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Keiji TamiyaSatoshi KasamaYasuaki Matsuda 平成30年度 公共事業の景観性を評価・判断する際に用いる 評価手法の検討について -景観評価実験結果をふまえて- 国立研究開発法人土木研究所 寒地土木研究所 地域景観ユニット ○田宮 敬士 笠間 松田 泰明 公共事業において、ストック効果の最大化などインフラ価値の向上が求められ、観光立国推 進などの観点から景観面でも適切な検討と効果的な整備が必要とされている。しかし、景観性 を定量的に評価・判断することは難しく、公共事業における景観評価には課題も多い。そこで 本研究では、景観評価において一定の有効性が確認されているSD法をベースとして、それを改 変し現場で適用可能な景観評価手法について検討を行ったので報告する。 キーワード:景観評価、評価実験、景観検討、SD1 .研究の背景及び目的 公共事業において、ストック効果の最大化などインフ ラ価値の向上が求められ、観光立国推進などの観点から 景観面でも適切な検討と効果的な整備が必要とされてい る。しかし、景観性を定量的に評価・判断することは難 しく、公共事業における景観評価には課題も多い。一方、 このことについて例えば、国土交通省で示される『国土 交通省所管における景観検討の基本方針(案)』 1) (以 下、基本方針案という)では、景観評価の重要性は述べ られているものの、その具体的な手法は示されていない。 そのため、検討委員会の設置等の十分な景観検討体制の 確保が困難な事業においては、担当技術者の感覚や経験 が頼りになっていることが多く、その技術支援が求めら れている。この景観評価の技術は、計量心理学的評価と、 それ以外の議論での定性的な評価に大別される。前者は、 より客観性を持つように複数の人間の主観的な評価を統 計的に処理した手法で、後者は確かな知識・知見を持っ た少人数の主観的な感覚などに基づき検討する。 これらをふまえ、本研究では景観評価において一定の 有効性が確認されている、計量心理学的評価手法の一つ であるSemantic Differential 法(以下、SD 法という)をベー スとし、それを改変し現場で適用可能な景観評価手法に ついての検討を行った。 2 .公共事業に対する計量心理学的評価手法の適用 (1) 計量心理学的評価手法の概要 -1 に計量心理学的評価に用いる際の代表的な測定方 2) を示す。これによると計量心理学的測定法は、①評 価尺度を使わない方法、②評価尺度を使う方法、③観測 的方法あるいは評価尺度による方法(①と②の複合)、 に大別される。本報告で検討する景観評価手法は、検討 に多大な手間や特別な技術や装置等を必要としない手法 が必要であることから、-1 に示す「②評価尺度を使う 方法」を主体に考えた。その中でも、景観評価において 代表的な手法となる SD 3) に主眼を置き、既往文献 3) どで一般的に用いられている一対比較法とマグニチュー ド推定法(Magnitude Estimation 法、以下、ME 法という) -1 代表的な計量心理学的測定法 目的分析対象 評価尺度 を使わな い方法 観測的方法 アイマーレコーダー 注視点行動 言語など現または認知さ せる方法 想起再生法(マップ法等) 再認法 情報量 イメージ分析 評価尺度 を使う方法 (評価法) 分類評価尺度 選択法 分類 順位づけ 序数評価尺度 評定度法 品等法 一対比較法 分類 順位づけ 重みづけ 距離評価尺度 分割法 系列カテゴリー法 等現間隔法 づけ 比例評価尺度 ニチュー推定法 百分率評定法 倍数法 刺激量心理量対応 評価SD意味情緒 観測的方法あるいは評定尺 度による方法 調整極限法 恒常法 閾値等価値等数の決定 (『土木工学大系 13 景観論 2) 』より抜粋し、赤字で追記) 本検討対象 本検討対象 本検討対象

公共事業の景観性を評価・判断する際に用いる 評価 …Keiji Tamiya、 Satoshi Kasama、Yasuaki Matsuda 平成30年度 公共事業の景観性を評価・判断する際に用いる

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Keiji Tamiya、 Satoshi Kasama、Yasuaki Matsuda

