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普通教科「情報」におけるカリキュラム研究開発(第3次・最終) -情報通信ネットワークを活用したカリキュラム作成を通して- 研究概要 平成 15 年度より高等学校で新しく普通教科「情報」が実施されることを鑑み,普通教科「情報」のカ リキュラムを研究開発した。カリキュラムは各科目の年間指導計画・単元の指導案・本時の指導案及び各 授業で活用する教材から構成されており,本研究で開発した授業支援教材等が平成 15 年度から実施され る教科の準備及び教材研究に参考になると考えた。また,Web 上の教材は可能な限りディジタル化して Web 上から発信し,ダウンロードして使用できる形式で開発を行った。本研究は平成 12 年度より 3 年計 画で実施しており,本年度が最終年度となる。本年度は活用したカリキュラムを中心に実践を行い,評価・ 改善を行った。その結果,来年度から始まる教科「情報」の参考資料として十分活用できることが分かっ た。 キーワード 情報教育 普通教科「情報」 カリキュラム開発 年間指導計画 指導内容 教材研究 1 テーマ設定の理由 平成 11 3 29 日に高等学校学習指導要領が 改訂され,高等学校に普通教科「情報」及び専門 教科「情報」が新設される。特に普通教科「情報」 は,必履修科目として位置付けられており,平成 15 年度入学生よりすべての高校生が履修する教 科である。 一方,この教科実施の際,参考にできるものは 本研究スタートの段階では学習指導要領及びその 解説しかなく,教科書もまだ見本の段階であった。 現在の状況は,教科書については平成 15 年度実 施に向け,平成 14 年度に各校へ見本等が配付さ れ,各学校で採択されている。従って,平成 12 年度時点では,授業担当予定者にとって,参考に なるものがなく,具体的な授業の構想を立てるこ とが困難であった。 教科「情報」の新設に伴い,平成 12 年度より 3年間全国一斉に「新教科『情報』現職教員等講 習会」が各都道府県で開催され,新教科「情報」 を担当する教員の養成が行われている(3年間で 全国約 3000 人養成予定)。岡山県でも平成 12 度には約 70 名,平成 1314 年度には約 80 名の現 職教員が教科「情報」の免許を取得した。その現 職教員等講習会では,受講者から実際の授業はど のようになるのか,どのような教材を想定するの かなど意見が毎年出された。担当する者にとって どのような授業を展開するのかについては不安感 をもっている。このような先生方に役立つカリキ ュラムを作成すると同時に,この研究開発が岡山 県の教科「情報」の指針となり,発展することを 期待し,このテーマを設定した。なお,現在,岡 山県情報教育センターの Web サーバより開発し た内容等を発信している。 http://www.jyose.pref.okayama.jp/jweb/2 研究の目的 以下に示す内容を目的として普通教科「情報」 カリキュラムの研究開発を行うこととし,平成 12 年度スタートした。 ○ 高等学校学習指導要領及び解説を具体化する。 ○ 年間指導計画,単元の指導案,本時の指導案 を作成することによって,教科「情報」担当 者が授業のイメージを形成し,円滑な実施を 図る。 ○ 指導案とともに授業で活用する教材を提供す ることにより,教材研究の一助とする。 ○ 作成したカリキュラムを Web で公開するこ とにより,必要なときに閲覧できるような教 育情報とする。 ○ 授業で使う教材は実態に即した教材に修正す ることができるように可能な限りディジタル 化し,Web で提供する。 さらに,この研究開発によって普通教科「情報」 のこれからの方向性を示すことも目的とする。

普通教科「情報」におけるカリキュラム研究開発( …...以後,情報技術に関する用語,学習内容におけ る具体例,実習課題例,情報モラルの内容などは,情報化の進展に伴い,適宜見直し,内容について

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普通教科「情報」におけるカリキュラム研究開発(第3次・最終)

-情報通信ネットワークを活用したカリキュラム作成を通して-

研究概要 平成 15 年度より高等学校で新しく普通教科「情報」が実施されることを鑑み,普通教科「情報」のカ

リキュラムを研究開発した。カリキュラムは各科目の年間指導計画・単元の指導案・本時の指導案及び各

授業で活用する教材から構成されており,本研究で開発した授業支援教材等が平成 15 年度から実施され

る教科の準備及び教材研究に参考になると考えた。また,Web 上の教材は可能な限りディジタル化して

Web 上から発信し,ダウンロードして使用できる形式で開発を行った。本研究は平成 12 年度より 3 年計

画で実施しており,本年度が 終年度となる。本年度は活用したカリキュラムを中心に実践を行い,評価・

改善を行った。その結果,来年度から始まる教科「情報」の参考資料として十分活用できることが分かっ

た。 キーワード 情報教育 普通教科「情報」 カリキュラム開発 年間指導計画 指導内容 教材研究 1 テーマ設定の理由 平成 11 年 3 月 29 日に高等学校学習指導要領が

