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2 寒地土木研究所月報 №799 2019年12月 報 文 本研究では、落石防護擁壁の延長を現行設計で仮定している有効抵抗長と同様に擁壁高の4倍とした場合の耐衝 撃挙動を確認するため、重錘衝突実験を実施した。その結果、1)落石防護擁壁に明確な押抜きせん断破壊が発生 しなければ、落石対策便覧で仮定されている剛体的な運動となる、2)最大回転角は押抜きせん断破壊が発生しな ければ重錘衝突エネルギーが大きくなるほど増加する傾向にあり、実験値は便覧式を用いて算出した回転角より小 さくなる傾向にある、3)衝撃力は重錘衝突エネルギーの増加に対応して増加する傾向にあり、運動量保存則を適 用させる方法により評価可能である等を確認した。 《キーワード:落石防護擁壁;重錘衝突実験;耐衝撃挙動》 In this study, we conducted impact loading test in which the length of rock fall protection retaining wall was four times as long as the height. As a result, 1) the rock fall protection retaining wall has a rigid rotational motion when the punching shear failure does not occur, 2) the maximum rotation angle tends to increase as the impact energy increases, and experimental results tend to be smaller than calculated results. 3) the impact force increases as the impact energy increases, and can be evaluated by law of conservation of momentum. 《Keywords:Rock-Fall Protection Retaining Wall;Impact Loading Test ; Impact Resistant Behavior》 重錘衝突によるコンクリート製落石防護擁壁の耐衝撃挙動 Impact Resistant Behavior of Concrete Rock-Fall Protection Retaining Wall Under Impact Loading Test 山澤 文雄  今野 久志  寺澤 貴裕  中村 拓郎  葛西 聡 YAMASAWA Fumio, KONNO Hisashi, TERASAWA Takahiro, NAKAMURA Takuro and KASAI Satoshi

重錘衝突によるコンクリート製落石防護擁壁の耐衝 …《Keywords:Rock-Fall Protection Retaining Wall;Impact Loading Test ; Impact Resistant Behavior》 重錘衝突によるコンクリート製落石防護擁壁の耐衝撃挙動

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2 寒地土木研究所月報 №799 2019年12月

報 文

本研究では、落石防護擁壁の延長を現行設計で仮定している有効抵抗長と同様に擁壁高の4倍とした場合の耐衝撃挙動を確認するため、重錘衝突実験を実施した。その結果、1)落石防護擁壁に明確な押抜きせん断破壊が発生しなければ、落石対策便覧で仮定されている剛体的な運動となる、2)最大回転角は押抜きせん断破壊が発生しなければ重錘衝突エネルギーが大きくなるほど増加する傾向にあり、実験値は便覧式を用いて算出した回転角より小さくなる傾向にある、3)衝撃力は重錘衝突エネルギーの増加に対応して増加する傾向にあり、運動量保存則を適用させる方法により評価可能である等を確認した。

《キーワード:落石防護擁壁;重錘衝突実験;耐衝撃挙動》

In this study, we conducted impact loading test in which the length of rock fall protection retaining wall was four times as long as the height. As a result, 1) the rock fall protection retaining wall has a rigid rotational motion when the punching shear failure does not occur, 2) the maximum rotation angle tends to increase as the impact energy increases, and experimental results tend to be smaller than calculated results. 3) the impact force increases as the impact energy increases, and can be evaluated by law of conservation of momentum.

《Keywords:Rock-Fall Protection Retaining Wall;Impact Loading Test ; Impact Resistant Behavior》

重錘衝突によるコンクリート製落石防護擁壁の耐衝撃挙動

Impact Resistant Behavior of Concrete Rock-Fall Protection Retaining Wall Under Impact Loading Test

山澤 文雄  今野 久志  寺澤 貴裕  中村 拓郎  葛西 聡

YAMASAWA Fumio, KONNO Hisashi, TERASAWA Takahiro, NAKAMURA Takuro and KASAI Satoshi

