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王安忆著《是不是那个……》 - 1 - 这是不是那个…… 王安忆 台灯 1 ,在写字台上照亮了圆圆儿的一圈儿。灯罩太小,这光圈儿里只容纳了一张信纸 2 高考 3 习提纲和物理、数学等等课本,全部悄然无声 4 地靠边儿在光圈儿以外的黑影中 5 。晚风 6 偶尔突破紧拉 7 的窗帘儿,轻轻掀起一角书页 8 ,那也决不能把严凯的注意力唤回了 9 严凯的注意力全 10 在这光圈儿内的信纸上了。他眉毛紧紧锁着,鼻尖儿上沁出细细密密的汗珠 11 嘴唇上那新长出的茸毛上,也亮晶晶地沾着一层汗珠 12 。尽管这样努力,信纸上除了抬头“苏平平” 三个字 13 以及后头一串儿墨水团儿 14 以外,还是一片空白。这比起 15 挡住高二()16 “铁脚 17 ”射来的 1 台灯 táidēng”は電気スタンド,“台”は“写字台desk”から。“写字”はオフィスワークを代 表し,“写字楼”と言うとオフィスビルになる。なお,読点によって後続の述語と隔てられている が,“台灯”はこの文の主語である。 2 蛍光灯ではなく,電球のついたスタンドで,円形の小さな笠が被さっており,それが明るく照ら す範囲を便箋一枚ほどの大きさに仕切っている。 3 日本の大学入試に当たる。“高”は“高等院校”(高等教育機関)のこと。 4 “悄然qiāorán”と“无声”は同じ事態を肯定と否定の両側面から表現している。中国語の四字句 に多いパターンの一つで,日本語の「黙して語らず」「つかんで放さない」などと同じである。 5 “靠边儿在光圈以外的黑影中”は“靠边儿”して“光圈以外的黑影”の“中”に“在”る。パタ ーンは“站在黑板前边”と同じ。“靠边儿”は「端に避ける」。“躲duǒ”を使ってもいい。 6 夜風。“夜风”とも言う。 7 「きつく引いてあるカーテン」。「きつく」は,思考を中断させられるのを嫌って外から音や光 や風が入って来ないようにするため。“突破”のような大げさなもの言いで「吹き込んで来る」を 表しているのはそのせいである。 8 日本語に訳せば「本のページの角」となるが,“角”が量詞になっている。この量詞の使い方は 面白い。 9 文末の“唤回了”は“唤回来”とする方が自然であるが,“来”を“了”に換えることで,严凯Yán Kǎiが完全な没頭状態に入ったことを言いたいのであろう。 10 この“全”は“都”と同じ。 11 出現を言う現象文であるが,出現する事物に数量詞が加えられていない。このような場合は先ず 漠然とした広がり(複数につながる)の理解が優先する。 12 まず“他”(全体)を提示し,それから“眉毛„„,鼻尖上„„,嘴唇上„„”(部分)へとス ポットライトを切り替える。中国語がよくやるパターンである。描写文であるので“紧紧,细细密 密,亮晶晶”のような状態形容詞が活躍している。『中国語文法教室 p.115p.207-210 参照。“眉 毛紧紧锁着”は眉間に皺をよせている状態を形容する。 13 中国語の会話は口頭か書面かを問わず,先ず呼びかけから始まる。“抬头”は手紙の冒頭に書く

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Page 1: 这是不是那个…… - 大阪大学sugimura/images/chulian_body.pdf王安忆著《是不是那个……》 - 2 - 球,或者做一百道课外参考题,要吃力多了18。尽管这样难,严凯连一点点放弃努力的念

王安忆著《是不是那个……》

- 1 -

这是不是那个……

王安忆

台灯1,在写字台上照亮了圆圆儿的一圈儿。灯罩太小,这光圈儿里只容纳了一张信纸

2。高考

3复

习提纲和物理、数学等等课本,全部悄然无声4地靠边儿在光圈儿以外的黑影中

5。晚风

6偶尔突破紧拉

着7的窗帘儿,轻轻掀起一角书页

8,那也决不能把严凯的注意力唤回了

9。

严凯的注意力全10在这光圈儿内的信纸上了。他眉毛紧紧锁着,鼻尖儿上沁出细细密密的汗珠

11,

嘴唇上那新长出的茸毛上,也亮晶晶地沾着一层汗珠12。尽管这样努力,信纸上除了抬头“苏平平”

三个字13以及后头一串儿墨水团儿

14以外,还是一片空白。这比起

15挡住高二(3)班

16“铁脚

17”射来的

1 “台灯táidēng”は電気スタンド,“台”は“写字台desk”から。“写字”はオフィスワークを代

表し,“写字楼”と言うとオフィスビルになる。なお,読点によって後続の述語と隔てられている

が,“台灯”はこの文の主語である。

2 蛍光灯ではなく,電球のついたスタンドで,円形の小さな笠が被さっており,それが明るく照ら

す範囲を便箋一枚ほどの大きさに仕切っている。

3 日本の大学入試に当たる。“高”は“高等院校”(高等教育機関)のこと。

4 “悄然qiāorán”と“无声”は同じ事態を肯定と否定の両側面から表現している。中国語の四字句

に多いパターンの一つで,日本語の「黙して語らず」「つかんで放さない」などと同じである。

5 “靠边儿在光圈以外的黑影中”は“靠边儿”して“光圈以外的黑影”の“中”に“在”る。パタ

ーンは“站在黑板前边”と同じ。“靠边儿”は「端に避ける」。“躲duǒ”を使ってもいい。

6 夜風。“夜风”とも言う。

7 「きつく引いてあるカーテン」。「きつく」は,思考を中断させられるのを嫌って外から音や光

や風が入って来ないようにするため。“突破”のような大げさなもの言いで「吹き込んで来る」を

表しているのはそのせいである。

8 日本語に訳せば「本のページの角」となるが,“角”が量詞になっている。この量詞の使い方は

面白い。

9 文末の“唤回了”は“唤回来”とする方が自然であるが,“来”を“了”に換えることで,严凯Yán

Kǎiが完全な没頭状態に入ったことを言いたいのであろう。

10 この“全”は“都”と同じ。

11 出現を言う現象文であるが,出現する事物に数量詞が加えられていない。このような場合は先ず

漠然とした広がり(複数につながる)の理解が優先する。

12 まず“他”(全体)を提示し,それから“眉毛„„,鼻尖上„„,嘴唇上„„”(部分)へとス

ポットライトを切り替える。中国語がよくやるパターンである。描写文であるので“紧紧,细细密

密,亮晶晶”のような状態形容詞が活躍している。『中国語文法教室』p.115,p.207-210 参照。“眉

毛紧紧锁着”は眉間に皺をよせている状態を形容する。

13 中国語の会話は口頭か書面かを問わず,先ず呼びかけから始まる。“抬头”は手紙の冒頭に書く

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王安忆著《是不是那个……》

- 2 -

球,或者做一百道课外参考题,要吃力多了18。尽管这样难,严凯连一点点放弃努力的念头都不曾有

过19。他固执地对着信纸,在一串儿墨水团儿后,又一笔一划地写下“同学”两个字

20。可还没点上两

点冒号21,他又将

22“学”字涂了

23,换上“志”字

24。这可以说明,他给苏平平写信,不只以同学的身

份25,并且也表示彼此都是成人了。他的笔尖儿在同“志”的最后一点上停留了一会儿,笔尖儿从“志”

