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1 実践情報社会論I (デジタル時代の著作権とオープン化) 野口 祐子 渡辺 智暁 増田 雅史

実践情報社会論I - WordPress.com · 2015-03-31 · ※インターネットの社会的側面、itと社会を扱う研究所 • 専門は情報通信政策(特に米国の政策)、情報社会

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実践情報社会論I(デジタル時代の著作権とオープン化)

野口 祐子

渡辺 智暁

増田 雅史

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講師紹介野口祐子(のぐちゆうこ)

• 森・濱田松本法律事務所 パートナー弁護士– 知的財産権(著作権・特許権・商標権・IT関連法・国際紛争解決などが専門)

– 国立情報学研究所 客員准教授

– 文化庁や経済産業省の委員会の委員等• 2001年から2005年まで米国で著作権法制度・著作権政策等を研究

• 最近の興味は、フェア・ユース、情報の共有と独占のバランスとイノベーション(特に科学情報)、情報と政治と統治と立法の関係、など

• NPO法人 クリエイティブ・コモンズ・ジャパン常務理事

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講師紹介渡辺智暁(わたなべともあき)

• 国際大学GLOCOM(グローバル・コミュニケーション・センター) 主任研究員・講師※インターネットの社会的側面、ITと社会を扱う研究所

• 専門は情報通信政策(特に米国の政策)、情報社会論

• ウィキペディア日本語版で管理者ボランティアの経験

• 最近の興味は、メディア産業の再編、オープンガバメントなど

• NPO法人 クリエイティブ・コモンズ・ジャパン理事

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講師紹介増田雅史(ますだまさふみ)

• 森・濱田松本法律事務所 弁護士

• 経済産業研究所 コンサルティングフェロー

• 専門分野はIT全般、デジタルコンテンツ、金融規制法

• 経済産業省に出向し、コンテンツ政策の立案に従事

• NPO法人 クリエイティブ・コモンズ・ジャパン 事務局

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第2回 講義

2011年5月13日

担当:増田

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前回の復習①

• 情報とは–知識、メッセージ 自由な流通を志向

–情報財 囲い込みを志向

• 著作権とは–上記のバランスを取るため、一定の情報の利用を独占させる仕組み。独占権を与えることによって、創作のインセンティブを生む。

–具体的には・・・「著作物」となるためには、「創作的」な「表現」でなければならない。事実やアイデアに対しては保護が与えられない。

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前回の復習②

• 著作権法は「原則禁止、個別的な例外はOK」

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前回の復習③

• 個別的な例外規定の問題点–新しい利用形態の登場に伴ない、常にアップデートが必要になっている。

–ひとつひとつ立法するのに時間がかかるうえ、一定の限られた声しか反映されない。

–限定的な条件の例外規定が増加して、パッチワーク状態になってきている。しかも、難解で素人には読めない。

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用語の整理

• 著作物

• 著作権• 著作者人格権

• 著作者• 著作権者

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例外規定以外に著作物の利用を認める制度として…

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裁定制度(67条)

• 公表された著作物又は相当期間にわたり公衆に提供され、若しくは提示されている事実が明らかである著作物は、著作権者の不明その他の理由により相当な努力を払つてもその著作権者と連絡することができない場合として政令で定める場合は、文化庁長官の裁定を受け、かつ、通常の使用料の額に相当するものとして文化庁長官が定める額の補償金を著作権者のために供託して、その裁定に係る利用方法により利用することができる。

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そもそも、どうして「権利者不明」という事態が発生するのか?

• 著作権は、創作の時点で自動的に権利が発生する。(無方式主義)

–登録は権利発生の要件ではなく、著作物や権利者を網羅するデータベースは存在しない。

– これに対し、特許権・商標権などは、特許庁に出願して初めて権利が発生する=権利の有無を確認することが可能(登録がないなら権利がない)

• しかも、著作者の死後50年存続=相続発生–相続人も、自分が相続していることを認識していない場合もある。

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裁定制度のバランス

• 権利者が不明ということは、どんなに努力しても許諾が取れない=合法に使えない、ということ

– これは「市場の失敗」である。(権利者を探し、交渉をするコストが巨大、または無限大であり、市場メカニズムが機能しない。)

• しかし、裁定制度を、あまりに簡単な要件で安易に認めてしまうと、許諾を前提としている建前がなし崩しになってしまう

– そこで、ある程度の要件を設定する必要がある。

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そこで裁定制度。しかし…

• 現実にはほとんど利用されていない– 「相当な努力を払つてもその著作権者と連絡することができない場合」のハードルが高い

• 文化庁の見解として・・・– 「利用したい著作物の著作権者について社会的に見て常識的な方法により著作権者を捜すことをいいます。単に時間や経費を要するからとか、捜

