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1 国民健康保険制度は、医療保険制度の一部であるが、いくつかの構造的な問題を 抱えている。その問題が、少子高齢化や非正規雇用の労働者の増加などによって、 より深刻なものとなっている。本稿では、国民健康保険制度、特に市町村国民健康 保険を中心に、その制度の内容とそれが抱える問題を説明し、制度改革について考 察する。そして、今後の改革の方向について検討する。 キーワード:市町村国民健康保険制度、広域化、医療保険、国民皆保険、都道府 県単位化 目 次 1.はじめに 2.国民健康保険制度の沿革 3.国民健康保険制度の現状 4.国民健康保険制度の構造的問題 5.国民健康保険制度の改革 6.おわりに 1.はじめに 平成 22(2010)年度の国民医療費は、37 兆 4202 億円であり、人口 1 人当たりの国民医 療費は、29 万 2200 円である。国民医療費の国内総生産(GDP)に対する比率は、7.81% ある。図表 1 から分かるように、国民医療費は増加傾向にあり、特に最近の対前年の増加 率は高くなっている。人口 1 人当たりの国民医療費も、平成 12(2000)年度の 23 万 7500 *1 本稿では、大西・菅・荒井(2001)をベースに、それ以降の国民健康保険制度の改革と現状について考 察している。歴史的沿革や制度の説明において、大西・菅・荒井(2001)に多くを負っている。 荒 井 貴 史 国民健康保険制度の現状と改革について *1

国民健康保険制度の現状と改革について 1harp.lib.hiroshima-u.ac.jp/onomichi-u/file/12068...1 国民健康保険制度は、医療保険制度の一部であるが、いくつかの構造的な問題を

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1

 国民健康保険制度は、医療保険制度の一部であるが、いくつかの構造的な問題を抱えている。その問題が、少子高齢化や非正規雇用の労働者の増加などによって、より深刻なものとなっている。本稿では、国民健康保険制度、特に市町村国民健康保険を中心に、その制度の内容とそれが抱える問題を説明し、制度改革について考察する。そして、今後の改革の方向について検討する。

 キーワード: 市町村国民健康保険制度、広域化、医療保険、国民皆保険、都道府県単位化

目 次1.はじめに

2.国民健康保険制度の沿革

3.国民健康保険制度の現状

4.国民健康保険制度の構造的問題

5.国民健康保険制度の改革

6.おわりに

1.はじめに

 平成 22(2010)年度の国民医療費は、37 兆 4202 億円であり、人口 1人当たりの国民医

療費は、29 万 2200 円である。国民医療費の国内総生産(GDP)に対する比率は、7.81%で

ある。図表 1から分かるように、国民医療費は増加傾向にあり、特に最近の対前年の増加

率は高くなっている。人口 1人当たりの国民医療費も、平成 12(2000)年度の 23 万 7500

*1 本稿では、大西・菅・荒井(2001)をベースに、それ以降の国民健康保険制度の改革と現状について考察している。歴史的沿革や制度の説明において、大西・菅・荒井(2001)に多くを負っている。

荒 井 貴 史

国民健康保険制度の現状と改革について*1

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2 Vol. 13  No. 1

円から高齢化に伴い増加している。このように増加する医療費のために医療保険制度の保険

財政は、大変厳しい状況になりつつある。今後のさらなる高齢化、医療技術の高度化による

医療費の増加を考慮すれば、医療保険制度の改革は避けては通れない。現在、社会保障と税

の一体改革が進められているものの国民健康保険制度の将来の姿は明らかでない。国の歳入

である消費税の増税が決定しただけで、歳出に関わる公的年金制度や医療保険制度、介護保

険制度など社会保障制度の最終的な改革後の姿が見えないからだ。

 国民健康保険制度は、後述するように医療保険制度の一部であるが、いくつかの構造的な

問題を抱えている。その問題が、少子高齢化や非正規雇用の労働者の増加などによって、よ

り深刻なものとなっている。本稿では、国民健康保険制度、特に市町村国民健康保険を中心

に、その制度の内容とそれが抱える問題を説明し、制度改革について考察する。そして、今

後の改革の方向について述べる。

 本稿の構成は、以下のようになっている。次節では、はじめに日本の医療保険制度を説明

し、それから国民健康保険制度の沿革を述べる。第 3節では、国民健康保険制度の概要を

説明して、現状を確認する。第 4節では、第 3節の国民健康保険制度の現状を認識の上で、

市町村国民健康保険の抱える構造的な問題を指摘する。そして、第 5節では、構造的な問

題に対応するために、最近ではどんな改革がなされてきたかを振り返り、今後の改革の方向

について考察する。最後の節は、本稿のまとめである。

2.国民健康保険制度の沿革

2- 1 日本の医療保険制度

 国民健康保険制度の沿革について考察する前に、日本の医療保険制度についてその概略を

図表1 国民医療費

平成12(2000)年度 301,418 237.5 5.98平成13(2001)年度 310,998 244.3 6.20平成14(2002)年度 309,507 242.9 6.21平成15(2003)年度 315,375 247.1 6.28平成16(2004)年度 321,111 251.5 6.39平成17(2005)年度 331,289 259.3 6.56平成18(2006)年度 331,276 259.3 6.51平成19(2007)年度 341,360 267.2 6.65平成20(2008)年度 348,084 272.6 7.11平成21(2009)年度 360,067 282.4 7.60平成22(2010)年度 374,202 292.2 7.81

年  次国民医療費(億円)

人口一人当たり国民医療費(千円)

国内総生産に対する比

率(%)

[出所]厚生労働省大臣官房統計情報部編(2013)『平成22年度国民医療費』 p.14より

図表 1 国民医療費

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国民健康保険制度の現状と改革について 3

説明する。現在の日本の医療保険制度は、被用者保険である組合管掌健康保険(組合健保)、

全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)、日雇特例被保険者(健康保険法第 3条第 2

項)の保険、船員保険、共済組合(国家公務員共済組合、地方公務員共済組合、私立学校教

職員共済組合など)、そしてこれらの被用者保険に加入していない人が加入する国民健康保

険制度(市町村国民健康保険制度、国民健康保険組合)、75 歳以上の高齢者がすべて加入す

る後期高齢者医療制度からなる *2。組合健保、協会けんぽ、船員保険、共済組合は、それぞ

れの職業選択の結果として加入する医療保険が決まることから、職域保険とも言われる *3。

一方、(市町村)国民健康保険制度は、その居住する地域によってどの保険者の運営する国

民健康保険に加入するかが決まる *4 ので地域保険とも言われる。そもそも、日本の医療保険

制度は、1922(大正 11)年に成立した健康保険法によって初めて誕生した *5。

2 - 2 国民健康保険制度の沿革 *6

 国民健康保険は、1938(昭和 13)年の国民健康保険法(法律第 60 号)によって導入さ

れた。導入された背景には、農民の医療費負担の軽減や医療の確保の必要性があったこと、

さらに、兵士の供給源でもある農村部の健康水準の向上を図るという軍事的要請が存在して

いた。導入当初の国民健康保険の内容は、第 1に、保険者は、全国の各市町村の区域ごと

に、そこに居住する世帯主を任意加入の組合員として任意に設立する普通組合(国民健康保

険組合)、もしくは、同一の事業または同種の業務に従事する者を任意加入の組合員として

任意に設立する特別組合(国民健康保険組合)である。第 2に、被保険者は、組合員本人

とその世帯員である。第 3に、保険給付は、被保険者の疾病・傷病に対する療養の給付、

分娩に対する助産の給付、死亡に対する葬祭の給付である。第 4に、財源は、組合員が負

担する保険料と、国・道府県・市町村が組合に交付する補助金であった。

 その後、1942(昭和 17)年に国民健康保険法が改正された。改正内容は、第 1に、普通

*2 生活保護受給者は、全額公費(医療扶助)での医療給付となるので、これらの医療保険制度の適用除外となっている。

*3 協会けんぽは、47 都道府県ごとに支部が置かれ、地域の実情にあった形で事業が行われている。すなわち、保険財政が都道府県単位で運営されている。このことから、協会けんぽを、田近・菊池(2012)のように地域保険と捉えることもできる。

*4 国民健康保険法の第 5条に「市町村又は特別区(以下単に「市町村」という。)の区域内に住所を有する者は、当該市町村が行う国民健康保険の被保険者とする」規定されている。そして、第 6条で被用者保険の被保険者や後期高齢者医療制度の被保険者、生活保護受給者、国民健康保険組合の被保険者などが前条の適用除外とされている。短期滞在者でない外国人も市町村の区域内に住所を有すれば被保険者となる。

*5 以下、本稿では国民健康保険制度とそれに関連する事項についてのみ述べるが、日本の医療保険制度の変遷については、吉原・和田(2008)が詳しい。

*6 この節での国民健康保険制度の沿革の説明は、大西・菅・荒井(2001)より引用した。ただし、最近の展開は、新たに書き加えたものである。国民健康保険制度の創設から市町村公営までの沿革は、新田(2009)が詳しい。近年までのより詳細な沿革は、国民健康保険七十年史編集委員会編(2009)を参照されたい。

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組合(国民健康保険組合)の設立を地方長官(現在の知事に当たる)が命じることが可能と

なった。第 2に、そのように命ぜられて(強制的に)設立された組合では、組合員資格の

ある者は全員が組合員になることを義務付けた。第 3に、特別組合(国民健康保険組合)

についても、組合員に加入を強制できることになった。この改正は、「勤労者及びその家族

に対して健康保険制度を普及強化することによって、国民の大部分を保険制度の恩恵に均て

んせしめる」(厚相の提案理由説明)という国民皆保険構想に基づくものであり、当時の健

兵健民政策の一環であった。

 1948(昭和 23)年の国民健康保険法の改正では、国民健康保険の設立は任意であるが

(任意設立)、保険者は原則として市町村が担当し(市町村公営)、かつ世帯主に加えて世帯

員も被保険者になることが義務付けられた(強制加入)。これと関連して、1951(昭和 26)