上划过去,划到“同”上,果断地团了起来26。干脆什么都不称

27,随她怎么认为

28,可以算是“同学”,

受取人への呼びかけ。(“怎样写信”)

14 “苏平平”と書いたまではよかったが,その後,自分の思いを適切に表現する言葉が見つからず,

●が連なっている。言うまでもなく,書いた文字を塗りつぶした痕である。

15 「これは„„に比べ」。“比起„„来”とも言う。『中国語文法教室』p.144-145 参照。

16 「二年 3 組」。“二”に“年级”の“年”を加えず,“高中”の“高”を頭に加えて“高二(3)

班”と言っている。“初中”の「二年 3 組」であれば“初二(3)班”と言う。

17 「鉄の足」。強烈なシュートを放つ足をもった者に付けられたあだ名。足技の巧みな武術家であ

れば“铁腿”と言う。

18 比較文の述語として“要„„(了)”を用いると,「必ずやそういうことになる」というニュア

ンスを出すことができる。“吃力”は「実現するにはものすごく頑張ってやる必要がある(が,な

かなか実現しない)」という意味で,“费fèi力”“吃劲儿jìnr”“费劲儿”などみな同じ。“„„多

了”に関しては,『中国語文法教室』p.158-159 参照。

19 “连„„都„„”構文,『中国語文法教室』p.223-225 参照。「これっぽっちの努力を放棄する考

えさえもなかった→もうやめようという考えはこれっぽっちも湧かなかった」。“严凯”の後に“却

què”が欲しい。“不曾有过”は文章語,口語で言えば“没有”。

20 “苏平平●●●●同学”と書いた。“写下”は書いたものが後に残ることを強調する。“写上”

だと単に「書き付ける」。

21 「が,コロンの二つの点も打たないうちに」。中国の習慣では“抬头”の後に「:」を打ち,改

行する。“点上”の“点”に関しては,“蜻蜓点水”“画龙点睛”を参照。

22 “将”は文章語。意味と用法は“把”と同じ。『中国語文法教室』p.178-188 参照。

23 ここの“涂了”は“涂掉”と言ってもよい。『中国語文法教室』p.180-182 参照。

24 この時点で便箋の上は“苏平平●●●●同●志”となっている。“把‘同学’换上‘同志’”で

「『同学』を『同志』に換える」という意味。“换上‘同志’”の“上”は“穿上‘衣服’”を思

い出そう。比較:

穿上一件毛衣(毛糸の服を着た)~ 换上一件毛衣(〔„を〕毛糸の服に着替えた)

25 「ただ“同学”としての資格を以てするのみならず」。“不只”は“不但dàn”あるいは“不仅jǐn”

と同じ。

26 「ペン先が『志』の上を滑って,『同』まで達するや( ),思い切っ

て(『同』を)丸く塗りつぶしてしまった」。ここの“起来”は「動作の対象を視界から消し去る」

用法である。“把尸体 shītǐ 埋 mái 起来/藏 cáng 起来”と言えば「死体を埋めてしまう/隠してし

まう」。『中国語文法教室』p.144-145 参照。

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王安忆著《是不是那个……》

- 3 -

可以算作“同志”,也可以算作——什么都不算29。严凯最后决定了,就将这页信纸揭去,在新的一

页上,端端正正地写上“苏平平”三个字。这字30端正得

31不像是写的,却像是火柴梗搭起来

32的。严

凯明知道还会有无穷的修改,可他总33不愿意在一张乱七八糟的纸上写这封信。严凯沉吟了一会儿,

提起笔34,十分流利地写下一行:

“怎么说呢?还是从头说起吧!”

严凯曾经看过一本书,书上的小伙子35给他喜欢的一个姑娘写信,那开头一行,就是这么写

36。当

时严凯并没往心里记37,可这会儿,这句话却

38自动蹦了出来,也许这实在也是他此时此刻的心里话。

27 「あっさり名前の後には何もつけないことにしよう」

28 「どう考えようと彼女の勝手だ」

29 “算”“算是”“算作”は同義語で,“算”は「„„の内にはいる/いれる」という意味。但し

“算是”と“算作”は必ず後に「„„」を伴わなければならない。そこで「„„」が前に出る“什

么都不算”(どれにも入らない,何にも属さない)のような場合は“算”しか使えない。

30 “这字”は“‘苏平平’三个字”をうけたものであるが——“这些字”とうけることも可能——,

このように,文頭にあって文脈に前出の成分(単複を問わない)をうけなおすとき,“这”は量詞

を伴わず名詞と結合することがあるので,注意しておきたい。

31 “端正得”は前の“端端正正地”をうけて後の“不像是写的,却像是火柴梗搭起来的”を導く。

もし“写上”も“写得”でうけると,“这字写得端正得不像是写的„„”となる。比較:

他给李老师写了一封信,信写得很短,内容只有两点。

严凯„„端端正正地写上“苏平平”三个字。这字端正得不像是写的„„

32 「マッチ棒で組み上げたようだ」とは,まったく柔らかさを感じさせない筆跡。所謂「金釘流」

である。“火柴梗”の前に“用”があればもっと分かりやすいが,材料や手段を導く“用”はよく

省略される。マッチ棒は“火柴棍儿gùnr”と言うほうが多い。“搭起来”は積み木(“积木jīmù”)

やテント(“帐篷zhàngpéng”)のようなものを組み上げることを言う。ある言語を学習するという

ことは,かなりの程度その言語において用いられる比喩を学習することに等しい。そのとき問題と

なるのは,ある比喩が広く一般的に使われているのか,それとも作家個人の即興的な創作にすぎな

いのかという点である。前者であれば単語を覚えるように覚えてゆかなければならない。ここの“像

是火柴梗搭起来的”は作家の即興であろう。

33 “总”は非常によく使われる副詞であるが,なかなか記憶に留まらないので注意したい。ここで

は「どうあっても」と言う意味。

34 “笔”は筆記具の総称。同じく“车”は乗り物の総称である。

35 「小説の中の若い男の子」。“小伙huǒ子”は“姑娘gū.niang”の反義語である。“书里”或いは

“书中”と言ってもよい。“书上”はちょっと口語的な感じがする。

36 “的”を補い,“就是这么写的”としたい。

37 「決して気に留めたわけではなかった」。この表現は面白い。“你别往心里去!”と言えば Never

mind! の意味になる。

38 “却”は“怎么说呢?还是从头说起吧!”という言葉に関し,「意識的に記憶に留めようとしな

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王安忆著《是不是那个……》

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真是,怎么说呢?从头说起,可哪儿是个头儿呢?

