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小学校における走り幅跳びの指導法に関する事例的研究 -めあて図の作成とその有効性について一 高田俊也*原俊一**高橋秀知*** (平成8年12月10日受理) はじめに 小学校学習指導要領に,自ら学ぶ意欲と社会の変化に 主体的に対応できる能力の育成を図るために「個性を生 かす教育」が標模されて久しい.この目標において教育 現場では,日々,学習指導を模索している. しかし実情は,個に応じた学習指導のための効果的な 方法を求めることは,手探りであることが少なくない. これは走り幅跳びの学習においても同様で,学習指導に 役立てるための,使いやすく,目標記録を決めるのに有 効な資料は少なく,自らが意欲的に記録を伸長すること を困難にしていることが多い. そこで,このような悩みを解消するために,走り幅跳 びで個に応じた学習指導に役立てる方法を作成する必要 がある.子どもが,その能力に適した課題を持つことが 出来るように教師が支援してやらなければならず,その 一つとして容易に個々人の到達すべき目標を設定できる 方法がある.すなわち,横軸に短距離走のタイム,縦軸 に走り幅跳びの距離をとり,回帰直線によって,短距離 走の記録から, 「あなたは,これくらい跳べるはずです.」 と走り幅跳びの距離のめあてを指し示す図(以後, 「走 り幅跳びめあて図」)などである. 子どもが主体的に走り幅跳びの学習に取り組むには, 自分の能力を知る具体的な資料が必要であり,教師にとっ ては個々人に応じて指導の行える具体的な資料が必要で ある.したがって,この「走り幅跳びめあて図」は,千 ども自らが目標記録を設け,自己評価しながら記録に挑 戦するのに大いに役立ち,また教師においては,個に応 じた指導に役立てていくうえでは非常に有効な手段であ ると考えられる. この「走り幅跳びめあて図」の先行研究においては, 計算式により目標記録を設定する方法,西崎13)が作成し た「立ち幅跳びからのめやす表」, 50m走から基準値を 設けた品田・岡野22)23)の「走幅跳-50m走相関図,回帰 直線」, 「501走一走り幅跳びめやす表10段階」 121そ れを基に5段階評価した高橋Z4'の「50米走と走り幅跳び 相関と回帰直線(4年生)」,踏切手前の助走スピードと 跳躍距離の関係から診断した亀井・梅野5'の「走り幅跳 び診断表」,油野・西尾1'の「50mタイムからの走り幅 跳びの目標値」など,様々な研究がなされている.しか しそれぞれの方法は,目標値決定の運動形態が実際とは 符合していないこと,設定された目標値が運動の準備局 面から主局面への移行に関わったもののため困難を伴う こと,目標値設定の基準が低いため容易に到達できる目 標設定になること,逆に目標値設定の基準が高いため目 標到達が困難になること,目標値算出のために困難が伴 うなどの問題点があると考えられる. そこで本研究では,先行的に取り組まれた様々な方法 の問題点を考慮し,それぞれの方法の手続きは踏襲した 上で,新たに「走り幅跳びめあて図」を作成する.特に, 目標値設定の基準に関わる問題点を重視し,作成するこ ととした.また,この作成された「走り幅跳びめあて図」 を用い授業実践を行い,この方法の有効性にも検討を加 える. A. 「走り幅跳びめあて図」の作成 I研究の方法 1.対象 姫路市内57校, 1学級以上は2学級分,それ以外は1 学級分の計6年生男子1,287名,女子1,261名, 5年生 子1,329名,女子1,144名の合計5,001名のスポーツテ トの結果を対象とした. 2.期日 平成6年4月下旬~6月上旬 3.結果の処理 結果の処理は,パーソナルコンピュータを用い,所定 の計算プログラムによる回帰評価法を使用し,集計した. I結果と考察 走り幅跳びは,助走スピードを生かして"より遠くへ 跳ぶ"ことを競い合う運動である.そのことからすれば 短距離走と跳躍距離とは相関が高いことが容易に推定で き,しかも簡便さという点では,教育現場で広く一般的 に計測されている50m走のタイムを短距離走の能力の指 標とするのがもっとも適切である.そこで,剛青方程式 を用いた品田・岡野21)による「走り幅跳びめやす表」の 作成法を参考にして,スポーツテストにおける50m走と *兵庫教育大学学校教育学部第5部(生活・健康系教育講座 * *姫路市立荒川小学校* * *姫路市立野里小学校 -75-

小学校における走り幅跳びの指導法に関する事例的 …repository.hyogo-u.ac.jp/dspace/bitstream/10132/673/1/AN...小学校における走り幅跳びの指導法に関する事例的研究-めあて図の作成とその有効性について一

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小学校における走り幅跳びの指導法に関する事例的研究

-めあて図の作成とその有効性について一

高田俊也*原俊一**高橋秀知***

(平成8年12月10日受理)

はじめに

小学校学習指導要領に,自ら学ぶ意欲と社会の変化に

主体的に対応できる能力の育成を図るために「個性を生

かす教育」が標模されて久しい.この目標において教育

現場では,日々,学習指導を模索している.

しかし実情は,個に応じた学習指導のための効果的な

方法を求めることは,手探りであることが少なくない.

これは走り幅跳びの学習においても同様で,学習指導に

役立てるための,使いやすく,目標記録を決めるのに有

効な資料は少なく,自らが意欲的に記録を伸長すること

を困難にしていることが多い.

そこで,このような悩みを解消するために,走り幅跳

びで個に応じた学習指導に役立てる方法を作成する必要

がある.子どもが,その能力に適した課題を持つことが

出来るように教師が支援してやらなければならず,その

一つとして容易に個々人の到達すべき目標を設定できる

方法がある.すなわち,横軸に短距離走のタイム,縦軸

に走り幅跳びの距離をとり,回帰直線によって,短距離

走の記録から, 「あなたは,これくらい跳べるはずです.」

と走り幅跳びの距離のめあてを指し示す図(以後, 「走

り幅跳びめあて図」)などである.

子どもが主体的に走り幅跳びの学習に取り組むには,

自分の能力を知る具体的な資料が必要であり,教師にとっ

ては個々人に応じて指導の行える具体的な資料が必要で

ある.したがって,この「走り幅跳びめあて図」は,千

ども自らが目標記録を設け,自己評価しながら記録に挑

戦するのに大いに役立ち,また教師においては,個に応

じた指導に役立てていくうえでは非常に有効な手段であ

ると考えられる.

