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2018 S.K. 静電気による火災・爆発を防止するための安全対策の基礎 1 静電気による火災・爆発を防止するための 安全対策の基礎 2018 株式会社SL経営 取締役 産業安全コンサルタント協会 常任幹事 蒲池 正之介 Shonosuke KAMACHI 静電気の放電が原因となって発生する火災,爆発, その他種々のトラブルを防止するためには,静電気 現象の理解が不可欠です. 静電気の放電によると思われる火災・爆発事故の 発生原因を調べてみると,それらの多くに共通する 静電気放電発生のメカニズムが浮かび上がります. 静電気災害事例をもとに,自ら開発した静電気安全 教育用教材を用いて事例の再現実験を交え静電気 安全対策のポイントを紹介させていただきます. はじめに 帯電現象 摩擦・はく離帯電(接触・分離) (フィルム,ロール,シート,粉体投入,椅子立ち上がり) 流動帯電 (導電率の低い液体の配管輸送,フィルタろ過) 噴出帯電 (加圧液体・蒸気の噴出,塗料,消火剤等の噴霧) 静電誘導による帯電 (帯電物体の近くにある,絶縁された導体の帯電) 1 (1)静電気の発生と帯電(帯電現象) 静電気の発生は,主として二つの物体の接触分離 など,力学的な運動に伴って本来電気的に中性の 状態である物体上で,正又は負のどちらか一方の 極性の電荷が他方よりも過剰となる現象であり, この過剰電荷のことを静電気といい,発生した静電 気が物体上に蓄積することを静電気帯電という. 固体や粉体の摩擦・剥離・衝突,及び液体の流動に よって静電気が発生する. 1.静電気現象 2 火花放電 (帯電した導体と球状の接地導体間で発生) コロナ放電 (比較的平滑な面をもった帯電した物体と尖鋭な形状をした 導体,針先等の間で発生) ブラシ放電 (帯電した不導体と球状の接地導体間で発生) 沿面放電 (帯電した薄い絶縁物(フィルム等)が接地した金属板,導体等 に密着しているとき,絶縁物と接地金属球との間で発生) 放電現象 (2)静電気の緩和と放電(放電現象) 発生した静電気は,導電及び放電により緩和する. 放電による緩和は,主として物体の分離時に発生する気中放 電,または,帯電物体の電位が大きくなったときに発生する気 中放電に伴って起こる.(空気の絶縁破壊電界3010 3 (V/cm) = 310 6 (V/m) ) 平面状帯電物体の最大帯電量は,気中放電によって制限され, 一般に表面電荷密度の最大値は,約310 -5 C/m 2 30μC /m 2 )と なる計算例: 電界 E=V/d=σ/ε (/) ∴ σ=ε E=8.85410 -12 310 6 27μC /m 2 ≒3x10 -5 C/m 2 (σ:帯電電荷密度, ε :真空中の誘電率(8.854×10 -12 /), E:空気中の絶縁破壊電界) なお,背面に接地導体があると上記の値を超えて帯電する. 250μC /m 2 以上になると沿面放電が発生する.(ハイデルベルグ 1970)

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2018 S.K. 静電気による火災・爆発を防止するための安全対策の基礎 1

静電気による火災・爆発を防止するための安全対策の基礎

2018

株式会社SL経営 取締役

産業安全コンサルタント協会 常任幹事

蒲池 正之介Shonosuke KAMACHI

静電気の放電が原因となって発生する火災,爆発,その他種々のトラブルを防止するためには,静電気現象の理解が不可欠です.

静電気の放電によると思われる火災・爆発事故の発生原因を調べてみると,それらの多くに共通する静電気放電発生のメカニズムが浮かび上がります.静電気災害事例をもとに,自ら開発した静電気安全教育用教材を用いて事例の再現実験を交え静電気安全対策のポイントを紹介させていただきます.

はじめに

帯電現象

• 摩擦・はく離帯電(接触・分離)• (フィルム,ロール,シート,粉体投入,椅子立ち上がり)

• 流動帯電• (導電率の低い液体の配管輸送,フィルタろ過)

• 噴出帯電• (加圧液体・蒸気の噴出,塗料,消火剤等の噴霧)

• 静電誘導による帯電• (帯電物体の近くにある,絶縁された導体の帯電)

1

(1)静電気の発生と帯電(帯電現象)

• 静電気の発生は,主として二つの物体の接触分離など,力学的な運動に伴って本来電気的に中性の状態である物体上で,正又は負のどちらか一方の極性の電荷が他方よりも過剰となる現象であり,

この過剰電荷のことを静電気といい,発生した静電

気が物体上に蓄積することを静電気帯電という.

• 固体や粉体の摩擦・剥離・衝突,及び液体の流動によって静電気が発生する.

1.静電気現象

2

• 火花放電• (帯電した導体と球状の接地導体間で発生)

• コロナ放電• (比較的平滑な面をもった帯電した物体と尖鋭な形状をした

導体,針先等の間で発生)

• ブラシ放電• (帯電した不導体と球状の接地導体間で発生)

• 沿面放電• (帯電した薄い絶縁物(フィルム等)が接地した金属板,導体等

に密着しているとき,絶縁物と接地金属球との間で発生)

放電現象(2)静電気の緩和と放電(放電現象)• 発生した静電気は,導電及び放電により緩和する.

