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「選択肢構成パターンが消費者の製品選択プロセスに及ぼす影響」 3 選択肢構成パターンが消費者の製品選択プロセスに及ぼす影響 阿瀬見知恵 佐藤藍美 大部薗周 中山知美 藤田啓介 <要旨> 近年、選択肢に関する研究が盛んに行われている。中でも、選択肢多寡に関する研究では、 選択肢の多寡が消費者に及ぼす影響について議論の対立が生じている。しかし、これらの研 究は、消費者の購買プロセスの段階を考慮していないことや、選択肢の構成について考慮し ていない点で限界を抱えている。そこで本論は、消費者の製品選択プロセスと、選択肢の構 成を同時に考慮した消費者の製品選択プロセスモデルを構築し、実証分析を行った。その結 果、選択肢の構成パターンによって、消費者の製品選択プロセスに様々な変化が生じるとい う知見が得られた。 <キーワード> 選択肢/選択肢の構成パターン/整列性/対称性/製品選択プロセス/ 功利的購買/快楽的購買 1 章 はじめに 1 節 問題提起 今日、我々は日常生活の中で、食料品、電化製品、衣料品、生活用品など、生活スタイルに合わ せた様々な購買を行っている。また近年、消費者のニーズが多様化するにつれて、より複雑化・多 様化した製品が市場に展開されている。例えば、2003 年に誕生した「ユニクロ UT」では、1 つの 店舗内に 1000 種類、 1 2000 枚の T シャツを展示、販売し、 2013 10 月時点での累計売上枚数は 1 6000 万枚と、今までにない種類の豊富さで消費者購買意欲の向上を図っている。 ところが、製品の複雑化・多様化に起因して、消費者は大量の製品群の中から、自らに適した製 品を選択しなければならないという状況も同時に生じている。そして、消費者個々人の嗜好・選好 に合致するように展開された製品が、実は消費者の選択をより困難にしてしまっている。Iyengar, Jiang, and Huberman2003)の実験によると、同じスーパーマーケットで 24 種類の試供品提示と 6 種類の試供品提示とを比較してみたところ、消費者行動に大きな差異が見られた。6 種類の試供品 テストでは 30%の消費者が実際に製品を購買したが、24 種類の試供品テストでは 3%しか購入者が いなかったのである。このように、製品選択肢の増加が、消費者の製品選択肢に対する満足を低下

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「選択肢構成パターンが消費者の製品選択プロセスに及ぼす影響」

3

選択肢構成パターンが消費者の製品選択プロセスに及ぼす影響

阿瀬見知恵 佐藤藍美 大部薗周

中山知美 藤田啓介

<要旨>

近年、選択肢に関する研究が盛んに行われている。中でも、選択肢多寡に関する研究では、

選択肢の多寡が消費者に及ぼす影響について議論の対立が生じている。しかし、これらの研

究は、消費者の購買プロセスの段階を考慮していないことや、選択肢の構成について考慮し

ていない点で限界を抱えている。そこで本論は、消費者の製品選択プロセスと、選択肢の構

成を同時に考慮した消費者の製品選択プロセスモデルを構築し、実証分析を行った。その結

果、選択肢の構成パターンによって、消費者の製品選択プロセスに様々な変化が生じるとい

う知見が得られた。

<キーワード>

選択肢/選択肢の構成パターン/整列性/対称性/製品選択プロセス/

功利的購買/快楽的購買

第 1章 はじめに

第 1節 問題提起

今日、我々は日常生活の中で、食料品、電化製品、衣料品、生活用品など、生活スタイルに合わ

せた様々な購買を行っている。また近年、消費者のニーズが多様化するにつれて、より複雑化・多

様化した製品が市場に展開されている。例えば、2003 年に誕生した「ユニクロ UT」では、1 つの

店舗内に 1000種類、1万 2000枚の Tシャツを展示、販売し、2013年 10月時点での累計売上枚数は

1億 6000万枚と、今までにない種類の豊富さで消費者購買意欲の向上を図っている。

ところが、製品の複雑化・多様化に起因して、消費者は大量の製品群の中から、自らに適した製

品を選択しなければならないという状況も同時に生じている。そして、消費者個々人の嗜好・選好

に合致するように展開された製品が、実は消費者の選択をより困難にしてしまっている。Iyengar,

Jiang, and Huberman(2003)の実験によると、同じスーパーマーケットで 24種類の試供品提示と 6

種類の試供品提示とを比較してみたところ、消費者行動に大きな差異が見られた。6 種類の試供品

テストでは 30%の消費者が実際に製品を購買したが、24 種類の試供品テストでは 3%しか購入者が

いなかったのである。このように、製品選択肢の増加が、消費者の製品選択肢に対する満足を低下

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「選択肢構成パターンが消費者の製品選択プロセスに及ぼす影響」

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させるという、負の影響を示唆している既存研究が存在する(Iyengar, et al., 2003; Chernev, 2003)。

一方で、ユニクロ UTの事例のような、製品選択肢の増加が消費者の製品選択行動を促し、消費

者の満足に正の影響を及ぼしていると考えられる事例が存在し、さらにそのことを主張する研究も

存在する(Ariely and Levav, 2000; Simonson, 1990; Anderson, Taylor, and Holloway, 1966)。

このように、製品選択肢に関する研究は多く存在するが、製品選択肢の増加が、消費者にポジテ

ィブな影響を及ぼすと主張する研究と、製品選択肢の増加が、消費者にネガティブな影響を及ぼす

と主張する研究が対立しており、これらの議論は解決には至っていない。なぜ、選択肢の数が多い

という同じ条件であるにも関わらず、消費者はポジティブな反応を示したり、ネガティブな反応を

示したりするのであろうか。また、それら消費者の異なる反応は、いかなる要因に起因するもので

あろうか。

本論では、上記のとおり既存研究における選択肢の多さについての知見が対立している原因を、

選択肢の数以外の要因、つまり、選択肢の構成パターンに求める。さらに、既存研究における知見

の対立を背景に、検討されるべき従属変数が多様であることや、消費者の製品購買プロセスに言及

することで、製品選択肢の数が消費者の製品選択に及ぼす影響を吟味する。こうして、選択肢の構

成パターンについて考慮し、同時に、消費者の製品購買プロセスを製品の購買前、選択中、購買後

と区別することで、製品選択肢の数が消費者の購買行動にどのような影響を及ぼすのか、という研

究課題を設定する。この研究課題に対する解答が見出されたあかつきには、消費者満足の高い製品

選択を実現するために、企業がいかなる製品ラインナップを展開すべきか、ということについて有

用な示唆を与えると期待される。

第 2節 本論の構成

前節において述べた研究課題に解答するために、本論は本章以降、以下のように展開される。ま

ず、第 2 章においては、製品選択肢の多さが消費者行動に及ぼす影響を吟味している既存研究を概

観し、選択肢の構成パターンと消費者の製品購買プロセス、製品購買プロセスを構成する概念につ

いて言及する。続く第 3 章では、第 2 章で組織立てた諸概念について定義し、それらに基づいて仮

説を提唱する。そして第 4 章で、実験室調査を実施して収集したデータを用いて実証分析を行い、

その仮説の経験的妥当性を吟味する。最後に、第 5 章で、本論の学術的・実務的インプリケーショ

ンを述べ、本論の限界および今後の展望について言及する。

第 2章 既存研究レビュー

第 1節 製品選択肢が消費者の製品選択に及ぼす影響に関するメタ研究

前章においても述べたとおり、市場に多様化した製品が投入される時代を背景に、製品選択肢の

増加が、消費者の製品選択に及ぼす影響に関する研究は数多く行われている。例えば Sela, Berger, and

Liu(2009)では、選択肢の増加は消費者の快楽的な選択を促すと主張し、製品選択肢の増加は消費

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者の快楽に対して正の影響を及ぼすことを実験により示唆した。これに対し、Fasolo, Hertwig, Huber,

and Ludwig(2009)では、多量の選択肢から適切な選択をすることが、消費者に多くの情報処理負

荷を要求するために、消費者は選択時に困難を知覚することを実証分析により示唆した。すなわち、

製品選択肢の増加が消費者の選択行動に負の影響を及ぼすと主張している。このように、製品選択

肢の増加が消費者に与える影響に関して、盛んに研究がなされているのにも関わらず、それらから

得られる知見は収束に向かっていない。

この状況を受けて、Scheibehenne, Greifender, and Todd(2010)は、それまでの製品選択肢の増加が、

消費者に及ぼす影響に関する研究を対象にメタ分析を行った。その結果、消費者があらかじめ明確

な好みを持っている場合、製品選択肢の増加が消費者の選択行動全体へ正の影響を及ぼすというこ

とを示唆した。ただし、選択肢群の構成や製品選択を行う環境が変化する場合、製品選択肢の増加

は消費者の選択行動全体へ負の影響を及ぼすことがありうると主張している。

Scheibehenne, et al.(2010)は、消費者が明確な好みを有しているという条件下ではあるものの、

一般的に、製品選択肢の増加が消費者の製品選択行動全体に対して正の影響を及ぼすということを

明らかにした点、負の影響を及ぼしうるのが、選択肢群の構成や製品選択を行う環境の変化である

ことを指摘した点で評価される。しかしながら、メタ分析では、既存研究の分析結果を利用して分

析を行うという特性上、関連研究全体が正の影響と負の影響のどちらに偏っているのかを判別して

いるに過ぎないと指摘できよう。したがって、製品選択肢の増加が消費者行動にポジティブな影響

を及ぼすことを支持する研究と、支持しない研究とについて、識別する要因を詳細に吟味しておら

ず、その点において限界を抱えている。また、製品選択肢の増加が消費者行動に及ぼす影響につい

て、消費者の選択行動全体という範囲が大きく曖昧な捉え方をしている点においても限界を抱えて

いる。

これらの限界を克服するために、次節において Scheibehenne, et al.(2010)が課題として残した、

選択肢の構成パターンについての研究を概観する。

第 2節 選択肢の構成パターンに関する研究

Scheibehenne, et al.(2010)は、限界として、選択肢の構成パターンを考慮する必要があると述べ

ている。それと同時に、選択肢の構成パターンは、消費者の選択行動に影響を及ぼすとも主張して

いる。そのため、製品選択肢の増加が消費者に及ぼす影響を研究していくうえで、選択肢の構成パ

ターンについても考慮する必要があると考えられるだろう。そこで、本節では、選択肢を構成する

各要素について行われた研究を概観する。

Gourville and Soman(2005)は、製品の構成パターンにおける補償的関係に焦点を合わせている。

その上で、彼らは選択肢の構成パターンとして、補償的関係にある構成パターンと非補償的関係に

ある構成パターンとについて言及している。

例えば、前者の補償的関係にある選択肢の構成パターンとは、自動車エンジンのリッター数など、

数値で比較できるような構成パターン(もしくは、製品属性)のことである。他方、後者の非補償

的関係にある選択肢の構成パターンとは、サンルーフのある自動車とレザー仕様の内装の自動車の

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ように、いずれが優れているかを一次元的には判断できない構成パターン(もしくは、製品属性)

