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交通事故分析システムの開発について 北海道開発土木研究所 交通研究室 ○平澤 匡介 高田 哲哉 浅野 基樹 まえがき 北海道の交通事故は、事故件数の割に死者数 が多いが、平成 15 年の交通事故死者数は 391 となり、平成 14 年の 493 人から 102 人の大幅な 減少となった。これらの要因としては、総合的 な事故対策の実施、道路の安全性の向上、車両 の安全性の向上、運転者を取り巻く環境の変化 等が考えられる。しかし、都道府県別では、12 年連続全国1位を記録するなど、依然として交 通事故死者数が多い。また平成4年度から罰則 の適用が始まったスパイクタイヤ規制に関する 法律は、粉塵の減少などの道路交通環境を改善 した反面、つるつる路面の発生、それに伴う冬 型事故の増加や激しい交通渋滞などの冬期交通 状況を一変させた。増加し続ける事故件数と減 少したとは言え、約 400 人もの交通事故死者数 は、大きな社会問題である。また冬期道路の安 全性を高め、交通事故を減少させることが、重 要な課題である。 交通事故対策を効果的かつ効率的に行うため には、事故の多発箇所の特定や形態を分析し、 それぞれの箇所に最適な対策を行うことが重要 である。従来は、道路環境と事故位置、事故形 態などの事故発生状況が、視覚的に理解できる ように紙の地図にそれらをプロットしていた。 しかし最近、地図と様々な情報をリンクして、 それらの関係を視覚的に理解しやすいように加 工する GIS (地理情報システム: Geographic Information Systems)を使った分析ソフトウェア の開発が様々な分野で進められている。 そこで本報告は、北海道の交通事故の要因を 分析し、事故対策を立案するためのツールとし ての GIS を活用した交通事故分析システムの開 発について報告するものである。また道路利用 者に交通事故、安全運転に対する知識や認識を 普及し、交通安全に対する意識を向上してもら うため、交通事故分析システムを活用した交通 事故分析マップのホームページを公開すること についても報告する。 1 交通事故分析システムの開発 GIS は、地理的な位置を手がかりに、位置に 関する情報を持ったデータを管理・加工する技 術である。分析結果を視覚的に表示して、高度 な分析や迅速な判断を可能にする。最近は、 GIS を使ったシステムも様々な分野で開発されてい る。そして効果的かつ効率的に交通事故の対策 を実施するために、GIS を活用した交通事故分 析システムの開発が期待された。そこで北海道 開発土木研究所・交通研究室は、GIS を活用し て事故、道路、気象のデータをデジタル地図と リンクさせた交通事故分析システムを開発した。 システムの構築は、作成されたデータベース を効率よく GIS で利用するための設計が必要と なる。そこで本システムでは、柔軟性を考慮し、 GIS ソフトとして ESRI 社の Arc View GIS、デー タベースソフトとして Microsoft 社の Access 採用した。また様々なデータを扱うので Arc View Access の連携は、世界標準である ODBC(オープン・データベース・コネクティビ ティ:Open Database Connectivity)を利用してい る。さらにシステムを扱いやすいように Visual Masayuki Hirasawa, Tetsuya Takada, Motoki Asano