• 放電による緩和は,主として物体の分離時に発生する気中放電,または,帯電物体の電位が大きくなったときに発生する気中放電に伴って起こる.(空気の絶縁破壊電界30x103 (V/cm) = 3x106 (V/m) )

• 平面状帯電物体の最大帯電量は,気中放電によって制限され,一般に表面電荷密度の最大値は,約3x10-5C/m2 (30μC /m2 )と

なる.計算例: 電界 E=V/d=σ/εo (V/m)∴ σ=εoE=8.854x10-12x3x106≒27μC /m2≒3x10-5C/m2

(σ:帯電電荷密度, εo:真空中の誘電率(8.854×10-12 F/m), E:空気中の絶縁破壊電界)

なお,背面に接地導体があると上記の値を超えて帯電する.250μC /m2 以上になると沿面放電が発生する.(ハイデルベルグ 1970)

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2018 S.K. 静電気による火災・爆発を防止するための安全対策の基礎 2

• 2個の電荷の間に働く力

F=kQ1Q2 /r2(N) [クーロンの法則]

(Coulomb(仏))

• k=1/4πε0 =9×109 (Nm2C-2)

• ε0 =8.854×10-12(F/m):真空中の誘電率

• 電界中にある電荷に働く力• F=(kQ /r2 )q(N)=E q(N) → F=qE(N)

• 万有引力 F=GM1M2/r2(N) G:万有引力定数

3

力学現象

例1:水素原子の陽子と電子の間( 5.3×10-11(m) )に働くクーロン力は?

• 解:Q1=1.6×10-19(C) ,Q2=-1.6×10-19(C) → F≒-8.2×10-8(N)

• 解説:マイナスは吸引力を表す.g換算 → F≒0.84×10-6 (g),(1N≒102g)

例2:水素原子の陽子と電子の間( 5.3×10-11(m) )に働く万有引力は?

• 解:M1 =1.67×10-27(kg) ,M2=9.11×10-31(kg) → F≒-3.6×10-47(N)

• 解説:マイナスで吸引力.万有引力定数G=6.67×10-11 (N・m2/kg2)で計算

(3)静電気の力学現象• 二つの物体が接触すると,境界面で電荷の移動が起こり,正及び負の電

荷が相対向して並ぶ電気二重層が形成される.その後,物体の分離に伴って電気二重層の電荷分離が起こり,二つの物体にそれぞれ極性の異なる等量の静電気が発生する.

• 静電気の力学現象は,静電気の電気的作用であるクーロン力によって,帯電物体の近くにある軽い物体が帯電物体に吸引されたり,反発されたりして運動する現象,または軽い帯電物体が重力,風力等の作用と異なった運動をする現象である.

静電気現象模擬実験用教材の概要

Type A Type B 寸法(mm)

① テフロン円板 アルミニウム円板 Φ=300, t=3 or 2

② テフロン円板 アルミニウム円板 Φ=300, t=3 or 2

③ アクリルパイプ アクリルパイプ Φ=40, L=250

④ アクリルパイプ アクリルパイプ Φ=内41, L=50

● Type A ①,②:絶縁物,絶縁性帯電物体として使用● Type B ①,②:導体,絶縁された導体,導電性帯電物体として使用

[実験用教材] http://www.ece.rochester.edu/~jones/demos/kamachi.html

①②

③④

可動

4

(1)静電気の放電と着火

• 静電気による火災・爆発は,静電気放電が可燃性物質と空気等との混合物の着火源となって燃焼を開始し,火炎が伝播することによって起こる事故・災害である.

• 静電気による火災・爆発が発生するためには,爆発限界範囲内の濃度をもつ可燃性混合物(可燃性物質+支燃物)

が存在し,かつ,これを着火するだけの放電エネルギーを放出する静電気放電が起こることが最低限必要である.

(燃焼の三要素)次の3つが同時に存在することが必要

• 可燃性物質

• 支燃物(酸素供給源)

• 点火源(熱源,火気,静電気火花)

(消火の三要素)

• 除去(可燃性物質の除去)

• 窒息(酸素の供給を遮断)

• 冷却(熱を奪い熱源を断つ)

2.静電気現象と危険性

• 物体の摩擦・はく離– フィルム,ロール,シート,粉体投入,椅子立ち上がり…

• 液体の流動– 配管輸送,フィルターろ過…

• 液体の噴出– 加圧液体・蒸気の噴出,塗料の噴霧,消火剤の噴霧…

• 固体の破壊– 物体の粉砕,研磨,空気輸送…

•• 帯電物体からの帯電物体からの誘導誘導(静電誘導)(静電誘導)– 帯電物体の近くにある絶縁された導体!

5

静電気は次のようなときに発生します

摩擦の帯電列の一例摩擦の帯電列の一例金属 繊維 天然物質 合成樹脂

アスベスト

人毛・毛皮

ガラス

雲母

羊毛

ナイロン

レーヨン

木綿 綿

木材

人の皮膚

ガラス繊維

アセテート

亜鉛

アルミニューム

クロム 紙

鉄 エボナイト

ニッケル

金 ゴム ポリスチレン

ビニロン

白金 ポリプロピレン

ポリエステル

アクリル

ポリエチレン

ポリ塩化ビニリデン セルロイド

セロファン

塩化ビニール

テフロン

相互の距離が離れているほど帯電量は大きい.

相対的に上に位置するものが正極性に帯電する.

(注)帯電列は,環境条件(温・湿度)や表面状態

(よごれ,粗さなど)によって変化する.

正正((++))

負負((--))

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2018 S.K. 静電気による火災・爆発を防止するための安全対策の基礎 3

6

Grounding of the aluminum disk.

(1)

(2)

Electrostatic induction.(3)

Charge separation.(4)

(5) Charges removing on the disks.

Approaching

Keeping away

Charged teflon disk

静電誘導現象<説明>

Illustration of demonstration (Induction charging)

→ Electron move to this way.

Approaching the charged teflon disk to the isolated aluminum disk.

Detaching

(+)(-)

(-)

(-)

(2)静電誘導現象

静電誘導現象は,帯電物体の近くに絶縁された導体があるとき,帯電物体の静電気のおよぼす影響(電界)によって,帯電物体に近い導体表面上に帯電物体と反対の極性の過剰電荷が現れ,これと極性の異なる等量の過剰電荷が帯電物体から遠い導体の表面上に現れる現象である.