この「走り幅跳びめあて図」の先行研究においては,

計算式により目標記録を設定する方法,西崎13)が作成し

た「立ち幅跳びからのめやす表」, 50m走から基準値を

設けた品田・岡野22)23)の「走幅跳-50m走相関図,回帰

直線」, 「501走一走り幅跳びめやす表10段階」 121そ

れを基に5段階評価した高橋Z4'の「50米走と走り幅跳び

相関と回帰直線(4年生)」,踏切手前の助走スピードと

跳躍距離の関係から診断した亀井・梅野5'の「走り幅跳

び診断表」,油野・西尾1'の「50mタイムからの走り幅

跳びの目標値」など,様々な研究がなされている.しか

しそれぞれの方法は,目標値決定の運動形態が実際とは

符合していないこと,設定された目標値が運動の準備局

面から主局面への移行に関わったもののため困難を伴う

こと,目標値設定の基準が低いため容易に到達できる目

標設定になること,逆に目標値設定の基準が高いため目

標到達が困難になること,目標値算出のために困難が伴

うなどの問題点があると考えられる.

そこで本研究では,先行的に取り組まれた様々な方法

の問題点を考慮し,それぞれの方法の手続きは踏襲した

上で,新たに「走り幅跳びめあて図」を作成する.特に,

目標値設定の基準に関わる問題点を重視し,作成するこ

ととした.また,この作成された「走り幅跳びめあて図」

を用い授業実践を行い,この方法の有効性にも検討を加

える.

A. 「走り幅跳びめあて図」の作成

I研究の方法

1.対象

姫路市内57校, 1学級以上は2学級分,それ以外は1

学級分の計6年生男子1,287名,女子1,261名, 5年生男

子1,329名,女子1,144名の合計5,001名のスポーツテス

トの結果を対象とした.

2.期日

平成6年4月下旬~6月上旬

3.結果の処理

結果の処理は,パーソナルコンピュータを用い,所定

の計算プログラムによる回帰評価法を使用し,集計した.

I結果と考察

走り幅跳びは,助走スピードを生かして"より遠くへ

跳ぶ"ことを競い合う運動である.そのことからすれば

短距離走と跳躍距離とは相関が高いことが容易に推定で

き,しかも簡便さという点では,教育現場で広く一般的

に計測されている50m走のタイムを短距離走の能力の指

標とするのがもっとも適切である.そこで,剛青方程式

を用いた品田・岡野21)による「走り幅跳びめやす表」の

作成法を参考にして,スポーツテストにおける50m走と

*兵庫教育大学学校教育学部第5部(生活・健康系教育講座

* *姫路市立荒川小学校* * *姫路市立野里小学校

-75-

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走り幅跳びの記録から子どもにとっても指導者にとって

も見てわかりやすく使いやすい「走り幅跳びめあて図」

の作成を試みた.

本来,対象とするデータは文部省のスポーツテスト結

果の使用が考えられるが,これは平均値と標準偏差が示

されてだけで, 50m走と走り幅跳びの記録とのそれぞれ

の対応関係が不明である.また,表1に示したように利

用したい地域との差が著しことから,目標値設定の基

準に関わる問題点を踏まえれば,姫路市で調査・測定し

た記録を対象とすることが妥当であると考え,分析を試

みた.

また,先にも述べたように走り幅跳びの跳躍距離は,

疾走能力が大きく影響するが,疾走能力には,走り幅跳

びの学習を始める時点で既に子ども個々人に大きな差が

あるため,跳躍距離のみの追求は,学習意欲を失わせる

ことになりかねない.そこで個々の疾走能力に対応した

表1スポーツテストの結果による50m走(秒)と走り幅跳び(cm)の記録

対象数平均(標準偏萄 平均(標準偏差)

全体姫路市5,070 9.27(0.74) 275.85(42.46)全体男子姫路市2,561 9.13(0.76) 293.94(38.86)

女子姫路市2,509 9.42(0.68) 257.38(40.馴)

6年

全体姫路市男子姫路市

全国女子姫路市

全国

2,51 1 9.12(0.72)

1 ,268 8.95(0.71 )

998 8.69(0.70)

1 ,243 9.30(0.70)

997 8.99(0.67)

286.22(42.36)

306.40(36.99)

322.33(42.13)

265.63(40.72)

288.03(40.42)

全体姫路市2,559

5年男子姫路市

全国女子姫路市

全国

1 ,293

985

1 ,266

992

9.42(0.72)

9.30(0.76)

9.03(0.69)

9.54(0.65)

9.28(0.64)

265.67(40.99)

281.72(38.36)

300.75(28.69)

249.29(38.09)

272.73(37.91 )

表2全体,性別,学年別の回帰方程式

回帰方程式

Y-<ry÷crxX r X(X一文)+守

Y-走り幅跳びのめやす(個人)

a x-50m走の標準偏差(全体)

q y-走り幅跳びの標準偏差(全体)

「-走り幅跳びと50m走の相関係数(全体)

X-50m走の個人の記録(個人)

又-50m走の平均(全体)

▽-走り幅跳びの平均(全体)

全体Y=-41.817X+663.644

男子Y=-39.969X+658.702

‾k=f- Y=-36.358X+600.034

5年Y=-36.074X十605.505

5年男子Y=-34.077X+598.603

5年女子Y=-31.946X+554.187

6年Y=-45.266X+699.227

6年男子Y=-43.159X+692.665

6年女子Y=-38.368X+622.529

r2=0.429

r2=0.471

r2=0.341

r2=0.351

r2=0.389

r2=0.274

「2=0.468

r2=0.507

r2=0.371

r2-走り幅跳びの記鍬全体)の分散の中で50m走の記銀(全体)に依存する指数(決定係数)で直線回帰への適合度を示すもの

-76-

跳躍距離によって目標設定されることが望

ましく,そのためその関係を明確にできる

直線回帰による方法を用いた.

全体,学年別,性別の走り幅跳びの50m

走に対する回帰方程式は,表2に示した通

りである.