平成30年度

公共事業の景観性を評価・判断する際に用いる

評価手法の検討について -景観評価実験結果をふまえて-

国立研究開発法人土木研究所 寒地土木研究所 地域景観ユニット ○田宮 敬士

笠間 聡 松田 泰明

公共事業において、ストック効果の最大化などインフラ価値の向上が求められ、観光立国推

進などの観点から景観面でも適切な検討と効果的な整備が必要とされている。しかし、景観性

を定量的に評価・判断することは難しく、公共事業における景観評価には課題も多い。そこで

本研究では、景観評価において一定の有効性が確認されているSD法をベースとして、それを改

変し現場で適用可能な景観評価手法について検討を行ったので報告する。

キーワード:景観評価、評価実験、景観検討、SD法

1.研究の背景及び目的

公共事業において、ストック効果の最大化などインフ

ラ価値の向上が求められ、観光立国推進などの観点から

景観面でも適切な検討と効果的な整備が必要とされてい

る。しかし、景観性を定量的に評価・判断することは難

しく、公共事業における景観評価には課題も多い。一方、

このことについて例えば、国土交通省で示される『国土

交通省所管における景観検討の基本方針(案)』1) (以

下、基本方針案という)では、景観評価の重要性は述べ

られているものの、その具体的な手法は示されていない。

そのため、検討委員会の設置等の十分な景観検討体制の

確保が困難な事業においては、担当技術者の感覚や経験

が頼りになっていることが多く、その技術支援が求めら

れている。この景観評価の技術は、計量心理学的評価と、

それ以外の議論での定性的な評価に大別される。前者は、

より客観性を持つように複数の人間の主観的な評価を統

計的に処理した手法で、後者は確かな知識・知見を持っ

た少人数の主観的な感覚などに基づき検討する。 これらをふまえ、本研究では景観評価において一定の

有効性が確認されている、計量心理学的評価手法の一つ

であるSemantic Differential法(以下、SD法という)をベー

スとし、それを改変し現場で適用可能な景観評価手法に

ついての検討を行った。

2.公共事業に対する計量心理学的評価手法の適用

(1) 計量心理学的評価手法の概要

表-1に計量心理学的評価に用いる際の代表的な測定方

法 2)を示す。これによると計量心理学的測定法は、①評

価尺度を使わない方法、②評価尺度を使う方法、③観測

的方法あるいは評価尺度による方法(①と②の複合)、

に大別される。本報告で検討する景観評価手法は、検討

に多大な手間や特別な技術や装置等を必要としない手法

が必要であることから、表-1に示す「②評価尺度を使う

方法」を主体に考えた。その中でも、景観評価において

代表的な手法となるSD法 3)に主眼を置き、既往文献 3)な

どで一般的に用いられている一対比較法とマグニチュー

ド推定法(Magnitude Estimation法、以下、ME法という)

表-1 代表的な計量心理学的測定法

方 法 的 分 類 測 定 法 目的・分析対象

評価尺度を使わない方法

観測的方法 アイマーク・

レコーダー 注視点行動

言語、図などで表現または認知させる方法

想起法 再生法(マップ法等) 再認法

情報量イメージ分析

評価尺度を使う方法(評価法)

分類評価尺度 選択法 分類

順位づけ

序数評価尺度 評定尺度法 品等法 一対比較法

分類順位づけ 重みづけ

距離評価尺度 分割法 系列カテゴリー法 等現間隔法

重みづけ

比例評価尺度 マグニチュード推定法 百分率評定法 倍数法

刺激量と心理量の対応

多元的評価尺度 SD法 意味・情緒

観測的方法あるいは評定尺度による方法

調整法 極限法 恒常法

閾値・等価値等定数の決定

(『土木工学大系13景観論2)』より抜粋し、赤字で追記)

本検討対象

本検討対象

本検討対象

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Keiji Tamiya、 Satoshi Kasama、Yasuaki Matsuda

