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1. はじめに 平成19年4月から3年間、東北大学大学院工学研究科に 就学し、標記の研究について三橋博三教授のご指導のも と、論文を取りまとめて提出し、本年3月に同大学より 博士(工学)の学位を授与されました。 本論文は、材料部材料試験室において、平成13年以来 今日まで実施してきた自主研究活動の成果をもとに取り まとめたものです。本成果は、当試験室が受託している 実構造物の耐久性調査において、新設構造物の竣工直後 における検査や既存構造物の耐久性の検査として適用す ることを考えています。 本稿は、同論文を要約し、関係各位に報告するととも に、技術情報として提供するものです。 2. 論文の概要 本論文「鉄筋コンクリート構造物におけるかぶりコン クリートの鉄筋腐食抵抗性能評価法に関する研究」は、 鉄筋コンクリート(以下、RCと呼称)構造物のかぶり コンクリートがもつ物理的な鉄筋腐食抵抗性能を評価す るための試験方法とその評価基準を確立するために行な った研究をまとめたものであり、次に示した7章から構 成されている。 第1章では、循環型社会を実現するための手段として、 RC構造物の長寿命化を図るための方策となる耐久性の 予測を行う研究開発の重要性が増していることを背景と して、RC構造物のかぶりコンクリートの耐久性に関す る性能評価の必要性を示し、本研究の目的を明らかにし ている。 第2章では、コンクリート中の鉄筋腐食を抑制する役 割を担うかぶりコンクリートにおける物質の透過と移動 に着目し、コンクリートの透気性と電気抵抗(比抵抗) の両特性を定量化する方法についての既往の研究成果を 整理し、その種類や特徴を示した上で、本研究の課題を 明確にしている。 第3章では、かぶりコンクリートの鉄筋腐食抵抗性能 を評価する方法として、コンクリート表面に設けたドリ ル孔から得られる透気性(Permeability)と比抵抗 (Resistivity)の各特性値を組み合わせて用いる複合的 非破壊試験『ドリルPR法』を提案している。 第4章では、ドリルPR法において透気性を測定する試 験方法である「簡易透気試験」の適用性を検証し、本試 験方法がコンクリートの透気性を評価する方法として適 用が可能であることを明らかにしている。 第5章では、ドリルPR法において比抵抗を測定する試 験方法である「改良比抵抗試験」の適用性を検証し、比 抵抗はコンクリートの含水状態の影響を受けやすいこと を確かめると共に、その一方で測定する簡易透気試験に おけるコンクリートの含水状態の影響度合いを把握する ツールとしても用いることができることを明らかにして いる。 第6章では、第4章と第5章の実験結果に基づき、簡易 透気試験および改良比抵抗試験のそれぞれについて各特 性値の判定基準となる閾値を求めると共に、簡易透気速 度を横軸、比抵抗を縦軸とした関係図を、ドリルPR法 試験・研究 36 *1 SHIMOZAWA Kazuyuki:(財)日本建築総合試験所 試験研究センター 材料部 材料試験室 主査 博士(工学) Studies on Evaluating the Performance Method of Cover Concrete to Resist the Rebar Corrosion in Reinforced Concrete Structures/Summary Paper of the Doctoral Dissertation. 下澤 和幸 * 1 鉄筋コンクリート構造物におけるかぶり コンクリートの鉄筋腐食抵抗性能評価法 に関する研究(学位論文要約)

鉄筋コンクリート構造物におけるかぶり コンク …して、RC構造物のかぶりコンクリートの耐久性に関す る性能評価の必要性を示し、本研究の目的を明らかにし

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1. はじめに平成19年4月から3年間、東北大学大学院工学研究科に

就学し、標記の研究について三橋博三教授のご指導のもと、論文を取りまとめて提出し、本年3月に同大学より博士(工学)の学位を授与されました。

本論文は、材料部材料試験室において、平成13年以来今日まで実施してきた自主研究活動の成果をもとに取りまとめたものです。本成果は、当試験室が受託している実構造物の耐久性調査において、新設構造物の竣工直後における検査や既存構造物の耐久性の検査として適用することを考えています。

本稿は、同論文を要約し、関係各位に報告するとともに、技術情報として提供するものです。

2. 論文の概要本論文「鉄筋コンクリート構造物におけるかぶりコン

クリートの鉄筋腐食抵抗性能評価法に関する研究」は、鉄筋コンクリート(以下、RCと呼称)構造物のかぶりコンクリートがもつ物理的な鉄筋腐食抵抗性能を評価するための試験方法とその評価基準を確立するために行なった研究をまとめたものであり、次に示した7章から構成されている。

