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電流情報診断による救急排水機場ポンプ設備の状態監視に向けた計測試験
小林 勇一 澤口 重夫
1.はじめに
近年、集中豪雨や台風による大雨により、家屋や田畑などの浸水被害が相次いで発生している。浸水被害を軽減するため、排水機場や救急排水機場などの河川管理施設が整備されているが、これらの設備は高度成長期以降に集中的に整備されたことから、老朽化の進行が課題となっている1)。浸水被害を軽減し地域の安全を守るためには、これらの設備が非常時にも確実に機能するよう、故障を防止するための対策が必要である。 救急排水機場は、地域ごとの出水の状況に応じて可搬式のポンプを運搬・設置することで、機動的かつ効率的な排水作業を行うことを目的に、「救急内水対策事業」に基づき設置された排水施設である2)(写真-1)。 救急排水機場では、排水用ポンプとしてコラム形着脱式縦軸斜流水中モータポンプ(以下、「コラム形水
写真-1 救急排水機場
写真-2 コラム形水中ポンプ
図-1 コラム形水中ポンプ運転概略図
中ポンプ」という。)が使用されている3)(写真-2)。しかし、コラム形水中ポンプは、排水作業の際にクレーン等によりコラムパイプ内に設置し運転することから、ポンプの運転中に現場の運転員や点検従事者が目視や触診などにより異常や変調を確認することは、極めて困難である(図-1)。維持管理に係る予算が厳しい状況にあるなか、故障を未然に防ぐためには、コラム形水中ポンプの運転状態を的確に把握し、効率的な維持管理を行う必要がある。 コラム形水中ポンプの運転状態の把握にあたり、水中ポンプや電動モーターなど回転機械の状態監視に使用されている各種計測、診断技術について、コラム形水中ポンプへの適用性の評価を行った結果、電流情報診断技術の適用性が高いことがわかった4)。 そこで、コラム形水中ポンプにおける状態監視技術の提案に向けた基礎検討として、電流情報診断技術の適用性を確認するため、計測試験を実施した。
技術資料
寒地土木研究所月報 №788 2019年1月 45
図-2 計測方法
写真-3 現地計測状況図-3 LpoleおよびLshaft
表-1 現地計測試験概要
2.電流情報診断による状態監視手法
電流情報診断は、誘導電動機電流兆候解析(MCSA:Motor Current Signature Analysis)に基づき、三相誘導電動機に発生する逆起電力を解析することで、機械の異常を検出する技術である5)。 計測方法を図-2に示す。機側の分電盤や操作盤の動力配線に計測用のクランプ等を取り付け、電流波形の計測を行う。計測方法が非常に容易であり、また、騒音や振動などの影響を受けにくいことから、コラム形水中ポンプの状態監視に適していると考えられる。 電流情報診断では、電流波形を周波数分析し、電源周波数の両端に現れる側帯波の大きさを確認することにより、機器の状態監視を行う。 確認する側帯波は主に、すべり周波数と極数による側帯波(以下、「Lpole」という。)、および実回転数による側帯波(以下、「Lshaft」という。)となる5)6)7)
(図-3)。Lpoleは、回転子バーが損傷すると大きくなり、また、Lshaftは回転子軸に異常負荷が発生すると大きくなる。Lshaftは、回転子軸につながる被駆動装置の異常に起因した異常負荷にも影響を受けるため、Lshaftを監視することで軸受や羽根車などの異常を検知できる可能性がある。
3.救急排水機場における現地計測試験
電流情報診断のコラム形水中ポンプへの適用性を確認するため、国土交通省北海道開発局が管理する救急排水機場5箇所において、現地計測試験を実施した(表-1、写真-3)。 現地計測試験は、定期点検で実施される試運転にあわせて行った。電源はすべて発動発電機であり、計測したコラム形水中ポンプはすべて高揚程型である。点検の状況にあわせ、救急排水機場ごとに1~2台について計測を実施した。 なお、救急排水機場B、CおよびDでは、吸水槽の水位が低かったため、吐出弁開度を5%~15%に絞り試運転を実施した。試運転を伴う定期点検は、河川の水位が低く出水の恐れが少ない時期に実施されることが多く、そのため吸水槽の水位が低い場合がある。 計測設定は、サンプリング周波数16,384Hz、サンプリングデータ数131,072、計測時間は1回あたり8sとした。計測は点検の状況にあわせ、1分間隔で5~10回実施し、その平均値により解析した。
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Lpole
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Lshaft Lshaft
図-4 周波数分析結果(救急排水機場)
周波数分析結果のグラフを図-4に示す。LpoleおよびLshaftと見られる周波数成分には、赤色で着色している。 LpoleおよびLshaftが現れる周波数は、前述したとおり、モーターのすべり周波数と極数、ならびに実回転数から算出されるが、コラム形水中ポンプの実回転数は、回転軸などから直接計測することができない。そのため、ここでは規格値である980rpm(16.3Hz)を実回転数とみなし、LpoleおよびLshaftが現れる周波数を算定したうえで、LpoleおよびLshaftと見られる周波数成分を特定した。 Lpoleについては、すべての計測結果で突出した周波数成分が確認できた。しかし、あまり明瞭に突出しておらず、確認には注意を要した。Lshaftについては、救急排水機場AおよびEでは、大きく突出した周波数成分が見られたが、救急排水機場B、CおよびDでは、突出した周波数成分は見られなかった。救急排水機場B、CおよびDは、吐出弁開度を5~15%に絞り試運転を実施していることから、吐出弁による吐出量の調整が周波数分析結果に影響を及ぼした可能性がある。
