14
はじめに コレステロール結晶塞栓症CCE高度 に動脈硬化した大動脈に由来するコレステロー ル結晶が末梢組織の小動脈を塞栓することに より腎皮膚消化管および四肢などの 多臓器に機能不全をもたらす疾患であるCCE は動脈硬化を持つ高齢者に血管内操作をともな う手技の後に発症することが多く四肢のチア ノーゼのみを呈する軽症型から多臓器不全を呈 する劇症型まで多彩な症状を示し全身性血管 炎との鑑別が必要な場合もあるCCE の予後 は不良であり治療法も確立されていない回心臓カテーテル検査から約 3 ヶ月経過後に下 肢潰瘍と腎機能低下の増悪が見られ皮膚生検 と腎生検から糖尿病性腎症に合併した CCE 診断しLDL 吸着療法および低用量ステロイ ド療法を施行して症状の改善が得られた一例を 経験したので報告する症  例 症 例:68 男性主 訴:全身倦怠感食欲低下両側足尖部 チアノーゼ既往歴:糖尿病高血圧高脂血症いずれ も放置嗜好歴: タバコ 40 / × 48 年間機会飲酒家族歴:虚血性心疾患現病歴:夜間の胸部圧迫感の精査のために 平成 13 6 18 日に心臓カテーテル検査を施 狭心症2 枝病変の診断にて内服治療開 BUN 49CRNN 1.66)。同年 9 月中旬頃より食欲不振全身倦怠感を自覚し同時に両側足 尖部足底部の色調不良と腎機能低下BUN 86CRNN 5.41を指摘され平成 13 10 5 日に精査治療目的にて入院となった入院時現症:身長 162cm体重 58kg意識清 血圧 172/80mmHg脈拍 84/ 体温 36.6眼瞼に貧血黄疸を認めず頸部では血 管雑音聴取せず胸部所見では心音肺胞音正常 であり腹部所見も正常であり血管雑音も聴 取しなかった下肢には浮腫を認めず両足背 動脈触知良好であったが両趾尖端部および踵 部に比較的境界明瞭な暗紫色変化と潰瘍を認め 入院時検査成績(表):尿検査では尿蛋 3+潜血 +硝子 / 顆粒円柱を少数認め尿では 1 日尿蛋白量は 2.4g/day であった末梢 血では WBC8800 と正常であるが好酸球増多 792/mm 3 9%がみられた生化学では TP 5.9g/dlAlb 3.4g/dl と低蛋白血症低アルブミ ン血症および T-cho 148mg/dlTG 152mg/dl 比較的短期間に下肢潰瘍と腎機能低下の増悪がみられ,コレステロール 結晶塞栓症が疑われて LDL 吸着療法および低用量ステロイド療法を施行 して症状の改善が得られた一例 田 村 功 一 1 3 梅 村 将 就 1 矢 野 英 人 2 酒 井 政 司 1 伊 藤 陽 子 1 鶴 見 裕 子 1 渋 谷   研 1 木 村 寿 宏 1 小 川 桃 子 3 横 山 恵 子 3 岡 野 泰 子 3 遠 藤 晃 彦 3 松 下   啓 3 平 和 伸 仁 3 木 原   実 3 矢 花 眞知子 3 戸 谷 義 幸 3 臼 井   孝 2 常 田 康 夫 1 梅 村   敏 3 Key Word急性腎不全動脈硬化症糖尿病性腎症コレス テロール結晶塞栓症LDL 吸着療法副腎皮質ステロイド 1 藤沢市民病院腎臓高血圧内科  2 同循環器科  3 横浜市立大学 第二内科 - 29 - 第 39 回神奈川腎炎研究会

比較的短期間に下肢潰瘍と腎機能低下の増悪がみられ,コレステロール 結晶塞栓 … · 軽度の高中性脂肪血症を認めた。また,BUN 75mg/dl,CRNN

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 比較的短期間に下肢潰瘍と腎機能低下の増悪がみられ,コレステロール 結晶塞栓 … · 軽度の高中性脂肪血症を認めた。また,BUN 75mg/dl,CRNN

はじめにコレステロール結晶塞栓症(CCE)は,高度

に動脈硬化した大動脈に由来するコレステロール結晶が末梢組織の小動脈を塞栓することにより腎,皮膚,脳,消化管,および四肢などの多臓器に機能不全をもたらす疾患である。CCE

は動脈硬化を持つ高齢者に血管内操作をともなう手技の後に発症することが多く,四肢のチアノーゼのみを呈する軽症型から多臓器不全を呈する劇症型まで多彩な症状を示し,全身性血管炎との鑑別が必要な場合もある。CCEの予後は不良であり,治療法も確立されていない。今回心臓カテーテル検査から約3ヶ月経過後に下肢潰瘍と腎機能低下の増悪が見られ,皮膚生検と腎生検から糖尿病性腎症に合併したCCEと診断し,LDL吸着療法および低用量ステロイド療法を施行して症状の改善が得られた一例を経験したので報告する。

症  例症 例:68歳,男性。主 訴:全身倦怠感,食欲低下,両側足尖部

チアノーゼ。既往歴:糖尿病,高血圧,高脂血症,いずれ

も放置。

嗜好歴:タバコ40本 /日×48年間,機会飲酒。家族歴:父,虚血性心疾患。現病歴:夜間の胸部圧迫感の精査のために

平成13年6月18日に心臓カテーテル検査を施行。狭心症(2枝病変)の診断にて内服治療開始(BUN 49,CRNN 1.66)。同年9月中旬頃より,食欲不振,全身倦怠感を自覚し,同時に両側足尖部,足底部の色調不良と腎機能低下(BUN