是不是和高二(3)班足球比赛前一天的傍晚39开的

40头?那天,严凯练完球

41,刚要

42和足球队的同

学们一起回家,忽然发现书包忘在教室里了43,他就回去拿

44。教室里还亮着日光灯,苏平平一个人安

安静静地在灯下做功课。严凯知道苏平平家里房子小,哥哥、姐姐的孩子都放在她家45,吵得厉害。

她只有到了学校里,才能静下心来46温课。因此她总是早来晚归

47。可他走过苏平平身边时,惊讶地看

见48苏平平满脸是泪

49,啃着手指甲

50盯着面前的数学书。啊,明白了。她碰到难题了。严凯有点儿可

怜她,就一边儿擦着满头大汗,一边儿坐到苏平平对面的桌子上,慷慨地说:“我讲给你听好了51。”

他的口气很大,不过,他有资格这样说。因为他的数学成绩全年级第一,谁数学上有了问题,都想求

かった」のに「思い出そうと努力するまでもなく勝手に跳び出して来た=強く記憶に残っていた」

という齟齬を伝えている。

39 “和高二(3)班足球比赛前一天的傍晚”は「二年 3 組とのサッカーの試合の前日の夕方」。“的”

と「の」の用法の違いに注意してほしい。

40 “是„„的”構文である。“的”が“开头”の間に割り込んでいることに注意しよう。『中国語

文法教室』p.255-257 参照。

我们是 1976 年结的婚。(私達は 1976 年に結婚しました)

41 “练球”の理解に関しては,“打球”がどんな意味であったかを思い出そう。

42 “刚要„„”は「„„しようとした途端,ちょうど„„しようとした時」。

43 「突然かばんを教室に置き忘れたことに気がついた」。語順に注意!

44 訳すと「取りに引き返す」。この日本語の語順は「目的+目的の実現を目指す行為」となってい

るが,中国語は事態を時間軸上に展開して,「目的の実現を目指す行為+目的」と表現している。

45 なぜ子供を両親に預けるのか,どういう預け方なのか,それは分からないが,中国では,子供が

学齢に達するまで両親に預けて養育してもらう若夫婦が珍しくない。

46 “静心”(心を落ち着ける)に“下来”という方向が加わったものである。この方向感覚,頭で

は分かるが使えるようになるのは容易ではない。

47 “总是”は「どういう場合でも」。“早来晚归”のより一般的な形は自宅に視点を置いて言う“早

出晚归”(朝早く家を出て,夜遅く家に帰る)である。

48 「意外にも„„を発見した」。文章表現である。

49 直訳は「顔中これ涙」。ひどく涙を流している様の形容である。「„„中~だらけである」と言

う場合,「~」が一文字であれば,“满脸是泪”のように“是”を加え,もし“满头大汗”のよう

に,「~」が二文字であれば“是”を省く。

50 “shǒu zhī.jia”と読んでおこう。子供が「指をしゃぶる」ことは“吃手指”と言う。

51 この文は“我讲给你听”(君に話して聞かせてやる)と“好了”(〔事態が〕よくなる)からで

きている。訳せば「おれが説明してやろう,簡単さ」くらいか。比較:

他爱人连饭也不给他吃了。(ご飯さえ彼に食べさせてやらなくなった)

他爱人连饭也不给他做了。(ご飯さえ彼に作ってやらなくなった)

他爱人连饭也不做给他吃了。(ご飯さえ彼に作って食べさせてやらなくなった)

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王安忆著《是不是那个……》

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得他的帮助。不过,严凯只给几个对脾气的朋友讲,一般的同学是不容易从他那里得到解决的。这会

儿,他确实给了苏平平很大的面子52。然而,苏平平用手捂住耳朵,急躁地叫了起来:“我不听,我

不听!”严凯怔住了,他感到很尴尬。苏平平的功课虽然在女生中是第一,可毕竟不能和他比呀,有

谁会拒绝他严凯的帮助呀!他站了一会儿,斜斜眼53“哼”了一声。心里说:“这

54是瞧得起你!”然

后把书包往肩上一甩,往门口走去。

走到门口,他不由自主地停住脚步,回了回头。苏平平埋着头,啃着手指甲,在苦思苦想55。(真

怪,想就想呗56,为什么要啃手指甲,这是什么毛病?)她的眼泪还不时地

57滚下脸颊,滴在数学书上。

这时候,严凯有点儿心软58,不由自主地说了一句:“该回家了。”天知道

59他为什么要说得

60这么轻,

这么和气。苏平平头都不抬61,说:“我做好了再回去。”她的声音里面带着一点哽咽。

„„ „„ „„

“这是开头吗?不不,严凯连连摇头否认,那62只不过是一点点可怜

63。而到第二天早上看到苏平

平的脸色,开朗得像无云的晴天,想来64那难题已解决。严凯的那一点点怜悯就又

65烟消云散

66了。这

52 「苏平平に大きな面子を与えた」は「苏平平を高く評価した」につながる行為。逆に,苏平平を

まったく相手にせず,その面子を立てようとしなければ“一点儿面子都不给她”と言う。

53 正面から見据えるのではなく,視線をずらし目の端で相手を捕らえる。蔑視の態度である。逆は

“正(着)眼看”と言う。

他从不正眼看我一眼。(彼はかつて私をまともに見ようとしたことがない)

54 「俺の今の行為はお前の顔を立ててやったんだぞ」。“这”は今発生したばかりの行為を指す。

行為が誰に属するかを明確に示したいときは,“我这是瞧得起你!”のように言う。『中国語文法

教室』p.212-215 参照。

55 “冥míng思苦想”或いは“苦思冥想”をもじったもの。

56 “呗”は「当たり前のことじゃないか」とか「わかったわかった,やればいいんだろう」という

ニュアンスを表す。ここは「考えるなら考えるだけでいいじゃないか(,なんで爪を噛んだりする

んだ)」くらいの意味である。

57 「しきりに」。

58 「情にもろくなる」。逆は“心狠hěn”。“嘴软”と“嘴硬yìng”を参照されたい。

59 「天(のみ)が知る」,即ち「人は誰も知らない」。“鬼知道„„”という表現もある。

老王也是那么和我说的,鬼知道真的假的。(王さんも私にそう言ったが,嘘か真か鬼〔幽霊〕

のみぞ知る→どこまで信じていいものか,怪しいね)