すべき著作権者の人数が多いからというのは、捜す手間を軽減する理由にはなりません。」

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裁定制度• 調査の具体例

– 「人名辞典」、「人事興信録」、「著作権台帳」、「名鑑」等の名簿・名鑑類等を使った調査

– 元勤務先や権利者団体への問い合わせ– 住所地の市町村役場等への照会– インターネットでの広告(2ヶ月以上)又は新聞・雑誌等のいずれか

– 死亡時期の確定(著作権期間確定のため)• この調査費がまかなえないため、そもそも申請できない人が多数

• 平成21年改正で見直し

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• 著作権調査対象約72,000名

• 保護期間満了約20,000名

• 許諾を得た著者は約300名

• 著作権者連絡先不明の約38,000名の著者について、文化庁長官の裁定

• 07年度、著作権者の調査と電子化費用は8100万円。この予算では1万冊ちょっとしか公開できない

国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」のケース

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平成21年改正

• 「相当な努力を払ってもその著作権者と連絡をすることができないとき」の明確化(施行令7条の7)① 広く権利者情報を掲載している刊行物その他の資料を閲覧すること(場合によってはウェブ検索可)

② 著作権等管理事業者その他の広く権利者情報を保有していると認められる者に対し照会すること

③ 時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙への掲載その他これに準ずる方法により、公衆に対し広く権利者情報の提供を求めること(CRICのHPで済ませることも可)

• 上記の「すべての方法」をとる必要があり、ハードルは依然として高い。

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裁定実績の推移

• 平成21年改正著作権法の施行は平成22年1月1日。施行日前の申請については改正前の67条が適用される(改正附則3条)。

• 昭和47年~平成10年の申請 20件

• 平成11年以降の申請件数は・・・

5

H20

0

H14

0

H15

5

H12

2

H13

2

H17

0

H18

2812402

H22H21H19H16H11

※いずれも申請された著作物の数ではなく、申請そのものの件数。http://www.bunka.go.jp/1tyosaku/c-l/results_past.htmlより増田作成

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間接侵害

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直接侵害とは

• 直接侵害→直接著作権法違反をする人– 企業が自分でUPする場合(雑誌の例)

– ユーザーが侵害している例(例えばP2P)

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雑誌閲覧サービス「Corseka」

• サイトで雑誌を定価購入すると、そのデータを専用のビューワー(DRMつき)で閲覧でき、配送料を支払えば現物が宅配される仕組み

• 「ユーザーが購入した雑誌をスキャンして電子化することは、個人利用の範囲。我々はそれを代行している。電子データも購入者以外閲覧できず、ダウンロードなどもできない仕様にしている」 との立場

• しかし、実際には抗議が殺到し、2009年10月7日のサービスインから1週間でサービス停止

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間接侵害とは

• エンド・ユーザーが直接侵害をしている場合に、その直接侵害行為に関与しているサービス業者等の行為を、間接的な侵害行為として捉える侵害類型。– 一人ひとりのユーザーを訴えるのは大変。そこで、サービス業者を押さえれば「根こそぎ」侵害を防止できる、という発想。(つまりサービス業者等に差止請求や損害賠償請求を行なうことで、ユーザーの行為の根元を絶つ。)

– 一方で、合法にも違法にも使えるサービスをユーザーが違法に使ったからといって、サービス業者が責任を問われたのでは不公平な場合もある。

→どのような場合に「間接侵害」を成立させるべきか。(特に、差止請求権を認めるべきはどのような場合か。)

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間接侵害の法理は米国で発展

• もっとも、いずれも判例法として形成(条文はない)

• 寄与侵害責任(Contributory Infringement)– ユーザーの侵害を知っており、かつ、かかる侵害を誘発しまたは実質的に貢献した場合。

• 代位責任(Vicarious Liability)– ユーザーの侵害を防止することができ、ユーザーの著作権侵害行為から何らかの経済的利益を得ている場合。(ユーザーの侵害を知っていることは要件ではない。)

• Grokster判決– その製品の特徴や、その製品が侵害目的に利用されるかもしれないという認識を超えて、著作権侵害を促進することに向けられた言動がある場合。

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Sony判決(ベータマックス事件)• 464 U.S. 417 (1984)• テレビ録画を防止したい映画会社がソニーを提訴• 間接侵害規定は、権利者の効率的な救済と、第三者が侵害と本質的に関係の無い行為を行う自由とのバランスをとらなければならない

