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卒業論文集 平成 24 年度(2012 年度) 葵商学論究 1 東京経済大学 経営学部 森岡耕作ゼミナール

葵商学論究 - 東京経済大学web.tku.ac.jp/~z-morioka/articles/thesis/2012/thesis_2012_all.pdf · スイッチング・コストは、このように分類されるが、機能的には同一製品間の選択に直面し

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卒業論文集 平成 24年度(2012年度)

葵商学論究 第 1巻

東京経済大学 経営学部 森岡耕作ゼミナール

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はしがき

2011年 5月 5日。

未曾有の大震災が日本を襲ってから、まだ落ち着きも取り戻すこともできず、混沌とした状

況にあったこの日、東京経済大学に小さなゼミが開講された。奇しくも、こどもの日である。

14 名のゼミ生と新米教員によって産声をあげたこのゼミは、まさに赤子同然であった。しかし

その様子は、幼子の可愛さというよりも、むしろ、非力な未熟さを呈するものに他ならなかっ

たはずである。「先生」と呼ばれることに不慣れな教員。ゼミの重要性を認識できていないゼミ

生。独立して歩くにはほど遠い程、未熟なゼミであった。

にもかかわらず、ゼミとして歩き出さなければならない。確かに、その歩き方には、色々な

ものが考えられるし、実際、多様であるべきである。その中にあって森岡ゼミは、「マーケティ

ングの学術研究」と題される方向を選んだ。マーケティングについての「学問」をゼミ生と共

に実践することを選択したのである。大学院を出たばかりの私にとって、唯一採ることのでき

る方法がそれだった。しかし、学問は、誰に対しても平等である。獲得する知識に対して誠実

でありさえすれば、それを実践する者に対して、身分の貴賤上下を区別することもない。それ

ゆえに、研究に取り組むに際して、私とゼミ生との間には何らの区別もなかったと思う。確か

に、当初はそのことに大いに迷っていたかもしれないゼミ生が、協力してグループ研究を行い、

協力しながらではあるが、歩き方を覚えた。学問に誠実であろうと努力した皆の結晶は、どの

大学のどのゼミのそれにも劣らぬ輝きを放っている。もちろん、本論文集にもそれは収められ

ている。

そして、ここに、つかまり立ちから自立し、独立するその証として、石井沙織さんと増野綾

佳さんの 2 名の卒業論文が収められている。いずれも、自ら考え、自ら苦しみ、そして自らの

手で生み出した力作である。そして、その姿勢は、学問を行う者に相応しかった。確かに、こ

れからの彼女たちの人生において、これらの論文を執筆したことは、ある意味では小さな一歩

かもしれない。しかし、独立して、歩き始めたその一歩は、重要な意味を持つことであろう。

2013年 3月 22日。

当時まだ立つことさえままならなかった 2 人が、今、真に独立すべく新たなる場所へ挑戦す

る日を迎えた。この証と共に。

東京経済大学経営学部

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iv

目 次

はしがき ......................................................................................................................................ⅲ

目次 ..............................................................................................................................................ⅳ

石井 沙織 「消費者のスイッチング行動の規定要因」 ......................................................1

増野 綾佳 「ライバルって本当は陰の味方?──「食べるラー油」の事例における

ライバルの効用──」 ......................................................................................................33

2011年度関東十ゼミ討論会投稿論文

「経験価値に基づく非計画購買行動モデル

──なぜ小売業態間で非計画購買率に差異が生じるのか?──」 ..........................47

あとがき ......................................................................................................................................99

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石井沙織「消費者におけるスイッチング行動の規定要因」

1

消費者のスイッチング行動の規定要因

森岡耕作ゼミナール

石井 沙織

第 1章 問題意識

現代の世の中の市場においては、商品はあふれかえっており、数多くの商品が多様な業態に

おいて売られている。我々消費者は数多くの商品の中から好きな商品を選ぶことができる。

つまり、消費者はいつも同じ商品を買わず、違う種類やカテゴリー、メーカーの製品を購買す

る可能性もある。むしろ、いつも同じ製品やサービスを受ける消費者の方が少ないのではない

かといえるほどである。したがって、いつも同じブランドの商品を購買していたとしても次に

同じブランドの製品を購入するかという点については不確実であろう。

消費者目線だけでなく、企業目線で考えてみると、頻度や価格、財の違いはあるにしても消

費者は多くの商品の中から商品を選び、次もロイヤルティを持って購買するのかという問題は

企業の利益やブランド力構築、つまり企業の継続的経営においても重要な要因であると考えら

れる。つまり継続的に購買している、もしくは使っている商品を買い替えるという消費者行動

について研究することは学術面においても実務面においても意義のあるものになるであろうと

考える。

さらに近年、Apple社を代表するプロダクトイノベーションが多発しており、数々の新しい商

品が生み出されている。とりわけ、近年ダブレット端末や PC市場においては競争が激化してい

る。

また、現代においては情報革新や製品のイノベーションも進んでおり、一般 100 世帯あたり

の PCの保有台数を見ても右肩上がりであることが図表 1からも示されている。また、2012年度

現在においては保有台数 130を超えており、1人 1台保有しているのは当たり前であり、これか

らの時代は 1人 2台を保有する人が増える可能性も高いといえるであろう。

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石井沙織「消費者におけるスイッチング行動の規定要因」

2

図表 1 一般世帯の PCの保有台数(100世帯あたり)

出所)内閣府 経済社会総合研究所 消費者動向調査(平成 24年 3月末) のデータ基に作成。

http://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/2012/1203honbun.pdf#page=2

消費者にとって身近であり、毎日の生活にかかすことのできない PCに焦点をあて、なぜ買い

替えることにより、多くの手間や様々な労力がかかるのに PCから買い替えるのかということに

ついて研究していく。

スイッチング行動については経済学や心理学などの多くの学者において研究されているが、

スイッチングの定義が明確にされていない。また、サービス産業や低スイッチング・コスト産

業と呼ばれるファーストフード、スーパーマーケット、遊園地などの業界においては研究が試

みられているものの、PCのスイッチング行動について研究は著者が知る限りでは皆無である。

よって、PCのスイッチングの要因を特定することは学術的においても実務的においても意義の

あるものであると考える。そこで、サービス産業とは対照的な PCについてもスイッチング行動

の要因を特定することを本論の目的とする。

そこで、スイッチング行動には、企業にとっても消費者にとってもコストが発生すると述べ

られている。スイッチング・コストに着目し、なぜ消費者はスイッチングには多くのコストを

知覚するにもかかわらず、スイッチングをするのだろうかということを解明していきたい。

第 2節 本論の構成

本論は、「消費者はなぜスイッチングするのだろうか」という研究課題に沿って次のように展

10

30

50

70

90

110

130

150

1987 1990 1995 1998 2000 2003 2005 2008 2012

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石井沙織「消費者におけるスイッチング行動の規定要因」

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開される。第 2 章では、消費者行動論においてスイッチング行動の定義や企業や消費者が知覚

するコストはどのようなものがあるのかを明らかにしつつ、スイッチングの要因となりそうな

概念の既存研究をレビューする。続く第 3 章では、そのレビューに基づいて本論独自の仮説を

提唱する。そして、第 4 章では、消費者調査を実施して得られたデータを用いて実証分析を行

い、その仮説の経験的妥当性を吟味する。 後に、第 5 章において、本論の学術的インプリケ

ーション、本論の限界および今後の展望について言及する。

第 2章 既存研究のレビュー

第 1節 スイッチングについてのレビュー

まずスイッチング行動について明記しておきたい。スイッチングとは、Klemperer(1989)に

よると、製品のブランドの切り替え(スイッチング)と述べられている。また、近年 1990年代

になると、Ruyter(1997)のように顧客とのロイヤリティの観点から研究されており、消費者の

スイッチング行動について論じられている。知覚サービスの品質とサービスの忠誠心とスイッ

チング・コストの関係性について研究している。サービスの忠誠心という変数を概念化し、サ

ービス品質モデルを構築し、従属変数として分析し、コストとサービスの忠誠心を切り替え、

サービス品質との間の複雑な関係について明らかにしている。その中でスイッチング行動は、

産業によって高低差があると述べている。例えば、高スイッチング産業は、都市の劇場、保健

所、低スイッチング産業の例としては、スーパーマーケット、ファーストフード、遊園地が挙

げられている。

しかし、Ruyter(1997)の研究などでは産業間の比較はしているものの、具体的な産業の特徴

やマーケティング現象については言及されていない。Josee(1999)の研究では、ファーストフ

ード業界、スーパーマーケット業界、娯楽業界、健康管理サービスの 4 つの業界について研究

しており、信憑性、好感度(Responsiveness)、保証性(Assurance)、共感度(Empathy)、有形物(Tagibles)

の項目で口コミ、購買意図、価格の慎重性、不満による行動の尺度で測られている。ただ、ス

イッチングにはコストがかかると述べられている。

そこで、コストを中心にレビューしていき、スイッチングとの関係性について考えてみたい。

も明確に定義を述べていた Klemperer(1989)によると、多くの市場の細分化が起こっており、

製品のブランドの切り替え(スイッチング)はコストが発生すると述べている。補足の説明と

して、同じブランドの製品の切り替え(スイッチング)で、取引における費用(コスト)も発

生するかもしれないと述べられている。スイッチング・コストとは、大きく3つに分類される

と述べられている。

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石井沙織「消費者におけるスイッチング行動の規定要因」

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第 2節 スイッチング・コストのレビュー

取引コスト、学習コスト、人工的コストと述べられている。それぞれのコストの定義につい

て見ていく。

取引コストとは、銀行の場合、同一の当座預金口座を提供される。しかし1つの口座を閉鎖

し、競合他社の別の口座を開く時に高い取引コストが発生する。また、電話サービスの場合は、

電話1つの長距離電話サービスを変更する、または1つの会社に賃与機器の返却、代替サプラ

イヤーから同じ機器をレンタルするなど多くのコストが発生する。

学習コストとは、1つのブランドを使用するために必要な学習コストはすべてのブランドと機

能的に同じであるにもかかわらず、同じ製品の他のブランドに譲渡できない場合もある。例え

ば、コンピューターメーカーは、機能的に同一である本体を作るかもしれないが、消費者が 1

企業の製品ラインを使用して学習していると、適切なソフトウェアに投資してきたならば、消

費者は両方のコンピューターを購入し続けるための購買意欲を促進させる会社や互換性のある

ソフトウェアを購入するであろう。また、ケーキミックスを選択するとき、すべてのブランド

が同じ品質であると仮定した場合であっても。以前にそのブランドを購入しているため、その

ブランドを購入することが消費者にとって も簡単なことである。

人工的または契約的コストは他の 2 つと異なり、企業の裁量によって発生し、ブランドスイ

ッチングの社会的コストの有無によって、左右される。例えば、航空会社が同じキャリアで繰

り返し走行し、それらを報いるマイレージのプログラムで乗客を登録するといった場合や小売

業者の場合であるとスタンプなど繰り返し購入したものから蓄積し、商品を交換するといった

ものである。さらに、次の購入時に有効な割引クーポンなども該当し、購買という契約におい

て有効である。これらの例においては、異なる企業間で切り替える消費者は、1つの企業におい

て、良好ではない関係になる可能性がある。つまり、1つの会社と取引をした方がお得であると

いうことである。

スイッチング・コストは、このように分類されるが、機能的には同一製品間の選択に直面し

たときに、すべてこれらの市場で合理的な消費者は、ブランド・ロイヤリティを表す。事前に

均質されている製品はそのうちの 1つの異種の事後の購入後になる。

また、Klemperer(1987)によると、製品は特性と消費者が以前に購入し、使用した期間、さ

らに以前に購入したことがない製品を使用し、支払ったスイッチング・コストの両方によって

区別されている。結論としては基礎となる製品特性に対する消費者の嗜好は時間の経過ととも

に変更される場合があり、次に上位のスイッチング・コストは一般的に市場の競争力を高める。

消費者の嗜好は不確実であり比較的需要度の低いものである可能性が高い場合において、スイ

ッチング・コストが発生すると考えられている。高いスイッチング・コストが発生する場合は

消費者は同じ会社から製品を購入する。それらを考える上において価格は重要な要素であると

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石井沙織「消費者におけるスイッチング行動の規定要因」

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述べられている。それは、Weizsacker(1985)のモデルからも検証されている。消費者が供給者

に自分自身を添付している前に、第二に、企業はそれぞれの市場セグメントにわたって得るこ

とが独占力は、市場シェアのための活発な競争につながる。そこで我々は、多くの企業が建物

の市場シェアに取り付けられている重要性のために、一般的に市場において企業の成功の尺度

上に配置され、強調のために説明しています。しかし、スイッチング・コストは必ずしも企業

がより活動をしているとは限らないと述べている。彼らは複数の企業の余分な独占的なリター

ンを消散させ、それらの悪化を残すことが、特定のブランドを購買した後に新しい顧客を引き

付けるために猛烈な競争が標準寡占により企業側の影響を与える他の消費者が可能にすると述

べている。以上のことからも分かるように、Weizsacker(1985)のモデルを基に Klempererは経

済学の面から企業との取引に焦点を当てて研究している。

他方、Jones et al(2002)によると、スイッチング・コストは、以下の 6種類に分けられると

述べられている。

1)パフォーマンスを失ったことにより発生するコスト

企業側は消費者との良好な関係の構築のため、および繰り返しサービスを使ってもらうため

に、消費者に対して積極的にインセンティブを作り出そうとしている。例えば、マイレージ、

レストランでの特別席である。(コアサービスの提供)

2)不確実性によるコスト

今、使っている製品からの切り替えにより、性能を取り巻くリスクの心理的な負担のことで

ある。プロバイダーサービスなど物に実際に触れることができないかつ、買い戻しすることが

できないことに対しての不確実性と言える。

3)学習コスト

利用可能な選択肢についての情報を探し出し、切り替える前に、その実行可能性を評価する

ために要する時間と労力のことである。

4)ポスト・スイッチング行動と認知コスト

消費者が新しい製品またはサービスの代替に調整すると学習はまた、切り替え後に発生する

コストのことである。つまり、切り替えることによって発生する手続きや、新たな製品サービ

スの内容や特性を理解するために必要な時間と労力である。

5)セットアップ・コスト

カスタマイズ性の高い製品やサービスの場合、顧客満足度を向上させるための追加情報の提

供のための労力や時間的なコストである。および情報の再認識させるための労力や時間。例え

としては、歯科医を変更する時に登録用紙へ必要用事項の記入や、美容院を変えた際のヘアス

タイルのオーダーが挙げられる。

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石井沙織「消費者におけるスイッチング行動の規定要因」

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6、サンク・コスト

既に企業と消費者の購買関係が確立しており購買という取引を維持するために発生するコス

トのこと。心理学的な先行投資とも言い換えることもでき、具体的には時間、お金、労力の顧

客の認識を表しており、それぞれ切り替えが発生している。

また、Guiltinan(1989)によると、スイッチング・コストを 4 つに分類しており、それぞれの

構成要因について特徴を述べている。

1)契約上のコスト

単一のソースにこだわってから当然経済的な節約の(機会)費用

2)セットアップ費用

新しいソースからの購入を開始するときに実際に発生するコスト

3)心理的なコミットメントのコスト

スイッチングの心理的コスト

4)継続費

起因するパフォーマンスの低下に関連付けられている(機会)費用

これらの 4つのコストもそれぞれ本研究に当てはまるかどうか 1つずつ検討する。契約上のコ

ストは単一の当然経済的な節約の機会費用であるので、企業間取引であると考えられる。よっ

て、本論から除外する。また、セットアップ費用は構成要因として、補助機器の購入、買い手

仕様の変更、新しいソースを予選に関わる時間など企業取引を示しており、消費者に知覚する

コストではないため本論から除外する。継続費コストも起因するパフォーマンスの低下に関連

付けられている機会費用と示しており、サプライヤー専門の顧客知識など企業が関連している

コストといえる。よって、本論から除外する。心理的なコミットメントのコストとは、スイッ

チングの心理的コストであり、一貫性を保つための規範、事前の決定を正当化するための動機

など消費者が知覚するコストであるため、さらに詳しくレビューしていく。

心理的コミットメント費用は過去の支出や経済的に現在の選択状況に関係なく、それは心理

学的に関連しているかもしれないと述べられている。したがって、消費者は過去の経験で、そ

の会社にコミットし、時間とお金が十分に満足を上回っていると知覚し、製品を使用し続ける

であろう。そのような行動を継続するための決定は整合性のための規範に基づいて、または事

前の意思決定を正当化する可能性もあると指摘いている。同様の議論は、自己知覚理論を用い、

Dodson、Tybout、そして Sternthal によってなされている。彼らは、低値を提供し、適度な努力

を必要とする"取引"に延期時間の製品を購入する消費者が低労力、高い値を受け取り、消費者は

よりも、製品の次の契約の撤回を購入する可能性が高い理由を説明している。あるいは、この

ようなコミットメントは単にプロスペクト理論による自然バイアスを反映しているのかもしれ

ないとも指摘している。さらにサービスや事業内容など企業の対応が時折遅くなったりすると、

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石井沙織「消費者におけるスイッチング行動の規定要因」

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これらの 損失コストが許容レベルにとどまるように総不確実性よりも優れていると述べられ

ている。スイッチングから予想利益は大きくないことを考えれば、別の会社にスイッチングし

てしまうこともあるだろうと述べている。また、ここで少し触れられているサンク・コストも

見逃してはいけない概念であろう。なぜならば、同じソースを続けるから改善の可能性(還元

サンク・コスト)とは、消費者が同じ企業から製品を購入する、つまりコミットする際に知覚

するコストである。サンク・コストを詳しくみていくと、日本に訳すと埋没費用とも呼ばれる。

まだ、使用可能な製品からスイッチングすることによって、発生する損失のことである。つま

り、壊れてもいないのに、スイッチングするということは使える製品の使用価値の損失が発生

する。その損失のことである。

さらに、Guiltinan(1989)の心理的コミットメントのレビューに示されていたサンク・コス

トについてレビューしていく。まず、サンク・コストの定義であるが、Arkes(1985)によると、

サンク・コスト効果という概念にて論じている。サンク・コスト効果とは、お金、労力や時間

の投資がなされた後の努力を継続して大きい傾向で行われる不適応の経済的な行動である。先

行投資は、現在のオプションのいずれかの検討に影響を与えるべきではなく、現在のオプショ

ンだけ増分費用と便益によって人の意思決定に影響を与えるべきであると述べている。それに

もかかわらず、いくつかの研究者は、彼らが行動方針を取るかを考えるような人は先行投資は

ないことを示した。たとえば、Arkes and Blumer(1985)はオハイオ大学劇場切符売り場にて、3

つの異なる購買タイプのシーズンチケットを売った。1つ目のグループは全額自分負担でチケッ

トと買っていた人、2つ目のグループは半分自分で支払い、半額は割引券を使用してチケットを

買っていた人、3つ目のグループは、友人が三分の一、自身が三分の一、割引券で三分の一支払

ったという人である。この 3 人のチケット使用時の状況を検証してみると、自分で全額支払っ

た人は、ほとんどチケットを使用するという結果になったということである。また、参加者は 3

つの価格水準に無作為に割り当てられていたので、おそらくチケットを購入した人の費用と便

益は、3つのグループすべてのメンバーのために等しいされている。全額支払った価格グループ

は割引がある 2 つのグループよりチケットの使用率が高かったことはサンク・コスト効果の現

れであると検証の結果、明らかになった。

しかし、本論を展開していく上においてコスト以外にも PCのスイッチング行動に関連した要

因に対する概念についてもレビューしていく。

第 3節 PCのスイッチング要因に関するレビュー

小沢(2007)によると、企業が競争優位性を維持するためには「企業の主要活動に関して継

続的にイノベーションが行われることが条件」であることを基本人認識として、「イノベーショ

ン」に着目して論文が展開されている。イノベーションを「経済効果をもたらす革新」と捉え

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石井沙織「消費者におけるスイッチング行動の規定要因」

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られているが、「広い意味での革新」であり、「経済効果を目指し製品や製法が市場で受け入れ

られて初めて実現するもの」であると述べられている。新たな技術体系からなる新システムが

顧客によって受け入れられ、全体的に従来型システムから新システムへとドラスティックに移

行していく類のイノベーションを「進化的イノベーション」と呼び、それを乗り越えること、

さらにはそのイノベーションの機会を捉えて自社をより優位なポジションでとシフトさせるこ

とが中期的な経営戦略において極化しインプリケーションの抽出によって企業経営を資するこ

とを経営目的としている。つまり、情報技術(IT)の発展による製品の意思決定プロセスによる

と、進化的イノベーションによる顧客間相互作用において準拠集団に関する研究がなされてい

るとある。そこで準拠集団についてレビューしていく。

加藤(2003)によると準拠集団とは、「所属の有無にかかわりなく心理的に自らを関係づけ、

態度や判断のよりどころ」と定義している。個人はこの縦断の規範との関係において自己を評

価し、態度を形成あるいは変容させていくのである。具体的には、一般には家族、友人など近

隣集団や所属集団であることが多く、これから所属したいと望んでいる集団ともいえる。

この準拠集団という概念は消費者が購買意思決定をする際に、その態度に影響を与えるとし

ている。これは、個人と集団との位置関係(消費者にとってごく身近な集団か、ある程度の距

離をおいた集団か)や時間的関係(集団と個人の付き合いの長さ)、消費者の購買あるいは製品

に関する知識量や思考レベル、そして集団の規模(小規模なのか比較的大規模なのか)などに

よって分析が可能と述べられている。

このような切り口がある中、加藤(2003)によると、「比較的準拠集団」と「規範準拠集団」

に大別に区分できるとしている。そこでこれらの分類についてみていく。「比較準拠集団」準拠

内における他者との比較において自己の立場を決定する機能を果たすと述べている。つまり、

消費者は他者との比較によって、社会の中で自己を何者と捉えるかということともいえると述

べている。たとえばある消費者の自己の消費と周囲の他者の消費を比較し、自己の消費の方が

金銭感覚やよく利用するお店などの点において上等であることが分かった場合、自己を社会の

中で比較的富裕に属すると捉えるようになるであろうと述べている。一方、個人の規範を規定

し、準拠枠とは個人に社会的な立場、もしくは「規範」を提示する役割のことを「規範準拠集

団」と呼ぶと定義している。つまり、立場や個人の意思決定をする重要な要因であると述べら

れている。まら、消費者が態度形成の基準を自己の外に求めることに関連する。つまり、消費

者がコミュニケーションをとりうる集団や人々が購買に対してどのような価値観に有するかに

よって、消費者自身の購買態度が左右されるということである。ある意思決定が消費者の裁量

によってなされたかに見える場合でも実際には消費者の意思を左右する準拠集団が別のところ

に存在することもある。規範とは暗黙のうちに「このようにすると良い、もしくは、するべき

である」という枠組みを提示することである。そしてこのような枠組みは消費者が自己の「裁

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石井沙織「消費者におけるスイッチング行動の規定要因」

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量」で意思決定する場合の基準にもなりうるといえる。

さらに、Moore(1999)は、ハイテク・マーケティングの世界で情報技術(IT)の発展による

製品の意思決定プロセスを Rogers の普及理論に基づき、イノベーションにおける顧客のダイナ

ミクスに関して述べている。イノベーターから始まる 5つの顧客グループの特質から IT製品購

買の特徴について述べている。よって、PC特有の購買の特徴はスイッチング行動にも適応でき

ると言えるであろう。特にこの 5つの中から注目したいのは、テクノロジーマニアである。

導入期のイノベーターは、別名「テクノロジー・マニア」とも呼ばれ、新テクノロジーや斬

新なもので新製品を真っ先に安く手に入れたいという願望を持ち、新技術の価値や新製品の可

能性をいち早く理解できるとしている。また自己の問題解決にテクノロジーに応用するものと

も言い換えることもできる。また、購入の判断は自分の直感や技術的な判断である。このカテ

ゴリーの消費者は技術力の高い製品や新技術製品を好んで購買するという以外にも、PCなどの

IT 製品を好んで使用していると言える。IT 製品を好んで使用している消費者は製品に対して新

規性を求めており、新技術を重視し、その新技術に応用する能力を持ち合わせているというこ

とである。

第 2 期のアーリー・マジョリティは、「ビジョナリー(進歩派)」と名付け、求めるものは自

分の問題解決にテクノロジーを応用することであり、購入の判断は自分の直感と先見性で行う

が、イノベーターよりも購買に慎重であると述べている。

第 3期のアーリー・マジョリティを「実利主義者(価格と品質重視派)」の消費者と呼び、「改

善=着実な進歩」であり、実用性を重視するとした。また、自分が中心人物とならずあるがま

まを受け入れる型でリスクテイクには否定的な特性を持っている。この顧客グループを獲得す

るマーケティング上の意味は、成長を遂げ大きな利益を得る決定的な要素であるとし、1度購買

してもらえば強い味方となり、企業への宣伝効果を発揮するとしている。

第 4期のレイトマジョリティは「保守的(みんなが使っている派)」と名付け、求めるものは

これまで守ってきた「習慣」の維持であり、サービスを重視し、本質的にイノベーションはあ

まり受け入れない傾向にある。そして、役に立つものはずっと使用し続けるという特性を持っ

ている。

第 5 期のラガードは、「懐疑派(ハイテク嫌い)」と名付け、イノベーションに関しては大き

く抵抗を持っている特性がある。また、実際に企業側から製品の説明を受けないと購買に関し

ては積極的にはならず、イノベーションにはかなり消極的であり、抵抗がある。このカテゴリ

ーの顧客はもっとも少ない分類である。

また小沢(2007)はによると、ラガートからレイト・マジョリティ、アーリー・マジョリテ

ィ、アーリー・アダプター、イノベーターと徐々に時間と共にこの顧客集団がイノベーション

採用の早い「革新者(イノベーター)」となるであろうと述べている。さらにアーリー・アダプ

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石井沙織「消費者におけるスイッチング行動の規定要因」

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ターのある一定の期間を「採用のハードル」といい、採用ハードルを越えた顧客がイノベーシ

