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阪大物理学オナーセミナー (担当:久野、長島)Note 2 20 4 27 2 場の量子論 する あり、そ つゲージ たす ある。 学に わせた ある。 にあたって した エネルギー あった。 エネルギー いが、 エネルギー 題を って むこ にする。 2.1 負エネルギーの困難 クライン・ゴードン方程式 学から を演 して [ x, p] = i~ (1) するこ により きる。あるい kω を、エネルギー・運 E = ~ω, p ~k (2) して扱って ある。 から し、 から して る。( ) 学が アプローチを、 アプローチを る。 一つ して (1) たすように、 p →−i~, E i~ t (3) えをすれ エネルギー・運 から E = p 2 2m + V ( x) i t ψ(t, x) = [ 2 2m + V ( x) ] ψ(t, x) (4) シュレーディンガー 移るこ きる (第1 )V = 0 して しよう。 に扱って すれ シュレーディンガー られる あろう えられる。 つエネルギー運 E 2 = ( pc) 2 + (mc 2 ) 2 (5) に、Eq. (3) きを クライン・ゴードン (KG) [ 1 c 2 2 t 2 −∇ 2 + ( mc ~ ) 2 ] φ(t; x) [ µ µ + m 2 ] φ( x) = 0 * 1) (6) られる。しかし、φ をシュレーディンガー じように、1 じる。確 つために 、そ (カレント) して、 () たさ けれ い。 ∂ρ t + ∇· j = 0 (7) * 1) 、慣れ 位が じるが、 って してください。 µ (µ = 0 3) = ∂/∂x µ = (0 ; ),∂ µ = (0 ; −∇), x µ = ( x 0 = ct; x)。また 位を ~ = c = 1れた する。す わち µ µ = 3 µ=0 µ µ 1

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阪大物理学オナーセミナー (担当:久野、長島):Note 2 平成 20年 4月 27日

2 場の量子論

素粒子を記述する数学的枠組みは場の量子論であり、その中の標準理論は特別な対称性を持つゲージ原理を充たす場の量子論である。場の量子論は量子力学に特殊相対論を組み合わせた理論である。量子力学の相対論化にあたって最初に遭遇した困難は負エネルギー粒子の存在であった。場の量子論では負のエネルギー粒子問題は存在しないが、負エネルギー粒子問題を解く過程は教育的に有用な概念を含むので、歴史を追って場の量子論の初歩、場の量子化の理解に取り組むことにする。

2.1 負エネルギーの困難

クライン・ゴードン方程式 古典力学から量子力学への移行は、粒子の位置と運動量を演算子化して

[x, p] = i~ (1)

を要求することにより達成できる。あるいは波数 k、振動数 ωを持つ波を、エネルギー・運動量

E = ~ω, p=~k (2)

を持つ粒子として扱っても可能である。前者は粒子像から出発し、後者は波動像から出発して量子論に入る。(非相対論的)量子力学が基本的に前者のアプローチを、場の量子論が後者のアプローチをとる。前者の方法の一つの例として関係式 (1)を満たすように、

p→ −i~∇, E→ i~∂

∂t(3)

の置き換えをすれば、古典的な粒子のエネルギー・運動量の関係式から

E =p2

2m+ V(x) ⇒ i

∂tψ(t, x) =

[−∇

2

2m+ V(x)

]ψ(t, x) (4)

シュレーディンガー方程式へ移ることができる (第1量子化)。今 V = 0として自由粒子を考察しよう。質点粒子を相対論的に扱って量子化すれば、相対論的なシュレーディンガー方程式が得られるであろうと考えられる。特殊相対論で粒子が持つエネルギー運動量関係式

E2 = (pc)2 + (mc2)2 (5)

に、Eq. (3)の手続きを施せばクライン・ゴードン (KG)の方程式[1c2

∂2

∂t2− ∇2 +

(mc~

)2]φ(t; x) ≡

[∂µ∂

µ +m2]φ(x) = 0 *1) (6)

が得られる。しかし、φをシュレーディンガー方程式の波動関数と同じように、1粒子の確率振幅と見なすと矛盾が生じる。確率振幅の解釈が成り立つためには、その流れ (カレント)が存在して、連続の方程式 (確率の保存則)を充たさなければならない。

∂ρ

∂t+ ∇ · j = 0 (7)

* 1) 時折、慣れない相対論的記法や自然単位が混じるが、練習と思って我慢してください。∂µ (µ = 0 ∼ 3) = ∂/∂xµ = (∂0;∇), ∂µ =(∂0;−∇), xµ = (x0 = ct; x)。また自然単位を使えば ~ = c = 1。同じ指標が上下に現れたときは和を採ると約束する。すなわち∂µ∂

µ =∑3µ=0 ∂µ∂

µ。

1

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カレントをシュレーディンガー方程式での定義に従って

j = − i2m

[φ†∇ · φ − (∇ · φ†)φ] (8)

と置いて、クライン・ゴードン方程式を使えば

−∇ · j = i2m∇ ·

[φ†∇ · φ − ∇ · φ†φ

]=

i2m

[φ†∇2φ − ∇2φ†φ

](6)===

i2m

[(φ†∂2φ

∂t2+m2φ†φ

)−

(∂2φ†

∂t2φ +m2φ†φ

)]=∂

∂t

[i

2m

(φ†∂φ

∂t− ∂φ

∂tφ

)] (9)

従って

ρ =i

2m

(φ†∂φ

∂t− ∂φ

∂tφ

)(10)

となるが、クライン・ゴードン方程式 (6)は時間に関して2階の微分方程式であるので、初期条件として t = t0での φと ∂φ/∂tの二つの値を与えなければならない。逆に言うと ρは任意の値すなわち負値もとれることを意味し、確率としての意味づけができない。特別な場合として平面波

φ(k) = φ0e−iωt+ik·x, ω =√

k2 +m2 (11)

はクライン・ゴードン方程式の解である。この解について j µ = (ρc, j)を計算してみると

j µ =|φ0|2m

(ω, k) (12)

となって、ω < 0の解が負の確率を与えることが判る。歴史上、クライン・ゴードン方程式は一旦は物理的意味が無いとして捨てられたが、これを古典的な場と再解釈して、場をもう一度量子化 (第2量子化)することにより、スピンゼロの相対論的スカラー場として復活したのである。φを場とすれば、 j µ = (ρ, j)は電荷密度および電流密度として解釈できる量で*2) 、負エネルギー解は単に負電荷の電流を表し何の矛盾も生じない。

2.2 負エネルギー粒子の解釈;歴史的経緯

2.2.1 ディラックの海と空孔理論

ディラックが、相対論的なシュレーディンガー方程式すなわちディラック方程式を導いたとき、やはり負エネルギー解が現れた。しかし、ディラック方程式にクーロンポテンシャルを入れて解いた式は、水素原子のエネルギー準位構造を見事に再現できた。また、磁場中での電子が磁気能率 µe = ge~/2m, g = 2

を持つこともきれいに再現したので、ディラックは方程式の正しさを確信した。そうであるならば負エネルギー状態の存在には正当な理由があるはずである。しかし、負エネルギーレベルの存在は粒子を不安定にする。エネルギーを放出してより大きな負エネルギーを持つ状態に際限なく落ち込むからである。

復習: 回転する電荷という古典的描像からは、必ず g = 1となるので、電子の持つ g = 2は当時の謎であった。古典電磁気学では磁気双極子能率 µは円電流であり、電流を j、閉ループの面積を Sとすれば µ = jSで表される。円電流が速度 vで回転する電荷 eの粒子であるとすれば、

