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35 Vol. 67 No.2 123 1.はじめに シーメンスは幅広いラインアップを持つガスタービン メーカであり,図1の通り,出力は5 MW から400MW クラスまで,産業用,航空機転用含めて取り揃えている。 そのうち,事業用ガスタービンは世界中で約1500台以 上が運転中であり,相当数のガスタービン出荷実績を持 つメーカとなっている (1) 。本稿では,その中の大型最 新鋭機であるSGT-8000Hシリーズ(SGTの後に5, 6が付記されている場合には,それぞれ50Hz,60Hz を意味する)の開発経緯とこれまでの運転実績,加えて シーメンスガスタービンを用いたコンバインドサイクル 発電所の特徴をご紹介するものである。 2.SGT -8000H シリーズの特徴 SGT -8000H シリーズは,これまでの F クラス /E ク ラス機の技術の延長線上に1998年に買収したウェス ティングハウスとシーメンス固有の技術を融合させて, シーメンスは出力として5 MWから400MWクラス,用途として事業用から航空機転用までの フルラインを揃えたガスタービンメーカである。この中で最新鋭機である SGT -8000H シリーズ は2011年,世界最高記録となる送電端60%超のコンバインドサイクル発電所として運開以来,確 実に実績を積み重ねながら,更なる技術改良を進めている。本稿ではその開発状況・運転実績に関 してご報告するものである。 Siemens is one of biggest gas turbine suppliers in the world, and can supply 5-400MW range for heavy duty, industry, aero-derivative usage. In our line-ups, our latest and biggest machine,SGT-8000H series have achieved over 60% net efficiency in combined cycle power plant as world record in 2011 and is being improved further with actual field data and experience. On this article, its current development status and operation  record is presented. 大型高効率ガスタービンの開発及び運転実績について (Development & Operational Experience of Large high efficiency Gas Turbine) 大築 康彦 (Y .Otsuki) シーメンス株式会社 (Siemens K.K) 原稿受付 平成27年11月16日 図1 シーメンスガスタービンラインアップ 54 to 66 MW Ind. Trent 60 ¹ 50 Hz SGT5-8000H SGT5-4000F SGT5-2000E 307 MW 187 MW 400 MW SGT6-8000H 116 MW SGT6-5000F SGT6-2000E 296 MW 242 MW 60 Hz 50 or 60 Hz 33 / 34 MW 24 / 25 MW 8 / 8 MW 7 / 8 MW ペ黻ぁTrent 60 5 / 6 MW 37 / 38 MW 19 / 19 MW 13 to 14 MW / 13 to 15 MW 48 to 53 MW SGT-800 SGT-750 SGT-700 SGT-600 SGT-500 SGT-400 SGT-300 SGT-200 SGT-100 4 to 6 MW 27 to 34 MW ペ黻ぁRB211 ペ黻ぁ501 みく㎏¹ぁ夂 ペ黻ぁ æ鴈/ ㎏鮨檟湊 宙黻ぁ60 Hz 宙黻ぁ50 Hz

大型高効率ガスタービンの開発及び運転実績について · Siemens is one of biggest gas turbine suppliers in the world, and can supply 5-400MW range for heavy duty,

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Page 1: 大型高効率ガスタービンの開発及び運転実績について · Siemens is one of biggest gas turbine suppliers in the world, and can supply 5-400MW range for heavy duty,

大型高効率ガスタービンの開発及び運転実績について(大築 康彦)

35

Vol. 67 No.2 123

1.はじめに

 シーメンスは幅広いラインアップを持つガスタービン

メーカであり,図1の通り,出力は5MWから400MW

クラスまで,産業用,航空機転用含めて取り揃えている。

そのうち,事業用ガスタービンは世界中で約1500台以

上が運転中であり,相当数のガスタービン出荷実績を持

つメーカとなっている(1)。本稿では,その中の大型最

新鋭機であるSGT-8000Hシリーズ(SGTの後に5,

6が付記されている場合には,それぞれ50Hz,60Hz

を意味する)の開発経緯とこれまでの運転実績,加えて

シーメンスガスタービンを用いたコンバインドサイクル

発電所の特徴をご紹介するものである。

2.SGT-8000Hシリーズの特徴

 SGT-8000Hシリーズは,これまでのFクラス/Eク

ラス機の技術の延長線上に1998年に買収したウェス

ティングハウスとシーメンス固有の技術を融合させて,

  ●  

シーメンスは出力として5MWから400MWクラス,用途として事業用から航空機転用までの

フルラインを揃えたガスタービンメーカである。この中で最新鋭機であるSGT-8000Hシリーズ

は2011年,世界最高記録となる送電端60%超のコンバインドサイクル発電所として運開以来,確

実に実績を積み重ねながら,更なる技術改良を進めている。本稿ではその開発状況・運転実績に関

してご報告するものである。Siemens is one of biggest gas turbine suppliers in the world, and can supply 5-400MW range for

