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道路防災点検における LP データ・MMS データの活用と適用性について 神戸市 建設局 道路部 工務課 小松 恵一・前田 英輝・近藤 恒樹 岡山大学 大学院 環境生命科学研究科 西山 株式会社パスコ ○本間 哲郎・小更 亨・久保田 博之・間野 耕司・井関 禎之・西川 大亮 1.はじめに 従来、道路防災点検を行う場合には、現地調査 前に机上調査として地形図や空中写真等の判読に より現地で確認すべき箇所の絞り込みを行ってい る。また、道下斜面については斜面の状況ととも に路面の亀裂や沈下箇所を目視確認し、変状の位 置、形状、範囲及び変状量等を調査している。道 路防災点検では、以下のような課題があげられる。 ①斜面や路面全域の現地調査は、作業量が膨大で 時間と費用を要するとともに、漏れが生じやすい。 ②空中写真判読では、植生の影響などにより地形 を十分に把握できない場合がある。 ③急崖な斜面では、斜面内への侵入、近接目視が できない箇所が存在する。 ④目視調査では、面的な路面沈下の進行具合を定 量的に把握することが困難である。 ⑤山岳道路の場合、道下斜面への影響が懸念され る降雨時の表流水が考慮されない。 このような課題に対し、本検討では航空レーザ 測量(以下 LP)及びモービルマッピングシステム (以下 MMS)による計測データを用いて道路斜 面の危険箇所を把握し、維持管理する上での今後 の適用方法について検討を行った。 2.対象路線の概要と既往災害 対象路線は、図 1 に示す六甲山系の 4 路線とし た。六甲山の南北斜面に敷設された表六甲、裏六 甲ドライブウェイは、尾根部に敷設された明石神 戸宝塚線に比べ急勾配で標高差の多い路線となっ ている。地質は、大部分が六甲花崗岩である。 図 1 対象路線状況 対象路線沿いでは、 2013 年~2015 年にかけて毎 年夏季に豪雨災害が発生している。被災箇所につ いて、被災前に取得された LP データを用いて特 性を整理すると、1 のような傾向が見られた。 表 1 LP データから読み取った被災箇所の傾向 【共通事項】 ・斜面の平均勾配は概ね 30°以上 ・斜面の最大勾配は概ね 45°以上 ・南向き斜面が比較的多い(凍結融解による影響) ・崩壊跡地形の拡大やガリー侵食が要因 【道路上側斜面】 ・凸型斜面 (遷急線より下方での崩壊や崩壊跡地の拡大) 【道路下側斜面】 ・凹型斜面や直線斜面 ・斜面脚部の侵食(斜面高が低くても流水を要因 として崩壊に至る箇所有) ・道上斜面または道路面からの集水による影響 3.危険箇所の抽出検討 3.1 LP データを用いたスクリーニング はじめに、 LP データを用いて対象路線沿いの地 形を道上斜面(落石・崩壊と土石流)と道下斜面 に分類した。分類した結果、道上斜面(落石・崩 壊と土石流)では既往の防災点検箇所の約 2.5 倍、 道下斜面では約 10 倍の箇所が抽出された。 次に、抽出した全箇所について道路防災点検に おける安定度調査の項目から、 LP データを用いて 評価できる項目(形状や崩壊性要因を持つ地形) を対象に評点を行い、机上における箇所別の評価 を行った。さらに既往災害の傾向に近い箇所を抽 出し、評価点の高い箇所を現地調査対象とした。 3.2 MMS による排水危険箇所抽出 対象路線における近年の豪雨災害は、道下斜面 が崩壊する事例が多くなっており、被災箇所の中 には道路面や集水地形からの流水が要因となって 崩壊が発生したと考えられる箇所が存在している。 このため、MMS データを活用して排水危険箇所 の把握を行った。具体的には以下のような箇所を 抽出し、排水危険箇所を選定した。 ①縦断的に凹型の線形をしている箇所(図 2図 2 MMS データより作成した縦断図例 危険箇所 Pb-75 - 752 -

道路防災点検における LP MMS道路防災点検におけるLP データ・MMS データの活用と適用性について 神戸市 建設局 道路部 工務課 小松 恵一・前田

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Page 1: 道路防災点検における LP MMS道路防災点検におけるLP データ・MMS データの活用と適用性について 神戸市 建設局 道路部 工務課 小松 恵一・前田

