6
日皮会誌:104 (4), 557-562, 1994 (平6) 酢酸・povidone iodine ・chlorhexidine gluconate 細胞毒性に関する研究 酢酸・povidone iodine (PVI)・chlorhexidine gluconate(CG)の培養細胞に対する細胞毒性について 検討した.ヒト有無細胞癌cell lineを用いた細胞毒性 の検討では,各種消毒剤の5分間暴露によるEDぶま, 酢酸で常用濃度の10% (lmg/ml), CGは5%(0.05 mg/ml), PVIは0.2%(0.2mg/ml)で,酢酸の細胞毒 性がもっとも低かった.常用濃度比10%の濃度の消毒 剤により経時的な細胞毒性も検討したところ,培養細 胞の50%viabilityは,血清の添加の有無にかかわら ず,酢酸がもっとも高く, PVIの毒性がもっとも強 かった.酢酸の細胞毒性は, pH 4,5,6に調整した酢 酸ナトリウムバッファーを用いた検討により,pH依 存性の細胞障害性を示し,濃度依存性ではないことが 認められた.以上の結果から,酢酸の細胞毒性はCGや PVIに比し軽度であると考えた.酢酸の抗菌力は前報 に示したように,あまり強いものではないが,毒性は 低く,その構造から感作性があるとは考えられない. 以上の点から,比較的汚染が少ない.広範な創部の消 毒や湿疹性病変部における除菌などの目的において, 酢酸は他の消毒剤よりも有用なのではないかと考え た. 近年のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の 検出増加に伴い,院内感染の予防対策において,消毒 剤を用いた殺菌ないし除菌操作が重要と考えられてい るが", MRSAに対して有効とされる消毒剤にかなり の細胞毒性を認めることは,いままでにもいくつか報 告かある2)~5).さらに消毒剤の感作性や皮膚刺激性の 存在も報告されており6)7)現在用いられている消毒剤 が十分に有用であるとは考えにくい.また,近年は細 胞培養技術の進歩と共に皮膚移植においては培養表皮 シートを使用するなどの技術が盛んで,消毒剤の細胞 福島県立医科大学皮膚科学講座(主任 金子史男教授) 別刷請求先: C〒960-12)福島県福島市光が丘1番地 福島県立医科大学皮膚科学講座 二瓶 義道 毒性はこのような移植術の結果に大きく影響を与える ことが予想される.さらに,細菌の作り出すスーパー 抗原の免疫系への刺激作用についての知見も多数得ら れてきており8),炎症性皮膚疾患における病巣からの 除菌が治療上重要であることも指摘されてきている. このような点から, MRSAに対するのみならず除菌の ための消毒剤の安全性や効果について開心が持たれて いる2). すでに筆者は,免疫不全を伴った類天庖膚患者に合 併した難治性・広範囲の皮膚MRSA感染症に対して, 3%酢酸加親水ワセリンか有効であったことを報告し た9).しかし,その安全性や至適濃度の検討はまだ充分 ではなかった.今回は培養細胞を用いてこの点につい て検討を加え,さらに日常頻繁に使用されるpovidone iodine (PVI)およびchlorhexidine gluconate (CG) の細胞毒性も検討し,これらとの比較において酢酸の 消毒剤としての安全性および有用性について考察した ので報告する. 材料と方法 細胞毒性の効果判定には,有煉細胞癌cell lineであ るHSC-1 (山形大学近藤教授より供与)を使用した. 10%牛胎児血清(FCS)添加Dulbecco's modified Eagle's medium (DMEM)にて維持した.酢酸(和光 純薬)は試薬特級99.7%のものを,PVI(イソジソ⑧, 明治製菓)は10%液(ヨード含量1%), CG(ヒビテソ ⑧,アイ・シー・アイファーマ)は5%液を希釈して使 用した. 消毒剤の細胞毒性の検討 消毒剤暴露による細胞毒性を見るため,2×lOVml に調整したHSC-1細胞を96-well microplateに200μ1 ずつ播種し, confluentに達した後,生食水にて洗浄し, 各種消毒剤200μ1を添加した.一定時間の消毒剤暴露 後に吸引除去し,生食水200μ1にて洗浄し,培地100μ1 を添加,24時間培養した.次に, 3-(4,5-dimethylthiazol・ 2-yl)-2,5-diphenyl tetrazollum bromide (MTT)を添 加したDMEM 100μ1を添加し,4時間培養し, O.D. 550nmにて吸光度を測定した.(MTT assay)"".

