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くりっくにっぽん「日本の文化と人びと」 http://www.tjf.or.jp/clicknippon 1 © 公益財団法人 国際文化フ ラム (TJF) 出所:Takarabako No.17、ひだまり36号(2008年9月) 身近になった ボランティア活動 近年、日本ではボランティア活動に対する関心が高まっています。 社会のためだけでなく、ボランティア活動をする人にとっても得るもの が大きいことから、多くの人がボランティア活動に関わるようになって きています。 日本では、1970 年代、1980 年代を通じて、ボランティアとい うことばが一般に浸透していきました。1970 年代は、家電製品 の普及などによる家事の省力化を背景に、人々の時間的なゆと りが増え、社会参加意識が高まりました。また市町村の社会福 祉協議会のボランティアセンターに国の補助金の交付が始まるな ど、行政もボランティア活動に注目するようになりました。1980 年代は、日本国際ボランティアセンターが設立され、国連ボラン ティアに日本から初めて参加するなど、国際的なボランティア活 動に関心が高まりました。 1990 年代は企業の社会貢献活動に対する関心が高まりまし た。「ボランティア休暇」を取り入れる企業が現れたり、経済団 体連合会に利益の1%を社会貢献に支出する「1%クラブ」が発 足したりするなどしました。また、1991年には、利子の一部を 国際ボランティア活動に寄付する「国際ボランティア貯金」(2007 年に終了)が開始されました。 ボランティア元年 徐々にボランティア活動への関心が高まるなか、1995 年、死 傷者約 5万人を出した阪神 ・淡路大震災では、ボランティアが 全国から被災地にかけつけました。地震発生後の13 ヵ月間でお よそ140 万人が活動したと推計されていますが、その多くは初め てボランティア活動をした若者でした。炊き出し、救援物資の 仕分け・配送、ごみの収集・運搬、避難所での作業補助、被 災者に対する情報提供など多岐にわたる活動は注目を浴びまし た。ボランティアの活躍が評価され、ボランティア活動に関する 関心が大いに高まったことから、1995 年は「ボランティア元年」 と言われています。その後、各地で火山噴火や地震、台風によ る水害などの災害が起こる たびに、多くのボランティ アが被災地で活動するよう になり、いまや災害時のボ ランティアは欠かせない存 在になりました。 増えるボランティア 災害時だけでなく、日 常的にボランティア活動に 関わる人も増えています。 2005年度現在、全国の社 会福祉協議会が把握してい るボランティアの人数は 740 万人弱(総人口の 5.8%)で、調査が 始まった 1980 年から2005 年までの 25 年間で、約 4.6 倍に増加 しています。ボランティア活動を行う人の数や割合は、ボランティ ア活動の定義や調査の仕方によっても異なります。別の調査  (平成 13 年社会生活基本調査・総務省)では、1年間にボランティ ア活動を行った人の割合は 28.9%とも報告されています。 少子高齢化、環境問題の深刻化、地域コミュニティーの希薄 化、長期滞在の外国人の増加など大きく社会が変化して、多様 なニーズが生まれています。しかし、行政だけでは対応できない ことから、さまざまな分野でボランティアの果たす役割、期待が 大きくなっているのです。 © 阪神大震災記念 人と防災未来センター © 阪神大震災記念 人と防災未来センター 1995年1月に起きた阪神淡路大震災後、被災者に炊き出しをするボランティア 阪神・淡路大震災の被災地で 救援物資を運ぶボランティア ボランティアの力で蘇った海 阪神・淡路大震災の2年後の1997年、ロシア船籍のタンカーからドラム 缶3万1千本分の重油が流れ出し、日本海が重油に覆われるというナホト カ号重油流出事故が起こりました。海と漁業を救うために全国各地から 駆けつけたボランティアは地元住民とともに、真冬の厳しい寒さの中、バ ケツとひしゃくで重油をすくいました。このとき活動したボランティアは30万 人。そして、蘇るのに5年はかかるといわれていた海は、4ヵ月で蘇りました。 阪神・淡路大震災のときには、数多くのボランティアが駆けつけたもの のコーディネーターが少なかったために、震災直後はボランティア側も受 け入れる側も混乱するケースが見られました。しかし、このときの反省から、 災害が起こるとすぐに現地に災害ボランティアセンターが立ち上げられ、ボ ランティアの受け入れをするようになりました。ナホトカ号重油流出事故で も、ボランティア同士の連携や行政との連携が図られるなど、阪神・淡路 大震災の教訓が生かされました。

