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海面下及び軟弱地盤に対応したニューマチック
ケーソン工法の施工について
佐藤 一央1
1関東地方整備局 京浜港湾事務所 沿岸防災対策室 (〒220-0012 横浜市西区みなとみらい6-3-7)
横浜港は首都圏の生活と産業を支える国際貿易港として発展し,横浜港を含む京浜港(横
浜港,川崎港,東京港)は国際コンテナ戦略港湾に指定され,物流コストを縮減し,我が国の
国際競争力強化を目的とした事業を進めている.この事業の一環である横浜港臨港道路南本牧
~本牧ふ頭線は,横浜港臨海部の交通ネットワーク強化を目的にコンテナターミナルが集積す
る南本牧地区と本牧地区及び大黒地地区を連絡する臨港道路である.本稿では,橋梁部下部工
事において海面下47mに設置するニューマチックケーソンの施工中に軟弱地盤で発生した想定外
の沈下とその対応についてとりまとめたものである.
キーワード 横浜臨港道路,ニューマチックケーソン,無人化施工,沈下対策
1. 本事業の目的
本事業は,横浜港においてコンテナターミナルが集積
する南本牧ふ頭と本牧ふ頭及び大黒ふ頭を臨港道路で連
絡し,各ふ頭間でのコンテナ輸送の効率化と南本牧ふ頭
と首都高湾岸線とを直結し,臨海部の交通ネットワーク
強化と大規模災害時等のアクセル道路の多重化を図るこ
とを目的として2016年度の供用を目指し,鋭意施工中で
ある.(図-1)
〔延長〕総延長6.2km(うち2.7kmを整備中)
〔構造〕整備中の2.7kmのうち,両端部は既存道路へ接
続,背後高速道路へ接続するため陸上部は高
架橋方式,南本牧と本牧間の海上部は橋梁形
式
図-1 横浜港南本牧~本牧ふ頭臨港道路位置図
2. ニューマチックケーソン工法の概要
ニューマチックケーソン工法(図-2)とは,ケーソン
躯体下部に気密な作業室を設け,地下水圧に相当する圧
縮空気を送り込み地下水の進入を防ぎながら掘削・排土
を行い構造物を地下に設置させるものである.
この工法は,コップを逆さまにし水中に押し込んだ状
態で,空気の圧力によって躯体への水の進入を防ぐ原理
を応用したものである.(図-2)
図-2 ニューマチックケーソン工法
本工法の特徴としては以下の5点があげられる.
①土留めを必要とせず,沈下させたケーソン躯体がその
まま基礎構造物となる.
②ケーソン躯体の構築を地上で行うため,良好な品質が
確保することが出来る.
③分割施工する躯体毎の施工プロセスが一定しているた
本工事施工区域
め,工程を確実に把握することが可能.
④作業室の気圧を地下水圧に合わせるため,地下水位の
低下もなく周辺の地盤を乱すことなく施工が出来る.
⑤あらゆる土質に対応できるため,地中の障害物も撤去
することが出来る.
3. 遠隔操作作業による無人掘削機の作業概要
本工法は,海面下47mまで掘削し橋脚基礎を建設する
ため高圧下での掘削作業である.このため有人掘削作業
での1パーティあたり作業時間が約2時間程度と極めて短
時間となる.この課題を解決するため無人掘削機による
施工法を採用した.(図-3)
図-3 無人掘削機による施工状況
無人掘削機による遠隔操作は,ケーソン躯体下部に設
置したカメラや掘削中におけるケーソン駆体の傾斜・沈
下及び函内気圧,刃口反力を管理する監視システムを使
用し,施工時のケーソン挙動を監視しながら作業を行う.
駆体下面に設置したカメラは,360度が監視でき掘削状
況の均一性や掘削土の土質性状を把握することができた.
(図-4)
図-4 函内カメラ
これにより高圧下での作業の安全性の向上と掘削作業
の効率化が図れ,さらに不測の事態にも適切な対応が可
能となる.
4. 軟弱地盤及び不均一な地盤への対応
本橋の橋脚基礎3基はニューマチックケーソンを採
用しているが,軟弱地盤による急激沈下が発生した箇所
はⅥP2だけであった.ⅥP2基礎は,海底面が約-20mでニ
ューマチックケーソンの掘削長が27mであった.施工位
置の地盤は,As2層(N値0~10程度)が約10m,その下層に
Ac2層(N値0~2)が約6m存在していた.(図-5)
事前の土質調査結果では,Ac2層が均質な粘土質シル
ト層で三軸試験(UU試験)結果より求めた平均粘着力Cは
94KN/m2であった.
図-5 ボーリングデータ及び現地での採取データ
この土質試験結果を基にAs2及びAc2の軟弱地盤の急激
沈下や傾斜の発生が懸念されたため,過去の施工実績を
参考にケーソン下端部に重圧面積を大きくする付け刃口
を設置した.(図-6)
図-6 付け刃口 断面図
As2層下端までは,付け刃口の効果もあり概ね均等な
沈下・掘削状況であったが,As2層下端付近まで掘削を
進めた時点でケーソンの自重による急激な沈下やケーソ
ンの傾斜が発生した.
