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新規機能性素材創生およびデバイス化のための 先端プロセス構築技術に関する調査委員会 2009 年度調査報告書 平成 22 年 3 月 社団法人 新化学発展協会

新規機能性素材創生およびデバイス化のための 先端プロセス構築技術 … · 開発される機能性素材やそれらのデバイス化技術は、先端技術を支える重要な

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新規機能性素材創生およびデバイス化のための

先端プロセス構築技術に関する調査委員会

2009 年度調査報告書

平成 22 年 3 月

社団法人 新化学発展協会

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ま え が き (社)新化学発展協会では化学フロンティア事業の一環として、新素材産業を

中心としたさまざまな分野における技術課題の発掘と、産業界の発展に貢献す

るための提言を行うことを目的とした調査活動を継続的かつ精力的に行ってい

ます。 本報告書は先端化学技術部会・高選択性反応分科会内に設置された「新規機能

性素材創生およびデバイス化のための先端プロセス構築技術に関する調査委員

会」(委員長:佐藤智司)において、平成 21 年 4 月から平成 22 年 3 月まで行

われた調査委員会活動の結果です。 本調査を行うにあたり、本調査委員会メンバーの所属会社をはじめ、協会会員

会社の皆様には多大なご尽力、ご協力をいただきました。ここに感謝いたしま

す。

平成 22 年 3 月 (社)新化学発展協会

新規機能性素材創生およびデバイス化のための 先端プロセス構築技術に関する調査委員会

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目 次

はじめに 4

第 1 章 先端材料に関するトピックス 5

第 2 章 超原子価ヨウ素触媒の液相酸化反応 15

第 3 章 新規反応場としてのマイクロ波プラズマの利用 19

第4章 イオン性液体の反応場利用 23

化学工業日報紙触媒関連記事ダイジェスト 32

講演会記録 46

研究機関訪問調査記録 49

調査委員会名簿 50

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は じ め に

化学関連企業は、省資源・省エネルギーを実現しつつ生産活動を継続させ、

持続的発展社会への貢献が求められています。環境への廃棄物負荷の低減を求

められる次世代の高効率工業プロセスでは、廃棄物の多い既存プロセスからの

クリーンなプロセスへの転換が必要です。これらのプロセスの核となる新規に

開発される機能性素材やそれらのデバイス化技術は、先端技術を支える重要な

技術になると考えます。

本委員会は、会員企業から 19 名、会員外企業 2名、大学関係者 3名、産業技

術総合研究所 1名の参加を得て平成 21 年 4 月に発足し、11 ヶ月間の調査活動を

とおして新規機能性素材の開発とこれに関連するデバイス化技術についての報

告をまとめました。異種業種から多賀恵子さん(化学工業日報)、田村祐介さん

(ヒューリンクス)に本委員会に参加いただき、委員会活動に助言いただきまし

た。委員会では、議論の時間を十分に取って、 先端技術に関する詳細な議論

をしました。また、関連する講演会を合計 8 回開催し、16 名の講師の先生方か

ら話題を提供していただき、材料の将来性にまで突っ込んだ詳細な議論をして

いただきました。

本報告では、調査・講演会を通して、新規機能性材料の 近の話題を委員が

手分けして調査した結果を報告します。第1章で先端材料に関するトピックス

について、πスタック型高分子、ブロック共重合体のミクロ相分離などの新し

い例を紹介します。第2章では、超原子価ヨウ素触媒について、液相酸化反応

への利用の観点から紹介します。第3章では、新規反応場としてのマイクロ波

プラズマの利用について紹介します。第4章では、イオン性液体の反応場利用

について紹介します。今後の研究・開発のご参考になれば幸いです。

新規機能性素材創生およびデバイス化のための

先端プロセス構築技術に関する調査委員会

委員長 佐藤智司

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第 1 章 先端材料に関するトピックス

はじめに

新日本石油 松村 泰男

材料の物性・機能発現は材料そのものの性質に依存する。そのミクロな高次

構造とも大きなかかわりがあり、高次構造制御は重要な課題である。

近よく耳にする「自己組織化」とは自然界において物理や化学の法則に従

い自分自身で組織や構造を作り出す性質のことで、有機材料、無機材料にも見

られる性質である。

その性質を利用した機能材料創製への取り組みが盛んに試みられている。比

較的小さな分子が自然に集まって構築する、超分子、SAM(Self-Assembling

Monolayer)や、反対に巨大な高分子が集まるブロックコポリマーなどがある。

また、生物が作り出すバイオミネラルも、天然の有機物と無機物がナノレベル

で複雑に絡み合ったハイブリッド材料で、水中での結晶成長が自己組織化につ

ながっている。これらはバイオミメティックの材料の設計にも見られる。この

ような組織化された構造を利用することで、一例として微細パターン作製技術

に応用できればナノデバイスの大量生産を可能とする技術になるものと期待さ

れて、興味を集めている。

また、材料開発の歴史は、構造材・ガラス・半導体などに利用されている優

れた特性を持つ金属材料や無機材料を有機材料に置き換える方向で進んでいる。

例えば、無機材料の電気的・光学的等の優れた特性は保持したまま、その短所

(脆さ・重さ)を有機材料の多様性・柔軟性・軽量といった使いやすさを追求

することで開発が進んでいる。

2009 年度開催した先端材料開発に関する講演会から、上述の観点で下の 4 つ

を取り上げ、紹介する。大局的というよりはトピック的に採り上げているため、

まとまりの無い文章になっている点はあらかじめお詫びいたします。

1. 芳香環の重なり特性を利用したπスタック型高分子

2. ブロック共重合体のミクロ相分離の秩序化

3. バイオミメティック材料

4. 塗布可能な有機半導体の開発

1.芳香環の重なり特性を利用したπスタック型高分子

新日本石油 松村 泰男

高分子材料の物性・機能は高分子鎖の高次構造と大きなかかわりがあり、高

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次構造制御は重要な課題である。主鎖中にスピロ構造あるいはカルド構造を有

する高分子は興味深く、数多くの報告がある 1)-3)。 特に主鎖にπ電子が直交し

た構造をもつ高分子は、ポリマー主鎖の回転、主鎖及び側鎖の構造、分子間パ

ッキングの阻害等により高い機械的強度、高耐熱性、溶解性、高透明性、高屈

折率、低複屈折率、低誘電率等の優れた特性を持つため、光学レンズをはじめ

として様々な用途に用いられている。

近、北大中野らは高分子側鎖のπ電子系が狭い間隔で規則正しく積層した

新規な構造を持つπスタック型高分子を合成し(図 1)、その物性と機能につい

て報告している 4)-6)。その内容の一部紹介する。

ジベンゾフルベン(DBF)およびその誘導体は、かさ高いビニルモノマーにも

かかわらず極めて重合活性が高く、アニオン・カチオン・ラジカルのいずれの重

合形式でも容易にビニル重合し、πスタック型高分子(poly(DBF))を与える。

得られたポリマーはπ電子系に電荷の非局在化することが示されている。そ

の電気的性質は、ビニルポリマーとしては も高いレベルのホール移動度を示

し、主鎖型π共役高分子ポリフェニレンビニレン(PPV)よりも高い値を示す。

また、芳香環に電荷の非局在化が見られ、電荷輸送媒体の可能性が示唆されて

いる。

ここで主鎖に直交するフルオレン単位は僅かにねじれたコンフォメーション

を示す。更に、不斉アニオン重合法によりキラル末端基(開始基)を導入する

ことで、πスタック型高分子主鎖のねじれを一方向巻きに制御出来、光学活性

高分子を得ることに成功した 7)。そのなかにはキラル識別能を示す高分子もある

と報告されている。

このように、主鎖に直交する芳香環を持つ新規なπスタック型高分子の特異

図 1.ジベンゾフルベンの重合によるπスタック型高分子

(参考文献 5より抜粋)

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な高次構造は、特異な電子物性およびキラル性を示し、今後の機能材料として

の応用・展開が期待される。

参考文献 1) S. Kawasaki et al., Macromolecules, 40 (2007) pp.5284

2) S. Kawasaki et al., Polym. J., 39 (2007) pp.115

3) T.Takata et al., J. Polym. Sci., Part A: Polym. Chem., 45 (2007) pp.3073

4) T.Nakano et al., J.Am.Chem.Soc., 123 (2001) pp.9182

5) T.Nakano et al., Macromolecules, 38 (2005) pp.8140

6) T.Nakano et al., J.Am.Chem.Soc., 125 (2003) pp.15474

7) T.Nakano et al., J.Polym.Sci., Part A. Polym.Chem., 47 (2009) pp.239

2.ブロック共重合体のミクロ相分離の秩序化

新日本石油 松村 泰男

互いに相溶しない異種高分子を共有結合させた線状ブロック共重合体は、相

分離によって平板構造 (ラメラ)、円筒構造 (シリンダー)、球状構造 (スフ

ィア) 等の様々な周期的秩序メソ構造を形成し(図 1)、その相分離過程は周期

構造の長さスケールが高分子の鎖長以下 (典型的には,10-100 [nm] 程度) で

あることから、ミクロ相分離と呼ばれる自己組織化を発現する。 自己組織化に

よるブロック共重合体のドメインサイズは、分子量と相関して増大することが

報告されている。また、リビング重合等のブロック共重合体の合成方法の進化

に伴い、分子量分布の狭い高分子が出来るようになり、ドメイン構造の均一性

が向上できるようになった 1)。 このナノスケールのドメイン周期構造を利用し

た自己組織化を用いて周期パターン構造を形成し、表面のパターン形成に利用

する研究は盛んになっている。

図1.概念図

このようにブロック共重合体のミクロ相分離を利用して作製した表面パター

ンは、スピンコートと単純な熱処理だけで微細加工パターンが作製できる特徴

を持ち、コストと時間の面で圧倒的な優位性を持つ。しかし、微細パターンは

狭い範囲では均一に見えるが、広い範囲で見るとパターンの欠落があったり縦

横に整然と配列しているとは言いがたく、工業的に利用するには広範囲な均一

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化が重要である。

これらを解決するには、ブロック共重合体薄膜の表面・界面、更には外場に

よるパターン制御が必要となり、制限要素によって(1)基材の界面制御、(2)化

学的パターン構造の利用、(3)エピタキシャル成長の利用、等の外に、電場・せ

ん断力・溶媒蒸発等の外場付与によるパターン制御等が提案されている。

化学的パターン構造を利用した制御法(ケミカルレジストレーション法)2)

について少し紹介する。

まずエッチングプロセスを利用して平面の基板表面に周囲とは化学的性質の

異なる化学パターン構造を形成し、微細なマスクを作る(図2)。その化学パタ

ーン構造で区切られた領域に二次元的にブロック共重合体のミクロドメインを

成長させることで、ドットパターンの欠落を抑えた良好なパターン制御が出来

(図3)、ドメイン構造の広範囲化に有望な方法として研究が進められている。

図 2.エッチングプロセスを利用した化学パターン構造形成

(参考文献 2)より抜粋)

図 3.ケミカルレジストレーション法による PS-PMMA ブロック共重合体(SMMA)の SEM

(参考文献 2)より抜粋)

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このように、分子量分布の狭いブロック共重合体の自己組織化(ミクロ相分

離)にリソグラフを利用したケミカルレジストレーション法の外的制約を組み

合わせることにより、広範囲で均一なパターン構造が構築できる。この高密度

ナノパターン化技術を集積回路等に応用できれば、産業に大きく貢献すること

が期待できる。

参考文献 1) T.Hashimoto et al., Macromolecules, 18 (1985) pp.1864

2) M.Takenaka et al., Macromolecules, 41 (2008) pp.9267

3.バイオミメティック材料

ダイセル化学工業 清水 潔

はじめに

バイオミネラリゼーションとは生物が無機鉱物を作る作用を意味し、その結

果得られる鉱物(ミネラル)はバイオミネラルと呼ばれる。甲殻類の外骨格や

貝の真珠層、魚のうろこ、骨、ココリス(円石藻が形成する殻)や魚の耳石等

で、構造の解明から人工的な形成まで多くの研究がなされている 1)-6)。多くのバ

イオミネラルは、単なる結晶の集合体という単純な無機構造体ではなく、複雑

で巨大な無機・有機複合体であり、多くは階層構造を持ち、無機結晶は配向し

ていることが確認されている。

バイオミネラルは従来の有機材料、無機材料では達成しえない高機能な有機/

無機ハイブリッド材料として期待され、人工的に作成には自己組織化等を利用

したバイオミメティックアプローチは環境低負荷・省エネルギーなスマートプ

ロセスとして重要である。

代表的なバイオミネラルとして貝の真珠層 8)-10)とウニの骨格の構造 7)、自己組

織化による水溶液から生成したバイオミメティック材料の例 10)11)を紹介する。

バイオミネラルのナノ構造

バイオミネラルの結晶構造は複雑な階層構造を有すると考えられているが、今

井らはナノ結晶が部分的に連結した架橋ナノ結晶(ナノモザイク結晶 図 1(a))