身近になった ボランティア活動©公益財団法人国際文化フォーラム(TJF) 2 出所:Takarabako No.17、ひだまり36号(2008年9月) ボランティアって何?「ボランティア活動」に明確な定義はなく、時代や国によって異なります

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くりっくにっぽん「日本の文化と人びと」 http://www.tjf.or.jp/clicknippon

1©公益財団法人 国際文化フォーラム(TJF) 出所:Takarabako No.17、ひだまり36号(2008年9月)

身近になったボランティア活動

近年、日本ではボランティア活動に対する関心が高まっています。社会のためだけでなく、ボランティア活動をする人にとっても得るものが大きいことから、多くの人がボランティア活動に関わるようになってきています。

日本では、1970年代、1980年代を通じて、ボランティアということばが一般に浸透していきました。1970年代は、家電製品の普及などによる家事の省力化を背景に、人々の時間的なゆとりが増え、社会参加意識が高まりました。また市町村の社会福祉協議会のボランティアセンターに国の補助金の交付が始まるなど、行政もボランティア活動に注目するようになりました。1980年代は、日本国際ボランティアセンターが設立され、国連ボランティアに日本から初めて参加するなど、国際的なボランティア活動に関心が高まりました。1990年代は企業の社会貢献活動に対する関心が高まりました。「ボランティア休暇」を取り入れる企業が現れたり、経済団体連合会に利益の1%を社会貢献に支出する「1%クラブ」が発足したりするなどしました。また、1991年には、利子の一部を国際ボランティア活動に寄付する「国際ボランティア貯金」(2007年に終了)が開始されました。

ボランティア元年徐々にボランティア活動への関心が高まるなか、1995年、死傷者約 5万人を出した阪神・淡路大震災では、ボランティアが全国から被災地にかけつけました。地震発生後の13ヵ月間でおよそ140万人が活動したと推計されていますが、その多くは初めてボランティア活動をした若者でした。炊き出し、救援物資の仕分け・配送、ごみの収集・運搬、避難所での作業補助、被災者に対する情報提供など多岐にわたる活動は注目を浴びました。ボランティアの活躍が評価され、ボランティア活動に関する関心が大いに高まったことから、1995年は「ボランティア元年」と言われています。その後、各地で火山噴火や地震、台風によ

る水害などの災害が起こるたびに、多くのボランティアが被災地で活動するようになり、いまや災害時のボランティアは欠かせない存在になりました。

増えるボランティア災害時だけでなく、日常的にボランティア活動に関わる人も増えています。2005年度現在、全国の社会福祉協議会が把握しているボランティアの人数は740万人弱(総人口の5.8%)で、調査が始まった1980年から2005年までの25年間で、約 4.6倍に増加しています。ボランティア活動を行う人の数や割合は、ボランティア活動の定義や調査の仕方によっても異なります。別の調査 (平成13年社会生活基本調査・総務省)では、1年間にボランティア活動を行った人の割合は28.9%とも報告されています。少子高齢化、環境問題の深刻化、地域コミュニティーの希薄化、長期滞在の外国人の増加など大きく社会が変化して、多様なニーズが生まれています。しかし、行政だけでは対応できないことから、さまざまな分野でボランティアの果たす役割、期待が大きくなっているのです。

© 阪

神大

震災

記念

人と

防災

未来

セン

ター

© 阪

神大

震災

記念

人と

防災

未来

セン

ター

1995年1月に起きた阪神淡路大震災後、被災者に炊き出しをするボランティア

阪神・淡路大震災の被災地で救援物資を運ぶボランティア

ボランティアの力で蘇った海阪神・淡路大震災の2年後の1997年、ロシア船籍のタンカーからドラム

缶3万1千本分の重油が流れ出し、日本海が重油に覆われるというナホトカ号重油流出事故が起こりました。海と漁業を救うために全国各地から駆けつけたボランティアは地元住民とともに、真冬の厳しい寒さの中、バケツとひしゃくで重油をすくいました。このとき活動したボランティアは30万人。そして、蘇るのに5年はかかるといわれていた海は、4ヵ月で蘇りました。

