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177 第 58 回神奈川腎炎研究会 Key Word:薬剤性好酸球増多症,MPO-ANCA 陽性, 半月体形成性糸球体腎炎・尿細管間質性腎炎 1 北里大学医学部腎臓内科   2 膠原病内科 症  例 症 例:33 歳男性 主 訴:発熱・腹痛 現病歴:2009 年複雑部分発作型てんかんの 診断にて抗てんかん薬(カルバマゼピン,バル プロ酸ナトリウム)内服開始。同年から乾性咳 嗽に対して吸入ステロイド + β 2 刺激薬,ロイ コトリエン拮抗薬を断続的に内服していた。 2012 2 月,発熱,咽頭痛を主訴に近医を受診。 抗生剤で解熱せず,腹痛が出現し前医を紹介。好 酸球増多症(4770l)と炎症反応の上昇を認 め,好酸球性胃腸症が疑われ3 1日入院となった。 3 5日よりPSL20mg が開始となったが,MPO- ANCA622EU が判明し3 15日当院へ転入院した。 既往歴:慢性副鼻腔炎 アレルギー歴:花粉症 家族歴:なし 生活歴:喫煙(-),飲酒(-) 入 院 時 現 症: 身 長:167cm, 体 重:56kgBMI 20,体温:37.7 度,脈拍:108 回 / 分,整, 血圧: 125/82mmHg,頭頸部:眼瞼結膜貧血(-), 眼球結膜黄疸(-),咽頭発赤(-),扁桃腫大(-), 表在リンパ節腫大(-),甲状腺腫大(-),胸部: 心雑音:(-),呼吸音:清,腹部:平坦,軟, 圧痛(-),自発痛(+),両下肢:浮腫(-),関節: 疼痛・発赤(-),皮膚:両手掌・足底に皮疹(+), 神経所見:異常所見(-) 好酸球増多症,MPO-ANCA 陽性を認め,著しい好酸球浸潤を伴う 尿細管間質性腎炎,半月体形成性糸球体腎炎を呈した一例 若 新 芙 美 1 佐 野   隆 1 竹 内 和 博 1 酒 井 健 史 1 山 口 祐 子 2 小 川 英 佑 2 岡 本 智 子 1 田 中   圭 1 内 田 満美子 1 竹 内 康 雄 1 坂 本 尚 登 1 廣 畑 俊 成 2 鎌 田 貢 壽 1 (尿所見) 比重 1.016 pH 7.0 蛋白 2+定量 1.1g/日 潜血 3+(-) ウロビリ (±) ビリルビン (-) ケトン (-) 亜硝酸 (-) (尿沈渣) 赤血球 >100/HPF 白血球 10-19/HPF 赤血球円柱 1+硝子円柱 1+顆粒円柱 1+上皮円柱 1+脂肪円柱 1+蝋様円柱 1+変形赤血球 +(尿生化学) NAG2 3.0U/L (血算) WBC 39400 L Neut 15.5 % Eosino 79.3 % Lymph 3.1 % Mono 2.0 % Baso 0.1 % RBC 4.03×106 L Hb 12.6 g/dL Ht 36.2 % Plt 22.2×104 L (凝固系) PT-T 14.6 sec PT-INR 1.25 APTT 29.9 sec Fib 489 mg/dL FDP 9.00 ug/ml D-dimer 3.46 ug/ml 入院時検査所見(1)

好酸球増多症,MPO-ANCA陽性を認め,著しい好酸球浸潤を伴う …€¦ · 特発性好酸球増多症 ① 1500/ul以上の末梢血好酸球増多が 6ヶ月 以上持続する。または好酸球増加による症

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第58回神奈川腎炎研究会

Key Word:薬剤性好酸球増多症,MPO-ANCA陽性,半月体形成性糸球体腎炎・尿細管間質性腎炎

(1 北里大学医学部腎臓内科  (2同膠原病内科

症  例症 例:33歳男性主 訴:発熱・腹痛現病歴:2009年複雑部分発作型てんかんの

診断にて抗てんかん薬(カルバマゼピン,バルプロ酸ナトリウム)内服開始。同年から乾性咳嗽に対して吸入ステロイド+β2刺激薬,ロイコトリエン拮抗薬を断続的に内服していた。

2012年2月,発熱,咽頭痛を主訴に近医を受診。抗生剤で解熱せず,腹痛が出現し前医を紹介。好酸球増多症(4770/μl)と炎症反応の上昇を認め,好酸球性胃腸症が疑われ3月1日入院となった。3月5日よりPSL20mgが開始となったが,MPO-

ANCA622EUが判明し3月15日当院へ転入院した。既往歴:慢性副鼻腔炎アレルギー歴:花粉症家族歴:なし生活歴:喫煙(-),飲酒(-)入院時現症:身 長:167cm, 体 重:56kg,