のことである。さらに、彼らはこの 2 種類の構成パターンを考慮し、製品選択肢数が消費者のブラ

ンド選択に及ぼす影響に関する実証研究を行った。分析の結果、構成パターンが補償的関係にある

場合、製品選択肢数の増加が、消費者の選択意図に正の影響を及ぼすということが明らかになった。

一方、構成パターンが非補償的関係にある場合、製品バリエーションの増加が、消費者の選択意図

に負の影響を及ぼすということが示唆された。この研究では、消費者の選択意図に及ぼす影響とし

て選択肢の構成パターンを考慮し、研究した点で評価することができる。

他方、Kahn and Wansink(2004)は 、選択肢の構成パターンとして、選択肢群の規模、選択肢群

の配列、および選択肢群の対称性を挙げている。第 1 の選択肢群の規模とは、選択肢の大きさのこ

とである。第 2 の選択肢の配列とは、製品の並べ方のことである。第 3 の選択肢群の対称性とは、

選択肢の全体的な属性のバランスのことである。ただし、選択肢の配列については、主に小売店舗

の陳列方法であるため、選択肢の構成パターンには含まれないと考えられる。そのため、本論では、

製品選択肢群の対称性に焦点をあて、詳しく概観していく。

選択肢群の対称性について、この研究では、図表 1に示されるように、M&Mチョコレートが 10

粒あり、5 色のチョコレートが 2 粒ずつある場合を、全体的な色のバランスが均一であるとし、選

択肢の色の割合が対称であるとしている。他方、図表 2に示されるように、10粒のうち 6粒が白色

で、その他の 4 粒がそれぞれ異なる色の場合を、全体的な色のバランスが不均一であるとし、選択

肢の色の割合が非対称であるとしている。

そしてKahn and Wansink(2004)は、選択肢群の対称性が消費量に及ぼす影響についての実証分

析を行った。その結果、製品選択肢が非対称である場合は、対称である場合と比較して、製品選択

肢の増加が消費量に及ぼす影響を大きくするということが示唆された。また、非対称の場合では、

消費者は、製品の多様性を知覚しやすくなることも示唆された。

この研究は、選択肢の構成パターンとして、製品選択肢の数の意味と同義の「選択肢の規模」の

ほかに、「選択肢群の対称性」という構成パターンを見出した点で評価することができる。しかし、

研究対象が「消費量」という点で本論の問題意識とは異なる。よって、この研究は、本論の選択肢

の構成パターンに関連している研究にとどまるだろう。

第 3節 製品選択肢が購買プロセスの各段階に影響を及ぼしている研究

Scheibehenne, et al.(2010)は、製品選択肢の増加が消費者の選択行動に及ぼす影響に関する研究

群を対象にメタ分析を行った結果、製品選択肢の増加が消費者の購買前のモチベーションに対して

正の影響を及ぼしていることを明らかにした。また、Anderson(2006)は、多量の選択肢がある場

合、消費者は、満足な製品選択ができるだろうと感じると述べ、製品選択肢の増加は消費者の確信

に正の影響を及ぼすと主張している。このように、この研究では消費者の製品選択への確信に焦点

を当てている。

一方で、Fasolo, et al.(2009)は、多量の製品選択肢から適切な選択をすることが、消費者に多く

の情報処理負荷を要求するために、消費者は選択時に困難を知覚すると述べている。この研究によ

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図表 1 対称性が高い例

図表 2 対称性が低い例

って、製品選択肢の増加は、消費者の選択中の困難に対して、正の影響を及ぼしていることを示唆

された。また、Sela, et al.(2009)は、製品選択肢の増加は、消費者に多くの情報処理負荷を要求す

るため、消費者の情報処理意欲を低下させ、快楽的な選択を促すと主張し、5 つの実験からそれを

検証している。つまり、製品選択肢が多い場合、消費者は功利的に情報を吟味することなく、楽し

さを重視して製品選択を行うと主張している。この研究は、製品選択肢の増加は、消費者に困難を

知覚させ、その結果、選択中の快楽に正の影響を与えることを示唆した。他方、Anderson, et al.(1966)

は、従来の研究を概観した結果、製品選択肢の増加が消費者選択行動に影響を及ぼすということに

着目した。そして、すべての選択肢を等しく魅力的だと評価したときに、製品選択肢の増加は、消

費者の購買後の製品選択に対する満足度に正の影響を及ぼすと主張している。

それに対して、Zeelenberg(2000)は、後悔と失望理論に基づき、消費者が多くの製品選択肢から

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意思決定すると、後から振り返ったときに間違っていたように知覚すると主張し、これを分析によ

り検証した。その結果、製品選択肢の増加は、消費者の後悔に対して正の影響を及ぼすことが示唆

された。さらに、全ての製品選択肢を認識し、考慮に入れることができた場合に、購買後の後悔は

少なくなると示唆している。

このように、これまでの研究は購買前、選択中、および購買後という消費者の購買プロセスの異

なる段階についてそれぞれ言及している。購買プロセスの既存研究については、図表 3 に示される

とおりである。これらの研究では、製品選択肢の増加が、消費者の選択行動の各概念に及ぼす影響

について明らかにした点では評価することができる。しかし、これらの研究はそれぞれ、購買プロ

セスの一部分しか焦点を当てておらず、実際の消費者が行うであろう、購買前から選択中、購買後

といった一連の流れについては考慮されていない。また、製品選択肢の増加が消費者の選択行動に

対して負の影響を及ぼす原因についての特定化には至っていない。

以上より、消費者の購買プロセス全体について考慮していない点、選択肢の構成パターンが消費

者の購買プロセスの各段階に影響を及ぼすことについて言及していない点で、課題を抱えている。

そして、購買プロセスの各段階において、製品選択肢の増加とその構成パターンが消費者の各従

属変数に対して、どのような影響を及ぼすかということに着目して実証研究を行うことによって、

既存研究での限界点の解決を行う。

図表 3 購買プロセスの段階ごとの既存研究

研究 従属変数 製品選択肢の増加 購買プロセス

Scheibehenne, et al.(2010) モチ

ベーション 支持 購買前

Anderson(2006) 確信 支持

選択中 Fasolo, et al.(2009) 困難 不支持

Sela, et al.(2009) 快楽 支持

Anderson, et al.(1966) 満足 支持

購買後

Zeelenberg(2000) 後悔 不支持

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第 4節 購買プロセスを構成する概念に関する研究

第 1項 購買前概念

前節で述べたとおり、購買プロセスは、購買前、選択中、および購買後に分類することができる。

井上(2007)によると、購買行動は、情報処理アプローチに依拠した功利的購買行動と、その枠組

みでは説明不可能な感情が伴う快楽的購買行動に分けられる。よって、本論では、購買の各段階に

おいて、功利的・快楽的側面を区別する。

まず、購買前の段階について、消費者は購買に対して様々な期待を抱くと考えられる。ここで、

小野(2000)は、期待という概念は、満足の対象となる購買ブランドの購買前評価を指すと定義し

ている。つまり、快楽的側面に関する期待は、選択することが楽しいだろうという期待快楽として

現れるであろう。他方、功利的側面に関する期待は、より良い選択ができるかもしれないという最

適化可能性として現れるであろう。最適化可能性とは、より良い製品を選択する事ができる確率の

ことであり、その確率が高い場合、良い製品を選ぼうとする意欲も高くなる。

続いて、購買前から選択中への移行段階において、消費者は、製品を選択することに対するモチ

ベーションを抱くと考えられる。ここで、Mattila(1999)によると、モチベーションは、情動的反

応に依存することがあるという。このとき、期待快楽は情動的反応として見なされるものである。

それゆえ、期待快楽がモチベーションに影響を及ぼすであろう。さらに、Littman(1958)によると、

モチベーションを構成する要素として、良い製品を選択しようとする意欲、良い製品を選択するた

めの力である選択力を挙げている。そこで本論において、選択前の意欲、選択力を総じてモチベー

ションと見なす。以上より、購買前の概念として、快楽的側面として期待快楽、功利的側面として

最適化可能性が考えられ、購買前から選択中につながる概念として、モチベーションが考えられる。

第 2項 選択中概念

次に、選択中の段階について、消費者は楽しいと感じながら選択や購買を行うであろう。ここで、

井上(2007)は、製品の探索、比較、購買時において楽しさという感情を伴う購買行動を、快楽的

購買行動と定義している。したがって、本論では、製品の選択中に感じる楽しさを快楽と定義する。

一方、消費者は選択を行う際、より良い選択を行おうと努力するため、困難を感じることがある。

ここで、Fasolo, et al.(2009)によると、多量の製品選択肢から適切な選択肢を選択することは、消

費者に多くの情報処理負荷を要求すると主張している。つまり、消費者の情報処理負荷が増加する

と、消費者は選択時に困難を知覚するということである。よって、本論では、製品の選択によって

知覚される難しさを困難と定義する。

続いて、選択中から購買に移る段階において、消費者は、より良いものが選べたという確信を抱

くと考えられる。ここで、Kahneman and Tversky(1973)は、自己の行為の正しさに対する自信の程

度を確信と定義している。よって、本論では、消費者が製品選択に対してどれだけの自信を持って

いるかを確信と定義する。また、Sela, et al.(2009)は、最善な選択をしようとすると困難は増加す

るとしている。つまり、快楽や困難といった経験をすることで、選択した製品が自分にとってより

良いものだという確信が生じるであろう。以上より、選択中の概念として、快楽的側面として快楽、

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功利的側面として困難が挙げられる。また、選択中から購買につながる概念として、確信が挙げら

れる。

第 3項 購買後概念

最後に、購買後の段階について、消費者は製品購買後、製品に対して満足・不満足を感じるであ

ろう。ここで、Yalow and Berson(1996)は、満足という概念を、消費者が購買後に当該製品に対し

て抱く全体的態度と定義している。そこで本論では、成果による満足や、他の製品選択肢に対する

後悔は消費者が製品を使用した後に生じるとみなし、これらを総じて満足と定義する。

第 3章 仮説の提唱

第 1節 選択肢の構成パターンと購買プロセスの概要

第 1項 選択肢の構成パターンのパターンとその定義

前章のレビューを受けて、本論では、選択肢群を構成する「選択肢の数」、「選択肢群の整列性」、

「選択肢群の対称性」の 3 つの構成パターンに注目する。そして、本項では、それらの構成パター

ンと本論における定義付けを行う。

まず、第 1 に挙げられる選択肢の構成パターンは、その数である。ここでの数は、メーカーが一

つの製品カテゴリーで展開しているブランドのうちの、一ブランドが有する製品の数である。例え

ば、ノートパソコンを販売している Lenovo は「THIMKPAD」、「IDEAPAD」、「エッセンシャル」の

3 つのブランドを展開している。存在する 3 ブランドのうちの 1 つである「THINKPAD」が展開し

ている選択肢の数が、本論で扱う選択肢数にあたる。したがって、Lenovoが販売するすべてのパソ

コンの選択肢の数は、本論における選択肢数の概念には当てはまらない。

続いて、第 2 に挙げられる選択肢の構成パターンは、選択肢群の整列性である。整列性とは、製

品選択肢の属性の補償的関係、非補償的関係を指すものである。補償的関係とは、数値で比較でき

る関係のことであり、一次元的な属性がこれにあてはまる。一方、非補償的関係とは、どちらが優

れているか判断できない関係にあることで、多次元的な属性がこれにあてはまる。属性同士が補償

的関係にある場合は、整列性が高くなる。一方、属性同士が非補償的関係にある場合、整列性は低

くなる。パソコンを例にとって考えてみる。Aのパソコンは容量が 500GBで、Bのパソコンの容量

は 750GBである。この場合、容量は数値で比較することができる。したがって、整列性は高い。一

方、A のパソコンの色は白、B のパソコンの色は黒であった。色は数値では測れないものであり、

白と黒のどちらが優れているとは判断することができない。したがって、整列性は低い。

最後に挙げられる選択肢の構成パターンは、選択肢群の対称性である。選択肢群の対称性とは、

その選択肢における属性のバランスである。色を例に考えてみると、選択肢が 10個あったとき、色

が白、ピンク、黄色、青、緑の 5 色が 2 個ずつ存在するとする。このとき、それぞれの色が全体に

占める割合は、すべて均等に 20%ずつであり、選択肢群の中における色の属性の割合に偏りがない。

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「選択肢構成パターンが消費者の製品選択プロセスに及ぼす影響」

