )蝸牛は、中耳にある。 ( )中耳は、耳管によって咽頭とつながっている。 ( )蝸牛管の内部は、外リンパで満たされている。 ( )耳石の振動により、音刺激が受容される。 ( )音刺激は、半規管によって受容される。 ( )内耳の障害による難聴を、伝音性難聴という。

○ × × ○ × × × ×

鼓膜→ツチ→

キヌタ→アブ

ミ→蝸牛

内耳 内リンパ ラセン器 蝸牛 感音性

平衡感覚器 ( )半規管は、球形嚢につながっている。 ( )球形嚢には、平衡感覚の受容器であるクプラがある。 ( )卵形嚢には、平衡感覚の受容器である平衡斑がある。 ( )ラセン器(コルチ器)は、回転運動を感知する受容器である。 ( )半規管は、直進運動の加速度を感知する。

× × ○ × ×

卵形嚢 半規管 回転運動

皮膚感覚 ( )パチニ小体は、皮膚の上皮組織に存在する。 ( )速い痛みは、無髄神経線維によって伝導される。 ( )内臓痛は、自律神経によって伝導される。 ( )内臓痛は、知覚神経によって伝導される。

× × ○ ×

結合組織 有髄神経

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解剖生理学 要点整理ノート

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( )深部感覚(姿勢、運動など)は、内臓求心性線維によって伝導される。 ( )内臓感覚(渇き、尿意など)は、知覚神経によって伝導される。

× ×

知覚神経 自律神経

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解剖生理学 要点整理ノート

92

11.内分泌系の構造と機能

1.総論

(1)内分泌の定義

内分泌 ・内分泌組織で産生されたホルモンが、血液によって全身に運ばれ、離れた場所にある

標的器官に作用して効果を現すこと

傍分泌 ・特定の細胞から分泌された物質が、血流に入ることなく分泌した細胞の近傍のある標

的細胞に働いて効果を現すこと

自己分泌 ・特定の細胞から分泌された物質が、血流に入ることなく分泌した細胞自身に働いて効

果を現すこと

・古典的内分泌組織は、視床下部、下垂体、甲状腺、上皮小体(副甲状腺)、副腎、精巣、卵巣、膵ラン

ゲルハンス島(膵ラ氏島)、上部消化管の粘膜上皮である。(狭義の内分泌)

・近年、新たに内分泌機能が確認された組織として、松果体(メラトニン)、心臓(Na 利尿ホルモン)、

脂肪組織(レプチン、アジポネクチンなど)などがある。(広義の内分泌)

・神経細胞の軸索末端から放出される物質が、シナプスではなく血液中に放出され、ホルモンとして作

用することを神経内分泌という。(視床下部、下垂体後葉)

(2)内分泌系の知識のまとめ方

①分泌の刺激は何か?(刺激)

②どこから分泌されるか?(内分泌器官・組織)

③何を分泌するか?(ホルモンの名前) フィードバック調節

↓ (一般に、刺激を弱める反応が起こる)

④どこに働くか?(標的器官・組織)

⑤どんな作用があるか?(反応)

(3)ホルモンの分類・構造・作用機序

化学構造 前駆体 内分泌組織 可溶性 作用 時間 作用機序

ポリペプチド

ホルモン アミノ酸 数~数百個

視床下部 下垂体 上皮小体 膵ラ氏島

上部消化管 水溶性 早い

秒~分

・細胞膜上に存在する受容体

に結合する。 ・シグナルは細胞内シグナル

伝達系(セカンドメッセン

ジャー)に伝達され、標的

たんぱく質の機能を調節

する。 アミン型ホル

モン

チロシン 副腎髄質

チロシン ヨード 甲状腺

脂溶性 遅い 時~日

・細胞膜を通過し、細胞質ま

たは核内の受容体と結合

する。 ・ホルモン-受容体複合体は

転写因子として働き遺伝

子の発現を調節する。

ステロイドホ

ルモン コレステロール 副腎皮質 性腺

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解剖生理学 要点整理ノート

93

2.下垂体

・下垂体は、咽頭上皮の一部が伸びて嚢状になったラトケ嚢由来(外胚葉)の前葉と、視床下部の神経

細胞の軸索が下垂体後葉まで伸びてできた後葉が合わさって出来たものである。

(1)前葉ホルモン

1)成長ホルモン(GH, growth hormone)

・視床下部から分泌される成長ホルモン放出ホルモン(GHRH, growth horumone releaseing hormone)

は、GHの分泌を促進する。

・視床下部から分泌されるソマトスタチン(成長ホルモン抑制ホルモン)は、GHの分泌を抑制する。

・主な作用

・骨端軟骨の増殖促進作用、たんぱく質同化促進作用により体の成長を促進する。(同化促進)

・肝臓のグリコーゲン分解と糖新生を促進して、血糖値を上昇させる。(エネルギー供給増加)

・脂肪組織のトリグリセリドの分解を促進して、遊離脂肪酸を放出する。(エネルギー供給増加)

・視床下部に作用して、GHRHの分泌を抑制する。(負のフィードバック調節)

2)甲状腺刺激ホルモン(TSH, thyroid-stimulating hormone)

・視床下部から分泌される甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH, thyrotropin releasing hormone)

は、TSHの分泌を促進する。

・主な作用

・甲状腺に作用して、甲状腺ホルモンの分泌を促進する。

・TSHの分泌を抑制する。(負のフィードバック調節)

3)副腎皮質刺激ホルモン(ACTH, adrenocorticotropic Hormone)

・視床下部から分泌される副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH, cortiotropin releasing hormone)

は、ACTHの分泌を促進する。

・身体的精神的ストレスの負荷は、視床下部を介して、ACTH の分泌を促進する。

・主な作用

・副腎皮質に作用して、糖質コルチコイド(コルチゾール)の分泌を促進する。

・糖質コルチコイドは、ACTH の分泌を抑制する。(負のフィードバック調節)

4)卵胞刺激ホルモン(FSH, follicle-stimulating hormone)

・視床下部から分泌されるゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH, gonadotropin releasing hormone)は、

FSH の分泌を促進する。

・主な作用

・女性では、卵巣の卵胞細胞に作用して、卵胞を成熟させ、卵胞ホルモン(エストロゲン)の分泌

を促進する。

・男性では、精巣の精細管上皮であるセルトリ細胞に作用して、精子形成を促進する。

・エストロゲンは、FSHと LHの分泌を抑制(負のフィードバック調節)するが、一定以上の濃度に

なると FSHと LH の分泌を促進(正のフィードバック調節)し、排卵を誘発する。

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解剖生理学 要点整理ノート

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5)黄体形成ホルモン(LH, luteinizing hormone)

・視床下部から分泌されるゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH, gonadotropin releasing hormone)は、

LHの分泌を促進する。

・主な作用

・女性では、卵巣の卵胞細胞に作用して、排卵と黄体形成を促進し、黄体ホルモン(プロゲステロ

ン)の分泌を促進する。

・男性では、精巣の間質細胞であるライディッヒ細胞に作用して、男性ホルモン(テストステロン)

の分泌を促進する。

・プロゲステロンは、FSHと LH の分泌を抑制する。(負のフィードバック調節)

・男性ホルモンは、FSHと LHの分泌を抑制する。(負のフィードバック調節)

6)プロラクチン

・視床下部から分泌されるプロラクチン放出ホルモン(PRH, prolactin releasing hormone)は、PRL

の分泌を促進する。

・視床下部から分泌されるドーパミンは、PRLの分泌を抑制する。

・妊娠によるエストロゲン分泌の増加は、PRLの分泌を促進する。

・授乳による乳首への機械的刺激は、視床下部を介して PRLの分泌を促進する。

・主な作用

・乳腺の発育と乳汁の合成・分泌を促進する。

・妊娠中は、胎盤が産生するエストロゲンとプロゲステロンの作用で、乳汁の合成・分泌作用は抑

制されている。

・分娩後、エストロゲンとプロゲステロンの抑制が取れると、乳汁の合成・分泌作用が顕在化する。

・視床下部に作用して。PRHの分泌を抑制し、ドーパミンの分泌を促進する。(負のフィードバック

調節)

(2)下垂体後葉ホルモン

1)オキシトシン

・授乳、分娩の刺激が、オキシトシンの分泌を促進する。

・主な作用

・オキシトシンは、平滑筋を収縮させる。

・分娩が刺激となって分泌されたオキシトシンは、子宮壁の平滑筋を収縮させる。

・乳児が乳首を吸引することが刺激となって分泌されたオキシトシンは、乳腺周囲の平滑筋を収縮

させて乳汁を排出させる。(射乳反射)

・男性では、射精時に分泌され、精管の平滑筋を収縮させて精子の移動を促進する。

・刺激となっている状況の解消が、オキシトシンの分泌を抑制する。(負のフィードバック調節)

2)バソプレシン(抗利尿ホルモン、ADH, antidiuretic hormone)

・①血漿浸透圧の上昇、②体液量の減少、③痛みや精神的なストレス、④外傷などの刺激が、バソプレ

シンの分泌を促進する。

・刺激となっている状況の解消が、バソプレシンの分泌を抑制する。(負のフィードバック調節)

・主な作用

・腎臓の集合管に作用して、集合管上皮細胞内にあるアクアポリンを細胞膜上に移動させ、水の透

過性を亢進させる。(→水の再吸収を促進→尿量を濃縮→尿量を減少)

3.視床下部

・視床下部は、間脳の一部で、中枢神経に含まれるとともに下垂体と連携した内分泌器官でもある。

・視床下部からは、下垂体前葉ホルモンの分泌を調節するホルモンが分泌され、下垂体門脈を介して下

垂体前葉に達する。

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解剖生理学 要点整理ノート

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4.甲状腺

(1)構造

・咽頭上皮(内胚葉)から発生する器官で、多数の濾胞からできている。

・濾胞は、単層の立方上皮からなり、その内部はサイログロブリンからなるコロイドで満たされている。

・濾胞は、甲状腺ホルモンを貯蔵している。

(2)甲状腺ホルモンの合成と分泌

・濾胞上皮でチロシンとヨウ素から作られる。

・甲状腺ホルモンには、サイロキシン(thyroxine, T4)とトリヨードサイロニン(tri-iodothyronine,

T3)がある。

・甲状腺ホルモンは、大部分 T4の形で分泌されるが、作用は T3のほうが強く、末梢組織で T4から T3に

変換されて作用を発揮する。

・甲状腺ホルモンは脂溶性なので、血液中では、ほとんどがたんぱく質と結合して運搬され、遊離のホ

ルモンはわずかである。(遊離の甲状腺ホルモン:T4は 0.03%、T3は 0.3%)

・甲状腺ホルモンと結合するたんぱく質

・サイロキシン結合グロブリン(TBG, thyroxin-binding globulin)

・サイロキシン結合プレアツブミン(TBPA, thyroxin-binding prealbumin)

・アルブミン

(3)甲状腺ホルモンの分泌調節

・視床下部から分泌される甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)は、下垂体に働いて甲状腺刺激ホル

モン(TSH)の分泌を促進する。

・TSHは、甲状腺に働いて、T4と T3の分泌を促進する。

・T3と T4は、TRHと TSHの分泌を抑制する。(負のフィードバック調節)

(4)甲状腺ホルモンの作用

・甲状腺ホルモンは、標的細胞の核内に存在する甲状腺ホルモン受容体に結合し、特定の遺伝子の発現

を促進あるいは抑制することにより、作用を発揮する。

・主な作用

・代謝亢進による熱産生量増加

・身体の成長や知能の発育促進

・腸管の糖吸収促進による血糖値上昇

・肝臓での LDL受容体発現増加によるコレステロール取り込み促進、血清コレステロール低下

・交感神経活動の亢進

・筋肉たんぱく質の分解促進

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解剖生理学 要点整理ノート

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(5)主な甲状腺疾患

・先天的な異常により甲状腺機能が低下したものをクレチン症といい、低身長や知能低下が起こる。

・甲状腺ホルモンが過剰に産生されるものを甲状腺機能亢進症(バセドウ病またはグレイブス病)とい

う。

・甲状腺ホルモンの産生が減少して不足するものを甲状腺機能低下症という。

(6)カルシトニン

・血清 Ca濃度の上昇が刺激となって、濾胞上皮の基底部や間質にある傍濾胞細胞から分泌される。

・主な作用

・骨形成を促進して骨への Ca沈着を促進し、血清 Ca濃度を低下させる。

・破骨細胞の活動を抑制し、骨吸収を抑制する。

・尿中への Ca排泄を促進して、血清 Ca濃度を低下させる。

・血清 Ca濃度が低下すると、カルシトニンの分泌は抑制される。(負のフィードバック調節)

5.副甲状腺(上皮小体)

・甲状腺の後面に上下 1対ずつ計 4個ある米粒大の内分泌腺(内胚葉由来)である。

・副甲状腺ホルモン(PTH, parathyroid hormone、パラソルモン)を分泌する。

・血清 Ca濃度の低下が刺激となって分泌される。

・主な作用

・骨吸収を促進して、骨からの Ca動員を増加させることにより、血清 Ca濃度を上昇させる。

・腎臓に働いてビタミン D の活性化を促進することにより、小腸での Ca の吸収を増やして血清 Ca

濃度を上昇させる。

・腎臓の尿細管に働いて Caの再吸収を促進することにより、血清 Ca濃度を上昇させる。

・腎臓の尿細管に働いて Pと HCO3-の排泄を促進する。

6.副腎皮質

(1)構造

・副腎皮質は、腎臓の上に乗っている三角形の内分泌腺(中胚葉由来)である。

・副腎皮質ホルモンは、すべてコレステロールから合成されるステロイドホルモンである。

コルチコイド(corticoid)=コルチコステロイド(corticosteroid)=副腎皮質ステロイド

コルチコ(cortico-)=皮質の(皮質 cortex)

(2)糖質コルチコイド

・下垂体から分泌される副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の作用により、束状帯細胞から分泌される。

・ヒトでは、コルチゾールの分泌量がもっとも多い。

・ACTH とコルチゾールの分泌量は、早朝に最高になり、夕方に最低になる。

・主なの作用

・肝臓での糖新生の促進し、血糖値を上昇させる。

・たんぱく質の合成を抑制し、糖新生の材料になる糖原性アミノ酸を肝臓に供給する。

・四肢の脂肪組織のトリグリセリド合成を抑制し、遊離脂肪酸とグリセロールの放出を促進する。

・抗炎症作用

・許容作用(カテコールアミン、インスリン、グルカゴンなどの作用を増強)