BMI:20,体温:37.7度,脈拍:108回/分,整,血圧:125/82mmHg,頭頸部:眼瞼結膜貧血(-),眼球結膜黄疸(-),咽頭発赤(-),扁桃腫大(-),表在リンパ節腫大(-),甲状腺腫大(-),胸部:心雑音:(-),呼吸音:清,腹部:平坦,軟,圧痛(-),自発痛(+),両下肢:浮腫(-),関節:疼痛・発赤(-),皮膚:両手掌・足底に皮疹(+),神経所見:異常所見(-)

好酸球増多症,MPO-ANCA陽性を認め,著しい好酸球浸潤を伴う尿細管間質性腎炎,半月体形成性糸球体腎炎を呈した一例

若 新 芙 美1  佐 野   隆1  竹 内 和 博1

酒 井 健 史1  山 口 祐 子2  小 川 英 佑2

岡 本 智 子1  田 中   圭1  内 田 満美子1

竹 内 康 雄1  坂 本 尚 登1  廣 畑 俊 成2

鎌 田 貢 壽1                   

(尿所見)比重 1.016

pH 7.0蛋白 (2+)定量 1.1g/日潜血 (3+)糖 (-)ウロビリ (±)ビリルビン (-)ケトン (-)亜硝酸 (-)

(尿沈渣)赤血球 >100/HPF

白血球 10-19/HPF

赤血球円柱 (1+)硝子円柱 (1+)顆粒円柱 (1+)上皮円柱 (1+)脂肪円柱 (1+)蝋様円柱 (1+)変形赤血球 (+)

(尿生化学)NAG2 3.0U/L

(血算)WBC 39400 /µL

 Neut 15.5 %

 Eosino 79.3 %

 Lymph 3.1 %

 Mono 2.0 %

 Baso 0.1 %

 RBC 4.03×106 /µL

 Hb 12.6 g/dL

 Ht 36.2 %

 Plt 22.2×104 /µL

(凝固系)PT-T 14.6 sec

PT-INR 1.25 APTT 29.9 sec

Fib 489 mg/dL

FDP 9.00 ug/ml

D-dimer 3.46 ug/ml

入院時検査所見(1)

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腎炎症例研究 29巻 2013年

アレルギー性肉芽腫性血管炎(Churg-Strauss症候群)診断基準

1)主要臨床所見(1)気管支喘息あるいはアレルギー性鼻炎(2)好酸球増多(3) 血管炎による症状(発熱・体重減少・多

発性単神経炎・消化管出血・紫斑・多関節炎・筋肉痛・筋力低下)

2)臨床経過の特徴(1)(2)が先行し(3)が発症する。

3)主要組織所見(1) 周囲組織に著明な好酸球浸潤を伴う微小

血管の肉芽腫性,またはフィブリノイド壊死性血管炎の存在

(2)血管外肉芽腫の存在

本症例の問題点(1)・ 本症例はChurg-strauss症候群に典型的な気管

支喘息,多発単神経炎の所見を認めなかった。・ ステロイド療法を施行するも腹部症状の改善

に乏しく,薬剤(カルバマゼピン)中止後,症状の改善を認め,薬剤性好酸球増多症の可

能性も示唆された。

本症例の病態と診断(1) アレルギー性鼻炎を伴い,気管支喘息と多

発単神経炎を認めないChurg-Strauss症候群。(2) 顕微鏡的多発血管炎と薬剤性好酸球増多症

の合併。(3) 薬剤に起因する好酸球増多症と薬剤性ANCA

関連腎炎。

本症例の診断について本症例は下記のいずれかと考えられる。①Churg-strauss症候群② 顕微鏡的多発血管炎に薬剤性好酸球増多症

が合併③薬剤によるANCA関連血管炎

▼本症例の腎組織所見と診断についてご教示い

ただきたい。

考 察CSSは稀な疾患であり,海外での年間発症率

は2.4-6.8/100万人,我が国では年間新規患者数

(生化学) TP 8.7 g/dL

Alb 3.1 g/dL

T.Bil 0.3 mg/dL

AST 21 IU/L

ALT 25 IU/L

ALP 262 IU/L

γ-GTP 89 U/L

LDH 251 IU/L

CPK 106 mg/dL

UN 14.1 mg/dL

Cr 0.98 mg/dL

UA 3.2 mg/dL

GLU 114 mg/dL

HbA1C 5.1 %

T-CHO 114 mg/dL

TG 49 mg/dL

Na 133 mEq/L

K 4.2 mEq/L

C l97 mEq/L

Ca 8.4 mg/dl

P 3.0 mg/dl

Fe 23 µg/dL

TIBC 166 µg/dL

(免疫) CRP 7.59 mg/dL

IgG 3227 mg/dL

IgG4 511 mg/dL

IgA 239 mg/dL

IgM 121 mg/dL

IgE 1600 IU/ml

MPO-ANCA 606 EU

PR3-ANCA <10 EU

C3 176 mg/dl

C4 24 mg/dl

CH50 55 U/ml

フェリチン 377 ng/ml

抗核抗体 <40 倍リウマチ因子 7 IU/ml

MMP-3 77.6 ng/ml

SIL-2R 2690 U/ml

IL-5 135 pg/ml

ECP >150 ug/L

(eosinofil cationic protein)