86,CRNN 5.41)を指摘され,平成13年10月5

日に精査治療目的にて入院となった。入院時現症:身長162cm,体重58kg。意識清

明,血圧172/80mmHg,脈拍84/分・整,体温36.6℃。眼瞼に貧血黄疸を認めず。頸部では血管雑音聴取せず,胸部所見では心音肺胞音正常であり,腹部所見も正常であり,血管雑音も聴取しなかった。下肢には浮腫を認めず,両足背動脈触知良好であったが,両趾尖端部および踵部に比較的境界明瞭な暗紫色変化と潰瘍を認めた。入院時検査成績(表):尿検査では,尿蛋

白3+,潜血+,硝子 /顆粒円柱を少数認め,蓄尿では1日尿蛋白量は2.4g/dayであった。末梢血ではWBC8800と正常であるが,好酸球増多(792/mm3,9%)がみられた。生化学ではTP

5.9g/dl,Alb 3.4g/dlと低蛋白血症,低アルブミン血症,およびT-cho 148mg/dl,TG 152mg/dlと

比較的短期間に下肢潰瘍と腎機能低下の増悪がみられ,コレステロール結晶塞栓症が疑われてLDL吸着療法および低用量ステロイド療法を施行

して症状の改善が得られた一例

田 村 功 一1,3 梅 村 将 就 1 矢 野 英 人 2

酒 井 政 司 1 伊 藤 陽 子 1 鶴 見 裕 子 1

渋 谷   研 1 木 村 寿 宏 1 小 川 桃 子 3

横 山 恵 子 3 岡 野 泰 子 3 遠 藤 晃 彦 3

松 下   啓 3 平 和 伸 仁 3 木 原   実 3

矢 花 眞知子 3 戸 谷 義 幸 3 臼 井   孝 2

常 田 康 夫 1 梅 村   敏 3

Key Word:急性腎不全,動脈硬化症,糖尿病性腎症,コレステロール結晶塞栓症,LDL吸着療法,副腎皮質ステロイド

1藤沢市民病院腎臓高血圧内科 2同循環器科 3横浜市立大学第二内科

- 28 -

腎炎症例研究 20巻 2004年

- 29 -

第39回神奈川腎炎研究会

Page 2: 比較的短期間に下肢潰瘍と腎機能低下の増悪がみられ,コレステロール 結晶塞栓 … · 軽度の高中性脂肪血症を認めた。また,BUN 75mg/dl,CRNN

軽度の高中性脂肪血症を認めた。また,BUN

75mg/dl,CRNN 5.69mg/dl,24hr-Ccr 7.0ml/min,FENa 9.78%と腎実質性の要因によると思われる腎機能低下を認めた。内分泌学的検査ではレニン活性,アルドステロン濃度高値およびANP,BNP濃度上昇を認めた。血清免疫学的検査ではC型肝炎抗体陽性以外は抗DNA抗体,抗RNP抗体,血清補体価,抗好中球細胞質抗体などはすべて正常範囲内であった。入院直後の胸部レントゲンでは心拡大,胸水貯留,肺炎,あるいは肺水腫などの所見はみられなかった。また,腹部単純CT検査では,腹水を認めず両腎の大きさもほぼ正常であり,胆石,大動脈壁

石灰化がみられた。さらに透析導入後に施行された腹部造影CT検査では,腎動脈分枝部より近位側から腹部大動脈に壁在血栓とそれにともなう内腔狭窄を認めたが,腎梗塞を疑う所見はみられなかった。入院経過(図1):入院後第4病日に左趾

端部の壊死病変に対して行った皮膚生検において,真皮深層の小動脈内腔にneedle-shaped

cleftsとそれを取り巻く肉芽組織および炎症細胞浸潤をみとめたため(図2),急性腎不全を合併したCCEの病態と診断し,利尿薬およびPGI2投与を施行したが,さらに腎機能と炎症所見の増悪傾向がみられ(CRNN 6.26mg/dl,CRP

表1.検査所見

表1. Laboratory findings

Urinalysis

Protein (3+)U-P 2.4g/day

Glucose (-)Occult blood (+)Sediments

RBC 5-9/hpf

WBC 0-4/hpf

Hyaline casts 0-4/hpf

Granular casts 0-4/hpf

Blood count

WBC 8800/μ l

neut 76.6%

lymp 11.4%

mono 2.3%

eos 9.0%

baso 0.6%

RBC 286×104/μ l

Hb 8.3g/dl

Ht 24.9%

Plt 27.2×104/μ l

ESR 87mm/hr

blood chemistry

TP 5.9g/dl

Alb 3.4g/dl

T-Chol 148mg/dl

TG 152mg/dl

BUN 75mg/dl

CRNN 5.69mg/dl

UA 7.4mg/dl

Na 131mEq/l

K 4.2mEq/l

Cl 98mEq/l

Ca 9.1mg/dl

P 6.5mg/dl

AST 14IU/l

ALT 12IU/l

LDH 216IU/l

CPK 89IU/l

FBS 84mg/dl

HbAlc 5.8%

CRP 1.2mg/dl

Renal function

Ccr 7.0ml/min/1.73m2

FENa 9.78%

Immunological examination

IgG 1152mg/dl

IgA 350mg/dl

IgM 36mg/dl

IgE 482IU/ml

C3 95mg/dl

C4 39mg/dl

CH50 41.2U/ml

Rheumatoid factor 11IU/ml

Antinuclear antibody Negative

Anti-DNA antibody Negative

Anti-RNP antibody Negative

Anti-Sm antibody Negative

Anti-Scl-70 antibody Negative

Anti-Jo-1 antibody Negative

Anti-GBM antibody Negative

PR3-ANCA Negative

MPO-ANCA Negative

U-P, urinary protein excretion; RBC, Red Blood cells; WBC, white Blood cells; neut, neutrophils; lymp, lymphocytes; mono, monocytes; eos,

eosinophils; Baso, Basophils; Hb, hemoglobin; Ht, hematocrit; Plt, platelets; ESR, erythrocyte sedimentation rate; TP, total protein; Alb, Albumin;

T-Chol, total cholesterol; TG, triglyceride; BUN, blood urea nitrogen; CRNN, creatinine; UA, uric acid; Na, sodium; K, potassium; Cl, chloride;

Ca, calcium; P, phosphorus; AST, aspartate transaminase; ALT, alanine transaminase; LDH, lactic dehydrogenase; CPK, creatine phosphokinase;

FBS, fasting blood glucose; CRP, C-reactive protein; Ccr, creatinine clearance; FENa, fractional excretion of sodium; GBM, glomerular basement

membrane; PR3, protease 3; ANCA, anti-neutrophil cytoplasmic antibody; MPO, myeloperoxidase.