酢酸・povidone iodine ・chlorhexidine gluconate の …drmtl.org/data/104040557.pdf日皮会誌:104 (4), 557-562, 1994 (平6) 酢酸・povidone iodine ・chlorhexidine gluconate

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日皮会誌:104 (4), 557-562, 1994 (平6)

酢酸・povidone iodine ・chlorhexidine gluconate の

       細胞毒性に関する研究

一 瓶  義 道

           要  旨

 酢酸・povidone iodine (PVI)・chlorhexidine

gluconate(CG)の培養細胞に対する細胞毒性について

検討した.ヒト有無細胞癌cell lineを用いた細胞毒性

の検討では,各種消毒剤の5分間暴露によるEDぶま,

酢酸で常用濃度の10% (lmg/ml), CGは5%(0.05

mg/ml), PVIは0.2%(0.2mg/ml)で,酢酸の細胞毒

性がもっとも低かった.常用濃度比10%の濃度の消毒

剤により経時的な細胞毒性も検討したところ,培養細

胞の50%viabilityは,血清の添加の有無にかかわら

ず,酢酸がもっとも高く, PVIの毒性がもっとも強

かった.酢酸の細胞毒性は, pH 4,5,6に調整した酢

酸ナトリウムバッファーを用いた検討により,pH依

存性の細胞障害性を示し,濃度依存性ではないことが

認められた.以上の結果から,酢酸の細胞毒性はCGや

PVIに比し軽度であると考えた.酢酸の抗菌力は前報

に示したように,あまり強いものではないが,毒性は

低く,その構造から感作性があるとは考えられない.

以上の点から,比較的汚染が少ない.広範な創部の消

毒や湿疹性病変部における除菌などの目的において,

酢酸は他の消毒剤よりも有用なのではないかと考え

た.

           緒  言

 近年のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の

検出増加に伴い,院内感染の予防対策において,消毒

剤を用いた殺菌ないし除菌操作が重要と考えられてい

るが", MRSAに対して有効とされる消毒剤にかなり

の細胞毒性を認めることは,いままでにもいくつか報

告かある2)~5).さらに消毒剤の感作性や皮膚刺激性の

存在も報告されており6)7)現在用いられている消毒剤

が十分に有用であるとは考えにくい.また,近年は細

胞培養技術の進歩と共に皮膚移植においては培養表皮

シートを使用するなどの技術が盛んで,消毒剤の細胞

福島県立医科大学皮膚科学講座(主任 金子史男教授)

別刷請求先: C〒960-12)福島県福島市光が丘1番地

 福島県立医科大学皮膚科学講座 二瓶 義道

毒性はこのような移植術の結果に大きく影響を与える

ことが予想される.さらに,細菌の作り出すスーパー

抗原の免疫系への刺激作用についての知見も多数得ら

れてきており8),炎症性皮膚疾患における病巣からの

除菌が治療上重要であることも指摘されてきている.

このような点から, MRSAに対するのみならず除菌の

ための消毒剤の安全性や効果について開心が持たれて

いる2).

 すでに筆者は,免疫不全を伴った類天庖膚患者に合

併した難治性・広範囲の皮膚MRSA感染症に対して,

3%酢酸加親水ワセリンか有効であったことを報告し

た9).しかし,その安全性や至適濃度の検討はまだ充分

ではなかった.今回は培養細胞を用いてこの点につい

て検討を加え,さらに日常頻繁に使用されるpovidone

iodine (PVI)およびchlorhexidine gluconate (CG)

の細胞毒性も検討し,これらとの比較において酢酸の

消毒剤としての安全性および有用性について考察した

ので報告する.

          材料と方法

 細胞毒性の効果判定には,有煉細胞癌cell lineであ

るHSC-1 (山形大学近藤教授より供与)を使用した.

10%牛胎児血清(FCS)添加Dulbecco's modified

Eagle's medium (DMEM)にて維持した.酢酸(和光

純薬)は試薬特級99.7%のものを,PVI(イソジソ⑧,

明治製菓)は10%液(ヨード含量1%), CG(ヒビテソ

⑧,アイ・シー・アイファーマ)は5%液を希釈して使

用した.