改訂され,高等学校に普通教科「情報」及び専門

教科「情報」が新設される。特に普通教科「情報」

は,必履修科目として位置付けられており,平成

15 年度入学生よりすべての高校生が履修する教

科である。 一方,この教科実施の際,参考にできるものは

本研究スタートの段階では学習指導要領及びその

解説しかなく,教科書もまだ見本の段階であった。

現在の状況は,教科書については平成 15 年度実

施に向け,平成 14 年度に各校へ見本等が配付さ

れ,各学校で採択されている。従って,平成 12年度時点では,授業担当予定者にとって,参考に

なるものがなく,具体的な授業の構想を立てるこ

とが困難であった。 教科「情報」の新設に伴い,平成 12 年度より

3年間全国一斉に「新教科『情報』現職教員等講

習会」が各都道府県で開催され,新教科「情報」

を担当する教員の養成が行われている(3年間で

全国約 3000 人養成予定)。岡山県でも平成 12 年

度には約 70 名,平成 13・14 年度には約 80 名の現

職教員が教科「情報」の免許を取得した。その現

職教員等講習会では,受講者から実際の授業はど

のようになるのか,どのような教材を想定するの

かなど意見が毎年出された。担当する者にとって

どのような授業を展開するのかについては不安感

をもっている。このような先生方に役立つカリキ

ュラムを作成すると同時に,この研究開発が岡山

県の教科「情報」の指針となり,発展することを

期待し,このテーマを設定した。なお,現在,岡

山県情報教育センターの Web サーバより開発し

た内容等を発信している。 (http://www.jyose.pref.okayama.jp/jweb/)

2 研究の目的 以下に示す内容を目的として普通教科「情報」

カリキュラムの研究開発を行うこととし,平成 12年度スタートした。 ○ 高等学校学習指導要領及び解説を具体化する。 ○ 年間指導計画,単元の指導案,本時の指導案

を作成することによって,教科「情報」担当

者が授業のイメージを形成し,円滑な実施を

図る。 ○ 指導案とともに授業で活用する教材を提供す

ることにより,教材研究の一助とする。 ○ 作成したカリキュラムを Web で公開するこ

とにより,必要なときに閲覧できるような教

育情報とする。 ○ 授業で使う教材は実態に即した教材に修正す

ることができるように可能な限りディジタル

化し,Web で提供する。 さらに,この研究開発によって普通教科「情報」

のこれからの方向性を示すことも目的とする。

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また,研究スタート以降追加した項目として,

カリキュラム以外に教科「情報」を担当する教員

にとって有効と思われる資料を追加した。 3 研究計画 本研究開発は平成 12~14 年度の 3 年間にわた

って実施した。研究計画は以下のとおりである。

表 1 研究開発の計画 11 月 「情報A」年間指導計画作

成 12~

2 月 「情報A」の各単元の指導

案及び教材作成・検討

平成 12 年度

3 月 「情報A」のカリキュラム

を情セ※サーバより発信 5 月 「情報B」年間指導計画作

成 6~ 11 月

「情報B」の各単元の指導

案及び教材作成・検討 11 月 「情報C」年間指導計画作

成 12~

2 月 「情報B」の各単元の指導

案及び教材作成・検討

平成 13 年度

3 月 「情報B」「情報C」のカ

リキュラムを情セサーバ

より発信 平成 14 年度 ・各科目の授業実践・評価・改善

・指導案・教材の追加 Web 発信 ・全国より広く意見の集約・改善 ・研究のまとめ

平成 15 年度

以降 ・各学校で随時活用 ・評価・改善

※情セ:岡山県情報教育センターの略 以後,情報技術に関する用語,学習内容におけ

る具体例,実習課題例,情報モラルの内容などは,

情報化の進展に伴い,適宜見直し,内容について

継続的な評価・改善を行っていく。 4 研究の内容 (1) 研究開発のスタッフ

スタッフは平成 12 年度より3年間実施される

「新教科『情報』現職教員等講習会」の講師と情

報教育センターの指導主事計 15名で平成 12年度

にスタートした。その後,講師の追加等を行い,

今年度は計 26 名で研究開発を行った。今年度の

内訳は次のとおりである。 高等学校教諭・・・・・・・・21名 (数学5名・理科6名・家庭1名・工業4名・

商業5名) 県教育庁指導課指導主事・・・・1名 県情報教育センター指導主事・・4名 このスタッフは文部科学省の学習指導要領説明

会の内容を熟知しており,学習指導要領解説を具

体化していく上で実践を色々な視点から検討する

ことができる。また,講習会の講師という立場で

もあり,新教科「情報」を担当する者の視点から

も各授業を展開する場合の指導上の留意点や教材

開発に適切な配慮ができる。 (2) 研究開発の条件設定 具体的な指導案を作成するにあたり,いくつか

条件設定をしておかなければならない次のような

問題が出てきた。 ・ この科目はすべて標準単位を2単位としてい

るが,教育課程上では第何学年に位置付けら

れているのか。 ・ 校時表ではこの2単位を週2日1時間ずつ配

当しているのか。 ・ 週1回2時間連続で配当しているのか。 ・ 生徒のスキルはどの程度なのか。 ・ 学校の施設・設備はどうあるべきか。 等である。指導案を作成する上で学校や生徒の実