をあわせて検討することとした。

(2) SD法の概要 SD 法は、意味微分法または意味差判別法とも呼ばれ、

さまざまな物事や言葉に対して人が抱く意味を測定する ために、1957年にチャールス・エガートン・オスグッ

ドによって提案された心理測定法 4)である。さまざまな

対象のイメージを測定するための方法として広まり、建

築空間や景観に対する人々のイメージを測定する代表的

な手法ともなっている。具体的には、対象に対して多数

の評価尺度(形容詞対)で評価値を測定した後、そのデ

ータを因子分析などの多変量解析によって分析し、対象

を評価する代表的な評価尺度(形容詞対)を抽出すると

いう流れで用いられる。景観の単純な良し悪しだけでな

く人々がその景観に抱く印象を多角的に分析することが

でき、ある程度の人数を確保することで景観に対する共

通的な印象を把握することができるため、既往研究 5)~6)

などにおいて有用性が示されている。

(3) SD法を公共事業の景観評価に適用する上での課題 筆者らは、既往研究において、SD 法における評価サ

ンプルの提示方法 7)や必要な被験者数 8)などの有効性を

確認してきたが、その中で以下の課題を把握した。 ・複数の類似画像を評価する際、長い評価時間を要し、

被験者の負担が大きくなる ・評価結果の精度が低下する 図-1 に既往研究 7)で用いた SD 法における評価画像と

回答用紙の一例を示す。この実験では、評価画像の構図

の違いがどのように道路景観に影響を与えるかを検証す

るものである。被験者は、6 枚(№1~№6 画像)の類似

した画像を 12の評価尺度(形容詞対)について、№1から№6 画像まで順次評価した。しかし、構図が類似して

いるため、6 枚の画像の印象の差を捉えにくく、また、

評価結果にバラツキが生じることが確認された。また、

筆者らが行った屋外広告物の高さや色彩等を変化させた

際の景観評価実験 9)においても同様の課題が確認された。 (4) 課題解決に向けた提案 公共事業の景観検討場面は主に、計画・設計時の「空

間全体の景観性を検討する場面」、「構造物や工法等要

素の景観性を検討する場面)に大別される。このことを

ふまえ、SD 法をベースに以下の 2 つの改変を行った。

本報告では、この改変した手法を仮称・寒地法と呼ぶ。 a) 改変その1:並列回答方式 従来のSD法では、1枚の画像の印象を1枚の回答用紙

に記入し順次繰り返すが、複数設計案の比較などの画像

が類似する場合には、前述の誤差に起因する問題が発生

しやすい。そこで複数画像の印象を順位付けながら、画

像自身の尺度段階を定めて 1枚の回答用紙に記入する方

式(以下、並列回答方式と呼ぶ)に改変した。具体的な

手順は、①複数画像を机上に任意に並べる、②その中で

最も評価の高い画像(以下、Maxと呼ぶ)と最も評価の

低い画像(以下、Min と呼ぶ)を選び、各々の尺度段階

を定め(絶対的な評価)回答用紙に記入する、③残りの

画像の順位を定め、MaxとMinの間に記入する。この回

答用紙記入の概概を、後述3.(1)の図-2右上に示す。 b) 改変その2:評価尺度(形容詞対)の類型化 従来の SD 法では一般的に、10~20 程度の印象を表す

評価尺度(形容詞対)を設定するが、意味が類似するた

めに評価しにくい場合がある。そこで、予め評価尺度

(形容詞対)の絞り込みができている場合は、類似する

形容詞対を一括りにし、それらを類型化した評価尺度

(以下、類型化評価尺度という)として提示するととも

に、形容詞の例も提示して類型化評価尺度の意味を示す。

(5) 提案の改変に関する既往研究の事例 複数画像における相互順位付けと画像自身の絶対的な

評価を行う手法は、既往研究の例をみない。表-1に示さ

れる「品等法(順位法)」では、サンプル相互の順位付

けは可能だが、サンプル自身の絶対的な評価は難しい。

また、サンプル相互の順位の間隔尺度を定める「正規化

順位法」の既往研究 10)では、サンプル自身の絶対的な評

価が不明確である。さらに、サンプル自身の絶対的な評

価を行う「評定尺度法」の既往研究 11)では、食品嗜好調

査として、カレーライス、紅茶、バナナ等、相互の類似

№1:建物寄り・歩道軸⽅向 №2:建物寄り・⾞道⽅向 №3:歩道中央・歩道軸⽅向

№4:歩道中央・⾞道⽅向 №5:⾞道寄り・歩道軸⽅向 №6:⾞道寄り・⾞道⽅向

図-1 既往研究(構図評価実験)で用いたSD法

№1画像

№2~6画像も同様に評価

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Keiji Tamiya、 Satoshi Kasama、Yasuaki Matsuda