ョンを採用していくと述べている。

つまり、これらのレビューをまとめると、イノベーター、アーリー・アダプター、アーリー・

マジョリティの 3 つの顧客カテゴリーにおいてはイノベーションが起こった製品、つまり新規

性度の高い製品を積極的に行うといえるであろう。消費者に新規性追求度が高いとスイッチン

グしやすくなるといえるであろう。

また、消費者が知覚する概念の要因として、PCを購買する上において消費者はどのような

属性を重要視するのだろうか。

そこで、村上・酢山・折原(2004)は、消費者のPC購買時の選考の際に重要視する項目(購

買の規定要因)について見ていく。

図表 2 消費者が PCの購買時に重視する項目

出所)村上知子・酢山明弘・折原良平(2004)

この図表 2 からも見て分かるように消費者は価格と多様な機能について重視して購買してい

ることが分かる。ここでいう多様な機能とはなんであろうか?多様な機能を搭載していると消

費者が知覚するということは製品に対する関与が高いということが学術的な言葉では言えるで

あろう。ここで関与と価格についてレビューしていく。

小野(1999)によると、関与という概念は、多様な意味合いでまたは定義が不明確かつ異な

る語意を暗示する修飾語つきの新語が造られているなど関与の概念は確立していなかったと述

べられている。しかし小野(1999)の研究によると、関与という概念には「多様性」と「不確

実性」が概念を包摂するものであるとも述べられている。ともあれ、関与の定義を見ていく。

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関与とは消費者が特定の製品に関わる程度のことであると述べられている。つまり、消費者が

製品にかかわる頻度やその製品を使用する際に大切にする属性のこととも言い換えることがで

きるであろう。

さらに「製品関与」、「消費者関与」など「『消費者』『関与』『関わる』を各々どのような意味

を有するものとみなすか」そして「それらを互いにどのように関連づけるか」が製品関与に関

わる個々人の間で大きく異なるからである。また青木(1987,88)によると、「社会心理学からの援

用」として消費者行動論が社会心理学の自我関与概念を援用して造った「製品関与」と呼びう

る種類の消費者関与概念ともいえる。

このように定義づけが困難である「関与」であるが本論では、製品関与について詳しく見て

いきたい。

製品関与において消費者が製品に「関わっている」とは「有価値であると期待する」という

意味合いを持つ、あるいは少なくともそれと一対一の対応関係にあると解釈できるであろうと

述べられている。またこの主張には「効用」も関連しているだろうと指摘し、考察している。

まとめると、ある消費者のある製品に対する「製品関与」とは、その製品を適量消費すること

によって手にいれうるとその消費者によって期待された効用の水準とも言われている。

つまり、製品関与とは、消費者が製品にかかわる頻度やその製品を使用する際に大切にする属

性のこととも言い換えることができるであろう。

さらに、価格に関してのレビューである。Klemperer(1987)によると、スイッチング・コス

トは、個々の企業の需要をより弾力性のないことなどライバルを減らすことができると述べて

いる。サブマーケットにコスト·セグメント市場を切り替えるとする。各サブマーケットは、以

前に特定の会社から購入していると効果をその会社が独占することができる消費者を含んでい

る。得られた平衡のないスイッチング・コストとそれ以外は同一市場における談合のソリュー

ションと同じかもしれない。標準差製品モデルでは企業の増加独占電力の社会的コストが増大

し、消費者の選択の利点によって緩和される。スイッチング・コストを介して機能的に同一の

製品の差別化しようとするが、制限された出力のコストに対して設定するには、メリットが得

られないと述べている。

また、第二期に、企業はそれぞれの市場セグメントにわたって得ることが独占力は、市場シ

ェアのための活発な競争につながる。そこで多くの企業の市場シェアに取り付けられている重

要性のために、一般的に企業の成功の尺度としての市場シェアに配置され、強調のために説明

している。しかし、スイッチング・コストは必ずしも企業がより良いとは限らない。彼らは複

数の企業の余分な独占的なリターンを消散させそれらを悪化残すことが、特定のブランドの製

品を買った後に新しい顧客を引き付けるために猛烈な競争が起こり、他社が教えたり影響を与

えることもあるとされている。

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まとめると、スイッチングに関しては高い市場シェアを持っている企業の製品の条件下のも

と、消費者はスイッチングする前の製品の価格が低価格であった場合、スイッチングしようと

している製品の価格が高いとスイッチング行動を促し、企業は市場を独占するとされている。

つまり、消費者はスイッチングを検討する際にはスイッチング前の価格を気にするということ

である。

また、別の文献の Klemperer(1987)によると、消費者のスイッチング行動を分析するにあた

って、第 1期、第 2期と市場を 2つに分けて分析している。さらに、Weizsacker(1984)の理論

を援用しながら価格における消費者の購買選択の意思決定、さらに市場と企業の観点から価格

設定について述べられている。このようにスイッチング、またはスイッチング・コストは経済

学の面からも研究しており、深い課題であることが分かる。

以上のスイッチングの要因をもとに仮説の設定を行う。

第 3章 仮説の設定

第 1節 事前学習コストとスイッチングの仮説

第 2章で述べたようにスイッチングの規定要因を明らかにするためには、スイッチング・コ

ストの概念の関係性は密接にある。しかし、レビューしたスイッチング・コストは企業側が消

費者をスイッチングさせないための障壁となるコストについても含まれている。本論の目的は

消費者のスイッチング行動はなぜ起こるのかが研究対象であるため、企業側に発生するコスト

は本論からは除外する。よって、レビューから消費者が知覚するコストについてまとめてみる。

Klemperper(1989)と Jones et al(2002)は、それぞれスイッチング・コストについて述べて

いた。

取引コストとは、銀行の場合、同一の当座預金口座を提供される際に競合他社の別の口座を

開く時に高い取引コストが発生するコストである。電話サービスの場合は、電話1つの長距離

電話サービスを変更する、または1つの会社に賃与機器の返却、代替サプライヤーから同じ機

器をレンタルするなど多くのコストが発生するコストとある。これは企業間の取引におけるコ

ストであるため、本論から除外する。また、人工的または契約的コストはマイレージのプログ

ラムで乗客を登録するといった場合や小売業者の場合であるとスタンプなど繰り返し購入した

ものから蓄積し、商品を交換するといった例と挙げている。つまり、このコストは企業が消費

者に製品や商品を購買してもらうために発生するコストなので除外する。またこのパフォーマ

ンスを失ったことにより発生するコストのことである。

不確実性によるコストとは、今、使っている製品からの切り替えにより、性能を取り巻くリ

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スクの心理的な負担のことのことである。プロバイダーサービスなど物に実際に触れることが

できないかつ、買い戻しすることができないことに対しての不確実性と言える。このコストは

実際に物に触れることのできない状況が本論では想定しづらい。また買戻しも PCは 1回購買し

たらある程度の期間使用するためあまり発生しない状況であると考える。よって、本論から除

外する。

セットアップ・コストとは、顧客満足度を向上させるための追加情報の提供のための労力や

時間的なコスト、情報の再認識させるための労力や時間である。例えとしては、歯科医や、美

容院が挙げられていた。このコストも消費者にスイッチングさせないために企業が発生するコ

ストということであるため、本論から除外する。

サンク・コストとは、既に企業と消費者の購買関係が確立しており購買という取引を維持す

るために発生する時間、お金、労力の顧客の認識コストのことである。心理学的な先行投資と

も言える。つまり、このコストは企業が取引維持のために発生するコストのことである。また

は消費者が知覚するコストとも取れる。しかし、消費者が認識する時間、お金、労力の認識と

は何を指すのか、これらのコストは何を知覚しているのがが、不明確である。よって、別の文

献でまたレビューしていく。

ポスト・スイッチング行動と認知コストとは、消費者が新しい製品またはサービスの代替に

調整すると学習はまた、切り替え後に発生するコストのことである。このコストは消費者が知

覚するコストであるが、スイッチング後に知覚するコストである。本論はスイッチングの規定

要因についての研究であるため、本論からは除外する。

学習コストは 1 つのブランドを使用するために必要な学習コストのことである。例えとして

コンピューターメーカーとホットケーキミックスを挙げていた。コンピューターメーカーの例

は企業が採用している PCについて述べられており、企業で使用されているPCをスイッチング

しているという場合について述べられている。しかし、ホットケーキミックスの例は消費者側

がスイッチングしないことによって発生するコストのことを述べている。よって、本論で用い

ることとする。また学習コストは Jones et al(2002)が詳細にレビューしている。事前情報収集、

評価コストとは、利用可能な選択肢についての情報を探し出し、切り替える前に、その実行可

能性を評価するために要する時間と労力のことである。このコストは消費者の購買意思決定に

おいて大きく関係のあるコストである。なぜならばスイッチング前、もしくは製品を購買する

前に情報収集、評価することはスイッチングを検討している段階に発生する行動でありコスト

であると判断できるからである。よって、本研究のスイッチング行動の要因となりうると考え

られる。さらに細かく見ていくと、事前情報収集と評価コストは 2 つに分類できると考えられ

る。それは情報収集することと評価することは別であるからである。よって、事前情報収集コ

ストと評価コストは 2 つと区分する。さらに、評価コストはスイッチング前とスイッチング後

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に発生すると考えられる。事前評価コストと事後評価コストに分けられる。しかし、本論はス

イッチングの規定要因を研究対象としているため、事前評価コストを採用とする。

ここで、事前学習コストと事前評価コストの定義について明記していく。事前学習コストと

は、スイッチング前の探索・評価は利用可能な選択肢についての情報を探し出し、切り替える

前にその実行可能性を評価するために要する時間と労力を消費者が認識することである。

またはスイッチングを検討している製品のことをよく調べる、または自分の用途を考えた上

で製品の情報収集をすることである。事前評価コストは購買可能性の選択肢の中から自分に合

った製品を購買するために情報収集をした後、その中で製品に対して評価をするために発生す

るコストである。つまり、スイッチングを検討している製品を 1 つ 1 つ、自分のニーズに合っ

ているかを検討し、評価する際に発生するコストである。まずは事前学習コストについて仮説

を提唱していく。

さらに、Jones et al(2002)によると、事前学習コストとは、購買前にスイッチングを検討し

ている製品の情報収集にかかる時間、労力のコストである。消費者は購買が可能な選択肢の中

から自分に合う製品を購買しようとし、情報収集するために発生するコストである。事前の学

習、つまりスイッチング前の情報収集量が多ければ多いほど、消費者はスイッチングしたくな

る。具体的には、家電量販店で実際に製品を見る、メーカーの HPや店頭においてあるパンフレ

ットで製品の性能や大きさ、価格を検討する、使用するシーンを想定し、自分にとって使い勝

手がいいのかを見るということである。つまり、あらゆる選択肢の中から自分に も適した PC

かどうかを選択するために行う情報収集のことである。情報収集すればするほど PCに対する知

識が増えて、より自分の使うシーンが想定できるようになり、購買意欲が増すと考えられる。

よって、以下の仮説を提唱する。

仮説1 事前学習コストはスイッチング行動に正の影響を及ぼす。

第 2節 事前評価コストとスイッチングの仮説

第 2としては、Jones et al(2002)によると、事前評価コストとは、購買可能性の選択肢の中

から自分に合った製品を購買するために情報収集をした後、その中で製品に対して評価をする

ために発生するコストである。そして、事前評価コストの概念を考察する際にあたって消費者

はコストというと手間や費用など多くの手間を想定しがちである。しかし、コストも考え方や

状況、環境によっては、評価を検討する段階で購買に対して意欲的であると判断できる。なぜ

ならば、費用をかけた分だけ購買しようという気持ちになるからである。また評価を検討する

段階で購買に対して意欲的、つまり購買をする可能性や段階が多いということである。

具体的に例を挙げると、毎日持ち運ぶためサイズの小さい PCが欲しいという消費者のニーズ

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があり、その中で外国のメーカーの製品か、国内メーカー、サイズ、価格、色、使い勝手等、

製品の属性を考慮し、1 つ 1 つの製品に対して自分の中で購買するかどうかの意思決定を行う。

その 1 つ 1 つの製品に対しての評価をする手間や時間のことである。そして、この評価の高い

製品を消費者が購買する可能性が高いといえるであろう。つまり評価をするというコストをか

けた分だけ、購買したくなる、もしくは購買する可能性が高くなるだろうということである。

よって、以下の仮説を提唱する。

仮説 2 事前評価コストはスイッチング行動に正の影響を及ぼす。

第 3節 心理的コミットメントコストとスイッチングの仮説

さらにさきほど述べたサンク・コストについて心理的コミットメントコストとからめて見てい

く。まず、第 3として、Guiltinan(1989)によると、心理的コミットメントコストとは、事前の

意思決定を正当化し、買い替えることを躊躇する際に発生するコストのことである。つまり、

今使用している愛着のある製品からスイッチングする際に発生するコストとも言い換えること

もできる。また、レビューで示したように、一貫性を持った購買とも主張されている。ここで

いう一貫性を持った購買とはブランド間のスイッチングを意味している。つまり、同じ企業の

PCでスペックがあがった製品や、または OSが新しいバージョンが発売されたため、PCごと新

しい製品に買い替えることを意味している。よって、心理的コミットメントとは、事前の意思

決定を正当化し、買い替えることを躊躇することに対する愛着、もしくは一貫性のある購買の

こととも定義できる。PCメーカーに対する愛着はブランド間のスイッチングには消極的になる

であろうし、PCに対する愛着や思い入れを知覚すれば、スイッチングすることをためらうであ

ろう。よって、以下の仮説を提唱する。

仮説 3 心理的コミットメントコストはスイッチング行動に負の影響を与える。

第 4節 サンクメントコストとスイッチングの仮説

さらに、心理的コミットメントコストの構成要因について述べられていたようにサンク・コ

ストについて見ていく。レビューでも述べてきたようにサンク・コストが企業側に発生するコ

スト、または消費者が知覚するコストどちらも明記されているが定義については曖昧である。

しかし、Arkes(1985)がサンク・コスト効果という概念にて論じている。サンク・コスト効果

はサンク・コストがもたらす効果であるとレビューで述べているため、本論ではサンク・コス

トという概念にて用いる。サンク・コスト効果とは、お金、労力や時間の投資がなされた後の

努力を継続して大きい傾向で行われる不適応の経済的な行動である。グループでのチケットに

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よる検証の結果によると、自分でチケットの金額を負担すればするほど、使わないともったい

ないと知覚し、高確率でチケットを使用するというものであった。つまり、使用できるものを

使用しないことによって発生する損失ともいえる。具体的にいうと、今、使っている PCは問題

もなく使用でき、かつ機能的にも問題がないためスイッチングを考えていない、または故障し

ない限りは買い替えないと考えている消費者を指す。あるいは、まだ使用できるため、使用で

きる分を使用しないことによって発生する損失を知覚し、スイッチングすることをためらうか

もしれない。よって、以下の仮説を提唱する。

仮説 4 サンク・コストはスイッチング行動に負の影響を与える。

第 5節 消費者の新規性追求度とスイッチングの仮説

既存レビューの Moore(1999)によると、初期市場の顧客カテゴ リー(イノベーター・アーリ

ーアドプタ、アーリー・マジョリティ)は新製品が もつ新技術の革新性を重視し、その新技

術を応用する能力を持ち合わせている。小沢(2007)によると、この 3つの顧客カテゴリーはイノ

ベーション採用を重視する顧客に変化していくため、新規性追求度が高い消費者であり、新規

性の高い製品を求める傾向が強くスイッチングしやすいであろう。そして、新規性を求める消

費者は新技術に応用するまたは対応する能力を持ち合わせているため、多くのコストが発生す

るとしてもスイッチングするだろうと考えられる。つまり、新規性のある製品は、特定の顧客

カテゴリーにおいてはスイッチングの要因となる。多くのコストが発生するとしてもスイッチ

ングするだろう。コストよりも新しい技術に惹かれて製品を選ぶからである。よって、以下の

仮説を提唱する。

仮説 5 消費者の新規性追求度はスイッチング行動に正の影響を及ぼす。

第 6節 規範準拠集団のスイッチング対象製品の保有率とスイッチングの仮説

本論においては、準拠集団の分類を「規範準拠集団」とする。なぜならば本論は PCのスイッ

チング行動を焦点としており、消費者のスイッチングの要因が自己の外で形成されることは大

いにありうるからである。つまり、消費者がコミュニケーションをとりうる集団や人々が購買

に対してどのような価値観に有するかという規範準拠集団はスイッチングの要因となるであろ

う。具体的には、家族、親戚、友達、先生など自分の周りの集団、人間関係で関わる人のこと

である。まわりの人が持ち始めると自分も使いたいという気持ちになり、今使っている PCから

買い換えたくなる。具体的に言うと、身近な友達や他校の友達、さらには先生などが PCを実際

に使っているところを見ることによって自分が使うことを想像でき、使ってみたくなるという

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ことである。そしてそれは、準拠集団のスイッチング対象製品の保有率が大きく関係している

のではないかということである。周りの人の持ち物の変化、つまりスイッチング対象財(PC)

が周りの人たちの保有率が高まるとスイッチングしたくなるということである。よって、以下

の仮説を提唱する。

仮説 6 規範準拠集団によるスイッチング対象製品の保有率は、スイッチング行動に正の影響

を及ぼす。

第 7節 製品関与度の変化とスイッチングの仮説

第 7 として、既存レビューの小野(1999)によると、関与とは消費者が特定の製品に関わる

程度のことであると述べられている。つまり、消費者が製品にかかわる頻度やその製品を使用

する際に大切にする属性のこととも言い換えることができるであろう。

さらに「製品関与」、「消費者関与」など修飾語をくっつけた概念もあるが、本論は PCのスイ

ッチング要因の特定を目的としているため、製品関与を採用する。製品関与とは、その製品を

適量消費することによって手にいれうるとその消費者によって期待された効用の水準であり、

消費者が製品にかかわる頻度やその製品を使用する際に大切にする属性のこととも言い換える

ことができるであろう。つまり、PCで例えると、毎日持ち運ぶからサイズは小さい方がいい、

重さは軽い方がいいなどといった、消費者が製品を選ぶ上でもしくは使用する上において重視

している属性のことといえる。その属性の変化は、現在使っている製品から切り替えたくなる。

よって、製品関与(度)の変化はスイッチング行動の要因といえるだろう。よって、以下の仮

説を提唱する。

仮説 7 製品関与度の変化はスイッチング行動に正の影響を及ぼす。

第 8節 スイッチング前の価格とスイッチングの仮説

既存研究のレビューによると、消費者はスイッチングする前の製品の価格が低価格であった

場合、スイッチングしようとしている製品の価格が高いとスイッチング行動を促すと述べられ

ている。つまり、消費者はスイッチングをする前の価格はスイッチング行動に大きく関わって

いると言える。具体的に言うと、クーポンや商品券、買い物券またはキャンペーンなどの割引

がありスイッチング前の PC は比較的安く簡素な PC を購買したので、高機能で高価格な PC の

購買を検討することや高機能で高価格な PCを保有している場合、低価格で必要 低限な機能だ

け搭載されている PCへのスイッチングを検討するであろう。よって、以下の仮説を提唱する。

仮説 8 スイッチング前の価格はスイッチングに正の影響を及ぼす。

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図表3:パス図(仮説)

正の影響

負の影響

心理的コミッ

トメントコス

事前評価 コスト

事前学習 コスト

新規性追求度

サンク・コスト

準拠集団の

保有率

スイッチング

前の価格

製品関与度の

変化

スイッチング

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第 4章 実証分析

第 1節 調査の概要

本論は、消費者のスイッチング行動の規定要因の特定、どの要因がスイッチング行動に強く

影響を及ぼしているのかを特定することを目的とする。本論は複数の変数や観測変数を用いる

ため、因子分析、重回帰分析を行った。因子分析とは結果からなる変数に関するデータを収集

し、得られたデータから縮約した少数の共通因子(原因)を生成する分析技法である。本論で

は各観測変数は複数であったため、この分析を用いた。重回帰分析とは複数の変数間の因果的

関係(原因と結果との間の関係)を表すいくつかの変数を同時に回帰モデルを推定する分析方

法である。この分析技法は、独立変数がモデル以上に 2 つ以上ある際に用いる。よって、本論

の分析方法として適切である。また複数の観測変数を用いたため因子分析も行った。上記のよ

うな特徴を有する回帰文政を用いることは妥当であると考えられる。

第 2節 観測変数の設定

分析に際して、既存研究の測定尺度を採用して、各構成概念に対する複数の観測変数を設定し

た。すなわち、「事前学習コスト」、「事前評価コスト」、「サンク・コスト」は Jomes et al(2002)

から、「心理的コミットメント」は、Pritchaed Havitz and Howard(1999)から、「準拠集団」は、

Feick and Higie(1992)から、「製品関与度」は, Berry and Talpade(1994)、De Wuff Odekerken-Schroder,

and Iacobucci(2001)から、それぞれ測定尺度を採用し、「新規性追求度」、「スイッチング前の

価格」は本論独自の尺度とする。さらに、消費者の非計画購買は、既存研究(Klemperer, 1989)

に依拠して本論独自の尺度を用いた。

第 3節 調査の概要

調査協力者は、便宜的に抽出された大学生男女 93名であり、そのうち有効回答者数は 88人、

有効回答率は 94.623%であった。回答者には、スイッチングする前の PCブランドとスイッチン

グ後の PCブランドを明記してもらった。ブランド間のスイッチングの分析も視野に入れたから

である。そしてスイッチングの要因、仮説に関する各概念についての質問に回答するよう依頼

した。しかし、調査対象を大学生に限定することによって、調査協力者間での年代やPCの用

途が統一されるため、それらの等質性が認められるであろう。よって大学生に限定した今回の

調査対象には、幾分かの妥当性があると考えられる。調査に採用された尺度法は 7 点リカート

尺度であり、回答者は 7 段階の度合いによって示された「まったくそう思わない」から「かな

りそう思う」までの中から 1 つを選択するよう求められた。なお、因子分析、重回帰分析の実

行に際しては、IBM SPSS Amos ver.19を使用した。

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第 4節 モデルの全体的妥当性

本項において、モデルの全体的妥当性評価を行う。パス係数の推定には強制投入法が用いられ、

スイッチングのいずれを代入したモデルについても、 適化計算は正常に終了した。各モデル

の全体的妥当性の評価に関して、図表 4 に要約されるようなアウトプット・データが出力され

た。

まず、スイッチングを従属変数とするモデルは、F値を見てみてると、12.224という数値が出

力された。また有意確率は 0.000 で 1%水準で有意であり、モデルの全体的評価、および安定性

の度合いは支持されたといえるであろう。また、モデル全体における R2は、0.563であり調整済

み R2は、0.517であった。R2(決定係数)は回帰モデルの適合の度合いを測る指標であり、0か

ら 1までの値をとり、1に近い方が当てはまりがよいとみなされる。他方、決定係数が小さいと

いうことはモデルに入らなかった変数から影響を受けていることを示唆している。なお、調整

済み決定係数とは、多くの独立変数による決定係数の高まりを考慮されている。よって、推定

されたモデルは説明力の高いモデルであると判断されよう。

図表 4 モデルの全体的評価

F 値 12.224

F 値の有意確率 <0.000

R2 0.563

調整済み R2 0.517

第 2節 モデルの部分的妥当性

標準化係数、t値、有意確率を見てみると、以下の図 5のような結果となった。事前学習コス

トは、表旬化係数は-0620、t 値は-2.367 で 1%水準で有意であった。つまり、仮説とは逆の結果

となった。事前評価コストとは、標準化係数は、-0.379、t値は 2.472で 1%水準で有意、サンク・

コストは標準係数は 0.394、t値は-0.379で 1%水準で有意、新規性追求度は標準化係数は 0.283、

t値は 2.935と 1%水準で有意、準拠集団の保有率は標準化係数は 0.064、t値は 1.964で 1%水準

で有意、製品関与度の変化は標準化係数は-0.393、t値は 4.267で 1%水準で有意とすべて仮説が

支持される結果となった、心理的コミットメントコストは標準化係数 0.156、t値は-0.703で非有

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意、スイッチング前の価格は標準化係数は 0.393、t 値は 0.78 で非有意という結果となった。こ

