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量子情報技術の潮流 量子計算・量子暗号の実現に向けて 独立行政法人科学技術振興機構 今井量子計算機構プロジェクト

量子計算・量子暗号の実現に向けて · 現在(従来型)のコンピュータは、年々、能力がアップ しています。コンピュータがど んどん速くなってゆくと、

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量子情報技術の潮流 量子計算・量子暗号の実現に向けて

独立行政法人科学技術振興機構 ����������� ����� � ��� ����� �� �� �������

今井量子計算機構プロジェクト

はじめに

今井量子計算機構プロジェクト

統括責任者 今井 浩

      実現に向けて

量子計算・量子暗号の

� � � � � � � �

量子計算・量子暗号の実現に向けて �

21世紀の夢に向かって �

従来型コンピュータには解けない問題がある �

期待できる量子コンピュータの能力

量子情報技術の基礎になっている量子力学の原理とは

重ね合わせを用いた量子コンピュータの仕組み �

量子コンピュータの計算の仕組み �

量子コンピュータの実現に向けた課題 �

今井プロジェクトの挑戦 -量子コンピュータ- ��

究極の安全性を保障する量子暗号 ��

今井プロジェクトの挑戦 -量子暗号- ��

携帯電話や電子メールなどのおかげで、私たちの生活が大変便利になりましたが、その発展を支えているのが情報処理技術です。 情報は、物理や化学、生物であつかう物質や物体のように目に見えるわけではありません。ですから、どうやって研究したら良いのかわからないかもしれません。 しかし、どのような情報でも、全て、物体や物質を用いてやりとりされるので、物理法

則と無関係なわけではありません。 原子や電子、光子といったミクロな物質では量子力学という物理学が支配しています。 この点に注目し、これらのミクロな粒子(量子)の持つ特徴を生かした情報処理が量子情報処理です。たとえば、現在のコンピュータとは全く異なる計算原理に基づく量子コンピュータや、量子力学の基本原理を用いて完全に安全な盗聴検出を可能にする量子暗号があります。これらは、従来のシステムでは不可能であった情報処理技術です。 このような研究テーマを研究するには、従来の学問の分野の垣根を越え、物理学から情報科学までの幅広い分野を取り扱う必要があります。 科学技術振興機構の今井量子計算機構プロジェクトでは量子情報処理を中心に据えて、5年間の研究を行ない、数々の成果を得てきました。 是非とも、量子情報処理について次世代を支える若い皆様に広く知って頂くために、DVDとこのパンフレットを作成し、皆様にお配りすることになりました。 一人でも多くの方がこのパンフレットを読まれ、量子情報処理に関心を持って頂けたらと思います。

私たちは、最新の情報技術をいとも簡単に使いこなしています。

携帯電話で手軽にメールのやり取りをしたり、好きな音楽の配信を

受けたりしています。また、コンピュータでは、書類やCGを作ったり、イ

ンターネットで買い物をしたり、意見を交換しています。

ところが、20年前はどうだったでしょうか・・・。コンピュータは、写真にあ

るように大きいもので、これを使えるのは企業のシステム部の人たち

だけでした。携帯電話も自動車に載せなければ運べないものでした。

この20年間に、コンピュータと通信が融合した情報技術が発達した

のです。

では、次の20年後は、どんな夢が実現するのでしょう?

次の20年でどんな夢が実現するのでしょう?

未来を開くための科学・技術として科学者が今、注目しているのは「量

子情報技術」です。

量子情報技術は、量子計算や量子暗号といった技術を指します。

量子計算や量子暗号は、量子力学の原理を使います。量子力学を

積極的に使った技術が、人類史上初めて登場するのです。

量子計算を行う計算機は、量子コンピュータとも言われますが、これ

を使うと、今のコンピューターでは解けない問題を解くことができるの

です。

未来を開くのは「量子情報技術」

21世紀の夢に向かって

従来型コンピュータには解けない問題がある

35324619344027701212 72604978198464368671 19740019762502364930 34687761212536794232 00058547956528088349

79258699544783330333 47085841480059687737 97585736421996073433 03414557678728181521 35381409304740185467

2799783391122132787082946763872260162107 0446786955428537560009929326128400107609 3456710529553608560618223519109513657886 3710595448200657677509858055761357909873 4950144178863178946295187237869221823983

×

現在(従来型)のコンピュータは、年々、能力がアップ

しています。コンピュータがどんどん速くなってゆくと、

どんな問題でも解けてしまうのでしょうか?