結果,全体の決定係数をみてみるとr2

-0.429により,走り幅跳びの跳躍距離は50

m走の記録が約43%影響していることがわ

かる.したがってそれ以外の跳躍距離に影

響を与える要因としては,踏切動作や着地

動作などがあると考えられる.回帰係数を

順にみてみると,絶対値は, 6年男子が

-43.16で最も大きく,次に6年女子, 5

年男子で5年女子が-31.95で最も小さかっ

た.また,性別においては,男子の値が女

子よりも大きく,学年別では, 6年生が5

年生より大きな値を示した.

回帰係数が大きいということは,助走ス

ピードを効果的に活かしているということ

であり,跳躍距離に多いに貢献しているこ

とが予想される.したがって,学年が進む

につれてその能力は高くなり,また,性別

においても男子の方が女子よりも高いと言

える.

以上のことからすれば,指導する子ども

のレディネスに応じて基準にする回帰直線

は選択することが望ましいことが容易に理

解できる.

次に,算出された回帰方程式より剛帝直

線を示した(図1).

さらに,求められた回帰直線(図1)を

概念的,視覚的に理解することを可能にす

るために回帰直線を右上がりにするため

にⅩ軸を逆転させた.すなわち, 50m走が

記録が小さくなる(速くなる)につれてそ

の能力が高まるということと走り幅跳びの

記録は大きくなるにつれて能力が高まると

いうこと,この両者の関係を示すために正

の方向-の伸展を図った.

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cm)

走り幅跳びの記録

250

100

300

10 ll 12

50m走の記録

図1全体.性別,学年別の回帰直線

1 3 14(秒)

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5

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實¥

2.0 ll.0 10.0

50m走記録(珍)

図2走り幅跳びのめあて図(対象:全体)

-77-

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この結果をもとに,図2に示すような「走り幅跳びめ

あて図」を作成した.

この図の作成方法として,個々人のねらう「めあて」

を明確にし,さらに個に応じて設定できることが重要で

あるため,一般には基準となる回帰直線に対し一定の幅

によるめあての段階を設定する.多くは,対象の標準偏

差による5段階の設定が用いられるが,これでは段階の

幅が大きくなるため,個に応じての設定に雑感を受ける.

そこで各対象の0.5SDの幅による10段階の設定での「走

り幅跳びめあて図」を作成し,記録の伸長に併せ順に1

-10点の得点で表示した(図2).また,子どもにわか

りやすく興味を持たせるために, 50m走の記録は0.1秒

毎に,走り幅跳びの跳躍距離は10cm毎に目盛りを表示し

た.くわえて,作成された「走り幅跳びめあて図」を用

い,付表1に例示したような学習カードも併せて作成し>.

Ⅱ作成のまとめと課題

この「走り幅跳びめあて図」の特徴は, 50m走の記録

と走り幅跳びの跳躍距離の関係を回帰直線によって示す

ことにより,一人一人のめあてを把握しやすくしている.

また,得点化することによりめあて達成の評価がしやす

く,走力の同じ者同士が競争するのはもとより違う者同

士も競争をしたり,グループごとの競争をも可能にして

いる.特に図式化したことにより,自己の「めあて」が

一目でわかることが大きな特徴である,

学年や性によって,回帰直線の傾きや標準偏差が異なっ

ているのでそれぞれの「走り幅跳びめあて図」での得点

の幅が多少異なっている.したがって,子どもの実態や

目的に合わせてそれらを使い分けることが望ましいと考

えられる.

子どもの跳躍距離に対する認識過程を分析すれば,

「今の自己の能力を知る」 - 「めあてを決める」 - 「め

あて達成に向けて学習する」 - 「自己評価する」 - 「新

たにめあてを決める」というサイクルが考えられる.そ

のことからすれば「走り幅跳びめあて図」は,ある程度,

子ども自身のめあてを決める資料として役立ちそして学

習意欲を起こさせる自己評価基準となり得るはずである.

今回作成した「走り幅跳びめあて図」を実際の授業に

適用し,個を生かしながら集団を高めるための望ましい

学習過程を形成することが課題である.

B. 「走り幅跳びめあて図」の有効性

I研究の方法

1.対象

姫路市内のA校1学級の6年生男子14名,女子19名に

対して実践した1単元, 7授業を対象とした.

2.期日平成6年10月中旬-11月初旬

3.調査・測定項目およびその方法

①総括的授業評価を実施し,単元を通して「走り幅跳

びめあて図」を使用したことが学習成果にどのような影

響を与えたか把握した.

②毎授業後に形成的授業評価を実施し, 「走り幅跳び

めあて図」の使用がその授業における学習成果にどのよ

うな影響を与えたか把握した.

なお,回答形式として,両授業評価とも簡便法による3

段階評定法を用いた.また,調査用紙と項目に対応した

項目名は付表2に示した.

③毎授業の走り幅跳びの跳躍距離を実測により測定した.

4.結果の処理

結果の処理は,パーソナルコンピュータを用いて所定

の計算プログラムを使用し,集計した.

Ⅱ結果と考察

作成された「走り幅跳びめあて図」を利用することに

よる学習効果は,子どもにどのような影響を与えるのか

を検討することでこの方法の具体的妥当性を検証するこ

とができると考え,表3に示す学習過程を設定し授業を

実践した.

この学習過程では,個に応じた指導を前提にした個人

的スポーツである走り幅跳びを「走り幅跳びめあて図」

により跳躍距柾を得点化し,グループでの学習を中心的

に子ども同士の教え合いや個々人の記録の向上をねらい

としたそこで技能獲得の成否,すなわち跳躍距離の伸

長が子どもの心情面に大きく影響すると考え,技能の高

い子どもと低い子どもを中心に分析した.すなわち,担

当する教師によって主観的に体育全般にわたる技能面か

ら上位群,下位群に分けて,それぞれの授業に対する評

価を用い,跳躍距離の伸長の如何によって学習意欲など

の心情面にどのように影響しているのかを分析した.

この実践では学年別,性別の6年生男子用, 6年生女

子用の「走り幅跳びめあて図」をそれぞれ用いた(図3,

M41.

実践された授業の技能レベル別の単元を通しての走り

幅跳びの跳躍距離の推移は表4に示した.また,技能レ

ベル別の単元前後の総括的授業評価の結果は表5 ,技能

レベル別の単元を通しての形成的授業評価の推移は,表

6に示した.