- 30 -

腎炎症例研究 20巻 2004年

- 31 -

第39回神奈川腎炎研究会

Page 3: 比較的短期間に下肢潰瘍と腎機能低下の増悪がみられ,コレステロール 結晶塞栓 … · 軽度の高中性脂肪血症を認めた。また,BUN 75mg/dl,CRNN

12.2mg/dl),胸部レントゲンでは尿毒症肺の所見もみられたために入院後第19病日にnafamo-

stat mesilateを用いて血液透析導入となった。また,第23病日からCCEに対してLDL吸着療法(鐘淵化学社製リポソーバー LA-15システム)を計10回施行した。LDL吸着療法施行にともない趾端部皮膚病変の自他覚症状の劇的な改善と腎機能の軽度改善が得られた。しかし,LDL

吸着療法施行後にも依然として好酸球増多(2308/mm3,13.5%),CRP高値(2.2mg/dl),および腎機能障害(CRNN 5.16mg/dl)を認めたために,第55病日からprednisolone(20mg/day)投与を開始した。その結果第75病日には好酸球 数(358/mm3,2.5%),CRP(0.2mg/dl), および腎機能(CRNN 3.97mg/dl)の改善が得られた。また,この時点において3.3g/dayとnephrotic rangeの蛋白尿を認めたために,can-

desartan(2mg/day)の併用投与も開始した。これらの治療により,蛋白尿の減少(1.2g/day)と腎機能改善が得られ(CRNN 3.48mg/dl),血液透析からの離脱に成功して平成14年1月19

日第98病日に症状軽快退院となった。その後も外来通院治療中であり,平成15年1月現在prednisolone 2.5mg/day,candesartan 4mg/day

投与中であるがCCE再発もなく腎機能も安定(CRNN 3.29mg/dl)している。

腎生検第46病日に施行した腎生検では,光顕的に

約30個の糸球体が得られ,その中12個は完全に硬化し荒廃していた。残りの18個の糸球体においてmesangial sclerosisが著明であり,nod-

ular lesionが形成され,diffuse lesionもみられた。図3はHE染色弱拡像であり,mesangial sclero-

sisをともないながら軽度collapse状を呈している2つの糸球体,および広範にatrophyを示している尿細管,あるいは一部castをともなう尿細管が認められた。間質への炎症細胞浸潤も一部では顕著に認められ,AFOG染色では間質のFibrosisも中等度認められた。左下部には小

葉間動脈と思われる小血管内腔にneedle-shaped

cleftsがみられた。図4,図5はいずれもPAS

染色であり,著明なmesangial sclerosisにともなうnodular lesionおよびdiffuse lesionが認められた。図6もPAS染色であり,球状硬化を呈した糸球体と著明な硝子硬化がみられる輸出入細動脈が認められた。図7のPAS染色像ではmesangial sclerosisを呈する糸球体のcapillary

lumen内にneedle-shaped cleftが認められ,またこの糸球体の3時から8時の方向にかけては軽度のepithelial cell増生がみられ,一部細胞性半月体様にもみえた。さらに図8もPAS染色であり,図3のHE染色像でもみられた小葉間動脈内腔のneedle-shaped cleftsが認められた。一方,蛍光抗体法では,IgG,IgA,IgM,C3c,C1q,C4,Fibいずれも陰性であった。さらに電顕では,著明なmesangial cellの増生をともなわないdiffuse mesangial sclerosisと基底膜のびまん性肥厚およびepithelial foot process effacementを認めたが,depositsは認めなかった。以上,腎生検の結果では,糖尿病性腎症およびコレステロール結晶塞栓症との病理組織診断であった。

考  察コレステロール結晶塞栓症(CCE)は,高度

の動脈硬化や糖尿病などの基礎疾患をもつ比較的高齢者の腎不全の原因として最近注目されつつある疾患であり,一般的には急性,亜急性の経過をとる続発性(二次性)および慢性の経過をとる特発性(自然発症型)に分類される 1,2)。続発性の発症機序としては,1)動脈カテーテル検査,経皮的血管形成術,あるいは心血管手術などの機械的刺激により高度に硬化した動脈壁からアテローマ塊が剥離する場合,2)抗凝固療法などにより粥状硬化表面を覆っている血栓が溶解して潰瘍面から微小なコレステロール結晶が飛散する場合,などが主に考えられている 3)。いずれにしても腎(約80%と最多),皮膚,肝,膵,副腎,脳,消化管などの多臓器の血管に塞栓をもたらし,これらが単独あるいは重複

- 30 -

腎炎症例研究 20巻 2004年

- 31 -

第39回神奈川腎炎研究会

Page 4: 比較的短期間に下肢潰瘍と腎機能低下の増悪がみられ,コレステロール 結晶塞栓 … · 軽度の高中性脂肪血症を認めた。また,BUN 75mg/dl,CRNN