性が低いサンプルを用いて評価しており、本研究で用い

る類似性の高いサンプルの評価は難しいと考える。 以上のことをふまえ、仮称・寒地法は、複数サンプル

における相互順位付けとサンプル自身の絶対的な評価が

可能となり、細かな工法や要素の変化に対応した景観評

価を行う上での有効な手法とすることを目指した。その

ため本報告では、被験者実験により SD 法、一対比較法

及びME法との比較検証を試みた。表-2に、本報告で対

象とした 4つの手法の特徴を示す。

3.計量心理学的評価手法を用いた景観評価実験

(1) 実験概要

表-3に実験概要を示し、以下に実験条件等を概説する。 a) 実験方法

公共事業における設計対象物の規模、形状や仕様等に

ついての景観評価を行うことを想定し、完成形をフォト

モンタージュを用いて予測した。この予測画像を前述の

4 つの手法を用いて、完成形となる景観性の差違を評価

できるかを実験により検証した。 b) 対象とした事業種別と評価サンプル 予測・評価の対象とする事業分野については、「道路

や街路(以下、道路という)」、「河川」及び「公園・

緑地」の 3分野とし、景観検討の対象となりやすいと考

える 7事業、9箇所 を抽出した。この 9箇所における変

更前・変更後の 4 種類、計 36 枚のフォトモンタージュ

を作成し、これを評価実験の対象とした。なお本報告で

は、無電柱化、道路法面、河川護岸の結果を報告する。 c) 評価尺度(形容詞対)及び尺度段階 表-4に実験で用いた評価尺度(形容詞対)を示す。前

述2.(4)のとおり、評価尺度(形容詞対)を類型化(以下、

類型化評価尺度と呼ぶ)したものを提示するとともに、

「類型化評価尺度の代表例」も示しその意味を補足した。

また、既往文献 3)を参考に SD 法の尺度段階は、3 段階

(とてもあてはまる-あてはまる-ややあてはまる、の

3 段階)の正負とした合計 6 段階に「どちらの言葉にも

あてはまらない」を加えた一般的な 7段階とした。

d) 回答用紙 図-2 に用いた回答用紙を示す。SD 法(図-2 左上)は、

1 枚の画像に対し、1 枚の回答用紙を用いた。前述のと

おり、仮称・寒地法(図-2右上)は、複数の画像を 1枚の回答用紙で記入できるようにした。一対比較法(図-2左下)は、どちらが好ましいかを判定させるため、「左

(画像)・右(画像)」と設定した。ME 法(図-2 右下)

は、基準サンプルの各指標を 100として、比較評定欄を

設定した。 e) 被験者数

被験者数は、著者らの既往研究 8)で評価の有効性が

確認されている 30 名程度とした。また、性別年代に

偏りがないよう男性 16名・女性 16名とし 20歳代、

30歳代、40歳代、50歳代、60歳代以上を6名または

7名ずつとした。

(f) 分析方法

仮称・寒地法、SD法及び ME法については評価サンプ

ル毎の回答平均値、標準偏差で分析した。一対比較法に

ついては評価サンプルごとの回答平均値による心理尺度

値で分析した。 (2) 実験結果

図-3に無電柱化、図-4に道路法面、図-5に河川護岸の

実験結果を示す。各事業4種類のフォトモンタージュの

うち、評価尺度において最も高い評価平均値(以下、

表-4 用いた評価尺度(形容詞対)