を提案している 7)。

架橋ナノ結晶は有機分子に取

り囲まれてナノサイズ化してい

る点、マクロには単結晶(図 1

(b))としてふるまう点はメソ

クリスタル(ナノ結晶がイオン

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や有機高分子を媒介にして方位をそろえたもの (図 1(c)))に類似しているが、

架橋ナノ結晶の微小結晶はミネラルブリッジによって連結し、その結晶学的方

位が保持されていることに特徴がある。

図 2 に真珠貝の真珠層 8)-10)、図 3 にウニの骨格 7)の操作型顕微鏡(SEM)と透

過型電子顕微鏡(TEM)のイメージを示す。

これらバイオミネラルは、マイクロには特異な形態を示しているが、ナノレベ

ルでは 20~100nm のナノ結晶が配向

した集積によって構成されている。ナ

ノ結晶の集合体の電子線回折ではス

ポットパターンがみられ(図 3(a))、

凝集体の外形も単結晶のような菱形

を示す場合がある(図 3(b))ことか

ら、これらの結晶方位は単結晶のよう

に揃っていると考えられる。また、ミ

ネラルブリッジも観察されている(図

3(c))。

合成高分子による硫酸カルシウムの真珠層類似形態の形成

硫酸カルシウム K2SO4とポリアクリル酸 PAA(分子量 250000)水溶液の水を蒸

発させることによってナノ結晶の集積による階層的な層状形態作成が観察され

ている(図 4)10)11)。層状構造は 0.5~1.0μm 厚の板状ユニットの積層体であり、

板状ユニットは 20nm のナノ結晶から構成されている。電子線回折のスポットパ

ターンからナノ結晶は配向していることが明らかになっている(図 4(c))。これ

は K2SO4に強く吸着する PAA が架橋ナノ結晶の集積を誘起するだけではなく、過

剰に存在する PAA が水中のイオンの拡散を抑制し、拡散律速な環境を生み出す

ことでマクロな層状構造も形成されると考えられる。

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終わりに

バイオミネラルなどに代表される生物由来の有機・無機ハイブリッド構造体

は階層構造を持つ材料であり、架橋したナノ結晶は生体高分子とともに配向し

て成長し、さらにマクロな配向構造を形成していると考えられる。近年の研究

により、生体高分子ばかりでなく合成高分子でもこのような緻密な構造を生み

出すこと可能であることが分かってきた。

バイオミネラルを模したバイオミメティック材料が、安価に製造できれば、

機能材料の新しい材料・製法として産業に大きく貢献すると考えられる。今後

の研究に期待したい。

参考文献 1) 園部治之ほか,化学と生物,40 (2002) pp.101

2) 加藤隆史 監修, バイオミネラリゼーションとそれに倣う新機能材料の創製, シーエムシ

ー出版 (2007)

3) S.Blank et al., J.Microsc., 212 (2003) pp.280

4) 和田浩璽,セラミックス, 28 (1993) pp.12

5) X.Li et al., Nano Lett., 4 (2004) pp.613

6) K.Takahashi et al., Chem.int.Ed., 55 (2005) pp.6571

7) 今井宏明, 日本接着学会誌, 43 (2007) pp.405

8) X.Li et al., Nano Lett., 4 (2004) pp.613

9) K.Takahashi et al., Chem. Comm., (2004) pp.996

10) Y.Oasaki, et al., Adv. Funct. Mater., 15 (2005) pp.1407

11) Y.Oasaki, et al., Langmuir, 21 (2005) pp.863

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  表-1 有機薄膜トランジスタの用途と要求性能

用途 移動度(cm2/Vs) On/Off比

電子ペーパー 0.01 >105

液晶ディスプレイ 0.3 >105

有機ELディスプレイ 0.5 >105

バーコードの代替品 0.3 >102

4.塗布可能な有機半導体の開発について

昭和電工 内田 博

はじめに

有機半導体は、有機ELディスプレイや有機電界効果トランジスタ、有機太陽電

池といった新デバイスの基礎材料として注目されている。特に有機材料は、プラ

スチック基板上に薄膜作成することにより、通常用いられる無機材料(シリコ

ン)と比べ、機械的フレキシビリティー、軽量性、耐衝撃性、薄型性などの特性を

実現できる。また、分子そのものが機能を有するため製造工程を簡略化し、溶液

プロセスで、プリンタブル材料として短時間に低コストで薄膜作成できる。有機

半導体を溶液塗布するためには、①高分子を利用する方法、②有機半導体に置換

基を導入して可溶化する方法、③可溶性の前駆体を溶液塗布した後に、熱または

光で変換する方法が知られている。

有機薄膜トランジスタに求められる性能と現状

有機薄膜トランジスタに

は、使用される用途によって

表 1 に示される性能が求め

られている。

このような性能を満たす

ためには、①の高分子を利用

する方法では、例えば側鎖に

置換基のついたポリチオフェン 1)では、比較的低コストで製造できるものの、重

合時の再現性、高純度化が困難であるという問題点がある。

②の可溶化置換基を導

入する方法については、置

換アントラチオフェンを

用 い て 、 移 動 度 が

1.5cm2/Vs と低分子蒸着系

と同様にアモルファスシ

リコーンに匹敵する性能

を示すものも出てきてい

る 2)。これは性能的には不

利になる絶縁性の側鎖を

導入しても、図 1 に示されたように、長鎖アルキル基や嵩高い基により分子配

列を制御することが出来るためと思われる。

図 1 置換アントラチオフェンの Crystal packing ki

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図-3 合成スキームReagents, conditions, and yields:(i) OsO4, NMO, acetone,rt; 98%;(ii) DMSO, TFAA, Et3N, CH2Cl2, -60℃; 43%;(iii) Vinylenecarbonate, xylene, 170℃; 80%;(iv) NaOH, EtOH, reflux; 90%.

HOHO

OO

O

OO

(i)

(ii)

(iii)

(iv)

③についてはペンタセンのような

真空蒸着により性能が確認されてい

る低分子結晶性薄膜に、熱または光反

応により脱離可能な置換基を導入し

(図 2参照)、溶媒可溶とした後、塗

布により成型後熱や光反応で有機半

導体に変換できることが報告されて

いる 3)。ただし、真空蒸着により得ら

れた薄膜に対し、移動度は一桁小さく

変換時の更なる効率化が望まれる。ま

た熱変換の場合には高温での加熱が

必要であり、有機フィルムに

塗布する場合には、低温での

処理が可能な光変換型の有

機半導体の開発が望まれて

いた。この目的に沿って、光

については、図 3のスキーム

により合成された 6,13-ジヒ

ドロ-6,13-エタノペンタセ

ン-15,16-ジオンが、光照射

により効率的にペンタセン

に変換できることが見つけ

られており 4)、更にベンゾポ

リフィリン等の他の色素に

応用されることが期待される。

終わりに

アモルファスシリコーンに匹敵する移動度を持つ有機半導体が開発されてき

ており、今後、フィルム状ディスプレイの実現への期待が高まっているが、普

及を促進するためにも、インクジェットやスクリーン印刷により安価に製造で

きることが望まれる。そのためには、高い溶解性を持つとともに、高い電子移

動度を持つ有機半導体材料の開発が望まれる。高分子法よりは、置換基導入法や、

可溶性の前駆体法のほうが、より高性能な有機半導体を再現性よく得られる可

能性があるように思われるが、いずれにしても決定的な手法はまだ確立されて

いない。今後の技術展開により、安価なフレキシブルディスプレイの製造法が

実用化されることを期待したい。

1m ol% CH 3ReO3C HCl3, ref lux 120-200℃

+ N

O

S O

NO

O

S

図2 熱変換可能置換ペンタセン

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参考文献 1) R. L. Elsenbaumer, et al., Synth. Met., 15 (1986) pp.169

2) S. Subramanian, et al., J. Am. Chem. Soc., 130 (2008) pp.2706

3) A. Afzali, et al., J. Am. Chem. Soc., 124 (2002) pp.8812

4) a) H. Uno, et al., Tetrahedron Lett., 46 (2005) pp.1981

b) H. Yamada, et al., Chem. Eur. J., 11 (2005) pp.6212

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第 2 章 超原子価ヨウ素触媒の液相酸化反応

日本触媒 永村裕生 1. はじめに

近、酸化触媒として超原子価ヨウ素が注目されている。ヨウ素は、容易に

酸化されてその原子価を拡張し、オクテット則を超える超原子化合物を形成す

るため、遷移金属のような酸化・還元性を示す 1)。

1980 年代初期に、超原子価ヨウ素化合物が、水銀、タリウム、鉛等の重金属

酸化剤と類似した反応性を示すことがわかり、また低毒性であることから一躍

注目を集めるようになった。

また、超原子価ヨウ素化合物は分子設計にも多様性があり、合成が比較的容易

であるため、多種多様な酸化反応に優れた選択的酸化触媒と位置づけることが

出来る。 近の研究事例を紹介する。

2. 触媒

1994 年、2-ヨードキシ安息香酸(IBX)がアルコールの酸化触媒となることが

Frigerio らによって初めて報告された。

近、名古屋大学・石原教授らは、酸化剤 OxoneⓇ(2KHSO5・KHSO4・K2SO4)存

在下、2-ヨードベンゼンスルホン酸(pre-IBS)を用いたアルコールなどの選択

的酸化反応を開発した。実質の触媒は、2-ヨードキシベンゼンスルホン酸(IBS)

であり、Pre-IBSと OxoneⓇから in situで調製される。IBXよりも高活性であり、

また Pre-IBS には市販の Na 塩や K塩もそのまま使用することもできる 1)。

図 1 IBS 触媒の反応機構 2)

3. アルコールの酸化

共酸化剤 OxoneⓇ存在下、0.05~1mol%の 2-ヨードベンゼンスルホン酸(pre-IBS)

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を用いアルコールの酸化反応を行うと、第 2 級アルコールはケトンに、第 1 級

アルコールは OxoneⓇの添加量を制御することによって、アルデヒドにもカルボ

ン酸にも選択的に酸化できることを報告している。

図 2 アルコールのケトン、アルデヒド、カルボン酸への選択的酸化反応 2)

環状アルコールの場合は、環状ケトンへ酸化できる。共酸化剤 OxoneⓇを過剰に

用いると、α、β-不飽和ケトンまで酸化可能である。

図 3 環状アルコールのα,β-不飽和ケトンのカスケード酸化反応 2)

また、4-tert-ブチルシクロヘキサノールを酸化すると、OxoneⓇの添加量を制御

することで、4-tert-ブチルシクロヘキサノン、4-tert-ブチルシクロヘキセノ

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ン、及び 4-tert-ブチル-ε-カプロラクトンに選択的に変換することができる。

図 4 環状アルコールの環状エノン、ラクトンへの酸化反応 2)

