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育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方について
2013年8月30日西岡加名恵
0.はじめにキー・コンピテンシーや21世紀型スキルなど、いわゆる<新しい能力>において強調されているのは、リテラシー、高次の認知能力、対人関係能力、自律的な問題解決力などである。「学力」と「実力」の狭間が問われていると言える。(松下佳代編著『<新しい能力>は教育を変えるか――学力・リテラシー・コンピテンシー』ミネルヴァ書房、2010年。石井英真「おわりに」西岡加名恵他『教職実践演習ワークブック――ポートフォリオで教師力アップ』ミネルヴァ書房、2013年)
ただ、日本の教師たちは従来から「生きてはたらく学力」の育成を目指してきた。現行の学習指導要領においても「生きる力」の育成が目指されている。
大幅な方針転換(たとえば教科再編)を図るよりも、むしろ各教科で「確かな学力」の育成という方針を堅持し、充実させるべきと考える。
2
<新しい能力>で求められているような有能性を育成するためには、基礎的・基本的な知識・技能の習得、ならびに基礎的・基本的な知識・技能を活用する思考力・判断力・表現力の育成が必要不可欠。→B問題レベルか? パフォーマンス課題 か?
↑各学年1~3個程度?クロス・カリキュラムで育成する汎用スキルやテーマを設定し、カリキュラム全体のレベルで育成・評価の対象にすることも考えられる。
人格特性や態度、価値観などを、いわゆる成績づけの対象にはしないことが必要。←道徳的な判断力を身につけさせるためにこそ、価値判断の自由を保障することが必要不可欠。 3
検討事項
めざすべき方向(カリキュラムの“理想形”)は、どのようなものか?
学習指導要領をどのように改訂すべきか?…大綱的基準→各学校の創意工夫を尊重する次期改訂に向けた準備として、何が必要か?
各学校への支援として、何が必要か?
4
単純
複雑
筆記 実演
選択回答式(客観テスト式)の問題・ 多肢選択問題・ 正誤問題・ 順序問題・ 組み合わせ問題・ 穴埋め問題(単語・句)
自由記述式の問題~短答問題(文章・段落・図表など)
・ 知識を与えて推論させる問題・ 作問法・ 認知的葛藤法・ 予測-観察-説明(POE)法・ 概念マップ法、ベン図法、KJ法・ 運勢ライン法・ 描画法
パフォーマンス課題・ エッセイ、小論文、論説文 ・ 朗読、口頭発表、プレゼンテーション・ 研究レポート、研究論文 ・ グループでの話し合い、ディベート・ 実験レポート、観察記録 ・ 実験の計画・実施・報告・ 物語、脚本、詩、曲、絵画 ・ 演劇、ダンス、曲の演奏、彫刻・ 歴史新聞 ・ スポーツの試合
プロジェクト
実技テストの項目
・ 検討会、面接、口頭試問・ 短文の朗読・ 実験器具の操作・ 運指練習・ 運動技能の実演
活動の断片的な評価
・ 発問への応答・ 活動の観察
パフォーマンス
評価
ポートフォリオ
評価法
一枚ポートフォリオ評価
(西岡加名恵・田中耕治編著『「活用する力」を育てる授業と評価・中学校』学事出版、2009年、p.9参照)
1.教科教育の充実を図る(1)学力評価の方法
5
◎パフォーマンス課題
様々な知識やスキルを総合して使いこなす(活用する)ことを求めるような、複雑な課題。レポート、プレゼンテーションなど。
↑「思考・判断・表現」と「関心・意欲・態度」が表裏一体のものとして発揮される。
リテラシー、高次の認知機能、対人関係能力、自律的な問題解決力などを育成・評価するのにも適している。
評価対象を限定することによって、人間の「深く柔らかな部分」までをも含む全体的な能力が絶えず成績づけにさらされる、ということが生じる危険性を回避する。(本田由紀『多元化する「能力」と日本社会――ハイパー・メリトクラシー化のなかで』NTT出版、2005年)
6
(2)「知の構造」
原理や
一般化
転移可能な
概念
事実的
知識
事実的
知識
複雑な
プロセス
個別的
スキル
個別的スキル
パフォーマンス課題
筆記テスト実技テスト
(McTighe, J. & Wiggins, G., Understanding by Design: Professional Development Workbook, ASCD, 2004, p.65の図や、Erickson, H.L., Stirring the Head, Heart, and Soul, 3rd Ed. Corwin Press, 2008, p.31の図 をもとに作成。G・ウィギンズ/J・マクタイ、西岡加名恵訳『理解をもたらすカリキュラム設計――「逆向き設計」の理論と方法』日本標準、2012年も参照)
永続的理解
「本質的な問い」
ルーブリック
チェックリスト
7
◎「本質的な問い」の入れ子構造
包括的な「本質的な問い」
単元ごとの「本質的な問い」
授業での主発問
授業での主発問
授業での主発問
授業での主発問
単元ごとの「本質的な問い」
授業での主発問
授業での主発問
授業での主発問
授業での主発問
方法論の問い概念理解の問い
8
【例】小学校4年生 算数「折れ線グラフ」(京都市立高倉小学校 齋藤大介先生の実践を参考にした)
◎グラフとは何か? どのようにグラフを書き、読めばいいのか?