類型化評価尺度 評価尺度(形容詞対)の代表例

総合魅力 ・美しい ・好き ・行ってみたい

・美しくない・嫌い ・行ってみたくない

調和感 ・調和した ・なじむ ・まとまりのある

・違和感のある・なじまない ・ばらばらな

開放感 ・開放的な ・広々とした ・すっきりとした

・囲まれ感のある・窮屈な ・ごちゃごちゃした

自然性 ・自然的な ・緑豊かな

・人工的な・緑の乏しい

表-3 実験概要

日時 平成28年9月12日(月)13:30~16:30

評価手法

評価段階

分析方法

①SD法・6段階評価 ・平均値分析

②一対比較法 ・2段階評価 ・心理尺度値分析

③ME法 ・点数評価 ・平均値分析

④仮称・寒地法 ・6段階評価 ・平均値分析

場所 寒地土木研究所内

被験者

札幌市内及び近郊在住の一般市民32名(性別・年代に偏りがなく構成)

評価サンプル

道路、河川等の公共事業9つにおける改良前・後4種類、計36枚のフォトモンタージュ画像(A4紙)。 ①道路: 無電柱化 街路樹剪定 道路法面 道路附属物 ②河川: 河川護岸 河畔林伐採 ③公園・緑地: 附属物

表-2 本報告で対象とした4手法の特徴

手法 特徴 課題など

SD法

対象のイメージを測定し、因子分析などで代表的な評価尺度を抽出する方法。

事業の細かな工法を検討する場合等、工法の差が明確に出ない可能性が有る。

一対 比較法

2つの対象に対して、どちらかが好ましいかを評定する方法。

サンプル自身の閾値が不明確。また、サンプル数によっては組合数が膨大になり、被験者の負担が大きくなる。

ME法 基準のサンプルを100などとし、他の評価値を直接数値で評定する方法。

サンプルの物理量と心理量との対応分析にやや時間を要する。

仮称・ 寒地法

複数サンプルの相互順位と、サンプル自身の閾値を評定する方法。

予め評価軸が定まっている場合には、被験者の負担減や精度向上となり得る。

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Keiji Tamiya、 Satoshi Kasama、Yasuaki Matsuda

Maxと呼ぶ)と最も低い評価平均値(以下、Minと呼ぶ)

の差や画像種類に着目して、評価手法の比較を行った。 a) 仮称・寒地法とSD法との比較結果 両手法を比較した結果、無電柱化、道路法面及び河川

護岸いずれのケースにおいて、総合魅力のMaxとMinの

差に1段階以上の差がみられた。具体的には無電柱化

(図-3)では、仮称・寒地法の差4.0に対してSD法の差2.6となった。道路法面(図-4)では、仮称・寒地法の差2.8に対してSD法の差1.0となった。河川護岸(図-5)では、