µ = jS = eνS = e(v/2πr)(πr2) = (e/2m)(mvr) = (e/2m)L

である。量子力学では L→ s~と置いて、µ = g(e~/2m)sとなるから g = 1である。* 2) 実際のクライン-ゴードン場の電流は因子 2mをとって定義する。

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図 1: (左)真空は負エネルギーの電子準位が全て詰まって居る状態。エネルギーを与えてある電子を励起すると、空孔が作られる。(右)空孔は電子と逆方向に移動する。電荷は正の電子のように振る舞う。

図 2: アンダーソンの霧箱写真による陽電子の発見(1933年)。入射した宇宙線の中の荷電粒子は、磁場により円弧を描く。粒子は厚さ 9ミリの鉛板を貫いた後は減速されるので円弧の曲率が大きくなる。上の円弧の曲率が下の円弧の曲率より大きいので、荷電粒子は下から上へ突き抜けたことが判る。運動方向と磁場により曲げられる方向から正電荷を持つ粒子と分かり、鉛を貫く前後の曲率の差から鉛中でのエネルギー損失量から粒子の質量が推定できる。少なくも陽子よりはずっと軽いことが結論された。

 そこで、ディラックは負のエネルギーレベルは全て詰まっていて、パウリ排他原理により E > 0の粒子は E < 0状態に落ち込めないとした。これをディラックの海と言う。しかし、ディラックの海があるとすると新しい事態が持ち上がる。ディラックの海の正エネルギー準位と負エネルギー準位の間には 2mc2だけのギャップが存在するが、それより大きいエネルギーを与えると負のエネルギーレベルに居た粒子 (電子)が励起されて正のエネルギー状態に上がることができ、通常の電子が現れるとともに、負のエネルギー状態に一つ穴 (空孔)ができる (図 1左図参照)。すなわち、十分なエネルギーを与えると真空から粒子と空孔が発生する。 空孔はどのように振る舞うであろうか? 図 1右図に空間的に負のエネルギー電子と空孔を配置した様子を示す。ここに電場を掛けてみよう。電子は負の電荷を持つから電場と反対方向に動くであろう。結果として空孔は電場の向きに動くから、空孔は正の電荷を持つ粒子として振る舞い、かつ運動量は負エネルギー電子の運動量とは逆となろう。空孔はあたかも正のエネルギー、負の運動量、反対電荷を持つ粒子のように振る舞うので、これを反粒子と名付ける。負エネルギー粒子を空孔に入れれば真空となるので、反粒子の持つ量子数は粒子の量子数の符号を逆にしたものとなる。例えば反粒子のスピンの成分は粒子の逆である。ディラックは当初陽子が電子の反粒子ではないかと考えたらしいが、反粒子は粒子と同じ質量を持たねばならないのでこの考えは捨てられ、新粒子としての反粒子の存在を予言したのである。ディラック方程式は 1928年に発見され、1933年にアンダーソンが宇宙線の中から陽電子を発見して反粒子の存在が証明された(図 2

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参照)。

2.2.2 時間を逆行する粒子

反粒子の存在は確かめられたが、ディラックの空孔理論はパウリ排他原理の効かないボソンには通用しない*3) 。排他原理を使わずに反粒子を説明するため、空孔理論においては負エネルギー電子がどのように振る舞うかを見てみよう。例えばエネルギー・運動量 p1, q1を持つ粒子と反粒子が散乱をし、p2, q2

になるとしよう。散乱行程をp1 + q1→ p2 + q2 (13)

と書く。空孔理論では q1を持つ空孔が q2になるのであるが(図 3(a)AA(a)参照)、実際に起きていることは −q2を持つ負エネルギー粒子が −q1を持つ電子の穴に移行することであり、負エネルギー電子の立場で散乱行程を描けば

p1 + (−q2)→ p2 + (−q1) (14)

−q2電子の移動(散乱)は −q1の穴を塞ぐことに先行することに注意しよう。実際に観測されるのはEq. (13)であるが、数学的概念としては Eq. (14)が起きていると考えるべきであり、この場合負エネルギー粒子は時間的には −q2状態から −q1状態になる。観測現象としては q1が q2になるのであるから、負エネルギー粒子は時間を逆行している。すなわちエネルギー・運動量 (−E, −p)を持つ負エネルギー粒子が時間を逆行すると、(E, p)を持つ反粒子として観測されると解釈する(図 3(a)AA(b)参照)。線に付けた矢印は時間の向きを示す。もちろん実際には時間を逆行する粒子は存在しないが、ディラックの海を使わずに種々の現象を数学的に解釈できる便利な道具になることを、ファイマンとシュトゥッケルベルグが見出したのである。

(a)A A(b) BB

図 3:図 (a)AA: (a)ディラックの海の中の空孔が電子と散乱する。(b)負エネルギーの電子が時間に逆行する。図 (b)BB:時間逆行を許すと粒子・反粒子対が現れる。(a)通常散乱(b)時間逆行散乱。観測上は時間逆行は無いから、時刻t = t2 に反粒子Bと粒子Cが現れると解釈する。反粒子Cと当初の粒子Aは時刻 = t3 に対消滅をして消え、粒子Cが進行を続ける。(c)ハイゼンベルグの不確定性原理の許す範囲内で多数の粒子対が現れる。

* 3) 空孔というアイデアは有用であり、今日の物性理論で常用されている。絶対温度ゼロの基底状態では、物質内の多量の電子はフェルミレベルまで充満している。これを真空と考えると有限温度では電子がフェルミレベルより上に励起され、同時に空孔も作られる。種々の現象が粒子と空孔の相互作用から説明できる。

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今、波動関数ではなくスピンゼロのクライン-ゴードン方程式に従う波動場を考えよう。負の振動数・負の波数ベクトル k µ = (−ω, −k)を持つ波は

e−i[(−ω)t−(−k·x)] = e+i[(−ω)(−t)−(−k)·(−x)] = ei[ω t−k·x] (15)

すなわち負振動数を持つ波を量子化して、エネルギー・運動量 pµ = ~kµ = (−E > 0, −p)を持ち時間・空間ともに逆方向に進む粒子と見なせば、波動としては位相の符号のみが変わり、運動状態としては正の振動数を持つ波を量子化した粒子と同じ振る舞いをする。負のエネルギー、負の運動量 pµ = (−E > 0, −p)

を持つ平面波 ϕ = Ne−ip·x = Ne−iE t+ip·xの作る電流は

jµ = q|N|2(−|E|, −p) = −q|N|2(|E|, p) (16)

となり正振動数の波動と同じカレント(ただし異符号)を生じる。従ってクライン-ゴードン方程式の ϕ

を相対論的波動関数ではなく古典場と考えた上で量子化すれば、負エネルギー解は単に負振動数解となり何の矛盾も生じない。 時間を逆行する粒子という概念は場を量子化すれば不要となるが、この概念自体が新しい事態を予言する。図 3(b)BBを眺めて見よう。(a)の軌跡は通常散乱をくり返しながら進行するが、軌跡 (b)では散乱により時間を逆行する状態に変わる。しかし、観測上は時間逆行はあり得ない。現象としては t = t2で、元の粒子の近傍に突如として反粒子Bと粒子Cの対が現れ、時刻 t = t3で反粒子Bは元の粒子Aと対消滅し、粒子Aに代わって粒子Cが進行を続ける。(c)ではハイゼンベルグの不確定性原理の許す範囲内では、多数の粒子が現れ得る。以上の現象は、真空が安定ではなく粒子・反粒子の対を常時生成消滅しており、粒子の軌跡発展方程式には真空のゆらぎを考慮に入れなければいけないことを意味する。ともあれ、ディラックの海にしろファイマン・シュトゥッケルベルグの時間逆行説にせよ、粒子を相対論的に扱うと、多粒子状態が必然的に出現することを意味する。相対論的波動方程式の矛盾は負の確率だけではない。そもそも1粒子波動関数のみを扱うシュレーディンガー方程式自体が破綻するのである。こうして、相対論的取扱では、場の導入は必然であり、場の量子化によって多体問題を含めた粒子の消滅生成反応が取り扱えるようになる。以下では場の量子化に取り組む前に、素粒子論で扱う場の物理的概念をまず把握しよう。