実は、現在のコンピュータを最大に働かせても、答え

が出せない問題が沢山あるのです。そのひとつが、

素因数分解です。

コンピュータにも解けない問題

整数の掛け算は、人間にとってもコンピュータにとっ

てもやさしい問題です。それでは、その逆の問題で

ある素因数分解はどうでしょう。

例えば、15の素因数は3×5ですが、この程度なら暗

算で答えが出せます。しかし、桁数が大きくなると、

人間でもコンピュータでも答えをだすのに時間がか

かります。

例えば、この200桁の素因数分解の答えを出すのに、

80台のコンピュータを使い、3ヶ月もかかりました。

素因数分解

アルゴリズム※が存在するが 現実的な時間では解けない問題

例:素因数分解

〔 RSA SECURITY 〕

アルゴリズム※が 存在しない問題

現実に解ける問題

※ある目的を達成するための処理手順を定めたもの。

桁数が大きくなって250桁とか300桁の素因数分解になると、答えを

出すのに百年以上かかるといわれています。これでは、現実的に解

くことできなくなりますね。

この「整数の掛け算はやさしく」逆に「素因数分解を解くのが困難」

ということは、暗号をつくるのに好都合です。実際に、インターネット上

の取引などで使われている暗号に素因数分解が使われています。

素因数分解は解くのが困難

ところが、量子コンピュータを使うと素因数分解を速く解けるのです。

もちろん、量子コンピュータは、現実に存在していませんから、理論上

のことです。将来、実用的な規模の量子コンピュータが出来て、その

上でショアのアルゴリズム※を動かすと、素因数分解を速く解けること

が分かったのです。このことが発表されると、大きな反響が起こりまし

た。「暗号が破られてしまうから、たいへんだ!」という声や「現在のコ

ンピューターで解けない問題が解けるから素晴らしい!」という声です。

量子コンピュータを活かすアルゴリズムは、まだ数えるほどしかありま

せんが、科学者たちは、社会の様 な々分野に役立つアルゴリズムの

開発に取り組んでいます。

量子コンピュータは、素因数分解を速く解く

期待できる量子コンピュータの能力

量子コンピュータへの期待

今井量子計算機構プロジェクトは、量子コンピュータや量子暗号の

実現に向けて、理論と実験の両面で研究を行い、様 な々成果をあ

げてきました。

今井量子計算機構プロジェクトの挑戦

●現在のコンピューターの不可能を可能にする  計算機の実現

●基礎物理学発展への寄与

●最先端科学技術の限界突破

※P9を参照ください。

       量子力学の原理とは

量子情報技術の基礎になっている

量子コンピュータや量子暗号の基礎になっている量

子力学の原理とは、どういうものでしょうか。

量子力学の現象が現れるのは、原子1個や電子1

個を見分けられる微小な世界です。そこでは、私た

ちの日常の感覚とは違う不思議な現象が見られます。

その不思議な現象を説明するのが量子力学の原

理です。量子力学の原理のうち、ここで重要なもの

は「量子重ね合わせ」です。

量子力学の原理

粒子と波動の 二重性

量子重ね合わせ

不確定性原理

次に、2枚の偏向板の間にもうひとつ偏光板を入れて、回してみます。

すると、光は通ります。どうしてでしょうか。

「量子重ね合わせ」を身近な例で見てみましょう。

スポーツサングラスをかけて、携帯電話の液晶画面を見ます。

液晶画面をゆっくり回してゆくと、途中で画面が暗くなります。これは、光の偏光という性質によって起こり

ます。液晶もスポーツサングラスも光を偏光させる偏光板の性質があります。図のように、2つの偏光の

軸が90度ずれたとき、光は通り抜けられません。

量子重ね合わせ

光は通らない 光は通る

第1の偏光板を通った

光は偏光板の軸に平

行な偏光をしています。

偏光は2つのベクトル

の足し算で表すことができ、これを「重

ね合わせ」と言います。

この偏光が、第2の偏光板に来たときには、

偏光板の軸に平行なベクトルと垂直な

ベクトルの「重ね合わせ」と見ることがで

きます。

2つの偏光成分のうち、偏光板の軸に

平行な偏光が通り抜けます。

通り抜けた偏光は、第3の偏光板でも、「重

ね合わせ」の2つの偏光成分に変化し、

偏光板の軸に平行な偏光成分が通り

抜けます。

ここで見たように、偏光の2つのベクトル

の重ね合わせは、幾通りもあります。そ

のなかから、偏光板によって一つが選

ばれます。偏光板は観測したことに当

たります。このことは、観測によって光の

量子力学的な状態が変化することを示

しています。

     量子コンピュータの仕組み

重ね合わせを用いた

量子コンピュータでは、重ね合わせを使って、どのように計算するの

でしょうか。その仕組みを見てゆきましょう。

従来型のコンピュータは、「0」または「1」の値をとる「ビット(bit)」と

いう単位を元に組み立てられています。

これに対し、量子コンピュータは、ビットの代わりに量子ビットを使いま

す。量子ビットは、「0」と「1」の重ね合わせ状態を使います。

「0」と「1」の2つの状態を同時にとっている状態です。

このような量子ビットを使って演算

を行う量子コンピュータの概念が

誕生したのは、1985年です。

ビットと量子ビット

4ビットは16通りの状態をとります。

4量子ビットは、“重ね合わせ”により、図のようになります。

4量子ビット

4bit(2×2×2×2=16通り) 4量子ビットの重ね合わせ

0000

0100

1000

1100

0001

0101

1001

1101

0010

0110

1010

1110

0011

0111

1011

1111

量子ビット ビット

0

1

0

0

1

1

「0」「1」の重ね合わせ (1量子ビット)