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したがって、対称性は高くなる。一方、同じように選択肢が 10 個あり、色も、白、ピンク、黄色、

青、緑の 5色あるが、白一色のみ 6個存在し、残りの 4色すべては 1個ずつ存在するとする。この

とき、白が全体に占める割合が 60%、残りの 4色はそれぞれ 10%であり、その選択肢群における色

の属性の割合に偏りがある。したがって、対称性は低くなる。

第 2項 購買プロセスの概要

前章でも触れているとおり、選択という行動には、購買前、選択中、購買後の 3 つのプロセスに

類型化される。そして本節では、購買プロセスを構成する概念の定義づけを行う。

まず、購買前を構成する概念として、期待快楽と最適化可能性が挙げられる。期待快楽とは、選

択肢群から選択することによる楽しさを期待できることを指し、購買前に選択肢群を見て、消費者

が選ぶことが楽しいだろうと知覚することである。次に、最適化可能性とは、選択肢群から最適な

選択ができる可能性を指し、購買前に選択肢群を見て、消費者が最適な選択ができるだろうと知覚

することである。そして、購買前と選択中の間に存在する概念として、モチベーションが挙げられ

る。モチベーションとは、選択に対する意欲と選択力であり、購買前の期待快楽と最適化可能性に

よって影響を及ぼされる。このように、購買前の期待快楽と最適化可能性により、購買前から選択

中における、選択に対するモチベーションが決定される。

続いて、選択中に関係する概念として、快楽と困難が挙げられる。快楽とは、選択肢群から製品

選択をすることが楽しいと感じることである。また、困難とは、選択肢群から選択することにより

知覚される難しさである。そして、選択中から購買にかけての段階に確信が存在する。確信とは、

選択した製品が自分にとってより良いものだという自信の程度である。このように、選択中に知覚

する快楽と困難さによって、選択に対する確信が決定される。

最後に、購買後に関係している要因として、満足が挙げられる。満足とは、製品を使用した後に

得られる成果に対する満足や、他の製品選択肢に対する後悔をすべて含むものである。そのため満

足は、製品を購入した後、使用することによって知覚する充足感や、別の選択肢に対する後悔によ

って影響を及ぼされる。

第 1 項では、選択肢の構成パターンについて、本項では、購買行動のプロセスを構成する概念に

ついてそれぞれ定義づけをおこなった。これらをもとに次節では、購買プロセスを構成する概念が

選択肢群のどのような構成パターンから影響を受けるかを明らかにするため、仮説の提唱を行う。

第 2節 仮説提唱

第 1項 期待快楽がモチベーションに及ぼす影響に関する仮説

期待快楽とは、購買前における快楽的側面として、製品を選択することが楽しいだろうと知覚す

る情動的反応のことである。消費者は、購買前に製品の探索、比較への楽しみに期待を抱くことが

あろう。消費者が製品を選択することが楽しいだろうと知覚するとき、製品選択することへの意欲、

つまりモチベーションを高めると考えられる。したがって、期待快楽はモチベーションに対して正

の影響を及ぼす。

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続いて、製品選択肢の数が多い場合と少ない場合とを比較して検討しよう。製品選択肢の数が多

い場合、消費者は製品選択へ新しい発見を見出だせるだろうと知覚し、製品選択が楽しいものだろ

うと期待する。つまり、製品選択肢の増加は、期待快楽を高めると考えられる。期待快楽が高まる

ということは、製品選択への意欲を高める。

例えば、消費者が製品選択の際に 10 個の製品から選ぶほうが、2 個の製品から選ぶのに比べて、

選択することが楽しそうだと感じ、製品選択に意欲を持つだろう。したがって、選択肢の数が多い

場合は少ない場合に比して、期待快楽からモチベーションへの正の影響はより強くなる。

また、快楽的側面から見ると、製品選択肢は比較しにくい方が楽しさを知覚しやすい。つまり、

整列性が低い場合、消費者はより期待快楽を知覚しやすい。なぜなら、製品の違いが比較しにくい

ことで、消費者は新しい発見ができそうだと知覚できるからである。また、経験的な快楽を味わっ

てはいないとしても、製品に対して新たな価値を見出すことは可能であるため、購買前の期待快楽

は高まると考えられる。

例えば、消費者がスマートフォンを選ぶ際に、容量の違いのみで選ぶ方が、黒、白、ゴールドの

中から選ぶのに比べて、選択することが楽しそうだと感じづらく、製品選択に意欲を持ちづらくな

るだろう。したがって、選択肢群の整列性が高い場合は低い場合に比して、期待快楽からモチベー

ションへの正の影響はより弱くなる。

最後に、製品選択肢群の対称性について検討する。製品選択肢間で対称性が低ければ、消費者は

製品選択肢の多様性を知覚しやすくなる。快楽的側面からみると、同じ製品選択肢の中でも、製品

に多様な違いを見出せるため、消費者は楽しさを知覚しやすい。なぜならば、多様性を知覚すると

単純な情報処理負荷が増加するのではなく、製品を探索・比較することで新しい発見ができるから

である。この場合に知覚する製品間の差異は製品選択中におけるものであるが、購買前にそれを期

待快楽として知覚することは可能であろう。

例えば、消費者がスマートフォンを選ぶ際に、16GB、32GB に黒と白の製品選択肢から選ぶほう

が、16GBでは黒と白があり、32GBでは黒のみがある製品選択肢から選ぶのに比べて、選択するこ

とが楽しそうと感じづらく、製品選択に意欲を持ちづらくなるだろう。したがって、選択肢群の対

称性が高い場合は低い場合に比して、期待快楽からモチベーションへの正の影響はより弱くなる。

以上の議論から、以下の仮説を提唱する。

仮説 1:期待快楽はモチベーションに正の影響を及ぼす。

系 1:選択肢の数が多い場合は少ない場合に比して、期待快楽からモチベーションへの

正の影響はより強くなる。

系 2:選択肢群の整列性が高い場合は低い場合に比して、期待快楽からモチベーションへの

正の影響はより弱くなる。

系 3:選択肢群の対称性が高い場合は低い場合に比して、期待快楽からモチベーションへの

正の影響はより弱くなる。

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「選択肢構成パターンが消費者の製品選択プロセスに及ぼす影響」

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第 2項 最適化可能性がモチベーションに及ぼす影響に関する仮説

最適化可能性とは、購買前における功利的側面として、一番良い製品を選択することができるだ

ろうと知覚することである。消費者は、購買前に製品選択肢群を見たときに、自身にとって一番良

い製品を選択できるだろうという期待を抱くことがあるだろう。消費者が一番良い製品を選択でき

るだろうと知覚するとき、製品を選択することへの意欲、つまり、モチベーションが高まると考え

られる。したがって、期待快楽はモチベーションに対して正の影響を及ぼす。

製品選択肢が多い場合、消費者が製品を選択できる範囲は広いため、より良い製品を選択できる

だろうという最適化可能性は高まる。一方、製品選択肢の数が少ない場合、消費者が製品を選択で

きる範囲は狭いため、最適化可能性はあまり高まらない。

例えば、本を買いに書店を訪れたとき、10 冊の製品選択肢群から製品選択を行う場合と、100 冊

の製品選択肢群から製品選択する場合では、100 冊の場合のほうが、より消費者が満足する製品を

選択できる確率は高い。また、その確率が高い場合、消費者の良い製品を選ぼうという意欲も高く

なる。したがって、選択肢の数が多い場合は少ない場合に比して、最適化可能性からモチベーショ

ンへの正の影響はより強くなる。

また、整列性が高い場合、製品選択肢の属性は、数字という一次元的な尺度での比較が可能であ

るため、他の製品選択肢との比較がより容易である。比較が容易になると、消費者のより良い製品

を選べるだろうという期待は高まる。つまり、比較の容易さは最適化可能性を高める。また、最適

化可能性の高まりは、消費者のより良い製品を選択しようとする意欲を高める。

例えば、消費者がスマートフォンを選ぶ際に、容量のみの違いで選ぶほうが、黒、白、ゴールド

の中から選ぶのに比べて、良いものが選べるだろうと感じ、製品選択に意欲を持つだろう。したが

って、選択肢群の整列性が高い場合は低い場合に比して、最適化可能性からモチベーションへの正

の影響はより強くなる。

最後に、対称性が高い場合は、低い場合と比べて、消費者は、製品選択肢の多様性をあまり知覚

しない。しかし、多様性をあまり知覚しないことはまた、情報処理負荷を少なく知覚させるため、

消費者は、より良い製品を選択できる確率が高いと知覚する。

例えば、消費者がスマートフォンを選ぶ際に、16GB、32GB に黒と白の製品選択肢から選ぶほう

が、16GBでは黒と白があり、32GBでは黒のみがある製品選択肢から選ぶのに比べて、良いものが

選べるだろうと感じ、製品選択に意欲を持つだろう。したがって、選択肢群の対称性が高い場合は

低い場合に比して、最適化可能性からモチベーションへの影響はより強くなる。

以上の議論から、以下の仮説を提唱する。

仮説 2:最適化可能性はモチベーションに対して正の影響を及ぼす。

系 1:選択肢の数が多い場合は少ない場合に比して、最適化可能性からモチベーションへの

正の影響はより強くなる。

系 2:選択肢群の整列性が高い場合は低い場合に比して、最適化可能性からモチベーションへの

正の影響はより強くなる。

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「選択肢構成パターンが消費者の製品選択プロセスに及ぼす影響」

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系 3:選択肢群の対称性が高い場合は低い場合に比して、最適化可能性からモチベーションへの

