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1
住民の視点から考える
ごみ処理有料化の合意形成
阿部 晃士(あべ こうじ)岩手県立大学 総合政策学部
計量社会学/社会意識論/環境社会学
家庭ごみ有料化に関する研究会(2007年2月20日)
2
講演の流れ
はじめに住民意識
の現状
分配の公平さと
手続きの公平さまとめ
社会的ジレンマ解決策としての
有料化
賛否に関わる要因
3
1.はじめに
主旨
家庭ごみ有料化では、住民の合意形成が不可欠
住民はなぜ 賛成/反対 するのか
住民の意識を手がかりに(社会学的に)考える
ポイント 視点1:「社会的ジレンマ」解決策としての有料化
視点2:「分配の公平さ」と「手続きの公平さ」
データ:住民意識の現状と、その要因は?
4
2.社会的ジレンマ解決策としての有料化
はじめに住民意識
の現状
分配の公平さと
手続きの公平さまとめ
社会的ジレンマ解決策としての
有料化
賛否に関わる要因
5
「社会的ジレンマ」という視点
個人の合理的選択が社会的に望ましい結果をもたらさない状況のモデル(単純化した見方)
社会的に望ましい結果
矛盾
個人の合理的選択
個人の合理的選択
個人の合理的選択
6
「社会的ジレンマ」における選択と帰結
個人:協力よりも非協力の利得が大きい
協力には、コスト(手間、時間・・・)がかかる
1人だけ協力してもその効果は小さい
例)公共交通よりも自家用車が便利
社会:個人の選択が集積すると・・・
全員の協力が得られれば「より望ましい結果」が得られるにもかかわらず、それが実現しない
例)公共交通は発達せず、渋滞や環境悪化・・・
7
「社会的ジレンマ」としてのごみ問題
市民
ごみ減量、分別、リサイクルには手間がかかる
しかも、無料なら費用負担に差がない
社会(行政)
市民の協力が得られれば、望ましい結果(処分場の延命、ごみ処理費用の軽減)が得られるが・・・
8
「社会的ジレンマ」の解決策
個人的要因の制御
個人の意識(価値観)を変える
広報、啓蒙施策
構造的要因の制御
非協力のコストを大きくし、協力行動を促す
例)ロード・プライシング、ごみの有料化
協力のコストを小さくし、協力行動を促す
例)行政による分別収集の導入
9
「社会的ジレンマ」解決策としての有料化
ごみ減量行動非協力のコスト増【意思決定】
有料化の前提 有料化の帰結【社会状況】
有料化 ごみ減量【制度水準】
負担の公平化?税の二重取り?
経済的負担感
不法投棄?
10
3.住民意識の現状
はじめに住民意識
の現状
分配の公平さと
手続きの公平さまとめ
社会的ジレンマ解決策としての
有料化
賛否に関わる要因
11
Gomi2005:調査の概要(1)
家庭廃棄物(ごみ)に対する住民の意識と行動
に関する調査
調査主体:生活環境研究会
東北大学大学院文学研究科・海野道郎を中心とするグループhttp://www.sal.tohoku.ac.jp/behavsci/WorkGroups/life-env/index_j.html
2005年10月:水俣市、名古屋市、仙台市
2006年9月:釜石市
分別の多寡、都市規模から
4市とも、現時点では有料化していない
12
Gomi2005:調査の概要(2)
対象と調査方法
4市の住民からそれぞれ1,000名を無作為に抽出
郵送併用の留め置き法(郵送後、調査員が回収) 仙台市 635名(回収率:63.5%)
名古屋市 480名(回収率:48.0%)
水俣市 657名(回収率:65.7%)
釜石市 808名(回収率:80.8%)
回答は家事担当者に依頼 回答者の8割以上が女性。30代・40代の男性は少ない
5
6
7
6
25
31
31
36
47
43
47
39
23
19
16
19
0% 20% 40% 60% 80% 100%
釜石市(799)
水俣市(624)
名古屋市(478)
仙台市(624)
賛成である どちらかといえば賛成である どちらかといえば反対である 反対である
図1 有料化の賛否
3~4割が「賛成」 6~7割が「反対」
11
20
35
34
35
41
52
40
33
38
41
45
42
36
30
34
19
17
13
11
8
18
12
8
8
3
6
8
0% 20% 40% 60% 80% 100%
環境全般に有効
税の二重取り
経済的負担感大きい
責任の明確化
費用負担の公平化
ごみ減量効果