れらは仮説が支持されなかった。

図表 5 モデルの部分的評価

標準化係数 t値 有意確率

事前学習コスト -0.393 -2.367 1%水準で有意

事前評価コスト 0.419 2.472 1%水準で有意

心理的コミットメントコス

ト -0.062 -0.703 非有意

サンク・コスト -0.379 -4.599 1%水準で有意

新規性追求度 0.283 2.935 1%水準で有意

準拠集団の保有率 0.156 1.964 1%水準で有意

製品関与度の変化 0.394 4.267 1%水準で有意

スイッチング前の価格 0.780 0.780 非有意

第 1項 事前学習コストとスイッチングに関する分析結果の考察

事前学習コストからスイッチングへのパス係数は、1%水準で、負で有意であった。これは仮

説 1 は支持されなかった。よって、仮説とは反対の結果となった。つまり、購買前にスイッチ

ングを検討している製品の情報収集にかかる時間、労力のコストが増えれば増えるほど、購買

が可能な選択肢の中から自分に合う製品を購買しよう情報収集をすればするほどスイッチング

に負の影響を与えるという結果がでた。この結果から消費者は家電量販店で実際に製品を見る、

メーカーの HPや店頭においてあるパンフレットで製品の性能や大きさ、価格を検討する、使用

するシーンを想定し、自分にとって使い勝手がいいのかを考えれば考えるほど、迷ってし

まうため、負の結果となったではないか。またこの考察から、PCをスイッチングをした消費者

はあまり情報収集をしないでスイッチングする傾向があるのではないかとも考えられる。

第 2項 事前評価コストとスイッチングに関する分析結果の考察

事前評価コストからスイッチングへのパス係数は、1%水準で、正で有意であった。よって仮

説 2は支持された。つまり、スイッチングを検討している PCを 1つ 1つ評価し、検討すればす

るほど、スイッチングしたくなるといえるであろう。1つ 1つの製品に対しての評価をすればす

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石井沙織「消費者におけるスイッチング行動の規定要因」

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るほど、時間をかければかけるほどスイッチングしたくなる。そして も評価の高いPCを消費

者が購買する可能性が高いといえるであろう。つまり評価をするというコストをかけた分だけ、

購買したくなる、もしくは購買する可能性が高くなるだろうという仮説は支持された。

第 3項 心理的コミットメントコスト、サンク・コストとスイッチングに関する分析結果の

考察

心理的コミットメントコストからスイッチングへのパス係数は、非有意であった。よって、

スイッチング行動に心理的コミットメントコストは無関係であるといえる。つまり、事前の意

思決定を正当化し、買い替えることを躊躇する際に発生すること、使用しているまたは使用し

ていた PCに対する愛着は知覚しても、スイッチングを促す要因でもためらう要因ともならない

といえる。また、一貫性のある購買においても不支持となった。スイッチング前に使用してい

る PCメーカーへスイッチングするということもあまり考えられない。例えば、現在、MacBook

airを使用しているので、次の PCの購買も MacBookの製品を購買する、もしくは使用している

製品を考慮してスイッチングすることはあまりないといえる。よって、仮設 3 は不支持でああ

った。

また、サンク・コストからスイッチングへのパス係数は、1%水準で、負で有意であった。よ

って仮説 4は支持された。つまり、まだ使用できる PCを買い替える場合、まだ使える PCを変

えることによる損失、つまり使用できる分の損失はスイッチングに対して負の要因となる。ま

だ使用できるのにスイッチングすることを消費者は「もったいない」と知覚し、スイッチング

をためらう要因となるであろう。よって、仮説は支持された。

第 4項 新規性追求度とスイッチングに関する分析結果の考察

事前評価コストからスイッチングへのパス係数は、1%水準で、正で有意であった。よって仮

説 5 は支持された。つまり、新規性を求める消費者は新技術に応用するまたは対応する能力を

持ち合わせている、もしくはコストよりも新しい技術に惹かれて製品を選ぶため、顧客カテゴ

リー(イノベーター、アーリー・アダプター、アーリー・マジョリティ)の新規性追求度はス

イッチングの要因となりうるということである。つまり、スイッチングに伴って多くのコスト

が発生するとしても新規性のある PCに強い魅力を感じてスイッチングすると言える。

第 5項 規範準拠集団のスイッチング対象製品の保有率とスイッチングに関する分析結果の

考察

規範準拠集団のスイッチング対象製品の保有率とスイッチングへのパス係数は、1%水準で、

正で有意であった。よって仮説 6 は支持された。つまり、消費者がコミュニケーションをとり

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うる集団や人々が購買に対してどのような価値観に有するかという規範準拠集団(家族、親戚、

友達、先生など自分の周りの集団、人間関係で関わる人)が自身がスイッチングを検討してい

るPCを持ち始めると自分も使いたいという気持ちになり、今使っている PCから買い換えたく

なるということである。よって、周りの人の持ち物の変化、つまりスイッチング対象財(PC)

が周りの人たちの保有率が高まるとスイッチングしたくなると言える。

第 6項 製品関与度の変化とスイッチングに関する分析結果の考察

製品関与度の変化は、スイッチングへのパス係数は、1%水準で、正で有意であった。よって

仮説 7 は支持された。つまり、消費者が特定の製品に関わる程度が変化すること、毎日持ち運

ぶからサイズは小さい方がいい、重さは軽い方がいいなどといった、消費者が製品を選ぶ上で

もしくは使用する上において重視している属性が変化することはスイッチング行動を促すと言

える。関与度の変化とは消費者のニーズを指すとも考えらえる。つまり、自身で購買する PCを

選択する際において重視する点が変化する、または増えることによって今現在使用している PC

に不満が出てくる、ニーズが満たされないという事態が生じてくる可能性もある。よって、製

品関与度の変化はスイッチング行動を促すと言える。

第 7項 スイッチング前の価格とスイッチングに関する分析結果の考察

スイッチング前の価格は、スイッチングへのパス係数は、非有意であった。よって仮説 8 は

不支持であった。つまり、スイッチング行動においてはスイッチング前の価格が関係ない、ス

イッチングする上では考慮されないといえる。つまり、現在使用している PCの価格が高く知覚

していても、低く知覚していてもスイッチングを検討するにおいては全く無関係ということで

ある。スイッチング前の価格よりも、むしろスイッチングを検討している価格を気にするので

はないかと思う。それは使用している PCは親や祖父母に買ってもらい、もしくは親が買ってい

て、価格を知らない、もしくは気にもしていないという消費者も多いのではないかと考えたか

らである。よって、スイッチングにおいてはスイッチング前の価格は考慮されないと言える。

第 5章 おわりに

第 1節 実務的インプリケーション

第 3 章において設定した仮説と第 4 章におけるそれらの仮説に関する実証分析の結果を総合

すると、企業が消費者にスイッチングさせないための戦略が提案できると示唆する。

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まず、企業が操作できる要因として、事前評価コストが挙げられる。事前評価を高めることが

できれば、消費者の購買行動を促すことができると考える。つまり、PCの強みを的確に消費者

にアプローチしていく、または PCに対する良いイメージを与える印象を与えるような広告を打

ち出す、各販売店に売り場提案をする等が考えられる。また、PCに対してだけでなく、企業の

イメージや製品を購買した後のアフターケアなどのサービスもしっかり行い、企業イメージも

良いものにしておくことによって囲い込みができるであろう。ともあれ、消費者にとってよい

印象を知覚するような企業努力をするべきであろう。レビューで挙げた企業側が消費者をスイ

ッチングさせないために発生するコスト(セットアップ・コスト、人工的契約的コストなど)

などと組み合わせる戦略も考えられる。

また、消費者の事前評価を上げるためには、消費者に検討している PCの中から も購買した

いと知覚させることが重要である。つまり、消費者の PCの使用用途や使用シーンを具体的に想

定させることが事前評価を高めると考えられる。本論では調査対象が大学生であったため、大

学生を例にとって提案をしてみる。授業のレポートや課題、ゼミ活動など大学生は PCを使う機

会がある。毎日、持ち運べるサイズや重さ、かつ大学生生活の間、ずっと使えるような容量で

あったり、保険やアフターケアの特典も消費者が知覚しやすいように宣伝していくべきである

と考える。また、PCを使用する頻度も多いビジネスマンには外出先でも使いやすい、搭載され

ている機能が充実しているなど具体的なよい点を広告することが大切である。要するに、PCの

強みや具体的な使用シーンを訴求していくことが大切である。

さらに、新規性のある製品を生み出す努力を企業側は惜しんではいけないということもいえ

るであろう。つまり、新製品を常に生み出すこと、新製品開発に注力すべきである。そうする

ことによって、顧客カテゴリーに関わらず、製品を購買してもらうことができる。かつ市場に

一番初めに製品を投入することが可能な場合、他社との差別化を図ることができ、優位性を確

率することもできるであろう。

第 2節 学術的インプリケーション

第 1 にスイッチング・コストの概念を測るにおいてサービス業界の尺度を用いて、分析でき

た点である。つまり、PCという消費耐久財にも援用できたということである。Jones et al(2002)

では美容院、理髪店を対象として観測変数が設定されていたが、その尺度をPCに置き換えて

分析できたという点においては財の違いは無関係であると尺度的には証明されたといえるので

はと考える。また、耐久財メーカーとでは消費者の知覚する度合いが違うと想定したが、分析

結果からも考察できるようにあまり差異は見られないと言えるであろう。

第 2 に、スイッチング、もしくは尺度が明確に示されていなかったスイッチングの尺度を本

論独自に示すことができた点である。スイッチングに関する感情や知覚度を質問項目として提

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示し、観測変数のスイッチングの α係数 0.904という十分に支持されるという結果になった。ま

た、モデル全体的評価を表す F 値と R2も 1%水準で有意という結果になった。つまり、スイッ

チング要因として挙げた概念はスイッチングの要因として十分に支持される結果となった点、

スイッチング・コスト以外の要因もモデルに組み込めたことも有意義であったと考える。

第 3 にスイッチング・コストもスイッチング行動に影響を及ぼす要因となったことも実証で

きた点である。コストというとどうしてもマイナスの影響であると思いがちであるが、コスト

が多く知覚すればするほど、労力をかけた分、もしくは知覚した分、スイッチングを促進する

要因となるのではないかと考えた。よって、仮説 2 が支持されたことはこれらの考えが支持さ

れたといえるであろう。また、仮説 1 は仮説とは逆に負の影響を与える、つまり学習すればす

るほど迷ってしまってスイッチングしにくくなるという興味深い考察も出来たことも学術的に

有意義である。

第 3節 本論の限界

本論にはいくつかの限界が指摘されるであろう。第 1 に、調査対象の回答者が大学生に限ら

れていた点、サンプル数が少なかった点である。大学生だけでなく、もっと幅広い年代に調査

票を配布することよって、より確実で確かな結果や考察が出来たのではと考える。また、サン

プル数も 100 も満たなかったため、さらにサンプル数を増やし、モデルの適合性や妥当性を高

める必要もあるかもしれない。

第 2 に、スイッチングの定義にブランド間の買い替えもスイッチングに含めるかどうかが曖

昧になってしまった点である。これは、調査票の回答者にスイッチング前のブランドとスイッ

チング後のブランドを記入してあった回答と、回答してなかった回答にバラつきがあり、うま

く区別できなかった。この問題点も第 2 と同様にサンプル数を拡大することによって改善され

るかもしれない。さらに、スイッチング前の価格においては、観測変数が尺度として非有意で

はなかったため、非有意になってしまったため、スイッチングを検討している PCの価格につい

て仮説を設定すればさらに明確な結果が得られたと考えられる。

第 4節 今後の課題

いくつかの限界が指摘されるものの、本論の成果に基づいて今後、次のような研究の展開が

期待される。まず、本論は、PCと財をしぼってスイッチング行動の規定要因を挙げてみたが、

PCだけでなく、様々な財に当てはまるスイッチング行動モデルの構築である。消費者行動論の

枠組みに当てはめたスイッチング行動の全体的なモデルの構築が考えられる。また、スイッチ

ング後についての研究として、リレーションシップや、ロイヤルティなどの観点からの継続的

購買についての研究も考えられるであろう。企業側がスイッチングをさせないために、または

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消費者の継続的購買についての研究も考えられる。さらに、本論は消費者のスイッチング行動

を取り上げたが、企業間におけるスイッチング行動(PCに限らず)や取引研究も可能と考えら

れる。企業で使用する耐久財はもしスイッチングを行う場合、取引額が莫大であるため、メー

カー側にとっては重要なテーマであるかもしれない。

参考文献

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Winter Education Conferernce.

Jones, M. A., D. L. Mothersbaugh, and Beatty, S. E. (2000), “Switching Barriers and Repurchase

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Jones, M. A., D. L. Mothersbaugh, and Beatty, S. E. (2000), “Why Customers Stay: Measuring the

Under-lying Dimension of Services Switching Costs and Managing their Differential Strategic

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小沢一郎(2007),「イノベーション・モデルの検討(2) ──ダイナミクス分析へ向けた試論的展

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小野晃典(1999),「消費者関与──多属性アプローチによる再吟味──」,『三田商学研究』(慶

應義塾大学),第 41巻 6号,pp. 15-46.

Klemperer, P. (1987), “The Competitiveness of Markets with Switching Costs,” Rand Journal of

Economics, 18(1), pp. 138-150.

Klemperer, P. (1987), “The Markets with Switching Costs,” Quarterly Journal of Economics, 102(2), pp.

375-394.

Ruyter, K., M. Wetzels, and J. Bloemer (1998), “On the Relationship between Perceived Service Quality,

Service Loyalty and Switching Costs,” International Journal of Service Industry Management, 9(5),

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Arkes, H. R. and P. Ayton (1985), “The Sunk Cost Concorde Effects: Are Humans Less Rational Than

Lower Animals? ” Psychological Bulletin, 125(5), pp. 591-600.

田部井明美(2011),『SPSS完全活用法 共分散構造分析(Amos)によるアンケート処理』,東京

図書株式会社。

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補録 1 各構成概念とその観測変数

構成概念 観測変数 α係数

スイッチング

・あなたは、新しいブランドの PCに買い替えたいと強く思った。 ・あなたは、新しい PCが欲しくなって買い替えた。 ・あなたは、新しい PCに買い替えようという気持ちが強かった。 ・あなたは、新しいブランドの PCを買い替えることを嬉しく思った。

0.90

事前学習 コスト

・あなたは自分の PCの用途を考慮して PCのことを調べた。 ・あなたは多くの媒体から情報収集をした。 ・あなたは買い替える時によく考えて購買した。 ・あなたは自分にとってベストな買い物をしたいと思った。

0.86

事前評価 コスト

・あなたは前使っていた PCは良い購買選択だったと思う。 ・あなたは PCのことをよく理解して買おうと思った。 ・あなたは PCを買い替える時に面倒だと思った。

0.76

心理的 コミットメント

コスト

・あなたは今使っている PCを買い替えたくない。 ・あなたは今使っている PCに不満があった。 ・あなたは前、使っていた PCに愛着があった。

0.78

サンク・コスト ・あなたは前、使っていた PCに愛着があった。 ・あなたは故障するまで PCを使う。 ・あなたは前、使っていた PCのことを考えずに買い替えた。

0.68

規範準拠集団の

保有率

・あなたは周りの人が使っている製品を使っているのを見て買い替えたくなった。 ・あなたは周りの人が持っているものを欲しいと思う。 ・あなたは友達が持っているものを自分も欲しくなる。

0.86

新規性追求度

・あなたは新しいモデルの PCが発売されたら魅力的に感じた。 ・あなたは PCの操作などは苦手である。 ・あなたは新しい PCに魅力を感じる。 ・あなたは新技術に対応できるだけの能力があった。

0.78

製品関与度の 変化

・あなたは PCを購入するにあたってこだわりがあった。 ・あなたは重さやサイズは購買するにあって重視した。 ・あなたは PCを購買する時は価格以外はあまり気にしなかった。

0.86

スイッチング前

の価格 ・あなたは前、使っていた PCを購入する時、高いと感じた。 ・あなたは前、使っていた PCを購入する時、安いと感じた。 n.a.

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現在、持っている PCブランド… 買い替えた PCブランド…

補録 2 調査票

消費者意識調査

現在、消費者のパソコンのスイッチング行動についての論文を執筆しています。つきまして

は、消費者意識のデータを必要としており、以下の調査にご協力いただければ幸いです。なお、

収集されたデータは、統計的に処理されるだけであり、個人を特定する情報が外部に流出する

ことは絶対にございません。また、記入漏れがございますと、折角のご回答が利用できなくな

ってしまいますのでご注意ください。

大変ご面倒とは思いますが、以上の趣旨をご理解いただきまして、ご協力をお願い申し上げま

す。

東京経済大学経営学部森岡耕作ゼミナール

4年 石井沙織

連絡先:[email protected]

現在 PCを持っており、過去に買い替えたことのある方は問1を

現在 PCを持っている方は問2をお答え下さい。

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問1:PCを買い替えたときの状況を思い出して、各項目について「かなりそう

思う(7)」から「全くそう思わない(1)」に丸をつけて下さい。

かなりそう思う

そう思う

ややそう思う

どちらでもない

あまり

そう思わない

そう思わない

全く

そう思わない

1-1 あなたは、新しいブランドの PCに買い替えたいと強く思った。

1 2 3 4 5 6 7

1-2 あなたは、新しい PC が欲しくなって買い替えた。

1 2 3 4 5 6 7

1-3 あなたは、新しい PCに買い替えようという気持ちが強かった。

1 2 3 4 5 6 7

1-4 あなたは、新しいブランドの PCを買い替えることを嬉しく思った。

1 2 3 4 5 6 7

2-1 あなたは、買い替えようとしている PCのことについてたくさん調べた。

1 2 3 4 5 6 7

2-2 あなたは、PCを買い替えようと思った時に多くの PCを検討した。

1 2 3 4 5 6 7

2-3 あなたは、PCを買い替えることを検討する際に多くの時間を費やした。

1 2 3 4 5 6 7

3-1 あなたは、以前使用していた PCは良い購買選択だったと思う。

1 2 3 4 5 6 7

3-2 あなたは買い替えることを検討している PC の性能などをよく理解して買った。

1 2 3 4 5 6 7

3-3 あなたは、買い替えることを検討している PCの使い方を考慮してよく調べた。

1 2 3 4 5 6 7

4-1 あなたは、以前使用していた PC に愛着があった。

1 2 3 4 5 6 7

4-2 あなたは以前使用していた PC をライフスタイルに反映するほど好んでいた。

1 2 3 4 5 6 7

4-3 あなたにとって、以前使用していた PCは重要なものであり、好んで使っていた。

1 2 3 4 5 6 7

4-4 あなたは、以前使用していた PCの性能などを熟知していた。

1 2 3 4 5 6 7

5-1 あなたは、以前使用していた PCを長い期間使用した。

1 2 3 4 5 6 7

5-2 あなたは、以前使用していた PCはまだ使えた。 1 2 3 4 5 6 7

5-3 あなたは、以前使用していた PCがまだ使えるのに買い替えたことはもったいないと感じた。

1 2 3 4 5 6 7

6-1 あなたが買い替えようと思っている PC を周りの人(友達、家族など)が多く持っていた。

1 2 3 4 5 6 7

6-2 あなたは周りの人が持っているものを欲しい

と思う。 1 2 3 4 5 6 7

6-3 あなたが買い替えようと思っている PC を周りの人(友達、家族など)が多く持っていた。

1 2 3 4 5 6 7

7-1 あなたは PCを買い替える前から PCという製品カテゴリーに強い関心を持つようになった。

1 2 3 4 5 6 7

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7-2 あなたは PCを買う上で重視している属性(サイズや価格など)が PC を買い替える前に変化した。

1 2 3 4 5 6 7

7-3 あなたは、PCを買い替える前に、あなたにとって PCが以前よりも重要と思うようになった。

1 2 3 4 5 6 7

8-1 あなたは新しく発売されたモデルの PC を魅力的に感じた。

1 2 3 4 5 6 7

8-2 あなたは PCの操作などが苦手である。 1 2 3 4 5 6 7 8-3 あなたは新しい PCに魅力を感じる。 1 2 3 4 5 6 7

8-4 あなたは新技術に対応できるだけの能力があ

る。 1 2 3 4 5 6 7

9-1 あなたは以前使用していた PCを購入した時、価格が高いと感じた。

1 2 3 4 5 6 7

9-2 あなたは以前使用していた PCを購入した時、価格が低いと感じた。

1 2 3 4 5 6 7

問2:今の現状から、PCを買い替えることを想定して、各項目に「かなりそう

思う(7)」から「全くそう思わない(1)」に丸をつけて下さい。

かなりそう思う

そう思う

ややそう思う

どちらでもない

あまり

そう思わない

そう思わない

全く

そう思わない

1-1 あなたは、新しいブランドの PCに買い替えたいと強く思う。

1 2 3 4 5 6 7

1-2 あなたは、新しい PC が欲しくなって買い替える。

1 2 3 4 5 6 7

1-3 あなたは、新しい PCに買い替えようという気持ちが強い。

1 2 3 4 5 6 7

1-4 あなたは、新しいブランドの PCを買い替えることを嬉しく思う。

1 2 3 4 5 6 7

2-1 あなたは、買い替えようとしている PCのことについてたくさん調べる。

1 2 3 4 5 6 7

2-2 あなたは、PCを買い替えようと思った時に多くの PCを検討する。

1 2 3 4 5 6 7

2-3 あなたは、PCを買い替えることを検討する際に多くの時間を費やす。

1 2 3 4 5 6 7

3-1 あなたは、以前使用していた PCは良い購買選択だったと思う。

1 2 3 4 5 6 7

3-2 あなたは買い替えることを検討している PC の性能などをよく理解して買う。

1 2 3 4 5 6 7

3-3 あなたは、買い替えることを検討している PCの使い方を考慮してよく調べる。

1 2 3 4 5 6 7

4-1 あなたは、以前使用していた PCに愛着がある。 1 2 3 4 5 6 7

4-2 あなたは以前使用していた PC をライフスタイルに反映するほど好んでいる。

1 2 3 4 5 6 7

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4-3 あなたにとって、以前使用していた PCは重要なものであり、好んで使っている。

1 2 3 4 5 6 7

4-4 あなたは、以前使用していた PCの性能などを熟知している。

1 2 3 4 5 6 7

5-1 あなたは、以前使用していた PCを長い期間使用している。

1 2 3 4 5 6 7

5-2 あなたは、以前使用していた PCはまだ使える。 1 2 3 4 5 6 7

5-3 あなたは、以前使用していた PCがまだ使えるのに買い替えたことはもったいないと感じる。

1 2 3 4 5 6 7

6-1 あなたが買い替えようと思っている PC を周りの人(友達、家族など)が多く持っている。

1 2 3 4 5 6 7

6-2 あなたは周りの人が持っているものを欲しいと

思う。 1 2 3 4 5 6 7

6-3 あなたが買い替えようと思っている PC を周りの人(友達、家族など)が多く持っている。

1 2 3 4 5 6 7

7-1 あなたは PCを買い替える前から PCという製品カテゴリーに強い関心を持つようになる。

1 2 3 4 5 6 7

7-2 あなたは PCを買う上で重視している属性(サイズや価格など)が PC を買い替える前に変化する。

1 2 3 4 5 6 7

7-3 あなたは、PCを買い替える前に、あなたにとって PCが以前よりも重要と思うようになる。

1 2 3 4 5 6 7

8-1 あなたは新しく発売されたモデルの PC を魅力的に感じる。

1 2 3 4 5 6 7

8-2 あなたは PCの操作などが苦手である。 1 2 3 4 5 6 7 8-3 あなたは新しい PCに魅力を感じる。 1 2 3 4 5 6 7

8-4 あなたは新技術に対応できるだけの能力があ

る。 1 2 3 4 5 6 7

9-1 あなたは以前使用していた PCを購入した時、価格が高いと感じた。

1 2 3 4 5 6 7

9-2 あなたは以前使用していた PCを購入した時、価格が低いと感じた。

1 2 3 4 5 6 7

記入漏れはありませんか? はい いいえ

以上で質問は終わりです。 ご協力ありがとうございました。

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増野綾佳「ライバルって本当は陰の味方?」

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ライバルって本当は陰の味方?