単元を通しての走り幅跳びの跳躍距離の推移をみてみ

ると,下位群では単元の中程の3回目にやや伸びが停滞

するが,試しの記録より授業終了時の7回目では跳躍距

離に約50cmの向上がみられた.上位群においては, 3回

目, 5回目に若干の跳躍距離の低下がみられるが,単元

を通しては下位群ほどではないが約20cmの向上がみられJ-

つぎに単元前後の総括的授業評価についてみてみると,

-78-

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表3 「走り幅跳びめあて図」を用いた学習過程

学 習 過 程

単 元 の 目標

〇 日標記錨 を設 け、自己評価 しなが ら記事剥こ挑戦 して楽 しむO

○ 課題 を見 つ け、仲 間 と協 力 して練習方 法 を工夫 しなが ら解決 する0

○助 走 スピー ドを生 か して "よ り遠 くへ跳ぶ" ことが できる0

指 導 計 画 ( 7 時 間 )

学習 過程 主 な学習活動 と 【共通課 題】

1

オリエンテーション 【学習計画を立てる1 【めあてを決める】

走り幅跳びの計測の仕方を知り、試しの記録を計測する

か 「走り幅跳びめあて図」を便つて自己の得点を知る

む 自己評価をし、目標記録を設ける

プルl プ内の合計得点を計算する

2

課題を見つけ、プルI プ毎に練習方法を話し合いながら解決する

跳び箱の上から、両足 l片足踏み切りで着地練習をする

3

4

5

短助走 ( 5 ‾10 m ) で踏み切り板を使って着地練習をする

短助走でミニハI ドルを使って踏み切り横習をするか

め中助廷 (10‾15 m ) で踏み切り練習をする

る 全助走 (10‾15 m ) で助走糠習をする。 自分にあった助走距雛を見つける

【助走スピー ドを生かして "より遠くへ跳ぶ" 7

毎時間の終わりに跳経距難を計測する0 各自の得点を判定する

グループ内の合計得点を計算してグルl プ競争する

6

7

記録挑戦会 (前半) をする 【自己最高記錨に挑戦する】

自己の課題にあった練習方法を選択して練習をする

3 回の統技を行い最高記綿を判定する

る記事紺t戦会 (後半 ) をする 【学習のまとめをする】

自己の課題にあった稚習方法を選択 して練習をする

合計6 回のうちの最高記録の得点を判定する

9

旺l-

1 ' I i -

14.0 13.0 2.0 ll.0 10.0

50m走記‡蔓(秒)

図3走り幅跳びめあて図(対象:6年生男子)

-79-

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走り幅跳び記錦C

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4.0 13.0 12.0 ll.0 10.050m走記錨(秒)

図4走り幅跳びめあて図(対象:6年生女子)

因子項目『たのしむ』 『まなぶ』 『できる』においては単

元前,単元後ともにその得点自体はさほど高くはないが,

上位群,下位群の全ての群にノどの得点に高まりが認め

られた.因子項目『まもる』は単元前,単元後ともに高

値で推移し,下位群のノどの得点は若干の高まりを示し-A.

因子項目の中のそれぞれの項目をみると,因子項目

『たのしむ』においては,項目「Q2心理的充足」と

「Q17精一杯の運動」が両群においてそのノビは大き

かった.項目の得点は単元後の得点で上位群だけが高値

で,そのばらつきも小さくなっていた.しかし,項目

「Q7楽しく勉強」 「Qll明るい雰囲気」では,両群に

おいて項目の得点もさほど高くなく,そのノどの得点に

は上位群,下位群ともに低下がみられた.

因子項目『まなぶ』においては,単元前後ともにその

得点自体はさほど高くはないが「Q12友人・先生の励

まし」を除き,上位群,下位群の両群にノどの得点の向

上が認められた.特に,上位群の「Q8めあてを持つ」

は単元前の得点は低値であったがそのノどの得点は極

めて高い値を示していた.くわえて, 「Q5他人を参考」

は上位群で単元後の得点が高値を示し,そのばらつき

も小さく,そのノどの得点も向上していた

『できる』の因子項目では,項目「Q6いろんな運

動の上達」 「Q9運動の有能感」 「QIO自発的運動」 「Q15

授業前の気持ち」では,下位群においては項目の得点は

極めて低く,上位群においても項目の得点はさほど高く

はないが,ノどの得点の向上が認められた. 「Q19でき

る自信」は下位群においては項目の得点もさほど高くな

いにも関わらず,ノどの得点に低下がみられた.

因子項目『まもる』では,単元前後ともに全ての項目

において高値で推移したが,上位群では「Q4自分勝

手」 「Q14勝つための手段」でノどの得点の低下がみら

れた.また下位群では, 「Q4自分勝手」 「Q14勝つた

めの手段」 「Q18約束ごとを守る」でノどの得点の向

上がみられ, 「Q20先生の話を聞く」ではノどの得点に

低下がみられた.

以上の跳躍距離と総括的授業評価の結果から,上位群

について考察してみると,すでに跳躍距離として上限に

近い上位群は,単元の中ほどにおいても跳躍距離の伸び

悩みがみられているにも関わらず,項目「Q2心理的充

足」や「Q17精一杯の運動」にノビがみられしかも高

値で個人差の小さいものであった.これは,技能の高い

子どもみんながなんとか跳躍距離を伸ばそう,なんとか

跳躍距離による得点を高めようとして一生懸命に活動し

-80-

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表 4 技 能 レベ ル 別 の 単 元 を通 し て の 走 り幅 跳 び の 跳 躍 距 離 の 推 移

技 能 レベ ル 5 0 m

記銀(珍)

走 り幅 跳 び 跳 躍 距 離 (m )

試 し 1回 目 2 回 目 3 回 目 4 回 目 5 回 目 6 回 目 7 回 目

上位 群 平均 8 .18 3 3 9 .0 0 3 4 3 .l l 3 4 4 .6 7 3 3 8 .7 8 3 5 0 .2 2 3 4 9 .7 8 3 5 9 .6 7 3 5 4 .4 4

標準偏差 0 .4 0 4 1 .0 0 3 9 .9 9 2 5 .9 9 3 3 .8 8 3 3 .3 0 3 0 .0 9 2 7 .7 6 3 6 .5 9