して冒されるために多彩な臨床症状を呈するため診断に苦慮することが多い 4)。本症例では,未治療の高血圧,糖尿病,高脂

血症があり,造影CT検査所見でも明らかなように,高度な動脈硬化と壁在血栓が存在する状態で施行された心臓カテーテル検査がCCEを惹起したと考えられる。臨床経過においては,数ヶ月かけて亜急性に進行した腎不全,趾端の潰瘍壊死病変,好酸球増多,CRP上昇などが出現したが,文献によると,血液検査上は非特異的な炎症反応がほとんどの患者に認められ,中でも好酸球増多は40~ 70%の症例にて報告さており診断の指標として有用とされる 5)。好酸球増多の機序としては,コレステロール結晶が血管壁において多核白血球を介して内皮細胞障害をもたらし,好酸球遊走作用のあるC5aが活性化されるためとされている。その他低補体血症なども報告されているが 6),本症例では正常範囲内であった。いずれにしても確定診断は皮膚生検や腎生検

によるが,これにはCCEを疑うことが前提にある。同様の臨床症状を呈する鑑別疾患は,全身性血管炎や膠原病,薬剤性急性間質性腎炎,造影剤による急性腎不全など多彩であり,そのためCCEが疑われなかったり,または疑われても全身状態不良で生検が行われず,もしくは生検されても得られた組織内でCCEが証明されないことも多く,このためCCEの組織診断の多くは剖検によるものであった 7)。本症例では臨床症状,血液検査所見から入院時からCCE

を疑ってすぐに皮膚生検を施行してCCEの確定診断に至り,早期に治療を開始することができた。また,腎生検については,患者からの同意を得るのに時間がかかり,入院約1ヶ月後に施行したが,皮膚生検および腎生検の両組織において,CCEに特徴的な所見である小動脈内および糸球体内のコレステロール結晶(needles-

shaped clefts)を証明することが可能であった。このようにCCEを疑った場合には可能な限り早期に生検を行って確定診断し治療を開始する

ことが重要であると考えられる。臓器障害をともなうCCEの一年死亡率は複

数の報告において64~ 87%と非常に高く,極めて予後は不良であり,またこれまでのほとんどの報告では根治的な治療法は確立されていない 7,8,9)。主な死因としては,1)CCE再燃,2)心不全,3)悪液質が挙げられており,最近の報告ではこれらに対して1)心臓カテーテル検査,血管形成術,心血管系手術,あるいは抗凝固剤投与などの誘因の回避,2)降圧薬や利尿薬による高血圧や心不全の適正な管理,3)血液透析や腹膜透析による腎不全治療,4)経腸あるいは高カロリー輸液による十分な栄養管理を徹底したところ,一年生存率が79%とこれまでの報告に比較して良好な成績が得られている 10)。本症例では,LDL吸着療法が施行され,趾端

部皮膚病変の自他覚症状の劇的な改善と腎機能の軽度改善が得られた。CCEに対するLDL吸着療法の応用は以前にも報告があり,その作用機序はLDL吸着療法の元来の適応疾患である閉塞性動脈硬化症に対する作用機序と同様であり,1)直接的なLDL,VLDL低下作用,2)未知の物質の吸着除去作用が関係し,前者は例えば酸化LDL除去による炎症性サイトカイン減少や内皮細胞機能改善による炎症反応抑制および末梢循環改善をもたらし 11,12),後者は血液凝固能改善などへの関与が指摘されている 13)。本症例では,LDL吸着療法後に施行した低

用量ステロイド投与によって速やかに好酸球数と腎機能のさらなる改善が得られ,結果的に血液透析からの離脱に成功した。CCEでは全身性の炎症反応が強く認められるために,抗炎症作用を期待されて副腎皮質ステロイド投与が以前から行われていたが,予後に関する効果に関しては否定的な報告が多かった 4,7)。最近ではprednisolone 50mg/day程度の高用量ステロイド投与が有効であったとの報告もされているが 14,

15),CCEを発症するリスクの高い老齢者や糖尿病患者に長期間高用量ステロイド投与を施行す

- 32 -

腎炎症例研究 20巻 2004年

- 33 -

第39回神奈川腎炎研究会

Page 5: 比較的短期間に下肢潰瘍と腎機能低下の増悪がみられ,コレステロール 結晶塞栓 … · 軽度の高中性脂肪血症を認めた。また,BUN 75mg/dl,CRNN

ることにともなう動脈硬化促進や耐糖能悪化などによる心血管系に対する副作用の懸念は決して小さくない。最近の報告では皮膚症状をともなわない腎機能障害のみのCCEに低用量ステロイドを投与して比較的良好な結果が得られたとの報告もあり 16),副腎皮質ステロイドがCCE

に対して有効であるとしても,ステロイドの投与量は低用量の方が副作用の面からも好ましいと考えられる。この点,今回我々がCCEに対して施行したLDL吸着療法と低用量ステロイド投与の併用療法は,ステロイドの副作用を軽減しつつ両者の相乗的あるいは相加的な治療効果が期待でき,今後CCEへの治療法として有望である可能性が考えられる。以上,糖尿病性腎症にCCEを合併し短期間に腎機能低下をきたして透析導入となった症例に対し,LDL吸着療法と低用量ステロイド投与の併用療法を行い症状の軽快を得て透析からの離脱に成功したので報告した 17)。

文  献1)Scoble JE, O'Donnell PJ. Renal Atheroembolic

disease: the Cinderella of nephrology? Nephrol

Dial Transplant, 11: 1516-1517, 1996.

2)Scolari F, Bracchi M, Valzorio B, et al .

Cholesterol atheromatous embolism: an increas-

ingly recognized cause of acute renal failure.

Nephrol Dail Transplant, 11: 1607-1612, 1996.

3)Applebaum RM, Kronzon I. Evaluation and man-

agement of cholesterol embolization and the blue

toe syndrome. Curr Opin Cardiol, 11: 533-542,

1996.

