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精神症状への漢方の考え方 〜ハラはアタマの鏡なり〜 東邦大学医療センター大森病院 東洋医学科 /こころとからだ・光の花クリニック 精神科 塚原美穂子 2015125日実践東洋医学講座

精神症状への漢方 うつと不安

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精神症状への漢方の考え方〜ハラはアタマの鏡なり〜

東邦大学医療センター大森病院東洋医学科

/こころとからだ・光の花クリニック精神科

塚原美穂子

2015年1月25日実践東洋医学講座

精神とはどこにある?

認知行動療法にて

「頭では分かるが、そう思えない。腑に落ちない」とよく言われる。

「腑に落ちる」?

「腹が立つ」「腹に据えかねる」「腹を決める」「腹をくくる」

アタマ?

ハラ?

精神機能

心の3つの機能(知情意:カント 18C末)

知ー思考、知的能力

→障害されると・・・被害妄想、思考障害

情ー感情、気分

→・・・抑うつ、不安、気分高揚、怒り

意ー意志、意欲、行動

→・・・意欲低下、躁的行動

精神機能

知ー思考、知的能力

→障害されると・・・被害妄想、思考障害

情ー感情、気分→・・・抑うつ、不安

意ー意志、意欲、行動

→・・・意欲低下、躁的行動

統合失調症、認知症

うつ病、双極性障害、神経症

うつ病、双極性障害、神経症漢方薬が扱えるのは情と意

七情 黄帝内経 素問

肝:怒 怒り→気の逆上

心:喜 喜び、楽しさ→心気が消耗し散漫になる

脾:思 くよくよ悩む→消化機能を損なう、健忘、失眠、消耗

肺:憂/悲 悲しみ、落ち込む→呼吸が浅くなる

腎:驚/恐 不安緊張→すくみ、焦り、錯乱

代表的な精神症状:うつと不安

うつ

悲しくなる・喜び/意欲がなくなる=気滞

不安→どきどきする、ふらつく、苦しくなる

=気逆

うつ病の症状

からだの症状

眠れない

食べられない

だるい

以上が2週間以上ずっと続く→ うつ病の可能性

からだの症状

1) 眠れない

2) 食べられない

3) だるい

こころの症状

1) 気分が落ち込む

2) 何をするのも楽しくなく、おっくう

うつ病の症状

主な身体症状

睡眠障害頭痛便秘・下痢疲労・倦怠肩こり、背中の痛み体重減少食欲低下からだの痛みしびれ

主な精神症状

何をしても楽しくない興味がわかない悪いほうばかり考えるむなしいイライラする

気滞=流れない

うつ病の診断基準

①抑うつ気分

②興味や喜びの喪失

③疲労感の増加

④自信の喪失

⑤無価値感や罪責感

⑥希死念慮

⑦将来に対する不安や悲観的な考え

⑧思考力、集中力、決断力の低下

⑨体重と食欲の変化

⑩不眠など睡眠の変化

大基準

流れているべき

動きが止まる

①②が両方かつ②-⑩のうち2つ以上=軽症3つ以上=中等症4つ以上かつ重度=重症

不安の症状

からだの症状•動悸•発汗•ふるえ•ふらつき

こころの症状•落ち着かない•恐怖感・緊張感•疲れ

予期不安と回避•逃げられない場所を避ける(電車、バス、飛行機、人ごみなど)

不安=気逆、奔豚

パニック発作の診断基準1.動悸、心悸亢進、または心拍数増加2.発汗3.ふるえ4.息切れ感または息苦しさ5.窒息感6.胸痛または胸部不快7.嘔気または腹部不快8.めまい感、ふらつき9.現実感消失(現実でない感じ)10.コントロール喪失または発狂しそうな恐怖11.死ぬことへの恐怖12.感覚麻痺13.冷感または熱感

(一部改変)

まとまりない動きの過剰

4つ以上が10分以内に頂点に

達する

アタマとハラ:脳腸相関

うつー便秘が多い(または便秘と下痢が交互)

不安ー下痢が多い ex) 過敏性腸症候群

ハラもアタマの身ぶりを反映する

アタマとハラ

精神症状の多くは、アタマ(=心、思考)とハラ(=体、無意識)のコンフリクト(対立)