第1章では、循環型社会を実現するための手段として、RC構造物の長寿命化を図るための方策となる耐久性の予測を行う研究開発の重要性が増していることを背景として、RC構造物のかぶりコンクリートの耐久性に関する性能評価の必要性を示し、本研究の目的を明らかにし

ている。第2章では、コンクリート中の鉄筋腐食を抑制する役

割を担うかぶりコンクリートにおける物質の透過と移動に着目し、コンクリートの透気性と電気抵抗(比抵抗)の両特性を定量化する方法についての既往の研究成果を整理し、その種類や特徴を示した上で、本研究の課題を明確にしている。

第3章では、かぶりコンクリートの鉄筋腐食抵抗性能を評価する方法として、コンクリート表面に設けたドリル孔から得られる透気性(Permeability)と比抵抗

(Resistivity)の各特性値を組み合わせて用いる複合的非破壊試験『ドリルPR法』を提案している。

第4章では、ドリルPR法において透気性を測定する試験方法である「簡易透気試験」の適用性を検証し、本試験方法がコンクリートの透気性を評価する方法として適用が可能であることを明らかにしている。

第5章では、ドリルPR法において比抵抗を測定する試験方法である「改良比抵抗試験」の適用性を検証し、比抵抗はコンクリートの含水状態の影響を受けやすいことを確かめると共に、その一方で測定する簡易透気試験におけるコンクリートの含水状態の影響度合いを把握するツールとしても用いることができることを明らかにしている。

第6章では、第4章と第5章の実験結果に基づき、簡易透気試験および改良比抵抗試験のそれぞれについて各特性値の判定基準となる閾値を求めると共に、簡易透気速度を横軸、比抵抗を縦軸とした関係図を、ドリルPR法

試験・研究

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*1 SHIMOZAWA Kazuyuki:(財)日本建築総合試験所 試験研究センター 材料部 材料試験室 主査 博士(工学)

Studies on Evaluating the Performance Method of Cover Concrete to Resist the Rebar Corrosion in Reinforced Concrete Structures/Summary Paper of the Doctoral Dissertation.

下澤 和幸*1

鉄筋コンクリート構造物におけるかぶりコンクリートの鉄筋腐食抵抗性能評価法に関する研究(学位論文要約)

『比抵抗試験』から得られた各特性値を組み合わせて複合的に評価する非破壊試験方法によって、かぶりコンクリートがもつ物理的な鉄筋腐食抵抗性能を評価する方法について検討を行った。

3. 3 コンクリートの透気性と比抵抗RC構造物においては、コンクリート中の鉄筋腐食が

構造体の耐久性を最も脅かす要因となる。この鉄筋腐食に関する研究は、内部の鉄筋における腐食状態や反応速度を定量的に扱い評価する方法と、塩化物の浸入、中性化、水分移動、コンクリートの品質および環境条件などの鉄筋腐食に影響を及ぼす要因を扱う方法に大別できる。筆者は、このうち後者の方法によって鉄筋腐食の予測を行うこととした。そこで、コンクリート中の鉄筋腐食を抑制する役割を担うかぶりコンクリートにおける物質の透過と移動に着目し、コンクリートの透気性と電気抵抗(比抵抗)の両特性を定量化する方法について研究を行った。

コンクリートの透気性試験は、定圧方法と変圧方法に分類でき、このうち変圧方法には主に原位置におけるコンクリートを対象とした簡易法が加わる(図-1参照)。簡易法は、さらに削孔法と表面法に分類される。削孔法ではドリル削孔を、また表面法においては圧力室(チャンバー)を用いて、それぞれの空間内を加圧または減圧し、所定の圧力作用の変化する過程を計測することで透気性を定量化するものである。しかしながら、これらの方法はいずれも、コンクリートの含水率の影響を強く受けることが問題視されている。

次に、コンクリートの比抵抗試験は、コンクリートに接触させた電極間の電位差を計測する方法である。主に二電極法と四電極法が用いられており、このうち原位置での測定には、四電極法が広く用いられている(図-2参照)。これらの方法から得られた比抵抗は、コンクリートの物性物理的な性能やその変質との関係についての検討が進められている。特にコンクリート中の鉄筋腐食は、コンクリートの電気抵抗と密接な関係がある。また、コンクリートの比抵抗についても、コンクリートの含水率の影響を強く受けるものである。