2.3 古典場の力学振動モデル

図 4:場の力学的振動モデル

この節では、場の物理的イメージを明らかにすることを主眼とする。古典場の物理的なイメージを把握するために、空間に分布するN個の力学的連結調和振動子 (図 4)が、N→ ∞の極限で波動方程式を充たすことを証明しよう。調和振動子の量子化方法は既知であるので、場が調和振動子の集合体であるならば、場の量子化も同様にして行える。数学を簡単にするために1次元の連結振動子の縦振動を考える (図 5)。ばねにつながれた質点 (質量m)からなる単振子は単振動をするが、それは距離に比例する復元力と慣性力を併せ持つからである。変位があると復元力が発生し、質点を元に戻そうとするが、質量の持つ慣性の

ためにもとの平衡位置を越えて戻りすぎるため振動が生じる。この振動を空間的に次の地点へ伝えるためには、この単振子を次の単振子に繋いで揺さぶればよい。自身の振動も前の単振子に揺さぶられるので、進行波の中の振動子は両側から力を受けていることになる。そこで今、全長 L、間隔 aで繋がった

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図 5: N 個の質点が長さ aのばねで繋がれている。揺さぶりの結果生じる n− 1, n, n+ 1番目の質点の変位を un−1, un, un+1 とする。

N個の質量mの質点による連成振り子を考える。n− 1, n, n+ 1番目の質点の変位を un−1(t), un(t), un+1(t)

としよう。この質点の運動方程式は

md2un

dt2= k(un+1 − un) − k(un − un−1) =

Ta

(un+1 − un) − Ta

(un − un−1) (17)

と書くことができる。kはばね定数であるが、ばねの持つ性質としてもともと張力 Tを持っており、相対的な伸張∆a/aに対して、T∆a/aの力が働くものとすれば、k = T/aとなる*4) 。第1項は右隣 (n+1番目の質点)から受ける力、第2項は左隣 (n−1番目の質点)から受ける力を表す。ここで全長と張力Tを一定にしたままで、質点の数Nを十分大きくすると、aは十分小さい量となるから L = (N+1)a, x = na, ∆x = a

と置き換え、un−1, un, un+1を u(x−∆x), u(x), u(x+∆x)と名前の付け替えをすると次のように書き直せる。

m∂2u

∂t2(x, t) = T

[u(x+ ∆x, t) − u(x, t)

∆x− u(x, t) − u(x− ∆x, t)

∆x

](18)

両辺を a = ∆xで割って質量の線密度m/a = σを定義し、u(x+ ∆x, t) − u(x, t)

∆x≃ ∂u∂xを使えば

σ∂2u

∂t2(x, t) ≃ T

1∆x

[∂u∂x

(x, t) − ∂u∂x

(x− ∆x, t)

]≃ T

∂2u

∂x2(x, t) (19)

∴1v2∂2u

∂t2− ∂

2u

∂x2= 0 v =

√Tσ

(20)

すなわち波動方程式を得る。ここでは縦波を考えたが、この方程式は弦の横波を記述する波動方程式と同一であることは力学で習ったろう。

ここで全系のハミルトニアンを計算しておこう。式 (17)の両辺に dun/dtを掛けて積分し、和を採る。簡単のため両端に固定した質点を加え、u0 = uN+1 = 0という境界条件を設定しておくことにすれば、和はn = 0から n = Nまでとなる。

H =N∑

n=0

[12

mu2n +

12

T(un+1 − un)2

a

]a→∆x======

N∑n=0

∆x

[12σu2

n +12

T(un+1 − un

∆x

)2]

∆x→0−−−−→∫

dx

12σ

(∂un

∂t

)2

+12

T(∇u)2

(21)

* 4) フックの法則はばねの自然長を a0、伸びを ∆aとして生じる力を f = k∆a = ka∆a/a = T∆a/aと表せる。通常、自然長 a0

が有限値をとるのは、ばねが作る弾性体が有限の太さ=直径を持っているからであり、直径を小さくしてゆけば当然 a0も小さくなる。kが定数であるのは ∆a≪ a0 の場合であり、∆aが大きくなれば kも大きくなるので、ka= T =定数とする方がこの状況では合理的である。変形する固体弾性体に働く力はヤング率 Yで表せ、相対的伸張に比例する (F/S = Y∆a/a)ので、ばね定数 kは元々YS/a→ kの置き換えで与えられていたと考えても良い。

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ただし、u = ∂u/∂t, u = ∂2u/∂t2を表す。ポイント: 振動を空間に伝播させて波動を起こすためには、着目している部分が隣から力を受けて反対側の隣に力を渡す必要があり、その各々の力の大きさが変位の差に比例するため、実際に掛かる力は変位の差の差、つまり2回差分となる。隣との距離が十分小さくしゼロに近づければ2階微分となる。時間微分が波の振動を、空間微分が隣の振動子との相互作用、すなわち空間伝播を表すことに留意しよう。この場は空間の各地点で定義されているので*5) 、”x” という番号付けをした振動子の集合体である。この振動子は互いに相互作用をすることにより波動を起こす。ここで適当な座標変換をして基準モード(補遺 §A.1参照)に移ると、各基準モードの波は他のモードとは独立な固有振動を持ち空間を伝播する一つの波を表す。すなわち基準モードで考えれば、場は波動モード間に相互作用の無い同数の振動子の集合体となる。

演習問題 2.1.図 5の連結振り子が重力の影響下にある場合、各振動子の水平方向の振動は変位距離に比例する復元力を受ける。この時は方程式 (20)は

図 6:重力下の連結振り子。振り子の長さ = ℓ、重力加速度 = 1

1v2∂2u

∂t2− ∂

2u

∂x2+ω2

0

v2u = 0, ω2

0 =g

ℓ(22)

となることを示せ。

重力は各振動子に独立に働く外力であるので、重力による振動子間の相互作用はなく、ハミルトニアンは次のようになる。

H = T∫

dx

12

(1v

∂u∂t

)2

+12

(∇u)2 +ω2

0

v2u2

(23)

u→√

Tu, v → c, ω0/v → mc/~とおけば、これはクライン・ゴードン(KG)方程式である。すなわち、KG方程式に従う場とは、空間に連続分布していてかつ外場の影響を受ける振動子 (力学的振動子に限る必要はない)の集合体ということができる。これは波を伝える媒体となる。波を量子化すると外場の影響は粒子の質量項となる。このことは素粒子の質量の起源を考える上で暗示的である。

* 5) 場の型式的な定義は、空間のあらゆる場所で定義されている物理量 ψ(x)のことを言う。ここでは場を波動場という狭い意味で使っている。

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2.4 場の量子化

2.4.1 準備:調和振動子の量子化

量子化手続きにはハミルトニアンを使う正準形式が用いられる。一粒子が調和振動を行う場合のハミルトニアンは、式 (24)で与えられる。

H =p2

2m+

mω 2

2q2 (24)

