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大腸菌(ESBL産生)の持続菌血症を来し、治療に難渋した一例
沖縄県立南部医療センター・こども医療センター 総合内科 野﨑拓朗 仲里信彦 篠原直哉 上田 江里子
はじめに
• 近年ESBL産生菌の市中への拡散とそれによる感染症治療に難渋する例が見られている。
• 今回、ESBL産生大腸菌の持続菌血症を来し、治療に難渋した一例を経験したので報告する。
• また、当院の2013年2月から2014年1月までの 1年間の救急入院患者における、ESBL産生菌 の検出状況を合わせて報告する。
【症例】68歳 男性 【主訴】 発熱・腰痛 【既往歴】 #アルコール性非代償性肝硬変 40歳~ #直腸癌術後:人工肛門増設 2011年 #神経因性膀胱:上記術後合併症により対麻痺。間欠自己導尿を1日4回。 【現病歴】 来院5日前に1時間持続する悪寒戦慄があり、39度の発熱があり。かかりつけ医の指示のもとLVFX500mgの内服。来院3日前にも同様の症状があり、2日前には腰痛が出現し体動困難となった。来院当日にも発熱と腰痛持続あり、かかりつけ医の往診を依頼し、LVFXの内服の継続の後に当院へ紹介となった。これまでも発熱のたびに指示のもとLVFXを頓用していた。前回の頓用内服したのは1か月前。 【内服歴】 メコバラミン(500μg) 3錠分3 ウルソデオキシコール(100) 3錠分3 フィトナジオン(5) 3錠分3 ラクツロース 60ml分3 アロプリノール(100) 1錠分1
【嗜好歴】 タバコ:20本/日×32年(16年前に禁煙) 飲酒:泡盛3合/日×45年(3年前に禁酒) 【ADL】 移動:車いす 排泄:人工肛門、間欠自己導尿 着衣:半介助 食事:自立
【身体所見】
血圧 140/70mmHg 脈拍 83/min 呼吸数 20/min 体温 37.7℃
目:眼瞼結膜に貧血なし、眼球結膜に黄染なし
口腔:発赤なし 頚部:リンパ節腫脹なし
胸部:呼吸音は清・左右差なし 心音は整・雑音なし
腹部:手術痕および同部に一致した腹壁瘢痕ヘルニア、 人工肛門
腸蠕動音の亢進・減弱なし、圧痛なし
背部:胸腰椎移行部右側方に強い叩打痛あり
明らかな褥瘡なし
四肢:手掌紅斑あり、下腿の浮腫なし
神経学所見:対麻痺を認め、Th10以下の感覚障害
生化学
Na 134 mEq/l
K 3.8mEq/l
Cl 104mEq/l
Ca 8.9mg/dl
BUN 19mg/dl
Cre 0.9mg/dl
アンモニア 63μg/dl
AST 34IU/l
ALT 23IU/l
ALP 380IU/l
LDH 173IU/l
γ-GTP 54IU/l
T-Bil 1.7mg/dl
CRP 10mg/dl
血糖 130mg/dl
血算
白血球 113×102/μl
赤血球 432×104/μl
Hb 14.6g/dl
Hct 40.8%
血小板 6.0×104/μl
凝固
APTT 45.5秒
PT(INR) 1.42
Fib 315mg/dl
FDP 12.1μg/dl
尿検査
pH 6.0
尿糖 -
尿蛋白 +
尿潜血 2+
ビリルビン -
ウロビリノーゲン ±
尿沈RBC 10-19/HPF
尿沈WBC >100/HPF
細菌 3+
培養
尿 E.Coli (ESBL産生)
血液 E.Coli (ESBL産生)
薬剤感受性
ABPC R
CTX R
CMZ S
CTRX R
AZT R
MEPM S
GM S
AMK R
LVFX R
ST S
入院時検査所見
入院後経過
0
2
4
6
8
10
12
35
36
37
38
39
40
41
日数 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 43 49 55 62 69 76 86
悪寒・戦慄
MEPM 3g/day
TOB180mg/day
MEPM6g/day
MEPM 3g/day
体温
CRP 血培陽性
CRP mg/dl
体温 ℃
Day1 Day5 Day9 Day20 Day80
入院1日目 MRI T2STIR
入院22日目 MRI T2STIR
入院20日目 Gaシンチ
Th12
Th12 Th12
L1
L1 L1
T2 STIRで入院時にはなかった Th12-‐L1の高信号が見られる
前 後
GaシンチにおいてTh12-‐L1に 集積を認める
自宅 49% n=25 施設
31% n=16
病院 20% n=10
E.coli 80% n=44
K. pneumoniae 9% n=5
その他 11% n=5
菌体 来院元
受診時の検体からESBL産生菌が検出された 症例のまとめ(当院 1年間)
受診時の検体からESBL産生菌が検出された 症例のまとめ(当院 1年間)
合計
症例 男32人 / 女19人 51人
年齢(歳) 79 ±20.9歳(24〜103)
培養検体 陽性 陰性
喀痰 14(27.5%) 37(72.5%) 51人
尿 30(58.8%) 21(41.2%) 51人
血液 7(13.7%) 44(86.3%) 51人
感染の有無 有り=「InfecQon」 無し=「ColonizaQon」
35人 16人 51人 Infec4on ①臨床診断と培養提出部位と一致している場合 ②血液培養から検出 ③腹腔内などクリーンな場所から外科的に検出された場合 Coloniza4on ①臨床診断と培養部位が一致しない場合 ②コンタミネーションが疑われるとき
InfecQon 35人の検討
「Infec4on」35人を, さらに ・Health-‐care associated と Community associated とに分類
・診断別、検体別、予後(死亡) について各群で差があるか検討 Health-‐care associated: ・30日以内に点滴加療を受けている ・30日以内に創部処置や看護を受けている ・90日以内に2日以上の入院加療をしている ・施設入所中 ・病院からの転院 Community associated: 上記以外
Health-‐care
associated 26人
Community associated
9人
肺炎 5人 0人
尿路感染 8人 6人
肺炎+尿路感染 5人 0人
胆管炎 2人 1人
婦人科疾患 2人 0人
褥創 1人 0人
その他 3人 2人
喀痰 10人 0人 p=0.036
尿 14人 6人
血液 5人 2人
死亡 4人 1人
考察 • 本症例は、尿路感染症を契機とした持続性菌血症および
化膿性脊椎炎を合併した症例と考えられた。 • 神経因性膀胱による排尿障害と肝硬変に伴う易感染性
から治療に難渋し、高容量の抗菌薬投与が必要であった。 • 当院での1年間の救急入院患者におけるESBL産生菌の
検出状況(いわゆる持ち込み患者)は、Health-‐care associatedであった。一部にCommunity associatedも含まれていた。
• Community associatedのESBL産生菌による感染症は尿路感染症が主であった。
結語
• ESBL産生菌の持続菌血症を来し、治療に難渋した一例を経験した。
• 病歴聴取にあたることの多い初期研修医は特に、患者さんの抗菌薬暴露歴や入院・通院歴に注意し、耐性菌の可能性を考慮すべきである。
• 今後、医療行為の暴露がない患者においても、ESBL産生菌の存在を考えて治療を行う可能性が憂慮される。