これらの既往の研究成果を踏まえて、本論文の課題を浮き彫りにするとすれば、かぶりコンクリートのもつ物質の透過性と移動に関する特性値となる「透気性」と「比抵抗」を、原位置において簡易・簡便に求める方法(手法)を提案することであり、そこで解決すべき課題は「コンクリートの含水率」との関係である。

における評価基準「かぶりコンクリートの鉄筋腐食抵抗性能の等級区分」(案)として提案している。

第7章では、本研究の成果についての結論を示し、併せて、今後の課題について整理している。

3. 本論文の主要部分の抜粋3. 1 本研究の背景

我が国では現在、人口減少・少子高齢化が継続し、生産年齢人口の減少が進む中、建築物の建設や管理運用を効率的に行うためのアセットマネジメントやライフサイクル評価が求められている。また、地球環境への配慮の観点から『持続可能な開発』の概念が、リオデジャネイロ会議(1992年)において確認されて以来、これまでの大量な生産・消費・廃棄の社会システムを改め、環境共生、自然エネルギー利用、リデュース・リユース・リサイクル、リノベーションなどのさまざまな手法を通して

『循環型社会への移行』が進められている。このような社会事情の中で日本政府は、「長期優良住

宅の普及の促進に関する法律」(2008年)を公布し、構造躯体の供用期間を少なくとも100年程度と設定した建築物づくりの推進を図っている。そのような社会的環境の中にあって、RC部材に対して時間の経過と共に変化する物理的・化学的な作用を適切に評価し、RC部材の耐久性を予測するための研究開発は、RC構造物の長寿命化を図ることに繋がり、循環型社会を実現するための重要な手段の一つになると考えられる。

3. 2 本研究の目的上述した背景のもと、RC構造物が耐久性を確保する

ためには、コンクリート中の鉄筋腐食を抑制する役割を担うかぶりコンクリートが、外的因子の侵入・拡散を最小限に止める性能を有することが重要となる。この性能は、かぶりコンクリートの品質に依存し、コンクリートは緻密であることが望まれる。これまで、RC構造物の耐久性向上を目的として、材料面においては、新規材料の開発や特性の改善などをはじめとして、鋭意に研究が進められてきた。コンクリートの材料性能そのものが耐久的であることは、RC構造物の耐久性を満足するための必要な条件ではあるが、それが十分な条件とは言い難く、コンクリート施工の工程における打込み・締固めおよび養生などが、構造物の耐久性を大きく左右することは周知の事実である。このことから、各工程を経たRC構造物の耐久性を原位置で評価することは、耐久性向上の観点から重要であると言える。

そこで本研究では、コンクリートの『透気性試験』と

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笠井・湯浅らが提案している「ドリル削孔を用いた簡易透気試験方法」1)(以下、簡易透気試験と呼称)を用いることとし、ドリル削孔内の透気領域に関する実験、t検定による適用性の確認、および簡易透気速度と中性化深さとの関係、さらに、簡易透気速度と総細孔量との関係について検討を行い、原位置試験としての簡易透気試験の性能を確認した。各実験の結果より、次の知見が得られた。

(1)ドリル削孔内の透気領域に関する実験の結果より、本試験方法はドリル孔周辺のコンクリート組織の均質性に左右されることが窺えた。局部的なクラックや粗骨材表面の性状などによって、透気速度は大きな影響を受けることが推察される。

(2)品質および養生方法の異なる計6種類のコンクリートから得られた測定結果をもとに、t検定により本試験方法の性能を確認した結果、本試験方法においては、コンクリートの特性の違いを概ね判別できる試験方法であ

3. 4 ドリルPR法の提案RC構造物におけるかぶりコンクリートが内部鉄筋の

腐食を抑制する性能について評価するためには、コンクリート中の鉄筋腐食に関する外的因子である二酸化炭素や酸素の透過、水や塩化物の浸透または拡散の難易の程度を定量的に評価する必要がある。

そこで本研究では、コンクリート表面に設けたドリル孔 か ら 得 ら れ る 透 気 性(Permeability) と 比 抵 抗

(Resistivity)の各特性値を組み合わせることによって、かぶりコンクリートの鉄筋腐食抵抗性能を評価する複合的非破壊試験『ドリルPR法』を提案する。本手法は、「ドリル削孔を用いた簡易透気試験」(図-3参照)によってかぶりコンクリートの粗密の程度を定量化し、また「ドリル削孔を用いた改良比抵抗試験」(図-4参照)によって、簡易透気試験におけるコンクリートの含水率の影響度合いと、腐食電流の流れ易さの程度を定量的に捉えることで、「コンクリートの含水率」の影響をも考慮に入れてかぶりコンクリートの鉄筋腐食抵抗性能を合理的に評価できるものと考えられる。