帯電していない状態での絶縁された導体は,導体全体では正電荷と負電荷の量は等しいが,それに帯電物体が接近すると,電荷の不均一分布に起因して導体の電位が上昇し,帯電したのと等価になる.

静電誘導の大きさは,電界の大きさに比例するため,静電誘導による電位上昇,すなわち誘導電位の大きさは,誘導を受ける導体の形状,及び帯電物体からの距離に関係し,距離が近いほど帯電物体の電位に近くなる.

7

Grounding of the aluminum disks.

(1)

Approaching the charged teflon disk to the isolated aluminum disk.

(2)

Electrostatic induction.(3)

Charge separation.(4)

(5) Charges removing on the disks.

Illustration of demonstration (Induction charging)

Charged teflon disk

Detaching

静電誘導現象<実験>

Electron move to this way.→

Approaching

Keeping away

(-)

(-)

(+) (-)

噴出帯電の実験 (気体の噴出)

VV :表面電位計

:導体

:絶縁物

気体の

噴出

8

スプレー缶による実験

スプレー缶圧力容器の充填圧力 (at 20℃)

噴射剤 市販品 法の最大値

フロン 4kg/cm2 20kg/cm2

LPG(ブタン) 2kg/cm2 8kg/cm2

圧力(応力)の換算

Mpa = N/mm2 Pa = N/m2 kgf/mm2 kgf/cm2

9.80665×10-2 9.80665×104 1×10-2 1

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2018 S.K. 静電気による火災・爆発を防止するための安全対策の基礎 4

噴出帯電の実験 (液体の噴出)

V 液体の

噴出

スプレー缶による実験

V :表面電位計

:導体

:絶縁物

9

噴射剤の「昇華」によって生成される粒子の帯電が大

「極性基」を有するジメチルエーテル等の噴射液も帯電が大

「微粒子」入りの噴射液も帯電が大

放電による緩和

導電による緩和

その他の緩和

静電気は次のようにして緩和します

10

放電

帯電物体の電位が高くなったときに発生する.(気中放電に伴って起こる.)

空気:抵抗率は通常約1020 ( Ω・m),絶縁破壊電界3MV/m (3x106V/m=3x104V/cm=30kV/cm)

(種類:火花放電,コロナ放電,ブラシ放電,沿面放電 )

導電

主として,帯電物体と大地間の電気伝導によって起こる.

その他: 軟X線・紫外線よる緩和,炎による緩和

3.静電気放電の形態と危険性

火花放電 (Spark Discharge)

●一発のパルス的放電であり,ほぼ全電荷が放出される.

●着火危険性が高く,ほとんどの可燃性ガス・蒸気及び

粉じんの着火源となり得る.

11

火花放電 (spark discharge)

導体(金属)が帯電した場合に,これに曲率の小さな接地導体が接近した場合(すなわち,放電ギャップがほぼ平等電界)に生じる放電を火花放電またはスパーク(spark)と呼ぶ.

非常に短時間の単パルス状または振動を含む放電であり,容易に知覚可能な閃光と破裂音を伴う.火花放電では帯電物体に蓄積されていた静電エネルギーのほぼ全てが放電に費やされるので,着火能力が高く,ほとんど全ての可燃性ガス・蒸気及び一部の可燃性粉じんの着火源となりうる.

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2018 S.K. 静電気による火災・爆発を防止するための安全対策の基礎 5

コロナ放電 (Corona Discharge)

●微小なエネルギーのパルス状放電が連続的発生する.

●着火危険性が小さい.

(水素,アセチレン等以外の着火源にならない.)

●イオンを豊富に発生するので除電器として利用される.

負極性 正極性

12

コロナ放電 (corona discharge)

帯電物体に,針やワイヤーのような尖鋭な導電性物体が接近した場合に,先端部付近でのみ発生する微弱な放電である.小さなパルス状の放電が連続的に,かつ,比較的長時間にわたって発生する.各放電パルスのエネルギーは0.01 mJ程度以下であるので,通常,最小着火エネルギー0.1 mJ を超える物質への着火源とはならない.

コロナ放電を発生する電極の条件としては,先端の曲率半径が 5 mm以下である.曲率半径が小さくなるほど電界が大きくなるので,電極間隙であればより小さい電位でコロナ放電を発生する.ただし,高電圧が瞬間的に電極に印加された場合には,短時間のコロナ放電を経て火花放電が発生することもあり,この場合には着火性が高まる.

ブラシ放電 (Brush Discharge)

●放電に関与する領域が狭い.

●着火危険性は帯電電位と放電電極の大きさに依存する.

ほとんどの可燃性ガス・蒸気の着火源となり得る.

●場所を変えることにより複数回の放電が可能.

(引用:ISSA, “Static Electricity”)

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ブラシ放電 (brush discharge)

ブラシ放電は,プラスチックのような絶縁物が数10 kV程度に帯電した場合に,これに曲率半径5 ~ 50 mmの接地導体が接近したとき,その先端付近から帯電物体に向かって光条が進展する放電である.

コロナ放電と同様に,いくつかの放電パルスが連続的に発生するが,各パルスのエネルギーはコロナ放電のそれよりも大きい.放電に費やされる電荷は帯電量の一部であること,また,電極の形状の影響も大きいことから,火花放電のように放電エネルギーを計算で推測することは,困難である.しかし,最高3 ~ 4 mJの火花放電に相当する着火能力(等価エネルギー, equivalent energy)があることが実験的に証明されているので,ほとんどの可燃性ガス・蒸気,ならびに一部の鋭感な粉じんの着火源となる可能性がある.

沿面放電 (Propagating Brush Discharge)

●絶縁フィルムがキャパシタの役目をするので大量の電荷が蓄積される.