• したがって、複製機器の販売は、他の商品の販売と同様に、合法的な目的のために広く用いられるものであれば、寄与侵害を構成しない。それは、単に「非侵害となる実質的な使用」(“substantial noninfringing uses”)をすることのできるものに過ぎない

• 無料テレビを家庭内で非商用目的でタイム・シフトする(time-shifting)ことはフェア・ユースにあたる

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その後の映画業界のビジネスモデル

• Sonyはベータマックスの販売を継続できることとなり、映画会社は、家庭内における録画やダビングの阻止をあきらめる

• 同時に、ビデオを使った積極的なビジネスモデルを展開(セルビデオ、レンタルビデオ)

• 今や、ビデオグラム・ビジネスの収入は映画上映の興行収入よりも大きい– 2009年の映画興行収入 約2,060億円

– 2009年のビデオグラム収入 約3,261億円

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P2Pのファイルシェアリングで再度注目

• Napsterサービス① ユーザーがソフトウェアをダウンロードする。

② Napsterのサーバーではユーザーが共有しているファイル名がライブラリとして保存される。

③ ユーザーがNapsterのライブラリを通じて欲しいファイルを検索すると、Napsterがユーザーに対し、ファイル所有者のIPアドレスを送付する。

④ ユーザーはこれに基づき、ファイルを持っているユーザーから直接ファイルをダウンロードする。

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Napsterのしくみ

※ダウンロードは中央サーバを介さずに直接行われる。

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Napster判決

• A&M Records v. Napster, 239 F.3d 1004 (9th Circuit, 2001)

• Napster 社が、原告の著作権を侵害することを知りつつユーザによる侵害行為を奨励、幇助したとして寄与侵害責任を認める

• ファイル名のチェックによっても違法なMP3ファイルの監視は可能であるとして、代位責任を認める

• Space-shifting であるからフェア・ユースであるとの主張(Sony判決の基準に照らして)

→ No (したがってフェア・ユースではない)

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バイラル方式のP2P (ピュアP2P)の登場

• Grokster– ソフトウェアの開発者は、ソフトウェアをアップロードするのみ

–あとは、ユーザーが自由にダウンロードして、ユーザー同志でファイル交換

–セントラルサーバーなどはなく、ファイル交換も完全にソフトウェア製作者の手を離れている

→したがって、「管理支配」がない?

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Grokster判決(米国連邦最高裁)

• MGM Studios Inc. v. Grokster, Ltd., 545 U.S. 913 (U.S. 2005)• 分散型ファイル交換ソフトにつき、寄与侵害責任・代位責任双方が問われた。

• 著作権保護により創作を支援することと、著作権侵害の責任が成立する場面を限定することにより技術的なイノベーションを促進することのバランスをとることが重要である

• デバイス(ソフトウェアを含む)の配布にあたり、明示的な表現または侵害を助長するような積極的手段をとることによって、著作権侵害を促進する目的があると認められる場合には、(そのデバイスに合法的な利用方法があったとしても)そのデバイスを利用した第三者の行為について責任を負う。ただし、単に第三者がそのデバイスを使って侵害行為を行っていることを知っているだけでは足りない

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Grokster判決(続き)

• その製品の特徴や、その製品が侵害目的に利用されるかもしれないという認識を超えて、著作権侵害を促進することに向けられた言動がある場合には、ソニー判決の基準は該当しない

• (判決では、フィルタリング機能を導入する機会があったのにそれをしなかったことも考慮されたが)もちろん、その製品を使って著作権侵害とはならない実質的な利用ができる場合には、(積極的に侵害を助長するような意図があるなどの事実が認められない限り、)侵害を防止するような積極的な措置をとらなかったということだけでは、寄与侵害を認めることはできない

• 現在、「侵害を促進する言動」とは何か、という点について議論が進められている。(宣伝文句等を含め、著作権侵害を勧めると受け取られる内容の記載は注意する必要あり)

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日本での著作権に関する間接侵害規定

• 現在、明文規定は存在しない(Cf.特許法)– 単に侵害を助けただけの存在(幇助行為者)は、損害賠償請求はできるが、差止請求はできない、とするのが通説

• しかし、裁判所はいくつかの事案において、事実上、米国の判例法理をアレンジした法理を導入し、差止を認め始めている– 代表的な例が「ファイルローグ事件」– そのほか、プログラマの刑事事件(Winny事件)も発生

• いずれも、技術開発の自由とのバランスに対して、米国ほど意識的ではない

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背景にある「カラオケ法理」

• 最高裁判所判決 昭和63年3月15日 クラブ

キャッツアイ事件

• カラオケスナック店で、客に有料でカラオケ機器を利用させていた。

–歌唱(著作権侵害)するのは客であり、クラブは機器を提供しているのみであるから、直接侵害者ではない

–日本では間接侵害の規定はないのでクラブは責任なし!?