3. 5 ドリル削孔を用いた簡易透気試験の検討『ドリルPR法』においてコンクリートの透気性を測定

する試験方法には、J.W.Figgが考案した方法をもとに、

図-1 コンクリートの透気性試験方法の分類

図-2 四電極法(Wenner法)

図-3 ドリル削孔を用いた簡易透気試験

図-4 ドリル削孔を用いた改良比抵抗試験

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3. 6 改良比抵抗試験の検討『ドリルPR法』においてコンクリートの比抵抗を測定

する方法として、F.Wennerが考案した「四電極法(Wenner法)」2)の一部を改良し、ドリル削孔内での比抵抗を測定する「改良比抵抗試験」として筆者が提案した方法を用いることとし、コンクリートの比抵抗と含水状態、および比抵抗と水セメント比との関係について検討することで、原位置試験としての改良比抵抗試験の性能を確認した。各実験の結果より、次の知見が得られた。

(1)本試験方法により得られた比抵抗とコンクリートの含水率との関係を検討した結果、既往の研究3)でも示されているとおり、比抵抗はコンクリートの含水状態に大きく依存することを確認した。コンクリートの材齢が経過するに伴い、乾燥が進むにつれて、細孔内の水分移動が起こり、特にドリル孔の表層部において測定した比抵抗が大きく変化したものと考えられる結果が得られた

ることが判った(表-1参照)。(3)簡易透気速度と中性化深さの関係について検討した結果、本試験方法によって中性化進行の予測が可能であると考えられる(図-5参照)。また、透気性のベンチマーク試験としたRILEM透気試験による透気係数と簡易透気速度には、多少のばらつきはあるものの、各試験の結果の傾向は概ね一致した(図-6参照)。

(4)簡易透気速度とコンクリートの総細孔量との関係より、総細孔量の増加に伴い、簡易透気速度も徐々に増加する傾向を示した(図-7参照)。

以上の結果より、本試験方法はコンクリートの粗密程度の評価を概ね行えるものであり、原位置でのコンクリートの透気性を簡易に評価する方法として、適用が可能であると判断できる。

図-5 簡易透気速度と中性化速度係数の関係

図-6  RILEM透気係数と簡易透気速度の関係

図-7 コンクリートの総細孔量と簡易透気速度の関係

表-1 t検定による検討結果

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水セメント比との関係を検討した結果、単位セメント量を一定とし、単位水量を増加させることで水セメント比が高くなった場合、比抵抗は小さくなる。また、水セメント比を一定とした場合、単位セメント量の減少によって比抵抗は大きくなる(図-10参照)。この結果は、既往の研究成果4)の傾向と一致するものであった。

以上の結果より、本試験方法はコンクリートの比抵抗を測定する方法として適用が可能であり、ドリルPR法による簡易透気試験におけるコンクリートの含水状態の影響の度合いと、腐食発生時の腐食電流の流れ易さの程度を把握することができると考えられる。

3. 7 ドリルPR法の評価基準と実構造部材への適用例

上述した3.5と3.6の各実験結果に基づき、ドリルPR法における評価基準を検討した。試験方法ごとに評価の基準となる閾値を定め、簡易透気速度を横軸、比抵抗を縦軸とした関係図を策定し、かぶりコンクリートにおける鉄筋腐食抵抗性能の等級区分(案)(例えば、図-11参照)を提案する。同等級区分(案)には、その区分として、等級Ⅰ(高性能)、等級Ⅱ(標準)および等級Ⅲ(低性能)の3等級を設けた。例えば、簡易透気速度が0.038kPa/sより小さく、かつ比抵抗が100Ω・mより大きい場合は等級Ⅰ(高性能)と評価する。しかし、簡易透気速度が0.038kPa/sより小さくても、比抵抗が50 ~ 100Ω・mの場合は等級Ⅱ(標準)、50Ω・mよりも小さければ等級Ⅲ(低性能)と評価する。

また、本等級区分(案)を用いた事例研究(2つの実験)により、次の知見が得られた。

(1)柱モデルによる適用実験(実験Ⅰ)により、使用した型枠(普通型枠と透水性型枠)の違いによるコンクリート表層での品質の違い、およびコンクリート中の塩化物イオンの有無によるコンクリートの品質の違いを確認することができた。特に、同一調合のコンクリートにおいて塩化物イオンの有無がある場合に、透気性単独での評価はほぼ同じとなるが、比抵抗との複合的評価を行うことで、コンクリートの品質の違いを明瞭に確認することができた(図-11参照)。

