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特集:デジタルイメージング技術 20 富士ゼロックス テクニカルレポート No.16 2006 高画質 EA-HG トナーの開発 Development of EA-HG Toner for High Image Quality 要 旨 デジタルカラー複写機およびプリンター用に乳化 凝集トナー(EA)が用いられている。近年、高画質、 高信頼性の高い要求に対応するために、トナー粒径は 益々小粒径となり、トナー内部/表面構成材料、分散構 造、および外添剤による機能分離制御が重要となる。 EA-HG トナーは色剤の一部変更とトナー粘弾性最適 化制御、トナー表面への高機能外添材料の採用により、 EA1 の課題を改善し、高画質、カラードキュメント高 生産性を実現し、高信頼性獲得を可能とした。 Abstract 執筆者 鈴木 千秋 Chiaki Suzuki石山 孝雄 Takao Ishiyama道男 Michio Take高木 正博 Masahiro Takagi技術開発本部 化成品開発部 Chemicals Technology Development, Technology Development GroupEmulsion aggregation toner has been developed for digital color copiers and printers. Recently, in order to meet high requirements, such as better image quality and higher reliability, toner size becomes smaller and smaller. Therefore, each of toner function should be separately controlled with various factors such as core materials, surface materials and additives. To meet these demands, EA-HG has been developed by changing the kind of pigment, controlling the rehology and using high-function additive. Consequently, EA-HG toner exhibits satisfactory image quality and high reliability. Especially, it contributes to increase the productivity of color document production.

高画質 EA-HG トナーの開発 - Fuji Xerox...Particle size and particle distribution (EA/Conventional) 特集:デジタルイメージング技術 高画質EA-HGトナーの開発

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特集:デジタルイメージング技術

20 富士ゼロックス テクニカルレポート No.16 2006

高画質 EA-HG トナーの開発 Development of EA-HG Toner for High Image Quality

要 旨 デジタルカラー複写機およびプリンター用に乳化

凝集トナー(EA)が用いられている。近年、高画質、

高信頼性の高い要求に対応するために、トナー粒径は

益々小粒径となり、トナー内部/表面構成材料、分散構

造、および外添剤による機能分離制御が重要となる。

EA-HG トナーは色剤の一部変更とトナー粘弾性最適

化制御、トナー表面への高機能外添材料の採用により、

EA1 の課題を改善し、高画質、カラードキュメント高

生産性を実現し、高信頼性獲得を可能とした。

Abstract 執筆者 鈴木 千秋 (Chiaki Suzuki) 石山 孝雄 (Takao Ishiyama) 武 道男 (Michio Take) 高木 正博 (Masahiro Takagi) 技術開発本部 化成品開発部

(Chemicals Technology Development, Technology Development Group)

Emulsion aggregation toner has been developed for digital color copiers and printers.

Recently, in order to meet high requirements, such as better image quality and higher reliability, toner size becomes smaller and smaller.

Therefore, each of toner function should be separately controlled with various factors such as core materials, surface materials and additives.

To meet these demands, EA-HG has been developed by changing the kind of pigment, controlling the rehology and using high-function additive.

Consequently, EA-HG toner exhibits satisfactory image quality and high reliability. Especially, it contributes to increase the productivity of color document production.