• しかし、最高裁は…

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• 客は,上告人らと無関係に歌唱しているわけではなく,1.上告人らの従業員による歌唱の勧誘,上告人らの備え置いたカラオケテープの範囲内での選曲,上告人らの設置したカラオケ装置の従業員による

操作を通じて,上告人らの管理のもとに歌唱しているものと解され,他方,2.上告人らは,客の歌唱をも店の営業政策の一環として取り入れ,これを利用

していわゆるカラオケスナックとしての雰囲気を醸成し,かかる雰囲気を好む客の来集を図って営業上の利益を増大させることを意図していたというべきであって,前記のような客による歌唱も,著作権法上の規律の観点からは上告人らによる歌唱と同視しうるものである

• ①管理支配要件、②営利目的要件、の二つが柱

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ファイルローグ事件(日本版Napster事件)

• サービス・プロバイダが、送信可能化権及び自動公衆送信権を侵害していると解すべきか否かについては、以下の点等を総合して判断すべきである。– サービス・プロバイダの行為の内容・性質– 利用者のする送信可能化状態に対するサービス・プロバイダの管理・支配の程度

– サービス・プロバイダの行為によって受ける同被告の利益の状況• 本件については・・・

– サービスの性質:違法行為が可能であり、また、実態としてその割合が極めて高い(MP3ファイル全体のうち96.7%)

– 管理支配性:ソフトウェアの配布という著作権侵害に必要不可欠な行為を行っており、また、サービスの利用方法を自ら説明している

– 営利目的性:将来有料化する計画があり、また、多様な方法により広告収入を得ることができる可能性がある

• よって、サービス・プロバイダが直接責任を負う。

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その後、「Winny」の登場

• Groksterと同様、バイラル方式のP2Pソフトウェア

• 日本では、民事事件ではなく刑事事件となる。– 「著作権法違反」の「幇助犯」

• なぜ刑事事件化?– 民事事件とするためには、自分で証拠集めをしなければならず、自分で弁護士費用を払わなければならない。

– 一方、刑事事件では、捜査機関には種々の強制捜査権があり、費用も不要である。

– その代わり、警察が動いてくれるのは重大事件のみ・・・

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金子氏Winny事件(京都地裁:有罪)

• 「Winnyが不特定多数者によって違法な著作物の送受信に広く利用されている状況にあることを認識しながら,その状況を認容し,あえてWinnyの最新版をホームページ上に公開して不特定多数者が入手できる状態にした上,ユーザーにこれをダウンロードさせて提供し」たことが、著作権法違反の幇助にあたる– Grokster事件と比べ「侵害を認容しながらあえて最新版を開発し提供した」という基準は、開発者にとってより厳しいもの。

• この基準を使うと、ほとんどすべてのソフトウェア開発会社が、著作権侵害の幇助になってしまう!?

• 素朴な疑問– 包丁メーカーは、「不特定多数者によって殺人、強盗、脅迫等に広く用いられていることを認識しながら、その状況を認容し、あえて新製品を広く流通させて不特定多数者が入手できる状態にしている」のではないか?

• 「技術的に中立」な道具の提供者をどう扱うか。

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金子氏Winny事件(大阪高裁:無罪)• Winnyのファイル共有機能は,P2P通信において,匿名性と送受信の効率化,ネットワークの負荷の低減を図った技術を中核とするものであり,…その技術,機能を見ると,著作権侵害に特化したものではなく,Winnyは価値中立のソフト,すなわち,多様な情報の交換を通信の秘密を保持しつつ効率的に可能にする有用性があるとともに,著作権の侵害にも用い得るというソフトであると認めるのが相当である。

• 価値中立のソフトであるWinnyをインターネット上で公開して提供した行為について,ダウンロードした者が著作権法違反行為を犯した場合に,提供者に幇助犯が成立するかが問題

• 価値中立のソフトをインターネット上で提供することが,正犯の実行行為を容易ならしめたといえるためには,ソフトの提供者が不特定多数の者のうちには違法行為をする者が出る可能性・蓋然性があると認識し,認容しているだけでは足りず,それ以上に,ソフトを違法行為の用途のみに又はこれを主要な用途として使用させるようにインターネット上で勧めてソフトを提供する場合に幇助犯が成立すると解すべきである。