0 1

現在のコンピュータ 量子コンピュータ

1ビットと1量子ビットは、このよう

に波の形で表すことができます。

量子コンピュータの計算の仕組み

1994年には、素因数分解を高速で解くアルゴ

リズムがピーター・ショアによって考案されました。

その計算の特徴は、2つあります。一つは、重ね合

わせを利用した量子並列計算。もう一つは、量子フー

リエ変換です。

ショアの素因数分解アルゴリズム

例えば91を素因数分解することを考えてみましょう。

普通、私たちは、91を2で割って、3で割ってというふ

うにやっていって、7という素因数を見つけます。

しかし、このやり方では、桁数が大きくなると、時間

がかかって手に負えません。

量子コンピュータでは、図のようなイメージで、重ね合

わせを利用して並列に計算します。これが量子並

列計算です。

超並列計算

しかし、これだけでは量子コンピュータの実力が発

揮できません。量子並列計算によって答えはでる

のですが、正しい答えが、どこにあるかを探しだす

のに時間がかかるのです。

それを解決するのが、量子フーリエ変換です。

量子フーリエ変換は、量子的な干渉を利用して、

効率的に正しい答えを抽出するもので、これにより

素因数分解を高速に解くことができるのです。

量子フーリエ変換

量子並列計算

量子フーリエ変換

91÷2= 91÷3= 91÷4= 91÷5= 91÷6= 91÷7=13

91÷  =

・・・・・

・・・・・

2 3 4 5 6 7

2,3,4,5,6…の重ね合わせ

��

量子コンピュータの実現に向けた課題

量子コンピュータの構成要素

量子ビットの候補

壊れやすい量子コンピュータ

原子核スピン

光子の偏光

エネルギー準位

電子スピン

磁束

超伝導の電荷

超伝導の位相

量子コンピュータは、理論上では動作が証明されていますが、実際

の物理系を使って量子コンピュータを実現するには、途方もなく難し

いことです。

課題のひとつに、量子コンピュータは壊れやすいことがあります。

量子コンピュータは重ね合わせの状態を利用して超並列計算を行

ないますが、演算が終わって答えがでるまで、その状態を保つ必要

があります。しかし、外部からのノイズに弱く、重ね合わせ状態を保て

ないのです。

例えば、計算中に入り込んだ光子や電子によって、重ね合わせ状態

が変化して、答えにエラーが生じます。

この宿命的に生じるエラーを訂正する方法を講じなければなりません。

量子コンピュータは、おのおのの量子ビットの重ね合わせ状態を制御

することと、量子論理ゲートの組み合わせにより構成されます。

量子論理ゲートの重要なものに、回転ゲートと制御ノットゲートがあり

ます。

現在、量子コンピュータの基本になる量子ビットを実現するために、様々

な量子デバイスが提案されています。

��

今井プロジェクトの挑戦 量子コンピュータ

エラー訂正の理論

エラーを避けるためにハードウェアを制御すること

も検討されていますが、良い解決策はまだ見つかっ

ていません。

今井プロジェクトは、理論の力でエラーを訂正する

理論を構築しました。

エラー訂正の理論を図のような比喩で説明してみ

ましょう。