ハラの欲求を、アタマが理性で抑圧することから起きてくる

身体症状を見ると、アタマで起きていることが反映されている

アタマとハラ

ハラがアタマに抵抗することがあるex) 精神症状はうつ→ お腹は下痢

原則、ハラのあり方が「正解」(治癒的反応)と考える

漢方薬は、「ハラ(=体)のあり方を助ける」ことで、アタマの固さをゆるめていく

うつなのか不安なのか

うつ

過去にとらわれる

悲しみ、不満、意欲低下

動かなくなる/動けなくなる

我慢している/不満がたまっている

うつなのか不安なのか

うつ

柴胡が有効ただし我慢がたまりすぎている人は注意が必要

停滞した気を動かす/

疎肝解鬱・昇挙陽気

うつなのか不安なのか

不安

未来のことをあれこれ考えて不安になる

動悸、ふらつき、落ち着きのなさ

まとまりのない動き/動きの過剰

「逃げたくなる」傾向

うつなのか不安なのか

不安

熱証ー黄連+黄芩:清熱ex) 黄連解毒湯

寒証ー桂枝+甘草:陽気、特に心の陽気を強める

ex) 苓桂朮甘湯(心陽虚→胸部の津液を身体に分配できず、胸部に水飲が貯まる)

精神的ストレス

うつ

健康

我慢に我慢「腹にためこむ」

「消化」

不安

耐えられず、発散もしくは混乱

柴胡剤

うつと不安の対極性

熱証ー黄連+黄芩寒証ー桂枝+甘草

抑うつへの処方

うつ

柴胡剤がベース:気滞の改善

基本処方 鬱々として気分がふさぐ四逆散:胸脇苦満 男性向き柴朴湯:咽喉頭部の気滞 女性向き

我慢/不満がたまりすぎている人

=柴胡で動いた気の出口が必要

=大黄少量で瀉下/清熱 ex) 大柴胡湯

抑うつへの処方

女性の抑うつと混乱ー加味逍遥散

うつの回復期(気分的には改善してきたが、元気が出ない)ー加味帰脾湯

体が引きつった感じの人、血虚によるイライラ(特に高齢者)ー抑肝散

不満が言えず、抑圧して身体化する人ー抑肝散加陳皮半夏

番外:怒りへの処方

怒りを抑圧するとうつになる

吐き気=拒絶したいものや、怒りのメタファー

半夏が有効:降湿止嘔・燥湿化痰

ex) 半夏瀉心湯

不安への処方

不安(どきどき、ふらつく、落ち着かない)の基本処方

熱証:顔が赤い、もともと体力あり、冷えなし、いらいらしやすい

→黄連+黄芩(清熱) ex) 黄連解毒湯

不安への処方

不安(どきどき、ふらつく、落ち着かない)の基本処方

寒証:顔が白い、やせ型、冷え、弱々しい→桂枝+甘草 ex) 苓桂朮甘湯

もともとお腹弱い、下痢しやすい人ー桂枝人参湯

脾虚と不安

不安タイプのバリエーションとして、脾虚の強いタイプがある

疲れやすさが目立つ:気虚

心身の発達が弱く、環境のストレスを受けやすい若い人

児童思春期の、登校時に具合悪くなる子ども

(起立性低血圧/腹痛等の消化器症状)

脾虚と不安

膠飴と大棗(=小建中湯)

膠飴=補虚建中・緩急止痛、大棗=補脾和胃・養営安神

学校など環境のストレスに耐えられず疲れ倒れてしまう思春期の子

やる気も出ないくらい弱いか疲れている

=その子にとっては情報が多過ぎる

=消化できない

小建中湯をベースに、脾を助ける

脾虚と不安

人参

大補元気・補気益肺

やる気があるのに体力がなくてイライラ

子どもの頃から下痢しやすい、消化不良や偏食がある人

人参湯類で補気すると、活力が出てくる

不安のバリエーション:強迫症状

おかしいとは思っているが、同じ思考や行為を繰り返す

いつも同じ不満や愁訴を、同じように言っている人。そこからなかなか抜けられない。

不安のバリエーション:強迫症状

牡蛎

鎮驚安神

傷つきやすい内部を固い殻で守る

かたまったものを溶かし、ぐるぐるプロセスから抜ける

柴胡+牡蛎=うつ的 柴胡加竜骨牡蛎湯

桂枝+牡蛎=不安的 桂枝加竜骨牡蛎湯

アタマとハラの相関(まとめ)

外界の物質/情報

分解/消化

自分自身の素材につくりかえる

アタマ=情報の消化

ハラ=物質の消化

脾を助けることは精神も助ける