●一発のパルス的放電であり,放電に関与する領域が広い.

●着火危険性が高く,ほとんどの可燃性ガス・蒸気及び粉じんの着火源となり得る.

●放電時に物理的な破壊(ピンホール等)を起こすことがある. 14

沿面放電 (propagating brush discharge)

接地された導体板上に置かれた薄い絶縁性フィルムが高い電荷密度で帯電した場合,これに接地導体を接近させたときに発生する放電である.

放電光はリヒテンベルク像(Lichtenberg image)という樹枝状の模様を示し,大きな破裂音を伴う.接地された導体板が背後にあると誘導電荷によって絶縁板表裏に電気二重層が形成されて帯電面の電位上昇を抑制するので,平板の最大表面電荷密度は,27 µC/m² を超える値になり得る.実験的には,以下のような放電発生条件が得られている[4].

(1)絶縁物の厚さ 8 mm以下(2)表面電荷密度 270 µC/m²以上(3)表面電位 4 kV以上

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2018 S.K. 静電気による火災・爆発を防止するための安全対策の基礎 6

放電エネルギーと最小着火エネルギーの比較

ブラシ放電:3~4mJ→

コロナ放電:0.01mJ→

火花放電:10J→

沿面放電:100J→

←ジルコニウム←水素

←メタン, ガソリン

←アルミニウム,ナイロン←トナー,マグアル,

15

砂糖

帯電導体の静電容量,帯電電位,電撃発生電位

模擬実験 事例1:可燃性液体移し替え時の出火

例1-1:移し替え

16Case1: Transfer of flammable liquid

導体(金属缶)

絶縁物(ポリタンク)

導体(金属ロート)

plastics vessel

導体(上皿)

絶縁物( 支持部品)

導体(計量器本体)

例1-2:計量

4.静電気放電と危険な操作及び工程(災害のメカニズム)

可燃性液体移し替え時の出火(例1)

液体流動: 液体の配管移送,容器間の移し替え,濾過等

計量

電子天秤本体

容器上皿

模擬実験 事例2:可燃性液体移送時の出火

導体(金属配管)

絶縁物(取っ手)

導体(金属容器)

Case 2 17

例2:サンプリング

Case2: Transfer of flammable liquid into an ungrounded metal pale

Insulating material

輸送管

接地

金網

低導電性液体

配管で発生した電荷

金網で発生した電荷が加わる。

金網を接地してもダメ!

接地金網:帯電を増大させる!

可燃性液体移送時の出火(例2)

可燃性液体移送時の誤った対策例

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2018 S.K. 静電気による火災・爆発を防止するための安全対策の基礎 7

模擬実験 事例3:粉体投入時の火災・爆発 その1

Case 3 18

例3:粉体投入

絶縁物(容器材料)

導体(金属金具)

導体(金属容器)

Case3: Transfer of powder form a plastic drum into a metal vessel

plastic drum粉体投入時の火災・爆発(例3)

粉体投入粉体をケミカルドラムから反応容器に投入する作業

ケミカルドラムの金属部分を見落とした事例.粉体投入,払い落とし時に物体表面に付着した粉体層が外力により瞬時に引き離され,静電気が発生.

模擬実験 事例4:粉体投入時の火災・爆発 その2

Case 4

例4:粉体投入

絶縁物(ナイロンロープ)

導体(導電性コンテナ)

導体(金属容器)

Case4: Transfer of powder form a flexible bulk container into a metal vessel 19

Nylon rope

粉体投入粉体を導電性フレキキシブル・コンテナから反応容器に投入する作業

導電性フレキキシブル・コンテナの接地を見落とした事例

粉体投入時の火災・爆発(例4)

「静電気の基礎的な現象」の理解が必要な事例

静電気安全対策の基本は“接地”です

“接地”が有効なのは導体です.

– 静電気対策でいう導体とは,対象となる物体の

漏洩抵抗が1x106 ( Ω)以下のものです.

(漏洩抵抗とは,物体と大地間の電気抵抗で,物体の抵抗,接触抵抗,接地抵抗などをすべて総合した抵抗です.)

• 静電気上の導体– 導電率: 1x10-6 (S/m)以上 (体積抵抗率: 1x106 ( Ω・m)以下)

– 漏洩抵抗:1x106 (Ω)以下 (人の場合は1x108 (Ω)以下)*100μA(作業現場であり得る大きな電荷の発生電流)x1x106 Ω(漏洩抵抗)=100V(平等電界場での空気の絶縁破壊電圧の最小電圧約330Vの1/3(安全率)の値)

*人の場合:人の静電容量は100~300pF程度であり漏洩抵抗が1x108 Ω以下であれば,緩和時間が1~3x10-2 sec程度となり人の行動による発生を考慮するとこの緩和時間で十分である.

– 金属を接地する時は,一般に漏洩抵抗を1×103(Ω)以下にします.20

(1)静電気安全対策の基本

現場での静電気現象を把握し危険な放電を防止する.

アースできるもの(導体)をアースする.

帯電を抑制する.(除電,静電遮へい,加湿等)

空気,酸素等の支燃性ガスを除去する.

(2)現場における静電気安全対策のポイント

実施した対策の効果を確かめる.

実施した対策を確かめる(点検,維持)

静電気対策は,製造のノウハウとして取り組む.

5.静電気安全対策のポイント

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2018 S.K. 静電気による火災・爆発を防止するための安全対策の基礎 8

測定による静電気安全診断 1/2

表面電位計で静電気を測定してみよう.

測定範囲:±0.1~50kV (電池式・ポータブル)

静電気安全診断・対策の際に役立つ電池式絶縁抵抗計,表面電位計等を使用して静電気現象を理解しよう.

絶縁抵抗計[通称:メガー]で接地の効果を確認しよう.

