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高次脳機能障害の方の 復職支援に向けての実践報告 ~札幌の現状と課題~ 角井 由佳 NPO法人クロスジョブ クロスジョブ札幌 就労支援員) 伊藤 真由美(NPO法人クロスジョブ クロスジョブ札幌) 寛之(NPO法人クロスジョブ クロスジョブ阿倍野) 濱田 和秀(NPO法人クロスジョブ) 第4分科会

高次脳機能障害の方の 復職支援に向けての実践報 …...はじめに 障害者雇用、特に高次脳機能障害の復職支援は、「働き方改革」 の柱であると言える。

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Page 1: 高次脳機能障害の方の 復職支援に向けての実践報 …...はじめに 障害者雇用、特に高次脳機能障害の復職支援は、「働き方改革」 の柱であると言える。

高次脳機能障害の方の復職支援に向けての実践報告

~札幌の現状と課題~

〇 角井 由佳

(NPO法人クロスジョブ クロスジョブ札幌 就労支援員)

伊藤 真由美(NPO法人クロスジョブ クロスジョブ札幌)

辻 寛之(NPO法人クロスジョブ クロスジョブ阿倍野)

濱田 和秀(NPO法人クロスジョブ)

第4分科会

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はじめに

➢ 障害者雇用、特に高次脳機能障害の復職支援は、「働き方改革」

の柱であると言える。

➢ 2017年度より休職中の方の就労移行支援事業所利用が可能

となり、全国的に徐々に復職支援に広がりをみせているなか、

札幌市は復職支援目的での利用が許可されていない現状にある。

➢ 今回、休職中の高次脳機能障害者の就労移行支援事業所利用

の実現に向けて、高次脳機能障害者の復職支援の難しさと、

就労移行支援事業所での復職支援の役割を報告する。

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NPO法人クロスジョブ紹介2010年スタートから10年目

クロスジョブ堺2010/4/1クロスジョブ阿倍野2012/4/1クロスジョブ梅田2014/1/1クロスジョブ鳳2017/1/1

事業所数 7か所(各事業所定員20人)利用者総数 529人就労退所者数 306人(就労退所率75.6%)継続就業者数 216人(継続就業率70.6%)

クロスジョブ札幌2017/4/1

クロスジョブ草津2015/4/1

クロスジョブ米子2016/10/1

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高次脳に特化

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高次脳機能障害者の利用者概要(2018年度末時点)

就労退所, 66

人, 64%

その他退所, 18

人, 18%

利用中, 19人18%

支援結果

就労退所 その他退所 利用中

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30代~50代の働き盛りの時期に受傷、発症される方が多く、企業の戦力であり、中核的な存在の方々が多い。

9

16

35

1

5

18

26

53

1 1

4

10

5

10

15

20

25

30

20歳未満 20代 30代 40代 50代 60代

年代別疾患

脳外傷 脳血管障害 その他

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医療機関11名

相談室4名

障害者職業センター

2名

家族会/本人/ケアマネジャー

各1名

紹介元

紹介先は圧倒的に医療機関が多く、ソーシャルワーカーの他、最近では作業療法士からの相談件数も多く見られている。

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休職中の方の就労移行支援事業所利用について

厚生労働省『平成29年度障害福祉サービス等報酬改定等に関するQ&A』(2017年3月30日)より

一般就労している障害者が休職した場合の就労系障害福祉サービスについては、以下の条件をいずれも満たす場合には、就労系障害福祉サービスの支給決定を行って差し支えない。

① 当該休職者を雇用する企業、地域における就労支援機関や医療機関等による復職支援(例:リワーク支援)の実施が見込めない場合、又は困難な場合

② 休職中の障害者本人が復職を希望し、企業及び主治医が、復職に関する支援を受けることにより復職することが適当と判断している場合

③ 休職中の障害者にとって、就労系障害福祉サービスを実施することにより、より効果的かつ確実に復職につなげることが可能であると市区町村が判断した場合

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札幌事業所

NO

札幌市保健福祉局『就労系サービスに関する手引き(Q&A集)』(2017年6月)より

医療機関からの相談が圧倒的に多い(入院中・外来リハビリ中の方の相談)

休職中の利用についての相談件数(3年間)

→ 具体的事例相談14件(全体で約40件)