正の影響はより強くなる。

第 3項 モチベーションが快楽に及ぼす影響に関する仮説

第 2 章第 4 節において議論したとおり、モチベーションとは、製品選択前から選択中への移行段

階において生じる、意欲、選択力のことである。消費者はより良い製品を選択しようと努力するた

め、意欲的に製品を選択する力を高めようとすると考えられる。

消費者は、製品を意欲的に選択しようとすることで、快楽的な感情を持ちながら選択を行うこと

ができる。なぜならば、購買する製品群についての知識を持ち合わせていることで、情報処理負荷

を引き下げることになり、より快楽を知覚しやすくなるからである。つまり、製品について知識を

有していることで、自分に適している製品か否かを、知識を有していない場合より効率よく判断す

ることができる。その結果、複雑な情報処理負荷が低減し、その分、多くの製品を比較、検討でき

るため、消費者は新しい発見をすることができる。そのような経験は消費者に快楽を知覚させると

考えられる。このように、消費者が選択前に知覚したモチベーションは、新たな発見を促し、選択

中の快楽を増加させる。したがって、モチベーションは快楽に対して正の影響を及ぼす。

上で述べたように、モチベーションが高いということは、製品選択の意欲、選択力が高いという

ことなので、消費者は快楽を知覚することができる。例えば、パソコンを購買しようと家電量販店

を訪れたとき、このようなパソコンが欲しいという印象を持っている場合と、ただパソコンを購買

しようと何も印象を持っていない場合、パソコンの印象を持っている場合の方が情報処理負荷は軽

減されると考えられる。つまり、情報処理負荷が少ないことで消費者は快楽を知覚することができ

る。そして、製品選択肢数以外の条件を一定と考えたとき、製品選択肢数が増加するということは、

快楽的側面から見ると、比較できる製品選択肢が増えるということになるため、製品選択に対する

意欲は向上する。そして、意欲が向上したことで選択が効率的になり、消費者は選択に対する楽し

さを知覚し易くなる。これらのことから、製品選択肢数の増加は、モチベーションを高くさせる。

例えば、消費者が製品選択の際に 10個の製品から選択するほうが、2個の製品から選択をする場

合に比べて、選択することに意欲を持ち、製品選択に楽しさを感じるだろう。したがって、選択肢

の数が多い場合は少ない場合に比して、モチベーションから快楽への正の影響はより強くなる。

他方、整列性の低さを快楽的側面からみると、製品選択において複数次元での比較が生じること

で、消費者は新しい発見をし易くなるであろう。そのため、消費者は意欲を向上させることができ、

効率的に判断することで、選択に対する楽しさを知覚し易くなる。

例えば、消費者がスマートフォンを選ぶ際に、容量のみの違いで選ぶほうが、黒、白、ゴールド

の中から選ぶのに比べて、選択することに意欲を持ち、製品選択に楽しさを感じづらくなるだろう。

したがって、選択肢群の整列性が高い場合は低い場合に比して、モチベーションから快楽への正の

影響はより弱くなる。

最後に、対称性の低さを快楽的側面からみると、製品間の差異を大きく知覚することは、消費者

の情報処理負荷を軽減させる。また、情報処理負荷の軽減は消費者の意欲、選択力を上げる。その

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「選択肢構成パターンが消費者の製品選択プロセスに及ぼす影響」

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結果、選択をより効率的に行うことができる。

例えば、消費者がスマートフォンを選ぶ際に、16GB、32GB に黒と白の製品選択肢から選ぶほう

が、16GBでは黒と白があり、32GBでは黒のみの製品選択肢から選ぶ場合に比べて、新たな発見を

できないことから、選択することに意欲を持ち、製品選択に楽しさを感じづらくなるだろう。した

がって、選択肢群の対称性が高い場合は低い場合に比して、モチベーションから快楽への正の影響

はより弱くなる。

以上の議論から、以下の仮説を提唱する。

仮説 3:モチベーションは快楽に正の影響を及ぼす。

系 1:選択肢の数が多い場合は少ない場合に比して、モチベーションから快楽への

正の影響はより強くなる。

系 2:選択肢群の整列性が高い場合は低い場合に比して、モチベーションから快楽への

正の影響はより弱くなる。

系 3:選択肢群の対称性が高い場合は低い場合に比して、モチベーションから快楽への

正の影響はより弱くなる。

第 4項 モチベーションが困難に及ぼす影響に関する仮説

モチベーションとは、製品選択に対する意欲と選択力をさす。消費者はあらかじめモチベーショ

ンを高く持っていると、意欲と選択力を有するため、選択中の困難を低減させる。すなわち、消費

者は選択力を有していることで、選択中に要求される情報処理を効率よく行なうことができる。そ

の結果、消費者は選択力を有さない場合より、時間的コストも心理的コストも少なくなるため、困

難を高く知覚しない。他方、モチベーションが高い消費者は選択に対する意欲が高いため、購買前

に一定の選択中困難を想定しているであろう。そのギャップ(購買前の認識との差)が生じにくい

ため、消費者は困難を低く知覚する。このように、消費者の購買前におけるモチベーションの増加

は、情報処理負荷を低下させ、選択に対して知覚する困難を低減させる。したがって、モチベーシ

ョンは困難に対して負の影響を及ぼす。

まず、製品選択肢の数が増加することは、功利的側面からみると、他の条件を一定としたときに、

製品の数が増えることを指し、消費者に対して処理しなければならない情報を増加させることであ

る。そのような情報処理負荷は、消費者のモチベーションを下げる。なぜなら、新しい情報が得ら

れず、単純な情報を処理することに、消費者は特に、選択力や意欲の必要性を知覚しないからであ

る。それによって、モチベーションは低下し、製品選択に対する意欲や選択力は低くなる。そして、

意欲や選択力の低減は、消費者にとって情報処理負荷を増加させる。

例えば、コンビニにお茶を買いに行った消費者がいたとしよう。そこには同じ 500ml のお茶が無

数に並んでいる。選択、比較において新しく入手する情報がないと判断した消費者は、その選択に

対してモチベーションが上がらないであろう。そこには意欲も選択力もないため、選択は効率の悪

いものとなり、消費者は情報処理負荷を感じる。それによって、製品選択を困難と知覚した消費者

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「選択肢構成パターンが消費者の製品選択プロセスに及ぼす影響」

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は選択の煩わしさを感じて、曖昧に製品選択を行うかもしれない。つまり、製品選択肢の増加は、

消費者情報処理を要求するため、意欲や選択力を指すモチベーションを低下させる。また、それに

よって選択が非効率になり、消費者は選択を困難と知覚する。したがって、選択肢数が多い場合は

少ない場合に比して、モチベーションから困難への負の影響はより弱くなる。

続いて、整列性の高さを功利的側面からみると、製品間の比較がしやすいことは消費者に情報処

理負荷を軽減させる。そのような、情報処理負荷の軽減は消費者モチベーションを上げる。なぜな

ら、製品の比較がしやすいことで、消費者は情報処理負荷による煩わしさを強く知覚しなくなるた

め、製品選択に対しての意欲や選択力が高まるからである。

例えば、消費者がスマートフォンを選ぶ際に、容量のみの違いで選ぶほうが、黒、白、ゴールド

の中から選ぶのに比べ、選択することに意欲を感じ、製品選択に意欲を感じるだろう。よって、消

費者は意欲や選択力を持って選択を行うため、情報処理をより効率的に行うことができる。したが

って、選択肢群の整列性が高い場合は低い場合に比して、モチベーションから困難への負の影響は

より強くなる。

最後に、対称性の低さを功利的側面からみると、製品選択肢の多様性を知覚しやすくなることで、

情報処理負荷を軽減させる。そのような情報処理負荷の軽減は、消費者のモチベーションを上げる。

よって、製品の差異が知覚しやすいことで、消費者は情報処理負荷による煩わしさを強く知覚しな

くなる。その結果、製品選択に対しての意欲や選択力が高まる。そして、消費者は意欲や選択力を

持って選択を行うため、情報処理をより効率的に行うことができる。したがって、選択肢群の対称

性が高い場合は低い場合に比して、モチベーションから困難への負の影響はより弱くなる。

以上の議論から、以下の仮説を提唱する。

仮説 4:モチベーションは困難に対して正の影響を及ぼす。

系 1:選択肢の数が多い場合は少ない場合に比して、モチベーションから困難への

負の影響はより弱くなる。

系 2:選択肢群の整列性が高い場合は低い場合に比して、モチベーションから困難への

負の影響はより強くなる。

系 3:選択肢群の対称性が高い場合は低い場合に比して、モチベーションから困難への

負の影響はより弱くなる。

第 5項 快楽が確信に及ぼす影響に関する仮説

快楽とは、製品選択中における快楽的側面として、探索、比較、および購買を行うときに知覚す

る楽しさである。消費者は製品の探索、比較を通して新たな発見をすることができる。そのような

新たな発見は、消費者に快楽を知覚させる。

多様な製品を前にして楽しみながら比較検討した製品は、その直後は良い買い物をしたと考える

ことができるであろう。楽しさを知覚しながら選択した製品に対しては、選択への確信度が高くな

る。なぜならば、快楽という感情は功利的に判断しなくてはならない基準を引き下げるからである。

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「選択肢構成パターンが消費者の製品選択プロセスに及ぼす影響」

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つまり、消費者は選択前にある一定の製品判断基準を持って選択を行うつもりであったのに、製品

の探索、比較を通して新たな発見をした消費者は快楽を知覚する。そのような快楽的な経験により、

消費者は製品に対しての新たな価値を見出し、その分が製品の価値に上乗せされる。その結果、消

費者の事前の製品判断基準を引き下げる。そうすることによって、消費者の選択は基準を満たしや

すくなり、選択に対する確信が高くなるのである。このとき、選択が一定の基準を満たしていない

ことに対して、消費者に認知的不協和が生じる。その不協和を解消するために、消費者は快楽的経

験で選択を正当化する。言い換えると、製品に対する判断基準が低下した分、快楽がそれを補って

いる。

例えば、何か製品を買うとき、一定の安価さを求めて小売店を訪れたが、製品を探索、比較を楽

しんでいるうちに、選択前の安価さという判断基準を下げて、予定していなかった出費をした経験

があるかもしれない。この例では、予定していた出費と実際の出費との差によって、認知的不協和

が生じる可能性があるが、このとき消費者は、製品の選択を楽しんだ経験を「いいものをたくさん

見ていたのだ」という理由付けをして、自身を正当化するであろう。このように、消費者は製品選

択中に知覚した楽しさの増加が事前の判断基準を引き下げた結果、選択に対して確信を増加させる。

したがって、快楽は確信に対して正の影響を及ぼす。

ここで、Fasolo, et al.(2009)は、多量の選択肢から適切な選択肢を選択することが、消費者に多

くの情報処理負荷を要求するために、消費者は製品選択時に困難を知覚すると述べている。他の条

件を一定とすれば、選択肢の数が増加することは、消費者に対して処理しなければならない情報を

増加させることである。すなわち、新しい情報はもたらさないので、製品の探索、比較から新しい

発見ができない。そのため、消費者は選択の楽しさを知覚しない。むしろ、変化のない情報処理を

増加させるので、快楽を低減するであろう。

例えば、飲み物を買いにコンビニを訪れたとき、10 種類の飲み物から製品選択を行うのと、2 種

類の飲み物から製品選択を行うのとでは、知覚する情報処理負荷の高さは異なる。製品選択肢が増

えると消費者に情報処理負荷を要求するため、製品の探索、比較、および購買を行う際の快楽に対

して負の影響になる。快楽的な経験が少なければ、製品判断基準は下がらない。よって、製品選択

の確信をしやすくなることはない。したがって、選択肢の数が多い場合は少ない場合に比して、快

楽から確信への正の影響はより弱くなる。

続いて、選択肢群の整列性というのは、その選択肢の属性が他の選択肢と比較しやすいか、そう

でないかの度合いのことである。快楽的側面から見ると、選択肢は比較しにくい方が楽しさを知覚

しやすい。なぜなら、製品の違いが見えにくいことによって、探索、比較を通して、消費者は新し

い発見をできるからである。

例えば、パソコンを買いに家電量販店を訪れたとき、店舗には多様な機能や、デザインのパソコ

ンがあり、それらの違いは分かりにくいだろう。その中から 1つ 1つ比較検討することで、「このパ

ソコンには、このような機能がある」という発見をすることができる。そのような経験は楽しさを

伴い、快楽を増加させる。ゆえに、整列性が低いとより楽しさを高く知覚する。その結果、消費者

の製品に対する判断基準が下がり、より確信しやすくなる。したがって、選択肢群の整列性が高い

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「選択肢構成パターンが消費者の製品選択プロセスに及ぼす影響」