不法投棄の増加
そう思う どちらかといえばそう思う どちらかといえばそう思わない そうは思わない
図2 有料化の諸側面に関する個別評価(仙台市)
4市でほぼ同じ傾向(ここでは仙台市のみを示す)
不法投棄を懸念する回答者が多いが、有料化の肯定的側面も7割が挙げている
「税の二重取り」「環境問題全般に有効」では意見が二分
15
4.賛否に関わる要因
はじめに住民意識
の現状
分配の公平さと
手続きの公平さまとめ
社会的ジレンマ解決策としての
有料化
賛否に関わる要因
16
賛否に関わる要因を探る
複数の要因の効果を同時に比べてみる
「有料化賛成」を従属変数にした重回帰分析
社会的利益についての意識
環境問題全般に役立つ、ごみ減量効果
費用負担への意識
経済的負担感、税の二重取り?
+
**
**
**
**
*
.346
-.056
-.322
-.150
.219
.129
.037
.031
.027
.038
.020
.017
-.021
-.009
-.030
釜石市
** p<0.01, * p<0.05, + p<0.10
.414 .456 .425 調整済みR2
-.063-.021-.033不法投棄の増加
**-.323**-.345**-.293税の二重取り
**-.261**-.232**-.237経済的負担感
**.195**.170**.289環境全般に有効
.055*.110.060費用負担の公平化
*.097*.088.018ごみ減量効果
.007.027-.009非協力は迷惑
.018.061**.095非協力の人が得
*.096-.033.037ごみで財政圧迫
-.034**.113+.065協力行動実行度
-.014*-.091.014世帯収入
.021*.108-.003学歴(教育年数)
.022*.091.015年齢
.002.034*.079性別(男性=1,女性=0)
水俣市名古屋市仙台市
表1 有料化の賛否に関する重回帰分析(標準回帰係数)
属性
状況認知
個別評価
社会的利益
費用負担
18
賛否に関わる要因の関係
有料化の賛否
経済的負担感
税の二重取り
世帯収入が少ない
税金の使い方は不適切だ
協力行動実行
費用負担の公平化
ごみ減量に効果
環境全般に有効
賛成へ 反対へ
表2.負担感と二重取り意識の組み合わせと有料化賛成率(%)
(78.9)(30.0)(49.7)(14.4)賛成率612
18.83.329.948.0水俣市:構成比
重くない重くない負担重い負担重い
(71.4)(31.8)(45.5)(13.6)賛成率801
11.45.626.356.7釜石市:構成比
(84.3)(42.9)(50.5)(11.1)賛成率479
21.35.823.449.5名古屋市:構成
比
(85.5)(46.3)(55.9)(15.5)賛成率622
20.36.626.047.1仙台市:構成比
(%の基数)二重取りでない二重取り
二重取りでない
二重取り
「そもそも有料化すべきでない」→ 住民の1割に満たない
経済的負担を感じ、税の二重取りと考える→ 住民の半数→ 賛成率が低い
20
まとめ(1)
分析結果から
社会的利益の認知(環境全般に有効) →賛成へ
費用負担の意識(負担感、二重取り) →反対へ
「そもそも有料化すべきでない」はごく少数だが、「負担重い&税の二重取りだ」 → 反対へ
低所得者層などの負担感の配慮とともに、費用負担の仕組みについても、十分説明することが重要ではないか
21
5.分配の公平さと手続きの公平さ
はじめに住民意識
の現状
分配の公平さと
手続きの公平さまとめ
社会的ジレンマ解決策としての
有料化
賛否に関わる要因
22
分配の公平さ:社会的公正の研究から(1)
報酬や費用の分配基準
衡平(equity):業績や貢献に応じて
平等(equality):当事者で均等に
必要(needs):個々の必要性を考慮して
公平さに関する意識の2つの側面
現状がどうなっていると思うか(認知)
何が公平だと思うか(理念)
認知と理念の不一致 → 不公平感(評価)
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ごみ処理に関する費用負担
税金でまかなう現状 市民が「収入に応じて負担」と位置づけられる
従量制による有料化 ごみの量による衡平な(equity)負担へ
住民は現状をどう認知し、何が公平だと思っているのか?