4)Scolari F, Tardanico R, Zani R, ct, al. Cholesterol

crystal embolism: A recognizable cause of renal

disease. Am J Kidney Dis, 36: 1089-1109, 2000.

5)Kasinath BS, Corwin HL, Bidani AK, et al.

Eosinophilia in the diagnosis of Atheroembolic

renal disease. Am J Nephrol, 7: 173-177, 1987.

6)Cosio FG, Zager RA, Sharma HM. Atheroembolic

renal disease causes hypocomplementaemia.

Lancet, 2: 118-121, 1985.

7)Fine MJ, Kapoor W, Falanga V. Cholesterol

crystal embolization: a review of 221 cases in the

English literature. Angiology, 38: 769-784, 1987.

8)Thadhani RI, Camargo CA Jr, Xavier RJ, et al.

Atheroembolic renal failure after invasive proce-

dures. Natural history based on 52 histologically

proven cases. Medicine, 74: 350-358, 1995.

9)Dahlberg PJ, Frecentese DF,Cogbill TH.

Cholesterol embolism: experience with 22 his-

tologically proven cases. Surgery, 105: 737-746,

1989.

10)Belenfant X, Meyrier A, Jacquot C. Supportive

treatment improves survival in multivisceral cho-

lesterol crystal embolism. Am J Kidney Dis, 33:

840-850, 1999.

11)Muso E,Mune M, Fujii Y, et al. Significantly

rapid relief from steroid-resistant nephrotic syn-

drome by LDL apheresis compared with steroid

monotherapy. Nephron, 89: 408-415, 2001.

12)Tamai O, Matsuoka H, Itabe H, et al. Single

LDL apheresis improves endotheliumdependent

vasodilatation in hypercholesterolemic humans.

Circulation, 95: 76-82, 1997.

13)Kojima S, Ogi M, Sugi T, et al. Changes in

plasma levels of intric oxide derivative during

low-density lipoprotein apheresis. Ther Apher, 1:

356-361, 1997.

14)Fabbian F,Catalano C, Lambertini D, et al. A

possible role of corticosteroids in cholesterol

crystal embolization. Nephron,83: 189-190, 1999.

15)Mann SJ,Sos TA. Treatment of atheroemboliza-

tion with corticosteroids. Am J Hypertens, 14:

831-834, 2001.

16)Nakahama H, Sakaguchi K. Small dose oral

corticosteroid treatment rapidly improved renal

function in a patient with an acute aggravation of

chronic renal failure due to cholesterol embolism.

Nephrol Dial Transplant, 16: 872-873, 2001.

17)Tamura K, Umemura M, Yano H, et al. A case

- 32 -

腎炎症例研究 20巻 2004年

- 33 -

第39回神奈川腎炎研究会

Page 6: 比較的短期間に下肢潰瘍と腎機能低下の増悪がみられ,コレステロール 結晶塞栓 … · 軽度の高中性脂肪血症を認めた。また,BUN 75mg/dl,CRNN

of acute renal failure due to cholesterol crystal

embolism treated with LDL apheresis followed

by corticosteroid and candesartan. Clin Exp

Nephrol, 7:67-71,2003.

図の説明

図1 当院入院後経過

図2 皮膚生検HE染色像 図3 腎生検HE染色弱拡像

- 34 -

腎炎症例研究 20巻 2004年

- 35 -

第39回神奈川腎炎研究会

Page 7: 比較的短期間に下肢潰瘍と腎機能低下の増悪がみられ,コレステロール 結晶塞栓 … · 軽度の高中性脂肪血症を認めた。また,BUN 75mg/dl,CRNN

図4 腎生検PAS染色像

図5 腎生検PAS染色像

図6 腎生検PAS染色像

図7 腎生検PAS染色像

図8 腎生検PAS染色像

- 34 -

腎炎症例研究 20巻 2004年

- 35 -

第39回神奈川腎炎研究会

Page 8: 比較的短期間に下肢潰瘍と腎機能低下の増悪がみられ,コレステロール 結晶塞栓 … · 軽度の高中性脂肪血症を認めた。また,BUN 75mg/dl,CRNN

討  論 乳原 どうもありがとうございました。臨床の立場から,質問がありましたら。はい,鎌田先生。鎌田 私たちは急性腎不全のコレステロール塞栓症を4例見ているのですが,ほかにもいくつか詰まっている組織を見ているのですが,臨床経過があまり典型的ではないのであれですが。急性腎不全を4例見ていて,うち3例は2年ぐらいのあいだに死亡してしまいました。1例だけ,何とか維持透析をしているのですが,悪くなったところはよくなりませんね。太い血管を全部保っていますが,足の細い血管が全部つぶれて,細いというか,我々の肉眼では見えないレベル,顕微鏡レベルの血管がつぶれているのだと思うのですが,100M歩くと足が痛くて歩けないと,いつも言いながら透析に通ってこられます。 先生が先ほどご質問されていたことで,cho-

lesterol cleftが腎臓のなかにあまり見えないけれども,これでいいのかということがありましたが,私たちが見た急性腎不全もそれほどたくさんないのですね。ですから,このぐらい見えれば,私はこれでなったのではないかと思います。我々の4例とも,ほかに原因はあまり考えられずに,わずかにcholesterol cleftが見えただけだったと思います。それから,ああいう皮膚生検は非常に役立つことも,私たちも経験しておりますので,先生の所見と同じかと思います。そのようなところでしょうか。田村 1つお聞きしたいのですが,先生のご経験で,例えばうちですと3~ 4カ月,本当にCAGが誘引だとした場合にタイムラグがあるわけですが,先生方の症例ではタイムラグはどの程度でしょうか。鎌田 機序から考えますと,たぶん腹部の血管内皮がはがれて,そこからcholesterol cleftがたくさん提供されて,あちこちが詰まるということで,1例は1年間以上新しい病変がどんどん起こって,発作が起こると,ここから下がリ