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場合は低い場合に比して、快楽から確信への正の影響はより弱くなる。

最後に、選択肢群の対称性というのは、その選択肢における属性のバランスのことである。選択

肢の属性の対称性が低ければ、製品選択肢の多様性を知覚しやすくなる。言い換えると、製品間の

差異を大きく知覚することを指す。快楽的な側面からみると、多様性を知覚すると、その製品に多

様な違いを見出せるため、楽しさを知覚しやすい。なぜならば、多様性を知覚すると単純な情報処

理負荷が増加するのではなく、製品を探索や比較をすることで新しい発見をできるからである。

例えば、パソコンを買いに家電量販店を訪れたとき、ただパソコンが対称に製品展開されている

よりも、非対称に製品展開されている方が、消費者は製品の多様性を知覚することができる。パソ

コン間での差異を大きく知覚することで、消費者はそれを単純な情報処理負荷だと知覚しないので

ある。よって、このような経験は楽しさを伴い、快楽を増加させる。ゆえに、対称性が低いと、よ

り楽しさを高く知覚する。その結果、消費者の製品に対する判断基準が下がり、より確信しやすく

なる。したがって、選択肢群の対称性が高い場合は低い場合に比して、快楽から確信への正の影響

はより弱くなる。

以上の議論から、以下の仮説を提唱する。

仮説 5:快楽は確信に対して正の影響を及ぼす。

系 1:選択肢の数が多い場合は少ない場合に比して、快楽から確信への

正の影響はより弱くなる。

系 2:選択肢群の整列性が高い場合は低い場合に比して、快楽から確信への

正の影響はより弱くなる。

系 3:選択肢群の対称性が高い場合は低い場合に比して、快楽から確信への

正の影響はより弱くなる。

第 6項 困難が確信に及ぼす影響に関する仮説

困難とは、選択行動から難しさを知覚することである。消費者が困難を知覚すると、自らが行っ

ている選択行動が、本当に正しいものであるか否か、不安を抱くようになる。また、消費者が不安

を抱きながら行った選択は、その製品が自分にとって正しいものだという自信が弱くなるだろう。

つまり、消費者が選択行動から難しさを知覚すると、選択する製品が自身にとって最適な選択だと

いう確信の度合いが低くなると考えられる。したがって、困難は確信に負の影響を及ぼす。

それに関連して、Sela, et al.(2009)によると、製品選択肢の数が多いことは、選択に関する様々

な困難を増加させると述べている。ここでの様々な困難に当てはまるものとして、製品選択肢を比

較検討する際の情報処理負荷が挙げられる。また、Fasolo, et al.(2009)は、多量の製品選択肢から

適切な選択をすることが、消費者に多くの情報処理負荷を要求すると述べている。これは、他の条

件を一定として選択肢の数が増加した場合、消費者の処理する情報量を高めるということである。

情報処理負荷が高まれば、その分、消費者が知覚する困難も増加する。その結果、消費者の選択す

る製品に対する確信の度合いも低くなるだろう。つまり、製品選択肢の数が増加することは、消費

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「選択肢構成パターンが消費者の製品選択プロセスに及ぼす影響」

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者が知覚する困難を増加させ、確信の度合いをより弱めると考えられる。したがって、選択肢の数

が多い場合は少ない場合に比して、困難から確信への負の影響はより強くなるだろう。

続いて、整列性が高い場合は、属性が一次元的な違いのみであるため、製品選択肢の比較が容易

になり、少ない情報処理負荷で済む。消費者は、知覚する困難が少なければ、正しい選択か否かと

いう不安をさほど感じない。選択に対する不安が少なければ、選択する製品に対して最適なものだ

という自信を維持することができるだろう。その結果、確信の度合いは低くならないと考えられる。

他方、整列性が低い場合では、属性が多次元的であることによって、比較する製品のどちらがいい

のか優劣をつけることが困難になるため、多くの情報処理が必要となる。その結果、消費者はより

多くの困難を知覚し、自身の選択に対してより不安を抱き、選択する製品に対する確信の度合いも

低くなると考えられる。したがって、整列性が高い場合は低い場合に比して、困難から確信への負

の影響はより弱くなる。

最後に、対称性が高い場合では、製品選択肢群のバランスがとれていることによって、製品選択

肢群がパターン化されているように見え、製品選択肢を少ないように知覚し、少ない情報処理で済

むため、消費者が知覚する困難は少なくなる。消費者は、知覚する困難が少ないことにより、正し

い選択か否かという不安をさほど感じない。その結果、選択する製品に対する確信の度合いは低く

ならないと考えられる。他方、対称性が低い場合、製品選択肢群のバランスがとれていないことに

よって、製品選択肢が多様化しているように見え、選択肢が多いように知覚する。製品選択肢が多

いことは多くの情報処理を必要とするため、消費者はより多くの困難を感じるだろう。より多くの

困難を知覚した消費者は、自身の選択が正しいということに対して、強く不安を感じてしまうだろ

う。つまり、選択肢群の対称性が低いことで、消費者は多くの困難を知覚し、選択する製品に対す

る確信が弱くなるのである。したがって、選択肢群の対称性が高い場合は低い場合に比して、困難

から確信への負の影響はより弱くなる。

以上の議論から、以下の仮説を提唱する。

仮説 6:困難は確信に対して、負の影響を及ぼす。

系 1:選択肢の数が多い場合は少ない場合に比して、困難から確信への

負の影響はより強くなる。

系 2:選択肢群の整列性が高い場合は低い場合に比して、困難から確信への

負の影響はより弱くなる。

系 3:選択肢群の対称性が高い場合は低い場合に比して、困難から確信への

負の影響はより弱くなる。

第 7項 満足に関する仮説

満足は、購買後に消費者が知覚する全体的な評価である。このことについて、Scheibehenne, et al.

(2010)は、製品選択肢数の増加が満足を増加させることを示唆している。つまり、製品選択肢の

数は、消費者の各段階に影響を及ぼし、結果として選択した製品にたいして高い満足を知覚するよ

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「選択肢構成パターンが消費者の製品選択プロセスに及ぼす影響」

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うになるのである。例えば、10 個の製品から選択したほうが、2 個の製品から選択をした場合に比

べて、購買後に製品選択を満足に感じやすくなるということである。

ここで、選択肢の構成パターンとしての整列性について、Gourville and Soman(2005)は満足を高

めることを示唆している。つまり、製品選択肢群の整列性は、消費者の各段階に影響を及ぼし、結

果として選択した製品に対して高い満足を知覚するようになる。例えば、消費者がスマートフォン

を選ぶ際に、容量のみの違いで選んだほうが、黒、白、ゴールドの中から選んだに比べて、購買後

に良い製品を選べたと感じやすくなる。

最後に、選択肢の構成パターンとしての対称性について、Kahn and Wansink(2004)は満足を高め

ることを示唆している。つまり、製品選択肢群の対称性は、消費者の各段階に影響を及ぼし、結果

として選択した製品にたいして高い満足を知覚するようになる。例えば、消費者がスマートフォン

を選ぶ際に、16GBでは黒と白があり、32GBでは黒のみの製品選択肢から選ぶほうが、16GB、32GB

に黒と白の製品選択肢がある場合に比べ、消費者は製品に満足を感じやすくなる。

以上の議論から、以下の仮説を提唱する。

仮説 7:選択肢群の構成要素は満足に正の影響を及ぼす。

系 1:選択肢数の数が多い場合は少ない場合に比して、選択肢群の構成要素から満足への

正の影響はより強くなる。

系 2:選択肢数の整列性が高い場合は低い場合に比して、選択肢群の構成要素から満足への

正の影響はより強くなる。

系 3:選択肢数の対称性が高い場合は低い場合に比して、選択肢群の構成要素から満足への

正の影響がより強くなる。

本論の概念モデルは、図表 4に表わされるとおりである。

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「選択肢構成パターンが消費者の製品選択プロセスに及ぼす影響」

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図表 4 本論の概念モデル

第 4章 実証分析

第 1節 分析の概要

第 1項 分析方法の吟味

前章で提唱した本論の概念モデルの経験的妥当性を検証するために、多母集団同時分析法による

構造方程式モデリング(Structural Equation Modeling:SEM)を用いた。SEMは、直接的に数値化で

きない構成概念間の因果的関係を、統計的に検討するために用いられる分析技法である。本論のモ

デルは、直接的に観測できないような複数の構成概念を含み、また、それらの間の因果的関係を想

定しているため、当該分析方法を採用することは妥当であると考えられる。また、多母集団同時分

析法は、複数の母集団から収集したサンプル・データを用いて、同一構造を持つ複数のモデルを同

モチ

ベーション

期待快楽

最適化

可能性

確信

快楽

困難

仮説 1(+)

仮説 2(+)

仮説 3(+)

仮説 4(-)

仮説 5(+)

仮説 6(-)

選択肢の構成パターン

系 1:選択肢の数

系 2:選択肢群の整列性

系 3:選択肢群の対称性

満足

仮説 7

選択肢の構成パターン

系 1:選択肢の数

系 2:選択肢群の整列性

系 3:選択肢群の対称性

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「選択肢構成パターンが消費者の製品選択プロセスに及ぼす影響」