道路防災点検における LP データ・MMS データの活用と適用性について

神戸市 建設局 道路部 工務課 小松 恵一・前田 英輝・近藤 恒樹

岡山大学 大学院 環境生命科学研究科 西山 哲

株式会社パスコ ○本間 哲郎・小更 亨・久保田 博之・間野 耕司・井関 禎之・西川 大亮

1.はじめに

従来、道路防災点検を行う場合には、現地調査

前に机上調査として地形図や空中写真等の判読に

より現地で確認すべき箇所の絞り込みを行ってい

る。また、道下斜面については斜面の状況ととも

に路面の亀裂や沈下箇所を目視確認し、変状の位

置、形状、範囲及び変状量等を調査している。道

路防災点検では、以下のような課題があげられる。

①斜面や路面全域の現地調査は、作業量が膨大で

時間と費用を要するとともに、漏れが生じやすい。

②空中写真判読では、植生の影響などにより地形

を十分に把握できない場合がある。

③急崖な斜面では、斜面内への侵入、近接目視が

できない箇所が存在する。

④目視調査では、面的な路面沈下の進行具合を定

量的に把握することが困難である。

⑤山岳道路の場合、道下斜面への影響が懸念され

る降雨時の表流水が考慮されない。

このような課題に対し、本検討では航空レーザ

測量(以下 LP)及びモービルマッピングシステム

(以下 MMS)による計測データを用いて道路斜

面の危険箇所を把握し、維持管理する上での今後

の適用方法について検討を行った。

2.対象路線の概要と既往災害

対象路線は、図 1 に示す六甲山系の 4 路線とし

た。六甲山の南北斜面に敷設された表六甲、裏六

甲ドライブウェイは、尾根部に敷設された明石神

戸宝塚線に比べ急勾配で標高差の多い路線となっ

ている。地質は、大部分が六甲花崗岩である。

図 1 対象路線状況 対象路線沿いでは、2013 年~2015 年にかけて毎

年夏季に豪雨災害が発生している。被災箇所につ

いて、被災前に取得された LP データを用いて特

性を整理すると、表 1 のような傾向が見られた。

表 1 LP データから読み取った被災箇所の傾向

【共通事項】

・斜面の平均勾配は概ね 30°以上

・斜面の最大勾配は概ね 45°以上

・南向き斜面が比較的多い(凍結融解による影響)

・崩壊跡地形の拡大やガリー侵食が要因

【道路上側斜面】

・凸型斜面

(遷急線より下方での崩壊や崩壊跡地の拡大)

【道路下側斜面】

・凹型斜面や直線斜面

・斜面脚部の侵食(斜面高が低くても流水を要因

として崩壊に至る箇所有)

・道上斜面または道路面からの集水による影響

3.危険箇所の抽出検討

3.1 LP データを用いたスクリーニング

はじめに、LP データを用いて対象路線沿いの地

形を道上斜面(落石・崩壊と土石流)と道下斜面

に分類した。分類した結果、道上斜面(落石・崩

壊と土石流)では既往の防災点検箇所の約 2.5倍、

道下斜面では約 10 倍の箇所が抽出された。

次に、抽出した全箇所について道路防災点検に

おける安定度調査の項目から、LP データを用いて

評価できる項目(形状や崩壊性要因を持つ地形)

を対象に評点を行い、机上における箇所別の評価

を行った。さらに既往災害の傾向に近い箇所を抽

出し、評価点の高い箇所を現地調査対象とした。

3.2 MMS による排水危険箇所抽出

対象路線における近年の豪雨災害は、道下斜面

が崩壊する事例が多くなっており、被災箇所の中

には道路面や集水地形からの流水が要因となって

崩壊が発生したと考えられる箇所が存在している。

このため、MMS データを活用して排水危険箇所

の把握を行った。具体的には以下のような箇所を

抽出し、排水危険箇所を選定した。

①縦断的に凹型の線形をしている箇所(図 2)