年には、市町村の要望により財源確保のため、国民健康保険税が地方税法上の目的税として

新設された。

 1958(昭和 33)年に国民健康保険法は、その全部が改正(法律第 192 号)された。それ

によって、国民健康保険法の実施が全市町村に義務付けられ(強制設立)、かつ国民健康保

険以外の公的医療保険の加入者以外の者は、原則として全員、住所を有する市町村の国民健

康保険の適用を受けることになった(強制適用)。すなわち、この改正によって、現在のよ

うな強制加入の地域保険という姿に国民健康保険はなったのである。しかし、給付率は、健

康保険の被保険者の扶養家族と同様、世帯主及び世帯員とも一律最低 5割と定められてい

た。けれども、改正法は 1961(昭和 36)年 4月に完全実施 *7 されて、ここに国民皆保険が

実現した。

 1972(昭和 47)年老人福祉法の改正により、翌 1973(昭和 48)年から老人医療費支給

制度(老人医療費の「無料化」) *8 が実施された。これは、高齢者が必要な医療を受けるうえ

での経済的負担を軽減して、もって医療を受ける機会を拡大する目的をもっていた。しかし

ながら、その事で老人医療費は激増し、低成長下の経済では見直しをせざるをえなくなっ

た。老人医療費の「無料化」は、1982(昭和 57)年に成立した老人保健法による翌 1983

(昭和 58)年から実施の老人保健制度の導入まで続けられた。老人保健制度実施の意義は、

第 1に、老人医療の「無料化」をやめて有料化にしたこと。第 2に、老人医療費の負担を、

分立する医療保険各制度間で公平化するために、財政調整の仕組みを導入したことである。

70 歳以上(寝たきりの場合は 65 歳以上)の高齢者の医療費の一部自己負担を除いた部分の

*7 改正国民健康保険法で、全市町村が国民健康保険事業の実施義務を負うのは、1961(昭和 36)年 4月 1日施行であった。

*8 医療保険に加入している高齢者の医療費の一部自己負担を公費負担(国が 3分の 2、都道府県、市町村が各々 6分の 1を負担)で肩代わりするもの。

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国民健康保険制度の現状と改革について 5

うち、7割を医療保険各制度の拠出金、3割を公費負担(国が 2割、都道府県・市町村は各

0.5 割を負担) *9 でまかなうことにし、拠出金の算定は、医療保険制度に実際に加入している

高齢者の各割合によってではなく、全体を平均した割合を医療保険各制度に当てはめておこ

なうことになった。この老人保健制度の財政調整制度は、国民健康保険の財政状態を改善す

ることになった。国民健康保険は、被用者保険よりも高齢者の加入率が高くなっており、全

体を平均した割合よりも、国民健康保険に高齢者が実際に加入している割合が高いから、こ

の財政調整制度によって、老人医療費の負担が軽減されることになる。

 また、高齢になり退職したサラリーマンや公務員は、70 歳からの老人保健制度の対象に

なるまでの間、本人が希望して被用者保険の任意継続被保険者にならない限り、当然に国民

健康保険に加入することになる。そのため、必然的に国民健康保険は、多数の高齢者を抱え

ることになり、財政基盤が脆弱となってしまった。この問題に対処するために、1984(昭

和 59)年に、高齢で退職したサラリーマンや公務員の 69 歳までの医療費を、保険料と患者

の自己負担のほかは被用者保険からの拠出金 *10 でまかなう退職者医療制度が創設され

た *11。以上の老人保健制度と退職者医療制度によって、国民健康保険制度の保険財政はそれ

らがなかった場合よりもずっと健全化されることになり、現在まで国民健康保険制度の維持

が可能になったと判断できる。国民健康保険制度を存続させるということは、すなわち国民

皆保険体制の維持に大きな役割を果たしたと言って良いだろう *12。尚、2002(平成 14)年

10 月 1 日より、老人保健制度の対象年齢が 70 歳から 75 歳に 5年間で段階的に引き上げら

れた。公費負担の割合も、3割から 5割に 5年間で段階的に引き上げられた。また、この改

正と合わせて、退職者医療制度の対象年齢の上限も 74 歳までに引き上げられた。

 近年における高齢化や医療の高度化による医療費の高騰は、現在の被用者保険や国民健康

保険の財政を逼迫させてきた。さらに、退職高齢者や老人保健制度の対象高齢者の絶対数の

増加によって、老人保健制度への拠出金や退職者医療制度への被用者保険からの拠出金が増

*9 老人保健制度には、40 歳以上の市町村在住者を対象とした保健事業が含まれていたが、こちらの費用は、国・都道府県・市町村が各 3分の 1ずつ負担した。

*10 被用者保険の退職者医療制度への拠出金は、国民健康保険の歳入では療養給付費交付金として受け入れられる。療養給付費交付金は、創設の 1984 年は 188,457 百万円であったが、1999 年には、1,172,919百万円までに増加している。

*11 退職者医療制度の創設は、被用者保険に長期に加入していた者が、退職後に国民健康保険に加入すると給付水準が下がる(当時)ので、これを避けて被用者保険の給付水準を維持する目的も持っていた。

*12 市町村国民健康保険は、「国民皆保険制度の最後の砦(セーフティーネット)」と呼ばれることがある。例えば、土田(2012)は、(市町村)国民健康保険は「皆保険体制の最後のセーフティネットとしての役割を果たしている」(p.24)と述べている。これは、国民健康保険法第 5条で、「市町村又は特別区(以下単に「市町村」という)の区域内に住所を有する者は、当該市町村が行う国民健康保険の被保険者とする。」と規定して、次の第 6条で被用者保険や国民健康保険組合に加入している者(被保険者)を前条の適用除外としていることに基づく。

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6 Vol. 13  No. 1

加した *13。これは、受益と負担の関係から被保険者間の公平性に問題が生じるとともに、医

療保険制度の持続可能性を危うくするものであった。それゆえ、医療保険制度の改革が求め

られた。その制度改革においては、特に、高齢者医療の費用負担をどのようにするのかが焦

点であった。さまざまな改革案が提案及び議論された *14 が、最終的には 2008(平成 20)年

4月から後期高齢者医療制度が創設 *15 されて、さらに前期高齢者の財政調整を設けるとい

う制度改革がなされて現在に至っている。

3.国民健康保険制度の現状 *16

 国民健康保険には、市町村国民健康保険(市町村 *17 が保険者)と国民健康保険組合(組

合が保険者)がある。市町村国民健康保険は、被用者保険に加入していない自営業者、農林

水産業者、無業者などとその世帯員を対象として運営されている。2010(平成 22)年度末

現在で保険者数 1,723、被保険者数 35,493(千人)となっている。また、国民健康保険組合

は、同種の事業または業務に従事する者(医師、歯科医師、薬剤師、食品販売業者、土木建

築業者、理容美容業者、浴場業、弁護士等)とその世帯員を対象に各々の組合が運営してい

る。2010(平成 22)年度末現在で保険者数 165、被保険者数 3,277(千人)となっている。

2010(平成 22)年度末の医療保険の適用人口に関して、国民健康保険の被保険者が総人口

に占める構成比は、30.36%(市町村国民健康保険 27.79%、国民健康保険組合 2.57%)であ

る。これは、被用者保険全体で被保険者が総人口に占める構成比 57.79%よりは小さいもの

の個別の保険制度の中では一番高い比率となっている。2番目に高い構成比は、協会けんぽ

の被保険者が総人口に占める構成比で 27.29%である。以下、組合健保 23.18%、後期高齢

者医療制度 11.23%と続く *18。

3 - 1 保険給付

 国民健康保険制度の保険給付には、法定給付として、療養の給付、入院時食事療養費の支

給、入院時生活療養費の支給、保険外併用療養費の支給、療養費の支給、訪問看護療養費の

*13 相対的に若年人口が減少したことによって、保険財政における拠出金の割合が高まったことも問題であった。

*14 当初の代表的な改革案については、大西・菅・荒井(2001)で紹介している。*15 後期高齢者医療制度の創設に関して、「他の年齢層に比べて後期高齢者の医療ニーズや医療リスクは明らかに高いことから、年齢に特化したスキームがより有効だと考えられた。新制度によってリスク分散はより均一に、医療サービスもこの年齢層により適したものとなり、財源に対する責任もより明快となる、というメリットが強調された。」(池上他(2011)p.52)

*16 この節での国民健康保険制度の保険給付の説明は、大西・菅・荒井(2001)より引用した。ただし、制度に変更があった箇所は、修正している。その他、新しく説明を加えた箇所もある。

*17 特別区を含む。*18 共済組合については、各種共済組合全体でその被保険者が総人口に占める構成比は 7.20%となっている。

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国民健康保険制度の現状と改革について 7

支給、特別療養費の支給、移送費の支給、高額療養費の支給、高額介護合算療養費の支給、

出産育児一時金の支給、葬祭費の支給などがある。出産育児一時金や葬祭費の支給は、法定

給付であるが、特別の理由があるときは、その全部又は一部を行わないことができる(国民

健康保険法第 58 条)。また、任意給付として、傷病手当金の支給などがあるが、国民健康

保険組合で僅かに行われているだけである。

(療養の給付)

 療養の給付は、被保険者が疾病及び負傷に関して、保険医療機関又は保険薬局に被保険者

証を提出して、①診察、②薬剤又は治療材料の支給、③処置、手術その他の治療、④居宅に

おける療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護、⑤病院又は診療所への入院及び

その療養に伴う世話その他の看護、を受けるものである(国民健康保険法第 36 条)。現物

給付によって行われるが、被保険者は保険医療機関又は保険薬局に一部負担金の支払が必要

である。被保険者の年齢が、70 歳未満であれば 3割(ただし、義務教育就学前は 2割)、70

~ 74 歳であれば 2割 *19(だだし、一定以上の所得がある場合は 3割)の一部負担金を支払

う。

(入院時食事療養費の支給)

 入院時食事療養費の支給は、入院時の食事について、厚生労働大臣の定める基準の例 *20

により算定した費用の額(その額が現に要した費用の額を超えるときは、現に食事療養に要

した費用の額)から、食事療養標準負担額 *21 を控除した額を現物給付するものである(国

民健康保険法第 52 条)。

(入院時生活療養費の支給)

 入院時生活療養費の支給は、療養病床に入院する 65 歳以上の被保険者が療養の給付と併

せて受けた生活療養(食事療養、温度、照明、給水)につき厚生労働大臣の定める基準の

例 *22 により算定した費用の額(その額が現に当該生活療養に要した費用の額を超えるとき

は、当該現に生活療養に要した費用の額)から、生活療養標準負担額 *23 を控除した額とな

*19 「70 歳代前半の被保険者等に係る一部負担金等の軽減特例措置」により、 2014(平成 26)年 3月 31 日までは、1割に据え置かれている。

*20 「平均的な家計における食費の状況を勘案して厚生労働大臣が定める額」(健康保険法第 85 条第 2項)。*21 入院 1食当たり標準負担額は、一般の被保険者は 260 円、市町村民税非課税者等の低所得者は 3ヵ月までの入院の場合 210 円で 4ヵ月以降の入院の場合 160 円、被保険者と被扶養者すべての所得か一定基準に満たない場合の 70 歳以上の被保険者は 100 円となっている(2011(平成 23)年 4月現在)。

*22 「生活療養に要する平均的な費用の額」(健康保険法第 85 条の 2第 2項)*23 生活療養標準負担額とは、「平均的な家計における食費(食材料費 +調理コスト相当額)と居住費(高熱水費相当額)の状況を勘案して厚生労働大臣が定める額」である。一般の被保険者の場合、居住費 1日320 円と食費 1食当たり 460 円× 3 食 =1,380 円の合計額である(2011(平成 23)年 4 月現在)。低所得者等の場合は軽減される。

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8 Vol. 13  No. 1

る(国民健康保険法第 52 条の 2)。

(保険外併用療養費の支給)

 保険外併用療養費は、被保険者が厚生労働大臣の定める評価療養又は選定療養を受けた時

に支給される(国民健康保険法第 53 条)。評価療養となる療養は、(1)先進医療(先進医

療ごとに厚生労働大臣が定める施設基準に適合する病院又は診療所で行われるものに限定)、

(2)医療品の治験に係る診療、(3)医療機器の治験に係る診療、(4)薬事法承認後で薬価

基準収載前の医薬品の投与(厚生労働大臣が定める施設基準に適合する病院や診療所又は薬

局において当該承認を受けた日から起算して 90 日以内に行われるものに限定)、(5)薬事

法承認後で保険適用前の医療機器の使用 (厚生労働大臣が定める施設基準に適合する病院や

診療所又は薬局において保険適用を希望した日から起算して 240 日以内に行われるものに

限定)、(6)薬価基準に収載されている医薬品の適応外の使用、(7)保険適用されている医

療機器の適応外の使用 、である。また、選定療養となる療養は、(1)特別の療養環境の提

供(差額ベッド)、(2)予約診療、(3)時間外診療、(4)大病院(200 床以上の病院)の未

紹介患者の初診、(5)大病院(200 床以上の病院)の再診、(6)診療報酬の算定方法に規定

する回数を超える医療行為、(7)180 日を超える入院、(8)前歯部の金合金等、(9)金属床

による総義歯、(10)小児う蝕の指導管理、である。

(療養費の支給)

 療養費の支給とは、保険者が療養の給付や入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外

併用療養費の支給を行うことが困難であると認める場合、又は被保険者が保険医療機関以外

の医療機関等で診療を受けた時にそれを保険者がやむを得ないものと認める場合、診療を受

けた被保険者が被保険者証を提出できなかったのは緊急その他やむを得ない理由だったと保

険者が認める場合に、一部負担金を控除した額を現金で償還することである(国民健康保険

法第 54 条)。

(訪問看護療養費の支給)

