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認知症との付き合い方・ コミュニケーションの取り方 リハビリテーション科 作業療法士・認知症ケア専門士 佐藤雅晃

認知症との付き合い方・ コミュニケーションの取り方 · 認知症との付き合い方・ コミュニケーションの取り方 リハビリテーション科

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認知症との付き合い方・コミュニケーションの取り方

リハビリテーション科

作業療法士・認知症ケア専門士 佐藤雅晃

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認知症を知り、行動理由を考え、その状況を理解するそしてその人に合った対応をすること

はじめに

問題と思える行動であってもそこには必ず理由があります

一生懸命、介護しているのに・・・どうしてそんなことするの?どうしてできないの?どうして言うことを聞いてくれないの?

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認知症を知る認知症の症状と記憶

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認知症の症状

記憶障害

失認 失語失行

実行機能障害抑うつ

不安・焦燥

不潔行為

暴力・暴言

徘徊

多動

睡眠障害

幻覚

妄想

見当識障害

理解・判断力低下

誤認

内省能力の減退 注意の障害

認知症介護のポイントは周辺症状を弱める関わり

精神症状 行動症状中核症状

周辺症状 BPSD

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記憶の分類

長期記憶

陳述記憶

意味記憶

エピソード記憶

非陳述記憶 手続き記憶

短期記憶 ワーキングメモリー

忘れやすい

忘れにくい

言葉にできる

言葉にできない

一時的な記憶

言葉の意味などの知識

個人的な思い出

体で覚えた記憶

長期記憶は認知症の方でも残存しやすい

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認知症を知る認知症の方の心の中

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認知症の歴史的背景

痴呆と言われていた時代

差別的扱いをされていた

認知症の人は「本人は何もわからない」と

思われていた

認知症と言われるようになった時代

内面を語れるようになり理解が進んだ

認知症の人も「苦しみを感じている」

2004年 京都国際アルツハイマー病協会国際会議

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認知症の人の心の中

認知症の人はいろいろな

苦しみを抱えています

自分が自分でなくなっていく苦しみ

日常生活ができなくなる苦しみ

「未来展望=希望」を失う苦しみ

自分だけが別の世界に生きる苦しみ

認知症の方の状況を少しでも理解することがコツ

引用文献:認知症の人の心の中はどうなっているのか?

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認知症の人の心の中

孤独最終的にたどり着く苦しみ

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どうして孤独になっていくのか?

一緒にいるのに違う世界、違う現実を生きている

認知症の方と介護する方の認知のズレが原因

認知のズレによって介護する方は認知症の方に対し

怒ったり、否定したりします

その怒りや否定により認知症の方は

アイデンティティが崩壊し孤独になる

引用文献:認知症の人の心の中はどうなっているのか?

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アイデンティティとは

認知症の方は・・・

客観的に見つめ直す内省(反省)ができないため、

自己評価と他者評価がズレたまま

自分を変えることができない

自分はこういう人間なんだという表明を周りの人が認めてくれること

○自己評価=他者評価:同一⇒アイデンティティが成立

×自己評価 ≠ 他者評価:差異⇒アイデンティティは崩壊

個性の同一性

引用文献:認知症の人の心の中はどうなっているのか?

(自分はこういう人間だと思うこと)

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そのためには→認知症の方の世界に一時的に移動する

→認知症の方の立場に立って考える

認知のズレを埋める方法

怒らない、否定しない、共感する

引用文献:認知症の人の心の中はどうなっているのか?

対処方法は

認知症の方は別の世界に生きている

認知症の方は元の世界に戻れない

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認知症を考える事例を通して考える

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具体的な問題解決のための準備

準備として

自分の常識に当てはめない、常識を捨てる

双方の立場から考える

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例えば・・・

お風呂に入ってもらいたいけど激しく抵抗されてしまう状況:認知症の母親を息子さんが自宅で面倒をみることに

お母さん、お風呂に入りましょうか

今は入りたくないわ

清潔を保つためですし、お風呂に入ったら気持ちがいいですよ

嫌よ 入りたくない

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例えば・・・お風呂に入ってもらいたいけど激しく抵抗されてしまう

抵抗はさらに強くなり怒り出すかもしれません

暴言や暴力につながる可能性もあります

もう3日も入っていないんだから今日は入ってください

強引に誘導した場合には

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認知症の方の世界

ここは何処なの?あなたは誰ですか?

知らない場所で、知らない人にお風呂に入れてもらいたくない

無防備な姿はさらしたくない

介護者の方の世界

清潔にしてあげたいのに、何で嫌がるのかな

今日は予定もあって時間もないのに、

早く入ってくれないかな

例えば・・・お風呂に入ってもらいたいけど激しく抵抗されてしまう

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解釈

おかあさんは、見当識が低下していて、知らない人に

無防備な姿をさらしたくないと不安や恐怖を抱えている

決してお風呂が嫌いなわけではなさそう

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認知症の方に声を掛けても「これからお風呂に入るのだ」

と理解できていないことが多い

声をかける前の状況をみて

落ち着かれているようであれば、声をかけてみる

ゆっくり時間をかけ状況を把握してもらいお風呂へ誘導する

脱衣所に移動したのち、そこでもゆっくり話をし、もう一度

「お風呂に入ろうか」と声をかけると「そうね」となることもある

脱衣所にいることで、状況が把握できるかもしれません

脱衣をすることで手続き記憶により「お風呂ね」と

状況を把握し協力してくれるかもしれません

解決策

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例えば・・・

お母さんを呼びに行ったらお財布が無いんだと言われた

えーお財布が無いの?どこに置いたんだよ。ご飯が冷めちゃうよ。温かいうちに食べよう

お財布が無いんだよ

財布が無いんだよ。あなた知らない?