60 “说得”は前出の“说了一句”をうけ,且つ“这么轻,这么和气”を導く働きをしている。

61 “连头都不抬”と“连”を補うことが可能である。“都”は“也”でもよい。

62 “这”でうけるのは過去に帰り,その場に自分を置いて回想しているからで,“那”でうけるの

は今の時点から過ぎ去った過去を回想しているからである。

63 「僅かばかりの憐れみにすぎない」。“只不过”は“罢了bà.le”や“而已ěryǐ”を文末に置いて

うけることも多い。『中国語文法教室』p.264-265 参照。

64 「考えて来る」,即ち「過去から現在まで時間軸に沿って思考を展開してみる」。

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王安忆著《是不是那个……》

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不是开头,还得67往近点儿回忆回忆

68。

第二天,就是足球比赛。高二(3)班的“铁脚”真可恶,他脚下的球就像长了眼睛69,瞅着严凯

的空当儿70往门里钻;他的球又像是长了个作弄人的心眼儿

71,明看见往这儿来,严凯扑过去,可它又

绕到那边儿进门了;他的球,还72像是从炮筒里打出来的,无所阻挡

73,直射球门。场上比分

74到了二

比零。大家都朝守门75的严凯跺脚、瞪眼

76,不满地嘘他

77。严凯大汗如雨,眼睛都红了。一只球

78又过

来了。他不顾一切地扑过去,摔在地上。而球却贴着他的背79进了门。这时他看见在叽叽喳喳、点点

戳戳的女生80中,站着苏平平

81。她没有瞪眼,没有嘟哝咋呼,只是有点儿黯然地看着他。严凯感到愤

怒极了,差点儿骂出声来82:“小姑娘来看男生踢球干吗

83?滚开!”他恨她!恨得咬牙切齿,只恨她

65 この“„„就又„„”,“„„也就„„”であればわかりやすいが„„。

66 日本語では「雲散霧消」となっている。なぜだろうね?

67 “得”は口語,“děi”と読む。ここでの意味は“要”に同じ。

68 「もっと近いところを思い起こして見なければならない」。

69 「目が生えているかのように」。

70 「严凯の隙(kòngdāngr)を狙って」。

71 「人をからかう性根を生やしているかのように」。上の行の“长了眼睛”では“眼睛”に量詞“双”

がついていないが,ここでは“心眼儿”に“个”をつけている。これは“心眼儿”に“作弄人的”

という修飾語がつき,非常に具体的なイメージができ上がっているからである。“作弄”は zuònòng

あるいは zuōnòng と読む。

72 この“还”はボールがカーブすることに加え,なおものすごいスピードで飛んで来ることを言っ

ている。

73 「阻止する所無し」,即ち強力無比で防ぐすべなしという意味。“无所„„”は「„„できない」

「„„しない」という意味を表す。“饱食终日无所用心”(終日飽食し心を用いる所無し)は日々

を無為に過ごす形容である。

74 「グラウンド/コート上の(双方の)得点」。

75 “守门”は「ゴールを守る」。ゴールキーパーは“守门员”と言う。

76 “吹胡子hú.zi瞪眼睛”を参照。

77 この文字は“shī”と読むが,実際にブーイングをやるときは“xū”という音になるようである。

欧米のブーイングは“Boo!”である。

78 新しくシュートされて飛んで来た一つのボールなので“一只”が付いている。

79 「彼の背中を掠めるように」。

80 「ぺちゃくちゃお喋りし,だれかれ構わず指差ししている女の子たち」。

81 存在文の動詞の後に固有名詞が出ているが,これはその人物のその場所への出現を「意外な発見」

として報告したものである。

82 “骂”すれば当然声が出てくるが,それをこのように表現する。比較されたい。

你哭吧,你哭出声儿来吧。(泣きなさい,声に出して泣きなさい)

83 “gàn má”と読む。この“干吗?”は“干什么?”に同じ。

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王安忆著《是不是那个……》

- 7 -

一个人。尽管她一声不响84,不过是看一看他,带了那么一点点黯然。

„„ „„ „„

这也决不算开头儿。恨,怎么会是爱的开头儿。啊,爱——严凯想到这个字,脸上一阵热85,火

辣辣的86,可他不自觉地微笑了一下。爱,是的,不会从恨开头。当然,后来这恨逐渐变成一种懊丧。

他老是87回想,他扑倒在地上的那一瞬间

88:那个姿势是不是很狼狈?很丢人?他甚至在没人的时候,

在镜子前做出那扑倒的姿势。有时,他发现这不仅不狼狈,还有点儿帅。可有时候,又觉得这样子丑

极了,像个蛤蟆89。最主要的是,球从他背上进门了

90。他真是懊丧极了。

这怎么能91算是开头儿呢?不算不算,这些

92不算。那么他是怎么想起来写这封信的呢?好像是大

前天下午,他和苏平平讨论一道高等数学题以后。

„„ „„ „„

班上学高等数学的只有寥寥几个人,苏平平是唯一的女生。那天,他们是面对面坐着讨论的。有

很长一会儿93,都是脸对着脸,眼睛对着眼睛。他第一次发现苏平平和别的女生长得不一样,她的额

头很大,她的眼睛很黑,鼻梁有点儿洼,嘴唇却是翘的94。其实

95,女生们都是一人

96一个样儿的,可

严凯还是第一次发现。这第一次,是从苏平平身上97开始的。嘿,这可能就是开头儿了。严凯决定从

这里写起,可是不对头,那98才只有三天哪!三天,七十二小时。不,不,起码应该有三十三天

99,严

84 “一句话也不说”の形容である。

85 「顔がひとしきり火照った」を「顔はひとしきりの火照り」と表現していることに注意。文法的

には“热一阵”として問題ないはずであるが,“一阵热”と言うことのほうが多い。

86 かっかと熱く火照る状態が“火”と“辣”で表現されている。発音は“huǒlālā.de”。

87 「しょっちゅう思い起こすのだった」。“老”は口語で「しょっちゅう」の意味。“你老爱感冒。”

と言えば「君はしょっちゅう風邪を引いているね」。

88 「(横っ飛びにボールに)跳びつき地面に落ちたあの瞬間」。

89 「カエルのようである」とは,腹から地面に落ち四つん這いになったのであろう。

90 見事にタイミングを狂わされたか,シュートが予想以上にホップしたかのどちらかであるが,い

ずれにしてもゴールキーパーとしては格好が悪い。

91 “怎么会是„„”は事態が起こり得る可能性を疑い(「そういうことがありえるだろうか」),

“怎么能是„„”は事態を実現に導く能力・条件の有無を疑う(「そうなりえるであろうか」)。

92 前文で挙げてきた複数のきっかけの候補を指す。

93 “一会儿”が“很长”の修飾を受けるのは変な気もするが,頭から覚えてしまおう!

