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姫路第一発電所コンバインドサイクルプラントの性能低下の改善(川本耕三・山本晃史・江川泰彦・三木貴之・木根修一・井本明宏・岡野智光)
25
Vol. 66 No.5
●
東日本大震災以降,供給力確保のため火力部門において様々な取組みを実施している中,当社の
姫路第一発電所(以下,姫一P/Sという)において,H24.2.3に発電出力が定格まで到達しない
事象が確認された。また,定期的な性能試験等の性能管理においても出力低下傾向が把握されてい
なかった。本稿では,この事象を技術,管理の両側面から要因調査し,問題解決と改善を図るべく
検討を行った。Since the Great East Japan Earthquake and Tsunami in 2011, Kansai electric power has been
making every effort and maximum use of fossil fuel power plants in order to ensure stable power supply. In this situation, however, it was observed on February 3 2012 that two combined cycle plants in Himeji No.1 power station produced less power output than its rated capacity. Although performance monitoring on the units including monthly performance test was carried out constantly the shortfall in output was not identified. In this study, we examined the event of output shortfall from both technical and managerial viewpoint to resolve the problem and to improve the procedures and method for plant performance evaluation.
●
*関西電力株式会社(The KANSAI Electric Power Co.,Inc.) 原稿受付 平成26年9月30日
1.はじめに
当社姫一P/S 5,6号機のプラント構成を図1に示
す。本プラントは,3台のガスタービン(以下,GTと
いう)の排ガスを排熱回収ボイラ(以下,HRSGという)
に導き,回収熱により発生させた蒸気で1台の蒸気ター
ビン(以下,STという)を駆動させる当社唯一の多軸
再熱型コンバインドサイクル発電方式(以下,C/C方
式という)のプラントである。
C/C方式の特徴として,大気温度が上昇すると,発
電出力が低下することがあげられる。これは,GTは大
気を吸入圧縮して燃焼器で燃料と混合させ,その燃焼ガ
スを回転エネルギーに換えて発電するものであるが,大
気温度上昇に伴う空気密度減少により,燃焼器に送られ
る空気質量が低下し,これに合わせて投入燃料量も減少
することで,GT出力が低下するものである。さらに,
GTの空気の質量流量(排ガス流量)低下により,
HRSGで回収熱量が減少してSTの出力も低下すること
から,大気温度の上昇によりプラント発電出力(GT出
力+ST出力)が低下することになる。
このような特徴を踏まえ,C/C方式の発電所では設置
場所の気温条件を考慮して定格出力を設定しており,姫
一P/Sでは大気温度4℃を設計大気温度として,5号は
729.6MW,6号は713.0MWを定格出力としている。
2.技術的要因の分析と対策の検討
2.1 定格出力不達の状況
技術的要因の調査と対策検討を進めるにあたり,H
24.2.3の定格出力不達時の運転データを調査して状況
姫路第一発電所コンバインドサイクルプラントの性能低下の改善(Improvement of Plant Performance and Management for Combined Cycle Plants in HIMEJI No.1 Power Station)