heavy duty, industry, aero-derivative usage.  In our line-ups, our latest and biggest machine,SGT-8000H series have achieved over 60% net

effi ciency in combined cycle power plant as world record in 2011 and is being improved further with actual fi eld data and experience. On this article, its current development status and operation record is presented.

  ●  

大型高効率ガスタービンの開発及び運転実績について(Development & Operational Experience of Large high effi ciency Gas Turbine)

大築 康彦*

(Y.Otsuki)  

*シーメンス株式会社 (Siemens K.K) 原稿受付 平成27年11月16日

図1 シーメンスガスタービンラインアップ

54 to 66 MWInd. Trent 60

50 H

z SGT5-8000H

SGT5-4000FSGT5-2000E

307 MW187 MW

400 MW

SGT6-8000H

116 MWSGT6-5000FSGT6-2000E

296 MW242 MW

60 H

z50

or 6

0 H

z

33 / 34 MW

24 / 25 MW

8 / 8 MW7 / 8 MW

Trent 60

5 / 6 MW

37 / 38 MW

19 / 19 MW13 to 14 MW / 13 to 15 MW

48 to 53 MWSGT-800

SGT-750SGT-700

SGT-600SGT-500SGT-400

SGT-300

SGT-200SGT-100

4 to 6 MW

27 to 34 MWRB211

501

/ 60 Hz 50 Hz

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信頼性を維持しながら高効率,高出力を目指したシーメ

ンス最大・最高効率のガスタービンである(2)。加えて,

昨今及び将来の再生エネルギーの進展を考慮し,早期の

起動停止特性,負荷応答性も重視したガスタービンに仕

上がっており,コンバインドサイクルにて蒸気冷却を採

用せずに,送電端効率60%以上,出力600MW以上

(50Hz),440MW以上(60Hz)を実現している(3)。

起動時間もホット起動でコンバインドサイクルにて,最

短で着火から30分で定格出力へ到達することが可能で

ある。また,メンテナンス性もこれまで通り維持してお

り,ロータ分解無しでの全ての動翼交換,現地でのロー

タ分解・精密点検が可能な構造となっており,点検期間

の短縮に大きく貢献している。

2.1 設計的特徴 

 主な特徴として,以下の項目が挙げられる(図3参照)

2.1.1 ロータ構造

 図2のようなハースセレーションをディスク間の接触

面に施すことにより,トルク伝達するディスク積層構造

を採用している。各ディスク間の芯出しが容易なだけで

はなく,起動停止時,負荷変化時にかかる温度変化に伴

う半径方向への熱伸びによる熱応力をスムースに逃がす

ことが可能であり,負荷応答性・起動特性に対する柔軟

性に大きく寄与している。

 ディスクを締結するボルトはセンタータイボルト1本

であり,ロータ分解・組立はこのボルト1本の締結で作

業が完了する。加えて,ディスク間に嵌め合い構造も無

いことから分解組立時にディスクの冷却もしくは加温を

することが無いので,ロータ分解・組立工数が非常に少

ない。

2.1.2 圧縮機

 圧縮機13段で圧力比約19を作り出しており,IGVに

加えて,3段のVGV可変静翼を導入することで部分負

荷効率が極力低下しない設計となっている。動静翼の交

換も容易な構造となっており,特に動翼はケーシング上

半を取り外した状態でロータを吊上げることなく交換可

能である。

2.1.3 燃焼器

 キャニュラー式のDLN燃焼器を採用しており,50Hz

機で16缶,60Hz機で12缶である。天然ガス焚きで

15% O2換算でNOxは25ppmを実現している。ノズ

ル,燃焼器ライナは50Hz/60Hzとも完全互換である。

また,必要供給燃料圧は約3.5MPaであり,非常に低い

供給圧で制御可能な燃料システムを有している。

2.1.4 タービン

 起動停止・負荷応答柔軟性を考慮し,4段落の完全空

冷式を採用している。1段及び2段には材料は単結晶材

ではなく一方向凝固材で対応できるよう,TBCを施し

冷却性能を強化している。また,タービン側への冷却空

気は圧縮機からの直接抽気した空気であり,排気系含め

て追加の空気冷却器や冷却ファン等が不要であり,補機

類の少ないシンプルで信頼性の高い冷却システムに仕上

がっている。

 また,タービン効率向上を目的としてのタービン翼と

ケーシングの間隙制御にHCO(油圧式翼隙間調整装置)