仮称・寒地法の差2.0に対して、SD法の差1.0となった。ま

写真③                 写真④

A. 回答欄

とても低い 低い やや低い やや高い 高い とても高い

とても低い 低い やや低い やや高い 高い とても高い

とても低い 低い やや低い やや高い 高い とても高い

とても低い 低い やや低い やや高い 高い とても高い

言葉にあてはまらない

写真①                 写真②

Q. 4枚の写真を見比べて、印象を以下の項目について順位づけして評価してください。

← 調和感 →

← 開放感 →

← 自然性 →

← 総合魅力 → 高

言葉にあてはまらない

言葉にあてはまらない

言葉にあてはまらない

【調和感が⾼い例】違和感のない、なじむ、まとまりのある

【調和感が低い例】違和感のある、なじまない、ばらばらな

【開放感が⾼い例】開放的な、広々とした、すっきりとした

【開放感が低い例】囲まれ感のある、窮屈な、ごちゃごちゃした

【⾃然性が⾼い例】⾃然的な、⾃然の豊かな、⾃然を感じる

【⾃然性が低い例】⼈⼯的な、⾃然の乏しい⾃然を感じない

【総合魅⼒が⾼い例】美しい、好き、⾏ってみたい

【総合魅⼒が低い例】美しくない、嫌い、⾏ってみたくない

とても低い 低い やや低い やや高い 高い とても高い

とても低い 低い やや低い やや高い 高い とても高い

とても低い 低い やや低い やや高い 高い とても高い

とても低い 低い やや低い やや高い 高い とても高い

自然性

総合魅力

言葉にあてはまらな

言葉にあてはまらな

A.回答欄

言葉にあてはまらな

言葉にあてはまらな

写真①   

Q. ①の写真を見た時の印象を、以下の項目について○をつけて評価してください。

調和感

開放感

【調和感が⾼い例】 違和感のない、なじむ、まとまりのある

【調和感が低い例】 違和感のある、なじまない、ばらばらな

【開放感が⾼い例】 開放的な、広々とした、すっきりとした

【開放感が低い例】 囲まれ感のある、窮屈な、ごちゃごちゃした

【⾃然性が⾼い例】 ⾃然的な、⾃然の豊かな、⾃然を感じる

【⾃然性が低い例】 ⼈⼯的な、⾃然の乏しい、⾃然を感じない

【総合魅⼒が⾼い例】 美しい、好き、⾏ってみたい

【総合魅⼒が低い例】 美しくない、嫌い、⾏ってみたくない

他の画像と比較せずに評価

<SD 法> ※但し、評価尺度は類型化している <仮称・寒地法>

① ③ ④ ②←画像番号

① ④ ③ ②

A. 回答欄

言葉にあてはまらない

言葉にあてはまらない

言葉にあてはまらない

言葉にあてはまらない

基準写真①に対する評価写真②の点数

自然性

総合魅力

Q. 基準写真①と評価写真②を見比べて、              印象を以下の項目について点数で評価してください。

調和感

開放感

【調和感が⾼い例】違和感のない、なじむ、まとまりのある

【調和感が低い例】違和感のある、なじまない、ばらばらな

【開放感が⾼い例】開放的な、広々とした、すっきりとした

【開放感が低い例】囲まれ感のある、窮屈な、ごちゃごちゃした

【⾃然性が⾼い例】⾃然的な、⾃然の豊かな、⾃然を感じる

【⾃然性が低い例】⼈⼯的な、⾃然の乏しい⾃然を感じない

【総合魅⼒が⾼い例】美しい、好き、⾏ってみたい

【総合魅⼒が低い例】美しくない、嫌い、⾏ってみたくない

A. 回答欄

言葉にあてはまらない

言葉にあてはまらない

言葉にあてはまらない

言葉にあてはまらない

調和感

開放感

自然性

総合魅力

Q. ①、②の2枚の写真を見た時の印象を              以下の項目についてよりあてはまる方に○を付けて下さい。

どちらがよりあてはまるか?(○で囲む)

左  ・  右

左  ・  右

左  ・  右

左  ・  右

【調和感が⾼い例】違和感のない、なじむ、まとまりのある

【調和感が低い例】違和感のある、なじまない、ばらばらな

【開放感が⾼い例】開放的な、広々とした、すっきりとした

【開放感が低い例】囲まれ感のある、窮屈な、ごちゃごちゃした

【⾃然性が⾼い例】⾃然的な、⾃然の豊かな、⾃然を感じる

【⾃然性が低い例】⼈⼯的な、⾃然の乏しい⾃然を感じない

【総合魅⼒が⾼い例】美しい、好き、⾏ってみたい1

【総合魅⼒が低い例】美しくない、嫌い、⾏ってみたくない

図-2 4手法の回答用紙

画像①を100点とし 他の画像を点数で評価

どちらの評価が高いかを選択評価

100

120

140

160

<一対比較法> <ME法>

① ④ ③ ②

① ④ ③ ②

◆改変その1:並列回答方式 画像相互の順位付けを行いながら

画像自身の絶対的な評価を行う。 <その手順> ①複数の画像を机上に並べる ②Max、Min評価の画像を記入 ③Max、Minの間に残りの画像を記入

◆改変その2:評価尺度の類型化類似する評価尺度(形容詞対)を

一括りにするとともに、代表的な形容詞の例も提示して類型化した評価尺度の意味を示す。

※4手法とも評価画像は、A4サイズで提示している

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Keiji Tamiya、 Satoshi Kasama、Yasuaki Matsuda