 居宅において継続して療養を受ける被保険者が、指定訪問看護事業者について指定訪問看

護を受けたときに、厚生労働省令の定めるところにより保険者が必要と認める場合に限り、

訪問看護療養費が支給される。支給は、厚生労働大臣の定めの例 *24 より算定した額から一

部負金を控除した額が、現物給付される(国民健康保険法第 54 条の 2)。

*24 「指定訪問看護に要する平均的な費用の額を勘案して厚生労働大臣が定める」(健康保険法第 88 条第 4項)

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国民健康保険制度の現状と改革について 9

(特別療養費の支給)

 特別療養費の支給とは、被保険者が、被保険者資格証明書 *25 の交付を受けている間に、

療養の給付等(現物給付)が受けられずに医療機関の窓口で全額支払った(自己負担した)

ものを、後に保険者が一部負担金を控除した額を被保険者に償還する現金給付のことである

(国民健康保険法第 54 条の 3)。

(移送費の支給)

 被保険者が療養の給付を受けるため、医師の指示により病院又は診療所に移送されたとき

は、厚生労働省令の定めるところにより保険者が必要であると認める場合に限り、所定の移

送費が支給される(国民健康保険法第 54 条の 4)。

(高額療養費の支給)

 高額療養費 *26 の支給要件、支給額その他高額療養費の支給に関して必要な事項は、療養

に必要な費用の負担の家計に与える影響及び療養に要した費用の額を考慮して、政令で定め

ることになっている(国民健康保険法第 57 条の 2第 2 項)。高額療養費の支給とは、被保

*25 市町村が、所定の保険料を滞納している世帯主に対し、求めにより返還された被保険者証と引き換えに交付するもの。被保険者資格証明書の交付を受けた被保険者が、療養を受けた場合には、窓口で一旦全額を支払い、後に一部負担金を控除した額の現金給付を受ける。

*26 「高額療養費制度は、高度な医療にかかったときに、定率負担による高額な自己負担によって、家計が破綻しないよう、所得に応じて自己負担に上限を設ける仕組み」(朝川(2012)より引用)である。

図表2 高額療養費の負担限度額

外来(個人ごと)

(注)長期高額療養については原則10,000円。

70歳以上、一般については、平成25年3月迄、従前()の額が適用される。

[出所]厚生労働統計協会(2012)p.55より

150,000円+(医療費-500,000円)×1% (多数該当の場合は、83,400円)

80,100円+(医療費-267,000円)×1%  (多数該当の場合は、44,400円)

35,400円  (多数該当の場合は、24,600円)

住民税非課税低所得者Ⅰ(年金収入80万円以下等)

15,000円

8,000円

                自己負担限度額

44,400円

24,600円  (多数該当の場合は、12,000円)

80,100円+(医療費-267,000円)×1%  (多数該当の場合は、44,400円)

62,100円  (多数該当の場合は、44,400円)

24,600円

現役並み所得者(月収28万以上、課税所得145万円以上)

一  般

住民税非課税低所得者Ⅱ

70歳未満の者

上位所得者(月収53万円以上)

一  般

低所得者(住民税非課税)

70歳以上

図表 2 高額療養費の負担限度額平成 24年 4月現在

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10 Vol. 13  No. 1

険者の同一月の同一の保険医療機関等から受けた療養(入院時の食事療養を除く)に係る一

部負担金等の額(自己負担)に上限 *27 を設けたもので、上限を超過した部分につき、後日、

保険者が被保険者に償還するものである。70 歳に達する日の属する月以前の療養に係るも

のにあっては、一部負担金等の額として合算するのは、21,000 円以上のものに限られてい

る。70 歳以上の被保険者の場合には、外来と入院で別の一部負担金等の上限が設けられて

いる(図表 2の下段参照)。また、被保険者等が、高額療養費の支給を受ける場合に、その

療養があった月以前の 12 ヵ月以内に高額療養費の支給されている月数が 3ヵ月以上ある場

合は、図表 2の多数該当の場合の金額が上限となる。さらに、人口透析治療を行う必要の

ある慢性腎不全など療養に要する期間が著しく長期にわたり、一定の高額な治療を継続して

行う必要がある疾病で厚生労働大臣の定めるもの *28 については、被保険者が保険者の認定

を受けていれば、同一月の同一の保険医療機関での一部負担金等(自己負担)の上限は 1

万円(70 歳未満の人口透析をしている上位所得者は 2万円)となる。

 尚、70 歳未満の被保険者が、同一の月にそれぞれの医療機関で入院療養を受けた場合に、

事前に限度額適用認定証の交付を受けて医療機関に提示することで、支給される高額療養費

は現物給付化され、窓口で限度額を超える支払いをしないで済むようになった *29。

(高額介護合算療養費の支給)

 高額医療・高額介護合算制度により、療養の給付に係る一部負担金の額(高額療養費が支

給される場合には、当該支給額に相当する額を控除して得た額)と介護保険の利用者負担額

(高額介護サービス費が支給される場合には、当該支給額を控除して得た額)及び介護予防

サービス利用者負担額(高額介護予防サービス費が支給される場合には、当該支給額を控除

して得た額)の合計額が著しく高額である場合の負担軽減を図るために、高額介護合算療養

費が支給される(国民健康保険法第 57 条の 3)。

(出産育児一時金、葬祭費(若しくは葬祭の給付)、傷病手当金の支給)

 国民健康保険法第 58 条に基づくその他の給付である。出産育児一時金、葬祭費の支給

(若しくは葬祭の給付)は、ほとんどの保険者が行っているが、現在、任意給付である傷病

手当金の支給を行っている市町村国民健康保険は存在しない *30。

*27 図表 2参照。*28 「厚生労働大臣の定める疾病としては、血友病、人口透析治療を行う必要のある慢性腎不全及び抗ウィルス剤を投与している後天性免疫不全症候群(HIV感染を含み、厚生労働大臣の定める者に限る))が指定されている」(国民健康保険中央会監修(2011)p.68 参照)

*29 2007(平成 19)年 4月から。70 歳以上の被保険者は限度額適用認定証がなくても、医療費の窓口負担は自動的に自己負担限度額までの支払いで済む。

*30 被用者保険で支給されている傷病手当金や出産手当金について、国民健康保険では、一部の国保組合での支給はあるが、市町村国民健康保険では存在しない。

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国民健康保険制度の現状と改革について 11

図表 3 被保険者数の推移

3 - 2 加入者(被保険者)の状況

 市町村国民健康保険の被保険者数は、2011(平成 23)年度末現在で 3,520 万人である。

その内、退職被保険者等は 208 万人である。図表 3を見て分かるように、2008(平成 20)

年 4月から 75 歳以上の高齢者が後期高齢者医療制度に移行したので、その影響で被保険者

数が前年度末の 4,688 万人から 2008(平成 20)年度末には 3,597 万人に減少している。被

保険者の平均年齢は、2010(平成 22)年度で 49.7 歳であるが、75 歳以上の高齢者の後期

高齢者医療制度への移行前の 2007(平成 19)年度は、56.1 歳と高かった(図表 4参照)。

市町村国民健康保険の年齢階級別の加入者(被保険者)数とその構成比は、2010(平成 22)

年度平均で図表 5のようになっている。60 歳以上の高齢者階級でその構成比が非常に高い

図表4 医療保険制度別加入者平均年齢の推移

歳 歳 歳 歳 歳 歳 歳 歳平成18年度 43.3 41.0 54.7 48.0 42.8 55.2 41.0 ・

19 43.5 41.0 ・ 47.7 42.9 56.1 41.2 ・20 43.3 41.1 ・ 47.7 42.9 49.2 38.8 81.821 43.6 41.3 53.5 47.6 43.0 49.5 38.9 81.822 43.8 41.5 53.5 48.0 43.0 49.7 39.0 81.9

平成18年度 30.4 27.4 38.9 36.0 27.8 ・ ・ ・19 30.3 27.5 ・ 35.8 27.7 ・ ・ ・20 26.5 25.6 ・ 31.1 24.3 ・ ・ ・21 26.6 25.7 35.1 31.0 24.2 ・ ・ ・22 26.6 25.5 34.7 31.6 24.1 ・ ・ ・

平成18年度 37.4 34.3 48.4 40.8 34.8 55.2 41.0 ・19 37.6 34.5 ・ 40.6 34.9 56.1 41.2 ・20 36.0 33.8 ・ 38.3 33.4 49.2 38.8 81.821 36.2 33.9 47.2 38.1 33.4 49.5 38.9 81.822 36.3 34.0 47.1 38.8 33.4 49.7 39.0 81.9

(注)  1.各制度の実態調査等を基に作成。

 2.9月末日現在の平均年齢。

 3.平成19年度以前については、老人保健を含めた平均年齢である。

[出所]厚生労働省保険局調査課(2012)「医療保険に関する基礎資料(平成24年12月)」p.11より

国保組合後期高齢者医療制度

被保険者

被扶養者

協会(一般) 組合健保法第3条第2項被保険者

船員保険 共済組合 市町村国保

図表 4 医療保険制度別加入者平均年齢の推移

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12 Vol. 13  No. 1

加入者数 構成比千人 %

総数 35,835 100.00 0~4歳 926 2.58 5~9 1,027 2.87

10~14 1,152 3.2115~19 1,237 3.4520~24 1,425 3.9825~29 1,622 4.5330~34 1,790 5.0035~39 2,103 5.8740~44 1,933 5.3945~49 1,765 4.9350~54 1,854 5.1755~59 2,726 7.6160~64 5,065 14.1365~69 5,875 16.3970~74 5,334 14.89

[出所]厚生労働省保険局調査課(2012)「医療保険に関する基礎資料(平成24年12月)」p.13と p15より抜粋

図表5 市町村国民健康保険の年齢階級別加入者(平成22年度平均)

図表 5  市町村国民健康保険の年齢階級別加入者

 (平成 22 年度平均)

ことが分かる。3つの階級の合計で、45.41%も占め

る。同様な傾向は、厚生労働省保険局編(2012)『平

成 22 年度 国民健康保険実態調査報告』からも確認で

きる(図表 6参照) *31。市町村国民健康保険制度と国

民健康保険組合の比較では、「国民健康保険組合は 60

歳未満のすべての年齢階級において、市町村国民健康

保険よりも構成比が高くなっている。一方で 65 歳以

上の被保険者の被保険者総数に占める割合は、市町村

国民健康保険 31.5%であるのに対し、国民健康保険

組合では 9.7%と 3分の 1以下となっている」 *32。

 市町村国民健康保険制度の世帯主の職業別構成割

合を見ると(図表 7参照)、2010(平成 22)年で、農

*31 以下では、厚生労働省保険局編(2012)『平成 22 年度 国民健康保険実態調査報告』のデータを中心に、加入者(被保険者)の状況、保険財政、公費負担などについて現状を確認する。また、厚生労働省(2012)「平成 24 年度全国高齢者医療・国民健康保険主管課(部)長及び後期高齢者医療広域連合事務局長会議資料」を参考にした。

*32 厚生労働省保険局編(2012)p.7 より引用。

図表 6 総人口および国保被保険者の年齢構成

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国民健康保険制度の現状と改革について 13

林水産業 2.8%、自営業者 12.4%、被用者 32.1%、その他 4.7%、無職 37.7%となっている。

昭和 40 年代には、農林水産業者と自営業者の合計で約 6割を占めていたが、最近では 15%

程度となっている。一方、無職者(年金生活者を含む)の割合は、大きく増加した。被用者

の割合も、約 2割から約 3割に増加している *33。次に、世帯の所得階級別分布を見ると(図

表 8参照)、所得のない世帯の市町村国民健康保険制度の全世帯に占める割合は、27.6%で

ある。所得のある階級の中では、100 万円以上 150 万円未満の階級が 13.3%と一番割合が

高くなっている。所得なしと所得 100 万円未満の階級の合計で 53.8%の割合となり、国民

健康保険制度では被保険者世帯全体の内、低所得世帯が大半を占めている。

3 - 3 保険財政

 市町村国民健康保険の 2011(平成 23)年の保険者数は、1,717 であり、単年度収支差で

黒字の保険者数(割合)は 917(53.4%)、赤字の保険者数は 800(46.6%)である。赤字の

*33 厚生労働省(2012)「平成 24 年度全国高齢者医療・国民健康保険主管課(部)長及び後期高齢者医療広域連合事務局長会議資料」の《保険局国民健康課説明資料》p.20 参照。

