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国際会計基準(IFRS)における保険負債の測定 -ソルベンシーⅡとの比較を含む解説- 主席研究員 牛窪 賢一 1. はじめに 2. 国際会計基準の概要 1国際会計基準の適用状況 2国際会計基準の目的 3国際会計基準の特徴 3. 保険契約に関する会計基準 1現行の会計基準 IFRS 4 2新たな会計基準の検討(公開草案) 4. 公開草案における保険負債の測定 1現在履行価値による測定 2ビルディング・ブロック・アプローチ 3将来キャッシュ・フローの見積:ビルディング・ブロック 1 4割引率(貨幣の時間的価値に関する調整):ビルディング・ブロック 2 5リスク調整(将来キャッシュ・フローの不確実性に関する調整): ビルディング・ブロック 3 6残余マージン(契約開始時に会計上の利益を発生させないための調整): ビルディング・ブロック 4 7毎期末における保険負債の測定 5. 財政状態計算書および包括利益計算書における表示 1財政状態計算書における表示と利益の捉え方 2包括利益計算書における表示 6. おわりに 損保総研レポート 第97号 2011.10 1

国際会計基準(IFRS)における保険負債の測定1.はじめに 国際会計基準(IFRS)における保険契約の基準については、2004 年に策定された

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国際会計基準(IFRS)における保険負債の測定 -ソルベンシーⅡとの比較を含む解説-

主席研究員 牛窪 賢一

目 次

1. はじめに

2. 国際会計基準の概要

(1) 国際会計基準の適用状況 (2) 国際会計基準の目的 (3) 国際会計基準の特徴

3. 保険契約に関する会計基準

(1) 現行の会計基準 IFRS 第 4 号 (2) 新たな会計基準の検討(公開草案)

4. 公開草案における保険負債の測定

(1) 現在履行価値による測定 (2) ビルディング・ブロック・アプローチ (3) 将来キャッシュ・フローの見積:ビルディング・ブロック 1 (4) 割引率(貨幣の時間的価値に関する調整):ビルディング・ブロック 2 (5) リスク調整(将来キャッシュ・フローの不確実性に関する調整):

ビルディング・ブロック 3 (6) 残余マージン(契約開始時に会計上の利益を発生させないための調整):

ビルディング・ブロック 4 (7) 毎期末における保険負債の測定

5. 財政状態計算書および包括利益計算書における表示

(1) 財政状態計算書における表示と利益の捉え方 (2) 包括利益計算書における表示

6. おわりに

損保総研レポート 第97号 2011.10

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1.はじめに 国際会計基準(IFRS)における保険契約の基準については、2004 年に策定された

「IFRS 第 4 号保険契約」が現行の基準であるが、この基準は、各国におけるそれまで

の基準の継続適用を認める暫定的な基準であるため、国際会計基準を適用している国に

おいても、保険契約の会計処理は各国でばらばらなのが現状である。 国際会計基準の策定を行っている国際会計基準審議会(IASB)は、2010 年 7 月に公

開草案「保険契約」を公表し、2010 年 11 月末に公開意見募集を締め切った。現在、国

際会計基準審議会は、保険契約の新たな会計基準を策定すべく、寄せられた意見をもと

に検討を行っている。公開草案、すなわち保険契約に関する新たな会計基準は、包括的

かつ本格的な統一基準となる予定であり、現在のわが国における基準、および現行の国

際会計基準とも大きく異なるものである。 さらに、欧州において 2013 年以降導入予定の新たなソルベンシー規制であるソルベ

ンシーⅡも、国際的な規制・監督の調和化が進展する中で、わが国の保険会社にも影響

を及ぼす可能性が高い。このようなことから、経理部門、リスク管理部門以外の保険会

社職員や保険会社の株式等に投資を行う投資家等にとっても、国際会計基準やソルベン

シーⅡについてその内容を理解することが必要になってきていると考えられる。 国際会計基準に関する解説は、会計事務所等を中心に多数出ているが、関連業務に携

わっている実務家以外にとっては、ややとっつきにくいと感じることもあるのではない

だろうか。この要因としては、従来の会計基準と異なり、国際会計基準にはファイナン

スの基礎的理論が含まれており、将来キャッシュ・フロー、現在価値、流動性プレミア

ムといった用語に不慣れな場合があること、情報が詳細なため逆に大きな枠組を把握し

づらい場合があること等が考えられる。 いうまでもなく保険会社は、顧客に保険サービスを提供することが本業であるため、

保有する保険契約に基づく保険負債をどのように測定するかは、保険会社の自己資本や

利益の算定にまで影響を及ぼす極めて重要な問題である。 そこで本稿では、国際会計基準の公開草案における保険負債の測定方法に関し、具体

的なイメージがわきやすいように図表を利用し、またソルベンシーⅡとの比較を盛り込

んだ。さらに、ファイナンスの基礎的理論に関する簡単な解説を加え、保険負債の測定

方法に関する全体像が理解しやすいように努めた。一方、上記のような観点から、公開

草案の提案に至る議論の背景、実務に適用する際の問題点、および公開草案に対する意

見等については基本的に割愛することとした(ただし、その後の国際会計基準審議会で

の検討により暫定的に決定された 2011 年 9 月末までの公開草案に関する修正のうちの

重要なものは本文中に織り込んでいる)。本稿が、関連部門の実務家以外の方々が保険

会計について理解を深める上で多少なりとも役立つことができれば幸いである。 なお、本稿における意見・考察は筆者の個人的見解であり、所属する組織を代表する

ものではないことをお断りしておく。

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2.国際会計基準の概要 本項では、国際会計基準の概要につき、国際会計基準の適用状況、目的、特徴の順に、

ソルベンシーⅡとの比較も含めて説明する。

(1)国際会計基準の適用状況

a.国際会計基準とは 従来、企業が財務会計を作成する際の基準となる会計基準は、国によって異なるこ

とが多かったが、企業活動のグローバル化に伴い、投資家等が企業の経営成績や財務

状態を同一の基準で比較または評価する必要性が高まってきた。このような必要性を

背景として、会計基準の国際的統一化が進められており、その統一基準になっている

のが国際会計基準(International Financial Reporting Standards:IFRS)1である。

b.わが国における国際会計基準の適用 わが国における国際会計基準の強制適用の時期については、企業会計審議会2が

2009 年 6 月に公表した「我が国における国際会計基準の取扱いに関する意見書(中

間報告)」では、2012 年を目処に強制適用の判断を行い、少なくとも 3 年の準備期間

が必要であるため、適用開始は 2015~2016 年目途とされていた。 しかし、2011 年 6 月、金融担当大臣が、国際会計基準の強制適用の時期について、

少なくとも 2015 年 3 月期についての強制適用は考えていないこと、仮に強制適用を

行うことを決定した場合でも、その決定から 5~7 年程度の十分な準備期間の設定を

行う等の新たな方針を示している。

c.世界各国における国際会計基準の適用状況 欧州連合(European Union:以下「EU」)では、2005 年から上場企業の連結財務

諸表において国際会計基準が強制適用されている。また、オーストラリアでは 2005年、ニュージーランドでは 2007 年、カナダ、韓国では 2011 年より IFRS の強制適用

が開始されている。IFRS を自国の会計基準として強制適用している国および適用す

ることを認めている国は、既に 120 カ国に及んでおり、先進国の中で、IFRS の強制

適用を行っていない国は、わが国と米国だけになっている。

1 IFRS は、正式には国際財務報告基準と訳されるが、本稿では、より一般的に利用されている国際会計

基準と表記している。 2 金融庁長官の諮問に応じ、企業会計基準等の設定に関して答申を行う審議会であり、学者および実務家

等の委員で構成されている。

わが国における国際会計基準の強制適用については、仮に強制適用を行うことを決定

した場合でも、その決定から 5~7 年程度の十分な準備期間の設定を行う等の方針が

2011 年 6 月に示されている。

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(2)国際会計基準の目的

一般的に、保険会社が作成する主な会計には、以下に説明する財務会計と監督会計

の 2 種類がある3。財務会計は、各国の会社法または商法等に基づき、株式会社等が作

成を義務付けられている会計であり、株主、債権者等の企業外部の利害関係者に対す

る財務情報(企業の経営成績や財務状態等)の提供を目的に作成され、期間損益の測

定に重点が置かれている。国際会計基準は、この財務会計における世界的な統一基準

であり、この主目的は、投資家の意思決定に役立つ情報を提供することにあるとされ

ている。 一方、監督会計は、各国の保険監督法等に基づき、保険契約者保護を主目的として、

保険会社が作成し保険監督当局へ提出することが義務付けられている会計であり、保

険会社の支払能力の測定に重点が置かれている。ソルベンシーⅡは、保険契約者の保

護を主目的として、保険会社を監督するためのソルベンシー規制であるという意味で、

この監督会計に相当するといえる。 なお、ソルベンシーⅡには 3 つの柱(コラム 1 参照)があるが、国際会計基準にお

ける保険負債の測定と、ソルベンシーⅡの第 1 の柱である定量的要件における保険負

債の測定との比較が本稿での説明の中心となる。ソルベンシーⅡでは、これまでに、

定量的要件に関する数理統計的な妥当性や実務上の問題点等を検証するために、5 回

にわたる定量的影響度調査(Quantitative Impact Study:QIS)が実施されている。

本稿でのソルベンシーⅡに関する記載は、2009 年 11 月に採択されたソルベンシーⅡ

枠組指令等に加えて、2010年7月に実施された第5次定量的影響度調査(以下「QIS5」)による試行を反映させたものである4。

3 例えば、米国では、財務会計としての「一般に公正妥当と認められた会計原則」(Generally Accepted Accounting Principles:US GAAP)と監督会計としての法定会計原則(Statutory Accounting Principles:SAP)が明確に別々の基準として存在するが、わが国では、財務会計と監督会計が一体とな

っている。 4 ソルベンシーⅡの全体像については、損害保険事業総合研究所「ソルベンシーⅡ枠組指令に関する調

査・研究(解説編)」(2011.3)を参照願う。

国際会計基準の主目的は、投資家の意思決定に役立つ情報を提供することにある。 (ソルベンシーⅡは、保険契約者の保護を主目的として、保険会社の支払能力の測定

に重点が置かれている点で異なる。)

損保総研レポート 第97号 2011.10

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<コラム 1>

ソルベンシーⅡの概要

ソルベンシーⅡは、EU における新しいソルベンシー規制であり、現行のソルベンシー

Ⅰに代わって、2013 年以降導入される予定である。ソルベンシーⅡの内容については現

在検討作業が進められており、詳細部分は未確定である。

ソルベンシーⅡは、以下の 3 つの柱で構成されている。

○ 第Ⅰの柱:定量的要件

保険会社が抱えるリスクを計量化して資本必要額を算定し、これを上回る自己資本

の保有を求める。

○ 第Ⅱの柱:定性的要件および監督活動

保険会社に対し、リスクと資本を適正に管理するためのリスク管理態勢を含むガバ

ナンス態勢の構築等を求めるとともに、監督当局がこれを検証する。

○ 第Ⅲの柱:監督当局への報告および一般への情報開示

保険会社に対し、自社のリスクおよび資本の管理等に関して、監督当局への報告お

よび一般への情報開示を行うことを求める。

(3)国際会計基準の特徴

a.原則主義(プリンシプル・ベース) 国際会計基準は、細則主義(ルール・ベース)ではなく、原則主義(プリンシプル・

ベース)の会計基準である。わが国や米国の会計基準5は、具体的な数値基準のような

細かいルールが多く、細則主義なのに対し、国際会計基準には、詳細な指針や数値基

準等の実務的なルールがほとんどない。原則的な規定が示されているだけのため、企

業はこの規定に基づいて、自社の企業活動内容等を考慮の上、実際に適用する方法を

判断しなければならない。しかし、企業はなぜその方法を選択したのか、投資家等に

対し、明確に説明する責任を負う。 ソルベンシーⅡも原則主義の規制である。例えば、資本要件における保険会社のリ

5 一般に公正妥当と認められた会計原則(Generally Accepted Accounting Principles:GAAP)のことを

指している。

国際会計基準には、主に以下のような特徴がある。 a. 原則主義(プリンシプル・ベース) b. 資産・負債アプローチ(バランス・シート)重視 c. 公正価値による測定(時価評価に相当)重視 (ソルベンシーⅡも原則主義、バランス・シートに基づく測定、市場整合的な経済価

値ベースでの測定(時価評価に相当)という点で共通点が多い。)

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スク量の計算では、一定の要件を定めた上で、保険会社固有のリスク計量化モデルの

使用を認めている。また、ソルベンシーⅡでは、保険会社の抱えるリスクの状況に応

じて、標準的手法よりも簡素化された簡便法を使用する等の柔軟な取扱を認める均衡

の原則(principle of proportionality)が導入されている。ただし、保険会社は、どの

ような方法を使用し、なぜその方法を選択したのかを明確に説明できなければならな

いとされている。

b.資産・負債アプローチの重視 国際会計基準においては、資産と負債の測定に基づいて利益を捉える資産・負債ア

プローチの考え方が重視されている。ここでは、後記 4.の保険負債の測定方法につい

て理解する上で役立つと考えられることから、国際会計基準の目的(投資家の意思決

定に役立つ情報提供)と、資産・負債アプローチとの関係についてやや詳しく説明し

たい。

(a)利益の捉え方に関する 2 種類のアプローチ 一般的に、会計基準における利益の捉え方には、収益・費用アプローチと資産・

負債アプローチの 2 種類がある。

ア.収益・費用アプローチの概要 収益・費用アプローチは、企業が達成した成果としての収益とそのために要した

費用を期間的に対応させ、その差額を利益として捉える考え方であり、繰延マッチ

ング・アプローチとも呼ばれている(図表 1 左側参照)。収益・費用アプローチに

おいては、収益および費用の認識・測定、特に収益と費用との対応関係を適切にマ

ッチングさせることが重要となる。わが国の会計基準は、基本的に収益・費用アプ

ローチに基づくものである。 保険会社の会計に収益・費用アプローチを適用する場合は、収入保険料から支払

保険金6、経費等を控除した差額が利益となる(図表 1 右側参照)。収益・費用アプ

ローチに基づく会計処理は、現在でも多くの国の保険会計において一般的に利用さ

れている。

6 ただし、実際に支払った保険金のほか、将来の保険金支払等に備えるための保険契約準備金として積み

立てた額等も費用になる。

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図表 1 収益・費用アプローチによる利益算定のイメージ

(出典:各種資料をもとに作成)