態についてある程度条件設定する必要があると考

え,以下を設定した。 <学校の施設・設備の環境に関する条件設定> ○ コンピュータ室には1人1台の環境のパーソ

ナルコンピュータが整備されており,LAN

接続されている。またすべての端末からイン

ターネット接続が可能である。 ○ 基本ソフトは以下のものが整備されている。

・ ワープロソフト ・ 表計算ソフト

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・ プレゼンテーションソフト ・ メールクライアントソフト ・ Web ブラウザ ・ Web ページ作成ソフト

・ 画像処理ソフト

○ 周辺機器は以下のものが整備されている。 ・ カラープリンタ ・ イメージスキャナ ・ ディジタルカメラ ・ ビデオデッキ ・ プロジェクタ及びスクリーン

<教育課程に関する条件設定> ○ 第1学年で実施する。 ○ 週1回2時間連続の時間割とする。 <生徒の実態に関する条件設定> ○ キーボード・マウス・OS及び前述の周辺機

器の基本操作はできるものとする。 ○ 日本語入力はできるものとする。 ○ Web ブラウザ,ワープロ利用経験はあるもの

とする。 ○ 電子メールの仕組みまでは分からないものの,

送受信の経験はあるものとする。 生徒の実態に関しては,平成 14 年4月授業実

践を兼ねて生徒の実態調査を県内 13 校 2,698 名

の新1年生に対して調査を行った。主な結果は表

2のとおりである。 表2 中学校までの実態調査

中学校までの経験項目 割合(%) ワープロソフト 66.7% 表計算ソフト 30.2% 図形・画像処理ソフト 25.0% ブラウザソフト(検索) 49.6% プレゼンテーションソフト 14.6% ディジタルカメラ 44.0% ホームページ作成 12.8% メール 50.0% このように,旧教育課程においては,情報教育

はまだ位置付けられていないためか,ほとんどの

教科「情報」で扱うソフトについては未経験者が

多い。しかし,小・中学校では平成 14 年度より

新教育課程に移行しているので,平成 15 年度高

等学校入学生からはこの割合は急速に上がること

が予想される。 また,学校の環境がこの環境と同じでなければ

参考にできないのであれば開発する意味がない。

整備が整っていない学校に対しては,指導上の留

意点等で,多様な環境にも対応できるよう配慮し

た。さらに,情報技術の進歩に伴い学校の施設・

設備も年々変化をすることも予想される。従って,

この条件はそれらの変化に伴い随時見直されなけ

ればならない。当面は平成 15 年度の実態を予測

し,その時点での条件設定として指導案等を作成

することとした。 (3) 研究開発の内容構成 ア 年間指導計画 現在,普通教科「情報」の各科目の内容を知る

手段は高等学校学習指導要領及びその解説しかな

い。そこで文部科学省の教育課程説明会等の資料

を参考に年間指導計画を作成した。標準単位数2

単位(70 時間)を各単元の内容を想定しながら配

当した。また,単元のねらいや身に付けるべきス

キル等にも配慮した。作成した各科目の年間指導

計画の詳細は Web よりダウンロードできるので,

そちらを参考にしていただきたい。各単元に指導

案をおおむね2種類作成してある。これは,指導

担当者が一つの指導案に固執することのないよう

に配慮するものであり,二つの例を示すことによ

り,各学校の実態等に合わせ適宜利用者が選択・

修正が可能となるよう配慮した。 図1 年間指導計画から指導案へのリンクボタン

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イ 単元の指導案及び本時の指導案 年間指導計画を受け,それに沿った指導案を作

成した。達成すべき目標を盛り込みながら各作成

者の創意工夫を生かし,社会問題等を取り上げて

できるだけ現実社会に即した教材を使いながら,

実際の授業を想定した指導案を作成することとし

た。例えば,この科目の 初の授業ではコンピュ

ータ室の使い方などのオリエンテーションをする

ことなどである。また,指導案の中で使う教材を,

解説の中で教材へのリンクを張ることにより,授

業担当者は指導案とともに教材を閲覧することが

でき,どのような教材を使えばよいかを各学校の

実態に合わせて考えることができるようにした。

このように単元の指導案で全体像をつかみ,さら

に本時の指導案で具体化するという構成にしたの

で,授業担当者は部分的に参考にすることもでき

ると考える。 ウ 教材の工夫 本時の指導案の教材○ボタンをクリックする

と教材のページに移動する。

図2 指導案中の教材へのリンクボタン 教材を使う場合,大切なのはその教材のねらい

を授業担当者がきちんと把握しておかなければな

らない点である。そこで,授業担当者がねらいを

明確にして使用できるよう,まず,その教材のね

らいをはっきりと示し,次に使用するかどうかを

判断できるよう画面構成した。また,実際の活用

場面を想定してディジタルデータをダウンロード

できるようにした。そうすることにより,学校の

実態等に応じて部分的に修正して使うことも可能

となる。また,ダウンロードファイルは圧縮・解

凍ソフトがなくても利用できるように,すべて自

己解凍型圧縮ファイルとした。 エ その他資料 本年度新たに追加した内容として,教科「情報」

を平成 15 年度から担当する教員にとって有効な

資料を整理し,カリキュラムとともに Web から発

信することとした。 図3 関連資料 Web トップページ

追加した資料は以下のとおりである。

○ 教科「情報」現職教員等講習会に関する資料 ○ 著作権・情報モラルに関する資料 ○ 教科「情報」全般にかかわるQ&A集 上記の他に,授業実践事例など適宜必要とされ