調和振動子の運動方程式を具体的に計算すると

q =∂H∂p=

pm, p = −∂H

∂q= −mω 2q (25a)

∴ q = −ω 2q (25b)

ここまでは古典論である。ここで[q, p] = i~ (26)

という量子化条件を課し、qや pはハイゼンベルグの運動方程式(補遺 §A.2)

i~dOdt= [O, H] (27)

に従う演算子と見なせば、量子力学に移行できる*6) 。

演習問題 2.2.ハミルトニアン Eq. (24)を演算子の式であるとみなせば、Eq. (27)から Eq. (26)を使って、Eq. (25)が導けることを示せ。

さらに

q =

√~

2mω(a+ a†), p =

1i

√m~ω

2(a− a†) (28)

を導入すると量子化条件は、[a, a†] = 1 (29)

ハミルトニアンおよび演算子 (a, a†)の運動方程式は

H = ~ω

(a†a+

12

)≡ ~ω

(N +

12

)(30a)

a = −iωa, a† = iω a† (30b)

と書き換えられる。したがってa = a0e−i~ω t, a† = a†0ei~ω t (31)

以下、a0, a†0を改めて a,a†と書き、自然単位 (~ = c = 1と置く単位系 §A.3)を採用する。次に示すよう

に N = a†aの固有値は正の整数値である。このことから調和振動子のエネルギー準位間隔は全て等しい(∆E = ~ω)と言う特徴を持っ。

演習問題 2.3. ハミルトニアンとして (30a)を使い、量子化条件として (29)を使えば、演算子 a, a†が調和振動子であること、すなわち (a = −ω 2a)を充たすことが導けることを示せ。

* 6) ハイゼンベルグ表示では演算子が時間に依存するが、状態は時間に依存しない。シュレーディンガー表示では、時間依存性は状態 (波動関数)にあり、演算子は時間に依存しない。E = H において、E→ i~d/dt, p→ −i~d/dxと置き換え波動関数にかかる演算子と見なせば、やはり量子力学に移行しシュレーディンガー方程式が得られるが、この時の演算子は時間依存性を持たない。

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生成・消滅・個数演算子 N ≡ a†aで定義される演算子は、正の整数固有値を持ち、数を表す個数演算子であることを示そう。

N|n >= n|n > (32)

となる固有状態 |n >を考える。交換関係 (29)を使えば

Na†|n > = a†aa†|n >= a†(1+ a†a)|n >= (n+ 1)a†|n > (33a)

Na|n > = a†aa|n >= (aa† − 1)a|n >= (n− 1)a|n > (33b)

であるから、a†|n >, a|n >もまた、Nの固有状態であり、その固有値は (n± 1)である。従って a, a†は固有値 nをそれぞれ ±1だけ変える演算子である。状態の規格条件を

< n|n >= 1, a|n >= cn|n− 1 > (34)

と置くとn =< n|N|n >=< n|a†a|n >= |cn|2 < n− 1|n− 1 >= |cn|2 → cn =

√n (35)

ここで、cnが実数になるように位相を選んだ。(33)により a†, aは、|n >と |n± 1 >の間でのみゼロでない行列要素を持つ。

|n >= a†|n− 1 >cn

=(a†)2|n− 2 >

cncn−1= · · · = (a†)m

cncn−1 · · · cn−m+1|n−m> (36)

aを何回も演算するといずれは負の固有値になるが、(35)により n ≥ 0でなければならない。矛盾を避けるためには最小の固有値 n=0を持つ固有状態 |0 >が存在し

a|0 >= 0, N|0 >= 0 (37)

が必要となる。これを基底状態もしくは真空状態と呼ぶことにする。任意の状態は、式 (36)を使えば、|0 >に a†を乗じて得られることが判る。

|n > = (a†)n

√n!|0 >, N|n >= n|n > (38a)

H|n > = ω(a†a+

12

)|n >= ω

(n+

12

)|n > (38b)

となり、エネルギーは ω の整数倍の値だけ許される。

1体の調和振動子を考える限り、これはエネルギーが基底状態の整数倍に等しいという事実を示すだけにすぎないが、これが後に場の量子化に際して重要な役割を果たす。すなわち粒子のエネルギーが n倍になるのではなく、エネルギー ω を持つ粒子が n個生成されたと考えるのである。そうすると N = a†a

は粒子の数演算子を表し、ハミルトニアン H = ω a†aは N個の粒子のエネルギーを表す。a, a†は粒子の消滅・生成演算子と解釈できる。なお、ハミルトニアンにある 1/2の項は、ゼロ点エネルギーと呼ばれる。調和振動子の場合は、粒子がポテンシャルに閉じ込められた結果生じる場所の不定性に伴うポテンシャルエネルギーの不確定性と、位置の不確定性に伴う運動量したがって運動エネルギーの不確定性とが釣り合い、基底状態でも最低限必要なエネルギーとして現れると考えられる。すなわち、不確定性原理に伴う量子ゆらぎエネルギーを表すものと考えられる。場の理論では発散する真空エネルギーとなる。通常、観測にかかるエネルギーというのは、ある基準点からの値、すなわちエネルギーの差を扱うので、無限大のエネルギーでも定数である限り問題となることはない。ただし、重力が絡むときはエネルギーの絶対値が問題となる。

9

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フェルミオンの量子化 調和振動子は、q = −ω 2qという方程式に従うが、この方程式は、ハミルトニアン (24)と q, pの交換関係 (26)から、ハイゼンベルグの運動方程式 (27)を使って導けた (組み合わせ A)。一方、ハミルトニアン (30a)と a,a†の交換関係 (29) (組み合わせ B)から、aがやはり調和振動子であることを導けた (演習問題 2.3)。この (q, p)と (a, a†)は式 (28)で結びついており、どちらの組み合わせから出発しても他方を導けるので、組み合わせAと組み合わせBは同等である。ところで、組合わせBを出発点にとると、交換関係 (29)は唯一の選択ではない。反交換関係

[a, a†]+ ≡ a, a† ≡ aa† + a†a = 1

a, a = a†,a† = 0(39)

を要求しても、ハイゼンベルグの運動方程式から調和振動子であることは導ける。

演習問題 2.4.ハミルトニアン Eq. (24)と Eq. (39)から、ハイゼンベルグの運動方程式を使って、a, a†が調和振動子の方程式を充たすことを示せ。

しかし、この場合の個数演算子の固有値は

N2 = a†aa†a = a†(1− a†a)a = a†a = N

∴ N = 1, 0(40)

となり、N=1または 0の固有値しかとれない (フェルミ統計)。固有ベクトルは |1 >, |0 >のみである。また

Na†|0 >= a†aa†|0 >= a†(1− a†a)|0 >= a†|0 > (41)

であるから、a†|0 >は Nの固有値が 1の固有ベクトルである。従って

a†|0 >= |1 > (42)

同様にしてa|1 >= |0 >, a|0 >= 0, a†|1 >= 0 (43)

結局、a, a†は消滅生成演算子としての解釈が成り立つが、反交換関係を充たす系では、状態を指定すると粒子は最大1個しか入れない。このような粒子をフェルミ粒子と言う。この生成消滅演算子から (28)

を使って q, pに直したハミルトニアンはH = iωqp (44)

であるので、古典的解釈が付けられず純粋に量子力学的概念である。ただし、a, a†で表すと

H = ω

(a†a− 1

2

)(45)