入院時検査所見(2)

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第58回神奈川腎炎研究会

は100人とされている。喘息のある患者においては34.6-67/100万人

まで発症率が上昇する。CSS患 者 の40-80%にANCAが 陽 性 と な り,

多くはMPO-ANCAである。ANCA陽性患者では腎病変,肺出血,紫斑な

どの血管炎徴候が目立ち,ANCA陰性患者では心臓や肺浸潤病変を示すことが多い。

腎病変のある患者の75%がANCA陽性であり,腎病変のない患者のANCA陽性率は26%

であった。顕微鏡的多発血管炎の診断基準

(1)主要症候①急速進行性糸球体腎炎②肺出血,もしくは間質性肺炎③ 腎・肺以外の臓器症状:紫斑,皮下出血,

消化管出血,多発性単神経炎など(2)主要組織所見

細動脈・毛細血管・後毛細血管細静脈の壊死,血管周囲の炎症性細胞浸潤

(3)主要検査所見①MPO-ANCA陽性②CRP陽性③ 蛋白尿・血尿,BUN,血清クレアチニン

値の上昇④ 胸部X線所見:浸潤陰影(肺胞出血),間

質性肺炎特発性好酸球増多症

① 1500/UL以上の末梢血好酸球増多が6 ヶ月以上持続する。または好酸球増加による症状,所見を伴い6 ヶ月以内に死亡する症例である。

② アレルギー疾患,寄生虫疾患など好酸球増多を来す明らかな原因を認めない。

③好酸球浸潤による臓器障害を認める。

Churg-Strauss症候群の予後予測因子FFS(five factors score)①血清Cr1.58mg/dlを超えるもの②たんぱく尿1.0g/日を超えるもの③重症の消化管病変があるもの④心筋障害があるもの⑤中枢神経病変があるもの

それぞれ1点ずつの合計点をFFSとしているが,0で治療をした患者の予後は良好であり,初期治療で寛解に至った患者の生存率は91%

である。

図1 図2

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図3

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図27

図28

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図30

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第58回神奈川腎炎研究会

討  論 若新 よろしくお願いいたします。 症例は33歳男性,主訴は発熱と腹痛です。現病歴ですけれども,2009年複雑部分発作型てんかんの診断にて,抗てんかん薬カルバマゼピンとバルプロ酸ナトリウムの内服が開始をされました。同年より感冒後の乾性咳嗽に対して,吸入ステロイドとβ2刺激薬,ロイコトリエン拮抗薬を断続的に内服していました。2012年2

月,発熱,咽頭痛を主訴に近医を受診。抗生剤で解熱を認めず,腹痛が出現したために前医を紹介となりました。4770の好酸球増多症と炎症反応の上昇を認め,好酸球胃腸症が疑われ,3月1日前医入院となりました。3月5日よりプレドニン20mgが開始となりましたが,経過にてMPO-ANCA622と高値が判明し,3月15日当院へ転入院となりました。 既往歴ですが,慢性副鼻腔炎,アレルギー歴に花粉症があります。 入院時現症です。体温は37.7℃と上昇しており,脈拍は108回でした。また腹部に自発痛と両手掌と足底に皮疹を認めました。神経所見などに異常所見は認められませんでした。 入院時の検査所見です。尿所見ですが,蛋白尿は2(+),定量で1.1g,潜血は3(+)でした。沈渣にて,赤血球が1視野に100以上,白血球が10 〜 19を認めました。また赤血球円柱を含む多彩な円柱の所見を認めました。尿生化学では,NAGが23.0と上昇をしていました。血算ですけれども,白血球が39400と著明高値であり,eosinoが79.3%でした。また,軽度の正球性正色素性貧血の所見を認めました。凝固系ではFDP,D dimerの上昇を認めました。 生化学ですが,総蛋白が8.7と上昇。また低アルブミン血症を認めました。γ-GTPとLDH

の上昇を認めました。入院時のクレアチニンは0.98でした。 免疫ですけれども,CRPが7.59と上昇してお り,IgGが3227,IgG4が511,IgEが1600,