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寒地土木研究所月報 №799 2019年12月 3

1.はじめに

我が国の海岸線や山岳部の道路沿いには、小規模落石等に対する道路防災施設として、コンクリート製落石防護擁壁(以下、擁壁)が数多く設置されている。

現在、擁壁の設計は、落石対策便覧1)(以下、便覧)に基づき、擁壁を弾性地盤に支持された剛体と仮定し、落石の衝突によって擁壁に伝達される運動エネルギーと基礎地盤の弾性応答エネルギーが等価となる水平変位および回転が生じるものとして実施されており、一般的には直接基礎による無筋コンクリート製の重力式擁壁が用いられている。しかし、落石の衝突に対する躯体の設計法は、便覧においては規定されるに至っていない状況であり、構造細目で示された配筋を用いることで、安全性が保たれるとされている。また、実際に落石の衝突によってコンクリートの剥離・剥落の損傷が発生している事例が確認されている。

本研究では、実証実験を実施することによって現行の擁壁の保有耐力と衝撃荷重に対する躯体の安全性を把握し、合理的な耐衝撃設計法を確立することを最終目標としている。ここでは、擁壁延長を現行設計で設定している有効抵抗長と同様に擁壁高さの4倍とした場合の耐衝撃挙動および損傷状況を把握するため、無筋コンクリート製擁壁模型に関する重錘衝突実験を実施し、重錘衝突エネルギーを変化させた場合の動的挙動、重錘衝撃力および損傷状況について検討を行った。

2.実験概要

2. 1 試験体概要

図-1には、実験に用いた擁壁模型の形状寸法、高速度カメラ測定用のターゲット設置位置を示している。擁壁の形状寸法は、実構造で多用されている断面の1/2程度を想定し、高さH=1.0m、天端および基部の壁厚をそれぞれB1=0.2m、B2=0.5mとし、山側の擁壁背面(以後、衝突面)を鉛直、道路側の擁壁前面(以後、衝突背面)を1:0.3の勾配としている。擁壁の延長は便覧で規定している有効抵抗長を考慮し、擁壁高さの4倍であるL=4.0mとした。

2. 2 実験方法

図-2には実験概要図および実験に使用した鋼製重錘(質量309kg)の形状寸法を、写真-1には実験状況を示している。衝撃荷重は、門型フレームに吊り下げられた重錘を所定の高さまで吊上げ、脱着装置を使

用した振り子運動によって作用させることとした。剛体挙動に着目した実験結果2)より、基礎地盤の擁

壁の回転への影響が大きくないことが明らかになっていることから、実験は支持条件が明確なコンクリート基礎上で、つま先部にストッパーを設けて水平方向の移動を拘束し実施した。

測定項目は、重錘の底部表面に設置したひずみゲー

(側面図) (正面図)

0.8

0.2

1.0

2.00.5

0.2

重心

0.2

(上面図)

0.5 0.5 0.4 0.10.5

単位:(m)

2.0

0.1

: 高速度カメラ測定用ターゲット

図-1 擁壁模型の形状寸法・ターゲット設置位置

擁壁模型

 回転中心

(門型フレーム)

脱着装置

重錘

190160

400

使用重錘

m=309kg

図-2 実験概要図

写真-1 実験状況

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4 寒地土木研究所月報 №799 2019年12月

ジ式加速度計による重錘加速度、高速度カメラによる重錘衝突速度、擁壁変位、擁壁の回転角および重心浮上量(図-3参照)である。高速度カメラは有効画素数1,024×1,024、フレームレートが1,000fpsであり、上方および側方に2台設置した。重錘衝撃実験時の応答波形は、サンプリングタイム0.1msでデジタルデータレコーダにて収録を行っている。また、実験終了毎にひび割れ等の損傷状態も確認している。

2. 3 実験ケース

表-1には、実験ケースの一覧を示している。実験は、コンクリート基礎上に擁壁延長4.0mの無筋コンクリート製擁壁を設置し、重錘の衝突速度を漸増させた繰返し載荷および単一載荷により行った。なお、繰返し載荷は擁壁に損傷(ひび割れ)が発生するまで行っている。

ケース名は、載荷方法(S:単一載荷、C:繰返し載荷)と目標として設定した重錘衝突エネルギー(kJ)を示している。重錘衝突位置は、擁壁高さをHとして基部から0.8H(0.8m)としている。また、表中には実験時のコンクリートの圧縮強度、高速度カメラ画像により算定した重錘衝突速度、重錘衝突エネルギーおよび実験終了後の損傷状況も併せて記している。なお、重錘衝突エネルギー Eは、重錘の衝突速度vを用いてE=mv2/2より算定した。

