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病原体に応じた感染経路対策 経路別感染対策は、接触予防策、飛沫 予防策、空気予防策からなり、いずれも標 準予防策を含むとともにそれぞれ個人用 防護具、対策法などが規定されています。 近年ではノロウイルスなど、培養検査が未 だ行えず病態が特定しがたい病原体があ るため、患者さんの発症以前より標準予 防策の徹底、予防的な運用が望まれてい ます。本日は、標準予防策と経路別感染対 策をテーマに、院内感染対策における基 本から実践までを実例を挙げて振り返っ てみます。 院内感染対策の基本は標準予防策で す。すべての血液、体液、分泌物、排泄 物、 傷のある皮膚、粘膜は伝播しうる病原体 を含んでいる可能性があります。中でも血 液は未知の病原体を含み、今話題のB型 肝炎再活性化などの様に血中から消滅 したと思われた病原体が復活し、ある日 突然感染を起こす可能性があります。 そのため感染の疑い、確定の如何に関わ らず、すべての医療現場において実施す べき 対応 があります 。接 触 予 防 策 、飛 沫 予防策、空気予防策は、検出あるいは推定 される病原体の感染経路に応じて、適切 な対応が求められています。 手洗いの特性 標準予防策における基本は手洗いと言 われていますが、手指消毒を優先的に選択 する理由としては、簡便であり、微生物数を 迅速により長い時間減らし、また手荒れが 病院感染対策の基本 「標準予防策」 2013 3 1 日(金) パシフィコ横浜 会議センター301 第10会場 第28回 日本環境感染学会総会/キンバリークラーク・ヘルスケア・インク 12 : 20 ~13 : 10 第28回 日本環境感染学会総会 ランチョンセミナー 9 Surgical & Infection Prevention ナレッジ・コミュニケーション Vol. 3 標準予防策と経路別感染対策 ~もう一度 基本から実践まで~ 医療機関において標準予防策は医療従事者の誰もが知っており、当たり前のように導入されています。 しかし、マンパワーやコストが限られている現場では、推奨されている通りに実施できない、何をどこまで 行えばよいか判断に迷う、などの声が多く聞かれるのも事実です。今回は、誰もが知っている標準予防策の基礎 から実践までの振り返りを目的として、東京大学大学院森屋先生に根拠と正しい実践方法、およびその 重要性についてお話しいただきました。 昭和48年関西医科大学卒業。NTT西日本東海病院 外科部長、名古屋市立大学医学部 臨床教授などを 経て、現在は東京医療保健大学/大学院 教授を務める。 「感染制御」を生涯の研究課題と定め、多くの医療 機関・大学などで院内感染、術後の感染あるいはイン フルエンザを未然に防ぐ研究、などを進めている。 東京医療保健大学/大学院 教授 大久保 憲 先生 平成元年東京大学医学部医学科卒業。平成3年に 同大学医学部附属病院第一内科に入局。ウイルス 肝炎発癌機構研究に従事し、平成21年より東京 大学大学院医学系研究科感染制御学教授、感染 制御部長、感染対策センター長を兼任し、日々感染 対策にあたる。 東京大学大学院医学系研究科 感染制御学 教授 森屋 恭爾 先生

標準予防策と経路別感染対策...第28回 日本環境感染学会総会 ランチョンセミナー 9 病原体に応じた感染経路対策 経路別感染対策は、接触予防策、飛沫

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Page 1: 標準予防策と経路別感染対策...第28回 日本環境感染学会総会 ランチョンセミナー 9 病原体に応じた感染経路対策 経路別感染対策は、接触予防策、飛沫

第28回 日本環境感染学会総会 ランチョンセミナー 9

病原体に応じた感染経路対策 経路別感染対策は、接触予防策、飛沫予防策、空気予防策からなり、いずれも標準予防策を含むとともにそれぞれ個人用防護具、対策法などが規定されています。近年ではノロウイルスなど、培養検査が未だ行えず病態が特定しがたい病原体があるため、患者さんの発症以前より標準予防策の徹底、予防的な運用が望まれてい

ます。本日は、標準予防策と経路別感染対策をテーマに、院内感染対策における基本から実践までを実例を挙げて振り返ってみます。 院内感染対策の基本は標準予防策です。すべての血液、体液、分泌物、排泄物、傷のある皮膚、粘膜は伝播しうる病原体を含んでいる可能性があります。中でも血液は未知の病原体を含み、今話題のB型肝炎再活性化などの様に血中から消滅したと思われた病原体が復活し、ある日突然感染を起こす可能性があります。

そのため感染の疑い、確定の如何に関わらず、すべての医療現場において実施すべき対応があります。接触予防策、飛沫予防策、空気予防策は、検出あるいは推定される病原体の感染経路に応じて、適切な対応が求められています。

手洗いの特性 標準予防策における基本は手洗いと言われていますが、手指消毒を優先的に選択する理由としては、簡便であり、微生物数を迅速により長い時間減らし、また手荒れが

病院感染対策の基本「標準予防策」

日 時

会 場

共 催

2013年3月1日(金)パシフィコ横浜 会議センター301 第10会場

第28回 日本環境感染学会総会/キンバリークラーク・ヘルスケア・インク

12:20 ~13:10

第28回 日本環境感染学会総会 ランチョンセミナー 9

Surgical & Infection Prevention

ナレッジ・コミュニケーション

Vol.3

標準予防策と経路別感染対策~もう一度 基本から実践まで~医療機関において標準予防策は医療従事者の誰もが知っており、当たり前のように導入されています。しかし、マンパワーやコストが限られている現場では、推奨されている通りに実施できない、何をどこまで行えばよいか判断に迷う、などの声が多く聞かれるのも事実です。今回は、誰もが知っている標準予防策の基礎から実践までの振り返りを目的として、東京大学大学院森屋先生に根拠と正しい実践方法、およびその重要性についてお話しいただきました。

昭和48年関西医科大学卒業。NTT西日本東海病院外科部長、名古屋市立大学医学部 臨床教授などを経て、現在は東京医療保健大学/大学院 教授を務める。「感染制御」を生涯の研究課題と定め、多くの医療機関・大学などで院内感染、術後の感染あるいはインフルエンザを未然に防ぐ研究、などを進めている。

東京医療保健大学/大学院 教授

大久保 憲 先生平成元年東京大学医学部医学科卒業。平成3年に同大学医学部附属病院第一内科に入局。ウイルス肝炎発癌機構研究に従事し、平成21年より東京大学大学院医学系研究科感染制御学教授、感染制御部長、感染対策センター長を兼任し、日々感染対策にあたる。

東京大学大学院医学系研究科 感染制御学 教授

森屋 恭爾 先生

司 会 演 者

KCJ010113SMKT006-T

www.jp.kchealthcare.com/

発行元:キンバリークラーク・ヘルスケア・インク 〒220-8115 横浜市西区みなとみらい2-2-1 横浜ランドマークタワー

Tel. 0800-100-5100(フリーコール)

グローブに起因する生体反応

手術室火災:Fire Safety in The OR

周術期環境に影響する要素と対策

標準予防策と経路別隔離予防策

手術部位感染対策 ~初級~

サポートツール一覧

・滅菌包装材の正しい取り扱いポスター・ラテックスフリー手袋採用&標準予防策に基づく手洗い励行ポスター・入院患者様向けビデオ(手指衛生) ・咳エチケットポスター(小児向け) ・PPE認識用ドアプレート・N95の装着方法ポスター

・パンデミックに対する事前対策医療施設ガイド

啓発ツール

情報誌

資 料

キンバリークラークは看護師有資格者による院内セミナーを提供いたします。

今回のセミナーで森屋先生が、セミナー会場の皆さんに出題した問題とその回答です。

❶ 採血時には手袋着用は必要ない。

❷ 血液や体液が飛散する可能性がある場合は、ガウン、マスク、ゴーグルを着用する。

❸ 多剤耐性菌検出者のみに行うべき感染対策である。

❹ 同じ患者さんであれば、処置の合間に手を洗わなくても問題ない。

❺ 手袋の上から手洗いや手指消毒をすれば、処置ごとに交換する必要はない。

❶ MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)検出患者さんの病室内からMRSAが検出される  ことはない。