図表 7 市町村国保の世帯主の職業別構成割合の推移

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14 Vol. 13  No. 1

保険者の内、前年度から継続して赤字の保険者数は 475 である(図表 9参照)。よって、赤

字保険者が多く、財政状況は深刻である。市町村国民健康保険制度の財政イメージ図(図表

10 参照)にあるように、枠組みとして医療給付費等総額の 50%は被保険者の保険料で、残

りの 50%は公費で賄うようになっている。ただし、前期高齢者の被保険者が多い市町村国

民健康保険制度の場合には、前期高齢者交付金も入ってくるので、それを含めて財源が手当

されている形になっている。厳密には保険料の 50%の部分にも、財政基盤強化策として保

険料軽減の対象となる低所得者数に応じた財政支援(保険者支援制度)や高額医療費共同事

業など公費が含まれている。

図表 8 世帯の所得階級別世帯数の分布(市町村)

図表9  単年度収支差の黒字・赤字保険者数

新規赤字保険者数

継続赤字保険者数

平成19 1,804 521 28.9 1,283 71.1 576 707

20 1,788 976 54.6 812 45.4 222 590

21 1,723 808 46.9 915 53.1 457 458

22 1,723 820 47.6 903 52.4 373 530

23 1,717 917 53.4 800 46.6 325 475

[出所]厚生労働省(2013)「平成23年度国民健康保険(市町村)の財政状況 =速報=」p.4表2より抜粋

赤字保険者の内訳

年度 保険者総数黒字保険者数

割合%赤字保険者数

割合%

図表 9 単年度収支差の黒字・赤字保険者数

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国民健康保険制度の現状と改革について 15

3 - 3- 1 保険料(税)

 市町村国民健康保険の保険料は、世帯単位で賦課徴収される。保険料率は、応益割(応益

負担に基づく保険料率)と応能割(応能負担に基づく保険料率)から構成されている。応益

割と応能割は、大体 50 対 50 の割合となっている。具体的には、応益割は、被保険者均等

割、世帯別平等割で賦課され、応能割は、所得割、資産割で賦課される。市町村によって被

保険者均等割、世帯別平等割、所得割、資産割、それぞれの割合は異なる。また、保険料で

はなく、国保健康保険税という形で税として賦課徴収している市町村もある *34。国民健康保

険税の場合も、税率の算定は、保険料率の場合と同様である *35。2010(平成 22)年度で見

ると、保険料を賦課徴収している市町村数は 238 で、国民健康保険税を賦課徴収している

市町村は 1,512 である(図表 11 参照)。税として賦課徴収している市町村の方が圧倒的に多

*34 市町村は、徴収を保険料でするか、国民健康保険税でするかを自由に選択できる。市町村の一部事務組合や広域連合の場合には、課税権がないので、それぞれに加入している市町村が課税主体となり、分賦金に充てるための国民健康保険税を課すことになる(地方税法第 703 条の 4第 1項参照)。

*35 徴収の時効は、保険料の場合は 2年、国民健康保険税の場合は 5年と異なるなど、保険料と国民健康保険税では違いもある。

図表10 市町村国民健康保険制度の財政のイメージ(平成24年改正後)

調整交付金(国)(9%)

7,000億円

保険料定率国庫負担

3兆2,000億円 (32%)2兆4,000億円

財政基盤強化策公費2,000億円

財政安定化支援のための地財措置1,000億円

都道府県調整交付金保険料軽減制度 (9%)

4,000億円 7,000億円←       保険料50%        → ←        公費50%         →

(注)法定外一般会計繰入は、平成22年度実績ベース。

[出所]

前期高齢者交付金

3兆4,000億円

(法定外一般会計繰入 3,600億円)

医療給付費等総額:約11兆1,000億円(24年度予算)

厚生労働省(2012)「平成24年度全国高齢者医療・国民健康保険主管課(部)長及び後期高齢者医療広域連合事務局長会議資料」より。ただし、一部変更している。

図表 10 市町村国民健康保険制度の財政のイメージ(平成 24 年改正後)

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16 Vol. 13  No. 1

いが、保険料として徴収している市町村もあるので、以下本稿では、保険料と税を合わせ

て、保険料(税)と表記する。

 保険料(税)の賦課総額は、保険給付費のほか、高齢者の医療の確保に関する法律の規定

による前期高齢者納付金等及び同法の規定による後期高齢者支援金等並びに介護保険法の規

定による納付金(介護納付金)の納付に要する費用を含んだ国民健康保険に要する費用の合

計額に基づいて算定される *36。それゆえ、保険料(税)率は、医療の保険給付費分、後期高

齢者支援金分、介護納付金分の合計額となる *37。具体的には、国民健康保険に要する費用か

ら、国庫負担金等(前期高齢者交付金があれば、それも含む)を控除した金額を予定収納率

で割った額が、保険料(税)の賦課総額である。保険料(税)の賦課総額を、市町村の選

択 *38 によって、被保険者均等割、世帯別平等割、所得割、資産割に按分して *39、それぞれ

の賦課総額を算定する。被保険者均等割額と世帯別平等割額は、それぞれ被保険者均等割総

額を一般被保険者数で按分、世帯別平等割総額を一般被保険者の世帯数で按分することで算

定される。所得割額は、所得割総額を被保険者に係る課税総所得金額で按分して算定され

る *40。資産割額は、被保険者に係る固定資産税額等で按分して算定される。こうして算定さ

*36 財源不足だからといって、保険給付費を削減できないので、国民健康保険事業の支出見込み額に基づいて、保険料(税)を賦課するのである。

*37 要するに、国民健康保険制度の保険料(税)は、保険料(税)に介護保険料(40 歳以上 65 歳未満の場合)や後期高齢者医療制度支援金を含めて徴収される。

*38 賦課方式には、4方式(被保険者均等割、世帯別平等割、所得割、資産割を組み合わせる方式)、3方式(被保険者均等割、世帯別平等割、所得割を組み合わせる方式)、2方式(被保険者均等割、所得割を組み合わせる方式)のどれかを選択できる。

*39 賦課総額に対する標準割合が定められている。4方式の場合は、被保険者均等割総額 100 分の 35、世帯別平等割総額 100 分の 15、所得割総額 100 分の 40、資産割総額 100 分の 10 である。3方式の場合は、被保険者均等割総額 100 分の 35、世帯別平等割総額 100 分の 15、所得割総額 100 分の 50 である。2方式の場合は、被保険者均等割総額 100 分の 50、所得割総額 100 分の 50 である。

*40 所得割額の算定は、旧ただし書き方式、本文方式、市町村民税の所得割額によることができる。さらに、保険料で賦課徴収する場合には、市町村民税額、道府県民税額(都民税を含む)によって按分することもできる。

図表11 国民健康保険の賦課を保険料又は保険税で行う市町村数

A B A+B

1,512 238 1,750 0 5 26 7

(注)次の団体については、構成市区町村をそれぞれ一市町村として集計した。   イ 東京都特別区   ロ 構成市町村が税を賦課徴収する一部事務組合である和歌山県御坊市外三ヶ町国民健康保険事務組合(御坊市、美浜町、日高町、日高川町川辺地区)   ハ 構成市町村が税を賦課徴収する広域連合である北海道空知中部広域連合 (歌志内市、奈井江町、上砂川町、浦臼町、新十津川町、雨竜町)   ニ 構成市町村が税を賦課徴収する広域連合である北海道後志広域連合 (島牧村、黒松内町、蘭越町、ニセコ町、真狩村、留寿都村、喜茂別町、京極町、     倶知安町、共和町、泊村、神恵内村、積丹町、古平町、仁木町、赤井川村)   ホ 構成市町村が料を賦課徴収する広域連合である北海道大雪地区広域連合(東川町、美瑛町、東神楽町)   ヘ 構成市町村が料を賦課徴収する広域連合である山形県最上地区広域連合(金山町、真室川町、鮭川村、戸沢村)

[出所]総務省(2012)「平成23年度 市町村税課税状況等の調(国民健康保険関係)」第1表 国民健康保険の加入者の状況等に関する調 1市町村数より

Bのうち一部事務組合等を組織する市町村数

国民健康保険税を賦課徴収している市町村数

国民健康保険料を賦課徴収している市町村数

市 町 村 数 計国民健康保険事業を実施していない市町村数

一部事務組合等数Aのうち一部事務組合等を組織する市町村数

図表 11 国民健康保険の賦課を保険料又は保険税で行う市町村数

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国民健康保険制度の現状と改革について 17

れた被保険者均等割額、世帯別平等割額、所得割額、資産割額は、それぞれの保険料(税)

率に相当する。

 世帯主(ただし、被保険者でない世帯主を除く)及びその世帯に属する被保険者について

算定した被保険者均等割額、世帯別平等割額、所得割額、資産割額の合算額が、その世帯に

対する保険料(税)の賦課額となる。保険料(税)には、賦課限度額が定められている。医

療の保険給付費分は、51 万円、後期高齢者支援金分は 14 万円、介護納付金分は 12 万円が

限度額となっている。また、所得水準の低い被保険者に対しては、応益割(被保険者均等

割、世帯別平等割)に関して、7割軽減、5割軽減、2割軽減など保険料(税)を軽減する

制度がある。倒産、解雇などによる突然の失業者の保険料(税)の算定では、前年の給与所

得を 100 分の 30 とみなして保険料(税)を軽減する特例制度もある *41。その他、国民健康

保険法の第 77 条 *42 によれば、保険者は、特別の理由のある者の保険料の減免や徴収の猶予

等が出来る。

3 - 3- 2 保険給付費

 第 3- 1 節では保険給付の内容について説明したが、一般被保険者の療養の給付に要す

る費用(ただし、一部負担金の額を控除)や、入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険

外併用療養費、療養費、訪問看護療養費、特別療養費、移送費、高額療養費、高額介護合算

療養費の支給に要する費用の合計額を、保険給付費(或いは医療給付費)と呼ぶ。国民健康

保険制度の保険給付費が支出に占める割合は、2010(平成 22)年度で 68%である(図表

12 参照) *43。

 保険給付費は、被保険者の医療需要に応じて変動するので、支出額を収入額で抑えられる

ものではないという性質がある。すなわち、収入を見て支出を調整することはできない。保

険者は医療需要(保険給付費)に見合った収入(公費負担を含む)を確保しなければならな

い。したがって、市町村国民健康保険制度の予算では、保険給付費の見積りが大変重要なも

のとなる。2010(平成 22)年度の市町村国民健康保険制度の保険給付費は、88,291 億円で

ある(図表 13 参照)。一方、保険料(税)は、29,861 億円である。この支出と収入の差を

埋めるのが、以下に説明する公費負担や交付金である。

*41  2010(平成 22)年 4月から設けられた。*42 「保険者は、条例又は規約の定めるところにより、特別の理由がある者に対し、保険料を減免し、又はその徴収を猶予することができる。」(国民健康保険法第 77 条)

*43 図表 12 の収入、支出には、市町村国民健康保険制度だけでなく国民健康保険組合を含んでいる。

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18 Vol. 13  No. 1

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図表 12 平成 22 年度収支状況(事業勘定)内訳(総数)

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国民健康保険制度の現状と改革について 19

図表 13 国民健康保険の収支状況(市町村)=確定ベース=

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20 Vol. 13  No. 1

3 - 4 公費負担

 市町村国民健康保制度への医療給付費等に対する公費負担 *44 の 50%は、国の財政調整交

付金(9%)、定率国庫負担金(療養給付費負担金)(32%)、都道府県調整交付金(9%)で

ある(図表 10 参照)。その他、保険基盤安定等負担金などの法定されたものと市町村の独

自の法定外の公費負担(地方財政措置のない市町村の一般会計からの繰入れ金)がある。こ

のような公費負担をしているのは、市町村国民健康保険制度では他の被用者保険のように保

険料の事業主負担がないことや、被保険者に負担能力の乏しい低所得者や医療給付費等が相

対的に高い高齢者を多く含むために、保険料(税)だけで市町村が国民健康保険事業を行う

ことが困難であるという事情がある。また、「保険者間の財政力の格差を調整する必要があ

ることなど」も理由としてある *45。以下では、公費負担のそれぞれを簡単に説明する。

(定率国庫負担金)