となり、妥当な解釈が可能である。なお、交換関係 (29)を充たす系は、一つの状態に何個でも粒子が入れる。これをボーズ統計に従うという。一般に整数スピンを持つ粒子はボーズ粒子(ボソン)であり、半奇数スピンを持つ粒子はフェルミ粒子(フェルミオン)である。これをスピンと統計の関係と呼ぶ。

10

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2.4.2 クライン・ゴードン方程式の量子化

クライン・ゴードン方程式は次式で与えられる。とりあえず実場 ϕを考える。[1c2

∂2

∂t2− ∇2 +

(mc~

)2]ϕ(t; x) ≡

[∂µ∂

µ +m2]ϕ(x) = 0 (46)

KG方程式を導くラグランジアンを与えれば、エネルギー・運動量などの物理量はラグランジアンから求めることができる。KG場のハミルトニアンは次のように表される。本来はラグランジアンから出発して、運動方程式やハミルトニアンなどを導くべきであるが、ここでは証明を省略し、力学モデル (Eq. (23))

からの類推で我慢しよう。

H =∫

d3x12

[(∂ϕ

∂t

) (∂ϕ

∂t

)+ (∇ϕ · ∇ϕ) +m2ϕϕ

](47)

固有振動解を求めるために場をフーリエ展開して、

ϕ(x) =∑

k

Q (k; t) eik·x *7) (48)

と置きKG方程式に代入すると∑k

[∂2Q

∂t2+ (k2 +m2)Q

]eik·x ≡

∑k

[∂2Q

∂t2+ ω2Q

]eik·x = 0 (49a)

∴ Q = −ω2Q, ω2 = k2 +m2 (49b)

これはQ(k; t) = Qke±iω t (50)

という固有振動解を持つ調和振動子である。すなわち、場は波数 k とそして振動数 ω =√

k2 +m2を持つ調和振動子の集合体である。これは基準振動であり、各基準モードの波は他のモードとは独立な固有振動を持ち空間を伝播する一つの波を表す。すなわちクライン・ゴードン場は波数 kで区別 (番号付け)

される無限個の互いに相互作用をしない波動の集合体(自由場)である。 場が調和振動子の集合体であるならば、量子力学で学習した方法で量子化ができる (場の量子化または第2量子化と言う)。調和振動子のエネルギー準位は E = n~ωで表されるが、ここでエネルギー準位が n~ωではなく、「運動量 p = ~k, E = ~ωを持つ粒子が n個ある状態」という再解釈を行うと、場の量子論へ移ることができる。量子化すると振幅は c-数ではなく q-数 (演算子)となるので、場 ϕも演算子となる。Eq. (48)を (47)に代入し、Qk = Pkとするとハミルトニアンは

H =∑

k

(12

P2k +

12ω2Q2

k

)(51)

と調和振動子のハミルトニアンの和で書き表された。後は、前節で行った量子化をそのまま踏襲すればよい。簡単のため ϕが実場であるとし、Qもまた実であるようにして、指標を波数 kから運動量 pに置き換えると

Qp =

√1

2EV(ape−ip·x + a†peip·x), Pp =

1i

√E2V

(ape−ip·x − a†peip·x) (52a)

p · x ≡ Et− p · x *8) Vは波動関数規格化の体積である。 (52b)

* 7) 一般には e±ik· の任意の線形結合を使っても、議論は変わらない。

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によって、消滅・生成演算子を定義し、交換関係

[ap, a†p′ ] = δp p′ , [ap, ap′ ] = [a†p, a

†p′ ] = 0 (53)

を要求する。ap,a†pは、運動量 pを持つ粒子の消滅・生成演算子と解釈できる量であり、pの異なるモー

ドは互いに相互作用をしないので、運動量の異なる ap, a†pの交換関係がゼロとなる。場とハミルトニアンは

ϕ(x) =∑

p

1√

2EV

[ape−ip·x + a†pe+ip·x] (54a)

H =∑

p

E

(a†pap +

12

), E =

√p2 +m2 (54b)

と書き表せる。

演習問題 2.5. ハミルトニアン (47)から、Eq. (54a)を使って、Eq. (54b)を導け。ヒント:次の関係式を使え。

1V

∫d3x ei(p−p′)·x = δp p′ (補遺 §A.4参照) (55)

ϕの演算する状態は (38)を拡張して

|n > ≡ |p1,p2, · · · , pn >=

∏nk=1 a(pk)

†∏k

√k!|0 >, pは同じ p(同じ状態)を持つ粒子数 (56a)

N|n > = n|n > (56b)

H|n > =∑

p

Ep

(a†pap +

12

)|n >=

∑n

n∑k=1

(Epk +

12

)|n > (56c)

|n >は、n個の粒子を含む状態であるが、それそれの運動量が異なる。ただし同じ運動量 (状態)の粒子が複数個あってもよいから、これはボース・アインシュタイン統計に従うボソンの集合体である。

場の量子論における負エネルギー問題解決法 相対論的粒子にはエネルギーが負の解がある。歴史的には物理的に意味がないとして負エネルギー解なしで理論を作る試みも行われたが、その場合因果律が破れる。相対論では負エネルギー解も必要なのである。しかし場の量子化では、負の振動数を持つ平面波の係数を生成演算子と置くことによって負エネルギーの矛盾は解決する。というより Eq. (52)の置き換えにより作った場の量子論では負エネルギー粒子の問題ははじめから存在しない。

なぜそうなるかについて、その部分をもう少し詳しく述べよう。場を消滅演算子で展開する時、正エネルギー部分と負エネルギー部分を同等に扱い、しかしそれぞれの役割を見るために分離して書こう。負エネルギー粒子の消滅演算子を ckと書けば KG場 ϕは次のように書き直せる。

ϕ(x) =∑

k

1√

2ωV

[ake−iωt + cke+iωt

]eik·x, ω =

√k2 +m2 (57)

* 8) ローレンツベクトルの内積は、A · B = A0B0 −A ·B ≡ AµBµ, Aµ = (A0, A), Bµ = (B0, B), Bµ ≡ (B0,−B)で定義される。3次元的(空間的)ベクトルは太字で表して4元ベクトルと区別するものとする。

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akはエネルギー ”ω”、運動量 kの粒子を消滅させる演算子である。とすれば、ckは、エネルギーが ” −ω”、運動量 kの粒子を消滅させる演算子と解釈したくなる。しかし今、状態 |ψ >の全エネルギーを E、全運動量を Pとすれば、状態 ck|ψ >の全エネルギー運動量は、(E + ω, P− k)となるはずである。ckの作用により系全体のエネルギーが増えているのであるから、負のエネルギー粒子を消したのではなく、エネルギー・運動量・電荷 (ω, −k)を持つ粒子が作られたと解釈する方が自然かつ論理的である。なお、これまでの議論は実場で行ったが、実場でなく複素場を扱っていれば電荷も定義できる(補遺 §A.5参照)。もし、|ψ >の全電荷がQで 1粒子の持つ電荷が qであれば、ck|ψ >の全電荷もまた Q− qとなるはずである。すなわち粒子を作ることにより電荷が減るのであるから、この粒子の持つ電荷は −qであり反粒子と名付ける。以上の議論から、負の振動数の係数は消滅演算子ではなく実は反粒子の生成演算子なのだと再解釈すれば負エネルギーの粒子は現れない。そうであるならば、エネルギー運動量 (ω, k)を持つ反粒子の生成演算子は

a†k = c−k (58)