――「食べるラー油」の事例におけるライバルの効用――

森岡耕作ゼミナール

増野 綾佳

第 1章 はじめに

第 1節 本論の構成

現在我々が生活するなかには、様々な企業の数多くの製品があふれている。その中で企業は、

自社の売上向上のために、どのような方法で自社製品を消費者により多く、継続的に購買しても

らうかを、様々な観点から考慮し、マーケティング戦略を立てていく必要がある。そして、企業

が自社製品の売上向上を目指し、市場の中で製品を販売していくためには、当該市場での競合他

社であるライバル企業の存在は、避けて通れない。そのような中で企業はいかにして、自社の売

上を向上させていくべきなのであろうか。企業が売上を上げるために、「競合他社」や「ライバ

ル」と言うと、企業にとって敵であり、あるべき存在ではないように考えられる。しかし、競合

他社やライバルがいることにより自社の売上が上がる、ということないのだろうか。本論文は、

ライバル企業がもたらす要因について、2010年に大ヒットした、「食べるラー油」市場を対象に、

桃屋の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」とそのライバルである S&B食品の「ぶっかけ!お

かずラー油」との関係性をテーマとして、ライバルが企業の売上にもたらす要因についてのケー

ス・スタディーを行っていく。

本論の構成として、第 1章では、企業が市場に製品を投入し、売上を向上させるために行う主

なマーケティング戦略について述べていく。第 2章では、食べるラー油市場の歴史と現状を示し

た上で、本論の研究課題について述べていく。第 3章では、(沼上,2009)を基に、競争戦略に

ついての既存文献レビューを行い、第 4章で、ライバルがいる新たなメリットについての提案を

行っていく。その新たな提案について、第 5章で消費者のクチコミに関する既存文献をレビュー

し、第 6章で、桃屋の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」が普及した背景についての考察を行

っていく。そして、第 7章で全体のまとめ、第 8章で、本論の限界や今後の展望等についてのべ

ていく。

第 2節 マーケティング戦略の現状

企業が製品を市場に投入し、消費者へ販売していくためには、その市場に合った様々なマーケ

ティング戦略が必要となる。マーケティング戦略とは、目標を達成するためにターゲットに向け

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増野綾佳「ライバルって本当は陰の味方?」

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て製品開発、価格設定、コミュニケーション活動、流通チャネル構築などを効果的にミックスす

ることである(野口,2011)。コトラー・ケラー(2010)によれば、企業がその市場のなかでと

るべきポジショニング戦略と、差別化戦略は、「製品ライフサイクル」の間に起きる製品、市場、

競合他社の変化に応じて変えていかなくてはならない。製品ライフサイクルとは、時間軸(横軸)

と売上・利益軸(縦軸)によって、新製品が市場に導入されて、市場から消えていくまでのプロ

セスを表したものである(小木,2009)。この製品ライフサイクルでは、製品が市場に投入され

てから、導入期、成長期、成熟期、衰退期という 4つの段階に分けられ、通常、その段階ごとに

適したマーケティング戦略が検討されるのである。まず、導入期には、新しい製品を消費者に受

け入れてもらうために、製品の機能や用途、利点やその存在などを顧客に知らせることが重要な

課題となる。そのため、マス広告を使用したプロモーション活動や、製品を販売する小売販売店

での流通を確保する必要がある。そして成長期に入ると、初期採用者はその製品を気に入り、ま

た、新しい消費者は製品を購買し始める。需要が大きく拡大していき、売上も急速に伸びていく。

そしてこのような機会に惹かれ、多数の新規企業が市場に類似品を投入し始め、競合他社が増加

していくのである。成長期では、企業は、多数の競合他社に自社の顧客を奪われないため、そし

て他社との競争に勝ち抜くために、他社との差別化を図り、より一層のマーケティング活動が行

われる。消費者に、他社製品でなく、自社製品を購買してもらうために、価格を下げたり、導入

期以上のプロモーションが必要となってくるのである。成熟期に入ると、需要が低迷し、売上増

加率が鈍化していく。縮小した市場の中で生き残るために、企業はかなりのマーケティング・コ

ストを投入せざるを得なくなるのである。その中で、市場シェアを維持するために、製品の改良

や品質の向上、そして、価格、流通、広告、販売促進、サービス等のマーケティング・ミックス

の修正を行う必要がある。そして衰退期に入ると、売上・利益ともに著しく低下していく。その

理由は、技術の進歩、消費者の嗜好の変化、他社との競争の激化などさまざまであるが、企業は、

この段階に入ると、その市場から撤退する、または、在庫を破棄するために、製品の価格を大幅

に下げ、できる限りの利益を得ようとするのである。このように、企業が製品を市場に投入し、

売上を上げていくためには、様々な状況に応じたマーケティング活動を行うことが必要不可欠で

あり、企業は、競合他社がいるなかで、いかにして自社の売上を向上させていくのかが問われて

いる。

このような現状のなかで、企業は売上向上の為にどのようなマーケティング活動を行っていけ

ばいいのであろうか。本論文では、月刊情報誌「日経トレンディ」が毎年発表する「ヒット商品

ベスト 30」の 2010年版でトップの座を獲得した「食べるラー油」を例としてとりあげ、桃屋の

「辛そうで辛くない少し辛いラー油」が消費者の間で大ヒットしていった背景を、「ライバル企

業の存在」という視点から考察していく。

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増野綾佳「ライバルって本当は陰の味方?」

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第2章 問題意識

ラー油はもともと調味料や、つけだれとして使用されていたが、そこに「ご飯にかけて食べる」

というラー油の食べ方を広めたのが、京都にある中華料理店「菜館Wong」の自家製ラー油であ

る。この中華料理店は、京都の東映撮影所の前に位置しているため、映画製作関係者が利用する

ようになり、次第に芸能人へと自家製ラー油が広まっていった。そしてこの自家製ラー油は映画

関係者や芸能人の間で話題となっていった。俳優である田中要次は、2008年10月27日付エントリ

ーの公式ブログで、「菜館Wong」を訪れた様子を紹介している。また、2008年11月には、女優の

仲間由紀恵が「SMAP×SMAP」(フジテレビ系)で、俳優の西村和彦が「はなまるマーケット」(TBS

系)で「菜館Wong」の自家製ラー油の「ご飯にかけて食べる食べ方」紹介している。この放送

直後には、番組の掲示板サイトやQ&Aサイトで数多くの声が寄せられ話題となった。

そして、「食べるラー油」の大ブームを巻き起こしたきっかけとなったのが、2009年8月17日、

桃屋から発売された、「辛そうで辛くない少し辛いラー油」である。古くからあるシンプルな調

味料であるラー油の中に、フライドガーリックやフライドオニオンなどのチップをふんだんに入

れ、「菜館Wong」の自家製ラー油と同様に、従来のラー油の「かける」という機能の他に、「食

べる」という機能を付け加えた商品であった。この「食べるラー油」は発売されるやいなや、消

費者の大きな反響を受け、桃屋のラー油のシェアは最大で78.7%(2010年2月)に達する程であ

った。ラー油といえば、もともとS&B食品の独壇場であった。しかし、桃屋の「辛そうで辛くな

い少し辛いラー油」の登場によって、ラー油の市場シェアが突然奪われ、“ラー油”市場が拡大す

る中でS&B食品のシェアは大幅にダウンしていったのである。しかしS&B食品は、桃屋から遅れ

ること5カ月ほどで「食べるラー油」を完成させ、2010年3月23日には、S&B食品から「ぶっかけ!

おかずラー油」を発売した。これら2つの食べるラー油の製品の特徴として、桃屋の「辛そうで

辛くない少し辛いラー油」は、メーカー小売希望価格398円(110g)、主な原材料は、食用なたね

油やフライドガーリック、食用ごま油や唐辛子、フライドオニオン、唐辛子味噌等である。そし

て、S&B食品の「ぶっかけ!おかずラー油」は、メーカー希望小売価格330円(110g)、主な原材

料は、食用なたね油やフライドガーリック、食用ごま油や唐辛子、フライドオニオン、粉末醤油

等であり、価格はS&B食品の食べるラー油の方が多少低価格であるが、原材料はほぼ同じものを

使用しおり、製品自体にはあまり違いがない。これら2社が「食べるラー油」を発売することに

より、以前は年間13億円程度であったラー油の市場規模が、年間100億円を超える市場規模まで

拡大していったのである。しかも、従来通りの調味料としてのラー油の売上はまったく落ちてお

らず、「食べるラー油」の巨大な売上がそれに乗っかった形になっている。では、食べるラー油

が消費者の間で大流行した背景には何があるのだろうか。

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増野綾佳「ライバルって本当は陰の味方?」

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図表1 桃屋の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」の販売点数と検索数

出所)財団法人 流通経済研究所HPより引用し、筆者加筆

図表1は、(財)流通経済研究所が保有する関東圏のスーパーマーケット5店舗における桃屋の

「辛そうで辛くない少し辛いラー油」の売上点数のPOSデータと、「ラー油」というキーワード

の検索回数をグラフ化したものである。2009年8月に発売された桃屋のラー油は徐々に販売点数

を伸ばしているが、最も販売点数が多くなっているのが、発売から7ヶ月後の2010年3月となって

いる。この時期に発売されたのが、S&B食品の「ぶっかけ!おかずラー油」である。また、桃屋

の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」が発売されてから、S&B食品の「ぶっかけ!おかずラー

油」が発売される前までの桃屋のラー油の販売量と、S&B食品の「ぶっかけ!おかずラー油」が

発売された後の桃屋のラー油の販売量の平均値を比較してみると、S&B食品の「ぶっかけ!おか

ずラー油」が発売された後の桃屋のラー油の販売量の方が多くなっていることがわかる。これら

のことから、S&B食品の「ぶっかけ!おかずラー油」が発売されたことにより、桃屋の「辛そう

で辛くない少し辛いラー油」販売点数が多くなっていったのではないだろうか。以上の点を鑑み

て、本論では「製品Bが発売されることにより、製品Aの販売点数が増えるのはなぜか」という

研究課題を設定し、この食べるラー油市場を取り上げて、既存研究を基にしてその解明を試みる。

エスビー食品

「ぶっかけ!おかずラー油」発売

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第3章 既存研究レビュー

研究課題――製品Bが発売されることにより、製品Aの販売点数が増えるのはなぜか――につ

いて既存の研究を概観してみると、1つのマーケティング戦略である、「競争戦略」での説明が最

も有効であると考えられる。沼上(2009)は、競争相手が存在することによるプラスの効果とし

て、「競争を活用する」という競争戦略について述べており、競争戦略の方法として、差別化、

競争回避、ライバルの効用、他社の競争を利用するという4つについて述べている。

まず第1に「差別化」とは、1つの市場に複数の企業が存在し、企業間での競争が行われる場合、

他社とは異なった自社の独自性を強調して消費者へアピールして、高い利益率を得ようというも

のである。また、差別化を行うことで、企業は独自の生存領域を持つことができ、その独自の生

存領域には自社しか存在しないため、小さな独占企業というような地位を確保することができる

のである。

第2に「競争回避」とは、差別化を行うことにより、得ることができる効果である。例えば、

自社の製品が他社の製品に比べて性能面で差別化されていれば、それによって他社との価格競争

や広告競争を回避することができる。そうすることで、企業は独自の生存領域を構築し、効率的

に利益率を上げることができるようになるのである。

第3に「ライバルの効用」として沼上(2009)は、ライバルがいることがもたらすメリットに

ついて指摘している。まず1つ目のメリットは、「競い合うことで、消費者がその業界を見捨てな

い」ということである。例えば、独占企業の製品やサービスに問題があったら、消費者はその製

品に対して「もう買わない」と、購買を中止してしまうかもしれない。しかしそこにライバルが

存在している場合、消費者は購買を中止するのではなく、他社製品に救いを求めて他社に移って

いくはずである。逆に考えれば、他社製品に不満を持った消費者は、そこで購買を中止するので

はなく、自社製品を試してくれるだろう。そうすることで、お互いに相手の顧客不満足を解消し

あい、共同で当該産業の受容を維持し続けることができるようになるのである。そして2つ目の

メリットは、「競争相手を対話の相手として考えることで見えてくるものがある」ということで

ある。個々の経済主体の保有している知識は限られたものでしかない。例えば、個々の経済主体

は何が最適な技術であり、何が最も優れた製品か、といった知識を市場取引や競争を行う前の時

点では保有していない(沼上・浅羽・新宅・網倉,1991)。しかしその優れた知識や技術は、相

手と競争していく中で見つけていくことができるのである。自社がライバルと競争し合うことで、

お互いに刺激し合い、自社にとっても有益なアイデアが生み出される。自社とライバルが互いに

良い製品を生み出していくことが出来れば、市場全体が成長し、自社にとっても、他社にとって

も、また、消費者にとっても大きなメリットとなるのである。

第4に「他者の競争を利用する」とは、今まで述べたような直接的なライバルの活用ではなく、

他社同士の競争が自社へもたらす波及効果を活用する、という間接的な方法である。自社製品と

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同じ市場内の企業同士が激しく競争すればするほど、市場が拡大していき、消費者に対して製品

情報を伝えることができるのである。このような、競争回避や他社の競争をうまく利用した戦略

を行い成功したのが、ハンバーガー業界のモスフードサービスである。そもそも日本国内にハン

バーガー市場を立ち上げようと必死に考えたのは、マクドナルドであった。そしてハンバーガー

を消費者が認知しはじめると、ハンバーガー市場に新たに、ロッテリアが参入した。この2社が

ターゲットとしていたのは、子どもと、子どもを連れた家族であり、店舗は、駅前の一等地で展

開されていた。しかし、モスバーガーがターゲットとしていたのは、高校生や大学生、若いOL

などであり、店舗は地味な2~3等地で展開していたのである。同じターゲットであり、同等の店

舗であるマクドナルドとロッテリアの競争は次第に激化し、この2社により消費者へハンバーガ

ーが認知され、ハンバーガー市場が拡大していったのである。この2社がターゲットとしていた

子どもは成長し、「子どもっぽい」というイメージから、マクドナルドやロッテリアから、自然

とモスバーガーへと流れていく。このように、モスバーガーは競争を回避し、他社の競争を利用

して成功を収めたのである。

このように、競争戦略については、様々な競争の仕方がある。しかし、本研究で対象としてい

る桃屋の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」は、差別化を行い、独自の生存領域を獲得したと

いうわけではなく、また、他社の競争を利用した、というわけでもない。そのため、3つ目の「ラ

イバルの効用」についてのみにあてはめて考えていく。

「ライバルの効用」である、ライバルがいることによるメリットとして、「互いに競い合うこ

とで、消費者がその業界を見捨てない」ということと、「競争相手を対話の相手として考えるこ

とで見えてくるものがある」ということを指摘したが、桃屋の「辛そうで辛くない少し辛いラー

油」は、ライバルであるS&B食品の「ぶっかけ!おかずラー油」の発売を受けて、消費者の製品

に対する不満を解消しあったり、新たに製品開発等は行っていない。そのため、上記で述べた2

つのメリット以外にも、ライバルが存在することによるメリットは存在するのではないだろうか。

そこで、図表1から、桃屋の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」の検索数についてのグラフを

参照してみると、S&B食品の「ぶっかけ!おかずラー油」が発売されてから、桃屋の「辛そうで

辛くない少し辛いラー油」の検索数が増加していることがわかる。このことから、ライバルが存

在する、新たな3つ目のメリットとして、食べるラー油を取り囲む消費者の視点で、考えていく。

第4章 新たなメリットの提案

既存の研究では、ライバルの効用として、消費者が抱く自社製品の不満を他社製品で補うこと、

また、他社との競争により自社製品の品質が向上するということを述べているが、桃屋の「辛そ

うで辛くない少し辛いラー油」について考えてみると、消費者は製品に対して不満を抱いていた

というわけではなく、また、ライバルである、SB食品の「ぶっかけ!おかずラー油」が発売さ

れることにより、製品を向上させていったというわけでもない。では、なぜ、桃屋の「辛そうで

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辛くない少しからいラー油」は、SB食品の「ぶっかけ!おかずラー油」が発売することにより、

販売量を伸ばしていったのであろうか。

図表2 桃屋の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」についてのブログ書き込み件数

出所)吉田・石井・新垣(2010)より引用し筆者加筆

図表3 桃屋の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」についてのついったーでのつぶやき数

(件数はツイッター全体の20分の1)

出所)日経リサーチ,NECビッグローブ プレスリリース資料

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図表2は、桃屋の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」についてのブログ書き込み件数をグラ

フ化したものである。このラー油の発売当初には、ブログへの書き込み件数は少ないものの、

S&B食品の「ぶっかけ!おかずラー油」が発売された頃から、書き込み件数が急激に伸びている

ことがわかる。また、図表3は、桃屋の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」についてのツイッ

ター上でのつぶやき数を一週間ごとにグラフ化したものである。このつぶやき数は徐々に増えて

いき、つぶやき数が最大となったのが、2010年3月22日~2010年3月22日である。この週には、

S&B食品の「ぶっかけ!おかずラー油」が発売されたのである。また、ツイッターのつぶやき数

を、retweet、reply、simple tweetの割合別に見てみると、S&B食品の「ぶっかけ!おかずラー油」

が発売された頃から、simple tweetの割合が高まっていることがわかる。このことから、S&B食

品の「ぶっかけ!おかずラー油」が発売される以前は、友人などのつぶやきに返信をしたり、友

人のつぶやきをそのままretweetするといった、「食べるラー油」の情報に関して受け身の消費者

が多かったが、S&B食品の「ぶっかけ!おかずラー油」の発売により、消費者自らが積極的に「食

べるラー油」についての情報を発信するようになっていった、ということが考えられる。

では、テレビやCM、雑誌等のマスコミの影響はなかったのであろうか。「食べるラー油」に

ついて取り上げたテレビ番組は、ツイッターのつぶやき数と同様に、2010年3月22日~2010年3

月22日の週に最も多く放送された。これらのテレビ番組では、S&B食品の食べるラー油の発売に

より、「トップメーカー参入でラー油戦争勃発」「エスビーがシェア奪還に乗り出した」など、

SB&食品の食べるラー油市場への参入を紹介していた。2010年3月に食べるラー油を取り上げた

のは14番組。放送時間は1時間23分17秒であり、2月と比較すると、番組数、放送時間ともに5倍

に増加したのである。

以上のことを鑑みて、ライバルがいるメリットの3つ目として、「ライバルが現れることにより、

消費者のクチコミが増加する」という新たなメリットを提案する。

第5章 既存研究レビュー

第1節 クチコミ利用に関する動機の研究

前章で提案した「ライバルが現れることにより、消費者のクチコミが増加する」という新

たなメリットを検討するために、クチコミについての既存の研究を見てみると、Henning-Thurau

and Walsh(2003) は、消費者がオンライン上のクチコミを利用する動機であり、購買行動へ影

響を与えるものとして、因子分析の結果、「購買関連情報の入手」「情報を通じた社会志向」「コ

ミュニティ所属」「製品の使い方についての情報収集」という4つを識別している。

「購買関連情報の入手」とは、「リスク低減」と「探索時間の削減」からなり、消費者が製品

を購買する・しないかを決定するときに、時間をかけず、効率的にその製品についての情報探索

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をするためにクチコミを利用する、というものである。「情報を通じた社会志向」とは、「社会的

地位の確認」と「不協和の低減」からなり、消費者は、自分の社会的地位とはどれくらいなのか

をクチコミによって認識するためや、製品を購買した後に、こんなはずではなかったのに、とな

らないためにクチコミを利用する、というものである。「コミュニティ所属」とは、「バーチャル・

コミュニティへの所属」と「新製品についての情報収集」からなり、日常生活ではないオンライ

ン上の集団のなかに所属するため、また、最近どのような新しい製品が発売されたのかという情

報をいち早く入手するために、クチコミを利用する、というものである。「製品の使い方につい

ての情報収集」とは、購買しようと考えている製品の使い方について、事前に情報を知っておく

ために、クチコミを利用する、というものである。

また、宮田(2005)は、「オンライン上で得た、製品に関する情報を日常生活で話題にする」

ために利用している割合が高いことから、製品に関する情報収集や意思決定のためだけではなく、

「楽しみ」のためにクチコミを利用するということを指摘している。

第2節 クチコミ発信に関する動機

前節では、クチコミを利用する動機についての既存研究を基にレビューを行ったが、Kollock

(1999)は、消費者がインターネット上でメッセージを公開する動機として、「互酬性への期待」

「自己の評判を高める」「自己効力感」という3つに分類をしている。

「互酬性への期待」とは、誰かから支援を受けることができる、と期待するため、自分も情報

を提供しようというものである。また、宮田(2005)は、オンラインコミュニティ利用者に対し

ておこなった調査の結果から、消費者がオンライン上でクチコミを投稿する理由として、「情報

共有を通じて自分も得をする」「以前、オンラインコミュニティで他の人からコメントや回答を

もらったから」「他者を助けるのは公正」といった回答率が高いことを示している。次に「自己

の評判を高める」とは、情報を提供することにより他者からの高い評判を得たい、というもので

る。また、宮田(2005)の調査では、「自分の評判を高めたい」という気持ちが、消費者の情報

提供の頻度と強い関わりがあることを示している。このことから、他者からの自分の評判を気に

かける消費者ほど、オンラインコミュニティ上でより多く情報を発信する、ということがわかる。

そして、「自己効力感」とは、自分が発信した情報によって他者に影響を与えることができた、

と感じることであり、この効果はコミュニティが大きくなるほど重要になる。

本章では示したクチコミを利用する動機と発信する動機についての既存研究を基にレビュー

を行った。そこで次章では、本章で述べた、クチコミを利用する動機と発信する動機のそれぞれ

の要因について、桃屋の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」についてあてはめ、食べるラー油

についてのクチコミが消費者間で普及していった背景には、どのような要因があったのか、考察

を行っていく。

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第6章 考察

第1節 クチコミ利用の動機についての考察

まず、桃屋の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」についてのクチコミを消費者が利用する動

機に至った要因についての考察である。

まずクチコミを利用する1つ目の動機である「購買関連情報の入手」についてである。桃屋の

「辛そうで辛くない少し辛いラー油」は、今までのラー油の「つける」という用途の他に、“食

べる”という機能を付け加え、全国で大々的に発売したことから、今までになかった新奇性が、

新規採用者や主婦の間で大きな話題を呼んだ。この、“新奇性”により、「どんな味がするのか」

「美味しいのか」「食べるラー油って何?」といったように消費者へ興味や関心を与え、消費者

がクチコミを利用するに至ったのではないだろうか。そして、S&B食品から「ぶっかけ!おかず

ラー油」が発売されると、「桃屋の食べるラー油とS&B食品の食べるラー油、どっちが美味しい

のか」というように、この2社を比較するためにも、消費者はクチコミを利用したのではないだ

ろうか。また、この桃屋の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」は、あまりの人気で、品薄状態

が続いた。その影響もあり、「どこに行けば買えるのか」「どうすれば買えるのか」といった情報

を、クチコミにより参考にする消費者も多く存在していたと考えられる。

次に、クチコミを利用する2つ目の動機である「情報を通じた社会志向」についてである。前

章のレビューで示したように、消費者は、購買後の不協和を低減するためにクチコミを利用する。

そのため、今までに購買したことのない「食べるラー油」に対して「まずかったらどうしよう」

「辛いもの苦手だし」というような不安を持つ消費者は、その不安を取り除くためにクチコミを

利用するのではないだろうか。また、S&B食品から「ぶっかけ!おかずラー油」が発売されてか

ら、食べるラー油の存在を知った消費者は、「S&B食品の食べるラー油が美味しかったから、桃

屋のラー油もきっと美味しいだろう」と期待をし、桃屋の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」

についてのクチコミを利用するのではないかと考えられる。

そして、クチコミを利用する3つ目の動機である「コミュニティ所属」についてである。「食べ

るラー油」が消費者の間で大ブームとなった2010年当時、オンライン上でのコミュニティサイト

である、mixiや2チャンネルで“食べるラー油”や“桃ラー”といったような、コミュニティが数多

く存在していた。消費者は、このコミュニティに参加することで、食べるラー油についての様々

な情報を交換し合ったり、オンライン上の会話を楽しむ、そして、食べるラー油のコミュニティ

を通じて、「様々な人と関わりたい」という気持ちから、クチコミを利用したのではないだろう

か。また、桃屋だけでなく、S&B食品も、食べるラー油市場に加わることで、食べるラー油市場

が拡大し、消費者のコミュニティ内での議論も活発に行われることが考えられる。最後に、クチ

コミを利用する4つ目の動機である「製品の使い方についての情報収集」についてである。「食べ

るラー油」の食品カテゴリーとしての位置づけは、「調味料」である。ご飯にそのままかけて食

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べることもできるが、調味料として用途も考えられる。そのため消費者は、「食べるラー油はど