MPO-ANCAが606と 高 値 で し た。 ま たC3とCH50の上昇とフェリチンの高値を認めました。抗核抗体は陰性であり,soluble IL-2 recep-

torが2690,IL5が135,eosinophil cationic pro-

teinが150と上昇を認めていました。 入院時に内服していました抗けいれん薬はいずれも血中濃度は正常範囲内でした。蛋白分画ではβ-γ位にバンドを認めました。 好酸球増多の精査として寄生虫の検査をしましたが,虫卵は陰性,また骨髄検査にても異常所見は認められませんでした。 入院時の画像所見です。胸部のレントゲンでは肺野に浸潤影などの異常所見は認められませんでした。 生理検査です。心電図に異常はなく,神経伝達速度を施行しましたが,運動感覚ともに異常は認められませんでした。脳波にても,抗けいれん薬の内服下ですが,明らかな発作波などは認められませんでした。胸部CTで右の肺野にわずかな間質影を認め,また腹部のCTでは両腎腫大の所見を認めました。頭部の単純CTでは,右の副鼻腔に軽度の粘膜の肥厚を認め,こちらは第23病日に施行した下部消化管の内視鏡の検査です。S状結腸から,直腸に多発するびらんの出血の所見を認めました。生検ではリンパ球と形質細胞主体の炎症細胞の浸潤を認め,好酸球の浸潤はごく軽度でした。 こちらが第5病日に施行しました皮膚生検の所見です。真皮浅層の抗原組織下に好酸球の浸潤を認めます。また小血管に好酸球の接着を認めました。 こちらが第7病日に施行しました腎生検の所見です。光顕では,糸球体31個のうち9個に壊死性病変と細胞性の半月体の形成を認めました。また,間質に著明な好酸球の浸潤と,また糸球体の一部に好酸球の浸潤,また尿細管に好酸球の浸潤の所見を認めました。血管炎の所見はなく,蛍光抗体法は全て陰性でした。 電顕所見です。基底膜に異常などは認められませんでした。また糸球体内に顆粒を持つ好酸

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腎炎症例研究 29巻 2013年

球の所見を認めました。 こちらがChurg-Strauss症候群の診断基準です。本症例では,アレルギー性鼻炎,また好酸球増多の所見,発熱と消化管出血,また病理所見を認め,診断基準を満たすものでした。 入院後経過です。前医よりプレドニン20mg

が内服されており,腎生検施行後50mgへ増量,第12病日にステロイドパルス療法を1回施行しました。しかし,腹痛の所見が持続し,下血を認め,また尿所見の持続,好酸球の再度上昇を認めたために第19病日にステロイドパルス療法の2回目を施行。また,薬剤性の好酸球増多症の可能性も考慮し,吸入ステロイドとβ2刺激薬カルバマゼピンを中止し,また同時期よりシクロホスファミドの点滴,パルス療法を開始となりました。第30病日付近にて,腹痛の改善を認め,また尿蛋白の陰性化,好酸球数の正常化,CRPとMPO-ANCAの陰性化を認めました。 Churg-Strauss症候群の臓器病変の頻度です。気管支喘息が90%程度見られるとされ,また末梢神経障害が60 〜 70%程度の高頻度に見られるとされていますが,本症例ではこちらの二つの所見は認めませんでした。本症例では消化管出血,腎病変,皮膚病変を認めました。 こちらの文献によるChurg-Strauss症候群におけるANCA陽性と,陰性患者での臨床症状の頻度の違いですが,ANCA陽性の患者の場合は全身症状,紫斑,肺出血,多発単神経炎,腎病変が多いのに対し,ANCA陰性の場合は肺出血以外の肺病変,心臓病変が多いと報告されています。 本症例の問題点です。本症例はChurg-Strauss

症候群に典型的な気管支喘息と多発単神経炎の所見は認められませんでした。ステロイド療法を施行しましたが,腹部症状の改善に乏しく,薬剤中止後症状の改善を認め,薬剤性好酸球増多症の可能性も示唆されました。 本症例の病態と診断です。当科は腎生検というかたちでかかわったのですが,当科ではアレ

ルギー性鼻炎を伴って,また気管支喘息と多発単神経炎を認めないChurg-Strauss症候群として,腎所見と併せて矛盾しないと考えていましたが,主科として診療にあたった膠原病内科の先生は典型的な気管支喘息と多発単神経炎を認めないということ。また薬剤中止後に症状の改善を認めたということから,顕微鏡的多発血管炎と薬剤性好酸球増多症の合併という考え方もできるのではないかというご意見でした。薬剤というところからしてみますと,薬剤に帰する好酸球増多症,または薬剤性ANCA関連腎炎という考え方もできるのではないかと考えています。 以上の点を踏まえまして,本症例における腎組織と診断についてご討議いただければと思います。ありがとうございました。座長 はい。どうもありがとうございました。ただ今のご発表に対しまして,臨床的,あるいは総合的な,この患者さんの診断は何かということも踏まえて,ご質問,ご意見等はありますでしょうか。 Churg-Straussというのは,先生,典型的な組織のgranulomaがなくても。若新 そうです。座長 臨床経過がそろえば,eosinophilicと喘息があって,RPGNの経過というかたちで。若新 そうです。座長 来ますよね。若新 はい。診断基準よりというかたちになります。座長 この人は,気管支喘息は典型的にはないんですか。若新 感冒後の持続性,いわゆる咳喘息と呼ばれるようなものがあったそうなんですが,wheezeを伴うような気管支喘息はなかったということです。座長 ただし,この治療を見ると,吸入ステロイドβ(★00:14:43 /一語不明,スミラン)とロイコトリエン拮抗薬というのは,もう。若新 はい。断続的に内服していたということ。