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交通事故分析システムの開発について

北海道開発土木研究所 交通研究室 ○平澤 匡介

〃 〃 高田 哲哉

〃 〃 浅野 基樹

まえがき

北海道の交通事故は、事故件数の割に死者数

が多いが、平成 15 年の交通事故死者数は 391 人

となり、平成 14 年の 493 人から 102 人の大幅な

減少となった。これらの要因としては、総合的

な事故対策の実施、道路の安全性の向上、車両

の安全性の向上、運転者を取り巻く環境の変化

等が考えられる。しかし、都道府県別では、12

年連続全国1位を記録するなど、依然として交

通事故死者数が多い。また平成4年度から罰則

の適用が始まったスパイクタイヤ規制に関する

法律は、粉塵の減少などの道路交通環境を改善

した反面、つるつる路面の発生、それに伴う冬

型事故の増加や激しい交通渋滞などの冬期交通

状況を一変させた。増加し続ける事故件数と減

少したとは言え、約 400 人もの交通事故死者数

は、大きな社会問題である。また冬期道路の安

全性を高め、交通事故を減少させることが、重

要な課題である。

交通事故対策を効果的かつ効率的に行うため

には、事故の多発箇所の特定や形態を分析し、

それぞれの箇所に最適な対策を行うことが重要

である。従来は、道路環境と事故位置、事故形

態などの事故発生状況が、視覚的に理解できる

ように紙の地図にそれらをプロットしていた。

しかし最近、地図と様々な情報をリンクして、

それらの関係を視覚的に理解しやすいように加

工する GIS(地理情報システム:Geographic

Information Systems)を使った分析ソフトウェア

の開発が様々な分野で進められている。

そこで本報告は、北海道の交通事故の要因を

分析し、事故対策を立案するためのツールとし

ての GIS を活用した交通事故分析システムの開

発について報告するものである。また道路利用

者に交通事故、安全運転に対する知識や認識を

普及し、交通安全に対する意識を向上してもら

うため、交通事故分析システムを活用した交通

事故分析マップのホームページを公開すること

についても報告する。

1 交通事故分析システムの開発

GIS は、地理的な位置を手がかりに、位置に

関する情報を持ったデータを管理・加工する技

術である。分析結果を視覚的に表示して、高度

な分析や迅速な判断を可能にする。最近は、GIS

を使ったシステムも様々な分野で開発されてい

る。そして効果的かつ効率的に交通事故の対策

を実施するために、GIS を活用した交通事故分

析システムの開発が期待された。そこで北海道

開発土木研究所・交通研究室は、GIS を活用し

て事故、道路、気象のデータをデジタル地図と

リンクさせた交通事故分析システムを開発した。

システムの構築は、作成されたデータベース

を効率よく GIS で利用するための設計が必要と

なる。そこで本システムでは、柔軟性を考慮し、

GIS ソフトとして ESRI 社の Arc View GIS、デー

タベースソフトとして Microsoft 社の Access を

採用した。また様々なデータを扱うので Arc

View と Access の連携は、世界標準である

ODBC(オープン・データベース・コネクティビ

ティ:Open Database Connectivity)を利用してい

る。さらにシステムを扱いやすいように Visual

Masayuki Hirasawa, Tetsuya Takada, Motoki Asano

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Basic でメニューをカスタマイズして、その際の

連携は、Windows の標準である DDE(Dynamic

Data Exchange)が使用可能である。

表-1は、システムで使用しているデータベ

ースを示す。使用するデータは、デジタル道路

地図、交通事故のデータとして平成元年~平成

13 年のマッチングデータ、道路、交通量、気象

のデータである。交通事故データは、97,089 件

が搭載されている。道路データは、既に稼働し

ている道路管理データ(MICHI)システムから

平成 13 年のデータを抽出した。データ項目は、

縦断勾配、平面線形、幅員等の道路構造や中央

帯、防護柵、道路照明等の道路付属物である。

気象データは、各地域の気象官署とアメダスの

データで、気温、降水量、降雪量、日照時間で

ある。また交通量データに、平成 11 年度交通

センサスデータの 12 時間交通量と昼夜率をリ

ンクした。

またこのシステムは、使用対象者を幅広く想

定した。そのためにボタン操作を多用し、

GUI(Graphic User Inter-face)をシンプルに設計し

た。研究の詳しい分析は、GIS ソフトウェア本

来の持っている多くの機能に依存する。

図-1は、システムの初期画面を示す。左側に

地図の属性を表示させ、右側が各機能を操作す

るボタンを配置している。上部に GIS ソフトの

機能を操作するコマンドが配置されている。

表-1 交通事故分析システムのデータベース一覧

地図データベース(図形そのものと個々の図形を示す「ID」のみをもつ。属性は持たない。)

