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25 東南アジアの主要農産品の生産と輸出 21 世紀の現状 加 納 啓 良 本稿は,東南アジアが世界に供給してきた重要一次産品のうち,コーヒー,茶,甘 蔗糖,米,天然ゴムという 5 つの伝統的農産品をとりあげて,21 世紀の最初の 10 数年 間におけるそれらの生産と貿易の推移を統計的に検証する。ASEAN 経済共同体 AEC)の発足(2015 年末)という新事態を迎えた現在,一次産品の供給という側面 からグローバルな経済的つながりにおける東南アジアの位置と役割を明らかにするこ とが,その目的である。各品目ごとの検討を通じて,ベトナムとインドネシアを中心 とするコーヒー増産と輸出拡大,やはりベトナムを筆頭とする茶の生産と輸出の増加, 甘蔗糖と米の輸出におけるタイの優位の継続,自動車工業のグローバルな発展にとも なうタイ,インドネシアでの天然ゴムの増産と中国など東アジアへの輸出急増,など の事態が明らかになった。だが,21 世紀の東南アジアにおける一次産品の生産と輸出 の発展要因としては,ASEAN 内の分業拡大による域内貿易よりも他地域との交易増 加による方がはるかに大きいことは否めない。 は じ め に 筆者は,2014 年に出版された小著 1) で,東南アジアが世界に供給している農産品,鉱 産物,エネルギー資源などの一次産品のうちで重要なものをとりあげ,その役割,歴史 的背景と現状を論じた。その後に東南アジア各国の間では市場統合と経済的連携を強め ようとする政治的機運の高まりを背景に,2015 年末から ASEAN 経済共同体(AEC)が 発足した。21 世紀のこのような動向のなかで,東南アジアの一次産品生産と貿易にはさ らにどのような動きが生じているのかを,筆者は追い続けている。本稿では,このフォ ローアップ作業のうち,主要一次産品のうち農産品に限って当面の研究成果を提示する。 ただし,紙数の制約も考慮し,別の機会に論じられることが予想されるアブラヤシとパー ム油については本稿では割愛し,コーヒー,茶,甘蔗糖,米,天然ゴムの 5 品目につい て論じることにより,これらの生産と貿易を通じて東南アジアがグローバルな経済のつ ながりのなかで占めている位置について考察することにしたい。

東南アジアの主要農産品の生産と輸出 - Doshisha...東南アジアの主要農産品の生産と輸出 27 たものである。この16年間に東南アジアのコーヒー生産量は170万トン弱から230万ト

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東南アジアの主要農産品の生産と輸出 25

東南アジアの主要農産品の生産と輸出─ 21 世紀の現状 ─

加 納 啓 良

本稿は,東南アジアが世界に供給してきた重要一次産品のうち,コーヒー,茶,甘蔗糖,米,天然ゴムという 5つの伝統的農産品をとりあげて,21 世紀の最初の 10 数年間におけるそれらの生産と貿易の推移を統計的に検証する。ASEAN経済共同体(AEC)の発足(2015 年末)という新事態を迎えた現在,一次産品の供給という側面からグローバルな経済的つながりにおける東南アジアの位置と役割を明らかにすることが,その目的である。各品目ごとの検討を通じて,ベトナムとインドネシアを中心とするコーヒー増産と輸出拡大,やはりベトナムを筆頭とする茶の生産と輸出の増加,甘蔗糖と米の輸出におけるタイの優位の継続,自動車工業のグローバルな発展にともなうタイ,インドネシアでの天然ゴムの増産と中国など東アジアへの輸出急増,などの事態が明らかになった。だが,21 世紀の東南アジアにおける一次産品の生産と輸出の発展要因としては,ASEAN内の分業拡大による域内貿易よりも他地域との交易増加による方がはるかに大きいことは否めない。

は じ め に

筆者は,2014 年に出版された小著 1)で,東南アジアが世界に供給している農産品,鉱

産物,エネルギー資源などの一次産品のうちで重要なものをとりあげ,その役割,歴史

的背景と現状を論じた。その後に東南アジア各国の間では市場統合と経済的連携を強め

ようとする政治的機運の高まりを背景に,2015 年末から ASEAN経済共同体(AEC)が

発足した。21 世紀のこのような動向のなかで,東南アジアの一次産品生産と貿易にはさ

らにどのような動きが生じているのかを,筆者は追い続けている。本稿では,このフォ

ローアップ作業のうち,主要一次産品のうち農産品に限って当面の研究成果を提示する。

ただし,紙数の制約も考慮し,別の機会に論じられることが予想されるアブラヤシとパー

ム油については本稿では割愛し,コーヒー,茶,甘蔗糖,米,天然ゴムの 5品目につい

て論じることにより,これらの生産と貿易を通じて東南アジアがグローバルな経済のつ

ながりのなかで占めている位置について考察することにしたい。

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26 社会科学 第 48 巻 第 2号

1 コーヒー

18 世紀から 19 世紀半ばまでジャワ島を中心に東南アジアは,ヨーロッパで消費が拡大

しつつあったコーヒーの,世界で最も重要な産地であった。しかし,19 世紀後半にサビ

病がもたらすコーヒー樹の枯死によって東南アジアのコーヒー栽培は壊滅的打撃を受け

た。その後は,やはりインドネシア(当時はオランダ領東インド)を中心に病害に強い

ロブスタ種コーヒーが導入されて東南アジアのコーヒー生産は徐々に回復したが,19 世

紀末からブラジルを筆頭にあらたに台頭した中南米諸国のコーヒー栽培の優勢にはとう

てい太刀打ちできない状態が 20 世紀半ば過ぎまで続いた。しかし,過去半世紀余りの間

の世界的なコーヒー消費の増加,とくにインスタントコーヒーの普及によるロブスタ種

コーヒーへの需要増加などに応じて,1970 年代後半から 1990 年代にかけてインドネシア

のコーヒー栽培はめざましい拡大を達成した。1980 年代後半からはベトナムがこの流れ

に合流し,1990 年代末になるとそのコーヒー生産量はインドネシアを追い抜き,21 世紀

に入るとブラジルに次ぐ世界第二のコーヒー生産国へと台頭した。

表 1は,2001 年から 2016 年までの世界の主要地域におけるコーヒー生産量推移を示し

表 1 世界各地域のコーヒー生産量推移 (コーヒー生豆,1000 トン,2001-2016 年)

年 全世界アジア 南北アメリカ

アフリカ全域 うち東南

アジア 全域 うち南米

2001 7,380 2,030 1,689 4,165 2,956 1,1212002 7,930 1,972 1,630 4,794 3,655 1,0992003 7,039 2,020 1,701 4,138 3,000 8112004 7,862 2,117 1,806 4,622 3,499 1,0632005 7,390 2,037 1,721 4,293 3,130 9842006 8,147 2,219 1,896 4,819 3,706 1,0602007 8,138 2,494 2,156 4,585 3,372 1,0002008 8,490 2,304 1,984 5,045 3,892 1,0792009 7,794 2,330 1,973 4,402 3,278 1,0022010 8,478 2,379 2,016 4,961 3,838 1,0852011 8,388 2,522 2,129 4,793 3,625 9882012 8,824 2,630 2,198 5,174 3,917 9762013 8,893 2,706 2,245 5,033 3,974 1,1052014 8,788 2,764 2,305 4,860 3,833 1,1082015 8,888 2,823 2,352 4,888 3,827 1,1172016 9,222 2,855 2,365 5,183 4,111 1,124