 消毒剤の細胞毒性の検討

 消毒剤暴露による細胞毒性を見るため,2×lOVml

に調整したHSC-1細胞を96-well microplateに200μ1

ずつ播種し, confluentに達した後,生食水にて洗浄し,

各種消毒剤200μ1を添加した.一定時間の消毒剤暴露

後に吸引除去し,生食水200μ1にて洗浄し,培地100μ1

を添加,24時間培養した.次に, 3-(4,5-dimethylthiazol・

2-yl)-2,5-diphenyl tetrazollum bromide (MTT)を添

加したDMEM 100μ1を添加し,4時間培養し, O.D.

550nmにて吸光度を測定した.(MTT assay)"".

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558

(一〇)iuo3jo% <≪l!q8!AjB|niieo

Oojiuoo

JO%)

AMiiqeiAjBiniieo

concentration of antiseptics く% of normal usage)

          a

二瓶 義道

(lojwoD

10

%)

AuuqBiA

jBiniieD

concentration ofantiseptics(% of normal usage)

         b

図la,b 消毒剤5分ないし60分暴露による細胞毒性の検討.血清無添加.常用使用濃度に対する割

 合で検討した場合, (a) 5分間暴露による酢酸(AA)のED5,は約10% (lmg/ml), povidone

 iodine (PVI)は0.2% (0.2mg/ml), chlorhexidine gluconate(CG)は5% (0.05mg/ml)で

 あった. (b) 60分暴露では,酢酸2.5%(0.25mg/ml), PVIO.31%以下(0.31mg/ml以下), CG

 0.8% (0.008mg/ml)であった.

Concentration ofantisepticsく%ofnormal usage)

         a

0.16 0.31 0.63 1.25 2.5  5

Concentrations 01antiseptics (%0( normal usage)

         b

図2a, b 消毒剤5分ないし60分暴露による細胞毒性の検討. 5%FCS添加. FCSを5%の濃度に

 消毒剤に添加した場合, (a) 5分間暴露によるED50は,常用濃度との比較において,酢酸10%以

 上(lmg/ml以上),PVI 2% (2mg/ml), CG 10% (O.lmg/ml)であった. (b) 60分間暴露で

 は,酢酸2.5% (0.25mg/ml), PVI 1.5% (1.5mg/ml), CG 3 % (0.03mg/ml)であった.

 消毒剤は,便宜上常用使用濃度を,酢酸1%(実際

には1~3%で使用される), CG 0.1% (同

0.05~0.2%),PVI10%とし,それぞれの常用濃度に

対して20%の濃度から生食水にて倍々希釈法で調整し

たものを添加した.また,長時間暴露による影響を見

るため,消毒剤を添加した培地にて24時間培養し,同

様にMTT assay を行った.さらに,常用濃度の10%

の濃度の消毒剤を添加して経時的な細胞毒性も検討し

た.

 pHの変化による細胞の感受性をみるため, O.OIM

phosphate buffered saline(PBS)に1M塩酸を添加

して, pH3~6に調整したもの,およびsodium acetate

buffer (SAB)をpH 4,5,6に調整し, 166mM (酢

酸lOmg/mlに相当)より倍々希釈したものを添加し,

同様にMTT assayを施行した.さらに, sodium

citrate buffer, pH 5 (SCB)およびglycine-HCl

buffer, pH 5 (GHB)にても同様に検討した.また培

地にSABを添加し, pH 5,6,7に調整したもので24

時間培養し,長時間暴露の影響も検討した.

 測定値は,すべて4検体の平均と標準偏差にて示し

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消毒剤の細胞毒性について

     concentration ofantiseptics(%of normalusage)

図3 長時間暴露による消毒剤の細胞毒性.培地に消

 毒剤を添加し24時間培養した場合のEDsoは,酢酸と

 CGで3%だったが, PVIでは0.16%以下であった.

           結  果

 1.消毒剤暴露による細胞毒性

 5分間の消毒剤暴露によるED5oは,酢酸は常用濃度

の約10% (lmg/ml), CGは5% (0.05mg/ml), PVI

は0.2%(0.2mg/ml)であった(図la).酢酸が最も低

い細胞毒性を示したか,低濃度では酢酸は細胞増殖促

進作用も示した.

 60分間の消毒剤暴露によるED5oは,酢酸は常用濃度

の2.5% (0.25mg/ml), CGは0.8% (0.008mg/ml),

PVIは0.31%以下(0.31mg/ml以下)であった(図1

b).