川 本 耕 三*・山 本 晃 史*・江 川 泰 彦*・三 木 貴 之*(K. Kawamoto) (A. Yamamoto) (Y. Egawa) (T. Miki)
木 根 修 一*・井 本 明 宏*・岡 野 智 光*(S. Kine) (A. Imoto) (T. Okano)
299
図1 姫一P/Sプラント構成
空気
蒸気
給水
排ガス
煙突
燃料
燃焼器
発電機
海水
ガスタービン(GT)
蒸気タービン(ST)
排熱回収ボイラ
排熱回収ボイラ(HRSG)
取水設備復水器
GT排ガス
燃焼器
燃焼器
発電機
発電機
発電機
排熱回収ボイラ
排熱回収ボイラ
火 力 原 子 力 発 電
26
May 2015300
確認を行った(図2参照)。両機とも終日100%出力運
転を行っていたにも関わらず,大気温度4℃未満におい
て,定格出力に対して5,6号機合計で最大約20MW到
達していないことが認められた。また,GT,ST別に出
力データを確認すると,STにおいて定格出力に到達し
ていないことが確認された。
図2 H24.2.3のプラント出力推移
5号
700
705
710
715
720
725
730
735
740
-4 0 4 8 12 16大気温度(℃)
プラント出
力(M
W)
定格出力約10MW
n=1,440 運転データ(生値)期間:H24.2.3 0時~23時59分
6号
690
695
700
705
710
715
720
725
730
-4 0 4 8 12 16大気温度(℃)
プラント出力
(MW
) 定格出力
n=1,440 運転データ(生値)期間:H24.2.3 0時~23時59分
約10MW 約3MW
約2MW
2.2 目標設定
定格出力への不達分については,より発電原価の高い
自社または他社のプラントで発電することで補う必要が
あることから,技術面の取組み目標として,定格出力を
回復し,それによる電力差替損を「0」とすることとし
た。具体的な出力改善の数値目標を表1に示す。
表1 出力改善目標
5号 6号 合計低大気温度時 10MW 10MW 20MW設計大気温度 2MW 3MW 5MW
2.3 技術的要因検討の進め方
検討にあたっては,図3に示すとおり,H24.2.3の事
象で確認したSTでの出力低下という事実に基づき,ET
(イベントツリー)から「HRSG発生蒸気熱量の低下」
および「ST出力低下」をトップ事象として設定し,FT
(フォルトツリー)図を展開してメカニズムを把握した
上で,実際の運転データを検証することで,要因究明を
進めた。
2.4 出力低下メカニズム
2.4.1 低大気温度時(4℃未満)
2.1で確認したとおり,大気温度4℃未満において5,
6号共に定格出力に対し約10MWの低下が認められ,
ST出力は,ほぼ同じ低下挙動を示していた。この原因
について,作成したFT図に沿って低大気温度時に起こ
るGT,HRSG,STの挙動および実測運転データの調査
を行った結果,制御的には正動作であり,以下のメカニ
ズムによって起こっていたことが判明した(図4参照)。
図4 GT排ガス温度,ST入口蒸気熱量
5号
540
550
560
570
580
590
-4 0 4 8 12
大気温度(℃)
1GT
排ガ
ス温
度(
℃)
390
400
410
420
430
440
450
ST入
口蒸
気熱
量(HP
)(
Gca
l/h)
設計値
GT排ガス温度
ST入口蒸気熱量
n=1,440 、運転データ(生値)期間:H24.2.3 0時~23時59分
6号
550
560
570
580
590
600
-4 0 4 8 12
大気温度(℃)
1GT排
ガス
温度
(℃
)
400
410
420
430
440
450
460
ST入
口蒸
気熱
量(H
P)
(Gc
al/h
)
設計値
ST入口蒸気熱量
GT排ガス温度
n=1,440 、運転データ(生値)期間:H24.2.3 0時~23時59分
(1) GT出力は大気温度の低下により増加するが,
GTに設定されている出力上限値に到達すれば,
燃料投入量が自動抑制される。ここから,更に
大気温度が低下するとGT排ガス温度は低下す
る。
(2) HRSGはGT排ガスを熱源として蒸気を発生さ