折れ線グラフとは何か?どのように折れ線グラフを書き、読めばいいのか?
折れ線グラフ発表会をします。折れ線グラフで表されるような変化のデータを見つけて、折れ線グラフを書きましょう。また、その折れ線グラフから読み取れることについて、説明文を書きましょう。友達が「おお~っ、面白い!」と言ってくれるような変化を紹介できるといいですね。
包括的な
「本質的な問い」パフォーマンス課題
単元の
「本質的な問い」
9
CF.E.FORUM全国スクールリーダー育成研修
2013年8月17日~19日: パフォーマンス課題作りなど2014年3月: 実践交流会http://www.educ.kyoto-u.ac.jp/e-forum/
10
◎長期的ルーブリック「本質的な問い」の入れ子構造
包括的な「本質的な問い」
類似の
パフォーマンス課題
単元Aの
「本質的な問い」
単元Bの
「本質的な問い」
単元Cの
「本質的な問い」
パフォーマンス
課題A
パフォーマンス
課題B
パフォーマンス
課題C
5
4
3
2
1
長期的ルーブリック
単元・学年を超えた成長を捉える
11
(3)「知の深さ」と評価方法の対応レベル
4様々な原理や一般化についての理解を、高度な方略的思考を用いつつ総合して、長期的なプロジェクトに取り組む
3原理や一般化についての理解と方略的思考を総合して用いつつ、課題に取り組む・ 原理や一般化:概念・プロセス・事実・スキルなどの諸要素を構造的に関連づけ、整理したもの。完全な文の形で記述される。
・ 方略的思考:推論したり、計画や手順の系列を開発したりする際に行われる思考。
2概念・プロセス(二つ以上の手順)を把握・適用する・ 概念:単語や短い語句で述べられた抽象的な知的構成概念(宣言的知識)。トピックや文脈を超えて、転移可能。
・ プロセス:意図された結果を達成するためのスキルの組み合わせ。学問の中で(時には学問を越えて)転移可能。
1事実的知識・個別的スキルを再生する・ 事実的知識:理論が基づいているような、明白で受容された事実(宣言的知識)。転移しない。
・ 個別的スキル:単純で個別的な手続き的知識。反復練習などで身につく。限られた範囲でしか転移しない。
筆記テスト実技テスト
パフォーマンス課題
※主に次の文献を参考にして、作成した。McTighe, J. & Wiggins, G., Understanding by Design: Professional Development Workbook, ASCD, 2004. p.65. 石井英真「高次の学力の質を捉える枠組み――N.L.ウェブの『知の深さ』を中心に」田中耕治編著『「活用」を促進する評価と授業の探究』科学研究費補助金 基盤研究(C) (研究課題番号22530817,代表:田中耕治)研究成果最終報告書、2013年、pp.14-22)
レベルは、指導の順序を示すものではない。
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(4)目標を構造的に整理すると・・・
知識
スキル
理解の深さ
どのような知識を習得させるのか?
どのようなスキルを習得させるのか?
チェックリスト
「本質的な問い」、ルーブリック
スキルの軸と深さの軸が混同されがちなので、要注意。
どのような知識・スキルを深く扱い、活用する思考力・判断力・表現力を
身につけさせるのか?
重点的指導事項例
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(5)教育政策において、何をどんな形で示すか?
◆学習指導要領で示すもの(案)包括的な「本質的な問い」
重点的指導事項例(「転移可能な概念」や「複雑なプロセス」)
◆参考資料として例示するもの(法的拘束力なし)パフォーマンス課題、「永続的理解」
ルーブリック、アンカー作品(児童・生徒のパフォーマンス事例)
効果的な指導方法 など
←教育現場での創意工夫に委ねるのが原則。実践作りへの支援としての参考資料。
※改訂の前にかなりの研究開発が必要。14
レベル
4 様々な原理や一般化についての理解を、高度な方略的思考を用いつつ総合して、長期的なプロジェクトに取り組む
3 原理や一般化についての理解と方略的思考を総合して用いつつ、課題に取り組む
2概念 プロセス
1 事実的知識 個別的スキル
思考・判断・表現
知識の習得 技能の習得
◆指導要録の観点は、2つ(または3つ)に。
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2.高校教育・高大接続の在り方(1)「到達度テスト(仮称)」について基礎的・基本的な知識・技能の習得を評価するテストの実施には意義がある。→どのレベルに照準を合わせるのか?複数回実施の場合、客観テストになる可能性が高くなるが、客観テストには限界がある。→客観テストによる到達度テストが重視されることで、高校教育に歪みが生じる危険性。
統一的なテストを実施するにせよ、自由記述式問題を取り入れるべき。
Cf.イギリスでは、統一テストの採点を教員(アルバイト)が担っている。
日本においては、回収したテストを他校の教員が採点する形にしてはどうか。→教員の力量向上にもつながる。
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