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基調講演「人間と地球のための教育-持続可能な未来をつくる」
浜野 隆
(お茶の水女子大学)
2017年3月22日
本日の流れ
1.MDGからSDGへ
2.SDG4(教育)と他の開発目標
3.SDG4の具体的な内容とモニタリング指標
4.日本の教育への示唆:「共生と学びあい」
基調講演要旨
2015年9月、国連はSDGs(持続可能な開発目標)を掲げました。目標が17もあるのは、私たちの住む世界が非常に複雑であり、様々な問題が相互に絡み合っているということを示しています。また、SDGsは、途上国のみならず、先進国も取り組むべき課題とされています。
教育は、他の目標の多くと密接につながっています。教育の改善がなければ、他の目標達成は困難であるともいえるでしょう。
SDG4(教育)は、幅広い分野を対象としています。とりわけ、「学校へ行ったか(就学)」のみならず「何を学んだか(学習・学びの成果)」が問われています。学ぶ内容としては、特に、「持続可能性」や「グローバル・シチズンシップ」が強調されています。私たちの日本の教育現場でも、考えていかねばならない課題です。
1. MDGからSDGへ
国連:「持続可能な開発目標」(SDGs)
①貧困削減
②飢餓撲滅
③健康 ④教育 ⑤ジェンダー平等
⑥水と衛生
⑦エネルギー
⑧雇用 ⑨インフラ
⑩格差是正
⑪気候変動
⑫生産と消費
⑬気候変動
⑭海洋資源
⑮陸上生態系
⑯平和と公正
⑰パートナーシップ
SDGsの特徴
MDGs(2000-2015)の8目標(貧困、教育、ジェンダー
平等、乳幼児の生存、妊産婦の健康、感染症防止、環境の持続可能性、グローバル・パートナーシップ)から大きく増加
私たちが住んでいる社会が複雑で、様々な要素が相互に絡み合っていることの現れ
地球環境への危機意識:「地球は人間無しでも存続しますが、人間は地球がなければ存続できなません。先に消えるのは私たちなのです。」(アミーナ・モハメッド)
途上国のみならず、先進国も取り組むべき課題
「誰一人取り残さない」(共生、包摂):という視点
2. SDG4(教育)と他の開発目標
SDG4
SDG4:「すべての人にインクルーシブ(包摂的)かつ公
正な質の高い教育を確保し、生涯にわたる学習の機会を促進する」
7つのターゲット(4.1~4.7)と3つの実施手段(4.a~4.c)
これまで展開されてきたMDG2 (2000~2015)とEFA(1990~2015)の目標を発展的に拡大させたもの
EFA-GMR(EFAグローバルモニタリングレポート)から
グローバル・エデュケーション・モニタリング・レポート(GEMR)へ:毎年の進捗を確認。
EFAからSDG4へ:何が変わったのか
対象範囲・分野の拡大
(その結果として)途上国のみならず、先進国にとっても重要な課題を含む
「就学」(学校に行っているか)よりも「学習(学び)」(何を学んだか)に重点
教育の内容への踏み込み:ESD(持続可能な開発
のための教育)、グローバル・シチズンシップ教育(地球市民教育)など(グローバルレベルでの「共生」に重点)
教育と他の開発目標との関係
教育
平和 環境 健康
格差
雇用 貧困削減
ジェンダー平等
GEMR 2016では
1.地球
2.繁栄
3.人間
4.平和
5.場所
という5つの観点から整理されている
1.地球ー環境の持続可能性
人間の行動が環境危機を引き起こした
人間が行動を変えれば環境を改善できるはず
学校での環境教育
コミュニティや職場を通じた学習
2.繁栄:持続可能かつインクルーシブな経済
教育は、経済の転換やイノベーションに貢献する
教育は、産業のグリーン化に必要なスキルを提供できる
教育は農業の変革にも寄与しうる
教育と生涯学習は、経済成長に貢献する
教育は、社会的包摂を促進する
教育は、労働市場の成果を高める
3.人間:インクルーシブな社会開発
社会開発:健康、栄養、ジェンダー平等など
教育は社会開発の成果を高める
女子教育:妊産婦死亡率の低下、出生率の低下、子どもの栄養や健康の改善・・