せるため,GT排ガス温度低下に伴うHRSG入熱
の低下により,発生蒸気熱量が低下する。
(3) HRSGから発生する蒸気熱量の低下に伴い,ST
出力が低下し,プラント出力が低下する。
2.4.2 設計大気温度時(4℃)
大気温度が4℃以上に上昇した後においても,5,6
号共に定格出力に到達していないことから,低大気温度
時のメカニズムとは別の要因によるものと考え,以下検
討を行った。
(1)5号関係
1)運転保守履歴
設計大気温度4℃で確認した,STの定格出力不達に
ついて,FT図で整理した出力低下に至るメカニズムに
基づき,性能試験データの精査および設備の補修履歴の
調査を行った。その結果,HRSGからSTへ送出される
蒸気温度を注水により制御するスプレー弁の補修(H
25.3~6の定検時)後に,ST出力が回復していること図3 技術的要因の究明(上:ET,下:FT図)
ST出力の低下
ST効率の低下ST入熱の低下
蒸気温度
の低下
発電機の
力率低下
ST内部効率の低下
蒸気流量
の低下
復水器真空度の低下
初期事象 GT HRSG ST プラント出力の状態
100%出力指令かつ大気温度の低下
GT定格出力の確保
蒸気熱量の確保
ST定格出力の確保
プラント定格出力の確保
成功成功
敗失功成
失敗
失敗
○
×
×
×
蒸気熱量の低下
蒸気温度の低下
HRSGスプレー
の過注入
HRSG効率
の低下HRSG入熱
の低下
蒸気流量の低下
系外への
蒸気供給
蒸気系統
からの漏洩
ST出力の低下
ST効率の低下ST入熱の低下
蒸気温度
の低下
発電機の
力率低下
ST内部効率の低下
蒸気流量
の低下
復水器真空度の低下
ST出力の低下
ST効率の低下ST入熱の低下
蒸気温度
の低下
発電機の
力率低下
ST内部効率の低下
蒸気流量
の低下
復水器真空度の低下
初期事象 GT HRSG ST プラント出力の状態
100%出力指令かつ大気温度の低下
GT定格出力の確保
蒸気熱量の確保
ST定格出力の確保
プラント定格出力の確保
成功成功
敗失功成
失敗
失敗
○
×
×
×
初期事象 GT HRSG ST プラント出力の状態
100%出力指令かつ大気温度の低下
GT定格出力の確保
蒸気熱量の確保
ST定格出力の確保
プラント定格出力の確保
成功成功
敗失功成
失敗
失敗
○
×
×
×
蒸気熱量の低下
蒸気温度の低下
HRSGスプレー
の過注入
HRSG効率
の低下HRSG入熱
の低下
蒸気流量の低下
系外への
蒸気供給
蒸気系統
からの漏洩
姫路第一発電所コンバインドサイクルプラントの性能低下の改善(川本耕三・山本晃史・江川泰彦・三木貴之・木根修一・井本明宏・岡野智光)
27
Vol. 66 No.5
を確認した(図5参照)。この補修内容は,弁内部が経
年的な浸食を受け,スプレー水過注入の状態となってい
たため,構成部品(内弁)の取替を行ったものである。
2)STの出力低下メカニズム
データを確認した結果,STへ送出される蒸気熱量は
図5のとおり,スプレー弁の補修により回復しているこ
とから,5号におけるST出力低下のメカニズムはスプ
レー弁損傷に伴うスプレー水過注入によって過度に蒸気
が冷却され,蒸気熱量が低下したことによることが判明
した。また,スプレー弁補修に伴うST出力の改善量を
プラントメーカー資料に基づいて試算するとH24.2.3
の設計大気温度における出力低下量と合致することが確
認された。
図5 5号ST出力,ST入口蒸気熱量
380
400
420
440
460
480
500
0 4 8 12 16 20 24 28 32
大気温度(℃)
ST入
口蒸
気熱
量(H
P)(G
cal
/h)
200
210
220
230
240
250
260
270
ST
出力
(MW
)
(~H25.3)(H25.6~)熱量設計値
ST入口蒸気熱量(HP)
ST(定格出力)
n=115、性能試験データ(生値)期間:H14.7~H25.12
(2)6号関係
1)運転保守履歴
5号同様に,FT図を用いて,性能試験データ,設備
の補修履歴の調査を行った。その結果,GT動翼の換装
(H18.1~H23.11)後に,ST出力が低下していること
が確認された(図6参照)。このGT動翼とは,GTのター
ビン部に搭載されるもので,静翼との組合せで,燃焼器
