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(2) 37912 JREA 2013年 Vol. 56 No.8 暑い! 6月2日深夜、正確には3日0時過ぎ のデリー空港に、これも正式にはイ ンディラ・ガンディー国際空港です が、降り立ちました。9時間以上の 禁煙の後、直ぐに外に飛び出して一 服したのですが、熱気がすごく、 38度くらいあるとのことです。 暑さの話のついでですが、インド の知り合いが口を揃えて、「今週は 40度ちょっとで、涼しくなりました。 先週は45度を超えていましたよ」と。 冷える? ホテルに入ると冷房がギンギンに 効いていて、汗が引くまでは好いの ですが、暫くすると冷えてきました。 部屋のクーラーの温度設定も22度 で、とにかく寒いというか、冷えま す。「そのまま寝ると風邪引きます」 とのインド駐在員のアドバイスに従 って、冷房を止めて就寝しました。 ふたつの世界遺産 翌日はインド関係者への挨拶回り でしたが、少し時間が空いたため、 デリー市街にある世界遺産のひとつ、 フマユーン廟(Humayun's Tomb) に立ち寄りました。気温は40度を超 えていましたが、その素晴らしさの お陰で何とか廟内を回りました。 この3月下旬にインド現地法人 (Kyosan India Private Limited)の 開設行事のためインド出張した折、 アーグラにあるあの有名な世界遺産 タージ・マハル(Taj Mahal)も見 ましたが、高価な白い大理石の造り です。フマユーン廟は当地で普通の 赤い石造りで、洗練さには大きな差 があるものの、よく似ています。 訊けば、フマユーン廟を「原型」 としてポリッシュアップされたのが タージ・マハルとのことで、確かに 完璧な配置、複雑な文様や大理石の 彫刻の精緻さには驚嘆します。 世界遺産への評価 案内してくれた「インド人の先生」 のふたつの世界遺産に対する評価 は、「芸術的」にはタージ・マハル だが、「社会的」にはフマユーン廟 というもので、フマユーン廟の方が 高いようです。 タージ・マハルは、皇帝が「愛妃」 のために建てた墓廟で、その費用は 国を傾けるほど莫大でした。対して フマユーン廟は、北インドを奪回し 国家建設した後、事故死した皇帝の 偉業を称えて王妃が建造し、メッカ 巡礼の休息所ともしました。 鉄道をはじめ社会インフラの整備 に力を入れるインド人の想いが感じ られました。 フマユーン廟の後にタージ・マハ ルを見るというのが普通ですが、そ の逆でも好いでしょう。何れにして もインドの歴史や文化に触れるなら 必見です。 近くて熱い国インド雑感 -現地法人設立に際して- 株式会社京三製作所代表取締役社長 戸子台 努 TOKODAI Tsutomu 巻頭言

近くて熱い国インド雑感4輪・3輪・2輪、人間、牛、犬も混 じって雑然としています。しかしな がら、活気というか、生命力みたい なものに満ちています。「アーグラはタージ・マハルのお

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Page 1: 近くて熱い国インド雑感4輪・3輪・2輪、人間、牛、犬も混 じって雑然としています。しかしな がら、活気というか、生命力みたい なものに満ちています。「アーグラはタージ・マハルのお

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37912 JREA 2013年 Vol. 56 No.8

暑い!

6月2日深夜、正確には3日0時過ぎ

のデリー空港に、これも正式にはイ

ンディラ・ガンディー国際空港です

が、降り立ちました。9時間以上の

禁煙の後、直ぐに外に飛び出して一

服したのですが、熱気がすごく、

38度くらいあるとのことです。

暑さの話のついでですが、インド

の知り合いが口を揃えて、「今週は

40度ちょっとで、涼しくなりました。

先週は45度を超えていましたよ」と。

冷える?

ホテルに入ると冷房がギンギンに

効いていて、汗が引くまでは好いの

ですが、暫くすると冷えてきました。

部屋のクーラーの温度設定も22度

で、とにかく寒いというか、冷えま

す。「そのまま寝ると風邪引きます」

とのインド駐在員のアドバイスに従

って、冷房を止めて就寝しました。

ふたつの世界遺産

翌日はインド関係者への挨拶回り

でしたが、少し時間が空いたため、

デリー市街にある世界遺産のひとつ、

フマユーン廟(Humayun's Tomb)

に立ち寄りました。気温は40度を超

えていましたが、その素晴らしさの

お陰で何とか廟内を回りました。

この3月下旬にインド現地法人

(Kyosan India Private Limited)の

開設行事のためインド出張した折、

アーグラにあるあの有名な世界遺産

タージ・マハル(Taj Mahal)も見

ましたが、高価な白い大理石の造り

です。フマユーン廟は当地で普通の

赤い石造りで、洗練さには大きな差

があるものの、よく似ています。

訊けば、フマユーン廟を「原型」

としてポリッシュアップされたのが

タージ・マハルとのことで、確かに

完璧な配置、複雑な文様や大理石の

彫刻の精緻さには驚嘆します。

世界遺産への評価

案内してくれた「インド人の先生」

のふたつの世界遺産に対する評価

は、「芸術的」にはタージ・マハル

だが、「社会的」にはフマユーン廟

というもので、フマユーン廟の方が

高いようです。

タージ・マハルは、皇帝が「愛妃」

のために建てた墓廟で、その費用は

国を傾けるほど莫大でした。対して

フマユーン廟は、北インドを奪回し

国家建設した後、事故死した皇帝の

偉業を称えて王妃が建造し、メッカ

巡礼の休息所ともしました。

鉄道をはじめ社会インフラの整備

に力を入れるインド人の想いが感じ

られました。

フマユーン廟の後にタージ・マハ

ルを見るというのが普通ですが、そ

の逆でも好いでしょう。何れにして

もインドの歴史や文化に触れるなら

必見です。

近くて熱い国インド雑感-現地法人設立に際して-

株式会社京三製作所代表取締役社長

戸子台 努TOKODAI Tsutomu

巻頭言

Page 2: 近くて熱い国インド雑感4輪・3輪・2輪、人間、牛、犬も混 じって雑然としています。しかしな がら、活気というか、生命力みたい なものに満ちています。「アーグラはタージ・マハルのお