イ.資産・負債アプローチの概要

資産・負債アプローチは、期首と期末において、企業の資産と負債の差額である

純資産を算出し、この報告期間における純資産の増加額7を利益として捉える考え方

である(図表 2 参照)。 保険会社の会計に資産・負債アプローチを適用する場合は、収入保険料から支払

保険金、経費等を控除した差額を利益として捉えるのではなく、保有する株式、債

券等の資産の測定額が期首から期末にかけてどれだけ増減したか、また保有する保

険契約に基づく保険負債等の負債の測定額がどれだけ増減したかによって利益を算

定することになる(詳細は後記 5.参照)。

図表 2 資産・負債アプローチによる利益算定のイメージ

(出典:各種資料をもとに作成)

(b)国際会計基準における資産・負債アプローチ

国際会計基準における資産・負債アプローチを理解するためには、投資家がどの

ような情報を求めており、国際会計基準がこれにどのように応えようとしているの

7 ただし、増資等の資本取引による増加額は除く。

資産

資産

負債

純資産負債

純資産

<期首> <期末>

A(期首の

純資産)

B(期末の

純資産)

BマイナスA

が利益

収益 A

( 売 上

等)

収 入 保

険料 a 費用 B

(仕入、

人件費

等)

利益

支 払 保

険金 b

利益

<一般的イメージ> <保険会社の場合>

経費等 c

A マイナス

B が利益

a マイナス

(b+c)が

利益

損保総研レポート 第97号 2011.10

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かという点を考える必要がある。

ア.国際会計基準において資産・負債アプローチが重視されている背景 (ア)投資家による企業への投資と企業が生み出す将来キャッシュ・フロー

前述のように、国際会計基準の主目的は、投資家の意思決定に役立つ情報を提

供することにある。投資家は、企業の株式等を購入し、企業に資金を提供する。

企業は、投資家から得た資金を、土地・機械装置、金融資産等の資産に投資し、

これらの資産から将来的に生み出される資金(将来キャッシュ・フロー)を回収

して利益をあげ、 終的にこの利益が投資家に還元される(図表 3 上側参照)。 企業が製造業の場合、企業は機械装置の購入等の投資を行うが、商品を販売し

て資金を回収するまでは、将来の資金回収(将来キャッシュ・フロー)は不確実

でありリスクが存在する。商品の販売により実際に資金を回収することによって、

企業はこのリスクから解放され、利益が確定する。 保険会社の場合は、保険契約者から保険料を受け取り、将来、保険金等を支払

う義務(保険負債)を負担する。この保険金支払等による将来キャッシュ・フロ

ーの流出は、いつ、どの程度の金額になるかわからないため、保険契約が完全に

終了するまでは、やはり不確実でありリスクが存在する8。保険会社は、保険契約

に基づく義務を履行することを通じてこのリスクから解放され、利益が確定する。 保険会社の場合、製造業とでは、投資して後から資金を回収するのではなく、

資金(保険料)を先に受け取り後から支払う(したがって、資産により将来キャ

ッシュ・フローがどの程度生み出されるかの観点に加えて、負債により将来キャ

ッシュ・フローがどの程度流出するかにも重点が置かれる)点で異なっている。

(イ)投資家の視点 損益計算書における利益は、過去一定期間の収益から費用を差し引くことによ

って得られた過去の利益である。投資家が、その企業の将来の利益を予測する上

で過去の利益は参考になる。しかし、投資家がその株式に投資するかどうか意思

決定を行う際に特に重要なのは、その企業が現在どのような投資を行っており(資

産・負債というストック面の開示により把握される)、その投資から、将来どの程

度のキャッシュ・フローが生み出されるのか、また、そのキャッシュ・フローの

不確実性(リスク)はどの程度かに関連する情報である。このような考え方は、

企業価値を評価する際の考え方にかなり近いものである(詳細は後記 19 ページ

のコラム 5④参照)。

8 保険会社には、このような保険負債のリスクのほか、受け取った保険料等を金融資産等に投資すること

による資産運用から生み出される将来キャッシュ・フローの不確実性(リスク)もあり、資産・負債の両

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図表 3 投資家の視点と国際会計基準における資産・負債の捉え方

(出典:各種資料をもとに作成)

イ.国際会計基準における資産・負債の捉え方

国際会計基準では、期間損益としてその期の利益を算定することと同等、または

それ以上に、その企業による投資の状況、およびその投資によって生み出される将

来キャッシュ・フローに関する情報を投資家に提供することが重視されている。 このような背景もあり、国際会計基準において、資産は、将来キャッシュ・フロ

ーを生み出すもの、負債は、将来キャッシュ・フローを流出させるものとして捉え

られている。一方、収益は、資産の増加または負債の減少として、費用は、資産の

減少または負債の増加として捉えられる。すなわち、収益・費用は、それ自体の発

生と収益・費用間の対応関係を重視するのではなく、資産・負債の測定の結果生じ

る付随的なものとして認識する考え方になっている(図表 3 下側参照)。

(c)ソルベンシーⅡとの比較 ソルベンシーⅡの定量的要件は、保険会社のバランス・シート(貸借対照表)全

体から、保険会社が保有している自己資本(基本的に資産と負債との差額である純

資産として捉えられる)と、保険会社が抱えるリスクの計量化に基づく規制上の資

本必要額とを対比させて支払余力を評価するものである(コラム 2 参照)。このよ

うな方法は、トータル・バランス・シート・アプローチと呼ばれており、バランス・

シートに基づく評価という意味では、国際会計基準と共通の面があるといえよう。 面からリスクを捉える必要がある。

投資家 企業 投資(株式購入)

・配当等

・会計情報の提供

投資家の視点:

・企業は、現在どんな投資をしているか(投下資金はどんな資産になっているか)

・企業は、その投資から、将来どの程度のキャッシュ・フローを生み出すか

・そのキャッシュ・フローの不確実性(リスク)はどの程度か

国際会計基準における資産・負債の捉え方:

・資産は、将来キャッシュ・フローを生み出すもの

・負債は、将来キャッシュ・フローを流出させるもの

・資産と負債の認識と測定が特に重要であり、収益と費用は付随するもの

土地・機械装置

金融資産等

投資

資金の回収

(将来キャッシュ・フロー) 企業の資産

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<コラム 2>

ソルベンシーⅡのトータル・バランス・シート・アプローチ

ソルベンシーⅡでは、以下に示すように、保険会社のバランス・シート(貸借対照表)

全体から、保険会社が保有している自己資本の額と、保険会社の抱えるリスクの計量化に

基づく規制上の資本必要額とを対比させて支払余力を評価する。このような方法は、トー

タル・バランス・シート・アプローチ(total balance sheet approach)と呼ばれている。

①保有している自己資本の額の測定

まず、保険会社が保有している株式、債券、貸付金および不動産等の資産の価値をソ

ルベンシーⅡの基準で測定する。また、負債の価値も同様に測定する(保険会社の負債

の大部分は、保険契約に基づく保険負債である)。保険会社が保有している自己資本の

額は、ソルベンシーⅡの基準で測定した資産の額から同様に測定した負債の額を差し引

くことによって把握される(資産から負債を控除したものは純資産であり、純資産と自

己資本とは厳密には同一のものではないが、本稿の説明では特に区別せず、基本的に同

じ内容を表すものとして扱っている)。

②資本必要額:2 つの定量的資本要件の算定

資本必要額は保険会社のリスク量を計算して求められる。保険会社が保有する自己資

本がこれを上回っていれば問題なく事業を継続できる水準であるソルベンシー資本必

要額(Solvency Capital Requirement:以下「SCR」)、およびこれを下回ると事業継続

が許されない 低限必要な水準である 低資本必要額( Minimum Capital

Requirement:MCR)の 2 種類が定量的資本要件として定められている。

ソルベンシーⅡにおけるトータル・バランス・シート・アプローチのイメージ

(出典:ソルベンシーⅡ枠組指令等をもとに作成)

資産

負債

自己

資本

<保有している自己資本> <規制上の資本必要額>

SCR MCR

2 種類の定量的資本要件

保有している自己資本が資本必

要額を上回っていることが必要

損保総研レポート 第97号 2011.10

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c.公正価値による測定の重視 国際会計基準では、資産・負債の測定方法として、公正価値による測定(時価評価

に相当)が重視されている。

(a)基本的には公正価値により測定 企業は、報告期間の末日(測定日)において、保有している資産・負債の金額を

測定するが、そのときの測定方法は、一般的に、購入時の価格に基づくもの(取得

原価ベース)と、測定日における時価評価に基づくものの 2 種類に大別される。 国際会計基準のように、資産・負債アプローチを重視する、すなわち、利益を資

産と負債の測定額の変化の結果生じるものとして捉える場合、バランス・シート上

の資産および負債の金額を適切に測定することが、収益・費用アプローチの場合に

比べより重要になる。保有している資産および負債を基本的に公正価値(時価評価

に相当)で測定し、資産と負債の差額である純資産の増減を適切に算定することが

重要だと考えられている。 公正価値とは、独立した第三者間で行われる公正な取引によって形成された市場

価格のことである。活発な取引市場が存在せず、適切な市場価格が得られない場合

は、測定モデルを使い、できるだけ市場で観察可能なデータに基づいて公正価値を

測定することになる。このような測定方法は、金融・資本市場等の市場における価

格形成が、 も客観的で信頼できるデータであるとの考え方に基づいている。

(b)公正価値以外による測定もある ただし、国際会計基準では、すべての資産・負債につき公正価値による測定が義

務付けられているわけではない。国際会計基準では、投資家の意思決定に役立つ情

報提供という目的の観点から、それぞれの資産・負債に関し、できるだけ透明性や

客観性を確保できる も適切な測定方法を定めようとしている。 例えば、建物や機械装置等の有形固定資産等については、取得原価ベースでの測

定、または公正価値での測定のいずれにするかを企業が選択できるようになってい

る。また、金融商品についても、株式等は公正価値で測定するが、債券、貸付金等

のうち一定の要件を満たすものは、公正価値ではなく、取得価格をベースとする償

却原価で測定される。 このように国際会計基準は、必ずしもすべての資産・負債を公正価値で測定する

わけではなく、また、わが国の会計基準でも時価評価の対象が広がってきたため、

現在の国際会計基準とわが国の会計基準とでは時価評価の適用範囲につき大きくは

異ならないとの見方もある9。 また、2010 年 7 月に公表された国際会計基準の公開草案「保険契約」における

9 金融庁「国際会計基準(IFRS)に関する誤解」(2010.4)

損保総研レポート 第97号 2011.10

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保険負債の測定についても、公正価値そのものとはやや異なる考え方による測定モ

デルが提案されている(詳細は後記 4.の特に(1)、(5)、(6)を参照願う)。

(c)ソルベンシーⅡによる測定との比較 ソルベンシーⅡでは、資産・負債は、市場整合的な経済価値ベースで測定するこ

とが求められる。市場整合的な経済価値ベースとは、市場での取引価格や市場で観

察可能なデータに整合的な金額で測定することを意味している。具体的には、原則

として市場価格に基づいて評価し、適切な市場価格が得られない場合は、測定モデ

ルを使い、できるだけ市場で観察可能なデータに基づいて測定することが求められ

ており、国際会計基準の公正価値に概ね等しいといえる。 ただし、ソルベンシーⅡでは、各資産・負債項目の測定に関し、国際会計基準に

よる測定がソルベンシーⅡの基準に則している場合は、国際会計基準による測定結

果をそのまま使用できるが、そうでない場合は、ソルベンシーⅡの基準で評価し直

すこととされている。 例えば、国際会計基準によって取得原価ベースで測定された資産・負債項目は、

ソルベンシーⅡでは、市場整合的な経済価値ベース(時価評価)で測定し直す必要

がある。したがって、現時点では、国際会計基準よりも、ソルベンシーⅡの方が、

より時価(市場との整合性)を重視する度合いが強いと考えられる。ソルベンシー

Ⅱでは保険会社の支払能力の測定に重点が置かれていることがこの背景にあると考

えられる(コラム 3 参照)。 <コラム 3>

ソルベンシーⅡにおける資本必要額の算定と市場整合的な経済価値ベースでの測定

ソルベンシーⅡにおける資本必要額である SCR は、「200 年に1度の確率で発生する損

失」(測定期間 1 年で信頼水準 99.5%のバリュー・アット・リスク)を基準として算定さ

れ、これに相当する自己資本を保有していれば、測定日から1年間は 99.5%の確率で保険

会社が支払不能に陥ることはないと考えられるリスク量を表している。

保険会社が抱えているリスク(予想を超える保険金支払の発生、保有している株式の下

落等)の量は、保険会社の資産・負債の増減を通じて、自己資本をどれだけ増減させるか

という観点から捉えられる。例えば SCR の算定では、株式市場において株価が 30%下落

したときに、保険会社の自己資本がどれだけ減少するかといった影響額が計算対象になる。

これらのことは、保険会社が保有している自己資本の額と、保険会社が抱えているリス

ク量の額の両方につき、市場整合的な経済価値ベースによる一貫性のある方法で測定する

ことが重要であることを意味している。

損保総研レポート 第97号 2011.10

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Page 13: 国際会計基準(IFRS)における保険負債の測定1.はじめに 国際会計基準(IFRS)における保険契約の基準については、2004 年に策定された