阪神・淡路大震災のときには、数多くのボランティアが駆けつけたもののコーディネーターが少なかったために、震災直後はボランティア側も受け入れる側も混乱するケースが見られました。しかし、このときの反省から、災害が起こるとすぐに現地に災害ボランティアセンターが立ち上げられ、ボランティアの受け入れをするようになりました。ナホトカ号重油流出事故でも、ボランティア同士の連携や行政との連携が図られるなど、阪神・淡路大震災の教訓が生かされました。

Page 2: 身近になった ボランティア活動©公益財団法人国際文化フォーラム(TJF) 2 出所:Takarabako No.17、ひだまり36号(2008年9月) ボランティアって何?「ボランティア活動」に明確な定義はなく、時代や国によって異なります

2©公益財団法人 国際文化フォーラム(TJF) 出所:Takarabako No.17、ひだまり36号(2008年9月)

ボランティアって何?「ボランティア活動」に明確な定義はなく、時代や国によって異なりますが、一般的に「自発的に、他の人々や社会のための活動を、無償で行うこと」と考えられています。日本では古くから、農作業を行うために集落の人々が互いに労働を提供しあう相互扶助の慣行がありました。現在も、各地域には、その地域の住人を中心に構成される町内会と呼ばれる自治組織があり、町内の清掃や祭りなどを行っています。これらは、社会のための活動という点では、ボランティア活動とも考えられますが、自発的な活動というより、むしろ共同体の一員の仕事として行われています。日本では、「ボランティア」が「奉仕」と訳されたり、同義に使われたりすることがあります。しかし、「奉仕」は国や社会、目上の者に尽くすことであり、自由意思であるかどうかは関係ありません。そのため、「ボランティア」の自主的に進んで行うという主旨に反することから、最近は訳さないで「ボランティア」ということばが使われます。

どんな活動が多い?全国社会福祉協議会が把握しているボランティア団体数は2005年現在、約 12万 4,000で、その活動内容は多岐にわたっています。最も多いのは「保健・医療・福祉」で、ついで「まちづくりの推進」「子どもの健全育成」「社会教育の推進」となっています。そのほかには、「文化・芸術・スポーツの振興を図る」「環境保全」「人権擁護・平和の推進」「国際協力活動」などがあります。病院ボランティア団体は1960年代初めから活動しており、

「保健・医療・福祉」の分野でのボランティア活動の歴史は長く、それだけ携わる団体も多くなっています。具体的な活動としては、病院などの医療施設での案内、車いすでの移送などがあります。また、急速な高齢化が大きな話題になった1980年代から、高齢者を対象とした活動も増えています。具体的な活動としては、高齢者や障害者の施設での介護や介助、交流

学校でのボランティア活動人びとのボランティア活動に対する関心が高まってくると同時に、学校教育にもボランティア活動を取り入れようという動きがあり、1998年以降、学習指導要領でボランティア活動が推奨されるようになりました。また、高校や大学の入学試験の際に、ボランティア活動歴を評価に含める学校もあります。しかし、いい評価を得るためにボランティア活動が行われることがあり、ボランティア活動の本来の意義が損なわれることから、ボランティア活動を評価の対象にすることには賛否両論あります。

活動や老人や障害者を対象にした食事の調理、配達などが挙げられます。ほかに、地域をよりよくするためのまちづくり、子供の自然体験活動のサポートや子どもたちの登下校や放課後の見守り、地域清掃や花壇づくりなどの環境美化活動、海外への物資送付などの国際協力活動、国際映画祭など大規模なイベントの運営サポート、観光地でのガイドなどがあります。また、近年、長期滞在の外国人が増加したことで、各地に日本語教室が増えていますが、これも地域のボランティアに支えられています。最近、ボランティアセンターやウェブサイトなどを通じて、ボランティア情報を簡単に得ることができるようになったことから、こういった団体に属さないで、個人でボランティア活動を行う人も増えています。

地域の高齢者のためにお弁当を作るボランティア 中国から来た中学生に日本語を教える中国人と日本人のボランティア

© T

JF

© T

JF

Page 3: 身近になった ボランティア活動©公益財団法人国際文化フォーラム(TJF) 2 出所:Takarabako No.17、ひだまり36号(2008年9月) ボランティアって何?「ボランティア活動」に明確な定義はなく、時代や国によって異なります

3©公益財団法人 国際文化フォーラム(TJF) 出所:Takarabako No.17、ひだまり36号(2008年9月)

多くの仲間ができた

活動自体が楽しい

自分の人格形成や成長にプラスになっている地域社会とのつながりをつくることができた新しい知識や技術を習得できた

社会に対する見方が広がった

自分が社会や他の人の役に立っていることを実感できた

生きがいを得ることができた

20 40 60 80 100

71.3

57.6

55.9

52.8

49.0

44.0

43.6

42.2

(%)

ボランティアに参加して良かったことはなんですか?