これを受け,掘削を一時中断し原因究明のため,掘
削面より1m程度下がった位置から試料を採取し三軸試験
を行った結果,粘着力Cが約18KN/m2と事前調査結果と
比べ1/5程度に低下していることが判明した.この原因
としては,①事前調査で試料採取を行っていない中間部
分に超軟弱な粘性土が存在②軟弱なAc2層の上層にある
As2層を掘削したことによる上載圧の減少による影響が
想定されたが原因を特性することはできなかった.
この急激な沈下や傾斜に対する対応策を受注者と検
討した結果,①付け刃口の更なる増加②無人掘削から有
人工法への切替③軟弱層への地盤改良工法の3案の工法
を施工性,安全性,経済性などで比較検討した結果,重
圧面積を増加させる付け刃口工法で対応することにした.
付け刃口の増強は傾斜が大きいA~Dの方向に追加するこ
とにした.(図-7)
付け刃口を追加するには,刃口の下端を掘削する必
要があるが,掘削中に沈下や傾斜が加速する可能性があ
ったため木製受け架台(サンドル)を設置した.(図-8)
この作業を行うには,有人作業(図-9)が部分的に発生
するため,作業時間の管理を行いつつ(作業時間2時間
減圧4時間 3パーティにて作業),監視システムによる
沈下速度,傾斜など内部の情報を詳細に確認しながら対
応した.さらに急激な沈下を防ぐため掘削空間の内部気
圧を増加(0.31MPa→0.35~0.36MPa)させた.
その後,図-7に示す付け刃口を追加し,掘削・沈下作
業を再開したが自重による更なる沈下や大きな傾斜は発
生せず,施工を継続することができた.
これら予定外に発生した作業においては,作業者の
目視・感覚だけでなく,監視システムを活用したバック
アップで沈下速度,ケーソンの傾斜角,ケーソン内圧の
管理及び刃口の反力をリアルタイムで確認しながらケー
ソン内での掘削場所を選定して進めていった.また作業
の安全性を確保するためにも有効であった.
図-7 付け刃付けの追加設置箇所
5. 考察として
○軟弱地盤層への施工対策として,重圧面積の増強
は一般的だが大きすぎるとプレロード計画に影響し沈下
管理が困難となるため,そのバランス設定が重要となる.
今回は,事前の土質調査結果と過去の施工経緯を参考に
設定したが,Ac2層の粘着力Cが想定以上に小さく急激
な沈下が発生した.
○ニューマチックケーソン工法を海域で採用する場合,
無人での掘削の方が作業員の安全確保及び高圧下の作業
による時間の制約から効率的であると考えられる.
その場合における,リアルタイムの‘無言の情報’
を元に管理することとなることから適切な監視体制,
2.0m
0.5m
H-250H-100刃 口
掘残し幅
地盤接地拡幅
1.0m刃口
貫入高
付け刃口
付け刃口追加設置(H-200)
傾斜方向
図-8 木製受け架台(サンドル構造図及び配置図)
システムの設定・構築を行うことが非常に重要である.
発注者側も,このシステムを活用することで,合理的
かつ確実な監督を実施できた.
○今回の対策は,傾斜方向に3基の付け刃口を追加と気
圧の増加により沈下及び傾斜を抑制した.
この際に,監視システムを用いて沈下速度,傾斜角度,
ケーソン内部の内圧などをリアルタイムで挙動を確認し
ながら掘削箇所の選定及び掘削量など適切に管理するこ
とで所定の深度にケーソンを設置することができた.
反省点としては,事前調査段階で三軸試験をAc2層の
中間地点で実施していれば,今回の事態への対応が事前
にとれた可能性がある.
6. 終わりに
本工事では直接目視が出来ない施工方法を用いる場合,
事前に受注者と発注者の間でお互いの立場や実施すべき
内容を尊重しあった調整が必要であり重要であったと考
えられる.
無人化施工であったAc2層沈下掘削の施工法変更にお
いては,受注者と発注者とも現地を目視できない状態で
迅速に対応しなければならなかった.函内の監視システ
ムを駆使し安全管理を万全に行った上で,有人作業に切
り替えるタイミングを状況の変化を常に連絡を取り合い
ながら高気圧作業を進めていった.
また当初の想定より軟弱な層が存在したことにより,
過剰な沈下傾向が見られ工事の継続や危険も高まったが,
受注者と綿密に打合せを重ね対策方法を検討した結果,
沈下及び傾斜の傾向も抑えられる事に成功し無事に工事
を完成させた.
軟弱地盤が存在する海上でのニューマチックケーソン
工法は事例が少ないが今回発生した事象や解決策が他工
事の参考となれば幸いである.
図-9 有人作業状況及び木製受け架台