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■当施設での小児肝移植について 当施設は 2001 年(平成 13)年 5 月より 2017 年(平成 29 年)12 月までに 287 例の小 児(18 歳未満)の患者様に対し 295 回(再移植症例含む)の小児肝移植を実施しておりま す。 我が国の生体肝移植は 1989 年に第一例が行われて以来、年々その数は蓄積され、現在で 8500 例を超えています。そのうち 18 歳未満の小児患者は約 3000 例で、当施設ではそ の約 10%を担当していることになります。小児肝移植を 200 回以上施行したことのある施 設は全国で京都大学、国立成育医療研究センター、自治医科大学の 3 施設となります。 当施設で行われた小児肝移植は、287 例のうち 207 例が胆道閉鎖症に対する肝移植であ り、続いて尿素サイクル異常症であるオルニチントランスカルバミラーゼ欠損症 20 例、ア ラジール症候群 12 例となります。また新生児急性肝不全(新生児ヘモクロマトーシスを含 む)7 例に対して肝移植を施行しております。新生児に対する肝移植は、高度な手術手技と 厳重な術後管理を必要としますが、当施設では 2008 年に本邦で初めてとなる単区域グラフ トを用いた生体肝移植を実施し(これまで 15 例に施行)、術中・術後は、麻酔科・集中治 療部と連携して、術後管理を行っております。小児生体肝移植において、肝臓を提供して いただくドナーのうち 9 割以上は御両親のどちらかであります。しかし御両親が医学的理 由などでドナーになれない場合は、祖父母、伯父伯母(叔父叔母)、御兄弟(姉妹)の方が ドナーとなって肝臓を提供していただいた症例もおります。また当施設は全国で 2 か所し かない小児専門の脳死肝移植実施施設に 2010 7 月に認定されており、 2017 12 月まで 2 例の脳死肝移植を施行しております。 当施設で施行した小児肝移植の 5 年生存率は 94.6%、 10 年生存率は 94.6%であり、全国 の小児肝移植 5 年生存率 86.9%、 10 年生存率 84.5%と比較しても良好な結果となっており ます。しかし、肝移植後は合併症が起きることがあり、肝移植手術と同様に術後管理もと ても重要です。当施設は、薬剤部や臨床薬理学部門、麻酔科、集中治療部、小児科、小児 外科、消化器外科、消化器内科、放射線科、感染症科、腎臓内科などをはじめ多くの院内 各部署と協力の上で肝移植を行っています。合併症の中には専門的な処置が必要なことも ありますが、当施設では低侵襲治療である内視鏡治療(小腸鏡)や血管内治療の経験も豊 富であり、様々な合併症に対応できる体制を築いております。 肝移植を受けた方は、その肝臓の機能を維持するために永続的な管理が必要となります。 当施設ではこれまでに 300 例近くの小児肝移植を行っており、肝移植を受けた患者様の専 門外来を行っております。転居や遠方在住などにより当施設への外来受診が困難な場合は、 普段は地元の病院と連携して外来管理を行い、数か月に 1 回当施設へ受診して頂くという こともできます。また、長期経過している方の中には、小児期に肝移植を受けられた後、 成人期を迎え、大学への進学や就職された方もおり、最近では患者会を通じて就労支援会 を開催しております。女性においては、医師と相談しながら、妊娠・出産も可能であり、

当施設での小児肝移植について - Jichi当施設での小児肝移植について 当施設は2001 年(平成13)年5 月より2017 年(平成29 年)12 月までに287