を導入している。これは,ガスタービンが負荷上昇し熱

的な安定到達後にロータの軸位置をスラスト軸受部の制

御をすることで圧縮機方向に動かすことにより,間隙制

御を行っている。これにより,タービン効率が向上し

124

図2 ハースセレーション構造

図3 SGT-8000Hガスタービンの特徴

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Vol. 67 No.2

SGT5-8000Hにおいて約5MWの出力向上が可能と

なる。また,既にFクラスのガスタービンから採用して

おり,既に数百台の実績を持つ信頼性の高いものとなっ

ている。

 加えて,メンテナンス性にも配慮した設計となってお

り,ロータを吊り出すことなく動静翼が交換可能である

ことに加え,1段動翼・静翼共にケーシングを開けるこ

となく,燃焼器側から分解が可能な構造となっている。

2.2 設計開発コンセプト

 これらの設計的特徴はウェスティングハウスとシーメ

ンス固有のガスタービン技術や経験やその設計の考え方

を総合的に判断した上で,最適な技術を採用している。

参考までに,各技術の由来を示す(S:シーメンス固有

技術,W:ウェスティングハウス技術)。

・ 短期起動性,高負荷応答性を重視し,ウェスティング

ハウスW501Gガスタービンで培った蒸気冷却方式で

はなく,完全空気冷却方式を採用(S/W)

・ ガスタービン外部に一切の補助冷却器を有すること無

く運転可能とし,自立性の高い短期起動性を実現(S)

・ 温度変化への追従性の高いセンタータイボルトによる

ハースセレーションによるディスク積層構造ロータを

採用(S)

・ 部分負荷効率低下を防止するために,前4段落までの

可変静翼の採用(S/W)

・油圧式翼隙間調整装置の採用(S)

・ 構造を簡易化できるように圧縮機側のジャーナル軸受,

スラスト軸受別体化(W)

・ 燃焼試験設備に容易に模擬することが可能なキャニュ

ラー燃焼器(W)

・ 動翼の強度の観点からタービン後段動翼にシュラウド

付構造を採用(W)

・ 試運転結果から,単結晶材は不要と判断し,一方向凝

固材にてタービン動静翼を開発(S/W)

 この様に,これらの技術は全て両社で培った技術の延

長線上にあるものであり,新規技術を導入すること無く,

あくまで,既存技術を磨きあげて高効率/高出力ガス

タービンを設計した(図4参照)。本ガスタービンは完

全空冷式を採用したことで,蒸気冷却方式による性能向

上施策を施していないこととなるが,これは各高温部品

の冷却方式の最適化,冷却空気量の最小化を図ることで,

極力燃焼温度を上げることなく補っている。

図4 SGT-8000Hシリーズガスタービンの設計コンセプト

2.3 メンテナンス周期の考え方

 SGT-8000Hシリーズのメンテナンス周期は起動回

数やトリップ・負荷遮断等の急速負荷変化を運転時間に

換算する等価運転時間による管理ではなく,運転時間と

起動回数を独立で管理し,メンテナンス周期の延伸を

図っている。運転時間についてはデュアル燃焼等の特殊

な燃焼モードでの運転を行わないプラントでは運転時間

と同じに見なすことができる等価基本時間(EBH:

