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1 近赤外光を可視光へとアップ コンバージョンする分子性材料 九州大学 大学院工学研究院 応用化学部門 准教授 楊井 伸浩 JST-さきがけ「分子技術と新機能創出」

近赤外光を可視光へとアップ コンバージョンする分 …2 本日の発表内容 【新技術の概要】 【新技術の特徴】 【想定される用途】 太陽光中の近赤外光などの長波長の低エネルギー光を短波長の高エネルギー光に変換

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近赤外光を可視光へとアップコンバージョンする分子性材料

九州大学 大学院工学研究院 応用化学部門

准教授 楊井 伸浩

JST-さきがけ「分子技術と新機能創出」

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本日の発表内容【新技術の概要】

【新技術の特徴】

【想定される用途】

太陽光中の近赤外光などの長波長の低エネルギー光を短波長の高エネルギー光に変換するアップコンバージョンに関して、①揮発性の有機溶媒を使用する、②近赤外光を利用できない、という課題を独自の分子技術により解決し、実応用に向けた基礎を築いた。

・無溶媒の固相においても高効率アップコンバージョン・酸素が飽和した水中でもアップコンバージョン・新しいメカニズムにより近赤外→可視の変換を実現

・太陽電池、光触媒の高効率化・バイオイメージング、生体内光治療・空気中で不安定な化学種の安定化

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なぜアップコンバージョン分子技術か?

太陽電池光触媒 有用物質合成H2 発生、CO2 還元

T. P. Yoon et.al.,

Nature Chem. 2010, 2, 527.

⇒ エネルギーからバイオまで、欠かせない基盤技術に

生体応用

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Shockley-Queisser limit

アップコンバージョンで効率が1.5倍に(BG = 1.5 eV)

T. Trupke et.al., Sol. Ener. Mater. Sol. Cel. 2006, 3327, 3327.

光電変換効率に関する理論的検証

~30%

~45%

アップコンバージョンは本当に有用か?

CS3 meeting (米英独中日の化学サミット)

太陽電池、光触媒などの最先端研究者からアップコンバージョンに大きな期待が寄せられた

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二光子吸収 ランタノイドの多段階励起

• 非常に強い励起光強度が必要(W cm-2 ~ MW cm -2)

⇒太陽光の近赤外光をアップコンバージョンできない

F. N. Castellano et al., Chem. Commun. 2004, 2680. Triplet-triplet annihilation (TTA)

〇弱い光で機能 (~ mW cm-2)

〇高いUC効率

Parker and Hatchard, Proc. Chem. Soc. 1962, 386.

A. Monguzzi et al., PCCP, 2015, 17, 4020.

~20%

at 1 sun

アップコンバージョンのメカニズム

UC効率76%

(最大100%)

×有機溶媒が必要であり、実用化には固体化が不可欠×水中の人工光合成、バイオ応用には酸素バリア能が必要×太陽光の近赤外光をアップコンバージョンできない

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Donor

S0 S0

S1

Acceptor Donor

S0

S1T1 T1T1 T1

励起寿命の間に複数回のDexterエネルギー移動①Triplet-triplet energy transfer (TTET)

②Triplet-triplet annihilation (TTA)

S0

S1TTET

3 *

TTA3 *

TTET

TTAに基づくアップコンバージョン

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従来技術の問題点とその克服

①揮発性の有機溶媒を使う必要がある

⇒新戦略「エネルギーマイグレーション」で解決

②最も重要な近赤外光→可視光が不可能

⇒新しいメカニズムを開発することで可能に

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アップコンバージョンのメカニズム

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アップコンバージョンのメカニズム

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新戦略「エネルギーマイグレーション」

分子拡散に基づくメカニズム

× 揮発性の溶媒を使う必要

× 固体では色素の拡散が制限

× 酸素の拡散を防ぐのが困難

エネルギー拡散に基づくメカニズム

○ 溶媒が不要

○ 低励起光強度で機能可能

○ 酸素バリア能の付加が可能

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結晶、ゲルなど多様な集合系で実証

Molecular liquid

J. Am. Chem. Soc. 2013

Gel (supramolecular)

J. Am. Chem. Soc. 2015

Supramolecular assembly

Sci. Rep. 2015

Chem. Sci. 2016

Faraday Discuss. 2017

Crystal

Angew. Chem.

Int. Ed. 2015

Chem.-Eur. J. 2016

J. Photon. Ener. 2017

Liquid crystal

Ionic liquid

Angew. Chem.

Int. Ed. 2015

PCCP 2017

Molecular glass

J. Am. Chem. Soc. 2016

J. Mater. Chem. C 2017

本新戦略に関する初めての総説:Chem. Commun. 2016, 52, 5354.

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固相(結晶)中におけるアップコンバージョン

J. Photon. Ener., 2017, in press.

(upconversion special issue) Chem.-Eur. J., 2016, 22, 2060.