の置き換えにより得られる。そうすれば Eq. (57)は書き直して

ϕ(x) =∑

k

1√

2ωV

[ake−iωt + a†−ke+iωt

]eik·x =

∑k

1√

2ωV

[ake−iωt+ik·x + a†ke+iωt−ik·x]

=∑

k

1√

2ωV

[ake−ik·x + a†ke+ik·x] (59)

最後の式で k µ → pµで置き換えたものは、まさにEq. (54a)を再現する。こうして負振動数部分の消滅演算子を生成演算子と再解釈して作られる粒子(反粒子)の量子数は、電荷をはじめとして全て粒子の量子数の逆、すなわちマイナス符号を付けたものになる。この性質は、ディラックの空孔理論とあっている。空孔理論では反粒子と粒子を合わせた量子数は真空の量子数になるので、反粒子の量子数は粒子の逆となる。なお、”負のエネルギーを持つ粒子が反粒子である”と言う表現をしばしば目にするが、これは誤りである。負のエネルギーを持つ粒子は存在しない。反粒子もまた正のエネルギーを持つのである。

多様な場の量子 場は物理現象のいろいろな場面で現れる。ここでは真空としての場が粒子の発生源という描像をとったが、外的状況により場の現れ方は多様である。場とは一般的には、ある種のエネルギーが空間的に拡がっている状態を表す。場が励起されるとエネルギー量子 (粒子)が飛び出す。たとえば静的電磁場には粒子は一切現れないが、場の量子論では全ての現象を量子で記述する。その考え方に従えば、電磁場は仮想フォトンの集合体である。仮想粒子 (virtualparticle)とはアインシュタインの関係式E =

√p2 +m2を充たさない粒子のことをいう。エネルギー量子ではないので粒子として観測されること

はない。電磁場を揺らせば実フォトンが飛び出してくる。古典的な電磁波は多数の実フォトンの集合体と考えられる。ある種の金属内の電子は極低温では超伝導状態になる。超伝導という特異な性質は量子力学起源であるが、超伝導状態の電子群は粒子の集合体というよりは、数の概念が適用されない拡がった連続体、つまり古典的な場として考えた方がよい。場は空間全体に拡がったエネルギーを持つ物理的実体であるが、エネルギーには強弱すなわち高低がある。エネルギーが極小値をとる近傍では、場のエネルギーは

V(q) = V(q0) + V′′(q0)(q− q0)2 + · · · (60)

と書き表されるから、場はその付近では調和振動子を生むポテンシャルの中にある。したがって q = q0

の付近では場の量子が現れる。その付近では小さいエネルギー励起が粒子として振る舞うのである。な13

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お、qは必ずしも空間座標とは限らず任意の物理量であってもよい。物性物理では条件の設定次第で様々の種類の粒子が発生する例が多数知られている。熱場の量子・フォノン、スピン (磁)場の量子・マグノン、各種励起子(電子とある種の空孔の束縛状態)等々。

A 補遺

A.1 基準振動

2個の質点の連成振動 2個の質点 (質量m、位置座標 x1, x2)がばねで連結された場合の振動 (連成振動)

を考える (図 7左図)。ばねの両端は固定し、ばね定数 kは全て等しいものとする。ハミルトニアンは運動エネルギーとポテンシャルエネルギー(3本のばねの弾性エネルギー)として求めることができる。

H = K + V(x1, x2) =12

m(dx1

dt

)2

+m

(dx2

dt

)2 + 12

[kx2

1 + k(x1 − x2)2 + kx22

](61)

2質点の運動方程式は、ω20 = k/mと置いて

d2x1

dt2= −ω2

0x1 − ω20(x1 − x2) (62a)

d2x2

dt2= ω2

0(x1 − x2) − ω20x2 (62b)

(62c)

と表せる。ここで

q1 =1√

2(x1 + x2), q2 =

1√

2(x1 − x2) (63)

と座標変換を行うと、上の方程式は

d2q1

dt2= −ω2

0q1 = −ω21q1 (64a)

d2q2

dt2= −3ω2

0q2 ≡ −ω22q2 (64b)

となって、独立に振動する二つの単振動を与える。元の座標系での二つの質点の運動は、二つの固有振動の和であり複雑な振動をする。固有振動で書けばハミルトニアンも二つの独立な振動子の和となる。

H = H1 + H2 =

12

m

(dq1

dt

)2

+12

kq21

+ 12

m

(dq2

dt

)2

+32

kq22

(65)

固有角振動数はそれぞれ ω1 = ω0, ω2 =√

3ω0である。q1だけが振動しているときは q2 = 0であるのでx1 = x2、q2のみが振動しているときは q1 = −q2であるから、q1の振動は二つの質点が同位相(共に同じ方向に動く)であり、中央のばねは伸縮せず両端のばねが伸縮する。q2の振動は逆位相 (互いに反対方向に動く)で動き、3本のばねが伸縮する。そして q2の方が高い角振動数を持つ。このように互いに連結 (相互作用)する二つの質点の運動が、適当な座標変換をすることにより独立な運動に分離されるとき、その座標系を基準座標、振動を基準振動という。

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図 7: (左)2個の連成振動 (右)N = 5の連成振動の最初の3つの基準モード。見やすいように振幅を垂直軸にとった。

N個の質点の基準振動の求め方 上の例では基準座標を直接求めたが、連結する質点の数が多くなると基準座標を直接求めることは、可能ではあるが簡単ではない。ここでは、基準モードにおける連成振動の各振幅と基準振動数のみを求めてみよう。今N個の質点が互いにばねでつながれ、かつ両端が固定されているとしよう。簡単のため、全て同じ質量m、同じばね定数 kを持つものとする。(61)(62)に対応する方程式は

H =N∑

n=0

12

m

(dxn

dt

)2

+12

k(xn+1 − xn)2

(66a)

d2un

dt2= ω2

0(un+1 − un) − ω20(un − un−1) n = 1 ∼ N (66b)

u0 = uN+1 = 0 (66c)

線型2階微分方程式の良くある解法として、un = ane−iω tと置けば式 (66)は

ω2an = ω20(2an − an+1 − an−1) (67a)

a0 = aN+1 = 0 (67b)

ここでやや天下り的であるが、an = Aeinq (68)

と置いてみよう。式 (67a)に an = Aeinqを代入すると

ω2Aeinq = ω20A[2einq − ei(n+1)q − ei(n−1)q] (69a)

∴ ω2 = ω20(2− eiq − e−iq) = 4ω2

0 sin2 q2

(69b)

実際の解としては、虚数部を採用して

an = ℑAeinq = A0 sin(nq+ ψ), A = A0eiψ (70)

と設定すれば、境界条件 (67b)より

sinψ = sin(N + 1)q+ ψ = 0

∴ ψ = 0, q =jπ

N + 1, j = 1, 2 · · · ,N

(71)

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すなわち、N個の連成振動から、N個の基準振動が得られた。元の連成振動の基準モードにおける振幅と基準振動数は

un = ℑA0 sinnqj e−iω j t = −A0 sinnqj sinω j t (72a)

ω j = 2ω0 sinq j

2, q j =

jN + 1

π, ( j = 1,2, · · · ,N) (72b)

と表される。図 7(右)にN=5の場合の j = 1 ∼ 3の基準振動を図示する。 j番目のモードには、腹が j個、節が j − 1個ある。 j = 5のモードは隣り合う質点が完全に逆方向に振動するモードとなる。

A.2 ハイゼンベルグ運動方程式

シュレーディンガー方程式は

i~∂ψ

∂t= Hψ (73)

