24
1 複数機能性官能基の相乗効果による 高イオン伝導性のポリマー電解質 山口大学大学院・医学系研究科 (山口大学・工学部・応用化学科) 教授・堤 宏守

複数機能性官能基の相乗効果による 高イオン伝導性 …...2 従来の電池に使用されている電解質 上図は,世界最古 の電池と言われてい

  • Upload
    others

  • View
    2

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

1

複数機能性官能基の相乗効果による高イオン伝導性のポリマー電解質

山口大学大学院・医学系研究科

(山口大学・工学部・応用化学科)

教授・堤 宏守

2

従来の電池に使用されている電解質

上図は,世界最古の電池と言われているもの(約2000年以

上前)。素焼きの粘土の壺と円筒形の金属の筒(銅),金属棒(鉄)これを組み立て,中に酢などを入れると,電池として作用した。

ボルタの電堆 現在の乾電池の原型

いずれの電池も液体の電解質を使っている。

いずれの電池も液体の電解質を使っている。

図:http://vmw2.grc.nasa.gov/post632/Year2004/17NOV04/batteries.pdf

現在の様々な電池

3

漏液:電池の内部から電解液がもれだす現象

漏液79%

発熱14%

その他14%

http://www.baj.or.jp/knowledge/q01.html電池に関するクレームの内訳

昔から知られている液体電解質の問題点

漏液を防ぐために,電池の外装を強固にする。

構成材料名 アルカリ-

マンガン電池

亜鉛/g 2.8

二酸化マンガン/g 6.5

鋼板(外装材)/g 8.5

外装材の重量が全体の半分を占めている。

4

漏液だけでは無い液体電解質の問題点- もっと深刻な問題 -

• エネルギー密度の高い電池が実用化され,電池の作動条件が過酷になっている。

• 電気自動車用など大型化に伴い,電解液の量が増大している。

電池の安全性に対する懸念

電池の安全性に対する懸念

ポリマー電解質への大きな期待

ポリマー電解質への大きな期待

写真は,www.asahi.com/special/061207/TKY200612070300.htmlより

5

ポリマー電解質の基本構成と種類

• ポリマー電解質の基本構成

– ポリマー + 電解質塩

• ポリマー電解質の種類

– 真性ポリマー電解質

• 溶媒を全く含まない系

– 真性ポリマー電解質に可塑剤を加えた電解質

• 少量の低分子量化合物(可塑剤)を含む系

– ゲル電解質

– 室温溶融塩にポリマーを加えた電解質

– 複合材料(有機+無機)を用いた電解質

6

今までに検討されている化合物の例

(CH2CH2O)n

(CH(CH3)CH2O)n

CH2 CH

O O R

Si O

CH3

OR

P N

O

OR

polyethylene oxide

R

polypropylene oxide

n

n

CH2

n

C

R = -(CH2CH2O)m-CH3

O O R

CH3

n

poly(acrylate) poly(methacrylate)

poly(siloxane) poly(phosphazene)

共通した特徴共通した特徴

塩の解離に有利な極性基を有している。

塩の解離に有利な極性基を有している。

ガラス転移点の低い高分子化合物(あるいは,柔軟性に富んだ主鎖構造を有している。)

ガラス転移点の低い高分子化合物(あるいは,柔軟性に富んだ主鎖構造を有している。)

ポリエチレンオキシド

ポリプロピレンオキシド

ポリアクリル酸エステル系 ポリメタクリル酸エステル系

ポリシロキサン系 ポリフォスファゼン系

7

現在,実用化されているゲル電解質の問題点

• ポリマーネットワークの中に有機電解液を含ませたもの– 可燃性有機溶媒を含

むために,電池過熱時の発火の危険性は,液体電解質と,同等

– 特に電気自動車や電力貯蔵用途などの大型二次電池に使用することは,難しい。 有機溶媒・電解質塩

架橋点

高分子鎖

真性ポリマー電解質の高伝導化が1つの解決策

真性ポリマー電解質の高伝導化が1つの解決策

8

ポリマー電解質の抱える二大課題

• 伝導度の値が低い。– 電池に使用すると,内部抵抗が大きくなり,大

電流の放電・充電時が困難

– 室温で,有機電解液の1/10以上の伝導度を確保したい。(約10-3 Scm-1)

• 電極とポリマー電解質の接触が不十分– 液体電解質の時は,それなりに接触が確保で

きていた。

– 固体同士の貼り合わせの難しさ

9

• 電気を運ぶイオンをスムーズに移動させる工夫

– イオンの数を増やす。

– イオンの移動を速くする。

伝導度を高めるためには?