下位 群 平均 9 .0 8 2 4 7 .0 0 2 6 3 .2 5 2 6 7 .8 8 2 6 8 .5 0 2 7 9 .5 0 2 8 7 .8 6 2 9 3 .2 5 2 9 7 .6 3

標準偏差 0 .4 6 2 3 .7 6 4 2 .0 9 3 6 .3 8 3 4 .1 0 3 7 .8 6 1 8 .8 5 2 4 .2 0 2 2 .8 0

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表6技能レベル別の単元を通しての形成的授業評価の推移1 回 目 2 回 E] 3 回 目 4 回 目 5 回 目 6 0 1 7 回 員

平均 標準偏差 平 均 標準偏差 平均 標準偏差 平均 標準備 差 平 均 標 準偏 差 平均 標 準偏差 平均 標準偏差

Q 1 楽 しか っ た で す か上 位 群 3 .0 0 0 0 .0 0 0 3 .0 0 0 0 .0 0 0 2 .5 0 0 0 .7 5 6 ) 2 .7 5 0 0 .7 0 7 ) 2 .3 7 5 0 .9 1 6 2 .6 2 5 0 .7 4 4 3 .0 0 0 0 .0 0 0 )

下 2 .3 7 5 0 .7 4 4 2 .3 7 5 (0 .7 4 4 2 .3 7 5 0 .5 1 8 2 .8 5 7 0 .3 7 8 2 .7 5 0 0 .4 6 3 2 .7 5 0 0 .4 6 3 , 2 .6 2 5 (0 .5 1 8 :

Q 2 精 一 杯 全 力 をつ く して 運 動 で き ま した か上 位 群 2 .7 5 0 0 .4 6 3 ) 3 .0 0 0 0 .0 0 0 2 .6 2 5 0 ▼5 1 8 2 .7 5 0 (0 .4 6 3 2 .7 5 0 (0 .7 0 7 2 .6 2 5 0 .7 4 4 3 .0 0 0 0 .0 0 0 )

下 位 群 2 .7 5 0 0 .4 6 3 ] 2 .6 2 5 0 .5 1 8 2 .5 0 0 0 .5 3 5 3 .0 0 0 0 .0 0 0 2 .8 7 5 (0 .3 5 4 2 .8 7 5 0 .3 5 4 ) 2 .8 7 5 0 .3 5 4

0 3 今 日学 習 した こ と は 自分 に

ち ょ う ど 合 っ て い ま した か

上 位 群 2 .6 2 5 (0 .5 1 8 2 .8 5 7 0 .3 7 8 2 .7 5 0 0 .4 6 3 ) 2 .1 2 5 0 .9 9 1 2 .2 5 0 (0 .8 8 6 ; 2 .3 7 5 0 .9 1 6 ' 2 .7 5 0 0 .7 0 7 ,

下 位 群 2 .0 0 0 0 .7 5 6 2 .2 5 0 0 .7 0 7 ) 2 .2 5 0 0 .7 0 7 ) 2 .5 7 1 0 .5 3 5 ] 2 .5 0 0 0 .7 5 6 ; 2 .5 0 0 0 .5 3 5 2 .6 2 5 0 .7 4 4 ,

Q 4 深 く心 に残 る こ とや

感 動 す る こ とが あ り ま した か

上 位 群 2 .1 2 5 0 .6 4 1 2 .0 0 0 1 .0 0 0 1 .6 2 5 0 .9 1 6 2 .0 0 0 0 ▼9 2 6 1 .7 5 0 (0 .8 8 6 2 .2 5 0 0 .8 8 6 1 .8 7 5 0 .9 9 1

下 位 群 1 .6 2 5 0 .5 1 8 2 .0 0 0 (0 .9 2 6 2 .3 7 5 0 .5 1 8 2 .5 7 1 (0 .5 3 5 2 .1 2 5 0 .6 4 1 2 .2 5 0 0 .4 6 3 2 .0 0 0 0 .5 3 5 ,

0 5 今 ま で で き な か っ た こ と (運 動 や 作 戦 )が

で き る よ うに な り ま した か

上 位 群 2 .0 0 0 0 .9 2 6 2 .4 2 9 0 .7 8 7 1 .8 7 5 0 .9 9 1 2 .0 0 0 (0 .7 5 6 2 .2 5 0 (0 .8 8 6 ) 2 .2 5 0 1 .0 3 5 ) 2 .0 0 0 0 .9 2 6 .

下 位 群 1 .7 5 0 0 .7 0 7 2 .6 2 5 0 .5 1 8 2 .8 7 5 0 .3 5 4 2 .5 7 1 0 .5 3 5 2 .2 5 0 0 .7 0 7 2 .5 0 0 ( 0 .5 3 5 2 .5 0 0 0 .5 3 5 '

Q 6 「あ っ わ か っ た り と か 「あ っ そ う か 日 と

思 っ た こ と が あ り ま した か

上 位 群 2 .6 2 5 0 .5 1 8 ) 2 .5 7 1 0 .7 8 7 2 .2 5 0 (0 .8 8 6 2 .6 2 5 0 .5 1 8 2 .2 5 0 (0 .8 8 6 2 .1 2 5 ( 0 .9 9 1 ) 2 .3 7 5 0 .7 4 4 ,

下 位 群 2 .2 5 0 0 ー8 8 6 2 .7 5 0 0 .7 0 7 2 .2 5 0 0 .7 0 7 2 .4 2 9 (0 .5 3 5 2 .3 7 5 (0 .5 1 8 2 .6 2 5 ( 0 .5 1 8 2 .5 0 0 0 .5 3 5

Q 7 授 業 の 約 束 を き ち ん と守 れ ま した か上 位 群 3 .0 0 0 0 .0 0 0 3 .0 0 0 0 .0 0 0 3 .0 0 0 (0 .0 0 0 3 .0 0 0 (0 .0 0 0 ; 2 .7 5 0 (0 .7 0 7 ) 3 .0 0 0 0 .0 0 0 2 .8 7 5 0 .3 5 4

下 位 群 3 .0 0 0 (o .o o o ; 2 .6 2 5 0 .7 4 4 2 .8 7 5 0 .3 5 4 3 .0 0 0 0 .0 0 0 2 .7 5 0 (0 .7 0 7 2 .8 7 5 0 .3 5 4 3 .0 0 0 0 .0 0 0 ,