測定範囲:1×104~2×109Ω (電池式・ポータブル)

21

絶縁抵抗計[通称:メガー]電池式絶縁抵抗計で漏洩抵抗は簡単に測定できる.

静電気安全対策の基本である“導体の接地状態”を把握しよう.

表面電位計

表面電位は比較的簡単に測定できる.

帯電状態を把握しよう.

(3)現場での静電気診断の具体例

可燃性ガス・蒸気・粉じん等の危険場所内での診断になるので測定機器類の取り扱いに留意する.

測定による静電気安全診断 2/2

測定器使用上の注意事項!

絶縁抵抗計を使用する測定では,体内外に医療用機器等を装着している人に対しては測定を行わないこと.

22

絶縁抵抗計<注意事項>!

表面電位計<注意事項>!

電位計(表面電位計)のアース端子を接地する.

電位計に指定されている測定距離で測定する.

電位計を帯電物体に近接させると,帯電物帯と電位計との間で静電気が放電する場合があるので注意する.

可燃性ガス・蒸気,粉じん等が危険な濃度で存在してる場所では,測定を行わない.測定は,可燃性ガス検知器等を用いて可燃性ガス・蒸気

が爆発範囲内の濃度で存在していない(非危険場所)こと

を常時確認しながら行う.(粉じん危険場所も同様に注意)

測定レンジ(V) 測定端子の電圧(V)

250 270 275

500 530 550

1,000 1,050 1,100

負荷抵抗 3x109 (Ω) ∞ (Ω) 開放

絶縁抵抗計の測定端子電圧の例

[人体]+[履物]の漏洩抵抗測定例

R

R :絶縁抵抗計

:導体

:履き物

測定は非危険場所で

体内外に医療用機器を装着している人に対しては測定を行わないこと.

23

通電時の電撃ショック防止(作業者に直接電圧を印加するときの注意)

①絶縁抵抗計の接地側クリップを建物のアース端子等に取り付ける

②作業者に絶縁抵抗計の高圧端子を素手で強く握らせる

③絶縁抵抗計の測定スイッチを押す(必要短時間で測定)

注意:素足のように明らかに電気抵抗が低いと考えられる場合は,電撃を受けるので測定しないこと.

注意:金属等,電気伝導性の良い物体を測定する際には,操作方法によっては,放電が発生するので可燃性ガス・蒸気,粉じん危険場所では測定しないこと.

漏洩抵抗測定時の注意事項(電池式絶縁抵抗計使用)

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2018 S.K. 静電気による火災・爆発を防止するための安全対策の基礎 9

[人体]+[履物]+[床]の漏洩抵抗測定例

RR :絶縁抵抗計

:導体

:履き物

:床材

測定は非危険場所で

体内外に医療用機器を装着している人に対しては測定を行わないこと.

24

作業者の帯電防止対策

作業者の帯電防止

AND

AND

OR

人体の帯電防止

直接接地リストストラップ

帯電防止用品による漏洩抵抗の低下

[導体] [不導体]

手袋,衣類等の帯電防止

導電性履物 導電性床・マット等

導電性手袋,帯電防止作業服等

不導体の指標

• 帯電性不導体の指標液体・粉体

– 導電率: 1×10-8 (S/m)以下

(体積抵抗率: 1×108 ( Ω・m)以上)

固体(フィルム,布等を含む)

– 導電率: 1×10-8 (S/m)以下 and 表面抵抗率: 1×1010 (Ω)以上

• 絶縁体– 導電率: 1×10-10 (S/m)以下

(体積抵抗率: 1×1010 (Ω・m)以上)

25

(4)不導体の対策

不導体の指標

導体,不導体の静電気的特性

ρs ≧ 1010ρv ≧ 108不導体

106 ≦ ρs < 1010103 ≦ ρv < 108電荷拡散性

ρs < 106ρv < 103導体

表面抵抗率 ρs(Ω)体積抵抗率 ρv(Ω・m)

電気抵抗と体積抵抗率

R=ρv L/S(Ω) (R:電気抵抗(Ω),L:長さ(m),S:断面積(m2))

例:電線の電気抵抗と体積抵抗率の関係 (電線の断面積S=πr2, r=D/2, ∴S=πD2/4)

R=ρv L/S= ρv 4L/πD2(Ω) (R:電気抵抗(Ω),L:長さ(m),D:直径(m)

電荷拡散性:導電性材料は,この領域である.(導電性材料:カーボンブラック,金属粉などの導電性物質を混入して,導電性が高められた ゴム,プラスチック,繊維などの材料.)

出典:静電気安全指針2007 (JNIOSH-TR-NO.42 (2007)) 2.16 導体と不導体,2.18 導電性材料

不導体の静電気安全対策

• 静置して帯電量の減少を待つ.(静置時間)

• 不導体の導電性を高める.(導電化)– 導電性材料の使用,帯電防止剤の使用,加湿

• 放電を利用する.(除電)– コロナ放電によるイオン化空気での中和

• 自己放電の利用(帯電物体の静電エネルギー利用)

• 除電器機の利用

• 接地導体で遮蔽する.(静電しゃへい)

26

不導体の安全対策

コロナ放電の利用

コロナ放電では,空気の電離に伴いイオンが豊富に発生する.

放電電極側に正電圧が印加された場合には,主として正イオン(positive ion)が,負電圧の場合には負イオン(negative ion)が生成される.このような性質を利用して,主に絶縁物(フィルム,粉粒体等)の除電用イオン発生源としても用いられている.