Flexible alkyl chains

Miscible

課題:アクセプター結晶中にドナーを凝集させずにドープ

速度論的制御により解決 熱力学的制御により解決

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水中集合化によるアップコンバージョン

ドナーと共集合化

Chem. Sci. 2016, 7, 5224.100 nm

集合化により酸素ブロック能を発現

3O2

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従来技術の問題点とその克服

①揮発性の有機溶媒を使う必要がある

⇒新戦略「エネルギーマイグレーション」で解決

②最も重要な近赤外光→可視光が不可能

⇒新しいメカニズムを開発することで可能に

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近赤外光→可視光:不可能を可能に

Donor

S0

Acceptor

T1 T1

S1

TTA

新しいメカニズム

課題:ドナーの系間交差の際のエネルギーロス

1: S-T吸収 (J. Am. Chem. Soc., 2016, J. Mater. Chem. C. 2017)

2: 半導体ナノ粒子 (Chem.-Eur. J. 2016, Chem. Commun. 2017)

3: TADF分子 (J. Mater. Chem. C. 2016)

Donor

S0 S0

S1

Acceptor

T1 T1 T1

S1

TTET

TTA

(効率が悪い)

新メカニズムをまとめた初めての総説 : Acc. Chem. Res., 2017, 50, 2487.

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Singlet-to-Triplet (S-T) 吸収の利用

Segawa et al. J. Phys. Chem. Lett. 2012, 3, 394

吸光係数 2000~3000 M-1cm-1 (at 840 nm)

1MLCT

3MLCTシングレットからトリプレットへの直接励起

(通常はスピン禁制) Larramona and Bignozzi et al. J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 15342

T1

AcceptorDonor

S1

S-T

吸収

××

T1

1MLCT

3MLCT

近赤外域にS-T吸収を示すOs錯体

J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 8702.

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フィルム化が可能

SDS水溶液に再沈殿

PVA

に分散

λem = 580 nm

λex = 938 nm

空気中で近赤外→可視UCを示すフィルム

500 nm

1 : 250 (in THF)

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固体フィルム中での性能

(lex = 730 nm, 700nm Short pass filter, in air)

UC quantum yield Phosphorescence lifetime

(lex = 890 nm, Long pass filter 940 nm, em990nm)

8.0 ns

tD

17.7 nsD1-PMMA

D1+rubrene-

PVA

3.0E-03

3.0E-02

3.0E-01

-30 0 30 60 90 120 150 180 210 240

PL in

ten

sity a

t 9

90

nm

(a

.u.)

Time (ns)

効率的なエネルギー移動により高い効率を達成

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2つのコンセプトにより実現

エネルギーマイグレーション

S-T吸収

J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 8702.

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分子設計により変換波長を制御可能

400 500 600 700 800

Inte

nsity

(a.u

.)

Wavelength (nm)

0.98 eV462 nm

λex =

730 nm

• 青色発光• 低いT1 (~780 nm)

• 700 nm付近にS-T吸収を有する(ε~3000 cm-1 M-1)

• 比較的長いトリプレット寿命 (~200 ns)

UC emission spectra (溶液系)(Donor = 20 mM, acceptor = 2 mM, DMF, under Ar) λex =

730 nm

J. Mater. Chem. C, 2017, 5, 5063.

(過去最大のアンチストークスシフト幅)

近赤外→青の変換に初めて成功

𝛷𝑈𝐶’ = 2.7%

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量子ドットも増感剤として働く

Chem.-Eur. J. 2016, 22, 7721.

無機の半導体ナノ粒子(量子ドット)も増感剤として利用可能に

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ペロブスカイトによる増感

3Dペロブスカイトがトリプレットを増感した初めての例

Chem. Commun. 2017, 53, 8261.

CsPbBr1.7I1.3にアクセプターを修飾

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新技術の特徴・従来技術との比較

従来:揮発性有機溶媒を用い、応用に不向き

⇒集合系におけるエネルギーマイグレーションにより、無溶媒条件で高効率アップコンバージョン(~20%)

従来:水中では溶存酸素により消光

⇒酸素ブロック能を有する密な集合体の形成により、空気で飽和した水中でもアップコンバージョンを達成

従来:近赤外光の利用が困難

⇒系間交差のエネルギーロスを回避した新しいメカニズムにより、近赤外光→可視光の高効率な変換を可能に

固体・空気中で近赤外光を可視光にアップコンバージョンする材料

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想定される用途

• 太陽電池、光触媒の高効率化

• バイオイメージング、生体内光治療

• 非線形光学素子

• 空気中で不安定な化学種の安定化・利用

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実用化に向けた課題

• 近赤外光→可視光の変換効率の向上

• 耐久性の検証と向上

• 実デバイスへの組み込みと最適化

• 希少元素フリー化、低コスト化

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企業への期待

• 太陽電池や光触媒にアップコンバージョンを組み込み、評価できる企業との共同研究

• 光が関わる創薬、診断、ヘルスケアを行う企業との共同研究

• 耐久性に優れた色素を有する企業との共同研究

• オプティクス、フォトニクスに強い企業との共同研究

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本技術に関する知的財産権

• 発明の名称 :フォトンアップコンバージョン組成物

• 出願番号 :特願2016-551467, 特開2016-536449

特願2015-179473, 特開2016-56368

特願2015-198163,特開2016-74898

特願2016-046787,特開2016-183331

• 出願人 :九州大学

• 発明者 :君塚信夫、楊井伸浩等

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九州大学 学術研究・産学官連携本部

知的財産グループ

TEL 092-832-2128

FAX 092-832-2147

e-mail [email protected]