FAO Statistical Database(以下,FAOSTATと略,2018 年 2 月 7 日参照)のデータから計算。

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東南アジアの主要農産品の生産と輸出 27

たものである。この 16 年間に東南アジアのコーヒー生産量は 170 万トン弱から 230 万ト

ン以上へと大きく増えただけでなく,世界のコーヒー総生産量に対する比率で見ても,

23%前後から 26%以上に上昇をとげた。表 2は,その国別内訳を示したものである。か

つて東南アジア最大のコーヒー生産国だったインドネシアの年間生産量が 60 ~ 70 万ト

ン程度でほぼ横ばいだったのに対して,ベトナムのそれは 70 ~ 80 万トンから 140 万ト

ン以上に増加を続けた。旧アメリカ植民地でコーヒーの国内消費が多いフィリピンはか

つてインドネシアに次ぐコーヒー生産国だったが,その生産量は減少気味である。マレー

シアとタイのコーヒー生産量も減少傾向を見せている。これに対してかなり急激にコー

ヒー生産が広がったのは,ベトナムに隣接するラオスである。

次に表 3a~ cは,世界各地域のコーヒー輸出の推移を,重量,価額,トンあたり年間

平均価格の3つについて示したものである。2001年から2013年までに世界の輸出に占め

る東南アジアの割合は,重量では 20%前後から 30%近くに,価額では 11%強から 20%

あまりに上昇した。価額における比率が重量より低いのは,高価なアラビカ種よりも安

価なロブスタ種が主流の東南アジア産コーヒーの平均輸出価格が,他地域とくに中南米

産コーヒーより割安だからである。しかしそれにしても,世界的なコーヒー消費の拡大

の結果,コーヒー輸出価格は持続的上昇の様相を見せている。

表 2 東南アジア各国のコーヒー生産量推移 (コーヒー生豆,1000 トン,2001-2016 年)

年 インドネシア

フィリピン

マレーシア

東ティモール ベトナム タイ ラオス その他

2001 569 112 39 14 841 86 26 32002 682 107 39 14 700 53 32 32003 664 106 40 12 794 54 28 32004 647 103 39 15 914 62 23 42005 640 106 40 15 831 60 25 42006 682 104 33 14 985 47 25 52007 676 98 21 14 1,251 56 33 62008 698 97 23 14 1,056 50 39 72009 683 96 16 10 1,058 56 46 72010 684 95 16 13 1,106 49 46 82011 639 89 15 8 1,277 42 52 82012 691 89 10 10 1,260 41 87 82013 676 79 15 11 1,327 38 92 82014 644 75 8 11 1,406 38 114 92015 639 72 6 11 1,453 26 136 92016 639 69 7 11 1,461 33 137 9

FAOSTAT(2018 年 2 月 7 日参照)のデータから計算。

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28 社会科学 第 48 巻 第 2号

表 4a~ cは,東南アジアの国別にコーヒー輸出の推移を示している。やはりベトナム

の輸出増加が抜きん出ている。なお,ベトナムのコーヒー平均輸出価格はかつてインド

ネシアよりもかなり低かったが,その差はしだいに縮小している。インドネシア産コー

ヒーには,スマトラ・マンデリン,トラジャなどの名で知られる良質のアラビカ種の豆

表 3a 世界各地域のコーヒー輸出量推移 (コーヒー生豆,1000 トン,2001-2013 年)

年 全世界アジア 南北アメリカ

アフリカ全域 うち東南

アジア 全域 うち南米

2001 5,440 1,456 1,287 2,930 1,999 6782002 5,492 1,271 1,087 3,188 2,325 6462003 5,229 1,301 1,110 2,994 2,127 5492004 5,615 1,433 1,268 3,069 2,201 7022005 5,577 1,560 1,382 2,876 2,134 6452006 5,922 1,659 1,445 3,123 2,337 6562007 6,158 1,770 1,589 3,197 2,315 6902008 6,339 1,754 1,573 3,292 2,409 6332009 6,304 1,879 1,710 3,167 2,325 6112010 6,582 1,921 1,700 3,307 2,457 6752011 6,728 1,937 1,654 3,535 2,559 5632012 7,120 2,486 2,199 3,241 2,197 6842013 6,966 2,204 1,893 3,408 2,496 737

FAOSTAT,2018 年 2 月 8 日参照。

表 3b 世界各地域のコーヒー輸出額推移 (コーヒー生豆,100 万米ドル,2001-2013 年)

年 全世界アジア 南北アメリカ

アフリカ全域 うち東南

アジア 全域 うち南米

2001 5,435 818 638 3,506 2,178 5952002 5,087 747 577 3,331 2,192 5122003 5,710 984 792 3,545 2,325 5872004 7,162 1,167 974 4,469 3,031 7952005 9,733 1,590 1,289 6,077 4,344 9962006 11,439 2,238 1,868 6,876 4,965 1,1802007 13,597 3,012 2,615 7,863 5,571 1,3592008 16,588 3,637 3,174 9,341 6,718 1,5492009 14,367 2,963 2,589 8,290 5,959 1,2662010 17,930 3,255 2,743 10,864 8,030 1,6722011 27,146 4,822 3,914 17,043 12,350 2,0512012 24,052 5,746 4,877 13,303 8,749 2,1822013 18,951 4,621 3,825 10,288 7,208 1,962

FAOSTAT(2018 年 2 月 8 日参照)のデータから計算。

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東南アジアの主要農産品の生産と輸出 29

が含まれるが,ベトナムでもコーヒーの生産と品質の管理や高級種の導入によって価格

の改善が図られていることが窺われる。

2015年における世界のコーヒー生産量最上位4カ国のデータを,表5にまとめた。コー

ヒー主産地が北半球にあるベトナム,コロンビアと,南半球にあるインドネシアとブラ

表 3c 世界各地域の年平均コーヒー輸出価格推移 (コーヒー生豆,1トンあたり米ドル,2001-2013 年)

年 全世界アジア 南北アメリカ

アフリカ全域 うち東南

アジア 全域 うち南米

2001 999 562 496 1,197 1,089 8772002 926 588 530 1,045 943 7932003 1,092 756 713 1,184 1,093 1,0682004 1,275 815 768 1,456 1,377 1,1322005 1,745 1,019 933 2,113 2,035 1,5452006 1,932 1,349 1,293 2,202 2,124 1,7992007 2,208 1,702 1,645 2,460 2,406 1,9692008 2,617 2,073 2,018 2,838 2,789 2,4482009 2,279 1,577 1,514 2,617 2,563 2,0722010 2,724 1,694 1,613 3,286 3,269 2,4762011 4,035 2,489 2,367 4,821 4,826 3,6412012 3,378 2,311 2,218 4,104 3,982 3,1922013 2,720 2,096 2,021 3,019 2,888 2,661

表 3a,3bから計算。

表 4a 東南アジア各国のコーヒー輸出量推移(コーヒー生豆,1000 トン,2001-2013 年)

年 インドネシア

東ティモール ベトナム タイ ラオス その他

2001 249 13 931 66 18 492002 323 13 719 7 17 112003 321 10 749 7 14 112004 340 8 870 23 16 222005 443 7 892 16 14 122006 412 9 981 26 7 102007 321 1 1,232 11 17 22008 468 21 1,061 2 14 52009 510 10 1,168 0 17 42010 433 26 1,218 0 17 52011 346 17 1,256 1 25 62012 447 19 1,705 2 21 22013 532 18 1,307 0 31 4

FAOSTAT(2018 年 2 月 8 日参照)から計算。

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30 社会科学 第 48 巻 第 2号

ジルではコーヒー豆収穫の季節が異なっている。人口が少ないコロンビアでは総生産量

のほぼ 9割が輸出されるが,大人口を抱える他の 3国では,3割前後が国内消費に回るこ

とが読み取れる。

最後に表 6は,世界の各地域における毎年のコーヒー消費量と,アジア・オセアニア

表 4b 東南アジア各国のコーヒー輸出額推移(コーヒー生豆,100 万米ドル,2001-2013 年)

年 インドネシア

東ティモール ベトナム タイ ラオス その他

2001 183 9 391 26 20 92002 219 10 322 6 10 102003 251 9 505 4 11 122004 283 7 642 12 13 172005 498 8 735 13 13 212006 584 8 1,217 27 9 232007 634 3 1,911 17 25 252008 989 13 2,114 4 29 252009 822 8 1,710 1 28 192010 813 16 1,851 1 33 282011 1,035 12 2,752 3 72 392012 1,244 14 3,528 5 63 222013 1,166 16 2,550 2 73 19

FAOSTAT(2018 年 2 月 8 日参照)のデータから計算。

表 4c 東南アジア各国の年平均コーヒー輸出価格推移(コーヒー生豆,1トンあたり米ドル,2001-2013 年)