図 2 MMS データより作成した縦断図例

危険箇所

Pb-75

- 752 -

Page 2: 道路防災点検における LP MMS道路防災点検におけるLP データ・MMS データの活用と適用性について 神戸市 建設局 道路部 工務課 小松 恵一・前田

②曲線部で谷側へ傾斜が有り、路面から道下斜面

へ流水が流出する箇所(図 3)

横断図

図 3 MMS データによる標高段彩図と横断図の例

4.現地調査による確認結果

4.1 LP データ解析による高得点箇所(計 53 箇所)

LP データ解析により高得点となった箇所につ

いて現地調査を実施した結果、落石・崩壊では 36

箇所中16箇所が要対策箇所(うち新規箇所1箇所)、

19 箇所がカルテ対応箇所、1 箇所が対策不要とな

った。既往の点検箇所では、カルテ対応の箇所が

要対策箇所の倍以上の箇所数であることを踏まえ

ると、LP データを活用した評点の結果は危険な箇

所を抽出していると言える。

4.2 MMS による排水危険箇所抽出

MMS データを活用して抽出した 58 箇所の排水

危険箇所のうち、2 箇所は近年の災害発生箇所と

なっており、その他の箇所についても流水を考慮

した対策工(井桁擁壁や蛇篭工、フトン篭工等)

が施されている箇所が確認された。抽出した箇所

の中には、表流水の影響により道下斜面のブロッ

ク積擁壁の剥落・劣化が顕著に見られる箇所や路

面の沈下や円弧状のクラックが発生するなどの変

状が出ている箇所も確認された。

5.LP 及び MMS データの今後の活用について

LP 及びMMSデータの道路防災点検への更なる

適用方法について検討を行った。

5.1 LP データによる落石の把握

通常、LP データから作成されたグラウンドデー

タは、植生を除去するために転石や浮石も同時に

削除されている可能性がある。このため、地表面

から高さ 2m 以内の計測点をデータに含めること

により、2m 程度の浮石や転石群が表現されること

が確認された。また、植生の多い範囲では地表の

状況が上手く反映されないため、そのような箇所

は現地調査を重点的に実施する必要がある。

図 4 LP データによる凸形状の抽出

5.2 MMS データによる路面変状の面的な把握

路面には、縦断勾配や横断勾配がついているた

め、標高データを確認するだけでは沈下を面的に

とらえることが難しい。本検討では、MMS デー

タを基に作成した道路中心線と平均横断勾配から

基準面を生成し、基準面との標高差を抽出するこ

とで、路面変状を面的にとらえることが出来た。

図 5 沈下状況図 5.3 MMS データを用いた急崖斜面の把握

LP データを基に作成した陰影図等では表現が

難しい急崖斜面について、MMS データによる表

現方法を検討した。MMS 計測より得られた点群

データを用いて、斜面を真横から見た場合の座標

にデータを投影し、急崖斜面の地形を表現した。

現地検証の結果、概ね 5m 程度の高さまで地形形

状が明瞭にとらえられていることが確認された。

6.おわりに

本検討では、道路防災点検において LP データ

や MMS データを用いることで危険箇所の抽出、

危険度評価を試みた。また、道路防災点検におけ

るLPデータやMMSデータの今後の活用方法の可

能性について提案を行った。

道路防災点検においては、現地調査は必須であ

るがLPデータやMMSデータを活用することで現

地調査を行うべき箇所(重点箇所)のスクリーニ

ングや現地作業の効率化を図ることができる。ま

た、使い方次第では目視では把握できない変状も

捉えることが可能である。

道路防災点検は、今後も続く少子高齢化に伴い

熟練作業者の減少や、高齢化の進展とともに逼迫

した財政下における予算の減少が懸念される。こ

のため、道路防災点検を実施する上では、作業の

効率化・迅速化、調査精度の向上、統一した品質

の確保、低予算での事業実施などの課題に対して、

LP データ、MMS データなどの最新技術を積極的

に活用していくことが望まれる。

7.謝辞

本研究を行うにあたり、国土交通省近畿地方整

備局六甲砂防事務所には航空レーザ計測データを

提供いただいた。ここに感謝の意を表します。

山側

谷側

処理前 処理後

沈下範囲

図 6 立面段彩図

標高段彩図

- 753 -