・腸管からの Ca 吸収を抑制し、血清 Ca値を低下させる。

・情動・認知など中枢神経系に影響する。

・抗ストレス作用

・骨吸収を促進する。

・CRH(corticotropin releasing hormone)と ACTHの分泌を抑制する。(負のフィードバック)

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解剖生理学 要点整理ノート

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・糖質コルチコイドが過剰に産生される疾患を、クッシング症候群という。

(3)電解質コルチコイド

・アンギオテンシンの作用により、球状帯細胞から分泌される。

・ヒトでは、アルドステロンがもっとも多い。

・アルドステロンの分泌は、レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系により調節されている。

・主な作用

・腎臓の皮質集合管に働いて Na 再吸収と K排泄を促進する。

基底膜側の Na-Kポンプを活性化

管腔側の Na チャネルと Kチャネルを増加

・体内の Na 量が増加すると浸透圧により水分量も増加するので循環血液量が増加し、血圧が上昇

する。

・電解質コルチコイドが過剰に産生される疾患を、原発性アルドステロン症という。

(4)副腎アンドロゲン

・網状帯細胞から分泌される。

・デヒドロエピアンドロステロン(DHEA, dehydroepiandrosterone)とアンドロステンジオンがある。

・DHEA のほとんどは、硫酸抱合体(DHEA-S)である。

・主なの作用

・DHEA の男性ホルモン作用は、テストステロンの約 20%である。

・アンドロステンジオンは末梢でエストロゲンに変換されるので、閉経後の女性では重要なエスト

ロゲンの供給源になる。

7.副腎髄質

・副腎髄質は、交感神経の節後神経細胞から発生(外胚葉由来)したものである。

・交感神経の緊張により、分泌が増加する。

・アドレナリン(85%)とノルアドレナリン(15%)を分泌する。

・チロシンは、ドーパを経てドーパミンになる。

・さらに、ドーパミンは、ノルアドレナリンを経てアドレナリンになる。

・ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンは、カテコール核とアミンを持つので、カテコー

ルアミンと呼ぶ。

・カテコール核とは、ベンゼン環に 2つの水酸基がとなりあって結合したものである。

・アミンとは、アンモニアの水素原子を炭化水素基で置換したもの(R-NH2、R-NH-R2など)であ

る。

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解剖生理学 要点整理ノート

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・主な作用

循環器系

・心臓では、β1 受容体を介して、心筋の収縮力を増強させ、心拍数を増加させ

る。

・骨格筋以外の血管では、α1受容体を介して、血管を収縮させる。

・骨格筋の血管では、β2受容体を介して、血管を拡張させる。

・血圧を上昇させる。

呼吸器系 ・気管支平滑筋では、β2受容体を介して、気管支を拡張させる。

消化器系 ・α1受容体を介して、消化管の平滑筋を弛緩させ、消化管の運動を抑制する。

・α1受容体を介して、消化管の括約筋を収縮させ、内容物の移動を抑制する。

エネルギー

代謝

・肝臓では、β2 受容体を介して、グリコーゲン分解を促進し、血糖値を上昇さ

せる。

・脂肪組織では、β3 受容体を介して、中性脂肪分解を促進し、遊離脂肪酸の放

出を増加させる。

8.膵ランゲルハンス島

(1)膵島ホルモン

A(α)細胞

・グルカゴンを分泌する。

・グルカゴンは、血糖値の低下が刺激となって分泌される。

・グルカゴンは、肝臓のグリコーゲン分解、糖新生を促進して、血糖値を上げる。

B(β)細胞

・インスリンを分泌する。

・インスリンは、血糖値の上昇が刺激となって分泌される。

・インスリンは、筋肉・脂肪組織のグルコース取り込みを促進して、血糖値を下げ

D(δ)細胞

・ソマトスタチンを分泌する。

・ソマトスタチンは、グルカゴンとインスリンの分泌を抑制する。

・ソマトスタチンは、胆嚢を弛緩させる。

F細胞

(PP細胞)

・膵ポリペプチドを分泌する。

・作用は不明

(4)血糖値を調節するホルモンと臓器の分業

肝臓

・インスリンは、グリコーゲン合成を促進する。→血糖値低下

・グリコーゲン分解と糖新生を促進して血糖値を上昇させるホルモン

グルカゴン、アドレナリン、成長ホルモン、糖質コルチコイド

筋肉組織

・インスリンは、グルコース取り込みとグリコーゲン合成を促進する。→血糖値低下

・アドレナリンは、グリコーゲン分解を促進する。→筋肉細胞内でエネルギー源とし

て利用

脂肪組織

・インスリンは、グルコース取り込みとトリグリセリド合成を促進する。→血糖値低

・甲状腺ホルモンと糖質コルチコイドは、トリグリセリド分解を促進する。

消化管 ・甲状腺ホルモンは、グルコース吸収を促進する。→食後の一過性血糖値上昇

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解剖生理学 要点整理ノート

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9.性腺

卵巣 ・卵胞ホルモン(エストロゲン)を分泌する。

・黄体ホルモン(プロゲステロン)を分泌する。

精巣 ・男性ホルモン(テストステロン)を分泌する。

・精巣エストロゲンを少量分泌する。

10.その他の臓器が分泌するホルモン

胃 ガストリン、グレリン

十二指腸 コレシストキニン、セクレチン

腎臓 エリスロポイエチン、レニン、ビタミン D

松果体

メラトニン(メラトニンを分泌する松果体は、間脳にある左右の視床に挟まれた位置に

ある直径 8㎜程度の内分泌器官である。メラトニンの分泌は日中減少し、夜間増加する

日内リズムを持ち、睡眠など概日リズムの生成に関与している)

心臓 心房性 Na利尿ペプチド(ANP)、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)

胎盤 ヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG)、エストロゲン、プロゲステロン

ホルモンの構造と作用 ( )下垂体から分泌されるホルモンは、ペプチドホルモンである。 ( )副腎皮質から分泌されるホルモンは、アミン型ホルモンである。 ( )ステロイドホルモンの受容体は、細胞表面にある。 ( )ポリペプチドホルモンは、作用時間が遅い。 ( )ステロイドホルモンは、ペプチドホルモンより作用発現が速い。 ( )アミン型ホルモンの前駆体は、コレステロールである。

○ × × × × ×

ステロイド型

細胞内 速い 遅い チロシン

下垂体前葉から分泌されるホルモン ( )オキシトシン ( )プロラクチン ( )パラソルモン ( )黄体形成ホルモン

× ○ × ○

後葉 副甲状腺

下垂体後葉から分泌されるホルモン ( )カルシトニン ( )バソプレシン ( )グルカゴン ( )オキシトシン

× ○ × ○

甲状腺 膵ラ氏島

甲状腺から分泌されるホルモン ( )カルシトニン ( )サイロキシン ( )アルドステロン ( )卵胞刺激ホルモン

○ ○ × ×

副腎皮質 下垂体前葉

副甲状腺から分泌されるホルモン ( )パラソルモン ( )ソマトスタチン ( )コルチゾール ( )インスリン

○ × × ×

副腎皮質 膵ラ氏島

副腎皮質から分泌されるホルモン ( )デヒドロエピアンドロステロン(DHEA) ( )アドレナリン ( )テストステロン ( )プロゲステロン

○ × × ×

副腎髄質 精巣 卵巣黄体

副腎髄質から分泌さるホルモン

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解剖生理学 要点整理ノート

100

( )アドレナリン ( )アルドステロン ( )副腎アンドロゲン ( )副腎皮質刺激ホルモン

○ × × ×

副腎皮質 副腎皮質 下垂体前葉

膵ランゲルハンス島から分泌されるホルモン ( )メラトニン ( )グルカゴン ( )サイロキシン ( )成長ホルモン

× ○ × ×

松果体 甲状腺 下垂体前葉

ホルモンの作用 ( )成長ホルモンは、たんぱく質の異化を促進する。 ( )成長ホルモンは、肝臓のグリコーゲン分解を抑制する。 ( )黄体形成ホルモン(LH)は、精巣に働いてテストステロンの分泌を促

進する。 ( )卵胞刺激ホルモン(FSH)は、男性には作用しない。 ( )プロラクチンは、乳腺の発育を促進する。 ( )プロラクチンは、乳腺の平滑筋を収縮させる。 ( )プロラクチンは、射乳反射を引き起こす。 ( )バソプレシンは、水の排泄を促進する。 ( )オキシトシンは、子宮の平滑筋を収縮させる。 ( )サイロキシンは、基礎代謝量を低下させる。 ( )T4(サイロキシン)は、T3(トリヨウドサイロニン)より作用が強い。 ( )カルシトニンは、骨吸収を促進する。 ( )パラソルモンは、骨形成を促進する。 ( )副甲状腺ホルモンは、血清 Ca 濃度を低下させる。 ( )副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)は、アルドステロンの分泌を促進する。 ( )コルチゾールは、肝臓での糖新生を抑制する。 ( )コルチゾールは、炎症反応を促進する。 ( )アルドステロンは、集合管において Na の再吸収を抑制する。 ( )アドレナリンは、心拍数を減少させる。 ( )グルカゴンは、肝臓の解糖系を促進する。 ( )ソマトスタチンは、インスリン分泌を促進する。

× × ○ × ○ × × × ○ × × × × × × × × × × × ×

同化 促進 精子形成促進

オキシトシン

オキシトシン

再吸収促進 増加 弱い 骨形成促進 骨吸収促進 上昇 コルチゾール

促進 抑制 促進 増加 糖新生 抑制

血糖値を上昇させるホルモン ( )グルカゴン ( )成長ホルモン ( )インスリン ( )甲状腺ホルモン ( )コルチゾール ( )アドレナリン

○ ○ × ○ ○ ○

糖吸収促進

ホルモン分泌の調節 ( )黄体形成ホルモンは、男性ホルモンの分泌を促進する。 ( )卵胞刺激ホルモンは、プロゲステロンの分泌を促進する。 ( )プロラクチンは、思春期に分泌が増加する。 ( )オキシトシンは、分娩時に分泌が増加する。 ( )授乳は、オキシトシンの分泌を抑制する。 ( )副腎アンドロゲンは、女性では分泌されない。 ( )黄体は、主にエストロゲンを分泌する。 ( )血漿浸透圧の低下は、バソプレシンの分泌を促進する。 ( )甲状腺ホルモンは、甲状腺刺激ホルモンの分泌を促進する。

○ × × ○ × × × × ×

エストロゲン

妊娠 促進 抑制 抑制

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解剖生理学 要点整理ノート

101

( )血清 Ca 濃度の低下は、カルシトニンの分泌を促進する。 ( )コルチゾールは、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌を抑制する。

× ○

抑制

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解剖生理学 要点整理ノート

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12.骨の構造と機能

1.骨の構造

(1)骨の分類

・骨は、全身で 206個ある。

頭蓋(23)、脊柱(26)、肋骨(24)、胸骨(1)、上肢(64)、骨盤(2)、下肢(60)、耳小骨(6)

・骨は、形状により長骨(上腕骨、大腿骨など)、短骨(手根骨、足根骨など)、扁平骨(頭頂骨、前頭

骨など)、不規則骨(椎骨、下顎骨など)に分類される。

(2)骨の構造

1)骨質

・骨質には、硬い緻密質と海綿質がある。

・長骨の中央部を骨幹、両端部を骨端という。

・長骨の骨幹は、緻密質からなる。

・骨端の表面は、薄い緻密質におおわれるが、内部は海綿質からなる。

・海綿質の骨稜には、規則的な方向性があり、骨の強度を保っている。

・扁平骨では、2枚の緻密質に海綿質がはさまれている。

2)骨髄

・骨髄とは、骨の髄腔を満たしている細網組織である。

・骨髄は、造血を行う場である。

・活発に造血作用を営んでいる骨髄を、赤色骨髄という。

・脂肪組織に置き換わり、造血を行っていない骨髄を黄色骨髄という。

・成人になると四肢の長骨のほとんどが黄色骨髄になる。

・体幹の骨は、生涯、赤色骨髄を維持する。

3)骨膜

・骨膜は、関節面を除く骨の表面を覆う結合組織である。

・骨膜には、豊富に血管が分布しており、フォルクマン管を通って緻密質に入り、ハバース管を通って

骨質に栄養を送る。

・骨髄への血管は、栄養孔を通って直接骨髄に入り、骨髄組織と海綿質の骨稜に栄養を送る。

・骨膜には、知覚神経が分布しているが、骨質の内部には侵入しない。

・骨膜には、骨母細胞がある。

骨母細胞は、骨芽細胞に分化して骨組織をつくる。

骨母細胞の活動は、胎生期から青年期にかけて活発で、骨の太さの成長にかかわる。

骨折すると、骨母細胞から多数の骨芽細胞がつくられて骨組織を再生する。

4)緻密質の組織

・緻密質の細胞成分は、骨を形成する骨芽細胞、骨芽細胞が分化して静止した状態の骨細胞、骨を吸収

する破骨細胞の 3種類からなる。

・緻密質の細胞外基質は、コラーゲン線維とその間を満たす基質からなる。

基質の大部分は、リン酸 Ca を主成分とする電解質である。

リン酸 Caは、ヒドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)として沈着する。

Ca は体内で最も多い無機質で、体重の 2%を占めるが、その 99%は骨に存在する。

・緻密質は、血管が通るハバース管と、その周囲に同心円状に配列する骨層板(ハバース層板)から構

成されている。(骨単位(ハバース系)という。

・ハバース管を持たない骨層板を介在層板という。

・ハバース管と垂直方向に走行し、骨層板に包まれていない管をフォルクマン管という。

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解剖生理学 要点整理ノート

103

2.骨の成長

(1)膜内骨化

・膜内骨化とは、骨膜にある骨母細胞が分化した骨芽細胞よって作られる骨の成長である。

・形成された骨を付加骨という。

・骨の外面に緻密質を付加し、内面の骨を吸収することにより成長する。

例)頭蓋骨などの扁平骨、短骨、不規則骨、長骨の太さの成長など

(2)軟骨内骨化

・軟骨内骨化とは、まず骨端軟骨において硝子軟骨がつくられて、次第に軟骨が骨に置き換わることに

よって作られる骨の成長である。

・形成された骨を置換骨という。

・長骨の長さの成長を起こす。

・成人に達すると骨端軟骨は骨化して、骨端線となる。

(3)骨の成長に関与するホルモン

・下垂体前葉から分泌される成長ホルモンは、長骨の長さの成長を促進する。

・その他、甲状腺ホルモン、アンドロゲン、エストロゲン、糖質コルチコイド、インスリンなどが骨の

成長に関与する。

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解剖生理学 要点整理ノート

104

3.骨と Ca代謝

(1)骨の再構築

・骨芽細胞により、血漿 Caを骨に沈着させ、骨を形成することを骨形成という。

・破骨細胞により、骨に沈着している Ca を血液中に溶出することを骨吸収という。

・骨の基本的な形態を維持しつつ、骨吸収と骨形成により新しい骨組織に置き換わることを骨再構築と

いう。

・体内では、常に骨の再構築が起こっている。

・骨の再構築において、骨吸収が骨形成を上回ると、全身の骨量が減少し、骨粗鬆症や骨軟化症になる。

(2)血漿 Ca濃度の調節

・Caは、神経伝導、筋の収縮、内分泌腺・外分泌腺の調節、血液凝固などで重要な役割を果たす。

・血漿 Ca濃度は、狭い範囲(約 10㎎/㎗)に保たれている。

・Ca濃度の調節には、副甲状腺ホルモン、ビタミン D、カルシトニン、エストロゲンが関与する。

1)副甲状腺ホルモン(PTH, parathyroid hormone、パラソルモン parathormone)