電源周波数および側帯波の大きさを表-2に示す。 電源周波数は49.63Hz~52.13Hzとばらつきがあるが、これは、電源に使用している発動発電機の誤差によるものと考えられる。 側帯波の大きさは、電源周波数成分と側帯波のデシベル値の差で確認し、Lpoleは53.78dB~62.17dB、Lshaftは49.68dB~66.18dBとなった。側帯波は,大きくなるほど電源周波数成分との差が小さくなり,デシベル値は小さく表される.これらの値を傾向管理することにより、故障の兆候を把握できる可能性がある。
表-2 電源周波数及び側帯波の大きさ
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4.ポンプメーカー工場における計測試験
吐出弁による吐出量の調整が周波数分析結果に与える影響を確認するため、ポンプメーカー工場で行った性能試験にあわせ、計測試験を実施した。 計測条件を表-3に示す。電源は商用電源、コラム形水中ポンプの規格は高揚程型である。計測条件は、計画吐出量1m3/s(60m3/min)を基準とし、30%、60%、100%および120%の4条件とした。吐出量および全揚程は性能試験による測定結果であり、正常値となっている。
LpoleLpole
LpoleLpole
Lshaft Lshaft Lshaft Lshaft
Lshaft Lshaft Lshaft Lshaft
吐出量は吐出弁により調整されるが、吐出量は吐出配管の延長や勾配等による配管損失にも影響されるため、ここでは吐出弁開度は参考値とした。 周波数分析結果のグラフを図-5に示す。LpoleおよびLshaftについては、赤色で着色している。 Lpoleについては、すべての計測結果で突出した周波数成分を確認することができた。また、前項の救急排水機場の計測結果と比較すると、周波数成分は明瞭に突出していることがわかった。ポンプメーカー工場では、電源に商用電源を使用しており、救急排水機場で使用する発動発電機に比べ、電源周波数が安定していることが、要因の一つとして考えられる。 Lshaftについては、吐出量30%では突出した周波数成分は見られないが、吐出量60%ではやや突出し、吐出量100%および120%では、大きく突出した周波数成分を確認することができた。 電源周波数および側帯波の大きさを図-6に示す。 電源周波数はすべて50.00Hzであり、誤差は確認されなかった。 側帯波の大きさは、Lpoleは、吐出量30%の場合の
表-3 計測条件(ポンプメーカー工場)
図-5 周波数分析結果(ポンプメーカー工場)
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み58.99dBと低く、また、Lshaftは吐出量100%のみ68.40dBと高い値となったが、そのほかは63.18dB~64.15dBとなった。側帯波の大きさについては今後の検証が必要であるが、性能試験ではコラム形水中ポンプは正常な状態であったことから、正常値の範囲内のばらつきである可能性がある。 Lshaftの大きさは、吐出量30%で63.75dB、60%で63.18dB、120%で63.55dBと、ほぼ変わらない値であった。このことから、吐出量を絞ることにより、Lshaftの大きさは影響を受けないが、周辺の周波数成分が影響を受け、グラフからLshaftを確認し難くしたと考えられる。
の大きさは影響を受けないが、周辺の周波数成分が影響を受け、グラフからは側帯波(Lshaft)が確認し難くなることがわかった。 今後は、引き続き救急排水機場における現地計測試験を実施するとともに、実運転時の計測方法の検討、模型等を用いた故障再現実験による診断精度の検証などを行う予定である。
謝辞:電流情報診断に関してご協力いただいた株式会社高田工業所 劉信芳氏、山本英明氏、救急排水機場における現地計測試験にご協力いただいた国土交通省北海道開発局、工場における計測試験にご協力いただいた株式会社電業社機械製作所に感謝する。
参考文献
1) 国土交通省:河川構造物長寿命化及び更新マスタープラン、pp.3-4、2011.
2) 国土交通省(旧建設省):救急内水対策事業の運用について(通知)、H6.4.1建設省河流発第1号、1994.
3) 一般社団法人河川ポンプ施設技術協会:救急排水ポンプ設備技術指針・解説、pp.7-8、1994.
4) 小林勇一、平地一典、田所登:救急排水機場ポンプ設備の状態監視技術について、寒地土木研究所月報、No.765、pp.41-44、2017.
5) 豊田利夫:電流徴候解析MCSAによる電動機駆動回転機の診断技術、高田技報、Vol.20、pp.3-5、2010.
6) 豊田利夫:電機設備診断の進め方、日本プラントメンテナンス協会、pp.130-145、1993.
7) 劉信芳:誘導電動機の電流信号による回転機械系の監視診断、第15回評価・診断に関するシンポジウム講演論文集、pp.72-75、2016.
図-6 電源周波数及び側帯波の大きさ
(ポンプメーカー工場)
小林 勇一KOBAYASHI Yuichi
寒地土木研究所技術開発調整監付寒地機械技術チーム研究員
澤口 重夫SAWAGUCHI Shigeo
寒地土木研究所技術開発調整監付寒地機械技術チーム主任研究員
5.まとめ
コラム形水中ポンプにおける状態監視技術の提案に向けた基礎検討として、電流情報診断技術の適用性を確認するため、計測試験を実施した。 救急排水機場における現地計測試験、およびポンプメーカー工場における計測試験の結果、電流波形を周波数分析したグラフから、診断に必要な側帯波(Lpole、Lshaft)を確認できることがわかった。 また、吐出量を絞ることにより、側帯波(Lshaft)
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