3.保険契約に関する会計基準 保険契約に関する現行の国際会計基準は IFRS 第 4 号である。2010 年 7 月に公開草

案「保険契約」が公表され、現在は、IFRS 第 4 号に置き換わる新たな基準の検討が進

められている。

(1)現行の会計基準 IFRS 第 4 号

a.保険契約に関する会計基準の策定 国際会計基準の基準および解釈等の策定は、国際会計基準審議会(International

Accounting Standards Board:IASB)によって行われている。国際会計基準審議会

の 前 身 で あ る 国 際 会 計 基 準 委 員 会 ( International Accounting Standards Committee:IASC)は、1997 年に、同委員会内に保険契約プロジェクトを設置10し、

保険契約に関する国際基準の策定に向けた検討を開始した。 その後、この保険契約プロジェクトは、フェーズⅠとフェーズⅡの 2 段階で進めら

れることとなった。フェーズⅠは、EU における 2005 年からの国際会計基準の強制

適用に向けて暫定的な会計基準を策定するための検討段階である。国際会計基準審議

会は、2004 年 3 月に、保険契約に関する暫定的な国際会計基準である IFRS 第 4 号

を策定し、これによりフェーズⅠの検討段階は終了した。この IFRS 第 4 号は、2005年 1 月以降、保険契約に関する国際会計基準として適用されており、現行の会計基準

もこの IFRS 第 4 号である。 フェーズⅡは、保険契約に関する包括的かつ本格的な会計基準を策定するための検

討段階であり、もともとは 2007 年頃からの新たな基準適用を目指して 2004 年から開

始された。しかし、フェーズⅡでの基準策定は遅れており、現在も検討を継続中であ

る。

b.現行の会計基準 IFRS 第 4 号の概要 現行基準である IFRS 第 4 号11は、フェーズⅠで策定された暫定的な会計基準であ

るため、保険負債の認識・測定等は、原則として各国におけるそれまでの会計基準を

10 国際会計基準委員会では、金融商品に関する会計基準策定の議論の中で、当初、保険は金融商品に含

まれると考えていたが、保険には特殊な性質があるため別途追加的な検討が必要と判断し、保険契約プロ

ジェクトを設置した。 11 IFRS 第 4 号は、企業が発行する保険契約(再保険契約を含む)および企業が保有する再保険契約に適

用される。保険会社が保有する「保険契約に基づく資産・負債以外の資産・負債」には適用されない。

保険契約に関する現行の国際会計基準は、2004 年に策定された IFRS 第 4 号である。

・IFRS 第 4 号では、各国における従来の会計基準の継続適用を認めている。 ・ただし、異常危険準備金・平衡準備金の負債計上禁止等、 低限守らなければなら

ない基準も設定されている。

損保総研レポート 第97号 2011.10

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Page 14: 国際会計基準(IFRS)における保険負債の測定1.はじめに 国際会計基準(IFRS)における保険契約の基準については、2004 年に策定された

継続適用することを認めている。 ただし、異常危険準備金・平衡準備金12の負債計上の禁止(コラム 4 参照)を含む

以下の点については、 低限守らなければならない基準として定められている。 ○ 財務諸表の信頼性または目的適合性を高める場合を除き、保険会社が保険契約

に関する会計方針を変更することを禁止。 ○ 保険会社が認識した保険負債の十分性、適切性に関する検証(負債十分性テス

ト)の義務付け。 ○ 再保険資産が減損していないかどうかの検証(減損テスト)の義務付け。 ○ 保険負債の認識中止は、保険負債が消滅した場合に限る(保険契約から生じる

義務を完全に履行すること、または解約・失効となるまでは当該保険契約に係

る保険負債を継続してバランス・シート上に計上する)ことの義務付け。 ○ 元受保険契約の保険負債とそれに対応する再保険に係る資産との間で相殺して

表示することの禁止。また、元受保険契約の収益・費用とそれに対応する再保

険契約に係る収益・費用との間で相殺して表示することを禁止。

<コラム 4>

IFRS 第 4 号における異常危険準備金・平衡準備金の負債計上禁止

IFRS 第 4 号では、異常危険準備金・平衡準備金の負債計上が禁止されている。具体的

には、「報告期間の末日に存在していない保険契約により発生する可能性のある、将来の

保険金支払のための準備金(例えば、異常危険準備金・平衡準備金)を負債として認識し

てはならない」とされている。ただし、「異常危険準備金・平衡準備金を資本の構成要素

の一つとして認識することは禁止しない」とされている。

国際会計基準に関し、会計処理の基礎となる考え方や前提を体系的にまとめたものであ

る「財務諸表の作成および表示に関するフレームワーク」(以下「概念フレームワーク」)

の定義によれば、負債とは「過去の事象から発生した企業の現在の債務で、その決済によ

り、経済的便益を有する資源が当該企業から流出すると予想されるものをいう」とされて

いる。

国際会計基準においては、異常危険準備金・平衡準備金は基本的に報告期間の末日(測

定日)時点で存在していない将来の保険契約により生じ得る、将来の保険金支払に備える

ための準備金であり、この概念フレームワークの負債の定義にあてはまらないと考えられ

ている。

12 異常危険準備金は、大数の法則が当てはまらない巨大災害等の危険に備えて、累積的に保険料の一定

額を積み立てる準備金であり、わが国の会計基準では、責任準備金の構成要素の一つとなっている。平衡

準備金は、概ねわが国の異常危険準備金に相当するもので、将来の年度における損害率の変動を平準化す

るため、または特別なリスクに備えるために積み立てる準備金であり、欧州諸国の多くにこの制度がある。

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Page 15: 国際会計基準(IFRS)における保険負債の測定1.はじめに 国際会計基準(IFRS)における保険契約の基準については、2004 年に策定された

(2)新たな会計基準の検討(公開草案)

a.公開草案を巡る動向 2010 年 7 月、国際会計基準審議会は、公開草案「保険契約」(以下「公開草案」)

を公表し、2010 年 11 月末までが公開意見募集受付の期限であった。国際会計基準審

議会は、2011 年半ばまでに新たな基準を確定させる予定であったが、この作業は遅れ

ており、現時点では、2011 年 10 月から 2012 年の間に再度公開草案を公表する予定

とされている。前述のように、現行の IFRS 第 4 号では、保険契約に関する会計処理

が各国により異なったままであり、会社間、地域間の比較が困難になっている。公開

草案が正式な基準として決定された場合は、IFRS 第 4 号に置き換わる新たな統一基

準となる。 2008 年には、米国財務会計基準審議会(Financial Accounting Standards Board:

FASB)が国際会計基準審議会の保険プロジェクトに加わり、両者による共同作業が

始まった。2010 年 7 月の公開草案もこの共同作業に基づくものである。しかし、国

際会計基準審議会と米国財務会計基準審議会とでは、一部見解が異なったことから、

それぞれ別々の案が提示されることとなった。2010 年 9 月に、米国財務会計基準審

議会は、国際会計基準審議会とは別のディスカッション・ペーパーを公表している。 国際会計基準審議会には、2010 年 11 月末までに、世界中の保険会社、保険規制・

監督当局、会計事務所等から 250 以上の意見が寄せられた。国際会計基準審議会はこ

れらの意見をもとに、米国財務会計基準審議会とも協議の上、新たな基準書の策定に

向けた検討を進めている。

b.公開草案の適用対象等 公開草案が適用対象としているのは、企業の「保険契約」であって、「保険会社の会

計」ではない。保険会社以外の一般事業会社や他の金融機関等でも、保険契約の定義

に該当するものがある場合には、基本的にこの公開草案の会計基準が適用される。ま

た、保険会社による「保険契約に基づく資産・負債以外の資産・負債」、例えば、株式、

債券等の資産、保険負債以外の負債等の会計処理については公開草案の対象外であり、

これらの会計は、公開草案とは別の会計基準(例えば IFRS 第 9 号「金融商品」等)

によって処理される。 なお、公開草案では、生命保険契約と損害保険契約とを区別せず、基本的にすべて

2010 年 7 月に保険契約に関する公開草案が公表され、保険負債の新たな測定モデル

等が提案されている。 ・公開草案の適用対象は、企業の「保険契約」であり、「保険会社の会計」ではない。

・「保険契約に基づく資産・負債以外の資産・負債」、例えば株式、債券等の資産、保

険負債以外の負債等は、公開草案とは別の会計基準にしたがって処理される。

損保総研レポート 第97号 2011.10

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Page 16: 国際会計基準(IFRS)における保険負債の測定1.はじめに 国際会計基準(IFRS)における保険契約の基準については、2004 年に策定された

の種類の保険契約に適用する測定モデルが提案されている。また、再保険契約は保険

契約の一種であり、公開草案における保険契約に関する記載は特に断りがない限り、

すべて再保険契約にも適用される。

4.公開草案における保険負債の測定 本項では、公開草案における保険負債の測定方法について説明する。仮に保険契約に

ついて、保険会社間等で流動性の高い活発な取引市場が存在していたとすれば、保険負

債は、その市場で取引されている価格に基づいて測定されると考えられる。しかし、実

際には、保険会社が保有している保険契約を売買する取引はあまり一般的ではないため、

誰の目にも明らかな市場価格を得ることはできない。このため、保険負債の測定では、

測定モデルによる見積計算が必要になる。

(1)現在履行価値による測定

a.ソルベンシーⅡとの違い 保険負債の測定は、ソルベンシーⅡでは、仮に保険会社がその保険負債を他の保険

会社に移転するとしたらどれくらいの金額を要求されるか(現在出口価値)という考

え方に基づいて行うこととされている。 しかし、国際会計基準の公開草案では、保険負債の測定において、現在履行価値と

呼ばれる考え方が示されている。現在履行価値は、保険会社が保険契約者に対して保

険契約に基づく義務を履行するために必要な経済的負担の現在価値(経済的負担を現

在価値に換算したもの)である。

b.現在履行価値適用の背景にある考え方 保険契約には、活発な取引市場がなく、多くの場合、第三者に移転されない。保険

会社は、保険金等を保険契約者に支払うことによって義務を履行している。保険負債

の測定モデルは、このような保険事業の経済実態を反映すべきであり、第三者への移

転を想定する現在出口価値モデルは適当でなく、保険契約に基づく義務を保険会社自

身が履行するために必要な経済的負担による現在履行価値モデルを使用すべきである

と公開草案では説明されている。

国際会計基準では、保険負債は、保険契約に基づく義務を保険会社自身が履行するた

めに必要な経済的負担(現在履行価値)で測定する。 (ソルベンシーⅡでは、仮に保険会社がその保険負債を他の保険会社に移転するとし

たらどれくらいの金額を要求されるか(現在出口価値)で測定する。)

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Page 17: 国際会計基準(IFRS)における保険負債の測定1.はじめに 国際会計基準(IFRS)における保険契約の基準については、2004 年に策定された

(2)ビルディング・ブロック・アプローチ

a.ビルディング・ブロック・アプローチの構成 公開草案では、保険契約は複雑な権利と義務の束であり、将来キャッシュ・インフ

ロー(収入保険料等)と将来キャッシュ・アウトフロー(支払保険金等)を生み出す

ものとして捉えられており、保険負債の測定では、4 つのビルディング・ブロックで

構成されるビルディング・ブロック・アプローチによる測定モデルが提案されている。 ビルディング・ブロック・アプローチでは、まず、保険会社が保有している保険契

約に基づく将来キャッシュ・フローを見積もる(ビルディング・ブロック 1)。次に、

見積もった将来キャッシュ・フローにつき、割引率(ビルディング・ブロック 2)を

使用して現在価値に換算する(将来キャッシュ・フローを現在価値に換算する際の一

般的な考え方についてはコラム 5 を参照願う)。 ビルディング・ブロック 1~2 により、見積もった将来キャッシュ・フローを現在

価値に換算した算定結果は、将来キャッシュ・フローの期待現在価値と呼ばれる(図

表 4 参照)。 さらに、将来キャッシュ・フローの金額および時期はあくまでも見積であり、実際

のキャッシュ・フローは不確実である(リスクがある)ことによる影響額を「リスク

調整」と呼ばれる追加的な保険負債として計上する(ビルディング・ブロック 3)。 ビルディング・ブロック 1~3 までの合計額、すなわち将来キャッシュ・フローの

期待現在価値(ビルディング・ブロック 1~2 の算定結果)にリスク調整(ビルディ

ング・ブロック 3)を加えた金額は、履行キャッシュ・フローの現在価値と呼ばれる。 さらに、一定の条件に当てはまる場合には、契約開始時に会計上の利益を発生させ

ないための調整として、「残余マージン」と呼ばれる追加的な保険負債を計上する(詳

細は後記(6)参照)。 なお、公開草案とソルベンシーⅡにおける保険負債の測定に関する大きな枠組みの

比較については、コラム 6 を参照願う。

保険負債は、次の 4 つのビルディング・ブロックで構成されるビルディング・ブロッ

ク・アプローチによる測定モデルを使用して測定する。 ①将来キャッシュ・フローの見積:ビルディング・ブロック 1 ②割引率(貨幣の時間的価値に関する調整):ビルディング・ブロック 2 ③リスク調整(将来キャッシュ・フローの不確実性に関する調整): ビルディング・ブロック 3