❷ 医療従事者が鼻腔内に保菌しているMRSAが患者さんに伝播することはない。

❸ MRSAは乾燥した環境表面では数時間程度しか生存しない。

❹ 速乾性擦式消毒薬による手指消毒により、手に付着したMRSAは1/1,000に減少する。

❺ MRSAにより診療端末のキーボードが汚染されることはない。

❶ 標準予防策を徹底する。

❷ オムツ交換時は手袋に加えエプロンやガウンを装着する。

❸ 環境を汚染させないためにオムツ交換の際はビニール袋を用意し、オムツを外したあとは  すぐにビニール袋の中へ入れる。

❹ 便の処理をしたあとは、擦式消毒用アルコール製剤による手指消毒を徹底して行う。

❺ 患者やベッド周囲などに身体が触れる可能性がある場合、手袋やエプロンを装着する。

[解答:問1_❷ 問2_❹ 問3_❹]

標準予防策について正しいものを1つ挙げてください。

院内感染対策について正しい項目を1つ挙げてください。問2

問1

下痢が認められる患者さんへの対応について、適切でないものはどれか。問3Knowledge Communication No.1日本赤十字社医療センター、名古屋第一席赤十字病院 インタビューレポート

Knowledge Communication Vol.2「医療現場における地域連携」インタビューレポート

第27回 日本環境感染学会総会 ランチョンセミナーレポート「薬剤耐性菌対策に必要な標準予防策 up to date」

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第28回 日本環境感染学会総会 ランチョンセミナー 9

し難いという特長があります。但し、1)手指に目に見える汚染がある場合、2)嘔吐・下痢のある患者に触れた、またはその病室から出た直後である場合、3)アルコール消毒薬に抵抗性がある微生物(ノロウイルス、ロタウイルス、C. difficile※1、セラチア菌など)が想定される場合には、石けんと流水による手洗いが必要です。 ノロウイルスがなぜ流行するかと言えば、培養系がないためアルコールによる殺菌効果の確認ができず、どの程度効果があるのかが見え難いためです。アルコールによりノロウイルスが減らせている可能性があるものの、確証がありません。そのため手洗いの方法は、確実に知っておかなければならないものでしょう。

手洗いは感染対策の基本 では、標準予防策は具体的にどうすればよいのか。ある患者さんにおいて耐性菌の報告がなく、検査結果も良好との報告がされている場合を考えてみましょう。標準予防策は感染症の有無に関わらず、このような症例も含めたすべての患者さんに対して絶えず行わなければなりません。 例えば創傷の処置をする場合には、常時手袋の着用が必要です。吸引においては、手袋、ガウン、マスクが必要ですし、排泄物の取り扱いでは手袋とガウン、留置ドレーンやカテーテル処理においては手袋が必要です。これらの状況以外にも、飛散が予想される場合には、その他の防護具と組み合わせる必要があります。医療従事者の中には、業務の忙しさのあまりガイドラインに決められていながらも着用していないケースがあるでしょうから、私たちはこれらを言葉だけではなく、日々遵守しなければなりません。 さらに重要なことは、これを踏まえた手指消毒です。手洗いは感染対策の基本ですが、流水と石けんによる手洗いは、目に見える汚れがついた場合、アルコールによって殺菌できない病原体(ノロウイルス、C. difficile など)に触れた場合に有効です。また、便に触れた場合、便にはもともと微生物が多く感染の危険性が高いため、確実に汚れを落とすことが大切です。逆にアルコール擦式消毒薬による手指消毒は、明らかに手指が汚染されていない、目に見える汚れが付着していない場合、に使用します。

手指衛生が必要な5つのタイミング (図1参照) 手指衛生の方法については、WHOが「手指衛生が必要な5つのタイミング」を提示しています。単に手指衛生を行うだけではなく、いつ、どこで、どんな時に行うのかを確認し、これらのタイミングで手指衛生を遵守することが感染予防と拡大防止への第一歩であると考えます。また、手指消毒の手順は医療従事者に広く知られていますが、特に指先から手首に至る部分は丁寧に行う必要があります。

正しい手指消毒を見直す 東大病院の感染制御部では、3年程前から手指消毒がどのように実施されているか、院内の各科の状況を確認しています。すると、指の間や手首などはアルコールを付け難く、逆に付けた場合には落としていないなど、正しい手指消毒が行われていないケースが散見されます。重点的に洗浄が必要な箇所は、やはり爪の周囲です。指の間、親指や手首の周辺も手洗いが不十分になりやすいため注意が必要です。 これらは医療機関で日常的に行われ指導もされていますが、自分で改めて振り返れば、独特の癖に気付く場合も多いでしょう。そうした癖を再確認する意味で行っているのが、各科の医師への手指消毒のモニタリングです。手洗い実施率が悪い科の医師に行った培地を使ったテストでは、「手を洗う前」と「十分に手を洗ったあと」の双方で多くの菌を確認できました。一方で、日常的に手洗いを慣行して

いる医師からは、手洗い前、手洗い後共にほとんど菌が検出されませんでした。

 このテストでは、医療従事者として長い経験を持つ方でも、手洗い後の菌量が手洗い前の1/3程であまり変わらないケースもあります。多くの方は“自分は正しくやっている”と考えていますが、自分が最初の医師のケースに当てはまらない保証はあるのだろうか、また、患者さんから見れば果たしてどちらの医師に診療されたいのだろうか、など、改めて一人一人が自分の手指衛生を見直すべきであると考えます。

手袋を外す際にも必要な手指衛生 手指衛生は手袋をつける前だけではなく、外す際にも必要です。手袋全体に蛍光塗料を塗り、それを外した後の付着状態を調べる検査を行いました。手袋を外した後の手に蛍光塗料が付着するとい

うことは、外す過程で手が手袋のどこかに触れていることを表しています。検査では、勤務経験年数3年、3ヵ月、20年、1年の方に協力いただきましたが、経験年数による差はなくすべての方に蛍光塗料が付着していました。また、付着している箇所は利き手の逆や指先に多く見られました。対象者にはこれから検査をすること、蛍光塗料が塗ってあり、手に付かないようにする、といった主旨を説明していますが、それでも付着してしまうことから、注意深く手袋を外している間ですら思わぬ形で汚染する危険性があることがわかります。

患者さんの周辺環境にも配慮する接触予防策 経路別感染対策には、接触予防策の他に飛沫予防策および空気感染対策があります。飛沫予防策は、インフルエンザ、

風疹、流行性耳下腺炎など、細菌やウイルスの飛沫を含んだ空気を吸い込んで罹るものに相当します。人間の咳嗽で飛んだ飛沫は、実験により30分以上も空気中に漂っていることが確認されています。空気の流れがあれば1.5メートル以上も流れて広がり、それが周囲の環境に付着して、そこに触れた人間を介して感染に繋がることもあるのです。 患者さんに咳エチケットやマスクの着用をお願いしたり、医療従事者がN95マスクを着用したりするなどの対策が必要です。空気感染については多剤耐性菌などと後に簡単に述べます。 今日は、特に接触予防策の話を中心に進めたいと思います。 接触予防策とは、患者および患者周辺環境が病原体によって汚染されているという考えの基に行う予防策です。接触感染は、患者さんからだけではなく、その周囲の環境にも目に見えない細菌が潜んでおり、そこに触れることで発生します。患

者さんや周辺環境に触れる際には、手袋を着用し、衣類がそれらに触れることが予測される際にはガウンなどを着用します。対象となるのは、MRSA、多剤耐性緑膿菌、ESBL産生菌、メタロβラクタマーゼ産生菌などです。特に院内では、ESBL産生菌、メタロβラクタマーゼ産生菌などグラム陰性菌の耐性菌が増殖しており、多剤耐性アシネトバクターも問題になっています。 また、病院内では抗菌剤の使用に耐えた“耐性菌”が環境内に生存している可能性が高いことが一般の環境と異なります。現在抗菌剤治療中の患者さんであれば、抗菌剤によって、腸内の常在菌が減ることで耐性菌が成長し易い環境にあると言えます。看護師や医師などの処置する側の健康な方の体内に菌が入っても問題にはなりませんが、体力、免疫力の落ちた患者さんには同じ量の菌が入っただけでも、様々な病気を引き起こす原因になります。医療従事者と患者さんが、同じ状況ではないことを認識し、少しでも患者さんが菌に触れる機会を減らす予防策を取らなければなりません。