・副甲状腺から分泌されるホルモンである。

・血漿 Ca濃度の低下が刺激となって、分泌が促進される。

・PTHの作用

・破骨細胞を活性化して、骨吸収を促進する。

・腎臓の尿細管での Caの再吸収を促進する。

・腎臓の尿細管での Pの排泄を促進する。

・腎臓でのビタミン Dの水酸化酵素を促進して、ビタミン Dの活性化を促進する。

・血漿 Ca濃度が上昇する。

2)ビタミン D

・食物中のビタミン D3は、肝臓で 25(OH)D3に、腎臓で 1α,25(OH)D3に水酸化されて活性化する。

・ビタミン Dの作用

・小腸からの Ca と Pの吸収を促進する。

・骨芽細胞の活性を促進し、骨形成を促進する。

大量のビタミン Dでは、破骨細胞を活性化して骨吸収を促進する。

・腎臓の尿細管で、Caと Pの再吸収を促進する。

・血漿 Ca濃度が上昇する。

・副甲状腺ホルモンの合成を抑制する。(負のフィードバック調節)

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解剖生理学 要点整理ノート

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3)カルシトニン

・カルシトニンは、甲状腺濾胞の周囲に散在する傍濾胞細胞(C細胞)から分泌される。

・カルシトニンは、血漿 Ca濃度の上昇が刺激となって、分泌が促進される。

・カルシトニンの作用

・破骨細胞の機能を抑制して、骨吸収を抑制する。

・腎臓の尿細管で、Caと Pの排泄を促進する。

・血漿 Ca濃度が低下する。

4)エストロゲン

・エストロゲンは、破骨細胞の活動を抑制して、骨の吸収を抑制する

・閉経後にエストロゲンの分泌が減少すると、急速に骨吸収が進む。(閉経後骨粗鬆症)

4.骨代謝に関する栄養因子

エネルギー ・低エネルギー下では、十分な Ca摂取があっても成長期の骨量増加が抑制される。

・思春期の過剰なダイエットは、骨量増加を抑制する。

たんぱく質

・骨の 20%がコラーゲンでできている。

・たんぱく質の不足は、Ca吸収を減少させる。

・過剰なたんぱく質は、Caの尿中排泄を促進する。

ビタミン D ・紫外線の作用により皮膚で合成され、肝臓、腎臓で修飾されて活性型となる。

ビタミン K

・骨芽細胞のオステオカルシン産生促進、石灰化促進、骨吸収抑制などの効果があ

る。

・オステオカルシンは、骨の非コラーゲン性たんぱく質の 25%を占め、骨の石灰化

に関与している。

Ca ・成人の Ca]吸収率は低い。(吸収率:小児 75%、成人 30~40%)

P ・Pの過剰摂取は、Caの吸収障害を引き起こす。

・適正な Ca/P比は、0.5~2.0である。

Mg ・Mg欠乏では、骨の脆弱化、骨形成マーカーの減少が現れる。

その他

・ビタミン C、ビタミン A、大豆イソフラボン(女性ホルモン様作用)、ミルク塩基

性蛋白質(MBP, milk basic protein)(MBPの主成分であるシスタチンが破骨細

胞の活性を抑える)などが、骨形成を促進する。

5.骨の連結

(1)可動性の連結(関節)

・関節面は、薄い関節軟骨で覆われている。

・関節は、関節包で覆われていて、その内腔を関節腔という。

・関節腔の内面は、滑膜で覆われていて、関節の潤滑油の役割をする関節液(滑液)を分泌する。

・関節液の主成分は、ヒアルロン酸である。

・滑膜から関節腔に向かって輪状のヒダが生じ、軟骨性の関節半月や関節円板が介在することもある。

・靱帯は、紐状または帯状の結合組織で、関節を補強している。

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解剖生理学 要点整理ノート

106

(2)不動性の連結

縫合 ・骨が結合組織で結合されるもので、頭蓋骨などでみられる。

軟骨結合 ・骨が、軟骨(ガラス軟骨・線維軟骨)で結合されるもの。

・椎間円板による脊柱の椎骨の連結や恥骨結合などでみられる。

骨結合

・骨が骨質によって結合されるもので、結果として 1個の骨のように見える。

・骨結合は、幼児に軟骨結合であったものが骨化したもので、寛骨、仙骨、尾骨な

どでみられる。

6.主要骨格とその連結

(1)頭蓋

・前頭骨、頭頂骨、後頭骨、側頭骨からなる。

・前頭骨と頭頂骨は冠状縫合で、左右の頭頂骨は矢状縫合で、頭頂骨と後頭骨はラムダ縫合で結合して

いる。

・新生児では、冠状縫合と矢状縫合の交点に大泉門が、矢状縫合とラムダ縫合の交点に小泉門が開いて

いる。

・大泉門は、生後 1年半~2年で、小泉門は生後 6ヶ月~1年で閉鎖する。

(2)脊柱

・脊柱は、7個の頚椎、12 個の胸椎、5個の腰椎、5個の仙椎、3~5個の尾椎、合計 32~34個の椎骨か

らなる。

・5個の仙椎は、融合して 1個の仙骨となる。

・3~5個の尾椎は、融合して 1個の尾骨となる。

・椎骨は、腹側の椎体と背側の椎弓からなり、椎弓には棘突起などの突起がでている。

・脊柱は、椎間円板で連結されている。

・椎間円板の周辺部(線維輪)は、線維軟骨でできているが中央部は寒天状の髄核が包まれている。

・椎体と椎弓でできる孔を椎孔といい、連なって脊柱管を形成する。

・脊柱管のなかには、脊髄が入っている。

・脊柱の頚部と腰部は前弯を、胸部と仙骨部は後弯を示す。

・頚椎の別名:第 1頚椎(椎体なし)は環椎、第 2頚椎は軸椎、第 7頚椎は隆椎と呼ばれる。

(3)胸郭

・胸郭は、12個の胸椎、左右 12 対の肋骨および 1個の胸骨でつくられる。

・肋骨は、胸椎と肋椎関節を形成する。

・第 1~7肋骨は、胸骨と胸肋関節を形成する。(真肋)

・第 8~10肋骨は、上位の肋骨につながり、第 11、12肋骨は遊離している。(仮肋)

・肋骨の前端は、肋軟骨でできている。

・胸骨は、胸骨柄と胸骨体からなり下部に剣状突起が下垂する。

・柄と体の境界(第 2肋骨の高さ)は隆起しており(胸骨角)、体表から触れることができる。

(4)上肢

・鎖骨と肩甲骨が上肢帯をつくり、その遠位に上腕骨、前腕骨(橈骨、尺骨)、手骨がある。

・手骨は、8個の手根骨、5個の中手骨、14個の指骨からなる。

・鎖骨は、内側端で胸骨と胸鎖関節を、外側端で肩甲骨と肩鎖関節を形成している。

・上腕骨の近位端は、肩甲骨と肩関節をつくり、遠位端は橈骨、尺骨と肘関節をつくる。

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解剖生理学 要点整理ノート

107

(5)骨盤

・骨盤は、仙骨、尾骨と左右の寛骨でつくられる。

・寛骨は、腸骨、恥骨、坐骨が融合したもので、腸骨と仙骨が仙腸関節で、左右の恥骨が恥骨結合で連

結されている。

・骨盤の形態は、性差が著しく、女性の骨盤は男性に比べて浅く広いのが特徴である。

(6)下肢

・下肢骨は、大腿骨、下腿骨(膝蓋骨、脛骨、腓骨)、足骨がある。

・足骨は、7個の足根骨、5個の中足骨、14個の指骨からなる。

・大腿骨の大腿骨頭は、寛骨と股関節をつくる。

・膝関節は、大腿骨、脛骨、腓骨、膝蓋骨によって構成される。

骨系 ( )骨は、全身で 103 個ある。 ( )脊椎は、長骨である。 ( )骨の関節面は、骨膜で覆われている。 ( )骨膜には、骨母細胞が存在する。 ( )骨膜には、知覚神経は分布していない。 ( )骨の表面は、硬い海綿質で覆われている。 ( )赤色骨髄は、体幹の骨より、四肢の骨に多くある。 ( )黄色骨髄では、活発な造血が行われている。 ( )骨層板は、フォルクマン管の周囲に同心円状に配列している。 ( )骨の基質に沈着しているカルシウムは、リン酸カルシウム(ヒドロキシ

アパタイト)である。 ( )コラーゲン線維は、2 本のペプチド鎖がらせん状構造をなしてできてい

る。 ( )ビタミン C が不足すると、コラーゲンの合成が障害される。 ( )軟骨の細胞外基質には、カルシウムが沈着している。 ( )長骨の長さの成長は、膜内骨化により起こる。 ( )頭蓋骨の成長は、軟骨内骨化によって起こる。 ( )骨端線は、骨端軟骨が骨化したものである。 ( )副甲状腺ホルモンは、骨芽細胞を活性化して骨形成を促進する。 ( )エストロゲンは、破骨細胞を抑制して骨吸収を抑制する。 ( )エストロゲンが不足すると、骨形成が促進される。 ( )ビタミン K は、骨吸収を促進する。 ( )副甲状腺ホルモンは、ビタミン D を不活性化する。 ( )カルシトニンは、血清 Ca 濃度を上昇させる。 ( )骨細胞は、破骨細胞が分化したものである。 ( )前頭骨と頭頂骨は、関節軟骨で連結されている。 ( )大泉門は、生後 1 年以内に閉鎖する。 ( )小泉門は、生後 1 年以内に閉鎖する。 ( )頸椎は、7 個ある。 ( )胸椎は、12 個ある。 ( )5 個の腰椎は、融合して 1 個の腰骨を形成している。 ( )仙骨は、5 個の仙椎が融合してできる。 ( )胸郭は、肋骨、胸骨、肩甲骨でつくられる。 ( )橈骨は、下肢の骨である。 ( )尺骨は、上肢の骨である。 ( )脛骨は、上肢の骨である。 ( )腓骨は、下肢の骨である

× × × ○ × × × × × ○ × ○ × × × ○ × ○ × × × × × × × ○ ○ ○ × ○ × × ○ × ○

206 個 不規則骨 関節軟骨 いる 緻密質 体幹 赤色骨髄 ハバース管 3 本 軟骨内骨化 膜内骨化 抑制 骨吸収 骨形成 活性化 低下 骨芽細胞 縫合 1.5~2 年 0.5~1 年 胸椎 上肢 下肢

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解剖生理学 要点整理ノート

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13.筋肉の構造と機能

1.骨格筋の構造

・骨格筋組織は、筋束とそれに付随する結合組織(筋膜)、血管、神経からなる。

・筋束は、筋線維が束になったものである。

・筋線維は、直径 20~100m、長さ数 cm の巨大な細胞で、多数の核が点在している。

・筋線維の細胞膜は、筋鞘(sarcolemma)と呼ばれる。

・筋線維は直線状で、舌筋など一部を除いて枝分かれすることはない。

・筋線維の中には、数百から数千の筋原線維の束が存在する。

・筋原線維の収縮単位を、筋節という。

・筋節は、太いミオシン・フィラメントと細いアクチン・フィラメントが規則正しく組合わさってでき

ている。

・横紋は、筋節が規則正しく並んでつくられる。

・骨格筋は、意思により収縮させることができる随意筋であり、運動神経と知覚神経が分布している。

2.骨格筋の収縮機構

(1)滑走説

・骨格筋が弛緩している時は、トロポニンやトロポミオシンが、アクチンとミオシンの結合を抑制して

いる。

・骨格筋が刺激されると、筋小胞体に蓄えていた Ca2+が細胞質中に放出される。

・①細胞質中の Ca2+濃度が上昇して、Ca2+がトロポニンに結合すると、抑制がとれてアクチンとミオシ

ンの突起が連絡橋を形成する。

・②続いてミオシンの突起に結合している ATPが加水分解して ADPになるときに突起が動いてアクチン

がミオシンの上を滑走する。

・③その後 Ca2+がトロポニンから離れてアクチンとミオシンは離れる。

・①、②、③が繰り返し起こることにより筋肉は収縮する。

(2)骨格筋の興奮収縮連関

・運動神経は、筋膜を貫いて筋の内部に侵入する。

・運動神経の神経終末(運動終板)は、1本の筋線維の筋鞘(細胞膜)とシナプスを形成する。

・1 本の軸索は、枝分かれして複数の筋線維とシナプスを形成する。(運動単位)

・1 本の筋線維には、1つの神経終末がシナプスを形成している。

・神経終末から放出されるアセチルコリンが、筋線維の細胞膜上にある受容体に結合すると細胞外の Na+が細胞内に流入して活動電位を起こす。

・活動電位は、横行小管(T管)を介して筋小胞体に伝えられる。

・活動電位の刺激を受けた筋小胞体は、蓄えていた Ca2+を細胞質中に放出して、筋肉を収縮させる。

・活動電位の刺激がないときは、Ca2+は筋小胞体に回収される。

・一つの骨格筋線維は、閾値以上の刺激により一様に収縮する.