 血清による緩衝作用を検討するため,消毒剤に5%

の血清を添加して同様に検討したところ,5分間の

ED5oは,酢酸で常用濃度の10%以上,CGは10%, PVI

は2%たった(図2a). 60分では,酢酸2.5%, CG 3%,

PVI 1.5%たった(図2b).

 消毒剤添加培地による24時間の培養では, EDsoは酢

酸とCGで3%だったが, PVIでは0.16%以下であっ

た(図3).

 常用濃度の10%の濃度の消毒剤暴露による経時的な

細胞毒性は,細胞の50%viabilityにて,酢酸6分, CG

30秒, PVI30秒以下で, PVIの毒性が最も早く現れ,

酢酸の毒性が最も軽度だった(図4a).この際の,それ

ぞれの消毒剤のpHは,酢酸pH 3.14, CG pH 5.28,

PVI pH 4.18であった.

 消毒剤に血清を5%添加した場合,細胞の50%via-

bilityは,酢酸16分, CG 6分,PVI30秒以下で,やは

り酢酸の毒性が最も低かった(図4bλこの際の,それ

ぞれのpHは,酢酸pH 3.60, CG pH 7.09, PVI, pH

5.23であった.

(lojiuco

JO

%)

/toiKiBM

Jeiniieo

(lonu8jo%)/ta|!qE!Aje|n||9a

`218’oざ)AllliqBiAiBiniiea

  1  2  4  8antiseptics exposure time (min)

       a

 1  2  4  8

Antiseptics exposure time (min)

     b

antiseptics exposure time (min〉

      C

559

図4a, b, c 消毒剤の経時的な細胞毒性.常用濃度の

 10%の濃度の消毒剤暴露による経時的な細胞毒性

 は,細胞の50%viabilityにて,(a)血清無添加の場

 合,酢酸6分, CG 30秒, PVI 30秒以下であった.

 (b)5%FCS添加では, 50%viabilityは酢酸16分,

 CG6分, PVI30秒以下, (c) 20%FCS添加では,

 酢酸19分, CG 7分, PVI 30秒以下であった.

 消毒剤に血清を20%添加した場合では,細胞の50%

viabilityは,酢酸20分, CG 6分, PVI 30秒以下たっ

た(図4c).それぞれのpHは,酢酸pH 4.35, CGpH

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560

(1OJ)UO3]O%)

60 40 20 0

』squinu ||33

aiqei

 5.5 5 4.5 4

PH ofajplied PBS-HCl

図5 低pHの細胞への影響.1M塩酸でpHを3

 ~6に調整したPBSを15分間暴露,24時間培養.

 pH3において細胞毒性を認めた.

二瓶 義道

7.87, PVI pH 6.18であった.

 2. pHの変化による細胞毒性の検討

 酢酸の細胞毒性がpHに依存するかどうかを検討す

るため, PBSを1M塩酸にてpH調整し培養細胞に15

分添加した場合, pH3において細胞毒性を認めた(図

5九SABによる細胞毒性を見たところ,15分間の暴露

では, pH 6, 5ではむしろ細胞数が増加し, pH4で軽

度の細胞毒性が認められた(図6a).これに対して.pH

5に調整したSCBおよびGHBでは,細胞毒性も細胞

増殖刺激も認めなかった.

 pH 5,6,7に調整したSAB添加培地にて24時間培

養した結果は, pH5では細胞の生残はほとんど認めら

(|oj)uo3

lo %)

sjsquinu [133

siqeiA

0 1.3 2.6 5.2 10.4 20.8 41.5 83 166

   concentration of buffers (mM)

       a

れず, pH 6では, 1.3~41.5mMの範囲で約50~60%

の生残率を示した. pH7では83mM以下において,コ

ソトロールに比較して細胞毒性をほとんど認めなかっ

た(図6b).

          考  按

 MTT assayを用いた培養細胞に対する消毒剤の細

胞毒性は, ED50 (5分)で酢酸はlmg/ml, CGは0.05

mg/ml,PVIは0.2mg/mlであった.消毒剤をmouse

に投与した場合のLD5oは, PVI 480mg/kg, CG 21mg/

kgであるので川,そのまま換算すると, PVI0.48mg/

g, CG 0.021mg/gとなる.培養細胞の結果と直接比較

することはあまり妥当とはいえないが,数値上の比較

においては培養細胞のED5oはmouseのLD50とほぼ

同等であると考える.

