34 NEXT 初版発行:2010 年 10 月 15 日

古き良き下町情緒 星空の下で… 多国籍メニュー 食の街/風景 · 古き良き下町情緒 100 二〇〇八年八月二日 何でもそろう。湯の街の「暮らし」に触れたければ、まずは、J

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その34

NEXT 初版発行:2010 年 10 月 15 日

多国籍メニュー

星空の下で…

古き良き下町情緒

第四章●

食の街/風景

【別府恋歌】 第 4 章●食の街/風景 p. 2

学生たちでにぎわう立命館アジア太平洋大学(APU)のカフェテリア。レシートにはカロリー計算も表示される。栄養バランスはばっちりだ。

多国籍メニュー

98 

お昼時。恐らく、ここは県内で最も込み合う繁忙の場所だろう。

 

Tシャツ、ポロシャツ、ジーパン、ショートパンツ、スニーカー、

二〇〇八年七月三十一日

【別府恋歌】 第 4 章●食の街/風景 p. 3

サンダル。世界八十一カ国・地域の学生たちが、多種多様のいでた

ちで集結する。雰囲気はさながら異国のフードコートだ。

 

品数はざっと百種余り。APU(立命館アジア太平洋大学)に来

れば、バラエティーに富んだ各国の「味」に舌鼓を打てる。

 

そんなモンもあるん? 

と驚く多国籍メニュー。

 

生春巻き、タンドリーチキン、キーマカレーに焼き肉ビビンバ、

トッポギ、サラダバー…。各種丼物やめん類のほかに、焼きたてパ

ンも充実している。どれも美味で、安い。

 

キャンパス内のE棟(スチューデント・ユニオン)。

 

九百五十席あるカフェテリアで、一日平均三千食ほどの学食を提

供しているのはAPU生協の三代目フードサービス店長、木下高志

(35)だ。

 

京都から別府に移り住んで約十カ月。「ウチは留学生のために、

他大学の学食よりも十―二十円ほど安くしている。宗教上に配慮し

た『ハラルフード』を取りそろえているのも特長です」

 

正午すぎ、厨房(ちゅうぼう)は〝戦場〟と化す。

 「すぐに売り切れるメニューも多々ある。違う国で育った学生た

ちの要望にどう応えるか。シンドイけど、やりがいがあるし、面白

い」

 

眼下に湯の街の絶景が広がっている。

 

気の合う仲間でテーブルを囲む。さまざまな言葉で〝ランチトー

ク〟を楽しむ。

 

別府ならでは、である。

【別府恋歌】 第 4 章●食の街/風景 p. 4

深夜。はしご酒を終えた常連客がやって来る。「一杯、おくれ」。ちょうちんの薄暗い光を背に、酔いさましのラーメンを食す。うまい 

星空の下で…

99 

夜の九時。北浜二丁目の民間駐車場に、一台のピックアップトラッ

クが到着した。

二〇〇八年八月一日

【別府恋歌】 第 4 章●食の街/風景 p. 5

 

エンジンを止める。赤ちょうちんに灯をともし、折り畳み式の簡

易テーブルを広げて丸いすを並べる。

 

準備は整った。屋台ラーメン「コスモラーメン」の〝開店〟だ。

 

オーナーの平塚直晴(61)はこの道三十四年。それまでは洋食の

コックだった。

 

県内外のホテルなどを転々とした後、帰郷。二十六歳の時、当時

繁盛していた「走るラーメンセンター」の〝売り子〟になった。

 

屋台車のハンドルを握り、チャルメラの音(ね)を響かせながら

湯の街を流した。郊外に新興住宅が増えていった一九七〇年代―。

 「あんころ、屋台ん車は市内に四十台は走りよった。コンビニが

できてからよ、一気に廃れたんは…。いつでん買えるごとなって、

ラーメンを待つ必要がねえなった」●

 

八〇年代に独立。十二年前、北浜一丁目の駅前通りから現在地に

拠点を移した。「スープは豚骨100%。北的ケ浜町の基地(仕込

み場)で毎日十二時間以上、炊くんよ。サッパリとした味ながらコ

クがある。呑(の)んだ後に食べるには最高よ」

 

値段は六―八百円。翌朝五時まで営業する。「そらぁ、忘年会シー

ズンなんかは一晩に軽く百杯出る日もあるで。最近は…人通りが少

ねえで閑古鳥が鳴きよる」

 