活動する時間がない35.9%

興味がわかない

15.1%

参加するきっかけが得られない

14.2%

身近に団体や活動内容に関する情報がない

11.1%

身近に参加したいと思う適当な活動や共感する団体がない 6.6%

身近に一緒に参加できる適当な人がいない

6.2%

活動によって得られるメリットが期待できない

家族や職場の理解が得られない

その他

NPOやボランティアなどに参加する際に苦労すること、または参加できない要因はどんなことですか?

6.4%2.7%

1.8%

「全国ボランティア活動者実態調査報告書」(平成13年度・全国社会福祉協議会)

「国民生活選好度調査」(2003年・内閣府)

公園の清掃を行う小学生とお年寄りのグループ

©塚

原章

子©

上ノ

原ま

ちづ

くり

の会

小学生の登下校を毎日見守るボランティアグループのメンバー

野球のリトルリーグのコーチを務めるボランティア

©筑

井秀

どんな人が活動している?ボランティア活動をしている人を職業別に見ると、専業主婦が38.1%、定年退職者が24.5%と、平日に比較的時間が自由に使える人たちが多くなっています(「全国ボランティア活動者実態調査報告書」平成 13年度・全国社会福祉協議会)。日常的なボランティア活動の多くは、専業主婦や定年退職者に支えられているといえます。過去1年間にボランティア活動を行った人の率を年齢別に見ると、30代後半から70代前半までは30%前後と高くなっています。しかし20代後半から30代前半は20%以下と低くなり、10代後半から20代前半は13.4%と最も低くなっています。(「平成 8年社会生活基本調査」・総務省)活動内容は年代や性別によって異なります。例えば、10歳代では「まちづくりのための活動」や「自然や環境を守るための活動」に関わる人が多く、30、40歳代は「子どもを対象とした活動」に関わる人が多いようです。また、高齢者に関わる活動は、50代後半から60代後半の女性が多く関わっています。

ボランティア活動に参加してよかったことボランティア活動に参加した理由として、「社会やお世話になったことに対する恩返しをしたかった」(40.8% )や「困っている人を助けたいと思った」(34.5%)が多く挙がっていますが、実際にボランティア活動をしている多くの人々は、活動を通じて得たことやよかったことがあると考えています。ボランティア活動を通じて、仲間ができたり、自分の成長にプラスになったりと、自分にとっても大きなメリットがあったとする人が多くいます。

ボランティアに参加できない理由国民生活選好度調査(平成 12年度・経済企画庁)によると、国民の65%はボランティア活動に参加してみたいと考えています。しかし、実際に活動している人の数は、この数とは隔たりがあります。ボランティア活動をしたいのに、実際にはできない理由は何なのでしょうか。時間がないことが圧倒的に多いのですが、きっかけが得られなかったり、情報が得られなかったりすることも理由となっています。

Page 4: 身近になった ボランティア活動©公益財団法人国際文化フォーラム(TJF) 2 出所:Takarabako No.17、ひだまり36号(2008年9月) ボランティアって何?「ボランティア活動」に明確な定義はなく、時代や国によって異なります

4©公益財団法人 国際文化フォーラム(TJF) 出所:Takarabako No.17、ひだまり36号(2008年9月)

高校生のボランティア活動ボランティア活動をしている人を職業別に見ると、専業主婦が38.1%、定年退職者が24.5%と、平日に比較的時間が自由に使える人たちが多くなっています(「全国ボランティア活動者実態調査報告書」平成 13年度・全国社会福祉協議会)。日常的なボランティア活動の多くは、専業主婦や定年退職者に支えられているといえます。過去1年間にボランティア活動を行った人の率を年齢別に見ると、30代後半から70代前半までは30%前後と高くなっています。しかし20代後半から30代前半は20%以下と低くな