一人で運ぶよりは・・・大勢で

SLの旅もいいけれど・・・・速さでは新幹線!

10

ポリマー電解質の伝導度を左右するポイント

伝導度(σ)を表す式伝導度の単位:S cm-1

σ=Σn×e×μ

n イオンの数

e 電荷素量(イオンの電荷)

μ イオンの移動度(移動速度)

イオンによる電荷輸送

イオンの移動速度

11

従来型ポリマー電解質の問題点

• 添加した無機塩のイオンへの解離が不十分

– 無機塩の解離を従来よりも促進する仕組みの必要性

• 通常は,高分子中のエーテル酸素のみが,イオンに擬似的に溶媒和している。

• 生成イオンの輸送がスムーズでは無い。

– 以下のような高分子化合物が望ましい

• イオンをあまり強く束縛しない高分子

• 室温でも運動性の高い高分子

12

私たちの提案する解決方法

• 複数の官能基の協同作用を利用して,無機塩の解離促進

• ガラス転移点の低いポリマー骨格の採用

高いイオン伝導度を有する材料

Oエーテル基

CNニトリル基

×

室温で十分に柔らかい材料

13

紹介する技術内容・鍵となる高分子化合物の構造

O

NC

n On

O

CN

出願番号 2005-131475「高分子固体電解質」

出願番号 2007-122576「高分子固体電解質」

Oエーテル基

CNニトリル基

×

CNPVA Poly1

14

CNPVA:溶媒(PC)を少量含むポリマー電解質

10-5

10-4

10-3

10-2

10-1

3.0 3.1 3.2 3.3 3.4 3.5 3.6 3.7

1000 / T / K-1

伝導

度 /

S c

m-1

CNPVAを含まない

電解質

CNPVAを含まない

電解質

0℃30℃50℃ 10℃

CNPVAを含む電解質

各成分の重量%

PAN : 20.4CNPVA : 31.2LiClO4 : 32.7PC : 15.7

CNPVAを含む電解質

各成分の重量%

PAN : 20.4CNPVA : 31.2LiClO4 : 32.7PC : 15.7

PAN:ポリアクリロニトリル

15

CNPVA

試料番号

各成分の重量割合 / %

30℃における伝導度

(mS cm-1)PAN CNPVA LiClO4 PC

1 45.7 0 36.7 17.6 0.252 24.4 37.3 19.5 18.8 4.15

3 22.2 34.0 26.7 17.1 6.02

4 20.4 31.2 32.7 15.7 14.6

5 18.9 28.8 37.8 14.5 5.03

ポリマー電解質の組成と伝導度の関係

CNPVAを添加しないポリマー電解質に比べて,約60倍伝導度が上昇した。

16

2200 2220 2240 2260 2280 2300

測定スペクトル

相互作用していないPAN中のニトリル基

相互作用していないCNPVA中のニトリル基

リチウムイオンが配位しているPAN中のニトリル基

リチウムイオンが配位しているCNPVA中のニトリル基

吸光

度/ a

.u.

波数 / cm-1

ポリマーの側鎖にあるニトリル基とリチウムイオンが相互作用する場合には,ニトリル結合の伸縮振動が,高波数側にシフトすることが知られている。

CNPVA

リチウムイオンと相互作用しているニトリル基の量を知ることができる。

17

ピーク面積割合 / %

試料番号 Peak 1 Peak 3 Peak 2 Peak 4

PANのみ 100 0 - -

2 66 34 55 453 56 44 39 614 63 37 24 765 64 36 21 792200 2250 2300

吸光

度 /

a.u

.