 消毒剤の細胞毒性については,すでにLineaweaver

ら3)やTatnallら2)が,それぞれtrypan blue dye

exclusion test およびMTT assay により検討し, CG.

過酸化水素水,およびsodium hypochlorite において,

常用使用濃度で強い細胞毒性かあることを報告してい

る. Pucherら4)の報告でもCGの最少細胞毒性濃度は

15分間の暴露にて0.02mg/mlとしている. in vivoに

おける消毒剤の毒性の検討は, Severynsら5)やSan-

chezら12)により成されているが,それらによるとCG

はあまり組織毒性は示さなかったが, PVIは殺菌性が

あまり強くないのにもかかわらず,組織毒性が強いこ

とが指摘されている.

  00 80

  1

(lOJlUO0 1O%)

60 40 o 〇

isquinu ||33

3|qBiA

pH5      1

O 1.3 2.6 5.2 10.4 20.8 41.5 83 166

concentrationof sodium acetatebuffer (mM)

        b

図6a, b 3種類の緩衝液の細胞毒性. (a)緩衝液:sodium acetate buffer (SAB),

 sodium citrate buffer (SCB), glycine-HCl buffer (GHB)へ15分間暴露,24時間

 培養後の結果, (b) SABにてpH調整した培地で24時間培養した結果. (a)におい

 て, pH6または5のSABはむしろHSC-1の増殖を剰激した. pH4のSABにおい

 て,軽度な細胞毒性を認めた.15分のSCBおよびGHB暴露はなんら細胞毒性も細

 胞増殖刺激もしなかった.(b)において, SABでpH6に調整された培地は,軽度

 の細胞毒性を示した. pH5に調整された培地では生残細胞はなかった.

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消毒剤の細胞毒性について

 酢酸の細胞毒性についてはLineaweaverら3)が,

2.5mg/ml以上の濃度の酢酸が培養線組芽細胞に細胞

毒性を示し, in vivo では創傷初期の表皮形成をわずか

に遅らせることを報告している.しかし生食水に2.5

mg/mlの濃度に酢酸を添加した場合,pH約3に低下

し,今回の検討でもpH3のPBS-HCl液で低pHによ

る細胞毒性が認められたことから,この酢酸の細胞毒

性は低pHによる可能性があった.それで, SAB,

SCB, GHBなどの緩衝液を使用してpHを調節し,同

様に細胞毒性を検討した結果,高濃度では多少の濃度

依存性が認められるものの,基本的にpH依存性の細

胞毒性が認められた.そして酢酸やSABには,細胞増

殖促進作用も認められ,このような作用はSCBや

GHBではみられなかった.

 今回の検討により,酢酸の細胞毒性がCGやPVIに

比して,かなり低いことが認められた.実際の臨床応

用においては,角層のバリヤー作用や,汗や惨出液の

緩衝中和作用・希釈作用が加わるため,他の消毒剤は

比較的高めの濃度のものが使用されている.すなわち,

PVIについては臨床で使用されている常用濃度は

10%(100mg/ml)で培養細胞に対するED5o(0.2mg/

ml)の500倍,CGについては常用濃度は0.05~0.2%

(0.5~2ing/ml)でED5o(0.05mg/ml)の10~40倍で

ある.しかし,この濃度ではPVIは肉芽形成や表皮化

を抑制しているように思われることかしばしば経験さ

                          文

  1)永井 勲:MRSA院内感染の消毒薬の役割,

   タ1ガメ1(日本語版), 13(5):111-114, 1992.

  2) Tatnall FM, Leigh IM, Gibson JR : Compara-

   tive study of antiseptic toxicity on basal ker-

   atinocytes, transformed human keratinocytes

   and fibroblasts, Sλ加戸肋79叱叱3(3):157-163,

   1990.

  3) Lineaweaver W, Howard R, Soucy D,et al:

   Topical antimicrobial toxicity, Arch Surg,

   120 : 267-270, 1985.

  4) Pucher JJ, Daniel JC : The effects of chlorhex-

   idine digluconate on human fibroblasts in vitro,

   J Periodontol,ら3(3):526-532,1992.