94 ここの形容は「不二家のペコちゃん」を思い出そう。“翘”はqiàoと発音する。“眼睛很黑”は

「目が大きい」ことも含意する。

95 “其实”の意味と用法は日本語の「実際」に近い。「考えてみれば,真実/現実は言うまでもな

くこのようである」くらいの意味になる。

96 “一人”は“一个人”と読んでおこう。

97 “身上”は,苏平平の容貌がきっかけとなったのでこのように言っているのであろう。

98 “那”は「もしそういうことなら」。“才”と“只有”は意味的にダブっている。『中国語文法

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王安忆著《是不是那个……》

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凯心里才有了,有了那个,那个爱情。想到这儿,严凯几乎要丢下100笔,钻到桌子底下去了

101。

„„ „„ „„

严凯简直是苦恼极了。到底是什么时候开始、开始——每天都巴望见到苏平平,开始想和她搭讪

几句,开始想邀请她到自己家里做功课,想和她考入同一个大学102,想和她在一起,而且,想,永远

永远„„

要把这一切都理清楚103并且告诉苏平平,真是一件很难很难的事,可他决不愿放弃。严凯想了想,

决定把自己的思想过程免去,从另一方面写。他把这一行字团掉104,撕下

105信纸,换了一页新的,鼓

起了勇气。

苏平平:

我希望我们能成为好朋友,永远在一起!

对对,就这么写,这么着就够了106。只要她同意,随便什么话都可以谈的。她要不同意,说那么

107

多话干吗呢!108反倒坍台

109了。

严凯又换了张信纸。因为字数少,就需要重新布局,字儿稍大一点儿,分开来一些„„啊,行了110。

严凯小心翼翼地折起来,折什么形状111呢?他又费了一会儿神,就折成个

112四方四正。他吐出长长的

教室』p.112-113 参照。

99 この発言は,“一见钟情”(一目惚れ)は正しい愛情ではないという教育をうけていることによ

る。

100 “丢下”で「ほっぽり出す」。

101 硬派の男の子が初恋に気づき狼狽する様であるが,“丢下笔”以下は思わず知らずそうなりそう

だったと言うのであろうか,それとも意識的にそうしたかったと言うのであろうか。文法的には決

定できない。

102 正式には“同一所”と言う。“同一个”が“这一个”と同じ形をしていることに注意!

她们三个人考上了同一所女子大学。(彼女たち三人は同じ女子大学に合格した)

103 “理清楚”の“理”は“理发”の“理”。「整理する」という意味である。

104 「上からぐちゃぐちゃっと塗りつぶし」。

105 “撕下”の“下”は「離脱」を表し,“写下”における「残存」とは正反対の意味になる。“穿

上衣服~脱tuō下衣服”や“戴上眼镜儿~摘zhāi下眼镜儿”を思い出そう。

106 「これでもう十分だ。」“这么着zháo”は「この状態に到達する→この状態になる」。

107 仮定の話であるから“这么”は使えない。“那么”となる。

108 「彼女がもし同意しなければ,そんなにたくさんのことを言って何をしようというのか(なんに

もならない)」。

109 “坍台tāntái”は“丢diū脸、出丑chǒu”(恥をかく)という意味。

110 「字はもう少し大きく,字間をもう少しとって„„よし,できた」。

111 紙を折れば何かの形になる。“什么形状”は“折”の結果であり,文法用語では結果目的語と言

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王安忆著《是不是那个……》

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一口气,感到无比的113轻松。伸手拉过一本儿书,把信夹进书里。这是一本儿高考复习提纲,严凯这

会儿才想起了他是个应届114毕业生,他要学习物理、数学、化学等等等等。他浑身上下突然紧张起来,

这是另一种完全不同的紧张,这叫人精神抖擞,以全身心去115准备一场

116战斗。

严凯是一定要打胜这一仗的,他一定要考上大学。他连想都不曾想过117也许会考不取

118。

严凯早早儿地就到了学校,教室里一个人都没有,连苏平平都还没来。严凯决定把字条放在苏平

平的台板119里,她一会儿就会来的。瞧,那不是她?她来了,她来了,严凯的心狂跳起来,把很多很

多血液打进血管儿,使血管儿胀得麻木了。他不能动了。她来了,还有五六步就跨进门了,她就要看

见字条,她会怎么样呢?会动气,骂严凯“流氓”120?会一声不响,课后却

121交给老师。全班同学会

用异样的眼光看着122他。丢人

123啊!不不,不能这样

124,严凯努力使自己动弹起来,向苏平平的课桌

125

う。“折成什么形状?”と言ってもよい。

112 真四角という「状態」を「モノ」的にとらえて“(一)个四方四正”と言っている。文法的に名

詞となることを求められているというよりも,「状態」を「ほらこんなものだよ」と提示する働き

が“个”にはあると考えたい。

113 “的”と取って“无比轻松”としたいところである。

114 最終年度を迎えた学生は,当然,受験を控えた学生でもある。“应届”は“yīngjiè”と読む。

115 この“去„„”は「これからやるのだ」という意志を含んだ一種の未来形と考えておく。

116 この“场”は二声で読んでも三声で読んでもよさそうであるが,『现代汉语词典』では“场cháng,

用于事情的经过”の項に“一场大战”という例が挙がっている。

117 “连想都不曾想过„„”は「„„など頭の端を掠めたことさえなかった」。詳しくは『中国語文

法教室』p.224-225〔関連事項 2〕参照。比較されたい。

他看都不看她一眼。(彼は彼女の方を見ようともしなかった)

她看都不看就把它锁进了抽屉里。(彼女は見ようともせず,それを引き出しに入れて鍵を掛

けてしまった)

118 “考不上”と同じ。

119 “台板”は蝶番で留められている机の天板。持ち上げれば中に物を入れることができる。

120 「严凯を“流氓máng”と罵る」。この“流氓”は「女性に対しいやらしいことをする奴」と言

う意味。手を出せば“耍shuǎ流氓”と言う。

121 “却”は“一声不响”と“课后交给老师”が逆説でつながっていること表す。“一声不响”は一

応同意で(“沉默就是同意”),“课后交给老师”は同意ではないということであろうか?

