1
I Scientific Highlights 029 我々は、2001 年から岡山天体物理観測所の 188 cm 遠鏡と高分散分光器 HIDES を用いて、約 300 個の中質量 1.5–5 M GK 型巨星を対象とした視線速度精密測定法に よる系外惑星探索プロジェクトを実施している。本プロ ジェクトは世界の系外惑星探索プロジェクトの中でも最も 長く継続的に成果を出し続けているものの一つであり、国 際協力による発見も含めてこれまでに 20 個の惑星と 6 の褐色矮星の発見に成功している。今回新たに、HD2952 K0III, 2.5  M )、HD120084G7III, 2.4  M )、ω Serpentis G8III, 2.2 M )という 3 つの巨星の周りにそれぞれ惑星を 発見した [1]。これにより、現在知られている中質量巨星 周りの惑星及び褐色矮星の約 4 割が我々のグループによる 発見ということになる。 HD120084 を周回する惑星の質量下限値は 4.5 M JUP 、軌 道長半径は 4.3 AU であり、非常に大きな軌道離心率(e = 0.66)をもつ(図 1)。これは、これまでに中質量巨星周囲 で見つかった惑星の中では最も離心率の大きなものの一つ である。このような楕円軌道惑星の起源として複数惑星に よる重力散乱や遠方天体による摂動が考えられるが、視線 速度変化の長期トレンドの解析から HD120084 の場合は約 36 AU 以内に褐色矮星質量以上、約 90 AU 以内に M 型矮星 以上の質量をもつ天体が存在する可能性は低いと言える。 HD2952 ω Serpentis を周回する惑星はいずれも円軌 道に近い軌道を周回しており、質量下限値はそれぞれ 1.6 M JUP 1.7 M JUP である。これらは、中質量巨星周囲で これまでに発見された最も軽い惑星に属する。一般に巨 星は太陽型星に比べて脈動の振幅が大きく(~10–20 m s −1 )、 2 M JUP よりも軽い惑星の検出は困難であるが、今回のよ うに密に多数(50–100 点)のデータを取得することによっ てそのような惑星の検出も可能であることが示された(図 2)。 また、脈動の振幅が比較的小さい巨星に対しては、一晩 分のデータを平均することで視線速度変動が 2 分の 1 から 4 分の 1 程度に低減され、少なくとも 1 週間のタイムスケー ルで 2 m s −1 以下に抑えられる場合があることが分かった。 これは、巨星の周りでも短周期スーパーアースのような低 質量惑星が検出できる可能性があることを示している。 今後は、現在モニターしている天体の時間軸をさらに延 ばすとともに、アストロメトリ衛星(GAIA)やトランジッ ト衛星(TESS, CHEOPS)の稼働を見据えて岡山でのプロ ジェクトを発展させていきたいと考えている。 中質量 GK 型巨星を周回する 3 つの新たな惑星系の発見 佐藤文衛、大宮正士、原川紘季 LIU, Yujuan 泉浦秀行、神戸栄治、竹田洋一 (東京工業大学) (中国国家天文台) (国立天文台) 吉田道利 伊藤洋一 安藤裕康、小久保英一郎 井田 茂 (広島大学) (兵庫県立大学) (国立天文台) (東京工業大学) HIDES でとらえた HD120084の視線速度変化.赤丸は観測点,実 線は観測点を最もよく再現する軌道から計算された理論曲線. 1HIDES でとらえた HD2952の視線速度変化.赤丸,青三角はそれ ぞれHIDES スリットモード,HIDES ファイバーモードで取得され た観測点,実線は理論曲線. 2参考文献 [1] Sato, B., et al.: 2013, PASJ, 65, 85.

中質量GK型巨星を周回する3つの新たな惑星系の発見 - NAOHD120084を周回する惑星の質量下限値は 4.5 M JUP、軌 道長半径は4.3 AUであり、非常に大きな軌道離心率(e

  • Upload
    others

  • View
    2

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

  • I Scientific Highlights 029

     我々は、2001 年から岡山天体物理観測所の 188 cm 望遠鏡と高分散分光器 HIDES を用いて、約 300 個の中質量

    (1.5–5 M)GK型巨星を対象とした視線速度精密測定法による系外惑星探索プロジェクトを実施している。本プロジェクトは世界の系外惑星探索プロジェクトの中でも最も長く継続的に成果を出し続けているものの一つであり、国際協力による発見も含めてこれまでに20個の惑星と6個の褐色矮星の発見に成功している。今回新たに、HD2952

    (K0III, 2.5 M)、HD120084(G7III, 2.4 M)、ω Serpentis(G8III, 2.2 M)という3つの巨星の周りにそれぞれ惑星を発見した [1]。これにより、現在知られている中質量巨星周りの惑星及び褐色矮星の約4割が我々のグループによる発見ということになる。 HD120084 を周回する惑星の質量下限値は 4.5 MJUP、軌道長半径は4.3 AUであり、非常に大きな軌道離心率(e = 0.66)をもつ(図1)。これは、これまでに中質量巨星周囲で見つかった惑星の中では最も離心率の大きなものの一つである。このような楕円軌道惑星の起源として複数惑星による重力散乱や遠方天体による摂動が考えられるが、視線速度変化の長期トレンドの解析からHD120084の場合は約36 AU以内に褐色矮星質量以上、約90 AU以内にM型矮星以上の質量をもつ天体が存在する可能性は低いと言える。 HD2952 とω Serpentis を周回する惑星はいずれも円軌道に近い軌道を周回しており、質量下限値はそれぞれ1.6 MJUP と1.7 MJUP である。これらは、中質量巨星周囲でこれまでに発見された最も軽い惑星に属する。一般に巨星は太陽型星に比べて脈動の振幅が大きく(~10–20 m s−1)、約2 MJUPよりも軽い惑星の検出は困難であるが、今回のように密に多数(50–100点)のデータを取得することによってそのような惑星の検出も可能であることが示された(図2)。 また、脈動の振幅が比較的小さい巨星に対しては、一晩分のデータを平均することで視線速度変動が2分の1から4分の1程度に低減され、少なくとも1週間のタイムスケールで2 m s−1以下に抑えられる場合があることが分かった。これは、巨星の周りでも短周期スーパーアースのような低質量惑星が検出できる可能性があることを示している。 今後は、現在モニターしている天体の時間軸をさらに延ばすとともに、アストロメトリ衛星(GAIA)やトランジット衛星(TESS, CHEOPS)の稼働を見据えて岡山でのプロジェクトを発展させていきたいと考えている。

    中質量GK型巨星を周回する3つの新たな惑星系の発見佐藤文衛、大宮正士、原川紘季 LIU, Yujuan 泉浦秀行、神戸栄治、竹田洋一

    (東京工業大学) (中国国家天文台) (国立天文台)

    吉田道利 伊藤洋一 安藤裕康、小久保英一郎 井田 茂 (広島大学) (兵庫県立大学) (国立天文台) (東京工業大学)

    HIDESでとらえたHD120084の視線速度変化.赤丸は観測点,実線は観測点を最もよく再現する軌道から計算された理論曲線.

    図 1.

    HIDESでとらえたHD2952の視線速度変化.赤丸,青三角はそれぞれHIDESスリットモード,HIDESファイバーモードで取得された観測点,実線は理論曲線.

    図 2.

    参考文献[1] Sato, B., et al.: 2013, PASJ, 65, 85.