④残余マージン(契約開始時に会計上の利益を発生させないための調整): ビルディング・ブロック 4

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Page 18: 国際会計基準(IFRS)における保険負債の測定1.はじめに 国際会計基準(IFRS)における保険契約の基準については、2004 年に策定された

図表 4 ビルディング・ブロック・アプローチによる保険負債の測定(イメージ)

(出典:公開草案等をもとに作成)

b.ビルディング・ブロック・アプローチの適用対象

原則として、すべての種類の保険(再保険を含む)にこのビルディング・ブロック・

アプローチが適用される。ただし、多くの損害保険契約等のように保険期間が概ね 1年以下の短期契約13の保険負債の測定には、このビルディング・ブロック・アプロー

チよりも単純化された修正アプローチ14の使用を義務付けることが提案されている。

13 ただし、保険契約の中に、キャッシュ・フローの変動性に著しく影響を与える組込オプションまたは

デリバティブを含む契約は除く。なお、本稿では、短期契約の取扱いについては基本的に説明を割愛して

おり、今後別の機会に改めて取り上げたいと考えている。 14 未経過期間に対応するための保険負債(責任準備金)については、基本的に収入保険料を保険契約の

カバー期間にわたって配分することにより測定し、既発生事故に対応するための保険負債(支払備金)に

ついては、基本的にビルディング・ブロック・アプローチで測定することとされている。

リスク調整(ビルディング・ブロック 3)

将来キャッシュ・フローの期待現在価値

(将来キャッシュ・フローの見積:ビルディング・ブロック 1、

および貨幣の時間的価値の調整:ビルディング・ブロック 2 の

測定結果)

残余マージン(ビルディング・ブロック 4)

履行キャッ

シュ・フロー

の現在価値

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<コラム 5>

将来キャッシュ・フローを現在価値に換算する考え方

①将来キャッシュ・フローの現在価値とは

将来キャッシュ・フローとは、将来におけるお金の流れ(入金・出金)のことであり、

現在価値とは、将来のお金を現在の価値に換算したものである。

例えば、1 年後の 100 万円は、現在の 100 万円の価値と同じではない。現在の 100

万円は、仮にリスクがない金利(以下「無リスク金利」)1%の 1 年物国債で運用できる

とすれば、リスクをとることなく、1 年後には 101 万円(=100 万円×1.01)になる。

逆にいうと、1 年後の 101 万円の現在における価値(現在価値)は 100 万円(=101 万

円/1.01)であり、1 年後の 100 万円の現在価値は、約 990,099 円(=100 万円/1.01)

となる。さまざまに異なる将来キャッシュ・フローを持つ資産や負債について、各々の

将来キャッシュ・フローを適切な割引率で割り引いて現在価値を算定すれば、異なる資

産や負債の現時点における価値を相互に比較することが可能になる。

②割引率とは

割引率とは、将来キャッシュ・フローを現在価値に換算する際に用いる利率のことで

ある。実際に割引率を考えるときは、無リスク金利(安全性の高い国債等の金利を適用)

を基準とすることが多い。①の例では、無リスク金利である 1%が割引率となっている。

③割引キャッシュ・フロー法

現代ファイナンス理論の基礎的な手法に、割引キャッシュ・フロー法があり、金融商

品の投資価値や企業価値の評価等に幅広く利用されている。この考え方は、「資産の価

値は、その資産が生み出す将来キャッシュ・フローの期待値を、適切な割引率で割り引

いた現在価値になる」というものであり、負債の評価にも基本的にあてはまる。

④割引キャッシュ・フロー法による企業価値評価

割引キャッシュ・フロー法による企業価値の評価では、その企業が生み出す将来キャ

ッシュ・フローの期待値を、各期ごとに割り引いて現在価値を算定し、これを合計して

企業価値を評価する。割引率には、その投資のリスクに見合う利率を使用するのが一般

的である。このような企業価値の評価方法は、「企業価値は、全ての将来キャッシュ・

フローの期待値の現在価値の合計に等しい」という前提に基づいている。

企業価値 =全ての将来キャッシュ・フローの期待値の現在価値の合計

=CF1/(1+k)+CF2/(1+k)2+CF3/(1+k)3+・・・・・+CF t/(1+k) t

CFtは第 t 期のキャッシュ・フローの予測額。k は割引率。

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<コラム 6>

保険負債の測定:国際会計基準とソルベンシーⅡとの比較

公開草案における将来キャッシュ・フローの期待現在価値(将来キャッシュ・フローを

見積もり、貨幣の時間的価値に関する調整を行った測定結果)は、概ねソルベンシーⅡの

現在推計(best estimate)に相当し、公開草案のリスク調整は、概ねソルベンシーⅡのリ

スク・マージン(risk margin)に相当する。ソルベンシーⅡには公開草案の残余マージ

ンに相当するものはない(下図参照)。

ソルベンシーⅡにおける保険負債の測定は、仮に保険会社がその保険負債を他の保険会

社に移転するとしたらどれくらいの金額を要求されるか(現在出口価値)という考え方に

基づいて行う。

ソルベンシーⅡの現在推計は、保険会社が保有している保険契約から発生する将来の保

険料収入、ならびに保険金および経費支払等の将来キャッシュ・フローを見積もり、それ

を測定日時点の現在価値に換算したものである。

しかし、現在推計の金額を支払うだけでは、保険負債を他の保険会社に移転することは

できず、現在推計の金額に加えて、この将来キャッシュ・フローが不確実であるリスクを

負担してもらうためのリスク・マージンが必要になる。リスク・マージンとは、保険負債

の移転先の保険会社が、この保険負債から生じるリスクを負担するための対価である。

公開草案とソルベンシーⅡとの比較(保険負債の測定イメージ)

(注)国際会計基準における将来キャッシュ・フローの期待現在価値とソルベンシーⅡの現

在推計が同一の金額になるとは限らず、また、国際会計基準のリスク調整とソルベン

シーⅡのリスク・マージンが同一の金額になるとは限らない(これは、国際会計基準

とソルベンシーⅡとでは、算出方法および算出の前提条件等が必ずしも同じではない

ためである)。

(出典:公開草案、ソルベンシーⅡ枠組指令等をもとに作成)

<ソルベンシーⅡ>

リスク調整(ビルディング・ブロック 3)

残余マージン(ビルディング・ブロック 4)

<公開草案>

リスク・マージン

現在推計(将来キャッシュ・フ

ローの期待現在価値)

将来キャッシュ・フローの期待現在

価値(将来キャッシュ・フローの見

積:ビルディング・ブロック 1、および貨幣

の時間的価値の調整:ビルディング・ブ

ロック 2 の測定結果)

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(3)将来キャッシュ・フローの見積:ビルディング・ブロック 1

a.将来キャッシュフローの見積とは ビルディング・ブロック 1 では、保険会社が保有している保険契約に基づく将来キ

ャッシュ・フローの見積を行う。将来の支出である将来キャッシュ・アウトフローか

ら、将来の収入である将来キャッシュ・インフローを控除したものが、将来キャッシ

ュ・フローになる(図表 5 参照)。 一般的に、資産の将来キャッシュ・フローの見積では、キャッシュ・インフロー(収

入)を正の方向に、キャッシュ・アウトフロー(支出)を負の方向として捉える。し

かし、保険負債に関する将来キャッシュ・フローの見積では、キャッシュ・アウトフ

ロー(支出)を正の方向に、キャッシュ・インフロー(収入)を負の方向として捉え

る。このため、将来キャッシュ・フローがプラスとは、保険会社にとって収入よりも

支出が多いことを意味している。 図表 5 将来キャッシュ・フローの見積(ビルディング・ブロック 1)

(出典:公開草案をもとに作成)

b.見積に含めるキャッシュ・フローの範囲 (a)既存の保険契約から生じるキャッシュ・フロー

公開草案では、将来キャッシュ・フローの見積の対象は、既存の保険契約に基づ

くキャッシュ・フローであるとされており、将来の保険契約に基づくキャッシュ・

フローは見積の対象外である。この点は、ソルベンシーⅡにおける保険負債の測定

(現在推計を算定する際の将来キャッシュ・フローの見積)と同様である。

<将来キャッシュ・ア

ウトフロー>

・保険金・給付金

・契約者配当金

・保険金処理費用

・新契約費の一部

・契約管理・維持費

<将来キャッシュ・イ

ンフロー>

・保険料

・支払保険金に関する

回収額

<将来キャッシュ・フ

ロー>

保有している保険契約から生じる将来のキャッシュ・フローを見積もる。 ・見積には、既存の保険契約から生じるすべてのキャッシュ・アウトフロー(支出)

とキャッシュ・インフロー(収入)を含める。 ・将来の保険契約に基づくキャッシュ・フローは、見積に含めない。 ・測定日におけるすべての入手可能な情報を見積に反映する。

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(b)主なキャッシュ・フロー 将来キャッシュ・フローの見積の際に含めなければならない主なキャッシュ・ア

ウトフローは、以下のとおりである。 ○ 保険契約に基づいて支払われる保険金・給付金 ○ 保険契約に基づいて支払われる契約者配当金 ○ 保険会社が保険金請求を処理するための費用 ○ 保険契約を引き受けるための新契約費の一部15 ○ 契約管理・維持費(例えば、保険料請求や契約変更処理等のための費用) 将来キャッシュ・フローの見積の際に含めなければならない主なキャッシュ・イ

ンフローは、以下のとおりである。 ○ 保険契約者から受け取る保険料 ○ 支払保険金に関する回収額(既存の保険契約に基づき発生する将来の保険金

に関する、残存物代位および求償権代位等による回収額) 将来キャッシュ・フローに含めてはならないとされているキャッシュ・フローに

は、将来の保険契約から生じるキャッシュ・フローのほか、例えば以下のようなも

のがある。 ○ 資産運用による投資収益(保険負債とは別に認識・測定・表示される) ○ 再保険会社に対する支払および再保険会社からの受取(保険負債とは別に認

識・測定・表示される) ○ 一般間接費等の、保険契約または契約活動に直接関連しない費用

c.確率加重平均

公開草案では、将来キャッシュ・フローの見積において確率加重平均で計算するこ

15 新契約費とは、保険契約を販売、引受および開始するための直接的および間接的な費用である。公開

草案では、新契約費は、保険会社がその保険契約を引き受けなかったとすれば発生しなかったであろう、

当該保険契約の販売、引受および開始のための費用である「増分新契約費」と、「増分以外の新契約費」

から構成されているとされ、この増分新契約費だけを、将来キャッシュ・フローの見積に含めるものとし

た(例えば、代理店手数料は増分新契約費の一部と考えられるため、将来キャッシュ・フローの見積に含

めるが、保険引受部門の職員の人件費等は、増分以外の新契約費となるため、見積に含めないことになる)。

しかし、その後の検討により、2011 年 6 月、国際会計基準審議会は、新契約費を増分および増分以外に

区分する考え方を改め、新契約費のうち、その保険契約を含む保険契約ポートフォリオに関連する契約獲

得のための直接的な費用のすべてを将来キャッシュ・フローの見積に含める(例えば、契約獲得のために

支出したが実際には契約獲得に失敗した費用等を含む。しかし、契約獲得のためのソフトウェア費用、代

理店等の採用および研修等にかかる費用、広告費等の間接的な費用は含まない)との暫定的結論に至って

いる。

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Page 23: 国際会計基準(IFRS)における保険負債の測定1.はじめに 国際会計基準(IFRS)における保険契約の基準については、2004 年に策定された

とが提案されている16。確率加重平均とは、(将来予測されるキャッシュ・フローを)

発生確率で加重平均したもののことである。 確率加重平均の極めて単純化した例を示すと以下のようになる。保険会社が傷害保

険の契約を保有していると仮定する。ある年度に、3%の確率で 1,000 万円(死亡保険

金支払)、10%の確率で 100 万円(傷害のため保険金支払)、87%の確率で 0 円(保険

金支払なし)の支払いを行うと予測される場合、この傷害保険契約に基づく予測支払

保険金の確率加重平均は、1,000 万円×3%+100 万円×10%+0 円×87%=40 万円と

なる。

d.測定日における情報の反映 将来キャッシュ・フローの見積の際には、報告期間の末日(測定日)におけるすべ

ての入手可能な情報を見積に反映させなければならない。市場変数(例えば、公開市

場で取引されている株式や債券等の価格および金利等)については、観察可能な市場

価格と整合的でなければならず、非市場変数(例えば、保険金請求の頻度および金額

の大きさならびに死亡率等)の見積は、保険会社の内部と外部の両方のすべての入手

可能な情報を反映する必要があるとされている。

(4)割引率(貨幣の時間的価値に関する調整):ビルディング・ブロック 2

a.現在価値への換算 ビルディング・ブロック 1 で見積もった将来キャッシュ・フロー(将来キャッシュ・

アウトフローから将来キャッシュ・インフローを控除したもの)は、ビルディング・

ブロック 2 の貨幣の時間的価値に関する調整により、割引率を利用して、現在価値に

換算する17。 見積を行った将来キャッシュ・フローに関し、1 年後のキャッシュ・フロー、2 年

後、3 年後、4 年後・・・・のそれぞれのキャッシュ・フローを、すべて現在価値(測定

日時点の価値)に換算し、これらを合計する必要がある。 図表 6 は、1~5 年後まで保険契約に基づく将来キャッシュ・フローがあり、6 年後

16 公開草案では、将来キャッシュ・フローの見積は、原則としてすべての起こり得るシナリオを考慮し、

各シナリオの発生確率を使って予測することとされた。しかし、その後の検討により、2011 年 2 月、国

際会計基準審議会は、将来キャッシュ・フローの平均値を算定する目標のために十分である場合には、必

ずしも、起こり得るすべてのシナリオを特定して定量化する必要はないとの暫定的結論に至っている。 17 公開草案では、すべての保険契約について現在価値への換算(割引計算)を行うこととされていたが、