 定率国庫負担とは、療養給付費負担金、前期高齢者納付金負担金、後期高齢者支援金負担

金、介護納付金負担金の合計額のことである。定率国庫負担は、国が市町村の国民健康保険

特別会計に投入する公費(税金)である。その額は、①一般被保険者の療養の給付に要する

費用(ただし、一部負担金の額を控除)や、入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外

併用療養費、療養費、訪問看護療養費、特別療養費、移送費、高額療養費、高額介護合算療

養費の支給に要する費用の合計額(以下、本稿ではこれを医療給付費と呼ぶ)から国民健康

保険法第 72 条の 3第 1項の繰入金(保険基盤安定制度のための一般会計繰入金)の 2分の

1相当額を控除した額、②前期高齢者納付金、③後期高齢者支援金、④介護納付金、の合計

額から前期高齢者交付金がある場合にはこれを控除した金額の 100 分の 32 である。

(財政調整交付金)

 財政調整交付金は、定率国庫負担では解消できない保険財政における市町村間の格差是正

のために設けられた交付金である。国が市町村に交付する。財政調整交付金には、普通調整

交付金と特別調整交付金がある *46。普通調整交付金は、市町村の財政力に応じて交付され、

特別調整交付金は、市町村に災害など特別な財政需要があった場合 *47 に交付される。財政

調整交付金の総額は、①医療給付費から国民健康保険法第 72 条の 3第 1項の繰入金(保険

基盤安定制度のための一般会計繰入金)の 2分の 1相当額を控除した額、②前期高齢者納

付金、③後期高齢者支援金、④介護納付金、の合計額から前期高齢者交付金がある場合には

*44 より正確には、市町村の国民健康保険事業に投入される税金のことである。国民健康保険事業は、市町村の国民健康保険特別会計で経理されているので、その特別会計に投入される税金を公費負担と言う。

*45 社会保険実務研究所編(2010)p.502 参照*46 財政調整交付金(9%)は、普通調整交付金(7%)と特別調整交付金(2%)から構成される。*47 災害等で保険料(税)や一部負担金を減免した場合や療養給付費等が多額となった場合などに交付される。

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国民健康保険制度の現状と改革について 21

これを控除した金額から、前々年度の基準超過費用額 *48 を控除した額の 100 分の 9と国民

健康保険法第 72 条の 3第 1項の繰入金(保険基盤安定制度のための一般会計繰入金)の 4

分の 1に相当する額の合計額である *49。普通調整交付金は、国民健康保険の調整交付金の交

付額の算定に関する省令第 7条により、保険料(税)の収納割合が保険者の規模別に定め

た基準を下回る場合には、定められている減額率で減額される(図表 14 参照)。

(都道府県調整交付金)

 都道府県調整交付金は、都道府県がその都道府県内の各市町村の国民健康保険制度の保険

財政を調整するために交付するものである。2005(平成 17)年の三位一体の改革によって、

国から都道府県に税源移譲された際に、この都道府県調整交付金が設けられた。都道府県調

整交付金の総額は、①医療給付費から国民健康保険法第 72 条の 3第 1項の繰入金(保険基

盤安定制度のための一般会計繰入金)の 2分の 1相当額を控除した額、②前期高齢者納付

金、③後期高齢者支援金、④介護納付金、の合計額から前期高齢者交付金がある場合にはこ

れを控除した金額から、前々年度の基準超過費用額 *50 を控除した額の 100 分の 9である。

尚、都道府県による財政調整については、「都道府県調整交付金ガイドライン」を参考に、

各都道府県が自主的、主体的に条例で定めることになっている。

(保険基盤安定等負担金〈保険料(税)軽減分〉)

 保険基盤安定等負担金は、低所得者に対する保険料(税)の軽減額を公費で補填するもの

である。それは、市町村国民健康保険制度の財政基盤の強化を図る目的で設けられた保険基

*48 市町村の実績給付費が、地域の特別の事情を勘案してもなお被保険者の年齢構成等をもとに定める基準(基準給付費)を超える場合において、その基準を超える実績給付費の部分のこと。

*49 国民健康保険法第 72 条。*50 注 48 参照。

図表 14 別表第四(第七条関係)

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22 Vol. 13  No. 1

盤安定制度に基づく。市町村国民健康保険制度の加入者(被保険者)には低所得者が多く、

その結果、他の加入者(被保険者)の負担が相対的に重くなってしまう。この問題に対処す

るための制度が、保険基盤安定制度である。具体的には、市町村は、低所得者に対する保険

料(税)の軽減額を一般会計から国民健康保険特別会計に繰り入れるが、都道府県がその繰

入金の 4分の 3 を負担する。したがって、保険基盤安定等負担金〈保険料(税)軽減分〉

での公費負担は、都道府県が 4分の 3、市町村が 4分の 1ということになる。

(保険基盤安定等負担金〈保険者支援分〉)

 保険基盤安定等負担金には、保険基盤安定制度を拡充する目的で設けられた保険者支援制

度 *51 に基づく公費負担が含まれている。保険者支援制度は、保険料軽減の対象となった一

般被保険者数に応じて平均保険料の一定割合を公費負担して、低所得者を多く抱える保険者

を財政支援する制度である。保険基盤安定等負担金〈保険者支援分〉での公費負担は、国が

2分の 1、都道府県が 4分の 1、市町村が 4分の 1である。

(市町村への地方財政措置)

 市町村国民健康保険制度の財政安定化支援事業に基づく地方財政措置である。財政安定化

支援事業は、保険財政の健全化や保険料(税)負担の平準化のために、市町村が一般会計か

ら国民健康保険特別会計への繰入れに要する経費を支援する事業で、対象経費に対応する額

が地方交付税の基準財政需要額に算入される。これは市町村が保険料(税)で負担すべき保

険給付費を一般会計で補助することを一般的に認めるものではなく、保険者の責めに帰すこ

とのできない特別の事情に基づく要因に配慮して、限定的に認めているものだとされる。

尚、特別の事情とは、「①被保険者の応能割保険料(税)負担能力が低いこと、②病床数が

特に多いことによる医療費の増加、③被保険者の年齢構成が高齢者に偏していること」であ

る *52。

(高額医療費共同事業)

 高額医療費共同事業は、高額な医療費(1件 80 万円超)の発生による国保財政の急激な

影響の緩和を図るため、各市町村国保からの拠出金を財源として、都道府県単位で費用負担

を調整する事業である。高額医療費共同事業では、国及び都道府県は市町村の拠出金に対し

て 4分の 1ずつ公費負担をする。公費負担はないものの高額医療費共同事業と同様な都道

*51  2003(平成 15)年度に創設。2005(平成 17)年度までの暫定措置だったが、2005(平成 17)年 12月に、さらに 2009(平成 21)年度までの 4年間継続されることになった。そして、2009(平成 21)年度には、再び 4年間継続(2013(平成 25)年度まで)されることになった。そして、2012(平成 24)年の国民健康保険法の改正で、暫定措置が 1年延長されて 2014(平成 26)年度までになり、2015(平成 27)年度からは制度が恒久化されることになった。

*52 社会保険実務研究所編(2010)p.561 参照。

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国民健康保険制度の現状と改革について 23

府県単位の共同事業として、保険財政共同安定化事業 *53 がある。保険財政共同安定化事業

は、都道府県内の市町村国民健康保険間の保険料の平準化と保険財政の安定化を目的に、レ

セプト 1件 30 万円以上の医療費(2015(平成 27)年度からはすべての医療費に拡大) *54 に

ついて、都道府県内の全市町村国民健康保険が共同で負担する事業である。具体的には、県

内すべての市町村が拠出する財源で、費用負担を調整する *55。

(その他)

 上記のような公費負担の他に、直営診療施設に対する助成、保健事業に対する助成、広域

化等支援基金、国民健康保険団体連合会等補助金、市町村の一般会計から国民健康保険特別

会計への法定外の繰入金などがある。

3 - 5 支援金、拠出金、納付金と交付金

 市町村国民健康保険制度は、他の医療保険制度等に支援金等を出したり、他の医療保険制

度等から交付金を受けたりもする。例えば、高齢者の医療の確保に関する法律(1982(昭

和 57)年 8月 17 日法律第 80 号)の第 4章に規定されている後期高齢者医療制度では、後

期高齢者の医療給付費に関して、50%を公費負担、10%を後期高齢者からの保険料で賄い、

残りの 40%を被用者保険や国民健康保険制度からの後期高齢者支援金で賄っている。そし

て、後期高齢者医療制度の保険者である後期高齢者医療広域連合が、後期高齢者交付金とし

て受ける。市町村国民健康保険制度の各保険者が支払う後期高齢者支援金は、その年度の概

算後期高齢者支援金の額であるが実際には前々年度分を精算後の額になる。概算後期高齢者

支援金の額は、当該年度におけるすべての後期高齢者医療広域連合の保険納付対象額を、被

用者保険および国民健康保険制度のすべての加入者総数で除して得た額に、当該保険者の加

入者数を乗じて得た額である *56。

 高齢者の医療の確保に関する法律の第 3章には、前期高齢者に係る保険者間の費用負担

の調整が規定されており、「各保険者に係る加入者の数に占める前期高齢者である加入者 *57

の数の割合に係る負担の不均衡を調整するため、政令で定めるところにより、保険者に対し

て、前期高齢者交付金を交付する」(第 32 条参照)ことになっている。具体的には、加入

者に占める前期高齢者の割合が、全国平均よりも高い場合に前期高齢者交付金が交付され、

*53  2006(平成 18)年 10 月 1日から実施されている。*54 だだし、自己負担相当分を控除した額を対象とする。*55  2015(平成 27)年度から拠出割合は、医療費実績割 50、被保険者割 50 となる。ただし、都道府県が、市町村の意見を聴いて広域化等支援方針に定めることにより、変更可能である。

*56 社会保険実務研究所編(2010)p.507 を参照。「後期高齢者支援金については、各保険者における特定健康診査等の実施およびその成果に係る目標の達成状況、保険者の加入者の見込み数等を勘案し、100 分の 90 から 100 分の 110 の範囲内で政令で定めるところにより、加算・減算する仕組みが導入されている」。

*57 「65 歳に達する日の属する月の翌月(その日が月の初日であるときは、その日の属する月)以後である加入者であつて、75 歳に達する日の属する月以前であるものその他厚生労働省令で定めるものをいう。」

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24 Vol. 13  No. 1

全国平均よりも低い場合に前期高齢者納付金を支払うことになる。すなわち、前期高齢者交

付金の財源には、保険者からの前期高齢者納付金が充てられる。 前期高齢者交付金の額は、

概算前期高齢者交付金の額であるが実際には前々年度分を精算後の額になる。「概算前期高

齢者交付金の額は、当該年度における当該保険者の前期高齢者に係る医療給付費および後期

高齢者支援金(以下「前期高齢者に係る医療給付費等」という。)(A)から、これに当該保

険者の前期高齢者の加入率に対する全国平均の加入率を掛けて得た額(B)を差し引いた額

(マイナスの額となったときは零)である」 *58。前期高齢者納付金の額は、概算前期高齢者納

付金の額であるが実際には前々年度分を精算後の額になる。「概算前期高齢者納付金の額は、

原則として、(B)から(A)を差し引いた額(マイナスの額となったときは零。以下「負担

調整前概算前期高齢者納付金相当額」という)である」 *59。ただし、前期高齢者納付金の額

が、過大にならないようように一定の調整措置がある。

 介護保険制度の第 2号被保険者(40 歳歳以上 65 歳未満の加入者)に係る保険料に関し

て、その徴収の効率性から医療保険者が医療保険料と一括して賦課して徴収することになっ

ている。そして、医療保険者は、その介護保険料相当額を介護納付金として支払う。医療保

険者が支払う介護納付金の額は、その年度の概算納付金であるが、実際には前々年度分を精

算後の額となる。概算納付金の額は、「被保険者 1人当たり全国均一の額に各医療保険制度

に加入している第 2号被保険者の数を乗じた額」 *60 である。

 以上、市町村国民健康保険制度と他の医療保険制度等の間の資金移転として、後期高齢者

支援金、前期高齢者納付金、前期高齢者交付金、介護納付金を説明した。その他に、経過措

置としてある退職者医療制度(詳細は、第 5- 2 節を参照)に関わるもので、療養給付費

等交付金がある。療養給付費等交付金は、市町村国民健康保険制度の収入となる。

4.国民健康保険制度の構造的問題

 この節では、第 3節で確認した国民健康保険制度の現状を前提として、市町村の国民健

康保険制度が抱える構造的な問題について述べる。

4 - 1 保険料(税)収納率の低下と滞納対策

 市町村国民健康保険制度の問題の 1つは、保険料(税)収納率の低下である。保険料(税)