4. 研究動向

石原教授らが開発した IBS の触媒能を紹介したが、このほかに多様な超原子価

ヨウ素化合物が提案されている。例えば 5-Me-IBS のように置換基の設計による

高活性化(Fig5)2)や、反応後に分離、ろ過可能なリサイクル型超原子価ヨウ素触

媒(Fig6)3)である。また将来的には共酸化剤に過酸化物を用いるのではなく、分

子状酸素を用いようとする研究も行われている。

図 5 置換基効果(IBS Vs 5-Me-IBS) 図 6 リサイクル型超原子価ヨウ素触媒

5.終わりに

超原子価ヨウ素化合物は、従来の重金属酸化物と比べ環境調和型の触媒として、

今後工業生産レベルでの実用化が大いに期待されている。

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18

参考文献 1) 石原一彰, 有機合成化学講習会, 2009 年 11 月 18 日, pp.63

2) 中村繁生, ファインケミカル, 2009 年 12 月号, pp.37

3) NEDO 技術開発 H15 年度報告会 セッション E-17

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19

第3章 新規反応場としてのマイクロ波プラズマの利用

コスモ石油 水谷 洋

マイクロ波は波長が 1cm~1m、周波数が 300MHz から 30GHz の領域の電波であ

る。従来、マイクロ波はレーダーや電子レンジの加熱源など限定的に利用され

ていたが、 近では、携帯電話や無線 LAN などに応用されている。これまでの

マイクロ波による実用化技術としては、局所加熱効果を利用した工業用加熱、

低温殺菌、セラミックスの焼結・接合等が挙げられるが、 近では、局所反応

場の形成や非熱的反応効果を利用した機能性ポリマー、機能性炭素材料、有機

系ファインケミカルズ、及び金属錯体・金属ナノ粒子の高効率生産、診断・治

療、酵素反応・バイオリアクター等への応用研究が盛んに行われるようになっ

てきた。マイクロ波による化学反応への応用では、ターゲット分子への効率的

な内部加熱や選択加熱により、従来の研究開発では実現できなかった非平衡組

織・構造を有する高性能新素材合成に関するプロセスのシンプル化、無溶媒プ

ロセス化、反応装置の小型化が実現することが期待できる。

また、 近ではマイクロ波、高周波を利用した化学プロセスに関する研究開

発では実用化の段階まで進んだものも出てきた。学術的に解明された事実とし

て、反応系中に存在する誘電触媒が高効率化のキーとなっているケースがあり、

周波数の拡大に伴う分子の活性化が明らかとなってきたことから、革新的な化

学プロセスが構築できる可能性が広がってきた。

一方、プラズマとは一般には電離した気体のことを指し、通常の気体を構成

する中性分子が電離し、正の電

荷をもつイオンと負の電荷を

もつ電子とに別れて自由に飛

び回っている、全体として電気

的に中性な物質である。しかし、

構成粒子が電荷をもつため、粒

子運動がそれ自身のつくり出

す電磁場と相互作用を及ぼし

あうことにより、通常の分子か

らなる気体とは大きく異なっ

た性質をもつ。プラズマの状態

を図 1に示す 1)。

代表的なプラズマの電子密度と温度を図 2に示す 1)。プラズマの密度と温度の

パラメータ領域は非常に広いことが分かる。

図1.プラズマの状態

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20

図2.プラズマの電子密度と温度

プラズマの特徴として、中に多数の自由電子があるため電流が極めて流れや

すいという点が挙げられる。電流が流れればその近辺に電磁場を生じ、それが

またプラズマ自身の行動に大きく影響する。そのためプラズマ中では粒子は集

団行動をとりやすく、全体として有機的な挙動が観測される。外部から電磁場

を掛ければそれに強く反応する。こうした有機的挙動の 1 つの現れとして、プ

ラズマ中には通常の気体中には存在しない、電場を復元力とする縦波であるプ

ラズマ振動が存在する。

プラズマには高温プラズマ(プラズマを構成する粒子すべての温度が高い状

態、熱プラズマ)と、低温プラズマ(電子温度のみが高い)があり、金属の内

部や蛍光灯の内部は低温プラズマと見なされる。高温な熱プラズマは数万ケル

ビンにも及び、地球上のあらゆる物質を溶かしてしまうため、高融点の材料の

開発が求められている。 なお、種々のプラズマにより、核融合、プラズマディ

スプレイ、溶接、プラズマロケット、カーボンナノチューブをはじめとする立

体構造を持つ様々な機能・特性を備えたハイテク新素材の生成技術など、その

応用分野は広い。

レーザーアブレーションは、固体材料に強力なレーザーを照射することで、

固体材料を気化し高密度プラズマを得る技術である。薄膜作成、クラスター生

成、材料加工、医療、エネルギーなどの広範な分野で応用されている、 も発

展的な分野のひとつである。シリコンなどの半導体にイオンを注入する手法は

以前からあったが、近年制御性に優れたプラズマイオンを照射する技術が確立

されたことにより、さまざまな原子や分子を直接ターゲットに注入し、アルカ

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リ金属内包ナノチューブをはじめとする新機能超分子構造物質の創製が可能に

なった。磁化プラズマを用いる分野では、スパッタの技術によってさまざまな

機能性薄膜の形成が試みられている。高精度でプラズマを生成して制御する技

術が確立した結果、従来よりもはるかに高品質のダイヤモンドを生成すること

にも成功している。液中プラズマは、液体中でプラズマを発生させる技術であ

る。液体に超音波で気泡を発生させて、その気泡に電磁波を照射することでプ

ラズマを発生させる。周りが液体であるため、非常にたくさんの原料を溶液か

ら供給することができ、さらに材料が高温に晒されて燃えるといったことなど

がない利点を持つ。そのためプラスチックや紙などの母材にも、さまざまな物

質をメッキすることが可能になる。レーザープラズマ加速器は非常にコンパク

トで高出力が得られる特徴を持つ。キャピラリー放電型プラズマチャンネルに

よって数十億電子ボルトのビーム加速に成功している。核融合のプラズマから

電力を得るには、猛烈な勢いを持つ荷電粒子を減速させるための逆電界を印加

するだけでよい。粒子の運動エネルギーを直接電気エネルギーに変えることが

出来るため、80%を超える極めて高い変換効率が実現可能である。従来の原子力

のタービンを用いた熱-電気変換効率が 30%程度であることを考えると、プラズ

マの直接発電は画期的と言える。

プラズマボールが放電によって電界と磁界を生み出す性質や、発生している電

磁波を視覚的に捉えやすいことなどもあって、次世代型の健康的な電化生活環

境を構築するための基礎研究用の実験装置として用いられている例もある。

半導体内での電子と正孔や、金属内の電子の振る舞いはプラズマと酷似してい

るため、固体プラズマと呼ばれる。

プラズマ放電の開始には、気体中に初期電子が存在する必要がある。初期電

子はフィラメント加熱による熱電子放出、強い電界効果による冷電子放出、強

い光或いは宇宙線や放射線などで励起されるなどして電離し生成される。

この初期電子に外部からマイクロ波電力などのエネルギー(電界)を加えると、

加速されて高エネルギー電子となり、分子や原子と衝突しエネルギーの移動が

起きる。このエネルギーの交換により中性の分子や原子はイオンと電子に電離

したり、分子及び原子を励起したり、原子状のラジカルを生成したりして種々

の活性状態が得られる。この放電プラズマを持続させる放電(電離)エネルギ

ーの供給手段として、電波ではマイクロ波エネルギーと高周波エネルギーによ

るものがある。

このように、プラズマを発生させるためのエネルギー供給手段としてマイク

ロ波を利用したマイクロ波プラズマを反応場としたプロセス技術として 近で

はエネルギー分野への応用例も報告されている。アルゴンガスを用いたマイク

ロ波プラズマ反応によるバイオマスの転換への応用が報告されている 2)。減圧下

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でガスにマイクロ波を照射すると容易にプラズマ状態となることを利用し、マ

イクロ波プラズマで生成する高活性化学種により効果的に固相から気相への分

解が進行するものであり、プラントベースまでスケールアップの技術が確立さ

れている。また、石炭の分解反応への適用例として、マイクロ波プラズマ法に

よる炭種の元素組成に基づく反応性の予測に関する報告例もある 3)。加えて、石

炭の分解反応においてを用いた場合、ガスプラズマの違いが反応に及ぼす影響

に関する研究例として、ヘリウムや二酸化炭素も報告されている 4)。

参考文献

1) 京都大学大学院工学研究科 原子核工学専攻 核エネルギー物理工学研究グループ 福山

研究室のHPより

2) 小林基樹ほか, 日本エネルギー学会誌, 84 (2005) pp.468

3) 篠原千明ほか, 石炭科学会議発表論文集, 39 (2002) pp.165

4) 堀江高司ほか, 石炭科学会議発表論文集, 37 (2000) pp.369

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第4章 イオン性液体の反応場利用

産総研 杉山順一

はじめに

食塩(塩化ナトリウム)に代表されるように、イオン結合によって構成され

る材料は、その静電引力の強さから原子あるいは原子団の動きが束縛され、一

般に固体である。しかしながら食塩も加熱すれば 801℃で液体に、1413℃で気体

になることは周知の通りである。食塩の例では塩化物イオン、ナトリウムイオ

ンが比較的小さく、また原子状であるため構造の乱れもないと考えると、融点

を低くするにはこれらの特徴を打ち消す構造にすればよいことが予想される。

アニオン種、カチオン種を構成する原子団が立体的に大きければ互いに近づき

難くなり、静電引力は距離の二乗に反比例して原子団を束縛する力が弱くなる。

あるいは長鎖の置換機を導入することによって構造の乱れが大きくなると結晶

化しにくくなる。前者はエンタルピー項、後者はエントロピー項に基づく融点

の降下である。これらの効果が十分に大きくなると、より低い温度でも溶融状

態を保てることとなり、結果として常温、あるいは有機反応において使用され

る範囲の温度でも液体としての性質を示す溶融塩となる。有機塩では分子構造

を多種に設計できるため、このような溶融塩を実際に手に入れることが可能と

なる。

低い温度で液状となる「塩」はその性質から様々な名称が使われてきており、

常温溶融塩などとも呼ばれる。特に液体あるいは流体の性質を特徴として強調

する時は、例えば ionic liquid、IL、molten salt、イオン性流体、イオン流体、

イオン液体などと呼ばれる。本報告書ではイオン性液体として統一する。本報

告書では反応場としてのイオン性液体を想定し、常温(25℃近傍)に限らず、

用いる温度(有機化合物が熱分解しない程度の温度)で液体としての性質を示

すものであればイオン性液体の範疇とする。この場合、非常に粘度の高い材料

や粘弾性を示す高分子材料、ゲル材料も広義では含めることも可能であるが、

ここでは一部に留める。また有機化合物に対する親和性を前提として、基本的

には有機塩類、多くは有機オニウム塩類に限定する。

イオン性液体は非常に沸点が高く、有機化合物からなる液体としての性質を

持ちながら揮発性がないため引火性が非常に低いか、ほとんどないに等しい。

不揮発性である点が、火災、あるいは呼吸器に対する毒性に対して“安全な”

溶剤として注目されている(経口・経皮毒性に対して安全とは限らない)。イオ

ンであっても場合によっては疎水性を示して水と相分離、あるいは非極性有機

溶媒とも親和せずやはり相分離することもあるため、これらの溶媒で抽出操作

も可能である。イオン性液体によって非常に極性の高い反応場が形成されるの

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ではないかと考えられ、大きな溶媒和による効果の発現も期待される。イオン

性液体は導電性も持つことから、従来の導電性はあるものの有機化合物に対す

る溶解度が低い塩類水溶液や、有機化合物は溶かすものの誘電体である一般的

な有機溶媒とは大きく異なる現象も期待される。アニオン種およびカチオン種

の組み合わせ、さらには酸あるいは塩基の添加によって様々なルイス酸性やル

イス塩基性を有するイオン性液体の調整も可能である。以下ではイオン性液体

の例、イオン性液体の性質、溶剤としてのイオン性液体、イオン性液体自身の

反応性、イオン性液体自身の新展開について述べる。

イオン性液体の例

試薬として入手可能なイオン性液体にはどのようなものがあるか図1に概要

を示す 1)。

分子構造のいろいろ:設計指針

N N+

-NSO2

SO2

CF3

CF3

イミダゾリウム塩

4級アンモニウム塩N N+

N+

N+

N+

ピリジニウム塩 Cl-

Br-

PF6-

BF4-

CF3SO3-

カチオン

アニオン

構造に高い自由度を導入

図 1 いろいろなイオン性液体の例

様々な性質が多く研究されているのはアンモニウム塩およびホスホニウム塩

であるが、中でも N,N’-ジアルキルイミダゾリウム塩に関するものが多い。脂

肪族のオニウム塩は場合によってはホフマン脱離を起こしてオレフィンとアミ

ンに分解するため、熱的な安定性がやや劣るのに対し、芳香族性を持ったイミ

ダゾリウム塩は熱的安定性が高いために温度検討範囲を広くできることが要因

と考えられる。

近年では種々のイオン性液体が市販されるようになった。試薬として入手可

能なイオン性液体についての詳細は試薬メーカーの提供のカタログを参照され

たい 2)。合成経路はいくつかあるが、例えば N-アルキルイミダゾールに対して

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種々のアルキル化試薬を作用させることによって合成する。図2に示すように、