年 インドネシア

東ティモール ベトナム タイ ラオス その他

2001 734 692 420 394 1,098 1912002 678 731 449 788 617 9382003 782 900 674 515 786 1,0222004 834 897 738 516 811 7422005 1,124 1,058 825 836 932 1,7332006 1,417 901 1,241 1,055 1,288 2,4412007 1,978 2,754 1,551 1,501 1,480 11,7542008 2,114 600 1,992 2,472 2,053 5,5232009 1,612 834 1,464 3,893 1,723 4,5572010 1,877 623 1,520 4,053 1,956 5,1782011 2,990 720 2,191 4,682 2,893 6,4232012 2,783 744 2,069 2,625 3,081 11,1952013 2,192 896 1,951 4,149 2,306 5,399

表 4a,4bから計算。

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東南アジアの主要農産品の生産と輸出 31

における主な消費国のそれを見たものである。アジア・オセアニアは,コーヒー消費の

増加率が世界で最も高い地域であることが分かる。そのアジア・オセアニアのなかでは,

日本のコーヒー消費量が最も多い。しかし成長率で見ると,コーヒー生産国であるベト

ナム,インドネシアなどの消費拡大が目につく。サウジアラビアの消費増加も顕著であ

る。近隣のアジア・オセアニア域内における消費拡大が,東南アジアにおけるコーヒー

の増産と輸出拡大のひとつの重要な要因であることは間違いないだろう 2)。

表 5 コーヒー生産量の最上位 4ヵ国 (2015 年)

国収穫年 総生産量 * 輸出量 ** 国内消費量 *

[月 -月] [コーヒー生豆,60kg袋× 1000]ブラジル 4 - 3 50,388 37,018 20,500ベトナム 10 - 9 28,737 20,655 2,300コロンビア 10 - 9 14,009 12,716 1,672インドネシア 4 - 3 12,317 8,379 4,500

* 2015/2016 収穫年  ** 2015 暦年下記のデータを参照(2018 年 2 月 8 日)。http://www.ico.org/prices/po-production.pdf

表 6 地域別・国別コーヒー消費量 (2012/13 ~ 2015/16 年)[コーヒー生豆,60kg 袋× 1000]

地域/国 2012/13 2013/14 2014/15 2015/16 年成長率(複利)

全世界 146,977 149,039 151,822 155,713 1.9%アジア・オセアニア 29,459 30,714 32,602 33,665 4.5%アフリカ 10,470 10,594 10,739 10,746 0.9%ヨーロッパ 50,028 50,177 50,908 51,802 1.2%北米 26,778 27,714 27,372 28,876 2.5%中米・メキシコ 5,200 5,158 5,240 5,311 0.7%南米 25,042 24,682 24,962 25,313 0.4%

アジア・オセアニアの主なコーヒー消費国日本 ** 7,353 7,501 7,594 7,790 1.9%韓国 ** 1,748 1,873 1,963 1,980 4.2%ベトナム * 1,825 2,000 2,200 2,300 8.0%タイ * 1,130 1,200 1,250 1,300 4.8%フィリピン * 2,325 2,550 2,800 3,000 8.9%インドネシア * 3,900 4,167 4,333 4,500 4.9%インド * 2,000 2,100 2,200 2,250 4.0%サウジアラビア ** 1,256 1,320 1,566 1,643 9.4%オーストラリア ** 1,564 1,543 1,713 1,770 4.2%

* 収穫年度(国により時期がずれる。表 5も参照。)** コーヒー年度(10 月~ 9月)下記のデータを参照(2018 年 2 月 8 日)。http://www.ico.org/prices/new-consumption-table.pdf

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32 社会科学 第 48 巻 第 2号

2 茶

表 7が示すように,世界最大の茶の産地は原産地中国をはじめとする東アジアであり,

それに次ぐのはインドとスリランカを擁する南アジアである。しかし,輸出量において

は南アジアが東アジアをしのぐ。日本を含め東アジアで加工・消費される茶の多くは小

農が栽培した茶葉を原料とする緑茶であるが,南アジアで生産される茶の主流はいわゆ

る発酵度の高い紅茶で,原料の茶葉の多くは大規模なプランテーションで栽培されてい

る。地理的にも両者の中間に位置する東南アジアは,世界第 3位の茶の産地で輸出量も

東アジアに次いで多い。

表 8に,東南アジアで茶の生産量が最も多いインドネシア,ベトナム,ミャンマー,タ

イの 4カ国について生産量と輸出量の推移を示した。21 世紀の初めまで東南アジアで茶

の生産と輸出量が最も多かったのはインドネシアだが,最近はベトナムの生産量がイン

ドネシアを上回り,輸出量でもインドネシアをしのぐようになっている。インドネシア

の商業的茶葉栽培はかつての植民地支配者であるヨーロッパ人のプランテーション企業

によって主に 19 世紀後半から広がったもので,今でもインドネシアの茶栽培の主流は国

表 7 世界の茶生産量および輸出量推移 (1000 トン)

年生産量 輸出量

世界 東アジア 南アジア 東南アジア 世界 東アジア 南アジア 東南アジア2001 3,358 808 1,429 349 1,450 260 488 1742002 3,418 851 1,442 370 1,580 261 484 1852003 3,485 882 1,427 395 1,530 269 488 1522004 3,621 958 1,391 418 1,635 288 498 2062005 3,874 1,055 1,492 434 1,719 294 498 1962006 3,852 1,141 1,444 441 1,629 294 431 2052007 4,173 1,278 1,515 465 1,787 297 476 2042008 4,267 1,374 1,522 489 1,909 304 564 2072009 4,312 1,464 1,469 507 1,822 311 519 2332010 4,622 1,555 1,520 531 2,023 311 584 2302011 4,840 1,725 1,613 536 1,983 331 677 2162012 5,042 1,893 1,650 536 1,806 322 568 2242013 5,329 2,026 1,733 546 2,051 336 601 1682014 5,512 2,197 1,703 542 NA NA NA NA

2015 5,662 2,345 1,732 534 NA NA NA NA

2016 5,954 2,497 1,765 558 NA NA NA NA

FAOSTAT(2018 年 2 月 7 日参照)のデータから計算。

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東南アジアの主要農産品の生産と輸出 33

営化された大規模農園企業によるものであり,コーヒーの場合と違って小農による茶の

栽培はほとんど見られない。また,加工される茶の多くは紅茶である。これに対して,ベ

トナムとミャンマーの茶栽培は隣接する中国から伝わったものでその歴史は古く,製品

も緑茶が多い。また茶葉の栽培は,東アジアと同じく小農によるのがふつうである。(ベ

トナムでは,フランス人が始めた紅茶製造のためのプランテーションも若干存在する。)

タイの製茶の歴史はよく分からないが,製品は紅茶の系統が多いようである。

東南アジアの茶の輸出先を一目で確認できる統計はないが,2015 年の統計によればイ

ンドネシアの大手輸出先は,ロシア(11,445 トン),マレーシア(8,604 トン),パキスタ

ン(5,464 トン),ドイツ(4,953 トン),アメリカ(3,842 トン),中国(3,583 トン)の順

になっている 3)。また 2013 年の統計ではベトナムの輸出先は,重量比でパキスタン

(20%),台湾(13%),中国(12%)の順である 4)。

3 甘蔗糖

19 世紀後半からコーヒーに代わる東南アジアの最重要輸出農産品として台頭したの

表 8 東南アジア主要国の茶生産量および輸出量・輸出額推移 (1000 トン)

年生産量(1000 トン) 輸出量(1000 トン) 輸出額(1000 米ドル)