0 8 日 分 か ら進 ん で 学 習 で き ま した か上 位 群 3 .0 0 0 0 .0 0 0 ) 2 .8 5 7 0 .3 7 8 2 .8 7 5 0 .3 5 4 ) 2 .8 7 5 (0 .3 5 4 2 .8 7 5 (0 .3 5 4 ) 3 .0 0 0 0 .0 0 0 2 一8 7 5 0 .3 5 4

下 位 群 2 .3 7 5 (0 .7 4 4 2 .2 5 0 0 .7 0 7 2 .5 0 0 0 .7 5 6 ) 2 .8 5 7 0 .3 7 8 2 .8 7 5 0 .3 5 4 2 .6 2 5 0 .7 4 4 2 .8 7 5 (0 .3 5 4

Q 9 日 分 の め あ て に 向 つ て

何 回 も穣 習 で き ま した か

上 位 群 2 .7 5 0 0 .4 6 3 , 2 .5 7 1 (0 .7 8 7 2 .3 7 5 (0 .7 4 4 2 .8 7 5 0 .3 5 4 ; 2 .5 0 0 (0 .7 5 6 2 .7 5 0 0 .7 0 7 2 .7 5 0 0 .4 6 3 .

下 位 群 2 .6 2 5 (0 .5 1 8 ) 2 .1 2 5 0 .6 4 1 ) 2 .6 2 5 (0 .5 1 8 ) 2 .5 7 1 0 .5 3 5 3 .0 0 0 0 .0 0 0 , 2 .8 7 5 0 .3 5 4 3 .0 0 0 0 .0 0 0

Q 1 0 思 わ ず 拍 手 した り 「わ ー 」 と歓 声 を

上 げ た りす る こ と が あ り ま した か

上 位 群 2 .1 2 5 0 .9 9 1 1 .7 1 4 0 .9 5 1 1 .7 5 0 0 .7 0 7 2 .2 5 0 0 .8 8 6 1 .7 5 0 0 .7 0 7 ; 2 .2 5 0 0 .8 8 6 2 .3 7 5 (0 .7 4 4 ,

下 位 群 2 .0 0 0 (0 .9 2 6 2 .1 2 5 0 .6 4 1 2 .3 7 5 0 .5 1 8 2 .2 8 6 (0 .4 8 8 2 .3 7 5 (0 .5 1 8 2 .3 7 5 ( 0 .5 1 8 2 .3 7 5 0 .5 1 8

0 1 1 友 だ ち と お 互 い に 教 え た り

助 け た り しま した か

上 2 .7 5 0 0 .4 6 3 , 2 .5 7 1 (0 .7 8 7 2 .8 7 5 0 .3 5 4 2 .6 2 5 0 .7 4 4 2 .6 2 5 (0 .5 1 8 2 .8 7 5 0 .3 5 4 2 .7 5 0 0 .4 6 3 ,

下 位 群 1 .7 5 0 0 .7 0 7 2 .1 2 5 0 .3 5 4 2 .2 5 0 0 .7 0 7 2 .4 2 9 0 .5 3 5 2 .7 5 0 (0 .4 6 3 2 .8 7 5 0 .3 5 4 2 .8 7 5 0 .3 5 4 ,

Q 1 2 友 だ ち と協 力 し て

仲 良 く学 習 で き ま した か

上 位 群 2 .8 7 5 0 .3 5 4 2 .8 5 7 0 .3 7 8 2 .7 5 0 0 .4 6 3 1 3 .0 0 0 0 一0 0 0 2 .7 5 0 (0 .4 6 3 2 .8 7 5 ( 0 .3 5 4 3 .0 0 0 (0 .0 0 0

下 位 群 2 .2 5 0 0 .8 8 6 , 2 .6 2 5 0 .7 4 4 2 .7 5 0 0 .4 6 3 ) 2 .8 5 7 (0 .3 7 8 , 2 .8 7 5 (0 .3 5 4 2 .8 7 5 0 .3 5 4 2 .8 7 5 0 .3 5 4

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ていることから心理的な充足感を味わうことができてい

るようである.このことは, 「QIO自発的運動」が高まっ

ていることからも裏付けられ,自主的に学習に取り組ん

でいる様子が伺え,さらに「Q3工夫して勉強」 「Q5他

人を参考」が伸びていることや「Q8めあてを持つ」の

伸びが単元前より大幅に伸びていることからも跳躍距離

に伸び悩みがあってもなんとかして跳躍距離を伸ばそう

として積極的に活動に取り組んでいることが推察できる.

しかしこのような心理的状態にありながら,情意面の

中核となる「Q7楽しく勉強」 「Qll明るい雰囲気」の

項目が低下していることや社会的行動目標に関わる

「Q4自分勝手」 「Q14勝つための手段」が低下してい

ることについてはおそらくグループで跳躍距離の得点を

競う形態を取ったがために,しゃにむに得点を迫ったた

めグループの他の仲間にもそれを強要し,結果的にうま

く行かなかったことが少なくとも予想される.

次に下位群についてみてみると,跳躍距離は大幅に向

上しており,授業評価もほとんどの項目で伸び,中でも

学習意欲を顕すと考えられる「Q15授業前の気持ち」

は単元終了後には向上しており,それを裏付けるかのよ

うに「Q16時間外練習」が高まっている.これは,担

任教師の単元終了後の感想でも「下位群の子どもは跳躍

距離を何とか伸ばそうと休み時間や放課後も練習してい

た」と述べており,非常に意欲的であったことが推察で

きる.しかし,上位群と同様に「Q7楽し勉強」 「Qll

明るい雰囲気」の項目が低下していることや社会的行動

目標の「Q20先生の話を聞く」の低下,さらに跳躍距

離が大幅に伸びていたにも関わらず運動(技能)目標に

関わる因子項目『できる』の中の「Q19できる自信」

については低下がみられたこれは,先述の上位群での

原因の解釈に加え,グループ内での跳躍距離の得点の追

及が執掬になされ,下位群はそれに即座に答えることが

できずこれらの項目得点を低下させたと推察される.