り、10代後半から20代前半は13.4%と最も低くなっています。(「平成 8年社会生活基本調査」・総務省)活動内容は年代や性別によって異なります。例えば、10歳代では「まちづくりのための活動」や「自然や環境を守るための活動」に関わる人が多く、30、40歳代は「子どもを対象とした活動」に関わる人が多いようです。また、高齢者に関わる活動は、50代後半から60代後半の女性が多く関わっています。

ユース国際ボランティアフォーラム(Youth International Volunteer Forum)

2004年から年に1回神奈川県で開催されている、国際ボランティア推進のためのイベント。世界の諸問題について高校生が調べたことや行動したことを、特に同世代に向けて発信し、彼らが国際ボランティアを身近に感じ活動に参加するきっかけになることをねらっています。企画・運営は地元の高校生による実行委員会が行っています。実行委員は、実行委員長、事務局長、次長など9つの役職に分かれ、企画、渉外、広報、当日の運営などの業務を担います。2008年3月に行われた第5回フォーラムでは次のような

ことを行いました。

●展示(児童労働、ストリートチルドレン、温暖化、飢餓)●基調講演:私たちができる国際ボランティアについて (外部講師の講演)

●その他:チャリティーイベント、参加型ボランティア(手話講座、紙芝居の作成、文具支援)、県主催のベトナムへの青少年ボランティア派遣団参加者の報告

途上国の車いす修理活動

栃木県立栃木工業高校は福祉機器製作部(部活動の一つ)の生徒が中心となり、地域の社会貢献を行う団体やNGOなどと協力して「栃高校国際ボランティアネットワーク」を結成し、1991年から、県内外の病院や福祉施設などで使われた中古の車いすを修理して、海外に贈る活動を続けています。これまでにタイ、フィリピン、マレーシア、ネパール、中国、韓国、インド、スリランカ、ケニアなど21ヵ国に約1,785台を送り届けました。これは、「空飛ぶ車いす」活動と呼ばれ、現在では日本中に約50校の参加協力校があります。*1

同高校ではこの運動と関連した活動として、タイに「国際交流タイボランティア活動」を行っています。毎年、十数名の生徒が8日間の日程で訪問し、車いすの寄贈先を訪ねて修理をしたりタイの人 と々交流の機会を持ったりしています。現地での修理は大変な作業ですが、参加した生徒の一人はこのような感想を述べています。「(修理活動4日目には)みんなに疲れがたまっているのが明らかにわかりました。しかし、弱音を誰一人として吐きません。皆が一つの目標に向かって走っているのだから。修理が終わって帰ろうとするとき、タイの人々が、いつまでも手を振ってくれていた時、この活動に参加して本当によかったと思いました。」

*1 この活動は『空とぶ車いす』 (文:井上夕香、画:鴨下潤、素朴社刊、2008年)の中で紹介されました。

栃木県立栃木工業高校ホームページ:http://www.tochigi-edu.ed.jp/tochigikogyo/

©栃

木県

立栃

木工

業高

© T

JF

Page 5: 身近になった ボランティア活動©公益財団法人国際文化フォーラム(TJF) 2 出所:Takarabako No.17、ひだまり36号(2008年9月) ボランティアって何?「ボランティア活動」に明確な定義はなく、時代や国によって異なります

5©公益財団法人 国際文化フォーラム(TJF) 出所:Takarabako No.17、ひだまり36号(2008年9月)