ベードレチカラリス全部になるのですね。胸から下が全部なります。それを繰り返すような症例で,亡くなってしまうのではないかと思っていたのですが,いろいろやっているうちにうまくいきまして,いま,その方は安定されています。一番重症だった方がいまは安定されているという,何か不思議な状況です。乳原 この方はいま演者が言われたとおり,カテーテル検査をして3カ月後に徐々に悪くなってきている。組織から見ると,すべての糸球体がコレステロール血症で埋められているわけではないのに,腎機能だけは異様に悪くなる。その病態をどう考えるかということが大切だと思います。発症後ある時期に治療で戻ってくる症例もあることは,よく最近,いくつか報告されています。どなたか,よろしいでしょうか。では,病理からお願いします。重松 コレステロール結晶塞栓症については,この研究会でもかつて報告されて,私の印象に残っているのはこういう発作のあとにANCA

が上がってきた。そういう話題があったことを覚えておりますが。いろいろ話題をつくる病気ですが,きょうの症例では,私は腎病変で3つのタイプの組織病変がこれで起こっているということをお示ししたいと思うのです。【スライド04,06,07】送られてきた組織標本で一番ひどかったのはここですね。これは明らかに大きな肉芽腫性の病変ができています。異物肉芽腫です。それが血管とどういう関係にあるかということを,標本が連続切片で切られているので見ました。まず1つの形は,血管のなかではなく,はじめは血管のなかでしょうけれど,それが血管壁を壊して,このように異物性の肉芽腫をつくる場面をお見せします。【スライド07】これをPAM染色で見ますと,血管壁がここにあります。そして血管壁がここで壊されてしまって,ここから出てきた大きな固まり,つまりコレステロール結晶の固まりが異物肉芽腫を腎臓のなかでつくっているところです。こちらは糖尿病の変化が出ていて動脈硬

- 36 -

腎炎症例研究 20巻 2004年

- 37 -

第39回神奈川腎炎研究会

Page 9: 比較的短期間に下肢潰瘍と腎機能低下の増悪がみられ,コレステロール 結晶塞栓 … · 軽度の高中性脂肪血症を認めた。また,BUN 75mg/dl,CRNN

化もけっこうあるのですが,ここにはコレステロール結晶は見られません。【スライド04】くどいのですが,血管壁があって,そしてこれが壊されているところで,異物の肉芽,giant cellがこれを取り巻いています。間質病変として,かなりの障害を与える可能性があります。【スライド05】それから,もう1つは演者も強調されていたような,内腔に塞栓ができて,そしてこの末梢がすごい循環障害になるわけです。【スライド02】そうしますと,実際にはコレステリン結晶自体は出ていませんが,ご覧のように血管がcollapseを起こして,明らかに虚血性の変化を起こしているわけで,おそらく足だったら壊疽性の変化になるし,糸球体でも非常に強い虚血性の変化が二次的に起こってくる。これも腎障害を悪くする1つの原因になります。【スライド01】この糸球体で,演者がすばらしい場面を見せてくれたのですが,ここには4つの糸球体があり,1つは全節性硬化糸球体です。この2つの糸球体は糖尿病の変化でいいと思いますが,この下の糸球体にはここにcrescentがあります。small crescentがあります。私は,ここにcrystalがあると,そのでき方がうまく説明できるかと思ったのですが,残念ながら送られてきた生検のなかにはなかったです。ですから,この糸球体をずっと連続切片で見ていきました。【スライド03】そうすると,ここにcrescentがあります。そしてコレステリンcrystalが塞栓しています。おそらくは,これが原因で,管外性病変がおこったと考えます。PAM染色でのようにはっきりしたcrescentになっていなくて,足細胞が少し腫大したように見えますけれども。ですから,演者が示された,スライドのように部分的なcrescentはこういうところに塞栓ができて,先ほどの血管に異物反応を起こしたように,糸球体で塞栓がもし起こると,おそらくループの壊死を起こしてcrescenticな変化を

部分的に起こす可能性があるのだろうと思いました。 そういうわけで,この症例から,きょう教えられた点は,コレステリン塞栓症による組織障害は腎臓では血管のなかだけではなく,間質にも起こるし,糸球体にも病変をまき散らすという,かなり恐ろしい病態であることだと思います。山口 【スライド】基本的に診断は糖尿病性腎症で,それにcholesterol crystal embolismが加わったということで,基本的にはいいと思うのです。こういうnodular regionがあって,比較的,尿細管間質病変もひどいのですが,残ったところもずいぶん内腔が開いて,上皮が扁平化していますので,我々が生検で見ている血管のオーダーはせいぜいアルクワーターから小葉間動脈ぐらいなので,実際は葉間動脈ぐらいからcholesterol embolismは起こりますので,この人の腎臓がいったいどこで起きているのか,ほかの場所でどのぐらいの頻度で起きているのかということは,なかなか予測がつかないわけです。私自身はあまり生検で見たことがないので,剖検例では一時まとめたことがありましたので,ずいぶん見てはいるのですが。 この症例でおもしろいと思ったのは,ここに出ていますね。たしかにcholesterol embolismが。それで重松先生が言われたように,segmental

なcollapseに伴う scleroticな病変をつくってくることも,ひとつ大きいだろうと思います。【スライド】これも弱拡で,血管内に閉塞するような形でemboryが起きているわけで,我々の検索でもだいたいはまず腎臓が全体にある程度,萎縮傾向を持っている。萎縮しますと,血管が少しローリングしてくるわけです。らせん状に萎縮を起こしてemborization,引っかかりやすい可能性があるわけです。それから,尿細管も同じように上皮の扁平化が比較的広範囲に見られているということで,相当太いオーダーの閉塞なり,何なりがベースにある可能性はあると思います。