社会政策と教育政策の統合が必要
4.平和:政治参加、平和、司法制度の利用
教育・識字能力は政治への参加を高める
質の高い教育の欠如→貧困と失業、絶望→
人々を武装勢力への参加に駆り立てる
教育は実効性のある司法制度の構築に重要な役割を果たす
5.場所:都市と人々の居住
教育→生産性の向上、犯罪の抑制、都市環境保護。
教育→都市における格差の一因にもなる
教育と生涯学習は都市計画に影響を及ぼし、都市の改善に寄与する
住民参加と「都市計画」「まちづくり」
パートナーシップ
グローバル・パートナーシップの再活性化
財政
(セクターを通じた)政策の一貫性
パートナーシップ:中央・地方政府、市民社会、研究者、科学コミュニティ、民間部門等
調整機関の重要性
3.SDG4の具体的な内容とモニタリング指標
SDG4のターゲットと実施手段
4.1 初等中等教育
4.2. 幼児教育
4.3.職業教育・高等教育・成人教育
4.4.職業スキル
4.5.公平性
4.6.識字能力と計算能力
4.7.持続可能な開発とグローバル・シチズンシップ
4.a.教育施設・設備と学習環境
4.b. 奨学金 4.c. 教員
※モニタリング指標一覧→GEMR:36-37頁
SDG4の内容
目標 4 . すべての人にインクルーシブ(包摂的)かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯にわたる学習の機会を促進する
---------------------------------------------------------------
4.1 2030 年までに、すべての子どもが男女の区
別なく、適切かつ効果的な学習成果をもたらす、無償かつ公正で質の高い初等教育および中等教育を修了できるようにする。
(指標例)必要最低限の習熟度に到達している子供の割合、修了率、不就学者の割合、遅延入学者の割合、無償義務教育年限
4.1.初等教育・中等教育
就学率(2014年):初等(91%)、前期中等(84
%)、後期中等(63%)。
不就学者数:初等(6100万人)、前期中等(6000万人)、後期中等(1億4200万人)。
課題:修了率(特に貧困国や貧困層)。無償義務教育の年数。教科書。授業時間。
学習成果(読解能力、計算能力)。学力評価の方法。
4.2.幼児教育
「4.2 2030 年までに、すべての子どもが男女の区別なく、質の高い乳幼児の発達・ケア及び就学前教育にアクセスすることにより、初等教育を受ける準備が整うようにする。」
指標例:発達段階にふさわしい健康状態、学習能力、心理社会面での健康な5歳未満児の割合、小学校学齢1年前に組織的な学習に参加していた子どもの割合、就学前教育総就学率・・・
幼児教育:現状と課題
小学校入学年齢より1つ年下の子どもの就学率:67%
小学校教育の準備ができているかどうか:発達の評価
家庭環境:幼児向けの本、読み聞かせ、触れ合い
4.3.職業教育・高等教育・成人教育
「4.3 2030 年までに、すべての人々が男女の区別なく、手の届く質の高い職業技術教育・訓練および大学を含む高等教育への平等なアクセスを得られるようにする。」
指標例:過去12か月間に学校教育、ノンフォーマル教育、職業技術訓練に参加した若者と成人の割合
職業教育・高等教育・成人教育:現状と課題
職業技術教育(TVET)、高等教育への「手の届きやすさ」(費用負担など)
職業資格認定制度
高等教育:就学者数は2000年から2014年にかけて倍増
高等教育へのアクセスには大きな格差(国家間格差、国内格差)
成人教育:多様な形態
4.4.職業スキル
4.4 2030 年までに、技術的・職業的スキルなど、雇用、働きがいのある人間らしい仕事および起業に必要な技能を備えた若者と成人の割合を大幅に増加させる。
指標例:ICT(情報通信技術)を活用できる若者及び成人の割合、必要最低限のデジタル・リテラシーを有する若者・成人の割合。
職業スキル:現状と課題
認知スキル:識字能力、計算能力、デジタル・リテラシースキル・・
非認知スキル:忍耐力、自制心、社会情緒的スキル、・・