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特集:デジタルイメージング技術

高画質 EA-HG トナーの開発

富士ゼロックス テクニカルレポート No.16 2006 21

1. 緒言

近年の急速なパソコン、ネットワーク化の普

及により、Document の市場要求はカラー化、

高画質、オンデマンドへと移行している。

Document の中でもフルカラー写真画質に関し

ては高級印刷、銀塩写真に近い高画質品位が望

まれており、各社システムは勿論のこと印字品

質を左右するカラートナーの開発が積極的に行

なわれている。特に高精細な画像出力としては

潜像を忠実に作像する必要があり、トナーとし

ては益々小粒径が進み、忠実再現を狙った活動

が加速されている。 また、カラー生産性向上の強い要求により、

マーキングシステムは四サイクル方式から各色

毎に現像機、XERO ユニットを直列配置したタ

ンデム方式が主流になりつつある。これはタン

デム方式の課題としていた高精度カラーレジス

トレーション、現像機、XERO スペース確保、

コスト低減が現像、転写、定着、クリーニング

技術の向上および XERO 小型化、信頼性向上、

部材コスト低減により大きく改善されたことに

よるものである。更に近年では高画質、高生産

性と共に環境への配慮が要求されている。特に

「エネルギー使用の合理化に関する法律(省エ

ネ法)」に代表されるように消費エネルギー低減

は必須である。

2. 新製法 EA:乳化凝集法トナーの特徴

図 1 に混練粉砕法と EA:乳化凝集法の比較

を示す。 新製法 EA:乳化凝集法(EA 法と略す/トナー

は EA トナーと略す)の特徴として、 1. 小粒径、狭粒度分布獲得が容易であり、そ

の効果として①トナー消費量の低減、②高

画質を達成することが可能となる。 2. 形状制御自由度が高く、システムに適合し

た形状を自由に制御することが可能となり、

マシンの特徴を 大限に引き出すことがで

きる。 3. コア/シェル構造制御により、低粘度ワック

ス、顔料等を内包でき、帯電、粉体特性の

基本性能、システム適合性の要求機能を分

離した制御が可能となる。 4. 環境に優しい製造プロセスの実現により、

省エネルギー生産が可能となり、従来の混

練粉砕法に比較し、CO2発生量を約 35%削

減することができる。 図 2 に EA トナーおよび混練粉砕トナーの粒

径、粒度分布を示す。EA トナーは分級するこ

と無しに 5.8µm、粒度分布:GSD Index=(D84/D16)1/2=1.21 と狭粒度分布を得ること

ができ、図 3、図 4 に示すようにトナー消費量

を約 37%削減することが可能となった。 また、EA 法の特徴である小粒径、狭粒度分

布、均一形状トナーおよびトナー表面への高機

能外添材料の採用により、高く安定した現像性、

転写性を獲得し、用紙を選ばずスクリーン構造

の劣化が少なく、ギラツキを感じさせない滑ら

トナー粒径(μm)

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

50

0 2 4 6 8 10 12 14 16

Volu

me

%

EA Tonerd50=5.8μmGSD Index=1.21

FujiXerox(DP1250)d50=6.5μmGSD Index=1.25

従来の混練粉砕法トナー

(機械的、エネルギー消費型)

原料混練物

分級

粉砕

EA-乳化凝集法トナー

(化学的、微粒子成長型)

サブミクロン微粒子樹脂

凝集

融合

成長

ワックス顔料

図 1. 製法比較(混練粉砕法・EA:乳化凝集法) Process comparison between conventional and chemical

図 2. トナー粒径、粒度分布比較 Particle size and particle distribution (EA/Conventional)

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特集:デジタルイメージング技術

高画質 EA-HG トナーの開発

22 富士ゼロックス テクニカルレポート No.16 2006

かな階調再現、忠実再現、高画質を達成した。

(図 5) 次.にEAトナーは形状制御自由度が高いこと

が特徴として挙げられる。形状は、凝集粒子を

合一する際の温度、時間、PH により自由に制

御可能である。(図 6) 形状は球形トナーが現像性、転写性の点では

有利であるが、ブレードクリーニング信頼性の

点では不定形に比べ劣るものである。マシンの

特徴を 大限に発現させるべく、システム適性

を考慮したトナー形状制御が重要である。 更に EA トナーでは、コアシェル構造による

機能分離設計を可能としたことが特徴として挙

げられる。(図 7) 具体的には顔料の化学構造により帯電レベル

が異なり、また顔料のトナー表面露出と化学構

造から色間による帯電レベル差が大きくなって

しまう。このような問題に対して、EA 法によ

るコアシェル構造を形成することにより、顔料

を内包することができ、帯電に寄与するトナー

表面はシェル材料で構成され、内包する顔料

種の影響を受け難く帯電の色間差軽減が実現で

きることとなる。 次に環境を考慮した取り組みであるが、EA

法は小粒径トナー生産時の CO2排出量削減(約

35%削減:対混練、粉砕法)が可能となってい

る。従来、混練粉砕法は粉砕エネルギーが も

高く、小粒径トナーを作成するためには多くの

エネルギーを消費する事となる。EA 法はサブ

ミクロン粒子の凝集、成長、合一により、トナー

0

0.005

0.01

0.015

0.02

0.025

0.03

0 2 4 6 8 10トナー粒径(μm)