子どもたちのためのボランティア

ボランティアを始めたのは中学 2年生の頃ころ

です。僕ぼく

の学校はキ

リスト教きょう

系けい

の中ちゅう

高こう

一いっ

貫かん

校こう

で、ボランティア活かつ

動どう

をする委い

員いん

会かい

「愛あい

の運うん

動どう

委い

員いん

会かい

」があり、僕ぼく

はそのメンバーとして活かつ

動どう

しています。

ボランティアはいいことだと思っていたし、人を助たす

けることにも関かん

心しん

があったし、また、友だちがその委い

員いん

会かい

に入るというので入り

ました。

委い

員いん

会かい

では、月に一度くらい日曜日に、さまざまな事じ

情じょう

で親と

離はな

れて暮く

らす子どもたちの施し

設せつ

を訪ほう

問もん

して、子どもたちといっしょ

に遊あそ

びます。委い

員いん

会かい

の最さい

大だい

の行事はクリスマス会で、毎年 12月

に施し

設せつ

の子どもたちを学校に招しょう

待たい

して行います。この活かつ

動どう

はもう

30年以上続つづ

いています。全ぜん

校こう

生せい

徒と

に参さん

加か

を呼よ

びかけて、子ども

たちと体たい

育いく

館かん

やグラウンドで遊あそ

んだり、ゲームをしたり、学校のブ

ラスバンド部ぶ

の演えん

奏そう

会かい

を行ったりして、一日中楽しみます。

子どもと生せい

徒と

の 2人でペアを組く

んで遊あそ

びますが、仲なか

良よ

くなって

「もう帰りたくない!」と言われたこともあります。彼かれ

らが喜よろこ

ぶのを

見るのは楽しみですし、子どもたちと接せっ

して、心が洗あら

われるような

新しん

鮮せん

な気持ちにもなります。 

飢餓問題について学ぶ

去年の夏、この委い

員いん

会かい

の先生の紹しょう

介かい

で、「高校生公こう

益えき

活かつ

動どう

リー

ダー塾じゅく

」という活かつ

動どう

に参さん

加か

しました。福ふく

祉し

や国こく

際さい

的てき

な公こう

益えき

分ぶん

野や

の活かつ

動どう

に関かん

心しん

を持つ神か

奈な

川がわ

県けん

内ない

の高校生約やく

30人を対たい

象しょう

にした

活かつ

動どう

で、次じ

世せ

代だい

のリーダー育いく

成せい

をめざして、8月に 2泊はく

3日で開

かれました。

専せん

門もん

家か

から市し

民みん

社しゃ

会かい

や国こく

際さい

公こう

益えき

活かつ

動どう

、障しょう

害がい

や児じ

童どう

虐ぎゃく

待たい

など

の現げん

状じょう

について話を聞いたり、活かつ

動どう

に必ひつ

要よう

なスキルを学んだりし

ました。さらに参さん

加か

者しゃ

の関かん

心しん

によって四つの班はん

に分かれ、班はん

ごと

にプロジェクトを考えて、発はっ

表ぴょう

しました。

僕ぼく

が参さん

加か

した「医い

療りょう

・生せい

命めい

」班はん

は、飢き

餓が

問もん

題だい

をテーマに選えら

ました。飢き

餓が

の現げん

状じょう

を知ってとても驚おどろ

いたし、日本人にも身み

近ぢか

問題だとわかったからです。例たと

えば、世界では 8億おく

人以上の人

が常つね

に飢う

えていること、その一方、日本では毎年 2,000万トンの

食しょく

糧りょう

が捨す

てられること、この 2,000万トンの食しょく

糧りょう

があれば 7,000

万人が 1年間食しょく

糧りょう

に困こま

らないこと、日本も40年程ほど

前まではユ

ニセフの食しょく

糧りょう

支し

援えん

を受う

けていたことなど、いろいろなことを学び

ました。そして僕ぼく

たちは、問題を解かい

決けつ

するためには、単たん

に食しょく

糧りょう

支し

援えん

をするだけでなく、人々が自みずか

らの力で食しょく

糧りょう

を確かく

保ほ

できるように

することが大切だと考えました。また、子どもたちが学校給きゅう

食しょく

栄えい

養よう

を取と

れれば、授じゅ

業ぎょう

に集しゅう

中ちゅう

できるし、就しゅう

学がく

率りつ

も上がるし、将しょう

来らい

に希き

望ぼう

を持って自みずか

らの問もん

題だい

解かい

決けつ

に取と

り組く

めるのではないかと考

えました。

そこで僕ぼく

たちの班はん

の 6人は、チャリティー(慈じ

善ぜん

)イベントを開い

て飢き

餓が

の現げん

状じょう

を地じ

元もと

の小学生に伝つた

え、集めた資し

金きん

を途と

上じょう

国こく

給きゅう

食しょく

支し

援えん

のために寄き

付ふ

する企き

画かく

を考えました。

学んだことを行動に

リーダー塾じゅく

の終しゅう

了りょう

後ご

も班はん

のメンバーで相そう

談だん

し、自分たちにでき

ることを行動に移うつ

したいと考えて、このチャリティーイベントを実じつ

現げん

するための活かつ

動どう

を続つづ

けました。

必ひつ

要よう

な経けい

費ひ

を集めるために、イベントを行う小学校の地ち

区く

の商しょう

店てん

を 1軒けん

ずつ訪たず

ねてイベントの目もく

的てき

を説せつ

明めい

し、寄き

付ふ

をお願ねが

いしま

した。すると、目もく

標ひょう

の 2倍ばい

以上の金きん

額がく

が集まりました。初はじ

めて会

うお店の人に高校生が寄き

付ふ

をお願ねが

いするのですから、甘あま

くはな

人の役に立ちたい

ショーン高校 2年生、17歳

神奈川県在住

高校生公益活動リーダー塾で班ごとに意見を出し合う

©高

校生

公益

活動

リー

ダー

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6©公益財団法人 国際文化フォーラム(TJF) 出所:Takarabako No.17、ひだまり36号(2008年9月)