N-メチルイミダゾールと臭化エチルから 1-エチル-3-メチルイミダゾリウムブ

ロミドが、またN-メチルイミダゾールとトリフロロ酢酸エチルから1-エチル-3-

メチルイミダゾリウムトリフロロアセテートが得られる。得られたイミダゾリ

ウム塩のカウンターアニオンを交換することにより、さらに異なるイオン性液

体を得ることができる。具体的には 1-エチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド

に NaBF4を、あるいは 1-エチル-3-メチルイミダゾリウムトリフロロアセテート

に HBF4を作用させることで 1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロロボ

レートが得られる 3)。

EtBr NaBF4

CF3COOEt HBF4

N NMe

Br-

CF3COO-

N N+Me Et

N N+Me Et

BF4-N N+Me Et

図 2 イオン性液体の合成例

この反応は一見して同じ化合物を合成しているようだが、精製の仕方で純度

が異なり、その結果として生成物の物性も変わる。その理由は、先に紹介した

「イオン性液体は揮発性がない」「低い温度でも液体」といった利点が、逆に蒸

留や再結晶による精製を困難にしている欠点にもなるためである。市販試薬は

合成経路まで明示していないので、狭雑物が何かを特定しにくく、注意を要す

る。電気特性や分光分析特性など、場合によってはわずかな狭雑物によって測

定しようとしている物性が大きく変わり、一定の値を示さない、あるいは一見

して再現性や傾向が得られないように見えることもある。

イオン性液体の性質

塩化銀や硫酸バリウムのように、塩であっても水に対する溶解度が非常に低

いものがあるように、イオン性化合物にも水に可溶のものもあれば不溶のもの

もある。不溶、難溶なイオン性液体は水と混合しても液液相分離する。例えば

カチオン種が同じであっても 1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリドは水

溶性、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフロロホスフェートは非水溶性

である(図 3)。これは逆に、カチオン種、アニオン種の組み合わせによって溶

解度の調整が可能であることを示している。

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Cl-N N+Me Bu

Cl-N N+Me Bu

1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム

クロリド水溶性

PF6-N N+Me Bu

PF6-N N+Me Bu

1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム

ヘキサフロロホスフェート非水溶性

図 3 水に対する溶解性の違い

非水溶性であっても極性が高いことは変わりないため、非極性有機溶媒とも

分離する。例えば 1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフロロホスフェート

中でパラジウム塩により Heck 反応を行い、反応後に水、シクロヘキサンを加え

ると、上から順に生成物の溶解したシクロヘキサン相、副生成物および過剰な

無機塩基の溶解した水相、パラジウム触媒の溶解したイオン性液体相の三相に

分離する(図 4)。このように触媒を特異的に保持し、生成物や副生成物を別個

に抽出で分離できる性質は触媒の繰り返し利用に大いに役立つ 4),5)。

PF6-N N+Me Bu

1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム

ヘキサフロロホスフェート

反応基質

Pd触媒

反応後に水および

シクロヘキサン添加+

生成物シクロヘキサン相

無機塩水相

Pd触媒

イオン液体相

簡便な分離と触媒の再使用が可能

PF6-N N+Me Bu

PF6-N N+Me Bu

1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム

ヘキサフロロホスフェート

反応基質

Pd触媒

反応後に水および

シクロヘキサン添加+

生成物シクロヘキサン相

無機塩水相

Pd触媒

イオン液体相

簡便な分離と触媒の再使用が可能

図 4 イオン性液体の三相分離

一般的な有機溶媒では極性が大きいほど比誘電率が大きい場合が多いため、

イオン対で構成されているイオン性液体は大きな比誘電率が期待された。他物

質との相互の溶解性はそれぞれの比誘電率あるいは双極子モーメントで表され

る極性との相関が見られる傾向にあり、イオン性液体の応用を考えた時にはこ

れらの情報は大変重要である。ところが、ピレンの蛍光スペクトルを用いた評

価では、図 5に示す 1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタ

ンスルホニル)イミドの比誘電率は 10 以下であり、これは 13.5 のヘキサノー

ルより小さいと見積もられている 6),7)。また別の報告では 1-エチル-3-メチルイ

ミダゾリウムトリフラートの比誘電率は静電界に対して 15.2±0.3 を示し、さ

らに交番電界に対しては 3~4GHz 付近で変曲点を通りながら 20GHz 以上で比誘

電率はおおよそ6まで減少する 8)。文献 8に示されている結果を見ると、マイク

ロ波帯において比誘電率が大きく変化すると共に変曲点を持つことから、緩和

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時間が 40~53 ピコ秒に相当する緩和過程があると見積もられる。かなりの極性

溶媒であるにもかかわらず比誘電率が予想より大きく低いユニークな性質は、

イオン性液体がアニオンおよびカチオンのモノポールから構成されており、外

場電界によって容易にイオン間距離が変わってしまうため、ダイポールとして

の性質を示す一般的な有機極性溶媒とは動的な挙動が異なるためであろう。し

たがって、「極性」という概念も電気的な意味なのか、他分子との親和の意味な

のかを考慮するべきである。1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフル

オロメタンスルホニル)イミドのヨウ素イオンに対する溶媒和の研究では、ヨ

ウ素イオンに対する強い溶媒和が観測されている 9)。したがって比誘電率と溶媒

和との概念はモノポールとダイポールで大きく異なっていることを認識する必

要があると思われる。この点が従来の有機極性溶媒と異なる反応場を与える「イ

オン性液体」として特異的な期待が持たれる特徴と思われる。

(CF3SO2)2N-N N+Me Et

1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド

εr'(static)<10

CF3SO3-N N+

Me Bu

1-エチル-3-メチルイミダゾリウム

トリフラートεr'(static)=15.2±0.3

図 5 イオン性液体の誘電率

溶剤としてのイオン性液体

自己水素結合性の高い高分子鎖に対し、対イオンがキャッピングすることに

より溶解ができるのではないかという期待がある。セルロースの可溶化は繊維

分野で大きなニーズがあり、硝酸エステルであるニトロセルロース、酢酸エス

テルであるアセテート繊維、二硫化炭素を用いたビスコースレーヨン、銅アン

モニア溶液を用いたキュプラなどが製造されているが、これらはいずれもセル

ロースを誘導体化する方法であり、その工程においてセルロース分子鎖長の分

断が生じる。一方、図6に示すN-メチルモルホリン-N-オキシドを溶剤とすると、

誘導体化せずにセルロースが溶解する。この原理を用いた繊維はリヨセル(登

録商標名テンセル)と呼ばれる。N-メチルモルホリン-N-オキシドはニトロ化合

物同様、極限構造では分子内に N+および O-が発現する構造を持ち、厳密にはイ

オン性液体ではない。しかしながら近年、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムメ

チルホスファイトのような亜リン酸モノエステルをアニオンとするイオン性液

体がセルロースを室温で可溶化することが見出された 10).11)。この現象はセルロ

ースの資源化応用のみならず、難溶性材料の可溶化や液相化として新しい反応

場を提供する新技術と考えられる。

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MeO(H)PO2-N N+

Me EtMeO(H)PO2

-N N+Me Et

N N+Me Et

N+

Me O-

O

N+

Me O-

OMMNO

N-メチルモルホリン-N-オキシド[C2mim][(MeO)(H)PO2]

1-エチル-3-メチルイミダゾリウムメチルホスファイト

図 6 セルロースの溶剤

イオン性液体自身の反応性

イオン性液体が熱、水、強酸に強い場合でも、金属触媒が存在すると酸を放

出しながら配位子として振る舞う場合がある。これはイオン性液体自身が反応

性を持つことを示している注意すべき事項である。

例えばイミダゾリウム塩は遷移金属と接触させることにより 2位のプロトン

を放出し、形式上カウンターアニオンとで形成するブレンステッド酸を放出し

つつカルベン配位子となって金属に配位する(図 7)。この反応をもともと想定

して遷移金属触媒を加えた反応を行うのであれば、イオン性液体という媒体は

配位子源を十分に備えた、かつ金属錯体と親和性の高い媒体として作用する。

先に述べた 1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフロロホスフェート中の

パラジウム塩(酢酸パラジウム)による Heck 反応は、パラジウムに 1-ブチル-3-

メチルイミダゾリンカルベンを配位子とした錯体が活性種と見られている。

N

N+R

R

X-

HH

HY+

N

NR

R

HXH

H+: Y

図7 イオン性液体と遷移金属の反応

イミダゾリウム塩のこのような性質を配位子形成に積極的に応用すれば、例

えば多座カルベン配位子や配位子の固定化などにも応用が可能である 12),13)。

R=Me, Et, tBu, nBu ●=PSt, Silicagel

N

NR

PdBr Br

LN

N

RN

N

RPd

BrBr

図 8 イオン性液体を配位子化した遷移金属

イオン性液体自身の新展開

従来のイオン性液体に関する研究に加え、新しい概念を加えることによって

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イオン性液体の利用範囲が拡大される。例えば液液相分離をさらに発展させ、

イオン性液体に磁性を付与すると磁石で分別が可能な液相が構築できる(図 9)。

2004 年に見出された 1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラクロロフェレー

トの磁性特性は、室温で磁石に付く液体としてはじめての例である 14)。磁石に

よって回収できる「反応場」は、触媒の簡便な回収・分離に役に立つと考えら

れる。

FeCl4-N N+Me Bu

FeCl4-N N+Me Bu

1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラクロロフェレート

図 9 室温で磁石に付く液体

フッ素系化合物の温和な合成においてもイオン性液体が利用される例がある。

オニウム塩に限らず、有機塩基と酸からなる塩もイオン性液体として有用であ

り、図 10 に示す Et3N・3HF からなるフッ素系イオン性液体を用いた電解反応で

は医薬品中間体などの有用物質合成に適用可能なフッ素化反応が進行する 15),16)。

また Et4NF・5HF からなるフッ素系イオン性液体もまたフッ素原子提供源となり、

プリンス反応型の重合が進行する 17)。

R1SCH2COR2

R1SCHFCOR2

R1SCF2COR2

-2ne, -nH+

Et3N・3HF+R1SCH2COR2

R1SCHFCOR2

R1SCF2COR2

-2ne, -nH+

Et3N・3HF+

O

F

HO

OEt

OEt

Et4NF・5HF

O

F

OO

F

HO

OEt

OEtHO

OEt

OEt

Et4NF・5HF

電解フッ素化反応

重合反応

図 10 フッ素化反応

歴史の浅い新材料同士からさらに新しい材料が生まれる可能性もある。例え

ば 1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロロボレートと単層カーボンナ

ノチューブ(SWNT)を混合すると、SWNT が良好に分散されてゲル化することが見

出された 18)。このゲルに電極を取り付けるとアクチュエータとして駆動する 19)。

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30

BF4-N N+Me Bu

BF4-N N+Me Bu

1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム

テトラフロロボレート

SWNT

+ SWNT含有ゲル

アクチュエータ

図 11 カーボンナノチューブの機能化

先述のセルロース溶解のようにバイオマスを直接利用する方法の他に、バイ

オマスを変換する前処理として用いることも可能である。植物からバイオ燃料

を効率よく生産する方法としてセルラーゼ酵素による分解が知られるが、この

時木質系バイオマスを 1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロリドに含浸させ

て発酵工程に阻害的に作用するリグニン等を排除すると、溶解したセルロース、

ヘミセルロースから効率的に有機酸またはアルコールが得られる[20]。

Cl-N N+Me Et

Cl-N N+Me Et

1-エチル-3-メチルイミダゾリウム

クロリド

木質バイオマス

+ セルロースヘミセルロース

糖化、発酵

リグニン

分離

図 12 効率的な木質バイオマス利用

終わりに

イオン性液体の「極性」に対する研究は大きく発展している。文科省科研費

特定領域研究「イオン液体の科学」(平成 17-21 年度)21)、イオン液体国際会議

(COIL-3, 2009)22)、イオン液体研究会 23)、NEDO 事業 24),25)など、諸団体の調査

や活動において活発な研究がなされており、新しい知見の発見や測定精度向上

による過去の結果の再解釈など、多くの興味ある情報が発信されている。これ

らの成果をもとに、今後も新しい反応場の開発へと展開されることが十分に期

待される。

参考文献

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2) 和光純薬試薬カタログ URL(2010 年 2 月現在)

http://www.wako-chem.co.jp/siyaku/info/syn/pdf/ion.pdf

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http://www.wako-chem.co.jp/siyaku/info/muk/pdf/IonicLiquid.pdf

http://www.wako-chem.co.jp/siyaku/info/muk/pdf/cat_green4.pdf、pp.56-58

3) 大野弘幸監修, イオン性液体 ―開発の 前線と未来― 第2章 「4 試薬として入手

可能なイオン性液体」, 管 孝剛, シーエムシー出版 (2003)

