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【土木学会舗装工学論文集 第4巻1999年12月 鋼床版舗装の表面縦ひび割れに関する研究 内 田喜 太 郎1・ 西 澤 辰 男2・ 姫 野 賢 治3・ 野 村 健 一 郎4 1 正会員 佐藤道路技術研究所 所 長(〒243-0211厚 木 市 三 田47-3) 2 正 会 員 工 博 石川 工業 高等 専 門学校 助 教授 環境 都 市 工学科(〒929-0392河 北部 津幡 町 北 中条) 3 フェロー会員 工博 中央大学教授 工 学 部 土 木 工 学 科(〒112-8551東 京都文京区春 日143-27) 4 正会 員 博(工)大 成 ロテ ック技術 研 究所(〒365-0027鴻 巣 市大 字 上谷1456) 首都 圏 に架 か る50橋 余 りの鋼床 版 舗装 の破 損実 態調 査 にお いて,橋 軸 方 向の縦 ひ び割 れ が縦 リブ ウェブ接 合 部 の み な らず,ウ ェブの 間 にも発 生 してい る橋 梁 が数橋 ある こ とが認 め られ た.本 研 究 は,こ れ らの現 象 を,実 験 室 に お け る繰 返 し曲 げ試験 お よび有 限帯 板法 を通 して 力学 的 に解 明す る こ とを 目的 と して い る.鋼 床 版 舗 装 の力学 的 挙動 につ い ては,鋼 床版 と一体 的 に解 析 で きる よ うに,有 限帯板 法(FSM)を2層 化 し リンク要 素 で結 合 した2層 有 限帯 板法 を開発 し,力 学解 析 を行 った.こ の解 析 に よる と,縦 リブ接合 部 直 上の 縦 ひび割 れ の発 生 に 関 しては説 明が 可能 であ るが,リ ブ ウェブ間 の縦ひ び割 れ の発 生 につ いて は説 明 できな い.一 方,繰 返 し曲 げ試験 か らは,高 温 時 にお いて,圧 縮 ひず みの み で もひび割 れ が発 生す るこ とが確認 され た. Key Words : pavement on plate deck, longitudinal cracking, finite strip method, overlaid element, strain prediction 1.は じめ に わ が 国 に お い て,道 路 橋 と して 鋼 床 版 が 最 初 に 用 い られ た の は,昭 和29年 で あ り,以 後45年 間に本州四 国 連 絡 橋 な ど世 界 に 冠 た る長 大 橋 を 架 橋 で き る ま で の 技 術 開 発 が 行 な わ れ て き た.ま た,鋼 床 版 の 上 に施 工 され る 舗 装 に つ い て も,そ の 厚 さや 用 い られ る 材 料 が, 交 通 量 の 増 加 と車 両 の 大 型 化 に 伴 っ て 改 善 され て 今 日 に 至 っ て い る1). コンク リー ト床 版 の場 合 ,床 版 の 剛 性 が 高 い の で,床 版 自体 に 大 き な ひ び 割 れ が 生 じな い 限 り舗 装 に ひ び 割 れ が 生 ず る こ と は な い.一 方 鋼 床 版 の 場 合,床 版 の剛 性 が 低 い た め,ひ び割れなどの欠陥がなくても局部的 に 大 き な 曲 げ 変 形 を 生 じ,そ れによって舗装にひび割 れ を 発 生 させ る こ とが あ る.特 に,橋 軸方向に発生す る縦 ひ び 割 れ が 多 い と い わ れ て い る.こ の縦ひび割れ は,比 較 的 早期 に車輪 走行 部 に集 中 して,あ る一 定 の 間 隔 で 平 行 に 発 生 す る特 長 が あ る.こ の間隔はほぼ縦 リブ の 取 り付 け 位 置 間 隔 に 一 致 す るた め,縦 ひび割れ の 発 生 は,舗 装 構 造 ば か りで な く,鋼 床版の構造や交 通 荷 重 の 作 用 位 置 に 密 接 な 関係 が あ る こ とが 予 想 され る2).し か しなが ら,こ の縦ひび割れについての調査 研 究 は 進 ん で お らず,抜 本 的 な 対 策 が 取 られ て い な い の が 現 状 で あ る. そ こ で,本 研 究 で は,鋼 床版舗装の縦ひび割れにつ い て,ま ず 現 状 を 把 握 す る た め に,い くつ か の 実 橋 に つ い て 目視 に よ る破 損 実 態調 査 を行 った.そ の結果を 踏 ま え,鋼 床 版 と舗 装 を 同 時 に 解 析 で き るオ ー バ ー レ イ 有 限 帯 板 法 を用 い て ひ ず み 解 析 を 行 い,発 生原因と 思 わ れ る 引 張 ひ ず み 位 置 を特 定 した.さ らにひずみ解 析 結 果 に 基 づ い て,鋼 床 版 舗 装 を 模 擬 した 実 験 室 に お け る繰 返 し 曲 げ 試 験 を 実 施 し,ひ び割れ発生原因につ い て検討 を行 った. 2.実 橋における実態調査 こ の 調 査 の 目的 は,鋼 床版舗装の破損の実態を把握 す る こ と に あ る.首 都 圏 に 架 か る50の 鋼床版道路橋を 対 象 と して,橋 面 舗 装 の 破 損 と橋 梁 の 構 造 形 式 お よび リブ 構 造 に つ い て,目 視 に よ る外 観 調 査 を行 っ た.本 章 に お い て は,そ の 調 査 に つ い て 述 べ る3). (1)路 面の破損 調 査 対 象 橋 梁 は,一 方 向 あ た り,2車 線 の 橋 が29橋 と最 も多 く,こ れ に次い で3車 線 が15橋,1車 線 が5 橋,4車 線 が1橋 となってい る.こ れ らの 橋 梁 形 式 の 内 訳 は,箱 桁 橋 が29橋,単 純 銀 桁 橋 が10橋,斜 張 橋 が5 橋,そ の他 が6橋 で あ っ た.し か し,橋 梁形 式 と舗 装 の 破 損 に は,関 連 性 が 無 い と判 断 され た.図-1は,主 に よ る 路 面 の 評 価 を ま と め た も の で あ る.こ こで示 さ れ る ひ び 割 れ 破 損 の 大 半 が 縦 ひ び 割 れ で あ り,こ のう ち の10%が ラ ン クBお よびCの 要 修 繕 と判 断 され た. 土 木 技 術 資 料4)で は,ひ び割 れ 発 生位 置 と橋 梁 構 造 と の 関連 に つ い て,縦 リブ 直 近,主 桁 ウ ェブ 上,主 桁直 近 の 縦 リブ な どの 位 置 が 縦 ひ び 割 れ に 密 接 な 関係 に あ る と述 べ られ て い る. ―103―