保菌患者の保菌箇所とその生存率 ここで患者さんの年齢別に、鼻腔内の黄色ブドウ球菌の保菌率を見てみます。年齢別に保有割合が出ており、小児にとても多いことが分かります。次に部位別に黄色ブドウ球菌が定着しているかを見てみます。鼻の中が27%、手が27%、腹部や胸のあたりは15%、鼠蹊部など、あらゆる部位に存在していますが、ここで、鼻腔に黄色ブドウ球菌を持っている人だけを集めてみました。先程の27%から仮に1,000人の患者さんがいれば、そのうち270人が鼻腔にブドウ球菌を保菌している目安となります。それら鼻腔にブドウ球菌を保菌している方々だけを集めて検討すると当然鼻腔が100%となるものの、手が90%、腹部や胸の皮膚もおよそ45%と、身体全体に50%程度の割合で黄色ブドウ球菌を保菌していました。つまり黄色ブドウ球菌を鼻腔に保菌している患者さんは鼻腔だけではなく、皮膚のほぼすべての部位から菌が検出されるということです。 これらの菌は果たしてどの程度の期間環境で存在しているのでしょうか。環境の水分や栄養分の違いもありますが、MRSAを例にとれば、どの場所であれおよそ数日~9週間くらいは存在しています。環境によりますがC. difficile は5ヵ月、アシネトバク

ターは主に環境内に1ヵ月以上、緑膿菌だけは乾燥すれば数時間で消えますが、場合によっては1年以上も存在し続けることが可能です。MRSAを保菌している患者さんがいた場合、その周囲や手に対してこうした菌が数時間あるいは何日間も存在しているのです。各病院では毎日清掃作業が行われていますが、患者さんの周囲は掃除しきれない箇所が残されている場合があります。環境から感染を拡大しないためには、手指消毒、手袋そして患者さんに接する場合にはPPE(Personal Protective Equipments:個人防護具)を身につけることが大切です。患者さんに触れるだけでPPEを着用するのは、決してやり過ぎではなく感染予防の必須手段なのです。

医療従事者の手指汚染率は10~20% 手指衛生が必要な5つのタイミング(患者さんに触れる前、清潔操作の直前、血液・体液に触れた直後、環境に触れた後、そして退室後)を私たちは常に遵守しているでしょうか。 患者さんからMRSAが検出された場合、その周辺からもMRSAが検出されます。 通常の皮膚には102~106CFU/cm2の病原体が存在しており、健常な皮膚からは毎日106の落屑があるため、患者さんの周辺は病原体で汚染されている可能性が高いことが示唆されます。それらは患者さん

の衣服、ベッド柵や医療器具などに存在しますが、普段は目に見えないものです。医療従事者が診察などをする際には、患者さん自身や部屋の様々な場所に触らざるを得ません。特に医療従事者が医療ケアを行うと、手指の10~20%が病原体で汚染され、その中でもおむつ交換や呼吸ケアのあとは汚染率が高いことが知られています。患者さんに触れる医療従事者は、適切に手指衛生を行わなければ手に病原体が残ることになります。 そして病原体は手の表面でも長時間生存が可能です。付いた菌は30分~1時間程度は存在するため、手洗いをしなければ一生懸命に患者さんを診ているつもりが、次々に他の患者さんにも菌を伝播させる原因となるのです。

医療従事者の手指衛生が感染の伝播を防ぐ 石けんと流水による手洗いは、手指に付着した菌量を1/100に減少させます。但し、濡れた手は乾燥した手の100~1,000倍の細菌を伝播する可能性があるため、確実に拭き取ることが大切です。また、アルコール性の手指消毒薬は、15秒使用すれば菌量が1/1,000に、30秒使用すれば1/10,000に菌量を減少させることができます。もちろん手袋の着用も有効です。非着用時に比べて汚染菌数は少なく、着用の徹底によりC. difficile 関連下痢症の発

症が減ったという報告もされています。 手指衛生を向上させることは、確実に感染率を下げます。これまでの報告では、MRSA菌血症発生率が57%、手術部位感染症が54%、バンコマイシン耐性腸球菌の検出率が87%、病院内感染症発生率が36%低下しています。 当院を例に挙げれば、MRSAが増加していた際に病院長が病院全体で手指衛生の遵守を宣言し、最も検出数が多かった2003年頃に比べると、2012年はその6割程度までに減少させることができました。入院数は増えているため、2003年当時に比べれば実質50%以下に減少したと言えるでしょう。これはひとえに現場の感染対策チームや各科の医師、看護師の協力の結果だと考えています。

まとめ 医療従事者は日々様々な対応に追われています。しかし、やはりタイミングをみて確実な手指消毒をしなければ、最終的に辛い思いをするのは患者さんであり、そのケアに関わった医療従事者です。 既知の知識だと思わず、もう一度基本に立ち戻って標準予防策と経路別感染対策を確認していただきたいと思います。手指衛生の遵守率を向上させ、基本の知識を実践的に使っていくことが、もっとも効果的な感染対策であると考えます。

講演を終えて ~大久保 憲先生~ 森屋先生による標準予防策(スタンダードプリコーション)の解説でしたが、みなさんユニバーサルプリコーションはご存知でしょうか。ユニバーサルプリコーションは1980年代に生まれた、血液または血液が付着しているものはすべて感染性があるとして扱いなさいという概念です。現在広く知られているスタンダードプリコーションは1996年に確立されました。また、WHOの5つのポイントは感染対策の要点を把握するには大変有効ですが、徹底して実施することは難しいかもしれません。しかし、これら普遍的要素を少しでも頭に入れながら今日のお話を振り返っていただくと、皆さんの日々のケアにも新たな指針となるはずです。

“いつ、どこで、どんな時に”正しい手指衛生

医療従事者が行うべき経路別感染対策

■図1.手指衛生が必要な5つのタイミング

■東大病院の手洗い手順

Neck 10%

■黄色ブドウ球菌部位別定着率 Lancet infect dis 2005. 5(12): 751より抜粋

General population S. aureus nasal carriers

Axilla 8%

Forearm 20%

Hand 27%

Axilla 19%

Forearm 45%

Hand 90%

Nose 27%

Pharynx 10-20%

Skin chest 15%

Skin abdomen15%

Perineum 22%Vaginal 5%

Ankle 10%

Nose 100%

Pharynx 25-50%

Skin chest 45%

Skin abdomen40%

Perineum 60%

Ankle 10%

手指消毒後手指消毒前

手指消毒後手指消毒前

■東大病院の手指消毒手順

指の間にもすりこみます。 親指にもすりこみます。 手首も忘れずにすりこみます。乾燥するまでよくすりこんでください。

消毒薬約3mLを手のひらに取ります(ポンプを1回押すと霧状に約3mLでます)。

初めに両手の指先に消毒薬をすりこみます。

次の手のひらによくすりこみます。

手の甲にもすりこんでください。

❶ ❷ ❸ ❹

❺ ❻ ❼

※1(クロストリジウム・ディフィシル)環境菌の一種で、川の水やペット、成人した人、入院患者からも多く検出報告が挙がるが、具体的な症状が出ることは少ない。発症例としては、偽膜性大腸炎の原因菌として知られている。

Clostridium difficile

某科医師A

某科医師B

爪の周囲、指の間、親指、手首周辺の手洗いが不十分となりやすいため注意が必要です。

1.患者に触れる前(入室前・診察前)

5.患者に触れた後(退室後・診察後)

2.清潔/無菌操作の前例:ライン挿入、創傷処置など (手袋着用直前)

4.患者周辺の環境に触れた後例:ベッド柵、リネン、モニター類

3.血液/体液に触れた後例:検体採取、尿・便・吐物処理など (手袋を脱いだあと)

このタイミングでの手指衛生を遵守して下さい。 ペーパータオル等で拭きます。

流水で洗浄する部分をぬらします。

薬用石けんまたは手洗い用消毒(スクラブ剤)を手掌にとります。

手のひらを洗います。 手のひらで手の甲を包むように洗います。反対も同様に。

指の間もよく洗います。 指までよく洗います。 親指の周囲もよく洗います。

手首もよく洗います。 流水で洗い流します。

指先、爪もよく洗います。

❶ ❷ ❸ ❹

❺ ❻ ❼ ❽

10❾ 11

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第28回 日本環境感染学会総会 ランチョンセミナー 9

し難いという特長があります。但し、1)手指に目に見える汚染がある場合、2)嘔吐・下痢のある患者に触れた、またはその病室から出た直後である場合、3)アルコール消毒薬に抵抗性がある微生物(ノロウイルス、ロタウイルス、C. difficile※1、セラチア菌など)が想定される場合には、石けんと流水による手洗いが必要です。 ノロウイルスがなぜ流行するかと言えば、培養系がないためアルコールによる殺菌効果の確認ができず、どの程度効果があるのかが見え難いためです。アルコールによりノロウイルスが減らせている可能性があるものの、確証がありません。そのため手洗いの方法は、確実に知っておかなければならないものでしょう。