んな料理に使えるのか」「皆はどのようなレシピを考えているのか」といったような、食べるラ

ー油の用途についてクチコミを利用していったのではないだろうか。

第2節 クチコミ発信についての考察

前節では、消費者が「食べるラー油」についてクチコミを利用する動機に至った背景にはどの

ような要因があるのか、を考察していった。本節では、消費者が「食べるラー油」についてのク

チコミを発信する動機に至った背景にはどのような要因があるのかを考察していく。

まず、クチコミを発信する1つ目の動機である「互酬性への期待」についてである。前章のレ

ビューで消費者は、以前誰かに情報を提供してもったお返しに、自分も情報を発信する、という

ことを示した。そのため、「食べるラー油」を購買した消費者は「この前、新製品の情報をもら

って、買ってみたら美味しかったから、今度は自分が新しい製品について教えてあげよう」とい

う気持ちになり、友人やオンライン上で「食べるラー油」についてのクチコミを発信していった

のではないだろうか。また、品薄状態が続いた、桃屋の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」を

購買するために、「どこに行けば買えるか」といった情報を消費者同士で共有しあうことで、購

買できる確率が上がるのではないか、という気持ちから、クチコミを発信していったのではない

だろうか。

次に、クチコミを発信する2つ目の動機である。「自己の評判を高める」について、消費者は、

消費者間で大きな話題となっており、品薄状態が続いた「食べるラー油」についての情報を他者

に詳しく伝えることで、自分の評価を高められるのではないか、とクチコミを発信することが考

えられる。なかなか手に入らない「食べるラー油」を手に入れたことで、他の消費者よりも有意

な立場で、「食べるラー油」についての情報や感想を伝えることができる。また自分のブログに

「食べるラー油」と使用したレシピを掲載することにより、ブログのアクセス数が増えるかもし

れない、誰かがコメントをくれるかも知れない、という気持ちから、クチコミを発信していった

のではないだろうか。

そして、クチコミを発信する3つ目の動機である「自己効力感」についてである。消費者は、

自分が発信した情報によって誰かに影響を与えられたという効力感を得るためにクチコミを発

信する。前節でも述べたように、mixiや2chなどで「食べるラー油」についてのコミュニティが

拡大している中で、情報を発信することにより、「たくさんの人に自分の意見を聞いてもらえた」

「私の作ったレシピに感想をくれた人がいる」といったような大きな効力感を得るために、クチ

コミを発信していったのではないだろうか。

第7章 まとめ

以上のことから、桃屋の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」が消費者の間で普及していった

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要因として、消費者同士のクチコミが大きく影響していったこと考えられる。桃屋の「辛そうで

辛くない少し辛いラー油」は、調味でのラー油に、“食べる”という新たな用途を付け加えた新奇

性のある製品であった。そのため、発売当初から、新規採用者や、食に敏感な主婦たちの間でブ

ームとなっていった。その時期に食べるラー油を新たに市場に投入したのが、S&B食品の「ぶっ

かけ!おかずラー油」であった。この「ぶっかけ!おかずラー油」の発売により、今まではあま

り取り上げられていなかったメディアで、「食べるラー油」について取り上げられるようになっ

ていったのである。すると、新規採用者や主婦の他以外にも、「食べるラー油」について今まで

関心が無かった・存在を知らなかった、という人までもが「食べるラー油」について関心を持つ

ようになっていった。そうして、「食べるラー油」に関しての情報をオンライン上で調べたり、

情報を発信する、といった消費者のクチコミが増加していったのではないだろうか。しかも、こ

の「食べるラー油」は、消費者の間でかなり大きなブームとなっていたために、品薄状態が続き、

運よく店頭で販売されていても、「お1人様1個まで」と言うように、なかなか手に入らない製

品であった。その状況もあり、消費者の「買いたい!」「食べてみたい!」という気持ちが大き

くなり、どこに行けば買えるのかといった情報のやり取りが、消費者の間で活発に行われるよう

になっていったと考えられる。また、「食べるラー油」は、今までにない新奇性のある製品であ

ったということ、また、食品カテゴリーとしては調味料であることから、“食べるラー油の食べ

方”についても様々であった。餃子につけるという、ラー油としての用途だけでなく、ご飯にそ

のままかけたり、炒め物に加えたり、とあらゆる用途が考えられる。そして、S&B食品の「ぶっ

かけ!おかずラー油」のテレビCMでは、そうめんに「食べるラー油」を加えるという、食べる

ラー油の新たな活用方法について紹介をしている。このように、「食べるラー油」の用途につい

ても、消費者間でレシピの交換が活発に行われ、クチコミも増加していったのではないだろうか。

このように、桃屋の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」が販売点数を伸ばし、売上を向上さ

せた背景には、製品自体の新奇性の他に、新規採用者や主婦以外の消費者に対して「食べるラー

油」の存在を伝えたメディアの力、そして、そのメディアに取り上げられるきっかけとなった、

S&B食品の「ぶっかけ!おかずラー油」の発売が大きな要因となっていることがわかる。そうし

て、多くの消費者の「食べるラー油」についての関心が高まり、クチコミが増加していく。そう

することにとって、桃屋の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」の売上増加に繋がっていったの

ではないだろうか。

もし、S&B食品から「ぶっかけ!おかずラー油」が発売されていなかったら、消費者の間でこ

こまで大きな「食べるラー油ブーム」は起きていないだろう。おそらく、桃屋の「辛そうで辛く

ない少し辛いラー油」のみが発売されていたら、新規採用者や主婦の間での一時のブームに過ぎ

ず、月刊情報誌「日経トレンディ」が毎年発表する「ヒット商品ベスト30」の2010年版でトップ

の座を獲得するまでには至らなかっただろう。

以上のことから、企業にとってライバルとは、自社の売上を上げるために、排除すべき存在で

はなく、むしろライバルが現れることにより当該市場が大きくなり、また、消費者の関心もたか

くなる、重要存在である、ということが明らかとなった。

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第8章 おわりに

第1節 本論の限界

本論には、いくつかの限界が指摘されるであろう。第1に、S&B食品の「ぶっかけ!おかずラ

ー油」についてのデータが不十分であった。販売点数や検索数、ブログ記事、ツイッタ―でのつ

ぶやき数等のデータが、桃屋の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」についてのみであり、ライ

バルであるS&B食品の「ぶっかけ!おかずラー油」との比較が充分にできなかった。より正確に

この2社の関係性を調査するためには、桃屋とS&B食品の両者のデータを利用するべきである。

第2に、「ライバルの効用」について、「食べるラー油」のみに焦点を合わせてしまったことで

ある。確かに、「食べるラー油」は消費者の間で大ブームとなり、大きな話題を呼び、ライバル

の登場によって市場が拡大していった。しかし、「食べるラー油」以外にもこのような現象は存

在しているのではないだろうか。「ライバルの効用」についてより明確に示すためには、消費者

の間でブームとなったあらゆる製品とそのライバル関係についての調査を行うべきであるだろ

う。

第3に、「ライバルが現れることにより、消費者のクチコミが増加する」という新たなメリット

の実証に関して、筆者自らの考察のみになってしまった。消費者がクチコミを利用・発信する動

機について、正確に示すためには、実際に調査票をとり、分析を行うべきである。

第2節 今後の課題

いくつかの限界が指摘されるものの、本論の成果に基づいて今後、次のような研究の展開が期

待される。まず、本論は、ライバルの効用として、消費者のクチコミに焦点を合わせている。今

後、ライバルの効用についてより明確な研究をするためには、消費者の視点だけでなく、流通業

者や小売店の視点についての要因も研究対象にしなければならないであろう。例えば、ライバル

現れた場合に、企業を流通業者、企業と小売店との関係は、ライバルが存在する前とどのような

変化があるのかを研究することで、実際にライバルが現れたときに、企業はどのような行動をと

ればいいのかが明らかになるかもしれない。

調査対象についても、企業に直接出向きお話を伺うことで、企業はライバルに対してどのよう

な対応をしているのか、また、ライバルをどのように活用しているか、とういった企業の生の活

動の現状を知ることができ、研究はさらに広がると期待できる。

かくして、本論は、いくつかの限界を残しながらも、多くの成果をあげ、さらに今後の研究展

開を豊かにするものであると結論づけられる。

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参考文献

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(http://www.president.co.jp/pre/backnumber/2011/20110321/18239/18246/ , 2012年10月18日最終ア

クセス)

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経験価値に基づく非計画購買行動モデル ──なぜ小売業態間で非計画購買率に差異が生じるのか?──

東京経済大学経営学部 森岡耕作ゼミナール

2011年度 関東十ゼミ討論会プロジェクト

非計画購買推奨隊

石井沙織 岩浪隼也 増野綾佳 森谷 光

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経験価値に基づく非計画購買行動モデル ──なぜ小売業態間で非計画購買率に差異が生じるのか?──

1.はじめに─本論の問題意識

我々は現在、「不景気」という言葉に触れて生活することに慣れてしまうほど、経済的な閉塞感につつま

れて生活しているように思われる。実際に、景気動向の 1 つの指標である消費者態度指数に注目してみる

と、全体的に下降傾向にある(内閣府消費動向調査: http://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/shouhi.html)。さらに、

経済産業省が実施している商業統計調査によると、小売業年間販売額は、1992 年の約 150 兆円から 2007

年の約 114 兆円まで一貫して下落しており(図表 1)、景気の衰退がより浮き彫りになろう。日々、消費者

が行う購買行動は、まさにこのような衰退傾向にある小売業に属する各店舗においてなされている。小売

業はまさに、生産と消費を結びつけるステージとして、マーケティングのみならず、経済全体においても

重要な位置を占めていると言えよう(高橋,2008)。そう考えると、小売業の活性化は、関連する卸売業や

製造業の活性化へとつながる。そしてその結果として、消費者の所得水準の向上をもたらし、不景気を打

破する契機となるであろう。そこで、不景気である「今、マーケティングにできること」を示唆するため

に、小売店舗における消費者行動の学術的研究を展開する必要性が生じる。

図表 1:小売業年間販売額の推移

出所)経済産業省平成 19年商業統計調査結果(http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/syougyo/result-2.html)

さて、そのような現状を認識した上で既存の店舗内消費者行動研究を概観してみると、古くから重要性

が指摘されている論題の1つは、消費者の衝動買い、すなわち非計画購買行動である(Clover, 1950; West,

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1951; Stern, 1962)。例えば、Clover(1950)はバラエティストアにおける購買の60.5%が非計画購買であっ

たことを報告しており、同様に、Kollat and Willett(1967)は、グローサリーストアにおける購買のうち50.5%

が非計画購買であったことを調査結果から明らかにしている。また、百貨店における購買のうち、約40%

前後が非計画購買であると報告する研究もある(Williams and Dardis, 1972; Prasad, 1975; Bellenger, Robertson,

and Hirschman, 1978)。他方、我が国においても、高橋(1991)は、消費者が小売店舗内においてどれだけ

の非計画購買を行っているのかを明らかにしながら、その研究上の重要性を主張している。

このように、実務的にも学術的にもその重要性が指摘される非計画購買行動についての研究は、未だ発

展途上の段階にある。すなわち、小売店舗内において消費者が非計画購買に至る心理的プロセスが明らか

にされていなかったり、売り手である小売店舗のマーケティング活動に関係する変数が十分に考慮されて

いなかったりする(高橋,1991)。以上のことに鑑みて、本論は「どのような店舗要因が、いかなる消費者

の心理的プロセスを経て、非計画購買に影響を及ぼすのか」という研究課題を設定し、因果的関係を総合

するモデルを構築することによって、その解明を試みる。

さらに、既存研究において、消費者の非計画購買は小売業態間において異なることが指摘されている

(Cobb and Hoyer, 1986; 高橋,1991)。小売業態間における非計画購買の割合の差異、すなわち、非計画購

買率の差異についても同様に、研究の余地が多く残されている。高橋(1991)が指摘するように、その原

因は、非計画購買に至る消費者の心理的プロセスがブラック・ボックスとして不透明のままにされている

ために、非計画購買の原因となりうるどのような要因に焦点を合わせるべきかが特定化されていないこと

であると考えられる。したがって、小売業態間における消費者の非計画購買率の差異に関する研究につい

て、上記の研究課題を解決した上で、新たに「非計画購買の因果プロセス・モデルの原因となる要因に関

して、小売業態間においてどのような差異が生じているのか」という研究課題を追加して設定し、その解

明を試みることが必要とされるであろう。なお、この研究課題について、本論は、先の商業統計において

主要業態と見なされているスーパーマーケット(以下、スーパー)、コンビニエンス・ストア(以下、コン

ビニ)、百貨店、ドラッグストア、および専門店に加えて、近年、その成長が注目されているショッピング・

センター(以下、SC)の6つの小売業態に研究の焦点を合わせる。

このようにして、本論は、消費者の非計画購買行動に関する2つの研究課題に解答することによって、学

術的かつ実務的示唆を与えることができると期待される。

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2.既存研究のレビュー

2−1.本論の研究課題に関連するレビュー

第 1の研究課題──どのような店舗要因が、いかなる消費者の心理的プロセスを経て、非計画購買に影響

を及ぼすのか──について、既存の研究を概観してみると、規定要因探索型研究と購買心理探求型研究の 2

つに大別できるであろう(高橋,1991)。

まず、非計画購買の規定要因探索型研究について、このカテゴリに分類される研究の多くは、関連する

と思われるあらゆる変数を列挙し、消費者の非計画購買行動との間の相関関係や因果的関係を相関分析や

回帰分析によって明らかにしようと試みている。(田島・青木, 1989; 高橋, 1991)。ただし、この種の研究

は、その後に続く研究のために仮説を提示するような探索的なものであり、何らかの統一的な枠組みに基

づきながら変数が設定されているわけではないことに注意しなければならないであろう。それに加えて、

Prasad(1975)が指摘するように、各研究で非計画購買の定義ないし操作化が異なっているために、得られ

た知見は、容易に比較されえないものとなっている。したがって、非計画購買を明確に定義づけすること

が求められるとともに、ある一定の枠組に基づきながら仮説の導出を試みることが必要とされるであろう。

他方、非計画購買の購買心理的探索型研究について、このカテゴリに分類される初期の研究は、主とし

て、非計画購買を行う消費者がどのような心理的状況にあるのかを特定化しようとすることを目的に展開

されている。例えば、Weinberg and Gottwald(1982)は、消費者が買い物時に感じる感情に関するいくつか

の尺度について因子分析を行う一方で、計画購買を行った消費者と非計画購買を行った消費者間での各尺

度の平均値の差を t検定によって検証している。また、Gardner and Rock(1988)は、実際に非計画購買を

行った消費者に対して、そのときの感情を自由に記述してもらうという探索的調査を行っている。その結

果、Weinberg and Gottwald(1982)における感情の尺度に挙げられている項目に似たポジティブな感情を回

答する消費者が多かった。このような初期の探索的研究に続く研究は、主として、非計画購買に至る消費

者の心理的プロセスの解明を試みるものである。例えば、Beatty and Ferrell(1998)は、初期の研究におい

て挙げられた消費者が店舗内において感じる感情に着目して、消費者の置かれている状況と非計画購買と

の関係性について、共分散構造分析を行って実証的に明らかにしている。ただし、この研究は確かに、消

費者の心理状況や心理的プロセスに着目するものの、他方で、店舗内ブラウジングのような行動的側面と、

消費者が感じる正負の感情や買い物中の楽しさなどの心理的側面とが、モデル内の同じレベルで混在して

しまっている。これは、他の非計画購買に関する研究と同様に、統一的な枠組を設けることなくモデルを

構築していることに原因があるのかもしれない。さらに、消費者の要因に過度に焦点を合わせてしまって

いるがゆえに、重要であると思われる店舗のマーケティング要因が、非計画購買に至るまでの心理的プロ

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セスにどのような影響を及ぼしているのか、ということを捨象してしまっている点において限界を抱えて

いると指摘されるであろう。

続いて、第 2 の研究課題の非計画購買の因果プロセス・モデルの原因となる要因に関して、前段で指摘

したように、マーケティング要因が消費者の心理的プロセスを介して非計画購買に及ぼす影響を吟味して

いないという既存研究の限界を抱えているために、小売業態間においてどのような差異が生じているのか

について、これまで実証的な研究はほとんどなされていない。ただし、非計画購買の小売業態間差異に関

する数少ない実証研究として、Prasad(1975)と高橋(1991)が挙げられる。前者の Prasad は、百貨店と

ディスカウント・ストアとの間の非計画購買率の差異を明らかにするために、それぞれの小売業態につい

て、独立変数としてデモグラフィック変数(家計所得/夫の職業/買い物従事者の教育レベル/買い物従

事者の年齢/家族規模)を、従属変数として非計画購買率を設定した回帰分析を実行している。しかしな

がら、この研究における 2 つの回帰分析の結果は、いずれの独立変数も非計画購買率に対して有意な影響

を及ぼしていなかった。このことは、消費者のデモグラフィック要因は非計画購買率の差異をうまく説明

するような要因ではないことを示唆していると考えられる。

他方、高橋(1991)は、大型スーパー、小型スーパー、ホームセンター、およびドラックストア間の非

計画購買率の差異を明らかにするために、Prasad(1975)と同様に、それぞれの小売業態について、非計画

購買率を従属変数とする回帰分析を実施している。しかし、デモグラフィック変数のみならず、買い物行

動変数、消費者情報処理変数、および店舗属性変数を回帰式のモデルに独立変数として投入している点で

Prasad(1975)とは異なっている。そして、分析の結果、意思決定の心理的負担(消費者情報処理変数)や

雰囲気のよさ(店舗属性変数)が複数の業態の回帰モデルにおいて、非計画購買率に有意な影響を及ぼし

ていることが明らかにされた。このことは、消費者のデモグラフィック変数が非計画購買率を説明する有

用な変数ではないという Prasad(1975)から示唆されたことに加えて、店舗内購買行動における消費者の

心理的プロセスに関連すると思われる消費者情報処理変数、および各小売業態の差別化要素である店舗属

性変数の重要性を示唆するものであろう。

しかしながら、このように、一定の知見を提供するこれらの研究は、規定要因探索型研究であり、店舗

内における消費者の心理的プロセスを描写するモデルを構築してはいない。それゆえに、単純な分析技法

にとどまっており、小売業態間における非計画購買の差異がなぜ生じるのかということについて、明確な

回答を提示できていないと考えられるかもしれない。したがって、非計画購買率の小売業態間差異を説明

するためには、非計画購買に至る消費者の心理的プロセスを描写するモデルを構築した後に、その原因変

数についての小売業態間差異を明らかにする必要があるだろう。ただし、原因変数に関する小売業態間差

異を検討するに際して、現段階において有用な枠組が存在しないために、現実の小売業態について記述し

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ている実態調査に基づかなければならないと考えられる。

2−2.非計画購買の定義に関するレビュー

前節において議論したように、各既存研究で非計画購買の定義や操作化が異なっているために、それぞ

れの研究で得られた知見を容易に比較できなくなっている。そうすると、小売店舗内における消費者の非

計画購買行動という重要なマーケティング現象について、研究の発展が滞ってしまうかもしれない。そこ

で、非計画購買の定義について、既存研究をレビューしながら明確にする必要があろう。

Stren(1962)は非計画購買に関する研究において最も引用されている研究の 1つである(引用論文数 265

本:筆者調べ)。彼は非計画購買を 4つに分類している。第 1は、純粋衝動購買(pure impulse buying)で

あり、いつもの購買パターンとは異なる新奇性を求める衝動買いのことである。例えば、普段購買してい

る商品があっても、気分をかえるためにそれとは異なる商品を買う場合がこれに該当する。第 2 の想起衝

動購買(remainder impulse buying)とは、入店前に既に形成されていた購買意図を、入店後に再度思い出し

て行う衝動買いのことである。例えば、後に小売店舗に行く際に購買する商品を既に決めていたにもかか

わらず、そのことを忘れていた消費者が、数日後に小売店に行った際にふとしたことからその商品のこと

を思い出して購買するとき、このような非計画購買は想起衝動購買に該当する。第 3 の提案受容型衝動購

買(suggestion impulse buying)とは、入店前に事前知識のなかった商品を、入店後の店舗内刺激を受けて

購買する衝動買いのことである。例えば、ある消費者が POP広告を見たり、デモストレーションで試用し

たりすることで商品について知った上で購買を意思決定する場合、それは提案受容型衝動購買に該当する。

第 4の計画的衝動購買(planned impulse buying)とは、特定の製品レベル(例えば、コーラ)の購買意図は

あるものの、ブランド・レベル(例えば、Coca Colaや Pepsiなどの特定ブランド)の購買意図を持ってい

ない消費者が、店舗内刺激を受けて行う衝動買いのことである。上記の Stern(1962)が分類する 4つのタ

イプの非計画購買は、入店前に特定の商品に対する購買意図を形成していたかどうかによって、2 つに大

別できよう。すなわち、忘れていたとはいえ、既に形成していた特定商品への購買意図を入店直後に思い

出して行われる想起衝動購買は、他の 3つとは異なる。

他方、高橋(1991)は非計画購買を、店舗内刺激によって、入店前にはなかった購買意図が発生して行

われる購買行動であると定義している。Stern(1962)とは異なり、高橋(1991)は、店舗内刺激が非計画

購買に影響すること、および、入店前に消費者が購買意図を形成していないということを明示している。

さらに、高橋(1991)は、Kollat and Willet(1967)が提示した購買意図と購買実績との組み合わせ表に注

目しつつ、ブランド・レベルおよび製品レベルの購買意図が形成されている状況を非計画購買と見なすべ

きではないということ主張している。同様に、清水(1993)は、「来店前に製品レベルで購買意図があった

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場合には、それは計画購買であり、店舗内に入ってから製品レベルまたは、製品ブランドや製品レベルの

購買意図を形成したならばそれは非計画購買である」と述べている。

以上の議論から、本論において非計画購買は、消費者が店舗内刺激を受けて、入店後にブランド・レ

ベルないし製品レベルの購買意図を形成して、実際にそれを購買することであると定義される。そして、

この定義に基づいて非計画購買を操作化するとき、入店前に特定ブランドへの購買意図が形成さていると

考えられる想起衝動購買は除外され、それ以外の 3 つの非計画購買(純粋衝動購買/提案受容型衝動購買

/計画的衝動購買)を対象とする(図表 2)。

図表 2:非計画購買の操作化

出所)Stern(1962)、高橋(1991)、および清水(1993)に基づいて作成。

2−3.店舗内消費者行動に関する理論的枠組─Fiore and Kim(2007)のレビュー

前々節において、消費者の非計画購買行動に関する既存研究は統一的な枠組を欠いていると指摘された。

そこで、店舗内消費者行動の研究について既存研究をレビューしながら 1つの枠組を提示しているFiore and

Kim(2007)に着目する。

彼女らは、店舗内消費者行動研究について、Bettman(1979)以降に消費者行動研究の基礎をなしてきた

情報処理アプローチと Holbrook and Hirschman(1982)以降に注目されてきた消費経験アプローチとの架橋

を試みている。具体的には、刺激−生体−反応モデルに依拠して、2つのアプローチを慎重に整理している。

これは図表 3に要約されるとおりである。第 1に、(店舗内)刺激として、店舗内環境の手がかり(ambient

cues:BGM、照明、雰囲気など)、店舗内デザインの手がかり(design cues:駐車、陳列スペースなど)、お

よび店舗内における社会的手がかり(social cues:混雑度、店員の接客など)の小売店舗のマーケティング

活動を知覚するために消費者が利用する手がかりを挙げている。第 2 に、生体に関連するものとして、経

験的便益(experiential benefits)と功利的便益(utilitarian benefits)の 2つの価値の重要性を指摘している。

そして、それらの結果としての反応に、店舗滞在時間、商品購買、非計画購買、もしくは店舗満足などの

消費者行動ないしその行動の結果を挙げている。

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図表 3:Fiore and Kim(2007)の枠組の概要

出所)Fiore and Kim(2007)、p. 424を一部簡略化。

まず、消費者の反応として非計画購買を挙げている点で、彼女らの枠組は本論の目的に合致している。

また、既存研究(高橋,1991)が非計画購買に有意な影響を及ぼすと示唆しているマーケティング要因と

関連性の高い店舗内における諸手がかりを刺激に挙げている点において評価されるであろう。したがって、

刺激と反応を媒介する生体としての 2つ価値と共に、Fiore and Kim(2007)の枠組を採用することは妥当

であると考えられる。しかしながら、彼女らの研究は、店舗内消費者行動に関する統合的な枠組の構築を

目的として展開されているために、それらの間の因果的関係に関する仮説を提唱しておらず、それゆえに

実証分析を行っていない。また、刺激として挙げている諸手がかりが小売店舗のマーケティング活動に関

連する手がかりであるとすると、彼女らが提案する 3つの手がかりだけでは不十分かもしれない。そこで、

小売店舗のマーケティング活動に関わる要因をより具体化させるとともに、経験的便益や功利的便益を明

確にした後に、非計画購買に至る因果的関係を仮説化する必要がある。

2−4.店舗属性─田村(2001)のレビュー

前節において、Fiore and Kim(2007)が小売店舗のマーケティング活動にかかわる要因を十分に考慮で

きていないことを指摘した。そこで、本論は田村(2001)の小売ミックス(店舗属性)に着目する。小売

ミックスは、小売店舗がマーケティング活動を行うときに操作する様々な属性(店舗属性)のことであり、

小売業態を規定するものでもある。それゆえに、小売業態間における消費者の非計画購買の違いを検討し

ようとする本論の目的にも適っている。

田村(2001)によると、差別化のために小売店舗が操作できる店舗属性は 5 つに分類される。第 1 は、

アクセス性であり、これは時間的便利さ、距離的便利さ、駐車の便利さ、および総合的便利さによって構

成される。第 2 の品揃えは、品揃えの広さと深さ、取扱商品の流行性と特異性によって構成される。第 3

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の店舗属性は価格であり、店舗の価格帯と特売の内容・頻度によって構成される。そして、第 4 の販売促