データ圧縮の理論

今井プロジェクトは、量子コンピュータでも必須となる

データ圧縮の理論を提案しました。データ圧縮の方

法は、データの性質を見たうえで圧縮比を決めますが、

問題は、データを見ること(測定)によって量子状態

が壊れることです。今井プロジェクトは、この問題を

解決する理論を構築しました。測定を厳密に行わ

ずに、緩やかに行うことで、量子状態が壊れるのを

回避する理論です。分かり易い比喩で紹介しましょう。

積み木で何か構造物を作るとします。この積み木の構造物は、指で触れた

だけで簡単に壊れてしまいます。そこで、同じものをいくつかコピーを作って

おき、後で、壊れていない部分を集めて完成品を復元します。

ゆで卵を上から網で押さえつけるような測定を行うと、ゆで卵は壊れます。

しかし、網を軽く卵に当てる感じで浅い測定を行うと、卵は壊れません。こ

のような浅い測定で、圧縮比を決めることができます。

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リーダー選挙問題

コンピュータをネットワーク化するとき、個々のコンピュータに番地をふります。その際、基準(0番地)となるコ

ンピュータを決めますが、これを確率1で行う方法は知られていませんでした。(例えば、じゃんけんではアイ

コになる確率があり、アイコが続くと勝負がつきません)今井プロジェクトでは、この問題を確率1で成功させ

る量子コンピュータを用いたアルゴリズムを提案しました 。

量子フーリエ変換の実装

量子コンピュータを生かす代表的な量子アルゴリズムである素因数分解アルゴリズムは、理論的には証

明されていますが、実験的な証明はこれからです。今井プロジェクトは、素因数分解アルゴリズムの「量

子フーリエ変換」について、実際に機能するかどうか実証する実験を行いました。この実験は、実用規

模の1024量子ビット程度で行う必要がありますが、現在まで出来ている量子ビットは7量子ビット程度で

す。そこで、今井プロジェクトでは、量子ビットの代わりになる特殊な回路を作り、実験を行いました。

量子回路設計

量子コンピュータは量子アルゴリズムと量子デバイス(量子ビット、量子論理ゲート)の双方が揃えば、実現

できるわけではありません。アルゴリズムを動作させるには、従来のコンパイラーに対応するもの、つまり量子

デバイスの回路が不可欠です。量子アルゴリズムが複雑になると、回路図の作成は決して自明ではありま

せん。今井プロジェクトは、これを効果的に行なうための回路の変換則を導き出しました。

その結果、1024量子ビットの量子フーリエ変換の実験に成功しました。実用的なレベルで、量子フーリエ

変換が実際に機能することが確かめられたのです。

究極の安全性を保証する量子暗号

現在使われている暗号-公開鍵暗号

暗号の基本的な仕組みは、送信する伝言文を鍵

を使って暗号文に変え、これを受信した相手が鍵

を使って暗号文をもとの文書に戻します。

代表的な暗号である公開鍵暗号を紹介しましょう。

公開鍵暗号は、「整数の掛け算」を使って「秘密鍵」から「公開鍵」をつくります。

逆に「公開鍵」から「秘密鍵」をつくることは素因数分解が困難なため不可能

です。