4) M. J. Earle et al., Org. Lett., 1 (1999) pp.997

5) J. Xiao et al., Organometallics, 19 (2000) pp.1123

6) P. Bonhote et al., Inorg. Chem., 35 (1996) pp.1168

7) 大野弘幸監修, イオン性液体 ―開発の 前線と未来― 第3章 「3 極性評価」, 松

本 一, シーエムシー出版 (2003)

8) H. Weingartner et al., J. Phys. Chem., B109 (2005) pp.17028

9) R. Katoh, et al., J. Chem. Phys., B111 (2007) pp.4770

10) H. Ohno et al., Chem. Lett., 38 (2009) pp.2

11) H. Ohno et al., Green Chem., 10 (2008) pp.44

12) J. Sugiyama et al., Green Chem., 5 (2003) pp.563

13) J. Sugiyama et al., Macromolecules, 36 (2003) pp.6953

14) H. Hamaguchi et al., Chem. Lett. 33 (2004) pp.1590

15) 淵上寿雄ほか, 化学工業, 59 (2008) pp.192

16) T. Fuchigami et al., Chem. Commun., (2009) pp.956

17) T. Fuchigami et al., Chem. Commun., (2009) pp.2932

18) T. Aida et al., Science, 300 (2003) pp.2072

19) T. Aida, Angew. Chem. Int. Eng. Ed., 44 (2004) pp.2410

20) トヨタ自動車株式会社、特開 2009-189277

21) 文科省科研費特定領域研究「イオン液体の科学」(平成 17-21 年度)

http://ionliq.chem.nagoya-u.ac.jp/index.html

22) イオン液体国際会議、Salzburg, Austria in 2005 (COIL-1), Yokohama, Japan in 2007

(COIL-2), and Cairns, Australia in 2009 (COIL-3)

http://www.coil-3.org/

23) イオン液体研究会

http://www.ilra.jp/index.html

24) 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 平成 19 年度委託調査「イオン液

体に関する技術動向とニーズ調査」100012482, 社団法人国際環境研究協会

25) 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 平成 19 年度委託調査「C1化合

物を原料とする基礎化学品製造プロセス技術開発に関する調査」100011889, 財団法

人日本産業技術振興協会

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工業触媒関連記事ダイジェスト

昨年度に引き続き、化学工業日報紙上に2008年12月から2009年11月の間に掲載

された工業触媒プロセス関連記事のダイジェストを調査委員が分担して作成い

たしました。

掲載日順に以下にまとめましたので、是非ご一読ください。日本国内の工業触

媒プロセス動向の一端が見えるかと思います。

20081215 食総研など、廃食油からバイオディーゼル燃料、触媒なしで連続生産

食品総合研究所、東京大学、滋賀県立大、鹿島らは廃食油を原料としたパイ

ロットスケールのバイオディーゼル燃料連続製造に成功した。「無触媒過熱メタ

ノール蒸気法」は高温で加熱した原料油と高温のメタノール蒸気を大気圧で反

応させる方法で、従来法よりプロセスがシンプルで、純度の高いグリセリンが

回収でき、廃液や廃水の発生が極めて少なく、製造コストを大きく下げられる。

1日当たり 500 リットルの原料廃油(主にパーム油)から 425 リットルの脂肪

酸メチルエステル(FAME)の製造を確認した。国内廃食油の年間発生量は約 40

万トンで、国はこのうち 3 分の 1 を FAME 製造用に利用できると試算しており、

本方法の実用化によって試算値が現実化される可能性がある。

20081215 長崎総合科学大、バイオマス利活用で電力とメタノール併給

長崎総合科学大の坂井正康特任教授らは、バイオマスのガス化発電によって

得られる水素と CO を使いメタノール合成をおこなう、小型高効率の電力・燃料

併給プラントの技術開発にめどを得た。間伐材、稲わらなどの草木系バイオマ

スを 800~1000℃の完全水蒸気雰囲気・常圧下で、触媒なしにガス燃料に変換す

るバイオマスガス化発電プラント「農林バイオマス 3 号機」に低圧多段抽出式

のメタノール燃料合成装置を付設して実証装置の開発を目指す。日量 30 キロリ

ットルの 96%粗メタノールを合成する。発電規模 40 キロワット級の移動可能な

バイオメタノール製造プラントも提案。電力を自前で賄い、バイオマス粉体の

約半分がメタノールに変換できるとみている。実用化されれば設備・搬送コス

トの削減に貢献が期待される。

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20090105 旭化成ケミカルズ、MMA 新製法を開発、副生物を半減

旭化成ケミカルズは、環境特性と生産効率を大幅に高めたメチルメタクリレ

ート(MMA)の新製法を開発した。独自製法の「直メタ法」を触媒転換も含め全

面的に改良し、さらに収率を上げることに成功した。新世代の直メタ法は、イ

ソブチレンを出発原料にメタクロレインを一段で酸化・エステル化反応して MMA

を得るもので、メタクロレインからメタクリルアミドを経由するなどの従来法

に代わる新 C4 法として同社が独自に開発した。副生物が従来と比べほぼ半減す

るほか、選択率の向上などよってコスト競争力の強化と二酸化炭素(CO2)発生

量の大幅削減に寄与する。昨年末、川崎の年産 10 万トン設備を改造して導入、

運転の微調整を図りながら商業生産をスタートさせている。

20090109 大阪大、ギ酸からの水素製造で新触媒開発、常温常圧下で高効率

大阪大学大学院工学研究科の福住俊一教授は、低コストなロジウム単核錯体

触媒を開発した。この触媒は、常温常圧水中という非常に温和な触媒使用条件

で、pH を制御することにより水素、重水素、重水素化水素を選択的に作り分け

ることができる。また、温室効果ガスの二酸化炭素を活用して水素と結合させ

て、カーボンニュートラルなギ酸として水素貯蔵を行える。家庭用燃料電池で

のオンサイト水素貯蔵と利用、旅客機や自動車、列車などの安全が求められる

場所での水素貯蔵と利用が可能なほか、安価な重水と安価なギ酸から高価な重

水素ガスを選択的に生産し、同位体標識物質の原料として利用することなどが

見込める。同教授が開発したこの触媒はサンプル供給が可能。

20090122 新日鉄化学、マイクロ波化学応用プロセス強化、実用化レベルに進展

新日鉄化学は、マイクロ波化学応用プロセスを強化、早期に事業化を目指す。

分子や触媒に直接作用し、均一かつ急速に加熱できるマイクロ波は、有機化合

物の活性化や化学合成の反応速度、収率などの飛躍的向上など化学応用プロセ

スとして注目され、特に品質が問われる医薬品の合成として期待も高い。同社

では新エネルギー・産業技術総合開発機構や大阪大学との共同開発や自社先進

化学技術研究所(北九州市)で実験を重ねつつ、装置のスケールアップを図っ

てきたが、このほど大型装置が完成、実用化レベルまで進展した。今後はさら

なる技術融合など向上を進め、事業化につなげていく考え。新規材料創製には

適なプロセスになるとみられ、また高品質が問われる医薬品合成などでは実

現性も高いと期待している。

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20090202 マツモトファインケミカル、有機金属化合物・水溶性オリゴマー開発

マツモトファインケミカルは、有機金属化合物の水溶性オリゴマーである「オ

ルガチックス PC シリーズ」を開発した。同社が有するチタン化合物およびジル

コニウム化合物の性能向上を図り、顧客の脱 VOC 対策と環境対策に貢献するも

ので、水系架橋剤、酸化チタン膜形成剤、水分散剤として 09 年中に上市を目指

す。オルガチック製品の主なユーザーは、インキ、塗料、ガラス、電子材料メ

ーカーなどで、従来、溶剤系製品が主体だったが、「水系でさらに分子量の大き

いものを」とのユーザーの要望に応え、開発につなげた。密着性や耐熱性向上

という特徴から、今後はフィルムや金属の表面処理用途にも拡販していく。ま

た、環境にやさしい特性から触媒用途でスズやクロムなど重金属の代替用とし

ても拡販していく方針。

20090306 静岡大、CFPR の新リサイクル技術開発、炭素繊維を無傷で回収

静岡大学工学部の岡島いづみ助教は、炭素繊維強化プラスチック(CFPR)を

リサイクルするための基盤技術を開発した。超臨界アルコールを用いて CFPR 中

のエポキシ樹脂の架橋点を選択的に分解し、アルコールに可溶な状態に変換し

て炭素繊維とプラスチックに分離・回収。回収後のプラスチック部分はアルコ

ールを除去して再成形後、硬化剤を加えて再び熱可塑性樹脂に戻すもの。炭素

繊維を無傷で回収できること、分解溶媒として低沸点のアルコールを使用する

ため回収樹脂からアルコールを容易に除去できることなどの利点がある。 今後、

ベンチプラントを用いた実証試験、実用プロセスの設計、回収した樹脂や炭素

繊維の有効利用法の確立に向け、民間企業との共同開発を進める。

20090311 アンモニア水用い一級アミン合成、触媒的不斉合成反応も開発

東京大学大学院理学系研究科の小林修教授らは 10 日、アンモニア水を窒素源

とする一級アミン合成反応の新手法を開発し、世界で初めてアンモニア水を用

いる触媒的不斉合成反応に成功した。科学技術振興機構(JST)の基礎研究事業

の一環として行ったもので、米国化学会誌「ジャーナルオブ・ザ・アメリカン

ケミカル・ソサエティー」のオンライン速報版で近日中に公開される。パラジ

ウム触媒を用いることで、アンモニア水を用いたアリル位アミノ化反応が進行

することを発見した。この反応は長年の間、不可能であると考えられてきたが、

アンモニアガスではなくアンモニア水を用い、反応条件を緻密に検討すること

により、高い収率で一級アリルアミンを得ることに成功した。

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20090313 阪大、均一サイズ金属ナノ粒子触媒新技術、簡易・低コストで合成

大阪大学は、均一サイズの金属ナノ粒子触媒を簡易に低コストで得られる合

成法を世界で初めて見いだすとともに、同触媒を用いた過酸化水素の合成技術

を開発した。開発した新技術は、孤立 4 配位酸化チタン種を含むシングルサイ

ト光触媒と光析出プロセスを組み合わせた金属ナノ粒子合成法。従来の一般的

な金属担持技術である含浸法では、広い幅の粒径分布を持ち、金属粒子のサイ

ズを制御するのが困難であった。本技術では、ナノサイズ金属粒子を容易に合

成できるとともに、含浸法に比べ過酸化水素の直接合成能が約 2 倍に向上。ま

た、サイズ・形態・組成の高次制御が可能となるほか、触媒活性を大幅に向上

し、触媒の長寿命化にも寄与する。今回の成果は、NEDO の助成事業による大阪

大学大学院工学研究科の森浩亮助教らによるもの。

20090318 広栄化学、アセトニトリルの直接量産技術を確立

広栄化学工業は、アセトニトリルの直接量産製造技術を確立し、千葉工場で

本格生産を開始したと発表した。アセトニトリルはアクリロニトリル(AN)生

産時の副生物として製造されているが、同社では酢酸を主原料に特殊な触媒で

反応させることで直接アセトニトリルを生産する。アセトニトリルは反応溶媒

や分析用試薬として使用されており、特に医薬品製造時の用途が着実に伸びて

いる。しかし、世界同時不況にともなう AN 需要減で副生品であるアセトニトリ

ルの需給はひっ迫しており、安定供給が求められていた。同社は、従来困難と

されてきたアセトニトリルの直接量産製造技術を確立。千葉工場にあるマルチ

プラントを転用し生産を開始した。安定供給体制を早急に構築し年間 1000 トン

の生産を目指していく。

20090324 日本ガイシ、セラ多孔体の環境負荷低減製造プロセス確立

日本ガイシは、環境負荷を低減したセラミックス多孔体の製造プロセスを開

発した。ゾルゲル法を利用し、ゾルがゲル化するまでの時間をコントロールし

たうえで、ゾルを一定のタイミングで機械的に泡立て、泡を取り込んだままゲ

ル化し焼成する。同製法では、重量減少が少なく、従来法同等の物性が確保で

きるうえ、有機物をほとんど用いずに気孔が形成できるため、焼成工程におけ

る CO2 発生の低減が可能。また、泡立て時の粘度や空気混合比を変えることで、

気孔率や気孔径、気孔構造などを変化させることができる。現状では、シリカ

など一部材料に利用が限られ、複雑な形状の成型体を作成できないため、利用

範囲を広げながら早期実用化を目指していく。

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20090326 東大、選択的炭素-炭素結合反応実現、アルカリ土類触媒で