2. 4 便覧での設計計算値

便覧では、許容回転角から求まる基礎地盤の可能吸収回転エネルギーEMと想定した落石エネルギーから算出した基礎地盤の弾性応答時の回転変形エネルギーEMLと比較しEML<EMとなることを照査し設計を行う。表-2には、擁壁模型および重錘の諸元に対し、便

覧式により算定した擁壁基礎地盤の変形を考慮した可能吸収エネルギーを満足する重錘衝突速度および重錘衝突エネルギーを示している。設計条件としては、便覧において許容回転角θaは2~3°以下を目安にするとされているため、許容回転角を上限のθa=3°、地盤のN値はコンクリート基盤のためN=100と仮定している。今回の実験においては、C1.0のケースが便覧式における設計値に相当する。

3.実験結果および考察

3. 1 擁壁の動的挙動

図-4には、実験ケースC1.0、S6.0の擁壁上面中心

G:重心h :重心浮上量

θ:回転角

G'

G

基礎地盤

ストッパー

020406080

100120140160180200

0 50 100 150 200 250 300 350 400

擁壁

上面

中心

点変位

(mm

)

時間(ms)

C1.0S6.0

図-3 擁壁の回転角および重心浮上量

C0.2 1.2 0.2 損傷無しC0.5 1.8 0.5 損傷無しC1.0 2.6 1.0 ひび割れS2.0 3.8 2.2 ひび割れS4.0 5.1 4.0 ひび割れS6.0 6.1 5.7 剥落S8.0 7.0 7.6 剥落

S10.0 8.2 10.4 押抜き

試験

ケース

コンク

リート

圧縮強度

(N/mm2)

重錘

質量m (kg)

載荷

方法

重錘衝突

速度v (m/s)

重錘衝突

エネル

ギーE (kJ)

実験後の

損傷状況

28.2

309

繰返し

単一32.8

表-1 実験ケース一覧

許容回転角θ a(°) 地盤のN値

重錘衝突

速度v (m/s)

重錘衝突

エネルギーE (kJ)

3.0 100 0.52 2.6 1.0

設計条件可能吸収エ

ネルギーEM(kJ)

EMを満足する計算値

表-2 設計値に相当する衝突エネルギー(便覧式)

図-4 擁壁上面中心点変位の時刻歴応答波形

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寒地土木研究所月報 №799 2019年12月 5

点における水平変位の時刻歴応答波形を示している。重錘衝突によって最大変位となる時間は、C1.0の場合には衝突後89ms、S6.0の場合には159msとなっている。また、変位の大きさは、重錘衝突エネルギーの大きさに対応して大きくなっていることが分かる。

図-5には、実験ケースC1.0、S6.0、S10.0の擁壁上面厚さ方向中心点における水平変位分布の経時変化を示している。C1.0およびS6.0の場合には、擁壁上面の各ターゲット変位は各時刻に関して同程度の値を示しており、重錘衝突によって擁壁全体として剛体的な運動をしていることが分かる。しかしながら、S10.0の場合には明確な押抜きせん断破壊が発生したため、重錘衝突位置を中心とした局部的な変形を示している。これより、擁壁に明確な押抜きせん断破壊が発生しなければ、擁壁延長を高さの4倍とする場合においては、便覧における設計値(E=1.0kJ)以上の重錘衝突エネルギーが擁壁に載荷された場合でも、便覧で仮定されている剛体的な挙動を示すことが明らかになった。

図-6には、擁壁重心での最大回転角と重錘衝突エネルギーの関係を示している。なお、図中には、便覧式により算定した回転角および、実験終了後の損傷状況(剥落・押抜き)を記載している。便覧式での計算条件は地盤のN値N=100、反発係数e=1とした。