認知スキルと非認知スキルの組み合わせ:例)ファイナンシャル・リテラシー、起業スキル
4.5.公平性
「4.5 2030 年までに、教育におけるジェンダー格差を無くし、障害者、先住民及び脆弱な立場にある子どもなど、脆弱層があらゆるレベルの教育や職業技術訓練に平等にアクセスできるようにする。」
指標例:初等教育の教授言語が自身の第一言語または母語と同じである生徒の割合
公平性:現状と課題
教育格差の測定:例)経済格差:富裕層の修了者に対する、貧困層の修了者の割合(初等:0.36、前期中等:0.19、後期中等:0.07)
ジェンダー:貧困層ほどジェンダー格差が深刻。学習成果を含め、すべての教育指標に関してジェンダー格差指数を活用すべき。
障害、言語、移住と強制退去
難民の子どもたちの就学の困難
4.6.識字能力と計算能力
「4.6 2030 年までに、すべての若者及び大多数(男女ともに)の成人が、読み書き能力および基本的計算能力を身に付けられるようにする。」
指標例:一定の水準の機能的識字能力・計算能力を身につけた若者及び成人の割合
識字能力と計算能力:現状と課題
SDGでは、識字能力の測定に焦点を移しているが、現状では従来の識字率を報告
7億5800万人が機能的識字能力を獲得していない(うち63%は女性)(2005-2014)。
習熟度の測定:OECD国際成人力調査
4.7.持続可能な開発とグローバル・シチズンシップ
4.7 2030 年までに、持続可能な開発のための教
育および持続可能な生活スタイル、人権、男女の平等、平和及び非暴力的文化の推進、グローバル・シチズンシップ、文化多様性と文化の持続可能な開発への貢献の理解の教育を通して、すべての学習者が、持続可能な開発を促進するために必要な知識及び技能を習得できるようにする。
カリキュラム、教科書、教師教育、課外活動
持続可能な開発とグローバル・シチズンシップ:指標
グローバル・シチズンシップや持続可能性について十分に理解している生徒の割合
環境科学および地球科学に関する知識を有している生徒の割合。
ライフスキルとしてのHIV/AIDS教育や性教育を実施している学校の割合
「人権教育のための世界計画」に基づき、国内でどの程度人権教育が実施されているか
4.a 子ども、障害及びジェンダーに配慮した教育施
設を構築・改良し、すべての人々に安全で非暴力的でインクルーシブ(包摂的)、効果的な学習環境を提供できるようにする。
4.b 2020 年までに、開発途上国、特に後発開発途
上国および小島嶼開発途上国、ならびにアフリカ諸国を対象とした、職業訓練、情報通信技術(ICT)、
技術・工学・科学プログラムなど、先進国およびその他の開発途上国における高等教育の奨学金の件数を全世界で大幅に増加させる。
4.c 2030 年までに、開発途上国、特に後発開発途
上国及び小島嶼開発途上国における教員研修のための国際協力などを通じて、質の高い教員の数を大幅に増加させる。
学校施設設備:水飲み場やトイレなど。学校の安全性、障害児も通いやすい学校。
情報通信技術
学校における暴力や学校への攻撃
奨学金
十分な数の有資格教員の確保
教員のモチベーションと教員に対する支援
財政:政府支出、援助支出、家計支出
教育システム
4.日本の教育への示唆:「共生と学びあい」
どのような教育が必要か
「これまでのような教育」では不十分(GEMR,34頁)
「学歴達成」ではなく、「学習達成」
「誰一人取り残さない」:格差克服と共生
ユネスコはこれまでも「生涯学習」「共生」などは強調してきた。 ※変化には時間がかかる
学習の4本柱:知識(know)・行動(do)・共生(live
together)・人間らしい生き方(be):『学習:秘められた宝』
「関係的、統合的、共感的、先見的、体系的な思考力の育成」(GEMR、34頁)
これからの社会を「生きる」力:予測が難しい
「子どもたちの65%は、将来、今は存在していない職業に就く」(ニューヨーク市立大学、キャシー・デビッドソン教授)
「20年以内に、今の仕事の47%は機械が行う」(M.オズボーン、オックスフォード大教授)