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高次脳機能障害者の復職支援の難しさ

✓ 職場に戻ってから症状が拡大することがあること

✓ 特に、障害が原因で、職場の配置転換、業務内容が変わり、症状が表面化することが多いこと

✓ 中間管理職的な存在の方が多く、従業員側としても、戻った後の関わり方に苦慮する場合が多々あること

✓ 本人も戻ることに焦りがあり、職場に戻った後の症状に対する自己理解が乏しいこと

✓ 企業側の受け入れのイメージが整っていないこと

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リワーク支援などの医療機関や、障害者職業センター、ハローワークの職業訓練などの就労支援機関の利用が

出来るため、休職者の就労系の障害福祉サービス利用は原則許可していない。

高次脳の場合、市役所の進めている復職支援では限界がある

病院 リワーク支援、職業センター(リワーク)

病院内での話し合いが主体

企業調整などの密な調整が難しい

・相談件数として少ない現状・プログラムの対象となりにくい

・企業との復職調整・復職後の支援が難しい

職業訓練、職業センター(準備支援)

期間的な問題(短期間)

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模擬的な業務を行う中で・補完方法の獲得・疲労と休憩の取り方・スキルアップ・報連相の仕方

など、整理を行う

就労移行支援事業所での復職支援の一例40代男性 発症前は中間管理職として営業事務勤務

脳出血により右上下肢麻痺、失語症と診断休職中に身体障害者手帳2級を取得

1.利用開始/事業所内訓練(~4か月)

基礎訓練 週に1度の高次脳グループワーク

・高次脳の方が集まり、週に1回のグループワークを開催・テーマに沿って意見交換を行う

客観的に自己を考える時間

自己理解の獲得

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本人・ご家族・企業(人事・直属上司)・支援員で実施

・勤務時間や出勤頻度の設定 週2回、5時間勤務・復職後に行う業務の洗いだし・残存能力を含めた業務内容の調整

データ入力課題・終日パソコン訓練・デスクトップ内に2画面を出し、両方を見ないと作業を進めることが出来ない課題を実施

2.企業との調整(4か月~)

ケース会議

復職後の働き方に合わせた訓練

疲労度への対応方法

・1時間に1回は席を立ってストレッチ

・水分補給を意図的に行う

データ入力データ分析

本人の気づきをもとに情報共有を行う

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本人/企業の情報をもとに出勤時間、業務の幅の拡大を進める勤務時間

10時~15時(週2日)からスタート⦅1ヶ月~⦆1日だけ10時~17時に拡大⦅2か月~⦆週2日10時~17時

業務内容データ入力、データの分析からスタート⦅1ヶ月~⦆会議参加、資料作成業務を追加

休業補償後の完全復帰に向け支援を継続

3.復職(6か月~)

リハビリ出勤

支援者の企業訪問頻度:1ヶ月に2回程度

※その方に合わせた訪問頻度を設定

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復職支援における就労移行支援の役割✓ 職場に戻ってから症状が拡大することがあり、特に障害が原因で、職場の配置転換、業務内容が変わり、症状が表面化することが多いこと

✓ 企業側の受け入れのイメージが整っていないこと⇒密な企業調整、情報共有の場の設定

✓ 中間管理職的な存在の方が多く、従業員側としても、戻った後の関わり方に苦慮する場合が多々あること⇒就職後の企業支援、定着支援事業、ジョブコーチの配置

✓ 本人も戻ることに焦りがあり、職場に戻った後の症状に対する自己理解が乏しいこと⇒高次脳グループワークでの共有の場での自己理解の促進

復職支援の難しさを就労移行支援事業所では支援できる

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まとめ➢ 医療現場からの直接的な復職支援だけではすべての高次脳の方を救うことは難しい。

➢ 理由として、病院生活の中では際立った問題が出にくく、患者本人の自己理解がつながりにくいことが挙げられる。

➢ また、複雑な企業調整を要することが多く、復職後の本人や企業への継続的かつ密な支援が重要となることも挙げられる。

➢ 自己理解、密な企業調整の面も含め、就労移行支援事業所を利用することで解決していくことが出来るのではないか。

➢ それによって、引きこもりの防止、家族支援にも繋がり、働き方改革の拡大にも繋がることが考えられる。

➢ 今後高次脳機能障害者の利用実現に向けて取り組みを継続する。

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書籍紹介

高次脳機能障害・脳損傷について~家族として、精神科医として~

納谷 敦夫(税込み1,112円)

4-5 就労について4-6 脳損傷後の職場復帰について

高次脳機能障害者の就労についての記載があります。