手洗いは感染対策の基本 では、標準予防策は具体的にどうすればよいのか。ある患者さんにおいて耐性菌の報告がなく、検査結果も良好との報告がされている場合を考えてみましょう。標準予防策は感染症の有無に関わらず、このような症例も含めたすべての患者さんに対して絶えず行わなければなりません。 例えば創傷の処置をする場合には、常時手袋の着用が必要です。吸引においては、手袋、ガウン、マスクが必要ですし、排泄物の取り扱いでは手袋とガウン、留置ドレーンやカテーテル処理においては手袋が必要です。これらの状況以外にも、飛散が予想される場合には、その他の防護具と組み合わせる必要があります。医療従事者の中には、業務の忙しさのあまりガイドラインに決められていながらも着用していないケースがあるでしょうから、私たちはこれらを言葉だけではなく、日々遵守しなければなりません。 さらに重要なことは、これを踏まえた手指消毒です。手洗いは感染対策の基本ですが、流水と石けんによる手洗いは、目に見える汚れがついた場合、アルコールによって殺菌できない病原体(ノロウイルス、C. difficile など)に触れた場合に有効です。また、便に触れた場合、便にはもともと微生物が多く感染の危険性が高いため、確実に汚れを落とすことが大切です。逆にアルコール擦式消毒薬による手指消毒は、明らかに手指が汚染されていない、目に見える汚れが付着していない場合、に使用します。

手指衛生が必要な5つのタイミング (図1参照) 手指衛生の方法については、WHOが「手指衛生が必要な5つのタイミング」を提示しています。単に手指衛生を行うだけではなく、いつ、どこで、どんな時に行うのかを確認し、これらのタイミングで手指衛生を遵守することが感染予防と拡大防止への第一歩であると考えます。また、手指消毒の手順は医療従事者に広く知られていますが、特に指先から手首に至る部分は丁寧に行う必要があります。

正しい手指消毒を見直す 東大病院の感染制御部では、3年程前から手指消毒がどのように実施されているか、院内の各科の状況を確認しています。すると、指の間や手首などはアルコールを付け難く、逆に付けた場合には落としていないなど、正しい手指消毒が行われていないケースが散見されます。重点的に洗浄が必要な箇所は、やはり爪の周囲です。指の間、親指や手首の周辺も手洗いが不十分になりやすいため注意が必要です。 これらは医療機関で日常的に行われ指導もされていますが、自分で改めて振り返れば、独特の癖に気付く場合も多いでしょう。そうした癖を再確認する意味で行っているのが、各科の医師への手指消毒のモニタリングです。手洗い実施率が悪い科の医師に行った培地を使ったテストでは、「手を洗う前」と「十分に手を洗ったあと」の双方で多くの菌を確認できました。一方で、日常的に手洗いを慣行して

いる医師からは、手洗い前、手洗い後共にほとんど菌が検出されませんでした。

 このテストでは、医療従事者として長い経験を持つ方でも、手洗い後の菌量が手洗い前の1/3程であまり変わらないケースもあります。多くの方は“自分は正しくやっている”と考えていますが、自分が最初の医師のケースに当てはまらない保証はあるのだろうか、また、患者さんから見れば果たしてどちらの医師に診療されたいのだろうか、など、改めて一人一人が自分の手指衛生を見直すべきであると考えます。

手袋を外す際にも必要な手指衛生 手指衛生は手袋をつける前だけではなく、外す際にも必要です。手袋全体に蛍光塗料を塗り、それを外した後の付着状態を調べる検査を行いました。手袋を外した後の手に蛍光塗料が付着するとい

うことは、外す過程で手が手袋のどこかに触れていることを表しています。検査では、勤務経験年数3年、3ヵ月、20年、1年の方に協力いただきましたが、経験年数による差はなくすべての方に蛍光塗料が付着していました。また、付着している箇所は利き手の逆や指先に多く見られました。対象者にはこれから検査をすること、蛍光塗料が塗ってあり、手に付かないようにする、といった主旨を説明していますが、それでも付着してしまうことから、注意深く手袋を外している間ですら思わぬ形で汚染する危険性があることがわかります。

患者さんの周辺環境にも配慮する接触予防策 経路別感染対策には、接触予防策の他に飛沫予防策および空気感染対策があります。飛沫予防策は、インフルエンザ、

風疹、流行性耳下腺炎など、細菌やウイルスの飛沫を含んだ空気を吸い込んで罹るものに相当します。人間の咳嗽で飛んだ飛沫は、実験により30分以上も空気中に漂っていることが確認されています。空気の流れがあれば1.5メートル以上も流れて広がり、それが周囲の環境に付着して、そこに触れた人間を介して感染に繋がることもあるのです。 患者さんに咳エチケットやマスクの着用をお願いしたり、医療従事者がN95マスクを着用したりするなどの対策が必要です。空気感染については多剤耐性菌などと後に簡単に述べます。 今日は、特に接触予防策の話を中心に進めたいと思います。 接触予防策とは、患者および患者周辺環境が病原体によって汚染されているという考えの基に行う予防策です。接触感染は、患者さんからだけではなく、その周囲の環境にも目に見えない細菌が潜んでおり、そこに触れることで発生します。患

者さんや周辺環境に触れる際には、手袋を着用し、衣類がそれらに触れることが予測される際にはガウンなどを着用します。対象となるのは、MRSA、多剤耐性緑膿菌、ESBL産生菌、メタロβラクタマーゼ産生菌などです。特に院内では、ESBL産生菌、メタロβラクタマーゼ産生菌などグラム陰性菌の耐性菌が増殖しており、多剤耐性アシネトバクターも問題になっています。 また、病院内では抗菌剤の使用に耐えた“耐性菌”が環境内に生存している可能性が高いことが一般の環境と異なります。現在抗菌剤治療中の患者さんであれば、抗菌剤によって、腸内の常在菌が減ることで耐性菌が成長し易い環境にあると言えます。看護師や医師などの処置する側の健康な方の体内に菌が入っても問題にはなりませんが、体力、免疫力の落ちた患者さんには同じ量の菌が入っただけでも、様々な病気を引き起こす原因になります。医療従事者と患者さんが、同じ状況ではないことを認識し、少しでも患者さんが菌に触れる機会を減らす予防策を取らなければなりません。

保菌患者の保菌箇所とその生存率 ここで患者さんの年齢別に、鼻腔内の黄色ブドウ球菌の保菌率を見てみます。年齢別に保有割合が出ており、小児にとても多いことが分かります。次に部位別に黄色ブドウ球菌が定着しているかを見てみます。鼻の中が27%、手が27%、腹部や胸のあたりは15%、鼠蹊部など、あらゆる部位に存在していますが、ここで、鼻腔に黄色ブドウ球菌を持っている人だけを集めてみました。先程の27%から仮に1,000人の患者さんがいれば、そのうち270人が鼻腔にブドウ球菌を保菌している目安となります。それら鼻腔にブドウ球菌を保菌している方々だけを集めて検討すると当然鼻腔が100%となるものの、手が90%、腹部や胸の皮膚もおよそ45%と、身体全体に50%程度の割合で黄色ブドウ球菌を保菌していました。つまり黄色ブドウ球菌を鼻腔に保菌している患者さんは鼻腔だけではなく、皮膚のほぼすべての部位から菌が検出されるということです。 これらの菌は果たしてどの程度の期間環境で存在しているのでしょうか。環境の水分や栄養分の違いもありますが、MRSAを例にとれば、どの場所であれおよそ数日~9週間くらいは存在しています。環境によりますがC. difficile は5ヵ月、アシネトバク

ターは主に環境内に1ヵ月以上、緑膿菌だけは乾燥すれば数時間で消えますが、場合によっては1年以上も存在し続けることが可能です。MRSAを保菌している患者さんがいた場合、その周囲や手に対してこうした菌が数時間あるいは何日間も存在しているのです。各病院では毎日清掃作業が行われていますが、患者さんの周囲は掃除しきれない箇所が残されている場合があります。環境から感染を拡大しないためには、手指消毒、手袋そして患者さんに接する場合にはPPE(Personal Protective Equipments:個人防護具)を身につけることが大切です。患者さんに触れるだけでPPEを着用するのは、決してやり過ぎではなく感染予防の必須手段なのです。