た両手法におけるMax、Minの画像種類は同じであった。 b) 仮称・寒地法と一対比較法との比較 両手法を比較した結果、いずれのケースにおいて、総

合魅力のMaxとMinの画像種類は同じであった。具体的

には、無電柱化(図-3)では、両手法とも総合魅力にお

けるMaxの画像は②:地中化、Minの画像は①:変更前と、

同じであった。道路法面(図-4)では、両手法ともMaxの画像は④:植生付法枠、Minの画像は②:CO吹付と、同

じであった。河川護岸(図-5)では、両手法ともMaxの画像は④:自然石積、Minの画像は③:COブロック張と、

同じであった。 c) 仮称・寒地法とME法との比較 両手法を比較した結果、総合魅力のMaxとMinの画像

種類は、無電柱化では同じであったが、道路法面及び河

川護岸では異なった。具体的には、無電柱化(図-3)で

は、両手法とも総合魅力におけるMaxの画像は②:地中化、

Minの画像は①:変更前と同じであった。道路法面(図-4)では、両手法ともMaxの画像は④:植生付法枠であったが、

Minの画像は③:受圧板または②:CO吹付と、異なった。

河川護岸(図-5)では、両手法ともMaxの画像は④:自然

石積であったが、Minの画像は③:COブロック張または

②:布団籠と、異なった。 d) SD法とME法との比較

両手法を比較した結果、総合魅力のMaxとMinの画像

種類は、無電柱化及び道路法面では同じであったが、河 川護岸では異なった。具体的には、無電柱化(図-3)で

は、両手法とも総合魅力におけるMaxの画像は②:地中化、

道路法面(図-4)では、両手法ともMaxの画像は④:植生

付法枠、Minの画像は③:受圧板と、同じであった。河川

図-3 評価手法別の実験結果(無電柱化)

①変更前 ②地中化

③左片寄 ④右セットバック

Max: ②

Min:①

Max:② Max: ②

Min: ①

Max: ②

Min:① Min:①

4.0 2.6

(寒地法)

※グラフの縦軸:一対比較法は心理尺度値を、他は平均値を表す

比較a)

比較b)

比較c)

比較d)

図-4 評価手法別の実験結果(道路法面)

①変更前 ②co吹付

③受圧板 ④植生付法枠

Min

Max

Max

Max

Max

Min

2.8 1.0

Min

Min

(寒地法)

※グラフの縦軸:一対比較法は心理尺度値を、他は平均値を表す

図-5 評価手法別の実験結果(河川護岸)

①変更前 ②布団籠

③COブロック張 ④自然石積

Max:④

Min: ③

2.0 Max:①

Min:③

Min: ③

Max:④ Max:④

1.0

Min:②

(寒地法)

※グラフの縦軸:一対比較法は心理尺度値を、他は平均値を表す

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Keiji Tamiya、 Satoshi Kasama、Yasuaki Matsuda

護岸(図-5)では、両手法ともMaxの画像は①:改良前ま

たは④:自然石積で、Minの画像は③:COブロック張また

は②:布団籠と、異なった。 (3) 実験結果の考察 a) 仮称・寒地法とSD法との比較 仮称・寒地法はSD法に比べ、MaxとMinの画像の評価差

が大きくなった。これは、並列回答方式(改変その1)を用いることで評価がしやすくなった結果、精度が向上

し、それに加え、形容詞対の類型化(改変その2)を用

いることで一層の被験者の負担が軽減できたと考える。 b) 仮称・寒地法と一対比較法との比較

両手法においてMaxとMinの画像種類が同じとなった。

これは、画像を比較しながら評価したことにより結果の

精度が高まったと考える。なお、一対比較法は、サンプ

ル自身の絶対的な評価は難しく、評価サンプルが増える

と組み合わせが膨大になり被験者の負担が大きくなる。

しかし実験結果より、仮称・寒地法は、この一対比較法

の問題点などを補う手法になり得ると考える。 c) 仮称・寒地法とME法との比較

ME法は、基準画像に対する評点をつけるものだが、

その度合いの評価が難しいといった被験者からの意見が

あった。そのため、ME法は評価結果がSD法と同様にバ

ラついたと考える。なお、ME法は物理量と心理量との

対応となるため、対象物の高さや大きさなど物理量の明

確な設定が必要である。しかし実験結果より、仮称・寒

地法は、この設定に対応できる手法になり得ると考える。 d) 仮称・寒地法の有効性 仮称・寒地法は、SD法をベースに2つの改変を行った

手法である。改変その1では、複数画像における相互の

順位付けと画像自身の絶対的な評価により評価対象が明

確になり、改変その2では、形容詞対の類型化により、

被験者の負担の低下に伴い、集中力の低下が減ったと考

える。この手法は、公共事業の細かな工法や要素の差を

評価する際には有効な手法と考えられる。但し、この手

法を適用する上では、予め評価軸が定まっている必要が

ある。以上の結果に基づく仮称・寒地法と他手法との比

較を表-5に示す。

4.まとめ

SD法をベースに改変した景観評価手法(仮称・寒地法)