トナ

ー消

費量

(g/枚

図 3. トナー粒径と消費量(A4@5%)の関係

Particle size vs. consumption

100kpvトナー使用量及び回収量

0

2000

4000

6000

8000

10000

12000

Conv. EAトナー種

トナ

ー量

(g)

トナー消費量

トナー回収量40%減

37%減

70%減

68%減

図 4. トナー消費量 Toner consumption

JD

コー

ト平

滑紙

トナーの粒径と粒度分布の制限から、トナーの飛び散り、スクリーンのかすれがある。

トナーの粒径及び形状が均一なのでトナーの飛び散り、スクリーンのかすれがなく、忠実な再現。

 

図 5. EA、従来トナーの忠実再現画質比較

Image quality comparison

120 130 140

高転写性 ブレードクリーニング性転写・CLN性両立域

形状係数ML2/A

図 6. EA 法によるトナー形状制御 Control of toner shape by EA process

シェル形成なし

表面への着色剤・ワックスの露出

断面 表面

断面 表面

トナー断面

トナー断面

シェル部分

シェル形成あり

図 7. シェル形成有無によるトナー内部、表面構造 SEM of toner internal and external structure

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特集:デジタルイメージング技術

高画質 EA-HG トナーの開発

富士ゼロックス テクニカルレポート No.16 2006 23

粒子を作成するために、消費エネルギーは殆ど

トナー粒径に依存しない。即ち、小粒径トナー

を作成する上では もエネルギー消費削減に有

利な手法となっている。

3. EA-HG トナー設計の狙い

EA-HG 開発の狙いは、前述のように EA 法の

特徴を踏襲し、更なる高画質(色再現性の拡大、

高 Gloss、高 PE 値)、カラー生産性向上、高信

頼性を達成するためである。具体的には Green、Red の二次色の色域拡大、およびカラー生産性

に影響を及ぼす定着工程での用紙剥離性と画像

Gloss、OHP 透過性の指標である PE 値の両立

である。 一般的にカラー画像はトナーパイルハイトが

高いため定着後の用紙剥離性が低下し、紙詰ま

り、画質欠損あるいはホットオフセットを引き

起こしてしまう。特にオイルレス定着システム

においては、用紙剥離性およびホットオフセッ

トはトナー離型能力と凝集力に左右されるため、

低粘度ワックスの添加量増量とトナーレオロ

ジーアップが必須とならざるを得ない。そのた

め、上記 Gloss、PE 値が犠牲になってしまうこ

とが多く、高生産性を考慮した場合、定着工程

に画像が留まる時間が短くなることから、受け

る熱エネルギーが減少する。その結果として離

型剤のトナー表面へのブリード、トナーの熱溶

融が低下し、高 Gloss 画像、高 PE 値の発現が

益々厳しいものと成る。

4. EA-HG トナー設計

まず、画質課題である Gloss、HOT、PE 値、

剥離性向上に関して、制御因子である樹脂分子

量、凝集剤、ワックス量、内部添加剤の 適化

が重要であるものの、HOT と Gloss は相反関係

にあり、単なる添加量、材料種では制御しきれ

ない。(表 1 において、制御因子に関しては上段

が多い(高い、長い)、下段が少ない(低い、短

い)を示し、矢印は有利な方向性を示す。) 一例をあげると、樹脂分子量 Mw を高い方向で制

御すると、HOT と剥離に有利であるものの、PE 値、

Gloss に関しては不利な方向に寄与する。 図 8 に Gloss と HOT の関係を示すが、上記

制御因子の添加量、時間、分子量の 適化だけ

では、同一相関線上を動くだけであり、両立に

は材料、ハード上のブレークスルーが必要であ

ることを示唆している。 上記結果を受けて、高 Gloss、広定着 Latitude

設計空間を得るために、機能材料であるワック

ス種、量、凝集剤量、内部添加剤量の 適化と

ケミカルプロセスの精密制御、コア材料中の素

材分散制御の検討を行なった。

4.1 トナーレオロジー制御と ワックス分散制御

トナーの定着挙動は、トナーの状態変化であ

る。図 9 に示したようにマテリアルに転写され

た固体のトナーが定着器により熱を受け、そし

PE値 Gloss HOT 剥離

凝集剤量

内部添加剤量

凝集条件(時間・温度)

Wax量

樹脂分子量 Mw

顔料種

制御因子~

抜粋

特性値

表 1. トナー特性と制御因子 Toner characteristics vs. control factor

低い←画像グロス→高い 

HO

T発

生温

度( 

℃) 

高い

EA1及びMod2

最適化により、この領域は得られるのか?

