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(3) 平成29年2月1日 第41号 調退21 退種ケ嶋 尚志 准教授 見坐地 一人 教授 スポーツ科学部 生産工学部 スポーツ科学と臨床心理学の複合領域を研究 種ケ嶋 尚志(たねがしま・ひさし) 平成11年本学文理学部卒。同年同学部体育学研究室副手。14年 慶応大学体育研究所非常勤講師。医療法人悠希会心療内科心理 カウンセラーなどを経て19年聖徳大学から心理学博士の学位授 与。20年東洋大学文学部非常勤講師。23年大東文化大学スポー ツ・健康科学部特任講師。26年本学工学部総合教育准教授。28年 スポーツ科学部准教授。日本心理臨床学会、日本心理学会、日本ス ポーツ心理学会、日本体育学会に所属。出身地は長崎県。42歳。 臨床心理士としてカウンセリング アスリート・メンタリティーの研究も 自動車の振動・騒音解析のエキスパート 見坐地 一人(みさぢ・かずひと) 昭和56年本学生産工学部数理工学科卒業。58年 同大学院生産工学研究科博士前期課程修了。博士 (工学)。本田技術研究所四輪研究所、主任研究員を 経て平成21年生産工学部教授。自動車技術会、電 子情報通信学会、日本機械学会などに所属。16年自 動車技術会論文賞、14年、19年本田技術研究所論 文賞。自動車技術会フェロー。三重県出身。59歳。 操縦安定性/静粛性の両立に腐心 数理モデル作りコンピューターでシミュレーション 本学軽井沢研修所でスポーツ心理学研究会の 学生たちと 学生が集う研究室で数理モデルの作 成、解析を指導

自動車の振動・騒音解析のエキスパート · エンジニア」の称号を受「フェロー」と「フェローーパー賞を2度受賞し、会関東支部のベスト・ペる。教授就任後も同技術お手本でした」と振り返「かつては、ドイツ車がた。術会の論文賞を受賞しは公益社団法人自動車技研究論文も数多く、一部力車などに採用された。り組んだ。その成果

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Page 1: 自動車の振動・騒音解析のエキスパート · エンジニア」の称号を受「フェロー」と「フェローーパー賞を2度受賞し、会関東支部のベスト・ペる。教授就任後も同技術お手本でした」と振り返「かつては、ドイツ車がた。術会の論文賞を受賞しは公益社団法人自動車技研究論文も数多く、一部力車などに採用された。り組んだ。その成果

