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オフィスビル・病院・学校・マンションなど人々が生活の場としている 建築物においては、電気が必要不可欠である。この電気を建物の各階・各 部屋に行き渡らせるためにケーブル・電線を敷設・配線することになる。 建築基準法で規定された防火区画をこれらが貫通する場合には、法で定め られた構造方法(国土交通大臣認定工法)により埋め戻すことが、求めら れる。今回は、三十数年前から使用されている安価な材料を使った工法か ら施工性向上・施工時間短縮などを反映させた近年の材料・構造に変わっ てきている状況について紹介する。 1.建築基準法の改正による耐火性能の変更に伴う工法の変化 2000年の建築基準法改正により防 火区画貫通部に求められる耐火性能 は、最大60分・遮炎性能へと大きく 緩和された。(それ以前までは、最大 120分・遮炎性能・遮熱性能が必要) 建築基準法改正前までは、防火区画 貫通部の処理材料としては、主に以 下の3つの材料を組合わせた工法が 多く使われていた。 ①ロックウール(耐火充填材:不燃 材料) ②けい酸カルシウム板(耐火仕切板: 不燃材料) ③耐熱シール材(高難燃性パテ) 建築基準法改正前までは、120分の 耐火性能、特に遮熱性能(反火災側のケーブル表面温度及び耐火処理材表 面温度)を満足させるためにどうしても施工処理長が必要であった。一例 防火区画におけるケーブル貫通部防火措置工法の 変遷と省施工化に伴うリスク ㈱古河テクノマテリアル      防災事業部インフラ市場開発チーム チーム長 柳澤  豊 図-1 サンドイッチ工法例 -25- 技術コーナー

防火区画におけるケーブル貫通部防火措置工法の 変 …このタイプの耐火処理部は、1つのビルで多いところでは、500箇所以 上にのぼる。当然ながら1箇所あたりのコストを出来る限り抑えることが

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Page 1: 防火区画におけるケーブル貫通部防火措置工法の 変 …このタイプの耐火処理部は、1つのビルで多いところでは、500箇所以 上にのぼる。当然ながら1箇所あたりのコストを出来る限り抑えることが

 オフィスビル・病院・学校・マンションなど人々が生活の場としている建築物においては、電気が必要不可欠である。この電気を建物の各階・各部屋に行き渡らせるためにケーブル・電線を敷設・配線することになる。建築基準法で規定された防火区画をこれらが貫通する場合には、法で定められた構造方法(国土交通大臣認定工法)により埋め戻すことが、求められる。今回は、三十数年前から使用されている安価な材料を使った工法から施工性向上・施工時間短縮などを反映させた近年の材料・構造に変わってきている状況について紹介する。

1.建築基準法の改正による耐火性能の変更に伴う工法の変化 2000年の建築基準法改正により防火区画貫通部に求められる耐火性能は、最大60分・遮炎性能へと大きく緩和された。(それ以前までは、最大120分・遮炎性能・遮熱性能が必要)建築基準法改正前までは、防火区画貫通部の処理材料としては、主に以下の3つの材料を組合わせた工法が多く使われていた。①ロックウール(耐火充填材:不燃材料)②けい酸カルシウム板(耐火仕切板:不燃材料)③耐熱シール材(高難燃性パテ) 建築基準法改正前までは、120分の耐火性能、特に遮熱性能(反火災側のケーブル表面温度及び耐火処理材表面温度)を満足させるためにどうしても施工処理長が必要であった。一例

防火区画におけるケーブル貫通部防火措置工法の変遷と省施工化に伴うリスク

㈱古河テクノマテリアル     防災事業部インフラ市場開発チーム

チーム長 柳澤  豊

図-1 サンドイッチ工法例

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技 術 コ ー ナ ー

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を挙げると、従来は、壁・床を挟んで両側から耐火仕切板を固定しその内部にロックウールを充填し、ケーブルと耐火仕切板の隙間・ケーブル表面・耐火仕切板の設置面などに耐熱シール材を充填するような工法である。(図-1サンドイッチ工法参照) これが現在では、耐火性能の緩和に伴い、両側から施工していたものが片側だけで耐火性能が維持できるようになっている。(図-2片側工法参照)特に遮熱性能規定がなくなったため施工処理長自体は、非常に短くなってきている。