東京大学大学院理学系研究科の小林修教授らは、アルカリ土類金属触媒を用

いた選択的炭素-炭素結合生成反応を開発した。これまで賦活量の少ない希少

金属を含む触媒が用いられ、より低毒性で豊富に存在する安価な金属触媒の探

索が望まれていた。カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム、ベリ

リウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属を触媒として、スルホニルイミ

デート求核剤を用いる「マンニッヒ反応」をきわめて効率的に活性化させるこ

とに成功した。反応生成物として 2 種類の異なる化合物が得られるが、溶媒の

種類を変えるだけで、2種類の化合物のうち、一方の望みの化合物を選択的に作

り分ける方法を開発した。さらに、ストロンチウム塩に不斉配位子を加えて触

媒的不斉合成を行ったところ、エナンチオ選択性の発現がみられた。

20090331 太陽化学、7 社とシリカ多孔体の用途開発、香料・紙など成形加工品

太陽化学は、シリカ多孔体(メソポーラスシリカ)の用途開拓を強化する。

07 年ごろから素材加工メーカー7 社と提携し、成形加工により供給形態を多様

化することで、香料担体、触媒担体、紙、印刷、スプレーなどの各種成形を可

能にした。太陽化学のシリカ多孔体「TMPS」(商品名)は、早稲田大学と豊田中

央研究所が素材開発し、04 年に太陽化学が独自の界面制御技術で量産化に成功

した。1.5~7 ナノメートルの均一な微細孔を持ち、0.4 ナノメートルピッチで

孔径を制御できる。水や気体の吸脱着性、徐放性、低誘電性などの機能を持ち、

生理活性物質などの担体としても応用が期待される。同社は供給形態を多様化

することで、早期実用化につなげたい考え。

20090403 高活性酸化触媒を拡充、名古屋大から技術導入

日産化学工業は名古屋大学大学院・石原教授のグループが開発した IBS の技

術に関して、ライセンス契約を締結し、純正化学を通じて販売を開始した。IBS

は従来触媒に比べて 100~1000 倍の酸化活性を示し使用量が少量ですむため、

商業レベルでの実用が可能であり、自社の原薬・中間体製造拠点である小野田

工場で IBS を利用した酸化反応の受託も行う予定である。同社は、医薬品関連

の原薬・中間体製造、プロセス研究の受託を手掛けるファインテック事業のな

かで、農医薬で長年培った技術と知見を生かすとともに、大学の研究成果をプ

ロセスに活用するなどの新技術導入も推進しており、07 年にも、東北大学大学

院の岩渕好治教授が開発した超高活性アルコール酸化触媒「AZADO」についても

技術ライセンス供与を受けている。

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20090507 熊本大、セラ表面の高精度平滑化で新手法、微粒子の触媒効果を利用

熊本大学大学院自然科学研究科の久保田章亀助教は、金属微粒子が持つ触媒

効果を用いて、セラミックス表面などを高精度で平滑化する新手法を開発した。

過酸化水素水を金属微粒子の触媒作用で化学的に活性なヒドロキシラジカルに

変化させて被加工材料表面と反応させることで、被加工材料の 表面部を酸化

して加工しやすくし、酸化された領域を除去・エッチングして加工する。従来

の機械的研磨法では脆性破壊などによる表面へのダメージが避けられなかった

が、新手法は表面凹凸が 1 ナノメートル以下の平滑な表面形成が可能となる。

現在、2インチ以上の SiC 基板や GaN 基板の平坦化に取り組んでおり、効果を実

証していく。

20090507 マイクロリアクターシステム、普及推進に拍車

日立プラントテクノロジーは、微小電子機械システム技術を駆使して、液体

の混合流路を微細化でき、ミクロンオーダーでの均質な混合を実現したマイク

ロプロセスサーバーを開発した。独自の流体シミュレーションで、 適な混合

特性が得られる流路形状を設計・製造し顧客に提案できることを強みにマイク

ロリアクター技術の普及推進を本格化させる。同リアクターを活用することで

反応収率・時間の改善以外にも、乳化粒子の均一化、ナノオーダーでの粒径均

一化や、機能性食品材料のまろやかさ向上等へも適用できる。該社は研究開発

用をはじめ、日量 2.4 トンの多量生産用もラインアップしており、研究開発向

け装置だけでなく量産プラント用の需要が本格化する見通し。

20090518 東大、酸素だけを用いる環境調和型酸化反応、連続プロセス化成功

東京大学大学院理学系研究科の小林修教授らは、酸素を酸化剤に用いて環境

調和型の酸化反応を連続的に行う技術を開発した。高分子に担持させた金触媒

をガラスキャピラリーに担持する方法を新たに開発、連続的に酸化反応可能な

システムを開発した。触媒をガラスキャピラリーの壁面に均一に固定化するこ

とにより、基質との接触が高効率で行われるようになり、わずか 1 分半の反応

時間で望みの酸化反応がほぼ定量的に進行する。また触媒の不活性化が起きる

ことがなく、長時間にわたって使い続けることが可能。ガラス製キャピラリー

は束ねるだけで積層化が容易で、装置の小型化が可能などの利点を有している。

マイクロ反応装置を並べた化学プラントの実現にも大きく近づく成果といえる。

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20090520 研光通商、光触媒を太陽電池関連に展開、ガラス塗布で透過率向上

研光通商は、光触媒ビジネスを太陽電池領域に拡大する。防汚・自浄作用のあ

る韓国・ケムウェルテック社製光触媒「PV-100」を太陽電池モジュールのガラス

に塗布することで、太陽光の透過率を上昇させ、発電効率を高めるというもの。

研光通商は、2 年前から、上記韓国社製光触媒を輸入販売してきた。「PV-100」

は、酸化タングステン・酸化チタン複合型光触媒であり、紫外線から可視光まで、

幅広い領域で従来の 10 倍の活性を示すという。住宅の内・外装材、自動車のガ

ラスや、ガードレール・通行表示板などで展開してきたが、さらなる用途拡大を

進める中で、太陽電池用途に商機を見出した。 モジュールのガラス面に塗布す

ることで、汚れによる無駄な反射をなくし、光の透過率を約 5%も高められる。

これによって、光の利用効率を向上させることができる。同社は、将来的には、

この光触媒をエコ商材として新たな柱に育成する。

20090528 BDF 副生の廃グリセリンを大量処理、水素などに効率転換

広島大学大学院の西尾尚道特任教授らは、新規に単離した微生物「エンテロ

バクター・アエロゲネス」を用いて、バイオディーゼル油(BDF)の製造時に副

生する廃グリセリンを連続して水素とエタノールに高効率に転換することに成

功した。水素はそのまま燃料電池に使用可能な純度が得られ、エタノールは廃

グリセリンと同量が理論的に回収できる。適切な触媒担体を選定し、カラム型

リアクターによる連続生産に着手しており、菜種油やヒマワリ油など原料油

1000L に対して BDF が 930L 得られ、200L の廃グリセリンが副生する想定をベー

スにすると、新規プロセスでは水素 145 ノルマル立米、エタノール 48L が得ら

れる。廃グリセリンはメタン発酵処理も困難であるだけに、有力な技術として

実用化が期待される。

20090619 三菱化学、ブタジエンとヘキセン-1 新プロセスの実用化を推進

三菱化学は、独自開発したブタジエンおよびヘキセン-1 新プロセスの実用化

を推進する。いずれも中東などの海外企業との提携により原料優位性のあるビ

ジネスモデルとして確立したい考えで、両技術に対する引き合いは多い。ブテ

ン類から高効率にブタジエンを製造する BtoB プロセスは、酸化触媒によるブテ

ンの酸化脱水素プロセス。高活性の独自触媒を開発して選択率を飛躍的に高め

ることに成功した。ヘキセン-1 はエチレンを選択的に 3 量化する独自触媒を開

発し、ヘキセン-1 製造コストを大幅に下げることが可能になる。同社では、ど

ちらも誘導品事業を展開しており、安定した供給源を確保して製品チェーン強

化につなげていきたい考えだ。

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20090715 日産自動車、新燃料噴霧システムを開発、燃費 4%アップ

日産自動車は、ガソリンエンジンの燃費を向上する新たな燃料噴射システム

を開発した。独自のインジェクター機構などの採用により燃費が約 4%向上する。

また、排出ガス中の炭化水素の発生が抑えられるので、排出ガス浄化触媒中の

貴金属使用量を減らせる。実用化されている直噴システムに比べ構成がシンプ

ルで軽量のため、従来難しかった小排気量エンジンに採用することも可能とな

った。10 年度初頭から小排気量エンジンに採用する予定。今回採用したデュア

ルインジェクターは各吸気ポート一つずつ、気筒当たり 2 つのインジェクター

を設けた世界初のシステム。吸気側だけでなく排気側にも連続可変バルブタイ

ミングコントロール(CVTC)を搭載して、デュアルインジェクターを組み合わ

せることで、熱効率の向上や吸気抵抗を低減し燃費を向上した。

20090717 昭和電工、燃料電池向け非白金系触媒を開発、コスト 20 分の 1 以下に

昭和電工は、固体高分子形燃料電池(PEFC)における水素と酸素の化学反応

を促進する触媒として、高価な白金の代替となる世界 高水準性能の触媒を開

発した。ニオブ(Nb)系あるいはチタン(Ti)系酸化物のそれぞれに炭素と窒

素を配合したもの。開放電圧は、白金触媒では 1.03~1.05 ボルト、新触媒でも

1.00 ボルト以上を達成。Nb 系や Ti 系の触媒は白金より溶解度が低いため、大

幅なコストダウン(触媒コストは 20 分の 1以下)や長寿命化が実現できる。現

在までに、500 時間以上の耐久性と、1キロワット当たり 500 円以下の製造コス

トを実現している。耐久性試験は継続中で、1 万時間以上を確保していく。15

年度の実用化を目指す。

20090812 太陽光・水・CO2から化学品生産の研究推進

三菱ケミカルホールディングス(MCHC)は、光触媒を用いた水分解により水

素を発生させるプロセス開発に取り組む。グループの研究機関である地球快適

化インスティテュート(TKI)が東京大学大学院の堂免一成教授らと共同で進め

ているもので、窒化ガリウム(GaN)系光触媒で可視光領域の太陽光を集め、水

を水素と酸素に分解する。5 年内にエネルギー変換効率 5%達成を目指す。水素

が効率的に得られれば、水と太陽光、CO2から化学製品や燃料を製造する循環型

化学プロセスの実現につながる。原油価格が 100~200 ドル台になれば、5%でも

実用化が可能の見込みと。現在、東京大学、北海道大学など国内 5 大学、およ

び英仏中の 3 大学の合計 8 大学との共同でバーチャル研究組織による推進体制

を構築している。

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20090817 ソニー、色素増感型太陽電池、世界 高水準の変換効率 8.4%達成

ソニーは、色素増感型太陽電池モジュールの光電変換効率を更新し、世界

高水準の 8.4%を達成した。独自の技術として、2 種類の色素を混合することで

吸収できる光の波長帯を拡大させ、さらに、色素分子が小さい粒子のまま電極

に隙間なく吸着し、電子を無駄なく電極に伝える経路を形成させることで変換

効率を高めた。また、電解質をゲル化することで液漏れを防止したほか、触媒

電極の表面を多孔質にして、電解質との接触面積を拡大した。昨年 6 月に試作

モジュールで変換効率 8.2%を達成。色素の改良、部材の低抵抗化の推進などに

よって、今春に 8.4%を記録した。さらなる低コスト化、光電変換効率の向上、

信頼性確保などに関する検証を重ね、2~3 年後の実用化を目指す。また、今後

10 年以内をめどに変換効率 15%を達成したい考え。

20090819 三井化学、CO2原料のメタノール合成実証設備が稼働、大阪工場で

三井化学が推進する二酸化炭素(CO2)を原料とする世界初のメタノール合成

プロセス実証パイロット設備が大阪工場で順調な稼働を開始した。同プラント

は排ガスから CO2 を回収して水素を反応させてメタノールを合成する実証プラ

ントで、CO2排出削減にも貢献する。今回、運転を開始した実証プラントは、大

阪工場に 15 億円を投じて 08 年 10 月に着工、09 年 3 月末に完成したもので、設

備能力は年産 100 トンで 5 月から試運転を開始している。メタノールは通常、

天然ガスのメタン成分から得られる一酸化炭素(CO)と水素から合成される。

三井化学が実証に取り組んでいるプロセスは CO に替えて CO2を原料に用いるも

ので、化学、発電、鉄鋼プラントなどから大量に排出される CO2を原料に用いる

ことができる。

20090904 バイオマスからアクリル酸製造、脱水プロセス実証へ

日本触媒は、バイオマス原料を用いたアクリル酸製造プロセスの開発に本格

的に乗り出す。バイオディーゼル燃料(BDF)の製造時に副生する高純度グリセ

リンを、新規に見いだした酸塩基触媒によって脱水し、中間物質のアクロレイ

ンを生成する。アクリル酸は通常、プロピレンを 2 段酸化(プロピレン→アク

ロレイン→アクリル酸)して製造されるが、新技術ではこの 1 段目をグリセリ

ンの脱水反応に置き換える。従来技術でのアクロレイン収率は 60~70 モル%程

度であったが、先行実施している BDF 実証で水利用工程を省いたことにより高

純度のグリセリン製造を実現できているため、キャリアガスを使わない高濃度

グリセリンを使用して、アクロレインの収率 80~90 モル%を目指す。

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20090907 京大-金沢大、燃料電池用固体電解質開発、高温・無加湿に対応