  5) Severyns AM, Lejeune A,Rocoux G,Lejeune

   G : N on-toχic antiseptic irrigation with chlor-

   hexidine in experimental revascularization in

   the rat,/ UospInfect, \7(3):197-206, 1991.

  6)大利隆行,山内信和,鈴木修二,村中正治,宮本昭

   正,宮地純樹:クロルヘキジンによるアナフィラ

   キシーショツク例における特異的lgE抗体の検

   索,アレルギー, 33(9):707, 1984.

561

れ,実験的にも指摘されている12)このような点から表

皮化を促進させることを目的とするならば, PVIはあ

まり使用しないほうか良いであろう.酢酸については,

病変の性状にもよるが, ED.oの10~30倍の濃度である

10~30mg/ml ( 1~3%)が,血清などの緩衝作用を

考慮した場合に妥当ではないかと考える.

 さらに最近は, gentiana violet'=≫,塩化メチルロザ

リェソ14)がMRSAに対して有効であるとの報告があ

る.これらの細胞毒性に関する検討はまだ行われてい

ないが, MRSA感染症に対しては抗生物質のみならず

消毒剤も,使用部位や目的に応じて適切に使い分けら

れることが必要である.

 酢酸は自然界において細菌の発酵によって産生され

る物質であるが,生体においてもTCA cycle の中に取

り込まれるもので,生体の活動に重要な役割を担侃

食酢の濃度は約5%であるが,古くから食品の防腐に

用いられている.消毒剤としての酢酸の抗菌力はあく

まで静菌的であり,ある程度の除菌は可能であるが,

十分な効果を有する消毒剤であるとはいえない.しか

し,適当に調整された酢酸緩衝液は他の消毒剤に比し,

かなり細胞毒性が低いことが認められた.さらに酢酸

の分子性状からは感作性があることは考えにくく,適

切な使用法によってその臨床応用の可能性は高いもの

と考える.

 7)大村守弘,池田和之:一各消毒剤の効果・使い方・

   注意点-クロルヘキジソ,医薬ジャーナル,

   22(11):2223-2228, 1986.

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   感染に対し3%酢酸ワセリン外用が有効と思われ

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 11)殺菌・消毒マニュアル編集委員会,殺菌・消毒マ

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   hexidine diacetate and povidone-iodine on

   wound healing in dogs. Vet Sur

Page 6: 酢酸・povidone iodine ・chlorhexidine gluconate の …drmtl.org/data/104040557.pdf日皮会誌:104 (4), 557-562, 1994 (平6) 酢酸・povidone iodine ・chlorhexidine gluconate

562                       二瓶 義道

  291-295, 1988.                       66(7):914-922, 1992.

13)佐治 守:Methicillin resistant Staphylococcus     14)荻野 純,村上嘉彦,山田俊彦:鼻前庭MRSA保

  aureus感染病巣に対する有機色素剤gentiana       菌者に対する塩化メチルr=・ザリソの除菌効果,感

  violetの局所治療剤としての検討,感染症誌,       染症誌, 66(3):376-381, 1992.

A Study of Cytotoxidty of Acetic Acid, povidone iodine and Chlorhexidine

            Gluconate to Cultured Keratinocytes

                  Yoshimichi Nihei

         Department ofDermatology, Fukushima and Medical College

       (Received March 12,1993; accepted for publicationNovember l0,1993)

  Cytotoxicities of acetic acid (AA), povidone iodine (PVI), and chlorhexidine gluconate (CG) against cultured

keratinocytes were studied. Using a human squamous cell carcinoma cell line, EDso of 5 min exposure to these

antiseptics were determined to be:AA l mg/ml, PVI 0.2 mg/ml, and CG 0.05 mg/ml by MTT colorimetric assay・

The ED50 of AA was 10% of the normally used concentration, and the least cytotoxic and that of PVI was 0.2% of the

usual dose and the most cytotoxic. Time course study of cytotoxic effects also showed that AA was the least

cytotoxic agent. The cytotoxicity of sodium acetate buffer (SAB) was not dose・dependent, but pH・dependent. In

conclusion, the cytotoxicity of acetic acid was pH・dependent and less toxic than that of PVI or CG. These results

suggest that not only antibiotics, but antiseptics, should be selected properly, depending on the purpose of

treatment or the condition of wounds。

  (lpn J Dermatol 104: 557~562,1994)

Key words: antiseptics, cytotoxicity, acetic acid, povidone iodine, chlorhexidine gluconate