医療従事者の手指汚染率は10~20% 手指衛生が必要な5つのタイミング(患者さんに触れる前、清潔操作の直前、血液・体液に触れた直後、環境に触れた後、そして退室後)を私たちは常に遵守しているでしょうか。 患者さんからMRSAが検出された場合、その周辺からもMRSAが検出されます。 通常の皮膚には102~106CFU/cm2の病原体が存在しており、健常な皮膚からは毎日106の落屑があるため、患者さんの周辺は病原体で汚染されている可能性が高いことが示唆されます。それらは患者さん

の衣服、ベッド柵や医療器具などに存在しますが、普段は目に見えないものです。医療従事者が診察などをする際には、患者さん自身や部屋の様々な場所に触らざるを得ません。特に医療従事者が医療ケアを行うと、手指の10~20%が病原体で汚染され、その中でもおむつ交換や呼吸ケアのあとは汚染率が高いことが知られています。患者さんに触れる医療従事者は、適切に手指衛生を行わなければ手に病原体が残ることになります。 そして病原体は手の表面でも長時間生存が可能です。付いた菌は30分~1時間程度は存在するため、手洗いをしなければ一生懸命に患者さんを診ているつもりが、次々に他の患者さんにも菌を伝播させる原因となるのです。

医療従事者の手指衛生が感染の伝播を防ぐ 石けんと流水による手洗いは、手指に付着した菌量を1/100に減少させます。但し、濡れた手は乾燥した手の100~1,000倍の細菌を伝播する可能性があるため、確実に拭き取ることが大切です。また、アルコール性の手指消毒薬は、15秒使用すれば菌量が1/1,000に、30秒使用すれば1/10,000に菌量を減少させることができます。もちろん手袋の着用も有効です。非着用時に比べて汚染菌数は少なく、着用の徹底によりC. difficile 関連下痢症の発

症が減ったという報告もされています。 手指衛生を向上させることは、確実に感染率を下げます。これまでの報告では、MRSA菌血症発生率が57%、手術部位感染症が54%、バンコマイシン耐性腸球菌の検出率が87%、病院内感染症発生率が36%低下しています。 当院を例に挙げれば、MRSAが増加していた際に病院長が病院全体で手指衛生の遵守を宣言し、最も検出数が多かった2003年頃に比べると、2012年はその6割程度までに減少させることができました。入院数は増えているため、2003年当時に比べれば実質50%以下に減少したと言えるでしょう。これはひとえに現場の感染対策チームや各科の医師、看護師の協力の結果だと考えています。

まとめ 医療従事者は日々様々な対応に追われています。しかし、やはりタイミングをみて確実な手指消毒をしなければ、最終的に辛い思いをするのは患者さんであり、そのケアに関わった医療従事者です。 既知の知識だと思わず、もう一度基本に立ち戻って標準予防策と経路別感染対策を確認していただきたいと思います。手指衛生の遵守率を向上させ、基本の知識を実践的に使っていくことが、もっとも効果的な感染対策であると考えます。

講演を終えて ~大久保 憲先生~ 森屋先生による標準予防策(スタンダードプリコーション)の解説でしたが、みなさんユニバーサルプリコーションはご存知でしょうか。ユニバーサルプリコーションは1980年代に生まれた、血液または血液が付着しているものはすべて感染性があるとして扱いなさいという概念です。現在広く知られているスタンダードプリコーションは1996年に確立されました。また、WHOの5つのポイントは感染対策の要点を把握するには大変有効ですが、徹底して実施することは難しいかもしれません。しかし、これら普遍的要素を少しでも頭に入れながら今日のお話を振り返っていただくと、皆さんの日々のケアにも新たな指針となるはずです。

“いつ、どこで、どんな時に”正しい手指衛生

医療従事者が行うべき経路別感染対策

■図1.手指衛生が必要な5つのタイミング

■東大病院の手洗い手順

Neck 10%

■黄色ブドウ球菌部位別定着率 Lancet infect dis 2005. 5(12): 751より抜粋

General population S. aureus nasal carriers

Axilla 8%

Forearm 20%

Hand 27%

Axilla 19%

Forearm 45%

Hand 90%

Nose 27%

Pharynx 10-20%

Skin chest 15%

Skin abdomen15%

Perineum 22%Vaginal 5%

Ankle 10%

Nose 100%

Pharynx 25-50%

Skin chest 45%

Skin abdomen40%

Perineum 60%

Ankle 10%

手指消毒後手指消毒前

手指消毒後手指消毒前

■東大病院の手指消毒手順

指の間にもすりこみます。 親指にもすりこみます。 手首も忘れずにすりこみます。乾燥するまでよくすりこんでください。

消毒薬約3mLを手のひらに取ります(ポンプを1回押すと霧状に約3mLでます)。

初めに両手の指先に消毒薬をすりこみます。

次の手のひらによくすりこみます。

手の甲にもすりこんでください。

❶ ❷ ❸ ❹

❺ ❻ ❼

※1(クロストリジウム・ディフィシル)環境菌の一種で、川の水やペット、成人した人、入院患者からも多く検出報告が挙がるが、具体的な症状が出ることは少ない。発症例としては、偽膜性大腸炎の原因菌として知られている。

Clostridium difficile

某科医師A

某科医師B

爪の周囲、指の間、親指、手首周辺の手洗いが不十分となりやすいため注意が必要です。

1.患者に触れる前(入室前・診察前)

5.患者に触れた後(退室後・診察後)

2.清潔/無菌操作の前例:ライン挿入、創傷処置など (手袋着用直前)

4.患者周辺の環境に触れた後例:ベッド柵、リネン、モニター類

3.血液/体液に触れた後例:検体採取、尿・便・吐物処理など (手袋を脱いだあと)

このタイミングでの手指衛生を遵守して下さい。 ペーパータオル等で拭きます。

流水で洗浄する部分をぬらします。

薬用石けんまたは手洗い用消毒(スクラブ剤)を手掌にとります。

手のひらを洗います。 手のひらで手の甲を包むように洗います。反対も同様に。

指の間もよく洗います。 指までよく洗います。 親指の周囲もよく洗います。

手首もよく洗います。 流水で洗い流します。

指先、爪もよく洗います。

❶ ❷ ❸ ❹

❺ ❻ ❼ ❽

10❾ 11

Page 4: 標準予防策と経路別感染対策...第28回 日本環境感染学会総会 ランチョンセミナー 9 病原体に応じた感染経路対策 経路別感染対策は、接触予防策、飛沫

第28回 日本環境感染学会総会 ランチョンセミナー 9

し難いという特長があります。但し、1)手指に目に見える汚染がある場合、2)嘔吐・下痢のある患者に触れた、またはその病室から出た直後である場合、3)アルコール消毒薬に抵抗性がある微生物(ノロウイルス、ロタウイルス、C. difficile※1、セラチア菌など)が想定される場合には、石けんと流水による手洗いが必要です。 ノロウイルスがなぜ流行するかと言えば、培養系がないためアルコールによる殺菌効果の確認ができず、どの程度効果があるのかが見え難いためです。アルコールによりノロウイルスが減らせている可能性があるものの、確証がありません。そのため手洗いの方法は、確実に知っておかなければならないものでしょう。

手洗いは感染対策の基本 では、標準予防策は具体的にどうすればよいのか。ある患者さんにおいて耐性菌の報告がなく、検査結果も良好との報告がされている場合を考えてみましょう。標準予防策は感染症の有無に関わらず、このような症例も含めたすべての患者さんに対して絶えず行わなければなりません。 例えば創傷の処置をする場合には、常時手袋の着用が必要です。吸引においては、手袋、ガウン、マスクが必要ですし、排泄物の取り扱いでは手袋とガウン、留置ドレーンやカテーテル処理においては手袋が必要です。これらの状況以外にも、飛散が予想される場合には、その他の防護具と組み合わせる必要があります。医療従事者の中には、業務の忙しさのあまりガイドラインに決められていながらも着用していないケースがあるでしょうから、私たちはこれらを言葉だけではなく、日々遵守しなければなりません。 さらに重要なことは、これを踏まえた手指消毒です。手洗いは感染対策の基本ですが、流水と石けんによる手洗いは、目に見える汚れがついた場合、アルコールによって殺菌できない病原体(ノロウイルス、C. difficile など)に触れた場合に有効です。また、便に触れた場合、便にはもともと微生物が多く感染の危険性が高いため、確実に汚れを落とすことが大切です。逆にアルコール擦式消毒薬による手指消毒は、明らかに手指が汚染されていない、目に見える汚れが付着していない場合、に使用します。