その後の検討により、2011 年 3 月、国際会計基準審議会は、一部の短期契約については、割引による影

響が重要でない場合には割引計算を要求しないとの暫定的結論に至っている。

ビルディング・ブロック 1 で見積もった将来キャッシュフローを、割引率(ビルディ

ング・ブロック 2)を使って現在価値に換算する。 ・割引率は、基本的に、無リスク金利+流動性プレミアムである。

損保総研レポート 第97号 2011.10

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Page 24: 国際会計基準(IFRS)における保険負債の測定1.はじめに 国際会計基準(IFRS)における保険契約の基準については、2004 年に策定された

以降の将来キャッシュ・フローがゼロと予測される例を表している。A~E は、1~5年後の将来キャッシュ・フロー(将来の支出)の予測値であり、これらの金利分を割

り引いた現在価値 A’~E’の合計が将来キャッシュ・フローの期待現在価値の金額とな

る18。

図表 6 将来キャッシュ・フローの現在価値への換算(イメージ)

(注)A’は、A の現在価値であることを表す。

(出典:各種資料をもとに作成)

b.使用する割引率

公開草案における割引率は、原則としてその保険負債の通貨、時期(何年後のキャ

ッシュ・フローか)に対応した無リスク金利に流動性プレミアム19を加えた金利とさ

れている20。この点は、基本的にソルベンシーⅡと同様である(コラム 7 参照)。 なお、他の条件が同じ場合、割引率が高いほど保険負債は小さく測定され、割引率

が低いほど保険負債は大きく測定される。また、割引率が 0.1%変化するだけで、将来

18 上記の例では、将来キャッシュ・フローの発生を 1 年後からと仮定しているが、契約開始時の測定(後

記(6)参照)の場合は、保険契約を締結した時点で、保険会社はまだまったく保険料を受け取っていない

前提で行われる。したがって、保険契約締結と同時に受け取る保険料も、将来キャッシュ・フローの見積

の中に含めて計算する点には留意する必要がある。 19 流動性プレミアムとは、流動性が低い金融資産等に付加されるプレミアム(上乗せ金利)のことであ

る。一般的に、流動性が低い金融資産等を購入する投資家は、流動性が低いことの代償として、流動性が

高い金融資産等よりも高い利回り(金利)を要求する。このため、流動性が低い資産の期待収益率は、流

動性が高い資産の期待収益率よりも、流動性プレミアムの分だけ高くなる。 20 ただし、保険負債のキャッシュ・フローが特定の資産のキャッシュ・フロー(運用成績)に依存して

いる場合(有配当契約等)は、割引率に資産の運用成績との依存関係を反映すべきとされている。

A B

C

D

E

A’

B’

C’

D’

E’

将来キャッシ

ュ・フローの

期待現在価値

(ソルベンシ

ーⅡの現在推

計に相当)

1 年後 2 年後 3 年後 4 年後 5 年後

将来キャッシュ・フロー (保険金支払等)の予測値

A~E の現在価値 (合計)

現在(測定時点)

ビルディング・ブロック1 将来キャッシュ・フロー

の見積

ビルディング・ブロック 2 貨幣の時間的価値の調整

損保総研レポート 第97号 2011.10

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キャッシュ・フローの期待現在価値の算定結果は大きく変化するため、割引率をどの

ように決めるかという観点は、保険負債の測定における重要な要素の一つである。

(a)無リスク金利 割引率は、その通貨、時期に対応する無リスク金利がベースとなる。一般的には、

無リスク金利としては、流動性の高い国債の市場金利等が利用されることが多い。

しかし、公開草案では、保険会社が、割引率のベースとする無リスク金利について、

観察可能な市場金利である、国債、スワップ21、または優良社債等のいずれの金利

を使用するか等については示されていない。

(b)流動性プレミアムの加算 公開草案では、原則として、割引率に、その保険契約の流動性特性を反映すべき

とされている。保険会社は、市場で観察される無リスク金利の基礎となる商品(例

えば国債)の流動性特性とその保険契約の流動性特性との違いを考慮し、無リスク

金利に流動性プレミアムを加える必要がある。 国債は、流動性の高い市場で取引されることが多いが、保険契約では、多くの保

険契約者は、その保険契約を第三者に売却することはできない。また解約する場合

も、比較的大きなコスト(解約手数料相当分等)がかかることが多い。このため、

保険契約は、国債等に比べ流動性が低く、割引率に流動性プレミアムを加算する必

要がある旨説明されている。 しかし、公開草案では、流動性プレミアムをどのように算定するかについて、具

体的な方法は示されていない。また、国際会計基準は原則主義(プリンシプル・ベ

ース)であるため、流動性プレミアムの見積に関する詳細なガイダンスを提供する

ことは適切でないといった考えも示されている。 なお、流動性プレミアムの加算により割引率が高くなると、保険負債の額はその

分小さく測定されることになる。

21 スワップ金利は、「6 ヶ月 LIBOR(London Inter-Bank Offered Rate:ロンドン銀行間取引金利)」等

の代表的な変動金利と交換対象になる固定金利のことを指し、代表的な市場金利の基準の一つとなってい

る。ソルベンシーⅡの割引率における無リスク金利としては、スワップ金利をベースとした金利が提示さ

れている。

損保総研レポート 第97号 2011.10

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<コラム 7>

ソルベンシーⅡの割引率

ソルベンシーⅡにおける現在推計(将来キャッシュ・フローの期待現在価値)を算定す

る際の割引率(公開草案のビルディング・ブロック 2 に相当)について、ソルベンシーⅡ

では、実際に使用する金利が通貨ごとに提示されている。具体的には、通貨ごとの無リス

ク金利に流動性プレミアムを加算(流動性プレミアムの 100%加算、75%加算、50%加算)

した金利が、期間ごと(期間 1 年から 1 年ごとに 135 年まで)に提示されている(下図参

照)。

各保険会社は、各将来キャッシュ・フローの割引率に、そのキャッシュ・フローの発生

時期に対応する金利を適用して、将来キャッシュ・フローの期待現在価値を算定する。

無リスク金利としては、代表的な市場金利の一つであるスワップ金利をベースとした金

利が提示されている。

流動性プレミアムとしては、保険会社が実際にどのような資産を保有しているかとは独

立して、市場のデータに基づき通貨ごとに適切と考えられる金利が設定されている。

この流動性プレミアムを無リスク金利にどの程度加算するかは、保険の種類によって異

なっている。負債キャッシュ・フローの予測可能性が高い一部の生命保険の場合は、流動

性プレミアムを 100%加算し、一般的な損害保険のように予測可能性が比較的低い保険の

場合は、流動性プレミアムの 50%を加算する等の基準となっている。

ソルベンシーⅡにおける通貨がユーロの場合の割引率

0.0%

1.0%

2.0%

3.0%

4.0%

5.0%

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30

100%

75%

50%

0%

(注)実際のデータは期間 135 年まで明示されているが、グラフでは 30 年までの表示とした。

(出典:European Commission,“QIS5 Technical Specifications”をもとに作成)

(期間・年)

(流動性プレ

ミアムを何%加算するか)

無リスク金利(流動性

プレミアムの加算 0%)

損保総研レポート 第97号 2011.10

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(5)リスク調整(将来キャッシュ・フローの不確実性に関する調整):ビルデ

ィング・ブロック 3

a.リスク調整の測定の基本的考え方 リスク調整(risk adjustment)は、将来キャッシュ・フローが不確実であることに

よる調整(負債の上乗せ額)である22。ビルディング・ブロック 1 で見積もった将来

キャッシュ・フローは、あくまでも測定日時点での予測であり、実際のキャッシュ・

フローは、予測を上回ることもあれば下回ることもあり、予測どおりのキャッシュ・

フローが実現するとは限らない。リスク調整は、保険会社が保険契約を保有すること

により抱える、このようなリスクに対する経済的負担を測定するものである。 リスク調整は、ソルベンシーⅡのリスク・マージンのように、保険会社が保険負債

を第三者に移転する際に必要な、現在推計への上乗せ額(現在出口価値)ではなく、

保険会社自身が、リスクのある保険契約に基づく義務を履行するために必要な経済的

負担(現在履行価値)として捉える。 公開草案では、リスク調整の金額が負債項目として開示されることは、財務諸表の

利用者に対して、保険会社が抱えるリスクに関する有用な情報を提供するものと考え

られている。

b.リスク調整測定の対象となるリスク リスク調整は、その保険契約に関連するすべてのリスクを反映しなければならない。

ただし、原則として以下のリスクは反映してはならないとされている。 ○ 資産運用リスク(資産運用リスクが保険契約者への支払額に影響を与える場合

を除く) ○ 資産と負債のミスマッチ・リスク23 ○ 将来の取引に関連する一般的なオペレーショナル・リスク

22 公開草案では、リスク調整は、「 終的な履行キャッシュ・フローが予想を上回るリスクから解放され

るために保険会社が合理的に支払うと考えられる 大の金額」と定義されていた。しかし、その後の検討

によりこの定義は削除され、2011 年 9 月、国際会計基準審議会は、「リスク調整の目的は、保険契約に基

づく義務を履行することに伴って生じるキャッシュ・フローの不確実性を負担するために保険会社が要求

する補償である」との暫定的結論に至っている。 23 一般的に、資産と負債の残存期間が一致していないために、市場金利が変動する局面等で損失が発生

するリスク等を指す。

ビルディング・ブロック 1 で見積もった将来キャッシュ・フローは不確実(リスクが

ある)なものであるため、このリスクによる経済的負担を測定し、「リスク調整」と

呼ばれる追加的な保険負債として計上する。 ・リスク調整の額は、信頼水準法、条件付きテール期待値法、資本コスト法等の方法

を利用して測定する(これらの方法の概要は、本稿末尾の補足資料を参照願う)。

損保総研レポート 第97号 2011.10

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リスク調整は、保険契約ポートフォリオ24ごとのレベルで見積もる必要がある。し

たがって、リスク調整には、保険契約ポートフォリオ内の分散効果を反映するが、そ

のポートフォリオと他の保険契約のポートフォリオとの間の分散効果を反映してはな

らないとされている25。

c.リスク調整の測定方法 公開草案では、リスク調整の測定方法は、信頼水準法、条件付きテール期待値法、

資本コスト法の 3 つの方法のいずれかによることとされた(これらの方法の概要につ

いては、本稿末尾の補足資料を参照願う)。3 つの方法に限定する理由については、広

範な測定方法を認めると、保険会社によって実務が様々に異なり、保険会社間の比較

可能性を損なう可能性があるためとされた。 しかし、その後の検討により、2011 年 9 月、国際会計基準審議会は、リスク調整の

測定方法を上記 3 つの方法だけに限定しないとの暫定的結論に至っている。また、国

際会計基準審議会は、今後、リスク調整の測定に関するガイダンスを提供する予定で

あり、その中には、上記 3 つの方法による例示も盛り込むことを暫定的に決定したと

している。 公開草案では、どの方法を選ぶのが 適であるかは、その保険契約の性質に依るた

め、保険会社は、それぞれの保険契約にどの方法を選択するかを判断する必要がある

とされている。 なお、リスク調整は、以下のような性質のリスクほど高い額になるとされており、

保険会社は、これらの性質を実行可能な範囲で考慮する必要があるとされている。 ○ 広い確率分布のリスク>狭い確率分布のリスク(図表 7 参照) ○ 頻度は低いが重要度が高いリスク>頻度は高いが重要度は低いリスク ○ 同じ種類のリスクの場合、長期の契約>短期の契約 ○ 現在の見積およびその傾向に関する情報が少ないリスク>情報が多いリスク

24 概ね類似したリスクにさらされ、単一のプール(保険契約群)として一括して管理される保険契約の

集まりである。 25 ソルベンシーⅡのリスク・マージンの計算単位は、基本的に保険会社が保有する保険契約全体であり、

この点は、公開草案と異なる。公開草案では、保険会社内における各保険契約ポートフォリオが、相互の

損失を完全に補てんしあえるかどうか疑問であるとの考え方から、保険会社の保険契約全体ではなくポー

トフォリオ単位でリスク調整を計算することとされている。

損保総研レポート 第97号 2011.10

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図表 7 確率分布の異なるポートフォリオにおけるリスク調整の違い(イメージ)

(注)上図は、信頼水準法を使ったリスク調整の測定をイメージ化したものである。A’と B’

は、ともに将来キャッシュ・フローの期待値(確率加重平均値)を表しており、同じ大

きさであると仮定し、A’’と B’’は、目標とする信頼水準(例えば 75%等)を表している。

ポートフォリオ A と B とでは、将来キャッシュ・フローの期待値は同じであるが、リ

スク調整の額は、確率分布の広い B(B”マイナス B’)の方が、確率分布の狭い A(A”

マイナス A’)よりも大きくなる。

(出典:各種資料をもとに作成)

(6)残余マージン(契約開始時に会計上の利益を発生させないための調整):

ビルディング・ブロック 4

a.残余マージンの概要 残余マージン(residual margin)は、保険契約開始時に会計上の利益を発生させな

いことを目的に、契約開始時に見込まれる利益相当分を追加的な保険負債として計上

する調整である。 以下に示すように、保険契約開始時において、(a)履行キャッシュ・フローの現在価

値がマイナスの場合にのみ、このマイナス分(利益相当額)が残余マージンとして設

将来キャッシュフロー(支払保険金等)の大きさ

A’ B’

<保険契約ポートフォリオ A>

狭い確率分布

<保険契約ポートフォリオ B>

広い確率分布

リスク

調整

リスク

調整

A’’ B’’