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【土木学会舗装工学論文集 第4巻1999年12月 】

鋼床版舗装の表面縦ひび割れに関する研究

内 田喜 太郎1・ 西澤辰 男2・ 姫 野 賢治3・ 野村 健 一郎4

1正 会員 佐藤 道 路技 術研 究 所 所長(〒243-0211厚 木市 三 田47-3)2正会員 工博 石川 工業高等専門学校助教授 環境都市工学科(〒929-0392河 北部津幡町北中条)3 フ ェロー 会員 工博 中央 大学 教 授 工学 部土 木工 学科(〒112-8551東 京 都 文京 区春 日143-27)

4 正会員 博(工)大 成ロテ ック技術研究所(〒365-0027鴻 巣市大字上谷1456)

首都圏に架かる50橋 余りの鋼床版舗装の破損実態調査において,橋 軸方向の縦ひび割れが縦 リブウェブ接合

部のみならず,ウ ェブの間にも発生している橋梁が数橋あることが認められた.本 研究は,こ れらの現象を,実

験室における繰返し曲げ試験および有限帯板法を通して力学的に解明することを目的としている.鋼 床版舗装の力学的挙動については,鋼 床版 と一体的に解析できるように,有 限帯板法(FSM)を2層 化 しリンク要素で結

合した2層 有限帯板法を開発 し,力 学解析を行った.こ の解析によると,縦 リブ接合部直上の縦ひび割れの発

生に関しては説明が可能であるが,リ ブウェブ間の縦ひび割れの発生については説明できない.一 方,繰 返し曲

げ試験からは,高 温時において,圧 縮ひずみのみでもひび割れが発生することが確認 された.