122 ここは手紙が苏平平から先生に渡された後の結果を想像している。その場合,なぜかクラスメー

ト達に知られてしまうのであろう。“会”——実現の可能性を言う(未然)——と“着”——実現

した動作がそのまま持続中であることを言う(已然)——を一緒に用いるのは矛盾しているようで

あるが,“会”は「異様な目で俺を見つめている」という「状態」の発生を先取りして言っている

と理解しよう。

123 “丢人”の直訳は「人を失う」。これで「面子を失う,恥を晒す」という意味になるのは,“人”

に「人格」のような意味が含まれているからであろう。“长大成人”(成長して一人前になる)と

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王安忆著《是不是那个……》

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跑过去。一路上,把桌椅碰得七倒八歪126,膝盖上碰得很重,可他一点也不觉着

127痛,他只想着赶快

把那信取回来。他只来得及把信捏在手里,苏平平就128进来了,惊异地看见

129严凯像根蜡烛似地

130站在

她位子上131:“你干吗?

132”

“不,不干吗。”严凯结巴地133说,傻乎乎地往旁边站了站

134。苏平平走到位子上,坐下之前又

回头看了严凯一眼。严凯感到自己的心紧缩了起来,血液凝固了。这会儿,他感到十分不明白135。小

说里、诗里,写到那个,有各种各样的形容和描写。有一点好像总是很一致的136,就是爱情使人勇敢,

可他为什么这样胆怯?害怕得就像在做贼。会不会,137他对苏平平的那个,并不是爱情。

いう表現の存在を想起されたい。

124 「そんなことになってはいけない」。“那样”ではなく“这样”であるのは,あたかもまずいこ

とが実際に起こってしまい,その場に身を置いているような心理状態を伝えようとしているからで

ある。 125 教室に置かれている学生用の机のこと。教師用の机(教卓)は“讲桌”と言う。

126 四字句の中に“七,八”が含まれると“杂乱”の状態を言う。“乱七八糟”“杂七杂八”“七嘴

八舌”など参照。

127 “jiáo.zhe”と読み,“觉得”の口語形。“痛”は口語では“疼téng”を用いる。

128 “就”は“只来得及„„”をうけている。「かろうじて„„には間に合ったが,その時にはもう

„„」という意味になる。

129 「„„を見てビックリしている。」

130 「一本のローソクのように突っ立っている。」

131 “她位子上”は,勿論,苏平平の座席の上に立っているのではない。曖昧に「苏平平の座席があ

るところ」という意味である。

132 この“干吗?”は“gàn má”と読む。“干什么?”に同じ。

133 口語だと“结结巴巴地说”と言う。『中国語文法教室』p.207-210 参照。

134 「傍らにちょっと避けて立った」。“想了想说”で“想了想”は継続時間の少なさを言い,“点

了点头”で“点了点”は実施回数の少なさを言っている。同じように考え,“往旁边站了站”で“站

了站”は移動距離の少なさを言っていると考えておこう。

135 「まったく理解不可能を感じた。」

136 “各种各样的形容和描写”(全体)の中に“一点”(部分)があり,その“一点”は“好像总是

很一致的”である。これは“有”を用いた兼語文の一種で,〈全体+有+部分+„„〉という構成

になっている。比較されたい。

我那张办公桌也有一个抽屉是锁着的。(私のあの事務机も引き出しの1つに鍵がかかってい

る〔机には引き出しが複数ついている〕)

“一致”は,通常,絶対的な概念であると思うのだが,ここでは“一致”を相対概念として扱っ

ている。“对”も相対概念として使われることがある。例えば:“你说得很对!”

137 ここにコンマを打つのは文法的には許されない。後に続く断定に対する躊躇を表すために加えら

れた,破格の用法であると考えておこう。

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王安忆著《是不是那个……》

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“严凯!”——是苏平平在叫他呢。严凯吃惊地138望着她,他觉得苏平平已经知道他心里所想的

事儿139了。

“严凯,咱们一起来140解这道题,好吗?看看我们的思路有什么差别。”苏平平一边儿说,一边

儿把一道题抄在一张纸上,递给严凯。

严凯呆呆地接过纸,他哪有什么心思做题哪!141 不过,这么一来

142他可以名正言顺

143地在苏平平

旁边坐下了。他对着数学题来来回回看了几遍,可什么也没看见,只觉着XY144一连串儿莫名其妙的

符号,在纸上乱晃。他脑子里,还在想着那,爱情。爱情,应该使彼此互相帮助,使彼此更有力量,

更加进步。就比如居里和居里夫人,那才是真正的爱情呢。可是他和苏平平在一起做功课,总是心慌

意乱,六神无主。“爱情”使他笨了。他现在有点儿担心自己弄错了145。

教室里又进来几个女同学,一坐下就开始研究一个女生两用衫的样子。不时飞来“前胸”、“领

片”、“后腰”一些裁剪上的术语146。严凯厌恶地斜斜眼,又低头看看苏平平。苏平平啃着手指甲对

着数学题出神147。她和她们是

148多么不同,严凯心里涌上

149一股十分温和的感情:她是用功的,文静的,

又很倔强150。不像其他女生那样喜欢咋呼

151。严凯实在是喜欢她的。他从来没有和一个女生一起谈过

138 “吃惊地”は严凯の心理のみならず,外から観察された严凯のびっくりした様子を共に伝えてい

ると考える。

139 「彼が心の中で考えている所のこと」。この“所”は文章語の用法,口語ではまったく必要ない。

140 “来”は“一起”と“解这道题”をつなぐ働きをしている。話し相手を巻き込んで「さあやろう」

という気分を出すもので,使わなくても文法的には問題ない。

141 “哪”を使った反語文。中国語は反語文をよく使う。『中国語文法教室』p.235-238 参照。

142 「一旦こうなってみると」。“来”は直前に発生した状況を指す。

143 この段落には“名正言顺”以外にも“莫名其妙”“心慌意乱”“六神无主”のような四字句が見

られるが,このような四字句は形容詞の一形式にすぎず,高級な表現でもなんでもない。

144 “ái.ke.si wài”の感じで読む。

145 「自分が(問題を)解き間違えてしまうのではないかと少し心配になった」。

146 “‘前胸’、‘领片’、‘后腰’”と“一些裁剪上的术语”は同格の表現であるので,両者の間に“等”