低い

低い←画像グロス→高い 

HO

T発

生温

度( 

℃) 

高い

EA1及びMod2

最適化により、この領域は得られるのか?最適化により、この領域は得られるのか?

低い

図 8. HOT(ホットオフセット)と画像 Gloss の関係 Relationship between HOT and Image gloss

凍結

応力残留

密な絡合 分子鎖の拡り

ガラス状態 (固体)

応力発生→ 緩和

分子鎖イメージ

マテリアル

トナー

H/R

熱・圧力

凍結

応力残留

密な絡合 分子鎖の拡り

ガラス状態 (固体)

応力発生→ 緩和

分子鎖イメージ

マテリアル

トナー

H/R

熱・圧力熱・圧力

図 9. 定着時のトナー状態変化 Toner form and molecule variation in fix

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高画質 EA-HG トナーの開発

24 富士ゼロックス テクニカルレポート No.16 2006

Coagulant Content⇒増 H

OT

⇒高

Previous WAX

New WAX

Imag

e G

loss

⇒高

Coagulant Content⇒増

New WAX

Previous WAX

て溶融、加圧などによって用紙に濡れ広がる。

そして、マテリアルにフィックスされた後、冷

却され、再び固体となって定着画像を形成する。 この過程の中でトナーは、流動と変形を経て

内部応力を生じるが、この応力は、それぞれの

状態に応じて緩和挙動を呈する。一般に、トナー

に一定歪みを与えた場合、発生する応力は指数

減衰的挙動を示すが、この減衰挙動は、緩和弾

性率(Gt)と緩和時間(t)の関数として記述さ

れる。応力の緩和速度は、そのときの状態によっ

て影響を受け、この時の初期応力を S0、時間 t1

経過後の応力を S とした場合、S=S0 ・e-1/t と表され、時間 t1が t と等しくなる時の時間(緩

和時間τは:応力が 1/e になる時間)が、緩和

時間と定義される。また、緩和弾性率(Gt)は

応力 S を変形量で割った値である。 緩和弾性率(Gt)が小さすぎると、溶融時に

十分なトナー間の凝集力が得られず、オフセッ

ト現象や特に低温側の剥離不良の要因となる。

さらに、定着画像においても、折り曲げなどの

ストレスによる画像の欠損が発生しやすくなる。 他方、緩和弾性率(Gt)が高すぎると用紙な

どへの浸透性および密着性が悪化し、十分な定

着強度が得られなくなり、また溶融時のトナー

の粘度が高くなるため、表面グロス低下および

画像ムラ等の画質低下を引き起こす要因となる。

更に、発生応力が高い場合、表面エネルギーの

変化により溶融した離型剤(ワックス)の濡れ

が低下し、定着画像上にオイルレス定着・剥離

に必要なワックス皮膜が形成され難くなること

から画像光沢も低下することもある。このため、

定着温度域に於ける緩和弾性率と緩和時間の関

係の 適化が極めて重要である。EA-HG トナー

では、この応力緩和挙動を 適化することでそ

のトナーの持つポテンシャルを 大限に引き出

すことに成功している。 EA 法は、サブミクロンサイズの樹脂乳化微

粒子(ラテックス)、色材分散微粒子、ワックス

分散微粒子などをこれらと反対イオンを有する

凝集剤によって中和させることでヘテロ凝集さ

せるものである。このため、凝集剤とラテック

ス表面、ワックス分散微粒子や色材分散微粒子

表面に存在するカルボキシル基の間に形成され

るイオン架橋をある程度任意に変化させること

が可能でああり、この強さや濃度によってある

程度任意に凝集体表面の熱的、物理的な強度を

制御することができる。

トナー中の凝集剤量とHOTの関係を図 10に、

そして Gloss との関係を図 11 に示す。凝集剤量

の増加に従って、HOT 温度は上昇するが、一方

で、画像 Gloss が低下することがわかる。 これは、凝集剤とトナー凝集体表面のカルボ

キシル基との間にイオン架橋が形成され、見か

け上剛直性が増すためと考えられる。また、こ

れは、イオン架橋によるトナー表面の見かけ上