進および接客サービスは、店舗内外における広告の頻度と内容、店員による接客態度とタイミングによっ

て構成される。最後の雰囲気は、内装、照明、BGM、さらに店舗内の客層と混雑度によって構成される。

田村(2001)が挙げているこれらの各店舗属性は、Fiore and Kim(2007)の 3つの手がかりをカバーして

いるだけでなく、彼女らが捨象していた品揃え、価格、および販売促進などの小売店舗にとって最も重要

な差別化要素も含まれている点で、より広い分類であろう。

しかしながら、田村(2001)の店舗属性の類型化において、販売促進と接客サービスを 1 つの側面とし

て捉えていることには疑問が投げかけられるかもしれない。というのも、確かに、両者は消費者への情報

提供や商品購買を促すという点で共通しているが、他方で、その消費者に対するアプローチの仕方が異な

っていると考えられるからである。すなわち、POP 広告やデモンストレーションなどの販売促進は、小売

店舗へ訪れる多くの消費者へ向けた画一的なアプローチであるのに対して、店員による接客サービスは、

店舗に訪れた特定の消費者へ向けてカスタマイズされたアプローチであると考えられる。そうすると、消

費者は異なる 2 つの小売店舗側からのアプローチに対して異なる印象を持つかもしれない。したがって、

販売促進と接客サービスを異なる店舗属性として 2つに分類する必要性があろう。

以上の議論に基づいて、本論は新たな店舗属性の分類を提案する。すなわち、時間的、距離的、総合的

利便性によって構成される「アクセス性」、品揃えの広さ、深さ、流行性、および特異性によって構成され

る「品揃え」、価格帯と特売の頻度と内容によって構成される「価格水準」、接客態度とタイミングによっ

て構成される「接客サービスの質」、店舗内広告とデモストレーションによって構成される「店舗内販促水

準」、そして、内装、照明、BGM、および店舗内の客層と混雑によって構成される「雰囲気のよさ」の 6

つに店舗属性を分類する。

2−5.経験価値─Mathwick, Malhotra, and Rigdon(2001)のレビュー

本章第 3節において検討された Fiore and Kim(2007)の店舗内消費者行動のフレームワークで、生体内

の重要な要因として挙げられた 2 つの価値(経験的便益と功利的便益)について吟味する際、Mathwick,

Malhotra, and Rigdon(2001)の経験価値概念は有用であると思われる。確かに、経験的便益のみに焦点を

合わせるならば、Schmitt(1999)による 5 つの経験価値(SENSE/FEEL/THINK/ACT/RELATE)や

Pine and Gilmore(1999)の 4Es(Education/Escapist/Entertainment/Esthetic)の価値概念は注目されるか

もしれない。しかし、Schmitt(1999)5 つの経験価値は、それがいかにして導出されたのかという点で曖

昧さが指摘され、それゆえに、功利的便益との関係性が不明確である。また、それだけでなく、それらの

経験価値の測定尺度が未開発であるという問題点を抱えている。また、Pine and Gilmore(1999)の 4Esも、

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価値導出に際して、感情的側面にのみ着目しているために、4Es と功利的便益との関係性を識別できず、

それら 4 つの経験価値の尺度化が進んでいないという限界を抱えている。したがって、先述のフレームワ

ークに基づきつつ刺激、生体、および反応における各概念間の因果的関係の仮説を導出し、さらにその経

験的妥当性を吟味しようとするならば、これらの経験価値概念を採用すべきではないであろう。

他方、Mathwick, et al.(2001)は、小売店舗における消費者の経験に焦点を合わせて、既存研究(Holbrook

and Hirschman, 1982; Holbrook, 1994)から 2つ分類軸を抽出することによって経験価値を類型化している。

すなわち、それらの分類軸とは、受動的価値(Reactive Value)/能動的価値(Active Value)、本質的価値

(Intrinsic Value)/非本質的価値(Extrinsic Value)である。第1に、受動的価値/能動的価値の軸につい

て、受動的価値とは、購買対象となる商品や消費経験に対する消費者の理解や反応のことであり。他方、

能動的価値とは、消費者と小売店舗などのマーケティング主体との協働によって高められる価値である、

と Mathwick, et al.(2001)は定義している。第 2に、本質的価値/非本質的価値について、前者は、買い

物経験それ自体に内在しており、その後のいかなる結果からも独立する価値であると、また、後者は、消

費者の買い物行動から獲得される功利的価値であると、それぞれ定義される。こうして、これらの分類軸

に基づけば、4つの価値が導出される(図表 4)。

図表 4:Mathwick, et al.(2001)の経験価値分類

出所)Mathwick, et al. (2001), p. 42。ただし、筆者らにより翻訳。

第 1に、受動的かつ本質的な性質を有する美的価値(Aesthetics)は、消費者が店舗内の物理的環境に反

応して知覚する価値である。具体的には、店舗内の美しいものに対する消費者の評価(美的訴求:visual

appeal)と小売店舗の用意するさまざまな見せ物を観客として楽しんでいるときの感情(娯楽性:

entertainment)によって構成される。

第 2に、能動的かつ本質的な性質を有する享楽的価値(Playfulness)は、店舗内において消費者自らが積

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極的に行動し、さらにそれに没頭することによって獲得しうる価値である。具体的に言えば、消費者が買

い物に没頭することによって、現実逃避状況を自ら作り出して、日常生活から解放されることを楽しんで

いるような場合、その消費者は享楽的価値を知覚している。注意すべきことに、美的価値と享楽的価値は

いずれも正の感情的反応であるものの、それを消費者が受動的に知覚しているのか、それとも能動的に獲

得しようとしているのか、という点において大きく異なる。

第 3に、受動的かつ非本質的な性質を有するサービス価値(Service Excellence)は、小売店舗の行動が、

消費者自身の目的を達成するための手段にどれだけなりうるのか、ということに関する評価と捉えること

ができる。したがって、消費者は、店員の持っている専門的な知識やそれに基づくパフォーマンスを体験

することによってサービス価値を知覚する。

第 4に、能動的かつ非本質的な性質を有する合理的価値(CROI)とは、消費者が自ら行動することによ

って能動的に獲得する価値である。換言すれば、合理的価値は、消費者が購買過程において投資したコス

トに対して、どれだけの経済的便益を獲得できるのかということを意味している。なお、消費者が投入す

るコストは、金銭的コスト、時間的コスト、行動的コスト、心理的コストの 4 つから構成され、他方、経

済的便益は購買する商品の知覚品質によって代表される。

Mathwick, et al.(2001)の分類する小売店舗における 4つの経験価値は、Fiore and Kim(2007)のフレー

ムワークにおける 2 つの価値を包含している点でより包括的な経験価値概念であるだけでなく、尺度開発

がなされている点で、Schmitt(1999)や Pine and Gilmore(1999)に比して、本論で採用するにより相応し

い概念であると考えられる。

こうして、本章の既存研究レビューから得られた諸知見に基づけば、「店舗内において、消費者がその店

舗のマーケティング要因である 6 つの店舗属性を知覚すると、それらが消費者の感じる 4 つの経験価値に

何らかの影響を及ぼし、結果として非計画購買を行ったり、もしくは行わなかったりする」ということに

ついて、各概念間に因果的関係が存在する可能性が高いと結論づけることができるであろう。

3.仮説

3−1.非計画購買の因果プロセス・モデル

前章において議論したように、Fiore and Kim(2007)は既存研究のレビューをとおして、刺激–生体–反

応モデルに基づく店舗内消費者行動の統合的なフレームワークを提唱した。そこで本論では、そのフレー

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ムワークに基づいて、刺激たる店舗属性が消費者の知覚する経験価値を介して非計画購買へと至る因果ル

ートの可能性を指摘した。さらに、田村(2001)の小売ミックスを改良して6 つの店舗属性を識別し、か

つMathwick, et al.(2001)を援用して4つの経験価値を特定化した。本節では、このようにして明らかにさ

れた各概念について、それらの間の因果的関係を吟味していく。

3−1−1.経験価値と非計画購買の仮説

第2章第4節において議論されたとおり、Mathwick, et al.(2001)は、店舗内において消費者が知覚する経

験価値を2 つの軸(能動的/受動的、内在的/外在的)に基づいて美的価値(Aesthetics)、享楽的価値

(Playfulness)、合理的価値(Customer Return On Investment)、サービス価値(Service Excellence)の4つに

分類している。そして、これらの4つの経験価値は、店舗内の消費者行動に有意な影響を及ぼしうるであろ

う。

第1に、Mathwick, et al. (2001)は、美的価値を「消費者が店舗内の物理的環境によって感覚に刺激を受

け、魅力や楽しさを感じることで知覚する価値」であると主張している。また、それは消費者が受動的に

獲得するものであり、さらには買い物それ自体の本質には関わらない価値であると述べている。このとき、

物理的環境とは小売店舗それぞれの固有の美的環境を意味し、具体的には、店舗内のBGM、商品の陳列方

法、取り扱われている商品、POP広告を指す。そして、美的価値は、特定の買い物タスクの遂行とは無関

係に消費者が知覚する、視覚的アピールと娯楽性によって構成されるものである。このとき、Mathwick, et

al.(2001)が美的価値について消費者の受動的側面に焦点を合わせていることを考慮すると、高い美的価

値を知覚している消費者は、小売店舗における様々な演出を楽しんでいたり、美しい店舗内環境に魅了さ

れていたりするような消費者であると考えられる。すなわち、そのような消費者は店舗内ブラウジング行

動をとおして美的価値を高めるであろう。このとき、店舗内ブラウジング行動とは、消費者が店舗内にお

いて商品の購買意図をもっておらず、店舗内の雰囲気を楽しむ行動を指す(Beatty and Ferrell, 1998)。そう

すると、このように受動的に美的価値を高く知覚している消費者は、美術館を見て回るように店舗内をブ

ラウジングしながら気分を高揚させるのみで、そのことに満足するだけであろう(Babin, Darden and Griffin,

1994; Mick and DeMoss, 1990)。その結果、店舗内で特定商品への購買意図を形成するに至らず、追加的な

購買を起こす直接的な誘因を失ってしまうと考えられる。したがって、以下の仮説を提唱する。

仮説1:美的価値は非計画購買に負の影響を及ぼす。

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第2に、Mathwick, et al.(2001)は、享楽的価値を「消費者が店舗内の物理的環境によって、現実を忘れ

るほど買い物に没頭してしまうことで知覚する価値」であると主張している。また、それは消費者が能動

的に獲得するものであり、さらには買い物それ自体の本質には関わらない価値であると述べている。より

具体的に、享楽的価値は、消費者が買い物の際に知覚する現実逃避的状況や買い物プロセスをとおして感

じる楽しさによって構成されるものである。このとき、高い享楽的価値を知覚している消費者は、買い物

経験をとおして、日常生活から解放されている状況を楽しんでいると想定されよう。さらにMathwick, et al.

(2001)によって享楽的価値が能動的な側面を有すると指摘されるように、消費者は自らの行動によって

知覚する享楽的価値をコントロールすることができると考えられよう。そうすると、高い享楽的価値を知

覚している消費者はその状態を維持するために、計画購買のみならず、追加的な非計画購買を行なうであ

ろう(Cunningham, 1979; Isen, 1984; Beatty and Ferrell, 1998)。つまり、そのような消費者は、享楽的な感情

すなわち日常生活から解放されているという感情を維持させるために、新奇性を求める購買を起こしやす

くなると考えられる(Gardner and Rock, 1988)。したがって、以下の仮説を提唱する。

仮説2:享楽的価値は非計画購買に正の影響を及ぼす。

第3に、Mathwick, et al.(2001)は、サービス価値を「消費者がサービスの良さや質の高さを、接客員の

専門性のある知識やパフォーマンスを体験することで知覚する価値」であると主張している。また、それ

は消費者が受動的に獲得するものであり、さらには買い物の本質に関わる価値であると述べている。より

具体的に説明すると、サービス価値は、サービス提供者である小売店舗ないしその接客員のパフォーマン

スに対して消費者が知覚することで構成されるものである。このとき、高いサービス価値を知覚する消費

者は、その店舗ないし接客員の専門性やタスク遂行能力に対して高い評価を下しており、それゆえに、そ

の店舗において取り扱われている商品の品質判断に必要とされる十分な情報を獲得しうるであろう。そう

すると、そのような消費者は、事前の購買計画においては不十分な商品知識しか有していなかったと反省

し、店舗内において新たに獲得した情報に基づいて、購買意図を形成し直すことが予想される。そして、

そのような消費者は、商品購買の機会損失を回避するために、新たな購買意図に基づいて当初の計画には

なかった商品を購買するであろう。したがって、以下の仮説を提唱する。

仮説3:サービス価値は非計画購買に正の影響を及ぼす。

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第4に、Mathwick, et al.(2001)は、合理的価値を「消費者が購買で投資したコストに対して、経済面で

の利益を見返りとして感じる価値」であると主張している。このとき、消費者の投資するコストは、金銭

的、時間的、行動的、心理的なコストを意味している。また、Mathwick, et al. (2001)は、合理的価値は

消費者が能動的に獲得するものであり、さらには買い物の本質に関わる価値であると述べている。より具

体的言えば、合理的価値は、買い物から得られる経済的便益(店舗において購買可能な商品の知覚品質)

を得るために投資したコストで除することによって求められる。そして、Mathwick, et al.(2001)が消費者

の能動的側面に焦点を合わせていることを考慮すると、合理的価値が高い状況とは、購買する商品の知覚

品質を一定と見なし、それを獲得するためにより少ないコストのみを投入するような状況であると考える

ことができよう。すなわち、高い合理的価値を知覚する消費者は、自らの努力によって投入コストを低く

抑えているような消費者であり、彼らは経済的な便益を自力で獲得できる可能性が低くなることを恐れる

だろう。他方、非計画購買は、店舗内において即座に商品の購買意思決定がなされるために、その商品に

関する十分な情報を獲得することが困難な購買行動である。したがって、消費者が商品の知覚品質の高低

を識別しようとすると、計画購買する商品に比してより高いリスクを伴うであろう。このとき、高い合理

的価値を知覚している消費者は、確実に発生する追加的なコストを投じて、より高いリスクを伴う商品を

購買することを躊躇すると考えられる。つまり、消費者は非計画購買によって経済的な便益を失うことに

消極的になるであろう。このことは、プロスペクト理論(Kahneman and Tversky, 1979; 竹村, 2009)におけ

る消費者のリスク回避的行動に一致する。したがって、以下の仮説を提唱する。

仮説4:合理的価値は非計画購買に負の影響を及ぼす。

3−1−2.美的価値の規定要因

Mathwick, et al.(2001)は、美的価値を、消費者が物理的な刺激を受動的に感じて反応するものであると

主張している。ここでの物理的な刺激とは、店舗独自の物理的環境、すなわち、店舗内の BGM、商品の陳

列方法、取り扱われている商品、POP 広告を指すであろう。したがって、6 つの店舗属性を考慮すると、

美的価値の規定要因として、雰囲気のよさ、品揃え、および店舗内販促水準の 3つを挙げることができる。

そして、具体的には、以下のようなことが考えられよう。

第 1 に、雰囲気のよさについて、店舗内の BGM や商品の陳列方法は消費者の聴覚と視覚を刺激する。

これによって、消費者の気分が高揚、もしくは和むことになれば、消費者は買い物をすることを楽しく感

じるであろう。第 2 に、品揃えについて、それが充実していると、種々の商品に出会う確率が高くなるた

め、消費者はその演出を楽しく感じるであろう。第 3 に、店舗内販促水準について、消費者にとって魅力

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的な POP広告やデモンストレーションが店舗内に充実していると、その工夫された仕掛けに魅力を感じた

り、感心したりしてしまうであろう。こうして、消費者は店舗内ブラウジング行動を促進させ、受動的に

買い物を楽しむと考えられる。したがって、以下の仮説を提唱する。

仮説 5:雰囲気のよさは美的価値に正の影響を及ぼす。

仮説 6:品揃えは美的価値に正の影響を及ぼす。

仮説 7:店舗内販促水準は美的価値に正の影響を及ぼす。

3−1−3.享楽的の規定要因

Mathwick, et al.(2001)は、享楽的価値と美的価値とはそれぞれ、消費者が能動的に知覚するか、それと

も受動的に知覚するのかという点で異なる価値であるものの、両者は深く関係していると述べている。な

ぜなら、店舗において 1 人の観客として買い物を楽しんでいる消費者は、ある一定の閾値を超えて現実逃

避をするほどに買い物に没頭するようになると、その消費者は主体的な参加者として能動的に行動するよ

うになるからである(Deighton and Grayson, 1995; Gummesson, 1998)。より具体的に言えば、美的価値を高

く知覚する消費者は、受動的に店舗内をブラウジングするにつれて、想像力を膨らませながら買い物をよ

り積極的かつ能動的に楽しもうとするようになるであろう。したがって、以下の仮説を提唱する。

仮説 8:美的価値は享楽的価値に正の影響を及ぼす。

他方、Mathwick, et al. (2001)における享楽的価値の規定要因として、6つの店舗属性のうち、価格水

準、雰囲気のよさ、および接客サービスの質の 3 つが挙げられよう。具体的には、以下のようなことが考

えられる。

第 1 に、価格水準について、消費者は価格の高い商品、それゆえに、高い品質や機能を有している商品

を目にすると、その商品を使用する際の具体的な状況を想像でき、それゆえに店舗内において現実逃避的

状況を味わうことができるであろう。第 2 に、雰囲気のよさについて、店舗に多様な消費者が訪れている

と、消費者は店舗内が活気に満ちていることを知覚して、自らもその一員として参加して買い物している

ことを楽しく感じるようになるであろう。第 3 に、消費者は店員からの接客サービスを受ける際、その店

員の態度がよく、彼らとの会話が楽しいものであれば、消費者は積極的にその会話に参加し、純粋に買い

物を楽しむようになるであろう。これらのことから、以下の仮説を提唱する。

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仮説 9:価格水準は享楽的価値に正の影響を及ぼす。

仮説 10:雰囲気のよさは享楽的価値に正の影響を及ぼす。

仮説 11:接客サービスの質は享楽的価値に正の影響を及ぼす。

3−1−4.合理的価値の規定要因

Mathwick, et al.(2001)における合理的価値は、消費者が知覚する経済的便益と、それを得るためにその

消費者が投入したコストから構成されることは先述のとおりである。また、このとき、消費者が知覚する

経済的便益とはその店舗において購買可能な商品の知覚品質を指し、他方、消費者が投入するコストは、

金銭的、時間的、行動的、心理的なコストを示す。これらのことを前提とすれば、合理的価値の規定要因

として、6 つの店舗属性のうち、アクセス性、店舗内販促水準、品揃え、価格水準の 4 つの店舗属性を挙

げることができるであろう。具体的には、以下のようなことが考えられる。

第 1 に、アクセス性について、店舗が利用しやすい時間に営業していると、消費者は時間を効率的に利

用することができ、買い物に時間的コストを多く投じる必要がなくなるだろう。また、店舗がアクセスし

やすい場所にあると、消費者は移動のための時間的コストと金銭的コストを削減できるはずである。第 2 に、

店内販促水準について、ポイント・カードやクーポンは、消費者に商品を購買に充てた金額に応じて見返

りを与えるため、金銭的コストを減じる可能性が高い。第 3 に、品揃えについて、品揃えが豊富であると

ワンストップ・ショッピングが可能になり、消費者の買い物にかける時間が短縮され、消費者が時間を効

率的に活用できるであろう。さらに、品揃えが広いと、消費者は様々な商品を比較購買することもでき、

よりよい知覚品質の商品を購買できるかもしれない。第 4 に、価格水準について、それが高い場合、消費

者の負担する金銭的コストは単純に増加するであろう。以上のことから、以下の仮説を提唱する。

仮説 12:アクセス性は合理的価値に正の影響を及ぼす。

仮説 13:店舗内販促水準は合理的価値に正の影響を及ぼす。

仮説 14:品揃えは合理的価値に正の影響を及ぼす。

仮説 15:価格水準は合理的価値に負の影響を及ぼす。

3−1−5.サービス価値の規定要因

Mathwick, et al. (2001)におけるサービス価値は、6つの店舗属性のうち、接客サービスの質に深く関

連している考えられる。例えば、印象のよい接客サービスや専門知識に基づく的確なサービスが行われる

と、消費者は店員に対してよい印象を抱き、彼(女)を信頼するようになることがあろう。さらに、その

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ような店員に対して消費者が感じる印象は、多数の店員から接客サービスを受けるのでなければ、店舗全

体へ移転すると思われる。そして、その結果、店舗全体のイメージも高まるであろう。したがって、以下

の仮説を提唱する。

仮説 16:接客サービスの質はサービス価値に正の影響を及ぼす。

また、上記の仮説 1〜16 は、図表 5 のように非計画購買の因果プロセス・モデルとして表現することが

できる。

図表 5:非計画購買の因果プロセス・モデル

3−2.店舗属性の小売業態間差異に関する仮説

第 1 の研究課題──どのような店舗要因が、いかなる消費者の心理的プロセスを経て、非計画購買に影響

を及ぼすのか──に対応して、前節において、Fiore and Kim(2007)の店舗内消費者行動に関する統合的フ

レームワークに基づきつつ、6 つの店舗属性(刺激)、4 つの経験価値(生体)、そして非計画購買(反応)

の間の因果的関係についてのモデルを構築した。続く本節では、そのモデルの原因となる各概念、すなわ

ち各店舗属性に焦点を合わせて、小売業態間におけるそれらの差異が吟味される。そして、これらの差異

は、小売業態間における消費者の非計画購買率の差異を説明するものであり、第 2 の研究課題──非計画購

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買の因果プロセス・モデルの原因となる要因に関して、小売業態間においてどのような差異が生じている

のか──に対応するものである。

3−2−1.アクセス性の小売業態間差異

第2章第3節において議論したように、店舗属性の1つであるアクセス性は、時間的利便性、距離的利便性、

および総合的利便性によって構成される。このことに関連して、河村・道谷・若原・南・斎・大澤・木下・

丸山(2000)は、独自の調査に基づいて、コンビニとスーパーのアクセス性の水準が最も高く、百貨店が

それらに続き、さらにドラッグストア、SC、および専門店が最も低い水準であると結論づけている。確か

に、コンビニやスーパーは食品関連の商品を中心に品揃えていること(矢作,1996)を考慮すると、住宅

が多く集合している街中に展開されている場合が多く、さらには、ライフスタイルの変化に対応して営業

時間も長く設定されている(渡辺・原・遠藤・田村, 2008)。それゆえに、消費者は時間的便利さや距離的

便利さを高く知覚していると考えられる。また、百貨店は業態としての歴史が古く、各都市の中心街に展

開されていることが多い(田口,2001)。他方で、百貨店は大規模小売店舗立地法の制限によって容易に営

業時間を拡大することができない。そうすると、消費者は距離的便利さについてある程度高く知覚するか

もしれないが、時間的便利さについて、コンビニやスーパーに比べるとより低く知覚するであろう。さら

に、近年台頭してきているドラッグストアやSC の多くは、モータリゼーションの進展に伴って郊外に展

開されており、同様に、専門店の多くも大規模化しつつ郊外への立地を進めている(矢作, 1996)。そうす

ると、消費者は、これらの業態について、駐車の便利さを高く知覚するかもしれない一方で、距離的便利

さと時間的便利さを他の業態に比してより低く知覚すると考えらえる。かくして、河村ら(2000)らによ

る小売業態間アクセス性水準について調査結果は、ある程度妥当であると思われる。したがって、以下の

仮説を提唱する。

仮説A:消費者が知覚するアクセス性について、小売業態間に差異がある。

系1:消費者は、コンビニとスーパーのアクセス性を、同程度に高水準であると知覚している。

系2:消費者は、百貨店のアクセス性を、コンビニとスーパーのそれに比してより低水準であると知覚

している。

系3:消費者は、ドラッグストア、SC および専門店のアクセス性を、コンビニ、スーパーおよび百貨

店のそれに比してより低水準であると知覚している。

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3−2−2.品揃えの小売業態間差異

第 2章第 3節で既述したように、店舗属性の 1つである品揃えは、その広さ、深さ、および特異性から

構成される。河村ら(2000)は以下のように主張している。第1に、品揃えの広さについて消費者は、SC

を取扱商品カテゴリ数の最も多い小売業態であると知覚している。また、スーパー、ドラッグストア、百

貨店、および専門店について消費者は、SCに次いで取扱商品カテゴリ数多いと知覚している。そして、コ

ンビニにおける取扱商品カテゴリ数は、最も低水準であると消費者に知覚されている。第 2に、品揃えの

深さについて、消費者はドラッグストア、SCおよび専門店を、同水準で高く知覚している。また、スーパ

ーと百貨店を、同水準で前 3業態に次いで高いと知覚している。そして、消費者はコンビニを、品揃えの

深さについて最も低い水準であると知覚している。第 3に、「品揃えの独自性」について、消費者は百貨店、

SCおよび専門店を、同水準で高く知覚している。また、コンビニ、スーパーおよびドラッグストアについ

て消費者は、前 3業態に次いで同水準に高く知覚している。以上のように品揃えを広さ、深さ、独自性(特

異性)の 3つの視点から総合的に判断するならば、品揃え全体について、消費者は SCを最も高く知覚し

ているであろう。また、消費者は百貨店と専門店を、SCに次いで高く知覚しているであろう。そして、ス

ーパーとドラッグストアについて消費者は、百貨店と専門店に比して低く知覚し、コンビニを最も低く知

覚していると考えられる。ただし、スーパー、ドラッグストアおよびコンビニは比較的小さな商圏を対象

とする小売業態であり、主として最寄品を扱っている。また、ドラッグストアは、化粧品、日用品、およ

び医薬品をコア・カテゴリとしているものの、近年では、食料品も取り扱うドラッグストアも増加してき

ており、それゆえに、品揃えについて言えば、スーパー、コンビニ、およびドラッグストアは近似する傾

向にある(本藤,2009)。そうすると、消費者はこれら 3つの小売業態について、品揃えの差異を知覚しな

いかもしれない。したがって、以下の仮説を提唱する。

仮説B:消費者が知覚する品揃えについて、小売業態間に差異がある。

系1:消費者は、SCの品揃えを、最も高水準であると知覚している。

系2:消費者は、百貨店と専門店の品揃えを、SCのそれに比してより低水準であると知覚している。

系3:消費者は、スーパー、コンビニおよびドラッグストアの品揃えを、百貨店と専門店のそれに比し

てより低水準であると知覚している。

3−2−3.価格水準の小売業態間差異

第 2章第 3節で既述したように、店舗属性の 1つである価格水準は、価格帯の幅と特売の頻度・内容に

より構成される。河村ら(2000)は各小売業態の価格水準について次のように主張している。すなわち、

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その主張とは、消費者は、コンビニ、百貨店、SC および専門店の価格水準を同程度に高く知覚しており、