そこで,技能レベル別の単元を通しての形成的授業評

価の推移をみてみると,上位群は跳躍距離の低下した授

莱(3回目, 5回冒)では, 「Ql楽しかったですか」

「Q4深く心に残ることや感動することがありましたか」

「Q6 「あっわかった!」とか「あっそうか!」と思った

ことがありましたか」 「Q9日分のめあてに向って何回

も練習できましたか」 「QIO思わず拍手したり「わー」

と歓声を上げたりすることがありましたか」 「Q12友だ

ちと協力して仲良く学習できましたか」に低下がみられ

た.また,跳躍距離の停滞した授業(2回目)でも同様

の項目に低い値を示した.しかし, 「Q8日分から進ん

で学習できましたか」 「Qll友だちとお互いに教えたり

助けたりしましたか」の項目は授業ごとの若干の揺れ動

きはあるものの一般に高値を示していた.

下位群の跳躍距離のあまり伸びなかった授業(2回目)

では, 「Q7授業の約束をきちんと守れましたか」 「Q8

日分から進んで学習できましたか」 「Q9日分のめあて

に向って何回も練習できましたか」が低下し,跳躍距離

の停滞した授業(3回目)では, 「Q2精一杯全力をつ

くして運動できましたか」「Q6 「あっわかった!」と

か「あっそうか!」と思ったことがありましたか」が低

値を示したこの跳躍距離の伸び悩みがみられた2つの

授業では,共通して「Q3今日学習したことは自分にちょ

うど合っていましたか」が低迷していた.また,跳躍距

離に停滞がみられる時には上位群に影響され,上位群の

跳躍距離の低下した授業(3回目, 5回目)では, 「Ql

楽しかったですか」 「Q4深く心に残ることや感動する

ことがありましたか」に低下がみられる.しかし, 「Qll

友だちとお互いに教えたり助けたりしましたか」 「Q12

友だちと協力して仲良く学習できましたか」は授業が進

むにつれて次第に高値を示すようになった.

以上のことからすれば,上位群,下位群ともに跳躍距

離やその得点の高低によって情意面に関わる楽しさや感

動は影響することがわかる.また,上位群の跳躍距離の

低下した時, 「Q12友だちと協力して仲良く学習できま

したか」に低下がみられたことは,跳躍距離の得点の追

及が執掬になされ結果的に楽しさに関わる項目の得点を

低下させたという先の記述を裏付けるものであると考え

られる.しかしながらこのような中にあってもこの授業

でねらった,友だちとの協力に関しては「Qll友だち

とお互いに教えたり助けたりしましたか」が絶えず向上

したことからもそのねらいを達成できたと考える.

Ⅱまとめと課題

以上の実践から,作成された「走り幅跳びめあて図」

を利用することによって,当初のグループでの学習を中

心的に子ども同士の教え合いや個々人の記録の向上させ

るというねらいは達成できたと考える.

また,子どもたちにとってこの「走り幅跳びめあて図」

によって容易にめあての設定が行え,学習意欲の減退を

生じさせない目標設定が可能であることがわかった.く

わえて,技能獲得の成否,すなわち跳躍距離の伸長が子

どもの心情面に大きく影響し,技能の高い子どもから低

い子どもへの影響は大きいものであることが推察された.

しかし,この技能の高い子どもから低い子どもへの影響

があまりにも大きすぎると,逆に学習意欲のみならず記

録の伸長にも影響するであろうことは容易に想定できる.

今後,この「走り幅跳びめあて図」を利用する影響,す

なわちグループでの子ども同士の教え合いという,授業

にとって効果的な利点を考慮しながら,グループごとの

競争ということに着目した学習指導について検討を加え

る必要がある.

-83-

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おわりに

実践を通して,この作成された「走り幅跳びめあて図」

は非常に有効な方法であることが理解できた.

しかし,方法としての有効性のみであり,この方法を

用いただけで走り幅跳びの実践が効果的に行われるわけ

ではない.また,指導する子どものレディネスに応じて

基準にする回帰直線は選択するこというまでもない.

この方法を用いながら,教師と子ども,子ども同士の

関わりを効果的に実践する必要がある.跳躍距離やその

得点だけでなく,それに関わって教え合いや協力という

社会性や人間性について子どもたちに伝えていく必要は

多分にある.今後,この方法を副次的に走り幅跳びの実

践を検討していく必要がある.

参考・引用文献

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3)青山昌二(1980)回帰直線.学校体育.日本体育社.

11月号

4)青山昌二(1980回帰直線による推定と評価.学校

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5)亀井靖夫・梅野圭史(1984)走り幅跳び(6年)辻

野昭・丹羽勧昭編著教育学研修講座10第4章

「スポーツと教育」の展開.第一法規出版

6)神尾正俊(1987)第4章跳躍関岡康雄編集

「陸上運動の方法」.道和書院

7)小林篤(1978)体育の授業研究.大修館書店

8)松田岩男・宇土正彦・杉山重利編集(1990)新しい

体育授業の展開総説編.大修館書店pp.164-165

9)三浦勇編(1987)若い教師のための体育指導の力

量を高めるアイデア.東洋館出版社pp.209

10)宮下充正・深代千之1991跳ぶ科学.大修館書店

ll)水野忠文(1981)体育における回帰評価法の活用.

体育の科学.日本体育学会.第31巻. 2月号pp.110

12)文部省小学校体育指導資料(1991)指導計画の作成

と学習指導.文部省. 4月

13)西崎文江1988)やさしい活動でみんなが楽しむ走

り幅跳びの授業.学校体育.日本体育社. 10月号

14)野田洋平・古藤高良(1971)陸上競技の指導に関す

る研究第Ⅴ報重回帰分析による走り幅跳びの要

素分析-その1 -.日本体育学会第23回大会発表資

料.日本体育学会

15)尾懸貢(1994)子どもには子どもの技術がある一走

り幅跳び-.学校体育.日本体育社. 6月号

16)岡野進(1992)走り幅跳び(小学校中学年).体育

科教育.大修館書店. 3月号

17)岡野進(1989)個性を生かす指導のポイント(走り

幅跳び).体育科教育.大修館書店. 2月号

18)岡野進(1988)個人差に応じた挑戦のめやすをどの

ように持たせたらよいか.体育科教育.大修館書店.