- 36 -

腎炎症例研究 20巻 2004年

- 37 -

第39回神奈川腎炎研究会

Page 10: 比較的短期間に下肢潰瘍と腎機能低下の増悪がみられ,コレステロール 結晶塞栓 … · 軽度の高中性脂肪血症を認めた。また,BUN 75mg/dl,CRNN

【スライド】もっと糸球体硬化が進んだところで,先ほど重松先生が詳しくお述べになられたので,あれしますけれども,閉塞したあとですね。肉芽がどんどん広がって,このところに,弱拡だと見えないのですが,eosinoも必ず一緒に出てきている。やはり生検例はその辺がすごいなと思うので,我々は剖検例だと,あまりeosinoがこういうcrystalのgiant cellが周りを取り囲んでいるのですが,それに伴ってeosino-

philiaが一緒に出ているのですね。その辺が生検と剖検例の違いなのかと,感心して見ていたのですが。【スライド】強拡大ではなくて申しわけないのですが。ある程度,糸球体硬化が糖尿病に伴う腎の萎縮が相当広範囲に及んでいるというのが,まずベースにあるのだろうということは,これで。尿細管系が比較的残ったところも,上皮障害があるということで,何かもう少し太いオーダーの血管の閉塞も疑われるということだろうと思います。【スライド】これは閉塞したところで,周りに

plasma cellで,ここはあまり目立たなかったと思うのですが,ありますか。これはそうですか。重松 右側に。山口 これですか。重松 先生のほうが見える。これね。山口 そうです,eosinoですか。先生のほうが見える。【スライド】もう少しおもしろいのは,これは先ほど先生がお示しのように,血管壁が壊れて,granulomaをつくっていて,少しeosinoが実際は入っているのですが,このオーダーだとわかりません。【スライド】これでわかりますか。先生のほうが見えるね。お恥ずかしい話ですが,見えますか。この辺にeosinoがいるのです。ですから,giant cellでcrystalを取り囲んでいるなかに,こういうeosinoが一緒に出ているのです。【スライド】メドゥラに炎症ですか。結局,

cholesterol embolismは非常にatheromaの成分の

crystalは,シンボリックなものです。実際に全身的に,それが raptureして回るときには,必ずしもcrystalだけが回るわけではないのですね。atheromaの成分のmacrophageとか,いろいろな脂質を含んだものが,全身にシャワーのようにおそらく回るわけです。そういったものが,crystalがないのですね。メドゥラのバサラベクターのところに,このように細胞の浸潤というか,集積があってですね。eosinoが少し出ています。私は,何も見えていないのですが,こういったものが,何かアテロームの成分の何か目に見えないものが引っかかって,キャピアライズといいますか,そういったものを起こしているのかなと,弱拡で申しわけないのですが。【スライド】ここで少し出ています。eosinoがこうやって。ですから,バサラベクターのあたりに何か引っかかって,軽い炎症を起こしているわけです。ステロイドがなぜ効くのかというのは,すごく私も疑問で,おそらくこういういろいろなatheromaの成分に対するeosinoを含めた免疫反応に対して,非常に効果的に働いている。crystalという形で,シンボリックにはもう,あのcrystalは全部古いものですね。ですから,臨床症状としては,カテーテルをやってからある程度タイムラグがあるのですが,おそらく既に起きていたのだろうと思います。ですから,繰り返し起きていたなかで今回,もう少し太いオーダーの何らかのemborizationがあって,ARFのような状態ができているのだろう。 ですから,ほとんど我々は解剖例で見ますと,いまの小葉間動脈にあったのは両方とも古いものです。フレッシュなものは,もっと血管のなかに,シンボリックにポンとあるぐらいで,実際にいま起きたものはこの症例ではないわけです。いずれも古い変化で,逆にこういうものは新しい変化と言ったほうがいいのかと。私は何も言えないのですが,少し関係があるのではないかと思って見ていました。以上です。乳原 どうもありがとうございました。いまの病理の発表に対して,はい。

- 38 -

腎炎症例研究 20巻 2004年

- 39 -

第39回神奈川腎炎研究会

Page 11: 比較的短期間に下肢潰瘍と腎機能低下の増悪がみられ,コレステロール 結晶塞栓 … · 軽度の高中性脂肪血症を認めた。また,BUN 75mg/dl,CRNN

小林(修) 湘南鎌倉総合病院の小林です。実は私どもの病院では,いまちょうど3例にてコレステロール塞栓の腎病変が多いなということで,私どもの病院の性質もあるかもしれません。腎生検の組織像もいろいろ検討をしてみたり,いろいろな疑問がありますが,治療方法にも関連しますし,また病理の所見でも関連することをお伺いしたいのです。 ステロイドに何を期待して使うか。LDL

apheresisに何を期待して使うか。おそらくステロイドはある炎症を抑えたいということ,LDL

apheresisは血管新生を考えたい。そうすると,ステロイドが炎症を抑えることになると,コレステロール塞栓がなぜということになって,いまはeosinoの問題をおっしゃっていましたけれども,活性化されたmacrophageとcleftのなかに実は何があるのかという,そういう病理の問題を考えさせられます。 それで,私はわからないのですが,cleftのところにあるものと,macrophageの浸潤の度合いがどうなっているのかと,いつもというか,いま考えているのですが。例えば,脂肪そのものを凍結切片でズダンスリーで染めてみて,その分布と浸潤細胞の関係などが検討された報告とか,あるいは病理の先生のその辺のコメントがあれば勉強になるのですが,いかがでしょうか。山口 いや,あまり小林先生の言われるようなところまで,我々は実際にやっていないのですね。ですから,だいたいああいう器質化したcrystalを,我々は剖検例で見ていることがほとんどですし。比較的新鮮なものをどうやってdetectできるかというと,非常に難しいように思いますので,いまのところちょっと明確な。たしかにmacrophageとか,何かも飛ばされてくるような気がするのですが。ある程度,macrophageですと,どこでも逃げていくような感じもしますし。よくわからないのですが。実際にはいろいろな病態としてとらえられるのではないかということは,言えるのだろうと思います。