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JREA 2013年 Vol. 56 No.8

インド国鉄関係者と産業関係の人と

意見交換をすることができました。

両者に共通なのは、高度な技術力と

多額の資金が必要であり、低コスト

が最優先の条件であることです。

国鉄関係者は、システムの一貫性

(単一の高速鉄道の導入・拡張)と

採算性を重視して慎重なスタンス

で、中国高速の上海の事故に言及し

ました。

一方、産業関係者は、高速鉄道の

影響力・経済効果を重視し、急ぐべ

きとの姿勢です。路線が増加すれば、

新幹線・TGV・中国高速の混在も

ありとの見解でした。

こちらからは、低コスト優先は理

解できるが、『ライフサイクル・コ

スト』の観点で判断すべきと見解を

述べました。

ディープなインドへ

3月のアーグラ訪問の話の続きで

すが、路上を牛が堂々と歩き、

4輪・3輪・2輪、人間、牛、犬も混

じって雑然としています。しかしな

がら、活気というか、生命力みたい

なものに満ちています。

「アーグラはタージ・マハルのお

陰で整備されている方で、徐々にこ

の他のディープなインドを紹介して

あげますよ」とは「先生」の弁です。

今後も成長を続け発展していく国

において当社の技術を役立てるに

は、そのインドの現状を理解しニー

ズを的確に把握することが不可欠と

感じた次第です。コストが最重要と

言われていますが、専業メーカとし

て『技術・コスト・品質』一体でイ

ンドの鉄道の発展に貢献してまいり

たいと存じます。

【注】

(1)Prof. Ashok K. Chawla:

National Institute of Science

Communication and Information

Resources“Chief Scientist”

初めてのインド

初めてのインド訪問は今年3月で

した。以前から鉄道信号製品を納め

ており、インドとの付き合いはありま

したが、現知法人設立の話が浮上す

るまでは、まさか自分が行くことに

なるとは正直思いもしませんでした。

飲料水の芳しくない話を聞いてい

ましたので、行かずに済めばそれに

越したことはないというのが本音で

した。

到着は今回6月と同じ深夜(早朝)

でしたが、気候は日本の5月くらい

で空港建物の外も暑くはなく、暗く

て景色は見えず、ホテルに入る時の

セキュリティ・チェックが物々しい

ことに少し驚いた程度でした。

インド人の先生

到着翌日の24日は日曜日で、「イ

ンドに行くなら」のタージ・マハル

見物です。ホテルのあるニューデリ

ーは美しい街並みで色々な乗り物が

ありますが、三輪のタクシー(auto-

rickshaw)がやはり目に付きます。

デリーを抜けインド初の高速道路

に入り、アーグラへ向かうバスの中、

チャウラ氏注1)がインドの紹介と日

本人が留意すべきこと等を達者な日

本語でレクチャーしてくれました。

氏が時折目を遣るPCのレジュメを

覗き見ると日本語です。尋ねると日

本には4~5年居たことがあるとのこ

とで、今は「先生」と呼んでいます。

今回再会して、先般の日印首脳会

談の通訳も務めたことを知りまし

た。「先生」と出会ってインドに、

「ハマる」ことになりました。

近い国

翌25日は訪印主目的の設立行事

で、デリーメトロ・ネールプレイス

駅前のオフィスへ(残念ながら車で)

向かいました。

何をやるのかと訝しんでいたら、

他と雰囲気の異なるインド人が3名

到着し、彼らはヒンデゥー教の僧侶

でした。事務所開きなどにはプージ

ャと言う儀式(神にお供え物をし礼

拝する)を行うのがインドの慣習だ

そうです。

新工場の建設を進めていますが、

地鎮祭・上棟式のことを「先生」に

話したところ、インドも基本的に共

通の考え方とのことでした。近さを

実感した瞬間でありました。

プージャでは、ビンディという朱

い印を眉間に付け、プジャ・モーリ

ーという朱い糸の紐を手首に巻かれ

ましたが、紐は色落ちするので要注

意です。

熱い国

その日の夜は設立記念パーティで、

インドの鉄道関係者や事業関係者、

日本大使館、商社、重電、銀行など

の皆さんが出席してくださいました。

挨拶や歓談でのインドの皆さんの

話の中、今後の鉄道の整備・拡張に

よる経済成長の展望、そしてインド

の発展に対する希望と夢、熱い想い

に触れることができました。

印象深かったのは日本との関係の

ことで、多くのインド人関係者が、

2006年の安倍内閣の時にインド鉄道

事業への協力の話が出ており、辞職

した時はとても落胆し、昨年末に安

倍総理が就任した時には大いに喜ん

だという話をされました。

日本の政、官、民に対する期待は

予想以上に大きく、当社の現地進出

に対しても熱いエールを頂きまし

た。今回の訪問でも熱い期待がより

具体的に示され、意を強くしました。

高速鉄道の話

インドの鉄道の大きな動きとして、

◎国鉄在来線の近代化・安全性向上

◎貨物専用線の整備(東西回廊)

◎デリーメトロなど都市交通網拡張

が現在強力に推進されています。

もう一つ高速鉄道はどうなのか、