・運動神経の刺激に対する個々の筋線維の閾値は等しくないので、刺激が小さいと収縮する筋線維の数

は少なく、収縮力は小さい。しかし、刺激が大きくなると収縮する筋線維の数が増えて収縮力は強く

なる。

3.筋肉の収縮と ATP

(1)ATPの消費

・ミオシンの突起の運動

・Ca2+の筋小胞体への回収(能動輸送)

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解剖生理学 要点整理ノート

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(2)ATPの供給

・クレアチンリン酸を分解して、ADPから ATPを生成する。

・運動により、細胞内に蓄えていたクレアチンリン酸は数秒で枯渇する。

・無酸素運動では、血液中のグルコースおよび筋肉内のグリコーゲンを分解して嫌気的解糖系によりATP

を産生する。

・嫌気的条件下の運動では、約 30秒で乳酸が蓄積して十分な ATPを産生できなくなる。

・有酸素運動では、クエン酸回路と電子伝達系により、血液中のグルコースおよび脂肪酸を材料にして、

持続的に ATPを供給することができる。

4.白筋と赤筋

・筋線維には、赤筋線維(遅筋線維、タイプⅠ)と白筋線維(速筋線維、タイプⅡ)の 2 種類がある。

・赤筋線維を多く含む筋は、ミオグロビンを多く含むため赤みが強く、白筋線維を多く含む筋は白っぽ

く見える。

・赤筋線維は、細くてミトコンドリアが豊富で、遅い持続的な収縮に適していて、疲れにくいので姿勢

の保持に関する筋肉に多い。

・白筋線維は、太くてミトコンドリアが少なく、すばやい収縮に適しているが、疲れやすい。

5.心筋の収縮

・心筋細胞同士は、介在版で互いに密着している。

・ギャップ結合により、細胞間で電気的、機能的に連結されている。

・1 個の心筋細胞が興奮すると、心臓全体が興奮する。

・心筋の活動電位は、Ca2+の流入により持続時間が長い。

・心筋の収縮力は、細胞内 Ca2+濃度により調節される。

6.平滑筋の収縮

・横紋構造は認められないが、収縮はアクチンとミオシンの連結(滑走説)により行われる。

・自律神経、ホルモンにより収縮が調節される。(不随意筋)

・収縮速度は緩やかで、長時間の収縮が可能。

・平滑筋の細胞間は、ギャップ結合により連結され、1 個の平滑筋が興奮すると、周囲の平滑筋に興奮

が伝わる。

筋系 ( )骨格筋線維は、多核の細胞である。 ( )筋鞘は、結合組織でできている。 ( )舌筋の筋線維は、枝分かれしない。 ( )アクチンフィラメントは、ミオシンフィラメントより太い。 ( )骨格筋には、知覚神経は分布していない。 ( )Ca2+が結合していないトロポニンは、アクチンとミオシンの結合を促進

する。 ( )細胞質中の Ca2+濃度が上昇すると、骨格筋は弛緩する。 ( )骨格筋内の Ca2+は、横行小管(T 管)に貯蔵されている。 ( )クレアチンリン酸は、骨格筋収縮のエネルギー源になる。 ( )筋肉の収縮では、ATP は消費されない。 ( )赤筋は、ミトコンドリアが少ない。 ( )白筋は、ミオグロビンを多く含む。 ( )白筋は、遅い持続的な収縮に適している筋肉である。 ( )心筋細胞同士は、ギャップ結合でつながっている。 ( )平滑筋には、アクチンとミオシンは存在しない。

○ × × × × × × × ○ × × × × ○ ×

細胞膜 する 抑制 収縮 筋小胞体 多い 少ない 速い

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解剖生理学 要点整理ノート

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14.免疫系の構造と機能

1.免疫の定義

・「一度ある病気にかかると、二度と同じ病気にかからない」(獲得免疫)

・Immunitas(税金,兵役の免除を意味するラテン語)→疾病を免れる Immunity(免疫)

・「免疫」は、もともと生体が持っている非特異的防御機構の意味も含む。(自然免疫)

・抗原抗体反応の発見:ジフテリアや破傷風の抗毒素療法(受動免疫):北里柴三郎が確立

・血清病の出現→免疫は両刃の刃である。(アレルギー)

・現在の免疫の定義:「自己と異なるもの(非自己)を認識して、排除すること」

・免疫反応を引き起こす「非自己」を「抗原」とよぶ。

2.非特異的防御機構

・皮膚:角質層、酸性の皮脂、常在細菌

・粘膜:リゾチーム、胃酸、腸内細菌叢、線毛、尿、乳酸桿菌

リゾチーム:細菌細胞壁を構成するペプチドグリカンを分解する酵素で、細菌を溶菌する。

・炎症:マクロファージ、好中球、NK細胞(natural killer cell)

NK細胞:自然免疫の主要因子として働く細胞傷害性リンパ球である。

特定の抗原で免疫されていない腫瘍細胞や感染細胞を攻撃することができる。

・貪食能:好中球、樹状細胞、単球、マクロファージ

・非特異的な病原体の認識は、細胞表面のトル様受容体(TLR, toll-like receptor)によって行われ

る。

「toll」は、「規格はずれな」という意味のドイツ語

toll 遺伝子は、ショウジョウバエの発生に必要な遺伝子として発見された。toll 遺伝子欠損ハエ

で、たまたま死ななかった異形のハエを見て「Toll(すごい)」と叫んだことから名付けられた。

・自然リンパ球(ILC, innate lymphoid cell)

・リンパ球系の細胞であるが、T 細胞や B 細胞のような抗原特異的な免疫応答は起こさずに、自然

免疫応答を調節する。

・NK細胞やサイトカインを分泌するヘルパーT細胞様の働きをするものを含む。

3.特異的防御機構

(1)免疫担当細胞

1)抗原提示細胞

・抗原提示細胞(APC, antigen-presenting cell)には、樹状細胞、ランゲルハンス細胞、マクロファ

ージ、単球、B細胞など

・APCの主役は樹状細胞であり、マクロファージは補助的な役割を果たす。

2)主要組織適合遺伝子複合体

・主要組織適合複合体抗原(MHC, major histocompatibility complex):T細胞が自己・非自己を認識

するための主要な抗原であり、移植片に対する拒絶反応を起こす原因になる抗原である。

・HLA(human leukocyte antigen):ヒトの MHCは、HLAである。

・HLA遺伝子は、第6染色体短腕にある。

・HLAには、クラスⅠ抗原とクラスⅡ抗原の 2種類があり、それぞれに 3種類のタイプがある。

・さらに、それぞれのタイプに十数種類があるので、組み合わせは数万通りになる。

・組織適合性検査

HLA一致率:HLA-A、HLA-B、HLA-DR の3つのタイプの一致率

リンパ球直接交差試験:レシピエントの血清(抗体)とドナーのリンパ球(HLA)の交差試験

ドナーに対する抗体が陽性の場合は、超急性拒絶反応を起こしやすい。

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解剖生理学 要点整理ノート

111

クラスⅠ抗原

・HLA-A、HLA-B、

HLA-Cの3種類

のタイプがあ

る。

・すべての有核細胞の表面に存在する。

・癌細胞などの細胞内抗原の断片を提示する。

・ウイルスに感染した細胞や癌細胞の細胞内で合成された抗

原を提示する。

・抗原ペプチドの断片化は、プロテアソームで行われる。

・細胞傷害性 T細胞(CD8陽性細胞)によって認識され、細胞

性免疫に関与する。

クラスⅡ抗原

・ HLA-DR、 HLA-

DP、HLA-DQ の3

種類のタイプ

が存在する。

・抗原提示細胞(Bリンパ球、単球、樹状細胞)に存在する。

・細菌やウイルスなどエンドサイトーシスによって取り込ま

れた外来抗原を提示する。

・抗原ペプチドの断片化は、リソソームで行われる。

・ヘルパーT細胞(CD4陽性細胞)によって認識され、液性免

疫に関与する。

2)T細胞

・T 細胞(Tリンパ球)は、胸腺で成熟するリンパ球である。

・胸腺は、心臓と胸骨の間にあって小児期には重さ約 25ℊに達するが、思春期以後しだいに退縮して脂

肪組織に置き換わる。

・未熟な T 細胞が胸腺に入り、胸腺内で分裂・増殖・成熟するが、自己と反応するクローンは除かれ、

非自己と反応する成熟した T細胞だけが血液中に入る。(T細胞の学校)

・T 細胞は、細胞表面に抗原提示細胞が提示する MHC 上の抗原と結合する T 細胞受容体(TCR, T cell

receptor)を持つ。

ナイーヴ T細胞

・抗原刺激を受けていない T細胞

・T細胞の活性化には、TCRと MHCによる主シグナルに加えて、副シグナル

が必要である。

ヘルパーT細胞

(CD4陽性細胞)

・抗原提示細胞の MHC 上の抗原を認識すると、種々のサイトカインを分泌

して、免疫応答を促進する。

制御性 T細胞 ・ヘルパーT細胞の活動を抑制する。

メモリーT細胞 ・二次免疫応答(2回目の抗原侵入に対して、より早く、強く免疫応答が起

こること)に備える。

細胞傷害性 T細胞

(CD8陽性細胞)

・CTL(cytotoxic T cell)、キラーT細胞、CD8陽性細胞ともいう。

・ウイルスに感染した細胞や腫瘍細胞を攻撃する。

3)B細胞

・B 細胞は、細胞表面に免疫グロブリン(IgD)(抗原受容体)を持つリンパ球である。

・抗原が結合すると、ヘルパーT細胞の助けを借りて増殖し、抗体産生細胞(形質細胞)に分化する。

・メモリーB細胞:二次免疫応答に備える。

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解剖生理学 要点整理ノート

112

(2)体液性免疫

1)抗体

・体液性免疫(液性免疫)は、B リンパ球が分化した形質細胞が産生する抗体が抗原に結合することに

より、抗原を排除する免疫である。

・抗体の基本形は、2本の H鎖と 2本 L鎖からなる Yの字に似た形である。

・抗原提示細胞の MHC クラスⅡに結合したヘルパーT 細胞は、B 細胞を活性化し、抗体産生細胞(形質

細胞)への分化を促進する。

2)抗体の種類

IgG ・血漿中で最も多い抗体である。

・胎盤を通過する。

IgM ・抗原が侵入したとき、最初に作られる抗体である。

・5量体なので、凝集・細胞溶解の効率が高い。

IgA ・分泌液(涙、唾液、腸液など)の中に多く含まれる抗体である。

・2量体である。

IgE ・肥満細胞に付着し、即時型アレルギーに関与する。

IgD ・B細胞の抗原受容体である。

3)抗体の機能

中和抗体 ・ウイルスを中和する。

オプソニン作用 ・微生物の表面に抗体や補体が結合することにより、好中球やマクロファージ

による貪食を促進する。

補体の活性化

・補体は、肝臓で合成される約 20種類の血漿たんぱく質である。

・補体は、微生物の成分や抗体により活性化され、一連の反応により溶菌作用、

オプソニン作用、炎症反応を引き起こす。

(3)細胞性免疫

・細胞性免疫は、遅延型アレルギー、移植に対する拒絶反応、腫瘍免疫、ウイルス感染細胞の排除など

に関与する。

・抗原特異的な細胞傷害性 T細胞(CTL)の活性化により抗原を排除する。

MHC クラスⅠに結合したヘルパーT細胞は、CTLを活性化する。

癌細胞を認識した樹状細胞の B7 が、CTL上の CD28に結合すると CTLを活性化する。

・免疫チェックポイント:過剰な免疫を抑制する“ブレーキ”の仕組み

・CTL上に発現する分子:PD-1(programmed death-1)

CTLA-4(cytotoxic T-lymphocyte antigen-4)

・癌細胞上に発現する分子:PD-L1(programmed death-ligand 1)

B7

・PD-L1 が PD-1に結合すると、CTLを不活性化する。

・B7が CTLA-4に結合すると、CTLを不活性化する。

・免疫チェックポイント阻害薬

抗 PD-1抗体:ニボルマブ、ペムブロリズマブ

抗 PD-L1 抗体:アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブ

抗 CTLA-4抗体:イピリムマブ

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解剖生理学 要点整理ノート

113

4.免疫応答

・体内に異物が侵入すると、まず樹状細胞やマクロファージが異物を貪食する。(自然免疫)

・樹状細胞やマクロファージはリンパの流れにのって、リンパ節に移動する。

・リンパ節でヘルパーT細胞に抗原提示して、ヘルパーT細胞を活性化する。

・活性化されたヘルパーT細胞は種々のサイトカインを分泌する。

・抗原刺激を受けた B 細胞は、ヘルパーT 細胞が分泌したサイトカインの作用により増殖し、抗体産生

細胞である形質細胞に分化する。

・産生された抗体は、抗原抗体反応などにより、異物を排除する。(獲得免疫)

・はじめて異物が侵入したとき、まず B細胞は IgMを分泌する形質細胞に分化し、少し遅れて IgGを分

泌する形質細胞が増加する。(一次免疫応答)

・形質細胞が産生する抗体が IgM から IgGに変わることをクラス・スイッチという。

・一次応答を起こした T細胞と B細胞の一部はメモリー細胞として長く体内に残る。

・異物が再び侵入したときは、メモリー細胞が迅速かつ強力に反応して IgGを産生する形質細胞が増加

する。(二次免疫応答)

5.アレルギーの種類

Ⅰ型アレルギー

・アナフィラキシー型反応

・IgEによる過敏症(Th1<Th2):Th1(helper T cell type 1)、Th2(helper

T cell type 2)

・花粉症、アレルギー性鼻炎気管支喘息、蕁麻疹、ペニシリンショック、食物

アレルギーなど

Ⅱ型アレルギー

・細胞障害型反応

・細胞や組織に対する抗体産生に補体が関与して組織傷害を起こす。

・自己免疫性溶血性貧血、1型糖尿病(ウイルス感染、食餌抗原によって引き

起こされる)など

Ⅲ型アレルギー

・アルサス型反応

・抗原-抗体複合体(免疫複合体)が組織傷害を引き起こす。

・血清病、糸球体腎炎、膠原病など

Ⅳ型アレルギー

・ツベルクリン型反応(遅延型過敏症)

・ツベルクリン反応:結核菌抽出物の皮下注射⇒発赤、浮腫、かゆみ

36 時間から 48時間でピークに達し、数日続く。

・血清により受身移入できない。(抗体による液性免疫ではない)

・細胞傷害性 Tリンパ球により受身移入できる。(細胞性免疫である)

・食物アレルギー、ウイルス脳炎、ウイルス肝炎、接触性皮膚炎、1型糖尿病、

膠原病など

Ⅴ型アレルギー

・抗体の刺激により組織の機能が異常亢進あるいは異常低下するもの

・バセドウ病(甲状腺の TSH受容体に対する抗体により機能亢進)

・重症筋無力症(神経筋接合部のアセチルコリン受容体に対する抗体により機

能低下)