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第58回神奈川腎炎研究会

座長 そういうことですか。若新 はい。座長 どこか呼吸器の専門の先生に見ていただいてということではなくて。若新 近医の開業の先生に感冒後に処方されていて,感冒などの症状があるときに,断続的に内服をしていたということ。座長 感冒症状ではなくて,ピュアな喘息発作はないわけですね。若新 そういうことです。座長 ないんですか。若新 はい。座長 いかがですか。どうぞ。乳原 虎の門病院の乳原です。 Churg-Strauss syndromeを考えるときに,必ず薬剤性ということが出てくるんですけれども,最近,Churg-Strauss like syndromeということで,ロイコトリエン拮抗剤がそれの報告例が結構出てきている。それが普通のChurg-Straussとどのぐらい鑑別できるか。臨床像が違うかというところまでは勉強していないんですけど,Churg-Strauss like syndromeというのが,ロイコトリエン拮抗剤などの薬で報告をされていることは事実で,それとの関与というのは,どのぐらい勉強されたか。若新 この患者さまは,入院時にはロイコトリエン拮抗薬,いわゆるシングレアという薬は内服されていなかったんですが,文献などの報告を見ますと,やはりロイコトリエン拮抗薬を内服されて,Churg-Strauss症候群を発症しているような患者さまは,wheezeを伴うような気管支喘息があって,ステロイドとロイコトリエン拮抗薬が必要なレベルの気管支喘息の症状をお持ちで,例えば,ステロイドを減量して,ロイコトリエン拮抗薬を増やしているとき,ステロイド減量時にそういった症状が出るのではないかという文献の示唆もありましたので,この患者さまに関しては,そういったいわゆる典型的な気管支喘息はお持ちではありませんし,本症例の診断時にも,そういったお薬は内服されて

いなかったというところは言えるかなと思うんです。乳原 ロイコトリエン拮抗剤を使うことで誘発されたという。座長 いかがですか。どうぞ,先生。宮城 ベースに抗てんかん薬を飲まれている,リスクのある患者さんということだと思うんですけれども,いわゆるdrug induseのhypereo-

sinophilic syndromeの発症に確かHSVだったと思うんですけど,ウイルス感染の発症とか,再発とかが,発症にかなり濃厚に関与する報告があったように思うんですけど,今回のいわゆる先行した感染症状みたいなことに関して何か。若新 先行した感染症状で,咽頭痛ということで前医を受診をされているんですが,前医の咽頭培養では溶連菌が出ていることはあるんですが,ウイルス感染症を示唆するような所見はなかったと。宮城 基本的には細菌感染であるということ。若新 はい。細菌感染症があったと。宮城 ありがとうございます。座長 そのほか,いかがですか。 今の先生のご質問なんですけど,ウイルスの再活性化で,この患者さんはDIHSと診断していいんですか。drug-induced hypersensitivity syndromeで。そうすると,1回ある薬で感作されると,あらゆる薬に対してhypersensitivityが出て非常に難渋するというふうには,うちでも経験したことがあるんですけれども,この患者さんはDIHSというのは。若新 いや。ただ,入院経過中にステロイド投与下ではあるんですが IgE RASTなどの試験もしているんですが,それらは陰性ということで,膠原病の先生は薬剤を中止して症状がよくなったから関連も否定できないというところまでのご意見で,そこまでの完全な診断というわけにはいかないと考えています。座長 なるほど。いかがですか。よろしいですか。それでは病理の先生のコメントをいただいた後で,また皆さん,ご意見,ご討論をお願い

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腎炎症例研究 29巻 2013年

します。それでは先生お願いいたします。重松 【スライド01】この弱拡大を見て気付くことは,こういうふうな糸球体と思われるところに,かなり濃厚な細胞浸潤があるということです。それから,間質にも炎症が起こっているということです。一部の尿細管は確かに拡張してしまって,尿細管障害があることもある程度予想がつきます。

【スライド02】実際に演者もお話しになっていますけども,糸球体病変を要約すると,演者はnecrotizing and crescentic GNと言われましたかね。私は thrombotic necrotizing and extracapillary GN。これがメーンの変化で,それに tubuloint-

erstitial nephritisが一緒に起こっているということであります。

【スライド03】それで早速間質の病変から行きます。これはproximal tubuleで,ある程度保持されているんですけど,distalでは,もうこの周りにかなり強い細胞浸潤があって,このtubulesはかなりの障害を受けていることが分かります。

【スライド04】この部分を一番eosinoがよく分かりますので,HE染色で見てみますと,確かにdistal tubuleの周りをとりまくように,eo-

sinophilの集積があります。もちろん,そのほかにmononuclear cellもありますけれども,間質の炎症はeosinophilが多いということが言えます。ここに tubulesで中に入っている炎症細胞があるんですけれども,これはちょっと同定が難しいです。