と表される。ハミルトニアンHはいろいろな演算子 (q, p等)を含むが、これら演算子自体には時間の依存性はなく、時間依存性は全て ψに含まれている。これをシュレーディンガー表示という。以下、シュレーディンガー表示の量には添え字 Sを付け、これから説明するハイゼンベルグ表示の量には添え字H

を付けることにする。このシュレーディンガー方程式の一般解が

ψS(t) = e−iHSt/~ψS(0) (74)

と表されることは、この解を Eq. (73)に入れてみればすぐに判る。ハミルトニアン HSの中の任意の演算子OSと演算子の演算相手の状態のハイゼンベルグ表示を次式で定義する。

|ψ >H = eiHSt/~|ψS >= |ψS(0) > (75a)

OH = eiHSt/~OSe−iHSt/~ (75b)

ハイゼンベルグ表示では、時間依存性は全て演算子の中にあり、状態 (状態ベクトルともいう)は時間と共に変わらない。(75b)を使えば、演算子は

i~dOH

dt= −(HSOH −OHHS) = [OH , HS] (76)

と言う方程式を充たす。演算子としてハミルトニアン自身 HSを考えると、Eq. (75b)によって HH = HS

であるから、上式の右辺はゼロとなり、ハミルトニアン HH は時間と共に変わらない保存量である。以下ではハミルトニアンは添え字を省略して単に Hと記すことにする。そうすると演算子の充たす式は

i~dOH

dt= [OH , H] (77)

と書ける。これをハイゼンベルグの運動方程式という。ハイゼンベルグ表示の状態はEq. (75a)によってシュレーディンガー表示の状態と結びついている。

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A.3 自然単位系

全ての物理量の次元は、重さM、長さ L、時間 Tの組み合わせで得られ、[LaMbTc]の形で表される。単位としては通常 kg, m, sのMKS単位を使う。例えば速度 v、力 f、エネルギー Eの持つ次元と単位は

[v] = [LT−1] = m · s−1 (78a)

[ f ] = [MLT−2] = kg ·m · s−2 ≡ニュートン (78b)

[E] = [ML2T−2] = kg ·m2 · s−2 ≡ジュール (78c)

と表される。しかし基本量として必ずしもMLTを使う必要はなく、任意の3個の独立な物理量を基本にとっても表すことが出来る。素粒子物理学では、エネルギー ([E] = [ML2T−2])、プランク定数 (~; [~] = [ET])、プランク定数x光速度 (~c; [~c] = [EL])を基本にとる。その上で、~ = c = ~c = 1とおいて、全ての物理量をエネルギーで表すことにする自然単位を採用する。エネルギーの単位としては、ここではMeV= 106eV

を採用する。

1eV= 1.6×Coulomb· Volt = 1.6× 10−19 joule

1KeV= 103eV

1MeV= 106eV

1GeV= 109eV

1TeV= 1012eV · · · · · ·~ = 1.055× 10−34 joule · sec= 6.58× 10−22MeV · sec

~c = 1.97× 10−13MeV ·m

[M] = [E/c2], [L] = [~c/E], [T] = [~/E]であるから、

質量 (kg) =mc2

c2=

E

c2→ 質量は E (MeV)で測る。

長さ (m) =~c

1MeV= 1.97× 10−13mを単位とする。 → 長さは 1/E (MeV)で測る

時間 (sec)=~

1MeV= 6.58× 10−22secを単位とする。 → 時間は 1/E (MeV)で測る。

例1;  πの質量 µは、140 MeVである。これをm(メートル)で表すと、

~c

µc2

(=~

µc

)*9) ≃ 200MeV · 10−13MeV ·m

140MeV≃ 1.4× 10−15m

これは、核力の及ぶ範囲を表す。例2:原子の束縛エネルギーは ∼ O(KeV)である。これは、長さ ∼ 10−10m= 1

A∼原子の大きさ程度で

ある。X線の波長はこの程度であるから、X線解析は原子構造を探るに最適である。

演習問題 A.1.  微細構造定数 α = e2/4πϵ0~cが無次元の量であり、値は ∼ 1/137となることを示せ。これが電磁力の強さの目安となる。

* 9) これはπメソンのコンプトン波長である。実際湯川博士は核力の到達範囲がこの程度であることから、メソンの質量をほぼ 200me ∼ 100MeVと予言したのである。

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演習問題 A.2. 万有引力定数G = 6.67× 10−11m3kg−1s−2に対応するエネルギー、長さ、時間を計算せよ。これをそれぞれ、プランクエネルギー、プランク長、プランク時間と言う。ヒント:

重力ポテンシャル V = GMm

r=

GMm~c~cr

(79)

と表せるから、両辺の次元を比較してGM2/~cが無次元の量であることが判る。これから

EPl = MPlc2 ≡

√~cG

c2 =

√~c5

G(80)

はエネルギーの次元を持つ量であることが判る。プランク質量 MPl とは力の強さが1になる質量 (V =

GM2Pl/r = ~c/r)と言ってもよい。このエネルギー領域では、重力・強い力・電磁力・弱い力が同程度の

強さで働く。すなわち量子重力理論が必要な領域である。

答え  EPl = 1.22× 1019GeV, ℓPl = ~c/EPl = 1.7× 10−35m, tPl = ~/EPl = 5.4× 10−35sec

自然単位は、論文記述には便利であるが、実際の数値を計算するときは ~, cを回復しなければならない。そのためには ~, cを適当に挿入して物理量の次元を回復すればよい。例えば光と陽子の低エネルギーでの散乱(トムソン散乱)断面積は σ ∼ α/M2

pである。この数値を求めたい場合、断面積は次元 [L2]を持ち、[~c] = [EL], [Mc2] = [E] であるから、次の置き換えをすると次元を合わせることができる。したがって

α

M2p→ α

(~c)2

(Mpc2)2=

1137

(1.97× 10−13MeV ·m)2

(938.27MeV)2= 3.2× 10−34m2 (81)

演習問題 A.3. ニュートリノ振動の波長は、二つのニュートリノの質量をm1, m2、エネルギーを Eとすると、

λ =4πE

m21 −m2

2

(82)

で表される。今、ニュートリノ質量を eVで表し、エネルギーを MeV、波長をメートル (m)で表すと

λ (m) = 2.4× E (MeV)

(m21 −m2

2) (eV)2(83)

と書けるることを示せ。

A.4 波動関数の規格化

波をフーリエ級数で展開し、連続極限でフーリエ変換になるものとすると

f (x) =∑

k

f (k) eik·x ∆k→0−−−−→ V

(2π)3

∫d3k f(k)eik·x (84)

のように書くが、ここで∑

kと kの積分についての関係式を導いておく。 波動関数を規格化するときは通常有限の体積V = L3を想定し、その上で体積を十分大きくする。波動関数にたいする境界条件は周期的条件 ψ(0) = ψ(L)を採用するのが便利である。そうすると

eikx·x|x=0 = eikx·x|x=L, (ky, kzも同じ) (85)

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であるので、kxL = 2πn, n = 0, ±1, ±2, · · · ,∞ (86)

と制限が付き、波数 (kx, ky, kz)は離散値 (2π/L)(nx, ny, nz)をとる。したがって kに付いての和は、∆k =∆kx∆ky∆kzとして ∑

k

≡∑

kx,ky,kz

=1|∆k|

∑∆k =

( L2π

)3 ∑∆k

∆k→0−−−−→ V

(2π)3

∫d3k (87a)

∑k

k=~k−−−−→ V

(2π~)3

∫d3p (87b)