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解剖生理学 要点整理ノート

114

6.生体防御の関連臓器

リンパ節 ・リンパ管に入ってきた異物のフィルターとして働く。

・多数の T細胞と B細胞が存在し、樹状細胞が抗原提示を行う。

脾臓

・脾臓は、古い赤血球の分解や異物の処理を行う。

・豊富なリンパ組織を含み、免疫応答に関わっている。

・血液貯蔵機能:腹腔臓器(肝臓・腸管・脾臓)には安静時に心拍出量の 30%が流入

するが、運動時には交感神経の緊張により血管が収縮して骨格筋に血液を供給する。

ただし、脾臓単独では大きな効果はない。

免疫系の構造と機能 ( )NK 細胞は、特異的防御機構に関与する。 ( )外来抗原のペプチド断片は、MHC クラスⅠによって行われる。 ( )細胞内で合成された抗原ペプチドは、MHC クラスⅡによって行われる。 ( )T 細胞は、細菌を貪食して抗原提示を行う。 ( )T 細胞が活性化すると、形質細胞に分化して抗体を産生する。 ( )T 細胞は、補体を産生する。 ( )ヘルパーT 細胞は、細胞表面に CD4 抗原を発現している。 ( )ヘルパーT 細胞は、免疫応答を抑制する。 ( )制御性 T 細胞は、免疫応答を促進する。 ( )B 細胞は、胸腺で成熟する。 ( )IgA は、胎盤を通過する。 ( )IgA は、血漿中にもっとも多く存在する抗体である。 ( )形質細胞は、抗体を産生する。 ( )二次免疫応答では、IgM が大量に産生される。 ( )抗体や補体が細菌に結合すると、好中球やマクロファージによる食作用

が促進することをオプソニン作用という。 ( )B 細胞は、メモリー細胞にならない。 ( )T 細胞は、メモリー細胞にならない。

× × × × × × ○ × × × × × ○ × ○ × ×

非特異的 クラスⅡ クラスⅠ 樹状細胞 B 細胞 肝臓 促進 抑制 T 細胞 IgG IgG IgG 一部がなる 一部がなる

アレルギー ( )Ⅰ型アレルギーは、自己抗体による組織傷害である。 ( )Ⅰ型アレルギーに関連する抗体は、IgG である。 ( )Ⅱ型アレルギーは、抗原抗体複合体による組織傷害である。 ( )Ⅲ型アレルギーは、抗体による組織機能の亢進または抑制である。 ( )Ⅳ型アレルギーは、細胞性免疫である。 ( )Ⅴ型アレルギーは、IgE による過敏症である。 ( )バセドウ病は、Ⅰ型アレルギーである。 ( )自己免疫性溶血性貧血は、Ⅱ型アレルギーである。 ( )食物アレルギーは、Ⅲ型アレルギーに分類される。 ( )花粉症は、Ⅲ型アレルギーである。 ( )血清病は、Ⅳ型アレルギーである。

× × × × ○ × × ○ × × ×

Ⅴ型 Ⅰ型、Ⅳ型 Ⅰ型 Ⅲ型

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解剖生理学 要点整理ノート

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15.生殖系の構造と機能

1.男性生殖器

(1)構成

・男性生殖器は、精巣、精路(精巣上体、精管、射精管、尿道)、付属生殖腺(精嚢、前立腺、尿道球腺)

および外生殖器(陰茎、陰嚢)からなる。

(2)発生

・妊娠 6~7週までは、未分化な性腺、ウォルフ管、ミュラー管が存在し、男女差はない。

・男性では、Y染色体上の遺伝子 SRY(sex determining region Y)の発現により産生される精巣決定

因子の作用により、未分化性腺は精巣に分化する。

・精巣は、男性ホルモン(テストステロン)とミュラー管抑制因子を分泌する。

・テストステロンは、ウォルフ管を精巣上体、精管、精嚢、射精管に分化させる。

・ミュラー管抑制因子は、ミュラー管を退化、消失させる。

・胎生早期に腹腔内でつくられた精巣は、のちに陰嚢内に下降する。

(3)精巣の構造

・精巣の表面は、強靭な結合組織からなる白膜でとり囲まれている。

・精巣内には、曲がりくねった精細管がある。

セルトリ細胞

・精細管の上皮であるセルトリ細胞は、多くの精細胞を抱えるように存在して

いる。

・卵胞刺激ホルモン(FSH)は、セルトリ細胞を刺激して、精細胞の保持、保

護、精子形成を促進する。

・セルトリ細胞は、FSHの刺激によりインヒビンとエストロゲンを分泌する。

・インヒビンとエストロゲンは、下垂体に働いて FSH 分泌を抑制する。(負の

フィードバック作用)

ライディッヒ細胞

・精細管の間を満たす間質には、ライディッヒ細胞が存在する

・黄体形成ホルモン(LH)は、ライディッヒ細胞を刺激して、テストステロン

を分泌させる。

・テストステロンは、下垂体に働いて LH分泌を抑制する。(負のフィードバッ

ク作用)

(4)男性ホルモンの作用

・胎生期における男性生殖器の分化(第一次性徴)を起こす。

・思春期における男性二次性徴(副生殖器の発達、体毛発生、頭髪の生え際後退、皮脂腺発育、変

声など)を起こす。

・精子形成を促進する。

・下垂体の LH分泌を抑制する。

・たんぱく質同化作用がある。

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解剖生理学 要点整理ノート

116

(5)精路

・精細管のなかでつくられた精子は、精巣輸出管を通って精巣外に出る。

・続いて精巣上体管を通って精管に至り、さらに射精管、尿道を通って体外に出る。

・精巣輸出管と精巣上体管は、精巣の上端に存在する精巣上体(副睾丸)の中にある。

・精細管内の精子には、運動能力がないが、精巣上体を通過するうちに運動能力が出現する。

・成熟した精子は、精巣上体および精管に貯蔵される。

・精管は、鼡径管を通って骨盤腔に入り膀胱の後面で精嚢(粘液を分泌する付属腺)の導管と合流し、

射精管となって前立腺を貫いて尿道に合流する。

・精嚢は、アルカリ性の粘液を分泌し、精液の約 60%を占める。

・前立腺は、多数の導管により尿道に開口する。

・前立腺は、精液特有の臭いを持つ乳白色の粘液(アルカリ性)を分泌し、精液の約 20%を占める。

・尿道球腺(カウパー腺)は、アルカリ性で無色透明な粘液を分泌し、射精に先立って尿道内に残る酸

性の尿を中和する。

(6)勃起

・陰茎のなかには海綿体(陰茎海綿体、尿道海綿体)があり、周囲は厚い結合組織(白膜)で覆われて

いる。

・海綿体へは、動脈(陰茎背動脈、陰茎深動脈、らせん動脈)から血液が流入し、静脈(陰茎背静脈)

流出する。

・性的な刺激や陰茎に対する機械的な刺激による副交感神経の緊張は、海綿体に流入する動脈を拡張し、

海綿体を血液の充満により膨張させる。(交感神経による血管平滑筋の単独支配の例外)

・海綿体の膨張は海綿体から流出する陰茎背静脈を圧迫して海綿体の膨張(勃起erection)を維持する。

(7)射精

・射精は、精液を前立腺部まで排出する第 1段階(精管と精嚢の平滑筋の収縮)と、尿道を通って外尿

道口より射出する第 2段階(球海綿体筋の収縮)に分けられる。

・第 1段階は、交感神経の緊張により起こる。

・第 2段階は、交感神経、副交感神経の両方の緊張により起こる。

・1 回の射精で射出される精液は、2.5~3.5㎖で、1㎖あたり 1億個の精子が含まれている。

・精子は、女性生殖器内で 12~48時間生存できる。

2.女性生殖器

(1)構成

・女性生殖器は、卵巣、卵管、子宮、腟、および外陰部から構成される。

・乳腺は生殖器ではないが、女性生殖器の補助器官に含められる。

(2)発生

・胎生期の生殖器原基であるウォルフ管が消失し、ミュラー管の下方は癒合して子宮と腟となり、癒合

しない部分は卵管となる。

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解剖生理学 要点整理ノート

117

(3)卵巣の構造

1)皮質と髄質

・卵巣の組織は、中心部の髄質と周辺部の皮質に分けられる。

髄質 ・髄質は結合組織からなり、卵巣門から血管、リンパ管、神経が侵入する。

皮質 ・皮質には、さまざまな成熟段階の卵胞、黄体、白体が存在する。

2)卵胞の成熟

・卵胞は、1個の卵細胞とそれを包む卵胞上皮細胞からなる。

・すべての原始卵胞は、胎生期につくられる。

・原始卵胞は、思春期までは成熟することなく卵巣内で静止している。

・月経周期のはじめに複数の卵胞が発育を始めるが、そのうち 1つの卵胞だけが成熟卵胞になり、その

他は萎縮する。

・卵胞の成熟につれて、単層であった卵胞上皮細胞は増殖して多層となる。

・最終的には卵細胞を包む内卵胞膜、その外側を包む外卵胞膜を形成し、中に卵胞液を含む成熟卵胞(グ

ラーフ卵胞となる。

3)排卵

・成熟した卵胞(グラーフ卵胞)は破裂して、卵子を腹腔内に放出(排卵)する。

・卵子は、卵管に取り込まれて子宮に運ばれる。

・排卵後の卵子の寿命は、受精が起こらなければ 12~24時間である。

・卵細胞を失った卵胞は、黄体となる。

・黄体は、着床が行われない場合は排卵後 6~8週で消滅し、瘢痕である白体となる。

(4)子宮の構造

・子宮は、骨盤腔にあって膀胱と S状結腸および直腸にはさまれて存在し、前傾前屈している。

・子宮と直腸の間をダグラス窩という。

腹腔で最も低い位置にあることから穿刺や切開により腹腔内の貯留物を採取することが可能

・子宮の壁は、内膜、筋層、漿膜または外膜の 3層からなる。

内膜 ・上皮は単層円柱上皮である。

・内膜は、増殖・分泌・剥離を繰り返す機能層とほとんど変化しない基底層に分けられる。

筋層 ・平滑筋からなる。

・分娩時にはオキシトシンの作用で収縮する。

外膜

漿膜

・外膜は、結合組織からなる。

・漿膜は、臓側腹膜からなる。

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解剖生理学 要点整理ノート

118

(5)性周期

卵胞期(卵巣)

増殖期(子宮)

・月経終了から約 2週間は、卵胞刺激ホルモン(FSH)の作用で卵胞が成熟する。

・卵胞からは、卵胞ホルモン(エストロゲン)が分泌され、子宮内膜を増殖・肥

厚させる。

排卵

・月経終了後 14 日目頃エストロゲン分泌がピークに達すると、エストロゲンの

正のフィードバック作用により黄体形成ホルモン(LH)の急激な分泌増加(LH

サージ)が起こる。

・LHサージは、排卵を起こす。

・排卵は約 4週間に 1度起こる。

黄体期(卵巣)

分泌期(子宮)

・排卵後の卵胞は、黄体を形成する。

・黄体から分泌される黄体ホルモン(プロゲステロン)は、肥厚した子宮内膜を

維持し、受精卵が着床するのに適した状態を作り出す。

・増殖期は変動が大きいのに対して、分泌期は比較的安定している。

月経期

・妊娠が起こらないときは、約 2 週間後に黄体が退化し、プロゲステロンの分

泌が減少して子宮内膜を維持できなくなり、機能層の脱落が起こって月経(消

退出血)となる。

・月経血は、子宮内膜から放出されるフィブリノリジンの作用で凝固しない。

閉経

・卵巣が FSH、LH の刺激に反応しなくなり、性周期が消失することを閉経とい

う。

・閉経後はエストロゲン分泌が減少するために、視床下部・下垂体への負のフィ

ードバック作用が低下して FSH、LHの分泌は増加する。

・FSH、LHの分泌増加が更年期障害の症状を関連している。

(6)卵巣ホルモンの作用

1)エストロゲン

・子宮内膜を増殖・肥厚させる。

・子宮頚管の粘液腺から薄い粘液を多量に分泌させる。

・卵胞を発育・成熟させる

・女性の二次性徴を促進する。

・低~中濃度のエストロゲンは、LH、FSHの分泌を抑制する。(負のフィードバック作用)

・高濃度のエストロゲンは、LH、FSH の分泌を促進する。(正のフードバック作用)

・破骨細胞の活動を抑制して、骨の吸収を抑制する。

2)プロゲステロン

・肥厚した子宮内膜を維持する。

・子宮頚管の粘液腺から濃い粘液を分泌する。

・妊娠を維持する。

・妊娠中に乳腺組織を増殖させる。(エストロゲン、プロラクチンとともに授乳のための準備状態

を作る)

・LH、FSHの分泌を抑制する。(負のフィードバック作用)

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解剖生理学 要点整理ノート

119

・LH、FSHの分泌抑制を介して、排卵を抑制する。

・体温を上昇させる。(基礎体温は、排卵後に高温期となる)

(7)乳腺

・思春期には、エストロゲンとプロゲステロンの交互作用により発達する(二次性徴)。

・妊娠中の乳腺は、胎盤から分泌されるエストロゲン、プロゲステロンと下垂体前葉から分泌されるプ

ロラクチンの共同作用により発達する。

・妊娠中、プロラクチンの乳汁産生・分泌作用は、エストロゲンとプロゲステロンにより抑制されてい

る。

・分娩後、エストロゲンとプロゲステロン分泌が低下すると、プロラクチンの乳汁産生・分泌作用が顕

在化する。

・授乳は、プロラクチン分泌を促進し、乳汁の産生を増加させる。

・乳児による乳首の吸引は、下垂体後葉からオキシトシン分泌をひき起こし、オキシトシンは乳管周囲

の平滑筋を収縮させて乳汁を排出させる。(射乳反射)

3.減数分裂

(1)生殖細胞

・生殖細胞は、胎生 4週末以降に性腺原基に侵入する。

・精巣に入った生殖細胞は、精祖細胞になる。

・卵巣に入った生殖細胞は、卵母細胞になる。

(2)減数分裂

・ヒトの染色体(23 対 46 本)を「2n」と表す。(n=23)

・生殖細胞は、減数分裂により、染色体の数が 2n(46本)から n(23本)に半減する。

・第 1減数分裂では、DNAの複製(2nが 2組できる)が行われた後、相同染色体が 2つに分かれる。(染

色体数は半減するが、DNA 量は変わらない)

・1 つの一次精母細胞(2n+2n)から、2つの二次精母細胞(n+n)、(n+n)ができる。

・1つの一次卵母細胞(2n+2n)から、1つの二次卵母細胞(卵娘細胞)(n+n)と 1つの一次極体

(n+n)ができる。

・第 2減数分裂では、DNA の複製を行わずに 2つに分かれる。(染色体数は変わらないが、DNA量は半減

する)