Equivalent Base Hour),起動回数についてはトリッ

プ/負荷遮断等の急な負荷変化を見かけの起動回数とし

て考慮した等価起動回数(ES:Equivalent Start)と言

う2指標にて管理を行っている。これにより,発電事業

者は運転時間見合いでメンテナンス周期を計画できるこ

とになり,運転計画管理が容易となっている。これまで

の点検結果実績を踏まえ,現時点での標準的なメンテナ

ン ス 間 隔 は,16600EBHご と の 燃 焼 器 点 検,

33000EBHでの高温部品点検,66000EBHでの総点検

となっており,2年ごとでの点検間隔で提案させて頂い

ている。また,ロータ精密点検についてはEBHによる

管理値は持たず,ESのみの管理となっている。かつ,ロー

タ精密点検そのものも発電所内で実施することが可能で

あり,ロータ構造の特性から簡易に分解・再組立ができ

ることから,予備ロータの所有することなく対応できる。

3.SGT-8000Hシリーズの開発経緯

 SGT-8000Hシリーズは,信頼性を第一に考え,設

計点外運転での検証も含め,定格負荷までの全ての確認

125

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を行った上で,お客様への正式販売開始をさせて頂いて

いる(4)。  

 図5の通り,2007年から約2年かけて,50Hz向け

初号機はシンプルサイクルでドイツのイルシング発電所

にて,2800点近い特殊計測を取り付けた上で,1500時

間近い試験検証を行った。その後にコンバインド化を行

い,蒸気系サイクル検証を実施後,発電事業会社エーオ

ンに2011年に引き渡した。この際,エーオンとの契約

保証送電端効率60.3%に対して,第三者機関立ち会

いの下での性能試験時の結果は60.75%ということで,

保証値を十分に満たして引き渡すことができた。この効

率は,世界最高記録となっている。

図5 SGT-8000Hシリーズガスタービンの開発経緯

 加えて,60Hz向けのガスタービンは約1600点もの

仮設計器を取り付けた上で,弊社ベルリン工場内にある

ガスタービン全負荷試験設備(図6)にて,試験を行い

出荷した。ここでは,全負荷まで取って試験が出来るだ

けではなく,系統と接続していないことで様々な回転数

での設計点外の状態を確認することが可能である。加え

て,ガス燃料/液体燃料共に試験ができ,吸気設備にて

大気温度も変えることができることから,様々な運用条

件を模擬できる設備となっている。

 このように,引き渡し後の不慮の不具合を最小限に抑

えるために,丁寧に試験検証を行った結果,図7の通り,

SGT-8000Hシリーズの信頼性,稼働率は初号機から

Fクラス機と同等レベルの数値が維持されており,顧客

から非常に高い評価を頂いている。

 2015年12月現在,50Hz/60Hz向け合計して,図7

の通り,77台を受注しており,このうち16台が営業運

転に供している。運転時間としては累積196,000時間を

超えており,大きな不具合も無く,Fクラスガスタービ

ンと同等の高い信頼性/稼働率を維持しながら運転を続

けている。

表1 SGT-8000Hシリーズの運転実績

SGT-8000H 50Hz 60Hz 合計

全受注台数 40 37 77

運開台数 2 14 16

起動回数 700 3,300 4,000

運転時間 16,800 179,500 196,000

信頼性 99%以上

稼働率 95%以上

 また,図7の通り,欧州や米国等の先進国だけではな

く,中東,東南アジア,南米等,様々な地域で使用され

ている,もしくは使用されていくことが見て頂けると思

う。また,日本でも2019年に2台のSGT5-8000Hが

運開予定となっている。

図7 SGT-8000Hシリーズの実績

126

図6 シーメンスガスタービン全負荷試験設備

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Vol. 67 No.2

 また,このSGT-8000Hシリーズについても2011

年運開後,様々な運転データ・試運転結果を基にマイナー

チェンジ,更なる全体最適化を行い,高負荷応答性を維

持しながら,高効率/高出力化を進めている。2015年

には,ドイツのラウスバルトにて,弊社のもつ世界最高

記録を塗り替える送電端熱効率61%超の発電所が運開

予定であり,現在,鋭意試運転中である。前述のメンテ

ナンス周期の際に説明した通り,これまで積み重ねてき

た運転実績,点検結果を基に,定検間隔の最適化や部品

の改良を行いながら,さらなる改善が継続的に進められ

ている。

4.シーメンスコンバインドサイクル  発電所の特徴

 シーメンスではガスタービン単体の開発だけでは無

く,発電所全体としての技術的な改善を継続的に行って

いる。図8の様に,シーメンスの発電所のプラントレイ

アウトはメンテナンス性を十分に配慮しつつ,コンパク

トにかつ運転柔軟性を配慮したものとなっており,これ

まで300件近いコンバインドサイクルプラントを世界各

国にEPCとして建設を行ってきた。日本国内で使われ

ている標準的なプラントレイアウトと比較して特徴的な

点を説明させて頂く。

 