る資料を発信していく予定である。特に情報教育

全般に関わることは,高等学校の教科「情報」だ

けのことではないので,全ての学校関係者が見る

ことのできるように,Web そのものを工夫する必

要があると考える。 以上のような構成で,研究開発を行った。

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5 授業実践によるカリキュラムの評価

本研究で開発した指導案について,すべて授業

実践を行うことは困難であるが,各科目それぞれ

いくつかの授業実践を行い,その評価を行った。 (1) 科目「情報A」 ① 生徒の実態 「情報を活用するための工夫と情報機器」の領

域において「情報伝達の工夫」の授業実践を平成

15年1月17日に岡山県立笠岡高等学校で行った。

対象は2年生4組 39 名。コンピュータを使用し

た授業の経験もあり,キーボード・マウスの操作

など,コンピュータの基本的な操作スキルは持っ

ている生徒達である。 ② 授業の様子

開発した指導案では,(ア)作成した指導計画は年

度初めに行うべきものとしている,(イ)教科「情報」

を1年時に履修すると仮定して指導計画の立案を

している,などの点から,今回の実践の状況(2

年生1月)では,実習におけるテーマ(自己プロ

フィール)が適さないなどの問題点があった。そ

のためにテーマを「メールによる年賀状の作成」

に変更するなど,一部に修正を加えて授業実践を

行った。写真1・2に授業の様子を示す。 写真1 授業風景(メールの概要説明の様子) 2年生とはいえ「情報」に関する授業を継続し

てきたわけではないので,生徒たちの情報手段の

活用技能はあまり高くはなかったが,テーマの設

定は生徒たちの関心を高める内容として適切であ

ったようであり,授業内容に関心を持って積極的

に活動していた。特にディジタルカメラの撮影,画

像の処理などでは,試行錯誤から生徒同士の教え

合いが起こるなど活発な学習活動が行われた。

写真2 実習風景(画像の撮影での相談) ③ 研究協議と考察

授業後の研究協議においては,今回の学習を進

めることは,1 年生を対象としても,十分に可能

であること,授業の流れや内容などに関しても,

開発した指導案をもとに授業を進めてゆくことが

可能であることを確認できた。授業を担当した大

山教諭からも同様の意見が得られた。 また,この実践においては機器等の関係から,

修正事項の一つとして,前半にメーラーソフトの

設定を加えていたが,時間的にその分が不足した

形となった。本来の指導案どおりに行えば,時間

も十分ではないかと考えられる。 ただし,研究協議では,生徒の実態によっては

指導者の実習指導での負担が大きくなること,今

後は機器利用や指導法の改善,実習書などの教材

開発が必要であることなども確認された。 これらのことを総合的に考慮して,指導法の改

善,教材の開発など,まだ解決しなければならな

い問題はあるが,今回の実践の目的である,指導

案の有効性の確認に関しては,十分な利用が可能

であるとの結論に達した。 ④ まとめ

今後の課題として,研究協議でも確認されたよ

うに,指導案に加えて実習を効率よく進めるため

のワークシートや実習書などの開発をさらに進め,

情報Aの配当時間の2分の1以上を占める実習を

支援すべきであると考えられる。

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(2) 科目「情報B」 ① 生徒の実態

科目「情報B」の単元「(1)問題解決とコンピ

ュータの活用」の中から「第二次 コンピュータ

における情報処理の特徴」として「イ 人間とコ

ンピュータによる情報処理の比較」で2時間の授

業実践を行った。キーボードからの文字入力とイ

メージスキャナとOCRソフトウェアを利用した

文字入力の違いを実際に計測しながら比較実習を

行うことからはじめ,「コンピュータによる情報処

理の特性を理解させる」という目標で実習中心の

授業を展開した。

写真3 授業風景(スキャナーの利用)