京都大学と金沢大学の研究グループは、無加湿、100℃以上の動作環境で高い

プロトン伝導性を持つ燃料電池用固体電解質の合成に成功した。同研究グルー

プは、硝酸アルミニウムとテレフタル酸ジカルボン酸を反応させ、1ナノメート

ルの規則的ナノ細孔を持つ多孔性金属錯体を作り、その中にイミダゾール分子

を規則的に配置させた多孔性金属錯体-イミダゾール複合体を合成した。この

複合体では、プロトンを持つ小さな有機分子が細孔内を高速で動き回りプロト

ンを輸送するようになる。この複合体は、水分のない環境において、100℃以上

の高温でも安定で、高いプロトン伝導能を示すことが分かった。このような有

機分子の多孔性金属錯体への導入手法は、様々な組合せへ簡単に適用でき、新

規プロトン伝導性材料開発に役立つことが期待される。

20090907 北大、Ni 担持の中空 BN 球触媒合成法開発、水素製造用に期待

北海道大学・大学院工学研究科の嶋田志郎教授らの研究グループは、サブミ

クロンサイズの中空窒化ホウ素(BN)球の新規合成法を開発し、この中空 BN 球

にニッケル(Ni)微粒子を担持することに成功した。メタノールからの水素生

成に対する触媒能を評価したところ、高い選択性を示すことを明らかにした。

通常、Ni 触媒の担体としてはアルミナやシリカが用いられる。六方晶窒化ホウ

素は低密度で高温安定性、耐酸化性、耐食性などの特性を有しており、その中

空球は大きな比表面積を持つことから触媒担体への応用が期待される。Ni 担持

中空 BN 球触媒(Ni/HBNS)は、メタノールだけでなく、天然ガスからの水素製

造用触媒としても有望としている。

20090910 日本化薬、脂環式エポキシ樹脂製 LED 封止材を 09 年内にも投入

日本化薬は、脂環式エポキシ樹脂を用いた LED 封止材で、年内にも本格的な

市場展開をスタートさせる。同社では、触媒技術、高純度化技術を駆使した過

酸化法による脂環式エポキシ樹脂の製造技術を確立し、川下製品への応用を進

めていた。日本化薬は、機能性材料事業の中でエポキシ樹脂、UV 硬化樹脂、ポ

リアミド・ポリイミド樹脂を展開しており、顧客への原料供給ばかりでなく、

川下展開を志向。エポキシ樹脂でも、半導体封止材のノボラック型などから製

品ラインアップを拡げようとしている。脂環式エポキシ樹脂は高い耐熱性があ

り、変色性が低く長期にわたって透明性を保つことが可能なため光学用途に

適である。

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20090911 横浜国大、PEFC 電解質膜を開発、無加湿で動作可能

横浜国立大学大学院の安田友洋博士研究員、渡邉正義教授らは、無加湿で動

作する固体高分子形燃料電池用(PEFC)の高分子電解質膜を開発した。プロト

ン伝導にイオン液体を用い、室温から 140℃までの幅広い温度範囲で運転できる。

作製した膜はイオン液体とスルホン酸化ポリイミドの複合膜。イオン液体はプ

ロトン性でジエチルメチルアンモニウム(DEMA)トリフルオロメタンスルホネ

ート(TfO)を採用。高分子材料はポリイミドがベースで、重量で 大 4倍量の

イオン液体を含ませても、柔軟でかつ強靭な膜が得られた。実用化できれば加

湿器が不要で、触媒活性が向上し、白金の使用量を抑えることができるため大

幅な低コスト化が期待できる。

20090916 日立製作所、リグニン主原料にエポキシ樹脂、溶剤に溶け形成可能

日立化成は 15 日、木質バイオマスに含まれるリグニンを主原料に用いて、有

機溶剤に溶けるエポキシ樹脂を開発した。今回開発したエポキシ樹脂は徳島大

学と横浜国立大学との成果であり、徳島大学が開発した水蒸気爆砕法と呼ぶ手

法で木材を高温・高圧で分解、低分子量のリグニンを得、このリグニンを用い

て合成の際に触媒を調整することで、エポキシ樹脂の低分子量化に成功した。

さらに、リグニンを硬化剤に使用することでガラス転移点が 200℃以上の高耐熱

のエポキシ樹脂硬化物を作製する技術を開発した。リグニンは木材に約 20%含ま

れ、石油代替材料として期待されている。今後、3~5 年後を目処にプリント配

線板など電気絶縁用途への適用を目指す。

20090916 三菱ガス化学、HF/BF3の応用拡大、新製品開発を加速

三菱ガス化学は超強酸 HF/BF3 を用いた芳香族化学品の新規製品開発に拍車を

かけていく。HF/BF3は 100%硫酸の 10 万倍の強酸性を持ち、通常は起こりにくい

反応を触媒する機能を持つ。ただ、取り扱いが難しく工業的ノウハウは同社の

みが所有する。同社は、これまで MX を中心に据えた事業戦略を進めており、特

に芳香族アルデヒド合成プロセスの確立は、高価な樹脂の汎用化につながった

ほか、多彩かつ特徴的な芳香族アルデヒド製品群を生み出した。今後は、芳香

族化学品事業についてはMXチェーンと付加価値の高いハイパフォーマンス品が

主体となる事業構造へ特化させる計画。アシル化、エステル化、アルキル化な

ど HF/BF3の持つ技術を駆使、新規製品開発を加速していく考え。

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20090917 東京理科大、光触媒のみで水分解に成功、水素生産に期待

東京理科大学の工藤明彦教授らは、可視光で水を酸素と水素に分解する光触

媒を開発した。太陽光のみで水分解が進むことを確認した。太陽光下での見か

けの量子収率は 0.1%と低いものの、固体光触媒だけで水分解に成功したのは初

めて。研究グループが開発したのは、水素触媒として、チタン酸ストロンチウ

ムにロジウムを 1%ドープし、ルテニウムを担持したものを用い、酸素触媒とし

て、バナジン酸ビスマスを使用する、2段階光励起(Zスキーム)型である。水

溶液を pH3.5 にすると、2つの触媒が凝集し、高活性化する。従来の 2段階光励

起型は、水素触媒と酸素触媒の間の電子伝達系を添加するものが提案されてい

たが、今回のシステムでは、この電子伝達系を不要とし、固体触媒のみとした。

同グループでは、見かけ量子収率を実用化レベルといわれる 3%まで引き上げる

ことを目指すとともに、酸素と水素を分離、捕集する方法の開発も進める。

20091001 旭化成、炭酸エステル新製法実用化、CO2とアルコールを反応

旭化成は CO2 とアルコールから炭酸エステルを製造する新プロセスの実用化

にめどを得た。新プロセスは、独自開発したスズ錯体を触媒に用いるもので、

アルコールは反応原料として再利用できるため、廃棄物は炭酸エステル合成時

に副生する水だけで、環境にも優しいプロセスといえる。炭酸エステルを原料

に用いることにより、ホスゲンを用いないイソシアネートプロセスやエチレン

グリコール(EG)を副生しないポリカーボネート(PC)プロセスが実現できる。

同社は DPC やジアルキルカーボネートなどとして炭酸エステル類を外販、ある

いはライセンス供与に特化しているPC事業の競争力強化にもつなげていく方針

だ。

20091009 ケミクレアなどマイクロ波利用技術確立、溶剤使わずエステル合成

ケミクレアは、マイクロ波を使ったエステル合成の基本プロセスを確立した。

有機溶媒を使わず、マイクロ波加熱により反応を促進、有害廃棄物やCO2の排

出低減を実現するもの。エステル合成のような 2 分子反応でマイクロ波を利用

した技術は世界でも初めて。自社品目でもあるブロモ酢酸ベンジルエステルの

合成で触媒を使わないシステムを構築しており、将来的なスケールアップ、実

用化を検討していく。またアミノ酸エステルへの適用では、岐阜大学と開発し

た新規触媒を使い、マイクロ波加熱との併用効果を確認した。アミノ酸エステ

ルでは今後、適用アミノ酸と触媒の組み合わせなどを探索し、高付加価値製品

を対象に 2012 年以降に事業化していく考えだ。

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20091009 バイオ廃棄物から電気とメタノール、次世代エネルギー技術実用へ

清水建設は、紙・木質・食品残渣などのバイオ系廃棄物を短時間・高効率で

電気とメタノールに転換できる次世代エネルギー技術を実用化するための実証

プラントを都内に設置し、NEDO との共同研究事業として 2011 年 3 月まで実証運

転を行い、技術を確立する。実証試験に入った技術は、2段階の燃料合成プロ

セスを経て 2 種類の燃料を合成し、さらに廃熱も利用するハイブリッド型エネ

ルギーシステムで、合成プロセスは、原料をガス化する「浮遊外熱式高カロリ

ーガス化装置」、生成したガスの一部をメタノール化する「多段メタノール合成

装置」で構成される。多段化した反応器内を低圧で運転できるため装置を小型

化でき、都市再開発ビルの地下スペースなどにプラントの設置が可能となる。

20091013 北大大学院、硫黄修飾金担持型の新パラジウム触媒開発

北海道大学大学院の有澤光弘准教授らは、生成物へのパラジウム漏洩が極め

て少ない新タイプのパラジウム触媒を開発した。非対称ビアリール(ビフェニ

ル誘導体)を得るための鈴木-宮浦カップリング反応では数十から数千 ppm の

パラジウムが生成物に残存してしまう。開発された硫黄修飾金担持型パラジウ

ム触媒は、ガリウムやヒ素を使用しない低毒性、酸、湿気への高耐久性、望み

の形状に対応できる高加工性を実現した。活性にも優れており、繰り返し使用

しても反応速度はほぼ一定。反応液中に含まれるパラジウム量は、世界 小水

準となる 98%の削減に成功した。用途は機能性分子の合成や液相コンビナトリア

ル用など。今後は、実用化に向け、企業などに共同研究を呼びかけていく方針。

20091027 新日石、バイオ ETBE の量産開始、ガソリン基材向け

新日本石油は 11 月末から、バイオガソリンの基材として使用されるバイオ

ETBE(エチルターシャリーブチルエーテル)の量産を開始する。原料には北海

道の国産バイオエタノールやブラジルからの輸出バイオエタノール 4 万キロリ

ットル、自社製油所の流動接触分解(FCC)装置から生産する C4 留分中のイソ

ブテン 7 万キロリットルを使用する。触媒反応には既存設備を改造し、バイオ

ETBE 年間 10 万キロリットルを生産する。生産したバイオ ETBE はレギュラーガ

ソリンに配合、首都圏を中心とした約 1000 カ所のサービスステーション(SS)

で販売する。

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20091029 豊田通商、光触媒「V-CAT」にインフル不活化効果確認

豊田通商は、同社の可視光応答型光触媒「V-CAT」にインフルエンザウイルス

を不活化する効果があることを確認した。「V-CAT」は、豊田中央研究所が開発

した酸化チタン系の可視光応答型光触媒であり、豊田通商が事業化している。

このほど中央大学生命健康科学部の鈴木康夫教授らのグループの下で抗ウイル

ス性能について確認試験を行った。スペイン風邪と同一亜型ウイルス、香港(A)