いと予よ

想そう

していたので、こ

の結けっ

果か

には驚おどろ

きましたし、

とてもうれしかったです。

12月の日曜日に行った

イベントには、多くの子ど

もたちが参さん

加か

してくれまし

た。楽しみながら、飢き

餓が

問もん

題だい

について学べるよう、

いろいろな工く

夫ふう

をしました。模も

造ぞう

紙し

20枚まい

以上を使って飢き

餓が

につ

いて展てん

示じ

し、サッカーやわなげなどのゲームも用意しました。また、

フリーマーケットでは、メンバーの高校で集めたぬいぐるみや文ぶん

房ぼう

具ぐ

を販はん

売ばい

しました。小学生たちは、想そう

像ぞう

もできないような大たい

変へん

な生せい

活かつ

をしている世界の子どもたちのことを知って、驚おどろ

いたようで

した。小学生に飢き

餓が

の実じっ

態たい

を知ってもらえたと確たし

かに感かん

じました。

フリーマーケットなどで集めた資し

金きん

15,000円あまりは、全すべ

てWFP

(国こく

連れん

世せ

界かい

食しょく

糧りょう

計けい

画かく

)に寄き

付ふ

しました。

イベントの直ちょく

前ぜん

は準じゅん

備び

をするために、週に 3、4回かい

集まらなけ

ればならなかったので大たい

変へん

でした。でも、世界のいろいろな問題

の実じっ

態たい

を調しら

べるだけでなく、その原げん

因いん

を調しら

べ、解かい

決けつ

に向む

けて自

分たちには何ができるかを考えて、行動に移うつ

すことができました。

とても有ゆう

意い

義ぎ

な活かつ

動どう

で、濃こ

い時間を持てたと思います。

多くの人に伝えたい

リーダー塾じゅく

の参さん

加か

者しゃ

の多くはこのようにそれぞれ活かつ

動どう

を続つづ

け、

今年 3月の「ユース国こく

際さい

ボランティアフォーラム」(YouFo)*の開かい

催さい

にも携たずさ

わり、これまでの活かつ

動どう

について発はっ

表ぴょう

しました。今年は 8校

の 34人が YouFoの実じっ

行こう

委い

員いん

になり、企き

画かく

や渉しょう

外がい

、運うん

営えい

など全すべ

てを高校生が行いました。僕ぼく

は副ふく

実じっ

行こう

委い

員いん

長ちょう

を務つと

めました。

当とう

日じつ

はリーダー塾じゅく

の班はん

活かつ

動どう

の成せい

果か

に基もと

づく四つの展てん

示じ

、講こう

師し

による基き

調ちょう

講こう

演えん

、ベトナムへの青少年ボランティア派は

遣けん

団だん

の報ほう

告こく

、手しゅ

話わ

講こう

座ざ

など、さまざまなプログラムを行いました。若わか

い人を

中心に約やく

200人が来らい

場じょう

し、当とう

日じつ

のアンケートを見ると、「すばら

しい学がく

習しゅう

成せい

果か

だと感かん

心しん

した」「ボランティアを一度やってみたい

と思った」「毎年参さん

加か

したい」などの反はん

響きょう

がありました。

考えたこと学んだこと

リーダー塾じゅく

や YouFoに参さん

加か

した、僕ぼく

と同じ学年の仲なか

間ま

の多く

が次じ

回かい

も参さん

加か

しますが、僕ぼく

は今こん

回かい

でやめることにしました。高校

2年生になって塾じゅく

に通う友だちが増ふ

え、受じゅ

験けん

を意い

識しき

するようになっ

たのです。将しょう

来らい

の進しん

路ろ

について考え、勉強を優ゆう

先せん

しないといけ

ないと思っています。

YouFoの実じっ

行こう

委い

員いん

は 1、2ヵ月に 1回くらい、役やく

員いん

はそれ以

外に月に 2、3回かい

集まり、さらに展てん