がほしい気がする。

147 “出神”は何かに心を奪われ,外から見るとボーっとしている様子。“精神”という言葉がある

が,“精”も“神”も事物の肝心かなめの属性を指す。特に“神”は個々の人間の,最もその人ら

しい思考や雰囲気を指して言うことが多い。一時期“形似”“神似”という言葉が流行ったが,“形

似”は外見が似ていること,“神似”は雰囲気が似ていることを言う。

148 “是”は「確かにそうだ」と確認するためのものである。

149 “心里涌上„„”は「心の中に„„が沸きあがった」であり,「心の中から„„」ではない。

150 “她很用功,很文静,又很倔强”としても文法的に問題はない。ここは前 2 つに“是„„的”を

使って,苏平平がよく勉強する,物静かなタイプの女の子であることを確認し,その一方で頑固で

あると展開している。“倔强”は“juéjiàng”と読み,“倔犟”とも書く。

151 「なんでもないことに騒ぎ立てる。」

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王安忆著《是不是那个……》

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话呢。许民,就算是他最好的朋友了152,他们在一起谈得很多,除了

153数学、物理、高考等等,还有

很多完全是无聊的闲话。而和苏平平交谈的内容,就好像是过滤154过似的,那些无聊的、粗野的,全

滤去了155。剩下的是最严肃、最要紧、最有意思的。他是喜欢她的。严凯把四方四正的信放在抄着题

的纸上,一块儿交给苏平平吧!再过一会儿,同学们都要来了。许民这个刻薄鬼156一来,那就算完了

157。

“我做好了。”苏平平抬起身子,往严凯手里的纸上瞅,“你怎么做的?咦,这158是什么?也是

数学题?”说着,伸手就拿。

“别动159!”严凯吼了一声,把信又塞进了口袋。可他立即后悔了。给她就是了

160。反正,总

161要

让她知道的。

“不看就不看,那么凶干吗?”162 苏平平生气地撅起嘴,转过头对着书又啃起手指甲。

严凯也觉得自己太粗暴了,怎么能对自己喜欢的人凶呢?为了弥补一下,他就用温和的态度说:

“别咬手了,指甲都秃了,真难看。”这话说出口,他自己倒吓了一跳,天哪!163 他怎么可以讲

164她

难看,她要生气了。女生都是这样,上次许民说一个女生头发上的环形发夹,像是报务员165。那女生

一个劲儿地骂许民“流氓”166。不过苏平平并没生气,反倒听话地把手指从嘴里拿出来

167,孩子气地

152 「彼の一番の親友(である)と言うことになる。」

153 『中国語文法教室』p.217 参照。

154 日本語は「濾過」と文字の先後が逆になる。“介绍”も日本語では「紹介」となるが,中国語の

二字の複合語は,意味のわかりやすい字を前に置いて作る傾向がある。

155 「すべて濾過し去った」。

156 日本語では「あの口の悪い许民」と言うところである。『中国語文法教室』p.212-213 参照。

157 「もう一巻の終わりということになってしまう。」许民が来てしまえば,苏平平に手紙を渡す機

会が完全に失われる。

158 「それなに?」が“这是什么?”となっていることに注意!相手の持ち物であっても,自分の目

の前に存在する具体的な事物は“这”で指示する。

159 「動くな!」ではなく,「動かすな!」即ち「触るな!」である。

160 「彼女にわたせばそれですむことじゃないか。」“就是了”は“好了”と言うのに近い。

161 この“总”,「どのみち」が当たる。

162 “不看”が“不让看”(見せてやらない)であれば分かりやすい。「見せないなら見せない(で

いいじゃない),そんなに怒ってなによ。」“那么凶”となっているのは,严凯の怒りをあくまで

严凯の領分に押し留め,私の知ったことじゃないというニュアンスを出すためか?

163 Oh, My God! “我的天!”と言うこともある。

164 “普通话”だと“怎么可以讲”ではなく“怎么能说”と言う。

165 “报务员”は辞書的には“专做收发电报工作的人员”であるが,ここではおそらくテレビの女性

アナウンサー(“播音员”)のこと。

166 女子生徒のこのパニックは,许民の言ったことばではなく,许民が彼女(の髪飾り)に興味を示

したことでによって引き起こされたと考えるべきであろう。

167 指は体の一部であるが,“拿出来”という表現は部分が全体から切り離されているかのような感

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王安忆著《是不是那个……》

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在衣服上擦了一下。严凯松了一口气,庆幸地想:幸亏是苏平平,她是特别的,和人家不一样。严凯

心里暖融融的168,和苏平平在一起,终究是愉快的。他的手伸进口袋,捏住了信。

苏平平忽然担忧地叹了口气169,说:“今年的考题要

170也像去年的那么难,我一定考不上的。”

“考不上?”严凯惊异地睁大眼睛,望着苏平平。这几天,他还从没那么171大胆地正视过她呢!

老实说,他从来没想过大学会考不上172。是呀,考不上怎么办?不,怎么会考不上呢?

“要考不上大学就上中专173吧。中专也挺好的。”苏平平自我安慰

174地说。

“中专?”这真正是严凯没想到的,这么用功的苏平平,居然会满足于中专,说出这种没出息的

话。严凯心里忽然感到一阵不好受,他有点儿失望。

其实,满足于中专的不一定是胸无大志175,一心想上大学的也并非不是好高骛远

176。人,是很复

杂的。然而严凯只有十七岁,他当然还不能够了解这个复杂性。他看待人,甚至看待自己,都会不知

不觉地按着自己的愿望177。

“你说呢?”178苏平平又黑又亮的眼睛直盯着严凯。严凯还不太懂什么叫“漂亮”

179,什么叫“不

じを与える。「指を口から取り出した」と訳すとどういうことになるか想像されたい。同時に,事

物の具体的な移動を表す場合,“出”だけでは「„„を(外に)出す」という他動詞にならないこ

とに注意が必要である。「入れる,上げる,下げる」等をどう表現するか考えてみてほしい。

168 “nuǎnrōngrōng.de”と読む。

169 “叹了一口气”(ため息を一つ吐いた)から“一”が落ちていることに注意。

170 “要”は“要是”と同じ。条件を導く。

171 外から严凯と苏平平を観察している。

172 “普通话”では“会考不上大学”と言うべきところである。

173 “中等专业学校”の略称。“中专也挺好的”という発言は,大学に合格しなければ,職業短大に

入り,実際的な職業訓練を受けて就職すればよいという考えである。おそらく苏平平の家族や親戚

には大学教育を受けた者がまだ誰もいず,“上中专”でも破天荒であることが想像される。そして,

严凯の境遇はその逆である。

174 “自我+动词”=“自己+动词+自己”なので,“自我安慰”は“自己安慰自己”のこと。但し

“自我陶醉táozuì”のように“自己陶醉于yú自己”とパラフレーズしなければならない場合もある。

175 「職業短大で満足している者が胸に大志を抱いていないとは必ずしも言えない。」

176 「あくまで大学進学を希望する者が単なる高望みでないとは必ずしも言えない。」

177 “看待”は「見てそして接する」。「自分の願望に基づいてしまう」とは「こうであってほしい,

こうであるべきだ,よってこうであるはずだ」と考えてしまうことを言う。

178 この質問の仕方は覚えておこう。自分の意見,主張をいったん横に置き,相手の意見や主張を軽

く打診する問いかけである。

179 “什么叫„„?”(何を以て„„と言うか)や“什么是„„?”(„„とは何か)は定義付けを

求める疑問文で,文言(古代漢語)の“何谓wèi„„?”の現代語版である。

什么是爱情?(何を愛と言うか?)