2.工期短縮・設備更新などに伴う改修工事の増加に対応するための工法 筆者が入社した頃と比較すると現在では、同じ規模の建築物(一般的なオフィスビルなど)を建てるのにかける時間(建築工期)が非常に短縮されているように感じる。正確なところは、確認できていないが、半年~1年くらいの工期短縮が進んでいると思われる。当然ながら建物の設計段階で必要なCADの普及や実際に工事が始まってから使用することになる重機の改良・工具の改良など理由は、沢山あると思われる。 ケーブル貫通部の防火工事は、建築工事の工期の中では、最後になるケースが多い。全体工期が短縮されている状況下でさらに最後に回される防火処理工事に残される時間は、非常に短くなる。こういった状況に対応するためには、できるだけ施工が簡単な材料・工法が求められることになる。 また、既設の建物においては、設備更新工事が3~5年ペースで行われる。これにより、ケーブルの引替・撤去などが必要となり、それまで施工されていた部分を解体しケーブル配線工事を実施した後、再度、復旧することになるが、このような場合でもできるだけ解体・再施工が簡単な工法が求められている。 さらに、材料の再利用(リユース)できるものであれば施主側にとっても建物維持のためのランニングコストを抑えることができる。 弊社(㈱古河テクノマテリアル)では、このような要求に応えるためにこれまで防火処理材料・工法を開発・製品化してきている。以下にいくつ

図-2 片側工法例

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か製品を挙げて説明させていただく。

(1)ロクマルʀ(耐火ブロック充填工法)

 柔らかいスポンジ状のブロック材を開口部形状・ケーブル敷設状況に合わせて開口内に充填するだけで施工ができる工法である。施工時に工具を必要とせず、作業中に騒音を出すこともない。また、耐火材自体が袋状の形態をしているため材料からの粉じん・ゴミなどが発生しないのでクリーンな施工ができる。 耐火仕切板の切断加工作業や耐熱シール材の充填といった高度なスキルを要する作業がほとんどないので、誰でも施工が簡単に行える。 改修工事などでは、既設施工部のブロックを引き抜き、スペースを開け、ケーブル敷設工事を実施した後、元のように復旧するだけで再施工が完了する。特に工期の短い夜間作業や現場を汚せないような条件の建物などでは、有効である。 耐火性能自体は、長さ100mm(処理長)のブロックに高耐火性を有するセラミック系材料と熱膨張材の組合わせにより、火災時に膨張し耐火壁を構築して火炎をシャットアウトする。 国土交通大臣認定制度になってから使用部材が同じでも開口形状や床・

図-3 ロクマルʀ(耐火ブロック充填工法例)

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壁によって異なる認定が出されるようになった。本工法は、矩形開口・丸穴開口・壁・床全てで認定を取得しているため同じ部材で適用範囲が広い。さらに、電気配線で使用されることが多くなってきている大容量の電気を送るバスダクトや合成樹脂製可とう電線管などが貫通している場合でも使用する事が可能である。また、認定条件により壁の種類を制限されることがあるが本工法の矩形開口認定では、非常に広範囲の壁材に適用できる。具体的には、RC/ALCといった充実壁、中空間仕切壁、石こうボード片壁など建物内で使用されているほとんどの耐火壁に対応している。

(2)イチジカンʀパット(壁丸穴小開口工法) 壁に丸穴開口を開けてケーブル・電線・合成樹脂製可とう電線管などを貫通させた際に、適用する工法である。使用部材は、耐熱シール材(ダンシールKP)と熱膨張性テープ・シートを使って施工する。材料コストも従来の同様の目的で使用する製品と比べると格段に安くなっている。耐熱シール材については、この製品開発のために新たに開発した軽量タイプの耐熱シール材である。単純に製品比重だけで比較すると従来の耐熱シール材の半分の重さである。

(3)イチジカンʀマルユカ(床丸穴小開口工法)

 主にマンションなどのMB(メーターボックス)内の床を貫通しているブランチケーブルの貫通処理用に使用する。(2)で使用されている耐熱シール材と同じものを使うが、それ以外にバックアップ材と呼ばれる耐火充填材を組み合わせて開口内に充填する。非常に施工処理長が短いのが大きな特徴で

図-4 イチジカンʀパット(壁丸穴小開口工法例)

図-5 イチジカンʀマルユカ(床丸穴小開口工法例)

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ある。バックアップ材が約25mm、その上に充填する耐熱シール材の充填厚が約10mm、トータル処理長が約35mmと非常に薄い施工処理で施工が終了するということ。 また、もう1つの特徴としては、防水スリーブ埋設時にも対応しているという点である。最近のマンションなどで増加傾向にあるのが、MB内での配管破裂などによる水漏れ対策として予め、床に鋼製の丸型スリーブを埋設する方法である。(図-6参照)

 床面から50~100mm前後立ち上げてあるため水漏れが起きてもその水が階下に漏れることを防ぐことができる構造となっている。これまでこのような現場状況で正式な認定を取得している工法・製品はなかったが、弊社ではこれに対応すべくスリーブ付きの構造で認定を取得している。また、一般的に床の丸穴開口サイズは最大径160mmまでであったが、今回の認定では、最大径を210mmまで拡大している。