の剛直性改善だけでは、十分な Gloss や HOT改善は容易でないことも示唆する。

EA-HG トナーでは、これらのトナー表面要

因に併せてトナーの内部からの制御を行ない、

ワックスとその分散構造の 適化を実施してい

る。 ワックスは、オイルレス定着において重要な

役割を果たす。特にフルカラーでは定着される

画像のトナーパイルハイトが高いため、剥離性

を低下させ HOT を発生し易くなるという問題

を有している。また、画像の再現色域拡大の点

図 10. WAX 種、凝集剤と HOT の関係 Wax kind and coagulant content vs. HOT

図 11. WAX 種、凝集剤と画像 Gloss の関係 Wax Kind and coagulant vs. Image Gloss

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特集:デジタルイメージング技術

高画質 EA-HG トナーの開発

富士ゼロックス テクニカルレポート No.16 2006 25

から一定レベル以上の画像光沢が必要であるが、

画像光沢とHOT耐性が二律背反するばかりか、

定着画像の定着ロールからの剥離性も画像光沢

に影響を及ぼす。このため、トナー中にオイル

の代替となるワックスをトナー中にある程度包

含させることが必要となる。しかし、その量が

過剰な場合あるいは極性によってはトナー表面

に露出し、トナーの流動性、帯電性を損なう。

従って、トナー表面に露出させずに、定着時に

容易にトナー中から画像表面にワックスが溶融

移行できるようなワックスサイズ、位置などの

構造設計を積極的に行なうことが必須である。 図 12 にオイルレス定着に於けるワックスの

溶融粘度とオイルレス定着ベンチに於ける剥離

性の関係を示した。 ワックスに求められる基本機能としてオイル

レスシステムでの剥離性獲得であり、定着温度

域において、特定粘度を有するワックスの選択

が重要である。これはトナー定着時に迅速に

ワックスが溶融し、定着画像表面に移行するこ

とで定着画像のロールへの巻付きを抑制する。

また一方で、溶融したワックスが自由表面を形

成することが重要であることを示唆する。 即ち、トナー定着溶融時に於けるワックスの

溶融粘度挙動をオイルレス剥離性と HOT の観

点から 適化するとともにその位置、分散サイ

ズ、および化学的親和性の観点からの検討が重

要である。 EA-HG トナーでは、これら検討を行ない、

トナーの粘弾性、ワックス種、量の 適化およ

び、ワックスの精密分散制御により、画質、定

着特性の設計空間を広げることを可能とし、オ

イルレスカラーの課題であった用紙剥離性改善、

ホットオフセット向上と画像 Gloss の両立を得

ている。(図 14)

4.2 トナー色材設計 Green、Red の二次色の色域拡大においては、

上記トナー粘弾性の 適化と色材の一部変更お

よび顔料の 適化により二次色(特に赤)の再

現性を改善し、高画質化、色再現性の拡大を実

現している。 具体的には、Cyan トナー顔料には銅フタロ

シアニンを用いるのが一般的であり、EA1 およ

び EA-HG も同フタロシアニン顔料を採用して

いる。Yellow、Magenta は選択肢があり、色空

間のバランスを考慮した顔料を選択している。

EA1 トナーの課題(高濃度域の赤色再現性)は、

画像光沢と顔料含有量の 適化では改善が難し

く、EA-HG トナーでは Magenta 顔料を変更し

た。 一方、黒トナーでは下地である用紙の色(主

に白色)を覆い隠すための隠蔽性が求められる

ため着色剤にカーボンブラックを採用している。

白黒プリンターでは文字再現とベタ画像の出力

が多く高濃度部の安定性が重視されていたが、

階調再現性が強く要求されるフルカラー画質で

図 12. 離形材粘度と剥離力の関係 Wax melt viscosity vs. releasability

図 13. 画質、定着性両立に関しての設計空間 Design window of toner regarding image quality and fusing characteristics