・2 つの二次精母細胞(n+n)から、4つの精子細胞(n)ができる。

・1つの二次卵母細胞(n+n)から、1つの卵子(n)と 1つの二次極体(n)ができ、1つの一次極

体(n+n)から 2つの二次極体(n)ができる。

(3)生殖細胞の形成

・精祖細胞は、思春期以後に分裂・増殖し、精子を形成する。

・原始卵胞の卵細胞は、出生時には第 1減数分裂の前期で停止している。

・成熟卵胞では、排卵直前に第 1減数分裂を終え、排卵後第 2次減数分裂に入る。

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解剖生理学 要点整理ノート

120

・第 2次減数分裂が終了するのは、受精後である。

・卵胞は、新生児で約 80万個あるが、思春期で約 1万個、更年期で 0個になる。

・一生に排卵される卵子の数は、約 500個である。

4.妊娠と分娩

(1)受精

・排卵された卵子は、卵管に取り込まれる。

・卵子の生存期間は 24~48時間であり、受精可能な期間は 24時間以内である。

・受精は、卵管膨大部で起こる。

卵子に接触した精子は、尖体から酵素を放出して、透明帯を消化して侵入する。

受精が成立すると、卵子の細胞膜が脱分極し、他の精子が侵入するのを防ぐ。

卵子から放出される顆粒により透明帯を変性させ、他の精子が侵入するのを防ぐ。

・受精により、染色体の数が 2n になったものを受精卵という。

・受精卵は、細胞分裂しながら、卵管の律動収縮と線毛運動により子宮に運ばれる。

(2)初期発生

・初期の細胞分裂(2~32 細胞期)を卵割という。

・卵割では、卵全体の大きさは変わらない。(桑実胚)

・32~64細胞期では、細胞間に液が溜まり、内部に液腔(胚胞腔)ができる。(胞胚または胚盤胞)

・胞胚の表面を覆う 1層の細胞を栄養膜という。

・胞胚の内部には、内細胞塊がある。

(3)着床

・胞胚が、子宮内膜に付着し、粘膜下に侵入することを着床という。

・着床は、受精後、約 1週間で起こる。

・着床後、栄養膜は増殖し、多数の突起(絨毛)をもつ絨毛膜となる。

・着床から分娩までの期間を、妊娠という。

(4)胎芽期(妊娠 8週未満)

・受精後第 2週目には、内細胞塊から胚盤ができる。

胚盤は、2層の細胞からなり、上層が外胚葉に、下層が内胚葉になる。

外胚葉と栄養膜で囲まれた腔を羊膜腔といい、内部は羊水で満たされる。

内胚葉とそれからのびた上皮で囲まれる腔を卵黄嚢という。

・受精後第 3週目には、胚盤の内胚葉と外胚葉の間に中胚葉ができる。

外胚葉から神経管が、内胚葉から原腸ができる。

・受精後 5週目には、四肢原基ができる。

(5)胎児期(妊娠 8週以後)

・受精後 2ケ月後半には、ヒトの胎児としての形態を示すようになる。

・受精後 3ヶ月には、外陰部が形成され、男女の区別が可能になる。

・受精後 4ヶ月には、鼻と口が開き、母親は時々胎動を感じるようになる。

・受精後 5ヶ月には、全身に産毛が生え、胎動を明瞭に感じるようになる。

・受精後 6ヶ月には、皮下脂肪の形成がはじまる。

・受精後 7ヶ月には、頭毛が明瞭になり、眼瞼裂が開く。皮膚はしわが多く老人様顔貌を呈する。

・受精後 8ヶ月には、脱落した上皮と皮脂腺の分泌物の混合物である胎脂で被われるようになる。

・受精後 9ヶ月には、皮下脂肪の増加により皮膚のしわは消えて丸みを帯びてくる。

・受精後 10ヶ月には、体長約 50cm,体重約 3kgに達する。

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解剖生理学 要点整理ノート

121

(6)分娩

・分娩は、子宮筋の周期的な収縮(陣痛)によって始まる。

・陣痛が強くなると、普通胎児は頭を下にして膣を経て押し出される。

・分娩に先立って羊膜が破れ羊水が流出することを破水という。

・胎児が娩出された後、少し時間を置いて胎盤が排出される。(後産)

(7)妊娠中の母体の変化

・母体の生理的体重増加は、8~10kg である。

・インスリン抵抗性の悪化により、血糖値が上昇する。(妊娠糖尿病)

・循環血液量が増加する。(赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリットは、希釈により低下)

(8)胎盤

・胎盤は、受精卵が着床した後、子宮内膜由来の脱落膜と胎児由来の絨毛膜とによって形成される。

・胎盤の形成は、受精後 5週目に始まり、受精後 13週頃に完成する。

・胎児の絨毛膜には、多数の絨毛が形成され、毛細血管が分布している。

・脱落膜からは、母体の血液が噴出し、絨毛の表面に吹き付けられ、絨毛内に分布する胎児の血液との

間で拡散による物質交換が行われる。 ・母体の血液と胎児の血液が混じり合うことはない。 ・胎盤は、絨毛性性腺刺激ホルモン(HCG, human cholionic gonadotropin)を分泌する。

・HCGは、LH 様作用を示し、黄体(妊娠黄体)を維持する。

・HCGは、胎盤にも作用してエストロゲンやプロゲステロンを分泌させる

(9)胎児の血液循環

・胎児と胎盤は、臍帯でつながっており、1本の臍静脈と 2本の臍動脈が通っている。

・胎児の血液(静脈血)は、臍動脈を通って胎盤に行き、絨毛で物質交換して動脈血となって臍静脈を

通って胎児に帰る。

・臍静脈からの血液は、静脈管(アランチウス管)を通って下大静脈に入る。

・右心房に入った血液の一部は、卵円孔を通って左心房に入る。

・右心室に入った血液は、動脈管(ボタロ管)を通って大動脈弓に入る。

5.組織発生

外胚葉 中枢神経、末梢神経、耳・鼻・眼の感覚上皮、表皮(毛と爪を含む)、乳腺、下垂体、皮

脂腺、唾液腺、副腎髄質

中胚葉 結合組織、軟骨、骨、骨格筋、平滑筋、心臓、血管、リンパ管、血球、腎臓、生殖腺、

心膜腔・胸膜腔・腹膜腔を被う漿膜、脾臓、副腎皮質

内胚葉 消化管と気道の上皮、扁桃、甲状腺、上皮小体、胸腺、肝臓、膵臓、ランゲルハンス島、

膀胱、尿道上皮

男性生殖器 ( )精巣決定因子の遺伝子 SRY は、X 染色体上にある。 ( )精巣は、ミュラー管抑制因子を分泌する。 ( )精管は、ミュラー管が分化して形成される。 ( )ライディッヒ細胞は、精細管の上皮である。 ( )FSH は、ライディッヒ細胞に働いて精子形成を促進する。 ( )LH は、セルトリ細胞に働いてテストステロンを分泌させる。 ( )テストステロンは、たんぱく質の同化を抑制する。 ( )尿道球腺は、アルカリ性の粘液を分泌する。 ( )前立腺は、酸性の粘液を分泌する。 ( )前立腺の導管は、射精管に開口している。

× ○ × × × × × ○ × ×

Y 染色体 ウォルフ管 間質 促進 アルカリ性 尿道

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解剖生理学 要点整理ノート

122

( )精子は、精嚢に貯蔵されている。 × 女性生殖器と性周期 ( )子宮の後ろには、膀胱がある。 ( )子宮は、ウォルフ管から形成される。 ( )卵巣の髄質には、白体が存在する。 ( )卵巣の皮質には、卵胞が存在する。 ( )未熟な卵胞を、グラーフ卵胞という。 ( )1 つの卵胞には、複数の卵子が含まれている。 ( )卵子は、思春期に分裂・増殖する。 ( )卵胞期に分泌されるエストロゲンは、子宮内膜を増殖、肥厚させる。 ( )白体は、プロゲステロンを分泌する。 ( )排卵後の卵胞は、白体となり、やがて黄体となって瘢痕化する。 ( )黄体は、エストロゲンを分泌する。 ( )子宮の筋層は、平滑筋でできている。 ( )黄体形成ホルモン(LH)は、卵胞を成熟させる。 ( )卵巣の黄体期は、子宮内膜の分泌期に相当する。 ( )プロゲステロンは、体温低下作用がある。 ( )エストロゲンの負のフィードバック作用により、LH サージが起こる。 ( )LH サージにより、月経が起こる。 ( )月経期には、エストロゲンの分泌が増加する。

× × × ○ × × × ○ × × × ○ × ○ × × × ×

前 ミュラー管 皮質 成熟 1つ 胎生期 黄体 FSH 上昇 正 排卵 減少

受精、妊娠、分娩 ( )生殖細胞の染色体数は、体細胞の 2 倍である。 ( )第 1 減数分裂により、染色体数は半減する。 ( )第 1 減数分裂により、DNA 量は半減する。 ( )第 2 減数分裂により、染色体数は半減する。 ( )第 2 減数分裂により、DNA 量は半減する。 ( )受精は、一般に子宮内で起こる。 ( )受精は、一般に腹腔内で起こる。 ( )受精卵は、着床後に分裂を始める。 ( )受精後、着床するまでの胚を、胎芽という。 ( )胎動は、受精後 6 か月以降に出現する。 ( )羊膜腔の内部は、羊水で満たされている。 ( )分娩では、胎児より先に胎盤が排出される。 ( )絨毛膜は、子宮由来の組織である。 ( )胎盤は、受精後 4 週以内に完成する。 ( )脱落膜の中で、胎児と母親の血液が混じり合う。 ( )胎盤は、絨毛性性腺刺激ホルモン(HCG)を分泌する。 ( )臍帯には 1 本の臍動脈と 2 本の臍静脈が通っている。 ( )臍動脈には、静脈血が流れている。 ( )臍静脈には、動脈血が流れている。 ( )臍静脈からの血液は、静脈管(アランチウス管)を通って下大静脈に

入る。 ( )胎児の左心房の血液は、卵円孔を通って右心房に流れる。 ( )肺動脈からの血液は、動脈管(ボタロ管)を通って大動脈弓に入る。 ( )血管は、内胚葉由来である。

× ○ × × ○ × × × × × ○ × × × × ○ × ○ ○ ○ × ○ ×

半分 変わらない 変わらない 卵管膨大部 桑実胚、胞胚

4 か月以降 胎児由来 13 週 逆 逆 中胚葉由来

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解剖生理学 要点整理ノート

123

16.皮膚の構造と体温調節

1.皮膚

・皮膚は、表皮、真皮、皮下組織からなる。

表皮

・表皮は、外胚葉由来の重層扁平上皮である。

・表皮細胞は、基底層で増殖し、分化しながら次第に表層(有棘層→顆粒層→透明層→

角層)に移動する。

・角層では、表皮細胞は核を失って乾燥・角化(ケラチンを多量に含む、)する。

・表皮には、表皮細胞以外にメラニン細胞(メラニン色素を合成)とランゲルハンス細

胞(抗原提示細胞)が存在する。

・表皮には、自由神経終末は侵入するが、血管は侵入しない。

真皮

・真皮は、中胚葉由来の緻密な膠原線維と弾性線維からなる密性(線維性)結合組織で

ある。

・表皮に近い真皮では、細い動脈からなる血管叢があり、体温調節に関与する。

皮下組織

・皮下組織は、中胚葉由来の粗い網目状の膠原線維と弾性線維からなる疎性結合組織で

ある。

・皮下組織には、脂肪組織が存在する。

2.皮膚付属器

・皮膚付属器には、毛、爪、皮脂腺、汗腺がある。

・毛は、口唇、手掌、足底以外の全身の皮膚に存在する。

・毛包は、表皮が皮下組織まで落ち込んだものである。

・毛包に隠れた部分を毛根、表皮から出ている部分を毛幹という。

・毛根の末端を毛球という。

・毛球の下部には、毛乳頭(血管に富む結合組織)が侵入し、毛球に栄養を供給し

ている。

・毛球と毛乳頭を包む毛包を毛母(毛母基)といい、毛包と毛の細胞が新生する場

所である。

・毛周期では、成長期、退行期、休止期を繰り返す。

・立毛筋は、毛包と皮膚の間にある平滑筋で、毛を立たせると同時に間にある脂腺

の内容物を押し出す。

・爪の露出している部分を爪甲(ソウコウ)(または爪体(ソウタイ))、その下層を爪床(ソ

ウショウ)という。

・爪の基部で皮膚に埋まっている部分を爪根(ソウコン)という。

・爪の形成は、爪根と爪甲の基部(爪半月)で行われ、この部位を爪母(爪母基)

という。

・爪は、角化して死滅した表皮細胞の堆積物である。

皮脂腺

(脂腺)

・皮脂腺は、真皮に存在して毛包に開口し、脂肪性の分泌物によって皮膚を滑らか

にする。

・皮脂腺は、頭部、有毛部、顔、胸に多く分布する。

・皮脂腺は、毛包がない手掌や足底には存在しないが、陰茎や小陰唇には毛がなく

ても独立脂腺が存在する。

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解剖生理学 要点整理ノート

124

エクリン腺

・全身の皮膚に分布(皮膚表面に開口する)し、運動や発熱により水分の多い薄い

汗を分泌する。

・分泌される汗は酸性で、皮膚の細菌増殖を抑制する。

・高温環境で交感神経の緊張により全身のエクリン腺から汗が出ることを温熱性

発汗という。

・エクリン腺に分布する交感神経の伝達物質はアセチルコリンである。

・精神的に緊張したときに手掌や足底に分布するエクリン腺から汗が出ることを

精神性発汗という。

アポクリン腺

・乳輪、外耳道、肛門、眼瞼のまつげ付近、鼻、腋窩などに分布し、皮膚表面に開

くものと毛包に開くものがある。

・細胞のエクソサイトーシス(exocytosis)によって、脂肪、たんぱく質などの有

機物を多量に含む汗を分泌する。

・分泌物は、皮膚に存在する細菌が分解して特有なにおいを発生する。

・思春期に分泌が増加する。

3.体温調節

(1)体温

・身体の表面(殻)の温度は環境温に影響され、30~37℃で変化するが、身体の深部(芯)の温度は環

境温の影響を受けにくい。

・体温(body temperature)とは、芯の温度をいい、通常 37℃であるが種々の要因で変化する。

・体温は、腋窩温(平均 36.6℃)、口腔温(腋窩温より 0.2~0.5℃高い)、直腸温(腋窩温より 0.5~

1.0℃高い)で測定する。

・体温に影響する生理的要因

日内変動 ・1日のうち午前 3~6時ころ最低となり、午後 3~6時ころ最高となる。

・最高体温と最低体温の差は 1℃以内である。

年齢 ・小児で高く、加齢とともに低下する。

・新生児の体温は環境温に影響されやすい。

性周期

・女性では、黄体から分泌されるプロゲステロンの作用により、排卵後 2 週間の分泌

期の体温は、増殖期より 0.2~0.4℃高い。

・排卵日には一過性の体温低下が起こる。

運動 ・運動により、40℃まで上昇することがある。

食事 ・食事により体温は上昇する。食事誘発性熱産生(diet-induced thermogenesis, DIT)