(4)コンセント・スイッチボックスの防火措置

 最近では、ごく普通に要求されている耐火処理になる。壁内に取り付けられたコンセント・スイッチボックス部の内部を通るケーブルにより火災の拡大を防ぐために必要と言われている。弊社でも壁の構造や施工の簡略化を図って、いくつかの認定を取得している。一例を以下に示す。

図-6 イチジカンʀマルユカ(防水スリーブ対応工法例)

図-7 イチジカンʀBOX中空壁

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 このタイプの耐火処理部は、1つのビルで多いところでは、500箇所以上にのぼる。当然ながら1箇所あたりのコストを出来る限り抑えることが必須である。今後も増える傾向にある。

3.ケーブル貫通部防火措置工事におけるリスク 代表的なケーブル・電線貫通用防火措置製品工法について記載させていただいたが、その他にも弊社では、あらゆるケーブル敷設状況に対応するべく多種多様な製品を用意している。最近の傾向としては、材料の再利用・施工性向上・施工品質の維持を前提として製品・工法の開発を行っている。冒頭にも記したが、工期の短縮・現場状況の複雑化・認定制度の周知不足などにより、正しい施工がなされないケースが見られる。いくつか例を挙げてみる。

(1)適用場所・施工場所の間違い 本来製品・工法としては、使えない部位に施工してしまった場合。具体的には、床貫通部工法として認定が取れているような製品を壁貫通部に施工してしまったというケース。これは、逆のケースも当然、ある。また、認定条件で規定されていないものが貫通してしまい、それをそのまま施工してしまったといったケース。例えば、ケーブル・電線用の工法製品であるものをバスダクトが貫通している部分で施工してしまったといったケース。また、電線管路としてPF・CD管までは認定条件で認められているがそれ以外の管類、例えば認められていない塩ビ管が貫通している部分で施工してしまったといったケースなどが挙げられる。

(2)材料の混在 多く見られるケースとしては、1つの開口を施工する時に耐熱シール材を使って最後の充填作業していたところでシール材がなくなり追加で注文したシール材が他メーカー品だったがそのまま使用してしまったといったケース。(認定で認められていない材料の組合わせ)また、シール材にも耐火性に優れたパテと単なる穴埋め用のシール材もあり、これを間違って

図-8 認定条件で認められていない貫通物の例

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使用すると本来の耐火性能は、まったく維持できないし、そもそも認定とはみなされない間違った施工になる。

(3)施工ミス 熟練の職人に見られるのが思い込みで施工してしまうというミスである。長く工事に携わり、そこで学んだ施工方法などがベースになり、類似の他社工法でも同じように対応してしまうといったケースが見られる。必ず、施工する前に製品取扱説明書・認定書内容などを確認することが重要である。

図-9 材料の混在使用の例

図-10 認定構造に合わない施工例 その1

図-11 認定構造に合わない施工例 その2

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4.認定構造の簡素化とリスク 最後に1時間耐火に緩和された現在の状況を省みて、懸念される点を記しておく。建築基準法改正前の2時間耐火(遮熱性・遮炎性が必要)の頃は、矩形開口工法(大開口工法)は、トータル施工処理長(耐火材を使用し、穴埋めしている施工距離)は、250mm~300mm程度あるのが一般的であった。(図-1参照) 現行の1時間耐火(遮炎性)に変更されてから各メーカー共、施工性向上・コスト削減などを求め、施工処理長が昔と比較するとはるかに短くなっている。弊社でも上記にあるように丸穴工法では、施工処理長が35mm程度しかないものもある。このような、構造の場合、少しでも施工に間違いがあると簡単に耐火性能が失われる可能性がある。(シール材の不足や隙間の有無など) 今の認定工法は、施工性向上・コスト削減を突き詰めていく中でリスクも逆に大きくなっていることを施工者だけでなく施主側も認識すべきである。建物設計上、認定工法通りに施工するのが困難になるような作業環境(開口部周囲状況・認定範囲から外れる貫通物の敷設など)に直面するケースもある。 少なくとも施工業者は、ケーブル貫通部の防火措置工事を行う目的を常に意識して施工にあたるよう細心の注意をもって工事にあたっていただきたい。 現在、弊社を含めケーブル配線の区画貫通部防火措置工法の大臣認定を取得しているメーカーでケーブル防災設備協議会(CFAJ:CableFirestopsystemsAssociationofJapan)を設立し、以下の目的をもって活動している。(全10社)・大臣認定(BCJ評定(評価))工法の品質向上とその普及を図り、業界の健全な発展に寄与し、社会に貢献すること。 当協議会では、定期的に講習会を開催しケーブル火災の実態、ケーブル配線の区画貫通部防火措置工法について、施工管理・施工品質等、施工するにあたり必要なノウハウの周知に努めている。

問い合わせ等につきましては、以下にお願いいたします。 ㈱古河テクノマテリアル 防災事業部 インフラ市場開発チーム又は市場開発部 TEL:0463-24-9341 FAX:0463-24-9346

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