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■当施設での小児肝移植について

当施設は 2001 年(平成 13)年 5 月より 2017 年(平成 29 年)12 月までに 287 例の小

児(18歳未満)の患者様に対し 295回(再移植症例含む)の小児肝移植を実施しておりま

す。

我が国の生体肝移植は 1989年に第一例が行われて以来、年々その数は蓄積され、現在で

は 8500 例を超えています。そのうち 18 歳未満の小児患者は約 3000 例で、当施設ではそ

の約 10%を担当していることになります。小児肝移植を 200回以上施行したことのある施

設は全国で京都大学、国立成育医療研究センター、自治医科大学の 3施設となります。

当施設で行われた小児肝移植は、287 例のうち 207 例が胆道閉鎖症に対する肝移植であ

り、続いて尿素サイクル異常症であるオルニチントランスカルバミラーゼ欠損症 20例、ア

ラジール症候群 12例となります。また新生児急性肝不全(新生児ヘモクロマトーシスを含

む)7例に対して肝移植を施行しております。新生児に対する肝移植は、高度な手術手技と

厳重な術後管理を必要としますが、当施設では 2008年に本邦で初めてとなる単区域グラフ

トを用いた生体肝移植を実施し(これまで 15 例に施行)、術中・術後は、麻酔科・集中治

療部と連携して、術後管理を行っております。小児生体肝移植において、肝臓を提供して

いただくドナーのうち 9 割以上は御両親のどちらかであります。しかし御両親が医学的理

由などでドナーになれない場合は、祖父母、伯父伯母(叔父叔母)、御兄弟(姉妹)の方が

ドナーとなって肝臓を提供していただいた症例もおります。また当施設は全国で 2 か所し

かない小児専門の脳死肝移植実施施設に 2010年 7月に認定されており、2017年 12月まで

に 2例の脳死肝移植を施行しております。

当施設で施行した小児肝移植の 5年生存率は 94.6%、10年生存率は 94.6%であり、全国

の小児肝移植 5年生存率 86.9%、10年生存率 84.5%と比較しても良好な結果となっており

ます。しかし、肝移植後は合併症が起きることがあり、肝移植手術と同様に術後管理もと

ても重要です。当施設は、薬剤部や臨床薬理学部門、麻酔科、集中治療部、小児科、小児

外科、消化器外科、消化器内科、放射線科、感染症科、腎臓内科などをはじめ多くの院内

各部署と協力の上で肝移植を行っています。合併症の中には専門的な処置が必要なことも

ありますが、当施設では低侵襲治療である内視鏡治療(小腸鏡)や血管内治療の経験も豊

富であり、様々な合併症に対応できる体制を築いております。

肝移植を受けた方は、その肝臓の機能を維持するために永続的な管理が必要となります。

当施設ではこれまでに 300 例近くの小児肝移植を行っており、肝移植を受けた患者様の専

門外来を行っております。転居や遠方在住などにより当施設への外来受診が困難な場合は、

普段は地元の病院と連携して外来管理を行い、数か月に 1 回当施設へ受診して頂くという

こともできます。また、長期経過している方の中には、小児期に肝移植を受けられた後、

成人期を迎え、大学への進学や就職された方もおり、最近では患者会を通じて就労支援会

を開催しております。女性においては、医師と相談しながら、妊娠・出産も可能であり、

当施設ではこれまでに 5 人のレシピエントの方で 9 回の出産があり、いずれも母児ともに

健康です。

2010年からは移植コーディネーターが専従となり、現在 2名の認定レシピエント移植コ

ーディネーターが窓口となって患者様に対応しております。遠方から来られる患者様にも

安心して移植医療が受けられるようにドナルドマクドナルドハウスとちぎも併設しており

ます。また、肝移植時の長期入院の際は、ご家族には自治医科大学構内住宅を安価でご利

用頂いております。当施設には院内学級(栃木県立岡本特別支援学校 おおるり分教室)

があり、長期入院中の患者様は入院しながら小学校、中学校へ通学していただくことも可

能です。病院全体で肝移植を必要とする小児患者様に対応できる施設ですので、安心して

当施設を受診して頂ければと思います。

■ 原発性胆汁性肝硬変 …2例

■ シトルリン血症 …2例

■ CPS1欠損症 …1例  

■ GVHD …1例

■ 肝切除後肝不全 …1例

■ 肝線維症 …1例

■■ 腸管不全合併肝障害 …1例

■ ニーマンピック病C型 …1例

■ 嚢胞線維症 …1例

■ PFIC 1型 …1例

■ 胆道閉鎖症 …207例

■ OTC欠損症 …20例

■ アラジール症候群 …12例

■ グラフト肝不全 …12例

■ 新生児急性肝不全 …7例

■ ウィルソン病 …5例

■■ 肝芽腫 …5例

■ 門脈還流異常症 …5例

■ 劇症肝炎 …4例

■ メープルシロップ尿症 …3例

■ メチルマロン酸血症 …3例

(2017.12現在)

295例 207例20例

12例12例

7例

5例

5例

5例

4例

3例2例1例

当院で肝移植を受けた子どもの病気(18歳未満)

295例 0歳~1歳

174例60例2歳~5歳

高校生(15歳~17歳)

6例23例

32 例

中学生(12歳~14歳)

小学生(6歳~11歳)

■ 0歳-1歳 …174例

■ 2歳-5歳 …60例

■ 6歳-11歳(小学生) …32例

■ 12歳-14歳(中学生) …23例

■ 15歳-17歳(高校生) …6例

(2017.12現在)

当院におけるレシピエント年齢内訳(18歳未満)

295例 137例

母 親

144例

父 親

祖母5例

祖父1例

兄弟1例 叔母・伯母 3例

叔父・伯父 2例

脳死ドナー 2例

■ 母親 …137例

■ 父親 …144例

■ 祖母 …5例

■ 祖父 …1例

■ 兄弟 …1例

■ 伯母(叔母) …3例

■■ 伯父(叔父) …2例

■ 脳死ドナー …2例

(2017.12現在)

提供した方(ドナー)との関係(18歳未満)

当院で肝移植を受けた子どもの生存率(18歳未満)

1

●レシピエント ●臓器提供(ドナー)候補

移植医より移植全般について説明を行います

医師、移植コーディネーターが移植をするかどうか意思の確認をします

家族内で移植について考えて頂きます

移植適応かどうかの検査 ドナー適応評価のための検査

検査のために数回受診

第3者による意思確認

倫理委員会の審査

移植手術の承認

移植手術

術前に必要な検査(小児)

レシピエント ドナー

・採血

(感染症・HLA・ リンパ球クロスマッチ)

・心臓超音波検査

・心電図

・胸腹部レントゲン

・CT

・予防接種の状況

・う歯の有無

・発達評価

・採血 スクリーニング採血Ⅰ 感染症、肝機能など

スクリーニング採血Ⅱ より詳しい感染症・凝固系 (※注)腫瘍マーカー・検便

・精神科医による面談

全身麻酔が うけられるかどうか

悪性疾患の有無

検便 CT 胃食道内視鏡 乳腺エコー マンモグラフィー

(35歳以上)

(30歳以上の女性)

(30歳以上の女性)

HLA・リンパ球クロスマッチ

心電図 胸腹部レントゲン 肺機能

腎機能について 検尿

総合的検査 消化器外科受診

解剖学的診断 腹部超音波検査

CT M R C P

手術に使う輸血としてあらかじめ 自分の血液を貯めておきます

自己血貯血

注意!※赤字の検査は保険診療上ドナー検査として認められてないため、 ご本人の保険診療負担になります。予めご了承ください。

悪性疾患の有無 婦人科受診

(35歳以上の女性)

泌尿器科受診