② 授業の様子

今回実践を行ったクラスの生徒は商業高校情報

処理科の2年生でもあり,ワープロやその他のア

プリケーションソフトにも比較的慣れているため,

授業内容としては2時間で充分な時間をとること

もでき,当初予定していた以外の発展的な内容の

実習にも取り組むことができた。しかし,同じ内

容でも第1学年での実施や生徒のスキルによって

は2時間でも困難な場合も考えられる。改めて実

習の時期や実態に合わせた計画が必要である。

また,実習課題として認識,入力する活字原稿

や手書き原稿の準備では,生徒に実習させるため

混乱なく結果が導き出せるように考えて段階的な

教材とした。頭で考えた結果に必ずしもなるとは

限らないため事前に試行する時間が多くかかった。

今まで授業においてワープロソフト,表計算ソ

フト,データベースなど数々のアプリケーション

ソフトでの実習を行ってきた。その際,それらの

ソフトウェアの持つ特性については実習を重ね経

験を増やすことで,理解していくであろうと考え

ていた。しかし,今回の実習を通して実際にキー

ボード入力とOCRによる入力を比較し,その違

いを考えさせていくことは,明確にどちらかが優

れているということではなく,利用する環境や条

件によって使い分ける必要があることを理解しや

すかったようである。

③ 研究協議と考察

生徒の発表や感想からは「早く打てない人はO

CRを使ったらいい」,「活字文書ならOCR,手

書きや印刷の悪いものはキー入力」,「自分でOC

Rを使うか,キーボードで打つかを判断すること

が大切だと思った。」などが聞かれた。

実習を重ね経験からコンピュータの特性を理解

することができれば良いが,情報技術の進歩は目

覚しく,すべてを体験することは時間的にも困難

であり,また陳腐化もあるため,コンピュータの

特性を意識して考えさせる本指導案の実習テーマ

は適切なものであった。

補足すべき内容として,書籍などの著作物を取

り扱う際の,著作権への配慮が必要である点であ

る。特にディジタルデータを取り扱う実習を行う

際,常に意識を持ちながら指導を行う必要がある。

写真4 授業風景(OCRソフトの利用)

④ まとめ

体験的な理解を行う実習時間の確保は教科「情

報」において大切である。生徒のスキルや実習機

器の数量や補助資料などにより,実習の効率は大

きく異なるため,生徒の実態や環境を考慮する必

要があると考えられる。

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(3) 科目「情報C」 ① 生徒の実態 科目「情報C」の単元「(1)情報のディジタル

化」の中から「第一次 情報のディジタル化の仕

組み」として「イ 人間とコンピュータによる情

報処理の比較」で2時間の授業実践を行った。

写真5 授業風景(ディジタルの概念解説) 本時の目標は「ディジタル化の特性を理解す

る。」である。ポイントとして,コンピュータが扱

うデータの仕組み(ディジタル)をゲーム形式で

生徒に理解しやすいように授業を展開した。まず,

アナログとディジタルの違いについて説明を行い,

その後,方眼用紙を使ってアナログとディジタル

の違いを体験させた。さらに,Web ページを見な

がらさらに詳しくディジタルについて指導した。

後に2進数の導入を行った。 ② 授業の様子 生徒の活動では,様々な活動を活発に行った。

しかし,その活動が何につながるのか,つまりア

ナログとディジタルの違いを理解するために方

眼用紙を利用していることなどまではあまり読

みとれていないようであった。ただ,回数を重ね

て知識が身に付けば日常の実習にも幅が生まれ

ると思われる。

今回は,単発的に行った授業のため事前の指導

が出来ていなかった。本実践の導入で,意識付け

がもう少し詳しくできればさらによいものになっ

たと感じた。ただ,パソコンに関しての興味・関

心は高く,それを情報の授業とリンクさせる必要

があると感じた。

③ 研究協議と考察 本授業実践の成果と課題として,アナログとデ

ィジタルという抽象的な概念を効果的に教える

には工夫が必要であるということが挙げられる。

「情報のディジタル化」は情報ABCすべてにお

いて扱われており,「情報C」の内容を満たすに

は他の内容より一歩踏み込む必要がある。しかし

アプリケーションソフトの実習を中心に学習し

ている生徒にとって,急に理論的な内容を伝える

ことは頭の切り替えが必要であり,難しく感じ

る。そこで,本実践では,方眼用紙を利用した教

材を導入し,実習として取り扱った。さらに理解

を深めるために,インターネットの情報を利用

し,閲覧・体験させた。方眼用紙での実習でイメ

ージをつかませ,インターネットで確認できたの

は効果的であった。

このように,理論的な内容と実習の関連が重要

な情報Cでは,教材の工夫が授業を進めていく上

で重要な鍵となることを実感した。その点で,開

発した指導案は有効であることが実証できた。た

だ,1 時間単位の授業で目標を達成することは無

理であり,効果的な実習を行うには 2 時間連続で

時間を確保しなければならないと感じた。

写真6 授業風景(インターネットの活用) ④ まとめ

今後は,開発した指導案を基に多くの実践を重

ねていくと同時に,多くの先生方の授業の進め方

や教材を共有できる環境が必要だと感じる。また,

大きなウエイトを占める実習の環境整備について

もカリキュラム同様に必要であると考えられる。

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6 体系的な情報教育における各教科の研究 平成 15 年度から実施される新教育課程におい

ては,新教科「情報」だけではなく,各教科にお

いてもそれぞれの学習活動においてコンピュータ

や情報通信ネットワークを利用して,その中で「情

報活用の実践力」を育成することが求められてい

る。(図4)

図4 体系的な情報教育のイメージ図 (教科「情報」学習指導要領解説より)