4.1 軸系レイアウト

 標準的な軸系はガスタービン・蒸気タービンの間に発

電機を置くレイアウトになっている。蒸気タービン・発

電機間はSSSクラッチを噛ませており,起動時初期に

はガスタービンのみ起動させ,蒸気タービンはターニン

グ状態で維持する。これにより,蒸気タービンの状態に

依存することなく,ガスタービンを起動させることがで

き,また,蒸気タービン起動時の冷却蒸気を不要にする

ことが可能である。このSSSクラッチを加えた軸系レ

イアウトは近年,日本国内でも採用されているが,シー

メンスではこれまでに1995年から約250のプラントに

て標準的に採用されており,良好な運転を続けている。

 発電機両端にガスタービン・蒸気タービンがそれぞれ

設置されていることで,発電機ロータの引き抜きの際に

は,発電機そのものを移動させることで対応することが

多いが,ガスタービンもしくは蒸気タービン分解時に発

電機を動かすこと無く,ロータを引く抜くことも可能で

ある。

 

4.2 復水器レイアウト

 プラントの条件によるが,シーメンスでは複流式の低

圧蒸気タービンを採用した上で,一方向側方排気に復水

器を設置することが近年の標準になっている。これによ

り,主機の軸高さは約GL+6.5mまで下げることが

可能であり,国内の標準的なタービン建屋と比較して大

幅に高さを低減することが可能である。

4.3 HRSG

 高効率化を目的として,SGT-8000Hコンバインドサ

イクルに標準的な蒸気条件として585℃~600℃を採用

127

図8 シーメンスコンバインドサイクル標準タービン建屋レイアウト

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している。シーメンスでは起動性能を重視し,

BENSONTM式の貫流型を採用している。貫流式を採

用した場合には,ドラムを持たないことによる熱容量が

小さくなることで,起動時間短縮を図ることが可能であ

る。また,HRSG後流にダンパを設置し,次回起動時

まで極力温度を維持する施策を実施している。

 

4.4 クレーンコンセプト

 クレーンレールをパワートレイン軸方向に設置し,こ

のクレーンにて建設時の据付・メンテナンスを行うこと

が可能となっている。建設時に仮設クレーン等が不要で

あり,容易な据付・分解作業を実現している。

4.5 吸気室レイアウト

 吸気室は上方に設置している。プラントの条件により

向きや高さ等を変更することが可能である。下方吸気室

の様に地面近傍の粉塵を吸いこむことも無く,フィルタ

寿命延伸にも効果がある。また吸気室内にはダンパを有

しており,長期停止時にダンパを閉めることで,ガスター

ビン内へ湿分や腐食成分の流入を防いでいる。

4.6 メンテナンス性

 ここまでコンパクトな建屋構成に関して説明したが,

メンテナンス性も配慮したものになっている。ガスター

ビンロータ分解もタービン建屋内で可能なようなエリア

を確保している。また,パワートレイン側に一定幅の分

解部品エリアを確保している。このエリアにはトレーラ

が通り抜けることが可能となっておりスムースに部品輸

送を行うことができる。

5.まとめ

 日本における電力市場を取り巻く環境は,原発の再稼

働,再生エネルギーの普及,電力自由化を始め急速に,

かつ,時々刻々と変化している。この様な環境下で,発

電所に求められるものは,この変化に耐えうる柔軟性と

ライフサイクルコスト(LCC)のミニマム化であると

シーメンスは考えている。特に変化が加速しているこの

日本市場では,柔軟性を維持していることが重要な要素

になると推定しており,これを重視しながら高効率ガス

タービン開発を進めている。シーメンスとしては,日本

市場の変化や発電事業者様の考えを吸収しながら,これ

までに培った世界での様々なEPCの経験を,ガスター

ビン単体だけではなく,発電所全体としての柔軟性・高

効率化・低LCCに向けて,うまく提案させて頂きながら,

日本における電力市場の成長に貢献できる様,努力を続

ける所存である。

参 考 文 献

(1)シーメンスホームページhttp://www.energy.

siemens.com/hq/en/fossil-power-generation/

gas-turbines/

(2)ヴォルト・エドウィン,大築康彦,“シーメンス大

型ガスタービンの継続的開発について”,日本ガスター

ビン学会誌,Vol.43,(2015) pp.314-318

(3)シーメンスホームページ

 http://www.energy.siemens.com/hq/en/fossil-

power-generation/gas-turbines/sgt5-8000h.

htm

(4)A. Staedler and Dr. K. Sfar “The SGT-8000H

Series and its advantages for the European

Power Market” Power-Gen Europe 2014

128

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