まず、「公開鍵」をみんなに知らせます。

送信者は、伝言文を「公開鍵」を使って暗号文に変え、送信します。「公開鍵」と

ペアの「秘密鍵」を持っている受信者は、その「秘密鍵」を使って暗号文を伝言

文に戻します。もし、暗号文が途中で誰かに盗すまれたりしても、暗号文を伝言文

に戻すには「秘密鍵」が必要ですが、「公開鍵」から「秘密鍵」をつくることはでき

ません。このようにして通信の安全性が守られています。

しかし、公開鍵暗号は、量子コンピュータが登場すれば「公開鍵」から「秘密鍵」

ができて、伝言文に戻されてしまう可能性があります。

盗聴者

送信者 受信者

現在のコンピュータでは 素因数分解は解けない

量子コンピュータでは 秘密鍵はつくれる

伝言文

暗号文

秘密鍵

公開鍵 公開鍵

公開鍵

伝言文

暗号文

暗号文 伝言文

公開鍵 秘密鍵

「公開鍵暗号」の仕組み

��

究極の安全性を保証する量子暗号

この危機を救うのが、量子力学の原理を使う量子暗号です。主として、量子公開鍵暗号と量子鍵配送

があります。

量子公開鍵暗号は、公開鍵暗号の「量子版」です。

量子公開鍵暗号は、「秘密鍵」から量子力学の原理を使って「量子公開鍵」をつくります。

盗聴者が「量子公開鍵」から「秘密鍵」をつくろうとしても、絶対につくることはできません。前に紹介し

たように、量子状態にまったく変化を与えずに「観測」することは不可能です。このため、量子公開鍵か

ら秘密鍵をつくろうとすると、量子状態が変化してしまい読み出すことができません。量子コンピュータが

登場してもこのことは変わりません。

このようにして、量子暗号は究極の安全性を保証します

盗聴者

送信者 受信者

量子コンピュータを使っ ても秘密鍵はつくれない

伝言文

暗号文

伝言文

暗号文

暗号文

量子 公開鍵

量子 公開鍵

量子 公開鍵

秘密鍵 伝言文

「量子公開鍵暗号」の仕組み

量子 公開鍵 秘密鍵

��

��

実現が近い量子鍵配送

量子鍵配送は、送信者と受信者の間で盗聴不可能な「秘密鍵」を共有する方法です。

量子鍵配送では光子を量子通信路で伝送します。まず、送信者は鍵の候補のビット

列を2種類・2パターンのフィルターを通して光子を偏光させます。受信者は、フィルター

をランダムに選んで光子を受信します。伝送が終わった後で、何番目のビットの光子を

検出したかを照合します。ここで両者のビット列が一致する割合が低い場合は、盗聴

された可能性が高いと判断し、残りのビット列を捨てます。一方、一致する割合が高

い場合は、残りのビット列に対して、誤り訂正と盗聴者の情報を打ち消す操作を行っ

て最終的に利用する「秘密鍵」を作ります。

量子暗号では鍵の1量子ビットは1光子の量子状態として送られます。光子が1量子

ビットあたり一つしかないため盗聴者は情報を得るためにはその光子に何らかの操

作を行わなければなりません。このような操作は量子状態を変えてしまうので、誤り率

が増加します。これにより盗聴者の存在を検知することができます。

受信者

盗聴者

送信者

フィルターを変える フィルターを変える

高い正解率の ビット群を 暗号鍵にする

鍵の候補のビット列

量子通信路 (光子を伝送)