・飢餓では体温は低下する。

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解剖生理学 要点整理ノート

125

(2)体温の調節

1)体温調節中枢

・体温は、皮膚温度受容器と深部温度受容器(腹部内蔵、骨、視床下部)で感知され,視床下部に存在

する体温調節中枢に伝達される。

・体温調節中枢には、発熱中枢と放熱中枢があり、それぞれ自律神経系、内分泌系、体性神経系を介し

て熱の産生と放散を調節することにより正常体温を維持する。

・体温は、熱の産生と放散のバランスにより調節される。

2)熱の産生

・基礎代謝による発熱の組織分布は、脳 20%、肝臓 21%、心臓 9%、腎臓 8%、筋肉 22%、脂肪組織

4%、その他 16%である。

・筋肉のふるえにより熱の産生は、約 5倍に増加する。(ふるえ産熱)

・褐色脂肪細胞による熱産生の増加を、非ふるえ産熱という。

・甲状腺ホルモン、副腎皮質ホルモン、副腎髄質ホルモンは、熱産生を増加させる。

・寒さに慣れることにより筋肉のふるえによる熱産生が減少し、非ふるえ熱産生が増加することを寒冷

順化という。

3)熱の放散

・安静時には輻射(離れている物体への熱の移動)による熱の放散がもっとも大きく約 60%を占め、蒸

発(皮膚、呼気からの水蒸気の放散(不感蒸泄)や発汗による気化熱)が 25%、空気への伝導が 12%、

水、食物など直接触れている物質への伝導が 3%を占めている。

・皮膚表面に滲出してくる水分の蒸発と呼吸により排出される水分の蒸発を合わせて不感蒸泄(不感蒸

散ともいう)という。

・不感蒸泄は約 900㎖/日であるが、そのうち約 30%を呼吸による蒸発が占める。

・運動時には熱の産生は最大 20~25 倍に増加し、その大部分は発汗による蒸発によって放散する。

・大量の発汗により、蒸発する前に流れ落ちてしまう汗は熱の放散に貢献しない。

・皮膚からの熱の放散は立毛筋の収縮や皮膚表層を走行する血管の収縮により抑制される。

(3)発熱

・細菌感染による発熱(fever)は、感染した細菌が産生する細菌毒素や炎症細胞が産生するサイトカイ

ンなどの発熱物質が、視床下部の体温調節中枢の体温セットポイントを上昇させることにより起こる。

・セットポイントの上昇には、プロスタグランジンの産生が関与している。

・アスピリンなどの解熱鎮痛剤は、体温セットポイントの上昇を抑制する。

・解熱鎮痛薬は、アラキドン酸からプロスタグランジンを産生するシクロオキシゲナーゼを阻害する。

皮膚 ( )真皮は、重層扁平上皮でできている。 ( )表皮には、ランゲルハンス細胞がある。 ( )表皮には、毛細血管は存在しない。 ( )真皮には、脂肪組織が存在する。 ( )エクリン腺は、たんぱく質を多く含む汗を分泌する。 ( )精神性発汗を起こすのは、エクリン腺である。 ( )アポクリン腺は、精神性発汗に関係する汗腺である。 ( )アポクリン腺は、体温調節に関与している。 ( )寒冷刺激により、立毛筋は弛緩する。

× ○ ○ × × ○ × × ×

結合組織 皮下組織 アポクリン腺

エクリン腺 エクリン腺 収縮

体温調節 ( )腋窩温は、直腸温より高い。 ( )直腸温より、腋窩温のほうが高い。 ( )体温は、午後 3~6 時ころ最低となる。

× × ×

低い 低い 最高

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解剖生理学 要点整理ノート

126

( )基礎体温は、子宮内膜の増殖期に高くなり、分泌期に低下する。 ( )排卵前 2 週間に比べて、排卵後 2 週間は体温が上昇する。 ( )食事をすると体温は低下する。 ( )体温調節中枢は、視床下部にある。 ( )体温調節中枢は、延髄にある。 ( )骨格筋は、熱の産生に関与しない。 ( )褐色脂肪細胞は、非ふるえ産熱に関係している。 ( )白色脂肪細胞は、ふるえ産熱に関係している。 ( )安静時の熱の放散の 50%以上は、発汗による気化熱である。 ( )寒冷環境下では、皮膚表層の血管が拡張する。 ( )発熱には、プロスタグランジンの産生増加が関与している。 ( )アスピリンは、プロスタグランジンの産生を増加させる。

× ○ × ○ × × ○ × × × ○ ×

上昇 輻射 収縮 減少

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解剖生理学 要点整理ノート

127

17.エネルギー代謝

1.エネルギー

・エネルギーとは、「物質にたくわえられた仕事をする能力」である。

・仕事とは、「物体に力が加わっており、その物体が加えられた力の方向に移動した場合、その力と移動

距離をかけあわせた量」である。

・エネルギーの形には、運動エネルギー、位置エネルギー、熱エネルギー、化学エネルギー、光エネル

ギーなどがある。

・エネルギー保存の法則:エネルギーは形を変えてもなくならない。

2.エネルギーの単位

・1 ニュートン(N)は、「1 ㎏の質量をもつ物体に、1m/s2の加速度を生じさせる力」である。

・1 ジュールは、「1N の力が、力の方向に物体を 1メートル動かすときの仕事量」である。

・1 カロリーは、「1ℊの水を 14.5℃から 15.5℃まで上昇させるのに必要な熱量」である。

≒「1ℊの水を、1℃上昇させるのに必要な熱量」

・仕事量も、熱量も、エネルギーの移動ということで、どちらもエネルギーとして扱うことができる。

1カロリー=4.2 ジュール、1ジュール=0.24カロリー

3.生体が利用するエネルギー

・太陽の光エネルギーは、酸素と二酸化炭素から高分子を合成して化学エネルギーを蓄える。

・生体は、高分子が燃焼するときに放出されるエネルギーを化学エネルギー、熱エネルギー、運動エネ

ルギーに変換して利用する。

物理的燃焼値

・食物を完全に酸化燃焼させたときに発生する熱量

糖質 4.1㎉

脂質 9.5㎉

たんぱく質 5.7㎉

生理的燃焼値

・生体利用エネルギー量、アトウォーター係数

糖質 4.0㎉

脂質 9.0㎉

たんぱく質 4.0㎉

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解剖生理学 要点整理ノート

128

4.エネルギー代謝

・エネルギー代謝とは、エネルギー源となる糖質、脂質、たんぱく質を生体内で燃焼させて生じるエネ

ルギーを消費する過程のことである。

・エネルギーは、身体活動を行う運動エネルギー、体温を維持する熱エネルギー、化学反応を行う化学

エネルギー、刺激を伝達する電気エネルギーなどとして消費される。

・摂取エネルギー>消費エネルギー → 余分なエネルギーが蓄積される。

→体重増加→脂肪組織の増加→肥満

・摂取エネルギー<消費エネルギー → 体内のエネルギー源が消費される。

→体重減少、脂肪組織、骨格筋の減少(脂質とたんぱく質の消費)

→重要臓器のたんぱく質消費

→内臓たんぱく質減少、免疫能低下、創傷治癒遅延、臓器障害、生体適応障害

→Nitrogen Death(除脂肪体重 70%以下)

5.PFC 比(protein/fat/carbohydrate ratio)

(1)タンパク質を 125ℊ、脂質を 120ℊ、糖質を 250ℊ摂取した。摂取したエネルギー量と PFC比を求めな

さい。

P:125×4=500 ㎉

F:120×9=1080 ㎉

C:250g×4=1000㎉

摂取したエネルギー量:500+1080+1000=2580㎉

Pの比率 500÷2580×100=19.4%

Fの比率 1080÷2580×100=41.9%

Cの比率 1000÷2580×100=38.8%

PFC 比=19:42:39

(2)2200 ㎉、PFC 比=15:25:60 の食事をするには、タンパク質、脂質、糖質をそれぞれ何ℊ摂取すれ

ばよいか求めなさい。

P:2200×0.15÷4=82.5ℊ

F:2200×0.25÷9=61.1ℊ

C:2200×0.6÷4=330ℊ

6.基礎代謝量(basal metabolic rate, BMR)と安静時代謝量(resting metabolic rate, RMR)

・基礎代謝量は、早朝空腹時に快適な室内において安静仰臥位・覚醒状態で測定される。

・基礎代謝量に影響する生理的要因

・ホルモン:甲状腺ホルモンが過剰になると増加し、欠乏すると低下する。

・栄養状態:飢餓状態では低下し、過食で増加する。

・発熱:体温が 1℃上昇すると基礎代謝量は 13%増加する。

・年齢:若年者で多く、高齢者で少ない。

・性別:男性で多く、女性で少ない。

・体格:体重が増加すると、基礎代謝量は増加する。(体重当たり基礎代謝量が減少する)

筋肉量が増加すると、基礎代謝量は増加する。

肥満者は、体重当たり基礎代謝量が少ない。

・安静時代謝量は、仰臥位や座位で、静かに休息している状態で消費されるエネルギー量である。

・安静時代謝量は、基礎代謝量より約 20%高い。

・安静時代謝量に影響する生理的要因

・座位を維持するために働く骨格筋の緊張が高まり、基礎代謝量よりも約 10%高くなる。

・食事誘発性産熱(DIT, diet induced thermogenesis):食事によりエネルギー代謝が亢進し、熱

産生が増加して体温が上昇する。

・気温:低温環境で増加し、高温環境で低下する。

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解剖生理学 要点整理ノート

129

7.呼吸商(RQ, respiratory quotient)

・CO2排泄量と O2消費量の比(CO2/O2)を、呼吸商という。

・糖質のみが燃焼した場合は 1.0 となり、脂質のみが燃焼した場合は約 0.7となる。

グルコース C6H12O6+6O2→6CO2+6H2O CO2/O2=6÷6=1.0

パルミチン酸 C16H32O2+23O2→16CO2+16H20 CO2/O2=16÷23=0.69

・持続可能な運動を長時間継続した場合、呼吸商は運動初期に上昇するが、その後脂肪の燃焼する割合

が増加して呼吸商は低下する。

・運動強度を強くすると組織では乳酸が産生され、重炭酸イオンの緩衝作用により CO2 が産生されて肺

から排泄されるので CO2/O2は 1以上になる。このような場合の CO2/O2は筋肉での糖質・脂質の燃焼を

表していないので換気交換比(R, respiratory exchange ratio)とよび、呼吸商とは区別する。

8.エネルギー代謝量の測定

・早朝安静時の酸素消費量、二酸化炭素排泄量、尿中窒素排泄量を測定すると、以下の通りであった。

このときのエネルギー代謝量を求めなさい。タンパク質 1g が燃焼するときの、酸素消費量を 0.94L、

二酸化炭素排泄量を 0.75ℓとする。

酸素消費量 0.16ℓ/分

二酸化炭素排泄量 0.13ℓ/分

尿中尿素窒素排泄量 0.008ℊ/分

(1)尿中窒素排泄量から、タンパク質燃焼によるエネルギー発生量を求める。

0.008÷0.16=0.05ℊ/分(タンパク質は、窒素を 16%含んでいるので 0.16で割る)

または、0.008×6.25=0.05ℊ/分

0.05×4=0.2㎉/分(タンパク質が 1ℊ燃焼すると、4㎉のエネルギーが発生する)

(2)タンパク質燃焼による酸素消費量と二酸化炭素発生量を求める。

タンパク質 1ℊが燃焼すると、酸素 0.94ℓが消費され、二酸化炭素 0.75ℓが排泄される。

酸素消費量 0.05×0.94=0.047ℓ/分

二酸化炭素排泄量 0.05×0.75=0.0375ℓ/分

(3)非タンパク呼吸商を求める。

非タンパク酸素消費量 0.16-0.047=0.113ℓ/分

非タンパク二酸化炭素排泄量 0.13-0.0375=0.0925ℓ/分

非タンパク呼吸商 0.0925÷0.113=0.819(≒0.82)

(4)熱量表から、非タンパク酸素消費によるエネルギー発生量を求める。

4.825×0.113=0.545 ㎉/分

(5)全体のエネルギー発生量を求める。

0.2(たんぱく質)+0.545(非たんぱく質)=0.745㎉/分(0.745×60×24=1073 ㎉/日)

熱量表

非タンパ

ク呼吸

熱量源(%) 酸素 1ℓに

対する

熱量

(㎉)

非タンパ

ク呼吸

熱量源 酸素 1ℓに

対する

熱量

(㎉)

糖質 脂質 糖質 脂質

0.707 0 100.0 4.686 0.86 54.1 45.9 4.857

0.71 1.10 98.9 4.690 0.87 57.5 42.5 4.887

0.72 4.76 95.2 4.702 0.88 60.8 39.2 4.899

0.73 8.40 91.6 4.714 0.89 64.2 35.8 4.911

0.74 12.0 88.0 4.727 0.90 67.5 32.5 4.924

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解剖生理学 要点整理ノート

130

0.75 15.6 84.4 4.739 0.91 70.8 29.2 4.936

0.76 19.2 80.8 4.751 0.92 74.1 25.9 4.948

0.77 22.8 77.2 4.764 0.93 77.4 22.6 4.961

0.78 26.3 73.7 4.776 0.94 80.7 19.3 4.973

0.79 29.9 70.1 4.788 0.95 84.0 16.0 4.985

0.80 33.4 66.6 4.801 0.96 87.2 12.8 4.998

0.81 36.9 63.1 4.813 0.97 90.4 9.85 5.010

0.82 40.3 59.7 4.825 0.98 93.6 6.37 5.022

0.83 43.8 56.2 4.838 0.99 96.8 3.18 5.035

0.84 47.2 52.8 4.850 1.00 100.0 0 5.047

0.85 50.7 49.3 4.862

9.活動代謝

・日常生活の身体活動により亢進するエネルギー代謝を、活動代謝という。

エネルギー代謝率

(RMR)