(2)実大壁モデルによる適用実験(実験Ⅱ)の結果、大半は等級Ⅱ(標準)にプロットされた。また、ジャンカ補修跡近傍の結果を●、ひび割れ近傍での結果を●で示した。コンクリートの表面は目視上健全ではあるが透気性が大きくなった箇所や、ジャンカ補修が適切に行われていないと考えられる箇所が等級Ⅲ(低性能)にプロッ

(図-8参照)。また、原位置での測定においては、外気の相対湿度が高い時期が継続する場合、コンクリートの含水率が高くなり、測定結果に影響を及ぼす可能性が考えられる(図-9参照)。

(2)本試験方法により得られた比抵抗とコンクリートの

図-8 ドリル孔内の測定位置の違いによる比抵抗

図-10 水セメント比と比抵抗の関係

図-9 水分平衡状態におけるコンクリートの含水率と比抵抗の関係

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トされた。特にジャンカ補修跡近傍での半数近くは、透気性が大きいと評価されている(図-12参照)。実構造物においてこのような結果を示した場合には、経年による中性化進行が予想される箇所となり、入念な補修の対象となる。

以上の結果より、本等級区分(案)によってかぶりコンクリートの鉄筋腐食抵抗性能の評価が行える可能性の高いことが判った。なお、実構造物等への適用事例を蓄積することで、等級区分(案)についての検証を行うことが今後の課題のひとつとなる。

4. 謝辞本研究は、(財)日本建築総合試験所 試験研究センタ

ー 材料部材料試験室において、平成13年以来今日まで実施してきた所内での研究、および本分野における外部研究者の方々との共同研究の成果を取りまとめたものである。筆者は、当試験所に入所して以来、本分野の研究における先駆者である 試験研究センター 副センター長 田村 博 博士および材料部長 永山 勝 博士の両博士より、一貫して研究のご指導を仰ぎました。両博士からは、本研究およびこれまでに着手してきた研究が社会的に意義のある研究であること、研究を継続することの大切さを、時には厳しい指導のなかから学びました。深く感謝申し上げます。また、(財)日本建築総合試験所の役員各位におかれては、筆者が東北大学大学院工学研究科 博士課程後期(3年の課程)に就学するにあたり、格別のご配慮をいただきました。深く感謝いたします。特に、前理事長 故 森田司郎 博士には、所内で顔を会わすたびにいつも暖かい励ましを頂きました。ここに改めて感謝いたしますとともに、心よりご冥福をお祈りいたします。

東北大学大学院工学研究科教授 三橋博三 博士におかれては、本論文をまとめる機会を与えて頂き、さらに本論文をまとめるにあたり、終始変わらぬご厚情と丁寧なご指導を賜り、本論文を完成へと導いて頂きました。深く感謝申し上げます。

本研究の実験の多くは、東京理科大学工学部准教授 今本啓一 博士、(株)淺沼組技術研究所主任 山﨑順二 氏、および元大阪工業大学工学部准教授 故 二村誠二 先生との共同研究の成果でもあります。各氏におかれては、研究のご指導や多大な実験のご協力を賜りました。これらのご協力がなければ本研究は成し得なかったと言っても過言ではありません。深く感謝申し上げます。

図-12 実大壁モデルによる適用性の検討(実験Ⅱ)

図-11 柱モデルによる適用性の検討(実験Ⅰ)

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【参考文献】

1) 笠井芳夫,松井勇,湯浅昇他:簡易透気試験を用いた構造体コンクリートの耐久性評価,日本建築学会学術講演梗概集,pp.151-152,1997.9

2) F.Wenner:A Method of Measuring Earth Resistivity, Bulletin of the Bureau of Standards, 12, pp.469-478, 1916.

3) 黄光律,野口貴文,友澤史紀:表面電極型の比抵抗によるコンクリート内部含水率の定量化,コンクリート工学年次論文集,Vol.22,No.1,pp.349-354,2000.6

4) B.P.Hughes et al.:New technique for determining the electrical resistivity of concrete, Magazine of Concrete Research, Vol.37, No.133, pp.243-248, Dec 1985.

5. おわりに本稿では、全92頁の本学位論文を要約して報告いたし

ました。本研究において取り組んだ実験等の詳細な数値やグラフは紙面の関係で割愛しておりますが、鉄筋コンクリート構造物の耐久性を評価する手法の一つとして、その概要をご理解いただき、技術情報としてお役立ていただければ幸いです。

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