Key Words : pavement on plate deck, longitudinal cracking, finite strip method, overlaid element, strain prediction

1.は じめ に

わが国において,道 路橋 として鋼床版が最初に用い

られたのは,昭 和29年 であ り,以 後45年 間に本州四

国連絡橋 など世界に冠 たる長大橋を架橋 できるまでの

技術開発 が行なわれてきた.ま た,鋼 床版の上に施 工

される舗装 についても,そ の厚 さや用い られる材料が,

交通量の増加 と車両の大型化 に伴って改善 されて今 日

に至っている1).

コンクリー ト床版の場合,床 版の剛性が高いので,床

版 自体に大きなひび割れが生 じない限 り舗装 にひび割

れが生ず ることはない.一 方鋼床版の場合,床 版 の剛

性が低いため,ひ び割れ などの欠陥がなくても局部的

に大きな曲げ変形 を生 じ,そ れ によって舗装にひび割

れを発生 させ るこ とがある.特 に,橋 軸方 向に発生す

る縦ひび割れが多い といわれてい る.こ の縦ひび割れ

は,比 較的早期 に車輪 走行部に集 中 して,あ る一定の

間隔で平行に発生す る特長がある.こ の間隔はほぼ縦

リブの取 り付け位置間隔に一致す るため,縦 ひび割れ

の発生は,舗 装構造ばか りでな く,鋼 床版の構造や交

通荷重の作用位置に密接な関係 があることが予想 され

る2).し か しなが ら,こ の縦ひび割れについての調査

研究は進んでお らず,抜 本的な対策が取られ ていない

のが現状である.

そこで,本 研究では,鋼 床版舗装の縦ひび割れにつ

いて,ま ず現状を把握す るために,い くつかの実橋 に

ついて 目視 による破損実態調査を行 った.そ の結果 を

踏まえ,鋼 床版 と舗装を同時に解析できるオーバー レ

イ有限帯板法 を用いてひずみ解析を行い,発 生原 因と

思われ る引張ひずみ位置 を特定 した.さ らにひずみ解

析結果に基づいて,鋼 床版舗装を模擬 した実験室にお

ける繰返 し曲げ試験を実施 し,ひ び割れ発生原 因につ

いて検討 を行 った.

2.実 橋 に お け る 実 態 調 査

この調査の 目的は,鋼 床版舗装の破損の実態 を把握

す ることにある.首 都圏に架かる50の 鋼床版道路橋 を

対象 として,橋 面舗装の破損 と橋梁の構造形式お よび

リブ構造について,目 視 による外観調査 を行 った.本

章においては,そ の調査について述べる3).

(1)路 面の破損

調査対象橋梁は,一 方向あた り,2車 線 の橋が29橋

と最 も多 く,こ れ に次いで3車 線が15橋,1車 線が5

橋,4車 線が1橋 となってい る.こ れ らの橋梁形式の内

訳は,箱 桁橋が29橋,単 純銀桁橋が10橋,斜 張橋が5

橋,そ の他が6橋 であった.し か し,橋 梁形式 と舗装の

破損には,関 連性が無い と判断された.図-1は,主 観

による路面の評価 をまとめたものであ る.こ こで示 さ

れ るひび割れ破損の大半が縦ひび割れであ り,こ の う

ちの10%が ランクBお よびCの 要修繕 と判断 された.

土木技術資料4)で は,ひ び割れ発生位置 と橋梁構造 と

の関連 について,縦 リブ直近,主 桁 ウェブ上,主 桁直

近の縦 リブな どの位置が縦ひび割れに密接な関係 にあ

ると述べ られてい る.

―103―

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図-1破 損調査結果

(2)リ ブ構造

リブ構造の内訳は,開 断面縦 リブ(以 下,開 リブとよ

ぶ)が25橋,閉 断面縦 リブ(以 下,閉 リブ とよぶ)が18

橋,不 明が7橋 であった.今 回の調査では,開 リブより

も閉リブのほ うが,縦 ひび割れの発生頻度が高い とい

う結果であったが,舗 装 の補修履歴 や使用 した舗装材

料および横 リブ との関係 が不明であるため,リ ブ構造

と縦ひび割れ の関連 は必ず しも明確ではなかった.こ

の点については,縦 リブの剛性 を含めた より詳細 な調

査が必要である.