知らないよ。

ご飯ができたよ。食堂に行こうか

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例えば・・・

お母さんを呼びに行ったらお財布が無いんだと言われた

妄想はさらに強くなり抵抗が強くなるかもしれません

被害妄想に発展し、「あなた取ったでしょ」と

家族や周りの人を疑うかもしれません

後で探しておくから 先にご飯にしよう

現在の状況を断ち切って食堂に連れて行った場合には

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認知症の方の世界

お金が無いと困るんだよ 生活できなくなっちゃう

きっと誰かが盗んだ あの人が盗んだ

もしくは、ご飯も食べさせてもらって、

泊らせてもらっているのにお金が払えないわ

介護者の方の世界

最初からこんな所に置いてないでしょ。

探してもあるわけがない。

食事もできているのに食べてくれないと困るな

例えば・・・

お母さんを呼びに行ったらお財布が無いんだと言われた

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アルツハイマー認知症初期にみられる物盗られ妄想

短期記憶の低下で、財布を置いたかわからない

お金は生活の基盤となるものなので、執着しやすい

見当識も低下しているため、息子さんの家にいることも

家族の事も分からなくなっているのかも

旅館に泊まりに来ていると思っているのかも

解釈

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同じ目線で、「お財布が無いんだね

一緒に探そうか」と共感すること

物盗られ妄想は、ずっと続くものではなく一時的なものなので、

探すことにつき合いながら落ち着くのを待つ

落ち着いた様子がうかがえたら、食堂に誘導していく

解決策

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事例のまとめ

決してすべての認知症の方に対して上手くいく

対処方法ではありません

一度上手くいった方法でも、

上手くいかない場合もあります

一人ひとり置かれている世界は違います

時間や気持ちに余裕をもって認知症の方と向き合う

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事例のまとめ

生活環境が変わった場合、

自宅では自由に生活できていたリズムが崩れます

家族との生活のリズムも違います

病院や施設ではルールや時間に

制約が生まれてしまいます

→その変化に混乱し周辺症状が

悪化することも多くあります

双方の立場から解決策を見つけることが必要です

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動画:二本の傘日本作業療法士協会

(You Tubeにて無料配信中)

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動画のまとめ

必要以上に責めない

中核症状ではなく周辺症状が悪化しないサポート

手続き記憶を使ったサポートでできることもある

障害

その人らしさ

環境

行動の結果ではなく、行動の理由に着目する

その人らしさ(生活史、個性)を大切にする

家族も含めリラックスできる環境づくり

介護者は抱え込まない、周囲とのつながりを作る

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認知症の方との接し方ユマニチュードとは

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見る

引用文献:ユマニチュード入門

アルツハイマー認知症の方は、視野が狭くなる

見る技術相手の視線をつかむ遠くからこちらの存在を認識させる→正面から水平に、近く、長く、見つめる目が合ったら2秒以内に話しかける→敵意が無いこと示す

急に近づくと不意をつかれ驚いてしまいます→驚いて叫んだり暴力に発展→(身を守るための防御)

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話す

ポジティブな関係を築くことを心がける

話す技術声のトーンは、優しく、穏やかに言葉は、相手の尊厳を認めた表現

話さない人の場合でも言語的メッセージを送る。(オートフィードバック)

オートフィードバックの方法行なう行為に対し、依頼-予告-実況中継

引用文献:ユマニチュード入門

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触れる

ポジティブな関係を築くことを心がける

触れる技術優しさ、喜び、信頼が込められている広く、柔らかく、ゆっくりなでる

神経学的にみても顔や手に触れるのではなく、

上腕や背中などから触れることで、驚かすことを防ぐ

ペンフィールドの小人

引用文献:ユマニチュード入門

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立つ立つこと:空間の認知が生まれる歩くこと :社会における自己を認識する

→人間の尊厳

立つことの生理的なメリット 骨粗鬆症を防ぐ 筋力の低下を防ぐ 血液の循環状態を改善 肺の容量を増加

寝たきりの状態:見おろされている外側に関心を向けることが少ない、自分の内側の世界に生きることになる

→認知機能低下

引用文献:ユマニチュード入門

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まとめ 認知症を知って・感じて・理解する

認知症の方の苦しみは最終的に孤独→孤独にさせない、アイデンティティを崩さない

→怒らない、否定しない、共感する認知のズレが双方の溝を生む

→認知症の方、介護者の方の双方が苦しむ→双方の立場から解決策を探る

認知症介護を抱え込まない→周囲とのつながりを持つ

認知症との付き合い方

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まとめ 認知症を知って・感じて・理解する

周辺症状が悪化しないようにサポートその人らしさ(生活史・個性)を大切にしたサポート人間らしさを概念にもつユマニチュードを

参考にしたコミュニケーション ポジティブな関係を築くことを心がけた

コミュニケーション

コミュニケーションの取り方・サポートの仕方