からの燃焼ガスを膨張させ,燃焼ガスの熱エネルギーを
回転エネルギーに変換するものであり,オリジナル動翼
の寿命到達に合わせ,より熱損失の少ない新型動翼(メー
カーのモデルチェンジ)に随時更新されたものである。
2)STの出力低下メカニズム
データを確認した結果,6号の設計大気温度における
出力低下は,GT動翼が高効率のものに換装されたこと
で,同じ投入熱量をGTでより多くの機械仕事に変換す
ることが可能となった為,GT排ガス温度が低下し,こ
れによってHRSGの入出熱が減少し,結果的にSTの出
力低下が起こっていることが確認された。また,5号同
様に試算すると,排ガス温度の低下による出力への影響
分がH24.2.3の設計大気温度における出力低下量と合
致することが確認された。
図6 6号ST出力,ST入口蒸気熱量
360
370
380
390
400
410
420
430
440
0 4 8 12 16 20 24 28 32大気温度(℃)
ST入
口蒸
気熱
量(HP
)(G
cal
/h)
230
240
250
260
270
280
290
ST
出力
(MW)
GT動翼換装前(~H17.8)
GT動翼換装後(H23.11~)
入口蒸気熱量設計値
ST(定格出力)
ST入口蒸気熱量(HP)
n=56、性能試験データ(生値)期間:H14.4~H17.8、H23.11~H25.12
2.5 対策立案
これまでのST出力低下メカニズムをまとめたFT図
(図7参照)から1次対策を抽出し,対策系統図で具体
的対策を検討した(図8参照)。
301
図8 対策系統図
<凡例> 「総合評価で45点以上」を採用評価項目 効果 経済性点数 出力の改善 (負担コスト)
5 3MW以上 高い 負担なし3 1MW以上3MW未満 普通 1,400万円/年 未満1 1MW未満 低い 1,400万円/年 以上
実現性
ST入熱
蒸気熱量
を低下させない
ようにするには
(5・6号共通)GT出力上限値到達による燃料抑制を回避する
(6号固有)GT高効率化(動翼換装)に伴う排ガス温度低下を回避する
(5号固有)スプレー過注入による蒸気温度低下を回避する
<低大気温時>
設備裕度内で出力上限値を引き上げる
GT排ガス温度を回復(増加)させる
スプレー過注入を抑制する
蒸気温度の低下を抑制する
<大気温度全域>
15135スプレー弁一式の取替を行い、過注入の改善および最低流量の低減を図ることで蒸気温度改善(4℃以上)する(期待効果: 2MW以上のST出力改善)
○45353スプレー弁の内弁取替を行い、過注入を改善することで蒸気温度を4℃回復させる (期待効果: 2MWのST出力改善)
9313GT排ガス温度設定を6℃を目標に引き上げ、温度を上昇させる(期待効果: 3MW未満のST出力改善)
判定総合経済性実現性効果
3113HRSG伝熱面積を拡大し、スプレー過注入による蒸気温度(4℃)の低下を防止する (期待効果: 2MWのST出力改善)
○75355GT出力上限の引き上げに加えて、プラント定格出力を引き上げ、設備裕度内の最大出力を確保する(期待効果: 5号 30MW、6号 11MW)
○75355GT出力上限を引き上げ、燃料増加抑制を回避する(期待効果: 5号 10MW、6号 10MW)
5115GT一式の取替を行い、排ガス温度を6℃以上増加させる(期待効果: 3MW以上のST出力改善)
5115GT動翼を従来品に換装し、GT排ガス温度を6℃回復させる(期待効果: 3MWのST出力改善)
評価具体的対策
15135スプレー弁一式の取替を行い、過注入の改善および最低流量の低減を図ることで蒸気温度改善(4℃以上)する(期待効果: 2MW以上のST出力改善)
○45353スプレー弁の内弁取替を行い、過注入を改善することで蒸気温度を4℃回復させる (期待効果: 2MWのST出力改善)
9313GT排ガス温度設定を6℃を目標に引き上げ、温度を上昇させる(期待効果: 3MW未満のST出力改善)
判定総合経済性実現性効果
3113HRSG伝熱面積を拡大し、スプレー過注入による蒸気温度(4℃)の低下を防止する (期待効果: 2MWのST出力改善)
○75355GT出力上限の引き上げに加えて、プラント定格出力を引き上げ、設備裕度内の最大出力を確保する(期待効果: 5号 30MW、6号 11MW)