しかし,各教科を担当する教師の大部分には情

報教育の目的や「情報活用の実践力」を育成でき

る学習活動の具体がまだ十分に伝わっていないと

考えられる。そこで,高等学校の各教科において

「情報活用の実践力」を育成する学習活動を明ら

かにして,各教科の教員に広く伝えるための研究

を行った。研究の概要を以下に示す。

①研究の趣旨から,(ア)教科に特徴的な活動を含

み,その科目の学習活動から他の科目でも同様

の活動をイメージしやすいこと,(イ)生徒が履

修する可能性が高く,資料の活用が図りやすい

ことなどを考慮して科目を選定・研究して,各

教科において情報教育を進める学習活動を調べ

た(表3)。

②内容に偏りを生じさせないようにするため,各

科目には可能な限り2名以上の委員を委嘱して,

27名の委員で研究を進めた(表3)。

③委員会全体で情報教育についての確認・理解を

進めて行く中で,学習活動や情報教育の目標に

関する解釈などを統一してから,教科・科目の

分科会を行った。

④情報教育の目標や考えられる活動については火

曜メールマガジンの「情報教育の目標リスト」

及び文部科学省の「情報教育の実践と学校の情

報化」を参考とした。

表3 研究対象とする教科・科目と委員

教科 科目 委員

国語 国語総合 3 名

世界史A 2 名

日本史A 2 名 地理・歴史

地理B 2 名

公民 現代社会 2 名

数学 数学Ⅰ 3 名

総合理科A(物理分野) 2 名

総合理科A(化学分野) 2 名 理科

総合理科B(生物分野) 3 名

音楽Ⅰ 1 名 芸術

美術Ⅰ 1 名

外国語 英語Ⅰ 2 名

家庭 家庭総合 2 名 各教科の指導要領に示される内容あるいは教科

書の単元,考えられる学習活動,情報活用の実践

力の育成できる力を示すことで,各教科の担当教

諭が自分の授業で情報教育を進めるときにこの資

料が参考になるようにした。

資料の基本的な様式を表4に示す。

表4 資料の様式

内容・単元情報教育に係わる

学習活動例

具体的な

学習活動

情報活用の実践力

の育成できる力評価規準

他の科目でも利用できるような学習活動の具体

例を取り上げることで,資料に取り上げていない

科目でも,どのような学習活動を行うべきかをイ

メージできるように配慮している。また,各教科

の先頭には,「情報教育の実践と学校の情報化」か

ら該当教科と情報活用能力との関係を引用し,情

報教育の観点からその教科に求められているもの

を明示するようにしている。

この研究の成果として,高等学校の各教科・科

目において情報教育を進めるための活動例を明ら

かにし,参考となる資料を作成することができた。

来年度からの新教育課程において,この資料の活

用が期待される。

なお本資料は岡山県教育委員会から各学校に配

布され,岡山県情報教育センターの Web ページか

ら公開される予定である。

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7 中学校「技術・家庭」との接続 中学校において,コンピュータのしくみや基本

操作,情報やコンピュータが果たしている役割と

影響などについて学習する「情報基礎」は,各学

校において履修が選択される領域の一つであった。

平成 10 年に示された新学習指導要領では,内容

が技術科と家庭科の2つの分野になり,さらに技

術科は,「技術とものづくり」と「情報とコンピュ

ータ」の2つの内容に分けられた。この改定によ

り「情報とコンピュータ」の領域はすべての生徒

が履修することとなった。 (1) 「情報とコンピュータ」共通履修領域 中学校の情報教育の中心である技術・家庭科の

「情報とコンピュータ」領域の学習内容を表5に

示す。

表5 すべての生徒が共通に履修させる内容

(1)生活や産業の中で情報手段が果たしている役割

ア 情報手段の特徴や生活とコンピュータと

のかかわりについて知ること。

イ 情報化が社会や生活に及ぼす影響を知り,

情報モラルの必要性について考えること。 (2)コンピュータの基本的な構成と機能及び操作

ア コンピュータの基本的な構成と機能を知

り,操作ができること。

イ ソフトウェアの機能を知ること。

(3)コンピュータの利用

ア コンピュータの利用形態を知ること。 イ ソフトウェアを用いて,基本的な情報の処

理ができること。 (4)情報通信ネットワーク

ア 情報の伝達方法の特徴と利用方法を知る こと。

イ 情報を収集,判断,処理し,発信ができる こと。

以上,中学校技術・家庭科の「情報とコンピュ

ータ」の内容は,コンピュータの基本的な構成・

機能・操作,情報通信ネットワークとなっており,

多くが,教科「情報」で取り扱う内容と重なって

いる。

(2) 「情報とコンピュータ」選択履修領域 生徒の興味・関心に応じて選択的に履修となっ

ている発展的内容を表6に示す。

表6 生徒の興味・関心に応じた選択履修内容

(5)コンピュータと利用したマルチメディアの活用

ア マルチメディアの特徴と利用方法を知る

こと。

イ ソフトウェアを選択して,表現や発信がで

きること。

(6)プログラムと計測・制御

ア プログラムの機能を知り,簡単なプログラ

ムの作成ができること。

イ コンピュータを用いて,簡単な計測・制御

ができる。 選択領域のため,学年や学校により履修状況が

異なることに留意する必要がある。 (3) 教科「情報」実施にあたって 平成 15 年度入学生は,中学校段階においてコ

ンピュータの基礎的な活用技術については学習し

ており,体系的な情報教育のもとで,各教科・科

目及び総合的な学習の時間でも情報教育が行われ

ている。従って,教科「情報」の指導計画を立て

る場合,中学校段階の学習内容を把握しておく必

要がある。また,円滑に授業を進めていくために

は,事前に個々の情報技術等を十分把握しておく

必要もある。 体系的な情報教育の中で高等学校に進学する生

徒のスキルは年々高くなっていくことが予想され

る。さらに,情報技術の進歩に伴い学校の施設・

設備も年々変化をすることも予想される。従って, 生徒の実態に応じ,指導内容や計画はもちろんで

あるが,履修科目(「情報A」「情報B」「情報C」)

