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紫外線による病害虫防除
2019年、農研機構よりパナソニ
ック製の農業用紫外線(UV–B)ラン
プを活用した、イチゴの紫外線による
病害虫防除体系がリリースされました
(※農研機構HPより、マニュアルが
ダウンロードできます)。イチゴの生
産において、うどんこ病とハダニは重
要病害虫であり、生産者にとっては悩
みのタネですが、紫外線による防除に
より、農薬を削減しながら十分な効果
が得られることが実証されています。
ところで、紫外線と聞くと、日焼け
やビタミンDの生成に必要であるなど、
生活の中でも感じたり、聞いたりする
ことがあると思います。紫外線とは、
目に見える可視光線よりも波長が短い、
目に見えない光です(第1図)。
波長が短い=エネルギーが強いため、
浴びすぎると日焼けをしたり、植物の
葉が焼けたりします。けれど、そうい
ったストレスを感じることで植物も人
間もそれに対抗しようと免疫力が向上
する効果があり、そこに着目したのが
農業用の紫外線ランプです。
紫外線には、波長が短い方からC波、
B波、A波と区別されており、B波が
植物の防除に効果的であることが分か
っています。ちなみに、C波はオゾン
層でカットされるので地上には届きま
せんが、その高いエネルギーを利用し
て殺菌などに利用されています。A波
は日焼けサロンの光源やネイルの硬化
に利用されています。
病害を抑制できるメカニズム
では、なぜ病害虫防除の効果がある
のか、イチゴを例としてそのメカニズ
ムを解説します(第2図)。
❶間接作用
植物の細胞は紫外線などの外的スト
レスを受けると、防御反応を起こして
病原菌に抵抗する物質を作り出し、ほ
かの細胞へ異常を知らせる信号を発し
て、植物全体の細胞の防御遺伝子が活
性化することが確認されています。
「UV–B電球形蛍光灯」でのUV–
B照射は、病原菌に抵抗力をもつ、た
んぱく質や酵素を生成するきっかけと
なり、植物体の抵抗性が向上し、うど
んこ病の感染力を弱め、病害の被害軽
減が期待できます。
❷直接作用
エネルギーが強いUV–Bは、一般
■第2図 病害抑制のメカニズム
植物の病害抵抗性向上
防御関連遺伝子の発現誘導
害虫や糸状菌生育抑制
ナミハダニ卵の死亡率
間接作用UV-B照射による植物の防御反応を利用
直接作用UV-Bは一般的にDNAの損傷と活性酸素の生成を通じて生物にダメージ
兵庫県農林水産総合技術センター/神頭ら千葉大/宇佐見ら報告
Murata and Osakabe 2013(改変)より
■第1図 紫外線の特性
名称 UV-C UV-B UV-A波長 200~280nm ~315nm ~400nm
効能強い殺菌能力生物に対する破壊性が最も強い
妨害・防除(うどんこ病など)ビタミンD生成 日焼け 捕虫
皮膚への有害性 -
赤い日焼け(炎症)、しみ
日焼け(黒)、しわ、たるみ
目への有害性 白内障、雪目炎(雪目、雪眼)、紫外眼炎(電気性眼炎)、翼状片 -
太陽光に含まれる比率
0%※太陽光には含まれない 10% 90%
紫外線(UV) 赤外線可視光線(人に見える光)
200nm 770nm280 315 400
100
80
60
40
20
10 1 2 3 4 51UV-B照射量(kJ/㎡)
(照射時間×照射強度)
死亡率(%)
0.58 W/㎡0.310.190
UV-B照度
※https://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/130266.html
※nm=10億分の1メートル
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鋼鈑商事株式会社建材事業部エコハウスグループ
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農業用紫外線(UV-B)照射による病害虫防除
~イチゴ栽培で高い病害虫抑制効果を確認! さまざまな品目への応用で農薬削減、省力化へ貢献の可能性~