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録画ネットとまねきTVの混乱

• しかし、「誰が侵害しているのか?」は、実はそんなに簡単な問題ではない

– 直接侵害?間接侵害?• これを浮き彫りにしたのが、テレビ局と海外テレビ視聴サービス業者との一連の訴訟

• 「録画ネット事件」と「まねきTV事件」の対比– ともに、テレビ局が、海外テレビ視聴サービス業者のサービスを問題視し、著作権侵害を主張

– 著作物利用の態様は「プレイスシフト」。

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高裁の段階では・・・録画ネット事件 まねきTV事件

2005年11月15日 知財高裁決定テレビ局の勝訴

2006年12月22日 知財高裁決定テレビ局側の敗訴

録画ネットがカスタマイズした、テレビパソコン(Linux搭載PC)を使用。ユーザは録画ネットからこれを購入し、録画ネットが接続、ハウジング。保守費用の名目で収益。

ソニーの市販品である「ロケーションフリー」テレビを使用。ユーザーが自ら購入してまねきTVへ送付したものについて、まねきTVが代行して接続し、ハウジング。

録画の際は自社製のユーザーインタフェース(ウェブサイト)を導入。ユーザーが、このインターフェースを用いてテレビ録画を遠隔操作する。

ストリーミングのみ。録画機能なし。(ただし、エアボードから操作できるデジタルレコーダを預かるサービスも提供。)

これは、録画ネットが構築している会社の録画サービスであると認定(会社が侵害主体)

ベースステーション(受信機)とエアボード(ディスプレイ)が1対1対応で、利用者が主体。公衆送信には該当しない。被告の関与は寄託を受けて事業所内に設置保管しているにすぎない

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その後のまねきTV事件

• 仮差止決定申立–東京地裁:テレビ局側の敗訴–知財高裁:テレビ局側の敗訴(前掲のもの)

• 差止請求–東京地裁:テレビ局側の敗訴–知財高裁:テレビ局側の敗訴–最高裁:テレビ局側の勝訴

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最高裁の判断構造:間接侵害論ではない

• まねきTVによる「送信可能化」行為があったかどうか、が結論を分けた。– 送信可能化とは・・・インターネットに接続された「自動公衆送信装置」に情報を「入力」し、「接続」して、「自動公衆送信」をし得る状態にすること。

• 「自動公衆送信装置」とは– それぞれの装置が、単一の機器あてに送信する機能しか有しない場合であっても、当該機器を用いて行われる送信が自動公衆送信であるといえるときは、自動公衆送信装置にあたるというべきである。

• 自動公衆送信の主体は– 当該装置が受信者からの求めに応じ自動的に送信することができる状態を作りだす行為を行う者と解するのが相当である。

– 当該装置が公衆の用に供されている電気通信回線に接続しており、これに継続的に情報が入力されている場合には、当該装置に情報を入力する者が送信の主体である。

• 本件においては– ベースステーションに情報を入力しているのは「まねきTV」であり、ベースステーションを用いて行われる送信の主体は「まねきTV」である。

– 何人も、「まねきTV」との契約により本件サービスを利用することができるのであるから、送信主体である「まねきTV」からみて、本件サービスの利用者は不特定の者(すなわち公衆)である。

• よって、– ベースステーションを用いて行われる送信は自動公衆送信にあたり、– ベースステーションは自動公衆送信装置にあたるから、– 自動公衆送信装置に情報を入力した「まねきTV」は「送信可能化」を行った。

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どう評価するか

• 一般論としては・・・– 間接侵害論と、行為主体論が紙一重であることがわかる。(差止請求ができるのであれば、どちらの結論でも良い)

• 本件については・・・– 機器をサービス・プロバイダが提供したか、ユーザーが持ち込んだかにより結論が分かれるのは不自然。

• では、裁判例のように、テレビ視聴のプレイスシフトサービスを一律に違法と判断すべきであるか。– 誰にメリットが発生して、誰にデメリットが発生するか?

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(参考)電子書籍の「自炊」サービス

• 自炊:(主に電子書籍化されていないものについて)書籍を裁断しスキャンすることで、PDFファイル等を作成する行為。

• 裁断+スキャンについて– 裁断機とスキャナーを自由に利用させるだけのサービス– 書籍を送れば裁断+スキャンしてくれるサービス– 裁断された書籍と、スキャナーを自由に利用させるサービス

• 権利者が被る経済的なデメリットとは?

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間接侵害の立法• 日本では、現在、カラオケ法理に変わる間接侵害規定を立法する方向で審議されている(文化庁文化審議会著作権分科会法制問題小委員会司法救済ワーキングチーム担当)

• 2005年2月から検討開始

• 海外法制なども調査して検討

• 現在も結論は出ていない。

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次回は、

「現在の著作権制度の問題点」