図より、擁壁の最大回転角は重錘衝突エネルギーが大きくなるほど増加するが、S10.0のように押抜きせん断破壊が発生する場合には最大回転角は小さくなっていることが分かる。また、便覧式での算定値と実験値を比較すると、重錘衝突エネルギーが大きくなるほど実験値は便覧式の算定値より回転角が小さくなる傾向にある。これは、便覧式の算定においては、反発係数を完全弾性衝突(e=1)と仮定して計算するが、実際には衝突する落石の形状・硬さや擁壁の表面状態等によっても反発係数は変化するものと考えられるため、実験値の回転角が算定値より小さくなると推察される。なお、重錘衝突エネルギーE=1.0kJでは、便覧の許容回転角3°に対して実験の最大回転角は1.6°であった。

3. 2 重錘衝撃力

図-7には、重錘衝撃力波形の一例を示している。なお、重錘衝撃力は重錘加速度に重錘質量を乗じて評価している。図より、応答波形の継続時間は2~4ms程度であり、重錘衝突エネルギーが大きくなるほど重錘衝撃力は大きくなり、応答波形の継続時間も長くなる傾向にあることが分かる。

-50

0

50

100

150

200t=0ms

-500

50100150200

t=10ms

-500

50100150200

t=50ms

擁壁

上面

中心

変位

(mm)

-500

50100150200

t=100ms

-500

50100150200

-2,000 -1,500 -1,000 -500 0 500 1,000 1,500 2,000

t=200ms

重錘衝突位置からの距離(mm)

重錘衝突位置

○C1.0△ S6.0□ S10.0

0123456789

10

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

最大

回転

角θ m

ax(

°)

重錘衝突エネルギーE(kJ)

剥落

押抜き(S10.0)

便覧算定値

(N=100、e=1)

図-5 擁壁上面中心変位の経時変化

図-6 最大回転角と重錘衝突エネルギーの関係

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6 寒地土木研究所月報 №799 2019年12月

図-8には、重錘衝突エネルギーと最大重錘衝撃力の関係を示している。なお、図中には式(1)の運動量保存則を適用して算定した衝撃力3)も示している。

Pa=2mv(e+1)/Δt (1)

ここに、Pa:最大衝撃力(kN)、m:落石質量(t)、v:落石衝突速度(m/s)、e:反発係数、Δt:衝突による接触時間(s)である。ここでは、実験での平均接触時間Δt=0.003s、反発係数e=0を用いた。

図より、最大重錘衝撃力は重錘衝突エネルギーの増加に対応して増加する傾向にあることが分かる。また、式(1)の運動量保存則を適用する方法を用いることにより概ね最大衝撃力を推定することが可能である。

 3. 3 損傷状況

写真-2には、S4.0、S10.0の場合における上方高速度カメラから撮影した画像を示している。なお、実験終了後の擁壁の損傷状態は、S4.0の場合にはひび割れ発生、S10.0の場合には明確な押抜きせん断破壊に至っている。

画像を確認すると、S4.0の場合には、ひび割れは衝突初期から2ms経過後に重錘衝突位置の衝突背面に発生し、その後衝突背面の下端及び上面に進展している。一方、S10.0の場合には、衝突点から厚さ方向に斜めひび割れが進展し、3ms経過後に右側に約40cm、左側に約20cm離れた擁壁上面に、また衝突背面中央部付近にもひび割れが進展している。なお、押抜きせん断破壊に至る擁壁の剥離・剥落は重錘衝突から約50ms経過後に発生している。

図-9には、実験終了後の損傷状態の一例を、図-

10には損傷を重ねた比較図(S4.0、S6.0、S10.0)を示

-300

0

300

600

900

1,200

1,500

1,800

-1 0 1 2 3 4 5 6 7 8

重錘

衝撃

力P

(kN

)

時間t (ms)

C1.0S6.0S10.0

0

500

1,000

1,500

2,000

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

最大

衝撃

力P m

ax(

kN)

重錘衝突エネルギーE(kJ)

Pa=2mv/Δtm=309kgΔt=0.003s

図-7 重錘衝撃力波形 図-8 重錘衝突エネルギーと最大衝撃力の関係

t=0ms t=0ms

t=2ms(ひび割れ発生) t=3ms(ひび割れ発生)

t=5ms t=5ms

t=10ms t=10ms

t=50ms t=50ms

t=100ms t=100msS10.0

ひび割れ

ひび割れ ひび割れ

(a)S4.0 (b)