残余マージンは、保険契約開始時に会計上の利益を発生させないことを目的に、契約

開始時に見込まれる利益相当分を追加的な保険負債として計上するものである。 ・残余マージンの設定は、この分の利益を初年度に全額計上するのではなく、保険カ

バー期間にわたって償却することを通じて、この分の利益を概ね毎期均等に繰り延

べる性質を持っている。

損保総研レポート 第97号 2011.10

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定され、(b)履行キャッシュ・フローの現在価値がプラスの場合には、残余マージンは

設定されず、このプラス分(損失相当額)は費用として処理される。

(a)履行キャッシュ・フローの現在価値がマイナスの場合(残余マージンの設定) 残余マージンは、契約開始時26における履行キャッシュ・フローの現在価値がマ

イナスになる場合、すなわち、将来キャッシュ・インフローの期待現在価値が、将

来キャッシュ・アウトフローの期待現在価値にリスク調整を加えた金額よりも大き

い場合に、追加的な保険負債として設定される27(図表 8 参照)。 残余マージンの額は、履行キャッシュ・フローの現在価値のマイナス分(すなわ

ち、将来キャッシュ・アウトフローの期待現在価値とリスク調整の合計額から、将

来キャッシュ・インフローの期待現在価値を控除した金額)と同額の正の値になる28。 契約開始時において、履行キャッシュ・フローの現在価値がマイナスになるとい

うことは、収入保険料が、将来における保険金等の支払と、リスクを抱える経済的

負担(リスク調整)の合計を上回るということであり、仮に、実際のキャッシュ・

フローが予測どおりの結果になれば、この差額分は利益になる性質のものである。

図表 8 契約開始時の認識(履行キャッシュ・フローの現在価値がマイナスの場合)

(注)( )内は数値例である。

(出典:公開草案等をもとに作成)

26 保険負債の測定には、契約開始時の測定と事後測定がある。契約開始時の測定は、保険契約を締結し

た時点で、保険会社はまだまったく保険料を受け取っていない前提で行われる。したがって、保険契約締

結と同時に受け取る保険料も、将来キャッシュ・フローの見積の中に含めて計算することになる。 27 契約開始時に履行キャッシュ・フローの現在価値がマイナスになる場合は、これと同額の残余マージ

ン(正の値)を設定するため、契約開始時の保険負債はゼロになる。一方、履行キャッシュ・フローの現

在価値がプラスになる場合は、残余マージンは設定されず、契約開始時の保険負債は、履行キャッシュ・

フローの現在価値のプラス分(費用として処理される額)と同額になる。 28 リスク調整が保険契約ポートフォリオを単位として測定されるのに対し、公開草案では、残余マージ

ンは、保険契約ポートフォリオの中で契約開始日および保険カバー期間が近い保険契約をまとめた集団

(ポートフォリオよりも小さな単位)のレベルで測定することとされた。しかし、その後の検討により、

2011 年 2 月、国際会計基準審議会は、保険負債の測定に関する 終的な基準は、保険契約をポートフォ

リオ単位で測定することになるとの暫定的結論に至り、残余マージンを測定する際の単位についても今後

見直すことを示唆している。

将来キャッシュ・イン

フローの期待現在価

値(100)

将来キャッシュ・アウ

トフローの期待現在

価値(80)

リスク調整(12)

残余マージン(8)

残余マージンを設定し

ないとすれば利益とし

て認識される金額

損保総研レポート 第97号 2011.10

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(b)履行キャッシュ・フローの現在価値がプラスの場合(費用として処理) 前記(a)とは逆に、契約開始時において、履行キャッシュ・フローの現在価値がプ

ラスである、すなわち、将来キャッシュ・インフローの期待現在価値が、将来キャ

ッシュ・アウトフローの期待現在価値にリスク調整を加えた金額を下回る場合は、

残余マージンを設定せず、この差額を直ちに費用として純損益に認識することが求

められている(図表 9 参照)。すなわち、収入保険料が、将来における保険金等の

支払と、リスクを抱える経済的負担(リスク調整)の合計に満たない場合は、契約

開始時に損失を認識することになる。

図表 9 契約開始時の認識(履行キャッシュフローの現在価値がプラスの場合)

(注)( )内は数値例である。

(出典:公開草案等をもとに作成)

b.残余マージンの設定を求める背景

契約開始時に利益として認識せず、残余マージンを設定しなければならない主な理

由として、公開草案では 2 点挙げられている。 一つは、契約開始時には、保険会社はその履行義務をまだ充足していないため、収

益(利益)としての認識を行うべきではないというものである。残余マージンの設定

は、国際会計基準の公開草案「顧客との契約から生じる収益」29における基準である

「企業は顧客に約束した財・サービスを提供することによって履行義務を充足したと

きに収益を認識する」との考え方に則したものである。この公開草案は、財・サービ

スを提供する契約を締結するすべての企業に適用される予定である。 契約開始時に利益として認識せず、残余マージンを設定するもう一つの理由として

は、契約開始時における保険負債の測定が誤っていることがあるため、利益として算

定される金額が不正確になる可能性があることが挙げられている。 29 この公開草案は、国際会計基準審議会と米国財務会計基準審議会により共同で開発され、2010 年 6 月

に公表されたものであり、正式な基準として決定された場合には、国際会計基準および米国の会計基準

将来キャッシュ・イン

フローの期待現在価

値(95)

将来キャッシュ・アウ

トフローの期待現在

価値(90)

リスク調整(15) 費用処理される額(10)

契約開始時に費用

(損失)として処理

される金額

損保総研レポート 第97号 2011.10

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c.残余マージンの償却 保険会社は、契約開始時に負債計上された残余マージンを、毎期規則的な方法30で、

保険契約のカバー期間にわたって償却することとされている。この償却分は、毎期の

収益として純損益に認識されるため、保険会社は、概ね毎期一定の利益を得られるこ

とになる。したがって、残余マージンの設定は、この分の利益を初年度に全額計上す

るのではなく、保険カバー期間にわたって繰り延べる性質を持っているといえる。 なお、保険契約のカバー期間が終了すれば、残余マージンはゼロになり、残余マー

ジンがマイナスの値になることはない。 (7)毎期末における保険負債の測定

公開草案では、契約開始時に認識された保険負債は、報告期間の末日(測定日)ご

とに、残余マージン(ビルディング・ブロック 4)を除き31、すべての計算要素につ

いて測定日のデータに基づき再測定することを求めている。 すなわち、履行キャッシュ・フローの現在価値(ビルディング・ブロック 1 の将来

キャッシュ・フローの見積、ビルディング・ブロック 2 の割引率、ビルディング・ブ

ロック 3 のリスク調整)は、測定日ごとに測定日のデータに基づき再測定する必要が

ある。保険会社は、その時点における見積を見直し、それ以前の見積がもはや妥当で

はない場合には、見積を更新しなければならないとされている。 なお、ソルベンシーⅡでは、現在推計およびリスク・マージンとも、測定日ごとに

測定日のデータに基づき再測定することとされており、この点は、公開草案の履行キ

ャッシュ・フローの現在価値の場合と同様である。 現在のわが国の会計基準では、基本的に収入保険料をベースとした測定であり、毎

期再測定を行うことになっていない点で、公開草案における履行キャッシュ・フロー

の現在価値の測定とは異なっている(詳細はコラム 8 参照)。

(US GAAP)の両方に共通する基準となる予定である。 30 公開草案では、基本的には時の経過に基づいて、ただし、発生保険金・給付金の予想時期のパターン

が時の経過と著しく異なる場合は発生保険金・給付金の予想時期に基づいて償却することとされた。しか

し、その後の検討により、2011 年 6 月、国際会計基準審議会は、保険契約に基づくサービス提供の履行

のパターンに沿って償却すべきであるとの暫定的結論に至っている。 31 公開草案では、残余マージンについては、報告期間の末日(測定日)において再測定を行わないこと

が提案されていた。しかし、その後の検討により、2011 年 6 月、国際会計基準審議会は、残余マージン

についても毎期再測定を行う必要があるとの暫定的結論に至っている。ただし、どのような方法で再測定

するかの詳細は検討中である。

保険負債は報告期間の末日(測定日)において、以下のように測定される。 ・履行キャッシュ・フローの現在価値(ビルディング・ブロック 1 の将来キャッシュ・

フローの見積、ビルディング・ブロック 2 の割引率、ビルディング・ブロック 3 の

リスク調整)は、測定日ごとに測定日のデータに基づき再測定する。

損保総研レポート 第97号 2011.10

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Page 33: 国際会計基準(IFRS)における保険負債の測定1.はじめに 国際会計基準(IFRS)における保険契約の基準については、2004 年に策定された

<コラム 8>

保険負債の測定:国際会計基準とわが国の会計基準との比較

わが国の会計基準では、保険契約に基づく保険負債として、将来の保険金などの支払い

に備えるための保険契約準備金の積み立てが義務付けられている。保険契約準備金は、責

任準備金、支払備金等から構成されている。

責任準備金は、保険期間未了の契約について、次年度以降に発生する保険金等の支払に

備えて末経過保険料等を積み立てる準備金である。支払備金は、支払義務が発生している

保険金等のうち未払いとなっているものについて、その支払いのために必要な金額を積み

立てる準備金である。

わが国の会計基準における責任準備金(特に生命保険契約の場合)と公開草案における

大きな相違点は以下のとおりである。

○ わが国では、予定死亡率、予定事業費率、予定利率等の基礎率が契約開始時の保険

料計算に利用した基礎率で基本的に固定されており、毎期、基礎率を見直すことに

なっていないが、公開草案では毎期再測定される。

○ 公開草案には、わが国の基準にはないリスク調整、残余マージンがある。

支払備金については、公開草案では、将来支払うと予測される保険金等の一部として将

来キャッシュ・フローの見積の中に含められ、現在価値に割り引いて測定されることにな

り、特に支払備金として個別に認識されるわけではない。

現在のわが国の会計基準が、基本的に収入保険料をベースとした測定(取得価格をベー

スとする測定)であるのに対し、公開草案では、基本的に測定日時点での市場データ等に

整合的な再測定を毎期行う点で大きく異なっているといえる。

公開草案とわが国の会計基準との比較(保険負債の測定イメージ)

(出典:公開草案等をもとに作成)

<わが国の会計基準>

支払備金

(支払義務

が発生して

いるが、未

払の保険金

等のための

準備金)

リスク調整(ビルディング・ブロック 3)

将来キャッシュ・フローの期待現在

価値(将来キャッシュ・フローの見

積:ビルディング・ブロック 1、および貨

幣の時間的価値の調整:ビルディング・

ブロック 2 の測定結果)

残余マージン(ビルディング・ブロック 4)

<公開草案>

責任準備金

(保険期間未了の契

約につき、次年度以

降の保険金等の支払

に備えて未経過保険

料等を積み立てる準

備金)

損保総研レポート 第97号 2011.10

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Page 34: 国際会計基準(IFRS)における保険負債の測定1.はじめに 国際会計基準(IFRS)における保険契約の基準については、2004 年に策定された

5.財政状態計算書および包括利益計算書における表示 本項では、前項で説明した保険負債の測定方法を踏まえて、国際会計基準において、

保険会社の財政状態計算書(わが国会計基準の貸借対照表に相当)および包括利益計算

書(同損益計算書に相当)がどのように表示されることになるか、特に、保険会社の利

益がどのように捉えられるかとの観点から概要を説明する。 国際会計基準において保険会社の利益は、収入保険料から支払保険金等を控除して算

定されるのではなく、前記 2.(3)b.の資産・負債アプローチの考え方に基づき、資産の増

減および負債の増減(期首から期末にかけての測定額の変動)に基づいて算定される。 このため、公開草案では、包括利益計算書における表示についても、このような利益

の捉え方に沿ったものとする狙いから、わが国における現行の損益計算書等とは大きく

異なる報告形式とすることが提案されている。

(1)財政状態計算書における表示と利益の捉え方

a.資産・負債の増減による利益の算定 保険会社の財政状態計算書には、前項で説明した保険契約に基づく保険負債32のほ

か、保険会社が保有している株式、債券、貸付金、不動産等の資産、および保険契約

以外の契約等によるその他の負債も表示される。 国際会計基準における保険会社の利益は、資産・負債アプローチの考え方に基づき、

資産・負債の増減をもとに算定される。したがって、各報告期間における利益は、基

本的にその期間における資産の増加または負債の減少によってもたらされる(図表 10参照)。 具体的には、株式、債券、貸付金、不動産等の保有資産については、公開草案「保

険契約」とは別の国際会計基準によって測定され、期首から期末にかけてのこれら資

産の増加額は利益の増加に、資産の減少額は利益の減少となる。保険負債については、

公開草案「保険契約」にしたがって測定され、保険負債の増加額は利益の減少に、保

険負債の減少額は利益の増加となる。

32 保険契約に基づく保険負債は、財政状態計算書上、保険契約負債として表示される。ただし、保険契

約ポートフォリオ等の一定の単位において将来の収入が支出を上回る見込みである場合等は、保険契約資

産として表示される。なお、公開草案では、出再を行った保険会社は、出再による将来キャッシュ・フロ

ーの期待現在価値をベースとして再保険資産の測定を行うこととされ、再保険資産は、保険負債とは相殺

せずに表示することが求められている。

・保険会社の財政状態計算書には、保険負債のほか、株式、債券、貸付金、不動産等

の資産、およびその他の負債も表示される。 ・各報告期間における利益は、基本的にその期間における資産の増加または負債の減

少によってもたらされる。 ・各報告期間における保険負債の増減は、すべて純損益として認識される。

損保総研レポート 第97号 2011.10

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図表 10 資産の増加または負債の減少と利益の増加(イメージ)