「UV-B電球形蛍光灯」
2020 タキイ最前線 春種特集号 59
鋼鈑商事株式会社 〒141-0022 東京都品川区東五反田二丁目18番1号(大崎フォレストビルディング)TEL:(03)4531-6880お問い合わせ先
的にDNAの損傷と活性酸素の生成を
通じて生物にダメージを与えることが
知られており、害虫の卵や糸状菌の生
育を抑制できます。UV–Cのような
即効性のある強い殺菌力はありません
が、長時間照射すると、例えばハダニ
の卵が孵ふ化しにくくなる効果があり、
害虫の増殖を抑えることができます。
「UV‒B電球形蛍光灯」
使用時のポイント
❶UV–Bランプの種類と設置方法
設置する高さにより、反射傘の種類
が異なります。ランプは、一般的な電
球形の蛍光灯と変わりません。通常の
電照用のケーブルとソケット(E26口
金)で点灯させることができます。
設置する個数は、電球と植物との距
離とハウスの間口・奥行で決まるので、
基本的には都度設計が必要ですが、お
おむね1反当たり50〜60球設置します。
これは、病害虫防除に必要な紫外線の
強さの基準値を満たすために必要な個
数となります。
❷使用時のポイント
照射するのは、深夜11〜2時ごろの
1日3時間が基準です。UV–B光は
直接見たり浴びたりすると危険なので、
点灯時はハウス内には絶対に入らない
ように気を付けます。
また、寿命が4500時間、1日3
時間の照射で約5年使用可能です。夜
間の照射となるため、タイマーが必要
であること、冬場の電照を点灯してい
る場合は、照射時間が異なるため併用
ができないので注意してください。
❸ハダニの防除について
ハダニ防除には少し工夫が必要です。
紫外線を照射するとハダニは葉裏に逃
げてしまうため、上からの照射では効
果が出にくくなります。紫外線を反射
できるシートを下に敷き、ランプから
の紫外線を葉裏に反射させる必要があ
ります(第3図)。また、成虫にはあま
り効果がないため、天敵との併用が必
要になります。
今後の取り組み
弊社では、光制御・設計技術を駆使
し、パナソニックの「UV–B電球形
蛍光灯」を活用して、さまざまな品目
や設置環境にも対応できる器具の開発
を進めています。
今回ご紹介した、紫外線UV–B照
射による病害虫防除の効果のほかに、
アントシアニンの増加による着色促進
や、糖度の上昇など機能性向上の実証
を進め、有効な利用方法を拡げていき
ます。
イチゴと同様に、うどんこ病が主要病害であるデルフィニウムにて照射試験を開始しました。照射区でも発病はみられましたが、対照区と比較して高い防除効果が得られ、花弁や葉先の焼けなどの発生は確認されませんでした。今後は、適切な照射強度の検討を進め、効果的な防除の実現を目指すとともに、シルバーマルチを併用し、ハダニの防除効果についても検証を行います。 うどんこ病以外の病害虫防除として、ガーベラ(べと病、うどんこ病)、レタス育苗(べと病)、スプレー菊(白さび病)における照射を計画しており、効果と採算性の検証を進めています。 すでに導入されているパセリでは病害防除とともに、青果品質の向上が報告されています。また、日照が弱く相対的に紫外線が不足する冬季栽培の環境にて、ナスのボケ果軽減、花き類の発色改善の
検証も行っていきます。 これまでの検証で、糖度向上や機能性成分が向上したという報告もあり、中長期的にはUV-Bを活用することで、生産者の皆様の栽培安定と収益性向上に貢献できるよう、さらなる可能性にご期待ください。
■第3図 UV-B照射と光反射シートの組み合わせによる病害虫抑制効果イメージ
上からのUV-B照射
光反射シートで葉の表も裏もUV-B照射
うどんこ病には効果!
↓葉裏の
ハダニには届かない
新方式従来方式
葉裏のハダニも抑制!
うどんこ病の効果もアップ
UV-B照射区 対照区
出展:農研機構 紫外光照射を基幹としたイチゴの病害虫防除マニュアル・技術編
新規品目、新規用途への展開
↑デルフィニウムの照射実験を行ったところ、高い防除効果が得られた。
60 2020 タキイ最前線 春種特集号