【スライド05】今のところをPAMでみると,確かにdistal tubleの基底膜は壊されていて,かなり破壊性の病変が起こっている。これも恐らくdistalだと思いますがかなり強い障害が進行しています。

【スライド06】これはまた別のところですけれども,これもdistal tubuleを中心に脱落とか,tubulitisの変化があって,eosinophilの浸潤が著明であります。proximalのほうはそれほどの変化は認めないと言えると思います。

【スライド07】それから,これがgranulomatous

にちょっと見えますけれども,強い管内増殖性の変化があって,そして,この周りにやはり細胞浸潤があるんです。こちらは,どちらかというと,あまりeosinophilが多いということではなくて,形質細胞なんかを交えた単核細胞の集積が目立つということができると思います。

【スライド08】それで,私が thrombotic necrotiz-

ingと言ったのは,こういう変化が係蹄の中に見られるのです。ここに今,管内増殖があります。これがやがて thromboticになって,そのまま残るかどうか。それが管外性の病変につながるかどうかということ。これが管外性病変の変化の起こる前触れの変化であるかどうかということを,標本の上で確かめました。

【スライド09】そうしますと,これはPAM染色ですけれども,こういう thromboticな変化の一部で,基底膜が破けているのです。だから,係蹄内へどんどん thrombotic,そして細胞成分を加えたものが増えてきて,結局,係蹄壁を壊しているということです。これは管外性変化につながる変化ではないかということです。この症例はANCA陽性なので,immunoglobulinははっきませんけれども,こういう流れてきた多形核白血球なんかのgranulesがburstを起こして血栓をつくり,さらに基底膜を壊すということが進行しているところを組織で見ているのではないかというところです。

【スライド10】この症例では管外性病変があるんですけれども,単なる足細胞の増殖,あるいはparietal epithelialの増殖だけじゃなくて,炎症性細胞が流入して,管外性病変を彩っているということが言えると思います。

【スライド11】確かに基底膜が破けてしまっているのです。そして,管外性増生があって,さらに管外性増殖変化はボーマン嚢capsule

を破って,間質の浸潤していくということです。ここに輸入動脈がありますから,こちらは lamina densaではなくて,間質のdistal tubule

だったと思います。こういった流れ込んだ細胞

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によっても,tubulesは障害を受けるということが言えると思います。

【スライド12】血管病変は内皮の線維性増生が主で,血管炎はないです。静脈にも静脈炎はない。ここらへんは,いつも線維が初めから多いところなので,線維症ということは,これでは言えないと思います。

【スライド13】電顕の所見ですが,電顕の標本が3枚送られてきました。それを見ると,血中にeosinophilがあるというので,糸球体にもeo-

sinoが出ている。それから,こっちにmonocyte

が出ております。monocyteはかなり大きくなって,活性化を示しています。ここにもeosinoがあります。eosinoというのは,顆粒の中にもう一つ構造があって,比較的楽に,これはeosino

ということがわかります。沈着物は全くないです。

【スライド14】それから,もう1枚あった糸球体の写真です。これも,やはりmonocyteが rich

な管内増生が見られました。【スライド15】それから,間質の写真が出ていたんですけども,これはなかなか読むのが難しくて,とにかくeosinoがたくさんあるというのは分かるんです。これが,ひょっとしたらperitubular capillariesかなと思ったんですけど,なかなか難しいです。

まとめ1.�糸球体病変は管内性変化から管外性変化に

進展し、急性壊死性、細胞性半月体形成がほぼ一様にみられる。

2.�好酸球は糸球体内にも尿細管間質にも認められ、また単球・マクロファージの集積も目立つ。

3.�尿細管炎は遠位部に顕著で基底膜の破壊性変化も見られる。

4.�明らかな血管炎はみられない。5.�この症例では糸球体病変はANCA関連の糸

球体腎炎、そして尿細管・間質病変は薬剤性のものと考えられる。

 そういうことで,私は糸球体病変は管内性変

化から,管外性変化に進展しておると。急性壊死性細胞性半月体形成がほぼ一様に見られる急性病変を呈していると。好酸球は糸球体内にも尿細管間質にも認められる。単球macrophages

の集積も目立つ。尿細管炎は遠位に顕著で,基底膜の破壊性変化がある。病理のほうではChurg-Strauss病といった場合には,糸球体病変のほかに,やはり血管炎があって,それでperineuritisとか,そういうのが説明できると考えていますので,そういう感じの血管炎は認められないということなので,この病変はANCA

関連の糸球体腎炎と,それから薬剤性の尿細管間質病変であると考えました。以上です。座長 はい。では山口先生,お願いいたします。山口 最初見たときに,私もChurg Straussを考えたんですけれども,薬剤で来る場合もあるということで,この薬の細かいところはちょっと調べられなかったんですが,ほかにANCA関連で甲状腺とか,ANCAの場合,あの場合は構造的にANCAと非常に似ているらしくて,それで抗体ができてくるようなことが書いてあったんです。この薬がどんな薬なのか,ちょっと詳しいところまで調べられなかったです。