手指衛生が必要な5つのタイミング (図1参照) 手指衛生の方法については、WHOが「手指衛生が必要な5つのタイミング」を提示しています。単に手指衛生を行うだけではなく、いつ、どこで、どんな時に行うのかを確認し、これらのタイミングで手指衛生を遵守することが感染予防と拡大防止への第一歩であると考えます。また、手指消毒の手順は医療従事者に広く知られていますが、特に指先から手首に至る部分は丁寧に行う必要があります。

正しい手指消毒を見直す 東大病院の感染制御部では、3年程前から手指消毒がどのように実施されているか、院内の各科の状況を確認しています。すると、指の間や手首などはアルコールを付け難く、逆に付けた場合には落としていないなど、正しい手指消毒が行われていないケースが散見されます。重点的に洗浄が必要な箇所は、やはり爪の周囲です。指の間、親指や手首の周辺も手洗いが不十分になりやすいため注意が必要です。 これらは医療機関で日常的に行われ指導もされていますが、自分で改めて振り返れば、独特の癖に気付く場合も多いでしょう。そうした癖を再確認する意味で行っているのが、各科の医師への手指消毒のモニタリングです。手洗い実施率が悪い科の医師に行った培地を使ったテストでは、「手を洗う前」と「十分に手を洗ったあと」の双方で多くの菌を確認できました。一方で、日常的に手洗いを慣行して

いる医師からは、手洗い前、手洗い後共にほとんど菌が検出されませんでした。

 このテストでは、医療従事者として長い経験を持つ方でも、手洗い後の菌量が手洗い前の1/3程であまり変わらないケースもあります。多くの方は“自分は正しくやっている”と考えていますが、自分が最初の医師のケースに当てはまらない保証はあるのだろうか、また、患者さんから見れば果たしてどちらの医師に診療されたいのだろうか、など、改めて一人一人が自分の手指衛生を見直すべきであると考えます。

手袋を外す際にも必要な手指衛生 手指衛生は手袋をつける前だけではなく、外す際にも必要です。手袋全体に蛍光塗料を塗り、それを外した後の付着状態を調べる検査を行いました。手袋を外した後の手に蛍光塗料が付着するとい

うことは、外す過程で手が手袋のどこかに触れていることを表しています。検査では、勤務経験年数3年、3ヵ月、20年、1年の方に協力いただきましたが、経験年数による差はなくすべての方に蛍光塗料が付着していました。また、付着している箇所は利き手の逆や指先に多く見られました。対象者にはこれから検査をすること、蛍光塗料が塗ってあり、手に付かないようにする、といった主旨を説明していますが、それでも付着してしまうことから、注意深く手袋を外している間ですら思わぬ形で汚染する危険性があることがわかります。

患者さんの周辺環境にも配慮する接触予防策 経路別感染対策には、接触予防策の他に飛沫予防策および空気感染対策があります。飛沫予防策は、インフルエンザ、

風疹、流行性耳下腺炎など、細菌やウイルスの飛沫を含んだ空気を吸い込んで罹るものに相当します。人間の咳嗽で飛んだ飛沫は、実験により30分以上も空気中に漂っていることが確認されています。空気の流れがあれば1.5メートル以上も流れて広がり、それが周囲の環境に付着して、そこに触れた人間を介して感染に繋がることもあるのです。 患者さんに咳エチケットやマスクの着用をお願いしたり、医療従事者がN95マスクを着用したりするなどの対策が必要です。空気感染については多剤耐性菌などと後に簡単に述べます。 今日は、特に接触予防策の話を中心に進めたいと思います。 接触予防策とは、患者および患者周辺環境が病原体によって汚染されているという考えの基に行う予防策です。接触感染は、患者さんからだけではなく、その周囲の環境にも目に見えない細菌が潜んでおり、そこに触れることで発生します。患

者さんや周辺環境に触れる際には、手袋を着用し、衣類がそれらに触れることが予測される際にはガウンなどを着用します。対象となるのは、MRSA、多剤耐性緑膿菌、ESBL産生菌、メタロβラクタマーゼ産生菌などです。特に院内では、ESBL産生菌、メタロβラクタマーゼ産生菌などグラム陰性菌の耐性菌が増殖しており、多剤耐性アシネトバクターも問題になっています。 また、病院内では抗菌剤の使用に耐えた“耐性菌”が環境内に生存している可能性が高いことが一般の環境と異なります。現在抗菌剤治療中の患者さんであれば、抗菌剤によって、腸内の常在菌が減ることで耐性菌が成長し易い環境にあると言えます。看護師や医師などの処置する側の健康な方の体内に菌が入っても問題にはなりませんが、体力、免疫力の落ちた患者さんには同じ量の菌が入っただけでも、様々な病気を引き起こす原因になります。医療従事者と患者さんが、同じ状況ではないことを認識し、少しでも患者さんが菌に触れる機会を減らす予防策を取らなければなりません。

保菌患者の保菌箇所とその生存率 ここで患者さんの年齢別に、鼻腔内の黄色ブドウ球菌の保菌率を見てみます。年齢別に保有割合が出ており、小児にとても多いことが分かります。次に部位別に黄色ブドウ球菌が定着しているかを見てみます。鼻の中が27%、手が27%、腹部や胸のあたりは15%、鼠蹊部など、あらゆる部位に存在していますが、ここで、鼻腔に黄色ブドウ球菌を持っている人だけを集めてみました。先程の27%から仮に1,000人の患者さんがいれば、そのうち270人が鼻腔にブドウ球菌を保菌している目安となります。それら鼻腔にブドウ球菌を保菌している方々だけを集めて検討すると当然鼻腔が100%となるものの、手が90%、腹部や胸の皮膚もおよそ45%と、身体全体に50%程度の割合で黄色ブドウ球菌を保菌していました。つまり黄色ブドウ球菌を鼻腔に保菌している患者さんは鼻腔だけではなく、皮膚のほぼすべての部位から菌が検出されるということです。 これらの菌は果たしてどの程度の期間環境で存在しているのでしょうか。環境の水分や栄養分の違いもありますが、MRSAを例にとれば、どの場所であれおよそ数日~9週間くらいは存在しています。環境によりますがC. difficile は5ヵ月、アシネトバク

ターは主に環境内に1ヵ月以上、緑膿菌だけは乾燥すれば数時間で消えますが、場合によっては1年以上も存在し続けることが可能です。MRSAを保菌している患者さんがいた場合、その周囲や手に対してこうした菌が数時間あるいは何日間も存在しているのです。各病院では毎日清掃作業が行われていますが、患者さんの周囲は掃除しきれない箇所が残されている場合があります。環境から感染を拡大しないためには、手指消毒、手袋そして患者さんに接する場合にはPPE(Personal Protective Equipments:個人防護具)を身につけることが大切です。患者さんに触れるだけでPPEを着用するのは、決してやり過ぎではなく感染予防の必須手段なのです。

医療従事者の手指汚染率は10~20% 手指衛生が必要な5つのタイミング(患者さんに触れる前、清潔操作の直前、血液・体液に触れた直後、環境に触れた後、そして退室後)を私たちは常に遵守しているでしょうか。 患者さんからMRSAが検出された場合、その周辺からもMRSAが検出されます。 通常の皮膚には102~106CFU/cm2の病原体が存在しており、健常な皮膚からは毎日106の落屑があるため、患者さんの周辺は病原体で汚染されている可能性が高いことが示唆されます。それらは患者さん

の衣服、ベッド柵や医療器具などに存在しますが、普段は目に見えないものです。医療従事者が診察などをする際には、患者さん自身や部屋の様々な場所に触らざるを得ません。特に医療従事者が医療ケアを行うと、手指の10~20%が病原体で汚染され、その中でもおむつ交換や呼吸ケアのあとは汚染率が高いことが知られています。患者さんに触れる医療従事者は、適切に手指衛生を行わなければ手に病原体が残ることになります。 そして病原体は手の表面でも長時間生存が可能です。付いた菌は30分~1時間程度は存在するため、手洗いをしなければ一生懸命に患者さんを診ているつもりが、次々に他の患者さんにも菌を伝播させる原因となるのです。

医療従事者の手指衛生が感染の伝播を防ぐ 石けんと流水による手洗いは、手指に付着した菌量を1/100に減少させます。但し、濡れた手は乾燥した手の100~1,000倍の細菌を伝播する可能性があるため、確実に拭き取ることが大切です。また、アルコール性の手指消毒薬は、15秒使用すれば菌量が1/1,000に、30秒使用すれば1/10,000に菌量を減少させることができます。もちろん手袋の着用も有効です。非着用時に比べて汚染菌数は少なく、着用の徹底によりC. difficile 関連下痢症の発