日 本 大 学 広 報 特 別 版(3) 平成29年2月1日 第41号

種ケ嶋准教授は心理学

やスポーツ心理学を講義

する一方、スポーツ科学

と臨床心理学が複合する

領域を、臨床心理士の有

資格者として研究してい

る。ス

ポーツ心理学は、ス

ポーツを心の面から研究

する。臨床心理学は、精

神障害や心身症などの回

復、予防、研究が目的。

臨床心理士は、臨床心理

学に基づく知識や技術で

人間の心の問題を扱う。

例えば、プロ・アマを

問わずアスリートが競技

への強い不安や緊張を抱

えたり、摂食障害やうつ

病になったりした場合、

面談(心理カウンセリン

グ)して、日常生活や競

技にどう適応していった

らよいのか、時間をかけ

て一緒に考える。それは

そのまま、次の研究にも

つながっていく。

種ケ嶋准教授の主な学

術論文のタイトルから

も、具体的な研究内容が

分かる。いくつか列挙す

ると「運動部経験者のラ

イフスキルとメンタルヘ

ルス関連要因の検討」「男

性中高年ボディイメージ

に関する研究」「競技不

安を訴えて来談したスポ

ーツ選手との認知療法に

よるカウンセリング」「ス

ポーツ選手の競技不適応

に関する臨床心理学的研

究」などだ。

種ケ嶋准教授の共著書

「クローズアップ『健

康』」も、研究内容の理

解に役立つ。その中の

「『スポーツと健康』神

話」と題したトピックで

「スポーツも取り組み方

で心の病を生じさせる」

として、ある女性競泳選

手の事例を紹介。スポー

ツの功罪やバーンアウト

(燃え尽き症候群)の心

理などについて、深く考

察している。

自分に向き合い興味

種ケ嶋准教授は、学生

時代に文理学部の体育学

科で学んだ。そのころ、

自分自身の問題と向き合

いたいとの思いから

心理カウンセリング

を受け、臨床心理学

に興味を持つように

なった。卒業後は体

育学研究室で副手を

務め、慶応大の体育

研究所で講師も経

験。スポーツ分野の

知見を深めながら、

臨床心理学やサイコ

セラピー(心理療法)の

勉強も始めた。

その後、千葉県の児童

相談所で心理判定員、埼

玉県の心療内科で心理カ

ウンセラーも任された。

さらに東京都公立学校、

埼玉県公立学校の各スク

ールカウンセラーを歴

任。子どもたちの不登校

や問題行動などに対応し

て、心理学の貴重な臨床

経験を積み重ねた。

ほぼ同時期に、聖徳大

大学院で心理学博士の学

位を授与された。

臨床心理士としての種

ケ嶋氏の下を訪れる人

(クライエント)は、年

間4、5人。数カ月から

数年かけて、カウンセリ

ングを続ける。各クライ

エントの価値観を尊重し

ながら、それぞれの症状

と上手に付き合っていけ

る方法を共にじっくりと

探していく。

これまでに、競技成績

や人間関係の不調から

「うつ状態」になったア

スリートや「あがり」を

訴えるアスリートがい

た。クライエントではな

いが、スポーツ科学部の

学生の中にも「自分の心

を強くしたい」などと、

心理相談にやって来るケ

ースが複数あるという。

健康的に競技力向上を

種ケ嶋准教授は、今後

の主な研究として①アス

リートが健康的に競技力

向上できる心理学的視点

をどう提供できるか、と

いったアスリート・メン

タリティー(心性)の研

究②アスリートの引退後

のキャリア形成に停滞を

来さないアイデンティテ

ィー発達の研究―などを

テーマに選び、取り組ん

でいる。

学生時代はテニスに親

しんだ。腕前はコーチ

級。現在スポーツ科学部

のテニス部顧問やスポー

ツ心理学研究会の顧問を

務める。犯罪心理を扱っ

た映画を見るのも好き

で、話題作「葛城事件」

がDVD化されるのを楽

しみにしている。

休日は学会や研修など

でつぶれることが多い。

寸暇を見つけては、2人

の幼い愛息とスキンシッ

プを図る。

自動車大手ホンダの研

究開発を担う本田技術研

究所でクルマの振動や騒

音を減らす研究に取り組

んできた。母校に教授とし

て迎えられてからは、長周

期地震動が超高層ビルを

揺らすメカニズム、人体の

筋骨格数理モデルによる

加齢や負荷が人体に与え

る影響解析と、研究対象

を広げている。旺盛な探究

心はとどまるところを知ら

ない。

現象を数式化

巨大な台風や地震・津

波が日本を襲う。山が崩

れ、河川が決壊する。建

物が倒れ、人が流され

る。異常気象が恒常化し

ている昨今、仮想現実の

動画像がテレビ番組に登

場する。こうしたシーン

は、数理モデルにより作

られる。自然現象から自