(3)縦 ひび割れの発生例

目視 によれば,舗 装 に発生 した縦ひび割れは車輪走

行部での発生がほとん どであ り,ひ び割れの本数が複

数の場合 はほぼ平行 で等間隔に発生 してい る.終 局的

には,約15cm間 隔の平行な縦ひび割れからさらに亀甲

状へと発達 してい る.こ れ らの数例を,図-2~ 図-4に

示す.調 査は縦ひび割れの発 生 してい る舗装の代表横

断面を側線 とし,そ こでのひび割れ本数 をカウン トし

た.図 では側線 部分のひび割れ状況のスケ ッチ と,鋼

床版の断 面構造 と側線 におけ る縦ひび割れ の本数 を合

わせて示 している.こ れ らの図は,橋 梁 自体は異な る

が,ひ び割れの進展状況 によって初期,中 期,終 期の

代表的な ものを示す.こ こに,初 期,中 期,終 期 とは,

ひび割れの発 生状況による区分 であ り,そ れぞれ,輪

図-2縦 ひび割れ発生状況(初 期)

図-3縦 ひび 割れ 発 生状 況(中 期)

図-4縦 ひび割れ発生状況(終 期)

跡部 に3本 以下の縦ひび割れが局所的に発生 した場合,

輪跡部に3本 ~5本 の縦ひび割れ が10m以 上にわたっ

て認め られ る場合,輪 跡部の縦ひび割れが15cm程 度の

間隔 とな り亀 甲状に発達 して一定の区間連続的 となっ

た場合,に 分類 した.

図のリブの位置とひび割れ発生位置 との関係か ら,縦

ひび割れは,主 げた腹板や縦 リブ接合部のみならず,縦

―104―

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写真-1典 型的な縦ひび割れ

リブウェブの間にも発生 してい ることが明 らかである.

また,既 設の鋼床版の構造では,主 げた ウェブとこれに

隣接す るリブウェブの間隔は15cm~25cm,隣 接す る

リブ同士の間隔お よび閉 リブ用U形 鋼の開口部の幅は

30cm~34cmが 一般的に用い られてい る5),6).こ の こ

とか らも,15cm間 隔に発生す る縦ひび割れの何本かは,

リブ間において発生 していると考 えることができる.

写真-1は 典型的な縦ひび割れの発生状況である.橋

軸方向に一定の間隔で縦ひび割れ が平行 に連続 して発

生 してい る様子がよくわかる.

(4)調 査の まとめ

以上の考 察お よびこれ以外に今回の調査によって明

らかになった ことをまとめると以下の ようになる3)…

1.わ だち掘れは少 な く、ほ とん どの破損が縦方向の

線状ひび割れであ る.

2.縦 リブの種類,す なわち開 リブ と閉 リブでは縦ひ

び割れ の発生状況が異なる.

3.箱 桁腹板上の 目地は有効に機 能 しているようであ

る.

4.縦 ひび割れは縦 リブの配置 と車輪走行位 置に関連

している.

5.縦 リブ接合部のみな らず、その間にも縦ひび割れ

が発生 してい る個所 もみ られる.

3.数 値 解 析 に よ る検 討

前章の調査結果 か ら,縦 ひび割れの発生原因 を究明

す るためには,鋼 床版の構造を合理的に反映 した解析

が必要であることがわかった.そ こで本章においては,

交通荷重が作用 した ときの鋼床版舗装の挙動について,

オーバー レイ有限帯板法(OFSM)解 析によって検討 を

行 う.特 に縦 リブの位置 とタイヤの位置 との関係 によっ

て表面の横断方 向のひずみが どの ように変化す るかに

ついて調べることに した.

図-5有 限帯板要素モデル

図-6オ ーバ ー レイ モ デル

図-7リ ンク要素の役割

(1)オ ーバ レイ有限帯板法7)

鋼床版舗装のひずみ を解析するために,FSMと オー

バー レイモデルを組み合わせ た構造モデルを開発 した.