症が減ったという報告もされています。 手指衛生を向上させることは、確実に感染率を下げます。これまでの報告では、MRSA菌血症発生率が57%、手術部位感染症が54%、バンコマイシン耐性腸球菌の検出率が87%、病院内感染症発生率が36%低下しています。 当院を例に挙げれば、MRSAが増加していた際に病院長が病院全体で手指衛生の遵守を宣言し、最も検出数が多かった2003年頃に比べると、2012年はその6割程度までに減少させることができました。入院数は増えているため、2003年当時に比べれば実質50%以下に減少したと言えるでしょう。これはひとえに現場の感染対策チームや各科の医師、看護師の協力の結果だと考えています。

まとめ 医療従事者は日々様々な対応に追われています。しかし、やはりタイミングをみて確実な手指消毒をしなければ、最終的に辛い思いをするのは患者さんであり、そのケアに関わった医療従事者です。 既知の知識だと思わず、もう一度基本に立ち戻って標準予防策と経路別感染対策を確認していただきたいと思います。手指衛生の遵守率を向上させ、基本の知識を実践的に使っていくことが、もっとも効果的な感染対策であると考えます。

講演を終えて ~大久保 憲先生~ 森屋先生による標準予防策(スタンダードプリコーション)の解説でしたが、みなさんユニバーサルプリコーションはご存知でしょうか。ユニバーサルプリコーションは1980年代に生まれた、血液または血液が付着しているものはすべて感染性があるとして扱いなさいという概念です。現在広く知られているスタンダードプリコーションは1996年に確立されました。また、WHOの5つのポイントは感染対策の要点を把握するには大変有効ですが、徹底して実施することは難しいかもしれません。しかし、これら普遍的要素を少しでも頭に入れながら今日のお話を振り返っていただくと、皆さんの日々のケアにも新たな指針となるはずです。

“いつ、どこで、どんな時に”正しい手指衛生

医療従事者が行うべき経路別感染対策

■図1.手指衛生が必要な5つのタイミング

■東大病院の手洗い手順

Neck 10%

■黄色ブドウ球菌部位別定着率 Lancet infect dis 2005. 5(12): 751より抜粋

General population S. aureus nasal carriers

Axilla 8%

Forearm 20%

Hand 27%

Axilla 19%

Forearm 45%

Hand 90%

Nose 27%

Pharynx 10-20%

Skin chest 15%

Skin abdomen15%

Perineum 22%Vaginal 5%

Ankle 10%

Nose 100%

Pharynx 25-50%

Skin chest 45%

Skin abdomen40%

Perineum 60%

Ankle 10%

手指消毒後手指消毒前

手指消毒後手指消毒前

■東大病院の手指消毒手順

指の間にもすりこみます。 親指にもすりこみます。 手首も忘れずにすりこみます。乾燥するまでよくすりこんでください。

消毒薬約3mLを手のひらに取ります(ポンプを1回押すと霧状に約3mLでます)。

初めに両手の指先に消毒薬をすりこみます。

次の手のひらによくすりこみます。

手の甲にもすりこんでください。

❶ ❷ ❸ ❹

❺ ❻ ❼

※1(クロストリジウム・ディフィシル)環境菌の一種で、川の水やペット、成人した人、入院患者からも多く検出報告が挙がるが、具体的な症状が出ることは少ない。発症例としては、偽膜性大腸炎の原因菌として知られている。

Clostridium difficile

某科医師A

某科医師B

爪の周囲、指の間、親指、手首周辺の手洗いが不十分となりやすいため注意が必要です。

1.患者に触れる前(入室前・診察前)

5.患者に触れた後(退室後・診察後)

2.清潔/無菌操作の前例:ライン挿入、創傷処置など (手袋着用直前)

4.患者周辺の環境に触れた後例:ベッド柵、リネン、モニター類

3.血液/体液に触れた後例:検体採取、尿・便・吐物処理など (手袋を脱いだあと)

このタイミングでの手指衛生を遵守して下さい。 ペーパータオル等で拭きます。

流水で洗浄する部分をぬらします。

薬用石けんまたは手洗い用消毒(スクラブ剤)を手掌にとります。

手のひらを洗います。 手のひらで手の甲を包むように洗います。反対も同様に。

指の間もよく洗います。 指までよく洗います。 親指の周囲もよく洗います。

手首もよく洗います。 流水で洗い流します。

指先、爪もよく洗います。

❶ ❷ ❸ ❹

❺ ❻ ❼ ❽

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Page 5: 標準予防策と経路別感染対策...第28回 日本環境感染学会総会 ランチョンセミナー 9 病原体に応じた感染経路対策 経路別感染対策は、接触予防策、飛沫

第28回 日本環境感染学会総会 ランチョンセミナー 9

病原体に応じた感染経路対策 経路別感染対策は、接触予防策、飛沫予防策、空気予防策からなり、いずれも標準予防策を含むとともにそれぞれ個人用防護具、対策法などが規定されています。近年ではノロウイルスなど、培養検査が未だ行えず病態が特定しがたい病原体があるため、患者さんの発症以前より標準予防策の徹底、予防的な運用が望まれてい

ます。本日は、標準予防策と経路別感染対策をテーマに、院内感染対策における基本から実践までを実例を挙げて振り返ってみます。 院内感染対策の基本は標準予防策です。すべての血液、体液、分泌物、排泄物、傷のある皮膚、粘膜は伝播しうる病原体を含んでいる可能性があります。中でも血液は未知の病原体を含み、今話題のB型肝炎再活性化などの様に血中から消滅したと思われた病原体が復活し、ある日突然感染を起こす可能性があります。

そのため感染の疑い、確定の如何に関わらず、すべての医療現場において実施すべき対応があります。接触予防策、飛沫予防策、空気予防策は、検出あるいは推定される病原体の感染経路に応じて、適切な対応が求められています。

手洗いの特性 標準予防策における基本は手洗いと言われていますが、手指消毒を優先的に選択する理由としては、簡便であり、微生物数を迅速により長い時間減らし、また手荒れが

病院感染対策の基本「標準予防策」

日 時

会 場

共 催

2013年3月1日(金)パシフィコ横浜 会議センター301 第10会場

第28回 日本環境感染学会総会/キンバリークラーク・ヘルスケア・インク

12:20 ~13:10

第28回 日本環境感染学会総会 ランチョンセミナー 9

Surgical & Infection Prevention

ナレッジ・コミュニケーション

Vol.3

標準予防策と経路別感染対策~もう一度 基本から実践まで~医療機関において標準予防策は医療従事者の誰もが知っており、当たり前のように導入されています。しかし、マンパワーやコストが限られている現場では、推奨されている通りに実施できない、何をどこまで行えばよいか判断に迷う、などの声が多く聞かれるのも事実です。今回は、誰もが知っている標準予防策の基礎から実践までの振り返りを目的として、東京大学大学院森屋先生に根拠と正しい実践方法、およびその重要性についてお話しいただきました。

昭和48年関西医科大学卒業。NTT西日本東海病院外科部長、名古屋市立大学医学部 臨床教授などを経て、現在は東京医療保健大学/大学院 教授を務める。「感染制御」を生涯の研究課題と定め、多くの医療機関・大学などで院内感染、術後の感染あるいはインフルエンザを未然に防ぐ研究、などを進めている。

東京医療保健大学/大学院 教授

大久保 憲 先生平成元年東京大学医学部医学科卒業。平成3年に同大学医学部附属病院第一内科に入局。ウイルス肝炎発癌機構研究に従事し、平成21年より東京大学大学院医学系研究科感染制御学教授、感染制御部長、感染対策センター長を兼任し、日々感染対策にあたる。

東京大学大学院医学系研究科 感染制御学 教授

森屋 恭爾 先生

司 会 演 者

KCJ010113SMKT006-T

www.jp.kchealthcare.com/

発行元:キンバリークラーク・ヘルスケア・インク 〒220-8115 横浜市西区みなとみらい2-2-1 横浜ランドマークタワー

Tel. 0800-100-5100(フリーコール)

グローブに起因する生体反応

手術室火災:Fire Safety in The OR

周術期環境に影響する要素と対策

標準予防策と経路別隔離予防策

手術部位感染対策 ~初級~

サポートツール一覧

・滅菌包装材の正しい取り扱いポスター・ラテックスフリー手袋採用&標準予防策に基づく手洗い励行ポスター・入院患者様向けビデオ(手指衛生) ・咳エチケットポスター(小児向け) ・PPE認識用ドアプレート・N95の装着方法ポスター