【スライド01】重松先生が大体述べられたんですが,何でもないようなところもあるんです。そ れ か ら,segmentalと い う か, 半 周 ぐ ら いcrescenticな, あ る い は segmentにhypercellular

な,これもあまり変化がない。こういうように通常,われわれはANCA関連でもびまん性に来てしまう症例もありますし,focal segmental

に出る場合もあります。それから,尿細管上皮の扁平化もあるんですが,間質炎が非常に強いです。必ずしも糸球体に病変がなくて,関係なしに,非常に密な間質炎が,もちろん糸球体周囲にも集まっていますけれども,それ以外のところに幅広く見られる。それから,peritu-

bular capillariesはちょっといるぐらいで,あまりcapillariesと言える所見があるのかないのか。ちょっと浮腫状のところもあります。

【スライド02】大体,こういう静脈の周囲とい

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うのはリンパ球系が集まりやすい場所です。われわれも,この静脈炎というのをなんとか生かそうとは思っているんですが,時々,移植腎ですと,例えば動脈炎と静脈炎があって,病変がparallelに起こることがあるんです。断面によっては,静脈炎だけあって,動脈炎が見えない場合があって,その静脈炎を生かそうという。例えば,少しこういう内皮下に炎症細胞が入っているわけで,そうすると,この動脈に何か障害がないのかどうか。あまり尿細管間質がやられている様子はないですから,これだけで。ANCAの場合はもちろん静脈炎も当然起きてきますので,もちろんANCAの病変としてもおかしくはないです。動脈炎がなくても,静脈炎は起こすということは言えると思います。

【スライド03】こういう細胞がボーマン嚢腔を埋めていまして,tuftも全体に少し大きくなって,管内に少し炎症細胞が入り込んできています。この辺は,確かにプラズマリンパ球,eo-

sinoも場所によってはだいぶ混在して出てきております。

【スライド04】それから,この辺が先ほどの静脈炎のところです。こういうように内皮下に好酸球も含めた広い意味での静脈内皮炎と言ってもいい病変だろうと思います。この小葉間動脈には問題ないです。それから,非常に強いeosinophiliaがあって,これが細動脈ですが,細動脈の周りにも集まっている。壊死性の変化が,ちょっと血管局部に近いようなところで,MPOなんかのときにも,よくこういう血管局部に近いところに壊死性の毛細,あるいは細動脈炎的なものが起きてくるように思います。

【スライド05】ちょっとしつこいようですが,こういうように,静脈炎はなかなか評価できないというのが,今の一般的な考え方です。eo-

sinophiliaが非常に顕著であるということです。ちょっと係蹄内に何かが詰まっているような印象もあります。

【スライド06】segmentalにhypercellularな病変があって,cellular crescent,periglomerularが非

常にmassiveに起きて,ボーマン嚢が破れているような,静脈炎もあるということだろうと思います。peritubular capillariesと言えるほどの所見は。われわれは,ただ,血管内にあるだけではまずくて,内皮とのコンタクトがないと,あまりperitubular capillaries,あるいは間質出血とか,浮腫がないと言わないようにしています。

【スライド07】同じ場所です。何か糸球体もすごく全体にコントラストが悪いです。

【スライド08】ちょっと暗かったです。申し訳ないです。cellular crescentで tuftの部分がちょっと大きいんです。通常ですと,大体コラープスしてしまうんですが,必ずしもそうではないようです。尿細管炎もあります。あまり顕著ではなさそうです。

【スライド09】赤血球円柱なんかが出てきております。管内の少し増殖性の変化で,先ほど重松先生が血栓なのかどうか分かりませんけれども,何か蛋白の stasisを起こしているような感じのところもあります。

【スライド10】こういうような壊死性,あるいはpodocyteの変性像といったほうがいいですか。ちょっと切片が厚いので,細かいところは分からないです。massiveなeosinophiliaがあるということだろうと思います。

【スライド11】PAMで見ますと,ずいぶん管内への浸潤細胞が多いです。tubular injuryもmod-

erateぐらいにあります。peritubular capillaritis

は軽いということになると思います。【スライド12】ここが tubulitisの所見で,時々

neutrophilic tubulitis,あるいはeosinophilic tubu-

litisと言われるような,通常われわれ,拒絶反応ですと,リンパ球が主体なんで,lymphocytic

な tubulitisと言っているわけですが,少し多核球も混ざってきている。この辺がそうですかね。ただ,遊走性があるんで,だいぶ内腔に出てきてしまいます。滞って,尿細管上皮を壊して,それで尿細管の再生を起こしていれば,いわゆる tubulitisという定義になると思います。 この辺は,そういう感じの,ちょっと幼弱な