インドネシア ミャンマー タイ ベトナム インドネシア ベトナム インドネシア ベトナム2001 166.9 67.2 33.5 75.7 99.8 67.9 100.0 78.42002 165.2 69.2 36.3 94.2 100.2 77.0 103.4 82.02003 169.8 73.4 43.3 104.3 88.2 58.6 95.8 58.42004 167.1 75.6 51.8 119.5 98.6 104.0 116.0 96.72005 167.3 79.0 51.6 132.5 102.3 88.0 121.5 96.92006 146.9 83.0 53.8 151.0 95.3 105.0 134.5 110.42007 150.6 87.0 57.4 164.0 83.7 114.0 126.6 130.82008 154.0 90.0 61.6 173.5 96.2 104.7 159.0 147.32009 156.9 92.6 63.7 185.7 92.3 133.0 171.6 178.02010 150.3 94.5 67.2 198.5 87.1 136.5 178.5 200.02011 146.6 92.5 73.3 206.6 75.5 133.9 166.7 204.02012 143.4 94.6 68.2 211.5 70.1 146.9 156.7 224.82013 145.9 96.3 68.0 217.7 70.8 90.3 157.5 122.52014 154.4 98.6 40.3 228.4 NA NA NA NA

2015 132.6 100.2 49.1 236.0 NA NA NA NA

2016 144.0 102.4 52.6 240.0 NA NA NA NA

FAOSTAT(2018 年 2 月 7,8 日参照)のデータから計算。

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34 社会科学 第 48 巻 第 2号

は,サトウキビを原料とする砂糖すなわち甘蔗糖であった。その最も重要な産地はイン

ドネシア(オランダ領東インド),次いでフィリピンであった。1910 ~ 20 年代の最盛期

にインドネシア(主産地はジャワ)はキューバに次ぐ世界第二の甘蔗糖輸出地域となっ

たが,1930 年代の大不況期にその生産と輸出は大きく後退した。近隣アジア地域ついで

ヨーロッパを主な輸出市場としたジャワ糖と異なり,19 世紀末からアメリカ植民地と

なったフィリピン糖の主な輸出先は関税政策によって保護されたアメリカ市場であり,

1930 年代にもその輸出量は衰えなかった。しかし第二次大戦後,とくに 1970 年代以降に

東南アジアの輸出用甘蔗糖の主産地はタイに交代する。インドネシアは国内砂糖消費の

増加もあって砂糖輸入国に転落し,フィリピンの砂糖輸出も衰退した。以下,21 世紀に

入ってからの状況を見よう 5)。

表 9は,今の東南アジアの主要産糖 4国におけるサトウキビ生産の推移をまとめたも

のである。2001 年から 2016 年までの 16年間に,タイのサトウキビ収穫面積はほぼ 1.5 倍

に,同収穫量は 2倍に増加した。これに対して,他の 3国の生産は停滞または微増にと

どまっている。かつてインドネシアのヘクタールあたりサトウキビ収量は他に比べて

表 9 東南アジア 4カ国のサトウキビ生産推移(2001-2016 年)

a. 収穫量 (1000 トン)

年 インドネシア フィリピン タイ ベトナム2001 25,185 21,709 49,563 14,6572002 25,530 21,417 60,013 17,1202003 24,500 23,978 74,259 16,8552004 26,750 25,579 64,996 15,6492005 29,300 22,918 49,586 14,9492006 29,200 24,345 47,658 16,7202007 25,200 22,235 64,365 17,3972008 25,600 26,601 73,502 16,1462009 26,400 22,933 66,816 15,6082010 26,600 17,929 68,808 16,1622011 24,000 28,377 95,950 17,5402012 28,700 26,396 98,400 19,0152013 28,400 24,585 100,096 20,1292014 25,754 25,030 103,697 19,8232015 25,349 22,926 94,138 18,3372016 27,159 22,371 87,468 16,313

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東南アジアの主要農産品の生産と輸出 35

ずっと高かったが,21 世紀に入ってからは不振が続きタイやベトナムに追い抜かれた。

フィリピンのヘクタールあたりサトウキビ収量にも改善は見られない。

表 10 は,同じ 4国の甘蔗糖生産量推移を見たものである。タイの増産が目立つのに比

b. 収穫面積 (1000 ヘクタール)

年 インドネシア フィリピン タイ ベトナム2001 386 374 877 2912002 351 360 1,011 3202003 336 384 1,139 3132004 345 389 1,122 2862005 382 369 1,067 2662006 396 392 965 2882007 428 383 1,010 2932008 437 398 1,054 2712009 441 404 964 2662010 437 355 1,010 2692011 435 440 1,259 2822012 443 433 1,282 3022013 471 437 1,322 3102014 473 432 1,353 3052015 456 421 1,401 2842016 473 410 1,337 256

c. ヘクタール当たり収量 (トン)

年 インドネシア フィリピン タイ ベトナム2001 65.2 58.1 56.5 50.42002 72.8 59.5 59.4 53.52003 73.0 62.5 65.2 53.82004 77.6 65.8 57.9 54.72005 76.7 62.1 46.5 56.12006 73.7 62.1 49.4 58.02007 58.9 58.1 63.7 59.32008 58.6 66.8 69.7 59.62009 59.8 56.8 69.3 58.82010 60.9 50.5 68.2 60.12011 55.2 64.5 76.2 62.12012 64.8 60.9 76.8 63.02013 60.3 56.2 75.7 64.92014 54.5 57.9 76.6 65.02015 55.6 54.4 67.2 64.52016 57.5 54.5 65.4 63.6

FAOSTAT(2018 年 2 月 8 日参照)のデータから計算。

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36 社会科学 第 48 巻 第 2号

べて,インドネシアの停滞は歴然としている。フィリピンとベトナムでは若干の増産傾

向が認められるが,タイのように華々しいものではない。アメリカ農務省の統計によれ

ば 2016/17 マーケティング年度(2016 年 6 月からの 1年間)におけるタイの砂糖(分蜜

原料糖換算)生産量は 1,003 万トンであり,ブラジル(3,915 万トン),インド(2,220 万

トン),EU(1,650 万トン)に続き世界第 4位であった 6)。

さらに表 11 には,砂糖の貿易量が多い東南アジア 4国の純輸出量(輸出量マイナス輸

入量)の推移を示した。生産量では東南アジアで第 4位のベトナムは,国内の砂糖消費

に回る分が多いために輸出量は少なく,この表の 4国には入ってこない。一方,国内に

サトウキビ産地がほとんどないマレーシアでは砂糖輸入量が多く,この表に姿が現れる。

インドネシアは一貫して砂糖の純輸入国であり,しかもその輸入量は 2010 年以降大幅に

増加している。これに対して,一時砂糖の純輸入国に転落したフィリピンでは輸出余力

が回復し,2003年以降平均して年20~ 30万トン程度の純輸出を確保している。年によっ

て変動があるがタイの砂糖輸出は増加気味で,2007 年以降は年 200 万トンを越す輸出が

続いた。ちなみに 2016/17 マーケティング年度におけるタイの砂糖(分蜜原料糖換算)輸

出量は約 750 万トンでブラジル(2,850 万トン)に次ぎ世界第 2位であり,第 3位のオー

ストラリア(400 万トン)を大きく上回っている 7)。

表 10 東南アジア 4カ国の甘蔗糖生産量推移(分蜜原料糖,1000 トン,2001-2014 年)

年 インドネシア フィリピン タイ ベトナム2001 1,825 1,868 5,439 1,0672002 2,078 1,949 6,494 1,0692003 1,974 2,229 7,670 1,3602004 1,750 2,406 7,281 1,4342005 2,050 2,238 5,425 1,1752006 2,100 2,228 5,076 1,4652007 1,900 2,309 6,720 1,5582008 2,053 2,469 7,817 1,6112009 1,910 2,209 7,187 1,5092010 1,770 1,717 6,929 1,4232011 1,830 2,597 9,663 1,3102012 1,970 2,465 10,235 1,6342013 2,080 2,451 10,024 1,7652014 2,100 2,321 10,024 1,500