の見直しも含め考慮する必要がある。

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8 専門教科「情報」 (1) 専門教科「情報」設置の背景 今日の,インターネット,マルチメディア,情

報通信機器などの普及に見られるように,情報化

は想像をはるかに超える規模・速度で進展してお

り,高度情報通信社会を迎えて情報通信産業は急

速に拡大している。このような状況の中で,情報

通信ネットワークシステムなど,システム全体の

設計,構築や管理,運営を担当するなどの分野に

かかる高度な情報技術者の育成が必要である。ま

た,インターネットやマルチメディアなどの普及

に伴い,音や画像などの素材を扱うコンテンツ産

業,電子出版関連産業など,新たな産業領域の分

野の形成に役立つような人材の育成が求められて

いる。 これまでは,専門学科においては主に工業の情

報技術科,商業の情報処理科において情報に関す

る教育を行ってきたが,今日の情報通信産業の要

請に対応する教科として,専門教科「情報」を創

設することになった。 (2) 工業・商業と専門教科「情報」の関連 工業については,主に工業各分野におけるコン

ピュータを利用した制御技術や情報関連機器の製

造・組立て・修理を行うなどの,技術の習得を中

心として,教育を行っている。また,商業につい

ては,主に簡易ソフトウェアの利用やプログラミ

ングなど,経営活動に必用な情報処理,情報活用

能力の育成を中心とした教育を行っている。 一方,専門教科「情報」においては,システム

全体の設計,構築や管理,運営に関する学習や,

映像・画像・音楽などの多用な情報メディアを活

用した作品製作や表現技術などについて学習する

ことを想定している。 以上のように,工業,商業と専門教科「情報」

は深い関わりがあるが,進路選択の面から考える

と,工業の生産活動の情報化や情報関連機器の製

造・制御・修理などに関する学習をしたい場合は

工業へ,経営活動に必要な情報処理・情報活用能

力を育成したい場合は商業へ,工業・商業に限定

せず,広く情報についての学習や,システム全体

の設計構築・管理・運営方法,映像・画像・音楽

などの多用な情報メディアを活用する技術を学習

したい場合は,「情報科」へといった選択が考えら

れる。

(3) 専門教科「情報」の科目編成 専門教科情報は教科の目的を達成するために,

「情報産業と社会」,「課題研究」,「情報実習」,「情

報と表現」,「アルゴリズム」,「情報システムの開

発」,「ネットワークシステム」,「モデル化とシミ

ュレーション」,「コンピュータデザイン」,「図形

と画像の処理」,「マルチメディア表現」,この 11科目で構成されている。この 11 科目については

概ね表7のように位置付けて考えることができる。

表7 専門教科「情報」の科目構成 分野

システム

設計・管理分野共通分野

マルチ

メディア分野

基礎的

科目

「情報産業と

社会」 「情報と表現」

応用選択

的科目

「アルゴリズ

ム」 「情報システ

ムの開発」 「ネットワー

クシステム」

「モデル化と

シミュレー

ション」

「コンピュー

タデザイン」 「図形と画像

の処理」 「マルチメデ

ィア表現」 総合的

科目

「課題研究」 「情報実習」

まず,基礎的科目としては「情報産業と社会」,

「情報と表現」の 2 科目を挙げることができる。

続いて,システムの設計や管理に関する科目とし

ては,「アルゴリズム」,「情報システムの開発」,

「ネットワークシステム」,の3科目を挙げること

ができる。 マルチメディアの作品製作に関する科目として

は,「コンピュータデザイン」,「図形と画像の処 理」,「マルチメディア表現」の3科目を挙げるこ

とができる。 さらに,発展的科目としては,「モデル化とシミ

ュレーション」を挙げることができる。 実習科目としては,「情報実習」,「課題研究」の

2科目を挙げることができる。 なお,表7で示されている科目構成はあくまで

一つのモデルであるので,学校の教育目標や生徒

の実態に合わせて,それぞれの学校でカリキュラ

ムを工夫していくことが必要である。

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9 まとめ (1) 本研究の意義 本研究は,教科「情報」を担当する教師にとっ