事故データ トンネル 等高線(20m間隔) 道路照明 歩道自歩道

歩道橋 同門等 市区町村境界 自光式視線誘導 独立専用自歩道料金所 踏み切り 鉄道 標識 中央帯施設等位置 アンダーパス 鉄道駅舎 情報板 橋梁

地名等注記位置 面水系 1/25000図郭割 交通規制 トンネル

基本道路 アメダス観測点 標準3次メッシュ 交通現況 スノーシェッド

細道路 気象官署観測点 1/2区画メッシュ 登坂車線区間 防護柵

線水系 基本注記 大字町丁目 縦断勾配 反射式視線誘導行政界 目標物 河川・湖沼・海 平面線形 ロードヒーティング

鉄道 詳細道路 国立公園 幅員構成

施設等形状 高速・有料道路 国定公園橋・高架 幹線道路

Accessデータベース(レイヤーの図形に対応したIDとIDに対応した属性のみを持つ。図形は持たない。)

事故データ トンネル 鉄道 アメダス観測点 気象官署観測点歩道橋 同門等 鉄道駅舎

料金所 踏み切り 1/25000図郭割

施設等位置 アンダーパス 標準3次メッシュ

地名等注記位置 面水系 1/2区画メッシュ

基本道路 基本注記 大字町丁目

細道路 目標物 河川・湖沼・海 アメダスデータ年別 気象官署データ年別線水系 詳細道路 国立公園 アメダスデータ月別 気象官署データ月別行政界 高速・有料道路 国定公園 アメダスデータ日別 気象官署データ日別鉄道 幹線道路 国道データ(センサスデータ含む) アメダスデータ時間別 気象官署データ時間別

施設等形状 等高線(20m間隔)

橋・高架 市区町村境界

道路照明 縦断勾配 トンネル自光式視線誘導 平面線形 スノーシェッド標識 幅員構成 防護柵情報板 歩道自歩道 反射式視線誘導交通規制 独立専用自歩道 ロードヒーティング交通現況 中央帯登坂車線区間 橋梁

テー

マリスト

(Excelファ

イル

交通事故分析システム

気象データベース

イベントデータ(リストファイル)地図データ(shapeファイル)

地図データ(ネットワークデータ)

属性データベース 気象観測地点データ

GISソフト(Arc View)

国道データ(センサスデータ含む)