平面波の規格化条件は ψ(k; x) = Ne−iE t+ik·xと置いて、k = k′であれば∫dVψ†(k; x)ψ(k′; x) = |N|2V = 1 (88a)

∴ N =1√

V(88b)

他方 k , k′の時は

1L

∫ L/2

−L/2ei(kx−k′x)xdx=

1i(kx − k′x)L

[ei(kx−k′x)L/2 − e−i(kx−k′x)L/2]

=2

(kx − k′x)Lsin

(kx − k′x)L2

kxL=2πn======== 0

従って1V

∫dVei(k−k′)·x = δk k′ ≡ δkx k′xδky k′yδkz k′z

V→∞−−−−→ (2π)3

Vδ3(k − k′) (88c)

最後の等式は∑

k δk k′ =∫

d3kδ3(k − k′) = 1と式 (87a)より導かれる。

A.5 実場と複素場の違い

複素場 φは質量の等しい二つの実場 ϕ1, ϕ2で表すことができる。

φ =ϕ1 + iϕ2√

2, φ† =

ϕ1 − iϕ2√2

(89a)

ap =a1, p + ia2, p√

2, a†p =

a†1, p − ia†2, p√2

(89b)

bp =a1, p − ia2, p√

2, b†p =

a†1, p + ia†2, p√2

(89c)

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Eq. (57)に対応する複素場の展開式と充たすべき交換関係は、Eq. (54a)を Eq. (89)に入れ、Eq. (53)を使えば

φ(x) =∑

p

1√

2EV

[ape−ip·x + b†pe+ip·x] (90a)

φ†(x) =∑

p

1√

2EV

[bpe−ip·x + a†pe+ip·x] (90b)

[ap, a†p′ ] = δp p′ , [ap,ap′ ] = [a†p, a

†p′ ] = 0 (90c)

[bp, b†p′ ] = δp p′ , [bp,bp′ ] = [b†p, b

†p′ ] = 0 (90d)

と書ける。ap, a†p、bp, b†pはそれぞれ粒子と反粒子の生成・消滅演算子を表す。複素場の場合のハミルトニアン、運動量 P、電荷 Qを φで表し、さらに上の式を使って ap, bpで書き直すと次式が得られる。

H =∫

d3x

[(∂φ†

∂t

) (∂φ

∂t

)+ (∇φ† · ∇φ) +m2φ†φ

]=

∑p

E[a†pap + b†pbp + 1] (91a)

P = −∫

d3x

[∂φ†

∂t∇φ + ∇φ† ∂φ

∂t

]=

∑p

p[a†pap + b†pbp + 1] (91b)

Q = iq∫

d3x

[φ†∂φ

∂t− ∂φ

∂tφ

]= q

∫d3x (ϕ2ϕ1 − ϕ2ϕ1) =

∑p

q[a†pap − b†pbp − 1] (91c)

ただし qは粒子の持つ電荷を表す。

演習問題 A.4. Eq. (47)から、(89a)を使って Eq. (91a)を導け。

演習問題 A.5. 運動量の表式 (91b)の初めの式を連続の方程式

∂E

∂t+ ∇ · −→P = 0 (92)

から導け。ただし、H =∫

d3xE , P =∫

d3x−→P である。連続の式はエネルギーの減少 −∂H/∂tは外に流れ

出したエネルギー量∫S

dSPn =∫

d3x∇ · −→P に等しいというエネルギー保存則の微分表現である。

電荷の式も、厳密な導入は与えないが、負の確率を与えるクライン-ゴードン方程式の確率密度 (10)を、電荷に比例する量として再解釈できると言う議論からこのような形になることは推測できよう。

演習問題 A.6. φで表したハミルトニアン、運動量、電荷の式(Eq. (91)の第1式)を (90)を使って ap, bp

で書き直せば、Eq. (91)の各第 2式が得られることを証明せよ。

C変換:  複素場は質量の等しい二つの実場の和で書けるので、エネルギーや運動量の式もまた、二つの実場のエネルギー・運動量の足し算となる。複素場が実場と違うところは、複素場では電荷が定義できることである。電荷は二つの実場の和ではなく積で書かれている。電荷の定義式 (91c)で φ† = φと置くとゼロとなり電荷はゼロとなる。一般に実場は電気的に中性な粒子を表す。しかし、この逆は真ではない。例えば K0, K

0は電気的に中性であるが両者を区別するストレンジネスという量子数を持つの

で複素場で表される。φを ϕ1, ϕ2に分けないで φと φ†を使う理由は、片方が粒子を表せば他方が逆電荷の粒子、すなわち反粒子を表すからである。C変換 (荷電共役変換: Charge Conjugation operation)は粒子

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と反粒子を入れ替える演算のことであり、上の議論から判るように複素共役演算を含む。スピンゼロのクライン・ゴードン場に限って言えば、C変換とは複素共役(演算子の場合はエルミート共役)をとることに他ならない。それは Eq. (90)を見れば判るように、φと φ†では aと bが入れ替わっていること、また (91c)で φ† ↔ φによって電荷の符号が変わることで判る。スピンを持つ場合のC変換は、スピン成分も逆符号にしなければならないので、複素共役の他に成分入れ替えの演算が付加される。

A.5.1 C対称性の実験テスト

強い相互作用:  C変換は、陽子 pや中性子 n(まとめて核子 N)を反粒子 p, n (N)に、π+メソンをπ−メソンに変える。π0やフォトンは自分自身に変えわる。従って次の二つの反応はC変換でつながっている。Xはその他の粒子全てを表しここでは観測しないことを意味する。

p+ p→ π+(π0) + XC 変換←→ p+ p→ π−(π0) + X (93)

もし強い相互作用がC変換で変わらないとするならば、図 8および次式に示すように角分布には対称性が生じ、エネルギー分布(スペクトル)は同一となるはずである。

dσdΩ

(π+; θ) =dσdΩ

(π−; π − θ) (94a)

dσdΩ

(π0; θ) =dσdΩ

(π0; π − θ) (94b)

dσdE

(π+) =dσdE

(π−) (94c)

これらの関係式は実験誤差内で成立している。

図 8: (a) p+ p→ π+ + X, (b) p+ p→ π− + X: C保存ならば dσ(p+ p→ π+) = dσ(p+ p→ π−)。

電磁相互作用:  電磁相互作用反応のテストとしては、例えば η(548)メソン崩壊反応の π+と π−のエネルギースペクトルが同一かどうかを見ればよい。ηメソンは中性でスピンゼロを持つから、C変換で自分自身に変換し π±は互いに交換する。

η → π+ + π− + π0 (95a)

η → π+ + π− + γ (95b)

実験では 0.1 %以下の精度でC対称性が成立している。

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弱い相互作用: µ∓ → e∓ + ν + ν (96)

C対称性が成立していれば、偏極していないミューオンから崩壊して出てくる電子と陽電子のヘリシティは等しいはずである。ヘリシティは運動方向のスピン成分(h = σ · p/|p|)で定義される。実験*10) はh(e−) ≃ −1, h(e+) ≃ +1を示し、弱い相互作用ではC対称性がほぼ 100 %破れていることが判った。弱い相互作用ではP(パリティ)対称性もまたほぼ 100 %破れているが、連結対称性のCP不変性はほぼ成立している。ただし、完全ではなく 0.3 %の破れがあり、この結果は物質宇宙形成に大きな役割を演じる。

* 10) 電子を物質中に通すと制動輻射によりガンマ線を放出する。ガンマ線を磁化鉄に通すと偏極により透過率が違うことを利用して、電子の偏極が測れる。

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