フィルターを照合

光子を観測すると 状態が変化する。

状態が変化した光子が 混じって受信者に届く

・・・

・・・

「量子鍵配送」の仕組み

��

量子暗号は、究極の安全性を保証しますが、実現するには、課題も

少なくありません。今井プロジェクトでは、量子暗号の実現に向けて

課題の解決に取り組みました。

量子鍵配送において安全な鍵が生成できる条件をみてみましょう。

安全な鍵が生成できる条件

従来の研究では、Eが分かれば、B-Eの分量の秘密鍵の共有が可

能でした。しかし、Eの見積もりが困難で、これまで有効な方法が十

分に知られていませんでした。

今井プロジェクトでは、デコイ状態つまり、おとりを用いた方法で有効

にE(盗聴者の獲得情報量)を見積もる方法を提案しました。

量子伝送には、常に受信誤りが含まれます。受信者が得た情報量は、全体の情

報から受信誤りを引いたBになります。盗聴者が介在した場合、盗聴された情報

量Eは、操作によって量子状態を変化させ、受信誤りになります。

BがEより多ければ最終鍵が生成できますが、反対に、BがEより少ないと盗聴があっ

たと判断してこの通信路での伝送を止めます。

実験の課題は装置に起因する誤りをできるだけ減らしてBを大きくすること。理論

の課題はできるだけ正確にEを推定することです。

デコイ状態法

今井プロジェクトの挑戦 量子暗号

受信誤り

受信者 送信者

受信者の 情報獲得量

盗聴者の獲得情報量

A B

B

E

E

盗聴者

>0なら最終鍵を生成 <0なら盗聴と判定

��

符号化法

また、受信者の獲得情報量(B)と盗聴者の獲得情報量(E)の双方が分かっても、

その差の量の情報を正確にかつ盗聴者に漏れないよう伝送する実現可能な方法は

十分に検討されていませんでした。

今井プロジェクトは、十分に実現可能な「符号化法」を提案し、その方法で盗聴が不

可能であることを厳密に証明しました。

高感度の光子検出器の開発

現在の光通信は、1ビット当たり10万以上の光子を使っていますが、量子暗号では、

1個の光子で1量子ビットの情報を伝送します。

極めて微弱な光信号の中から「光子1個」を検出することになります。

そこで、検出効率を高め、かつ、誤って光子を検出する確率を抑えた光子受信器が

求められます。

今井プロジェクトは誤検出の原因となる雑音を抑圧する回路を考案し、感度が従来

より50倍向上した光子検出器を開発しました。

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量子公開鍵暗号

今井プロジェクトは、量子公開鍵暗号についても理論的な研究を行いました。そして、初めて量子コン

ピュータを用いても解読不可能であることが保障される量子公開鍵暗号を提案しました。

実環境での暗号鍵生成に成功

今井プロジェクトは、この光子検出器を用いて、150kmの光ファイバを通した単一光子の伝送*に成功

しました。

実用的な量子暗号システムは、通信装置の安定動作、高速化、そして通常のオフィス環境で動作する

ことが必要です。

今井プロジェクトは、このような条件で動作する高速量子暗号通信システムを実現し、架空アクセス系

光ファイバケーブルを経由した実環境での14日間連続の暗号鍵生成に成功しました。これは、電話や

ファックスの暗号化には十分な速度です。 *これはNECとの共同研究で行われました。

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今井量子計算機構プロジェクト

 研究期間 2000.10~2005.9総括責任者 今井 浩 東京大学教授

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今井量子計算機構プロジェクト