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2018 S.K. 静電気による火災・爆発を防止するための安全対策の基礎 10

静電気の基本物理量1/3

電荷:記号Q,単位C(クーロン)帯電物体の持つ静電気の量

電位:記号V,単位V(ボルト)帯電物体の持つ仕事の大きさ

一般に大地の電位(零ボルト)との差をいう

電界:記号E,単位V/m(ボルト/メートル)場における静電気的作用の強さを表す量

放電の発生,静電誘導などに関係する

電流:記号 I, 単位A(アンペア),C/s(クーロン/sec)単位時間当りに移動する電荷の量

電気抵抗:記号R,単位Ω(オーム)電流の流れにくさを表す量

27

6.静電気の基本物理量・関係式・参考図表

Georg Simon Ohm

Charles-Augustin de Coulomb

André-Marie Ampère

(Alessandro Giuseppe Antonio Anastasio Volta)

Michael Faraday

Anastasio Volta

[Coulomb(仏)] 1736/6/14 -1806/8/23

[Volta(伊)] 1745/2/18 -1827/3/5

[Ampère(仏)] 1775/1/20 -1836/6/10

[Faraday(英)] 1791/9/22 -1867/8/25

[Ohm(独)] 1789/3/16 -1854/7/6

写真:出典(Wikipedia)

Sir Joseph John Thomson [J.J.Thomson (英)] 1856/12/18 -1940/8/30 1897:電子発見

静電気の基本物理量2/3

表面抵抗率:記号ρs,単位Ω(オーム)物体の表面に固有な電気抵抗

体積抵抗率:記号ρv,単位Ω・m(オーム・メ-トル)物体に固有な電気抵抗(1Ω・m=100Ω・cm)

導電率:記号κ,単位S/m(ジーメンス/メートル)体積抵抗率の逆数

接地抵抗:単位Ω(オーム)接地極と大地間の電気抵抗

漏洩抵抗:単位Ω(オーム)帯電物体と大地間の電気抵抗

28

電荷:最小の電荷量は,電子(負)と陽子(正)の電荷量で,e=1.602x10-19(C)

電子の質量:9.10x10-31(kg),陽子の質量は電子の1840倍,原子核の半径:1x10-14 (m)程度,原子の半径:10-14 (m)

クーロンの法則:距離r(m)を隔てた二つの点電荷q1,q2(C)の間に働く静電気力F(N)は,F=q1q2/4πεor

2(N) (Fが負であれば,引力) [点電荷または近似的に点電荷に適用]

電位:電界内で電荷を移動させるには仕事を要する.無限遠から+1(C)の電荷を電界内の1点まで運ぶのに要する仕事をその点の電位という.点電荷の電位は,V=q/4πεor (V)

電界:静電力の及ぶ空間を電界という. 点電荷の周りの電界は,E=q/4πεor2 (V/m)

電界強度E (V/m)内に置かれた点電荷qに働く力Fは, F=qE(N)

一様なσ[C/m2]の電荷密度をもつ無限に広い平面導体上の電界Eは,ガウスの定理からE=σ/εo (V/m)

Q(C)から発生する電気力線の本数は,Q/εo(本) at(εs=1)

電流:1秒(S)間に1(C)の電流が流れている状態が1(A)

1(m)離して置いた2本の導線にそれぞれ同じ量の電流を流し,その間に働く力が1(m)当たり2x10-7(N)であるとき,その電流を1(A)としている.

<雷の概要> 電圧:106~109(V) [100万~10億(V)] ,電流:105~106(A) [10万~100万(A)],持続時間:10-4(sec) [100μsec],

<落雷 1回当たりの計算例> 電圧1,000万(V),電流10万(A)として計算すると,電荷量=電流×持続時間=105x10-4=10(C),

電力=電圧×電流=107x105 =1012(W)=10億(kW),電力量=(電力×持続時間)/h= 1012×10-4 /3600=約30k(Wh)となる.

静電気の基本物理量3/3静電容量:記号C,単位F(ファラッド)

電荷を蓄積する大きさを表す量

一般に接地導体からの距離に反比例する

誘電率:記号ε,単位F/m(ファラッド/メートル)

物体に固有な静電容量

(比誘電率*εs=ε/εo)

エネルギー(仕事):記号W,単位J(ジュール)

帯電物体の持つ電気的エネルギー

* 比誘電率εs は,誘電率εを真空中の誘電率εo(8.854×10-12F/m)に対する比で表したもの.

1V,1A ,1s間で1Jの仕事

29

仕事率,電力:記号W,単位W(ワット)=(J/s)

1kW・h=3.6x106J(水180L,5℃上昇)

(1cal =4.18695J =1/860w・h (水1cc,1℃上昇))

J:仕事(kg重m)=力の大きさ(kg重)×力の向きに動いた距離(m)J:仕事(J)=力の大きさ(N)×力の向きに動いた距離(m)J:「力(N)×距離(m)」で計算(N(ニュートン)は力の単位で,1Nは約0.1kg重)(1Jは約0.1kg重m,1Jは約0.24cal (熱量のcalと換算))2[N]の力で物体を5[m]移動した場合その仕事は10[J].この10[J]の仕事を1秒で済ませた場合と,10秒要した場合とでは,仕事の能率が異なる.10[J]の仕事を1秒で済ませた場合:仕事率は10[W],10[J]の仕事を10秒で済ませた場合:仕事率は1 [W]

AED:自動除細動器(Automated External Defibrillator)は,1回の除細動に150Jを消費.