・RMR, relative metabolic rate

・(活動時のエネルギー消費量-安静時のエネルギー消費量)÷基礎代謝量

Mets

・Mets, metabolic equivalents

・各種の身体運動時の全エネルギー消費量が安静時のエネルギー消費量の

何倍にあたるかを示す単位

・安静状態を維持するための酸素消費量 3.5㎖/㎏/分を 1単位とする。

RMR=1.2×(Mets-1)

Mets=1/1.2×RMR+1

Af(動作強度)

・Af, active factor

・基礎代謝の倍数

・生活活動強度=ΣAf×各種生活活動動作の時間(分)/1,440分

・エネルギー所要量=1日の基礎代謝量×生活活動強度

身体活動レベル

・総エネルギー消費量を、二重標識水法(doubly labeled water method)

で測定。(通常の水の分子量は 18である。水の安定同位体(分子量 22)

を多く含む水を飲んで、その後の希釈速度を測定する。代謝が活発だと

通常の水の分子の産生量が多くなり、安定同位体の濃度は早く希釈され

る)

・身体活動レベル=1 日当たりの総エネルギー消費量÷1 日当たりの基礎

代謝量

・身体活動レベル(physical activity level)

身体活動レベル 日常生活の内容

低い(Ⅰ) 1.50

(1.40~1.60) 生活の大部分が座位で、静的な活動が中心の場合

普通(Ⅱ) 1.75

(1.60~1.90)

座位中心の仕事だが、職場内での移動や立位での作業・接客

等、あるいは通勤・買物・家事、軽いスポーツ等のいずれ

かを含む場合

高い(Ⅲ) 2.00

(1.90~2.20)

移動や立位の多い仕事への従事者。あるいは、スポーツなど

余暇における活発な運動習慣を持っている場合

・推定エネルギー必要量

推定エネルギー必要量(㎉/日)=基礎代謝量(㎉/日)×身体活動レベル

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解剖生理学 要点整理ノート

131

10.臓器別エネルギー消費量

・重量当たりの代謝率が大きい臓器は、心臓、腎臓、脳、肝臓である。

・代謝量が大きい臓器別は、骨格筋、肝臓、脳である。

重量(㎏) 代謝率

(㎉/㎏/日)

代謝量

(㎉/日)

代謝量の割合

(%)

骨格筋 28 13 364 21.6

肝臓 1.8 200 360 21.3

脳 1.4 240 336 19.9

心臓 0.33 440 145 8.6

腎臓 0.31 440 136 8.1

脂肪組織 15 5 75 4.0

その他 23.16 12 278 16.5

計 70 ‐ ‐ 100.0

エネルギー代謝 ( )1 カロリーは、100g の水の温度を 1℃上昇させるのに必要な熱量であ

る。 ( )糖質 100g には、900kcal の熱量が含まれている。 ( )脂肪組織に蓄積されているエネルギーは、熱エネルギーである。 ( )安静時代謝量は、基礎代謝量より少ない。 ( )体温が 1℃上昇すると、基礎代謝量は 13%増加する。 ( )肥満になると、体重あたりの基礎代謝量が増加する。 ( )飢餓状態では、基礎代謝量が増加する。 ( )呼吸商は、O2消費量÷CO2排泄量で求めることができる。 ( )糖質のみが燃焼した場合、呼吸商は 0.7 になる。 ( )たんぱく質の燃焼量は、尿中尿素窒素排泄量から求めることができる。

○ × × × ○ × × × × ○

400kcal 化学エネル

ギー 減少 減少 CO2 排泄量÷

O2消費量

1.0

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132

18.老化のメカニズム

1.老化

・老化とは、成熟期・生殖期以後、加齢とともに不可逆的に進む形態的、生理的、分子的な衰退現象(老

衰)をいう。

・老化期では、恒常性が崩壊し、死亡率増加させることにより、種の寿命を制限している。

・若年の死亡が多い社会では、生存曲線は年齢とともに徐々に低下するが、現在の日本のように平均寿

命が延長すると、生存曲線は 85歳前後から急速に低下する形になることを「生存曲線の直角化」とい

う。

・栄養や環境の変化により平均寿命は変化するが、最大寿命は変化しない。

2.老化の指標(バイオマーカー)

・外見:身長、体重、皮下脂肪厚、毛髪量、白髪量、顔面のしわ、色素沈着、歯牙の脱落数など

・生理機能:血圧、聴力、近視力、呼吸機能検査、腎機能検査、骨密度、血管の硬化度、基礎代謝量、

皮膚二点識別など

・運動機能:腕立て伏せ、握力、垂直とび、反復横とび、閉眼片足立ち、立位体前屈、踏台昇降など

3.器官レベルの老化

・心臓血管系:動脈硬化、高血圧、心筋萎縮など → 循環不全 → 他臓器の障害促進

・中枢神経系:脳萎縮(重量低下、回転狭小化、脳溝拡大、皮質菲薄化、脳室拡大)

・感覚器系:老視、白内障、難聴など

・呼吸器系:肺活量低下、慢性閉塞性肺疾患など

・腎臓:腎機能の低下

・生殖系:精子形成能の低下、原始卵胞の消失

・筋・骨系:骨格筋の萎縮、骨粗鬆症

・造血・免疫系:貧血、胸腺の萎縮

・内分泌系:ホルモン分泌の乱れ(過剰分泌と分泌不足)

4.神経系の老化

①ニューロンの数の減少(一般に前頭部で減少、グリア細胞は逆に増加)

②伝導速度の低下:有髄線維の脱髄化が原因

③神経伝達物質:アセチルコリン合成酵素やアセチルコリン受容体が減少

大脳皮質の意識、記憶、学習の機能低下に関与

その他、ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンなども減少

④細胞内遊離 Ca濃度の増加:細胞障害を起こす可能性

⑤神経栄養因子(NGF)の減少:NGFは、ニューロンの成長、発芽、同化、分化を促進

⑥脳の血流と代謝の減少:脳にはエネルギー貯蔵の仕組みがなく、常に血流による酸素とグルコースの

供給が必要である。脳の血流と代謝は加齢とともに低下する。

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解剖生理学 要点整理ノート

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5.生殖系の老化

(1)卵巣機能の老化

・卵母細胞は、出生直後数十万個あるが、10 歳で 50 万個、15 歳 30 万個、20 歳 12 万個、30 歳で 6 万

個、40 歳で 2万個となり、閉経(50 歳)で消失する。

・ヒトでは、まず卵巣機能の低下が起こり、エストロゲンの分泌が低下する。このため、下垂体へのフ

ィードバック調節がきかなくなり、下垂体からの黄体形成ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)

の分泌が増加して、卵母細胞をさらに減少させる。

・LH、FSHの過剰分泌が、更年期障害の症状の出現に関与している。

・更年期障害の症状

・閉経年齢(平均 49~51歳)に出現する。

・顔のほてり、肩こり、腰痛、頭痛、不安、苛立ちなど血管運動症状

・骨塩量の減少による骨粗鬆症、骨折の増加

・高脂血症(LDL-Cの増加、HDL-Cの低下)

・アルツハイマー(Alzheimer)病の増加

・エストロゲン補充療法(hormone replacement therapy, HRT)の功罪

・適量(生理的濃度より高い)のエストロゲンは、培養神経細胞の細胞死を抑制する。

・エストロゲンの補充により期待される抗老化作用

・皮膚・皮下組織の水分保持機能(肌のたるみを改善)

・更年期の精神神経症状の緩和

・アルツハイマー病の進行抑制

・骨粗鬆症の予防

・欠点:静脈血栓、胆石症、乳癌、子宮癌、心血管系疾患の増加

発癌の予防にはプロゲステロン併用が有効

・米国では女性の約 50%が実施。日本では 1.8%で少ない。

(2)精巣機能の老化

・血中アンドロゲン濃度は、20 歳代がピークで、50 歳代までわずかに低下し、60 歳以降加齢とともに

低下する。

・LH・FSHは、50歳以降漸増する。

・男性のアンドロゲン補充療法の有効性については、評価は定まっていない。

6.免疫系の老化

・老化とともに免疫能は低下する。

・免疫能の低下は、生死にかかわる(百歳以上の直接死因の 3分の 1は感染症)。

・自然免疫系(顆粒球、マクロファージ)は変化しないが、獲得免疫系(T細胞、B細胞)の低下が著し

い。

・血中抗体の総 IgG 濃度は変化しないが、外来抗原に対する血清中の抗体産生量(一次反応)は加齢と

ともに低下する(15 歳くらいでピーク、40歳で半減、70歳で 10分の 1になる)。

・二次反応は比較的保たれることから、高齢者は新しい感染に弱いといえる。

7.組織レベルの老化

・消耗色素(リポフスチン lipofuscin)の沈着

代謝終末産物の経年的蓄積

寿命の長い細胞(神経細胞、心筋細胞など)で増加する。

・細胞の再生能、増殖能の低下

・組織の萎縮

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解剖生理学 要点整理ノート

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8.細胞レベルの老化

(1)ヘイフリック(Hayflick)の実験(Exp Cell Res. 1961, 37, 614)

・ヒト線維芽細胞を体外で培養すると、50~60代で培養できなくなる。(分裂寿命)

・若い人の線維芽細胞の分裂寿命は高齢者のより長い。

(2)ミトコンドリアと老化

・ミトコンドリアにおける酸素の還元と活性酸素の発生

9.分子レベルの老化

(1)DNAの老化

・変異の蓄積:1 時間日光に当たると 5 万個の塩基に損傷が起こるといわれているが、大部分は修復さ

れる。早老症では DNA の修復能が低下している。

・エピジェネティクス(epigenetics):シトシンのメチル化(DNA修復の傷跡)

・テロメア(telomere)

・DNA末端の反復配列で細胞分裂のときに複製されない部分をいう。

・染色体の安定性に関与している。

・DNAを複製する毎に短くなる(寿命の回数券)。

・テロメラーゼにより修復されるが、体細胞ではテロメラーゼ活性はない。

・生殖細胞、癌細胞ではテロメラーゼ活性がある。

・癌抑制遺伝子:細胞の増殖を抑制する遺伝子。老化した細胞では活性が高い。癌細胞では逆に活性が

低下していることが多い。

(2)たんぱく質の老化

・たんぱく質合成能の低下

・ストレスたんぱく質誘導の低下

・異常たんぱく質合成(エラーカタストロフィ説)

・酸化的ストレスによる異常たんぱく質の生成

・異常たんぱく質分解能の低下

・アミロイドの蓄積(アルツハイマー病)

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解剖生理学 要点整理ノート

135

(3)脂質の老化

・過酸化脂質の生成:酸化的ストレスの増加

・リポフスチンの蓄積:過酸化脂質とたんぱく質の非酵素的複合体の蓄積

・細胞膜の変化:コレステロール/リン脂質比の増大(細胞膜の流動性低下)、レシチンやビタミン Eの

減少、糖たんぱく質、糖脂質の糖鎖の変化など。

10.老化の原因に関する主な仮説

(1)ワイスマンの説(プログラム説)

・次世代が生き残るための空間と食料を確保

・世代交代が活発化し、種の存続には有利となる。

(2)メダワーとウィリアムスの説(エラー蓄積説)

・生殖に不利な遺伝子は自然淘汰で排除されるが、生殖後の有害な遺伝子には自然淘汰が働かず排除さ

れず蓄積する。

(3)オーゲルの説(ホメオスタシス説)

・自然のエントロピー増大の法則が、老化へ向かうプレッシャーとして働く。

・生物はプレッシャーによるエラーを修復しようとするが、完全ではなくエラーが蓄積する。

(4)カーキウッドの説(体細胞廃棄説)

・エラー修復能高い生物は、生殖効率が低下して、少産・長寿となる。

・エラー修復能低い生物は、生殖効率が増加して、多産・短命となる。

・体は子孫を残すための手段にすぎないと考える。

動物種 最大寿命 性成熟年齢 産子数

ヒト 120年 13.5年 1

チンパンジー 40年 10年 1

ゾウ 60年 10年 1

ブタ 27年 0.5年 9

ネコ 28年 0.6年 4

マウス 3.5年 0.1年 8

11.代謝と老化

(1)IGF/insulin pathway(IGF, insulin-like growth factor)

・代謝の亢進は、活性酸素の発生を促進することにより老化を進める可能性がある。

・線虫の研究から、IGF/insulin pathwayの減弱は、長寿効果をもたらすことがわかった。

・飢餓の時代においては、インスリンが働きにくいこと(インスリン抵抗性)がエネルギーの節約、生

存に有利であったが、飽食の時代になると、インスリン作用不足が糖尿病の原因となるなど生存に有

害な効果があらわれると考えられる。

(2)カロリー制限による老化制御の可能性

1)マッケイらの実験(1935)

・自由摂食群のラットはすべて 965 日までに死亡したが、エネルギー制限食群のラットは最長 1320 日

まで生存した。

・解釈 ①エネルギー制限が、加齢に伴う病気の発症を予防した。

②エネルギー制限が、生理的老化の過程による衰退を遅延または軽減した。

・仮説 ①過剰体脂肪の減少、②DNA エラーの減少、③下垂体ホルモン分泌の低下、④活性酸素発生低

下、⑥遺伝子発現の抑制などが考えられている。

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解剖生理学 要点整理ノート

136

2)コールマンらの実験(2009)

・自由摂食量の 30%にカロリー制限したサルを 20年間飼育した。

・対照群が 50%死亡した時点で、カロリー制限群は 80%生存していた。

・カロリー制限群は、糖尿病、癌、心血管病、脳萎縮の頻度も少なかった。

3)サーチュイン仮説

・カロリー制限は、サーチュインの発現を増加させる。

サーチュインは、脱アセチル化酵素活性を有するたんぱく質である。

サーチュインは、転写因子 FOXO を活性化し、酸化ストレス耐性、細胞死抑制などをもたらす。

・ポリフェノールの 1種であるレベラトロールは、サーチュインを活性化する。

・サーチュインの役割について、否定的な報告もある。(Nature (2011) 477, 482-485)

老化 ( )栄養や環境の変化により、最大寿命を延ばすことは可能である。 ( )老化により、脳内のアセチルコリン産生は増加する。 ( )ヒトでは、卵巣機能の低下に先立って、LH と FSH の分泌が低下す

る。 ( )エストロゲン補充療法により、心血管疾患が増加する可能性がある。 ( )老化により、自然免疫系は著しく低下する。 ( )細胞の分裂寿命は、年齢により変化しない。 ( )加齢とともに、テロメアは延長する。 ( )エラー修復能が高い生物は、少産・長寿となることが多い。 ( )IGF/insulin pathway の減弱は、寿命を短縮する。 ( )動物実験では、カロリー制限により、寿命は短縮する。

× × × ○ × × × ○ × ×

減少 獲得免疫 減少 短縮 延長 延長