FSMは 図-5に 示す よ うに,橋 軸方向の一様性 を考慮

し,板 を帯板状 の要素の集合体 として解析 を行 う方法

である8).9).こ の方法では,x,z平 面の変形に対 して

は適当な変位関数を用い,y方 向の変形は正弦関数の級

数 によって近似する.し たがって要素分割 はx,z平 面

内の断面について行 えばよく,y方 向については級数の

―105―

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図-8想 定した鋼床版舗装

項数 を増やす ことによって所定の精度を得るのである.

また荷重の大 きさや作用位置 も自由に設定できる.さ

らに,ア スファル ト層を表現 した帯板要素を重ねてデッ

キプ レー トの上に組み合 わせ ることによって,鋼 床版

内の応力 のみな らずアスファル ト層 内のひずみを同時

に計算す ることが可能 となる.

FSMに おいてデ ッキプ レー トとアスファル ト層 とを

別 々に考慮す るために,図-6に 示す よ うに,ア スファ

ル ト層 とデ ッキプ レー トをそれぞれ分割 し,両 者を リ

ンク要素で結合 した.た だし,こ のままではそれぞれの

層に中立面が形成 され るので,ア スファル ト層とデ ッキ

プ レー トの合成構造の中立面が同一 となるように,剛

性増加分 を各要素に加 えるこ ととした.層 の境界面が

結合 されている場合,荷 重を受けて平板が変形す ると

2層 は一体化 され中立面は1つ だけが形成 され る.

オーバー レイ要素は,リ ンク要素に よって結合 され

てい る.リ ンク要素はオーバー レイ要素 とその下の帯

板要素の力学的な相互作用を司るものであ り,節 点間

の変形に対する線形ばねによってモデル化 されてい る.

特に,た わみに対する リンク要素の剛性 碗 はたわみに

対するばね係数 として表現 され,Ioannidesら によって

提案 された式(1)を 用い ることに した10).こ の式 は,

図-7に 示す ように,弾 性係数の低いアスファル ト層の

厚 さが荷重 によって変化 し,鋼 床版 とアスファル ト層

の中心面の変形が異な ることを表現す るために導 出さ

れた.リ ンク要素の剛性は次式で表 され る.

(1)

こ こ に,

(2)

その他の変形,す なわちxお よびy方 向の変位 とたわ

み角に関するばね係数の値 も,便 宜的に式(1)と 同 じ値

を用いた.た だ し,鋼 床版 と舗装は接着材 によって一

体化 されていると考 え,鋼 床版 と舗装のx,y方 向のひ

ず みが連続す るよ うに,高 いx,y方 向のばね係数値,

式(1)の10倍 の値を採用 した7).

(2)想 定 した鋼床版舗装

計算において想定 した鋼床版お よび舗装の構造を図-

8に 示す.鋼 床版の弾性係数 ボア ソン比および厚 さは

それぞれ,2.06×105MPa,0.3,12mmと し,舗 装 につ

いては,大 きなひずみが発生す るような小 さい弾性係

数を仮定 し,そ れぞれ294MPa,0.35,60mmと した.

縦 リブの板厚は6mmと した.荷 重条件 としては,大 型

車後軸の複輪を想定 している.1つ のタイヤは接地形状

190mm×235mmの 矩形,荷 重強度0.8MPaの 等分布荷

重 とし,そ のタイヤを2個220mm間 隔で配置 した.タ

イヤの位置 と縦 リブ配置の相対的な関係 が舗装のひず

み挙動 にどの ような影響があるか調べ るために,図 に

示す よ うに車輪位置を細か く変 えた.す なわち,最 初

はタイヤが縦 リブウェブの問に載 るよ うに し,そ の位

置から1cmず つ横方向に移動 させ,最 後 は再びタイヤ

が リブ ウェブの間に載 るように した.そ れぞれの荷重

位置においてOFSMに よる計算 を行 った.