他方、スーパーとドラッグストアの価格水準を前 4 業態と比較してより低く知覚している、というもので

ある。ただし、注意すべきことに、確かに、同じ商品について比較した場合には、河村ら(2000)の主張

は妥当かもしれないが、店舗属性である価格水準が、本論において、1 つに価格帯の幅を意味しているこ

とを考慮すれば。安易に上記の比較を受け入れることはできないであろう。

そこで、価格帯の幅について検討するために、品揃えの広さと深さを考慮する必要がある。先述のとお

り、品揃えの広さと深さの両者について、コンビニは最も低い水準であると消費者に知覚されていると考

えられる。そうすると、百貨店、SCは多くのカテゴリの商品を品揃えているがゆえに、幅広い価格帯の商

品が店舗にあり、また、専門店は深い品揃えを実現しているがゆえに多様な価格の同一カテゴリ内の商品

が店舗にあると予想されるのに対して、コンビニの場合、単純に、店舗の利便性獲得にかかるコストを狭

く浅い品揃えしか実現できていない商品群に上乗せしているにすぎないと考えられるであろう。したがっ

て、1 つひとつの商品が他の業態よりも高くなっているのであって、高価格の商品から低価格の商品まで

を品揃えているわけではないと判断できよう。

他方、特売について、高橋(2008)によると、店舗内販促が活発なのは価格競争が激しい加工食品を扱

う業態に多いという。そうすると、主として食品などの最寄品を多く取り扱うスーパー、コンビニ、ドラ

ッグストアにおいてより活発に行われていると考えられる。したがって、それら 3 つの小売業態は、消費

者に価格水準の低い業態であると知覚されうる。以上の議論から、以下の仮説を提唱する。

仮説C:消費者が知覚する価格水準について、小売業態間に差異がある。

系1:消費者は、百貨店、専門店およびSCの価格水準を、同程度に高水準であると知覚している。

系2:消費者は、スーパー、コンビニおよびドラッグストアの価格水準を、百貨店、専門店、およびSC

のそれよりも低水準であると知覚している。

3−2−4.接客サービスの質の小売業態間差異

第 2章第 3節で既述したように、店舗属性の 1つである接客サービスの質は、店員による接客態度と接

客タイミングによって構成される。河村ら(2000)に基づくと、店員の教育が適切に行われているために、

百貨店および専門店における接客サービスの質が最も高く、SCにおけるそれは前 2業態に次いで高いと消

費者によって知覚されていると考えられる。そして、薬剤師などの専門家が常駐しているようなドラッグ

ストアにおける接客サービスの質は、百貨店、専門店、および SC におけるそれに続いて高いと消費者に

知覚されていると考えられる。また、スーパーおよびコンビニの店員は、主としてレジや陳列を担当する

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のみであり、それ以外の状況において、消費者に対して接客する機会をほとんど持っていない。それゆえ

に、これら 2 つの小売業態における接客サービスの質は低いと消費者は知覚しているであろう。したがっ

て、以下の仮説を提唱する。

仮説D:消費者が知覚する接客サービスの質について、小売業態間に差異がある。

系1:消費者は、百貨店、SCおよび専門店における接客サービスの質を、同程度に高水準であると知

覚している。

系2:消費者は、ドラッグストアにおける接客サービスの質を、百貨店、SCおよび専門店におけるそ

れに比してより低水準であると知覚している。

系3:消費者は、スーパーとコンビニにおける接客サービスの質を、ドラッグストアにおけるそれに比

してより低水準であると知覚している。

3−2−5.店舗内販促水準の小売業態間差異

第2章第3節で既述したように、店舗属性の1つである店舗内販促水準は、店舗内広告、デモストレーショ

ン、およびポイント・カードの利用機会の提供によって構成される。消費者は、入店前に商品の購買意思

決定をしていたかどうかにかかわらず、入店後にさまざまな方法で、店舗内において情報を収集する。こ

のとき、価格の低い商品について、消費者は事前に一定のコストを投じて情報収集を行わないかもしれな

い。そうすると、そのような商品を扱う業態においては多くの販促活動が行われているであろう。先述し

たとおり、スーパー、ドラッグストアおよびコンビニは比較的小さな商圏を対象とする小売業態であり、

主として低価格な最寄品を扱っている。それゆえに、それらの小売業態の店舗内においては、活発に販促

活動がなされていることであろう。他方、事前に消費者が情報を収集している可能性の高い専門品を多く

扱う、専門店、百貨店、およびSCにおいては、それほど多くの販促活動が行われているわけではないであ

ろう。したがって、以下の仮説を提唱する。

仮説E:消費者が知覚する店舗内販促水準について、小売業態間に差異がある。

系1:消費者は、スーパー、コンビニおよびドラッグストアの店舗内販促水準を、同程度に高水準であ

ると知覚している。

系2:消費者は、百貨店、SCおよび専門店の店舗内販促水準を、スーパー、コンビニ、およびドラッ

グストアのそれに比してより低水準であると知覚している。

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3−2−6.雰囲気のよさの小売業態間差異

第 2章第 3節で既述したように、店舗属性の 1つである雰囲気は内装、照明、BGM、店舗内の客層と混

雑によって構成される。河村ら(2000)に基づくと、百貨店と SC の雰囲気が最も高く、専門店とスーパ

ーがそれらに続き、さらにコンビニとドラッグストアが最も低水準であると消費者に知覚されていると考

えられる。実際に、SC は、施設としてのテーマ性を強く訴求している業態であろう。例えば、SC は、飲

食によるエンターテイメント化と小売店舗によるエンターテイメント化とを包含した幅広いエンターテイ

メント性という特徴を有することがある。また、百貨店も生活におけるさまざまな状況に対応するように

多様な商品やサービスを総合的に取扱い、消費者の娯楽を刺激してきた歴史がある(田口,2001)。さらに、

専門店は、消費者の高度な欲求を満足させるために快適な店舗空間を演出している(田口,2001)。それに

対して、スーパー、コンビニ、およびドラッグストアは、チェーン展開されている場合が多く、そうする

と、フランチャイザーはブランドを維持するために各店舗における品質を同水準に維持しようとすると考

えられる。それゆえ、消費者はどこでも同じ雰囲気を味わうことができるために、それらの業態について

雰囲気のよさをあまり高く知覚しないであろう。したがって、以下の仮説を提唱する。

仮説F:消費者が知覚する雰囲気のよさについて、小売業態間に差異がある。

系1:消費者は、百貨店、専門店およびSCの雰囲気のよさを、同程度に高水準であると知覚している。

系2:消費者はスーパー、コンビニおよびドラッグストアの雰囲気のよさを、百貨店、専門店およびSC

の雰囲気のよさに比してより低水準であると知覚している。

4.実証分析

4−1.非計画購買のプロセスに関する実証分析

4−1−1.分析方法の検討・決定

本論は、各店舗属性(刺激)から経験価値(生体)を介して非計画購買に至る消費者の非計画購買因果

プロセス・モデルを検証するにあたり共分散構造分析を用いた。この分析技法は、直接観測できないよう

な複数の概念について、概念と各観測変数との関係を表す多重の測定方程式と、概念間の関係性を表す多

重の構造方程式とを収集されたデータをもとに最尤推定するものである。測定方程式は因子分析に、構造

方程式は回帰分析にそれぞれ対応しており、したがって、多重の因子分析と多重の回帰分析を同時に実行

していると見なせるような分析技法である(Hair, Anderson, Tatham and Black, 1995)。本論のモデルは、直

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接的には観測できないような構成概念を内包しており、かつ、それらの間の多重の因果的関係を想定して

いるため、上記のような特徴を有する共分散構造分析を用いることは妥当であると考えられる。

4−1−2.観測変数の設定

分析に際して、既存研究の測定尺度を採用して、各構成概念に対する複数の観測変数を設定した。すな

わち、「アクセス性」は Prasuraman, Zeithaml, and Berry(1988)と Lumpkin and Hant(1989)から、「品揃え」

は、Kerin, Jain and Howard(1992)、Lumpkin and Hunt(1989)、およびWestbrook and Black(1980)から、

「価格水準」は、Lichtenstein and Karson(1991)、Jain and Srivastava(2000)、および Kerin, et al.(1992)か

ら、「接客サービスの質」は Parasuraman, Berry and Zeithaml(1991)、Price and Arnould(1999)、および Brady

and Cronin(2001)から、「店舗内販促水準」は Chandon, Wansink and Laurent(2000)から、そして「雰囲

気のよさ」はWestbrook and Black(1980)と Hui and Bateson(1991)から、それぞれ測定尺度を採用した。

また、4つの経験価値はすべて、Mathwick et al.(2000)の測定尺度を用いた。さらに、消費者の非計画購

買は、既存研究(Stern, 1962; 高橋,1991; 清水,1993)に依拠して設定した本論の非計画購買の定義に基

づいて、(純粋衝動購買した商品数+提案需要型衝動購買した商品数+計画的衝動購買した商品数)を購買

した全商品数で除した「品目ベースの非計画購買率」と、(純粋衝動購買に充てた金額+提案需要型衝動購

買に充てた金額+計画的衝動購買に充てた金額)を購買した商品の合計金額で除した「金額ベースの非計

画購買率」を用いた。

4−1−3.調査の概要

調査協力者は、便宜的に抽出された都内の大学生 223 名であり、そのうち有効回答者数は 172 人、有効

回答率は 77.13%であった。回答者には、過去にコンビニ・スーパー・百貨店・ドラッグストア・SC・専門

店で買い物をした時のレシートを参照してもらいながら、質問群に回答するように依頼した。本調査は、

予算と時間の制約により、調査対象が大学生に限定されているため、分析結果の外部妥当性を欠くかもし

れない。しかし、調査対象を大学生に限定することによって、調査協力者間での年代やライフスタイルが

統一されるため、それらの等質性が認められるであろう(高橋,2008)。また、時間的もしくは金銭的に一

定の余裕のある大学生は、特定の小売業態しか利用しないという可能性は比較的少ないであろう。それゆ

え、大学生に限定した今回の調査対象には、幾分かの妥当性があると考えられる。

調査に採用された尺度法は 7 点リカート尺度であり、回答者は 7 段階の度合いによって示された「まっ

たくそう思わない」から「かなりそう思う」までの中から 1 つを選択するよう求められた。なお、共分散

構造分析の実行に際しては、IBM SPSS Amos ver.19を使用した。

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4−1−4.モデルの全体的妥当性

本項において、モデルの全体的妥当性評価を行う。パス係数の推定には最尤推定法が用いられ、非計画

購買に品目ベースの非計画購買率・金額ベースの非計画購買率のいずれを代入したモデルについても、最

適化計算は正常に終了した。各モデルの全体的妥当性の評価に関して、図表 6 に要約されるようなアウト

プット・データが出力された。

図表 6:モデル全体の評価指標(上段:品目ベース/下段:金額ベース)

414.94(0.00) 0.90 χ2値(p値)

419.66(0.00) CFI 0.90

2.47 0.09 χ2値/d.f. 2.47 RMSEA 0.09 0.83 514.94 GFI 0.83 AIC 514.94

まず、χ2検定量は、品目ベースのモデルでは 414.94 であり、金額ベースのモデルでは 419.66 であった。

また、χ2/d.f.は品目ベースのモデルでは 2.47であり、金額ベースのモデルでは 2.47という数値が出力され、

両者とも既存研究(Hair, et al, 1995)が推奨する 3.00以下というという基準を満たしていた。続いて、モ

デルの説得力を示す GFIは、品目ベースのモデルでは 0.83であり、金額ベースのモデルでは 0.83という結

果が得られた。これらの結果は、既存研究(Bagozzi and Yi, 1988; Hair, et al, 1995)が推奨する 0.90以上と

いう基準に満たない数値であった。しかし、今回のように多くのパラメータを推定すべき大規模なモデル

の場合において、より有用な指標は、自由度の増減に伴うべき見かけ上の適合度拡大を産出して考慮に入

れた尺度である平均二条誤差平方根(RMSEA)であろう。そして、その値は品目ベースのモデルと金額ベ

ースのモデルは、ともに 0.09であり、既存研究(Browne and Cudeck, 1993)が推奨する 0.09以下という基

準を満たしていた。したがって、これらのデータは品目ベースおよび金額ベースのモデルに正しく適合し

ていると判断できるであろう。

4−1−5.モデルの部分的妥当性

品目ベースのモデルおよび金額ベースのモデルについて、設定したパス係数の標準化係数推定値と t 値

は、図表 7 に要約されるとおりである。店内販促水準から美的価値へのパス係数および雰囲気のよさから

享楽的価値へのパス係数は、いずれのモデルにおいても非有意であった。また、金額ベースのモデルにお

いて、接客サービスの質から享楽的価値へのパス係数も非有意であった。両モデルにおいて、それ以外の

パス係数はすべて、少なくとも 10%水準で有意であった。

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4−1−6.非計画購買のプロセスに関する分析結果の考察

1)経験価値が非計画購買に及ぼす影響についての考察

経験価値から非計画購買への因果的関係について、第 1に、美的価値から非計画購買率へのパス係数は、

図表 7:各モデルにおけるパス係数

仮説(予測された符号) 品目ベースの 標準化推定値(t値)

金額ベースの 標準化推定値(t値)

仮説 1:美的価値 非計画購買率(−) -0.64* (-1.68) -0.68* (-1.79) 仮説 2:享楽的価値 非計画購買率(+) 0.75* (1.95) 0.75** (1.98) 仮説 3:サービス価値 非計画購買率(+) 0.20** (1.96) 0.23** (2.25) 仮説 4:合理的価値 非計画購買率(−) -0.17* (-1.90) -0.16* (-1.81) 仮説 5:雰囲気のよさ 美的価値(+) 0.41*** (6.07) 0.41*** (6.01) 仮説 6:品揃え 美的価値(+) 0.58*** (6.07) 0.58*** (7.08) 仮説 7:店内販促水準 美的価値(+) -0.06 (-0.98) -0.05 (-0.97) 仮説 8:美的価値 享楽的価値(+) 0.84*** (9.49) 0.83*** (9.46) 仮説 9:価格水準 享楽的価値(+) 0.12*** (2.80) 0.12*** (2.79) 仮説 10:雰囲気のよさ 享楽的価値(+) 0.03 (0.39) 0.04 (0.60) 仮説 11:接客サービスの質 享楽的価値(+) 0.10* (1.64) 0.10 (1.60) 仮説 12:価格水準 合理的価値(−) -0.31***(-4.32) -0.31***(-4.32) 仮説 13:品揃え 合理的価値(+) 0.69*** (6.44) 0.69*** (6.44) 仮説 14:アクセス性 合理的価値(+) -0.12* (-1.78) -0.12* (-1.78) 仮説 15:店内販促水準 合理的価値(+) -0.13* (-1.88) -0.13* (-1.88) 仮説 16:接客サービスの質 サービス価値(+) 0.78** (10.55) 0.78*** (10.59)

ただし、***、**、*はそれぞれ 1%、5%、10%水準で有意。

品目ベース・金額ベース共に負で有意であった。これは仮説 1 を経験的に支持している。つまり、購買

によって高い美的価値を知覚する消費者は、小売店舗の種々の演出を楽しんだり、美しい店内環境に魅了

されて気分が高揚するだけで、直接的に追加的な購買行動を起こす可能性は低いと考えられよう。

第 2 に、享楽的価値から非計画購買率へのパス係数は、品目ベースと金額ベースで有意水準は異なるも

のの、正で有意であった。これは仮説 2 を経験的に支持している。つまり、購買によって高い享楽的価値

を知覚する消費者は、小売店舗での買い物をとおして日常生活から解放されている状況を楽しんでいるた

め、そのような感情を維持するためにも新奇性を求める購買を起こしてしまうと考えられる。

第 3 に合理的価値から非計画購買率へのパス係数は品目ベース・金額ベース共に負で有意であった。こ

れは仮説 3 を経験的に支持している。つまり、合理的価値を高く知覚している消費者は、購買によって確

実に発生する追加的なコストを投じて、より高いリスクを伴う商品を購買することを躊躇すると考えられ

る。

第 4 に、接客サービスの価値から非計画購買率へのパス係数は品目ベース・金額ベース共に正で有意で

あった。これは仮説 4 を経験的に支持している。つまり、サービス価値を高く知覚する消費者は、その店

舗ないし接客員の専門性やタスク遂行能力に対して高い評価を下すために、当該店舗において取り扱われ

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ている商品の品質判断に必要とされる十分な情報を獲得し、それゆえに、その消費者は、事前の購買計画

においては不十分な商品知識しか有していなかったと反省をし、店内において獲得した新たな情報に基づ

いて購買意図を形成し直すのであろう。

2)店舗属性が経験価値に及ぼす影響についての考察

店舗属性から経験価値への因果的関係のうち、美的価値の規定要因について、第 1 に、雰囲気のよさか

ら美的価値へのパス係数は、品目ベース・金額ベース共に正の影響で有意であった。これは仮説 5 を経験

的に支持している。つまり、店内の物理的環境は消費者の聴覚と視覚を刺激し、これらが消費者の感情を

動かすことによって、消費者が買い物を楽しく感じるのであろう。第 2 に、品揃えから美的価値へのパス

係数は品目ベース・金額ベース共に正の影響で有意であった。これは仮説 6 を経験的に支持している。つ

まり、店内の品揃えが充実していると、消費者が魅力的で目新しい商品を見つけることができるため、消

費者は買い物を楽しく感じると考えられる。第 3 に、店内販促水準から美的価値へのパス係数は、いずれ

のモデルでも非有意であった。これは仮説 7 が経験的に支持されなかったことを示唆している。つまり、

店舗内にある POP広告やそこで行われるデモンストレーションはそのやり方が重要であり、その量的な水

準は美的価値には影響を及ぼさないのかもしれない。

また、享楽的価値の規定要因について、第 1に、美的価値から享楽的価値へのパス係数は、品目ベース・

金額ベース共に、正で有意であった。これは仮説 8 を経験的に支持している。つまり、店舗内において美

的価値を高く知覚する消費者は、一定の閾値を超えると、買い物をより能動的に楽しむ姿勢に変化すると

考えられる。第 2 に、価格水準から享楽的価値へのパス係数は、品目ベース・金額ベース共に、正の影響

で有意であった。これは仮説 9を経験的に支持している。つまり、消費者は価格の高い商品を目にすると、

その商品を使用した際の状況を想像し、店内において現実逃避を味わうことができるであろう。第 3 に、

雰囲気から享楽的価値へのパス係数は、品目ベース・金額ベース共に非有意であった。これは仮説 10が経

験的に支持されなかったことを示唆している。つまり、消費者は、店舗内に他の多くの消費者がいると、

思考が遮られてしまい、自らの買い物に没頭できなくなってしまうと考えられる。第 4 に、接客サービス

の質から享楽的価値へのパス係数は、品目ベースでは正で有意であったものの、金額ベースでは非有意で

あった。これは仮説 11を部分的に経験的に支持している。つまり、消費者が店内で質の高い接客サービス

を受けることによって日常生活の煩わしさを忘れることができるかもしれないが、そのことに恩義を感じ

る消費者は、追加的に小額の商品を購買することがあるのかもしれない。

さらに、合理的価値の規定要因について、第 1 に、価格水準から合理的価値へのパス係数は、品目ベー

ス・金額ベース共に、負で有意であった。これは仮説 12を経験的に支持している。つまり、店舗内の価格

水準が高い場合、その店舗で商品を購買しようとすれば、消費者が金銭的な負担を感じることが示唆され

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た。第 2 に、品揃えから合理的価値へのパス係数は、品目ベース・金額ベース共に、正で有意であった。

これは仮説 13を経験的に支持している。つまり、品揃えが豊富であると消費者はワンストップ・ショッピ

ングを行うことによって、時間的、金銭的、もしくは行動的コストを低く知覚するであろう。第 3 に、ア

クセス性から合理的価値へのパス係数は、品目ベース・金額ベース共に、負で有意であった。このことは、

仮説 14が経験的に支持されなかったことを意味している。つまり、ほとんどの小売店舗は消費者にとって

近い場所に位置しており、彼らが交通機関や車の燃料の代金を気にする必要性を低下させているのかもし

れない。また、店舗の駐車場が利用しやすくても、消費者は必ずしもそのことに便益を感じないというこ

とかもしれない。第 4 に、店内販促水準から合理的価値へのパス係数は、品目ベース・金額ベース共に、

負で有意であった。このことは、仮説 15が経験的に支持されなかったことを意味している。つまり、消費

者は、店舗内で販促活動が活発に行われていることによって、煩わしく感じ、心理的コストを高く知覚し

ているのかもしれない。

最後に、サービス価値の規定要因について、接客サービスの質からサービス価値へのパス係数は、品目

ベース・金額ベースともに正で有意であった。これは仮説 16を経験的に支持している。つまり、質の高い

接客サービスによって、消費者は、接客員や店舗に対する信頼を高めるのであろう。

4−2.店舗属性の小売業態間差異関する実証分析

4−2−1.分析方法の検討・決定

第 3章 2節において提唱した仮説の経験的妥当性を吟味するために、分散分析、および Tukeyの多重比

較分析を行う。分散分析とは、質的変数である分類変数を独立変数とするような数形モデルを設定し、独

立変数が従属変数に及ぼす影響を推定する分析手法である。他方の、Tukey の多重比較分析は、分散分析

において設定された独立変数である各分類変数間について、従属変数の平均値の差の有意性を一対比較す

る分析技法である。各店舗属性について小売業態間で消費者がどの程度の差異を知覚しているのかを検討

しようとする本論の目的にとって、分散分析および多重比較分析は適しているであろう。なお、分散分析

と多重比較分析で用いる従属変数を作成するために、各店舗属性について事前に因子分析を行い、因子得

点を抽出する。以上のすべての分析に関して、PASW Statistics 18を使用した。

4−2−2.分析結果

コンビニ、スーパー、ドラッグストア、百貨店、SC、および専門店の 6つの業態の差異について、比較

するために、分散分析を行った。それぞれ F値のモデル全体に対する F値検定の結果については図表 8に

示されるとおりである。分析の結果、店舗内販促水準についてのみ F 値は非有意であったものの、その他

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の店舗属性についてはすべて 1%水準で有意であった。

また、その後に行われた多重比較分析の結果は図表 9〜図表 14に要約されるとおりである。

図表 8:分散分析の結果

店舗属性 F値 有意確率

アクセス性 5.08*** 0.00 品揃え 6.92*** 0.00 価格水準 3.66*** 0.00 接客サービスの質 12.40*** 0.00 店内販促水準 0.80 0.54 雰囲気のよさ 6.40*** 0.00