半数近くは「各世帯同じ額」と回答 「正解」は3~4割
51
49
39
47
10
9
9
11
32
28
39
35
6
12
11
7
1
1
1
1
0% 20% 40% 60% 80% 100%
釜石市(779)
水俣市(605)
名古屋市(471)
仙台市(619)
各世帯同じ 人数に応じて 収入に応じて ごみに応じて その他
図3 費用負担原理の認知
実際の費用負担がどうなっているか、住民にはわかりにくい
「ごみに応じて」は3割
19
32
8
18
11
18
57
30
5
3
0% 20% 40% 60% 80% 100%
粗大ごみ
家庭ごみ
各世帯同じ 人数に応じて 収入に応じて ごみに応じて その他
図4 公平な費用負担原理(仙台市,1993年の調査)
「何が公平か」(理念)は、価値観や立場によって異なる
収入が少ない人
26
従量制を公平と考える要因
「ごみの量に応じて」が
公平だと思う
他の人は協力していないと思う
自分は将来的に協力できる
(仙台市,1993年の調査結果より)
27
まとめ(2)
現状の費用負担がどうなっているか、住民が理解できているとは限らない
何が公平かは、価値観や立場によって異なる
従量制を公平と考える要因 「他の人が協力していない」と思う
危機感や関心の表れとも解釈できる
自分は将来的に(ごみ減量に)協力できる
「協力できる」「費用負担は増えない」と思えること
協力行動の受け皿の重要性
28
手続きの公平さ:社会的公正の研究から(2)
人は、「手続き」と「決定結果」とを、別々に評価できる
決定過程への参加 → 手続きの公平感
手続きの公平感 → 結果の満足感
情報の公開、主張を述べる機会
29
6.本日のまとめ
はじめに住民意識
の現状
分配の公平さと
手続きの公平さまとめ
社会的ジレンマ解決策としての
有料化
賛否に関わる要因
30
まとめ
有料化の際の費用負担
住民の(意識や状況の)多様性に配慮する必要
負担感への配慮、必要性への配慮
例)生活保護世帯の減免措置、「紙おむつ」への対応
他の施策との連動
協力行動のコストを下げる仕組みも重要
分別収集の同時導入が効果的(山川ら, 2002)
31
有料化導入の手続き
住民への説明と参加機会が重要
費用負担の仕組みについて、わかりやすい情報
地域の実情を踏まえた説明の責任
有料化の前提(行政として何に困っているか)
目的、期待される効果
懸念とその対応
32
有料化によるごみ問題の解決へ
有料化の成功
ごみ減量行動非協力のコスト増【意思決定】
有料化の前提【社会状況】
有料化 ごみ減量【制度水準】
必要性に配慮費用負担の
仕組みを説明
負担感への配慮
協力しやすい仕組みを検討
こうした過程について、住民の理解を得ることが重要
地域の実情の理解
33
文献
阿部晃士. 2004.「住民の視点から考えるごみ処理有料化の合意形成」『都市清掃』57(257) :25-28.
阿部晃士.2007.「ごみ処理有料化への賛否を規定する要因の関係:社会的ジレンマの構造的解決を受け入れる意識」『社会学研究』80:101-121.
山川肇・植田和弘・寺島泰. 2002.「有料化実施
時におけるごみ減量の影響要因」『廃棄物学会論文誌』13(5):262-270.