FAOSTAT(2018 年 2 月 8 日参照)のデータから計算。

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東南アジアの主要農産品の生産と輸出 37

4 米

東南アジア諸国の住民の大多数は米を主食としており,したがって東南アジアは東ア

ジア,南アジアと並んで世界の主要な米作地域を形成している。表 12 は 21 世紀に入っ

てから 16年間における東南アジア 8カ国の米生産の推移を示している。国土面積が最も

広く人口も最多のインドネシアの米生産量と収穫面積が最も大きく,生産量ではベトナ

ムが第 2位,タイとミャンマーがほぼ同格の 3位,フィリピン,カンボジア,ラオス,マ

レーシアがその後に続く。けれども収穫面積ではタイがインドネシアに次ぎ,以下ベト

ナム,ミャンマー,フィリピン,カンボジア,ラオス,マレーシアの順になる。そのた

めヘクタールあたり収量で見た場合は,インドネシアとベトナムが最高であり,ミャン

マー,フィリピン,ラオスがほぼ同水準で続き,マレーシア,カンボジア,タイが最も

低いグループを成している。16 年間のヘクタールあたり収量の変化に注目すると,イン

ドネシアとベトナムはともに 4.3 ~ 4.4 トンから 5.4 ~ 5.7 トンへとめざましい上昇を遂

げた。次いでラオス,カンボジアでもかなりの上昇が見られたのに対して,フィリピン

とミャンマーの上昇は緩慢だった。またタイに至っては,3トン前後のままで停滞が続い

た。

単位面積あたり収量改善における成績とは裏腹に,米の貿易においてはタイが首位輸

出国の地位を保ち続けている。表 13 は,ASEAN10 カ国に東ティモールを加えた東南ア

表 11 東南アジア 4カ国の砂糖純輸出量(輸出量-輸入量)推移(分蜜原料糖.1000 トン,2001-2013 年)

年 インドネシア マレーシア フィリピン タイ2001 -1,021 -1,272 -41 2,2182002 -619 -1,334 -13 2,0632003 -897 -1,355 145 2,5512004 -466 -1,382 230 2,2352005 -891 -1,351 221 1,5792006 -721 -1,455 216 1,2322007 -1,887 -1,650 236 2,0922008 -379 -1,444 211 2,9772009 -1,292 -1,561 246 2,3482010 -1,191 -1,702 28 2,0742011 -2,305 -1,778 581 4,1222012 -2,704 -1,690 203 4,7372013 -3,253 -1,722 471 3,296

FAOSTAT(2018 年 2 月 8 日参照)のデータから計算。

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38 社会科学 第 48 巻 第 2号

表 12 東南アジア 8カ国の米生産推移 (2001-2016 年)a. 生産量 ( 米,1000 トン)

年 フィリピン

インドネシア

マレーシア タイ ベトナム ラオス カンボ

ジアミャンマー

2001 12,955 50,461 2,095 29,100 32,108 2,335 4,099 21,5692002 13,271 51,490 2,197 28,321 34,447 2,417 3,823 21,4612003 13,500 52,138 2,257 29,820 34,569 2,375 4,711 22,7702004 14,497 54,088 2,264 28,874 36,149 2,529 4,170 24,3612005 14,603 54,151 2,314 30,648 35,833 2,568 5,986 27,2462006 15,327 54,455 2,187 29,991 35,850 2,664 6,264 30,4352007 16,240 57,157 2,375 32,477 35,943 2,710 6,727 30,9542008 16,816 60,251 2,353 32,023 38,730 2,970 7,175 32,0592009 16,266 64,399 2,511 32,398 38,950 3,145 7,586 32,1662010 15,772 66,469 2,465 35,703 40,006 3,071 8,245 32,0652011 16,684 65,757 2,576 38,103 42,398 3,066 8,779 28,5522012 18,033 69,056 2,599 38,100 43,738 3,489 9,291 26,2172013 18,439 71,280 2,604 36,762 44,039 3,415 9,390 26,3722014 18,968 70,846 1,835 32,620 44,974 4,002 9,324 26,4232015 18,150 75,398 1,756 27,702 45,105 4,102 9,335 26,2102016 17,627 77,298 2,252 25,268 43,437 4,149 9,827 25,673

b. 収穫面積 (1000 ヘクタール)

年 フィリピン

インドネシア

マレーシア タイ ベトナム ラオス カンボ

ジアミャンマー

2001 4,065 11,500 674 10,125 7,493 747 1,980 6,4122002 4,046 11,521 679 9,654 7,504 738 1,995 6,3772003 4,006 11,477 672 10,164 7,452 756 2,242 6,5282004 4,127 11,923 681 9,993 7,445 770 2,109 6,8082005 4,070 11,839 676 10,225 7,329 736 2,415 7,3842006 4,160 11,786 645 10,165 7,325 743 2,516 8,0742007 4,273 12,148 673 10,669 7,207 728 2,566 8,0112008 4,460 12,309 657 10,684 7,400 786 2,613 8,0782009 4,532 12,884 675 11,141 7,437 819 2,675 8,0582010 4,354 13,253 678 11,932 7,489 855 2,777 8,0112011 4,537 13,204 688 11,957 7,655 817 2,969 7,5672012 4,690 13,446 685 11,957 7,761 934 3,008 6,9892013 4,746 13,835 672 11,684 7,903 891 2,964 6,9532014 4,740 13,797 615 10,665 7,816 958 2,857 6,8702015 4,656 14,117 615 9,718 7,831 965 2,795 6,7692016 4,556 14,275 708 8,678 7,783 973 2,867 6,724

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東南アジアの主要農産品の生産と輸出 39

ジアの全ての国について 21 世紀の最初の 13 年間における米の純輸出量(輸出量マイナ

ス輸入量)を算出したものである。島嶼部東南アジアを構成するフィリピン,マレーシ

ア,ブルネイ,シンガポール,インドネシア,東ティモールの 6カ国の全てが米の純輸

入国である。この状態は 19 世紀の後半から続くもので 8),プランテーション産業が発展

した島嶼部東南アジアの米不足を大陸部の 3カ国(タイ,ベトナム,ミャンマー)が補

うという地域内国際分業の構造は 21 世紀に入っても続いていることが分かる。ただし,

伝統的に最大の米輸入国であったインドネシアよりも,フィリピンの米輸入の大きさが

最近は目立つようになっている。また大陸部側では,第 2次大戦以前に最大の米輸出国

であったミャンマー(当時は英領ビルマ)の米輸出が 1960 年代以降ながらく停滞し,か

わってタイが世界一の米輸出国に躍り出て,現在もその優位を維持している。一方ベト

ナムでも南北分断や戦争のために 1970 年代まで米輸出は停滞したが 1980 年代末から米

増産と輸出の拡大が始まり,21 世紀に入ってもタイに続き世界第 2の米輸出国の地位を

維持している。1990年代後半には年10万トン以下にまで落ち込んだミャンマーの米輸出

も 21 世紀に入って持ち直したが,その後は 50 万トン前後で足踏みの状態が続いている。

収量の改善ではインドネシアやベトナムにはるかに劣るタイが,米輸出首位を確保し

続けていられるのはなぜであろうか。図 1a~ cにその解答へのヒントがある。これは,

c. ヘクタールあたり収量 ( 米,トン)

年 フィリピン

インドネシア

マレーシア タイ ベトナム ラオス カンボ

ジアミャンマー

2001 3.19 4.39 3.11 2.87 4.29 3.13 2.07 3.362002 3.28 4.47 3.24 2.93 4.59 3.27 1.92 3.372003 3.37 4.54 3.36 2.93 4.64 3.14 2.10 3.492004 3.51 4.54 3.33 2.89 4.86 3.28 1.98 3.582005 3.59 4.57 3.42 3.00 4.89 3.49 2.48 3.692006 3.68 4.62 3.39 2.95 4.89 3.59 2.49 3.772007 3.80 4.71 3.53 3.04 4.99 3.72 2.62 3.862008 3.77 4.89 3.58 3.00 5.23 3.78 2.75 3.972009 3.59 5.00 3.72 2.91 5.24 3.84 2.84 3.992010 3.62 5.02 3.64 2.99 5.34 3.59 2.97 4.002011 3.68 4.98 3.75 3.19 5.54 3.75 2.96 3.772012 3.84 5.14 3.80 3.19 5.64 3.74 3.09 3.752013 3.89 5.15 3.88 3.15 5.57 3.83 3.17 3.792014 4.00 5.13 2.99 3.06 5.75 4.18 3.26 3.852015 3.90 5.34 2.86 2.85 5.76 4.25 3.34 3.872016 3.87 5.41 3.18 2.91 5.58 4.26 3.43 3.82