参照された観測点をもとに、気象データベースからデータを読み出す。

図―1 システム初期画面

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2 事故分析システムの分析機能と分析結果

分析の機能は、事故データを検索する機能、

事故率や致死率を表示する機能、結果を EXCEL

に出力する機能を持つ。事故データの検索は、

事故データ、道路データ、気象データの項目毎

にできる。検索結果の事故位置は、地図上にプ

ロットされる。これで事故の発生状況を確認で

きる。また事故率や致死率で表示もできるので、

誰でも理解できる結果を表示することができる。

次のステップは、結果を EXCEL に出力をするか、

新たな条件で再検索するか、事故率や致死率を

計算して表示させることである。特定の事故対

策区間の事前事後調査のために、道路の号線や

キロポストを直接入力し、分析することも可能

である。図―2は、1990 年( H2 年)から 1999 年

( H11 年)までの正面衝突による死亡事故の発生

位置を示す。図-3は、正面衝突事故による億

台キロ事故率を表示した結果を示す。平成 12 年

の北海道の国道における正面衝突事故が全事故

に占める発生割合は、9.0%である。一方、全事

故の走行億台キロ事故率は 46.3 であるので、正

面衝突事故の平均の走行億台キロ事故率は、46.3

×9%=4.17 である。図-3に示される赤の区間

は、正面衝突事故率が、5.2~64.8 の区間であり、

平均値以上の事故率なので正面衝突事故多発区

間と言える。そして図-3は、4段階のグラデ

ーションで表示しているが、GIS ソフトの機能

として、任意の段階数や閾値を設定可能である。

このように視覚的に表示できることが、このシ

ステムの大きな特徴である。このような機能を

使って、事故危険度の高い区間を見つける事が

できる。さらに表-2は、図-3で得られた各

区間の正面衝突の億台キロ事故率を表に出力し

た上位 10 区間である。地図と表はリンクしてお

り、着目したい事故位置や事故区間を地図上で

範囲指定すると色が変わり、表の数値欄も連動

して、色が変わる。また、その逆も可能である。

この分析システムで、初期値として設定されて

図―2 正面衝突による死亡事故位置(H2~H11) 図―3 正面衝突による億台キロ事故率(H2~H11)

表-2 正面衝突事故率

順位 キロポスト自 キロポスト至 区間長号線

RSNNO平日12時間交通量 昼夜率 事故件数 死亡事故件数 死者数 事故率 死亡事故率 致死率

1 116325.7 116368.9 43.2 451 12645 129 2 0 0 64.7983 0 02 27657.49 32051.75 4394.26 393 190 130 3 1 1 63.1051 33.333333 33.333333 14122.34 14706.01 583.67 335 2398 117 3 0 0 41.82585 0 04 29960.11 31169.02 1208.91 335 2432 117 6 0 0 39.82298 0 05 53912.19 57067 3154.81 237 2166 108 12 2 2 37.12374 16.666667 16.666676 158288.9 158956.2 667.3 229 1468 127 2 0 0 36.70329 0 07 59047 60742.63 1695.63 238 1817 118 4 1 1 25.1199 25 258 16749.22 16803.33 54.11 230 14261 128 1 0 0 23.11471 0 09 18439.84 19005.66 565.82 230 13140 128 9 0 0 21.5916 0 0

10 19005.66 20336.97 1331.31 230 13140 128 20 0 0 20.39254 0 0

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いる区間は、H11 年度のセンサス区間である。

表-3は、このシステムを使って、事故対策

箇所候補を抽出した活用例である。ランブルス

トリップスの設置候補箇所を抽出したものであ

る。抽出条件として、正面衝突事故率6以上、

事故件数 15 件以上、死亡事故件数5件以上の区

間をリストアップした。さらに沿道状況や車線

幅員を考慮し、最終的にはセンターラインの状

況により、ランブルストリップを設置可能な延

長を求めた。

このように事故分析システム機能は、事故対

策の立案に役立ち、さらに地方の行政機関が、

事業を要求する場合の資料作成ツールとして効

果的である。また事故対策を行った実施時期前

後の事故発生状況を比べることにより事故削減

効果を評価できる。従来は、事故のデータを紙

の地図にプロットすることが非常に大変な作業

だった。しかしこのシステムは、迅速かつ簡単

に事故の位置を示すことができ、またさらに

様々な分析まで行って結果を分かりやすく表示

する。

3 冬型事故の分析と事故率の予測機能の検討

図-4は、北海道の国道で起きた事故を、日

平均気温、時間気温と1日当たりに起きた事故

の発生件数を示したものである。このように気

温と事故の発生件数は、相関があることを示し

ている。特に平均気温が-3℃~-2℃にピー

クがある。この辺の気温が最もスリップ事故を

発生させやすいことを示していると考えられる。

表-3 事故対策活用例 ~ランブルストリップスの優先設置区間の抽出~

上下線分離別の道路延長(m)

破線 白実線 白2条線 黄色 黄色2条線 分離帯 その他

小樽 5 228,625 234,841 6,217 12858 130 53 5 5 11.64 9.43 9.43 1847 803 294 3273 1,372

小樽 5 249,545 261,501 11,956 20286 145 168 11 13 10.91 6.55 7.74 6396 4924 636 793

小樽 5 187,319 196,481 9,162 8096 119 37 5 5 9.57 13.51 13.51 3985 4061 1116 417

函館 5 55,330 72,728 17,398 9892 132 70 10 14 7.04 14.29 20.00 1400 14990 630 370 1,100