て必要な情報であると考える。どのようなものが

必要とされているのかについて生の声を参考に開

発する内容を構成し,研究を行ってきた。 年間指導計画はどのようになるのか,授業展開

はどうなるのか,教材はどのようなものがいいの

か,などである。指導案及び教材については,全

てではないが,可能な限り,研究協力委員の先生

方の協力を得ながら実践を行ってきた。当然,各

学校の実情等もあり,すべての学校に適する指導

案というものは難しい。しかし,概ね授業のねら

いや流れを把握していただけるものになっている

と考える。 実際の活用では,本研究で開発した資料を元に,

各学校で活用しやすいように工夫していただく必

要がある。また,時代の進展に伴い,教材の中に

は現時点での情報社会を規準に作成しているもの

もあり,それらは,今後の進展に伴って修正を行

っていかなければならない。 (2) 年間を通してのカリキュラム評価 先にも述べたように,本研究で開発した指導案

等はすべて授業実践を行っているわけではない。

特に年間を通しての実践は必要不可欠のものであ

ると考える。いよいよ来年度より,教科「情報」

の授業が開始される。それに併せて県内のいくつ

かの学校にご協力を得ながら,年間を通した活用

を図り,その中で,本カリキュラムが本当に活用

できるものかどうかを評価し,改善を行っていか

なければならない。 (3) 他教科との連携によるバランスの取れた情

報教育の指導の在り方 情報教育は一部の教科だけで行うものではなく,

学校全体の教育活動の中で行うものである。従っ

て,従来のような各教科個々に学習計画を立てる

のではなく,各教科が連携を図りながら計画しな

ければならない。たとえば,インターネットを使

った調べ学習を取り入れる教科がある時期に重な

れば,当然施設に無理が生じる。そのためにも各

教科で話し合い,適切な学習計画を立てなければ

ならない。その中核教科として教科「情報」が位

置しており,各教科が学習効果を高めながら情報

教育についても育成していくことができるような

授業展開が求められる。したがって,学校全体の

カリキュラムについても今後検討しなければなら

ない課題といえる。 10 おわりに 平成 11 年度秋,平成 12 年度から3年間実施さ

れる「新教科『情報』現職教員等講習会」の実施

計画を行った。当時,まだ学習指導要領解説もな

く,教科書はまだ各出版社ともこれから製作する

という頃であった。新聞では「高等学校でもコン

ピュータ学習」という見出しで大きく取り上げら

れたが,逆にこれが先生方に対する教科「情報」

への間違ったイメージを与えてしまったかもしれ

ない。ある程度コンピュータ操作について指導す

ることは当然あるが,あくまでそれは「道具」の

使い方であり,ねらいではない。振り返れば,そ

の理解に時間を費やしたことが思い出される。ま

た,講習会で付与される免許は普通と専門の区別

はなく「教科『情報』」の免許として付与されてい

る。免許を保有する教員は専門教科「情報」の指

導もできなければならい。講習会ではその多くを

専門教科「情報」の内容に充てられているため,

なおさら受講された先生方のイメージがネットワ

ークの仕組みや難しい画像処理等に意識が注がれ,

情報技術教育と感じてしまう部分も少なからずあ

った。 この普通教科「情報」の実施を目前に,今後情

報社会で生きていく子供たちが,「情報」とうまく

付き合いながら生きていくことができるように,

そして,決してコンピュータによる情報処理教育

にならないように願って止まない。 後に,本研究を進めるにあたり,協力いただ

いた多くの研究協力委員の方々に感謝を申し上げ

る。 なお,本研究の一部は,福武教育振興財団の助

成により進められたものである。ここに謝意を表

する。

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<参考文献> ・高等学校学習指導要領 (文部省 平成 11 年3月)

・高等学校学習指導要領解説 「情報」編 (文部省 平成 12 年3月)

・情報教育の実践と学校の情報化 (文部科学省 平成 14 年6月) ・岡山県情報教育センター研究紀要第一号 (平成 13 年4月) ・岡山県情報教育センター研究紀要第二号 (平成 14 年4月) <研究協力委員> 蟻正 聖登 岡山県立岡山朝日高等学校教諭 谷本 泰正 岡山県立岡山芳泉高等学校教諭 松本 佳久 岡山県立岡山芳泉高等学校教諭 竹内 尚則 岡山県立岡山城東高等学校教諭 藤島 誠 岡山県立高松農業高等学校教諭 楢原 靖 岡山県立岡山工業高等学校教諭 林 嘉樹 岡山県立岡山東商業高等学校教諭 晴田 和夫 岡山県立水島工業高等学校教諭 桑田 卓己 岡山県立倉敷商業高等学校教諭 川井 敏之 岡山県立倉敷商業高等学校教諭 福田 邦男 岡山県立津山高等学校教諭 濱田 浩昭 岡山県立津山工業高等学校教諭 花谷 智行 岡山県立津山工業高等学校教諭 山口 裕行 岡山県立琴浦高等学校教諭 高槻 信博 岡山県立井原高等学校教諭 竹中 誠 岡山県立井原高等学校教諭 土肥 直樹 岡山県立精研高等学校教諭 芦田 正徳 岡山県立新見高等学校教諭 草野 泰秀 岡山県立玉野光南高等学校教諭 長谷川博之 岡山県立玉野光南高等学校教諭 堤 真理子 岡山県立落合高等学校教諭 三村 光 岡山県教育庁指導課職業指導係

指導主事

なお,岡山県情報教育センターでは,次の者が

本研究に当たった。 中西 崇 研修課指導主事(◎主査) 関 和久 研修課指導主事 岡野 和真 研修課指導主事 熊代 徹 研修課指導主事