小林(修) あのcleftのなかには,コレステロールがいま,そこにもあると考える。山口 病理は,ああいう抜けたところだけは,血漿という形で我々は理解しているだけで。だた,ああいう異物巨細胞がそれに伴っていろいろな反応を起こして,二次的なeosinoも,それに伴って反応を起こしているのだろうということは言えると思いますけれど。小林(修) ありがとうございます。重松 私自身も詳しいことはわかりませんけれども,最近,査読に回ってきた論文で,こういうところを研究している人が,コレステロールが沈着するときに,エステル化しているものと,していないのがあるそうですね。どうもエステル化していないものが組織障害が強いという論文がありまして,これは『Nephrology』という雑誌に近々載ると思いますので,出ましたら呼んでみてください。乳原 では木村先生。木村 聖マリアンナ医科大学の木村ですが,病理の所見でお伺いしたいのですが。先ほど,組織像で尿細管の拡張と上皮の扁平化,間質の浮腫と,細胞浸潤という,まさにATN(acute

tubular necrosis)の所見があったと思うのですが,これはそういうものの合併が今回の腎機能の悪化に関係したと,そのように考えることはできないのでしょうか。その辺は病理学的にはいかがでしょうか。山口 木村先生の言われるとおりで,crystalそのものは組織像的にはいずれも古いものですから,いま起きたものではないので,今回のARF

にかなり絡んでいるのは,そういう目に見えませんけれども,ATN様の所見があるので,もう少し太いオーダーの血管に何か起きているのではないか。それがどのぐらいの頻度で起きたか,それはもうわかりません。ただし,やはり先ほどのメドゥラの変化を見ますと,少しいろいろなものが動いているように見えますので,やはりcholesterol embolismに絡んだ現象が起きて,そういうことが起きてきたのではないかと

- 38 -

腎炎症例研究 20巻 2004年

- 39 -

第39回神奈川腎炎研究会

Page 12: 比較的短期間に下肢潰瘍と腎機能低下の増悪がみられ,コレステロール 結晶塞栓 … · 軽度の高中性脂肪血症を認めた。また,BUN 75mg/dl,CRNN

考えたほうがいいように思います。木村 どうもありがとうございます。それに関係して,臨床のほうでお伺いしたいのですが。レニンですね。今回,悪化したときにレニンが上昇したとか,そういうことはないのでしょうか。要するに renovascular hypertensionのような病態ですね。田村 先生がおっしゃるように,レニン活性が11と高値を示しておりまして,いわゆる高レニン状態になりました。ただし,ANPも高値を示していたので,血管内ボリュームが足りないということではなく,血管内ボリュームはかなりあるけれども,レニン活性も高いということで,先生がおっしゃったように虚血による高レニン血症であった可能性はあると思います。木村 腎動脈は特に調べてはいらっしゃらないのですか。田村 ええ,ただ造影CT検査で,それほど細かくは見ないのですが,それで見た範囲では明らかな狭窄等は認めませんでした。木村 そうですか。どうもありがとうございます。田村 あとはレノシンチもやったのですが,両側とも同じような高度障害パターンを示しておりました。木村 両側の腎動脈狭窄はなかったかと思ったのですが。田村 MRAとかをやればよかったのですが,やりませんでした。すみません。木村 どうもありがとうございます。乳原 この症例もそうですが,発症後かなり遅れて,ある時期になると、かなり蛋白尿が出てくるが経過をみているとそのうち蛋白尿もへってくるという報告がされている。このことから,ある時期,血管透過性が亢進するような状態が起こってくるように思えます。そういう症例に対して,ステロイドとか,LDL吸着が効くのかもしれないと考えるわけですが。何か,ほかにございますでしょうか。 カテーテルにより検査されるものは有名です

が,北里大学の報告でも,膵炎を起こしたあとに起こったとか,さらにまったくカテーテル操作をしていないにもかかわらず自然発症的に起こってきた症例もあることを付け加えておきたいと思います。よろしいでしょうか。では,これで第3席を終わりたいと思います。連絡ですが,病理のスライドが3階奥のパーム・ハイビスカスの部屋にあるということで,第1

部終了後,休憩のときに見ていただけたらということです。よろしいですか。

- 40 -

腎炎症例研究 20巻 2004年

- 41 -

第39回神奈川腎炎研究会

Page 13: 比較的短期間に下肢潰瘍と腎機能低下の増悪がみられ,コレステロール 結晶塞栓 … · 軽度の高中性脂肪血症を認めた。また,BUN 75mg/dl,CRNN

重松先生_01

重松先生_02

重松先生_03

重松先生_04

重松先生_05

重松先生_06

重松先生_07

山口先生_01

山口先生_02

山口先生_03

山口先生_04

山口先生_05

山口先生_06

山口先生_07

山口先生_08

- 40 -

腎炎症例研究 20巻 2004年

- 41 -

第39回神奈川腎炎研究会

Page 14: 比較的短期間に下肢潰瘍と腎機能低下の増悪がみられ,コレステロール 結晶塞栓 … · 軽度の高中性脂肪血症を認めた。また,BUN 75mg/dl,CRNN

山口先生_09

山口先生_10

- 42 -

腎炎症例研究 20巻 2004年

- 43 -

第39回神奈川腎炎研究会