○75355GT出力上限を引き上げ、燃料増加抑制を回避する(期待効果: 5号 10MW、6号 10MW)
5115GT一式の取替を行い、排ガス温度を6℃以上増加させる(期待効果: 3MW以上のST出力改善)
5115GT動翼を従来品に換装し、GT排ガス温度を6℃回復させる(期待効果: 3MWのST出力改善)
評価具体的対策
図7 出力低下メカニズム(FT図)
蒸気温度
の低下
燃料系統の
不具合
制御装置の
不具合
燃料流量
の低下
HRSG入熱
の低下
GT排ガス温度
の低下
GT出力が出力上限値に到達
燃料流量の
増加抑制
A
GT効率
の向上
GTタービン熱落差の増加
大気温度
の低下
GT出力
の増加
HRSG効率
の低下
伝熱性能
の低下
伝熱部外面
の汚れ
復水温度の低下
制御装置
の不具合
復水器補給水量の増加
GT排ガス流量の増加
大気温度の低下
空気密度の増加
伝熱部内面のスケール堆積
IGV開度の超開
蒸気流量の低下
系外への蒸気供給
蒸気系統
からの漏洩
HRSGスプレー
の過注入
(5号)スプレー
弁の損傷
制御装置の
不具合
GT排ガス流量
の低下
煙道からの
ガス漏れ
空気流量
の低下
IGV開度
の低下
空気圧縮機
効率の低下吸気フィルター差圧の増加
空気圧縮機ブレード
の汚れ・変形・損傷
抽気量の
増加
空気流量の増加
(6号)GT
動翼の換装
GTの
設備更新
(HRSG)蒸気熱量
の低下
AGT排ガス温度の低下
5・6号共通の事象
5号固有の事象
6号固有の事象
<凡例>
火 力 原 子 力 発 電
28
May 2015
2.5.1 低大気温度時(4℃未満)
5,6号共に低大気温度時には,GT定格出力を超え
ないよう燃料増加を抑制する制御がなされており,この
制御が結果的にプラント出力低下を招いていることが判
明したことから,設備裕度内で出力上限値を引き上げる
よう制御を見直すこととした。
2.5.2 設計大気温度時
5号のST出力低下については,2.4.2(1)で述べた
とおり,HRSGスプレー弁の修繕により,ST出力は回
復しているため,新たな対策は不要である。
6号のST出力低下は,2.4.2(2)で確認したとおり,
特定の設備や制御の不具合によるものではなく,GT高
効率動翼の搭載によるものであり,出力回復にはGT排
ガス温度を回復させる必要があり,これにはGT燃焼温
度設定引き上げ,GT設備一式の取替など大幅な設備改
修が必要となり,現状では運用性,経済性の面から実現
性が非常に低いため,有用な対策を見出せなかった。
2.6 対策実施
今回取りまとめた低大気温度時(4℃未満)の出力低
下対策については,H26年度冬季からの実施に向け,
検討を進めている。
2.7 予想効果の確認
前述の対策について,予想効果の確認を行った結果を
表2に示す。
表2 予想効果<低大気温度時(4℃未満)>
目標 予想効果 内容5号 10MW 30MW 制御見直し
6号 10MW 11MW 同上
合計 20MW 41MW
<設計大気温度時(4℃)>
目標 予想効果 内容
5号 2MW 2MW スプレー修繕6号 3MW 0MW -合計 5MW 2MW
なお,低大気温度の予想効果は,供給力確保の取組み
の一環として,姫一P/Sで別途実施されたオーバーロー
ド試験結果により,4℃以下の温度で5,6号とも定格
出力以上の発電機出力が確認されており,その結果に基
づき,想定を行ったものである。
3.管理的要因の分析と対策の検討
3.1 課題の明確化,目標設定
東日本大震災以降,火力機において供給力確保のため
の各種取り組みを行っている中,プラントの性能(効率・
出力)管理の重要性が高まっており,今回のような出力
低下事象の再発防止を図るため,その管理面の要因につ
いて調査する。
発電所の性能管理は,主として,日々の通常運転時に
おける実績熱効率を確認する「実績熱効率検討」と,プ
ラントの厳密な性能把握のため運転状態を整定させて月
一回実施する「性能試験」に大別される。日常の実績熱
効率検討においては,プラント出力を直接の対象として
いないことに加え,取り扱う各種運転パラメータは,負
荷変化等を受けダイナミックに変動するものである。一
方,性能試験においては,プラントの運転状態を整定さ