について、以下に得られた知見をまとめる。 ・仮称・寒地法は、各画像の評価差の違いを確認できる

などの有効性を確認した。 ・その理由は、複数画像における相互の順位付けと画像

自身の絶対的な評価(改変その1)によって評価対象

が明確なったこと。加えて、形容詞対の類型化(改変

その2)によって、被験者の負担の低下に伴い集中力

の低下が減ったためと考える。

・よって、細かな工法や要素の変化に対応した公共事業

における定量的な景観評価に有効な手法となり得る。 ・この手法の留意点は、予め評価軸が定まっている場合

に適用でき、また、記入方法が既往手法と異なるため、

実施前の十分な説明が必要となる。 参考文献

1) 国土交通省:国土交通省所管公共事業における景観検討

の基本方針(案)、2007.(2009.改訂)

2) 中村良夫、小柳武和、篠原修、田村幸久、樋口忠彦:土

木工学大系 13景観論、彰国社、pp.290-300、1977.

3) 佐々木葉:“景観の予測・評価手法”、篠原修編、景観

用語事典、彰国社、pp.60-73、2013. 4) Charles E. Osgood、 George J. Suci、 and Percy H. Tannenbaum:

The Measurement of Meaning、Univ.Illinois Press、1957. 5) 笠間聡、松田泰明:評価形容詞対を用いた印象評価実験

に基づく魅力的な歩行空間の要件に関する分析について、

寒地土木研究所月報第 751号、pp29~36、2015. 6) 平手小太郎ほか:都市景観評価手法の標準化に関する基

礎的研究、住宅総合研究財団研究年報、No.22、1995. 7) 小栗ひとみ、岩田圭佑、松田泰明:サンプルの作成方法

が評価結果に及ぼす影響~SD法を用いた景観評価技術の

パッケージ化に向けて~、土木計画学研究・講演集、

Vol52、2015. 8) 佐藤昌哉、小栗ひとみ、松田泰明、田宮敬士、岩田圭

佑:被験者数が評価結果に及ぼす影響~SD法を用いた景

観評価技術のパッケージ化に向けて~、土木計画学研

究・講演集、Vol54、2016. 9) 田宮敬士、松田泰明、二ノ宮清志:沿道の屋外広告物が

景観と広告効果に与える影響について ~SD 法を用いた

被験者実験~、寒地土木技術研究第 769 号、pp.30-36、2017.

10) 中前光弘:順位法を用いた視覚評価の信頼性について-

順序尺度の解析と正規化順位法による尺度構成法-、日

本放射線技術学会雑誌、第56巻、第5号、pp.725-730、2000.

11) 戸田準:食品の嗜好調査-その手法と嗜好パターンから

みた食品の分類-、調理科学、Vol.2、No.1、pp.21-26、1969.

表-5 仮称・寒地法と他の手法

手法公共事業の景観検討

への適用想定例

サンプル評価の適用性

自身の閾値の把握

相互の順位の 把握

被験者負担の少なさ

結果の精度

SD法公共空間や景観等に対する人々のイメージを評価・判断する。

○ ○ ×

(8分*)△

一対比較法

複数の計画・設計案の比較、順位付けを評価・判断する。

× ○ △**

(4分*)△**

ME法サンプルの物理量と心理量との関係を評価・判断する。

○ ○ △

(8分*)△

仮称・寒地法

細かな工法や要素変化に対する順位付けと絶対的な評価・判断を行う。

○ ○ ○

(4分*)○

*:実験における1構図(4枚)の評価時間**:但し、サンプルが増えた場合の適用性