W:仕事率( kg重m/s)=仕事(kg重m)/要した時間(s)W:仕事の単位にJ(ジュール)を使って仕事率を計算したときの電力

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静電気物理量間の関係式 1/3

Q=CV(C) (V=Q/C,C=Q/V) [電荷]

例1 測定用キャパシタ C=0.1μF, V=10V → Q=1μC

例2 人体静電容量 C=150pF, V=5kV → Q=0.75μC

F=QE(N),(F=q1q2/4πεor2(N)) [電荷に働く力]

例 Q=1x10-6C, E=1x106V/m → F=1N=1/9.8kgf

W=CV2/2=QV/2=Q2/2C(J) [エネルギー(仕事)]

例1 人体 C=150pF, V=5kV → W=1.9mJ

CH3CH2CH3(プロパン)+Air → Wmin.=0.25mJ

CH4(メタン)+Air → Wmin.=0.28mJ

例2 人体 C=100pF, V=1kV → W=0.05mJ

H2+Air → Wmin.=0.019mJ

100g の物体に働く重力の大きさ(重さ,力)は,約1N=0.1kgf

1kgf=9.8N

kgf:力の単位

kg:質量の単位

電撃を感じない帯電電圧

100pF,1000V

30

帯電導体の静電容量,帯電電位,静電エネルギー

静電気物理量間の関係式 2/3

V=IR (V) [R=V/I,I=V/R] [電位]

例1 床材 V=100V, I=1x10-5A → R=1x107Ω

例2 靴底 V=400V, R=1x105Ω → I=4x10-3AE=V/d=σ/εo (V/m) [V=Ed] [電界]

(σ:帯電電荷密度,V:帯電電位,d:帯電物体と接地電極間の距離)

例1 V=30kV, d=1cm → E=30kV/cm=3,000kV/m例2 E=100V/cm, d=1cm → V=100V

C=εS/d=εsεoS/d (F) [静電容量]

(S:帯電導体の面積,d:帯電導体と接地電極間の距離)

例1 履物 S=100cm2, d=6mm, εs=4 → C=60pF例2 円板 S=707cm2, d=5mm, εs=1 → C=125pF

(円板:D=30cm (S=πr2≒707cm2) )

31

ε:epsilon 誘電率:記号ε,単位F/m(ファラッド/メートル) ρ:rho 体積抵抗率:記号ρv,単位Ω・m(オーム・メ-トル)

σ:sigma 帯電電荷密度:記号σ, 単位C/m² τ:tau 緩和時間:記号τ,単位sec

記号と名称

表中の接頭辞(SI接頭辞)は,国際単位系(SI)国際文書第8版(2006年)日本語版や理科年表,日本工業規格(JIS Z 8203,JIS Z 8202,他多数)では,SI接頭語と言う. <Memo>k (kilo) 道路標識:Km→km (2008.8.1~) ∵ K:ケルビン (熱力学温度)

10.10.010.0010.000 0010.000 000 001

0.000 000 000 001

0.000 000 000 000 001

0.000 000 000 000 000 001

0.000 000 000 000 000 000 001

0.000 000 000 000 000 000 000 001

10進数

dcmμ

npfazy

記号

decicentimillimicronanopicofemtoattozeptoyocto接頭辞

dahkMGTPEZY

記号

100

101

102

103

106

109

1012

1015

1018

1021

1024

10n

100

10-1

10-2

10-3

10-6

10-9

10-12

10-15

10-18

10-21

10-24

10n

1 000 000 000 000 000peta

1 000 000 000 000 000 000exa

1 000 000 000 000 000 000 000zetta

1 000 000 000 000 000 000 000 000yota10進数接頭辞

1 000 000mega1 000 000 000giga

1 000 000 000 000tera

10deca1

100hecto1 000kilo

静電気物理量間の関係式 3/3

ρv=RS/d(Ω・m) [R=V/I] [抵抗率]

(R:電気抵抗測定値, d:試料の厚さ, S:電極面積)

例 V=100V, I=1x10-6A, d=4mm, S=28.27cm2(r=3cm)ρ=7.07x109Ω・cm=7.07x107Ω・m [100 Ω・cm =1 Ω・m ]

τ=CR(sec) [絶縁された導体の緩和時間]

例 C=100pF, R=1x108Ω → τ=1x10-2=0.01secτ=ερ(sec) (ε=εsεo) [粉体,液体の緩和時間]

例1: ポリスチレン(粉体) ρ=1x1014Ω・m, εs=2.6τ=εsεoρ=2302sec 約40分 (5τ:3h10min)

例2: メチルシクロヘキサン ρ=1x1014Ω・m, εs=2.02τ=εsεoρ=1789sec 約30分 (5τ:2h30min)

例3: トルエン ρ=1x1012Ω・m, εs=2.38 τ=εsεoρ=21sec例4: ヘプタンρ=3x1014Ω・m, εs=2.0 τ=εsεoρ=5,312sec例5: ヘキサンρ=1x1017Ω・m, εs=1.9 τ=εsεoρ=1,682,260sec

32

灯油: ρ=1x1010Ω・m, εs= 2.2

ディーゼルオイル軽油 (purified) : ρ=1x1013Ω・m, εs=2

ヘプタン (purified): ρ=3x1014Ω・m, εs= 2.0

ベンゼン (purified): ρ=5x1015Ω・m, εs= 2.3

二硫化炭素 (1℃): ρ=7.8x1016Ω・m, εs= 2.6

ヘキサン (purified): ρ=1x1017Ω・m, εs= 1.9

[出典]: 静電気安全指針2007 JNIOSH-TR-NO.42(2007)

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2018 S.K. 静電気による火災・爆発を防止するための安全対策の基礎 12

最小着火エネルギー(ガス,液体蒸気)

空気との混合における可燃性ガス・液体蒸気の着火危険性

物質名爆発限界(Vol.%) 引火点 最小着火 混合濃度

下限界 上限界 (℃) エネルギー(mJ) (Vol.%)

メ タ ン 5.0 15.0 -187 0.28 8.5 エ タ ン 3.0 15.5 -130 0.25 6.5 プロパン 2.1 9.5 -104 0.25 5.2 n-ブタン 1.5 8.5 -72 0.25 4.7

n-ヘキサン 1.1 7.5 -26 0.24 3.8 ベンゼン 1.2 8.0 -11 0.20 4.7 メタノール 5.5 44 11 0.14 14.7 エチレン 2.7 36.0 - 0.096 6.52 水 素 4.0 75.6 - 0.019 28