(出典:各種資料をもとに作成)

b.純利益(純損益)とその他の包括利益

資産・負債アプローチの考え方に基づき、期末の純資産から期首の純資産を差し引

くことによって算定された国際会計基準による利益は、「包括利益」と呼ばれている。

この包括利益は、「純利益(純損益)」と「その他の包括利益」から構成されており、

その他の包括利益には、為替差損益や保有株式の評価損益等が含まれる。 保険負債は、基本的に各報告期間の末日(測定日)に再測定され、その変動はすべ

て純損益で認識される。すなわち、将来キャッシュ・フローの見積、割引率、リスク

調整は毎期再測定されるため、将来キャッシュ・フローの見積の変動、金利の変動、

死亡率、失効率等の基礎率等の変動による影響はすべて純損益の増減として反映され

る。残余マージンは基本的に毎期償却され、この償却分は純利益となる。 国際会計基準審議会では、このような保険契約に基づく損益は、保険会社の業績の

コアの部分であり、純損益として認識することが適切であるとの考え方を示している。 また、保険会社が保有している債券や株式等の売却損益や評価損益等も、基本的に

は純損益となる。ただし、売買目的での保有ではない等の一定の要件を満たす株式の

評価損益等は、その他の包括利益となる。

(2)包括利益計算書における表示

a.要約マージン・アプローチの概要 わが国を含む多くの国の現在の損益計算書では、収入保険料、支払保険金等が表示

資産

・株式

・債券

・その他資産

資産

負債

・保険負債

・その他負債

負債

<期首> <期末>

負債の減少は

利益の増加に

資産の増加は

利益の増加に

・包括利益計算書については、収入保険料や支払保険金等を表示しない、要約マージ

ン・アプローチが提案されている。 ・包括利益計算書では、リスク調整の増減および残余マージンの償却等が、保険会社

にとって特に重要な業績指標として開示されることになる。

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Page 36: 国際会計基準(IFRS)における保険負債の測定1.はじめに 国際会計基準(IFRS)における保険契約の基準については、2004 年に策定された

の中心となっており、これは保険料アプローチと呼ばれている。このような損益計算

書の表示も、公開草案における包括利益計算書では大きく異なるものになる。 公開草案では、包括利益計算書での表示に関し、要約マージン・アプローチと呼ば

れる方法が提案されている33。要約マージン・アプローチは、包括利益計算書の収益・

費用として、収入保険料や支払保険金等を表示する代わりに、その報告期間における

リスク調整の増減額や残余マージンの償却額等のマージンを表示の中心とする方法で

ある(図表 11 参照)。 要約マージン・アプローチでは、収入保険料は、単に保険契約者から受け取った預

り金であり、支払保険金は、保険契約者への預り金の返戻とみなされる。このため、

収入保険料や支払保険金は、直接的には収益および費用として認識されず、包括利益

計算書には表示されない(ただし、財務諸表注記で開示することとされている)。 なお、保険契約に関する、わが国の損益計算書(保険料アプローチ)と公開草案の

包括利益計算書(要約マージン・アプローチ)との違いのイメージについては、図表

12 を参照願う。

図表 11 要約マージン・アプローチによる包括利益計算書のイメージ

表示項目

関連する

ヒ ゙ ル テ ゙ ィ ン

グ・ブロック

リスク調整の増減 3 引受マージン 残余マージンの償却 4 実際キャッシュ・フローと見積との差額 1 実績調整およ

び見積の変更 将来キャッシュ・フローの見積および割引率の変更 1、2

受 結

果 契約開始時の損失(前記 4.(6)a.(b)参照)

保険負債に係る利息 純損益 その他の包括利益 包括利益 (注)保険契約に基づく収益および費用は、すべて純損益として認識され、また、債券、

株式等の売却損益および評価損益等も基本的には純損益として認識されるが、株式

の評価損益等にはその他の包括利益として認識されるものもある。

(出典:公開草案等をもとに作成)

33 ただし、保険負債の測定において修正アプローチを使用する短期契約については、包括利益計算書の

中に、保険料収入、支払保険金等を表示することにより、現行の保険料アプローチと大きくは異ならない

ものになることが想定されている。

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Page 37: 国際会計基準(IFRS)における保険負債の測定1.はじめに 国際会計基準(IFRS)における保険契約の基準については、2004 年に策定された

図表 12 わが国の損益計算書と公開草案の包括利益計算書との比較(イメージ)

(注)リスク調整の増減および実績調整・見積変更は、収益(利益)になる場合と費用(損失)

になる場合の両方がある。残余マージンの償却は基本的には収益(利益)である。上図の

例は、仮にその報告期間においてリスク調整が減少、すなわち収益(利益)となり、実績

調整・見積変更が保険負債の増加、すなわち費用(損失)となった場合を表している。上

図におけるその他の費用は、契約開始時の損失等を表している(図表 11 参照)。

(出典:公開草案等をもとに作成)

b.要約マージン・アプローチとビルディング・ブロック・アプローチとの関係

公開草案では、上記のような包括利益計算書における要約マージン・アプローチは、

保険負債の測定モデルであるビルディング・ブロック・アプローチに も適した報告

形式であると考えられている。 保険契約に関し、包括利益計算書では、基本的に 4 つのビルディング・ブロックに

よって測定した保険負債の増減に基づいて収益・費用が認識される。すなわち、保険

契約に基づく義務を保険会社が履行することを通じて、保険カバー期間の経過ととも

に、残余マージンが償却されること、および、同様に保険カバー期間の経過とともに

保険会社が保険負債のリスクから解放されることによりリスク調整の額が減少するこ

と等が、保険会社にとっての利益の源泉として捉えられ、残余マージンの償却額およ

びリスク調整の増減額等が、保険会社にとって特に重要な業績指標として開示される

ことになる。 そのほか、前期末における将来キャッシュ・フローの見積と、当期における実際の

キャッシュ・フローとの差額(実績調整)、前期末と当期末における、再測定による将

来キャッシュ・フローの見積および割引率の変更等が、保険会社の利益の内訳を表す

重要な指標として開示されることになる。 公開草案では、上記のような要約マージン・アプローチには、保険負債の測定モデ

ルであるビルディング・ブロック・アプローチと明確に結びつく長所があるとされて

収入保

険料 リスク調整

の増減

残余マージ

ンの償却

純利益

支払保

険金

純利益

<わが国の損益計算書>

保険料アプローチ

<公開草案の包括利益計算書>

要約マージン・アプローチ

経費等

実績調整・

見積変更

その他費用

収益 収益(利益)費用 費用(損失)

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いる。収入保険料、支払保険金等を中心とする各国の損益計算書における現行の保険

料アプローチでは、保険負債を測定する各ビルディング・ブロックによる変動が損益

計算書に反映されず、保険負債の測定モデルと利益との結びつきが明確に説明できな

いとされている。

6.おわりに 国際会計基準における保険契約の基準やソルベンシーⅡの規定等については、現在、

検討段階であるため、本稿で紹介した内容が 終的な基準等として採用されるかどうか

はわからない。部分的にはさまざまな修正が加えられる可能性があるものの、保険負債

の測定において将来キャッシュ・フローの期待現在価値をベースとして捉える大きな枠

組は概ねそのまま採用されることになるのではないだろうか。 米国では、わが国同様、国際会計基準の強制適用を行っていないが、国際会計基準審

議会と米国財務会計基準審議会は、相互の基準の共通化または調和化を図る共同のプロ

ジェクトを進めており、保険契約につき、国際会計基準と米国の会計基準(US GAAP)とは、完全には一致しないまでも、多くの部分で共通する基準となる可能性が高い。し

たがって、いずれ、わが国の保険会計においても、国際会計基準そのもの、またはそれ

にかなり近い内容の基準を適用することになるのは避けられない流れであろう。 本稿では、保険会計に関する論点、公開草案に対する関係者からの意見、短期契約の

取扱い、および国際会計基準審議会の案と米国財務会計基準審議会の案との相違点等に

ついては、誌面の都合もあり割愛させていただいた。また、保険負債の新たな測定モデ

ルが、保険会社の経営や投資家、保険契約者等にどのような影響を与えるのか等につい

ても扱わなかった。これらの点については今後の課題としておきたい。 国際会計基準における保険契約の基準およびソルベンシーⅡは、ともに長年にわたっ

て検討が進められてきたが、現在は実際に適用する基準等を確定する 終段階に近づい

ているため、引き続き注視していくこととしたい。

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<補足資料>

リスク調整(ビルディング・ブロック 3)の測定方法

公開草案では、リスク調整(ビルディング・ブロック 3)の測定方法は、(1)信頼水準

法、(2)条件付きテール期待値法、(3)資本コスト法の 3 つの方法のいずれかによること

とされた。 しかし、その後の検討により、2011 年 9 月、国際会計基準審議会は、リスク調整の

測定方法を上記 3 つの方法だけに限定しないとの暫定的結論に至っている。また、国際

会計基準審議会は、今後、リスク調整の測定に関するガイダンスを提供する予定であり、

その中には、上記 3 つの方法による例示も盛り込むことを暫定的に決定したとしている。 一方、ソルベンシーⅡにおけるリスク・マージン(公開草案におけるリスク調整に相

当)は、基本的には資本コスト法により測定することとされている。 この補足資料では、公開草案で提示された上記 3 つの方法について概要を説明し、参

考のためソルベンシーⅡにおけるリスク・マージンの測定方法(資本コスト法)につい

ても 後に紹介する。

(1)信頼水準法 a.信頼水準法の概要

信頼水準法は、バリュー・アット・リスク(Value at Risk:VaR)34の手法を使用

して、将来キャッシュ・フローの予測に関し、実際のキャッシュ・フローが特定の区

間内におさまる可能性をもとにしてリスク調整の額を算定する方法である。 リスク調整の額は、目標とする信頼水準(例えば 75%等と設定)における将来キャ

ッシュ・フロー(支払保険金等)の額(図表 1 の B)から、将来キャッシュ・フロー

全体の確率分布における期待値(確率加重平均値:図表 1 の A)を控除した額(B マ

イナス A)に基づいて算定される。

34 VaR は、企業、特に金融機関の保有資産リスクを評価するために考案された手法である。金融資産を

一定期間保有する場合、特定の保有期間(例えば、測定日から 1 年間等)内に、特定の確率(例えば、99%等)の範囲内における期待 大損失額と定義される。企業は、この VaR によって、保有資産の値下がり

が 悪の場合、どの程度の金額になるのかを認識することができる。

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図表 1 信頼水準法によるリスク調整の測定(イメージ)

(注)A は、将来キャッシュ・フロー全体の期待値(確率加重平均値)であり、B は、目標と

して定めた信頼水準(例えば 75%等と設定)における将来キャッシュ・フローの大き

さである。

(出典:各種資料をもとに作成)

b.信頼水準の設定

公開草案では、信頼水準を何パーセントに設定すべきかについては示されておらず、

保険会社は、保険契約ポートフォリオごとに目標とする信頼水準を決定する必要があ

る。保険会社は、信頼水準の決定において、ポートフォリオによって異なる要因(例

えば、確率分布の形状等)を考慮する必要があり、確率分布の形状等は、時間の経過

とともに変化する可能性があるため、将来、信頼水準を変更する必要が生じる場合も

あること等が示されている。

c.信頼水準法に適したリスク 信頼水準法には、設定した信頼水準(例えば 75%等)を超えるテール部分(確率分

布の中心から離れた周辺部にあり、まれにしか発生しないが、発生した場合には大き

な損失をもたらす領域)のリスク(損失の大きさや発生確率)が反映されないという

欠点がある。このため、信頼水準法は、高頻度・小損害のリスク、狭い確率分布のリ

スク等に適しているとされている。

発生した場合重

大な影響がある

テール部分のリ

スクは、リスク調

整に反映されな

い。

将来キャッシュフロー(支払保険金等)の大きさ

A B

将来キャッシュフローの期待

現在価値でカバーされる部分

リスク調整

でカバーさ

れる部分

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(2)条件付きテール期待値法 a.条件付きテール期待値法の概要

条件付きテール期待値法(conditional tail expectation:CTE)は、信頼水準法を

強化したものであり、テール・バリュー・アット・リスク(Tail Value at Risk)の手

法を使用するものである。条件付きテール期待値法は、リスク調整の算定に関し、テ

ール部分の将来キャッシュ・フローの期待値(確率加重平均値)を織り込むことによ

って、信頼水準法では反映されないテール部分のリスクを反映する。 リスク調整の額は、仮に信頼水準が 75%に設定された場合、信頼水準(75%)を超

える高位 25%(テール)に位置するすべての将来キャッシュ・フローの期待値(確率

加重平均値:図表 2 の C)から、将来キャッシュ・フロー全体の確率分布における期

待値(確率加重平均値:図表 2 の A)を控除した額(C マイナス A)に基づいて算定

される。

図表 2 条件付きテール期待値法によるリスク調整の測定(イメージ)

(注)A は、将来キャッシュ・フロー全体の期待値(確率加重平均値)であり、B は、目標と

して定めた信頼水準(例えば 75%等と設定)における将来キャッシュ・フローの大き

さである。C は、B を超える(高位 25%の)テールに位置するすべての将来キャッシュ・

フローの期待値(確率加重平均値)である。

(出典:各種資料をもとに作成)

b.信頼水準の設定

公開草案では、条件付きテール期待値法についても、信頼水準法同様、信頼水準を

発生した場合

重大な影響が

あるテール部

分の期待値が、

リスク調整に

反映される。

将来キャッシュ・フロー(支払保険金等)の大きさ

A B

将来キャッシュ・フローの期待

現在価値でカバーされる部分 リスク調整でカバー

される部分

C

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何パーセントに設定すべきかについては示されておらず、保険会社は、保険契約ポー