(3)解 析結果

計算結果を図-9に 示す.こ れ らの計算結果よ り,

1.縦 リブウェブ直上の舗装表面に大きな引張ひずみ

が発生する,

2.リ ブ中間部 には大きな圧縮ひずみが発生す るもの

の,引 張 りひずみは生 じない,

3.表 面ひずみは,タ イヤが リブ中間部 に作用 した場

合が最 も大きく,リ ブ腹板直上に作用す る ときが

最 も小 さい,

などのことが分か る.

図-10は,大 きな引張ひずみの生ず るウェブ直上と,

大きな圧縮ひずみの生ずるウェブ間の表面ひずみの,荷

重の横方向の移動による変化を示 したものである.ウ ェ

ブ直上のひずみは常に引張状態 にあ る.ウ ェブ間では

圧縮であるが,荷 重が遠 ざかると小 さな引張になる.し

か し,引 張ひずみの大きさは非常に小 さい.

一方,舗 装底面のひずみ分布を示 した結果が図-11で

あ る.最 も表面ひずみ が大き くなる載荷状態の結果 の

みを示 した.表 面に比べひずみ量は圧縮,引 張 ともか

な り小 さく,ひ び割れの発生の原因 とは考 えられ ない.

以上の解析結果 よ り,縦 リブ ウェブの縦ひび割れ発

生は引張ひずみによって説明可能であるが,ウ ェブ中

間部の発生原因は説明できない.し たがって,ウ ェブ

中間部の縦ひび割れ については引張ひずみ以外の原因

が考え られ る.

―106―

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図-9荷 重移動によるひずみ分布の変化

図-10荷 重の移動によるひずみ量の変化

4.室 内 実験 に よ る 検 討

解析結果 よ り,リ ブ ウェブ間には引張ひずみの発 生

はなく,こ の点か らはウェブ間の縦ひび割れ は説 明で

きない.た だ し,タ イヤ直下では0.002程 度の大きな圧

縮ひずみが生 じていることが判明 した.そ こで,大 き

な圧縮ひずみによるひび割れの可能性 がないか,室 内

実験によって検討 してみた.

図-11舗 装底面におけるひずみ分布

(1)装 置および実験の概要

本装置は図-12に 示す ような,2点 支持,2点 載荷の

片振 り繰返 し曲げ試験機であ る.ア スファル ト混合物

の供試体は厚 さ1~3cm× 幅4cm× 長 さ30cmで,厚

さ0.2cm× 幅6.7cm× 長 さ60cmの アル ミ板に貼 り付

け られてい る.図-13は 供試体の様子である.載 荷 と

支持はアル ミ板に加 わるよ うになっているため,ア ス

ファル ト混合物に載荷点や支持点での塑性変形は生 じ

ない.さ らに,ア スファル ト混合物に引張 りひずみが生

じないよ うにす るために,ア ル ミ板 内部に中立軸が く

―107―

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図-12繰 返し曲げ試験機

図-13供 試体

30000回

60000回

100000回

図14供 試体表面のひび割れ発生状況

るよ うにアスファル ト混合物の厚 さを決定する ととも

に,下 方への片振 り方法をとっている.中 立軸がアル ミ

板 にあることを確認す るために,供 試体スパン中央 の

アスファル ト表面お よびアル ミ板下面にひずみゲージ

を貼 り,ひ ずみを計測 した.

ここで用いたアスファル ト混合物供試体は,密 粒度

混合物によってホイール トラッキング供試体 を作製後,

トラバースを加 え,屋 外 に暴露 した もの を切断 し用い

ている.

試験においては,試 験温度55℃,変 位制御(変 位量

2mm),周 波数8Hzで10万 回までの繰返 し載荷 を行っ

た.変 位 量2mmは,図-9の 解析結果を参考 に,ア ス

ファル ト混合物供試体表面の圧縮ひずみが0.0015~0.002

程度になるよ うに設定 した.

(2)実 験結果

図-14に 示 した例は,試 験温度55℃,変 位量2mm,

周波数8Hzの 条件下において,10万 回までの繰返 し試

験の結果である.試 験途中,1万 回ごとに顕微鏡によっ

てひび割れ発生状況 を観察 し,そ れ をスケッチ した も

のの3回 分であ る.ス パ ン中央部にひび割れ が集中 し

てお り,繰 返 し回数 の増加 に伴いひび割れ も増加 して

い る.供 試体面に貼 ったひずみゲージによる計測か ら

中立面 はアル ミ板 にあることを確認 してお り,明 らか

に,こ のひび割れの原 因が繰返 し圧縮ひずみ によるも

のであ ることが分か る.