アセチレン 1.5 82 - 0.019 7.7 二硫化炭素 1.0 60 <-30 0.009 7.8

33出典:産業安全研究所編「静電気安全指針」RIIS-TR-87-1(1988)

トルエンの着火エネルギー測定例・爆発限界の関係線図

出典:産業安全研究所安全資料(RIIS-SD-86, 1986) →(蒸気圧線図:蒸気圧線が直線となるCox線図を使用)

http://www.jniosh.go.jp/publication/SD/pdf/SD-86.pdf P11

(Cox線図:液体の蒸気圧と温度との関係を直線上に表現する線図)

最小着火エネルギー(粉体)

空気との混合における粉体の着火危険性

物質名爆発下限界 発火温度(℃) 最小着火 爆発圧力 上昇速度

濃度(Vol.%) 雲状 層状 エネルギー(mJ) (kgf/cm2) (kgf/cm2s)

アルミニウム 30 400 230 10 9.2 >1406硫 黄 35 190 220 15 5.5 330

ジルコニウム 40 20 190 5 6.3 914鉄 105 315 170 20 4.3 562

エポキシ樹脂 20 490 - 9 6.6 598ポリエチレン 20 390 - 10 601 527小麦でん粉 25 380 210 25 8.9 457

砂 糖 35 330 400 30 7.7 352コンスターチ 40 380 200 20 10.2 668

麦 芽 55 400 250 35 6.7 309木 材 20 360 250 20 7.9 598

34出典:産業安全研究所編「静電気安全指針」RIIS-TR-87-1(1988)

粉じんの爆発危険特性

圧力上昇速度は,爆発容器の容積の影響を受けるので

20L以上の容器で測定することになっている.

[爆発クラス] St0:爆発しない(0), St1:弱い(>0~200), St2:激しい(>200~300), St3:特に激しい(>300)

( )内の値は,1m3容器での最大圧力上昇速度(Kst値):VDI3673による分類(容積20L以上の容器で測定)

VDI:Verein Deutscher Ingenieure (Society of German Engineers):ドイツ技術者協会

JIS Z8817

品質不良,製品の汚れが問題となる工程109 Ω以下

半導体を取り扱う工程107 Ω以下生産障害等が発生するおそれのある場所

粉体の袋詰め,紙・フィルムの巻き取り工程109 Ω以下電撃が発生するおそれのある場所

MIE 0.2mJ以上の可燃性物質(炭化水素系液体,粉体等)を取り扱う工程

108 Ω以下

MIE 0.1mJ未満の可燃性物質(水素,アセチレン等)を取り扱う工程

107 Ω以下爆発・火災が発生するおそれのある場所

備考漏洩抵抗作業環境

静電気帯電防止靴の抵抗の下限値:感電防止のため 105Ω以下とならないこと.

作業環境と作業床の漏洩抵抗(人体の帯電防止)

35

0.675τ

1.04.6τ

1.84τ

5.03τ

13.52τ

36.81τ

1000

電荷量 (%)時間 (sec)

緩和時間と帯電電荷量の関係

電荷の緩和時定数( )

= C×R (sec) 導体

= ερ(sec) 粉体,液体

指数関数的緩和

Q=Q0 exp(-t/CR)

←1τ

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2018 S.K. 静電気による火災・爆発を防止するための安全対策の基礎 13

ガス・蒸気の個々のMIEではなく,ガスグループで管理すると効率的である.

IIAメタン,ブタン,アセトン,ペンタン,ベンゼン,トルエン,プロパン,

Nブチルアセテート,メチルクロロエチレン,ヘキサン,シクロヘキサン,

ヘプタン,メチルアルコールなど

IIB1,3ブタジエン,一酸化炭素,メチルエチルケトン,ジエチルエーテル,エチレン,アクリロニトリル,テトラヒドロフランなど

IIC アセチレン,水素,二硫化炭素など

IEC 60079-20

グループ 最小着火エネルギー (MIE)IIA MIE 0.14 mJ超IIB MIE 0.07 mJIIC MIE 0.02 mJ未満

可燃性物質(ガス・蒸気)の分類とゾーン

36

8.Explosion group: ガス・蒸気の分類

危険場所のクラス分け10時間~1時間ゾーン2

1,000時間~10時間ゾーン1

1,000時間超ゾーン0

時間/年分 類

JIS C 60079-10

出典:JNIOSH-TR-NO.42 (2007)

むすび

静電気の放電が原因となって発生するトラブル・事故事例の多くは,必ずしも特別なものではなく,今までに起きた事例の現れ方が少し変化しただけなのではないかと思われます.

静電気によるトラブルを防ぐには,

静電気現象を理解し,

安全対策を忘れないことです.

今回,実験を交えて紹介させていただきました静電気の基礎的な現象が,皆様の静電気安全対策の一助になりましたら幸いです.

蒲池 正之介Shonosuke KAMACHI

参考文献・他

• [1] 産業安全研究所編「静電気安全指針」RIIS-TR-87-1 (1988)• [2] 静電気学会誌, 19, 3 (1995) p.256-257

(放電の危険性を示す安全教育用としての実験)• [3] Martin Glor: Electrostatic Hazard in Powder handling, Research Press. (1988)• [4] 安全工学 Vol. 44 No. 3 (2005) p.202-207~Vol. 45 No. 1 (2006)

(公開実験による静電気の安全教育手法)• [5] 労働安全衛生総合研究所編「静電気安全指針2007」JNIOSH-TR-NO.42 (2007)

<Electrostatics Demonstrations> <Thomas B. Jones: Professor of Electrical Engineering University of Rochester>

• 各種の実験 http://www.ece.rochester.edu/~jones/demos/index.html• 実験用円板 http://www.ece.rochester.edu/~jones/demos/kamachi.html