少ない←凝集剤量→多い

WA

X分

散径

剥離(T)+10℃

剥離(T)+5℃5℃

Gloss中Gloss大

剥離(T)

PE値、粉体特性からの限界

剥離力≦15gfとした際の範囲

剥離(T)+15℃

設計 空間

  低い←画像グロス→高い 

0 20 40 60 80

HOT

発生

温度

( 

℃ 

EA1 及びM o d2↑

低い

高い

  低い←画像グロス→高い 

0 20 40 60 80

HOT

発生

温度

( 

℃ 

EA1 及びM o d2↑

0 20 40 60 80

HOT

発生

温度

( 

℃ 

EA1 及びM o d2↑

低い

高い

図 14. HOT(ホットオフセット)と画像 Gloss の関係

HOT vs. image gloss 最大剥離力(gf)

離形

材粘

度(m

Pa・

s)

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特集:デジタルイメージング技術

高画質 EA-HG トナーの開発

26 富士ゼロックス テクニカルレポート No.16 2006

は、黒トナーにも同等の階調再現性が求められ

る。この場合、着色剤の含有量を抑えた設計が

重要となる。しかし、この設計における課題と

して、カラートナーによる 2 次色から 3 次色へ

連続的な領域が存在し、暗部における黒単独画

像の明度とのギャップが生じることとなるため、

黒トナーの明度を小さく(暗く)することが必

須となる。 本来は色相、着色力の確保を目的とするのが

着色剤であるが、カーボンブラックは、他のト

ナー特性へ与える影響が顔料に比べ大きく、特

に電気的特性(帯電性、導電性)の制御に影響

するため含有量を必要以上に導入することがで

きない。このため、EA-HG では電気特性と色

相に影響を与えず、且つ明度を調整するために

顔料を添加することで、バランスのとれたト

ナー特性を実現している。

4.3 トナー外添設計 外添設計においても、定着性への影響を考慮

した材料選択、配合 適化を行なっている。ト

ナーの粉体流動性および保存性を補完するため、

平均粒径 10~30nm程度の無機微粒子を混合付

着せしめる手法が一般的に用いられており、本

トナーでは酸化チタン系の小径外添剤Aを適用

している。しかしながら、小径外添剤の添加増

量により流動性を確保した場合、定着ラチ

チュードの低下が起きてしまうことが明らかと

なった。そこで粉体流動性と定着性の相反関係

を回避する施策を検討した結果、定着性を阻害

することなく流動性を向上させることが可能で

ある、粒径 100~150nm の大径外添剤 B を見出

した。(図 15)