煮えたぎる荷台の鍋でめんをゆでる。トッピングはチャーシュー

とモヤシ。行き交う人々を眺めつつ、酔客たちが星空の下で「フー

フー」する。

 

今宵(こよい)を締める一杯。旨(うま)いんだな、これが…。

【別府恋歌】 第 4 章●食の街/風景 p. 6

ここに来れば「今夜のおかず」はすべてそろう。「これ1個、おくれ」「あいよ。ありがとさん」。狭い通路に威勢のいい掛け声が飛び交う

古き良き下町情緒

100

二〇〇八年八月二日

 

何でもそろう。湯の街の「暮らし」に触れたければ、まずは、J

R別府駅のガード下に足を運ぶべきであろう。

【別府恋歌】 第 4 章●食の街/風景 p. 7

 

流川通りをまたぎ、中央町と秋葉町を貫く延長およそ三百五十

メートルの一本道。「べっぷ駅市場」。そのフトコロは深い。

 

両サイドに計三十三店舗が軒を連ねる。鮮魚、精肉、果物、青果

に衣服、生花、薬局、クリーニング、ペットショップ…。

 

昭和四十一年だった。大分国体に合わせて高架が完成、「別府南

高架商店街」として産声を上げた。以来、四十年余り。今や〟泉都

最後の市場〟として、国内外から視察団が訪れる。

 「今日も安(やし)いで。早いモン勝ちや」「さあ、さあ、いらっ

しゃい!」

 

ぶらり歩けば自然と買い物袋は膨らむ。店と客。売り手と買い手。

心触れ合う対面販売が庶民のハートをつかんでいる。

 「地域密着型の商売―それがここの魅力ですわ」

 

市場会長の平尾隆雄(67)は語る。「周辺の大型スーパーに客足を

取られて厳しい。でも、この古き良き下町情緒は意地でも守りたい」

 

どれもてんこ盛りだ。老舗の総菜屋「野田商店」。名物の巻きず

しやコロッケなどを求めて、市内外から食通たちが押し寄せる。

 

主婦の味方の良心価格。切り盛りする野田詔(まさ)代(63)は「ウ

チのおかずはどれもお薦めよ。この市場? 

そりゃあ、市民の台所や」。

 

お年寄り、若夫婦、留学生、観光客…。いろんなヒトの肩と肩が

ぶつかり合う。食の街・別府。人情味あふれるこの光景がいつまで

も続きますように―。 

(文・首藤康、写真・杉山和也=別府支社)

【別府恋歌】 第 4 章●食の街/風景 p. 8

■オオイタデジタルブックとは オオイタデジタルブックは、大分合同新聞社と学校法人別府大学が、大分の文化振興の一助となることを願って立ち上げたインターネット活用プロジェクト「NAN-NAN(なんなん)」の一環です。 NAN-NAN では、大分の文化と歴史を伝承していくうえで重要な、さまざまな文書や資料をデジタル化して公開します。そして、読者からの指摘・

追加情報を受けながら逐次、改訂して充実発展を図っていきたいと願っています。情報があれば、ぜひ NAN-NAN 事務局にお寄せください。 NAN-NAN では、この「別府恋歌」以外にもデジタルブック等をホームページで公開しています。インターネットに接続のうえ下のボタンをクリックすると、ホームページが立ち上がります。まずは、クリック!!!

別 府 大 学大分合同新聞社

ⓒ 大分合同新聞社

デジタル版「別府恋歌」 その 34編集     大分合同新聞社初出掲載媒体 大分合同新聞(2007 年 10 月 22 日~ 2009 年 3 月 14 日)

《デジタル版》 2010 年 10 月 15 日初版発行編集 大分合同新聞社制作 別府大学メディア教育・研究センター 地域連携部/川村研究室発行 NAN-NAN 事務局    (〒 870-8605 大分市府内町 3-9-15 大分合同新聞社 企画調査部内)

ⓒ 大分合同新聞社

●デジタル版「別府恋歌」について 「別府恋歌」は、大分合同新聞社が 2007 年 10 月から翌 2009 年 3 月まで、同紙夕刊に掲載した連載記事。今回、デジタルブックとして再構成し、公開する。登場人物の年齢をはじめ文中の記述内容は、新聞連載時のもの。2010 年 2 月 26 日      NAN-NAN 事務局