旭川 12 117,975 130,903 12,928 16111 134 87 15 15 7.12 17.24 17.24 2227 3076 4987 1322 1316 0

室蘭 37 20,773 40,987 20,214 6269 136 48 8 9 6.36 16.67 18.75 1214 1496 0 5416.06 12088 0 0 6,387

旭川 38 76,242 94,394 18,152 3560 123 37 5 8 10.63 13.51 21.62 8200 350 9602 0

旭川 39 27,991 40,377 12,386 10444 128 48 6 10 6.62 12.50 20.83 7923 195 909 3359 0

旭川 40 20,151 29,626 9,475 8173 126 27 6 7 6.32 22.22 25.93 4806 2825 1844 736

釧路 44 22,304 33,602 11,298 6705 123 26 5 8 6.37 19.23 30.77 11298 3,200

函館 228 11,834 24,329 12,495 7466 123 51 5 7 10.15 9.80 13.73 2500 100 9110 800 900

小樽 230 45,792 66,493 20,701 7593 129 111 8 8 12.50 7.21 7.21 7747 366 4334 7403 851 4,961

札幌 230 28,523 45,580 17,057 7805 128 73 13 13 9.66 17.81 17.81 2352 1123 102 1593 11890 0 0 6,648

旭川 237 31,305 38,871 7,566 8947 123 42 5 5 11.52 11.90 11.90 7566 0

帯広 274 155,500 176,717 21,217 5,295 143 67 12 13 9.52 17.91 19.40 1964 1453.4 0 15531 0 2269 3,000

室蘭 274 121,519 154,436 32,917 5464 143 86 11 12 7.63 12.79 13.95 5691.4 0 0 24125.7 3100 0 0 2100

室蘭 274 86,908 106,296 19,388 4459 140 39 8 8 7.36 20.51 20.51 2368 0 658 8107.74 7400 854 0 5,900

札幌 275 41,840 47,133 5,293 7233 140 17 6 6 7.24 35.29 35.29 1610 980 2700 0

札幌 275 25,592 41,840 16,248 7233 140 49 9 11 6.80 18.37 22.45 10380 3640 2220 2,200

札幌 275 49,447 59,986 10,539 8321 135 33 6 7 6.36 18.18 21.21 5554 255.65 500 4229.45 2,800

札幌 276 88,285 105,138 16,853 3675 121 27 7 7 8.15 25.93 25.93 13,113 1,028 0 0 2,712 0 0 2,712

致死率ランブルストリップ実施可能延長(m)

死亡事故件数

死者数 事故率死亡

事故率区間長(m)

平日12時間交通量

昼夜率事故件数

建設部名 号線キロポスト

自キロポスト

0

5

10

15

20

25

-15 -10 -5 0 5 10

気温(℃)

1日

あたりの事

故件

アメダス日平均気温

アメダス時間気温

図-4 時間気温、日平均気温と1日あたりの 図-5 -5~-3℃の冬型事故の事故率

事故件数(北海道の国道 H4~H11) (札幌管区気象台の日平均気温 H4~H11 1240 件)