せ,出力も含めた各種データを収集・分析するものであ
り,今回課題として取り組む出力の低下は,性能試験に
おいて把握されるべきものと考えられる。従って,管理
面の目標として,「性能試験で出力低下を把握できなかっ
た管理的要因を究明し,効率とともに出力管理にも適し
た性能試験方法を確立する」こととした。
3.2 現状の性能試験
3.2.1 性能試験のしくみ
性能試験は,性能低下要因の早期発見・早期回復によ
る熱効率の維持・向上を図ることを目的としており,そ
の仕組みは社内標準にて定められている。
火力事業本部の標準では,性能試験は予め要領書を定
め,これに従い実施することや,要領書で定めるべき項
目など性能試験に係る各発電所共通的な内容について規
定されている。これを受け,各発電所において,自所の
設備実態に応じた要領書や報告様式を定めている。
3.2.2 試験の手順・内容
試験の具体的な内容を以下に示す。まずプラントの運
転状態を整定させるため,出力へ影響を与える他プラン
トへの蒸気供給等,プラント系外への蒸気排出の停止等
の操作を行った上で,可能な限り出力を上げて安定化さ
せ,各種のデータ計測・収集・分析を行っている。
C/C方式プラントの運転データは,大気温度,圧力
等の制御不能な外的条件によって変動する。毎回の性能
試験で大気温度,圧力等の条件は異なることから,GT,
HRSG,STの効率・出力は変動する。これを一定の条
302
姫路第一発電所コンバインドサイクルプラントの性能低下の改善(川本耕三・山本晃史・江川泰彦・三木貴之・木根修一・井本明宏・岡野智光)
29
Vol. 66 No.5
件に揃えて比較・評価するため,収集したデータは補正
を行い,前回試験時のデータとの比較や変化トレンドを
確認することで性能低下有無の把握を行っている。
現状の性能試験方法を個別の業務ごとに確認したとこ
ろ,性能試験の計画および実施については問題のないこ
とが確認されたため,結果の検討において,「性能低下
の有無の評価」と「要因究明」ができているかを更に調
査した。
3.2.3 性能低下有無の評価状況
性能低下の有無の評価状況を確認するため,過去の性
能試験データ(補正値)の経時変化を調査した結果,本
来,一定もしくは右下がりであるはずの性能(出力・効
率)が周期的に変動しており(図9参照),性能低下の
有無が評価できる状態にないことが確認された。
図9 6号補正出力の推移
620
640
660
680
H21.7 H22.1 H22.8 H23.2 H23.9
プラント出力(M
W)
230
240
250
260
270
ST出力(MW)プラント
ST
この周期的変動の要因を確認するために,現状の補正
方法を確認した結果,各構成設備の入出熱を表す温度,
圧力,流量等のインターフェース条件(以後,I/F条件
という)が適切に考慮されていない等,補正方法が設備
実態に合っていないことが確認された。
3.2.4 要因究明の状況
性能低下の要因究明のためには,GT,HRSG,STの
設備単体の性能低下有無に加え,各設備間のI/F条件の
変化についても把握する必要がある。現状,設備単体の
性能評価については,設備毎に補正値を算出し評価を
行っているが,I/F条件については,報告様式において
前回試験時との偏差を示しているのみとなっていた。
I/F条件は大気温度等に依存して変化するため,本来,
大気温度に応じた基準値との比較を行うべきであるが,
現状では適正な確認ができておらず,要因究明に寄与し
ていないことが確認された。
3.2.5 出力管理に対する意識
定格出力不達事象以前の性能試験では,出力基準値に
対して負の偏差が確認されていたにもかかわらず,出力
低下は問題視されていなかった。その理由を現場の実務
者にヒアリングを実施して確認した結果,「効率は重要
であるが出力は効率ほど重要視していなかった」,「コン
ベンショナル機では出力はとれて当たり前なので意識が
効率に注視していた」などの認識が確認され,出力管理
が重要視されていなかった。震災以降,姫一P/Sの利
用率・出力率は大きく上昇しており,出力管理の必要性
は高まっているが,実務者の意識への浸透が不十分で
あったと考えられる。
3.3 対策立案
抽出した3つの問題点について,対策系統図を用いて
具体的対策の検討を行い(図10参照),問題点毎に対策