収納率の低下は保険財政を圧迫する。特に、近年の被保険者の高齢化に伴う保険給付の増加

*58 社会保険実務研究所編(2010)p.504 より引用。「1人当たりの前期高齢者の医療給付費が著しく高い保険者については、医療費適正化努力を促すため、交付金の算定上、当該保険者の前期高齢者に係る医療給付費等(A)から、一定の基準(標準偏差の 2倍に相当)を超える部分を調整対象から除外することとされている」(同 p.504 より引用)。

*59 社会保険実務研究所編(2010)p.504 より引用。*60 厚生労働協会編(2012)p.124 より引用。

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国民健康保険制度の現状と改革について 25

の中にあっては収納率の維持は重要である。図表 15 にあるように、保険料(税)収納率は

1973(昭和 48)年の 96.47%をピークに 1983(昭和 58)年の 93.40%まで低下したが、そ

こから回復して 1990(平成 2)年には 94.17%まで戻る。しかし、それ以降は再び低下を始

めて 2009(平成 21)年には 88.01%まで減少している。最近の 2010(平成 22)年は

88.61%、2011(平成 23)年は 89.39%と改善している。この改善は、「保険料(税)減免措

置の対象者の拡大により納付し易い環境となったこと等による」ものと言われている *61。

 保険料(税)の滞納対策として利用される国民健康保険被保険者の資格証明書であるが、

窓口での医療費を一旦全額自己負担しなくてはならない為に、病気であるにも関わらず医療

機関への受診を控えてしまって重症化したり、手遅れになってしまって亡くなる場合がある

との指摘がある。このことを指して、実質的に国民皆保険は崩壊していると言う論者もい

る。実際、通常の国民健康保険証を交付されている人(一般被保険者)と資格証明書を交付

されている人では、受診率に差がある。全国保険医団体連合会の調査 *62 によれば、資格証

明書を交付された人の受診率は一般被保険者の受診率と比較して、2003 年度 38 分の 1、

2004 年度 46 分の 1、 2005 年度 46 分の 1、 2006 年度 51 分の 1、2007 年度 52 分の 1、2008

年度 61 分の 1、2009 年度 73 分の 1である。資格証明書の場合に、受診が抑制されてしま

い保険給付が必要な時に得られないということでは、国民健康保険法の目的である「国民健

*61 厚生労働省(2013) p.5 及び坂本(2012)p.40 参照。2010(平成 22)年 4月 1 日から、雇用保険の特定受給資格者及び特定理由離職者である市町村国民健康保険制度の被保険者は、離職時から翌年度末までの間、前年の給与所得を 3割とみなして保険料(税)を算定することなった影響による。

*62 全国保険医団体連合会(2010)参照。

96.47

97

95.86 95.82 96.25

96.47 96.26

95.85 96

95.69

95.86 95.92

95.82 95.92 95.85

95.38

96

94.67 94.79

95.16 95.38

95.01 94.85 94.78

95

94.48 94.79 94.85 94.78

94.31 94.13 94.17 94.16 94

93.40

93.83 93.62

93.40 93.57 93.62 93.69

93.91 94.04 94.16

93.87

93.48 93.32

94

92.85

93.40 93.40 93.48

93.27 93.32

93.00 93 92.85

92.38 92

91.82

91.35

92 収納率(%)

91.38 91.35

90.87 91 90.87

90.39 90.21

90.15 90.39

90.49

91

90.21 90.09

90.39

89.39

90

89.39

89

88.35 88.61

89

88.35 88.01 88

87 87 1961 1966 1971 1976 1981 1986 1991 1996 2001 2006 2011

図表 15 保険料(税)の収納率(現年度分)の推移

[出所]厚生労働省(2013)「平成 23 年度国民健康保険(市町村)の財政状況=速報=」p.9 より作成

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26 Vol. 13  No. 1

康保険事業の健全な運営を確保し、もつて社会保障及び国民保健の向上に寄与すること」

(第 1条)は難しくなる。これは滞納対策として国民健康保険被保険者の資格証明書を利用

する際の問題点である。

 図表 16 の国民健康保険の滞納世帯数等の推移を見ると、2012(平成 24)年の滞納世帯

数は 3,889,486 世帯で、全世帯数 20,637,360 に占める割合は 18.8%である。また、短期被

保険者証交付世帯数は 1,240,659 世帯で、全世帯数 20,637,360 に占める割合は 6.0%である。

国民健康保険被保険者の資格証明書交付世帯数は 291,291 世帯で、全世帯数 20,637,360 に

占める割合は 1.4%である。過去の年を見ても、滞納世帯数の全世帯数に占める割合は、大

体 18.6%から 20.6%であり、短期被保険者証交付世帯の全世帯数に占める割合は、大体

4.3%から 6.1%、国民健康保険被保険者の資格証明書交付世帯数の全世帯数に占める割合は、

大体 1.3%から 1.6%である *63。

 第3-3-1節の中で述べたように、低所得者の被保険者に対しては、応益割に関して、

7割軽減、5割軽減、2割軽減など保険料(税)を軽減する制度がある。これは、国民健康

保険法の第 44 条第 1項「保険者は、特別の理由がある被保険者で、保険医療機関等に第 42

条又は前条の規定による一部負担金を支払うことが困難であると認められるものに対し、次

の各号の措置を採ることができる。1 一部負担金を減額すること。2 一部負担金の支払を免

除すること。3 保険医療機関等に対する支払に代えて、一部負担金を直接に徴収することと

*63  2008(平成 20)年に、滞納世帯の割合が 2割を超えたのは、「納付意欲の高い高齢者が後期高齢者医療制度へ移行した」ためである。(国保新聞第 2015 号参照)。

図表16 国民健康保険の滞納世帯数等の推移

平成17年 平成18年 平成19年 平成20年 平成21年 平成22年 平成23年 平成24年

全世帯数 (A) 24,897,226 25,302,112 25,508,246 21,717,837 21,446,473 21,136,752 20,711,375 20,637,360

滞納世帯数 (B) 4,701,410 4,805,582 4,746,032 4,483,271 4,419,923 4,364,282 4,146,368 3,889,486

割合 (B/A) 18.90% 19.00% 18.60% 20.60% 20.60% 20.60% 20.00% 18.80%

短期被保険者証交付世帯数 (C) 1,072,449 1,224,849 1,156,381 1,241,809 1,210,437 1,283,651 1,254,933 1,240,659

割合 (C/A) 4.30% 4.80% 4.50% 5.70% 5.60% 6.10% 6.10% 6.00%

被保険者資格証明書交付世帯数 (D) 319,326 351,270 340,285 338,850 310,860 306,584 295,957 291,291

割合 (D/A) 1.30% 1.40% 1.30% 1.60% 1.40% 1.50% 1.40% 1.40%

(注1)各年6月1日現在の状況。

(注2)全世帯数は平成19年までは各年3月31日現在(国民健康保険事業年報より)、平成20年以降は6月1日現在の状況である。

(注3)平成19年以降の滞納世帯数は6月1日現在で国民健康保険の資格を有する世帯とすることを明確化したところであり、18年までとの比較には注意を要する。

(注4)平成23年の数値に福島県の一部の町(広野町、楢葉町、富岡町、大熊町、双葉町、浪江町及び新地町)については含まれていない。

(注5)平成24年は速報値。

[出所]厚生労働省(2013)「平成23年度国民健康保険(市町村)の財政状況 =速報=」p.12より

図表 16 国民健康保険の滞納世帯数等の推移

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国民健康保険制度の現状と改革について 27

し、その徴収を猶予すること。」を根拠とした制度である。滞納世帯数の増加は、市町村国

民健康保険制度の保険財政にとって好ましいことではないので、保険料(税)の軽減措置に

より、多少でも実質的な保険料(税)収入を確保することが賢明である。

4 - 2 高齢化と無職や非正規雇用の労働者(低所得者)の増加

 市町村国民健康保険では、被保険者の平均年齢は 49.7 歳で、他の医療保険制度の平均年

齢(組合健保 34.0 歳、協会けんぽ 36.3 歳)より高く、中高年齢層が多いことが分かる *64。

それゆえ、1人当たり医療費(保険給付費)も高額になる(図表 17 参照)。それだけの保険

給付を行えるだけ歳入が安定的に確保できるのであれば問題ないが、第 3- 2 節で述べた

ように市町村国民健康保険は被用者保険の対象とならない無職者や低所得である非正規雇用

の労働者が多く、社会保険でありながら、保険料収入で保険給付費を十分に賄えない状況で

ある。実際、市町村国民健康保険制度の加入世帯での無所得世帯の割合は、2012(平成 24)

*64  2010(平成 22)年度の平均年齢。

図表 17 各保険者の比較

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28 Vol. 13  No. 1

図表 18 市町村国保の被保険者(75 歳未満)の年齢構成の推移

2010(平成22)年度

年齢階級 国民医療費(千円)総数 292.2

 0~4歳 232.8  5~9 122.1

10~14 84.115~19 68.720~24 75.725~29 95.630~34 111.435~39 122.240~44 140.045~49 173.150~54 219.655~59 282.660~64 369.065~69 466.370~74 625.875~79 771.780~84 893.0

85歳以上 1,029.1

[出所]厚生労働省大臣官房統計情報部編『平成22年度 国民医療費』p.45より抜粋

図表19  年齢階級別人口一人当たり国民医療費図表 19  年齢階級別人口一人当た

り国民医療費

[出所]厚生労働省大臣官房統計情報部編『平成 22 年度 国民医療費』p.45 より抜粋

年度で 23.4%、保険料軽減世帯の割合は、47.9%と

なっている *65。無職者や非正規雇用の労働者(低所

得者)の被保険者割合が増加すると、保険料収入は

減少する。一方で、市町村国民健康保険制度の加入

者(被保険者)に占める高齢者の割合(高齢者の加

入率)の上昇(図表 18 参照)は、年齢階級が高い

ほど一人当たり医療費(保険給付費)が高い(図表

19 参照)ので、医療費(保険給付費)総額が増加

することになる。これらのことは、市町村国民健康

保険制度の保険財政をより厳しくする。

4 - 3 医療費と保険料(税)の地域間格差

 市町村国民健康保険では、保険給付に必要な財源

は、公費負担の割合を加味しながら基本的には保険

料(税)率を調整することで調達して帳尻を合わせ

る。したがって、医療費が大きい市町村では、所得

*65 坂本(2012)p.41 の図を参照。

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国民健康保険制度の現状と改革について 29

水準が一定であるならば、それに連動して保険料率(税)も高くなる。当該の市町村の被保

険者の中での受益者負担という意味では、公平だが、他の市町村の被保険者の保険料(税)