FAOSTAT(2018 年 2 月 9 日参照)のデータから計算。

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40 社会科学 第 48 巻 第 2号

東南アジアの 6カ国と日本の一人当たり年平均米消費量推定値の推移を,1960 年から

2015 年までの比較的長期にわたってグラフ化したものである。各国についてのグラフの

形状を比較すると,3つないし 4つの異なる変化の経路があるように思われる。

第1は,経済発展や都市化の進行とともに米の一人当たり消費量が長期的趨勢的に減っ

ていくケースである。日本とシンガポールがこれに該当する(図 1a)。第 2は,1980 年

代までは消費量が減少を続けたがその後はあまり変化がないケースである。タイとマ

レーシアがこれに当てはまる(図 1b)。第 3は,1980 年代以降の経済発展とともに米の

消費量が逆に増えていった場合である。ベトナムとフィリピンがこれに当たる。インド

表 13 東南アジア 11 カ国の米純輸出量(輸出量-輸入量)推移(精白米換算合計重量,1000 トン,2001-2013 年)

年 フィリピン マレーシア ブルネイ シンガポール インドネシア 東ティモール2001 -811 -525 -30 -441 -636 -302002 -1,196 -493 -34 -486 -1,786 -322003 -886 -359 -23 -332 -1,613 -292004 -1,049 -514 -35 -302 -388 -322005 -1,821 -578 -33 -198 -147 -242006 -1,716 -816 -44 -233 -455 -272007 -1,805 -779 -34 -249 -1,402 -272008 -2,431 -1,106 -38 -274 -287 -92009 -1,775 -1,086 -34 -246 -246 -42010 -2,378 -930 -45 -265 -685 -12011 -706 -1,030 -29 -276 -2,744 -142012 -1,008 -1,004 -38 -248 -1,801 -702013 -397 -879 -24 -293 -471 -98

年 タイ ベトナム ラオス カンボジア ミャンマー2001 7,673 3,727 -22 -39 9972002 7,328 3,201 -26 -65 9622003 8,376 3,811 -24 -60 4592004 9,970 4,063 -33 -70 1642005 7,506 5,250 -22 -38 2112006 7,413 4,641 -17 -28 2962007 9,162 4,556 -25 -46 3592008 10,173 4,734 -24 -22 6052009 8,574 5,968 -43 -3 8152010 8,900 6,892 -43 -20 5912011 10,661 7,110 -17 155 8642012 6,679 7,983 -13 81 4092013 6,766 3,933 -11 320 464

FAOSTAT(2018 年 2 月 9 日参照)のデータから計算。

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東南アジアの主要農産品の生産と輸出 41

ネシアも 1970 年代から 80 年代まではこの経路をたどったが,1990 年代以降は増加が止

まり 21 世紀に入ってからはゆっくりではあるが減少の傾向が見られる(図 1c)。

タイはチャオプラヤ川の下流デルタ地域を中心に,19 世紀後半から輸出用の商業的米

図 1a シンガポールと日本の一人当たり年平均米消費量推計(1960 ~ 2015 年,kg)

FAOSTATの人口データと下記の国内米消費量データ(ともに 2016 年 5 月 9 日参照)から計算(表 1b,1cも同じ)。PSDA (Production, Supply and Distribution) Online, United States Department of Agriculture Foreign Agricultural Service

0.0

20.0

40.0

60.0

80.0

100.0

120.0

140.0

1960

1961

1962

1963

1964

1965

1966

1967

1968

1969

1970

1971

1972

1973

1974

1975

1976

1977

1978

1979

1980

1981

1982

1983

1984

1985

1986

1987

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

図 1b マレーシアとタイの一人当たり年平均米消費量推計(1960 ~ 2015 年,kg)

0.0

50.0

100.0

150.0

200.0

250.0

1960

1961

1962

1963

1964

1965

1966

1967

1968

1969

1970

1971

1972

1973

1974

1975

1976

1977

1978

1979

1980

1981

1982

1983

1984

1985

1986

1987

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

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42 社会科学 第 48 巻 第 2号

作が発達をとげたが,インドネシアの米作中心地であるジャワなどに比べてその単位面

積当たり収量は当初から低く粗放な耕作が行われた。しかし人口一人当たり,また農家

一戸あたりの耕地面積がジャワなどより格段に大きかったので,国内消費分を差し引い

たうえで輸出に回す米の余剰が十分に確保できたのである。しかし,第二次大戦後に新

規の耕地開拓の可能性がしだいに減り,米の国内消費も増加するにつれ,この好条件も

しだいに薄れたはずである。にもかかわらず今日に至るまでタイが世界一の米輸出国の

地位を確保できたのは,フィリピン,インドネシア,ベトナムに比べてタイでは早くか

ら人口成長率が低下し,しかも一人あたり米消費量が伸びなかったので,単位面積当た

り収量の停滞にもかかわらず輸出に回すのに十分な米の余剰を確保できたからであろ

う。一方,インドネシアとフィリピンにおける米輸入量の推移も,ある程度までは両国

における米生産量,人口成長率,一人当たり米消費量の増減パターンという 3つの要因

が複合した結果として説明可能ではないだろうか。

5 天然ゴム

1910 年代にアメリカでいわゆるフォード・システムによる自動車の大量生産が始まっ

てから,タイヤ原料としてのゴムの需要が急増した。これに応じて英領マラヤ(現マレー

図 1c フィリピン,インドネシア,ベトナムの一人当たり年平均米消費量推計(1960 ~ 2015 年,kg)

0.0

50.0

100.0

150.0

200.0

250.0

300.0

1960

1961

1962

1963

1964

1965

1966

1967

1968

1969

1970

1971

1972

1973

1974

1975

1976

1977

1978

1979

1980

1981

1982

1983

1984

1985

1986

1987

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

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東南アジアの主要農産品の生産と輸出 43

シア),次いでオランダ領東インド(現インドネシア)を先頭に東南アジアでは,ゴム樹

の栽培がプランテーション企業と小農(スモールホルダー)の双方により急拡大した。第

二次大戦後は 1970 年代まで,石油を原料とする合成ゴムとの競争に押されて天然ゴムの

生産は停滞気味となったが,ラジアルタイヤの普及や航空機用および大型運送車両用タ

イヤの増産とともにその需要がふたたび大きく伸びるようになり,東南アジアのゴム樹

栽培はあらためて発展の時代を迎えた。

表14は,2001年から2016年までの世界の天然ゴム生産量の推移を見たものである。東

南アジアの生産量は一貫して全世界の 75%前後を占め続けた。次に表 15 には,同じ期間

の東南アジア域内の主要 7カ国における天然ゴム生産量の推移を示した。かつて世界一

の天然ゴム生産国であったマレーシアでは主要農園作物がゴム樹からアブラヤシへと交

代していった結果,1980 年代後半から天然ゴム生産の減少が始まり,1990 年までにまず

タイ,次いでインドネシアの生産量がマレーシアを抜いた。タイの天然ゴム首位生産国

としての地位は2016年まで一貫して保たれたが,インドネシアの増産もめざましかった。

これら 2国以外ではベトナムの増産が目立っており,2013 年以降はマレーシアを抜いて

第 3位の天然ゴム生産国に浮上した。

表 14 世界の天然ゴム生産量推移(1000 トン,2001-2016 年)

年生産量(1000 トン) (%)

世界全体 東南アジア 世界全体 東南アジア2001 7,484 5,664 100.0 75.72002 7,719 5,791 100.0 75.02003 8,411 6,347 100.0 75.52004 9,261 7,049 100.0 76.12005 9,522 7,258 100.0 76.22006 10,372 7,992 100.0 77.12007 10,603 8,094 100.0 76.32008 10,749 8,185 100.0 76.12009 10,270 7,638 100.0 74.42010 10,839 8,041 100.0 74.22011 11,593 8,723 100.0 75.22012 12,663 9,579 100.0 75.62013 13,005 9,825 100.0 75.52014 13,258 10,016 100.0 75.52015 13,205 9,971 100.0 75.52016 13,152 9,944 100.0 75.6

FAOSTAT(2018 年 2 月 10 日参照)のデータから計算。

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44 社会科学 第 48 巻 第 2号

表 15 東南アジア 7カ国の天然ゴム生産量推移(1000 トン,2001-2016 年)