を実施することとした。
図10 対策系統図
45353出力低下事象を例に教育資料を作成する25551毎年所長からメッセージを配信する75553出力不足による影響(○円/kW・年)を掲示する
75355引き算(プラント出力-GT出力)から、ST入熱と熱効率の情報から出力を算出するように変更する
15315補正値記載の報告書を自動アウトプットするよう改造する
15315リアルタイムで出力を設計値や過去値と比較表示できるよう設備改造する
25551コンバインドプラントでは出力管理をしていくことを所則に明確に記載する
75553出力特性がわかる資料を掲示・共有する
125555出力・効率・I/F条件の変化をトレンド管理する
125555要因究明・対策立案にFT図を活用する
75355設備に応じたI/F条件で補正する
45353出力低下事象を例に教育資料を作成する
75553マッピングにより各設備の前後関係をわかりやすくする
125555出力低下メカニズムを表すFT図を活用する
125555温度等に依存するI/F条件は、各温度における基準値との比較とする
75553補正係数見直し方法のマニュアルを作成する
75355設備実態に応じた補正係数に見直す
75553補正係数の見直し基準を明確にする
総合実現性経済性効果具体的方策
45353出力低下事象を例に教育資料を作成する25551毎年所長からメッセージを配信する75553出力不足による影響(○円/kW・年)を掲示する
75355引き算(プラント出力-GT出力)から,ST入熱と熱効率の情報から出力を算出するように変更する
15315補正値記載の報告書を自動アウトプットするよう改造する
15315リアルタイムで出力を設計値や過去値と比較表示できるよう設備改造する
25551コンバインドプラントでは出力管理をしていくことを所則に明確に記載する
75553出力特性がわかる資料を掲示・共有する
125555出力・効率・I/F条件の変化をトレンド管理する
125555要因究明・対策立案にFT図を活用する
75355設備に応じたI/F条件で補正する
45353出力低下事象を例に教育資料を作成する
75553マッピングにより各設備の前後関係をわかりやすくする
125555出力低下メカニズムを表すFT図を活用する
125555温度等に依存するI/F条件は、各温度における基準値との比較とする
75553補正係数見直し方法のマニュアルを作成する
75355設備実態に応じた補正係数に見直す
75553補正係数の見直し基準を明確にする
総合実現性経済性効果具体的方策
低:困難大:大規模設備改修要(1,000万円以上)小:効果は乏しい1中:可能中:小規模設備改修要(1,000万円未満)中:間接的に効果あり3高:容易小:発生費用なし大:直接的に効果あり5
技術的実現性経済性(初期コスト)効 果点数
低:困難大:大規模設備改修要(1,000万円以上)小:効果は乏しい1中:可能中:小規模設備改修要(1,000万円未満)中:間接的に効果あり3高:容易小:発生費用なし大:直接的に効果あり5
技術的実現性経済性(初期コスト)効 果点数
1次対策 2次対策
総合評価75点以上を採用
性能に影響を与えるI/F条件変化の確認方法を見直す
評価の前提となる補正方法を設備実態に合わせる
出力管理の意識を高める
I/F条件確認方法見直し
出力低下メカニズムの理解を深める
出力管理の意識向上に向けた啓蒙活動を行う
【問題点②】
【問題点③】
評価の前提となる補正方法
を適切に維持する
ST補正出力の算出方法を見直す
結果を可視化する
メカニズムを踏まえた要因究明/対策立案を可能にする
自然に出力管理に目が向くようにする
補正方法を
見直す
【問題点①】
3.4 対策実施
3.4.1 補正方法の見直し
現在のプラント特性に適した補正方法とするため,補
正式の項目と係数の見直しを行った。
補正項目については,誤って用いられていた項目を除
外し,補正対象設備の外的条件に正しく設定することで
精度の向上を図った。また,STについては,I/F条件を
揃えることで入熱を一定にできるため,ST入熱とST
効率から出力を算出するよう見直した。
次に,より現在の設備特性に合致する補正係数を算出
するために,至近の性能試験結果をもとに相関分析を行