22

時に推定するという SEMの一技法である。本論においては、選択肢の構成パターンが消費者の購買

プロセスへ及ぼす影響を吟味する際に、選択肢の数が多い場合と少ない場合、整列性が高い場合と

低い場合、対称性が高い場合と低い場合、という 3パターンの異なる状況を想定している。そして、

収集したデータからそれぞれ 2 つの母集団を想定する同一モデルを比較するのに際して、この多母

集団同時分析法を用いて SEMを行うことによって、測定方程式の因果係数についてはモデル間で同

値であるということ(測定方程式における等値制約)を想定しながら、構造方程式における一部の

因果係数についてのみモデル間で異なる係数を推定し、かつ、モデル間におけるそれら係数間の差

異に対して統計的検討を行う。なお本論では、選択肢の数、整列性、対称性のそれぞれ 3 つの選択

肢の構成パターンに関する効果を別々に検討するため、多母集団同時分析法による SEMを 3回行う

必要があり、その実行に際して IBM SPSS Amos ver. 19と IBM SPSS Statistics ver. 19を使用した。ま

た、選択肢の構成パターンが満足に及ぼす影響については、満足を従属変数に設定し、二元配置分

散分析を行うために、IBM SPSS Statistics ver. 21を使用した。

第 2項 調査の概要

仮説検証に必要とされるデータの収集に際して、大学生の男女延べ 210 名に対して実験室調査を

実施した。具体的には、調査目的を伝えられていない被験者に、まず、あらかじめ用意した選択肢

群を 1 分間だけ見せ、期待快楽と最適化可能性、モチベーションの概念に関する質問群に回答する

よう依頼した。その後、もう一度選択肢群を見せ、その選択肢群から 1 つだけ製品を選択してもら

い、快楽と困難、確信の概念に関する質問群に回答するよう依頼した。他方、満足については、過

去にパソコン、もしくは携帯電話を購買した時の選択肢の状況を記入してもらい、その選択肢から

選んだ製品に対して満足しているか回答するよう依頼した。

調査に際して採用された尺度法は 7 点リカート法であり、回答者には各質問項目について 7 段階

の度合いによって示された、「全くそう思わない」から「非常にそう思う」までの中から、最も近い

番号を選択するように求めた。調査期間は、2013年 10月 8日から 2013年 10月 29日までの期間で

あり、そのうち、分析に利用できない回答を除いた有効回答数は、実験室調査にかかるものについ

ては 153、実際のパソコン・携帯の購買経験にかかるものについては 187であった。

第 3項 観測変数の設定

本分析では、既存研究の測定尺度を併合し、採用することで各観測変数を設定した。「期待快楽」

については、O’guinn and Faber(1989)、Shim and Gehrt(1996)、Sproles and Kendall(1986)、「最適

化可能性」については、Oliver(1993)、Cole and Balasubramanian(1993)、「モチベーション」につ

いては、Ajzen and Fishbein(1980)、「快楽」については、O’Guinn and Faber(1989)、Oliver(1993)、

Shim and Gehrt(1996)、「困難」については、Scheibehenne, Rainer, and Perer(2009)、「確信」につい

てはOliver(1993)、Cole and Balasubramanian(1993)、「満足」についてはDiehl and Poynor(2007)、

Scheibehenne, et al.(2009)をそれぞれ参考に測定尺度を設定した。

また、各観測変数の構成概念の信頼性を示すクロンバックの α係数については、「困難」のみ 0.620

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「選択肢構成パターンが消費者の製品選択プロセスに及ぼす影響」

23

と、Bagozzi and Yi(1994)が推奨する 0.700以上に満たない数値であったものの、それ以外のすべ

ての構成概念は良好な数値を示している。また、各概念についての SCR および AVE も、確認的因

子分析を実行してそれぞれ算出した。その結果、「困難」のAVEのみ、0.475であり、Hair, Anderson,

Tatham, and Black(1995)が推奨する値を下回った。観測変数の設定について、これらの結果は、本

論の限界として認識すべきものである。

第 2節 分析結果

第 1項 モデルの全体的妥当性

各モデルのパス係数の推定には、最尤推定法が用いられた。最適化計算は正常に終了し、各モデ

ルの全体的妥当性に関しては、以下のような結果が得られた。

まず、χ2検定量について、多母集団同時分析を行わない場合は 297.197(p=0.000)、選択肢数の多

寡によって多母集団同時分析を行った場合では 452.136(p=0.000)、整列性の高低によって多母集団

同時分析を行った場合では 454.076(p=0.000)、そして、対称性の高低によって多母集団同時分析を

行った場合では 476.207(p=0.000)であった。χ2値/d.f.は、多母集団同時分析を行わなかった場合で

は 2.654、選択肢数の多寡によって多母集団同時分析を行った場合では 2.018、整列性の高低によっ

て多母集団同時分析を行った場合では 2.027、対称性の高低によって多母集団同時分析を行った場合

では 2.107という数値が出力され、Carmines and McIver(1981)が推奨する 3.00以下という基準をす

べて満たしているため、各概念モデルの信頼性は高いと考えられる。

また、モデルの説明力を示すGFIは、多母集団同時分析を行わない場合は 0.760、選択肢数の多寡

によって多母集団同時分析を行った場合は 0.758、整列性の高低によって多母集団同時分析を行った

場合は 0.767、対称性の高低によって多母集団同時分析を行った場合は 0.759 であった。いずれも、

Bagozzi and Yi(1988)が推奨する 0.900以上という基準を下回った。そのため、このことは、本論

の問題点として指摘されるべきであろう。

また、自由度の増減に伴う、見かけ上の適合度拡大を算出して考慮に入れた尺度である平均二乗

誤差平方根(RMSEA)について、多母集団同時分析を行わない場合では 0.104、選択肢数の多寡に

よって多母集団同時分析を行った場合では 0.082、整列性の高低によって多母集団同時分析を行った

場合では 0.082、対称性の高低によって多母集団同時分析を行った場合では 0.086であった。そのた

め、田部井(2001)の推奨する 0.100 という基準値を下回っている、もしくはそれに準じる値であ

った。したがって、収集されたデータは、それぞれに正しく各モデルに適合していると判断できよ

う。なお、各モデル全体の評価指標については、図表 5に示されるとおりである。

本論の概念モデルの全体的妥当性について、いくつかの問題点が指摘されることを認識しつつ、

モデルの部分的妥当性の評価に進むことにする。

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「選択肢構成パターンが消費者の製品選択プロセスに及ぼす影響」

24

図表 5 各モデルの全体的妥当性評価

モデルの

全体的妥当性

選択肢数で多母集団

同時分析した場合

整列性で多母集団

同時分析した場合

対称性で多母集団

同時分析した場合

χ2

値(p値) 297.197

(0.000)

452.136

(0.000)

454.076

(0.000)

476.207

(0.000)

χ2

値/d.f. 2.654 2.018 2.027 2.107

GFI 0.760 0.758 0.767 0.759

CFI 0.882 0.860 0.858 0.847

RMSEA 0.104 0.082 0.082 0.086

AIC 379.197 616.136 618.076 636.207

第 2項 モデルの部分的妥当性

各モデルについて設定した、パス係数の標準化係数値と t 値は、図表 6 に要約されるとおりであ

る。また、本論の概念モデルのパス係数は図表 7、パス係数間の差に関する一対比較の統計量は図

表 8、各パターンの分析結果は図表 9 -14に要約されるとおりである。

第 3項 製品選択肢数、整列性、対称性が満足に及ぼす影響

仮説 7の検証にあたって、購買後の概念として設定した「満足」を従属変数に、選択肢数の多寡

を第 1の分類変数とし、整列性の高低を第 2の分類変数、さらに、対称性の高低を第 3の分類変数

とし、被験間二元配置分散分析を行った。その結果は、図表 15にまとめられるとおりである。

分析の結果、選択肢数の多寡に関して、F値は 0.002、整列性の高低に関して、F値は 0.004、対称

性の高低について、F値は 0.571であり、すべて非有意であった。また、相互作用についても検証を

行ったが、すべて非有意であった。このことから、選択肢群の構成パターンは、選択した製品に対

する満足には影響を与えないという知見が得られた。

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「選択肢構成パターンが消費者の製品選択プロセスに及ぼす影響」

25

図表 6 各モデルの標準化後のパス係数推定値

仮説(符号)

標準化

推定値

(t値)

選択肢数で多母集団

同時分析した場合

(t値)

整列性で多母集団

同時分析した場合

(t値)

対称性で多母集団

同時分析した場合

(t値)

多 少 高 低 高 低

仮説 1:

期待快楽→

モチベーション(+)

-0.313***

(2.008)

-0.252***

(1.493)

-0.449***

(1.429)

-0.416***

(2.044)

-0.297***

(1.312)

-0.129***

(0.670)

-0.555***

(2.159)

仮説 2:

最適化可能性→

モチベーション(+)

-0.448***

(2.682)

-0.594***

(3.023)

-0.223***

(0.686)

-0.421***

(1.990)

-0.399***

(1.659)

-0.494***

(2.312)

-0.257***

(0.979)

仮説 3:

モチベーション→

快楽(+)

-0.723***

(7.437)

-0.739***

(4.948)

-0.684***

(5.409)

-0.787***

(5.813)

-0.637***

(4.764)

-0.495***

(3.441)

-0.859***

(7.679)

仮説 4:

モチベーション→

困難(-)

-0.662***

(-4.937)

-0.613***

(-3.459)

-0.793***

(-3.879)

-0.748***

(-3.881)

-0.579***

(-3.327)

-0.529***

(-2.702)

-0.519***

(-3.371)

仮説 5:

快楽→確信(+)

-0.351***

(3.676)

-0.436***

(3.287)

-0.298***

(2.083)

-0.413***

(2.793)

-0.236***

(1.978)

-0.332***

(3.196)

-0.641***

(4.178)

仮説 6:

困難→確信(-)

-0.603***

(-4.449)

-0.565***

(-3.373)

-0.550***

(-2.679)

-0.481***

(-2.800)

-0.783***

(-3.418)

-0.624***

(-3.16)

-0.275***

(-2.295)

ただし、***、**はそれぞれ 1%、5%水準で有意。

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「選択肢構成パターンが消費者の製品選択プロセスに及ぼす影響」

26

図表 7 本論の概念モデルの分析結果

ただし、***、**はそれぞれ 1%、5%水準で有意。

図表 8 各仮説に関するパラメータの一対比較

仮説(符号)

パス係数の差(検定統計量)

選択肢数

(多―少)

整列性

(高―低)

対称性

(高―低)

仮説 1:

期待快楽→モチベーション(+) -0.772

**

-0.426**

-1.524**

仮説 2:

最適化可能性→モチベーション(+) -0.617

**

-0.067**

-0.332**

仮説 3:

モチベーション→快楽(+) -0.711

**

-1.153**

-2.023**

仮説 4:

モチベーション→困難(-) -0.317

**

-1.001**

-0.022**

仮説 5:

快楽→確信(+) -1.249

**

-0.851**

-0.163**

仮説 6:

困難→確信(-) -0.120

**

-1.239**

-2.290**

ただし、**は 5%水準で有意。

モチ

ベーション

期待快楽

最適化

可能性

確信

快楽

困難

0.313**

0.448***

0.723***

-0.662***

0.351***

-0.603***

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「選択肢構成パターンが消費者の製品選択プロセスに及ぼす影響」

27

図表 9 選択肢数が多い場合の分析結果

ただし、***、**はそれぞれ 1%、5%水準で有意。

図表 10 選択肢数が少ない場合の分析結果

ただし、***、**はそれぞれ 1%、5%水準で有意。

モチ

ベーション

期待快楽

最適化

可能性

確信

快楽

困難

0.252

0.594***

0.739***

-0.613***

0.436***

-0.565***

モチ

ベーション

期待快楽

最適化

可能性

確信

快楽

困難

0.449

0.223

0.684***

-0.793***

0.298**

-0.550***

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「選択肢構成パターンが消費者の製品選択プロセスに及ぼす影響」

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図表 11 整列性が高い場合の分析結果

ただし、***、**はそれぞれ 1%、5%水準で有意。

図表 12 整列性が低い場合の分析結果

ただし、***、**はそれぞれ 1%、5%水準で有意。

モチ

ベーション

期待快楽

最適化

可能性

確信

快楽

困難

0.416**

0.421**

0.787***

-0.748***

0.413***

-0.481***

モチ

ベーション

期待快楽

最適化

可能性

確信

快楽

困難

0.297

0.339

0.637***

-0.579***

0.236**

-0.783***

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「選択肢構成パターンが消費者の製品選択プロセスに及ぼす影響」

29

図表 13 対称性が高い場合の分析結果

ただし、***、**はそれぞれ 1%、5%水準で有意。

図表 14 対称性が高い場合の分析結果

ただし、***、**はそれぞれ 1%、5%水準で有意。

モチ

ベーション

期待快楽

最適化

可能性

確信

快楽

困難

0.129

0.494**

0.495***

-0.529***

0.332***

-0.624***

モチ

ベーション

期待快楽

最適化

可能性

確信

快楽

困難

0.555**

0.257

0.859***

-0.519***

0.641***

-0.275**

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「選択肢構成パターンが消費者の製品選択プロセスに及ぼす影響」