波数 / cm-1

Peak 1

Peak 2

Peak 3

Peak 4PAN単独に比べ,リチウムイオンとの相互作用を

するニトリル基の数が増えている。

Oエーテル基

CNニトリル基

×2種類の官能基の

相乗作用で塩の解離が促進されて

いると考えられる。

CNPVA

18

Poly1:真性ポリマー電解質

10-6

10-5

10-4

2.8 2.9 3 3.1 3.2 3.3 3.41000 / T /K-1

伝導

度/S c

m-1

真性ポリマー電解質としては,高いイオン伝導度

(従来のPEOベースの

ものより10倍~100倍高い)

真性ポリマー電解質としては,高いイオン伝導度

(従来のPEOベースの

ものより10倍~100倍高い)

記号 塩の種類 塩の重量%

■ LiCF3SO3 8.44

▼ LiCF3SO3 5.79

● LiClO4 5.92

◆ LiClO4 4.02

30℃50℃70℃

エチレンオキシド鎖に比べて,トリメチレンオキシド鎖なので,イオンの高分子鎖への束縛が,弱くなっているためと推測される。

19

Poly1

-1 0 1 2 3

1cycle2cycle3cycle

0.01 mA cm-2

Potential (V) vs. Li / Li+

測定温度 : 55℃

・ -1.0 V付近にLiの析出による電流の増加

・ 0.43 V付近にLiの溶解に対応するピーク

・ -1.0 V付近にLiの析出による電流の増加

・ 0.43 V付近にLiの溶解に対応するピーク

作用極:Ni板 (0.5 cm×0.5 cm)

対極極:Li板 (0.5 cm×2.0 cm)

参照極:Li板 (0.25 cm×0.5 cm)

【測定セル】 電解質:(Poly1)10(LiClO4)1

サイクルを繰り返しても,ほぼ定常的な応答

リチウム二次電池用電解質として十分に機能

サイクルを繰り返しても,ほぼ定常的な応答

リチウム二次電池用電解質として十分に機能

Poly1電解質中でのリチウムの溶解・析出反応

20

Poly1

2.5

3

3.5

4

0 2 4 6 8

正極:LiCoO2電極

作動温度 : 55℃

電圧

/ V

容量 / mAh g-1

電流密度 : 1.3 μA cm-2

負極 : リチウム箔この電解質は,

リチウム二次電池用電解質として十分に機能

この電解質は,リチウム二次電池用

電解質として十分に機能

正極材料も,この電解質中で充放電可能であることが

明らかとなった。

正極材料も,この電解質中で充放電可能であることが

明らかとなった。

クーロン効率 84%

Poly1電解質を用いたリチウム二次電池の充放電曲線

21

まとめ

• エーテル基とニトリル基の相乗作用を利用し,高いイオン伝導度を有するポリマー電解質を実現できた。

• これらのポリマー電解質は,二次電池やキャパシタ用電解質への応用が可能である。

• CNPVAは,伝導度を上昇させる添加剤的な使用方法も可能である。

22

実用化に向けた課題・企業への期待

• 真性ポリマー電解質は,イオン伝導度をさらに高める工夫が必要

• 電極/電解質界面の改善についても,まだ大きな課題がある。

• 真性ポリマー電解質は,イオン伝導度をさらに高める工夫が必要

• 電極/電解質界面の改善についても,まだ大きな課題がある。

• 電解質だけでは,電池やキャパシタにはならないので,企業との連携が不可欠

• 共同研究が可能な部分では,連携を取っていきたい。

• 電解質だけでは,電池やキャパシタにはならないので,企業との連携が不可欠

• 共同研究が可能な部分では,連携を取っていきたい。

23

本技術に関する知的財産権

• 発明の名称

– 高分子固体電解質

• 出願番号– 特願2005-131475

• 出願人

– 山口大学

• 発明者

– 堤 宏守

• 発明の名称

– 高分子固体電解質

• 出願番号– 特願2005-131475

• 出願人

– 山口大学

• 発明者

– 堤 宏守

• 発明の名称

– 高分子固体電解質

• 出願番号– 特願2007-122576

• 出願人

– 山口大学

• 発明者

– 堤 宏守

• 発明の名称

– 高分子固体電解質

• 出願番号– 特願2007-122576

• 出願人

– 山口大学

• 発明者

– 堤 宏守

CNPVA関連CNPVA関連 Poly1関連Poly1関連

24

お問い合わせ先

山口大学 産学公連携・イノベーション推進機

TEL (0836)85-9961

FAX (0836)85-9962

E-mail:[email protected]

担当:産学連携コーディネータ 浜本俊一

山口大学 産学公連携・イノベーション推進機

TEL (0836)85-9961

FAX (0836)85-9962

E-mail:[email protected]

担当:産学連携コーディネータ 浜本俊一