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上皮も出ていますので,tubulitisと言えると思います。ただ,動脈の中にendothelに貼り付く場合,われわれは移植腎ですと,vascularの始まりの場合,まずリンパ球がendothelにコンタクトしてくる場合があります。これは,たまたま入り込んだものだろうと思います。capillar-

iesも少しあるということでしょうか。【スライド13】これは端っこなので,あまり有意に取らないほうがいいのか迷いました。私は端なので,混ざってしまったのかなという印象です。尿細管炎は非常に強いのがあるということは言えると思います。ですから,crescentic

なものと,tubular-interstitialと両方あるということは間違いないようです。

【スライド14】電顕は特にeosinoとmacrophages

が出てきているということだろうと思います。depositはありません。

【スライド15】間質でもeosinophiliaが非常に顕著である。

【スライド16】そういうようなことで,necro-

tizing crescentic glomerulonephritis で,acute のtubular-interstitial nephritisで,peritubular capil-

lariesとeosinophiliaが あ る。patchな tubular in-

juryということが言えると思います。最初は僕もChurg Straussでいいのかなと思ったんですが,文献を調べると,抗てんかん薬による腎症も考えられるということだそうです。

【スライド17】これは文献で,どこの人でしたか。日本腎臓学会の英文誌に出ていました。granulomatous interstitial nephritisということで,atypical drug-induced hypersensitivityということで,これはきれいなgranulomaができているのです。動脈炎も起こしてしまっています。こういうgranulomaの出現はあまりはっきりしなかったように思います。

【スライド18】それから,これもP-ANCAが陽性になったということです。cryoとか,mem-

branoproliferativeで,ANCAが 陽 性 に な っ たというものです。ですから,こういう症例がautoimmune syndromeを起こしてくるそうです

から,やはり薬剤の影響は幅広く考えていかなくてはいけないと思います。以上です。座長 はい。先生方,どうもありがとうございました。いかがでしょうか。フロアから何かご質問,ご意見等ありますでしょうか。 先生がおっしゃったのは,カルバマゼピンの肉芽腫性の間質病変を伴った腎炎というのは,日本の先生の報告で,ことしの選ですよね。僕もこれは読ませていただきましたけれども,さっき乳原先生がおっしゃったようなロイコトリエンの拮抗薬でChurg Strauss syndromeライクな腎病変が起きてくるというようなことなものですから,非常にこの辺はcomplexで混沌とした部分はあると思うので,一つ一つを切り分けて整理していかないといけないと思うんですけど。演者の先生,いかがですか,病理の先生方からのコメントをいただきましたが,いかがですか。 糸球体病変は壊死性半月体形成性腎炎で,ANCA-relatedだというところと,間質病変についての高度のeosinophilの浸潤については,drugの関与もあるかもしれないですし,山口先生がおっしゃるようなこういうかたちの報告でまとめられる疾患かもしれないということですね。若新 大変勉強になりました。座長 どうぞ。守矢 湘南鎌倉の腎臓内科の守矢です。演者の先生にお聞きしたいんですが,ステロイドが入ってしまうとちょっと分かりくくなると思うんですけれども,CRPが当初は7ということで書いてあるんですが,カルバマゼピン投与をやめた後,もしくはその前後のCRPの動きはどういう動きを示していたかというのは,ご記憶ありますか。若新 CRPに関しましては,こちらにお示ししてあるとおりで,右肩下がりではあるのですが。守矢 そこが大きく書いてありますけど,細かく,やはりカルバマゼピンをやめてから,すとんと下がったとか,そういう印象は?

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若新 CRPに関しては,そういったことはなかった。ただeosinophiliaに関しては,再上昇という所見もありましたので,薬剤中止後速やかに下がった印象はあります。守矢 ありがとうございました。座長 先生,どうぞ。鎌田 共同演者の鎌田です。この症例は血管炎は見られませんので,Churg-Strauss症候群と言えるかは確かにご指摘のとおりと思います。しかしながら,臨床的診断基準にあてはめると,Churg-Strauss症候群にあてはまりますので困ってしまうわけです。本例では血管炎がうまく確認できていませんが,この様なChurg-Strauss症候群はあるものなのでしょうか。座長 先生,Churgの診断基準は,本当に臨床経過でdefiniteに入ってしまうケースがあるんですよね。だから,重松先生,Churgに特徴的な組織所見がないと,病理の先生からは「Churg」と絶対に言わないと,先生はコメントされましたけれども,診断基準や臨床経過で,そのまま診断されてしまう場合があるように。重松 この辺が非常にむつかしいです。とにかくChurgもStraussも病理の人ですよね。その人たちが,喘息の患者さんを調べると糸球体病変があって,それが血管炎的なものがあるよということで,これは登場してきたんですけれども,臨床的な症状としては確かにそういうのがなくても出るわけです。だから,先ほどChurg-Strauss様症候群ですか。そういうかたちで,形態像,ネガティブの臨床的症候群という,そういうふうに割り切ることもできないことはないと思います。座長 そのほか,いかがですか。ご意見,ご質問よろしいですか。非常に先生,考えさせられる貴重な症例だったと思います。どうも,ご発表ありがとうございました。

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