何谓善?何谓信?(何を善と言うか?何を信と言うか?)

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漂亮”。他只是凭着直觉,感到这双眼睛好看。黑的很黑,白的很白,清清亮亮180。他还是喜欢她的,

勇敢点儿181,把信交给她吧。严凯咬了咬牙,将捏着信的手拔出了口袋。

“你干吗这样182咬牙切齿的?”苏平平诧异地说。

严凯愣住183了,他忽然觉得苏平平很傻,这还不明白吗?有一首诗里说,爱情无需用语言来

184传

达,只要眼睛185。难道他的眼睛里一点儿爱情都没有吗?这倒是个奇怪的事儿。严凯捏住信的拳头松

开了,他真正开始怀疑起来186,这究竟是不是那个,那个爱情?

“严凯!”这是许民在叫,严凯慌忙向自己的座位走去,可来不及了,许民已经冲到他跟前。不

过,他的脸色十分郑重:“严凯,你数学测验187只得了七十分。”

“骗人!”188 严凯大叫了起来。一把抓住许民的前襟。七十分,七十分,多么可耻的分数。他,

严凯189怎么能得这个

190分数?他一直是得一百分以上

191的。

“真的,老师说明天要让不及格的同学补考,可以自愿参加。”

严凯松开了手,他的嘴唇微微哆嗦着,这是真正的哆嗦。他慢慢儿地向自己的座位走去,不回头

地走了192。

他坐下来,伸手到台板里去拉书包193。这时,他发现手里捏着一封信。这是什么?啊,想起来了,

“什么”を“谁”に換えて“谁是严凯?”のように言うと,「严凯ってどの人がそう?」という指

定を求める疑問文になる。

180 「すがすがしい」。

181 「もう少し勇気を出せ。」形容詞で命令文を作るときは,通常,状態を現状より強めろ,弱めろ

ということになるので,“(一)点儿”を付加することによってそれを表す。

182 自分の目の前に,現実としてあるので“这样”と言う。

183 “lèng.zhu”。呆然として,瞬間的に思考が停止してしまうこと。

184 “用„„来„„”のパターン。“来”はつなぎである。

185 「目は心の窓である」は“眼睛是心灵líng的窗户”と訳される。

186 “开始”も“起来”も「開始」を表すので,“开始怀疑起来”は「馬から落馬」に近い表現に思

えるが,中国語では“继续„„下去”,“在„„着”,“能„„得”などとも言うので,なにか共

通する原理が存在するようである。これはおそらく“前进~后退”や“浮起来~沉下去”のような

表現とも関係してくる。

187 “测验”は普段の模擬テスト・小テスト。正式な試験は“考试”という。

188 「人を騙せ!」で「嘘をつけ!」。

189 ここは“他„„”だけでも“严凯„„”だけでもいいが,“他,严凯„„”とすることで,「こ

ともあろうに,あの严凯が„„」というニュアンスを出している。

190 日本語であれば「こんな点」となることに注意!

191 正式なテストではないので,100 点分の出題に加えて,我と思う人は試してみなさいというちょ

っと難しい問題が出されており,严凯はいつもそれにチャレンジし,好成績を収めているのである。

192 この文は“慢慢儿地、不回头地向自己的座位走去”を二つに分解している。

193 “伸手到台板里去”を一年生で習った文法に従って表現すれば“把手伸到台板里去”となる。「手

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王安忆著《是不是那个……》

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去他妈的194吧!这究竟是个什么?

195 害得人

196好苦,害得人得了个

197七十分。我要考试。要考一百分

以上,要考大学。他把信狠狠地揉成一团。

“严凯!”这是谁在叫?是苏平平,不知什么时候来到身边,她黑亮黑亮的眼睛正看着他,“你

别急,你一定是粗心了,不会是理解上的错误。你一定能考上大学的。”说完,她转身走了。

严凯心里忽然升起198一股温和的暖意,鼻子却有点儿发酸。他温存地把纸团子重又

199抚平了,心

里说:“我是喜欢她的。等等吧,等我考上了,哦不,读完了大学200,那时候,如果我

201还爱她,再

把信给她!”

(完)

を机の中に伸ばし入れてカバンを引っ張ろうとした→机の中からカバンを出そうとした」。言うま

でもなく,この行為はカバンを机の中から出して授業に備えるためであるが,日本語であれば「引

っ張って出す」という行為の後段(出す)を使うところである。それを,中国語は前段(引っ張る)

を使っている。前段と後段はある行為の実現に至る「過程」とその「結果」と言い換えてもよい。

そして,行為が実現した場合には,中国語は必ず前段と後段をともに言語化して“拉出(来)”と

言う。

194 「うせやがれ,くそったれめ!」

195 この文は前出の“这是什么?”をうけて一層疑念を深めたものである。しかし,“究竟”はよい

としても,“个”はなんのために加えられたものであろうか。

196 “害得人好苦!”は「お蔭で本当にひどい目にあったぞ!」慣用語として覚えよう。“害得人„

„!”は「人を„„という目に遭わせる」。比較されたい。

一阵冷风吹得他打了一个冷战。(一陣の冷たい風に彼はぶるっとふるえた)

风玩弄着伞,把它吹得向四面偏倒,有一两次甚至吹得它离开了行人的手。(風が傘をもてあ

そび,〔吹き付けて〕あちらへまたこちらへと倒している,一二度傘が道行く人の手からもぎとら

れたことさえあった)

197 “个”は“七十分”を単なる数字としてではなく,例えば「低くて許しがたい点数」のような,

なんらかの属性をもった存在として捉えたことを表す。

198 “心里忽然升起„„”は「心の中から„„が沸きあがった」であり,「心の中に„„」ではない。

199 “重又chóngyòu”でひとつの単語。意味は“又”とほぼ同じ,

200 この小説が執筆された頃は,建前上大学在学中の恋愛御法度となっていた。

201 日本語では,この“我”は不要である。