トフォリオごとに目標とする信頼水準を決定する必要がある。保険会社は、信頼水準

の決定において、ポートフォリオによって異なる要因(例えば、確率分布の形状等)

を考慮する必要があり、確率分布の形状等は、時間の経過とともに変化する可能性が

あるため、将来、信頼水準を変更する必要が生じる場合もあること等が示されている。

c.条件付きテール期待値法に適したリスク 条件付きテール期待値法は、確率分布のうち もリスクが大きい部分であるテール

に焦点を当て、テールのリスクをリスク調整の額に反映する。このため、条件付きテ

ール期待値法は、低頻度・高損害のリスク、広い確率分布のリスク、非対称な確率分

布のリスク等に適しているとされている。例えば、地震のような低頻度だが重要度の

高いリスクをカバーする保険契約に使用することが適している。信頼水準を 75%に設

定した場合で、巨大地震の発生確率が 10%と予測されたとき、このリスクは、信頼水

準法ではリスク調整の額に反映されないが、条件付きテール期待値法ではリスク調整

の額に反映されることになる。

(3)資本コスト法 a.資本コスト法の概要

保険会社は、保険契約に基づく将来キャッシュ・フローの不確実性(リスク)を負

担するために、一定額の自己資本を保有する必要がある。資本コスト法では、そのよ

うな自己資本を保有するための費用(資本コスト)の現在価値により、リスク調整の

額を測定する。 公開草案で提案されている資本コスト法によるリスク調整の測定手順は以下のとお

りである。 ① 将来キャッシュ・フローの確率分布を予測する。 ② その確率分布に基づき、目標とする信頼水準を設定して、その信頼水準に必要

な自己資本の額を算定する。 ③ その自己資本の額に、資本コスト率(一定の年率)を乗じて、その自己資本を

保有する費用(資本コスト)を算定する。 ④ その資本コストにつき貨幣の時間的価値に関する調整を行う。

この自己資本は将来期間にわたって保有されるため、その期間に適用される割

引率で資本コストを割り引き、現在価値に換算する。具体的には、1 年後の資

本コスト、2 年後の資本コスト、3 年後の資本コスト・・・・・各期の資本コストを

現在価値に換算したものを合計し、資本コストの現在価値を算定する。 ⑤ 上記により算定された資本コストの現在価値が、リスク調整の額になる。

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なお、資本コスト率とは、保険会社が自己資本を調達・維持するための費用である

資本コストを算定するために、自己資本の金額に乗じる比率であり、資本の出し手が

求める期待収益率に相当するものである。 極めて単純化した数値例を示すと、例えば、②において、信頼水準を 99.5%に設定

し、1 年後に 100 億円、2 年後に 80 億円、3 年後に 50 億円の自己資本が必要である

と算定されたと仮定し、さらに、③の資本コスト率が 6%、④の割引率が 1%である35

と仮定した場合、3 年後までに必要な資本コストの現在価値は、(100 億円×0.06/1.01)+(80 億円×0.06/1.012)+(50 億円×0.06/1.013)=約 13 億 5,578 万円

となる。

b.信頼水準、資本コスト率等の設定 公開草案では、自己資本の額を算定するための信頼水準、および自己資本の額に適

用される資本コスト率等について具体的な水準は示されていない。信頼水準や資本コ

スト率等は、各時点での保険負債の特性を反映するような方法で設定しなければなら

ず、必要とされる自己資本の額は、確率分布のテールのほとんど全体をカバーするよ

うな十分に高い水準36(公開草案では具体的な水準は示されていないが、例えば 99.5%等の高いレベルが想定される)に基づいて算定する必要があるとされている。 さらに、公開草案では、概念的には、異なる種類の保険契約に、異なる信頼水準お

よび異なる資本コスト率を適用することが可能となることも示されている。

c.資本コスト法に適したリスク 資本コスト法は、その計算過程において、確率分布のテールのほとんど全体をカバ

ーするような十分に高い水準で、将来キャッシュ・フローの不確実性に対応するため

に必要な自己資本額を算定すること等から、高頻度・低損害のリスク、低頻度・高損

害のリスク、狭い確率分布のリスク、広い確率分布のリスクのいずれについても適し

ているとされている。

d.ソルベンシーⅡの資本コスト法との比較 ソルベンシーⅡにおけるリスク・マージン(公開草案のリスク調整に相当)の測定

は、基本的には資本コスト法によることとされており、この概要はコラムのとおりで

ある。 公開草案の資本コスト法とソルベンシーⅡの資本コスト法とでは、目標とする信頼

35 実際には割引率に適用する金利は期間によって異なるが、この例では単純化のため各期間とも割引率

を一定の 1%と仮定した。 36 ここでの資本コスト法における信頼水準は、リスクを自己資本でカバーするとの前提であり、信頼水

準法および条件付きテール期待値法の信頼水準(将来キャッシュ・フローの期待現在価値にリスク調整を

加えた保険負債でカバーするとの前提)とは前提条件が異なるため、求められるレベル感が大きく異なる。

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水準、資本コスト率、割引率等が必ずしも同じになるわけではないが、基本的な計算

の枠組や手順等は、概ね共通していると捉えても差し支えないと思われる。 ただし、公開草案における資本コスト法では、リスク調整を、保険会社自身がリス

クのある保険契約に基づく義務を履行するために必要な経済的負担として捉えるのに

対し、ソルベンシーⅡにおける資本コスト法では、リスク・マージンを、保険会社が

保険負債を別の保険会社に移転し、その移転先の保険会社がその保険負債のリスクを

負担するために要求すると考えられる対価として捉えるという考え方の違いがあるこ

とには留意する必要がある。

<コラム>

ソルベンシーⅡにおけるリスク・マージンの測定方法(資本コスト法)

ソルベンシーⅡにおけるリスク・マージンの測定では、基本的に以下に示す資本コスト

法によることとされている。

保険会社が、その保険負債を、新たに保険事業を開始する他の保険会社に移転し、移転

先の保険会社がその保険負債に基づく義務のすべてを履行するために必要と想定される

自己資本を調達・維持し、保険事業を管理することが計算の前提になっている。

リスク・マージンの額は、保険負債の移転先の保険会社が、将来の各年度において保険

負債を履行するために理論的に保有しなければならない自己資本の額を計算し、この自己

資本の額に資本コスト率をかけて資本コストを計算し、さらに資本コストの現在価値を算

出した上で、これら年度ごとの現在価値を合計して算定する。

①リスク・マージン計算のための自己資本額の算定

リスク・マージン計算のための自己資本とは、保険負債の移転先の保険会社が理論的

に保有しなければならない自己資本の金額であり、この保険負債のリスクをもとに、測

定期間 1 年で信頼水準 99.5%のバリュー・アット・リスクを基準として算定される。具

体的には、この保険負債に関する保険引受リスクおよびオペレーショナル・リスク等の

リスク量を計算し、このリスク総額が、リスク・マージン計算のための自己資本の金額

となる。

②資本コスト率

資本コスト率は 6%とすることが試行されている。資本コスト率が 6%のとき、例えば、

ある年度の「リスク・マージン計算のための自己資本」の金額が 100 億円であると仮定

した場合、6 億円(=100 億円×0.06)が資本コストとなる。

損保総研レポート 第97号 2011.10

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Page 45: 国際会計基準(IFRS)における保険負債の測定1.はじめに 国際会計基準(IFRS)における保険契約の基準については、2004 年に策定された

③割引率

リスク・マージンの計算に適用する割引率では、流動性プレミアムは加算しない無リ

スク金利だけの割引率を適用することが試行されている。

④簡便法

リスク・マージンの計算においても、均衡の原則に従い、リスクの性質、規模および

複雑さに釣り合う場合は、評価手法の簡便化が認められる可能性がある。例えば、上記

のような資本コスト法を適用せず、リスク・マージンを現在推計(保険契約に基づく将

来キャッシュ・フローの期待現在価値)の一定割合として現在推計の金額から直接的に

概算する等の簡便法も紹介されている。下表の簡便法では、労働者災害補償保険の現在

推計が 100 億円であると仮定した場合、このリスク・マージンは 10 億円(=100 億円

×0.10)と測定される。

リスク・マージンの測定における損害保険会社用の簡便法の例

保険の分類 保険種類 現在推計に対するリ

スク・マージンの割合 所得補償保険 12.0% 労働者災害補償保険 10.0% 自動車賠償責任保険 8.0% 自動車保険(賠償責任以外) 4.0% 火災その他財産保険 5.5%

元受損害保険および

割合再保険の引受

一般賠償責任保険 10.0% (注)上表は、損害保険のうちの一部の保険種類につき抜粋して記載したものである。

(出典:European Commission,“QIS5 Technical Specifications”をもとに作成)

損保総研レポート 第97号 2011.10

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Page 46: 国際会計基準(IFRS)における保険負債の測定1.はじめに 国際会計基準(IFRS)における保険契約の基準については、2004 年に策定された

<参考資料>

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保ジャパン総研クォータリーVol.44(損保ジャパン総合研究所、2005.3)

・牛窪賢一「グローバル金融危機後の米国損害保険業界-金融規制改革法、ソルベンシー規制を含む概観

-」損保総研レポート第 93 号(損害保険事業総合研究所、2010.10)

・高田橋範充「導入前に知っておくべき IFRS と包括利益の考え方」日本実業出版社(2010.6)

・小林篤、牛窪賢一、岡崎康雄、金古俊秀「金融サービス業に関する規制・監督のハーモナイゼーション

の過程における保険事業」損保ジャパン総研クォータリーVol.38(損保ジャパン総合研究所、2001.10)

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・損害保険事業総合研究所『諸外国における保険に関わる税制について』(2011.9)

・損害保険事業総合研究所『ソルベンシーⅡ枠組指令に関する調査・研究(解説編)』(2011.3)

・瀧澤巌「損害保険会計と決算 2010 年度版」(損害保険事業総合研究所、2010.11)

・トーマツ編「IFRS 保険契約」清文社(2011.9)

・日本アクチュアリー会「EU・ソルベンシーⅡにかかる CEIOPS 勧告および日本におけるインプリケー

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および日本における実務的な課題等の研究報告(中間報告)」会報別冊第 235 号(2008.3)

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・細田道隆、牛窪賢一、竹原正篤「環境経営と企業価値」損保ジャパン総研クォータリーVol.40(損保ジ

ャパン総合研究所、2002.5)

・松岡順「損害保険会社社員のための ERM -保険引受リスクの収益管理を中心に-」損保総研レポート

第 96 号(損害保険事業総合研究所、2011.7)

・ミリマン「ソルベンシーⅡレベル 2 技術的実施手段 エグゼクティブ・サマリー」(2010.8)

・ミリマン「保険契約に関する IFRS 公開草案について」(2010.9)

・望月晃、牛窪賢一「新たな損害保険会計制度の構築-今後の方向性と検討の視点-」損保ジャパン総研

クォータリーVol.35(損保ジャパン総合研究所、2001.1)

・David Buckham, Jason Wahl, Stuart Rose,“Executive’s Guide to SolvencyⅡ”(2010.11)

・Deloitte,“SolvencyⅡ reporting and disclosure requirements- The final advice on Level 2

implementing measures”(2010.1)

・Deloitte,“SolvencyⅡ impacts on Investment Managers”(2010.11)

・EIOPA,“From Regulation to Supervision, EIOPA’s SolvencyⅡ Medium Term Work Plan

(2011-2014)”

損保総研レポート 第97号 2011.10

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Page 47: 国際会計基準(IFRS)における保険負債の測定1.はじめに 国際会計基準(IFRS)における保険契約の基準については、2004 年に策定された

・IFRS Foundation,“Basis for Conclusions on Exposure Draft Insurance Contracts”(2010.8)

・IFRS Foundation,“Exposure Draft Insurance Contracts”(2010.7)

・IFRS Foundation,“Internal Financial Reporting Standard 4, Insurance Contracts”(2010.12)

・ International Accounting Standards Board, “ exposure draft Revenue from Contracts with

Customers”(2010.10)

・International Accounting Standards Board,“IASB Staff Paper, Effect of board redeliberations on

ED Insurance Contracts”(2011.9)

・ International Accounting Standards Board,“ IFRS4 Insurance Contracts, Frequently asked

questions”(2004.7)

・KPMG,“New on the Horizon: Insurance Contracts”(2010.9)

・Towers Watson,“Insights– SolvencyⅡ: Getting to grips with QIS5”(2010.7)

・Victoria Raffé, Head of Prudential Insurance Policy, FSA,“SolvencyⅡ: What does it mean for the

Non-Executive Director?”(2011.1)

<参考ウェブサイト>

・あずさ監査法人ウェブサイト http://www.azsa.or.jp/

・企業会計基準委員会ウェブサイト https://www.asb.or.jp/asb/top.do

・金融庁ウェブサイト http://www.fsa.go.jp/

・トーマツ ウェブサイト http://www.tohmatsu.com/view/ja_JP/jp/index.htm

・損保ジャパン総合研究所ウェブサイト http://www.sj-ri.co.jp/

・日本損害保険協会ウェブサイト http://www.sonpo.or.jp/

・Comité Européen des Assurances(CEA)ウェブサイト http://www.cea.eu/

・European Commission Internal Market ウェブサイト

http://ec.europa.eu/internal_market/index_en.htm

・European Insurance and Occupational Pension Authority(EIOPA)ウェブサイト

https://eiopa.europa.eu/

・IFRS Foundation ウェブサイト http://www.ifrs.org/

・International Association of Insurance Supervisors(IAIS)ウェブサイト http://www.iaisweb.org/

損保総研レポート 第97号 2011.10

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