負担との格差があまりに大きい場合は、被保険者間の公平性が問題となる。個々人が、同じ

疾病リスク(医療サービス受給の可能性)があるとすれば、そのリスクをカバーする保険料

(税)率に地域間格差があることは、加入する保険者を選択できない強制加入という状況で

は、被保険者にとって公平な保険とは言えないだろう。それでは、実際にどの程度の保険料

(税)や医療費に地域間格差があるか、以下で確認する。

4 - 3- 1 医療費の地域間格差

 厚生労働省保険局編(2012)『平成 22 年度 国民健康保険事業年報』によれば、2010(平

成 22)年度の保険者別 1人当たり医療費の上位と下位は、図表 20 のようになっている。上

位の第 1位は、北山村(和歌山)の 541,616 円、第 2位は、馬路村(高知)の 531,513 円、

第 3位は、北川村(高知)の 506,084 円である。一方、下位の第 1位は、小笠原村(東京)

の 160,031 円、第 2 位は、座間味村(沖縄)の 165,320 円、第 3 位は、竹富町(沖縄)の

168,656 円である。保険者別 1人当たり医療費の分布は、図表 21 の②にあるように、全国

平均は 299,333 円であり、上位の側に裾が伸びた分布になっている。保険者別 1人当たり医

療費の最高の北山村(和歌山)と最低の小笠原村(東京)との格差は、3.4 倍であり、標準

偏差は、46,855 円である。次に、2010(平成 22)年度の都道府県別 1人当たり医療費を見

てみると、上位の第 1位は、山口県の 364,350 円、第 2 位は、香川県の 362,151 円、第 3

位は、広島県の 360,409 円である。一方、下位の 1位は、沖縄県の 251,282 円、第 2位は、

茨城県の 255,242 円、第 3位は、千葉県の 265,834 円である。都道府県別 1人当たり医療費

の最高の山口県と最低の沖縄県との格差は、1.4 倍であり、標準偏差は、31,997 円である。

以上の結果から、一人当たり医療費の格差を下げる(平準化する)には、市町村国民健康保

険制度の都道府県単位化は望ましい方向である。

 厚生労働省保険局調査課(2012)「平成 22 年度 医療費の地域差分析」によれば、医療費

の地域差要因として、(1)人口の年齢構成、(2)病床等医療供給体制、(3)健康活動の状

況、健康に対する意識、(4)受診行動、(5)住民の生活習慣、(6)医療機関側の診療パター

ンなど様々であると指摘して、(1)の人口の年齢構成の相違による分を補正して、地域の 1

人当たり医療費を指数化(全国を 1)している。その地域差指数の分析結果は、「診療種別

計では佐賀県が最も高く 1.187、茨城県が最も低く 0.892 となっている。入院は長崎県が最

も高く 1.400、千葉県が最も低く 0.826、入院外は広島県が最も高く 1.150、群馬県が最も低

く 0.924、歯科は大阪府が最も高く 1.224、沖縄県が最も低く 0.785 となっている。地域差

指数の診療種別及び年齢階級別寄与度をみると、診療種別では入院の寄与度が比較的大き

く、年齢階級別では、60 歳以上の寄与度が比較的大きい。また、地域差指数の高い都道府

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30 Vol. 13  No. 1

図表 20  都道府県別、保険者別 1人当たり医療費(上位・下位)市町村国保・計(平成 22年度)

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国民健康保険制度の現状と改革について 31

図表 21 1 人当たり医療費の地域格差(平成 22 年度)

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32 Vol. 13  No. 1

県について地域差指数の三要素別寄与度をみると、入院の受診率の寄与度が大きい。また、

1日当たり医療費の寄与度(入院、入院外分の合計)は概ねマイナスであり、1件当たり日

数の寄与度(入院、入院外分の合計)は概ねプラスとなっている。さらに、入院の地域差指

数について疾病分類別寄与度をみると「精神及び行動の障害」及び「神経系の疾患」の寄与

度が大きくなっている。」 *66 とまとめられている。これより、1人当たりの医療費の地域間

格差は、人口の年齢構成の相違以外の要因も、大きく影響していることが分かる。

4 - 3- 2 保険料(税)の地域間格差

 厚生労働省保険局編(2012)『平成 22 年度 国民健康保険事業年報』によれば、2010(平

成 22)年度の保険者別 1人当たり保険料(税)調定額の上位と下位は、図表 22 のように

なっている。上位の第 1位は、猿払村(北海道)の 141,650 円、第 2位は、羅臼町(北海

道)の 129,927 円、第 3 位は、大潟村(秋田)の 127,645 円である。一方、下位の第 1位

は、粟国村(沖縄)の 31,242 円、第 2位は、伊平屋村(沖縄)の 32,432 円、第 3位は、三

島村(鹿児島)の 34,238 円である。保険者別 1人当たり保険料(税)調定額の分布は、図

表 23 の②にあるように、全国平均は 81,021 円であり、比較的平均の周りに集中した分布に

なっている。保険者別 1人当たり保険料(税)調定額の最高の猿払村(北海道)と最低の

粟国村(沖縄)との格差は、4.5 倍であり、標準偏差は、14,101 円である。次に、2010(平

成 22)年度の都道府県別 1人当たり保険料(税)調定額を見てみると、上位の第 1位は、

栃木県の 88,516 円、第 2位は、群馬県の 87,422 円、第 3位は、滋賀県の 87,345 円である。

一方、下位の第 1位は、沖縄県の 53,524 円、第 2位は、鹿児島県の 67,573 円、第 3位は、

岩手県の 69,398 円である。都道府県別 1人当たり保険料(税)調定額の最高の栃木県と最

低の沖縄県との格差は、1.7 倍であり、標準偏差は、6,619 円である。以上の結果から、1人

当たり保険料(税)調定額の格差を下げる(平準化する)には、市町村国民健康保険制度の

都道府県単位化は望ましい方向である。

4 - 4 所得水準と保険料負担

 市町村国民健康保険制度の 2010(平成 22)年度の加入者(被保険者)の一人当たり平均

所得は 84 万円であり、協会けんぽの 137 万円、組合健保の 195 万円、共済組合の 229 万円

と比較すると、市町村国民健康保険制度の加入者(被保険者)の所得水準は低いことが分か

る(図表 17 参照)。加入者(被保険者)の所得水準が低いということは、当然に保険料(税)

の収入も少なくなるので、保険財政にとっては厳しい問題である。また、保険料負担という

ことでは、被用者保険の場合には、保険料は原則として事業主と被保険者が折半で負担して

いるが、市町村国民健康保険制度の場合には、世帯主(被保険者)が保険料を負担して、事

*66 厚生労働省保険局調査課(2012)「平成 22 年度 医療費の地域差分析」p.4 より引用。

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国民健康保険制度の現状と改革について 33

図表 22  都道府県別、保険者別 1人当たり保険料(税)調定額(上位・下位)市町村国保・計(平成 22 年度)

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図表 23 1 人当たり保険料(税)調定額の地域格差(平成 22 年度)

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国民健康保険制度の現状と改革について 35

業主負担に相当するものがない。それゆえ、療養給付費負担金などの国からの財政支援があ

るけれども、相対的に市町村国民健康保険制度の被保険者にとって保険料の負担は重くなっ

てしまう *67。被保険者の所得水準が低い場合は、なおさら負担が重くなるだろう。また、保

険料の軽減を受ける低所得者の増加は、軽減措置を受けないそれ以外の被保険者の保険料負

担を相対的に押し上げてしまう。

4 - 5 保険者の規模と保険財政

 2010(平成 22)年 9月末現在、市町村国民健康保険制度で、被保険者数 3,000 人未満の

保険者数は 417 であり、保険者全体の 24.2%を占めている。国民健康保険組合で、被保険

者数 3,000 人未満の保険者数は 51 であり、保険者全体の 30.9%を占めている *68。したがっ

て、保険者が小規模のために、保険財政が不安定となる。それゆえ、都道府県単位化の推進

は、市町村の保険者が小規模であるための保険財政の不安定性を緩和する。

 また、市町村国民健康保険制度の保険財政の安定化のために、第3-4節で説明したよう

に、国や都道府県の公費負担がなされている。定率国庫負担では、医療給付費等の 100 分

の 32 が国庫負担されるので、医療給付費が増大した時に、その割合で比例的に収入が確保

されるという性質がある。そのため、不正な請求や過剰な診療行為・投薬の診療報酬請求等

のレセプトをチェック *69 したり、被保険者の保健指導を実施するなどして支出を削減する

といった市町村の保険者機能のインセンティブ(費用効率化へのインセンティブ)が公費負

担の割合だけ削がれる可能性がある。すなわち、市町村国民健康保険制度の保険財政での非

効率性(ソフトな予算制約)の問題である。湯田(2010)は、保険者別データを用いた国

民健康保険支出の費用関数の推計結果により、特に加入者の高齢化による影響が、国民健康

保険財政の非効率性の拡大に最も大きな影響を与えていると指摘する。さらに、国民健康保

険財政にソフトな予算制約問題が存在することを示唆する結果を示している。

4 - 6 その他

 その他、市町村国民健康保険制度の保険財政に関する問題として、市町村の一般会計から

の法定外の繰入金や繰上充用金がある。法定外繰入金は、被保険者ではない一般の住民から

の租税を市町村の国民健康保険特別会計に投入することになり、市町村の保健事業や事務費

に係る負担を除き、保険の原理に反して問題である。実際、一般会計からの法定外繰入金の

中、市町村の国民健康保険特別会計の決算補填を目的としたものが、2012(平成 22)年度

*67 池上他(2011)も、「国民健康保険の保険料率の平均は、大企業従事者の健康保険組合の保険料率の平均の 3倍となっている」(p.50)と指摘している。

*68 厚生労働省保険局編(2012)『平成 22 年度 国民健康保険実態調査報告』p.12、p13 参照。*69 国民健康保険のレセプトのチェックは、都道府県ごとに設立された国民健康保険団体連合会(保険者が共同してその目的を達成するために組織する公法人)が行っている。

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で 3,583 億円もある。また、繰上充用金も、翌年度の保険料(税)等の収入を先食いするも

ので、地方自治法第 243 条の 5及び地方自治法施行令第 166 条の 2で認められているもの

の、その性質上、予算編成時には予想されなかった支出増加や収入減少などのように特別な

事情の場合以外、好ましいものではない。市町村の国民健康保険特別会計の 2012(平成

22)年度の支出に計上された前年度繰上充用金は、1,811 億円である。ただし、一般会計か

らの法定外の繰入金と比べれば、繰上充用金の場合は、会計年度を超えるが被保険者に対す

る保険給付と負担の関係が保たれるだけ良い。

5.国民健康保険制度の改革

 前節で述べたような国民健康保険制度の構造的問題に対処するために、少しずつだが制度

改革が行われたてきた。ここでは、それらの制度改革について最近の動向を概観する。

5 - 1 国民健康保険被保険者の資格証明書

 2000(平成 12)年から特別な事情なく 1年以上滞納した世帯に、保険証の代わりに資格

証明書を交付することが、市町村に義務付けられた。その結果、資格証明書を交付された世

帯主に扶養されている子供達が無保険に近い状態になる事態が生じた。窓口での全額自己負

担のために、医療が必要な子供を医療機関に受診させるのを親が控えてしまうからである。

資格証明書は滞納対策であったが、子供の受診抑制は大きな問題となり、国民健康保険法が

改正 *70 されて、子供の属する世帯が資格証明書であっても、義務教育以下の子供には 6ヵ

月有効な短期被保険者証を交付することになった。さらに、2010(平成 22)年 7月からは、

短期被保険者証の交付対象が 15 歳から 18 歳までにも拡大された。

5 - 2 退職者医療制度

 退職者医療制度(1984 年創設)は、各医療保険制度間の負担の格差是正のために導入さ

れた制度である。定年退職後、被用者保険を離れて市町村国民健康保険制度に加入する高齢

者の医療費負担が重く、市町村国民健康保険制制度の保険財政を圧迫していた。そこで市町

村国民健康保険制度の極端な負担の解消を目指して、退職者医療制度が導入された。退職者

医療制度のもとでは、定年退職後に被用者保険を離れて市町村国民健康保険制度に加入した

被保険者とその扶養者(退職被保険者等)の医療費(保険給付費)の内、退職被保険者等の

保険料(税)以外は療養給付費等交付金で賄われる。療養給付費等交付金は、被用者保険等

の保険者の拠出が財源となっているので、市町村国民健康保険制度の医療費(保険給付費)