30

図表 15 選択肢の構成パターンが満足に及ぼす影響についての分析結果

タイプ III

平方和 平均平方 F 値 有意確率

修正モデル 0.943 0.135 0.156 0.993

切片 0.004 0.004 0.005 0.943

選択肢数 0.002 0.002 0.002 0.965

整列性 0.004 0.004 0.004 0.949

対称性 0.493 0.493 0.571 0.451

選択肢数 * 整列性 0.085 0.085 0.099 0.754

選択肢数 * 対称性 0.189 0.189 0.219 0.640

選択肢数 * 整列性 * 対称性 0.288 0.288 0.334 0.564

第 3節 考察

第 1項 期待快楽がモチベーションに及ぼす影響についての考察

期待快楽とモチベーションとの間のパス係数は、多母集団同時分析を行わない場合においては

0.313 であり、5%水準で有意であった。したがって、仮説 1 は経験的に支持されたと判断されるで

あろう。

続いて、選択肢数の多寡によって、多母集団同時分析を実施した。その結果、選択肢数が多い場

合における、期待快楽とモチベーションとの間のパス係数は 0.252、少ない場合は 0.449であり、ど

ちらも非有意であった。また、それらの間のパス係数についても、統計的有意差はなかった。した

がって、仮説 1系 1は経験的に支持されない結果であった。

さらに、整列性の高低によって、多母集団同時分析を実施した。その結果、整列性が高い場合に

おける、期待快楽とモチベーションとの間のパス係数は 0.416 で、1%水準で有意であったが、低い

場合は 0.297 で、非有意であった。しかし、それらのパス係数の間に統計的有意差はなかった。し

たがって、仮説 1 系 2 は経験的に支持されない結果であった。しかし、整列性が高い場合のパス係

数は統計的に有意であり、それが低い場合のパス係数は非有意であったことから、消費者は、選択

肢間で比較がしやすいほうが、選択に対する楽しさを期待できるということが考えられる。

そして、対称性の高低によって、多母集団同時分析した。その結果、対称性が高い場合における、

期待快楽とモチベーションとの間のパス係数は 0.129 で、非有意であったが、低い場合は 0.555 で、

1%水準で有意であった。しかし、それらのパス係数の間に統計的有意差はなかった。したがって、

仮説 1 系 3 は経験的に支持さない結果であったが、対称性が低い場合のパス係数は統計的に有意で

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「選択肢構成パターンが消費者の製品選択プロセスに及ぼす影響」

31

あり、それが高い場合のパス係数は非有意であったことは、仮説 1 系 3 に対して、一定の経験的妥

当性を与えるものであると考えられるかもしれない。

以上の結果から、期待快楽はモチベーションに正の影響を及ぼすものの、選択肢の数、整列性,対

称性といった製品選択肢群の構成パターンによって、影響の程度が変化しないという知見が得られ

た。このことから、消費者が期待快楽を知覚していれば、選択肢の構成パターンの変化に関わらず、

モチベーションは高いものとなる可能性がある。

第 2項 最適化可能性がモチベーションに及ぼす影響についての考察

最適化可能性とモチベーションとの間のパス係数は、多母集団同時分析を行わない場合において

は 0.448であり、1%水準で有意であった。したがって、仮説 2は経験的に支持されたと判断される

であろう。

続いて、選択肢数の多寡によって、多母集団同時分析を実施した。その結果、選択肢数が多い場

合における、最適化可能性とモチベーションとの間のパス係数は 0.594 で、1%水準であり、少ない

場合は 0.233 で、非有意であった。しかし、それらの間のパス係数について、統計的有意差はなか

った。したがって、仮説 2 系 1 は経験的に支持されない結果であったが、選択肢数が多い場合のパ

ス係数は統計的に有意であり、それが低い場合のパス係数は非有意であったことは、仮説 2 系 1 に

対して、一定の経験的妥当性を与えるものであると考えられるかもしれない。

さらに、整列性の高低によって、多母集団同時分析を実施した。その結果、整列性が高い場合に

おける、最適化可能性とモチベーションとの間のパス係数は 0.421 で、1%水準で有意であったが、

低い場合は 0.399で、非有意であった。しかし、それらのパス係数の間に統計的有意差はなかった。

したがって、仮説 2 系 2 は経験的に支持されない結果であったが、整列性が高い場合のパス係数は

統計的に有意であり、それが低い場合のパス係数は非有意であったことは、仮説 2 系 2 に対して、

一定の経験的妥当性を与えるものであると考えられるかもしれない。

そして、対称性の高低によって、多母集団同時分析した。その結果、対称性が高い場合における、

最適化可能性とモチベーションとの間のパス係数は 0.494 で、5%水準で有意であったが、低い場合

は 0.555 で、1%水準で有意であった。それにもかかわらず、それらのパス係数の間に統計的有意差

はなかった。したがって、仮説 2 系 3 は経験的に支持さない結果であったが、対称性が高い場合と

低い場合の、双方のパス係数が統計的に有意であったことから、製品間の差異を知覚しやすいほう

が、消費者はよりいいものが選べると期待を抱き、選択に対するモチベーションが高まるというこ

とが考えられる。

以上の結果から、最適化可能性はモチベーションに正の影響を及ぼすものの、選択肢の数、整列

性、対称性といった製品選択肢群の構成パターンによって、影響の程度が変化しないという知見が

得られた。選択肢の構成パターンで影響の程度が変化しないということは、消費者の関与、もしく

は選択時の状況が関係しているのかも知れない。

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「選択肢構成パターンが消費者の製品選択プロセスに及ぼす影響」

32

第 3項 モチベーションが快楽に及ぼす影響についての考察

モチベーションと快楽との間のパス係数は、多母集団同時分析を行わない場合においては 0.723

であり、1%水準で有意であった。したがって、仮説 3は経験的に支持されたと判断されるであろう。

続いて、選択肢数の多寡によって、多母集団同時分析を実施した。その結果、選択肢数が多い場

合における、モチベーションと快楽との間のパス係数は 0.739で、少ない場合は 0.684であり、どち

らも 1%水準であった。しかし、それらの間のパス係数について、統計的有意差はなかった。したが

って、仮説 3 系 1 は経験的に支持されない結果であったが、選択肢数が多い場合と低い場合の、双

方のパス係数が有意であり、選択肢の数が多い場合が少ない場合より影響が強かったことは、仮説

3系 1に対して、一定の経験的妥当性を与えるものであると考えられるかもしれない。

さらに、整列性の高低によって、多母集団同時分析を実施した。その結果、整列性が高い場合に

おける、モチベーションと快楽との間のパス係数は 0.787 で、低い場合は 0.637 であり、どちらも

1%水準で有意であった。しかし、それらのパス係数の間に統計的有意差はなかった。したがって、

仮説 3 系 2 は経験的に支持されない結果であったが、整列性が高い場合と低い場合の、双方のパス

係数が有意であったことから、選択肢間で比較がしやすいほうが、消費者は選択に対するモチベー

ションが高まり、より楽しさを知覚できるということも考えられる。

そして、対称性の高低によって、多母集団同時分析した。その結果、対称性が高い場合における、

モチベーションと快楽との間のパス係数は 0.495で、低い場合は 0.859であり、どちらも 1%水準で

有意であった。さらに、それらのパス係数の間に 5%水準で統計的有意差があった。つまり、対称性

が低い場合、モチベーションが快楽に及ぼす負の影響はより強くなると言えよう。したがって、仮

説 3系 3は経験的に支持されたと判断される。

以上の結果から、モチベーションは快楽に正の影響を及ぼすものの、選択肢の数、整列性によっ

て影響の程度が変化しないという知見が得られた。しかし、対称性の高低が変化した場合のみ、及

ぼす影響の程度は変化する。この場合、製品属性のバランスを意味する対称性においては、属性と

その割合の 2 点を考慮する必要がある。そのため、選択肢の数、整列性よりも、判断に多くの情報

処理負荷が必要となり、対称性が高い場合のほうの影響が弱いのかもしれない。

第 4項 モチベーションが困難に及ぼす影響についての考察

モチベーションと困難との間のパス係数は、多母集団同時分析を行わない場合においては-0.662

であり、1%水準で有意であった。したがって、仮説 4は経験的に支持されたと判断されるであろう。

続いて、選択肢数の多寡によって、多母集団同時分析を実施した。その結果、選択肢数が多い場

合における、モチベーションと困難との間のパス係数は-0.613で、少ない場合は-0.793であり、どち

らも 1%水準であった。しかし、それらの間のパス係数について、統計的有意差はなかった。したが

って、仮説 4 系 1 は経験的に支持されない結果であったが、選択肢数が多い場合と低い場合の、双

方のパス係数が有意であったことは、仮説 4 系 1 に対して、一定の経験的妥当性を与えるものであ

ると考えられるかもしれない。

さらに、整列性の高低によって、多母集団同時分析を実施した。その結果、整列性が高い場合に

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「選択肢構成パターンが消費者の製品選択プロセスに及ぼす影響」

33

おける、モチベーションと困難との間のパス係数は-0.748 で、低い場合は-0.579 であり、どちらも

1%水準で有意であった。しかし、それらのパス係数の間に統計的有意差はなかった。したがって、

仮説 4 系 2 は経験的に支持されない結果であったが、整列性が高い場合と低い場合の、双方のパス

係数が有意であったことは、仮説 4 系 2 に対して、一定の経験的妥当性を与えるものであると考え

られるかもしれない。

そして、対称性の高低によって、多母集団同時分析した。その結果、対称性が高い場合における、

モチベーションと困難との間のパス係数は-0.529で、低い場合は-0.519であり、どちらも 1%水準で

有意であった。それにもかかわらず、それらのパス係数の間に統計的有意差はなかった。したがっ

て、仮説 4 系 3 は経験的に支持さない結果であったが、対称性が高い場合と低い場合の、双方のパ

ス係数が統計的に有意であったことから、バランスの良い構成の選択肢群では、消費者は同じよう

な集合をパターンとして判断することで、選択時の困難がより弱めているということも考えられる。

以上の結果から、モチベーションは困難に負の影響を及ぼすものの、製品選択肢の数、整列性、

対称性といった製品選択肢群の構成パターンによって、影響の程度が変化しないという知見が得ら

れた。このことから、消費者がモチベーションをもって選択行動を行っているのであれば、選択肢

の構成パターンの変化に関わらず、困難を和らげる可能性があるだろう。

第 5項 快楽が確信に及ぼす影響についての考察

快楽と確信との間のパス係数は、多母集団同時分析を行わない場合においては 0.351 であり、1%

水準で有意であった。したがって、仮説 5は経験的に支持されたと判断されるであろう。

続いて、選択肢数の多寡によって、多母集団同時分析を実施した。その結果、選択肢数が多い場

合における、快楽と確信との間のパス係数は 0.436 で、1%水準で有意であり、少ない場合は 0.298

で、5%水準で有意であった。しかし、それらの間のパス係数について、統計的有意差はなかった。

したがって、仮説 5 系 1 は経験的に支持されない結果であったが、選択肢数が多い場合と低い場合

の、双方のパス係数が有意であったことから、選択肢の数がただ増加するだけでも、消費者は楽し

さを知覚し、確信できるということも考えられる。

さらに、整列性の高低によって、多母集団同時分析を実施した。その結果、整列性が高い場合に

おける、快楽と確信との間のパス係数は 0.413で、1%水準で有意であり、低い場合は 0.236で、5%

水準で有意であった。しかし、それらのパス係数の間に統計的有意差はなかった。したがって、仮

説 5 系 2 は経験的に支持されない結果であったが、整列性が高い場合と低い場合の、双方のパス係

数が有意であったことから、選択肢間での比較がしやすいほうが、消費者は選択時の楽しさをより

知覚し、確信できるということも考えられる。

そして、対称性の高低によって、多母集団同時分析した。その結果、対称性が高い場合における、

快楽と確信との間のパス係数は 0.332で、低い場合は 0.641であり、どちらも 1%水準で有意であっ

た。それにもかかわらず、それらのパス係数の間に統計的有意差はなかった。したがって、仮説 5

系 3 は経験的に支持さない結果であったが、対称性が高い場合と低い場合の、双方のパス係数が統

計的に有意であったことは、仮説 5 系 3 に対して、一定の経験的妥当性を与えるものであると考え

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「選択肢構成パターンが消費者の製品選択プロセスに及ぼす影響」

