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農林水産省 2019年7 月 10 日(水)
実験研究の農林業問題への応用
九州大学大学院農学研究院
野村久子・ 矢部光保
email:[email protected]
資料3
報告内容
1. 農林業における政策評価の課題
2. エビデンスに基づく政策形成の研究分類
3. 事例研究-ため池管理
4. フィールド経済実験 :利点と限界
5. ランダム化対照試行(RCT)とは
6. RCTを用いたフィールド実験:利点と限界
7. 実験研究の農林業問題への応用
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1.農林業における政策評価の課題
• 人口減少・財政悪化から、効果のある政策構築が求められている。
→エビデンスに基づく政策形成(EBPM)、すなわ
ち公共政策の効果を科学的根拠に基づいて評価し、政策形成に役立てる試みが広がる。
• しかし、農林業政策は天候等の外的要因の影響を受けやすい。
→ 政策と効果の因果関係の特定化が困難
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2.エビデンスに基づく政策形成研究の分類
名称 概要母集団の反映
ランダム化
選択型実験複数の対策から最も好ましいものを選択
○ ○
ラボ経済実験実験室で学生等を対象に仮想的な政策を実施
× ○
フィールド経済実験
実際に政策に影響を受ける農家等を対象とすることにより実際の農家特有の反応を分析可能
△ △
RCTを用いたフィールド実験
現場で実際に政策に影響を受ける農家等を対象に対策を実施 (エネルギー利用や生ごみリサイクルへの参加促進など)
○ ○
疑似実験現実の対策を観測して導入前後の効果を分析
○ ×
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フィールド実験の利点
1) 期待した成果に対して、政策やプロジェクトの有効性を評価
2) 既存の制度・政策、状況に対して、促進や改善を図りたい
・対象の行動がアウトカム(被説明変数)として可視化できるので政策立案者を説得しやすい
・選択実験、ラボ経済実験やフィールド経済実験では、実際の対象者(例えば、農家)を対象にして、理論的推測の検証が可能。
・一方、調査集団に母集団属性を反映させたり、実際の行動変容の観測には、RCTを用いたフィールド実験によって測定が可能。
・よって、選択実験、ラボ経済実験やフィールド経済実験と、RCTを用いたフィールド実験を組み合わせることで、より高い精度の政策評価が可能
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3.事例研究 – ため池管理
地域 兵庫県東播磨
ため池の数 およそ600
時期 2019年6月~実施中
研究目的: ため池管理に有効な方策を経済実験で確認し、ため池のクリーンアップ活動について社会心理を利用した支援方策を検証
対象:兵庫県の東播磨地域(明石市、加古川市、高砂市、稲美町、播磨町)
東播磨地域
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背景:ため池の将来的維持の再検討
• 東播磨地域では都市化、農家人口の減少により、水利組合の組合員数の減少と財政悪化
• 近い将来、ため池の維持が困難な地区も発生
• 農家以外の地域住民参画も含め、ため池管理の在り方を探る
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ため池の管理
• ため池は、農業生産のための灌漑機能と、多面的機能(生物多様性、歴史・文化等の保全機能)を有する
• 管理は水利組合
• 水利組合 組合員数の減少や組合員の高齢化
• ため池の多面的機能は、誰が維持するのか
• 2002年頃から、ため池毎に、ため池や水路を核とした地域づくりを進める「ため池協議会」を整備
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灌漑機能が失われつつあるため池
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レクリエーション機能を持つため池
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フィールド経済実験による政策評価
• 協議会構成員に対し、ため池の管理や保全に対する意識を調査
• 意識別にため池保全促進策を掘り起こし
• まず、水利組合など協議会メンバーが、ゲームを行い、報酬を獲得させる。
• 次に、この報酬を、ため池支援金として、いくら寄付するかの実験。
• 想定した行動仮説の検証。
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4.フィールド経済実験: 利点と限界• 利点
□ 政策影響を受ける農家などを対象としたフィールド経済実験(lab in the field)□ 経済理論の実証
□ 被験者間の相互関係が与える効果も政策評価に反映できる
• 限界
□ サンプル数が少ないため、母集団の傾向が反映できない可能性あり
□ 期待された成果が観測できるか否かは不明
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介入効果
被験者・被験地域をランダムに割り付け
介入群
コントロール群
介入
何もしない
5. ランダム化対照試行(RCT)とは
異なる政策デザインの費用対効果
を比較
・統計的利点自己選抜バイヤスの回避因果関係の特定
社会的介入(情報の提供、環境教育
の提供、研修、Deliberation(熟議)、
ワークショップなど
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① 経済的インセンティブ
• 導入支援資金
• 補助金
• 融資
• 現物給付等
② 心理に働きかけ:
動機付けにつながる社会的規範や本能的要素に働きかけ
• 研修
• 情報提供
• 指導・モニタリング
社会的介入の例
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心理に働きかけて促す行動変容ーナッジ(肘で小突く)
• 「ナッジ」は、社会心理を利用して、よりよい政策の結果を生むため、行動経済学など行動科学に基づく、市民の集団行動を促すための行動心理による介入である (Thaler and Sunstein, 2008)。
• ナッジは、伝統的な規制や財政的手段などの政策を補完する。
• ナッジは、例えば、情報提供により、省エネ環境行動などを誘導して行動変容を促すとされる。政策効率を高める政策介入手段として、その効果が多くの実証実験で検証されている。
日本でも、2017年4月、プロジェクトベースで環境省が産学官連携のナッジ・ユニットを発足。 ナッジを用いて世帯のエネルギー利用の行動変容を評価
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RCTデザインの検討事項• 農林水産業分野でRCTを行う際のカウンターパート(行政、企業)
• 研究体制• 研究予算・プロジェクトなどの期限
• 農林水産業分野でRCTを行う際に、何を問うのか
• 介入は何か• 観測可能なアウトカムは何か
• 倫理的な問題 (実験をする場合には常に付きまとう問題)
• 介入や評価の仕方などにおける、倫理的な整合性
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RCTを用いたフィールド実験による政策評価
• フィールド経済実験で確認した個人属性が及ぼす、ため池保全促進策の効果を検証。
• 社会心理を応用したナッジで行動変容を促す。
• 情報提供(ナッジ)ありと、情報提供なしのグループに、ランダムに分けてチラシ配布。
• 情報提供の差異が、クリーンアップキャンペーン(ゴミ拾い)に参加する地域住民の増加に、どのような影響を与えるかを観測。
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6.RCTを用いたフィールド実験: 利点と限界• 利点
□ 政策に影響を受ける農家等を対象としたフィールド実験
□ ナッジ=個人の選択を尊重した誘導
□ 政策効果の可視化
□ フィールド経済実験の結果の検証
• 限界
□ 介入によっては、実験に時間とコストがかかる
□ 実際の制度・政策との整合性
□ 効果の持続性
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8.実験研究の農林業問題への応用 - まとめ
□ 意思決定や合意形成の変化を促進
□ 行動変容が起きる介入条件を設定して検証
□ 効率性を高める行動変容、環境に配慮した資材投入や技術導入の促進などの目的で利用可能
□ アウトカムとして、生産性の向上、やりがいの向上、農業技術の改善による温暖化ガス排出量削減といった指標を用いて観察できる
□ 客観性を保ちながら、政策と効果の因果関係の特定化ができるといった点で有効
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