動車の振動や音響特性、

人体の動きまで、全ての

現象は数式で表せる。さ

まざまな条件を与えて変

化を予測する。これが、

数理モデルによるシミュ

レーションだ。

「自動車の振動・騒音

は大きく分けて三つあり

ます。第1にエンジンが

出す騒音、2番目は道路

から伝わるロードノイ

ズ、第3は車体と空気の

流れによる高周波の空力

ノイズ。このうち私の専

門は中周波のロードノイ

ズです。振動・騒音発生

の数理モデルを開発し、

対策の検討や効果をコン

ピューター解析します」

一見、平らに見える道

路の路面にも凹凸があ

る。車体に伝わるショッ

クを和らげるとともに、

車体を安定的に接地させ

る主要部品がサスペンシ

ョン(懸架装置)だ。「自

動車メーカーによっては

操縦安定性を重視するの

で、サスペンションをが

っちり固める。柔らかく

すると振動が少なく静か

になるのですが、それは

できない。『走りのよさ』

を損ねるから。操縦安定

性と静粛性の両立は難し

い」新

車開発の初期段階は

実車がない、数理モデル

でシミュレーションす

る。その結果を、サスペ

ンションや防音対策の設

計に役立てる。

車のノイズ低減へ

ホンダでは21年間、主

にロードノイズ対策に取

り組んだ。その成果は主

力車などに採用された。

研究論文も数多く、一部

は公益社団法人自動車技

術会の論文賞を受賞し

た。「

かつては、ドイツ車が

お手本でした」と振り返

る。教授就任後も同技術

会関東支部のベスト・ペ

ーパー賞を2度受賞し、

「フェロー」と「フェロー

エンジニア」の称号を受

けた。

モーターを併用するハ

イブリッド車(HV)、モ

ーターだけで走る電気自

動車(EV)、燃料電池車

(FCV)が主流になれ

ば、騒音対策が不要にな

るのでは? 「たしかにエ

ンジン音は低下します

が、ロードノイズが目立

つようになります。また、

欧州を皮切りに車外騒音

の規制が強化され、基準

に適合しない車は販売で

きなくなります。このこ

とから、特にタイヤのノ

イズ低減が課題となって

おり、研究を進めていま

す」学

生時代には建物の耐

震対策を研究した。大学

院修了後は、原子力発電

所の耐震計算や、海外プ

ラントの構造計算及び基

本設計に従事。その後、

ホンダに入社した。

野球も研究テーマ

ものづくりがしたくて

入ったメーカーも職位が

上がれば管理業務のウエ

ートが高まる。「もっと研

究がしたい」と考えていた

矢先、恩師が退任。後任と

して研究室を引き継いだ。

大学では免震積層ゴム

の開発、東京スカイツリ

ーのモデル化など、かつ

て携わった建築分野でも

企業と共同研究を行う。

多様な学部を擁する本学

ならではの連携研究にも

取り組む。ヒトが運動す

る際、どの部分にどの程

度の負荷がかかるか。食

事で食物をかむ咬(こう)

筋の動きを「人体数理モ

デル」で解析。

「動きと振動の関係を

数理モデルでシミュレー

ションするという点で

は、クルマも建物も、ヒ

トの体も同じです。現在、

大好きな野球のピッチン

グ解析も準備中です。こ

の研究で日大野球部に貢

献できればうれしい」

種ケ嶋 尚志 准教授

見坐地 一人 教授

スポーツ科学部

生産工学部

スポーツ科学と臨床心理学の複合領域を研究

種ケ嶋 尚志(たねがしま・ひさし)平成11年本学文理学部卒。同年同学部体育学研究室副手。14年慶応大学体育研究所非常勤講師。医療法人悠希会心療内科心理カウンセラーなどを経て19年聖徳大学から心理学博士の学位授与。20年東洋大学文学部非常勤講師。23年大東文化大学スポーツ・健康科学部特任講師。26年本学工学部総合教育准教授。28年スポーツ科学部准教授。日本心理臨床学会、日本心理学会、日本スポーツ心理学会、日本体育学会に所属。出身地は長崎県。42歳。

臨床心理士としてカウンセリングアスリート・メンタリティーの研究も

自動車の振動・騒音解析のエキスパート

見坐地 一人(みさぢ・かずひと)昭和56年本学生産工学部数理工学科卒業。58年同大学院生産工学研究科博士前期課程修了。博士

(工学)。本田技術研究所四輪研究所、主任研究員を経て平成21年生産工学部教授。自動車技術会、電子情報通信学会、日本機械学会などに所属。16年自動車技術会論文賞、14年、19年本田技術研究所論文賞。自動車技術会フェロー。三重県出身。59歳。

操縦安定性/静粛性の両立に腐心数理モデル作りコンピューターでシミュレーション

本学軽井沢研修所でスポーツ心理学研究会の学生たちと

学生が集う研究室で数理モデルの作成、解析を指導