5月号

19)岡野進(1984)陸上運動(競技)の重点教材.体育

科教育.大修館書店. 3月号

20)岡野進・品田龍吉(1982)教科体育における走り幅

跳びの指導に関する研究(その4).日本体育学会第

32回大会発表資料.日本体育学会

21)品田龍書(1991陸上連動.体育科教育.大修館書

店. 3月号

22)品田青巨富・岡野進(1984)走り幅跳び-めやす表の

作成法.大修館書店

23)品田龍吉・岡野進(1980)教科体育における走り幅

跳びの指導に関する研究(その2).日本体育学会第

31回大会発表資料.日本体育学会

24)高橋健夫(1989)新しい体育の授業研究.大修館書

25)辻野昭(1994)バイオメカニクスの研究成果・方法

を体育の学習指導に生かす.学校体育.日本体育社.

4月号

26)宇土正彦(1981)体育学習評価ハンドブック.大修

館書店, Pp23-28

27)植屋清見1994)跳ぶ-小学校体育における走り幅

跳びの指導に関するバイオメカニクス-.学校体育.

日本体育社. 10月号

28)植屋清見(1993)陸上運動(競技).体育科教育.

大修館書店. 11月号

29)梅原賢治(1990) 4種のゲームを取り入れた練習法

の工夫-走り幅跳び-.学校体育.日本体育社. 4

月号

30)渡辺庸久・久保寺光明・加賀谷勲彦(1980)走り幅

跳びの助走スピードと跳躍距離との関係.日本体育

学会第31回大会発表資料.日本体育学会

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付表1 J走り幅跳びめあて図」による学習カード(例)全体

「走 り 幅 跳 び め あ て 図 」

¥ m xzrim m m m mm m mm m m m m mm m m mmm mm mm mm m mm mm m m mm mmm mmm mmm m m m m m ^ ^ i

400

35 0

雷300

幅跳び記250録cm

200

15 0

10 0

~ ~

.0

-

5i

-

~1 「-

ョw iw -i I

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1 iii¥r I 」1 I - ill ill

w ¥w4V I ll ill I

!5i - I8w

L

iiI

A

VM

14 .0 13.0 12 .0 11.0 「0 .0 9 .0 8 .0

50m走記録(秒)

( ) 早 ( ) 組 名 前

走り幅跳び 「めあて図」の使い方1 . はじめの記録測定 (5 0 m 走 .走り幅跳び) をおこなう02 . 5 0 m 走の記録 ( 秒) X 軸 2 つの交わる所に

走り幅跳びの記録 cm Y 軸 しるL をつけ3 . 交わるところが ( 点) になるか確かめる04 . 日標記銀を設定する cm;5 . 記録を計測するごとに記入する0

月 日 1回目 点 2回目 点 3回目 点 最高記銀 点

月 日 cm cm cm cm

月 日 cm cm cm cm

月 日 cm cm cm cm

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付表2調査用紙と項目に対応した項目名

体育の授業に関する調査<お願い>

この調査用紙には、体育の授業に関する文章が20項目あげてあります。

この文章を読んで、自分の考えにあてはまる場合は「はい」に○をつけて下さい。

あてはまらない場合には「いいえ」に○を、また、どちらともいえない場合には

「?」に○をつけて下さい。

( )年( )組( )春男・女名前(

1体育では、先生の話をきちんと聞いています

2体育で体を動かすと、とても気持ちがいいです

はい?いいλ

はい?いいえ

3体育をしている時、どうしたら運動がうまくできるかを考えながら勉強していますはい?いいえ

4体育では、いたずらや自分勝手なことはしませんはい?いいえ

5体育で運動するとき、自分のめあてを持って勉強しますはい?いいえ

6体育がはじまる前は、いつもはりきっていますはい?いいえ

7体育では、みんなが、楽しく勉強できますはい?いいえ

8体育をしている時、うまい子や強いチームを見てうまくできるやり方を考えることがありますはい?いいえ

9私は、運動が、上手にできるほうだと思います

10体育では、自分から進んで運動します

11体育は、明るくてあたたかい感じがします

12体育で習った連動を休み時間や放課後に練習することがあります

13体育をすると体がじょうぷになります

14体育で、ゲームや競争で勝っても負けてもすなおに古君めることができます

15体育では、いろいろな運動が上手にできるようになります

16体育では、友だちや先生がはげましてくれます

17体育では、せいいっぱい運動することができます

18体育では、クラスやグループの約束ごとを守ります

はい?いいえ

はい7いいえ

はい?いいえ

はいていいえ

はい?いいえ

はい?いいえ

はい?いいえ

はい?いいえ

はい?いいえ

はい?いいえ

19私は、少しむずかしい運動でも練習するとできるようになる自信がありますはい7いいえ

20体育で、ゲ-ムや競争をするときは、ルールを守ります はい?いいえ

項目名

レールを守る

夫して勉強

分勝手

也人を参考

\ろんな運動の上達

しく勉強

あてを持つ

動の有能感

発的運動

拘るい雰囲気

人・先生の励まし

夫なからだ

っための手段

受業前の気持ち

寺問外練習

iBSXS削Wi

束ごとを守る

きる自信

生の話を聞く

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A Case Study about a teaching method of LongJump in Elementary School

:About making of the Nomograph and the effectiveness

Toshiya TAKADA, Syuniti HARA, Hidetomo TAKAHASHI

ABSTRACT

The purpose of this study was making of the Nomograph in the first and was search of the

effectiveness in the second.

The subject in the first purpose was 57 school amounted to 5,001 0f the fifth grade and the sixth

grade of Himeji-City. The subject in the second purposes is 1 unit, 7 classes practiced in the sixth

grade boy 14 and girl 19 0f an elementary school of Himeji-City.

In the first purpose, the regression analysis was used for the making of the Nomograph.

The results were summarized as follows:

In the first purpose,

l)Nine regression lines that met each subject were provided.

2)The Nomograph divided regression line into 10 phases by width Of 0.5SD, and it was made.

In the second purposes,

l)The communication between children and the improvement of record of an individual person

became possible mainly on learning in a group by the Nomograph made.

2)Setting of aim was done easily, and the use of this Nomograph improved learning motivation

3)The Nomograph made understood that it was a very effective method, but needs to think about

teaching.

4)It must select regression line turned into a standard by the readieness of the child whom it is

taughtto.

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