図-15は,繰 返 し曲げめ回数 とひび割れ発生本数の

関係を示す.供 試体の暴露時間によらず,ひ び割れ本数

は繰返 し数 にほぼ比例 して増加 している.

これ らの結果か ら,高 温 においては,圧 縮 ひずみの

みでひび割れが発生す る可能性があ り,リ ブ間におい

ても縦ひび割れが発生す ることを示唆 している.

―108―

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図-15繰 返し数によるひび割れ本数の増加

図-16供 試体内のひずみ分布

(3)実 験の理論的解釈

圧縮 ひずみ を作用 させただけでなぜひび割れ が発生

す るのか とい う疑問に対 して,簡 単な応力解析を行っ

てみた.本 実験の供試体に対 して,図-16の ような単

純なひずみ分布 を仮定す る.こ の場合変位制御 による

片振 り繰返 し載荷 なので,ア スファル ト表面のひずみ

は以下の ように計算できる.

(3)

ここに,

εx:ア スファル ト表面のひずみ

φ0:曲 率の振幅

f:載 荷振動数

h1,h2:ア ル ミ板 とアスファル トの厚 さ

η:ア ル ミ底面か ら中立軸までの距離

さて,こ こでアスファル ト混合物の構成側 をKelvin

モデル と仮定する.す ると,次 式のよ うに応力は,弾

図-17実 験時のアスファル ト表面の応力

性成分 と粘性成分の和として表す ことができる.

(4)

ここに,

σx:ア スファル ト表面の応力

E:ア スファル ト混合物の弾性係数

γ:ア スファル ト混合物の粘性係数

式(3)を 式(4)に 代入すればアスファル ト表面の応力 を

計算す ることができる.

実験に合わせ て,次 のような数値 を用 いて応力 を計

算 した.f=8Hz,φ0=-0.000067,E=295MPa,γ

=9.8MPa・sec,η=15.7mm.な お,φ0は 実験 時に

計測 したアル ミ底面およびアスファル ト表面のひずみ

か ら算出 した.

図-17は,計 算に よるアスファル ト表面応 力の時間

変化である.弾 性成分は圧縮ひずみに よって圧縮応 力

となるが,粘 性成分 には引張が生ず る.そ のため,粘

性係数 が高い と弾性成分 と粘性成分の和である全体の

応力 も時間によっては引張になる.実 験 によって観測

された微細なひび割れはこの ような粘性成分 と弾性成

分の合成による引張応力が原 因と考え られる.

以上の ことか ら,縦 リブの ウェブ間のひび割れもこ

の よ うなアスファル ト混合物 の粘性的性 質による引張

応力が微細なひび割れ を発生 させ たものと予想 される.

すなわち,鋼 床版 自体は弾性的な挙動 を示すが,そ の

上の舗装は特に高温時の場合粘性 的な挙動 を示 し,た

とえ圧縮ひずみであって も舗装には引張応力が生 じて

い るのである.こ の ように,圧 縮ひずみ領域 のひび割

れ発生については粘弾性理論 による解析が必要 である.

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Page 8: 鋼床版舗装の表面縦ひび割れに関する研究 - JSCElibrary.jsce.or.jp/jsce/open/00554/1999/04-0103.pdfKey Words : pavement on plate deck, longitudinal cracking, finite

5.あ と が き

本研究では,鋼 床版舗装に特徴的 な問題である表 面

縦ひび割れについて,実 態調査,数 値解析および室内

実験によって,そ の発生原因について検討 を行った.得

られた結論 をま とめると以下のとお りである.

1.縦 ひび割れ は車輪走行部 に一定の間隔でほぼ平行

な直線状 に発 生する.

2.縦 ひび割れの発生間隔は,縦 リブのウェブ間隔か

その半分であ り,縦 ひび割れが,ウ ェブ直上ばか

りでな く,そ の間にも生 じてい る.