の負担は緩和される。

 退職者医療制度は、2008(平成 20)年 4月に前期高齢者財政調整の仕組みが出来たこと

*70  2009(平成 21)年 4月 1日施行。

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国民健康保険制度の現状と改革について 37

で廃止された。ただし、経過措置 *71 として一定の条件の 65 歳未満の退職被保険者等 *72 の

みに対して存続している。

5 - 3 前期高齢者財政調整

 2008(平成 20)年 4月の後期高齢者医療制度の導入に伴い、65 歳から 75 歳未満の前期

高齢者を対象として、医療保険者間で財政調整(前期高齢者財政調整)を行う仕組みが設け

られた *73。他の医療保険制度と比較して、被保険者に占める前期高齢者の割合が高い市町村

国民健康保険では、前期高齢者納付金よりも前期高齢者交付金が多くなりネットで受け取り

となることが多い。その意味では、前期高齢者財政調整も、市町村国民健康保険制度の保険

財政の負担を緩和する。

5 - 4 後期高齢者医療制度

 市町村国民健康保険の財政基盤を強化する(保険財政の問題を緩和する)目的で、高齢者

の医療の確保に関する法律(2006 年 6 月 21 日成立)により、後期高齢者医療制度が創設さ

れた。これにより 2008(平成 20)年 4月から高齢者の医療制度は、老人保健制度から後期

高齢者医療制度に移行した *74。後期高齢者医療制度では、保険者は都道府県単位の後期高齢

者医療広域連合であり、75 歳以上の人がすべて加入して被保険者となる *75。医療費の 1割

が自己負担、ただし、現役並みの所得がある場合は、3割自己負担となっている。国民健康

保険のように世帯単位ではなく、個人単位で保険料(均等割、所得割)が徴収される。

 75 歳以上で市町村国民健康保険制度の被保険者だった人はすべて、後期高齢者医療制度

に移行したので、市町村国民健康保険制度の被保険者は、75 歳未満だけで構成されること

になった。それゆえ、75 歳以上の高齢の被保険者に対する医療費(保険給付費)の負担(老

人保健制度への拠出金)がなくなったので、その分だけ市町村国民健康保険制度の保険財政

の状況が改善された。もちろん、後期高齢者支援金の負担が新たに生じるので、どの程度

ネットで改善されるかは個々の保険者で異なるだろう。

*71  2014(平成 26)年まで存続する。これは、団塊の世代が大量に退職して、65 歳未満の退職者が大量に市町村国民健康保険に加入する見込みだったので、市町村国民健康保険制度の財政基盤の安定化を図るための措置である。

*72 被用者年金の老齢(退職)年金または通算老齢(退職)年金の受給権者およびその被扶養者である。*73 前期高齢者財政調整とは、各医療保険者の財政負担を加入者数に応じて調整する仕組みである。後期高齢者医療制度とは違って、個々の人は、そけぞれの医療保険の被保険者のままである。

*74 後期高齢者医療制度の導入に伴い、従来の老人保健制度は廃止された。老人保健制度は、その医療費(保険給付)は、公費や被用者保険や市町村国民健康保険制度からの拠出金で賄われていたが、「①拠出金のなかで現役世代と高齢世代の保険料が区分されておらず、現役世代と高齢世代の費用負担関係が不明確である②高齢者に対する医療の給付は市町村が行う一方、その財源は公費と保険者からの拠出金により賄われているため、保険者が保険料の決定や給付を行う国民健康保険や被用者保険と比較して財政運営の責任が不明確である点が問題点として指摘されていた。」(健康保険組合連合会編(2009)p.74 より引用)

*75 だだし、生活保護受給者は、除外される。生活保護受給者には、医療扶助により医療が提供される。また、65 歳以上 75 歳未満の障害認定者も、後期高齢者医療制度の被保険者となる。

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38 Vol. 13  No. 1

5 - 5 社会保障と税の一体改革

 「社会保障・税一体改革大綱」(平成 24 年 2月 17 日閣議決定)によって、社会保障と税

の一体改革が動き出した。この改革は、「社会保障の機能強化・機能維持のための安定財源

確保と財政健全化の同時達成を目指すものである」と謳われている。すなわち、「社会保障

の安定財源確保」と「財政健全化」の同時達成が目的である。そして、「安定財源確保」の

ためには、「全体として給付に見合う負担を確保」することが必要であり、さらに「給付・

負担両面で、人口構成の変化に対応した世代間・世代内の公平」の確保が必要である。それ

ゆえ、「社会保障・税番号制度の早期導入」や「消費税率の引上げ」が求められる。この社

会保障と税の一体改革の結果、「全世代を通じた国民生活の安心を確保する「全世代対応型」

社会保障制度 *76」が構築されるとする。この社会保障と税の一体改革に基づいて、2012(平

成 24)年に国民健康保険法も改正された *77。

 国民健康保険法の一部を改正する法律(2012(平成 24)年改正)によって、市町村の国

民健康保険制度の財政基盤強化策が恒久化される。すなわち、暫定措置(2010(平成 22)

年から 2013(平成 25)年まで)として導入されていた保険者支援制度や都道県単位の共同

事業である高額医療費共同事業と保険財政共同安定化事業が恒久化される *78。また、市町村

国民健康保険制度の財政運営を都道府県単位化へ推進するために、保険財政共同安定化事業

における事業対象がすべての医療費に拡大される *79。尚、この改正で 2012(平成 24)年 4

月 1日より、都道府県調整交付金が給付費等の 7%から引き上げられて、9%になった。同

時に、定率国庫負担(療養給付費負担金)が、給付費等の 34%から 32%に引き下げられた。

5 - 6 今後の改革に望まれること

 国民健康保険制度の保険財政を安定化させて、持続可能な制度とするためには、広域化の

推進は避けては通れない。これだけは、医療保険制度の抜本的な改革が出来ないにしても、

最低限しなくてはならない改革である。だだし、広域化にもいくつかのタイプがある *80。1

*76 「全世代対応型」社会保障制度とは、「給付は高齢世代が中心、負担は現役世代が中心という現在の社会保障制度を見直し、現役世代も含めた、全ての人がより受益を実感できる」社会保障制度のことである。

*77 社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うために、消費税法及び地方税法も 2012(平成 24)年 8月に改正された。この改正で、消費税の税率(地方消費税を含む)は、 2014(平成 26) 年4月 1日から 8%に、 2015(平成 27) 年 10 月 1日から 10%に引き上げられる。

*78 施行期日は、2015(平成 27)年 4月 1日である。財政基盤強化策(暫定措置)は、1年間延長されて平成 26 年までとなった。

*79 施行期日は、2015(平成 27)年 4月 1日。*80 広域化のタイプについて、本稿では 3つのタイプについて述べるが、島崎(2010)は、保険者を公法人(公共組合)とする都道府県単位の広域化を選択肢の 1つとして挙げている。これを含めれば、4つのタイプがある。島崎(2010)は、保険者の広域化の選択では、「国民健康保険の運営に被保険者の意思を適切に反映させるにはどのような方法がありうるかという観点が据えられるべきである」と述べ、国民健康保険の保険者を公法人とするという選択肢を排除すべきでないと主張する。

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国民健康保険制度の現状と改革について 39

つは、現在の保険財政安定化事業のように、市町村国民健康保険制度間の保険料平準化や財

政の安定を図るために、医療費について各市町村国民健康保険制度からの拠出金を財源とし

て、都道府県単位で費用負担を調整するような「保険財政の都道府県単位化」である。2つ

目は、市町村の広域連合が国民健康保険制度の保険者となる場合があるが、その広域連合を

各都道府県内の市町村全体で形成するようにした「都道府県単位の一元化」である *81。3 つ

目は、国民健康保険制度の保険者を、市町村や広域連合ではなく都道府県とする「保険者の

都道府県化」である。

 何れのタイプの広域化の改革も、被保険者数の少ない小規模な保険者や被保険者に占める

退職被保険者や無職被保険者の割合が高い保険者の保険財政を安定化させることに資する

が、保険者が異なるので、国民健康保険事業運営の責任の所在が違うのは当然のことだが、

事業運営の効率化へのインセンティブや予算制約のソフト化の程度にも違いが生じる。現在

の市町村国民健康保険制度で「効率化へのインセンティブ」が問題となっているのであれ

ば、保険給付費が大きい市町村の保険料率を高く、保険給付費の小さい市町村の保険料率を

低くするといった保険料率の設定を各市町村単位で行えるタイプ(「保険財政の都道府県単

位化」)が望ましい。現在の市町村国民健康保険制度で「予算制約のソフト化」が問題と

なっているのであれば、運営主体が 1つとなり他者(他の市町村)を当てに出来ないタイ

プ(「保険者の都道府県化」)が望ましい。現在の市町村国民健康保険制度で、両方が問題と

なっているのであれば、中間のタイプ(「都道府県単位の一元化」)も 1つの選択としてあ

り得るだろう。

6.おわりに

 国民健康保険法の平成 24 年改正の理由は、「国民健康保険制度の安定的な運営を確保す

るため、国民健康保険の財政基盤強化策を恒久化するとともに、財政運営の都道府県単位化

の推進、都道府県調整交付金の割合の引上げ等の措置を講ずる必要がある」であった。実際

に、保険者支援制度、高額医療費共同事業、保険財政共同安定化事業の 2015(平成 27)年

度からの恒久化が決まり、さらに、保険財政共同安定化事業の対象事業に関して、現行のレ

セプト 1件 30 万円超の医療費であるのを、2015(平成 27)年度からはすべての医療費に

拡大することが決まり、2012(平成 24)年度から都道府県調整交付金の割合が、現行の医

*81 現在の後期高齢者医療制度の保険者が、都道府県単位の広域連合となっているので、それと同じ枠組みである。保険者が同じ広域連合となるので、将来的には国民健康保険制度と後期高齢者医療制度が一体的に運営(統合)されることになり、さらに被用者保険との統合の際の受け皿となる可能性がある。広域連合ではなく、一部事務組合でも「都道府県単位の一元化」は可能だが、事務の一部の共同処理というだけで、多様化した広域行政需要に対応できないので、このタイプでは広域連合が望ましい枠組みである。

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療給付費等 *82 の 7%から 9%へと引き上げられるなど、それらを実現するための必要な制度

改正が行われた。これらの制度改正によって、財政運営の都道府県単位化は、一段と進むだ

ろう。しかし、今回の制度改正で、第 4節で述べた市町村国民健康保健制度の抱える構造

的な問題は、解決されたのだろうか。否、解決されてはいない。都道府県単位の財政調整が

強化されたことで、小規模保険者(市町村)や高齢の被保険者を多く抱える保険者(市町

村)の疾病リスク(保険給付費の増加)に対する許容度が高くなったに過ぎない。本来の意

味で、国民健康保険制度の保険財政を安定化させて、将来においても持続可能な制度とする

には、公的医療保険制度の枠組みを含むより抜本的な改革が必要である *83。ただ、抜本改革

へ向けての第 1歩を踏み出したと解釈することもできるので、今後の社会保障と税の一体

改革の行き着く先を見守りたい。ただし、国民健康保険制度の保険財政の安定化だけを目的

とすることなく、被保険者への必要な医療サービスの提供と疾病リスクに対する安心を得ら

れる制度にする必要がある。そして、国民皆保険のセーフティーネットとしての役割を堅持

すべきである。

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*82 都道府県調整交付金についての詳細は、第 3- 4節で説明したので、医療給付費等の正確な定義はそちらを参照されたい。

*83 公的医療保険制度の「一元化」あるいは「一本化」が議論されることがあるが、それには制度間の保険料負担の格差をはじめ解決されるべき課題が多い。

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国民健康保険制度の現状と改革について 41

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参考サイト厚生労働省ホームページ