小径外添剤 A が定着性を阻害する理由は、外

添剤自体に施されている疎水化処理がトナー中

のワックス成分と親和性を有し、かつ添加量増

加に伴いトナー表面の外添被覆率が高くなり、

定着像表面へのワックス成分染み出しを妨ぐた

めと考えられる。大径外添剤 B は、小径外添剤

よりも低外添被覆率となる配合量でスペーサー

効果を発揮し流動性を確保するため、ワックス

染み出しを阻害することが無い。 実際の外添処方としては、摩擦帯電性、転写

性、クリーニング性も考慮し、上述外添剤 A お

よびBの併用配合比を決定しているのが本外添

設計の特徴である。 さらに、本 EA-HG トナーが採用されている

カラー複合機では、感光体帯電方式として YMC色では接触帯電ロール方式を、K 色ではスコロ

トロン方式を採用していることから、各々のシ

ステムに合わせたクリーニング助剤配合も行

なっている。 一般に接触帯電ロール方式では、感光体表面

への放電生成物沈着が生じ、特に夏環境で沿面

導電性に起因する像流れディフェクトが問題と

なり易い。像流れを防ぐためには、一定の磨耗

率以上に感光体表面を研磨、リフレッシュを行

なうことが有効であり、YMC 色では研磨力を促

進制御させるサブミクロン粒子を研磨剤として

添加している。一方、スコロトロン方式下では、

接触帯電ロール方式に比較して放電生成物沈着

が起きづらいことから、K 色では研磨剤を適用

せず、クリーニングブレード・感光体間の摩擦

抵抗を抑制する潤滑性有機粒子を添加している。 このように YMC 色と K 色のクリーニング助

剤使い分けを行なうことにより、それぞれのユ

ニットにおいて画像欠陥を生じない範疇で感光

体寿命を極大化させることに成功した。

4.4 トナー形状・粒径に起因する画質変動

の抑制 EA-HG トナーは、クリーニング性を保持し

つつ転写性を 大化させるべくトナー粒径と形

状を設定している。しかし付着力を抑制してい

るがゆえにハイライト画像領域のような現像の

ドライビングフォースが小さい条件下において、

画像再現が不安定となる場合がある。 図 16 に示すように、大粒径になるほどハイラ

イト画像域の再現性が低下する傾向にあり、こ

の感度はトナー形状によっても変化する。ト

1 2 3 4 5 6 7 8 9

狭 

  

定着

ラチ

チュ

ード

  

 広

低 

  

  

流動

性 

  

  

小径外添剤A 配合量 大径外添剤B 配合量

少 多 少 多

図 15. 外添剤配合と定着性・流動性の関係 Relationship fusing characteristics and flowability by controlling additive loading

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特集:デジタルイメージング技術

高画質 EA-HG トナーの開発

富士ゼロックス テクニカルレポート No.16 2006 27

ナーの形状係数が小さい、即ち球形に近づくほ

ど、粒径変動がハイライト再現性に対し敏感に

影響する。トナー形状・粒径が付着力低減方向

に振れた際は、現像時に印加されるクリーニン

グバイアスにより感光体に付着したトナーが現

像スリーブにもどる現象が生じ易く、結果とし

て低画像密度部の再現性が低くなるものと考え

られる。 この現象は、トナー製造単位ごとに生ずる形

状や粒径の微小変動が画像再現変動となる懸念

を示唆するものであり、肌色や空色のような淡

部の二次色において変動、違和感が視認される

可能性がある。 Apeos Port においては、使用中のトナーの形

状および粒径を検知し、それらの値に応じ現像

バイアスの補正制御を行なう機構を設けること

によって、上述の変動要因を排除し画質の安定

化を図っている。

5. EA-HG トナー改善効果

EA-HG の EA1 に比べての改善点を以下に示

す。 まずトナーの粘弾性 適化制御により、従来

の EA トナーに比べ溶けやすく、画像表面の平

滑性を可能とし、グロス感のある鮮やかな発色

を実現している 同一条件でのEA1トナーとEA-HGトナーの

Gloss 評価結果を示す。従来どおり、ビジネス

文書(低 Gloss 用紙)ではギラツキのない画像

を提供し、写真分野では紙に応じた Gloss を発

現している。(図 17)

次に色材の一部変更および顔料量の 適化、

またトナー粘弾性制御により二次色(特に赤、

緑)の再現性を改善し、高画質化、色再現性の

拡大がはかられている。(図 18) 一方、OHP 画質は、OHP シート上のトナー

画像を透過する光の量を現す PE 値(Projection Efficiency)で表現される。OHP 透過性はワッ

クス分散内包カラートナーの課題であったが、

トナーの粘弾性制御とワックス分散径の 適化

により、同一評価条件下で EA-HG トナーは

EA1 トナーに比べ著しく改善されている。(図

19) 更に、トナー粒径設計(小粒径且つ狭粒度分

布、均一形状トナー)およびトナー表面への高

機能外添材料の採用により①高く安定した現像

性、転写性を獲得および②用紙の表面凹凸の影

響を受けずトナーの飛び散り、スクリーンのか

すれが少ない忠実再現を達成した。特に EA1 に

比べトナーが溶けやすいことから、表面凹凸を

有する普通紙上でもスクリーンの再現は明瞭で

ある。(図 20)

4.00

5.00

6.00

7.00

8.00

9.00

10.00

11.00

5 5.5 6 6.5 7 7.5

トナー粒径(μm)

再現

開始

 画

像密

度(%

形状係数130

形状係数135

図 16. ハイライト再現に対する粒径・形状効果 Particle size and shape effects to reproduce pale color

図 17. Gloss 評価結果(用紙と画像 Gloss の関係)

Image gloss vs. paper gloss

0

10

20

30

40

50

60

70

80

0 10 20 30 40 50 60 70 80

画像

Glo

ss 

[%]

Off Line EA-1

Off Line EA-HG

低 ← 用紙Gloss(%) → 高

低い

←画

像G

loss

→高

0

10

20

30

40

50

60

70

80

0 10 20 30 40 50 60 70 80

画像

Glo

ss 

[%]