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図-5は、札幌市における冬型

事故の事故率を表示している。交

通事故分析システムは、このよう

に気温や降雪量毎に事故率が高い

区間を見つけることが出来る。除

雪作業や凍結防止剤散布の効率化

に役立てられると考えられる。

冬型事故は、気温や降雪量の特

定の条件下の時に、急激に増加す

る傾向がある。そこで気象予報の

データを使って、事故率の推定を

試みた。ドライバーにとって、も

し翌日の事故危険度や危険箇所を

知ることができたなら、非常に有

益な情報となる。インターネット

により、天気予報のように、情報

を検索できると、ドライバーはル

ートや出発時間を変更するかもし

れないし、車の運転すらやめるか

もしれない。また事故の危険度を

事前に検索することは、ドライバーの安全に対

する意識を高め、結果的に安全運転を促すだろ

う。

冬型事故の予測方法は、以下の通りである。

①まず各事故の発生日時におけるか気温や降雪

量を気象データから抽出した。②その気象デー

タを、本システムの事故データに加え、新しい

事故データベースを作成する。③そして予報さ

れた気象データの値と関係の深い事故を、この

データベースから抽出する。④得られた事故デ

ータを分析システムの機能により、事故率とし

て表示させる。

この方法の長所は、過去のデータから推定す

るので、日陰や橋で滑りやすいために事故が多

い区間が反映されることである。しかしながら、

この方法はエキスパートシステムであり、今後

予測値の適合具合を見て、改良する必要がある

だろう。図―6は、この機能により、ダミーの

気象予報データから、事故率を表示させた結果

を示す。今後の課題は、気象予報データの入手・

入力方法、インターネットによる情報提供方法

である。

4 交通事故分析システムの活用方法

この交通事故分析システムは、アイコンをク

リック、または直接数値を入力するだけの簡単

な操作、迅速な動作で事故分析が出来るので、

各建設部の現場担当者が業務を効率的に行うこ

とに資するものである。具体的には、事故対策

箇所の選定や対策メニューの提案、事故対策効

果の評価や道路事業の安全面からの評価等であ

る。また気温や降雪量などの気象条件により事

故を分析することにより、重点的に除雪や凍結

防止剤散布を行う箇所やそのタイミングを決定

することができ、冬期道路維持作業の効率化に

貢献できるものと考えられる。従って、このシ

ステムを普及させることが当面の課題である。

表-4 ダミーの気象予報データ

データ項目 入力データ例 抽出条件

気象観測地点番号 47412 札幌管区気象台

時刻 8 指定時間±6時間のデータが抽出される

気温 -2.9 指定気温±2℃のデータが抽出される

降雪量 48 降雪量±10cmのデータが抽出される

前日降雪量 2 降雪量±10cmのデータが抽出される

図-6 札幌市における冬型事故の予測事故率

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5 一般道路利用者への情報提供

一般道路利用者に交通事故、安全運転に対す

る知識や認識を普及し、交通安全に対する意識

を向上してもらうために、交通事故分析システ

ムの分析結果を基に、北海道の国道交通事故分

析サイトを開設した。図-7は、このサイトの

トップページの一部であり、地図上の都市名を

クリックすることにより、その地域が表示され、

事故率等に合わせて、道路区間が色別表示され

る。また拡大、縮小、画面の移動は利用者がブ

ラウザ上から任意にでき、事故率にあわせて色

表示の凡例を変更できる。また用意した事故類

型は、全事故・冬型事故・正面衝突事故・車両

単独事故であり、事故率と死亡事故率が表示す

ることができる。さらに毎年発刊している「北

海道の交通事故国道統計ポケットブック」の表

示やダウンロードもできるようにした。アドレ

スは、http://www2.ceri.go.jp/jiko/で、北海道開発

土木研究所道路部または交通研究室のトップペ

ージからもリンクできる。

おわりに

交通事故は、20 世紀の自動車による交通革命

における負の遺産である。様々な方法で交通安

全対策を行っているが、死亡事故をゼロにする

決定的な対策が見いだせないのが現状である。

一方、最近の財政事情の悪化に伴い、より一層

の効果的かつ効率的な社会資本整備が求められ

ている。こうした状況下で、現在開発している

交通事故分析システムは、効果的、効率的な対

策を提案する有効な分析ツールになり得ると考

えられる。

今後の課題は、このシステムを現場に普及さ

せ、より安全な道路造りや交通事故対策の立案

に貢献すること、一般利用者用へインターネッ

ト上で分析結果を提供し、より交通安全に対す

る意識を向上してもらうこと、さらに冬型事故

の危険度を予測するモデルを開発することであ

ると考えている。

図-7 交通事故分析サイト

http://www2.ceri.go.jp/jiko/

図-8 交通事故分析マップ