い,それぞれの補正項目が性能(出力・効率)に与える
物理的な影響を考慮したモデル式を作成した上で,重回
帰分析により補正係数を設定した。これにより,現在よ
りも周期的変動が抑えられた補正値が得られることを確
303
火 力 原 子 力 発 電
30
May 2015
認した。(図11参照 例:6号ST補正効率)
さらに,設備特性は経年的に変化するため,今後も,
補正方法を適切に維持するため,補正係数見直し要否検
討フローおよび,補正方法見直しマニュアルを作成した。
図11 補正見直し結果
ST効率推移
34
35
36
37
H23.9.14 H24.3.12 H24.9.8 H25.3.7 H25.9.3 H26.3.2
ST効率
(%)
補正値(見直し後)補正値(見直し前)
生値
3.4.2 I/F条件確認方法の見直し
まず,要因究明に不可欠なI/F条件毎に外気温度等の
依存性を確認した上で,それを説明変数とした基準値を
作成し,その基準との偏差を管理することとした。
次に,これらのI/F条件偏差と各機器の効率・出力を,
単なる数値の羅列でなく設備のプロセスフローに合わせ
て配置した新たな帳票で管理することで,I/F条件と設
備間の因果関係を捉えやすくした。
さらに,性能低下を把握した場合の要因究明に,技術
的要因検討で作成したFT図を活用することで,メカニ
ズムに基づいた早期の要因究明と対策立案が可能なもの
とした。
3.4.3 出力管理の意識向上
性能試験を行っている計画課員だけでなく発電所員全
体の意識向上を図ることを目的とし,各所属の役割に応
じた次の3つの対策を行う。
(1)プラント出力特性を示す資料の共有
日々の運転監視を行う発電課を対象とし,異常兆候を
速やかに確認できるようにする。
(2)出力低下によるコストの影響を掲示
全所員を対象とし,プラント異常発生時の要因究明,
対策検討の動機付けとする。
(3)出力低下メカニズムを示すFT図の活用
全所員を対象とし,出力低下時の早期要因究明,早期
対応を可能とするとともに,出力低下メカニズムを理解
することで出力に対する意識の向上につなげる。
3.5 効果の確認
効果の確認として,見直した補正方法およびI/F条件
確認方法により,6号の出力低下(GT高効率動翼搭載
によるHRSG入熱低下)を例に,出力低下の把握と要
因究明が可能か検証した。
GT高効率動翼搭載前後のプラント,GT,STの補正
出力を図12に示す。補正見直し後のプロットから,GT
高効率動翼搭載後,プラント出力に低下が見られるもの
の,GT,ST出力に変化は見られない。次に,I/F条件
の確認結果,GT排ガス温度,ST入口蒸気温度が低下
していることが確認された(図13参照)。このことから,
見直し後の確認方法では,「各機器に異常はないが,I/F
条件の低下によりプラント出力が低下した」ことが把握
可能である。
図12 補正方法見直し前後の補正出力
プラント出力(補正)
630
640
650
660
670
680
換装前 換装後
プラント出
力(補
正)[M
W]
見直し前
見直し後
GT出力(補正)
100
110
120
130
140
150
換装前 換装後
GT出
力(補
正)[M
W]
ST出力(補正)
220
230
240
250
260
270
換装前 換装後
ST出
力(補
正)[
MW]
図13 各機器I/F条件の変化
排ガス温度偏差
0.9
-8.3
-10
-8
-6
-4
-2
0
2
換装前 換装後
GT排
ガス温
度偏
差(℃
)
HP、IP温度偏差
-7
-2.5
-11.6
-0.8
-14
-12
-10
-8
-6
-4
-2
0
換装前 換装後
偏差(℃)
HP偏差
IP偏差
4.まとめと今後の取り組み
定格出力不達事象の技術的要因を究明し,今回の対策
によって,最大41MWの出力改善が期待できる。6号
については,設備の基本仕様向上等の抜本的な出力向上
策の検討について引き続き取組むこととする。
また,定格出力不達事象を事前に把握できなかった管
理的要因を究明し,火力部門大で共有可能な性能管理手
法を確立することで,組織の知的資産として他発電所に
おいても活用可能なものとした。
最後に,本取組みにあたり多くのご指導を賜りました
中央大学 宮村鐵夫教授に深く感謝いたします。
304