示じ

の準じゅん

備び

をするための班はん

活かつ

動どう

もあります。会かい

合ごう

は平へい

日じつ

の放ほう

課か

後ご

5時から 9時までかかり、家に

帰って落お

ち着くと10時になることもありました。その上、分ぶん

担たん

した

作さ

業ぎょう

を家ですることもあり、負ふ

担たん

が大きかったのですが、自分で

決き

めたことなのでやり通そうと思いました。

また、学校のクラブ活かつ

動どう

などと重なるとYouFoの会かい

合ごう

に出ら

れず、フラストレーションを感かん

じることもありました。会かい

合ごう

をよく欠けっ

席せき

するメンバーもいて、どうやってみんなで情じょう

報ほう

や考えを共きょう

有ゆう

するか

は難むずか

しい問題でした。YouFoの活かつ

動どう

内ない

容よう

についても、ボランティ

ア活かつ

動どう

をすることと、その活かつ

動どう

について発はっ

表ぴょう

することの二つのう

ち、後こう

者しゃ

が中心になっていないかという疑ぎ

問もん

の声こえ

もあります。そ

れには僕ぼく

も共きょう

感かん

する部ぶ

分ぶん

があります。

でも活かつ

動どう

を通つう

じて得え

たことはたくさんあったので、参さん

加か

してよかっ

たと思っています。まず飢き

餓が

問もん

題だい

の知ち

識しき

を得え

たこと。それから、

展てん

示じ

にあたりどう工く

夫ふう

すればよいか話し合あ

い、みんなの意見を反はん

映えい

しながら作り上げていく大切さを知りました。活かつ

動どう

の仲なか

間ま

やボ

ランティアをする相あい

手て

の人と、どうやってより良よ

い関かん

係けい

をつくるかも

学んだと思います。一つのことを成な

し遂と

げた達たっ

成せい

感かん

や充じゅう

足そく

感かん

も得え

られました。違ちが

う学校の仲なか

間ま

といっしょに活かつ

動どう

するのは、時間や

場ば

所しょ

の点てん

で大たい

変へん

でしたが、挑ちょう

戦せん

したいと思いました。苦く

労ろう

して努ど

力りょく

したからこそ、形かたち

になったときに喜よろこ

びを感かん

じるのだろうと思います。

僕ぼく

たちの活かつ

動どう

の要かなめ

は人です。多くの高校生に、こんな意い

識しき

を持っ

てこんな活かつ

動どう

をしている高校生がいると伝つた

えたいと思います。その

ためには、もっと高校生を惹ひ

きつける工く

夫ふう

が必ひつ

要よう

でしょう。ボラン

ティアと言うと敬けい

遠えん

されてしまうので、それを前ぜん

面めん

に出さないで、高

校生が関かん

心しん

を持つことと結むす

びつけるとか、魅み

力りょく

的てき

なキャッチコピー

を作るとかできたらいいでしょうね。それは究きゅう

極きょく

の課か

題だい

かもしれま

せん。YouFoの活かつ

動どう

はやめても、これからも学校の委い

員いん

会かい

でボ

ランティアをしながら考えていきたいと思います。

将しょう

来らい

の夢ゆめ

は医者になることですが、これも「人の役やく

に立ちた

い」という気持ちから選えら

んだ道です。もし夢ゆめ

をかなえることができ

たら、地ち

域いき

密みっ

着ちゃく

型がた

の医い

療りょう

に関かん

係けい

していきたいです。

小学校で開いたフリーマーケット

さまざまな問題について高校生が調べてまとめたポスターに見入る YouFo の来場者

©高

校生

公益

活動

リー

ダー

* Youth International Volunteer Forum の略。詳細は「今日日本」を参照。

この原稿は、ショーン(愛称)さんへのインタビューをもとにまとめました。