Off Line EA-1

Off Line EA-HG

低 ← 用紙Gloss(%) → 高

低い

←画

像G

loss

→高

いa* vs. b*

-60

-40

-20

0

20

40

60

80

100

120

-80-60-40-20 0 20 40 60 80

a*

b*

EA-1

EA-HG

Green再現性

向上

Red再現性

向上

a* vs. b*

-60

-40

-20

0

20

40

60

80

100

120

-80-60-40-20 0 20 40 60 80

a*

b*

EA-1

EA-HG

Green再現性

向上

Red再現性

向上

Green再現性

向上

Red再現性

向上

図 18. EA1 および EA-HG 色域(a* vs.b*) Color gamut of EA1 and EA-HG toner

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特集:デジタルイメージング技術

高画質 EA-HG トナーの開発

28 富士ゼロックス テクニカルレポート No.16 2006

6. まとめ

EA-HG では高画質、カラードキュメント高

生産性を実現し、高信頼性獲得を目的に開発を

進め以下の成果を得た。 高画質の課題に関しては、色剤の一部変更と

トナーの粘弾性 適化制御、トナー粒径設計(小

粒径且つ狭粒度分布、均一形状トナー)および

トナー表面への高機能外添材料の採用により実

現することが可能となった。 一方、高生産課題を改善するためには、定着

性の向上と定着後Fuser Rollからの用紙剥離性

能を向上することが重要であり、EA-HG トナー

では新規ワックスを採用し、ケミカルプロセス

(顔料、ワックス、そして乳化重合樹脂粒子と

それら個々の材料を水溶液中で凝集、成長、更

に加熱させ粒子を形成する過程)をより 適な

ものにすることにより、トナーコア中の分散構

造の均一化を実現し、定着時の用紙剥離性能向

上を獲得した。またその結果、カラーおよびモ

ノクロにおいて高生産性を実現し、更には、ト

ナー母粒子の上述の改善に加え、トナー外添剤

の種類とその添加量の 適化およびキャリア

コート剤の変更を行なうことにより、帯電、現

像、転写、クリーニングに関して安定性能を獲

得し、XERO、定着のサブシステム適性を考慮

したインタラクション課題を著しく軽減できる

現像剤開発に成功した。

7. 参考文献

[1] 松村、鈴木、石山、“高画質オイルレスカ

ラーを実現する EA トナー(乳化重合凝集

法トナー)の開発”富士ゼロックステクニ

カルレポート,No14. 2002 [2] 鈴木、石山、松村、石田、“環境負荷低減

型新製法 EA トナーの開発”エコデザイン

2002 ジャパンシンポジウム [3] 鈴木“市販ケミカルトナーの分類、構成と

将来展望”2003 年第 3 回日本画像学会技

術研究会 [4] 石山“新製法トナーの特徴と将来展望”

2002 年第 4 回日本画像学会・静電気学会

ジョイントシンポジウム [5] 松村、鈴木、石山、赤木、百武、“高画質

と低環境負荷を両立した乳化重合凝集法

トナー(EA トナー)の技術開発,日本画

像学会誌,vol42 (4),p.24, [6] 村上謙吉“高分子の化学レオロジー”,朝

倉書店,1968,p.9 [7] 鈴木千秋“EA-HG トナーの開発”2004

JBMIA 技術調査委員会報告書

筆者紹介

鈴木 千秋 技術開発本部 化成品開発部所属 日本画像学会、日本接着学会

会員 専門は高分子化学

石山 孝雄 技術開発本部 化成品開発部所属 日本画像学会、レオロジー学会

会員 専門は化学工学

武 道男 技術開発本部 化成品開発部所属 日本画像学会会員 専門は材料

開発工学

高木 正博 技術開発本部 化成品開発部所属 専門は資源開発工学

OHP透過性(PE値)

0

20

40

60

80

100

EA1 EA-HG

トナー種

PE値

Yellow

Magenta

Cyan

図 19. OHP 透過性(PE 値)比較結果 Projection efficiency of transparency

EA1 EA-HG

図 20. スクリーン再現性比較結果 Screen reproducibility of EA1 and EA-HG