年 フィリピン

インドネシア

マレーシア タイ ベトナム カンボ

ジアミャンマー

2001 264 1,607 882 2,523 313 39 362002 268 1,630 890 2,633 298 33 392003 274 1,792 986 2,860 364 32 392004 311 2,066 1,169 3,007 419 26 522005 316 2,271 1,126 2,980 482 20 632006 352 2,637 1,284 3,071 555 21 722007 404 2,755 1,200 3,024 606 18 872008 411 2,751 1,072 3,167 660 32 922009 391 2,440 857 3,090 711 37 1102010 395 2,735 939 3,052 752 42 1262011 426 2,990 996 3,349 790 25 1472012 443 3,012 923 4,139 877 22 1622013 445 3,108 826 4,305 947 20 1742014 453 3,153 669 4,566 961 18 1952015 398 3,145 722 4,466 1,013 17 2092016 363 3,158 674 4,477 1,035 16 222

FAOSTAT(2018 年 2 月 10 日参照)のデータから計算。

表 16 合成ゴムと天然ゴムの生産量推移(2000-2015 年,世界全体)

年(1000 トン) (%)

合成ゴム 天然ゴム 合計 合成ゴム 天然ゴム2000 10,870 6,811 17,681 61.5 38.52001 10,483 6,913 17,396 60.3 39.72002 10,906 7,317 18,223 59.8 40.22003 11,414 7,986 19,400 58.8 41.22004 11,979 8,726 20,705 57.9 42.12005 12,025 8,921 20,946 57.4 42.62006 12,700 9,850 22,550 56.3 43.72007 12,829 10,057 22,886 56.1 43.92008 12,285 10,098 22,383 54.9 45.12009 11,488 9,723 21,210 54.2 45.82010 13,277 10,403 23,680 56.1 43.92011 14,091 11,239 25,330 55.6 44.42012 14,042 11,658 25,700 54.6 45.42013 14,199 12,281 26,480 53.6 46.42014 14,179 12,115 26,294 53.9 46.12015 14,460 12,314 26,774 54.0 46.0

IRSG (International Rubber Study Group) が編纂したデータから計算。

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東南アジアの主要農産品の生産と輸出 45

一方,表 16 は 2000 年から 2015 年までの合成ゴムと天然ゴムの生産量の推移を比較し

たものである。(統計の出所と作成基準が異なるため,天然ゴム生産量の値は表 14 より

も少なめになっている。)合成ゴムの生産量は依然天然ゴムを上回っているが,ゴム全体

の生産量に占める天然ゴムの比率は明らかに増加した。図 2は,日本のタイヤ産業にお

ける原材料重量構成比を示したものだが,天然ゴムの比率は合成ゴムを上回っている。世

界的に自動車とタイヤの増産が続くかぎり,天然ゴムの需要と生産も伸び続けると考え

てよいだろう。

そこで表 17 は,2001 年から 2013 年の期間について世界の天然ゴム輸出の推移を見た

図 2 タイヤ原材料重量構成比

日本自動車タイヤ協会『日本のタイヤ産業 2016』p.23。

表 17 世界の天然ゴム輸出 (乾燥ゴムシート,2001-2013 年)

年重量(1000 トン,カッコ内%) 価額(100 万米ドル,カッコ内%)世界 東南アジア 世界 東南アジア

2001 4,904(100.0) 4,433( 90.4 ) 2,819(100.0) 2,463( 87.4 )2002 5,317(100.0) 4,790( 90.1 ) 3,747(100.0) 3,343( 89.2 )2003 5,830(100.0) 5,261( 90.2 ) 5,584(100.0) 5,020( 89.9 )2004 6,545(100.0) 5,981( 91.4 ) 7,480(100.0) 6,801( 90.9 )2005 6,126(100.0) 5,547( 90.6 ) 8,001(100.0) 7,248( 90.6 )2006 6,342(100.0) 5,752( 90.7 ) 12,141(100.0) 11,102( 91.4 )2007 6,426(100.0) 5,733( 89.2 ) 12,049(100.0) 10,745( 89.2 )2008 6,077(100.0) 5,411( 89.0 ) 15,758(100.0) 14,202( 90.1 )2009 5,378(100.0) 4,653( 86.5 ) 9,202(100.0) 7,932( 86.2 )2010 6,824(100.0) 5,872( 86.0 ) 21,398(100.0) 18,499( 86.5 )2011 7,500(100.0) 6,475( 86.3 ) 34,677(100.0) 30,015( 86.6 )2012 7,055(100.0) 6,121( 86.8 ) 22,741(100.0) 19,634( 86.3 )2013 7,648(100.0) 6,727( 88.0 ) 19,892(100.0) 17,259( 86.8 )

FAOSTAT(2018 年 2 月 10 日参照)のデータから計算。

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46 社会科学 第 48 巻 第 2号

ものである。重量で見ても価額で見ても,東南アジアからの輸出がつねに 9割近くを占

めていることが分かる。さらに表 18 では,フィリピン,インドネシア,マレーシア,タ

イ,ベトナム,カンボジアの 5カ国につき,同じ期間の天然ゴム輸出の推移を個別に示

した。重量で見ても価額で見ても 2006 年以降,インドネシアの輸出がタイを上回ったこ

とが注目される。これはおそらく,ブリヂストンなど多国籍企業によるタイ国内でのタ

イヤ生産と天然ゴム消費が拡大した結果であろう。

表 18 東南アジア 6カ国の天然ゴム輸出推移 (2001-2013 年)a. 重量 (乾燥ゴムシート,1000 トン)

年 フィリピン インドネシア マレーシア タイ ベトナム カンボジア2001 39.1 1,443 740 1,865 308 37.12002 44.6 1,487 809 2,054 351 44.32003 55.2 1,648 868 2,308 345 36.32004 43.3 1,863 1,361 2,168 513 32.42005 41.1 2,020 1,092 2,138 249 7.52006 33.8 2,278 1,073 2,109 246 11.32007 30.4 2,399 960 2,078 247 15.02008 36.3 2,287 871 1,996 213 8.32009 24.9 1,982 664 1,732 240 10.32010 36.4 2,339 853 1,835 782 26.62011 42.2 2,546 904 2,121 818 44.42012 38.6 2,437 739 2,050 799 56.62013 66.9 2,696 814 2,399 674 77.8

b. 価額 (100 万米ドル)

年 フィリピン インドネシア マレーシア タイ ベトナム カンボジア2001 13.2 779 427 1,059 166 18.42002 18.2 1,032 581 1,416 268 28.32003 32.8 1,483 845 2,249 378 33.42004 34.5 2,167 1,256 2,710 597 36.92005 36.5 2,578 1,433 2,948 245 8.32006 46.5 4,308 2,112 4,203 414 18.12007 40.4 3,858 2,002 4,373 444 25.92008 52.3 6,042 2,306 5,334 449 17.92009 25.0 3,231 1,183 3,113 364 15.42010 55.4 7,295 2,694 5,984 2,388 81.82011 79.9 11,735 4,137 10,635 3,234 193.22012 61.0 7,845 2,418 6,755 2,386 168.22013 73.2 6,898 2,124 6,453 1,533 178.1

FAOSTAT(2018 年 2 月 10 日参照)のデータから計算。

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東南アジアの主要農産品の生産と輸出 47

最後に表 19 は,やはり同じ期間について世界の天然ゴム輸入の推移を地域別に見たも

のである。第二次大戦以前は自動車産業の中心地アメリカによる天然ゴム輸入が圧倒的

に多かったが,戦後はヨーロッパや日本など他の国々における自動車生産とタイヤ産業

の勃興により,アメリカの優位はしだいに後退した。さらに 21 世紀に入ると東アジア地

域の輸入増が目立ち,2006 年以降はヨーロッパと北米を合計した輸入量を上回るように

なった。ちなみに 2013 年の天然ゴム輸入量を国別に見ると,中国が 224 万トンで断然 1

位,次いでアメリカ 88 万トン,日本 71 万トン,マレーシア 66 万トン(おそらく再輸出

表 19 世界の天然ゴム輸入 (乾燥ゴムシート重量,2001-2013 年)