と同一亜型の実験株を「V-CAT」を練りこんだ加工布に付与し、白色蛍光灯で光

照射したところ、感染能力のあるウイルス量が約 99%減少し、さらに残ったウイ

ルスの感染力も大幅に削減されていた。豊田通商では、光触媒事業について、

製品化された際の詳細データをきめ細かく提供することで、他社との差別化戦

略を進めている。従来、汚れ分解、消臭、UV カット、抗菌などの機能の展開を

進めてきたが、今回の成果によって、今後は、インフルエンザ対策用の製品へ

の用途拡大を進めていく方針。

20091112 京大など、ナノテク利用の新規多孔性材料、次世代電池向け開発本格化

燃料電池やリチウムイオン 2次電池(LiB)向けの高機能材料として有機配位

子と金属イオンからなる規則的なナノ細孔構造を作り込んだ、多孔性配位高分

子や多孔性錯体の開発が本格化している。京都大学の研究グループは、金属錯

体をベースに約 1 ナノメートルの規則的なナノ細孔を作り、その中にプロトン

を持つイミダゾール分子を規則的に配置した固体高分子型燃料電池(PEFC)用

の固体電解質を合成することに成功した。電解質は硝酸アルミニウムとテレフ

タル酸ジカルボン酸を水中で反応させ、1ナノメートルの細孔径を持つ安価なア

ルミニウム多孔性金属錯体を合成。そのナノ細孔の中にイミダゾールを加熱さ

せながら入れ多孔性金属錯体イミダゾール複合体を作り、有機-無機ハイブリ

ッド構造を有する。

20091124 日揮触媒化成、改良ゼオライトで新 FCC 触媒、軽質油転換を効率化

日揮触媒化成は、原料油や通油量を変えずに残油から軽質油への転換を大幅

に効率化できる新たな FCC(流動接触分解)触媒を開発した。この触媒は、超安

定化 Y型ゼオライト(USY ゼオライト)の結晶子径をコントロールし、ゼオライ

ト表面のメソ孔容積を大きくすることで従来を上回るボトム留分を分解でき、

また触媒消費量や収率も変更せずに、より重質な残油処理ができる。さらに耐

水熱性も向上することから、より過酷な環境下での使用も可能である。同社で

は今後、新規 FCC 触媒の早期工業化へ向けた取り組みを進め、石油精製におけ

るボトムレス化に対応するとともに、多様なユーザーニーズに応じた事業展開

に弾みをつける。

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講演会記録 講演日 講演者 演題

H21.5.18

(第 315 回)

魚住 泰広 氏

自然科学研究機構分子科学研究所 教授

理化学研究所研究チームリーダー

水中機能性固定化触媒の開発:

理想の化学プロセスを目指して

H21.6.16

(第 316 回)

山口 徹 氏

株式会社 Transition State Technology 代表取締役 遷移状態解析

H21.7.9

(第 317 回)

菊地 隆司 氏

東京大学大学院工学系研究科 准教授

複合酸化物を用いた改質触媒の開発

白井 誠之 氏

産業技術総合研究所

コンパクト化学プロセス研究センター 研究チーム長

超臨界流体利用技術の現状と将来展望

和田 雄二 氏

東京工業大学大学院理工学研究科 教授

不均一反応系におけるマイクロ波加熱の

特徴とその化学反応利用

- 特殊効果も視野に入れて

H21.8.5

(第 318 回)

<第1回化学工学講習会>

上ノ山 周 氏

横浜国立大学大学院工学研究院機能の創製部門 教授

1.物質収支・熱収支

喜多 英敏 氏

山口大学大学院理工学研究科

環境共生系学域循環環境学分野教授

2.分離・精製

横田 守久 氏

宇部興産株式会社研究開発本部プロセス技術研究所長

3.シミュレーション

渡辺 毅 氏

(社)近畿化学協会・化学技術アドバイザー

元住友化学(株)生産技術センター所長

4.安全

H21.9.3

(第 319 回)

稲垣 怜史 氏

横浜国立大学大学院工学研究院 特任教員(助教)

横浜国立大学学際プロジェクト研究センター

ナノパーツを利用した大孔径ゼオライトの

構築と触媒としての利用

前田 和之 氏

東京農工大学大学院工学府応用化学専攻 准教授

無機有機ハイブリッドナノスペース材料

H21.10.23

(第 320 回)

石谷 治 氏

東京工業大学大学院理工学研究科化学専攻 教授

レニウム(I)錯体を中核とした光機能性物

質の開発

中野 環 氏

北海道大学大学院工学研究科

生物機能高分子専攻 教授

光および超分子相互作用による高分子の

コンホメーション制御

今井 宏明 氏

慶應義塾大学 理工学部 応用化学科 教授

バイオミネラル類似ナノ結晶集積体の合

成と応用

H21.11.27

(第 321 回)

加藤 隆二 氏

産業技術総合研究所計測フロンティア研究部門

主任研究員

イオン液体の物理化学的な性質とその発

現機能の応用

大門 裕之 氏

豊橋技術科学大学工学教育国際協力研究センター

准教授

高温高圧流体を用いた応用技術の紹介

~CFRPのリサイクルから飼料製造まで~

H21.12.7

(第 322 回)

三宅 孝典 氏

関西大学環境都市工学部 教授

マンガンを主成分とする触媒による酸化

反応

石原 一彰 氏

名古屋大学大学院工学研究科化学・生物工学専攻 教授

超原子価ヨウ素触媒を用いるアルコール

の酸化反応

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講演日 講演者 演題

H21.12.8

(第 323 回)

堀憲次 氏

山口大学 理工学研究科

計算化学の工学的応用へのアプローチ

千田範夫 氏

テンキューブ

WINMOSTAR の使用方法

相川 泰 氏

東洋紡績株式会社コーポレート研究所 主幹

非 経 験 的 分 子 軌 道 計 算 プ ロ グ ラ ム

GAMESS の利用法と活用例

志賀 昭信氏

ルモックス技研 主宰

PIO の利用法と活用例

村山 智 氏

日本ポリウレタン工業株式会社研究本部総合技術研究所

基礎研究部門基礎研究グループ基礎研究部門長 兼

基礎研究グループリーダー 主任研究員

Gaussian03 を用いた反応解析の利用法と

活用例

奥山 直人 氏

ダイセル化学工業株式会社

研究統括部コーポレート研究所 主任研究員

分子シミュレーションによる光学物性評価

鞆津 典夫 氏

出光興産株式会社 先進技術研究所 解析技術センター

Gaussian03 の座標を固定した計算法とそ

の活用例

H21.12.18

(第 324 回)

扇澤 敏明氏

東京工業大学大学院理工学研究科有機・高分子物質専攻

准教授"

ポリマーブレンド・アロイの観方・考え方・

作り方

H22.1.13

(第 325 回)

中村 洋 氏

京都大学大学院工学研究科高分子化学専攻 准教授

高分子鎖のモデル

寺尾 憲 氏

大阪大学大学院理学研究科高分子科学専攻 助教

高分子溶液測定の実際

佐藤 尚弘 氏

大阪大学大学院理学研究科高分子科学専攻 教授

溶液中における高分子鎖の分子特性解

寺尾 憲 氏

大阪大学大学院理学研究科高分子科学専攻 助教

繰り返し単位の構造と鎖の形態

中村 洋 氏

京都大学大学院工学研究科高分子化学専攻 准教授

高分子アーキテクチャーと鎖の形態

佐藤 尚弘 氏

大阪大学大学院理学研究科高分子科学専攻 教授

高分子電解質の分子形態

H22.1.28

(第 326 回)

山田 容子 氏

愛媛大学大学院理工学研究科環境機能化学 准教授

前駆体法を利用した有機低分子半導体

の合成と物性

竹中 幹人 氏

京都大学大学院工学研究科高分子化学専攻 講師

ブロック共重合体の配向制御自己組織化

によるナノマテリアルの創製

H22.2.10

(第 327 回)

宮本 明 氏

東北大学未来科学共同研究センター センター長・教授

賢材料と計算化学

吉田 博 氏

大阪大学大学院基礎工学研究科 教授

創エネルギーのための計算機ナノマテリ

アルデザインと実証

H22.2.12

(第 328 回)

金子 克美 氏

千葉大学 理学研究科 化学科 教授

固体ナノ空間の特異機能

H22.2.19

(第 329 回)

笹沼 裕二 氏

千葉大学大学院工学研究科共生応用化学専攻 准教授

弱い相互作用からみる高分子観の構築と

分子設計

H22.3.9

(第 330 回)

吉澤 一成 氏

九州大学 先導物質化学研究所 教授

分子伝導とフロンティア軌道

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講演日 講演者 演題

H22.3.16

(第 331 回)

<第2回化学工学講習会>

上ノ山 周 氏

横浜国立大学大学院工学研究院機能の創製部門 教授

物質収支・熱収支

福原 長寿 氏

静岡大学工学部物質工学科化学システム工学コース 教授

反応速度論

渡辺 毅 氏

(社)近畿化学協会・化学技術アドバイザー

元住友化学(株)生産技術センター所長

安全

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研究機関訪問調査記録

第一線の研究者から 新の研究手法、触媒反応プロセス設計指針、事業化への取り組み における経験等を直接ヒヤリングすることを目的とした 先端研究機関への訪問調査とし

て、2009 年度は、産業技術総合研究所関西センターを訪問した。内容は以下の通り。 参加者:佐藤委員長、蔵本委員、植田委員、梅野委員、中野委員、一色委員 1.日時:2009 年 11 月 24 日(金) 13:30~16:30 2.訪問先:独立行政法人産業技術総合研究所 関西センター ( http://unit.aist.go.jp/kansai/ ) 3.訪問先住所:〒563-8577 大阪府池田市緑丘 1-8-31 4.内容 13:30~14:00 概要説明 関西産学官連携センター 大谷和男招聘研究員 14:00~14:30 バイオベースポリマー連携研究体 中山敦好連携研究体長 バイオベースポリマーとしてのナイロン4の研究開発と生分解性の評価 14:30~15:00 ナノテクノロジー研究部門ナノ機能合成グループ 藤原正浩主任研究員

中空粒子、メソポーラス材料、ゼオライトの研究開発 15:00~15:30 光技術研究部門デバイス機能化技術グループ 谷垣宣孝グループ長 高分子による光機能デバイスと高分子薄膜の作成技術の研究開発 15:30~16:30 情報交換 17:30~ 懇親会

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調査委員会名簿 氏名 所属 部署 役職

委員長 佐藤 智司 千葉大学大学院 工学研究科 教授

委員 (リーダー)

一色 信之 花王株式会社 素材開発研究所 プロジェクトリーダー

委員 後口 隆 宇部興産株式会社 研究開発本部 主席研究員

委員 堀 公彦 花王株式会社 研究開発部門 主席研究員

委員 小島 明雄 出光興産株式会社 化学開発センター化学品研究所 研究員

委員

蔵本 正彦

出光興産株式会社

化学開発センター化学品研究所

第二研究室

室長

委員 水谷 洋 コスモ石油株式会社 研究開発部技術開発1グループ 担当グループ長

委員 内田 博 昭和電工株式会社 研究開発センター(千葉) コーポレートフェロー

委員 黒田 靖 昭和タイタニウム株式会社 技術Gr.

委員

松村 泰男

新日本石油化学株式会社

中央技術研究所化学研究所

機能化学品グループ

チーフスタッフ

委員 清水 潔 ダイセル化学工業株式会社 研究統括部技術企画グループ

委員 植田 秀昭 ダイソー株式会社 研究所新事業推進室

委員 屠 新林 東亞合成株式会社 基盤技術研究所 専門主査

委員 住田 康隆 株式会社日本触媒 研究開発本部先端材料研究 グループリーダー

委員 永村 裕生 株式会社日本触媒 研究開発本部研究企画部 主席部員

委員

中野 景太

日本ゼオン株式会社

総合開発センター高機能材料研究所

化学品研究グループ

グループ長

委員 梅野 道明 三井化学株式会社 触媒科学研究所固体触媒技術ユニット 研究員

委員 根本 明史 株式会社三菱化学 科学技術研究センター機能商品研究所 主席研究員

委員 多賀 恵子 株式会社化学工業日報社 編集局 記者

委員 田村 祐介 株式会社ヒューリンクス 技術部

委員

杉山 順一

独立行政法人

産業技術総合研究所

研究環境整備部門テクニカルセンター 総括主幹

委員 松方 正彦 早稲田大学理工大学院 先進理工学研究科応用化学専攻 教授

委員 志賀 昭信 ルモックス技研 主宰

委員 荒井 康全 人間環境活性化研究会

委員 鈴木 昇 宇都宮大学 大学院工学研究科 教授