ただし、***は 1%で有意。

図表 9:アクセス性の小売業態間差異

ただし、***、**はそれぞれ 1%、5%水準で有意。

CVS:コンビニ/SM:スーパー/DGS:ドラッグストア/ SC/ショッピング・センター/SS:専門店

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図表 10:品揃えの小売業態間差異

ただし、***、**はそれぞれ 1%、5%水準で有意。

CVS:コンビニ/SM:スーパー/DGS:ドラッグストア/ SC/ショッピング・センター/SS:専門店

図表 11:価格水準の小売業態間差異

ただし、***、**はそれぞれ 1%、5%水準で有意。

CVS:コンビニ/SM:スーパー/DGS:ドラッグストア/ SC/ショッピング・センター/SS:専門店

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図表 12:接客サービスの質の小売業態間差異

ただし、***は 1%水準で有意。

CVS:コンビニ/SM:スーパー/DGS:ドラッグストア/ SC/ショッピング・センター/SS:専門店

図表 12:店舗内販促水準の小売業態間差異

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図表 13:雰囲気のよさ価格水準の小売業態間差異

ただし、***は 1%水準で有意。

CVS:コンビニ/SM:スーパー/DGS:ドラッグストア/ SC/ショッピング・センター/SS:専門店

アクセス性について、コンビニと専門店、スーパーと専門店、ドラッグストアと専門店、百貨店と専門

店の各組み合わせにおいて、平均値に 1%水準で有意な差異が生じている。すなわち、消費者は、アクセス

性について「ドラックストア≒スーパー≒コンビニ≒百貨店≒SC≧専門店」と知覚している。

品揃えについて、コンビニと SC、スーパーと SC、スーパーと百貨店の各組み合わせにおいて、平均値

に 1%水準で有意な差異が生じている。コンビニと百貨店、スーパーと専門店の各組合せにおいて、平均値

に 5%水準で有意な差異が生じている。すなわち、消費者は、品揃えについて「SC≒百貨店≒専門店≧ド

ラックストア≒コンビニ≒スーパー」と知覚している。

価格水準について、スーパーと百貨店の各組み合わせにおいて、平均値に 1%水準で有意な差異が生じて

いる。スーパーと SCの各組合せにおいて、平均値に 5%水準で有意な差異が生じている。すなわち、消費

者は、価格水準について「百貨店≒SC≧コンビニ≒専門店≧ドラックストア≒スーパー」と知覚している。

接客サービスの質について、コンビニと百貨店、コンビニと SC、コンビニと専門店、スーパーと百貨店、

スーパーと SCの各組み合わせにおいて、平均値に 1%水準で有意な差異が生じている。スーパーと専門店

の組合せにおいて、平均値に 5%水準で有意な差異が生じている。すなわち、消費者は、接客サービスの質

について「SC≒百貨店≒専門店≧ドラッグストア≧スーパー≒コンビニ」と知覚している。

店内販促水準について、消費者は、各小売業態間で有意な差異を知覚していなかった。すなわち、消費

者は、「ドラックストア≒百貨店≒SC≒コンビニ≒専門店≒スーパー」と知覚している。

雰囲気のよさについて、コンビニと専門店、コンビニと SCの各組み合わせにおいて、平均値に 1%水準

で有意な差異が生じている。すなわち、消費者は、雰囲気のよさについて「専門店≒SC≒百貨店≒ドラッ

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クストア≒スーパー≧コンビニ」と知覚している。

4-2−3.考察

まず、アクセス性について、分散分析の結果、いずれかの小売業態間に有意な差異があると示された。

そこで、続けて実施した多重比較分析の結果に注目すると、消費者はアクセス性に関して、コンビニ、ス

ーパー、ドラッグストア、百貨店、および、SCを同程度の水準で高く知覚しているということが示唆され

る。さらに、消費者は専門店についてのアクセス性を、他の5つの業態と比較してより低く知覚していると

いう結果が得られた。したがって、第3章第2節第1項において提唱したアクセス性に関する小売業態間差異

の仮説Aのうち、系1は経験的に支持され、系2は経験的に支持されなかった。そして、系3は部分的に支持

されたと考えられる。これらのことから、仮説Aは部分的に支持されるものであろう。

第 2 に、品揃えについて、分散分析の結果、いずれかの小売業態間に有意な差異があると示された。そ

こで続けて実施した多重比較分析の結果に注目すると、消費者は品揃えに関して、百貨店、SC、および専

門店について同水準で高く知覚しているということが示唆される。さらに消費者は、コンビニ、スーパー、

およびドラッグストアにについて品揃えを、百貨店、SC,および専門店と比較してより低いと知覚している。

したがって、第 3章第 2節第 2項において提唱した品揃えに関する小売業態間差異の仮説 Bのうち、系 1

は部分的に支持されたと考えられる。また、系 2 および系 3 は経験的に支持された。以上のことから、仮

説 Bは支持される傾向にあると判断されよう。

第 3 に価格水準については、分散分析の結果、いずれかの小売業態間に有意な差異があると示された。

そこで、続けて実施した多重比較分析の結果に注目すると、消費者は価格水準に関して、百貨店と SC に

ついて同程度の水準で高く知覚しているということが示唆される。また、コンビニと専門店について消費

者は、百貨店と SC を比してより低い価格水準であると知覚している。さらに、ドラッグストアとスーパ

ーについて消費者は、6つの小売業態において、最も低い価格水準であると知覚している。したがって第 3

章第 2節第 3項において提唱した価格水準に関する小売業態間の差異の仮説 Cについて、系 1は、部分的

に支持されたと考えられる。また、系 2も部分的に支持されたと判断される。以上のことから、仮説 Cは

経験的に支持される傾向にあると考えられよう。

第4に接客サービスの質について、分散分析の結果、いずれかの小売業態間に有意な差異があると示され

た。そこで、続けて実施した多重比較分析の結果に注目すると、消費者は接客サービスの質に関して、百

貨店とSC、および専門店について消費者は、同程度の水準で最も高いと知覚しているということが示唆さ

れる。また、ドラッグストアについて消費者は、百貨店とSC、および専門店と比してより低い接客サービ

スの質であると知覚している。さらに、コンビニとスーパーについて消費者は、百貨店とSC、専門店、お

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よびドラッグストアと比して、より低い接客サービスの質であると知覚している。したがって、第3章第2

節第4項において提唱した接客サービスの質の小売業態間差異の仮説Dについて、系1、系2、および系3の

いずれも経験的に支持されたと考えられる。以上のことから、仮説Dは経験的に支持されたと判断される。

第 5 に店舗内販促水準について、分散分析の結果、F 値が非有意であったことから、いずれの小売業態

間においても有意な差異はないと考えられる。したがって、第 3章第 2節第 5項において提唱した店舗内

販促水準の小売業態間差異の仮説 Eは、経験的に支持されなかったと判断される。

第 6に雰囲気のよさについて、分散分析の結果、いずれかの小売業態間に有意な差異があると示された。

そこで、続けて実施した多重比較分析の結果に注目すると、消費者は雰囲気のよさに関して SC と専門店

を、同程度の水準で高く知覚している。また、スーパー、ドラッグストア、および百貨店について消費者

は、SCと専門店に比してより低く知覚している。さらに、コンビニにおける雰囲気のよさについて消費者

は、6 つの業態の中で最も低く知覚している。したがって、第 3 章第 2 節第 6 項において提唱した雰囲気

のよさに関する小売業態間差異の仮説 F は、その系 1、系 2 ともに部分的に支持されているために、経験

的に支持される傾向にあると考えられる。

5.おわりに─インプリケーション、限界、課題

5−1.実務的インプリケーション

第 3 章において提唱した仮説と第 4 章におけるそれらの仮説に関する実証分析の結果を総合すると、今

後、店舗内における消費者の非計画購買を促進することによって、各小売業態が活性化するための様々な

方法を示唆することができよう。

まず、コンビニについて、消費者の非計画購買を促進させるためには、接客サービスの質を向上させる

ことが求められる。分析結果からも明らかなように、現在、コンビニにおける接客サービスは他の小売業

態に比して低い水準にある。それゆえ、消費者はコンビニにおいて低い享楽的価値とサービス価値しか知

覚できず、非計画購買を行わない傾向にある。そこで、例えば、レジでの接客だけではなく、店舗内の各

所での接客機会を増やすなどして接客のタイミングをコントロールすることが望まれる。また、店員によ

る接客態度を改善することも求められるであろう。したがって、これら 2 つの側面についての問題解決を

図るために、店員の教育制度の拡充が必要となろう。そのためには、現在、コンビニにおいて主として採

用されているフランチャイズ・システムの見直しも視野に入れるべきかもしれない。というのも、フラン

チャイジーである各店舗のオーナーが本社の管理できないような方法で店員教育を怠ることもあると考え

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られるからである。ともあれ、コンビニにおける非計画購買の増加とそれに伴う売上げの増加を目指すな

らば、接客サービスの質を改善することによる享楽的価値およびサービス価値の向上を図らなければなら

ず、このことは、コンビニ業界が成熟段階を乗り越えるための突破口となりうるであろう。

次に第 2 に、スーパーについて消費者の非計画購買を促進させるためには、品揃えを豊富にしつつ、幅

広い価格帯の商品を取りそろえることが求められるであろう。現在、スーパーでは、主として最寄品に属

するような商品が品揃えられている。しかしながら、その中でスーパーに特異的な商品を目にすることは

ほとんどないばかりか、店舗面積がより限られているコンビニとさえ大きく変わらない状況である。さら

に、熾烈な価格競争にさらされている。そこで、消費者の非計画購買の促進によって売上げの増加を企図

するのであれば、スーパーは品揃えの拡大を目指すべきであろう。具体的には、消費者の生活に密着して

いる小売業態であることを考慮して、品揃えを広くする方向ではなく、むしろ特定カテゴリにおける商品

の品揃えを深くしつつ、その中で多様な価格の商品を扱うべきかもしれない。もしそのような方法をスー

パーが採用すれば、消費者は、普段見かけないような商品を見つけることで、店舗のエンターテイメント

性を享受し、日常生活からの解放を楽しむだけでなく、価格の高さがその感情を促進し、通常の買い物で

は購買しないような多少高価格な商品を非計画的に購買するであろう。そして、品揃えを深くする方法は、

低価格の商品を排除することを意味しないので、合理的な消費者による計画購買を阻害するものではない。

こうして、スーパーは新たな差別化の方向性を見出すことができるであろう。

さらに、店舗の面積が限られているドラッグストアにおいてもスーパーと同様の方法によって、非計画

購買を促進することができるかもしれない。例えば、低価格の化粧品だけでなく、価格のより高い化粧品

も品揃えることによって、「こんな高価な化粧品を使ってみたい」というような消費者の享楽的価値の高ま

りが期待できる。他方、スーパーとは異なり、専門の店員が常駐していることは、消費者の知覚するサー

ビス価値を高め、非計画購買を促す効果があると考えられる。このように考えると、ドラッグストアのよ

り一層の活性化を考えるとき、現在、強みと見なされる価格水準の低さを追求してサービスの質を下げる

ようなことは避けなければならないであろう。

続けて専門店は、他の 5 つの小売業態と比較すると、品揃えや接客サービスの質、雰囲気のよさについ

て高水準にあるものの、価格水準は他の小売業態に比して低水準であると消費者に知覚されている。この

ことから、専門店に対して消費者は、高い合理的価値を知覚していると考えられる。このとき、本論にお

ける仮説と分析結果が示唆するとおり、消費者が合理的価値を高く知覚していると、その価値を失わない

ようにするために、非計画購買を躊躇してしまう。他方で、消費者は専門店に対して高水準の品揃えや接

客サービスを知覚していること、享楽的価値とサービス価値が非計画購買を促進することを併せて考慮す

ると、消費者は専門店においてバランスよく計画購買/非計画購買を行っていると考えられる。ただし、

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その状況に追加するようにして、消費者の更なる非計画購買を促そうとするのであれば、商品のより具体

的な利用状況を提案することが求められるかもしれない。例えば、カテゴリごとに商品を陳列するのでは

なく、他の商品との組み合わせを容易にできるような陳列することで、美的価値を介して享楽的価値を高

めるような方法が可能であろう。こうして、専門店は消費者の非計画購買をより促進させることができる。

最後に、SC、消費者は、他の小売業態に比して品揃えや接客サービスの質を高く知覚している。これら

のことは、非計画購買の促進要因である享楽的価値を直接的あるいは間接的に高めうることを示唆してい

る。したがって、現状においても SC や百貨店は、消費者の非計画購買を促すような小売業態であると考

えられるが、このことをより強化するためには、次のようなことに取り組む必要があるかもしれない。す

なわち、両小売業態は、消費者に対して新たな価値を提案し、彼らとともにその価値をより高めるような

工夫を施す必要があろう。例えば SCには、消費者が日常生活からの解放された状態を維持できるように、

消費者が訪れたその日 1 日の買い物に積極的に参加できるような行動計画について、分かりやすいオプシ

ョンを示すべきかもしれない。他方、百貨店は、SCとは異なって、より長期的に消費者のライフスタイル

そのものを提案するような工夫を求められるかもしれない。そうするためにも、百貨店は各ブランド・シ

ョップに場のみを貸与するのではなく、例えば、ライフスタイルごとにフロアを計画し、消費者をそこに

積極的に参加させるよう、適切なアドバイスを提供できる従業員を配置することが重要かもしれない。そ

うすれば、消費者の非計画購買を促し、それにともなって売上も増加するであろう。

5−2.学術的インプリケーション

本論は、Fiore and Kim(2007)が提唱する店舗内消費者行動に関するフレームワークに基づきつつ、刺

激となる店舗属性が、生体内の経験価値を介して、非計画購買に及ぼす影響を理論的かつ実証的に明らか

にした。さらに、原因変数である各店舗属性について、小売業態間の差異を実証的に明らかにした。この

ような本論は、いくつかの学術上の貢献をなしている。

第 1に、店舗内消費者行動研究全体について、Fiore and Kim(2007)は店舗内消費者行動の統一的なフ

レームワークを提唱するのみであったが、本論は、非計画購買という具体的な消費者行動に注目して、仮

説を構築し、さらに実証分析を行った。そして、その結果が理論的にも、経験的にも妥当なものであった。

店舗内消費者行動研究の一部とは言え、Fiore and Kim(2007)のフレームワークの経験的テストを行った

点において、このことは店舗内消費者行動研究の統一的理論の構築へ向けた重要な前進であると言えよう。

第 2 に、非計画購買研究について、既存研究は、非計画購買を行う費者の心理的メカニズムの解明に際

して、大きな前進がみられなかったものの、本論は、Mathwick, et al.(2001)による経験価値に着目して、

新たな視点から研究を展開した。このように新たな視点を非計画購買研究に導入した試みは、今後の研究

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の展開にとって重要であろう。

さらに、第 3 に、経験価値に関連して本論は、受動的な美的価値が直接的には店舗内行動成果に対して

負の影響を及ぼすものの、能動的な享楽的価値を介しては、間接的に正の影響を及ぼすことを仮説化して、

経験的に支持された。このことは、小売店舗と消費者とが協働して価値を創出しつつ、お互いの便益にな

っているということを示唆しており、近年、台頭してきたサービス・ドミナント・ロジック(Vargo and Lusch,

2004)における価値共創の主張に一致している。理論的研究ないし、記述的研究にとどまっており、実証

的研究に乏しい同領域にとって、本論の成果は有用な知見を提供しているのかもしれない。

このように、本論は、マーケティング研究におけるいくつかの領域をまたぐような学術的貢献をなして

いると言えるであろう。

5−3.本論の限界

本論には、いくつかの限界が指摘されるであろう。第1に、調査対象について、本論の回答者は、時間

及び予算の制約上、大学生に限定されていた。確かに、このように調査対象を大学生に限られていること

によって、サンプルの等質性は認められるものの、他方で、より一般的な知見を得るためには、主婦、高

齢者、サラリーマンなど、購買頻度がそれぞれ異なる多様な消費者を調査対象とする必要がある。第 2に、

非計画購買の因果プロセス・モデルの分析結果について、モデルの全体の適合度を示す GFI の値は既存研

究では、0.90以上を推奨しているが、今回の分析で得られたその数値は、品目ベースと金額ベース共に 0.83

であり、既存研究に準ずる値でしかなかった。この限界は、第1の限界に関連して、調査対象かつサンプ

ル数を拡大することで改善されるかもしれない。第 3に、調査対象であった小売業態のうち、百貨店と SC

の一部には、ブランド・ショップのような専門店とも見なしうる店舗が含まれていた可能性がある。その

ような場合、百貨店や SC 内におけるブランド・ショップは、専門店と呼べるものかもしれないし、百貨

店ないし SC の一部と見なされるかもしれない。しかしながら、本論では、それを明確に区別することが

できなかった。そのため、今後、小売業態間の差異について調査を実施するに際して、百貨店や SC など

の複合型の小売業態の取扱いについて注意する必要がある。

5−4.今後の課題

いくつかの限界が指摘されるものの、本論の成果に基づいて今後、次のような研究の展開が期待される。

まず、本論は、店舗内消費者行動のうち、一部の消費者行動、すなわち非計画購買にのみ焦点を合わせて

いる。今後、Fiore and Kim(2007)のフレームワークがより一層の展開をするためには、他の消費者行動

や心理的要因も研究対象にしなければならないであろう。例えば、店舗内ブラウジング行動、買い物や店

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舗に対する満足、店舗ロイヤルティを従属変数とするモデルを構築することもできよう。さらには、同様

のモデルを店舗内消費者行動だけではなく、店舗外消費者行動にも適用することも可能かもかもしれない。

例えば、消費者の口コミ行動やマルチストップ・ショッピング行動にも応用できるかもしれない。

他方、調査対象について、近年台頭してきているオンライン店舗もその中に含めることができよう。そ

うすると、店舗内消費者行動の場合と同様に、研究のさらなる広がりを期待できる。

かくして、本論は、いくつかの限界を残しながらも、多くの成果をあげ、さらに今後の研究展開を豊か

にするものであると結論づけられる。

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補録 1:各構成概念とその観測変数

構成概念 観測変数 α係数

アクセス性

・その店舗には、車(自転車)を駐車する場所があり便利だった。 ・その店舗は、あなたにとってアクセスしやすい場所にあった。 ・その店舗は、利用しやすい時間帯に営業していた。 ・その店舗は、行きやすい場所にあった。 ・その店舗の駐車場は利用しやすかった。 ・その店舗は、自宅の近くにあった。 ・その店舗の近くにはさまざまなお店があった。

0.53

品揃え

・その店舗で取り扱っている商品は、全体として品質がよかった。 ・その店舗には、品質のよい商品が置いてあった。 ・その店舗では、簡単に商品を見つけることができた。 ・その店舗は、取扱商品が少なく簡単に商品を見つけることができた。 ・その店舗では、簡単に商品が見つけられるほど品揃えが少なかった。 ・その店舗では、さまざまな商品を見つけることができた。 ・その店舗には、ユニークな商品があった。

0.79

価格水準

・その店舗の低価格の商品は、一時的なものであった。 ・その店舗では、セール終了後、セール前に比べて、より高値でセール商品を販売していた。 ・その店舗で取り扱っている商品の価格水準は、高かった。 ・その店舗で取り扱っている商品の価格は低かった。 ・その店舗の価格水準は、他店と比べて高かった。 ・その店舗で扱う商品は全体的に高かった。 ・その店舗で扱う商品は、全体的に手ごろな価格であった。

0.90

接客サービス の質

・その店舗の店員は、あなたの質問に答える知識を持っていた。 ・その店舗の店員の行動は、あなたが信頼できるものだった。 ・その店舗の店員は、あなたにすばやくサービスを提供していた。 ・その店舗の店員から、あなたに対していつサービスが行われるのか、適切な説明があった。 ・その店舗の店員は、あなたに対して常に礼儀正しく接客していた。 ・その店舗の店員は、あなたの要求をよく聞いてくれた。 ・その店舗の店員は、あなたの事情をくみ取ってサービスを行ってくれた。 ・その店舗の店員は、フレンドリーで頼りがいがあった。 ・その店舗の店員の態度から、快く接客しているのが感じ取れた。 ・その店舗の店員の態度から、彼らがあなたのニーズをくみ取っていることが分かった。 ・その店舗の店員は、自分のすべき仕事を充分に理解して働いているように見えた。 ・その店舗の店員は、あなたの質問にすばやく答えることができた。 ・その店舗の店員は、あなたが店員の知識を信頼していることを把握していた。

0.97

雰囲気

・その店舗には、さまざまな客層の人々が多くいた。 ・その店舗の音楽や光景は、楽しげであった。 ・その店舗では、楽しい光景や音楽・香りを体験することができた。 ・その店舗では、普段会わないような人々と出会った。 ・その店舗は混んでいた。 ・その店舗には、多くの人々がいた。 ・その店舗には、あなたのための十分なスペースがなかった。

0.87

店舗内販促水準

・その店舗の店内広告はあなたに商品を買わせる気にさせた。 ・その店舗のデモストレーションはあなたの五感を刺激した。 ・その店舗では、複数のポイント・カードが使えた。 ・その店舗では、色々なクーポンが使えた。

0.83

美的価値

・その店舗の商品の陳列方法は、魅力的だった。 ・その店舗は美的に訴えかけるものがあった。 ・その店舗の見た目が好きだ。 ・その店舗はとても楽しかった。 ・その店舗の熱狂的な雰囲気が、あなたを引き付けた。 ・その店舗は単に商品を販売しているだけでなく、あなたを楽しませるものだった。

0.87

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享楽的価値

・その店舗での買い物が、あなたを生活の煩わしさから解放させてくれた。 ・その店舗での買い物によって、あなたは別世界へと引き込まれるように感じた。 ・その店舗で買い物をしたとき、あなたは何もかも忘れることができた。 ・その店舗では、単に目的の商品を買うためだけでなく、買い物を楽しむことができた。 ・その店舗では、純粋に買い物を楽しむことができた。

0.89

合理的価値

・その店舗で買い物することで、時間を効率的に利用することができた。 ・その店舗で買い物することで、あなたの暮らしぶりをより楽にしてくれた。 ・その店舗で買い物して、あなたの計画通りにことが運んだ。 ・その店舗の商品は、価値があるものだった。 ・その店舗の価格帯は、満足できるものだった。 ・その店舗で買い物をした商品の品質は、価格に見合わないものだった。

0.76

サービス価値 ・あなたは、その店舗を見て素晴らしいと思った。 ・その店舗は、提供する商品について専門性を感じさせるものであった。 n.a.

変数 変数の定義 α係数

品目ベースの 非計画購買率

(純粋衝動購買した商品数+提案需要型衝動購買した商品数 +計画的衝動購買した商品数)/購買した全商品数

非計画購買 金額ベースの 非計画購買率

(純粋衝動購買に充てた金額+提案需要型衝動購買に充てた金額 +計画的衝動購買に充てた金額)/購買した商品の合計金額

n.a.

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補録 2:調査票

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あとがき

2011年、東京経済大学経営学部に新たな研究会が創設された。それが、「森岡耕作ゼミナール」

である。私は、その第 1期生として森岡ゼミに入会した。2年次には他のマーケティングのゼミ

に所属していたのだが、指導教授である木村立夫先生がご退任されるということで、3年次から

どのゼミに入ろうか迷っていた。その折に木村先生からご紹介頂いたのが、森岡耕作先生である。

20代の先生ということでとても驚いたのを覚えている。「マーケティングについて学びたい」と

いう気持ちと、「これからスタートするゼミ」という魅力、そして、森岡先生のお人柄に惹かれ、

森岡ゼミに入会することを決心した。

この森岡ゼミで 2年間活動していく中で、たくさんのことを学ぶことができた。

まず、「最後まで頑張りぬくこと」である。何か目標に向かっていても、途中で諦めたくなる

ことはたくさんあった。しかしそれを乗り越え、最後まで必死に頑張ることで、見えてくるもの

はたくさんある、ということを森岡ゼミでは何度も経験することができた。

次に、「仲間の大切さ」である。私は、ゼミに入った当初、「何も土台がないところから 1つの

組織を創り上げる」ということに希望や期待を胸に抱いていた。しかし、ゼミ活動が始まってみ

ると、どのようにゼミを運営していけばよいのか、どのようにゼミ生全体をまとめていけばよい

のか、といった不安でいっぱいであった。そんなときに私を支えてくれたのが、1期生と 2期生

である。ゼミ生みんなで様々な意見を言い合ったり、みんなの積極的な協力があったからこそ、

私はここまでゼミを続けることができた。

そして、「人との繋がり」である。私はこの 2年間で、ゼミに入っていなかったら出会ってい

なかったたくさんの方々に出会うことができた。学内の他のゼミ生や、学外のゼミ生、先生方や

社会人の方たち、そして、森岡ゼミのゼミ生。沢山の人たちに出会えたことに喜びを感じている。

森岡ゼミで過ごした 2年間は、私の大学生活を大きく変化させ、様々なことに気づかされたか

けがえのない 2年間となった。

最後に、今まで私たちを支えてくださり、お世話になった方々に感謝の意を示したい。

何もなかったところからゼミを創るということで、わからないことや大変なことがたくさんある

中、一緒に力を合わせ協力して、ゼミを創り上げてくれた 1期生・2期生、元気で明るく、ゼミ

を盛り上げてくれた 3期生、そして、私たちに様々なマーケティングの知識を教えてくださり、

どんなときにでも親身になって一緒に考えてくださった、森岡耕作先生。最後に、何より、これ

まで無償に支援してくれた両親。

全ての方々に、1期生一同深く感謝し、結びとしたい。

森岡耕作ゼミナール第 1期 ゼミ長

増野綾佳

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東京経済大学経営学部 森岡耕作ゼミナール 第 1期生卒業生リスト

石井い し い

沙織さ お り

増野ま す の

綾佳あ や か

以上 2名(50音順)

『葵商学論究』第 1巻 (東京経済大学経営学部森岡耕作ゼミナール卒業論文集)

Aoi Journal of Marketing, Vol. 1 (B. A. Thesis, Kosaku MORIOKA’s Marketing Seminar, TKU)

2013年 3月 発行

監修者 森岡耕作

編集者 森岡耕作ゼミナール第 1期生

発行所 〒185-8502 東京都国分寺市南町 1-7-34

東京経済大学経営学部森岡耕作ゼミナール

URL:http://tku.ac.jp/~z-morioka/

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