3.OFSMに よるひずみ解析によれば,タ イヤがウェ

ブ間にあるとウェブ直上に大きな引張ひずみが発

生するが,ウ ェブ間には圧縮ひずみ しか生 じない.

4.ウ ェブ直上にタイヤが載る と,ア スファル トに発

生す るひずみは非常に小 さくなる.

5.圧 縮 ひずみのみを作用 させ るよ うな繰 り返 し曲げ

試験によれば,圧 縮ひずみのみを与えてもアスファ

ル ト表面にひび割れが発生することが確認 された.

6.ひ び割れの発生本数 は繰 り返 し回数の増加に伴 っ

て増加 してい く.

7.ひ び割れの発生状況はアスファル ト供試体の暴露

時間に よらない.

8.簡 単な粘弾性解析に よれば,圧 縮ひずみのみ作用

させても,応 力は引張になることがあ りうる.

こ の よ うな こ とか ら,鋼 床 版 舗 装 の 縦 ひ び 割 れ の 検

討 に は,鋼 床 版 の構 造,荷 重 位 置 の み な らず,舗 装 の

粘 弾 性 的 挙 動 の 把 握 が 重 要 で あ る こ とが 分 か る.ま た,

ひ び 割 れ の 予 測 に は ア ス フ ァル ト材 料 の 破 壊 基 準 を確

立 す る こ とが 必 要 不 可 欠 で あ り,今 後,本 研 究 で 開 発

した 曲 げ 実 験 を さ ら に進 め て 行 く予 定 で あ る.

参 考 文 献

1) 多 田宏 行: 橋 面舗 装 と設 計施 工, 鹿 島出版 会, 1996,

2) 佐 々木道夫: 橋 面舗装 と鋼床 版, ア ス ファル ト, Vol.38,

No.187, pp.44-53, 1996.

3) 内 田喜太 郎, 松 野 三朗, 西 澤辰 男: 首都 圏 にお け る鋼 床

版 舗装 の破損 の現 況, 第23回 日本 道路 会議 一般 論 文集

(C), 日本道 路 協 会, pp.410-411, 1999.4) 飯 島 尚, 小 島 逸 平, 岩 崎 尚義: 鋼床 版 舗 装 の疲 労 曲線,

土木技 術資 料26-7, 1984.

5) (社)日 本道 路協 会: 道 路橋 示方 書 ・同解説II鋼 橋編,

1994.

6) (社)日 本 道 路協 会: 鋼 道路 橋設 計 便 覧, 1996.

7) 西澤辰 男, 姫野 賢治, 佐藤亮 一, 佐藤 育正: 鋼床版 舗装 の

構造解 析法 に関す る研 究, 土木 学会論 文集, No.627/V-

44, pp.103-112, 1999.

8) Cheung, Y. K.: Folded Plate Structures by Finite Strip Method, Proc. of ASCE, Vol.95, No.ST12,pp.2963-2979, 1969.

9) 草間晴 幸, 谷 山健: 有 限帯板 法, 日刊 工業新 聞社, 1994.

10) Ioannides, A. M. and Khazanovich, L.: Analytical and Numerical Methods for Multi-Layered Concrete Pavements, Proceeding, 3rd International Workshop on the Design and Evaluation of Concrete Pave-ments, C. R. O. W. Record 14, pp.113-121, 1994.

(1999.8.23受 付)

STUDY ON LONGITUDINAL SURFACE CRACK IN PAVEMENT ON STEEL

PLATE DECK

Kitaro UCHIDA, Tatsuo NISHIZAWA, Kenji HIMENO, and Kenichro NOMURA

A condition survey was conducted to investigate surface condition of pavement on steel plate deck of bridge. The results of the survey showed that main distress mode of the pavement are longitudinal cracks which occur at web of longitudinal rib as well as at the position between the webs. To make clear the causes of the crack, we performed strain analysis using overlaid FSM. The strain analysis indicated that, although large tensile strains appeared in the pavement at the web of rib, the strains between the webs were basically compressive. These results can not explain the cracks between the webs. Laboratory experiment modeling the pavement on plate deck was conducted and the results indicated the possibility of occurrence of the cracks by repetition of compressive strain.

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