写真-2 高速度カメラ画像

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寒地土木研究所月報 №799 2019年12月 7

している。図より、衝突面では重錘衝突エネルギーが大きくなると重錘衝突部を中心として60°~72°の角度で擁壁上面方向へV字状の斜めひび割れおよび下端方向には縦ひび割れが発生していることが分かる。衝突背面の損傷状態に関しては、重錘衝突エネルギーが小さい場合には曲げによる鉛直方向のひび割れが顕在化しており、重錘エネルギーの増加と共にV字状のひび割れが卓越し、最終的には押抜きに至っている。また、衝突面の衝突位置から擁壁厚さ方向に仰角35°~40°の位置が衝突背面のV字状の頂点となる傾向にあった。

便覧では擁壁を剛体と仮定して設計を行っているが、今回の実験においては設計値に相当する重錘衝突エネルギー(E=1.0kJ)の場合でも擁壁にひび割れ損傷は発生している。また、剥落や押抜きに至るには更に大きな重錘衝突エネルギーが必要となることが確認できた。

(a) C1.0(v = 2.6m/s、E = 1.0kJ)ひび割れ発生 (b) S4.0(v = 5.1m/s、E = 4.0kJ)ひび割れ発生

(c) S6.0(v = 6.1m/s E = 5.7kJ)剥落発生 (d) S10.0(v = 8.2m/s E = 10.4kJ)押抜き発生

衝突面 衝突面

衝突面 衝突面

衝突背面 衝突背面

衝突背面 衝突背面

上面 上面

上面 上面

413598

13241214

438

200

382611

829 1017465

200

492 489

436

200

図-9 実験終了後の損傷状態

衝突面

衝突背面

上面

- S4.0- S6.0- S10.0

図-10 損傷比較図

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8 寒地土木研究所月報 №799 2019年12月

4.まとめ

本研究では、擁壁延長を現行設計で仮定している有効抵抗長と同様に擁壁高さの4倍とした場合の無筋コンクリート製擁壁模型に関する重錘衝突実験を実施し、動的挙動、重錘衝撃力および損傷状況等について検討を行った。本実験の範囲内で明らかになった事項を整理すると、以下の通りである。(1) 擁壁延長を高さの4倍とした場合には、押抜きせ

ん断破壊が発生しなければ便覧で仮定されている剛体的運動となる。

(2) 擁壁の最大回転角は押抜きせん断破壊が発生しなければ重錘衝突エネルギーが大きくなるほど増加する傾向にある。また、実験値は便覧式を用いて算出した回転角より小さくなる傾向にある。

(3) 衝撃力は重錘衝突エネルギーの増加に対応して増加する傾向にあり、運動量保存則を適用させる方法により評価可能である。

今後、合理的な耐衝撃設計法の確立に向けて、重錘

や擁壁の大きさ等が反発係数、接触時間および損傷形態にも影響すると考えられることから、これらについても検討する予定である。

謝辞:本研究は、国立大学法人室蘭工業大学との共同研究の一部として実施したものであり、岸徳光特任教授、小室雅人准教授より多くのご助言を賜りました。また、本実験に際し室蘭工業大学の学生諸氏にご協力頂きました。ここに付記し、感謝の意を表します。

参考文献

1) (公社)日本道路協会:落石対策便覧、pp.195-211、2017.12.

2) 山澤文雄、今野久志、小室雅人、岸徳光:基礎地盤が異なる落石防護擁壁の耐衝撃挙動、コンクリート工学年次論文集、Vol. 39、No. 2、pp. 649-654、2017.7

3) (公社)地盤工学会:落石対策工の設計法と計算例、pp.305-307、2014.12

山澤 文雄YAMASAWA Fumio

寒地土木研究所寒地基礎技術研究グループ寒地構造チーム研究員

寺澤 貴裕TERASAWA Takahiro

寒地土木研究所寒地基礎技術研究グループ寒地構造チーム研究員技術士(建設部門)

今野 久志KONNO Hisashi

寒地土木研究所寒地基礎技術研究グループ寒地構造チーム総括主任研究員博士(工学)

中村 拓郎NAKAMURA Takuro

寒地土木研究所寒地基礎技術研究グループ寒地構造チーム研究員博士(工学)

葛西 聡KASAI Satoshi

寒地土木研究所寒地基礎技術研究グループ寒地構造チーム上席研究員