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られるかもしれない。

以上の結果から、快楽は確信に正の影響を及ぼすものの、製品選択肢の数、整列性、対称性とい

った製品選択肢群の構成パターンの変化によって、及ぼす影響の程度が変化しないという知見が得

られた。このことから、楽しみながら選択を行うことができれば、製品選択肢の構成パターンの変

化に左右されることなく、消費者は自らの選択行動に確信を持つ可能性がある。

第 6項 困難が確信に及ぼす影響についての考察

困難と確信との間のパス係数は、多母集団同時分析を行わない場合においては-0.603であり、1%

水準で有意であった。したがって、仮説 6は経験的に支持されたと判断されるであろう。

続いて、選択肢数の多寡によって、多母集団同時分析を実施した。その結果、選択肢数が多い場

合における、困難と確信との間のパス係数は-0.565で、少ない場合は-0.550であり、どちらも 1%水

準であった。しかし、それらの間のパス係数について、統計的有意差はなかった。したがって、仮

説 6 系 1 は経験的に支持されない結果であったが、選択肢数が多い場合と低い場合の、双方のパス

係数が有意であったことは、仮説 6 系 1 に対して、一定の経験的妥当性を与えるものであると考え

られるかもしれない。

さらに、整列性の高低によって、多母集団同時分析を実施した。その結果、整列性が高い場合に

おける、困難と確信との間のパス係数は-0.481で、低い場合は-0.783であり、どちらも 1%水準で有

意であった。しかし、それらのパス係数の間に統計的有意差はなかった。したがって、仮説 6 系 2

は経験的に支持されない結果であったが、整列性が高い場合と低い場合の、双方のパス係数が有意

であったことは、仮説 6 系 2 に対して、一定の経験的妥当性を与えるものであると考えられるかも

しれない。

そして、対称性の高低によって、多母集団同時分析した。その結果、対称性が高い場合における、

困難と確信との間のパス係数は-0.624で、1%水準で有意であり、低い場合は-0.275で、5%水準で有

意であった。さらに、それらのパス係数の間に 5%水準で統計的有意があった。つまり、対称性が高

い場合、困難が確信に及ぼす負の影響はより強くなると言えよう。したがって、仮説 6 系 3 は経験

的に支持されない結果であった。このことから、対称性が低いことで、消費者は、製品間の差異を

知覚しやすいことで、選択の際の困難が少ないと感じ、自身の選択に対して確信を持てるというこ

とが考えられる。

以上の結果から、困難は、確信に負の影響を及ぼすものの、選択肢の数、整列性によって影響の

程度が変化しないという知見が得られた。しかし、対称性の高低が変化した場合のみ、及ぼす影響

の程度は変化するということから、選択肢の構成要素のバランスが選択時の困難さや選択に対する

確信に大きく関係しているということが考えられる。

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「選択肢構成パターンが消費者の製品選択プロセスに及ぼす影響」

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第 5章 おわりに

第 1節 学術的インプリケーション

本論は、「製品選択肢の構成パターンについて考慮し、同時に、消費者の製品購買プロセスを製品

の購買前、選択中、購買後に区別することで、製品選択肢の数が消費者の購買行動にどのような影

響を及ぼすのか」という研究課題を設定して、仮説を提唱し、実験室調査によってその経験的妥当

性を吟味した。このようにして展開される本論は、主として、次のような学術的インプリケーショ

ンを提供している。

第 1 に、従来の研究では製品選択肢の数にのみ焦点が当てられていたのに対し、本論ではその他

の製品選択肢の構成パターンである、整列性と対称性を考慮した点である。

第 2 に、従来の研究では消費者の購買プロセスの一部分にのみ焦点が当てられていたのに対し、

本論では消費者の購買プロセス全体の流れを考慮した点である。そこで、本論の既存研究において、

購買プロセスの各所に散っていた従属変数を整理し、購買前、選択中、購買後という一連の選択プ

ロセスモデルを構築した。

さらに、製品選択肢の構成パターンが購買プロセスの各所に対してどのような影響を及ぼしてい

るのかを仮説化し、実験室調査によって分析を行った点で、学術的に意義があることであろう。か

くして本論は、既存研究の知見を統合しながら、さらに新たな知見を提供しているため、十分な学

術的貢献をなしているといえる。

第 2節 実務的インプリケーション

本論の第 3 節で構築した概念モデルと第 4 章の実証分析の結果から、次のような実務的インプリ

ケーションを導出できるだろう。

まず、概念モデルの功利的なプロセスを経ると考えられる、功利的側面が重要視される製品(例

えばパソコンなど)の場合、メーカーは次のような製品展開をすることが有効だと考えられる。ま

ず、ブランド内の製品数を多くするということ、数値等で比較のしやすい製品にするということ、

そして、バランスの取れた製品展開をするということである。このような製品展開をすることで、

消費者は最適化可能性を知覚し、選択に対してのモチベーションを高めることが出来る。

続いて、小売店は、先ほど述べたようなメーカーが展開している製品の特長を訴求した広告を展

開したり、比較しやすいように配慮した陳列をしたりすることが望ましいであろう。また、このよ

うな広告や陳列を小売店に行ってもらえるように、メーカーは小売店に対して、営業活動を展開し

ていく必要があるだろう。このように、製品の数が多いということ、比較がしやすいということ、

製品の特徴のバランスが整っているということを選択中にも知覚させることで、消費者は自らが行

った選択に対して確信を抱くことが出来る。

また、概念モデルの快楽的なプロセスを経ると考えられる、快楽的側面が重要視される製品(例

えば衣服など)の場合では、次のような方法が有効だと考えられる。まず、メーカーは、サイズに

よるデザインの偏りをなくし、さらには、デザインの豊富な製品展開を行うことが望ましい。どの

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「選択肢構成パターンが消費者の製品選択プロセスに及ぼす影響」

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デザインをとってもサイズが欠けることなく、豊富なデザインを取りそろえることで、消費者は期

待快楽を知覚し、選択に対するモチベーションが高くなるだろう。

続いて、小売店は、製品間の差異や特徴を明らかにした比較のしやすい広告を展開する。このよ

うな広告を展開することで、消費者は選択することを楽しいだろうと期待するため、選択前にモチ

ベーションを高めることが出来るであろう。陳列方法に関しては、色やデザインをもとに規則的に

陳列するのではなく、不規則に陳列することで、消費者は選択中に快楽を知覚する。不規則に陳列

し、消費者は探索しながら選択を行い、快楽を知覚することで、自分が行った選択に対して確信を

抱くことが出来るであろう。

第 3節 本論の限界

以上のような成果を上げた本論には、他方で、いくつかの限界が指摘されるであろう。

第 1に、調査対象について、本論の回答者は、時間及び予算の制約上、大学生に限定されていた。

確かに、このように調査対象が大学生に限られていることによって、サンプルの等質性は認められ

るものの、他方で、より一般的な知見を得るためには、主婦、高齢者、サラリーマンなど、製品選

択肢群の構成パターンの影響がそれぞれ異なると考えられる、多様な消費者を調査対象とする必要

がある。

第 2 に、モデル全体の適合度を示す GFI の値は、既存研究では 0.900 以上を推奨しているが、今

回の分析で得られたその数値は、すべてのモデルで 0.900 に満たない値でしかなかった。この限界

は、第 1の限界に関連して、調査対象かつサンプル数を拡大することで、改善されるかもしれない。

第 3 に、本論の調査では、時間と予算の都合上、購買後の概念である満足については、過去の購

買について質問することで満足度を調査した。しかし、より精緻な研究を行うならば、購買前から

選択中、実際に製品を使用した後の満足までの一連の流れを実験で行うべきである。

第 4 に、選択肢群の構成パターン間の相互作用を明らかにできなかった点は、限界として指摘さ

れる。したがって、今後の異なる分析手法によって、再分析を実施することが望まれるであろう。

第 4節 今後の課題

いくつかの限界が指摘されるものの、本論の成果に基づいて、今後、次のような研究の展開が期

待される。まず、本論は、1 つのブランドに絞った製品選択に焦点を当てている。しかし、実際の

消費者の選択行動では、複数のブランドを考慮し、選択行動をすることも考えられる。消費者によ

っては、1 つのブランド内で多数の選択肢を有している者もいれば、多数のブランドから少数の選

択肢を有しているものもいるだろう。そのような点を研究対象に含めると、消費者の考慮集合を考

慮したモデルを構築することができるかもしれない。

かくして、本論は、いくつかの限界を残しながらも、多くの成果をあげ、さらに今後の研究展開

を豊かにするものであると結論付けられる。

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「選択肢構成パターンが消費者の製品選択プロセスに及ぼす影響」

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補録 1 調査票

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補録 2 各観測変数とその信頼性一覧

構成概念 観測変数 α係数 SCR AVE

期待快楽

・この選択肢から選択することは私を楽しくさせるだろう。

0.890 0.894 0.738 ・この選択肢から選択することは楽しいことではないだろう。

・この選択肢から選択することは楽しいだろう。

最適化

可能性

・この選択肢から選択することは正しいと感じる。

0.793 0.796 0.566 ・この選択肢から最適な決定をできると思う。

・この選択肢から選択するという決断はよくないと感じている。

モチ

ベーション

・この選択肢から選択する可能性は実在するだろう。

0.817 0.909 0.625 ・この選択肢から選ぶのは確かである。

・この選択肢からは絶対に選べるだろう。

快楽

・この選択肢から選択したことは楽しかった。

0.891 0.894 0.737 ・この選択肢から選択したことはとても楽しかった。

・この選択肢から選択することは楽しいことではなかった。

困難

・この選択肢から選択したことは難しかった。

0.620 0.639 0.475 ・この選択肢から選択するにあたり面倒くさいと感じた。

確信

・この選択肢から選択した商品は正しいと確信している。

0.819 0.838 0.634 ・この選択肢から選択した商品は最適な決定だと確信している。

・この選択肢から商品を選択した決断を良くないと感じている。

満足

・選んだその商品に満足している。

0.782 0.813 0.604 ・その商品を選択したことを後悔している。

・選んだ商品よりいいものがあったと思う。

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