・パンデミックに対する事前対策医療施設ガイド

啓発ツール

情報誌

資 料

キンバリークラークは看護師有資格者による院内セミナーを提供いたします。

今回のセミナーで森屋先生が、セミナー会場の皆さんに出題した問題とその回答です。

❶ 採血時には手袋着用は必要ない。

❷ 血液や体液が飛散する可能性がある場合は、ガウン、マスク、ゴーグルを着用する。

❸ 多剤耐性菌検出者のみに行うべき感染対策である。

❹ 同じ患者さんであれば、処置の合間に手を洗わなくても問題ない。

❺ 手袋の上から手洗いや手指消毒をすれば、処置ごとに交換する必要はない。

❶ MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)検出患者さんの病室内からMRSAが検出される  ことはない。

❷ 医療従事者が鼻腔内に保菌しているMRSAが患者さんに伝播することはない。

❸ MRSAは乾燥した環境表面では数時間程度しか生存しない。

❹ 速乾性擦式消毒薬による手指消毒により、手に付着したMRSAは1/1,000に減少する。

❺ MRSAにより診療端末のキーボードが汚染されることはない。

❶ 標準予防策を徹底する。

❷ オムツ交換時は手袋に加えエプロンやガウンを装着する。

❸ 環境を汚染させないためにオムツ交換の際はビニール袋を用意し、オムツを外したあとは  すぐにビニール袋の中へ入れる。

❹ 便の処理をしたあとは、擦式消毒用アルコール製剤による手指消毒を徹底して行う。

❺ 患者やベッド周囲などに身体が触れる可能性がある場合、手袋やエプロンを装着する。

[解答:問1_❷ 問2_❹ 問3_❹]

標準予防策について正しいものを1つ挙げてください。

院内感染対策について正しい項目を1つ挙げてください。問2

問1

下痢が認められる患者さんへの対応について、適切でないものはどれか。問3Knowledge Communication No.1日本赤十字社医療センター、名古屋第一席赤十字病院 インタビューレポート

Knowledge Communication Vol.2「医療現場における地域連携」インタビューレポート

第27回 日本環境感染学会総会 ランチョンセミナーレポート「薬剤耐性菌対策に必要な標準予防策 up to date」

Page 6: 標準予防策と経路別感染対策...第28回 日本環境感染学会総会 ランチョンセミナー 9 病原体に応じた感染経路対策 経路別感染対策は、接触予防策、飛沫

第28回 日本環境感染学会総会 ランチョンセミナー 9

病原体に応じた感染経路対策 経路別感染対策は、接触予防策、飛沫予防策、空気予防策からなり、いずれも標準予防策を含むとともにそれぞれ個人用防護具、対策法などが規定されています。近年ではノロウイルスなど、培養検査が未だ行えず病態が特定しがたい病原体があるため、患者さんの発症以前より標準予防策の徹底、予防的な運用が望まれてい

ます。本日は、標準予防策と経路別感染対策をテーマに、院内感染対策における基本から実践までを実例を挙げて振り返ってみます。 院内感染対策の基本は標準予防策です。すべての血液、体液、分泌物、排泄物、傷のある皮膚、粘膜は伝播しうる病原体を含んでいる可能性があります。中でも血液は未知の病原体を含み、今話題のB型肝炎再活性化などの様に血中から消滅したと思われた病原体が復活し、ある日突然感染を起こす可能性があります。

そのため感染の疑い、確定の如何に関わらず、すべての医療現場において実施すべき対応があります。接触予防策、飛沫予防策、空気予防策は、検出あるいは推定される病原体の感染経路に応じて、適切な対応が求められています。

手洗いの特性 標準予防策における基本は手洗いと言われていますが、手指消毒を優先的に選択する理由としては、簡便であり、微生物数を迅速により長い時間減らし、また手荒れが

病院感染対策の基本「標準予防策」

日 時

会 場

共 催

2013年3月1日(金)パシフィコ横浜 会議センター301 第10会場

第28回 日本環境感染学会総会/キンバリークラーク・ヘルスケア・インク

12:20 ~13:10

第28回 日本環境感染学会総会 ランチョンセミナー 9

Surgical & Infection Prevention

ナレッジ・コミュニケーション

Vol.3

標準予防策と経路別感染対策~もう一度 基本から実践まで~医療機関において標準予防策は医療従事者の誰もが知っており、当たり前のように導入されています。しかし、マンパワーやコストが限られている現場では、推奨されている通りに実施できない、何をどこまで行えばよいか判断に迷う、などの声が多く聞かれるのも事実です。今回は、誰もが知っている標準予防策の基礎から実践までの振り返りを目的として、東京大学大学院森屋先生に根拠と正しい実践方法、およびその重要性についてお話しいただきました。

昭和48年関西医科大学卒業。NTT西日本東海病院外科部長、名古屋市立大学医学部 臨床教授などを経て、現在は東京医療保健大学/大学院 教授を務める。「感染制御」を生涯の研究課題と定め、多くの医療機関・大学などで院内感染、術後の感染あるいはインフルエンザを未然に防ぐ研究、などを進めている。

東京医療保健大学/大学院 教授

大久保 憲 先生平成元年東京大学医学部医学科卒業。平成3年に同大学医学部附属病院第一内科に入局。ウイルス肝炎発癌機構研究に従事し、平成21年より東京大学大学院医学系研究科感染制御学教授、感染制御部長、感染対策センター長を兼任し、日々感染対策にあたる。

東京大学大学院医学系研究科 感染制御学 教授

森屋 恭爾 先生

司 会 演 者

KCJ010113SMKT006-T

www.jp.kchealthcare.com/

発行元:キンバリークラーク・ヘルスケア・インク 〒220-8115 横浜市西区みなとみらい2-2-1 横浜ランドマークタワー

Tel. 0800-100-5100(フリーコール)

グローブに起因する生体反応

手術室火災:Fire Safety in The OR

周術期環境に影響する要素と対策

標準予防策と経路別隔離予防策

手術部位感染対策 ~初級~

サポートツール一覧

・滅菌包装材の正しい取り扱いポスター・ラテックスフリー手袋採用&標準予防策に基づく手洗い励行ポスター・入院患者様向けビデオ(手指衛生) ・咳エチケットポスター(小児向け) ・PPE認識用ドアプレート・N95の装着方法ポスター

・パンデミックに対する事前対策医療施設ガイド

啓発ツール

情報誌

資 料

キンバリークラークは看護師有資格者による院内セミナーを提供いたします。

今回のセミナーで森屋先生が、セミナー会場の皆さんに出題した問題とその回答です。

❶ 採血時には手袋着用は必要ない。

❷ 血液や体液が飛散する可能性がある場合は、ガウン、マスク、ゴーグルを着用する。

❸ 多剤耐性菌検出者のみに行うべき感染対策である。

❹ 同じ患者さんであれば、処置の合間に手を洗わなくても問題ない。

❺ 手袋の上から手洗いや手指消毒をすれば、処置ごとに交換する必要はない。

❶ MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)検出患者さんの病室内からMRSAが検出される  ことはない。

❷ 医療従事者が鼻腔内に保菌しているMRSAが患者さんに伝播することはない。

❸ MRSAは乾燥した環境表面では数時間程度しか生存しない。

❹ 速乾性擦式消毒薬による手指消毒により、手に付着したMRSAは1/1,000に減少する。

❺ MRSAにより診療端末のキーボードが汚染されることはない。

❶ 標準予防策を徹底する。

❷ オムツ交換時は手袋に加えエプロンやガウンを装着する。

❸ 環境を汚染させないためにオムツ交換の際はビニール袋を用意し、オムツを外したあとは  すぐにビニール袋の中へ入れる。

❹ 便の処理をしたあとは、擦式消毒用アルコール製剤による手指消毒を徹底して行う。

❺ 患者やベッド周囲などに身体が触れる可能性がある場合、手袋やエプロンを装着する。

[解答:問1_❷ 問2_❹ 問3_❹]

標準予防策について正しいものを1つ挙げてください。

院内感染対策について正しい項目を1つ挙げてください。問2

問1

下痢が認められる患者さんへの対応について、適切でないものはどれか。問3Knowledge Communication No.1日本赤十字社医療センター、名古屋第一席赤十字病院 インタビューレポート

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