年(1000 トン)

世界 ヨーロッパ 北米 東アジア その他2001 5,093 1,329 1,006 2,000 7582002 5,235 1,250 1,164 2,061 7602003 5,674 1,402 1,146 2,339 7872004 5,752 1,295 1,179 2,351 9262005 6,108 1,374 1,214 2,543 9762006 6,210 1,378 1,073 2,705 1,0542007 6,359 1,463 1,063 2,702 1,1312008 6,180 1,295 1,080 2,686 1,1192009 5,315 951 727 2,401 1,2362010 6,512 1,394 1,020 2,825 1,2742011 7,180 1,664 1,124 3,093 1,2992012 7,127 1,468 1,044 3,031 1,5832013 7,495 1,441 991 3,334 1,729

年(%)

世界 ヨーロッパ 北米 東アジア その他2001 100.0 26.1 19.8 39.3 14.92002 100.0 23.9 22.2 39.4 14.52003 100.0 24.7 20.2 41.2 13.92004 100.0 22.5 20.5 40.9 16.12005 100.0 22.5 19.9 41.6 16.02006 100.0 22.2 17.3 43.6 17.02007 100.0 23.0 16.7 42.5 17.82008 100.0 21.0 17.5 43.5 18.12009 100.0 17.9 13.7 45.2 23.32010 100.0 21.4 15.7 43.4 19.62011 100.0 23.2 15.7 43.1 18.12012 100.0 20.6 14.7 42.5 22.22013 100.0 19.2 13.2 44.5 23.1

FAOSTAT(2018 年 2 月 10 日参照)のデータから計算。

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のための近隣諸国からの輸入が主と思われる),韓国 38 万トン,ドイツ 34 万トンの順と

なっている 9)。東アジアの輸入増が,何よりも中国によるものであることは明らかだ。こ

こではタイヤ産業の分析まで立ち入らないが,中国における多国籍企業のタイヤ増産が

主な要因であると見て差し支えないだろう。

結びにかえて

タイを除く全域が欧米諸国の植民地支配下にあった第二次大戦以前の東南アジアで

は,一次産品を生産し世界市場に供給する経済構造が形成された。そのうち 19 世紀から

20 世紀半ばまでの時期に重要な役割を演じた輸出農産品を歴史的順序に応じて挙げれ

ば,まずコーヒー,次いで甘蔗糖,19 世紀後半から大陸部の三大河川(エーヤーワディ,

チャオプラヤ,メコン)の下流部デルタ地帯で大量に生産されるようになった米,19 世

紀末からコーヒーに代わり台頭した茶,そして 20 世紀に入って急成長した天然ゴムで

あった。このうち,多くがアジア域内へ輸出された米と甘蔗糖を除き,元来プランテー

ション産業の産物であるコーヒー,茶とゴムはもっぱら欧米市場へ向けて輸出された。

第 2次大戦後に植民地支配が終わり,地場企業による農園経営や小農による生産が拡

大するとともに,主産地の編成にも変化が起きた。最も顕著な変化の例は,ミャンマー

(ビルマ)からタイへの首位米輸出国の交替,タイにおける甘蔗糖生産の台頭とインドネ

シアの砂糖輸入国への転落,ベトナムにおけるコーヒーの台頭,天然ゴム主産地のマレー

シアからタイ,インドネシアへの交替などであろう。

他方,これら農産品の輸出先にも重要な変化が起きた。コーヒーの最大の輸出先は依

然としてヨーロッパ諸国であるが,近年はコーヒー消費が急増しつつあるアジア・太平

洋地域への輸出も重要性を増しつつある。甘蔗糖の輸出は,砂糖市場のグローバル化と

ともに特定地域への結びつきが意味を失ったように見える 10)。また,かつては圧倒的に

アメリカ市場に依存した天然ゴムの輸出先は,まず日本,ついで韓国,そして最近は圧

倒的に中国における自動車とタイヤ製造の急増により,東アジアへとシフトした。本稿

では割愛したが,20 世紀末からの最新の時期に最も輸出額の多い農産品となったパーム

油の輸出も,インドと中国をはじめとするアジアの消費市場に圧倒的に依存している。

脱植民地化後の東南アジアの一次産品輸出がヨーロッパからアジアへと仕向け先を大

きく変えたのは自然な変化だが,この変化は最近の ASEAN経済共同体(AEC)結成に

見られるような動きとどう対応するだろうか。2015 年 11 月の第 27 回 ASEAN首脳会議

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東南アジアの主要農産品の生産と輸出 49

で採択された「AECブループリント 2025 年」では,AECが目標とする「相互に関連し

強化し合う」5つの特性の第 1を「高度に統合された凝集力ある経済」と定めている 11)。

言い換えれば,広く深い地域内分業にもとづく交易によって結ばれた経済圏の形成がそ

の意図するところであろう。本稿で検討した主要農産品の貿易について見れば,米余剰

のタイやベトナムから米不足のインドネシア,マレーシア,フィリピンへの輸出は,東

南アジア域内の分業関係に立脚するものに違いない。しかしそれは 19世紀後半から続く

もので最近の変化の結果とは言えない。また本稿では論じなかったが,マレーシアやイ

ンドネシアからベトナム,フィリピン,ミャンマーなど ASEAN近隣諸国へのパーム油

輸出は,ここ数年に急増しつつある。こうした例外はあるが,総じて 21 世紀の東南アジ

アにおける一次産品の生産と輸出の発展要因は,域内分業の拡大によるよりも他地域と

の交易増加による方がはるかに大きいことは否めない。その意味では,現代東南アジア

の一次産品経済の発展パターンは,製造工業発展の場合と類似点が多いと言えるかも知

れない。

注1 ) 加納啓良(2014)『【図説】「資源大国」東南アジア 世界経済を支える「光と陰」の歴史』洋泉社歴史新書 y。

2) 2015 年のベトナムのコーヒー輸出先を国別に輸出額で見ると,ドイツが 359 百万米ドル(13.4%)で最も多く,次いでアメリカ(313 百万米ドル,11.7%),スペイン(231 百万米ドル,8.6%),イタリア(199 百万米ドル,7.4%),日本(170 百万米ドル,6.3%)の順になっている。http://ags-vn.com/ja/report/32305.html(2018 年 2 月 19 日参照)。また 2016年のインドネシアのコーヒー輸出先をやはり国別に輸出額で見ると,アメリカが 270 百万米ドル(27.0%)で最大であり,次いでドイツ(90.2 百万米ドル(9.0%),日本(86.5 百万米ドル,8.6%),マレーシア(67.4 百万米ドル,6.7%),イタリア(66.4 百万米ドル,6.6%)の順である。Statistik Indonesia 2017. Jakarta: Badan Pusat Statistik, 2017.

3 ) Statistik Teh Indonesia 2016. Jakarta: Badan Pusat Statistik, 2017.4 ) http://www.sankeibiz.jp/macro/news/150729/mcb1507290500006-n1.htm

(2018 年 2 月 17 日参照)。5) なお,現在の世界の砂糖生産量の約 8割は甘蔗糖から成り,残りの 2割の大半を甜菜(ビート)糖が占めている。https://ec.europa.eu/agriculture/sugar_en(2018 年 2 月 19 日参照)。

6) US Department of Agriculture Foreign Agriculture Service, “Sugar: World Markets and

Trade”, Nov. 2017.(https://www.fas.usda.gov/data/sugar-world-markets-and-trade 2018年 2 月 19 日参照。)

7) Ibid.

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8 ) いわゆる緑の革命の成功により 1970 年代末から米の生産量が著しく増加したインドネシアでは,1985,86,93 年の 3カ年に限り米の輸出量が輸入量を多少上回って自給達成に近づいたかに見えたが,その後は一貫して輸入が輸出を大幅に上回る状態が続いている。上記 3カ年の事態は長期の趨勢のなかでは例外に過ぎなかったと言える。

9) FAOSTATのデータによる(2018 年 2 月 10 日参照)。10) ただし,フィリピンの砂糖輸出は割当制の政策的優遇によりアメリカ市場への依存を続けている。

11) http://asean.org/asean-economic-community/(2018 年 4 月 6 日参照)。