「近い将来、10人に9人は、今と違う仕事をしている」(ラリー・ペイジ)
「2045年には人工知能が人類を超える(シンギュラリティ:特異点)」(レイ・カーツワイル)
教育の世界的潮流と日本の教育課題
新しい時代→新しい教育
様々になされる提案:主体的学習、対話的な深い学び、問題発見解決型学習(Problem-Based
Learning)、探求学習( inquiry-based learning)・・・
国際比較でみる日本の教育課題(参考資料):①学習意欲の問題、②学習の意義の再構築(何のために学ぶのか、自分が何をしたいのか)、③自己肯定感・自尊感情、④自己有用感、⑤自己効力感と社会への参加、⑥打たれ弱さやストレスの克服(失敗や挫折から立ち直る力)。
①学力は高いが意欲・学ぶ楽しさ、などが課題
世界でトップクラスの数学の得点。でも、・・・
「数学で学ぶ内容に興味がある」は37.8%(OECD平均53.1%)
「数学を勉強しているのは楽しいからである」は20.9%( OECD平均38.1%)
「これから数学でたくさんのことを学んで、仕事につくときに役立てたい」は53.5%( OECD
平均70.5%)
出典:OECD、PISA調査より
学年が上がるにつれて意欲は・・・
2015年のTIMSS調査によれば、小学生、中学生と
も学習意欲は近年高まっている傾向があり、「理科が楽しい」と回答した小学生の割合は国際平均を上回っている(国際平均87%、日本90%)。
ただ、中学生になると、国際平均を下回る(国際平均81%、日本66%)。算数・数学に関しては、「楽し
い」という回答は小学生、中学生とも国際平均を下回る(国際平均85%、日本75%)が、中学生において国際平均との差がより大きくなる(国際平均71%、日本52%)。
②自尊感情・自己肯定感の向上が課題
「自分に満足している」若者の割合 (内閣府:『子ども・若者白書』平成26年版)
45.8
71.5
86 83.1
80.9 82.7
74.4
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
日本 韓国 アメリカ イギリス ドイツ フランス スウェーデン
「自分には長所がある」若者の割合
(内閣府:『子ども・若者白書』平成26年版)
68.9
75
93.1 89.6
92.3 91.4
73.5
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
日本 韓国 アメリカ イギリス ドイツ フランス スウェーデン
③将来への希望、やりたいことや目標に課題
「自分の将来に明るい希望を持っている」若者の割合
61.6
86.4
91.1 89.8
82.4 83.3
90.8
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
日本 韓国 アメリカ イギリス ドイツ フランス スウェーデン
子ども・若者白書より(続き)
「社会をよりよくするため,社会問題に関与したい」
「私の参加により,変えてほしい社会現象が少し変えられるかもしれない」
「40歳になったときに幸せになっていると思う」
↑
※いずれも日本が最低。
庇護された快適な環境を与える、先回り育児、ほしいものをすぐ与える、挫折や失敗をできるだけ回避させる、などの子育てによって、日本の子どもたちに「思い通りにならない状況への耐性」や「レジリエンス」(逆境から立ち直る力)、「参加への意欲や関心」が損なわれているのかも・・・・。
日本の学校現場や開発教育への示唆
SDG4は、日本の教育のあり方にも再考を迫っている。とりわけ、学習(学び)のありかたを考える必要性
教育開発にかかわることは何の役に立つ?
途上国教育開発・国際協力へのかかわり:そこから学ぶことの多さ。
自分の活動(仕事、学習)が誰かのためになることによる充実感
人間と地球のための教育ーすべての人々にとって持続可能な未来をつくる:共生と学びあい
「学びあい」(共生には不可欠)。「途切れない学び」(誕生から死まで)、「学びの広がり」(身近な問題から世界へ)